説明

光電変換部材

【課題】 放熱機構を設けた構造に適したパッシベーション層を有する光電変換部材を提供する。
【解決手段】 光電変換部材1は、第1の電極層20、a−Si(非晶質シリコン)によって形成されたnip構造を備えた単一の発電積層体22、及び、当該発電積層体22上に、ニッケル層24を介して成膜されたAlの第2の電極層26を有している。
第2の電極層26上にはSiCNを含む材料で構成されたパッシベーション層28が形成される。パッシベーション層28上には、接着剤層29を介してヒートシンク30(例えばAlによって形成)が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電変換部材に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、火力或いは水力の代替エネルギとして太陽光エネルギを用いることが提唱されている。このため、太陽光エネルギを電気エネルギに変換する光電変換素子によって構成された太陽電池に対する期待は、非常に大きくなっている。
【0003】
このような状況の下に、シリコン系、化合物系、及び有機物系のもの等、種々の太陽電池或いは光電変換素子が提案されている。
【0004】
さらに、この種の太陽電池のうちでも、シリコン系の太陽電池は、地球上の資源として大量に存在しているシリコンを原料としているため、他の化合物系及び有機物系太陽電池に比較して、資源の枯渇等の問題は生じないものと考えられる。
【0005】
また、シリコン系太陽電池のうち、非晶質型シリコン太陽電池は、非晶質シリコン(a―Si)膜の膜厚を他の単結晶型及び多結晶型シリコン太陽電池に比較して1/100以下にすることができるため、大電力及び大面積の太陽電池を現実的に低コストで製造するのに適している。
【0006】
しかしながら、非晶質型シリコン太陽電池のエネルギ変換効率は6%程度であり、20%程度のエネルギ変換効率を有する単結晶型及び多結晶型シリコン太陽電池に比較して著しく低く、さらに、非晶質型シリコン太陽電池のエネルギ変換効率は、大面積になるほど低下すると云う欠点が指摘されている。
【0007】
本発明者等は、先に、特許文献1において、6%を超えるエネルギ変換効率を有する非晶質型シリコン太陽電池或いは光電変換素子を提案した。提案された非晶質型シリコン太陽電池或いは光電変換素子は、透明電極によって形成された第1の電極層、第2の電極層、第1の電極層と第2の電極層との間に設けられた1つ又は複数の発電積層体を含み、発電積層体は、第1の電極層に接触して形成されたn型非晶質半導体層(特に、n型非晶質シリコン層)、第2の電極層に接触して形成されたp型非晶質半導体層(特に、p型非晶質シリコン層)、及び、n型非晶質半導体層とp型半導体層との間に設けられたi型半導体層(i型シリコン層)を備えた所謂nip構造を有している。
【0008】
変換効率を上げるために、シリコン消費量の比較的少ない微結晶シリコン(μC―Si)によるnip構造の発光積層体を用いることも提案されている(特許文献2)。
【0009】
さらに、特許文献1記載の非晶質型太陽電池或いは光電変換素子は、n型非晶質半導体層であるn型非晶質シリコン層と接触する第1の電極層として、エネルギ障壁の低いn型ZnOを使用した透明電極を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特願2008−315888号公報
【特許文献2】特開2003−142712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に示された非晶質型太陽電池或いは光電変換素子は、量産性に富むと共に、10%以上のエネルギ変換効率を達成することができる。さらに、資源的に枯渇等の問題のないシリコン及び亜鉛材料によって構成しているため、今後、太陽電池を大規模にかつ大量に生産することも可能であると期待されている。以下では、説明の簡略化のために、太陽電池及び/又は光電変換素子を含む発電構造を集合的に光電変換部材と総称するものとする。
【0012】
ここで、光電変換部材は、一般に温度が高くなるほど発電効率が低くなると云う特性を有している。1℃温度が上がると、例えばa―Si太陽電池では効率が0.22%減少し、単結晶Si太陽電池では0.45%効率が減少する。
【0013】
そのため、光電変換部材は一方の電極層側に金属製のヒートシンク等の放熱機構を設ける場合がある。
【0014】
この際、電極層には、電極層の酸化、半導体層からの元素の拡散、ヒートシンク等の他の部材との導通等を防止するために、パッシベーション層(保護層)を設ける必要があるが、パッシベーション層にはこれらを防止するだけでなく、それ自体の強度が要求され、また、放熱の妨げとならないような物性も要求される。
【0015】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その技術的課題は、放熱機構を設けた構造に適したパッシベーション層を有する光電変換部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した課題を解決するために、本発明の第1の態様によれば、入射光のエネルギを電気エネルギに変換する光電変換素子と、前記光電変換素子に設けられた放熱部と、を有し、前記光電変換素子は、前記放熱部と接触する部分に設けられ、SiCNを含む材料で構成されたパッシベーション層を有することを特徴とする光電変換部材が得られる。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、前記光電変換素子は、第1の電極層と、第2の電極層と、前記第1および第2の電極層の間に設けられた1つまたは複数の発電積層体とを含み、前記発電積層体は、p型半導体層と、当該p型半導体層に接触して形成されたi型半導体層と、前記i型半導体層に接触して形成されたn型半導体層とを含み、前記パッシベーション層は前記第2の電極層に設けられていることを特徴とする請求項1記載の光電変換部材が得られる。
【0018】
本発明の第3の態様によれば、前記第1の電極層は透明電極であることを特徴とする第2の態様に記載の光電変換部材が得られる。
【0019】
本発明の第4の態様によれば、前記発電積層体の前記i型半導体層は、結晶シリコン、微結晶非晶質シリコン、及び、非晶質シリコンのいずれかによって形成されていることを特徴とする第1〜3のいずれかの態様に記載の光電変換部材が得られる。
【0020】
本発明の第5の態様によれば、前記第1の電極層は前記n型半導体層が接触する部分がn型のZnOを含み、前記第1の電極層に接触する前記n型半導体層は非晶質シリコンによって形成されていることを特徴とする第1〜4のいずれかの態様に記載の光電変換部材が得られる。
【0021】
本発明の第6の態様によれば、前記第2の電極層に接触する前記p型半導体層は非晶質シリコンによって形成されており、前記第2の電極層のうち少なくとも前記p型半導体層が接触する部分には、ニッケル(Ni)を含む層が形成されていることを特徴とする第1〜5のいずれかの態様に記載の光電変換部材が得られる。
【0022】
本発明の第7の態様によれば、前記放熱部は、Alを含む材料で構成されたヒートシンクであることを特徴とする第1〜6のいずれかの態様に記載の光電変換部材が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、放熱機構を設けた構造に適したパッシベーション層を有する光電変換部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】光電変換部材1の断面図である。
【図2A】光電変換素子10の製造方法を説明する図である。
【図2B】光電変換素子10の製造方法を説明する図である。
【図2C】光電変換素子10の製造方法を説明する図である。
【図2D】光電変換素子10の製造方法を説明する図である。
【図2E】光電変換素子10の製造方法を説明する図である。
【図2F】光電変換素子10の製造方法を説明する図である。
【図2G】光電変換素子10の製造方法を説明する図である。
【図2H】光電変換素子10の製造方法を説明する図である。
【図3】パッシベーション層28を形成する際の条件と形成されたパッシベーション層28の物性の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1を参照して、本発明の実施形態に係る光電変換部材を説明する。図示された光電変換部材1は、複数の光電変換素子10と、光電変換素子10に設けられた放熱部としてのヒートシンク30とを含み、複数の光電変換素子10を接続することによって太陽電池を構成している。図示された光電変換素子10は、ガードガラス12、当該カードガラス12上に設置されるガラス基板14、およびガラス基板14上に設けられたナトリウムバリア層16を含む基体100上に設けられている。
【0026】
この例では、ガラス基板14はNaを含む安価なソーダガラスによって形成されており、このソーダガラスからNaが拡散して素子を汚染するのを防止する目的で、ガラス基板14上には、ナトリウムバリア層16が形成されている。ナトリウムバリア層16は、例えば、表面平坦化塗布液を塗布し乾燥・焼結することで形成される。また、図からも明らかな通り、単位セルとなる光電変換素子10は、基体100上において、隣接する他の光電変換素子(セル)と電気的に直列に接続されている。
【0027】
具体的に説明すると、本発明の一実施形態に係る光電変換素子10は第1の電極層20、a−Si(非晶質シリコン)によって形成されたnip構造を備えた単一の発電積層体22、当該発電積層体22上に、ニッケル層24(Niを含む層)を介して成膜され、Alを含む材料で構成された第2の電極層26、および、SiCNを含む材料で構成されたパッシベーション層28を有している。
【0028】
光電変換素子10を構成する第1の電極層20は、透明導電体電極(Transparent Conductive Oxide(TCO)層)であり、ここでは、1μmの膜厚を有するZnO層によって形成されている(少なくともn型半導体層が接触する部分はn型のZnOを含む)。この第1の電極層20(ZnO層)はGaがドープされたn型ZnO層である。また、第1の電極層20を構成するn型ZnO層には、所定の間隔毎に絶縁層201(ここでは、SiCNを含む材料)が設けられ、セル単位に区画、区分されている。
【0029】
当該第1の電極層20上には、発電積層体22の一部を構成するn型a−Si層221が設けられ、n型a−Si層221は第1の電極層20を構成する透明電極と接触している。図示されたn型a−Si層221は10nmの膜厚を有している。n型a−Si層221上には、発電積層体22を形成するi型a−Si層222及びp型a−Si層223が順次形成されている。図示されたi型a−Si層222及びp型a−Si層223の膜厚はそれぞれ480nm及び10nmの膜厚を有している。
【0030】
この例では、発電積層体22を構成するn型a−Si層221、i型a−Si層222、及びp型a−Si層223には、第1の電極層20の絶縁層201の位置とは異なる位置に、ビアホール224が設けられており、当該ビアホール224の内壁にはSiO層224aが形成されている。
【0031】
nip構造の発電積層体22は全体で500nmの厚さを有しており、単結晶または多結晶シリコンによって形成された光電変換素子に比較して、100分の1以下の厚さを有している。
【0032】
次に、p型a−Si層223上には、ニッケル層24を介して第2の電極層26が形成されている(第2の電極層26のうち少なくともp型a−Si層223が接触する部分にニッケル層24が形成されている)。
【0033】
第2の電極層26は発電積層体22のビアホール224(内壁はSiO層224aで絶縁されている)内にも形成されている。ビアホール224内の第2の電極層26は、隣接する光電変換素子の第1の電極層20と電気的に接続されている。
【0034】
さらに、第2の電極層26上にはSiCNで構成されたパッシベーション層28が形成されている。パッシベーション層28を形成する絶縁材料(ここでは、SiCN)は、第2の電極層26、ニッケル層24、p型a−Si層223、を経てi型a−Si層222に達する穴225内にも埋設されている。パッシベーション層28上には、熱伝導性の良い材料によって形成された接着剤層29を介してヒートシンク30(例えばAlを含む材料によって形成)が取り付けられている。
【0035】
なお、第1の電極層20を形成するnZnO層は、Gaの代わりにAl、In等をドープすることによっても形成することができる。
【0036】
ここで、パッシベーション層28の構成材料であるSiCNは、例えばSiO等の他のパッシベーション層と比べて熱伝導性に優れているという特徴がある。従来パッシベーション層に用いられているSiOでは熱伝導率が1.4W/m/ケルビンであるのに対して、SiCNは70W/m/ケルビンと圧倒的に大きく、高熱伝導率接着剤層29(本実施例では、熱伝導率の良いプラスチックにカーボンナノチューブを混合することによって、25W/m/ケルビンという高熱伝導率を有する)を介して熱をヒートシンク30に効率よく伝えることができ、太陽電池の熱が上がって発電効率が落ちるのを防ぐことができる。
【0037】
また、SiCNは、例えばSiO等の他のパッシベーション層と比べて、水素を通しにくいため、発電積層体22を構成するシリコン(通常、水素終端されている)から水素が脱落して太陽電池の特性が劣化するのを防止できる。特にa−Si膜を使った場合、a−Si層表面のダングリングボンドを終端する水素は300℃程度で脱落するため、水素の放出を抑制できるSiCNの効果は大きい。
【0038】
さらに、SiCNは後述するように、成膜条件を調整することにより、内部応力を実質的に0にすることができるため、パッシベーション層に起因するはがれや、素子への熱応力による電気的特性の劣化を防ぐことができる。
【0039】
光電変換素子10は、当該光電変換素子10のセル単体で約20%のエネルギ変換効率が得られた。また、これら光電変換素子10を接続して1.15m×1.40mの太陽電池モジュールを構成した場合、307Wの電力が得られ、モジュールにおけるエネルギ変換効率は18.9%であった。
【0040】
以下、図2A〜図2Hを参照して、図1に示された光電変換素子10及び光電変換部材1の製造方法について説明する。この例では、本発明者等が先に出願した特願2008−153379号明細書によって提案したMSEP(Metal Surface-wave Excited Plasma)型プラズマ処理装置(下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えたものおよび備えないもののいずれか)を第1〜第8のプラズマ処理装置として使用し、これらのプラズマ処理装置をクラスター型に配置したシステムを用いた場合について説明する。
【0041】
図2Aに示すように、まず、ソーダガラスによって形成されたガラス基板14上に、5Torr程度の低圧雰囲気で厚さ0.2μmのナトリウムバリア層16を形成する。
【0042】
次に、図2Bに示すように、ナトリウムバリア層16が形成されたガラス基板14を、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第1のプラズマ処理装置に導き、第1の電極層20として厚さ1μmの透明電極(TCO層)を形成する。第1のプラズマ処理装置では、Gaをドープすることによってn型ZnO層を形成している。Gaドープのn型ZnO層は、第1のプラズマ処理装置において、上段ガスノズルからKrおよびO2の混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからAr、Zn(CHおよびGa(CHの混合ガスを、Kr及び酸素を含む雰囲気で生成されたプラズマ中に噴出させることによって、ナトリウムバリア層16上に、n型ZnO層をプラズマCVD成膜した。
【0043】
続いて、n型ZnO層(第1の電極層20)上に、ホトレジストを塗布した後、ホトリソグラフィ技術を用いて、ホトレジストをパターニングする。ホトレジストをパターニングした後、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第2のプラズマ処理装置に導く。第2のプラズマ処理装置では、パターニングされたホトレジストをマスクとしてn型ZnO層を選択的にエッチングし、図2Cに示すように、第1の電極層20を構成するn型ZnO層にナトリウムバリア層16に達する開口部を形成する。第2のプラズマ処理装置におけるエッチングは、チャンバーに上段ガスノズルからArガスを供給して、そのAr雰囲気で生成されたプラズマ中に、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからAr,Cl,HBrの混合ガスをチャンバーに供給することによって行った。
【0044】
開口部を有するn型ZnO層及び当該n型ZnO層上にホトレジストを塗布した状態のガラス基板14は下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えない第3のプラズマ処理装置に輸送され、第3のプラズマ処理装置において、Kr/Oプラズマ雰囲気でホトレジストをアッシング除去した。
【0045】
ホトレジスト除去後、開口部を形成されたn型ZnO層(第1の電極層20)を被着したガラス基板14は下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第4のプラズマ処理装置に導入される。第4のプラズマ処理装置では、まず、開口部内及びn型ZnO層(第1の電極層20)の表面に、SiCNが絶縁層201としてプラズマCVDにより形成された後、n型ZnO層(第1の電極層20)表面のSiCNが同じ第4のプラズマ処理装置内でエッチング除去される。この結果、nZnO層(第1の電極層20)の開口部内にのみ絶縁層201が埋設される。第4のプラズマ処理装置内でのSiCNの成膜は、上段ガスノズルからXeおよびNHガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからAr、SiH,SiH(CHの混合ガスをチャンバーに導入してCVD成膜することによって行い、次いで同じチャンバーにて導入ガスを切り替えて、上段ガスノズルからはArガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからはArとCFの混合ガスをチャンバーに導入してn型ZnO層(第1の電極層20)表面のSiCNをエッチング除去する。
【0046】
続いて、同じ第4のプラズマ処理装置内で、導入ガスを順次切り替えることによって、nip構造を有する発電積層体22およびニッケル層24が連続CVDにより形成される。図2Dに示すように、第4のプラズマ処理装置内では、n型a−Si層221、i型a−Si層222、p型a−Si層223、及びニッケル層24が順次成膜される。具体的に説明すると、第4のプラズマ処理装置で、上段ガスノズルからはArおよびHの混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからはAr、SiH、およびPHの混合ガスをチャンバーに導入してn型a−Si層221をプラズマCVD成膜し、次に、上段ガスノズルからは続けてArおよびHの混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからのガスをAr,SiH,PHガスからArSiHガスに切り替えて導入することによって、i型a−Si層222を成膜し、さらに、上段ガスノズルからは続けてArおよびHの混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからのガスをAr,SiHガスからArSiHガスに置換することによって、p型a−Si層223を成膜し、次に、上段ガスノズルからは続けてArおよびHの混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからのガスをAr,SiH,Bガスから、ArとNiを含むガスの混合ガスに置換することによって、ニッケル層24をCVD成膜する。このように同一のMSEP型プラズマ処理装置において、導入ガスを順次切り替えることによって、6層の成膜・エッチングが行われるので、欠陥の少ない優れた膜を形成することが出来、同時に製造コストを大幅に引き下げることが可能となった。
【0047】
ニッケル層24及び発電積層体22を搭載したガラス基板14は第4のプラズマ処理装置からホトレジストコーター(スリット・コーター)に導かれ、ホトレジストが塗布された後、ホトリソグラフィ技術によってホトレジストにパターニングが施される。
【0048】
ホトレジストのパターニング後、ニッケル層24及び発電積層体22を搭載したガラス基板14は、パターニングされたホトレジストと共に、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第5のプラズマ処理装置に導かれる。第5のプラズマ処理装置では、ホトレジストをマスクとしてニッケル層24及び発電積層体22が選択的にエッチングされ、図2Eに示すように、第1の電極層20に達するビアホール224が形成される。即ち、第5のプラズマ処理装置では、4層が連続的にエッチングされる。
【0049】
具体的に説明すると、ニッケル層24のエッチングは上段ガスノズルからArおよびHの混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからプラズマ内に、Ar,CHの混合ガスを噴出させることによって行われ、引き続いて、上段ガスノズルからは続けてArをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからはArHBrガスを噴出させることによって、nipの3層からなる発電積層体22のエッチングを行う。
【0050】
第5のプラズマ処理装置内におけるエッチングによって、ニッケル層24からn型ZnO層(第1の電極層20)までを貫通して第1の電極層20に達するビアホール224が形成されたガラス基板14は、第5のプラズマ処理装置から前述の下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えない第3のプラズマ処理装置に移動され、上段ガスノズルからチャンバーに導入されたKr/Oガスの雰囲気で生成されたプラズマ内でホトレジストがアッシング除去される。
【0051】
ホトレジスト除去後のガラス基板14は下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第6のプラズマ処理装置に移され、図2Fに示すように、ニッケル層24上に第2の電極層26として、1μmの厚さを有するAl層が成膜される。Al層はビアホール224内にも成膜される。このAl層の成膜は、上段ガスノズルからArおよびHの混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートから、Ar/H雰囲気で生成されたプラズマ中にArAl(CHガスを噴出させることによって行われる。
【0052】
続いて、第2の電極層26のAl層上に、ホトレジストが塗布された後、パターニングされ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第7のプラズマ処理装置内に導かれる。
【0053】
第7のプラズマ処理装置では、上段ガスノズルからArガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートから、Ar雰囲気で生成されたプラズマ内に、ArClガスを噴出させることによって、Al層のエッチングが行われ、続いて、上段ガスノズルからArおよびHの混合ガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートから、Ar/H雰囲気で生成されたプラズマ内に、ArCHガスを導入することによってニッケル層24のエッチングが行われ、次いで上段ガスノズルからArガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させつつ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからのガスをArHBrガスに切り替えて、p型a−Si層223と、i型a−Si層222の途中までとをエッチングする。この結果、図2Gに示すように、Al層(第2の電極層26)表面からi型a−Si層222の途中までに達する穴225が形成される。この工程も、同一のMSEP型プラズマ処理装置を用い、ガスを順次切り替えることによって4層連続エッチングが行われ、処理時間とコストの大幅低減がなされる。
【0054】
次いで、図2Gに示す素子を搭載したガラス基板14は前述の下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えない第3のプラズマ処理装置に移動され、上段ガスノズルからチャンバーに導入されたKr/Oガスの雰囲気で生成されたプラズマによってホトレジストがアッシング除去される。
【0055】
ホトレジストを除去されたAl層を第2の電極層26として含むガラス基板14は下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートを備えた第8のプラズマ処理装置に導入され、SiCN膜をCVDによって形成することによって、Al層(第2の電極層26)上および穴225内にパッシベーション層28が成膜され、図2Hに示すように、所望の光電変換素子10が完成する。SiCNの成膜は、上段ガスノズルからXeおよびNHガスをチャンバーに供給してプラズマを発生させ、下段ガスノズルまたは下段ガスシャワープレートからAr,SiH,SiH(CHガスを噴出させることによって行われる。
【0056】
ここで、SiCN膜の内部応力は、図3に示すように、例えばSiH(CHガスの濃度を調節することにより(すなわち、膜中のC含有量を調節することにより)、実質的に0にすることが可能である。ここで、SiCNの組成としては、窒化珪素SiにCを10%弱含有(添加)させたものが最もよいが、2%〜40%添加させてもよい。
【0057】
さらに、ガードガラス12上にガラス基板14を固定し、パッシベーション層28上に先に述べた接着剤層29を介してヒートシンク30を取り付けることにより、光電変換部材1が完成する。
【0058】
このように、本実施形態によれば、光電変換部材1は、ヒートシンク30側の第2の電極層26上に、SiCNを含む材料で構成されたパッシベーション層28を設けている。
【0059】
即ち、光電変換部材1は放熱機構を設けた構造に適したパッシベーション層を有しており、より発電効率の向上や耐候性に寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上に述べた実施形態では、nip構造の発電積層体22の全てをa−Si層によって形成する場合についてのみ説明したが、i型a−Si層は、結晶シリコン又は微結晶非晶質シリコンによって形成されても良いし、単結晶Si層によって形成されてもよい。また、もう1つまたはそれ以上の発電積層体を発電積層体22上に堆積しても良い。
【符号の説明】
【0061】
1 光電変換部材
10 光電変換素子
12 ガードガラス
14 ガラス基板
16 ナトリウムバリア層
20 第1の電極層(n型ZnO層)
22 発電積層体
100 基体
221 n型a−Si層
222 i型a−Si層
223 p型a−Si層
24 ニッケル層(Ni層)
26 第2の電極層(Al層)
28 パッシベーション層(SiCN層)
201 絶縁層(SiCN層)
224 ビアホール
224a SiO
30 ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光のエネルギを電気エネルギに変換する光電変換素子と、
前記光電変換素子に設けられた放熱部と、
を有し、
前記光電変換素子は、
前記放熱部と接触する部分に設けられ、SiCNを含む材料で構成されたパッシベーション層を有することを特徴とする光電変換部材。
【請求項2】
前記光電変換素子は、第1の電極層と、第2の電極層と、前記第1および第2の電極層の間に設けられた1つまたは複数の発電積層体とを含み、
前記発電積層体は、p型半導体層と、当該p型半導体層に接触して形成されたi型半導体層と、前記i型半導体層に接触して形成されたn型半導体層とを含み、
前記パッシベーション層は前記第2の電極層に設けられていることを特徴とする請求項1記載の光電変換部材。
【請求項3】
前記第1の電極層は透明電極であることを特徴とする請求項2記載の光電変換部材。
【請求項4】
前記発電積層体の前記i型半導体層は、結晶シリコン、微結晶非晶質シリコン、及び、非晶質シリコンのいずれかによって形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光電変換部材。
【請求項5】
前記第1の電極層は前記n型半導体層が接触する部分がn型のZnOを含み、前記第1の電極層に接触する前記n型半導体層は非晶質シリコンによって形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光電変換部材。
【請求項6】
前記第2の電極層に接触する前記p型半導体層は非晶質シリコンによって形成されており、前記第2の電極層のうち少なくとも前記p型半導体層が接触する部分には、ニッケル(Ni)を含む層が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光電変換部材。
【請求項7】
前記放熱部は、Alを含む材料で構成されたヒートシンクであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光電変換部材。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図2H】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−102244(P2013−102244A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−43730(P2013−43730)
【出願日】平成25年3月6日(2013.3.6)
【分割の表示】特願2009−179181(P2009−179181)の分割
【原出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】