光電面及びそれを備える電子管
【課題】 量子効率の高い光電面及びそれを備える電子管を提供する。
【解決手段】
光電面10において、基板12上にバッファー層14、第1のGaN層16、及び第2のGaN層18がこの順で形成されている。第2のGaN層18にはMgがドープされており、第2のGaN層18は活性層として機能する。第2のGaN層18でのキャリア濃度は、5.0×1017cm−3以下である。また、第2のGaN層18に対してラマンスペクトル測定を行うことによって得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比は、0.22以下である。
【解決手段】
光電面10において、基板12上にバッファー層14、第1のGaN層16、及び第2のGaN層18がこの順で形成されている。第2のGaN層18にはMgがドープされており、第2のGaN層18は活性層として機能する。第2のGaN層18でのキャリア濃度は、5.0×1017cm−3以下である。また、第2のGaN層18に対してラマンスペクトル測定を行うことによって得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比は、0.22以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の入射により光電子を外部に放出する光電面及びそれを備える電子管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電面は、入射した光に応じて発生する電子(光電子)を放出する素子であり、例えば光電子増倍管に用いられている。ここで、入射光に対する光電面の感度は高いことが好ましいが、光電面の感度を高くするためには、光電面に入射する光子の数に対する光電面外部に放出される光電子の数の割合を示す量子効率を高くする必要がある。
【0003】
また、光電面においては、従来、1960年代にSpicerらが提唱した理論から、半導体による光電面ではP型でないと外部光電効果による光電子放出が起こらないと考えられている。これは、N型では光電面の表面近傍においてバンドが上方に湾曲して真空準位が見かけ上上がり、電子を放出しにくくなるのに対し、P型では光電面の表面近傍においてバンドが下方に湾曲して真空準位が見かけ上下がり、電子を放出しやすくなるためである(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】W.E.Spicer,Appl.Phys.12, p.115-130 (1977)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、GaN結晶を光電面に応用することが検討されている。また、このようなGaN結晶を用いた光電面においても、その量子効率のさらなる向上が望まれている。
【0005】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、量子効率が高い光電面及びそれを備える電子管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
GaN結晶については、一般に、P型に発現させるために熱処理を必要とすることが知られている。したがって、GaN結晶を光電面に応用する場合、光電子放出に関する上記した理論により、結晶に対して熱処理を行ってP型化させる必要があると考えられる。例えば、MgをドープしたGaN結晶に対して熱処理を行うと、Hが結晶から追い出されてMg濃度に対するH濃度の比が大幅に低下し、これによってGaN結晶がP型化する。
【0007】
本願発明者は、このようなGaN結晶に対する熱処理について検討を行った結果、MgをドープしたGaN結晶を用いた光電面の量子効率はMg濃度とH濃度との比に対して相関を有すること、また、熱処理によるGaN結晶のP型化が光電面を高感度化する上で必ずしも必要ではないことを見出し、本発明に到達した。
【0008】
このような検討結果を踏まえ、本発明による光電面は、光の入射により光電子を外部に放出する光電面において、MgがドープされたGaNからなる活性層を備え、活性層でのキャリア濃度が、5.0×1017cm−3以下であることを特徴とする。本願発明者は、上述したように、MgをドープしたGaNの光電面の量子効率はMg濃度とH濃度との比に対して相関を有することを見出した上で、さらにMg濃度とH濃度との比はキャリア濃度で規定できることを見出した。そして、5.0×1017cm−3以下のキャリア濃度範囲でGaNの光電面の量子効率が向上されることを見出すに至った。
【0009】
キャリア濃度は、1.0×1017cm−3以下であることがさらに好ましい。この場合、さらなる量子効率の向上が図られる。
【0010】
また、本発明による光電面は、光の入射により光電子を外部に放出する光電面において、MgがドープされたGaNからなる活性層を備え、活性層に対してラマンスペクトル測定を行って得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比が、0.22以下であることを特徴とする。本願発明者は、上述したように、MgをドープしたGaNの光電面の量子効率はMg濃度とH濃度との比に対して相関を有することを見出した上で、さらにMg濃度とH濃度との比は、活性層に対してラマンスペクトル測定を行って得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比(以下、「ラマン強度比」と称する。)で規定できることを見出した。そして、0.22以下のラマン強度比の範囲でGaNの光電面の量子効率が向上されることを見出すに至った。
【0011】
強度比は、0.18以下であることがさらに好ましい。この場合、さらなる量子効率の向上が図られる。
【0012】
また、本発明による電子管は、入射光を透過する入射窓と、上記の光電面と、光電面から放出された電子を収集する陽極と、光電面及び陽極を収納すると共に入射窓を支持する容器と、を備えることを特徴とする。このような構成とすることにより感度の良い電子管を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、量子効率の高い光電面及びそれを備える電子管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面とともに、本発明による光電面の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る光電面の構成を一部拡大して示す断面図である。この光電面10では、図1に示すように、基板12上にバッファー層14、第1のGaN層16、及び第2のGaN層18がこの順で形成されている。図1においては、光電面10は、第2のGaN層18側から光hνが入射し、第2のGaN層18側から光電子e−が放出される反射型として模式的に図示されている。
【0016】
基板12は、GaNの結晶をその上に形成することが可能な基板からなる。このような基板として、例えばサファイアからなる基板がある。サファイアからなる基板は、紫外域光を透過することができる点においても、光電面の基板として好適である。
【0017】
バッファー層14は、GaNから形成されている。サファイア基板と後述のGaN層との格子不整合を緩和するバッファー層14は、475℃程度の低温で成長させたGaN層である。バッファー層14が基板12とGaN層との間に形成されることで、第1及び第2のGaN層16、18の結晶成長は良好に行われる。バッファー層14の膜厚は例えば25nmである。
【0018】
第1のGaN層16は、MgがドープされていないGaNからなる。第1のGaN層16の膜厚は、例えば2.5μmである。
【0019】
第2のGaN層18は、MgがドープされたGaNからなる。第2のGaN層18は、光電面10の活性層である。第2のGaN層18の膜厚は、例えば2.5μmである。
【0020】
活性層である第2のGaN層18においては、Mg濃度とH濃度との比が所定の範囲にある。すなわち、Mg濃度とH濃度との比は、本願発明者が見出したように、キャリア濃度によって規定できる。したがって、キャリア濃度によってMg濃度とH濃度との比の上記所定範囲を規定すると、第2のGaN層18におけるキャリア濃度は、5.0×1017cm−3以下であり、1.0×1017cm−3以下であることがより好ましい。
【0021】
さらに、Mg濃度とH濃度との比は、本願発明者が見出したように、後述するラマン強度比によっても規定できる。したがって、ラマン強度比によってMg濃度とH濃度との比の上記所定範囲を規定すると、第2のGaN層18におけるラマン強度比は、0.22以下であり、0.18以下であることがより好ましい。
【0022】
この光電面10の動作を説明する。第2のGaN層18側から光電面10に光hνを入射させると、第2のGaN層18は活性層として機能し、ここで光子が吸収されて光電子が発生する。第2のGaN層18で発生した光電子は、第2のGaN層18表面から放出される。
【0023】
この光電面10の効果について説明する。光電面10では、第2のGaN層18のキャリア濃度が5.0×1017cm−3以下である。Mg濃度とH濃度との比がこのようなキャリア濃度を満たす範囲にある活性層を有する光電面では、その量子効率を大きくすることが可能となる。特に、第2のGaN層18のキャリア濃度が1.0×1017cm−3以下である場合には、量子効率をさらに大きくすることが可能となる。
【0024】
また、光電面10では、第2のGaN層18におけるラマン強度比が0.22以下である。Mg濃度とH濃度との比がこのようなラマン強度比を満たす範囲にある活性層を有する光電面では、その量子効率を大きくすることが可能となる。ここで、ラマン強度比とは、上述したように、活性層に対してラマンスペクトル測定を行って得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比をいう。特に、第2のGaN層18のラマン強度比が0.18以下である場合には、量子効率をさらに大きくすることが可能となる。なお、ラマン強度比は、例えば以下の表に示した条件で行われたラマンスペクトル測定の結果から得られる。
【表1】
【0025】
また、一般には、光電面10の第2のGaN層18は、5.0×1017cm−3以下、好ましくは1.0×1017cm−3以下のキャリア濃度、あるいは0.22以下、好ましくは0.18以下のラマン強度比のいずれか一方を満たせば良い。
【0026】
こうした効果が現れる理由は明確ではないが、以下のように考えることができる。このようなキャリア濃度の範囲、あるいはラマン強度比の範囲は、熱処理を行わない、あるいは低温で熱処理を行うことによって得られる。MgをドープしたGaNの光電面では、従来熱処理を行うことによって、Mgと錯体を作っているHを追い出し、P型に発現させていた。したがって、上記したようなキャリア濃度の範囲、あるいはラマン強度比の範囲で規定されるMg濃度とH濃度との比では、従来熱処理を行っていたGaNの光電面に比べてH濃度の比が大きくなっていると考えられる。このことから、熱処理によってMgと錯体を作っているHを追い出してP型に発現させるよりむしろ、HをMgに対して多く含んでいる方が、量子効率の向上に寄与すると考えることができる。また、熱処理を行うことによって、GaNの結晶表面がダメージを受け、このことによって量子効率の向上が阻まれているとも考えられる。
【0027】
また、第2のGaN層18におけるMg濃度とH濃度との比を上記したような範囲内の値とするためには、熱処理を行う必要がない。そのため、GaNの光電面の製造工程において熱処理の工程を減らすことができ、製造を容易にすることが可能となる。さらには、そのことによって製造コストの低減を図ることも可能となる。
【0028】
なお、本実施形態では光電面10を反射型の光電面としているが、本発明は反射型光電面に限定されず、透過型のものでも本発明の特徴は失われない。
【0029】
次に、本発明による電子管の実施形態について説明する。図2は、光電面10を透過型として適用した光電子増倍管の断面構成を説明する図である。光電子増倍管30は、入射光を透過する入射窓34と、入射窓34を支持する容器32とを備える。容器32内には光電子を放出する光電面10、放出された光電子を増倍部40へ導く集束電極36、電子を増倍する増倍部40、及び増倍された電子を収集する陽極38が設けられている。なお、光電子増倍管30では、光電面10の基板12が入射窓34として機能するように構成されていてもよい。
【0030】
集束電極36と陽極38との間に設けられる増倍部40は、複数のダイノード42で構成されている。各電極は、容器32を貫通するように設けられたステムピン44と電気的に接続されている。
【0031】
この光電子増倍管30の動作を説明する。光電子増倍管30において、入射窓34を透過した入射光hνが光電面10に入射する。光電面10において、第2のGaN層18が活性層として機能し、ここで光子が吸収されて光電子e−を発生する。第2のGaN層18で発生した光電子e−は、第2のGaN18層表面から放出される。放出された光電子e−は増倍部40で増倍され、陽極38によって収集される。
【0032】
本実施形態に係る光電子増倍管30は、上記したように高い量子効率を示す光電面10を備える。そのため、感度の良い光電子増倍管を実現することができる。また、光電面10ではコストの低減を図ることが可能となっているため、光電子増倍管30においてもコスト低減を図ることが可能となる。
【0033】
続いて、活性層である第2のGaN層のキャリア濃度を変えた具体的なサンプルA〜Dについて説明する。サンプルA及びサンプルBのキャリア濃度はいずれも1.0×1017cm−3以下である。サンプルC及びサンプルDのキャリア濃度はいずれも1.0×1017cm−3より大きい。
【0034】
サンプルA〜Dにおける基板は、サファイアからなる。また、これらのサンプルA〜Dにおけるバッファー層、第1のGaN層、及び第2のGaN層はいずれも、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって結晶成長させたものである。具体的には、まず、MOCVD法によって、基板上にバッファー層を堆積してからその上に第1のGaN層を成長させている。第1のGaN層を成長させた後、その上に第2のGaN層を、MOCVD法によって成長させている。
【0035】
サンプルAは、結晶成長後に熱処理を行うことなく得られたものである。サンプルB〜Dは、結晶成長後にそれぞれ、750℃、850℃、950℃の温度下、雰囲気3Lの窒素ガスの中に10分間放置されたものである。なお、図3に、熱処理の温度とキャリア濃度との関係を示す。
【0036】
次にサンプルA〜Dの光電面を反射型として用いて量子効率を測定した結果を示す。なお、この測定は、サンプルA〜Dを1−1/2インチの光電管に組み上げた状態で測定したものである。光電管の組み立てに関しては、文献(M.Niigaki, Jpn.J.App.Phys., 37, p.L1531-L1533, (1998))の記載を参考にすることができる。
【0037】
図4は、波長280nmの光に対する量子効率のキャリア濃度依存性を示すグラフである。図4に示した点A〜Dはそれぞれ、サンプルA〜Dを示す。図4から理解されるように、サンプルA及びサンプルBは5.0×1017cm−3以下のキャリア濃度である第2のGaN層を有し、この場合波長280nmの光に対して30%以上の高い量子効率を示す。また、図4に示されるように、第2のGaN層のキャリア濃度がより好ましい範囲である1.0×1017cm−3以下では、より高い量子効率を示し、この場合40%以上の量子効率を示すことも可能となっている。また、この場合、サンプルAは、サンプルDの約2倍の量子効率となるが図4に示されている。
【0038】
サンプルAでは、結晶成長直後にP型に発現させるための熱処理を行っていない。そのため、サンプルAはP型に発現していないと考えられる。このことと上記の結果とを併せると、高感度の光電面を得るのに、P型に発現している必要がないと考えることができる。
【0039】
前述したように、本願発明者は鋭意研究の結果、MgをドープしたGaNの光電面の量子効率は第2のGaN層でのMg濃度とH濃度との比に対して相関を有し、Mg濃度とH濃度との比はキャリア濃度によって規定できることを見いだした。サンプルA及びサンプルCのMg濃度とH濃度とを2次イオン質量分析(SIMS)により測定した結果を図5及び図6に示す。図5がサンプルAを、図6がサンプルCを表す。また、図5のグラフG1及び図6のグラフG3がMg濃度を、図5のG2及び図6のG4がH濃度を表す。活性層である第2のGaN層の膜厚は約2.5μmであるから、図5より、サンプルAの第2のGaN層では、H濃度とMg濃度との比が1に近いことがわかる。一方、図6より、サンプルCの第2のGaN層ではH濃度はMg濃度に比べて著しく低い(約1桁低い)ことがわかる。この結果からも、MgをドープしたGaNの光電面では、量子効率を上げるのに必ずしも熱処理によりMgと錯体を作っているHを追い出し、P型に発現させる必要はないことが示される。
【0040】
また、電気的特性については、サンプルAでは正確な測定は困難であるが、数十〜数百Ωcmの抵抗率であると考えられる。一方、サンプルCの抵抗率は、0.1〜1Ωcmである。このように、抵抗が高い光電面でも、量子効率を高くすることができることが示される。
【0041】
図7は、サンプルA〜Dの第2のGaN層について行ったラマンスペクトル測定の結果である。ラマンスペクトル測定は、表1に挙げた条件の下で行った。図7のグラフG1がサンプルAを、グラフG2がサンプルBを、グラフG3がサンプルCを、グラフG4がサンプルDを表す。また、横軸が波数(cm−1)を、縦軸が強度を表す。図7からわかるように、サンプルA〜Dは、波数144cm−1及び波数735cm−1にラマンピークをそれぞれ有する。波数144cm−1付近のピークは、ブロードで比較的強度の弱いピークである。レーザ光カットフィルターの限界点付近である波数144cm−1のラマン強度をラマン強度比の基準とした。なお、図8に、熱処理温度とラマン強度比との関係を示す。
【0042】
図9は、波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比に対して、光電面の示す量子効率を表したグラフである。図9に示された量子効率は、波長280nmの光に対するものである。図9から理解されるように、サンプルA及びサンプルBは0.22以下のラマン強度比を有し、この場合波長280nmの光に対して30%以上の高い量子効率を示す。また、図9に示されるように、より好ましい範囲である0.18以下のラマン強度比の範囲では、より高い量子効率を示し、この場合40%以上の高い量子効率を示すことも可能となっている。
【0043】
また、図10に反射型としてサンプルA及びCを用いた場合の量子効率の波長依存性を示す。図10のグラフG1はサンプルAを、グラフG2はサンプルCを表す。図10から、サンプルAは高い量子効率を示すことがわかる。
【0044】
また、本願発明者は、結晶成長後に熱処理を行うことなく得られた光電面について、複数のサンプルで量子効率の測定を行った。図11は、最高感度を示した光電面の量子効率の波長依存性を示すグラフである。
【0045】
なお、図4、図9〜図11に示す量子効率は実測値であり、サファイア基板の透過率は考慮していない。したがって光電面自体の量子効率は、図4、図9〜図11に示した値より高いと考えられる。サファイア基板の透過率を考慮して補正すると、例えば波長230nmの光に対して70%を越える量子効率も可能となる場合がある。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、光電面のバッファー層、第1のGaN層、及び第2のGaN層の成長方法は、MOCVD法に限られず、例えばMBE(Molecular Beam Epitaxy)法でもよい。また、基板は、サファイアに限られない。光電面を反射型として用いる場合には、基板は例えばSiC、AlGaN、GaN、スピネル(MgAl2O4)、Ga2O3などからなっていてもよい。また、光電面を透過型として用いる場合には、光を透過できるよう、基板は例えばAlNなどからなっていてもよい。
【0047】
また、光電子増倍管以外に光電管、イメージインテンシファイア(II管)などの電子管に本発明による光電面を適用してもよい。
【0048】
図12は、上記実施形態に係る光電面10を適用したイメージインテンシファイアの断面構成を説明する図である。近接型のイメージインテンシファイア50は、入射光を透過する入射窓材54を支持する容器52を備える。容器52内には光電子を放出する光電面10、マイクロチャンネルプレート(MCP)56、蛍光面58、及び出射窓材60が設けられている。マイクロチャンネルプレート56は、電子を増倍する増倍部として機能する。
【0049】
イメージインテンシファイア50では、光が入射窓材54を透過し、光電面10に入射することにより、光電面10から光電子が放出される。光電面10から放出された光電子は、マイクロチャンネルプレート56で増倍された後、蛍光面58に入射する。蛍光面58に入射した電子は、蛍光面58において光に変換され、外部に出射される。蛍光面58から出射した光は、出射窓材60を介して外部に出射される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、量子効率の高い光電面及びそれを備える電子管として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施形態に係る光電面の断面図である。
【図2】実施形態に係る光電子増倍管の断面構成を説明する図である。
【図3】実施例の熱処理温度に対するキャリア濃度を表したグラフである。
【図4】実施例のキャリア濃度に対する量子効率を表したグラフである。
【図5】実施例のMg濃度とH濃度とを表したグラフである。
【図6】実施例のMg濃度とH濃度とを表したグラフである。
【図7】実施例のラマンスペクトル測定を表したグラフである。
【図8】実施例の熱処理温度に対するラマン強度比を表したグラフである。
【図9】実施例のラマン強度比に対する量子効率を表したグラフである。
【図10】実施例の量子効率の波長依存性を表したグラフである。
【図11】実施例の量子効率の波長依存性を表したグラフである。
【図12】イメージインテンシファイアの断面構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0052】
10…光電面、12…基板、14…バッファー層、16…第1のGaN層、18…第2のGaN層、30…光電子増倍管、32…容器、34…入射窓、36…集束電極、38…陽極、40…増倍部、42…ダイノード、44…ステムピン、50…イメージインテンシファイア、52…容器、54…入射窓材、56…増倍部、58…蛍光面、60…出射窓材
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の入射により光電子を外部に放出する光電面及びそれを備える電子管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電面は、入射した光に応じて発生する電子(光電子)を放出する素子であり、例えば光電子増倍管に用いられている。ここで、入射光に対する光電面の感度は高いことが好ましいが、光電面の感度を高くするためには、光電面に入射する光子の数に対する光電面外部に放出される光電子の数の割合を示す量子効率を高くする必要がある。
【0003】
また、光電面においては、従来、1960年代にSpicerらが提唱した理論から、半導体による光電面ではP型でないと外部光電効果による光電子放出が起こらないと考えられている。これは、N型では光電面の表面近傍においてバンドが上方に湾曲して真空準位が見かけ上上がり、電子を放出しにくくなるのに対し、P型では光電面の表面近傍においてバンドが下方に湾曲して真空準位が見かけ上下がり、電子を放出しやすくなるためである(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】W.E.Spicer,Appl.Phys.12, p.115-130 (1977)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、GaN結晶を光電面に応用することが検討されている。また、このようなGaN結晶を用いた光電面においても、その量子効率のさらなる向上が望まれている。
【0005】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、量子効率が高い光電面及びそれを備える電子管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
GaN結晶については、一般に、P型に発現させるために熱処理を必要とすることが知られている。したがって、GaN結晶を光電面に応用する場合、光電子放出に関する上記した理論により、結晶に対して熱処理を行ってP型化させる必要があると考えられる。例えば、MgをドープしたGaN結晶に対して熱処理を行うと、Hが結晶から追い出されてMg濃度に対するH濃度の比が大幅に低下し、これによってGaN結晶がP型化する。
【0007】
本願発明者は、このようなGaN結晶に対する熱処理について検討を行った結果、MgをドープしたGaN結晶を用いた光電面の量子効率はMg濃度とH濃度との比に対して相関を有すること、また、熱処理によるGaN結晶のP型化が光電面を高感度化する上で必ずしも必要ではないことを見出し、本発明に到達した。
【0008】
このような検討結果を踏まえ、本発明による光電面は、光の入射により光電子を外部に放出する光電面において、MgがドープされたGaNからなる活性層を備え、活性層でのキャリア濃度が、5.0×1017cm−3以下であることを特徴とする。本願発明者は、上述したように、MgをドープしたGaNの光電面の量子効率はMg濃度とH濃度との比に対して相関を有することを見出した上で、さらにMg濃度とH濃度との比はキャリア濃度で規定できることを見出した。そして、5.0×1017cm−3以下のキャリア濃度範囲でGaNの光電面の量子効率が向上されることを見出すに至った。
【0009】
キャリア濃度は、1.0×1017cm−3以下であることがさらに好ましい。この場合、さらなる量子効率の向上が図られる。
【0010】
また、本発明による光電面は、光の入射により光電子を外部に放出する光電面において、MgがドープされたGaNからなる活性層を備え、活性層に対してラマンスペクトル測定を行って得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比が、0.22以下であることを特徴とする。本願発明者は、上述したように、MgをドープしたGaNの光電面の量子効率はMg濃度とH濃度との比に対して相関を有することを見出した上で、さらにMg濃度とH濃度との比は、活性層に対してラマンスペクトル測定を行って得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比(以下、「ラマン強度比」と称する。)で規定できることを見出した。そして、0.22以下のラマン強度比の範囲でGaNの光電面の量子効率が向上されることを見出すに至った。
【0011】
強度比は、0.18以下であることがさらに好ましい。この場合、さらなる量子効率の向上が図られる。
【0012】
また、本発明による電子管は、入射光を透過する入射窓と、上記の光電面と、光電面から放出された電子を収集する陽極と、光電面及び陽極を収納すると共に入射窓を支持する容器と、を備えることを特徴とする。このような構成とすることにより感度の良い電子管を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、量子効率の高い光電面及びそれを備える電子管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面とともに、本発明による光電面の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る光電面の構成を一部拡大して示す断面図である。この光電面10では、図1に示すように、基板12上にバッファー層14、第1のGaN層16、及び第2のGaN層18がこの順で形成されている。図1においては、光電面10は、第2のGaN層18側から光hνが入射し、第2のGaN層18側から光電子e−が放出される反射型として模式的に図示されている。
【0016】
基板12は、GaNの結晶をその上に形成することが可能な基板からなる。このような基板として、例えばサファイアからなる基板がある。サファイアからなる基板は、紫外域光を透過することができる点においても、光電面の基板として好適である。
【0017】
バッファー層14は、GaNから形成されている。サファイア基板と後述のGaN層との格子不整合を緩和するバッファー層14は、475℃程度の低温で成長させたGaN層である。バッファー層14が基板12とGaN層との間に形成されることで、第1及び第2のGaN層16、18の結晶成長は良好に行われる。バッファー層14の膜厚は例えば25nmである。
【0018】
第1のGaN層16は、MgがドープされていないGaNからなる。第1のGaN層16の膜厚は、例えば2.5μmである。
【0019】
第2のGaN層18は、MgがドープされたGaNからなる。第2のGaN層18は、光電面10の活性層である。第2のGaN層18の膜厚は、例えば2.5μmである。
【0020】
活性層である第2のGaN層18においては、Mg濃度とH濃度との比が所定の範囲にある。すなわち、Mg濃度とH濃度との比は、本願発明者が見出したように、キャリア濃度によって規定できる。したがって、キャリア濃度によってMg濃度とH濃度との比の上記所定範囲を規定すると、第2のGaN層18におけるキャリア濃度は、5.0×1017cm−3以下であり、1.0×1017cm−3以下であることがより好ましい。
【0021】
さらに、Mg濃度とH濃度との比は、本願発明者が見出したように、後述するラマン強度比によっても規定できる。したがって、ラマン強度比によってMg濃度とH濃度との比の上記所定範囲を規定すると、第2のGaN層18におけるラマン強度比は、0.22以下であり、0.18以下であることがより好ましい。
【0022】
この光電面10の動作を説明する。第2のGaN層18側から光電面10に光hνを入射させると、第2のGaN層18は活性層として機能し、ここで光子が吸収されて光電子が発生する。第2のGaN層18で発生した光電子は、第2のGaN層18表面から放出される。
【0023】
この光電面10の効果について説明する。光電面10では、第2のGaN層18のキャリア濃度が5.0×1017cm−3以下である。Mg濃度とH濃度との比がこのようなキャリア濃度を満たす範囲にある活性層を有する光電面では、その量子効率を大きくすることが可能となる。特に、第2のGaN層18のキャリア濃度が1.0×1017cm−3以下である場合には、量子効率をさらに大きくすることが可能となる。
【0024】
また、光電面10では、第2のGaN層18におけるラマン強度比が0.22以下である。Mg濃度とH濃度との比がこのようなラマン強度比を満たす範囲にある活性層を有する光電面では、その量子効率を大きくすることが可能となる。ここで、ラマン強度比とは、上述したように、活性層に対してラマンスペクトル測定を行って得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比をいう。特に、第2のGaN層18のラマン強度比が0.18以下である場合には、量子効率をさらに大きくすることが可能となる。なお、ラマン強度比は、例えば以下の表に示した条件で行われたラマンスペクトル測定の結果から得られる。
【表1】
【0025】
また、一般には、光電面10の第2のGaN層18は、5.0×1017cm−3以下、好ましくは1.0×1017cm−3以下のキャリア濃度、あるいは0.22以下、好ましくは0.18以下のラマン強度比のいずれか一方を満たせば良い。
【0026】
こうした効果が現れる理由は明確ではないが、以下のように考えることができる。このようなキャリア濃度の範囲、あるいはラマン強度比の範囲は、熱処理を行わない、あるいは低温で熱処理を行うことによって得られる。MgをドープしたGaNの光電面では、従来熱処理を行うことによって、Mgと錯体を作っているHを追い出し、P型に発現させていた。したがって、上記したようなキャリア濃度の範囲、あるいはラマン強度比の範囲で規定されるMg濃度とH濃度との比では、従来熱処理を行っていたGaNの光電面に比べてH濃度の比が大きくなっていると考えられる。このことから、熱処理によってMgと錯体を作っているHを追い出してP型に発現させるよりむしろ、HをMgに対して多く含んでいる方が、量子効率の向上に寄与すると考えることができる。また、熱処理を行うことによって、GaNの結晶表面がダメージを受け、このことによって量子効率の向上が阻まれているとも考えられる。
【0027】
また、第2のGaN層18におけるMg濃度とH濃度との比を上記したような範囲内の値とするためには、熱処理を行う必要がない。そのため、GaNの光電面の製造工程において熱処理の工程を減らすことができ、製造を容易にすることが可能となる。さらには、そのことによって製造コストの低減を図ることも可能となる。
【0028】
なお、本実施形態では光電面10を反射型の光電面としているが、本発明は反射型光電面に限定されず、透過型のものでも本発明の特徴は失われない。
【0029】
次に、本発明による電子管の実施形態について説明する。図2は、光電面10を透過型として適用した光電子増倍管の断面構成を説明する図である。光電子増倍管30は、入射光を透過する入射窓34と、入射窓34を支持する容器32とを備える。容器32内には光電子を放出する光電面10、放出された光電子を増倍部40へ導く集束電極36、電子を増倍する増倍部40、及び増倍された電子を収集する陽極38が設けられている。なお、光電子増倍管30では、光電面10の基板12が入射窓34として機能するように構成されていてもよい。
【0030】
集束電極36と陽極38との間に設けられる増倍部40は、複数のダイノード42で構成されている。各電極は、容器32を貫通するように設けられたステムピン44と電気的に接続されている。
【0031】
この光電子増倍管30の動作を説明する。光電子増倍管30において、入射窓34を透過した入射光hνが光電面10に入射する。光電面10において、第2のGaN層18が活性層として機能し、ここで光子が吸収されて光電子e−を発生する。第2のGaN層18で発生した光電子e−は、第2のGaN18層表面から放出される。放出された光電子e−は増倍部40で増倍され、陽極38によって収集される。
【0032】
本実施形態に係る光電子増倍管30は、上記したように高い量子効率を示す光電面10を備える。そのため、感度の良い光電子増倍管を実現することができる。また、光電面10ではコストの低減を図ることが可能となっているため、光電子増倍管30においてもコスト低減を図ることが可能となる。
【0033】
続いて、活性層である第2のGaN層のキャリア濃度を変えた具体的なサンプルA〜Dについて説明する。サンプルA及びサンプルBのキャリア濃度はいずれも1.0×1017cm−3以下である。サンプルC及びサンプルDのキャリア濃度はいずれも1.0×1017cm−3より大きい。
【0034】
サンプルA〜Dにおける基板は、サファイアからなる。また、これらのサンプルA〜Dにおけるバッファー層、第1のGaN層、及び第2のGaN層はいずれも、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって結晶成長させたものである。具体的には、まず、MOCVD法によって、基板上にバッファー層を堆積してからその上に第1のGaN層を成長させている。第1のGaN層を成長させた後、その上に第2のGaN層を、MOCVD法によって成長させている。
【0035】
サンプルAは、結晶成長後に熱処理を行うことなく得られたものである。サンプルB〜Dは、結晶成長後にそれぞれ、750℃、850℃、950℃の温度下、雰囲気3Lの窒素ガスの中に10分間放置されたものである。なお、図3に、熱処理の温度とキャリア濃度との関係を示す。
【0036】
次にサンプルA〜Dの光電面を反射型として用いて量子効率を測定した結果を示す。なお、この測定は、サンプルA〜Dを1−1/2インチの光電管に組み上げた状態で測定したものである。光電管の組み立てに関しては、文献(M.Niigaki, Jpn.J.App.Phys., 37, p.L1531-L1533, (1998))の記載を参考にすることができる。
【0037】
図4は、波長280nmの光に対する量子効率のキャリア濃度依存性を示すグラフである。図4に示した点A〜Dはそれぞれ、サンプルA〜Dを示す。図4から理解されるように、サンプルA及びサンプルBは5.0×1017cm−3以下のキャリア濃度である第2のGaN層を有し、この場合波長280nmの光に対して30%以上の高い量子効率を示す。また、図4に示されるように、第2のGaN層のキャリア濃度がより好ましい範囲である1.0×1017cm−3以下では、より高い量子効率を示し、この場合40%以上の量子効率を示すことも可能となっている。また、この場合、サンプルAは、サンプルDの約2倍の量子効率となるが図4に示されている。
【0038】
サンプルAでは、結晶成長直後にP型に発現させるための熱処理を行っていない。そのため、サンプルAはP型に発現していないと考えられる。このことと上記の結果とを併せると、高感度の光電面を得るのに、P型に発現している必要がないと考えることができる。
【0039】
前述したように、本願発明者は鋭意研究の結果、MgをドープしたGaNの光電面の量子効率は第2のGaN層でのMg濃度とH濃度との比に対して相関を有し、Mg濃度とH濃度との比はキャリア濃度によって規定できることを見いだした。サンプルA及びサンプルCのMg濃度とH濃度とを2次イオン質量分析(SIMS)により測定した結果を図5及び図6に示す。図5がサンプルAを、図6がサンプルCを表す。また、図5のグラフG1及び図6のグラフG3がMg濃度を、図5のG2及び図6のG4がH濃度を表す。活性層である第2のGaN層の膜厚は約2.5μmであるから、図5より、サンプルAの第2のGaN層では、H濃度とMg濃度との比が1に近いことがわかる。一方、図6より、サンプルCの第2のGaN層ではH濃度はMg濃度に比べて著しく低い(約1桁低い)ことがわかる。この結果からも、MgをドープしたGaNの光電面では、量子効率を上げるのに必ずしも熱処理によりMgと錯体を作っているHを追い出し、P型に発現させる必要はないことが示される。
【0040】
また、電気的特性については、サンプルAでは正確な測定は困難であるが、数十〜数百Ωcmの抵抗率であると考えられる。一方、サンプルCの抵抗率は、0.1〜1Ωcmである。このように、抵抗が高い光電面でも、量子効率を高くすることができることが示される。
【0041】
図7は、サンプルA〜Dの第2のGaN層について行ったラマンスペクトル測定の結果である。ラマンスペクトル測定は、表1に挙げた条件の下で行った。図7のグラフG1がサンプルAを、グラフG2がサンプルBを、グラフG3がサンプルCを、グラフG4がサンプルDを表す。また、横軸が波数(cm−1)を、縦軸が強度を表す。図7からわかるように、サンプルA〜Dは、波数144cm−1及び波数735cm−1にラマンピークをそれぞれ有する。波数144cm−1付近のピークは、ブロードで比較的強度の弱いピークである。レーザ光カットフィルターの限界点付近である波数144cm−1のラマン強度をラマン強度比の基準とした。なお、図8に、熱処理温度とラマン強度比との関係を示す。
【0042】
図9は、波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比に対して、光電面の示す量子効率を表したグラフである。図9に示された量子効率は、波長280nmの光に対するものである。図9から理解されるように、サンプルA及びサンプルBは0.22以下のラマン強度比を有し、この場合波長280nmの光に対して30%以上の高い量子効率を示す。また、図9に示されるように、より好ましい範囲である0.18以下のラマン強度比の範囲では、より高い量子効率を示し、この場合40%以上の高い量子効率を示すことも可能となっている。
【0043】
また、図10に反射型としてサンプルA及びCを用いた場合の量子効率の波長依存性を示す。図10のグラフG1はサンプルAを、グラフG2はサンプルCを表す。図10から、サンプルAは高い量子効率を示すことがわかる。
【0044】
また、本願発明者は、結晶成長後に熱処理を行うことなく得られた光電面について、複数のサンプルで量子効率の測定を行った。図11は、最高感度を示した光電面の量子効率の波長依存性を示すグラフである。
【0045】
なお、図4、図9〜図11に示す量子効率は実測値であり、サファイア基板の透過率は考慮していない。したがって光電面自体の量子効率は、図4、図9〜図11に示した値より高いと考えられる。サファイア基板の透過率を考慮して補正すると、例えば波長230nmの光に対して70%を越える量子効率も可能となる場合がある。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、光電面のバッファー層、第1のGaN層、及び第2のGaN層の成長方法は、MOCVD法に限られず、例えばMBE(Molecular Beam Epitaxy)法でもよい。また、基板は、サファイアに限られない。光電面を反射型として用いる場合には、基板は例えばSiC、AlGaN、GaN、スピネル(MgAl2O4)、Ga2O3などからなっていてもよい。また、光電面を透過型として用いる場合には、光を透過できるよう、基板は例えばAlNなどからなっていてもよい。
【0047】
また、光電子増倍管以外に光電管、イメージインテンシファイア(II管)などの電子管に本発明による光電面を適用してもよい。
【0048】
図12は、上記実施形態に係る光電面10を適用したイメージインテンシファイアの断面構成を説明する図である。近接型のイメージインテンシファイア50は、入射光を透過する入射窓材54を支持する容器52を備える。容器52内には光電子を放出する光電面10、マイクロチャンネルプレート(MCP)56、蛍光面58、及び出射窓材60が設けられている。マイクロチャンネルプレート56は、電子を増倍する増倍部として機能する。
【0049】
イメージインテンシファイア50では、光が入射窓材54を透過し、光電面10に入射することにより、光電面10から光電子が放出される。光電面10から放出された光電子は、マイクロチャンネルプレート56で増倍された後、蛍光面58に入射する。蛍光面58に入射した電子は、蛍光面58において光に変換され、外部に出射される。蛍光面58から出射した光は、出射窓材60を介して外部に出射される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、量子効率の高い光電面及びそれを備える電子管として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施形態に係る光電面の断面図である。
【図2】実施形態に係る光電子増倍管の断面構成を説明する図である。
【図3】実施例の熱処理温度に対するキャリア濃度を表したグラフである。
【図4】実施例のキャリア濃度に対する量子効率を表したグラフである。
【図5】実施例のMg濃度とH濃度とを表したグラフである。
【図6】実施例のMg濃度とH濃度とを表したグラフである。
【図7】実施例のラマンスペクトル測定を表したグラフである。
【図8】実施例の熱処理温度に対するラマン強度比を表したグラフである。
【図9】実施例のラマン強度比に対する量子効率を表したグラフである。
【図10】実施例の量子効率の波長依存性を表したグラフである。
【図11】実施例の量子効率の波長依存性を表したグラフである。
【図12】イメージインテンシファイアの断面構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0052】
10…光電面、12…基板、14…バッファー層、16…第1のGaN層、18…第2のGaN層、30…光電子増倍管、32…容器、34…入射窓、36…集束電極、38…陽極、40…増倍部、42…ダイノード、44…ステムピン、50…イメージインテンシファイア、52…容器、54…入射窓材、56…増倍部、58…蛍光面、60…出射窓材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の入射により光電子を外部に放出する光電面において、
MgがドープされたGaNからなる活性層を備え、
前記活性層でのキャリア濃度が、5.0×1017cm−3以下であることを特徴とする光電面。
【請求項2】
前記キャリア濃度は、1.0×1017cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載の光電面。
【請求項3】
光の入射により光電子を外部に放出する光電面において、
MgがドープされたGaNからなる活性層を備え、
前記活性層に対してラマンスペクトル測定を行って得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比が、0.22以下であることを特徴とする光電面。
【請求項4】
前記強度比は、0.18以下であることを特徴とする請求項3に記載の光電面。
【請求項5】
入射光を透過する入射窓と、
請求項1〜4のいずれか一項記載の光電面と、
前記光電面から放出された電子を収集する陽極と、
前記光電面及び前記陽極を収納すると共に前記入射窓を支持する容器と、
を備えることを特徴とする電子管。
【請求項1】
光の入射により光電子を外部に放出する光電面において、
MgがドープされたGaNからなる活性層を備え、
前記活性層でのキャリア濃度が、5.0×1017cm−3以下であることを特徴とする光電面。
【請求項2】
前記キャリア濃度は、1.0×1017cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載の光電面。
【請求項3】
光の入射により光電子を外部に放出する光電面において、
MgがドープされたGaNからなる活性層を備え、
前記活性層に対してラマンスペクトル測定を行って得られる波数735cm−1でのラマンピーク強度に対する波数144cm−1でのラマン強度の強度比が、0.22以下であることを特徴とする光電面。
【請求項4】
前記強度比は、0.18以下であることを特徴とする請求項3に記載の光電面。
【請求項5】
入射光を透過する入射窓と、
請求項1〜4のいずれか一項記載の光電面と、
前記光電面から放出された電子を収集する陽極と、
前記光電面及び前記陽極を収納すると共に前記入射窓を支持する容器と、
を備えることを特徴とする電子管。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−302843(P2006−302843A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126975(P2005−126975)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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