説明

光電気化学測定用電極

【課題】
光化学エネルギ−変換利用などを目的として色々な化合物の光電気化学特性を測定するためには、装置の準備に手間がかかり、外部照射用光源として100W〜5KW程度の強いエネルギ−のランプ(電力)を必要としたので、必要なエネルギ−やコストが大きく、初心者のみならず専門家にとっても測定が容易でなかった。これを容易に簡単に測定する手段を提供する。
【解決手段】
光電気化学測定を極端に簡便化かつ省エネ化するために、予め半導体などの作用極、対極、参照極、および超小型かつ超省エネ型の発光ダイオ−ド光源(LED)とその点灯用回路を1本の小型電極に全て設置し、この光電化学測定用電極1本だけで極めて簡単に光電気化学的測定を可能ならしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体または色素増感半導体を作用極、電導性材料から成る対極、及び参照極の合計3本の電極と、さらに光源として小型発光ダイオ−ドとその点灯回路を内蔵し、色々な基質の溶液や固体の光電気化学的特性を他の光源を使用することなしに該電極1本で測定できる光電気化学測定用電極に関係する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料燃焼による二酸化炭素の大量排出による地球温暖化と、それに起因すると考えられる異常気象、大洪水、永久凍土の消失、氷河の確実な溶解、海面上昇等の現象が世界各地で頻繁に、且つ、高頻度で発生するようになり、人類の生存環境は急速に悪化し、脅かされつつある。かかる深刻な全地球的規模の問題を早急に解決するために、新しいエネルギ−資源の創製や革新的な省エネルギ−技術が強く求められている。風力発電、太陽電池による太陽光発電、バイオマス利用などの再生可能な新エネルギ−資源、さらに、燃料電池を用いた省エネルギ−システムなどが、これらを解決すべき技術として期待され、普及しつつある。
【0003】
しかしながら、これら新エネルギ−システムは、実際に経済的に実施するためには、効率やコストなどの面でまだまだ多くの問題があり、現状では一層の基礎的な研究開発努力が強く求められている。そのための有力かつ重要な研究開発方法の一つとして、半導体や色素増感半導体を光電極として用いた光電気化学手法がある。これは、半導体や色素増感半導体による光化学エネルギ−変換を利用して太陽光エネルギ−から水素などの燃料やあるいは電力を得る方法である。実際にスイスのロ−ザンヌ工科大学のグレッツエル教授が発明した色素増感太陽電池は、シリコンなどの無機半導体太陽電池の次世代型太陽電池として注目されて多くの研究開発が行われており、またオ−ストラリアでは色素増感太陽電池が商品として販売されている。半導体の光電気化学的反応を利用して水と太陽光エネルギ−から水素燃料を生産する方法も注目されており、実用化を目指して世界的にも多くの研究開発が行われている。また本発明者らは、バイオマス・有機物の廃液や廃棄物を太陽光で完全分解浄化するとともに、それらが含有する膨大なエネルギ−を同時に電力に変換できるバイオ光化学電池を提案実証し研究開発を進めている(金子正夫、根本純一著、「バイオ光化学電池」、工業調査会(2008))(非特許文献1)。
【0004】
本発明者らはこのように、色々なバイオマスや無機・有機の化合物、およびそれらの廃棄物などの電子供与性化合物を燃料として用いることにより、それらの光分解浄化と同時に電力発生ができる光物理化学電池が、これまでの太陽電池及び燃料電池に代わる新しい省エネルギ−発電システムとして社会の使用に供することができるという着想を得、その基本的特許(特許文献1)は”光物理化学電池”として2006年3月9日に、出願人;茨城大学、発明者;金子正夫として、国際特許出願(PCT出願)した。しかしながら、この出願は光電池としての発明であり、それを実現するための装置は、反応容器(セル)と半導体光電極、酸素還元対極から成り、光電池として作動するもので、光電気化学的な基礎特性を測定することは不可能であった。
【0005】
本発明は、光化学エネルギ−変換の研究開発や、種々の化合物に光照射して光分解し効率よく光電流を発生させて生ずる電力を利用し、あるいは光電流を測定するための装置や素子としての光化学セルを開発するために是非とも必要な、光電気化学を測定するための強力かつ簡便な手段を提供することを目的とする。そのために、光に応答する性質を持つ半導体電極や色素増感電極を作用極、白金やグラファイトなどの電導体を対極、銀−塩化銀電極などを参照極として1本の複合電極として設置し、さらに光源として超小型かつ超省エネ型の発光ダイオ−ド(LED)とその点灯回路をこの複合電極内に組み込み、この光電気化学測定用電極のみを用いて、光照射下のサイクリックボルタモグラム(CV)などの光電気化学測定を可能ならしめることに成功した。
【0006】
本法に類似の測定装置として、「光電流を用いた被検物質の特異的検出方法、それに用いられる電極、測定用セル、および測定装置」(特許文献2)があるが、このセル構成は作用極と対極のみから成り、また得られる光電流のみにより被検物質の検出及び定量を行うものであり、光電気化学的特性の測定は不可能である。また、LEDを用いる例も請求項にあるが、該LEDやその点灯回路がセル内部に内蔵されているとの記載は一切なく、本発明とは全く異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】PCT/JP2006/305185
【特許文献2】特開2006−119111
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】金子正夫、根本純一著、「バイオ光化学電池」、工業調査会(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
光化学エネルギ−変換利用を目的として色々な化合物の光電気化学特性を測定するためには、これまでは半導体などの光を吸収する作用極と、電導体等の対極および参照極の3本を別々に反応セルに設置し、さらにキセノンランプや疑似太陽光などの外部照射用光源を用意して光照射する必要があったので、装置が極めて大掛かりで手間がかかり、かつ外部照射用光源として100W〜5KW程度の強いエネルギ−のランプ(電力)を必要としたので、測定に必要なエネルギ−やそのコストが馬鹿にならず、その分野の初心者のみならず専門家にとっても測定が容易でなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、光電気化学測定を極端に簡便化かつ省エネ化するために、予め半導体などの作用極、対極、参照極、および超小型かつ超省エネ型の発光ダイオ−ド光源(LED)を1本の小型電極に全て設置し、この光電化学測定用電極1本だけで極めて簡単に光電気化学的測定を可能ならしめるものである。
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)半導体電極を作用極、導電性材料を対極、それらに加えて銀−塩化銀などの参照極を有し、それらの電極は交換が自由にできるように設置され、光源として発光ダイオ−ドとその点灯用回路を併せ有することを特徴とする光電気化学測定用電極。
【0012】
(2)作用極として半導体に色素を吸着して可視光を吸収利用可能とした色素増感電極を用いる以外は、上記(1)と同じ構成を有する上記(1)に記載の光電気化学測定用電極。
【0013】
(3)作用極として超多孔質半導体薄膜を用いる以外は、上記(1)と同じ構成を有する上記(1)に記載の光電気化学測定用電極。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、種々のバイオマスや有機、無機化合物溶液の光電気化学特性を、特別な光源を用意することなく、容易にかつエネルギ−をあまり使用しない超省エネ型小型電極1本を使用することにより、安価な装置で極めて簡便かつ効率よく測定できる。その結果、太陽光から持続可能エネルギ−を創製するための研究開発を大幅に促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】光電気化学測定電極例の図である。a)イメ−ジ図、a’、b)下方から見たイメ−ジ図
【図2】実施例2におけるLED光照射時及び暗時におけるサイクリックボルタモグラム(CV)である。横軸は電位(対Ag−AgCl)、縦軸は電流値
【図3】実施例4におけるLED照射下における撹拌有り(1200rpm)及び無しのサイクリックボルタモグラム(CV)である。横軸は電位(対Ag−AgCl)、縦軸は電流値
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について補足説明すれば、以下のとおりである。
本光電気化学測定用電極の特徴は次のようにまとめられる。
(i)光電気化学反応を外部光源を用いることなくかつ簡便に測定するために、作用電極として半導体ないし色素増感半導体電極、および電導体から成る対極、銀−塩化銀などの参照極、および小型省エネ型の発光ダイオ−ド(LED)とその点灯回路を内蔵する光電気化学測定用電極。
【0017】
(ii)必要とする色々な照射光波長による光電気化学反応の測定を可能にするために、LEDは紫外光、可視光(中でも代表的には青色、緑色、赤色の光の3原色)、その他色々な波長の可視光、白色光、必要に応じては近赤外光LEDなどを点灯用回路と一緒に用いる。
【0018】
(iii)色々な光強度での測定が可能となるように、LEDに流す電流値は可変にする。
【0019】
(iv)目的に応じて色々な電極を自由に使用できるように、電極は簡単に交換できるようにする。
【0020】
図1は、本発明の光電気化学測定用電極構成イメ−ジの一例(a)で、下方から見た電極の相互配置関係例の図(a’、b)も示した。作用電極、対極、および参照電極は交換可能な差し込み型とし、LEDは液体が接触しないように保護管に収納してある。保護管は一部または全部が透明で、またUV−LEDを光源とする場合は一部または全部が紫外光が透過できる材料で作られる。紫外光が透過する材料は石英が好ましいが、高価なのでパイレックス(登録商標)ガラスでも十分である。LED点灯用回路も内蔵し、その回路は100V交流電源につないで用いる。電極の相互配置は色々とりうるが、作用極と対極間の液間抵抗が小さくなるように作用極と対極は近い位置に向かい合わせるのが好ましく、また参照極は作用極に近い位置が良いので、それを例として図1に合わせ示した。
【0021】
(作用極)
作用電極として使用可能なものは半導体または色素増感電極である。半導体としては結晶型あるいは超多孔質型の紫外域半導体電極、または(b)可視域半導体が挙げられる。さらに詳しく説明すると、(a)紫外域における超多孔質半導体電極としては、二酸化チタンが良好な結果を与えるが、その他、酸化亜鉛、二酸化スズ、酸化タングステン、炭化ケイ素などの超多孔質の紫外域半導体が用いられる。そのとき、結晶からなる半導体は表面が平らなため、光化学反応に有効に用いられる半導体表面はきわめて小さく、電流値が高くならない。光電気化学反応が起こる光アノ−ド/液相の接触面積を大きくするため、実効表面積が見かけの電極面積の数100倍から1000倍以上の超多孔質半導体材料を用いることが好ましい。
【0022】
また(b)可視域半導体としては、シリコン、ガリウムヒ素、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、リン化ガリウムなどを作用電極として用いることができる。
【0023】
半導体を超多孔質電極とするためには、例えば、半導体材料のナノ微粒子粉末を、透明電導性材料からなる基板上に塗布してから焼結し、超多孔質半導体膜とすることが好ましい。透明導電性基板材料としては、透明電導性ガラス(ITO等)、金属、金属薄膜、炭素など色々な材料を用いることができる。また、塗布後の焼結時の加熱により、当該基板である電導性ガラスは、その電導度が低下することが起こりうる。その場合は、フッ素ド−プの透明電導性材料(FTO)を用いることにより、電極電導度の低下を少なくすることができ、好ましい。
【0024】
色素増感作用電極とは可視光も利用できるように、可視光を吸収できる色素を電極上に吸着化学的に吸着し電極である。たとえば多孔質半導体薄膜電極にトリス(ビピリジン)ルテニウム錯体やその誘導体などを吸着すると、可視光に対して応答する光電極として用いることができる。
【0025】
(対極)
十分な電流を流すことができる材料なら、白金、炭素、多孔質炭素、グラファイト、あるいはこれらを任意の組成で混合・圧縮したもの、透明電導性ガラス、或いはこれらに白金微粒子を坦持した電極、白金黒電極など特に限定するものでなく、いずれも用いることができる。金属錯体などを電極上に修飾したりして用いることもできる。
【0026】
(内蔵光源:発光ダイオ−ド LED)
本発明では省エネ型の種々の発光ダイオ−ド(LED)を内部照射型光源として用いるところに特徴がある。これにより別の光源を準備することなく、本電極1本で簡単に光電気化学測定ができ、しかも光エネルギ−を無駄なく作用極に照射できる。光電気化学の色々な目的に対応できるように、LEDとしては紫外(UV)、可視部の色々な波長、特に単に白色光のみならず、青色、緑色、赤色の光の3原色、近赤外光、赤外光など、さまざまな波長の電磁波を発するダイオ−ドなどを内蔵できる。
【0027】
(電極、LEDの設置位置)
LEDは真横または真下に光が照射される位置・方向に設置し、作用極は照射方向に対して垂直に光を受けるように設置するのが一般的であるが、これに限定されるものではない。
【0028】
以下実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。これらの実施例は本光電気化学測定用電極が作用極の光電気化学特性を測定するのに極めて適していることを如実に示すものである。実施例でMとあるのはモル濃度(moldm-3)である。
【実施例1】
【0029】
二酸化チタン(P−25)の平均粒径が20nmのナノ粒子、アセチルアセトン、界面活性剤をよく混合し、よく練ってペ−ストを作り、これを電導性ガラス(FTO)上に塗布してから、100℃で焼成し、これを繰り返し、最後に450℃で30分焼成し、超多孔質膜(厚さ約10μm、面積1cm)を当該電導性ガラス上に形成させてn−型半導体電極とした。この作用極は実効界面が見かけ面積の約1000倍ある。これを作用極とし、白金黒を被覆した白金板(1cmx1cm)よりなる対極を用い、参照極としてはAg−AgCl電極を用いて、UV−LED(日亜化学工業 NCCU033)及びその点灯回路を内蔵した図1類似の構造を持つ光電気化学測定電極を作製した。
【実施例2】
【0030】
実施例1で作製した光電気化学測定電極を、1Mのアンモニアと0.1M Na2SO4を溶存する水溶液5ml中(pH14)に浸漬し、3種の電極を市販の電気化学測定装置に導線で接続して外部回路を形成し、 −1.1Vから+0.7V vs.Ag−AgClの電位範囲を20mVs−1の掃引速度で掃引してLED(電流15mA)照射下及び非照射下でサイクリックボルタモグラム(CV)を測定し、その結果を図2に示した。両者とも典型的な半導体電極の特性を示した。図2から明らかなように、LED非照射下では殆ど電流は生じなかったが、LED照射下では−0.8V近辺から明瞭な光電流が立ちあがり、本電極1本のみで、外部光源を用いたと同様な光電気化学的CVが測定できた。
【実施例3】
【0031】
実施例2において、LED電流値を50mAと高く設定し、他は実施例2と同様にLED照射下のCVを測定したところ、明瞭な光電流の立ち上がりが見られた。その光電流値は(1M濃度で約0.55mAcm−2)と実施例2の場合(約0.35mAcm−2)の約1.6倍で、LED光強度に対応した光電流が得られた。
【実施例4】
【0032】
実施例2において、LED(15mA)照射下のCVを、水溶液を電磁撹拌した時(1200rpm)としない時に測定して図3に示した。撹拌した条件では光電流の平衡値は少し低く、また半導体のフラットバンド電位(Efb)を近似的に表す、曲線がX−軸を切る電位(−0.7V vs、Ag− AgCl)は撹拌しない条件では−0.8Vと明らかに低く、撹拌条件が恐らく半導体表面の吸着状態に影響を与えて半導体の特性を変化させるということを明瞭に示す結果となった。
【実施例5】
【0033】
実施例4において、アンモニア濃度を300mMと減らしたほかは実施例2と同様に撹拌の有り・無しで光照射下のCVを測定した。平衡光電流値は例えばアンモニア1Mでは0.31mA、300mMでは0.28mAと、濃度を反映した値となった。
【実施例6】
【0034】
実施例1において、市販のペ−ストであるTi−ナノキサイド T/SPを用いてそのままスキ−ジ法でFTO上に塗布し、450℃で30分間焼結して厚さ約10μmのナノ超多孔質薄膜作用極を作製した。これを用いて実施例2と全く同様にCVで平衡光電流値を測定したところ、実施例2の光電流値の約半分であった。これから実施例1における二酸化チタン薄膜の方が、本実施例6より優れていることが明らかとなり、本光電気化学測定用電極により、簡便にかつ電力消費が極めて少ない条件で色々な光電気化学的実験事実を取得できる。
【符号の説明】
【0035】
1 作用極(FTO/TiO2)
2 対極(Pt/Pt−Black)
3 参照極(Ag−AgCl)
4 UV−LED


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体電極を作用極、導電性材料を対極、それらに加えて銀−塩化銀などの参照極を有し、それらの電極は交換を自由にできるように設置され、光源として発光ダイオ−ド(LED)とその点灯用回路を併せ有することを特徴とする光電気化学測定用電極。
【請求項2】
作用極として半導体に色素を吸着して可視光を吸収利用可能とした色素増感電極を用いる以外は、請求項1と同じ構成を有する請求項1に記載の光電気化学測定用電極。
【請求項3】
作用極として超多孔質半導体薄膜を用いる以外は、請求項1と同じ構成を有する請求項1に記載の光電気化学測定用電極。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−17545(P2011−17545A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160600(P2009−160600)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(507033613)株式会社バイオフォトケモニクス研究所 (5)