説明

光電変換素子

【課題】高い変換効率及び高い耐久性を有する光電変換素子を提供する。
【解決手段】一対の電極と、前記一対の電極間に、バッファ層を含む2以上の層からなる光電変換層を有し、前記バッファ層が前記一対の電極の少なくとも一方と隣接し、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含む光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を受けて電気を発生する光電変換素子に関する。さらに詳しくは、複数層からなる光電変換層を有する光電変換素子であって、電極と接する特定の化合物を含有するバッファ層を具備してなる光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は、一対の電極、及び当該電極間に挟持されてなる光電変換層を有する素子であって、外部から入力された光を電力に変換する素子である。
光電変換素子は、光信号を電気信号に変換するフォトダイオードや撮像素子、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池等として用いられ、中でも太陽電池は、化石燃料の枯渇問題や地球温暖化問題を背景に、クリーンエネルギー源として近年研究開発が盛んに行なわれるようになってきた。
【0003】
従来、実用化されてきたのは、単結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi等に代表されるシリコン系太陽電池であるが、高価であることや原料Siの不足問題等が表面化するにつれて、次世代太陽電池開発への要求が高まりつつある。このような背景の中で、有機太陽電池は、安価で且つ原材料不足の懸念もないことから、シリコン系太陽電池に次ぐ次世代の太陽電池として大変注目を集めている。
【0004】
有機太陽電池は、基本的には電子を輸送するn層と正孔を輸送するp層からなる。
有機太陽電池は、各層を構成する材料によって大きく2種類に分類される。具体的には、n層としてチタニア等の無機半導体表面にルテニウム色素等の増感色素を単分子吸着させ、p層として電解質溶液を用いた太陽電池は、色素増感太陽電池(所謂グレッツェルセル)と呼ばれる。色素増感太陽電池は、その変換効率の高さから、1991年以降精力的に研究されてきたが、溶液を用いるため、長時間の使用に際して液漏れする等の欠点を有していた。
上記欠点を克服するため、電解質溶液を固体化した全固体色素増感太陽電池の研究も最近なされているが、多孔質チタニアの細孔に有機物をしみ込ませる技術は難易度が高く、再現性よく且つ高変換効率を発現できる全固体色素増感太陽電池は完成していないのが現状である。
【0005】
一方、n層及びp層の両方が有機薄膜からなる有機薄膜太陽電池は、全固体太陽電池であるため液漏れ等の欠点がなく、作製が容易であり、稀少金属であるルテニウム等を用いないこと等から最近注目を集め、精力的に研究がなされている。
【0006】
有機薄膜太陽電池は、最初メロシアニン色素等を用いた単層膜で研究が進められてきたが、p層とn層を積層して多層膜にすることで光電変換効率(以下、単に変換効率と記載する場合がある。)が向上することが見出され、それ以降多層膜からなる光電変換層を備えたものが主流となっている。
その後、p層とn層の間にi層(p材料とn材料の混合層)を挿入することにより、変換効率が向上することが見出された。また、p/i/n層で構成される光電変換層を直列に積層するタンデムセル構成が案出され、さらに変換効率が向上することが見出された。
【0007】
高分子を用いた有機薄膜太陽電池では、p材料として導電性高分子を用い、n材料としてフラーレンC60誘導体を用いてそれらを混合し、熱処理することによりミクロ層分離を誘起してp材料とn材料のヘテロ界面を増やし、変換効率を向上させるという、所謂バルクヘテロ構造の研究が主に行なわれてきた。
このように、有機薄膜太陽電池ではセル構成、及びp層とn層のモルフォロジーの検討により変換効率の向上がもたらされてきたが、シリコン系太陽電池に比べて、光電変換効率及び耐久性が低いことが、実用化に対しての最大の課題となっている。
【0008】
一般に有機薄膜太陽電池の動作過程は、(1)光吸収及び励起子生成、(2)励起子拡散、(3)電荷分離、(4)電荷移動、(5)起電力発生の素過程からなっている。
有機薄膜太陽電池の高変換効率化(以下、高効率と記載する場合がある。)にはこれら全ての素過程が高効率であることが求められる。
また、太陽電池は、屋外等の外界の厳しい環境下において駆動する電池であり、連続光照射や連続駆動による発熱等が容易に想像されるため、高い耐熱性を有することが耐久性向上に必須である。
【0009】
特許文献1は、光吸収により生成された励起子が感光性有機/電極の界面で消光(quenching)することを防ぐために、励起子阻止層を有する有機薄膜太陽電池を開示する。
【0010】
特許文献2は、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バトクプロイン、bathocuproine:BCP)に代表されるフェナントロリン誘導体を含有する有機阻止層をカソード及びアノード間に設け、励起子、電子及び正孔の1以上を、部分的又は全てを阻止する有機感光性光電変換素子を開示する。
【0011】
しかし、BCPは多結晶化の進行が非常に早く、蒸着後3時間で、ほとんどが多結晶化してしまうことが知られている。有機薄膜太陽電池において、有機層の多結晶化は素子特性の劣化要因の1つである。また、BCPのガラス転移温度(Tg)は62℃であり、連続光照射や連続駆動による発熱等により、容易にガラス転移を起こして多結晶化が進行するため、劣化の加速化が問題となる。
特許文献2は、BCPよりもTgが高く且つ結晶成長速度が小さいフェナントロリン誘導体を開示するが、Tgは十分高いものではなく、耐久性は十分とはいえない。
【0012】
特許文献2はまた、幅広い波長の太陽光を有効に活用して効率を向上させるため、複数の光電変換ユニットから構成された積層光電変換素子を開示する。
しかし、複数の光電変層を形成するp材料(p層を構成する材料)、n材料(n層を構成する材料)及びバッファ層材料が、全て互いに異なる化合物である場合、光電変換層の製膜時に必要となる加熱昇温、製膜速度コントロール、冷却降温等のタクトタイム(工程作業時間)が伸びてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2003−515933号公報
【特許文献2】特表2008−522413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、高い耐久性を有する光電変換素子を提供することである。
また、本発明の目的は、バッファ層とp層が同一材料である生産性に優れた光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意研究した結果、光電変換素子の光電変換層を形成する1つのバッファ層が、電極と隣接して設置し、当該バッファ層が4以上のユニットで構成された環状化合物を含有することで、耐熱特性等の耐久性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
本発明者はまた、正孔輸送性にのみ着目されていた、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体に代表される4以上のユニットで構成された環状化合物が、バッファ層として使用できること、特に陰極と隣接するバッファ層として使用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明によれば、以下の光電変換素子が提供される。
1.一対の電極と、
前記一対の電極間に、バッファ層を含む2以上の層からなる光電変換層を有し、
前記バッファ層が前記一対の電極の少なくとも一方と隣接し、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含む光電変換素子。
2.一対の電極と、
前記一対の電極間に2以上の光電変換層を有する光電変換素子であって、
前記2以上の光電変換層間に、それぞれ中間電極を有し、
前記2以上の光電変換層の少なくとも1つが、バッファ層を含む2以上の層からなる光電変換層であり、
前記バッファ層が、前記一対の電極及び前記中間電極のいずれか1つと隣接し、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含む光電変換素子。
3.前記バッファ層を含む光電変換層がn層を含み、前記バッファ層が、前記n層と隣接する電極間に設けられている1又は2に記載の光電変換素子。
4.前記バッファ層を含む光電変換層がさらに4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含む他のバッファ層を有し、
前記2つバッファ層がいずれも電極に隣接する1〜3のいずれかに記載の光電変換素子。
5.前記バッファ層を含む光電変換層がp層、n層及び前記バッファ層をこの順に含む1〜4のいずれかに記載の光電変換素子。
6.前記p層と前記n層の間にi層を含む5に記載の光電変換素子。
7.前記p層及び前記バッファ層が同一の材料からなる5又は6に記載の光電変換素子。
8.前記環状化合物が、フタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体である1〜7のいずれかに記載の光電変換素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い耐久性を有する光電変換素子が提供できる。
また、本発明によれば、バッファ層とp層が同一材料である生産性に優れた光電変換素子が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る光電変換素子の概略断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係るタンデムセル構造を有する光電変換素子の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の光電変換素子は、一対の電極と、一対の電極間に、バッファ層を含む2以上の層からなる光電変換層を有し、バッファ層が一対の電極の少なくとも一方と隣接し、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含む。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る光電変換素子の概略断面図である。
光電変換素子1は、一対の陽極10及び陰極20が光電変換層30を挟持している積層体である。光電変換層30はバッファ層40を含む2以上の層からなる積層体であり、バッファ層40は一対の電極の少なくとも一方(陰極20)に隣接している。
尚、光電変換素子1では、バッファ層40は陰極20に隣接しているが、バッファ層40は電極に隣接していればよく、陽極10に隣接してもよい。
【0021】
本発明の光電変換素子のバッファ層(以下、単に本発明のバッファ層という場合がある)は、電極に隣接する有機層である。
本発明のバッファ層は、電極への電荷注入に寄与する機能、励起子と電極の接触阻止機能及び短絡防止機能を有し、電極に隣接させることで、これら機能を発揮することができる。
【0022】
本発明のバッファ層は、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含み、好ましくは当該環状化合物から実質的になる。
上記環状化合物は構造的に安定な化合物であり、当該環状化合物をバッファ層に含む本発明の光電変換素子は、外界の雰囲気、光照射等の熱による昇温が懸念される環境下においても、安定的に高性能を発揮することができる。
上記環状化合物はまた、電荷移動度が高いため、短絡防止機能を高めるためにバッファ層の膜厚を厚くしても、変換効率の低下が少ない。加えて、上記環状化合物は、電子輸送性と正孔輸送性の両方を有するため、陰極と接するバッファ層としても、陽極と接するバッファ層としても使用できる。さらに、p層にも利用できる。このため、生産性に優れた光電変換素子が提供できる。
【0023】
4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物は、高い移動度を有するため、バッファ層の膜厚を厚くしても変換効率への影響が少なく、且つ高い短絡防止効果が得られる。本発明のバッファ層の膜厚は、例えば15nmを超える厚みでもよい。
【0024】
4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物は、好ましくは4つのフタル酸イミドが窒素原子で架橋したフタロシアニン誘導体、又は4つのピロールが炭素原子で架橋したポルフィリン誘導体である。
【0025】
上記フタロシアニン誘導体としては、例えば下記式(I)又は(I’)で表わされるフタロシアニン誘導体が挙げられる。
【化1】

(式中、Mは、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、錫(Sn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、チタン(Ti)、チタニル(TiO)、又はバナジル(VO)等の金属原子又はオキソメタル原子である。
〜R16は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜40のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数2〜40のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数2〜40のアルキニル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜40のアリール基、置換もしくは無置換の環形成原子数5〜40のヘテロアリール基、置換もしくは無置換の炭素数1〜40のアルコキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜40のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜40のアリールアミノ基、又は置換もしくは無置換の炭素数1〜40のアルキルアミノ基であり、隣り合うR〜R16は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0026】
〜R16のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0027】
〜R16の炭素数1〜40のアルキル基は、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、種々のペンチル基、種々のヘキシル基、種々のオクチル基、種々のデシル基、種々のドデシル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、ノルボルニル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、ベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルエチル基等が挙げられる。これらのうち、原料が入手し易く、合成法も簡便であること、材料の分子量が比較的小さい方が、昇華精製、蒸着成膜が容易であること、及び湿式成膜の場合には、材料の溶媒への溶解度を高める置換基であることから、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基、あるいはシクロヘキシル基である。
アルキル基の置換基としては、例えば、フッ素原子や塩素原子のようなハロゲン原子、フェニル基のような無置換のアリール基、メチル基のような短鎖(炭素数5以下程度)のアルキル置換基を有するアリール基が挙げられる。置換基の数は1つでも複数でもよく、置換基が複数の場合は同一の基でも異なる基でもよい。
【0028】
〜R16の炭素数2〜40のアルケニル基は、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよく、例えばビニル基、プロペニル基、ブテニル基、オレイル基、エイコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、スチリル基、2,2−ジフェニルビニル基、1,2,2−トリフェニルビニル基、2−フェニル−2−プロペニル基等が挙げられる。これらのうち、原料が入手し易く、合成法も簡便で収率も比較的高いことが多いこと、材料の分子量が比較的小さい方が、昇華精製、蒸着成膜が容易であること、及びビニル基は、移動度の高い導電性ユニットであるため、光電流取り出しに有利と考えられることから、好ましくはビニル基、スチリル基、2,2−ジフェニルビニル基等である。
アルケニル基の置換基としては、例えば、フェニル基等のアリール基が挙げられる。置換基の数は1でも複数でもよく、複数の場合は同一の基でも異なる基でもよい。
【0029】
〜R16の炭素数2〜40のアルキニル基は、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよく、例えばエテニル基、プロピニル基、2−フェニルエテニル基等が挙げられる。こられのうち、原料が入手し易く、合成法も簡便で収率も比較的高いことが多いこと、材料の分子量が比較的小さい方が、昇華精製、蒸着成膜が容易であること、及びエテニル基は、移動度の高い導電性ユニットであるため、光電流取り出しに有利と考えられることから、好ましくは、エテニル基、2−フェニルエテニル基等である。
アルキニル基の置換基としては、例えば、フェニル基等のアリール基が挙げられる。置換基の数は1でも複数でもよく、複数の場合は同一の基でも異なる基でもよい。
【0030】
〜R16の環形成炭素数6〜40のアリール基としては、例えばフェニル基、2−トリル基、4−トリル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、ターフェニリル基、3,5−ジフェニルフェニル基、3,4−ジフェニルフェニル基、ペンタフェニルフェニル基、4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル基、4−(1,2,2−トリフェニルビニル)フェニル基、フルオレニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基、2−アントリル基、9−フェナントリル基、1−ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、コロニル基等が挙げられる。これらのうち、原料が入手し易く、合成法も簡便であること、分子量が比較的小さい方が、昇華精製、蒸着成膜が容易であること、及びπ共役の拡張による光吸収能が向上や、電荷輸送性の向上による光電流取り出しに有利と考えられることから、好ましくはフェニル基、4−ビフェニリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−フェナントリル基等の環形成炭素数6〜20のアリール基である。
アリール基の置換基としては、例えば、フッ素原子等のハロゲン原子、メトキシ基等の短鎖(炭素数5以下程度)のアルコキシ基、シアノ基、フェニル基等のアリール基で置換された短鎖(炭素数5以下程度)のアルケニル基が挙げられる。置換基の数は1でも複数でもよく、複数の場合は同一の基でも異なる基でもよい。
【0031】
〜R16の環形成原子数5〜40のヘテロアリール基について、含窒素アゾール系へテロ環の場合は、その結合位置は、炭素だけでなく窒素で結合することができる。
上記環形成原子数5〜40のヘテロアリール基としては、例えばフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、ベンズピラゾール、トリアゾール、オキサジアゾール、ピリジン、ピラジン、トリアジン、キノリン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン及びカルバゾールに対応する1価の残基が挙げられる。これらのうち、原料が入手し易く、合成法も簡便で収率も比較的高いこと、チオフェン、カルバゾールは、正孔移動度の高い導電性ユニットであり、光電流取り出しに有利と考えられること、及びフランは、正孔、電子移動度の高い導電性ユニットであり、光電流取り出しに有利と考えられることから、好ましくはフラン、チオフェン、ピリジン、カルバゾールに対応する1価の残基である。
【0032】
〜R16の炭素数1〜40のアルコキシ基は、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよく、例えばメトキシ基、エトキシ基、1−プロピルオキシ基、2−プロピルオキシ基、1−ブチルオキシ基、2−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、種々のペンチルオキシ基、種々のヘキシルオキシ基、種々のオクチルオキシ基、種々のデシルオキシ基、種々のドデシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1−アダマンチルオキシ基、2−アダマンチルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、トリフルオロメトキシ基、ベンジロキシ基、α,α−ジメチルベンジロキシ基、2−フェニルエトキシ基、1−フェニルエトキシ基等が挙げられる。これらのうち、原料が入手し易く、合成法も簡便であること、材料の分子量が比較的小さい方が、昇華精製、蒸着成膜が容易であること、及び湿式成膜の場合には、材料の溶媒への溶解度を高める置換基であることから、好ましくはメトキシ基、エトキシ基、tert−ブチルオキシ基等である。
アルコキシ基の置換基としては、例えば、フッ素原子や塩素原子のようなハロゲン原子、フェニル基のような無置換のアリール基、メチル基のような短鎖(炭素数5以下程度)のアルキル置換基を有するアリール基が挙げられる。置換基の数は1でも複数でも良く、複数の場合は同一の基でも異なる基でもよい。
【0033】
〜R16の環形成炭素数6〜40のアリールオキシ基としては、前記アリール基が酸素を介して結合した置換基が挙げられる。これらのうち、原料の入手しやすさ等の観点から、フェノキシ、ナフトキシ、フェナントリルオキシ等が好ましい。
【0034】
〜R16の環形成炭素数6〜40のアリールアミノ基としては、アミノ基に結合する置換基のうち少なくともひとつがアリール基であればよい。無置換のアリールアミノ基としては、例えば、フェニルアミノ基等のモノアリールアミノ基;メチルフェニルアミノ基、及びフェニルt−ブチルアミノ基等のアルキルアリールアミノ基;ジフェニルアミノ基、フェニル−1−ナフチルアミノ基、及びフェニル−2−ナフチルアミノ基等のジアリールアミノ基等が挙げられる。置換基を有するアリールアミノ基としては、例えば、ジp−トリルアミノ基、ジm−トリルアミノ基、フェニルm−トリルアミノ基、フェニル(sec−ブチルフェニル)アミノ基、及びビス(4−メトキシフェニル)アミノ基等が挙げられる。これらアリールアミノ基のうち、原料の入手しやすさ等の観点から、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、及びビス(4−メトキシフェニル)アミノ基が好ましい。
【0035】
〜R16の炭素数1〜40のアルキルアミノ基は、直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよく、また、アミノ基に結合するアルキル基は同じでも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。
上記の炭素数1〜40のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ、ジメチルアミノ、メチルエチルアミノ、ジエチルアミノ、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ、ビス(2−メトキシエチル)アミノ、ピペリジノ、モルホリノ等を挙げることができる。これらのうち、原料の入手しやすさ等の観点から、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ピペリジノ等が好ましい。
【0036】
上述したR〜R16は、水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜40のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜40のアリール基、又は置換もしくは無置換の環形成原子数5〜40のヘテロアリール基が好ましい。
水素原子やハロゲン原子が好ましい理由として、原料が入手し易く、合成法も簡便で収率も比較的高いことが挙げられる。また、アルキル基、アリール基及びヘテロアリール基が好ましい理由は、上記のとおりである。
【0037】
上記ポルフィリン誘導体としては、例えば下記式(II)又は(II’)で表わされるポルフィリン誘導体が挙げられる。
【化2】

(式中、Mは、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、錫(Sn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、チタン(Ti)、チタニル(TiO)又はバナジル(VO)等の金属原子又はオキソメタル原子である。
〜Rは、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜40のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数2〜40のアルケニル基、置換もしくは無置換の炭素数2〜40のアルキニル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜40のアリール基、置換もしくは無置換の環形成原子数5〜40のヘテロアリール基、置換もしくは無置換の炭素数1〜40のアルコキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜40のアリールオキシ基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜40のアリールアミノ基、又は置換もしくは無置換の炭素数1〜40のアルキルアミノ基である。隣り合うR〜Rは互いに結合して環を形成してもよい。
〜Xは、それぞれ水素原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜40のアルキル基、又は置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜40のアリール基である。)
【0038】
〜R及びX〜Xの各置換基は、式(I)又は(I’)で表わされるフタロシアニン誘導体と同様である。
【0039】
上述した置換基のうち、R〜Rは、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜40のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜40のアリール基、又は置換もしくは無置換の環形成原子数5〜40のヘテロアリール基が好ましい。
水素原子やハロゲン原子が好ましい理由として、原料が入手し易く、合成法も簡便で収率も比較的高いことが挙げられる。上記のアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基が好ましい理由は、フタロシアニンの各置換基の説明において記載したとおりである。
【0040】
光電変換層は、一対の電極に挟まれた層を指し、本発明の光電変換層素子の光電変換層は、バッファ層を含む2以上の層からなる積層体であれば特に限定されない。
本発明の光電変換素子は、安定な絶縁性基板上に例えば下記(1)〜(4)の構成を取ることができ、下記構成のうち下部電極及び上部電極を除いた構成が光電変換層に対応する。
尚、p層とn層が互いに置換した下記構成であってもよい。
(1)下部電極/p層/n層/バッファ層/上部電極
(2)下部電極/バッファ層/p層/n層/バッファ層/上部電極
(3)下部電極/p層/i層(又はp材料とn材料の混合層)/n層/バッファ層/上部電極
(4)下部電極/バッファ層/p層/i層(又はp材料とn材料の混合層)/n層/バッファ層/上部電極
【0041】
光電変換層が複数のバッファ層を有する場合は、いずれか1つのバッファ層が電極に隣接し且つ、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含めばよい。
例えば、式(2)及び(4)ではバッファ層が2層あり、いずれも電極に隣接しているが、いずれか一方のバッファ層が、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含めばよい。
【0042】
光電変換層は、好ましくはn層を含み、電極に隣接するバッファ層が、n層と隣接する電極間設けられている。例えば(1)、(2)、(3)及び(4)の構成が好ましい。
光電変換層が上記構成を有することで、電極への電荷注入に寄与する機能(特に電子輸送性)、励起子と電極の接触阻止機能及び電荷の逆方向拡散阻止機能が得られ、電極に隣接させることで、これら機能を発揮して、光電変換層で生じる光電流(短絡電流密度)を効率よく取り出すことが可能となる。加えて、上記環状化合物は構造的に安定な化合物であるので、外界の雰囲気、光照射等の熱による昇温が懸念される環境下においても、安定的に高性能を発揮することができる。
尚、バッファ層とn層は隣接していなくともよい。
【0043】
光電変換層が式(4)の構成を有する場合、前述した機能だけに限らず、電極への電荷注入に寄与する機能が特に電子輸送性だけでなく、特に優れた正孔輸送性機能から、電極への電荷注入に寄与する機能(特に正孔輸送性)を発揮して、光電変換層で生じる光電流(短絡電流密度)を効率よく取り出すことが可能となる。さらに、素子の製造時に使用する材料の種類の低減に寄与する。
【0044】
光電変換層は、好ましくはp層、n層及び本発明のバッファ層をこの順に含み、変換効率向上の点でより好ましくはさらにp層とn層の間にp材料とn材料の混合層であるi層を含む。例えば式(1)〜(4)の構成が好ましい。
光電変換層が上記構成を有することで、前述した機能だけに限らず光電変換層内で生成される電荷量が増大された光電流(短絡電流密度)を、より効果的に取り出すことで高い変換効率を実現することができる。又、電荷輸送を担わせる材料を機能分離することが可能となることから、正孔及び電子のいずれかに耐性のない材料の劣化を抑制する適材適所の材料設置が可能となり、安定的に高性能を発揮することができる。
【0045】
本発明の光電変換素子は、いわゆるタンデムセル構造を有してもよい。
本発明の他の光電変換素子は、一対の電極と、一対の電極間に2以上の光電変換層を有する光電変換素子であって、2以上の光電変換層間に、それぞれ中間電極を有し、2以上の光電変換層の少なくとも1つが、バッファ層を含む2以上の層からなる光電変換層であり、バッファ層が、一対の電極及び中間電極のいずれか1つと隣接し、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含む。
【0046】
1つの有機半導体化合物からなる光電変換層では、太陽光の特定の波長領域でさえ100%吸収することは難しい。ましてや、1つの有機半導体化合物からなる光電変換層が、太陽光の全波長領域に吸収することは困難である。
本発明の他の光電変換素子は、例えば異なる波長領域に吸収のある有機半導体化合物からなる光電変換層を2以上有することで、太陽光の全波長領域をカバーし且つ有効利用する。
【0047】
図2は、本発明の他の実施形態に係るタンデムセル構造を有する光電変換素子の概略断面図である。
光電変換素子2は、一対の陽極10及び陰極20の間に中間電極50を有し、陽極10及び中間電極50の間、並びに陰極20及び中間電極50の間に、2つの光電変換層30及び32を有する積層体である。光電変換層30はバッファ層40を含む2以上の層からなる積層体であり、バッファ層40は中間電極50と隣接している。また、光電変換層32はバッファ層42を含む2以上の層からなる積層体であり、バッファ層42は陰極20と隣接している。
尚、光電変換素子2では、バッファ層40は中間電極50に隣接し、バッファ層42は陰極20に隣接しているが、バッファ層40及び42はそれぞれ電極に隣接していればよく、バッファ層40は陽極10に隣接してもよく、バッファ層42は中間電極50に隣接してもよい。また、光電変換素子2では、光電変換層30及び32がそれぞれバッファ層40及び42を有しているが、光電変換層30及び32のいずれか一方が、バッファ層を有する積層体であり、当該バッファ層が陽極10、陰極20及び中間電極50のいずれかと隣接すればよい。
【0048】
本発明の他の光電変換素子は、安定な絶縁性基板上に例えば下記(5)〜(11)の構成を取ることができ、下記構成の下部電極及び内部電極(中間電極)間、上部電極及び内部電極間、並びに2つの内部電極間の構成が光電変換層に対応する。
(5)下部電極/p層/n層/バッファ層/内部電極/p層/n層/バッファ層/上部電極
(6)下部電極/p層/n層/バッファ層/内部電極/p層/n層/バッファ層/内部電極/p層/n層/バッファ層/上部電極
(7)下部電極/p層/n層/バッファ層/内部電極/バッファ層/p層/n層/バッファ層/上部電極
(8)下部電極/バッファ層/p層/n層/バッファ層/内部電極/バッファ層/p層/n層/バッファ層/上部電極
(9)下部電極/バッファ層/p層/i層(又はp材料とn材料の混合層)/n層/バッファ層/内部電極/バッファ層/p層/n層/バッファ層/上部電極
(10)下部電極/バッファ層/p層/i層(又はp材料とn材料の混合層)/n層/バッファ層/内部電極/バッファ層/p層/n層/バッファ層/上部電極
(11)下部電極/バッファ層/p層/i層(又はp材料とn材料の混合層)/n層/バッファ層/内部電極/バッファ層/p層/i層(又はp材料とn材料の混合層)/n層/バッファ層/上部電極
【0049】
上記構成において、p層とn層が互いに置換した構成であってもよい。
また、(5)〜(11)の構成は、いずれも電極に隣接するバッファ層を複数含むが、いずれか1つのバッファ層が4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含めばよい。
【0050】
本発明の他の光電変換素子が有する光電変換層は2以上であれば特に限定されないが、光電変換効率及びコストとのバランス等の観点から、内部電極を有しない光電変換素子では好ましくは2〜5層程度である。
また、本発明の他の光電変換素子の複数の光電変換層の好ましい構成は、本発明の光電変換素子の光電変換層と同様である。
【0051】
本発明の内部電極を有する光電変換素子においては、陰極、陽極及び内部電極と接する全てのバッファ層に、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した同一の環状化合物を使用することができるため、素子の製造時に使用する材料の種類を最低限とすることができる。
【0052】
光電変換素子の各層の材料は、公知の材料を用いることができる。以下、光電変換素子の各層の構成、及びその材料を説明する。
[電極(下部電極、上部電極)]
下部電極、上部電極の材料は特に制限はなく、公知の導電性材料を使用することができる。
p層と接続する電極の材料としては、例えば錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、金(Au)、オスミウム(Os),パラジウム(Pd)等の金属が使用できる。
n層と接続する電極の材料としては、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、インジウム(IN)、カルシウム(Ca)、白金(Pt)、リチウム(Li)等の金属;Mg:Ag、Mg:In、Al:Li等の二成分金属系;並びに上記p層と接続する材料が使用できる。
一対の電極は、好ましくは一方が仕事関数の大きな金属を含み、他方が仕事関数の小さな金属を含む。
【0053】
高効率の光電変換特性を得るためには、光電変換素子の少なくとも一方の電極は太陽光スペクトルにおいて充分透明にすることが望ましい。
透明電極は、ITOのような公知の導電性材料を使用して、蒸着やスパッタリング等の方法で所定の透光性が確保するように形成するとよい。受光面の電極の光透過率は10%以上とすることが望ましい。
【0054】
[内部電極]
内部電極によって、電子−正孔の再結合ゾーンを形成することにより積層型素子の個々の光電変換層を分離することができる。内部電極層は一方の光電変換層のn層と他方の光電変換層のp層の間の逆ヘテロ接合の形成を防ぐ役目をする。また、内部電極層は、一方の光電変換層から入る電子と他方の光電変換層からの正孔が再結合するゾーンを提供する。一方の光電変換層から入る電子と他方の光電変換層からの正孔の効率的な再結合は、光誘起電流を積層型素子で起こそうとする場合に必要である。
【0055】
内部電極の材料としては、上述した上部電極及び下部電極を形成する材料を用いることができ、好ましくは内部電極は薄い金属層である。
金属層は、一方から入ってきた光が金属層の反対側の(複数の)光電変換層に到達できるように、十分薄くて半透明であるとよい。この目的のために、金属層の厚さは約20Åより薄いことが好ましく、金属膜が約5Å程度の厚さであると特に好ましい。これらの極めて薄い金属膜(〜5Å)は連続膜でなく、むしろ孤立した金属ナノ粒子からなると考えられている。極めて薄い金属層が連続ではない場合であっても、電子−正孔再結合層として有効である。
この層に用いられる好ましい金属には、Ag、Li、LiF、Al、Ti、及びSnが含まれる。銀がこの層に特に好ましい金属である。
【0056】
[p層、n層及びi層]
p層は電子供与性材料を含有する層である。当該電子供与性材料は、好ましくは正孔受容体としての機能を有する化合物であり、さらに正孔移動度が高いと好ましい。
p層の材料は、例えばN,N’−ビス(3−トリル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(mTPD)、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPD)、4,4’,4’’−トリス(フェニル−3−トリルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等に代表されるアミン化合物;フタロシアニン(Pc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)、チタニルフタロシアニン(TiOPc)等のフタロシアニン類;オクタエチルポルフィリン(OEP)、白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)、亜鉛テトラフェニルポルフィリン(ZnTPP)等に代表されるポルフィリン類;メトキシエチルヘキシロキシフェニレンビニレン(MEHPPV)、ポリヘキシルチオフェン(P3HT)、シクロペンタジチオフェン‐ベンゾチアジアゾール(PCPDTBT)等の主鎖型共役高分子類;ポリビニルカルバゾール等の側鎖型高分子類等が挙げられる。
【0057】
p層の材料は、好ましくは本発明のバッファ層の材料である4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物である。
異なる機能の層であるp層とバッファ層の材料が同一であることにより、使用材料種の減少及び素子作製のタクトタイムを短くすることができる。
【0058】
n層は電子受容性材料を含有する層である。当該電子受容性材料は、好ましくは正孔供与体としての機能を有する化合物であり、さらに電子の移動度が高いと好ましい。
n層の材料は、例えばC60、C70等のフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ペリレン誘導体、多環キノン、キナクリドン、CN−ポリ(フェニレン−ビニレン)、MEH−CN−PPV、−CN基又はCF基含有ポリマー、ポリ(フルオレン)誘導体等を挙げることができる。
【0059】
n層の材料は、好ましくは電子親和力が小さい材料であり、電子親和力の小さい材料からなるn層は、充分な開放端電圧を実現することができる。
上記電子親和力が小さい材料は、無機化合物であれば、n型特性の無機半導体化合物を挙げることができる。具体例としては、n−Si、GaAs、CdS、PbS、CdSe、InP、Nb,WO,Fe等のドーピング半導体及び化合物半導体;二酸化チタン(TiO)、一酸化チタン(TiO)、三酸化二チタン(Ti)等の酸化チタン;酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)等の導電性酸化物が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのうち、好ましくは酸化チタンであり、より好ましくは二酸化チタンである。
【0060】
混合i層の材料は、p層の電子供与性材料とn層の電子受容性材料の組み合わせである。
混合i層の材料は、上述した電子供与性材料及び電子受容性材料のいずれも用いることができる。
【0061】
[バッファ層]
本発明の光電変換素子が2以上のバッファ層を有する場合、いずれか1つのバッファ層が本発明のバッファ層であればよく、他のバッファ層は公知の材料からなる層でよい。
また、本発明のバッファ層は、下記公知材料をさらに含有する混合層、又は4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物からなる層と公知材料からなる層の積層体であってもよい。以下、他のバッファ層について説明する。
【0062】
一般に、有機薄膜太陽電池を含む光電変換素子は総膜厚が薄いことが多く、そのため上部電極と下部電極が短絡し、セル作製の歩留まりが低下することが多い。このような場合には、バッファ層を積層することによってこれを防止することが好ましい。又、発生した電流を効率よく外部に取り出すためにもバッファ層を設けた方が好ましい。
【0063】
バッファ層の材料としては、膜厚を厚くしても短絡電流が低下しないようにキャリア移動度が充分に高い化合物が好ましい。
上記化合物は、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン:ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)、ポリアニリン:カンファースルホン酸(PANI:CSA)等に代表される公知の導電性高分子等が挙げられる。
【化3】

【0064】
上記の他、バッファ層の材料として、上記n層の材料として例示した無機半導体化合物を用いてもよい。当該無機半導体化合物としてはCdTe、p−Si、SiC、GaAs、NiO、WO、MoO、V等を用いることができる。
【0065】
[基板]
基板は、機械的、熱的強度を有し、透明性を有するものが好ましい。例えば、ガラス基板及び透明性樹脂フィルムがある。透明性樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0066】
本発明の光電変換素子の各層の形成方法は、特に限定するものではないが、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式成膜法やスピンコーティング、ディップコート、キャスティング、ロールコート、フローコーティング、インクジェット等の湿式成膜法を適用することができる。
【0067】
各層の膜厚は特に限定されないが、適切な膜厚に設定する。一般に有機薄膜の励起子拡散長は短いことが知られているため、膜厚が厚すぎると励起子がp層とn層のヘテロ界面に到達する前に失活してしまうため光電変換効率が低くなる。膜厚が薄すぎるとピンホール等が発生してしまうため、充分なダイオード特性が得られないため、変換効率が低下する。通常の膜厚は1nmから10μmの範囲が適しているが、5nmから0.2μmの範囲がさらに好ましい。
【0068】
乾式成膜法の場合、公知の抵抗加熱法が好ましく、混合層の形成には、例えば、複数の蒸発源からの同時蒸着による成膜方法が好ましい。さらに好ましくは、成膜時に基板温度を制御する。
【0069】
湿式成膜法の場合、各層を形成する材料を、適切な溶媒に溶解又は分散させて発光性有機溶液を調製し、薄膜を形成するが、任意の溶媒を使用できる。例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等のハロゲン系炭化水素系溶媒や、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒、メタノールやエタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、オクタン、デカン、テトラリン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶媒等が挙げられる。なかでも、炭化水素系溶媒又はエーテル系溶媒が好ましい。又、これらの溶媒は単独で使用しても複数混合して用いてもよい。尚、使用可能な溶媒は、これらに限定されるものではない。
【0070】
本発明においては、光電変換素子のいずれの有機薄膜層においても、成膜性向上、膜のピンホール防止等のため適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。使用の可能な樹脂としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース等の絶縁性樹脂及びそれらの共重合体、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等の光導電性樹脂、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂を挙げられる。
又、添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等が挙げられる。
分散する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、アトライター、ホモジナイザー等を用いて、微粒子状に分散することができる
【0071】
本発明の光電変換素子は、有機薄膜太陽電池及びそれを用いた光電変換モジュールとして有用である。
【実施例】
【0072】
実施例1
25mm×75mm×0.7mm厚のITO透明電極付きガラス基板をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間実施した。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、下部電極である透明電極ラインが形成されている側の面上に、上記透明電極を覆うようにして膜厚30nmのp層を化合物Aの抵抗加熱蒸着により、1Å/sで成膜した。続けてその上に膜厚60nmのn層をC60の抵抗加熱蒸着により、1Å/sで成膜し、膜厚10nmの本発明のバッファ層をCuPcの抵抗加熱蒸着により、1Å/sで成膜した。最後に、連続して対向電極として金属Alを膜厚100nm蒸着させ、光電変換素子(素子面積:0.5cm)を形成した。
【化4】

【0073】
作製した光電変換素子を、AM1.5条件下(光強度100mW/cm)でI−V特性を測定した。その後、作製した光電変換素子をホットステージにて80℃、1時間アニール処理を実施した。アニール処理後の光電変換素子について、改めてAM1.5条件下(光強度100mW/cm)でI−V特性を測定した。
開放端電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、曲線因子(FF)及び変換効率(η)について、アニール処理後の測定値及びアニール処理前後の測定値の相対値(アニール処理後の測定値/アニール処理前の測定値)をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0074】
実施例2
化合物Aの代わりにCuPcを用いてp層を成膜した他は実施例1と同様にして光電変換素子を作製し、アニール処理後の測定値及びアニール処理前後の測定値の相対値を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0075】
実施例3
25mm×75mm×0.7mm厚のITO透明電極付きガラス基板をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間実施した。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、下部電極である透明電極ラインが形成されている側の面上に、透明電極を覆うようにして膜厚20nmのp層を化合物Aの抵抗加熱蒸着により、1Å/sで成膜した。続けてその上に膜厚20nmのn層をC60の抵抗加熱蒸着により1Å/sで成膜した。C60膜の上に、膜厚10nmの本発明のバッファ層をCuPcの抵抗加熱蒸着により、1Å/sで成膜した。続けてその上に膜厚0.5nmの内部電極をAgの抵抗加熱蒸着により1Å/sで成膜した。続けてその上に膜厚5nmのバッファ層をMoOの抵抗加熱蒸着により1Å/sで成膜した。その上に積層素子として、膜厚20nmのp層を化合物Aの抵抗加熱蒸着により、1Å/sで成膜した。続けてその上に膜厚20nmのn層をC60の抵抗加熱蒸着により1Å/sで成膜した。続けてその上に、膜厚10nmの本発明のバッファ層をCuPcの抵抗加熱蒸着により、1Å/sで成膜した。最後に、連続して対向電極として金属Alを膜厚100nm蒸着させ、光電変換素子(素子面積:0.5cm)を形成した。
得られたタンデム型光電変換素子について、実施例1と同様にアニール処理後の測定値及びアニール処理前後の測定値の相対値を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0076】
実施例4
化合物Aの代わりにCuPcを用いて2つのp層を成膜した他は実施例3と同様にしてタンデム型光電変換素子を作製し、アニール処理後の測定値及びアニール処理前後の測定値の相対値を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0077】
比較例1
p層に用いた化合物A及びバッファ層に用いたCuPcの代わりに、BCPを用いてp層及びバッファ層をそれぞれ成膜した他は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
作製した素子について、実施例1と同様にしてアニール処理後のI−V特性を評価した結果、短絡電流密度Jsc(mA/cm)が0と認められず、光電変換素子として機能しないことが分かった。
【化5】

【0078】
【表1】

【0079】
表1から分かるように、80℃で1時間のアニール処理にもかかわらず、実施例1では、p/n接合セルの標準的な変換効率を維持しており、光電変換素子として機能すること、及びその高い耐久性が確認された。
実施例2では、p層とバッファ層の両方にCuPcを用いて製造工程を簡略化しているが、アニール処理後の変換効率は実施例1の2/3以上の値を示し、光電変換素子として機能すること、及び耐久性に優れる光電変換素子であることが確認された。
実施例3では、2組のp/n接合セルと内部電極を有するタンデムセルであるが、実施例1と比較して開放端電圧Vocが2倍、変換効率が1.7倍となっており、直列接続されたタンデムセルの光電変換素子として機能すること、及び耐久性に優れた高変換効率の光電変換素子であることが確認された。
実施例4では、p層とバッファ層の両方にCuPcを用いて製造工程を簡略化しているが、アニール処理後の変換効率は実施例3の約6割の値を示し、光電変換素子として機能すること、及び耐久性に優れる光電変換素子であることが確認され、実施例2と比較しても開放端電圧Vocが2倍、変換効率が1.4倍となっており、直列接続されたタンデムセルの光電変換素子として機能すること、及び耐久性に優れる光電変換素子であることが確認された。
【0080】
【表2】

【0081】
表2の結果は、アニール処理前の素子特性をそれぞれ1.0とした場合の相対値である。表2において、実施例はJsc(短絡電流密度)の低下が非常に抑制されている。これは、アニール処理によって光電変換素子中に生じた欠陥が少ないことによるものと考えられる。その結果、η(変換効率)の低下も抑制され、実施例の素子の高い耐久性が示されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の光電変換素子は、有機太陽電池等に用いることができる。特に、有機太陽電池として用いたときに高効率のエネルギー変換特性を示す。有機太陽電池は時計、携帯電話及びモバイルパソコン等の装置に使用できる。
【符号の説明】
【0083】
1,2 光電変換素子
10 陽極
20 陰極
30,32 光電変換層
40,42 バッファ層
50 中間電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、
前記一対の電極間に、バッファ層を含む2以上の層からなる光電変換層を有し、
前記バッファ層が前記一対の電極の少なくとも一方と隣接し、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含む光電変換素子。
【請求項2】
一対の電極と、
前記一対の電極間に2以上の光電変換層を有する光電変換素子であって、
前記2以上の光電変換層間に、それぞれ中間電極を有し、
前記2以上の光電変換層の少なくとも1つが、バッファ層を含む2以上の層からなる光電変換層であり、
前記バッファ層が、前記一対の電極及び前記中間電極のいずれか1つと隣接し、4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含む光電変換素子。
【請求項3】
前記バッファ層を含む光電変換層がn層を含み、前記バッファ層が、前記n層と隣接する電極間に設けられている請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記バッファ層を含む光電変換層がさらに4以上の同一化合物が窒素原子又は炭素原子を介して架橋した環状化合物を含む他のバッファ層を有し、
前記2つバッファ層がいずれも電極に隣接する請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記バッファ層を含む光電変換層がp層、n層及び前記バッファ層をこの順に含む請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記p層と前記n層の間にi層を含む請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記p層及び前記バッファ層が同一の材料からなる請求項5又は6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記環状化合物が、フタロシアニン誘導体又はポルフィリン誘導体である請求項1〜7のいずれかに記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−33606(P2012−33606A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170436(P2010−170436)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】