説明

光重合性含漆共重合体、及びその製造方法

【課題】漆に光重合性のアクリレート化合物を添加し、漆の組成分であるゴム質、含窒素物、油中水系型(W/O型)エマルジョン粒子を微粒化してレベリング性と紫外線の透過性を向上させた光重合性含漆共重合体、及びその製造技術を提供する。
【解決手段】製造漆又はクロメ返しを行った漆に、光重合性オリゴマー又はモノマーなどから成るアクリレート化合物を混合した後に、漆の構成物であるゴム質、及び含窒素物の粒子を平均粒径1μm以下にさらに微粒化して光重合性含漆共重合体。また顔料を添加して有色の光重合性含漆共重合体。上記アクリレート化合物を一度に又は分けて添加して低粘度に調整して、超音波振動、又は回転剪断処理装置を用いて、特にゴム質や含窒素物を微粒化処理する。
【効果】レベリング性と紫外線透過性を高めて秒速硬化で高光沢の薄膜含漆皮膜が形成でき、かつ各種のプリント用インクとして広範に活用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光重合性含漆共重合体、及びその製造方法に関し、特に、漆の組成分であるゴム質、含窒素物、油中水系型(W/O型)エマルジョン粒子を微粒化してレベリング性と紫外線の透過性を向上させた光重合性含漆共重合体、及びその製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
天然産漆(生漆)は、油中水系型のエマルジョン(乳濁液)を呈し、ウルシオール(二価フェノール誘導体)を主成分として、ゴム質(多糖質)、含窒素物(糖タンパク)、ラッカーゼ及び水分から構成されている。漆の乾燥硬化は、いわゆる水分の蒸発によるものではなく、適度な湿度と温度条件のもとで、油中水系中に含まれる酵素(ラッカーゼ)によるウルシオールの脱水素反応と自動酸化反応を経てゆっくりと自然硬化する。この酵素による反応は水を必要とするため70〜75%の高湿度環境が与えられる。この結果、漆塗膜はウルシオール重合体を骨格とするゴム質(多糖類)バリアの粒子が集積し、これが酸化劣化防止型の耐久性構造になることが知られている。
【0003】
この漆の自然硬化による乾燥法の他に、熱によって熱重合させる焼き付け乾燥法、及び光重合開始剤を添加して紫外線(UV)の照射によって重合体を形成させて行なう紫外線硬化乾燥法が開示されている(特許文献1、特許文献2)。いずれも自然硬化よりも短時間で硬化させことができ、紫外線硬化乾燥法に至っては数秒程度で硬化させることも可能である。
【0004】
しかし、これらの特許文献で開示されている発明は、漆塗料の改質によるものではなく、従来組成の漆液に光重合開始剤を添加して塗布した塗膜に、紫外線を照射するものであるため、それ以前の従来技術に則った漆の乾燥時間が指触乾燥(指先で触れても跡が付かない程度の乾燥)5時間、硬化乾燥24時間であったものを、指触乾燥2時間、硬化乾燥10時間程度に短縮したに過ぎず、著しい生産性の向上を実現したものではなかった。
【0005】
また、上記従来の紫外線硬化型の光重合性含漆塗料やインクは、厚を10μm以下に薄膜化した被膜を形成すると、乾燥硬化後の漆の表面に柚子肌と呼ばれるザラによる凹凸が生じやかった。これは、漆の組成分であるゴム質や含窒素物又は添加した顔料などからなる粒径が数μm程度の粒子の残存によるものであり、これらの粒子がレベリング性(塗布面の滑らかさ)や塗膜の硬化障害の一因でもある紫外線の透過性を低下させて、漆独特の光沢や、感性的風合いである肉持ち感・しっとり感・ふっくら感を阻害していた。
【0006】
そこで、これらゴム質や含窒素物の影響を少なくするため、これらの粒径をナノレベル(約50〜約150nm)までに微粒化する技術が特許文献3、及び特許文献4において開示されている。
これは、生漆又は製造漆を、媒体攪拌ミルを使用して微粒化するもので、これにより油中水系型のエマルジョンの粒径を約50〜約150nmに微粒化するものである。ここでの微粒化工程においては、生漆又は製造漆の油性成分に対して水分が所定比率となるように含水率調節を行なうこと最良の形態としている。また、この微粒化処理後の生成物を塗料として、特に、噴射口の小さいインクジエットプリンターのインクとして使用する場合は、これに種々の公知の添加剤(油溶性の乾燥油、水溶性のポリオール類、並びに界面活性や分散安定剤、等)を添加して粘度を下げる処理と分散安定を図っている。
かかる上記特許文献3、4に開示している漆系塗料は、漆の油中水系型のエマルジョンの微粒化に主眼をおいており、かつこの微粒化した漆にエポキシ及びウレタン系樹脂を添加して塗装用の塗料として応用展開を図っている。また、微粒化については、特段に調整した独自の微粒化装置ではなく既存の剪断機器のみで行なっている。ただし、微粒化製造中熱重合を防ぐ意味で、冷却とさらには漆に添加剤を入れて製造している。
さらに、微小径(数〜数10μm)な噴射口から射出させるインクジェットプリンター用インクの生成では、揮発性有機溶剤で希釈して粘度を下げる必要がある。しかし、この揮発性有機溶剤での希釈については、現在では環境保護などの目的・動向から問題があった。
【特許文献1】特開昭59ー59269号
【特許文献2】特開昭59ー76580号
【特許文献3】特開2007ー9023号
【特許文献4】特開2008ー1785号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本願発明は、上記問題点に着目して成されたものであり、漆に光重合性のアクリレート化合物を添加して、漆を低粘度化して漆の成分であるゴム質や含窒素物を微粒化すると共に、逆ミセル構造を持つ漆特有の油中水系型エマルジョン粒子をも微粒化することよって、レベリング性と紫外線透過性を高めて、架橋密度の高い高品質の薄膜含漆被膜が形成できる光重合性含漆共重合体、及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本願発明に係る光重合性含漆共重合体、及びこの製造方法は、以下のように構成している。
【0009】
光重合性含漆共重合体は、製造漆又はクロメ返しを行った漆に、光重合性オリゴマー又はモノマーなどから成るアクリレート化合物を混合し、漆の構成物であるゴム質、及び含窒素物の粒子が平均粒径1μm以下の微粒子であることを特徴としている。また、これに顔料、又は顔料と分散剤とを添加し、さらに、光重合開始剤を添加して成ることを特徴としている。
【0010】
次に、この光重合性含漆共重合体は、以下の方法により製造している。
すなわち、製造漆又はクロメ返しを行った漆に、光重合性オリゴマー又はモノマーから成るアクリレート化合物を添加し、この混合物を微粒化工程により漆の構成物であるゴム質、及び含窒素物の粒子を微粒化し、次に、これらの粒子が平均粒径1μm以下となるように濾過製造したことを特徴とする。なお、この濾過精製には、減圧濾過、加圧濾過、等の公知の濾過手段が用いられる。
【0011】
また、製造漆又はクロメ返しを行った漆に、光重合性オリゴマー又はモノマーから成るアクリレート化合物を添加し、漆の構成物であるゴム質、及び含窒素物の粒子を微粒化して一次製造し、さらに上記アクリレート化合物、顔料、及び分散剤を添加して微粒化した後、前記粒子の平均粒径が1μm以下となるように濾過製造したことを特徴とする光重合性含漆共重合体の製造法。なお、上記微粒化は、超音波振動の付加、又は剪断処理装置であることが好ましい。超音波振動の付加は、超音波帯域の下限値(約16KHz)に近い周波数帯域がより好ましく、そしてその付加工程は1段階、又は数段階に分けて付加しても良い。また、回転剪断処理装置としては、弾性のあるゴムベラを回転させる方式の回転剪断処理装置がより好ましい。この弾性ゴムを用いることより微粒化工程時の加圧力を適宜に設定することができると共に、高加圧力による微粒化の効率化が図れる。
【0012】
さらにまた、光重合開始剤、及び界面活性剤等の助剤の添加は上記光重合性含漆共重合体製造工程の何れかの工程において行なっても良い。好ましくは、前記アクリレート化合物や顔料を添加して微粒化した後が良い。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は上記のような構成を採ることにより、以下に列挙する特徴的な効果を奏する。
1.漆の粘性を光重合性アクリレート化合物によって、低粘性の光重合性含漆共重合体となり、攪拌・剪断・粉砕機能を持つ機器による漆液の構成物であるゴム質や含窒素物の粒子の径を容易に1μm以下に微粒化させることができる。それと共に油中水系エマルジョンも微粒化されて、連鎖付加重合による架橋密度の高い、薄膜(10μm以下)の光重合性含漆共重合体の被膜を得ることができる。
【0014】
2.微粒化された光重合性含漆共重合体、及び必要により顔料を添加した有色(エナメル)の光重合性含漆共重合体は、光重合開始剤、助剤等を添加することにより、活性化エネルギーである紫外線を照射することによって秒単位で急速に硬化する。その硬化被膜は微粒化効果により連鎖付加重合による架橋密度が高く、厚さ5〜10μm以下の薄膜形成時においてもゴム質や含漆窒素物が原因とされる凹凸の無い光沢に富んだ高品質の光重合性含漆共重合体の被膜が形成できる。
【0015】
3.漆の感性的風合いである肉持ち感・しっとり感・ふっくら感を維持しつつ、仕様・用途・機能性を考慮しつつ、アクリレート化合物の選択・配合率によって高硬質から軟質までの被膜形成が可能である。
【0016】
4.漆液の油中水系エマルジョン構造及び漆液の構成物であるゴム質や含窒素物などの粒子が微粒化されたことで、ウレタン・エポキシ・ポリエステルアクリレート化合物との相溶性や光重合硬化の架橋密度が向上するとともに、熱変形度が減少し、熱可塑性樹脂を含めたプラスチック素地、金属素地、紙、布、皮、竹の他、木製素地や木質素地さらには、各種塗装塗膜へのコーティング剤として活用することができる。
【0017】
5.平均粒径が1μm以下の微粒子体となる光重合性含漆共重合体及び有色(エナメル)の含漆共重合体の生成物は、数〜数10μmの射出口径を持つインクジェットプリンターなどのデジタル印刷機用のインクとしても活用することができる他、シルクスクリーン用印刷インクとしても活用できる。また、従来の漆塗料の乾燥方式である酵素重合型硬化機能と比べ、光重合による秒速硬化をもたらす結果、作業性の向上の他に伝統的技法でもある蒔絵においても、金・銀粉・螺鈿などの蒔絵用材料を接着させるなど、多彩な技法表現に利用することができるため、今までにない嗜好の平蒔絵・高蒔絵・肉合蒔絵・漆絵の作成を可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本願発明に係る光重合性含漆共重合体、及びこの製造方法の最良な実施形態について、詳細に説明する。
1.基材となる漆は、JIS5950に準じた製造漆、若しくはクロメ返しを行った漆を用い、これに光重合性オリゴマー・モノマーなどのアクリレート化合物を添加して混合物を製造する。ここで使用する光重合性アクレート化合物は、光重合性のオリゴマーであれば、ビスフェノールA型・ビスフェノールF型・ビスフェノールS型・エポキシ化油型・フェノールノボラック型・指環型など、多くの種類を持つエポキシアクリレート化合物の中から選択される。またウレタンアクリレートであれば、ジイソシアネート、ポリオール、ヒドロキシアクリレート及びその合成物から選択する。その他のオリゴマーとしては、不飽和ポリエステルアクリレートとその合成物などが使用できることから、同じ系に属する単官能基及び多官能基を持つモノマーと変性した溶液(100部)に、クロメ返しを行った再製造漆(10〜50部)を配合・添加し、光重合性含漆共重合体とし、その溶液をボールミル(ボール径2〜10mm)や回転攪拌・分散機器によって2〜3時間分散し、漆液中のゴム質、含窒素物を微粒化することが望ましい。
【0019】
2.光重合性ウレタン及びエポキシ単官能基・多官能基モノマー(100部)に、同じ系に属する光重合性オリゴマー(10〜50部)を添加し、製造漆あるいはクロメ返しを行った漆(15〜75部)を配合・添加し光重合性含漆共重合体とした後、1次微粒化工程として低い周波帯域(約15〜28kHz)の超音波振動を付加して、その圧力波によって発生するキャビテーション(空洞現象)を利用した粉砕と攪拌によって微粒化したその後、さらに2次微粒化工程として上記周波数より高い周波数帯域(約28〜40kHz)の超音波を照射する2段の微粒化工程によって、組成物中に含まれる漆成分のゴム質・含窒素物を微粒化することが望ましい。
【0020】
3.有色(エナメル)の光重合性含漆共重合体の製造では、光重合性ウレタン及びエポキシ単官能基・多官能基モノマー(100部)に、アゾ系・フタロシアニン系・キナクリドン系の有機系顔料あるいは、アナターゼ・ルチル(酸化チタン)、カーボンブラック、骨粉などの無機系顔料(2〜30部)を添加し、回転式の剪断装置や下限値に近い周波帯域(約16〜40kHz)の超音波などを用いた粉砕・剪断装置で微粒化し、有色(エナメル)の光重合性含漆共重合体を製造した後、さらに微粒化した光重合性含漆共重合体を添加し、有色(エナメル)の光重合性含漆共重合体を製造しても良い。
【0021】
4.または、光重合性ウレタン及びエポキシ単官能基・多官能基モノマー(100部)に、製造漆あるいはクロメ返しを行った漆(10〜30部)を配合・添加し、アゾ系・フタロシアニン系・キナクリドン系の有機系顔料あるいは、アナターゼ・ルチル系の酸化チタン、カーボンブラック、骨粉などの無機系顔料(2〜30部)を添加し、回転式の剪断装置や超音波(15〜40kHz)などの粉砕・剪断装置で顔料及び漆液中のゴム質、含窒素物を微粒化した後、光重合性オリゴマー(5〜30部)を添加しても良い。
【0022】
5.これら光重合性含漆共重合体の硬化は、活性エネルギーとして紫外線を使用するが、その紫外線による硬化領域を200〜450nmとし、添加する光重合開始剤は、この領域で補うアルキルフェノン系光重合開始剤(α−ヒドロキシケトン・α−アミノケトン)の1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニル−ケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オンまたは、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(ビスアシルフォスフィンオキサイド)の2,4,6−トリメチルベンゾイルージフェニルーフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどを10:90〜90:10の割合で2種類以上を併用しても良い。
【実施例1】
【0023】
(漆の製造)
[実施例1]
一般的に生漆は、油中水系型エマルジョン(逆ミセル)構造の中に通常15〜30%の水分を含み、さらにはウルシオール・水分・ゴム質・含窒素物などが含まれ、粒径は5〜10μm程度と荒い。そのため、公知の特許発明(特許第383320号、特許第2821110号)では光重合性の含漆薄膜被膜を形成する際にゴム質が原因と推測されるザラによる凹凸が生じていたことから、ゴム質を微粒化する目的で公知の攪拌機器であるスリーワンモターBL300(新東化学株式会社製)の金属回転主軸に木篦を固定し、その木篦にゴム(ゴム硬度10〜30°)を装着し、セラミック容器とゴム篦の押圧、攪拌回転数100〜180に高めたことで、剪断効果が向上した。その結果、通常の市販製造漆の硬化被膜の光沢値は65〜75%程度であったものが、本製造方式で製造された漆硬化被膜の光沢値は95%以上の高い光沢値が得られた。光沢値が向上した要因としては、油中水系型エマルジョンやゴム質・含窒素物の粒子が微粒化されたことによる、ポリマー被膜の乱反射が無くなったことによる効果であることを確認した。
【0024】
[実施例2]
また、JIS5950に準じた製造漆として生漆の他、なやし漆や素黒目漆をクロメ返しと称される再水分添加方式(含水率に対して200〜300%添加)で、含水率2〜3%台までのセラミック容器とゴム篦の押厚による剪断・脱水製造工程を経ることで、実施例1同様、ゴム質・含窒素物の他、油中水系型エマルジョン粒子が微粒化され、光沢値90%以上の漆硬化被膜が得られた。
【0025】
[表1]
●使用漆 なやし漆含水率6.3%
●含水率測定使用装置
(エー・アンド・ディ株式会社 加熱乾燥式水分計 MX−50)
●実験前光沢 70%
(測定装置NIPPON DENSHOKU PG−1 光沢度計60°使用)
●製造条件 100gなやし漆
(水分6.3%=6.3g×200〜300%水道水添加)
●アズワン真空デシケーターによる無酸素環境
●スリーワンモターBL300(新東化学株式会社)回転数(100〜112)
●製造環境温度 30〜40℃
●光沢測定塗布素地 ソーダーガラス平板
測定回数 測定量(g) 時間(H) 含水率(%) 硬化被膜光沢値(%)
0 70
1 1.075 1 16.68
2 1.091 1 12.82
3 1.07 0.5 10.23
4 0.947 0.5 8.64
5 0.968 1 7.23
6 0.9618 0.5 6.46
7 1.076 1 4.97
8 1.015 0.5 4.36
9 1.060 0.5 3.39 101.6
【0026】
[実施例3]
他の微粒化製造方法としては、室内雰囲気において公知の回転篦式漆製造機を使用し、急激な水分揮発を防ぐ為に、なやし漆100gの含水率に対して200〜300%の水道水若しくは蒸留水、さらには製造段階で松根油5〜10gを添加し、実施例1同様にゴム篦の押圧と回転数を高めたことで光沢値85%以上の漆硬化被膜が得られた。
【0027】
(光重合性含漆共重合体の生成)
[実施例4]
実施例1〜3で製造された漆(10〜50部)と光重合性ウレタン及びエポキシ単官能基・多官能基モノマー(100部)を混合しその後、公知の回転スクリュー機器において攪拌・分散した後、1次濾過精製を行った光重合性含漆共重合体に超音波振動子(例えば、本多電子社製プラスチックウェルダー)を用いて約28kHzの超音波振動を付加して微粒化を行なった後、2次濾過精製として減圧濾過若しくは、自然落下方式による濾過を行なって1μm以下に微粒化された光重合性含漆共重合体を製造した。
【0028】
[実施例5]
実施例4以外の光重合性含漆共重合体の製造方法として、実施例1〜3でゴム質を微粒化した漆(10〜50部)と光重合性ウレタン及びエポキシ単官能基・多官能基モノマー(100部)を混合し、公知の回転式ボールミル装置(セラミックボール粒径2〜10mm球を使用)やゴムを装着した回転式剪断装置を使い 、攪拌・分散・剪断工程を行い、1次・2次濾過精製により1μm以下に微粒化された光重合性含漆共重合体が製造できた。
【0029】
[実施例6]
実施例4.5で製造された光重合性含漆共重合体に、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドを主成分とした2種類以上の光重合開始剤を6〜20%配合し、再び超音波振動を照射する微粒化工程と濾過を経た後、アプリケーターで薄膜被膜(5〜10μm程度)を形成し、硬化活性エネルギー線として紫外線(200〜450nm)を照射し、光重合性含漆共重合体(生成物)による凹凸が生じない秒単位で硬化する漆被膜が得られた。膜厚計による測定結果は6〜8μm、光沢値95%以上の硬質被膜を形成した。
【0030】
[実施例7]
実施例4〜5で製造された光重合性含漆共重合体以外の配合比の異なる製造例としては単官能アクリレート(100部)、漆(10〜50部)を添加し、実施例6で使用した光重合開始剤を6〜20%添加し、紫外線(200〜450nm)を照射した後、薄膜光重合型含漆被膜が得られたが、塗膜の鉛筆硬度(スガ鉛筆硬度試験器NUS−ISO−3)は2〜3Bであった。
【0031】
[実施例8]
実施例7で使用した光重合性含漆共重合体に、多官能基モノマー(10〜50部)を添加し、再び紫外線を照射した結果、塗膜の鉛筆硬度(スガ鉛筆硬度試験器NUS−ISO−3)はHB〜Fまでの塗膜硬度上昇が確認できた。このことから、多官能基モノマーの配合比は最大で100部:100部が望ましいことを確認した。
【0032】
[実施例9]
実施例7で使用した光重合性含漆共重合体(100部)に、光重合性オリゴマー(エポキシアクリレート)を10g添加し、実施例6同様ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドを主成分とした2種類以上の光重合開始剤を添加しその後、紫外線(200〜450nm)を照射した結果、塗膜硬度の上昇が確認できた。また、ここで使用した光重合性のオリゴマー(エポキシアクリレート)はノンソルタイプを使用したことから、揮発性有機溶剤を含まない環境配慮型及び無溶剤型の光重合性含漆共重合体となった。
【0033】
[実施例10]
実施例4.5での漆配合比は単・多官能基アクリレートに対して(10〜50部)であったが、実施例7同様に単官能基アクリレートを使用した際、漆の配合比は50部以上の添加が可能であり、その後実施例8.9に準じて多官能基アクリレートと光重合性オリゴマーを添加し、漆の添加率の上昇とともに光重合開始剤の添加率を上昇させることで秒速硬化し、漆の肉持ち感、ふっくら感と潜在的機能性を兼ね備えた光重合型含漆共重合体となった。
【0034】
[実施例11]
実施例4.5で製造された光重合性含漆共重合体に、アゾ系・フタロシアニン系・キナクリドン系の有機系顔料あるいは、アナターゼ・ルチル(酸化チタン)、カーボンブラック、骨粉などの無機系顔料(2〜30部)を添加し次に、分散剤などの添加剤を顔料比に対して0.5〜60%添加し、約28kHzの超音波振動を6〜12時間付加して、攪拌・分散・粉砕工程を経ることにより顔料が微粒化され、濾過精製工程を経て粒径1μm以下の有色(エナメル)の光重合性含漆共重合体を製造した。次に、実施例6同様にビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドを主成分とした2種類以上の光重合開始剤を添加、その後、組成物被膜に硬化活性エネルギー線として紫外線(200〜450nm)を照射することで秒速硬化の薄膜光重合性含漆共重合体の被膜が形成された。
【0035】
[実施例12]
実施例11における顔料の微粒化には分散剤、界面活性剤を顔料比に対して0.5〜60%添加後、ゴムを装着した回転式剪断装置のセラミック容器の中にセラミックボール2.5.8.10mm球を混合させ約72〜96時間の攪拌・分散・剪断工程を経ることにより、1μm以下の光重合性含漆共重合体となった。その後、実施例6同様に光重合開始剤を添加、硬化活性エネルギー線として紫外線を照射することで秒速硬化の光重合性含漆共重合体(生成物)の被膜が得られたが微粒化製造時間としては、超音波照射による微粒化の方法が短時間で製造できることを確認した。
【0036】
[実施例13]
単官能基モノマー100g、多官能基モノマー30gに、実施例11.12同様、分散剤、界面活性剤を顔料比に対して0.5〜60%添加し攪拌・分散後、有機・無機系顔料を2〜30部添加し、約28kHzの超音波振動を付加した。その際、マグネットスターラーを使用して有色の光重合性含漆共重合体を攪拌すると共に、超音波の圧力波の液中伝搬による攪拌・粉砕、加えて超音波振動によって生じたキャビテーションの空泡の破裂による分散と粉砕機能により微粒化する。液温は60℃を保持しつつ、約6〜12時間の微粒化作業を行った。その後、微粒化した光重合性含漆共重合体に実施例4.5で製造した生成物(光重合性含漆共重合体)を配合し、さらに実施例6と同様に光重合開始剤を添加して塗布した後に硬化活性エネルギー線として紫外線(200〜450nm)を照射して、秒速硬化型の有色(赤・青・黄・白・黒)の光重合性含漆共重合体の被膜が得られた。
【0037】
(物性の検証と実用化の検討)
[実施例14]
次に、これらの光重合性含漆共重合体を実際のインクジェットプリター用インキまたは、コーティング剤としての機能性を検討する目的で粘度30mPa.sに調整し、温度依存性を測定した。その結果、25℃では白23.4mPa.s、赤23.9mPa.s、黄27mPa.s、青29.6mPa.sの粘性となり、50℃では白8.92mPa.s、赤10.1mPa.s、黄10.9mPa.s、青13.5mPa.sの低粘性の有色光重合性含漆共重合体(図・表2)が生成された。
【0038】
[表2] 光重合含漆共重合体の温度依存性数値
粘度(mPa・s)
温度(℃) UV白 UV赤 UV黄 UV青
25 23.4 23.9 27 29.6
30 18.2 19 21.3 24.1
35 14.6 15.7 17.4 20.1
40 12 13.2 14.5 17.1
45 10.2 11.3 12.4 15
50 8.92 10.1 10.9 13.5
【0039】
[実施例15]
実施例6〜13で生成された光重合性含漆共重合体は、光重合オリゴマーや多官能基モノマー・アクリレートの配合比により薄膜の軟質から硬質の硬化被膜が得られる。そのため、熱可塑性樹脂であればポリプロピレン樹脂・ポリアミド樹脂・ポリエーテルケトン・ポリカーボネイト樹脂等の柔軟性のある素材や熱硬化性樹脂ではエポキシ樹脂・フェノール樹脂・メラミン樹脂等などのプラスチック工業用製品素材などへの装飾用インキまたはコーティング剤として使用できる。また、無垢の木材を含む木質系有機質素材、ガラスや金属系の無機質素材などへの装飾インキ及びコーティング剤としても塗布及び射出できる機能性を持つ。
【0040】
[実施例16]
実施例6〜13で生成された光重合性含漆共重合体は、1pl以上のインクジェットプリンターノズルからの射出が可能である。特に、工業用インクジェットプリンターノズルのようにピエゾ加温方式(オンデマンドピエゾを含む。)のものであれば4〜42plからの射出が可能である。そのため、光重合性含漆共重合体の生成物は、顔料が含まれない透きインキとして使用した、顔料を添加した光重合性含漆共重合体の生成物はカラーインキであることから様々な彩色が可能となった。その応用素地としては、実施例15に記載したとおりである。特にその中でも、ウレタン・油性・漆塗装塗膜へ日本固有の伝統技法である蒔絵が再現できる。
【0041】
[実施例17]
インクジェットプリンターピエゾ加温方式による蒔絵技法の再現では、本発明の特徴であるところの、薄膜でしかも平滑さが求められる平蒔絵のインキとして最適な活用である。光重合性含漆共重合体の生成物を4〜42plのノズルから射出した後、紫外線(200〜450nm)を照射し、インキ中に含まれる微粒化オリゴマー成分の作用によって消金粉などの金属粉が蒔き付けられ固着することで完成する。また、紫外線を照射する前に本金・本銀丸粉・平目粉などを蒔き付けることで、漆加飾技法の中でも高度で且つ高級感のある平研蒔絵、丘研蒔絵、梨地蒔絵や厚膜を形成する肉合蒔絵、高上げ蒔絵などの伝統的技法を再現できることから、光重合性含漆蒔絵工法が構築できた。そのほか、有色の光重合性含漆共重合体からなる生成物を同じくインクジェットノズルから赤・青・黄色の3原色を射出することで、シルクスクリーン印刷の際に必要なポジフィルムを作らずに、コンピューターのデジタル画像をダイレクトにしかも短時間でフルカラー印刷ができたことから、漆絵の様な極彩色の漆絵技法が構築できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造漆又はクロメ返しを行った漆に、光重合性オリゴマー又はモノマーなどから成るアクリレート化合物を混合し、漆の構成物であるゴム質、及び含窒素物の粒子が平均粒径1μm以下であることを特徴とした光重合性含漆共重合体。
【請求項2】
請求項1記載の光重合性含漆共重合体に、顔料、又は顔料と分散剤とを添加してなることを特徴とした光重合性含漆共重合体。
【請求項3】
請求項1、又は2記載の光重合性含漆共重合体に、さらに光重合開始剤を添加して成ることを特徴とした光重合性含漆共重合体。
【請求項4】
製造漆又はクロメ返しを行った漆に、光重合性オリゴマー又はモノマーから成るアクリレート化合物を添加し、漆の構成物であるゴム質、及び含窒素物の粒子を微粒化した後、これらの粒子が平均粒径1μm以下となるように濾過製造したことを特徴とする光重合性含漆共重合体の製造法。
【請求項5】
製造漆又はクロメ返しを行った漆に、光重合性オリゴマー又はモノマーから成るアクリレート化合物を添加し、漆の構成物であるゴム質、及び含窒素物の粒子を微粒化して製造し、さらに上記アクリレート化合物、顔料、及び分散剤を添加して上記粒子を再度微粒化した後、該粒子が平均粒径1μm以下となるように濾過製造したことを特徴とする光重合性含漆共重合体の製造法。
【請求項6】
微粒化の手段が、超音波の照射、又は剪断処理装置であることを特徴とした請求項4、又は5記載の光重合性含漆共重合体の製造法。
【請求項7】
請求項4、5、又は6記載の光重合性含漆共重合体の製造法の何れかの工程において光重合開始剤、及び助剤を添加したことを特徴とする光重合性含漆共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−242731(P2009−242731A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93887(P2008−93887)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(391041062)福島県 (42)
【Fターム(参考)】