説明

光電流を用いた被検物質の特異的検出方法、それに用いられるセンサユニットおよび測定装置

【課題】増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において、センサユニットおよびその装置の構造や検出手順を大幅に簡素化し、高い精度で検出を行うことができる、被検物質の検出方法、センサユニットおよび装置の提供。
【解決手段】作用電極の表面に、被検物質を含む試料液および増感色素を接触させて、特異的結合を介して増感色素を作用電極に固定させる。続いて、試料液を除去することなく保持しながら、その場で電解質を供給して、作用電極と対電極とを前記電解質に接触させる。そして、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させて、作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電流を用いて、核酸、外因性内分泌撹乱物質、抗原等の特異的結合性を有する被検物質を特異的に検出する方法、それに用いられるセンサユニット、および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の疾病の病症および進度に対する予測を可能にするホルモン、タンパク質を簡便で安価に検出できる検査システムの考案が試みられている。また、ダイオキシンを始めとする外因性内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の生殖系および神経系等への障害が社会問題化しており、その簡便な検出方法が望まれている。
【0003】
例えば、増感色素を用いて光から電気エネルギーを発生させる太陽電池の原理を利用して、増感色素の光励起により生じる光電流を、披検物質(DNA、蛋白などの生体分子)の検出に利用する提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、および特許文献4参照)。この方法によれば光電流を用いて被検物質をある程度簡便に検出することができるが、さらなる簡便性および精度の向上が望まれている。
【0004】
また、免疫クロマト法の原理を利用し、ホルモン、蛋白質、酵素等のような分析物質を電気化学的に検出する方法が行われている(例えば、特許文献5、特許文献6、および特許文献7参照)。この方法によれば、簡単な装置構成を用いて被検物質をある程度簡便に検出することができるが、未結合の標識被検物質を吸収パッドの毛細管現象による試料液の流れにより分離除去しなければならないため被検物質の点着から検出までに時間を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−181777号公報
【特許文献2】特開2005−251426号公報
【特許文献3】特開2006−119111号公報
【特許文献4】特表2006−507491号公報
【特許文献5】特開2001−337065号公報
【特許文献6】特開平8−327582号公報
【特許文献7】特表2006−524815号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、今般、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において、与えられた被検物質を含む試料液を除去することなく保持しながらその場で電解質を供給することにより、センサユニットおよびその装置の構造や検出手順を大幅に簡素化しながら、高い精度で検出を行うことができるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明は、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において、センサユニットおよびその装置の構造や検出手順を大幅に簡素化し、高い精度で検出を行うことができる、被検物質の検出方法、センサユニットおよび装置を提供することを目的としている。
【0008】
そして、本発明によれば、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法であって、前記作用電極が、前記被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えてなり、該方法が、
前記作用電極の表面に、前記被検物質を含む試料液および前記増感色素を接触させて、前記特異的結合を介して前記増感色素を前記作用電極に固定させ、
前記試料液を除去することなく保持しながら、その場で電解質を供給して、前記作用電極と前記対電極とを前記電解質に接触させ、
前記作用電極に光を照射して前記増感色素を光励起させて、前記作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出する
工程を含んでなる、方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法に用いられるセンサユニットであって、
前記被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えてなり、前記被検物質を含む試料液および前記増感色素との接触により前記特異的結合を介して前記増感色素が固定されることができる作用電極と、
対電極と、
前記試料液を除去するための機構を有しない、前記試料液を前記作用電極および前記対電極の表面に保持するための試料液保持部材と
を備えてなる、センサユニットが提供される。
【0010】
さらに、本発明によれば、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法に用いられる測定装置であって、
上記センサユニットと、
前記作用電極に光を照射するための光源と、
光励起された増感色素から前記作用電極への電子移動に起因して前記作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出する電流計と
を備えてなる、測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一の態様によるセンサユニットを示す模式分解図である。
【図2】図1に示されるセンサユニットの特異的反応時における断面図である。
【図3】図1に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図4】本発明の第一の態様によるセンサユニットの変形例を示す模式分解図である。
【図5】図4に示されるセンサユニットの特異的反応時における断面図である。
【図6】図4に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図7】本発明の第二の態様によるセンサユニットを示す模式分解図である。
【図8】図7に示されるセンサユニットの特異的反応時における断面図である。
【図9】図7に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図10】本発明の第二の態様によるセンサユニットの変形例を示す模式分解図である。
【図11】図10に示されるセンサユニットの特異的反応時における断面図である。
【図12】図10に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図13】本発明の第三の態様によるセンサユニットを示す模式分解図である。
【図14】図13に示されるセンサユニットの特異的反応時における断面図である。
【図15】図13に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図16】本発明の第三の態様によるセンサユニットの変形例を示す模式分解図である。
【図17】図16に示されるセンサユニットの特異的反応時における断面図である。
【図18】図16に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図19】本発明の第四の態様によるセンサユニットを示す模式分解図である。
【図20】図19に示されるセンサユニットの特異的反応時における断面図である。
【図21】図19に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図22】本発明の第四の態様によるセンサユニットの変形例を示す模式分解図である。
【図23】図22に示されるセンサユニットの特異的反応時における断面図である。
【図24】図22に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図25】免疫アッセイ、特にサンドイッチ法における、被検物質である抗原および増感色素で標識された2次抗体のプローブ物質である1次抗体への固定化工程を示す模式図である。
【図26】競合的イムノアッセイにおける、被検物質である抗原および増感色素で標識された第二の被検物質である抗原のプローブ物質である抗体への固定化工程を示す模式図である。
【図27】レセプター結合アッセイにおける、被検物質であるリガンドの作用電極への固定化工程を示す模式図である。
【図28】オープンサンドイッチ法によるイムノアッセイにおける、被検物質である抗原の作用電極への固定化工程を示す模式図である。
【図29】本発明の一態様による電極ユニットを示す模式図である。
【図30】例1における電解質パッドを用いた光電流検出に使用した、本発明の一態様によるセンサユニットの模式分解図である。
【図31】例1における電解質溶液を用いた光電流検出に使用した、フローセル型測定用セルの模式分解図である。
【図32】例1において、浸漬型電解質パッド、復水型電解質パッド、および電解質溶液をそれぞれ用いて測定された光電流を示すグラフである。
【図33】例2において、反応パッドおよびスペーサをそれぞれ用いて測定された光電流を示すグラフである。
【図34】例3において、熱乾燥反応パッドおよび凍結乾燥反応パッドをそれぞれ用いて測定された光電流を示すグラフである。
【図35】例4において、反応溶液中に電解質が存在する場合とそうでない場合とについて測定された光電流を示すグラフである。
【図36】例5において、各種反応パッドを用いて測定された光電流を示すグラフである。
【図37】例6において、各種電解質溶液を用いて測定された光電流を示すグラフである。
【図38】例7において、各種試料液保持部材および各種電解質供給形態について測定された光電流を示すグラフである。
【図39】例8において測定された、テトラプロピルアンモニウムヨージドの濃度と光電流との関係を示すグラフである。
【図40】例8において各種電解質について測定された、ssDNA固定化量に依存した光電流の増加を示すグラフである。
【図41】例8において測定された、電解質含有パッド厚さと光電流との関係を示すグラフである。
【図42】例8において各種吸水性物質について測定された、ssDNA固定化量に依存して光電流の増加を示すグラフである。
【図43】例8において測定された、電解質含有パッドの含水率と光電流との関係を示すグラフである。
【図44】例9において使用した、本発明の一態様によるセンサユニットの模式分解図である。
【図45】図44に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図46】例9において測定された光電流を示すグラフである。
【図47】例10において使用した、本発明の一態様によるセンサユニットの模式分解図である。
【図48】図47に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図である。
【図49】例10において測定された光電流を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
検出方法、センサユニット、および測定装置
本発明による被検物質の特異的検出方法は、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を用いて行われるものであり、作用電極は、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えてなる。そして、本発明の方法にあっては、作用電極の表面に、被検物質を含む試料液および増感色素を接触させて、被検物質とプローブ物質との直接または間接的な特異的結合を介して増感色素を作用電極に固定させる。続いて、試料液を除去することなく保持しながら、その場で電解質を供給して、作用電極と対電極とを電解質に接触させる。そして、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させて、作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出する。また、このような本発明の検出方法に好適に用いることができる、本発明によるセンサユニットは、作用電極と、対電極と、試料液を除去するための機構を有しない、試料液を作用電極および対電極の表面に保持するための試料液保持部材とを備えてなる。なお、本発明のセンサユニットは本発明の方法への使用に限定されるものではなく、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法に広く用いられることができる。
【0013】
このように、本発明の方法およびセンサユニットにあっては、被検物質および増感色素を作用電極に固定させた後、試料液を除去することなく保持しながら、その場で電解質を供給して測定を行えることを特徴とする。従来法による被検物質の特異的検出方法にあっては、作用電極に被検物質および増感色素を固定させた後、後続の光電流測定前に、残存した未結合の被検物質および増感色素を含む試料液はいったん洗浄や流れにより除去されることが行われていた。これは、残存した未結合の被検物質または増感色素、あるいは塩、界面活性剤等の混在物質が被検物質の検出精度を低下させるのではないかとの一般的な認識が存在していたためと理解される。しかしながら、本発明者らは、残存した未結合の被検物質または増感色素、あるいは塩、界面活性剤等の混在物質を含む試料液を除去しない場合であっても、これらの残存物質に由来する光電流はほとんど検出されず、精度良い検出を行うことができるとの予想外の知見を得たのである。その結果、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において、センサユニットおよびその装置の構造や検出手順を大幅に簡素化し、高い精度で検出を行うことが可能となった。
【0014】
特に、上述したように光電流を用いて被検物質を特異的に検出する際、従来においては電解質溶液を満たしたセンサユニットを用いて行われていた。この場合には、センサユニット内への送液を行う送液機構の採用に伴う、送液による時間損失、装置の複雑化および大型化、液漏れ等の問題があったが、試料液の除去を伴わない本発明によればこれらの問題が低減される。また、本発明においては試料液の除去が不要であるため、従来の免疫クロマト法において標識検出物の分離除去のために時間を要するにもかかわらず用いられているクロマト用吸収パッドを不要として、センサユニットおよびその装置の構造や検出手順を大幅に簡素化できる。さらに、本発明の方法においては、被検物質および増感色素を作用電極に固定させた後に電解質を添加することで、被検物質とプローブ物質との特異的な反応が効率よく行われ、被検物質の検出精度を向上することができる。
【0015】
本発明の方法にあっては、まず、作用電極の表面に、被検物質を含む試料液および増感色素を接触させて、特異的結合を介して増感色素を作用電極に固定させる。作用電極としては、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えてなるものが用いられる。本発明に用いることができる、試料液、増感色素、作用電極、対電極、プローブ物質等については後述するものとする。
【0016】
続いて、試料液を除去することなく保持しながら、その場で電解質を供給して、作用電極と対電極とを電解質に接触させる。このように残存した未結合の被検物質または増感色素、あるいは塩、界面活性剤等の混在物質を含む試料液を除去しなくても、これらの残存物質に由来する光電流はほとんど検出されず、精度良い検出を行うことができる。その結果、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において、センサユニットおよびその装置の構造や検出手順を大幅に簡素化し、高い精度で検出を行うことができる。したがって、本発明に用いられる試料液保持部材は、試料液を除去するための機構を有しないものである限り、試料液を作用電極および対電極の表面に保持することができるいかなる部材も使用可能である。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極の表面と試料液との接触は、試料液を作用電極の表面に保持するための開口部を有するスペーサを介して行われることができる。すなわち、試料液保持部材が、試料液で満たされることができる開口部を有するスペーサであることができる。本発明に用いるスペーサは、被検物質および増感色素が含まれる試料液を作用電極上に添加するために用いられるものであるため、作用電極および対電極を電気的に接続することがないようにゴムまたは他の合成樹脂などの絶縁性の材料で構成されるのが好ましい。用いる絶縁性の材料の例としてはニトリルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、セロファンなどが挙げられる。また、本発明に用いるスペーサは、上述した絶縁性の材料からなるシートを形成したものが好適に利用できる。被検物質を含む試料液をスペーサの開口部に添加することで、被検物質とプローブ物質との特異的な結合をスペーサの開口部内で行うことができる。
【0018】
本発明の別の好ましい態様によれば、作用電極の表面と試料液との接触は、試料液が作用電極の表面に保持されるための吸水性の反応パッドを介して行われることができる。すなわち、試料液保持部材が、試料液で含浸されることができる吸水性の反応パッドであることができる。本発明に用いる反応パッドは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において被検物質および増感色素の媒体として用いられる。被検物質を含む試料液を反応パッドに含浸させることで、被検物質とプローブ物質との特異的な結合を反応パッド上で行うことができる。反応パッドの採用により液漏れ等の問題を生じることなく試料液の取り扱いが容易になるので、センサユニットおよびその装置の構造や検出手順の簡素化を効果的に実現できる。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、電解質の供給は、電解質溶液の添加により行うことができる。電解質溶液は、酸化された状態の増感色素に電子を供給しうる塩からなる電解質と、非プロトン性溶媒およびプロトン性溶媒から選択される少なくとも一種の溶媒とを含んでなるのが好ましい。
【0020】
本発明の別の好ましい態様によれば、電解質の供給は、予め電解質を含浸させた吸水性の電解質パッドを試料液に接触させて、電解質を試料液中に拡散させることにより行うことができる。すなわち、本発明にあっては、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において、電解質溶液の代わりに電解質パッドを使用することができる。さらに、本発明の電解質パッドは電解質の媒体として用いられる。この電解質パッドは、試料液保持部材の試料液が保持されるべき領域の作用電極と反対側に離間して、特異的結合の形成後に試料液が保持されるべき領域と接触可能に設けられるのが好ましい。電解質パッドの採用により液漏れ等の問題を生じることなく電解質の供給が容易になるので、センサユニットおよびその装置の構造や検出手順の簡素化を効果的に実現できる。
【0021】
本発明に用いられる電解質は、電流検出時に、反応パッドまたは電解質パッド中を自由に移動して増感色素、作用電極、および対電極との間で電子の授受に関与できるものであれば限定されず、幅広い種類の電解質が使用可能である。好ましい電解質は、光照射により励起された色素に電子を供与するための還元剤(電子供与剤)として機能できる物質であり、そのような物質の例としては、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI)、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化アンモニウム(NHI)、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、ヒドロキノン、K[Fe(CN)]・3HO、フェロセン−1,1´−ジカルボン酸、フェロセンカルボン酸、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、トリエチルアミン、チオシアネートアンモニウム、ヒドラジン(N)、アセトアルデヒド(CHCHO)、N,N,N´,N´−テトラメチル−p−フェニレンジアミン二塩酸塩(TMPD)、L−アスコルビン酸、亜テルル酸ナトリウム(NaTeO)、塩化鉄(II)四水和物(FeCl・4HO)、EDTA、システイン、トリエタノールアミン、トリプロピルアミン、ヨウ素を含むヨウ化リチウム(I/LiI)、トリス(2−クロロエチル)リン酸塩(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトエタノールアミン、二酸化チオ尿素、(COOH)、HCHO、およびこれらの組合せが挙げられ、より好ましくは、NaI、KI、CaI、LiI、NHI、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、および亜硫酸ナトリウム(NaSO)、およびこれらの混合物であり、さらに好ましくは、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)である。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、光電流検出時の反応パッドおよび/または電解質パッドは、20%以上の含水率を有するのが好ましく、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。このような含水率であると、光電流を検出した際に高い光電流を検出することができ、検出感度が向上する。含水率は、(1mm 辺りの含水量)/(吸水性物質の密度)より求める。なお、ここで言う含水率は光電流を検出する際のパッドの含水率であって、電流検出以前には上記含水率を満たしていなくてもよい。
【0023】
本発明の反応パッドおよび/または電解質パッドの形態としては、作用電極および対電極との良好な密着性が確保されるように各電極との接触部分が平滑な平面とされているのが好ましい。したがって、これらのパッドを作用電極と対電極との間に挟持させて使用する場合には、密着性に影響しないように均一な厚みを有する形態とするのが好ましい。一方、作用電極および対電極が同一平面状にパターニングされてなる電極ユニットを使用する場合には、少なくとも電極ユニットと接触する片側面のみが平滑な平面とされていればよく、厚さや厚さの均一性は特段問題とならない。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、反応パッドおよび/または電解質パッドは0.01〜10mmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは0.1〜3mmの厚さを有する。
このような厚さであるとパッドを単独で取り扱うのに適した強度が得られやすいので、作用電極と対電極の間に容易に挟持したり、取り外したり、あるいは持ち運んだりすることができ、その結果、センサユニット構造および検出手順を大幅に簡素化できる。また、光電流測定に悪影響を与えることもない。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、反応パッドおよび/または電解質パッドは吸水性物質を含んでなる。吸水性物質の例としては、綿、麻、ウール、絹、セルロースなどの天然繊維;ろ紙、製紙などに用いられるパルプ繊維;レーヨンなどの再生繊維;ろ紙などに用いられるガラス繊維;フェルト、スポンジなどに用いられる合成繊維;これらの組み合わせが挙げられ、適度な強度、含水量、電極への密着性を示す吸水性物質であれば限定されない。なお、繊維の加工方法は特定の加工方法に限定されない。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、反応パッドおよび/または電解質パッドはシート状である。好ましい例としては、ろ紙、メンブレンフィルタ、ガラスフィルタ、ろ布などが挙げられ、より好ましくは、ろ紙およびメンブレンフィルタである。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、反応パッドと電解質パッドとの間に、電解質パッドから反応パッドへの電解質の拡散を遮断するための遮断フィルムを予め設けておき、電解質の供給時に遮断フィルムが除去される。本発明に用いる遮断フィルムは、被検物質および増感色素が含まれる試料溶液を作用電極に接した反応パッド上に添加した際に電解質パッドに試料溶液が染み込まないようにする目的で用いられる。遮断フィルムの材質は液が染み込まないような材質であれば特に限定されず、例としてポリエステル、ポリプロピレンなどが挙げられる。特に、本発明の方法においては、被検物質および増感色素を作用電極に固定させた後に電解質を添加することで、被検物質とプローブ物質との特異的な反応が効率よく行われ、被検物質の検出精度を向上することができるが、この遮断フィルムを用いた構成によれば、この電解質の後添加を効率的に実現することができる。
【0028】
以上説明したような、作用電極、対電極、試料液保持部材、ならびに存在する場合には電解質パッドを積層させることにより、センサユニットを構築することができる。そして、このようなセンサユニットにおいて、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させて、作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出する。ここで、作用電極および対電極は、少なくとも光の照射時に互いに対向して配置されてもよいし、あるいは絶縁基板等の同一平面上に配置されてもよく、その相対的な位置関係は特に限定されない。作用電極および対電極が互いに対向して配置される場合には、作用電極および対電極間に試料液保持部材および存在する場合には電解質パッドが挟持されてなるのが好ましい。一方、作用電極および対電極が同一平面上に配置される場合には、該平面に接触して試料液保持部材が配置されてなるのが好ましい。本発明の好ましい態様によれば、作用電極、対電極、試料液保持部材、ならびに所望により電解質パッドの積層体を挟持するための、押さえ部材および対向部材が互いに対向して設けられることができる。
【0029】
そして、上記センサユニットに、作用電極に光を照射するための光源と、光励起された増感色素から前記作用電極への電子移動に起因して前記作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出する電流計とをさらに設けることにより、本発明による測定装置が構築される。
【0030】
好ましい態様によるセンサユニットおよび測定装置
上述の通り、本発明のセンサユニットを用いることにより、構造が大幅に簡素化された安価でかつ小型のセンサユニットないし測定装置を構築することができる。これは、本発明のセンサユニットの使用により、作用電極と対電極との間に電解質溶液を充填して行われる従来法において必要とされていた、電解質溶液を送液する機構(例えばポンプ、バルブ、およびそれらの制御機構)、液漏れ防止機構(例えばパッキン)、および電解質溶液の廃液処理といった複雑な機構ないし工程が不要となり、また被検物質の特異的な結合を反応パッド上またはスペーサ内で行うことにより、非常に簡素なリアクター機構となるためである。以下、本発明のセンサユニットの好ましい態様について説明する。
【0031】
本発明の第一の態様によるセンサユニットは、作用電極、対電極、作用電極と対電極との間に挟持される反応パッド、および電解質パッドを備えてなる。そして、特異的反応時には作用電極と試料液を添加した反応パッドが接触し、電流検出時には反応パッドに電解質パッドが接触し、反応パッドに拡散した電解質が増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。すなわち、特異的反応時には作用電極が試料液を添加した反応パッドに接触し、特異的反応の工程が終了した後に電解質パッドを反応パッドに接触させ電流検出できる構成となっている。図1、図2および図3に、第一の態様によるセンサユニットの模式分解図、特異的反応時の断面図、および電流検出時の断面図をそれぞれ示す。図1に示されるセンサユニット10は、作用電極11、対電極12、反応パッド13、および電解質パッド14から基本的に構成され、作用電極11を支持する押さえ部材15をさらに備えてなる。センサユニット10の最上部には、押さえ部材15上に順に積層された、作用電極11、反応パッド13、電解質パッド14、および対電極12を互いに密着させるように下方に押さえる対向部材16が設けられる。特異的反応時には図2に示されるように作用電極11と試料液13aを添加した反応パッド13が接触し、反応パッド13と電解質パッド14は隔離されているが、電流検出時には図3のように反応パッド13と電解質パッド14が接触し、電解質パッド14中に含まれる電解質14aが増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。
【0032】
本発明のセンサユニットにあっては、各部品が積層される順序は図示例に限定されず、図1に示される順序と逆の順序で上下逆さとなるように積層されてもよく、この場合には、対電極を支持する対向部材と、対向部材上に順に積層された対電極、電解質パッド、反応パッド、および作用電極を互いに密着させるように下方に押さえる押さえ部材とが設けられる構成とすればよい。また、図示例では各部材が水平に配置されているが、各部材を立てた状態で配置してもよい。押さえ部材15には、光源17からの光励起のための光を通すための開口部または透光部をさらに備えてなるのが好ましい。
【0033】
第一の態様によるセンサユニットの変形例として、図4、図5および図6に、図1〜3のセンサユニットおいて作用電極11´および対電極12´が同一平面上にパターニングされてなる電極ユニットを用いたセンサユニット10´の模式分解図、特異的反応時の断面図、および電流検出時の断面図をそれぞれ示す。図4〜6に示されるセンサユニット10´にあっては、電極ユニット19と対向して対向部材16´が設けられ、電極ユニット19および対向部材16´の間に反応パッド13´および電解質パッド14´が挟持される。また、センサユニット10´は、電極ユニット19を支持する押さえ部材15´をさらに備える。すなわち、押さえ部材15´上に被検物質を固定化した側が上になるように電極ユニット19が配置される。特異的反応時には図5に示されるように電極ユニット19と試料液13´aを添加した反応パッド13´が接触し、反応パッド13´と電解質パッド14´は隔離されているが、電流検出時には図6に示されるように反応パッド13´と電解質パッド14´が接触し、電解質パッド14´中に含まれる電解質14´aが増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。なお、作用電極の電流計と接続するための接点は、図1〜3のセンサユニットにおいてはコンタクトプローブ18により、図4〜6のセンサユニットにおいてはコンタクトプローブ18´により確保するのが好ましく、対電極においても同様である。
【0034】
本発明の第二の態様によるセンサユニットは、作用電極、対電極、作用電極と対電極との間に挟持される反応パッド、遮断フィルム、および電解質パッドを備えてなる。そして、特異的反応時には作用電極と試料液を添加した反応パッドが接触し、電流検出時には遮断フィルムを取り除くことにより、反応パッドに電解質パッドが接触し、反応パッドに拡散した電解質が増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。すなわち、特異的反応時には作用電極が試料液を添加した反応パッドに接触し、特異的反応の工程が終了した後に遮断フィルムを取り除くことにより、電解質パッドを反応パッドに接触させ電流検出できる構成となっている。図7、図8および図9に第二の態様によるセンサユニットの模式分解図、特異的反応時の断面図、および電流検出時の断面図を示す。図7に示されるセンサユニット20は、作用電極21、対電極22、反応パッド23、遮断フィルム9、および電解質パッド24から基本的に構成され、作用電極21を支持する押さえ部材25をさらに備えてなる。センサユニット20の最上部には、押さえ部材25上に順に積層された、作用電極21、反応パッド23、遮断フィルム9、電解質パッド24、および対電極22を互いに密着させるように下方に押さえる対向部材26が設けられる。特異的反応時には図8に示されるように作用電極21と試料液23aを添加した反応パッド23が接触し、反応パッド23と電解質パッド24は遮断フィルム9により隔離されているが、電流検出時には図9に示されるように反応パッド23と電解質パッド24が遮断フィルム9を除去することにより接触し、電解質パッド24中に含まれる電解質24aが増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。
【0035】
本発明のセンサユニットにあっては、各部品が積層される順序は図示例に限定されず、図3に示される順序と逆の順序で上下逆さとなるように積層されてもよく、この場合には、対電極を支持する対向部材と、対向部材上に順に積層された、対電極、電解質パッド、遮断フィルム、反応パッド、および作用電極を互いに密着させるように押さえる押さえ部材とが設けられる構成とすればよい。また、図示例では各部材が水平に配置されているが、各部材を立てた状態で配置してもよい。押さえ部材25には、光源27からの光励起のための光を通すための開口部または透光部をさらに備えてなるのが好ましい。
【0036】
第二の態様によるセンサユニットの変形例として、図10、図11および図12に、図7〜9のセンサユニットおいて作用電極21´および対電極22´が同一平面上にパターニングされてなる電極ユニットを用いた際のセンサユニット10´の模式分解図、特異的反応時の断面図、電流検出時の断面図をそれぞれ示す。図10に示されるセンサユニット20´にあっては、電極ユニット29と対向して対向部材26´が設けられ、電極ユニット29および対向部材26´の間に反応パッド23´、遮断フィルム9´、および電解質パッド24´が挟持される。また、センサユニット20´は、電極ユニット29を支持する押さえ部材25´を備える。すなわち、押さえ部材25´上に被検物質を固定化した側が上になるように電極ユニット29が配置される。特異的反応時には図11に示されるように電極ユニット29と試料液23´aを添加した反応パッド23´が接触し、反応パッド23´と電解質パッド24´は遮断フィルム9´により隔離されているが、電流検出時には図12に示されるように反応パッド23´と電解質パッド24´が遮断フィルム9´を除去することにより接触し、電解質パッド24´中に含まれる電解質24´aが増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。なお、作用電極の電流計と接続するための接点は、図7〜9のセンサユニットにおいてはコンタクトプローブ28により、図10〜12のセンサユニットにおいてはコンタクトプローブ28´により確保するのが好ましく、対電極においても同様である。
【0037】
本発明の第三の態様によるセンサユニットは、作用電極、対電極、作用電極と対電極との間に挟持されるスペーサ、および電解質パッドを備えてなる。そして、特異的反応時には作用電極と接触したスペーサの開口部内に試料液が存在し、電流検出時にはスペーサ内の試料液が電解質パッドに染み込む。さらに電解質パッドが作用電極および対電極と接触し、電解質が増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。すなわち、特異的反応時には作用電極がスペーサ内の試料液に接触し、特異的反応の工程が終了した後に電解質パッドをスペーサ内の試料液に接触させ電流検出できる構成となっている。図13、図14および図15に、第三の態様によるセンサユニットの模式分解図、特異的反応時の断面図、および電流検出時の断面図を示す。図13に示されるセンサユニット30は、作用電極31、対電極32、スペーサ33、および電解質パッド34から基本的に構成され、作用電極31を支持する押さえ部材35をさらに備えてなる。センサユニット30の最上部には、押さえ部材35上に順に積層された作用電極31、スペーサ33、電解質パッド34、および対電極32を互いに密着させるように下方に押さえる対向部材36が設けられる。特異的反応時には図14に示されるように作用電極31とスペーサ33内の試料液33aが接触し、スペーサ33内の試料液33aと電解質パッド34は隔離されているが、電流検出時には図15に示されるようにスペーサ33内の試料液33aが電解質パッド34に染み込み、さらに電解質パッド34が作用電極31および対電極32と接触し、電解質パッド34中に含まれる電解質34aが増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。
【0038】
第三の態様によるセンサユニットの変形例として、図16、図17および図18に、図5のセンサユニットおいて、作用電極31´と対電極32´が同一平面上にパターニングされてなる電極ユニットを用いたセンサユニット30´の模式分解図、特異的反応時の断面図、および電流検出時の断面図をそれぞれ示す。図16〜18に示されるセンサユニット30´は、電極ユニット39と対向して対向部材36´が設けられ、電極ユニット39および対向部材35´の間にスペーサ33´および電解質パッド34´が挟持される。また、センサユニット30´は、電極ユニット39を支持する押さえ部材35´をさらに備える。すなわち、押さえ部材35´上に被検物質を固定化した側が上になるように電極ユニット39が配置される。特異的反応時には図17に示されるように電極ユニット39とスペーサ33´内の試料液33´aとが接触し、スペーサ33内の試料液33´aと電解質パッド34´は隔離されているが、電流検出時には図6に示されるようにスペーサ33´内の試料液33´aと電解質パッド34´が接触し、電解質パッド34´中に含まれる電解質34´aが増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。なお、作用電極の電流計と接続するための接点は、図13〜15のセンサユニットにおいてはコンタクトプローブ38により、図16〜18のセンサユニットにおいてはコンタクトプローブ38´により確保するのが好ましく、対電極においても同様である。
【0039】
本発明の第四の態様によるセンサユニットは、作用電極、対電極、および作用電極と対電極との間に挟持される反応パッドを備えてなる。そして、特異的反応時には作用電極と試料液を添加した反応パッドが接触し、電流検出時には反応パッドに電解質溶液を添加し、電解質が増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。すなわち、特異的反応時には作用電極が試料液を添加した反応パッドに接触し、特異的反応の工程が終了した後に電解質溶液を反応パッドに添加させ電流検出できる構成となっている。図19、図20および図21に第四の態様によるセンサユニットの模式分解図、特異的反応時の断面図、および電流検出時の断面図をそれぞれ示す。図19に示されるセンサユニット40は、作用電極41、対電極42、および反応パッド43から基本的に構成され、作用電極41を支持する押さえ部材45をさらに備えてなる。センサユニット40の最上部には、押さえ部材45上に順に積層された作用電極41、反応パッド43、および対電極42を互いに密着させるように下方に押さえる対向部材46が設けられる。特異的反応時には図20に示されるように作用電極41と試料液43aを添加した反応パッド43が接触するが、電流検出時には図21に示されるように電解質溶液44が反応パッド43に添加され、電解質溶液中に含まれる電解質が増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。
【0040】
本発明のセンサユニットにあっては、各部品が積層される順序は図示例に限定されず、図7に示される順序と逆の順序で上下逆さとなるように積層されてもよく、この場合には、対電極を支持する対向部材と、対向部材上に順に積層された対電極、反応パッド、および作用電極を互いに密着させるように下方に押さえる押さえ部材とが設けられる構成とすればよい。また、図示例では各部材が水平に配置されているが、各部材を立てた状態で配置してもよい。押さえ部材45には、光源47からの光励起のための光を通すための開口部または透光部をさらに備えてなるのが好ましい。
【0041】
第四の態様によるセンサユニットの変形例として、図22、図23および図24に、図7のセンサユニットおいて、作用電極41´と対電極42´が同一平面上にパターニングされてなる電極ユニットを用いたセンサユニット40´の模式分解図、特異的反応時の断面図、および電流検出時の断面図をそれぞれ示す。図22〜24に示されるセンサユニット40´にあっては、電極ユニット49と対向して対向部材46´が設けられ、電極ユニット49および対向部材45´の間に反応パッド43´が挟持される。また、センサユニット40´は、電極ユニット49を支持する押さえ部材45´をさらに備える。すなわち、押さえ部材45´上に被検物質を固定化した側が上になるように電極ユニット49が配置される。特異的反応時には図23に示されるように電極ユニット49と試料液43´aを添加した反応パッド43´が接触し、電流検出時には図24に示されるように電解質溶液44´を反応パッド43´に添加し、電解質溶液44´中に含まれる電解質が増感色素、作用電極および対電極の間で電子の授受に関与する。なお、作用電極の電流計と接続するための接点は、図19〜21のセンサユニットにおいてはコンタクトプローブ48により、図22〜24のセンサユニットにおいてはコンタクトプローブ48´により確保するのが好ましく、対電極においても同様である。
【0042】
第一から第四の態様のいずれにおいても、センサユニット10、10´、20、20´、30、30´、40、40´には、作用電極に光を照射するための光源17、17´、27、27´、37、37´、47、47´と、作用電極と対電極との間を流れる電流を測定する電流計(図示せず)とがさらに設けられ、測定装置として構築されることができる。電流計はnAレベルの検出可能なものが好ましい。このような構成において、光源からの光は作用電極の表面に照射される。なお、図1〜22に示されるセンサユニット10、10´、20、20´、30、30´、40、40´において、光源17、17´、27、27´、37、37´、47、47´からの光は作用電極11、21,31,41または電極ユニット19、29、39,49の裏側より照射され、透明な作用電極11、21,31,41または電極ユニット19、29、39,49を透過して作用電極11、21,31,41または電極ユニット19、29、39,49の表面に到達する。こうして作用電極に到達した光による増感色素の光励起により発生する光電流値は電流計で検出されることができる。作用電極および対極を電流計に接続する手段は限定されるものではなく、例えば、リード線を直接接続する、あるいは図示例のようにコンタクトプローブ18、18´、28、28´、38、38´、48、48´を介して接続することなどの手段を採用することができる。特に、測定毎に着脱する作用電極については、コンタクトプローブを用いることで作用電極の着脱が容易になるという利点がある。
【0043】
本発明の好ましい態様によれば、複数のセンサユニットを組み合わせた測定装置を作製することも可能である。その場合、センサユニットには光源があらかじめ複数個設けられてなり、かつ、測定装置が、該複数個の光源を切り換えて照射する機構をさらに備えてなることができる。
【0044】
さらに本発明の好ましい態様によれば、複数のセンサユニットを組み合わせた測定装置にはXY移動機構(図示せず)が取り付けられ、光源およびセンサユニットをXY方向に相対的に移動させて、光源が作用電極上をXY方向に走査移動しながら照射できるように構成されるのが好ましい。これにより、複数のセンサユニット上の被検物質固定化スポットに光を照射することができる。特に、本発明のセンサユニットでは電解質溶液の送液が不要なため構造が簡素化されたため、センサユニット自体のXY移動も容易に行うことができる。この場合、XY移動機構はコンピュータや装置に組み込まれるソフトウェアによって、移動速度、移動経路などを指定できるように構成されるのが好ましい。
【0045】
本発明の好ましい態様によれば、光照射に伴い発生する電流値が電流計で測定され、その結果がコンピュータや装置内のメモリに送られて、順次データ保存できるようにされるのが好ましい。このようにしてメモリ内に保存された光電流値は、数値もしくはリアルタイム表示の経時変化グラフとしてディスプレイに表示させることができる。得られたデータより、光非照射時と光照射時の電流値を適切なデータポイントより読み取り、その差を用いて、試料中の物質濃度定量を行うことができる。また、これらのデータの読み取りから定量までをもソフトウェア上で自動処理させることもできる。
【0046】
光電流を用いた被検物質の特異的検出
前述の通り、本発明の方法およびセンサユニットは増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるものである。この増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法について、以下に具体的に説明する。
【0047】
本発明の好ましい態様による光電流を用いた被検物質の特異的検出方法は、被検物質が直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えた作用電極を反応パッドまたはスペーサ等の試料液保持部材に接触させ、試料液保持部材に試料液を添加した後、プローブ物質との特異的結合により増感色素が固定されてなる作用電極に光を照射して増感色素を光励起させ、該光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極とパッドに接触した対電極との間に流れる光電流を検出することを含んでなる。
【0048】
この方法にあっては、まず、被検物質および溶媒を少なくとも含む試料液と、作用電極を用意する。ここで、溶媒は被検物質、増感色素、および電解質を溶解または分散可能な液体であって、水および/または水性溶媒であり、好ましくは水である。本発明に用いる作用電極は、被検物質と直接または間接的に特異的な結合が可能なプローブ物質を表面に備えた電極である。すなわち、プローブ物質は、被検物質と直接、特異的に結合する物質のみならず、被検物質を受容体蛋白質分子等の媒介物質に特異的に結合させて得られる結合体と特異的に結合可能な物質であってよい。次いで、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を作用電極に固定させる。増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、被検物質の特異的検出法がサンドイッチ法である場合、プローブ物質は1次抗体で、増感色素は2次抗体に標識されてなり、被検物質の特異的検出法がレセプター結合アッセイである場合、プローブ物質としてペプチド、タンパク質、DNAを用いて、増感色素はレセプタータンパク質に標識されてなり、被検物質の特異的検出法が競合法である場合、増感色素はプローブ物質に特異的に結合可能な第二の被検物質に標識される。なお、増感色素で標識された物質は試料液または反応パッドいずれに含まれてもよい。
【0049】
そして、作用電極を反応パッドまたはスペーサ等の試料液保持部材に接触させ、試料液保持部材に試料液を添加した後、プローブ物質との特異的結合により増感色素が固定されてなる作用電極に光を照射して増感色素を光励起させると、光励起された増感色素から電子受容物質へ電子移動が起こる。この電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出することにより、被検物質を高い感度および精度で検出することができる。また、この検出電流は試料液中の被検試料濃度との高い相関関係を有しているので、測定された電流量または電気量に基づき被検試料の定量測定を行うことができる。
【0050】
本発明に用いる電解質は特異的反応時には反応パッドまたはスペーサ等の試料液保持部材内の試料液中に存在しないことが望ましい。電解質が特異的反応時に存在すると、プローブ物質との特異的反応が生じにくくなり、検出感度の低下に繋がる。したがって、電解質は電流検出時にのみ反応パッドまたは電解質パッド内に存在することが望ましい。
【0051】
被検物質およびプローブ物質
本発明における被検物質としては、プローブ物質と特異的な結合性を有する物質であれば特に限定ない。本方法では、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を作用電極表面に担持させておくことにより、被検物質をプローブ物質に直接または間接的に特異的に結合させて検出することが可能となる。
【0052】
すなわち、本発明にあっては、被検物質およびプローブ物質として互いに特異的に結合可能なものを選択することができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、被検物質と特異的に結合する物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、作用電極上に被検物質を直接、特異的に結合させて検出することができる。被検物質を直接、特異的に結合させる態様の被検物質およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、抗原および抗体の組合せが挙げられる。一方で被検物質を間接的に特異的に結合可能にプローブ物質に結合させる態様の被検物質およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、以下に示すサンドイッチ法を採用した場合の例やレセプター結合アッセイを採用した場合が挙げられる。
【0053】
測定方法
本発明のセンサユニットを用いた測定方法にあっては、先ず、被検物質が直接または間接的に特異的に結合するプローブ物質を作用電極表面に固定させる。こうして被検物質と直接または間接的に特異的に結合するプローブ物質が固定化された作用電極を反応パッドまたはスペーサ等の試料液保持部材に接触させ、被検物質を含む試料液を点着後、直接的もしくは間接的な特異的結合により増感色素が作用電極に固定される。
【0054】
本発明の好ましい態様によれば、被検物質に抗原を用いて免疫アッセイ、特にサンドイッチ法、を採用することができる。この場合、1次抗体をプローブ物質とし、被検物質である抗原が1次抗体に特異的に結合後、増感色素で標識された2次抗体が前記抗原と特異的結合により作用電極に固定化される。この態様における被検物質である抗原および増感色素で標識された2次抗体のプローブ物質である1次抗体への固定化工程を図25に示す。図25に示されるように、増感色素120で標識された2次抗体121が、被検物質である抗原122存在下、抗体123に特異的に結合する。
【0055】
本発明の別の好ましい態様によれば、被検物質に抗原を用いて競合的イムノアッセイを採用することができる。この場合、抗体であるプローブ物質に対し、被検物質である抗原と、被検物質と同様の結合能を有し、かつ増感色素で標識された第二の被検物質である抗原を用いて、抗体であるプローブ物質に競合的に結合させ、増感色素が作用電極に固定化される。この態様における被検物質である抗原および増感色素で標識された第二の被検物質である抗原のプローブ物質である抗体への固定化工程を図26に示す。図26に示されるように、増感色素で標識された第二の被検物質である抗原141と、色素標識されていない被検物質である抗原142とが競合して抗体143に特異的に結合する。
【0056】
本発明にあっては、被検物質とプローブ物質がの特異的結合が間接的なものであってもよく、本発明の好ましい態様によれば、レセプター結合アッセイを採用することができる。この場合、プローブ物質である核酸(ペプチド、タンパク質などでも構わない)が固定された作用電極に被検物質であるリガンドと特異的に結合する増感色素が標識されたレセプタータンパク質を共存させ、リガンドの存在下で、増感色素が固定化される。この態様における被検物質であるリガンドの作用電極への固定化工程を図27に示す。図27に示されるように、被検物質であるリガンド341は、まず、増感色素342が標識されたレセプタータンパク質343に特異的に結合する。そして、リガンドが結合されたレセプタータンパク質344がプローブ物質である二本鎖の核酸345に特異的に結合する。
【0057】
本発明の別の好ましい態様によれば、オープンサンドイッチ法によるイムノアッセイも採用することができる。この場合、プローブ物質である抗体のH鎖またはL鎖が固定化された作用電極に、被検物質である抗原と特異的に結合する増感色素が標識された抗体のL鎖またはH鎖を共存させ、被検物質の存在下で、増感色素が固定化される。この態様における被検物質である抗原の作用電極への固定化工程を図28に示す。図28に示されるように、被検物質である抗原441は、増感色素442が標識された抗体のL鎖443(またはH鎖)の存在下、プローブ物質である抗体のH鎖444に(またはL鎖)に特異的に結合する。
【0058】
こうして被検物質が増感色素と共に固定された作用電極を、電解質の存在下、光を照射して増感色素を光励起させ、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と、電解質を含むパッドに接触した対電極との間に流れる光電流を電流計により検出する。
【0059】
光照射により系内を流れる光電流は電流計により測定される。これにより、被検物質を検出することができる。その際の電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量を反映する。例えば、被検物質が抗原の場合、抗体に特異的に結合した抗体の量が、電流値となり反映される。したがって、得られた電流値から被検物質を定量することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電流計が、得られた電流量または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出する手段をさらに備えてなるのが好ましい。
【0060】
本発明の好ましい態様によれば、光電流を検出する工程が、電流値を測定し、得られた電流値または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出することができる。この被検物質濃度の算出は、予め作成された被検物質濃度と電流値または電気量との検量線と、得られた電流値または電気量とを対比することにより行うことができる。本発明の方法にあっては、電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量が反映されるので、被検物質濃度に対応した正確な電流値が得られるため、定量測定に適する。
【0061】
本発明の好ましい態様によれば、競合法を採用した場合、被検物質である抗原または一本鎖の核酸と増感色素を標識した抗原または一本鎖の核酸を競合させてプローブ物質に特異的に結合させると、検出される電流値と増感色素を標識した抗原または一本鎖の核酸の濃度との間に相関関係が得られる。つまり、増感色素で標識されていない被検物質の数が増加するにつれ、プローブ物質に特異的に結合する競合物質の数が減少するため、色素標識されていない被検物質濃度の増加につれて、検出電流値が減少する検量線を得ることができる。したがって、増感色素で標識されていない被検物質の検出および定量が可能となる。
【0062】
増感色素
本発明にあっては、被検物質の存在を光電流で検出するために、増感色素の共存下、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させて、該結合により増感色素を作用電極に固定させる。そのために、本発明にあっては、増感色素は、図25〜28に示されるように1次抗体、抗原、リガンド、レセプタータンパク質、一本鎖の核酸、抗体のH鎖、抗体のL鎖などの親和性物質に標識されていることが好ましい。
【0063】
本発明に用いる増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、光源の照射による光励起状態への遷移が可能であり、かつ励起状態から作用電極に電子注入できる電子状態を採りうるものであればよい。したがって、用いる増感色素は、作用電極、特に電子受容層との間において上記電子状態をとることができるものであればよいことから、多種の増感色素が使用可能であり、高価な色素を使用する必要がない。
【0064】
増感色素の具体例としては、金属錯体や有機色素が挙げられる。金属錯体の好ましい例としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン;クロロフィルまたはその誘導体;ヘミン、特開平1−220380 号公報や特表平5−504023 号公報に記載のルテニウム、オスミウム、鉄および亜鉛の錯体(例えばシス−ジシアネート−ビス(2、2´−ビピリジル−4、4´−ジカルボキシレート)ルテニウム(II))があげられる。有機色素の好ましい例としては、メタルフリーフタロシアニン、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、インジゴ系色素等が挙げられる。
【0065】
作用電極およびその製造
本発明に用いる作用電極は、上記プローブ物質を表面に備えた電極であり、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電極である。
したがって、作用電極の構成および材料は、使用される増感色素との間で上記電子移動が生じるものであれば限定されず、種々の構成および材料であってよい。
【0066】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が増感色素の光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を有し、この電子受容層の表面にプローブ物質が備えられてなるのが好ましい。また、本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、この導電性基材上に電子受容層が形成されてなるのが好ましい。この態様の電極は図25〜28に示される。図25〜28に示される作用電極123は、導電性基材125と、この導電性基材上に形成され、電子受容物質を含んで成る電子受容層126とを備えてなる。そして、電子受容層126の表面にプローブ物質が担持される。
【0067】
本発明における電子受容層は、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる。すなわち、電子受容物質は、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位を取り得る物質であることができる。ここで、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位(A)とは、例えば、電子受容性材料として半導体を用いる場合には、伝導帯(コンダクションバンド:CB)を意味し、電子受容性材料として金属を用いる場合には、フェルミ準位を意味し、電子受容性材料として有機物もしくはC60等の分子状無機物を用いる場合には、最低非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:LUMO)を意味する。すなわち、本発明に用いる電子受容物質は、このAの準位が、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも卑な準位、換言すれば、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも低いエネルギー準位を有するものであればよい。
【0068】
電子受容物質の好ましい例としては、シリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスの硫化物半導体;カドミウム、鉛のセレン化物半導体;カドミウムのテルル化物半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物半導体;ガリウムヒ素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物の化合物半導体;金、白金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、ニッケル等の金属;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール等の有機物ポリマー;C60、C70等の分子状無機物が挙げられ、より好ましくは、シリコン、TiO、SnO、Fe、WO、ZnO、Nb、チタン酸ストロンチウム、酸化インジウム、CdS、ZnS、PbS、Bi、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS、CuInSe、C60であり、さらに好ましくは、TiO、ZnO、SnO、Fe、WO、Nb、チタン酸ストロンチウム、CdS、PbS、CdSe、InP、GaAs、CuInS、CuInSeであり、最も好ましくはTiOである。なお、上記の列挙した半導体は、真性半導体および不純物半導体のいずれであってもよい。
【0069】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質は半導体であるのが好ましく、より好ましくは酸化物半導体であり、さらに好ましくは金属酸化物半導体であり、最も好ましくはn型金属酸化物半導体である。この態様によれば、半導体のバンドギャップの利用により、色素から効率良く電子を取り出すことができる。また、多孔体あるいは表面の凹凸形状といった構造を有する半導体の使用により、表面積の大きい作用電極を作製することができ、プローブ固定化量を増加させることができる。
【0070】
本発明の好ましい態様によれば、半導体の伝導帯の電位は、増感色素のLUMOの電位よりも低いことが好ましく、より好ましくは、増感色素のLUMO>半導体の伝導帯>電解質の酸化還元電位>増感色素のHOMOの関係を満たす電位である。このような関係にあることで、効率良く電子を取出すことが可能となる。
【0071】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体からなる場合、層表面をカチオン化処理しても良い。カチオン化により、プローブ物質(DNA,タンパク質など)を高い効率で電子受容層に吸着させることが可能となる。カチオン化は、例えばアミノシランなどのシランカップリング剤、カチオンポリマー、4級アンモニウム化合物、などを電子受容層表面に作用させることにより行うことができる。
【0072】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、電子受容物質として、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)またはフッ素がドープされた酸化スズ(FTO)を用いることができる。ITOおよびFTOは電子受容層のみならず導電性基材としても機能する性質を有するため、これらの材料を使用することにより導電性基材を用いることなく電子受容層のみで作用電極として機能させることができる。
【0073】
電子受容物質として半導体または金属を用いる場合、その半導体または金属は単結晶および多結晶のいずれであってもよいが、多結晶体が好ましく、さらに緻密なものよりも多孔性を有するものが好ましい。これにより、比表面積が大きくなり、被検物質および増感色素を多く吸着させて、より高い感度および精度で被検物質を検出することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が多孔性を有しており、各孔の径が3〜1000nmであるのが好ましく、より好ましくは、10〜100nmである。
【0074】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層を導電性基材上に形成した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、さらに100倍以上であることが好ましい。この表面積の上限には特に限定されないが、通常1000倍程度であろう。
電子受容層を構成する電子受容物質の微粒子の粒径は、投影面積を円に換算したときの直径を用いた平均粒径で一次粒子として5〜200nmであることが好ましく、より好ましくは8〜100nmであり、さらに好ましくは20〜60nmである。また、分散物中の電子受容性物質の微粒子(二次粒子)の平均粒径としては0.01〜100μmであることが好ましい。また、入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、粒子サイズの大きな、例えば300nm程度の電子受容物質の微粒子を併用して、電子受容層を形成してもよい。
【0075】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、電子受容層が導電性基材上に形成されてなるのが好ましい。本発明に使用可能な導電性基板としては、チタン等の金属のように支持体そのものに導電性があるもののみならず、ガラスもしくはプラスチックの支持体の表面に導電材層を有するものであってよい。この導電材層を有する導電性基板を使用する場合、電子受容層はその導電層上に形成される。導電材層を構成する導電材の例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス;およびインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの、酸化スズにアンチモンをドープしたもの、酸化亜鉛にガリウムをドープしたもの、または酸化亜鉛にアルミニウムをドープしたもの等の導電性の金属酸化物が挙げられ、より好ましくは、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)である。ただし、前述した通り、電子受容層自体が導電性基材としても機能する場合にあっては導電性基材は省略可能である。また、本発明において、導電性基材は、導電性を確保できる材料であれば限定されず、それ自体では支持体としての強度を有しない薄膜状またはスポット状の導電材層も包含するものとする。
【0076】
本発明の好ましい態様によれば、導電性基材が実質的に透明、具体的には、光の透過率が10%以上であるのが好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。また、本発明の好ましい態様によれば、導電材層の厚みは、0.02〜10μm程度であるのが好ましい。さらに、本発明の好ましい態様によれば、導電性基材の表面抵抗が100Ω/cm以下であり、さらに好ましくは40Ω/cm以下であるのが好ましい。導電性基材の表面抵抗の下限は特に限定されないが、通常0.1Ω/cm程度であろう。
【0077】
導電性基材上への電子受容層の好ましい形成方法の例としては、電子受容物質の分散液またはコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法、半導体微粒子の前駆体を導電性支持体上に塗布し空気中の水分によって加水分解して微粒子膜を得る方法(ゾル−ゲル法)、スパッタリング法、CVD法、PVD法、蒸着法などが挙げられる。電子受容物質としての半導体微粒子の分散液を作成する方法としては、前述のゾル−ゲル法の他、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、あるいは半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。このときの分散媒としては水または各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が挙げられる。分散の際、必要に応じてポリマー、界面活性剤、酸、もしくはキレート剤などを分散助剤として使用してもよい。
【0078】
電子受容物質の分散液またはコロイド溶液の塗布方法の好ましい例としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分でできるものとして、特公昭58−4589号公報に開示されているワイヤーバー法、米国特許第2681294号、米国特許第2761419号、米国特許第2761791号等に記載のスライドホッパ法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法が挙げられる。
【0079】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体微粒子からなる場合、電子受容層の膜厚が0.1〜200μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜30μm、最も好ましくは2〜25μmである。これにより、単位投影面積当たりのプローブ物質および固定される増感色素量を増加して光電流量を多くするとともに、電荷再結合による生成した電子の損失をも低減することができる。また、導電性基材1m当たりの半導体微粒子の塗布量は0.5〜400gであるのが好ましく、より好ましくは5〜100gである。
【0080】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質がインジウム−スズ複合酸化物(ITO)または酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)を含んでなる場合、電子受容層の膜厚が1nm以上であるのが好ましく、より好ましくは10nm〜1μmである。
【0081】
本発明の好ましい態様によれば、半導体微粒子を導電性基材上に塗布した後に加熱処理を施すのが好ましい。これにより、粒子同士を電気的に接触させ、また、塗膜強度の向上や支持体との密着性を向上させることができる。好ましい加熱処理温度は、40〜700度であり、より好ましくは100〜600度である。また、好ましい加熱処理時間は10分〜10時間程度である。
【0082】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、ポリマーフィルムなど融点や軟化点の低い導電性基材を用いる場合にあっては、熱による劣化を防止するため、高温処理を用いない方法により膜形成を行うのが好ましく、そのような膜形成方法の例として、プレス、低温加熱、電子線照射、マイクロ波照射、電気泳動、スパッタリング、CVD、PVD、蒸着等の方法が挙げられる。
【0083】
こうして得られた作用電極の電子受容層の表面にはプローブ物質が担持される。作用電極へのプローブ物質の担持は公知の方法に従い行うことができる。本発明の好ましい態様によれば、プローブ物質として一本鎖の核酸を用いる場合には、作用電極表面に酸化層を形成させておき、この酸化層を介して核酸プロ−ブと作用電極とを結合させることにより行うことができる。このとき、核酸プローブの作用電極への固定化は、核酸の末端に官能基を導入することにより行うことができる。これにより、官能基が導入された核酸プロ−ブはそのまま固定化反応により担体上に固定化されることができる。核酸末端への官能基の導入は、酵素反応もしくはDNA合成機を用いて行なうことができる。酵素反応において用いられる酵素としては、例えば、タ−ミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラ−ゼ、ポリAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドカイネ−ス、DNAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドアデニルトランスフェラ−ゼ、RNAリガ−ゼを挙げることができる。また、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR法)、ニックトランスレ−ション、ランダムプライマ−法により官能基を導入することもできる。官能基は、核酸のどの部分に導入されてもよく、3´末端、5´末端もしくはランダムな位置に導入することができる。
【0084】
本発明の好ましい態様によれば、プローブ物質の作用電極への固定化のため官能基として、アミン、カルボン酸、チオール基、水酸基、リン酸等が好適に使用できる。また、本発明の好ましい態様によれば、プローブ物質を作用電極に強固に固定化するためには、作用電極とプローブ物質の間を架橋する材料を使用することも可能である。そのような架橋材料の好ましい例としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤や、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性ポリマーが挙げられる。
【0085】
本発明の好ましい態様によれば、プロ−ブ物質の固定化を物理吸着という、より簡単な操作で効率よく行うことも可能である。電極表面へのプロ−ブの物理吸着は、例えば、以下のように行なうことができる。まず、電極表面を、超音波洗浄器を用いて蒸留水およびアルコ−ルで洗浄する。その後、電極をプロ−ブ物質を含有する緩衝液に挿入してプロ−ブ物質を担体表面に吸着させる。
【0086】
また、プローブ物質の担持後、ブロッキング剤を添加することにより、非特異的な吸着を抑制することができる。使用可能なブロッキング剤としては、プローブ物質が担持されていない電子受容層表面のサイトを埋めることができ、かつ電子受容物質に対して化学吸着あるいは物理吸着等により吸着可能な物質であれば限定されないが、好ましくは化学結合を介して吸着可能な官能基を有する物質である。ブロッキング剤の例としては、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、水酸基、アミノ基、ピリジル基、アミド等の官能基を有する物質が挙げられる。
【0087】
対電極
本発明に用いる対電極は、電解質溶液に接触させた場合に作用電極との間に電流が流れることができるものであれば特に限定されず、金属もしくは導電性の酸化物を蒸着したガラス、プラスチック、セラミックス等が使用可能である。また、対電極としての金属薄膜を5μm以下、好ましくは3nm〜3μmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成して作成することもできる。対電極に使用可能な材料の好ましい例としては、白金、金、パラジウム、ニッケル、カーボン、ポリチオフェン等の導電性ポリマー、酸化物、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス等が挙げられ、より好ましくは、白金、カーボンであり、最も好ましくは白金である。これらの材料は電子受容層の形成方法と同様の方法により薄膜形成が可能である。
【0088】
電極ユニット
本発明の好ましい態様によれば、作用電極および対電極が同一平面上にパターニングされてなる電極ユニットを使用してもよい。好ましい電極ユニットは、絶縁基板と、絶縁基板上に局所的に設けられる、増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を備えた作用電極と、絶縁基板の作用電極と同一面上に、作用電極と離間して設けられる対電極とを備えてなる。そのような電極ユニットの一例が図29に示される。図29に示される電極ユニット71は、絶縁基板72と、作用電極73と、対電極74とを備えてなる。絶縁基板72は、作用電極72と対電極73とを短絡させないように絶縁性を有する基板である。作用電極73は、絶縁基板72上に局所的に設けられ、増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を備えてなる。対電極74は、絶縁基板72の作用電極73と同一面上に、作用電極73と離間して設けられる。そして、作用電極73および対電極74の各々から延出するようにリード線73´、74´がそれぞれ設けられる。
【0089】
このように、電極ユニットは、同一平面上に作用電極と対電極とを備えた一体型の電極部材であり、これを用いることにより、センサユニットの設計および材料選択の自由度が格段に広がり、センサユニットの生産性、性能、使い易さを大幅に改善できる。すなわち、本発明による電極ユニットは一体型の電極部材であり二枚の電極を対向させる必要が無いため、光源を電極ユニットの表面に対向させる構成を容易に採ることができる。その結果、作用電極を透明な材料に限らずセラミックスやプラスチック等の不透明な材料で構成することが可能となるので、電極材料の選択の自由度も広がる。また、光源からの作用電極表面の直接照射により、電極裏面から照射した際に起こる透明電極材料の透過度に起因する光の損失を無くすこともできるので、より精度の高い測定も期待できる。さらには、本発明による電極ユニットは一体型の電極部材であるため、作用電極、対電極、およびリード線を一工程の導通パターニングで形成することが可能となるため、電極の生産性が向上する。また、電極ユニットに対向させる材料は導電性を有する必要がないため、透明プラスチック、ガラスなどの汎用される材料を用いる事ができ、セルの生産性も向上する。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0091】
例1:各電解質媒体を用いてのタンパク質の特異的検出
(1)ビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極の作製
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0092】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、100nMに濃度調整したビオチン標識ssDNA(25mer)と1μMに濃度調整したssDNA(25mer)を95℃で10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの開口部にそれぞれ5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL−1000型)で120mJの紫外光を照射して、ビオチン標識ssDNAおよびssDNAをガラス基材に固定化した。シールを各ガラス基材から剥がし、各ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。これらのガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、各ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、ビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極を得た。
【0093】
(2)Cy3標識ストレプトアビジン固定化作用電極の作製
上記(1)で作製したビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極に直径3mmの大きさの開口部が形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を上記(1)と同箇所に載置して密着させた。続いて、1μg/mlに調製したCy3標識ストレプトアビジン溶液(溶媒:水)を先に用意したガラス上のシールの開口部にそれぞれ5μlずつ充填し、37℃で3分保持して水でリンスし、水切りをしてストレプトアビジン固定化作用電極を得た。
【0094】
(3)浸漬型電解質パッド、復水型電解質パッド、および電解質溶液の作製
電解質溶液として0.2Mに調整したテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)水溶液を用いた。また、42mm×16mmにカットされた厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(アトー株式会社製)に電解質溶液を500μl浸漬させて浸漬型電解質パッドを作製した。さらに、浸漬型電解質パッドと同様に上記電解質溶液に42mm×16mmにカットされた厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙に電解質溶液を500μl浸漬させた後、95℃で10分乾燥させて、復水型電解質パッドを作製した。なお、復水型電解質パッドは光電流検出直前に水300μlを添加して使用した。
【0095】
(4)光電流測定
(i)電解質パッドを用いた光電流検出
図30に電解質パッドを使用した際のセンサユニットの模式分解図を示す。図30のセンサユニットを構築するために、上記(1)および(2)で作製したストレプトアビジン固定化作用電極51と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極82とを用意した。両電極間に上記(3)で作製した電解質パッド83を挟み、密着させた。なお、この際、復水型電解質パッドを用いる際には上述したように光電流検出直前に水300μlを添加して使用した。この時、作用電極のDNAが固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源84(出力60mW、照射領域の直径1mm、波長532nmの緑色レーザー)を照射し、その時に観察される電流値を記録した。なお、図30中の85は押さえ部材、86は対向部材、87は電解質、88はビオチン標識DNA、89はCy3標識ストレプトアビジンを示す。
【0096】
(ii)電解質溶液を用いた光電流検出(参考例)
図31に電解質溶液を使用した際に用いたフローセル型測定用セルの模式分解図を示す。図31のフローセル型の測定用セルにあっては、基板90上に対電極91が設けられ、この基板90には電解質溶液または洗浄液の供給孔92および排出孔93が形成され、対電極91上には電解質溶液を収容する開口部94を有する絶縁スペーサ95が配置され、この絶縁スペーサ95上に作用電極96が設けられる。そして、対電極91と干渉しないように基板90を貫通して作用電極用接点97が設けられている。この作用電極用接点97により光電流の取り出しが行われる。また、前記作用電極96の上には押さえ部材98が設けられ、この押さえ部材98には貫通孔99が形成されている。この貫通孔90を介して、光源100からの光が作用電極96に照射される。そして、作用電極96および対電極91間には電流計が接続され、光照射により系内を流れる光電流が電流計により測定される。
【0097】
結果を図32に示す。図32に示されるように、浸漬型電解質パッド、復水型電解質パッド、および電解質溶液のいずれを用いてもCy3標識ストレプトアビジンとビオチン標識DNAの特異的な結合に由来する光電流が検出された。
【0098】
例2:反応パッドおよびスペーサを用いての蛋白質の特異的検出
(1)Cy3標識ストレプトアビジン固定化作用電極の作製
例1(1)と同様にしてビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極を作製し、その後、反応パッドおよびスペーサを用いてCy3標識ストレプトアビジン水溶液と接触させた。反応パッドを用いた際は、42mm×16mmにカットされた厚さ0.34mmのメンブレンフィルタ(MILLIPORE:5.0μm、SVPP)を上述したビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極に載せ、1μg/mlに調整した150μlのCy3標識ストレプトアビジン水溶液を添加した。スペーサを用いた際は、42mm×16mmの開口部が形成された厚さ1mmのシリコーンゴムを上記作用電極に載せ、1μg/mlに調整した300μlのCy3標識ストレプトアビジン水溶液を添加した。それぞれ3分間静置し、水でリンスおよび水切りをした後に例1(4)(i)と同様にして光電流を検出した。なお、光電流検出の際、電解質パッドは例1(3)と同様にして作製した浸漬型電解質パッドを用いた。
【0099】
結果を図33に示す。図33に示されるように、反応パッドおよびスペーサのいずれの試料液保持部材を用いた場合でも、Cy3標識ストレプトアビジンとビオチン標識DNAの特異的な結合に由来する光電流が検出された。
【0100】
例3:乾燥反応パッドを用いての蛋白質の特異的検出
(1)乾燥反応パッドの作製
例2(1)と同様に形状が42mm×16mm、厚さ0.34mmのメンブレンフィルタ(同上)を2枚用意し、1μg/mlに調整した150μlのCy3標識ストレプトアビジン水溶液をそれぞれ添加した。その後、一方は40℃で2時間乾燥させ、もう一方は−30℃で15分凍結乾燥した後に真空中で2時間乾燥させた。
【0101】
(2)Cy3標識ストレプトアビジン固定化作用電極の作製
例1(1)と同様にしてビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極を作製した。さらに、(1)で作製した熱乾燥反応パッドおよび凍結乾燥反応パッドをビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極上に載せ、水を150μl添加した。それぞれ3分間静置し、水でリンスおよび水切りをした後にCy3標識ストレプトアビジン固定化作用電極を作製した。比較として例2(1)と同様に作用電極上のメンブレンフィルタに1μg/mlに調整した150μlのCy3標識ストレプトアビジン水溶液を添加して3分間静置し、Cy3標識ストレプトアビジン固定化作用電極を作製した。その後、各電極を例1(4)と同様にして光電流検出した。なお、光電流検出の際、電解質パッドは例1(3)と同様にして作製した浸漬型電解質パッドを用いた。
【0102】
結果を図34に示す。図34に示されるように、熱乾燥反応パッドおよび凍結乾燥反応パッドのいずれを用いてもCy3標識ストレプトアビジンとビオチン標識DNAの特異的な結合に由来する光電流が検出された。なお、本実施例のように標識蛋白質をパッド内に乾燥保持させ、競合法あるいはサンドイッチ法を用いれば、検出物などが含まれる溶液を加え、復水させるだけで検出物の定量または定性を容易に行うことができる。
【0103】
例4:電解質が及ぼす特異的反応への影響確認実験(参考例)
例1(1)と同様にしてビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極を作製し、図31に示すフローセル型測定用セルに作用電極を設置した。それから、0.4Mに調整したテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)水溶液75μlと2μg/mlに調整した75μlのCy3標識ストレプトアビジン水溶液を1:1に混合させて作製した混合液150μlをセル内に送液し、3分間静置した。その後上記混合液を排出し、0.2Mに調整したテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)水溶液150μlをセル内に送液し光電流検出した。比較として、1μg/mlに調整した150μlのCy3標識ストレプトアビジン水溶液をセル内に送液し、3分間静置した後に0.2Mに調整したテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)水溶液150μlをセル内に送液し光電流検出した。
【0104】
結果を図35に示す。図35に示されるように、反応溶液中に電解質が存在すると、光電流が激減し、特異的に光電流は検出されなかった。このことにより電解質は蛋白質の特異的反応を阻害していることが推測される。
【0105】
例5:各種反応パッドを用いての蛋白質検出
例1(1)と同様にしてビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極を作製し、その後、各種反応パッドを用いてCy3標識ストレプトアビジン水溶液と接触させた。
各反応パッドとしては、42mm×16mmにカットされた厚さ0.34mmのメンブレンフィルタ(MILLIPORE:5.0μm、SVPP)、厚さ0.21mmのブロッティング用ろ紙(WHATMAN)、厚さ0.26mmのガラス繊維ろ紙(WHATMAN:GF/A)をそれぞれ用いた。各反応パッドを上述したビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極に載せ、1μg/mlに調整したCy3標識ストレプトアビジン水溶液を添加した。なお、溶液の添加量はメンブレンフィルタの場合150μl、ブロッティング用ろ紙の場合150μl、ガラス繊維ろ紙の場合700μlとした。それぞれ3分間静置し、水でリンスおよび水切りをした後に例1(4)と同様にして光電流を検出した。なお、この際電解質パッドは例1(3)と同様にして作製した浸漬型電解質パッドを用いた。
【0106】
結果を図36に示す。図36に示されるように、いずれの反応パッドを用いてもCy3標識ストレプトアビジンとビオチン標識DNAの特異的な結合に由来する光電流が検出された。
【0107】
例6:光電流検出時に混在する塩、界面活性剤、蛋白質の影響確認実験
送液する電解質溶液を0.4Mに調整したテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)水溶液75μlと300mMに調整した75μlのNaCl水溶液を1:1に混合させて作製した混合液150μl、0.4Mに調整したテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)水溶液75μlと0.1%に調整した75μlのTween20水溶液を1:1に混合させて作製した混合液150μl、0.4Mに調整したテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)水溶液75μlと2μg/mlに調整した75μlのストレプトアビジン水溶液を1:1に混合させて作製した混合液150μlとしたこと以外は、例1と同様にして光電流検出を行った。比較として0.2Mに調整したテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)水溶液を電解質溶液として用いて光電流検出を行った。
【0108】
結果を図37に示す。図37に示されるように、塩であるNaCl、界面活性剤であるTween20、あるいは蛋白質であるストレプトアビジンの混在下であっても、Cy3標識ストレプトアビジンとビオチン標識DNAの特異的な結合に由来する光電流が検出された。この結果から、本発明による方法およびセンサユニットによれば、実使用時の光電流検出の際に例えば血中に含まれる塩や検出物以外の蛋白質、さらに希釈溶液などに含まれる界面活性剤が含まれたとしても、光電流検出が十分に可能であることが分かる。
【0109】
例7:反応パッドおよび反応溶液存在下での蛋白質の特異的検出
反応パッドまたは反応溶液存在下で浸漬型電解質パッドまたは復水型電解質パッドを加えた例を以下に示す。まず、例2と同様にしてビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極を作製し、その後、反応パッドおよびスペーサを用いてCy3標識ストレプトアビジン水溶液と接触させた。反応パッドを用いた際は、42mm×16mmにカットされた厚さ0.34mmのメンブレンフィルタ(MILLIPORE:5.0μmSVPP)を上述したビオチン標識DNAおよびssDNA固定化作用電極に載せ、1μg/mlに調整した150μlのCy3標識ストレプトアビジン水溶液を添加した。スペーサを用いた際は、42mm×16mmの開口部が形成された厚さ1mmのシリコーンゴムを上記作用電極に載せ、1μg/mlに調整した300μlのCy3標識ストレプトアビジン水溶液を添加した。それぞれ3分間静置し、その後、42mm×16mmにカットされた厚さ0.34mmのメンブレンフィルタ(MILLIPORE:5.0μmSVPP)を用いて例1(3)と同様にして作製した、浸漬型電解質パッド、復水型電解質パッド、または電解質溶液を加え、例1(4)と同様にして光電流を検出した。なお、復水型電解質パッドを用いる際には水の添加は行わず、反応溶液であるCy3標識ストレプトアビジン水溶液で復水させた。
【0110】
結果を図38に示す。図38に示されるように、すべての組み合わせにおいてCy3標識ストレプトアビジンとビオチン標識DNAの特異的な結合に由来する光電流が検出された。この結果から、本発明による方法およびセンサユニットによれば、反応パッドおよび反応溶液存在下での蛋白質の特異的検出が可能であること、および光電流検出の際に反応溶液または反応パッドにより復水型電解質パッドを復水させても使用可能なことが実証された。なお、本例における、「反応パッド+浸漬型電解質パッド」および「反応パッド+復水型電解質パッド」は第一の態様によるセンサユニットに相当し、「反応パッド+電解質溶液」は第四の態様によるセンサユニットに相当し、「スペーサ+浸漬型電解質パッド」および「スペーサ+復水型電解質パッド」は第三の態様によるセンサユニットに相当する。
【0111】
例8:電解質パッドの各種条件の検討
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0112】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110度で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、100nMに濃度調整した5’末端ローダミン標識ssDNA(25mer)と、100nMに濃度調整した非標識ssDNA(24mer)を95度で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの開口部にそれぞれ5μlずつ充填し、95度で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL−1000型)で120mJの紫外光を照射して、標識ssDNAおよび非標識ssDNAを各ガラス基材に固定化した。シールを各ガラス基材から剥がし、各ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。これらのガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、各ガラス基材を4度の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、色素標識DNA固定化作用電極、ssDNA固定化作用電極を得た。ここで使用したプローブDNAの塩基配列は下記の通りである。
5’末端ローダミン標識ssDNA(プローブ1):
5'-Rho-GCGGCATGAACCTGAGGCCCATCCT-3' (配列番号1)
非標識ssDNA(プローブ2):
5'-TTGAGCAAGTTCAGCCTGGTTAAG-3' (配列番号2)
【0113】
(2)電解質含有パッドの作製
0.2M、0.4M、および0.6Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)を含む水溶液を調製した。この水溶液に26mm×20mmにカットされた厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB−13A;アトー株式会社)を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有パッドを得た。
【0114】
(3)電解質濃度の検討
上記(1)で作製した色素標識DNA固定化作用電極と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極とを用意した。両電極間に上記(2)で作製した電解質含有パッドを挟み、密着させた。この時、作用電極のssDNAが固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源(出力60mW、照射領域の直径1mm、波長530nmの緑色レーザー)を照射し、その時に観察される電流値を記録した。
【0115】
結果を図39に示す。図39に示されるように、テトラプロピルアンモニウムヨージドの濃度に依存して光電流の増加が認められたが、いずれの濃度のテトラプロピルアンモニウムヨージドおいても測定に使用可能であることが明らかになった。
【0116】
(4)各種電解質の検討
各種電解質を用いて光電流測定を行った。具体的には、吸水性基材としてろ紙を用い、各還元剤の濃度を0.2Mに固定して、電解質含有パッドを作製した。電解質としては、NaI、KI、CaI、LiI、NHI、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、および亜硫酸ナトリウム(NaSO)を用いた。これらの各種電解質と水を含む電解質溶液を作製し、26mm×20mmにカットされた厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB−13A;アトー株式会社)を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有パッドを得た。色素標識DNA固定化作用電極の作製は(1)と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が10nM、およびローダミン非標識ssDNA濃度100nMの各溶液を用いて作製した作用電極も作製して上記(3)と同様に光電流測定を行った。
【0117】
結果を図40に示す。図40に示されるように、検討したいずれの電解質でも、ssDNA固定化量に依存して光電流の増加が認められ、測定に使用可能であることが明らかになった。
【0118】
(5)電解質含有パッドの厚さの検討
固定化するssDNA濃度を100nMと1μMの二種類の濃度としたこと以外は上記(1)と同様にして、色素標識DNA固定化作用電極を作製した後、0.2Mの濃度のテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)と水により電解質溶液を作製し、厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB−13A;アトー株式会社)を1枚、2枚重ね、3枚重ねし、それぞれ電解質溶液に浸漬させて電解質含有パッドを作製した。その後、作製した固定化濃度の異なる作用電極と、厚さの異なる各電解質含有パッドを用いて、上記(3)と同様にして光電流を測定した。
【0119】
結果を図41に示す。図41に示されるように、0.9mm〜2.7mmの電解質含有パッド厚さの全域にわたって、光電流値への影響はほとんど認められなかった。したがって、十分な強度を得る観点から電解質含有パッド厚さを厚くしても、光電流値検出への悪影響は無いことが分かる。
【0120】
(6)各吸水性物質の検討
吸水性物質として、厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB−13A;アトー株式会社)、フェルト(厚さ:1mm、密度:0.00049g/mm)、ボール紙(厚さ:0.5mm、密度:0.00071g/mm)、ガラス繊維ろ紙(GF/D;Whatman:厚さ:0.68mm)、パルプ繊維および合成繊維を含むコート紙(厚さ:0.14mm、密度:0.00111g/mm)、弗素樹脂を主に含んでなるメンブレンフィルタ(JCWP09025;MILLIPORE:厚さ:0.1mm)を用いたこと以外は、上記(3)と同様にして光電流の測定を行った。色素標識DNA固定化作用電極の作製は上記(1)と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が100nMおよび1μMの各溶液を用いて行い、非標識ssDNA濃度が100nMの溶液を用いて作製した作用電極も使用した。電解質溶液は0.2Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)を含む水溶液を用いた。
【0121】
結果を図42に示す。図42に示されるように、すべての吸水性物質において、ssDNA固定化量に依存して光電流の増加が認められ、電解質含有パッドとして使用可能であることが明らかになった。
【0122】
(7)電解質含有パッドの含水率の検討
(i)含水率の測定
まず、26mm×20mmにカットされた厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB−13A;アトー株式会社)に0.4Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPrI)を含む水溶液を500μl滴下し、ろ紙を完全に電解質溶液に浸した。こうして、電解質溶液が含浸されたろ紙を作製した。次に、各含浸されたろ紙を0時間、0.25時間、0.5時間、1時間、1.25時間、1.5時間、それぞれ50℃で乾燥させた。
乾燥後のろ紙の重量を測定し、テトラプロピルアンモニウムヨージドの重量を除いた後、1mm3 辺りの含水量を計算した。その後、(1mm辺りの含水量)/(ろ紙密度)の割合を計算し電解質含有パッドの含水率とした。なおブロッティング用ろ紙の密度は0.00049g/mmである。
【0123】
(ii)光電流測定
上記(i)で作製した各含水率の電解質含有パッドにより例1と同様にして光電流を検出した。
【0124】
結果を図43に示す。図43に示されるように、電解質含有パッドの含水率が高いほど、光電流が高いことがわかる。また、含水率が2.2%の時は光電流を検出できなかったが、含水率が25.3%の時には光電流が検出できた。以上のことから、光電流が検出可能な電解質含有パッドは、含水率が少なくとも20%以上であることが望ましい。
【0125】
例9:反応パッドと復水型電解質パッドを用いたイムノアッセイ
(1)電極の作製
作用電極用の基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/ cm2、形状:50mm×26mm)を用意した。上記のFTO電極上にスパッタ法によってZnOを厚さ50nm(200W、スパッタ時間8分、スパッタレート6.25nm/min)を成膜した電極を用意した(膜厚はスパッタレートから概算)。この電極をアセトン、超純水、アセトンの順に1分間ずつ超音波洗浄を行い、1M硝酸溶液(pH0.2)に浸漬し5分間振盪を行った。その後超純水で十分すすぎ、この電極を作用電極とした。
【0126】
(2)1次抗体の固定化
作製した電極に直径3mmの大きさの開口部が形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。この開口部に10μg/ml(10mMリン酸緩衝液[pH7] 0.05% Tween20、250mM NaCl)に調整したヤギ由来抗体溶液を5μlずつ滴下し、37℃で10分間インキュベートした。その後、超純水中で10分間振盪し洗浄した。
【0127】
(3)イムノアッセイ
(2)で作成した1次抗体固定化電極において、張付したシールを剥がし、その上に反応パッド(PVDF膜(MILLIPORE:5.0μm、SVPP)を設置した。この反応パッド上に、1ng/ml、10ng/ml、100ng/ml、1μg/ml(10mMリン酸緩衝液、0.05%Tween20、150mM NaCl)に調整したCy5標識抗ヤギ抗体を100μlずつ滴下し、37℃で10分間インキュベートを行った。
【0128】
(4)光電流測定
図44に本例において使用した、本発明の一態様によるセンサユニットの模式分解図を、図45には図44に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図を、それぞれ示す。上述の方法で作製した、(1)および(2)で作製した反応パッドを保持したままの被検物質結合作用電極180と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極181とを用意した。反応パッド上に例1記載の方法で作成した復水型電解質パッド183を乾燥状態のまま重ね、反応パッド182に保持されている水分を用い電解質パッドの復水を行った。その後、反応パッドと復水型電解質パッドを保持した被検物質結合作用電極と対極を、タンパク質が固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した(図44、図45参照)。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源(出力120mW、照射領域の直径1mm 波長650nm赤色レーザー)184を照射し、そのときに観察される電流値を記録した。なお、図44、図45中の185は押さえ部材、186は対向部材を示す。
【0129】
結果を図46に示す。図46に示されるようにパッドを用いて被検物質を反応させ、その後反応溶液を用いて復水型電解質パッドを復水させるという方式であっても、電極に固定化した抗体と被検物質との特異的反応に由来する光電流が検出された。
【0130】
例10:スペーサと復水型電解質パッドを用いたサンドイッチイムノアッセイ
(1)電極の作製
作用電極用の基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/ cm2、形状:50mm×26mm)を用意した。上記のFTO電極上にスパッタ法によってZnOを厚さ50nm(200W、スパッタ時間8分、スパッタレート6.25nm/min)に成膜した電極を用意した(膜厚はスパッタレートから概算)。この電極をアセトン、超純水、アセトンの順に1分間ずつ超音波洗浄を行い、1M硝酸溶液(pH0.2)に浸漬し5分間振盪を行った。その後超純水で十分すすぎ、この電極を作用電極とした。
【0131】
(2)1次抗体の固定化
作製した電極に直径3mmの大きさの開口部が形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。この開口部に10μg/ml(10mMリン酸緩衝液[pH7] 0.05% Tween20、250mM NaCl)に調整した抗AFP抗体(日本バイオテスト研究所 NB011)抗体溶液を5μlずつ滴下し、37℃で10分間インキュベートした。その後、超純水中で5分間振盪し洗浄した。
【0132】
(3)イムノアッセイ
(2)で作成した1次抗体固定化電極において、シールの開口部にAFP(抗原)とCy5標識抗AFP抗体の混合溶液を5μlずつ滴下し、37℃で10分間インキュベートを行った。この時Cy5標識抗AFP抗体は50μg/ml、AFPは1μg/ml、10μg/mlにそれぞれ調製し、添加した。
【0133】
(4)光電流測定
図47に本例において使用した、本発明の一態様によるセンサユニットの模式分解図を、図48には図47に示されるセンサユニットの光電流検出時における断面図を、それぞれ示す。上述の方法で作製した、(1)および(2)で作製した反応溶液を保持したままの被検物質結合作用電極280と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極281とを用意した。シールにより反応溶液が保持された作用電極上に例1記載の方法で作成した復水型電解質パッド282を乾燥状態のまま重ね、反応溶液の水分を用い電解質パッドの復水を行った。その後、復水型電解質パッドを保持した被検物質結合作用電極と対極を、タンパク質が固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した(図47、図48参照)。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源(出力120mW、照射領域の直径1mm 波長650nm赤色レーザー)284を照射し、そのときに観察される電流値を記録した。なお、図47、図48中の285は押さえ部材、283は対向部材を示す。
【0134】
結果を図49に示す。図49に示されるように溶液で反応後、反応溶液を用いて復水型電解質パッドを復水させるという方式であっても、電極に固定化した抗体と被検物質さらに標識抗体との複合的な特異的反応に由来する光電流が検出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法であって、前記作用電極が、前記被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えてなり、該方法が、
前記作用電極の表面に、前記被検物質を含む試料液および前記増感色素を接触させて、前記特異的結合を介して前記増感色素を前記作用電極に固定させ、
前記試料液を除去することなく保持しながら、その場で電解質を供給して、前記作用電極と前記対電極とを前記電解質に接触させ、
前記作用電極に光を照射して前記増感色素を光励起させて、前記作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出する
工程を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記作用電極の表面と前記試料液との接触が、前記試料液を前記作用電極の表面に保持するための開口部を有するスペーサを介して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記作用電極の表面と前記試料液との接触が、前記試料液が前記作用電極の表面に保持されるための吸水性の反応パッドを介して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記反応パッドが0.01〜10mmの厚さを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記反応パッドが、天然繊維、パルプ繊維、再生繊維、ガラス繊維、および合成繊維からなる群から選択される少なくとも一種の繊維で構成されてなる、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記反応パッドが、ろ紙、メンブレンフィルタ、ガラスフィルタ、およびろ布からなる群から選択される少なくとも一種で構成されてなる、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応パッドが、光電流検出時に、20%以上の含水率を有する、請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応パッドが、前記増感色素をさらに含んでなる、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記増感色素が、前記被検物質、または前記プローブ物質と特異的結合が可能な物質に予め標識されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電解質の供給が、電解質溶液の添加により行われる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記電解質の供給が、予め前記電解質を含浸させた吸水性の電解質パッドを前記試料液に接触させて、前記電解質を前記試料液中に拡散させることにより行われる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電解質パッドが、天然繊維、パルプ繊維、再生繊維、ガラス繊維、および合成繊維の群から選択される少なくとも一種の繊維を含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記電解質パッドが、ろ紙、メンブレンフィルタ、ガラスフィルタ、およびろ布の群から選択される少なくとも一種である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記電解質パッドが、光電流検出時に、20%以上の含水率を有する、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記反応パッドと前記電解質パッドとの間に、前記電解質パッドから前記反応パッドへの前記電解質の拡散を遮断するための遮断フィルムを予め設けておき、前記電解質の供給時に該遮断フィルムが除去される、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも光の照射時に、前記作用電極および前記対電極が互いに対向して配置される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記作用電極および前記対電極が同一平面上に配置される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法に用いられるセンサユニットであって、 前記被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えてなり、前記被検物質を含む試料液および前記増感色素との接触により前記特異的結合を介して前記増感色素が固定されることができる作用電極と、
対電極と、
前記試料液を除去するための機構を有しない、前記試料液を前記作用電極および前記対電極の表面に保持するための試料液保持部材と
を備えてなる、センサユニット。
【請求項19】
前記試料液保持部材が、前記試料液で満たされることができる開口部を有するスペーサである、請求項18に記載のセンサユニット。
【請求項20】
前記試料液保持部材が、前記試料液で含浸されることができる吸水性の反応パッドである、請求項18に記載のセンサユニット。
【請求項21】
前記反応パッドが0.01〜10mmの厚さを有する、請求項20に記載のセンサユニット。
【請求項22】
前記反応パッドが、天然繊維、パルプ繊維、再生繊維、ガラス繊維、および合成繊維からなる群から選択される少なくとも一種の繊維で構成されてなる、請求項20または21に記載のセンサユニット。
【請求項23】
前記反応パッドが、ろ紙、メンブレンフィルタ、ガラスフィルタ、およびろ布からなる群から選択される少なくとも一種で構成されてなる、請求項20〜22のいずれか一項に記載のセンサユニット。
【請求項24】
前記反応パッドが、20%以上の含水率を有することができる、請求項20〜23のいずれか一項に記載のセンサユニット。
【請求項25】
前記反応パッドが、前記増感色素をさらに含んでなる、請求項20〜24のいずれか一項に記載のセンサユニット。
【請求項26】
予め前記電解質を含浸させた吸水性の電解質パッドが、前記試料液保持部材の試料液が保持されるべき領域の前記作用電極と反対側に離間して、前記特異的結合の形成後に前記試料液が保持されるべき領域と接触可能に設けられてなる、請求項18〜25のいずれか一項に記載のセンサユニット。
【請求項27】
前記電解質パッドが、天然繊維、パルプ繊維、再生繊維、ガラス繊維、および合成繊維の群から選択される少なくとも一種の繊維を含んでなる、請求項26に記載のセンサユニット。
【請求項28】
前記電解質パッドが、ろ紙、メンブレンフィルタ、ガラスフィルタ、およびろ布の群から選択される少なくとも一種である、請求項26または27に記載のセンサユニット。
【請求項29】
前記電解質パッドが、20%以上の含水率を有することができる、請求項26〜28のいずれか一項に記載のセンサユニット。
【請求項30】
前記反応パッドと前記電解質パッドとの間に、前記電解質パッドから前記反応パッドへの前記電解質の拡散を遮断するための遮断フィルムが除去可能に設けられてなる、請求項26〜29のいずれか一項に記載のセンサユニット。
【請求項31】
前記作用電極および前記対電極が互いに対向して配置され、前記作用電極と前記対電極との間に、前記試料液保持部材および存在する場合には電解質パッドが挟持されてなる、請求項18〜30のいずれか一項に記載のセンサユニット。
【請求項32】
前記作用電極および前記対電極が同一平面上に配置され、該平面に接触して前記試料液保持部材が配置されてなる、請求項18〜30のいずれか一項に記載のセンサユニット。
【請求項33】
前記作用電極、前記対電極、前記試料液保持部材、および存在する場合には前記電解質パッドの積層体を挟持するための、押さえ部材および対向部材が互いに対向して設けられてなる、請求項18〜32のいずれか一項に記載のセンサユニット。
【請求項34】
請求項1〜17に記載の方法に用いられる、請求項16〜29に記載のセンサユニット。
【請求項35】
光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法に用いられる測定装置であって、
請求項18〜34のいずれか一項に記載のセンサユニットと、
前記作用電極に光を照射するための光源と、
光励起された増感色素から前記作用電極への電子移動に起因して前記作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出する電流計と
を備えてなる、測定装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate

【図43】
image rotate

【図46】
image rotate

【図49】
image rotate

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図10】
image rotate

【図13】
image rotate

【図16】
image rotate

【図19】
image rotate

【図22】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図44】
image rotate

【図45】
image rotate

【図47】
image rotate

【図48】
image rotate


【公開番号】特開2009−186462(P2009−186462A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3932(P2009−3932)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)