説明

光音響画像化装置、方法、及びプログラム

【課題】光音響イメージングにおいて、特別な操作を必要とせずに深部を適切な観察状態で観察可能とする。
【解決手段】照明手段13は、光源12からの光を被検体内に照射する。超音波探触子11は、被検体内で生じた光音響信号を検出する。増幅手段15は、光音響信号を、深さ方向の位置に応じたゲインで増幅する。選択情報取得手段17は、光音響画像の生成に際して、検出される光音響信号の深さ方向の減衰特性に影響を与える情報をゲイン選択情報として取得する。ゲイン情報記憶手段19は、ゲイン選択情報とゲイン調整情報とを対応付けて記憶している。ゲイン制御手段18は、ゲイン情報記憶手段19から、取得されたゲイン選択情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出し、読み出したゲイン調整情報に基づくゲインを増幅手段15に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響画像化装置、方法、及びプログラムに関し、被検体内に照射した光により生じた音響信号を受信して画像を生成する光音響画像化装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体内部の状態を非侵襲で検査できる画像検査法の一種として、超音波検査法が知られている。超音波検査では、超音波の送信及び受信が可能な超音波探触子を用いる。超音波探触子から被検体に超音波を送信させると、その超音波は被検体内部を進んでいき、組織界面で反射する。超音波探触子でその反射音波を受信し、反射超音波が超音波探触子に戻ってくるまでの時間に基づいて距離を計算することで、内部の様子を画像化することができる。
【0003】
また、光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響イメージングが知られている。一般に光音響イメージングでは、レーザパルスなどのパルスレーザ光を生体内に照射する。生体内部では、生体組織がパルスレーザ光のエネルギーを吸収し、そのエネルギーによる断熱膨張により超音波(光音響信号)が発生する。この光音響信号を超音波プローブなどで検出し、検出信号に基づいて光音響画像を構成することで、光音響信号に基づく生体内の可視化が可能である。
【0004】
ここで、超音波画像診断装置には、深部からの信号の減衰を補正するためのSTC(Sensitive Time Control)又はTGC(Time Gain Control)と呼ばれる機能が備わっている。STC処理に関し、特許文献1には、プローブから得られる信号を処理して超音波ビームに対応した受信ビーム信号を形成し、形成した受信ビーム信号に対してSTC処理を施すことが記載されている。また、特許文献1には、プローブの種類とプローブの用途とに応じて複数のSTCデータを記憶しておき、そこからSTCデータを読み出してSTC処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−178277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超音波検査法では、超音波探触子から出力した超音波に対する反射音波を検出しているのに対し、光音響イメージングでは、光照射部から照射された光により生じた光音響信号を検出しており、超音波探触子で検出する超音波(反射音波、光音響信号)の発生メカニズムは超音波検査法と光音響イメージングとでは大きく異なる。光音響イメージングでは、光の減衰に光音響信号の減衰が加わるため、超音波検査法と比べて深部での信号レベル低下が大きくなる。このため、光音響イメージングでは、常にあるレベルでSTCを掛けておくことが望ましい。
【0007】
特許文献1には、超音波画像において、プローブの種類や用途に応じてSTCデータを使い分けることが記載されている。しかし、上記したように、超音波検査法と光音響イメージングとでは検出すべき超音波の発生メカニズムが大きく異なり、特許文献1に記載の技術をそのまま光音響イメージングに適用することはできない。
【0008】
本発明は、上記に鑑み、光音響イメージングにおいて、特別な操作を必要とせずに深部を適切な観察状態で観察可能な光音響画像化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、光源と、前記光源からの光を被検体内に照射する照明手段と、前記照明手段から照射された光により前記被検体内で生じた光音響信号を検出する超音波探触子と、前記光音響信号に基づいて光音響画像を生成する画像生成手段と、前記画像生成手段に入力される光音響信号又は前記光音響画像における画素値を、深さ方向の位置に応じたゲインで増幅する増幅手段と、光音響画像の生成に際して、前記超音波探触子で検出される光音響信号の深さ方向の減衰特性に影響を与える情報をゲイン選択情報として取得する選択情報取得手段と、前記ゲイン選択情報とゲイン調整情報とを対応付けて記憶するゲイン情報記憶手段から、前記選択情報取得手段が取得したゲイン選択情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出し、該読み出したゲイン調整情報に基づくゲインを前記増幅手段に設定するゲイン制御手段とを備えたことを特徴とする光音響画像化装置を提供する。
【0010】
本発明の光音響画像化装置では、前記照明手段が、切替え可能な照明範囲で光を照射するものであり、前記ゲイン選択情報が、前記照明手段が前記被検体内に照射した光の照明範囲に関係する光照射範囲情報を含むものである構成を採用することができる。
【0011】
また本発明の光音響画像化装置では、前記照明手段が、前記被検体の画像化する部分を複数の領域に分割した分割領域のそれぞれに対応した複数の光照射部を含み、前記光照射範囲情報が、前記複数の光照射部のうちのどの光照射部から前記被検体内に光が照射されたかを示す情報を含むものである構成を採用してもよい。
【0012】
前記ゲイン選択情報が、前記光照射範囲情報に代えて、又はこれに加えて、測定対象の組織に関係する測定対象組織情報を含むものであってもよい。前記測定対象組織情報は、測定対象の組織の指定情報及び測定対象組織の状態情報の何れか一方又は双方を含むものとしてよい。
【0013】
前記増幅手段が、前記深さ方向の位置に応じた光音響信号の減衰又は前記画素値の低下を補償するように、前記受信された光音響信号又は前記光音響画像における画素値を増幅する構成とすることができる。
【0014】
前記ゲイン情報記憶手段は、前記ゲイン調整情報を、前記ゲイン選択情報ごとにLUT(Look Up Table)として記憶してもよい。これに代えて、前記ゲイン情報記憶手段が、前記ゲインを決定する際に用いられる、深さ方向の関数である所定の関数のパラメータを前記ゲイン調整情報として記憶してもよい。
【0015】
本発明は、また、被検体内に照射された光により前記被検体内で生じた光音響信号を検出するステップと、前記検出された光音響信号に基づいて光音響画像を生成するステップと、前記光音響画像の生成に際して、検出される光音響信号の深さ方向の減衰特性に影響を与える情報をゲイン選択情報として取得するステップと、前記ゲイン選択情報とゲイン調整情報とを対応付けて記憶するゲイン情報記憶手段から、前記取得されたゲイン選択情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出すステップと、光音響画像の生成の際に用いられる光音響信号又は前記光音響画像における画素値を、前記読み出されたゲイン調整情報に基づく、深さ方向の位置に応じたゲインで増幅するステップとを有することを特徴とする光音響画像化方法を提供する。
【0016】
更に本発明は、コンピュータに、被検体内に照射された光により前記被検体内で生じた光音響信号を検出する手順と、前記検出された光音響信号に基づいて光音響画像を生成する手順と、前記光音響画像の生成に際して、検出される光音響信号の深さ方向の減衰特性に影響を与える情報をゲイン選択情報として取得する手順と、前記ゲイン選択情報とゲイン調整情報とを対応付けて記憶するゲイン情報記憶手段から、前記取得されたゲイン選択情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出す手順と、前記光音響画像の生成の際に用いられる光音響信号又は前記光音響画像における画素値を、前記読み出されたゲイン調整情報に基づく、深さ方向の位置に応じたゲインで増幅する手順とを実行させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光音響画像化装置、方法、及びプログラムでは、ゲイン情報記憶手段に、ゲイン選択情報とゲイン調整情報とを記憶しておき、光音響画像の生成に際してゲイン選択情報を取得し、取得したゲイン選択情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出す。読み出したゲイン調整情報に基づく、深さ方向の位置に応じたゲインで光音響画像生成の際の光音響信号又は光音響画像における画素値を増幅することで、ユーザは、特別な操作を行わなくても、光音響画像において深部を適切な観察状態で観察することができる。
【0018】
特に、ゲイン選択情報に光の光照射範囲情報を用いる場合は、照明範囲が狭く超音波探触子で検出される光音響信号の深さ方向に対する減衰が大きいときでも、例えば深さ方向の位置に応じた光音響信号の減衰を補償するように増幅手段で光音響信号を増幅することで、深部を適切な観察状態で観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態の光音響画像化装置を示すブロック図。
【図2】照明手段と超音波探触子とを示す斜視図。
【図3】光音響信号の減衰特性を示すグラフ。
【図4】照明範囲とμeffとの関係を示すグラフ。
【図5】動作手順を示すフローチャート。
【図6】測定対象組織ごとの照明範囲とμeffとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態の光音響画像化装置を示す。光音響画像化装置10は、超音波探触子11、光源12、照明手段13、信号処理手段14、及び表示手段20を備える。光源12は、例えば所定波長のパルスレーザ光を生成する。照明手段13は、光源12からのレーザ光を被検体内に照射する。照明手段13が被検体内に照射する光の範囲(照明範囲)は、複数の照明範囲の中で切り替え可能である。
【0021】
超音波探触子11は、被検体内にレーザ光が照射された後、その光照射により生じた音響信号(以下、光音響信号とも呼ぶ)を検出する。超音波探触子11は、それぞれが、光音響信号を検出して電気信号に変換する複数の超音波振動子を含む。複数の超音波振動子は、例えば所定の方向に沿って一列に配列される。超音波探触子11で検出された光音響信号は、図示しないAD変換器などでデジタル信号に変換された後に、信号処理手段14に入力される。
【0022】
信号処理手段14は、増幅手段15、画像生成手段16、選択情報取得手段17、ゲイン制御手段18、及びゲイン情報記憶手段19を有する。信号処理手段14内の各部の機能は、コンピュータが所定のプログラムに従って処理を実行することで実現可能である。なお、ゲイン情報記憶手段17は、信号処理手段14から参照可能であればよく、信号処理手段14内に設けられている必要はない。
【0023】
増幅手段15は、STC処理を行う手段である。増幅手段15は、超音波探触子11で検出された光音響信号を、深さ方向の位置に応じたゲインで増幅する。言い換えれば、増幅手段15は、光音響信号を、光音響信号検出開始(サンプリング開始)からの経過時間、すなわち光音響信号の発生源の深さ方向の位置に応じたゲインで増幅する。増幅手段15は、例えば深さ方向の位置に応じた光音響信号の減衰を補償するように、光音響信号を増幅する。
【0024】
画像生成手段16は、増幅手段15で深さ方向の位置に応じて増幅された光音響信号に基づいて光音響画像を生成する。表示手段20は、例えば液晶表示装置などの画像表示が可能な表示装置である。表示手段20は、表示画面上に、画像生成手段16が生成した光音響画像を表示する。
【0025】
選択情報取得手段17は、光音響画像の生成に際して、超音波探触子11で検出される光音響信号の深さ方向の減衰特性に影響を与える情報をゲイン選択情報として取得する。本実施形態では、照明手段13が被検体内に照射した光の照明範囲に関係する光照射範囲情報を、ゲイン選択情報として取得する。照明手段13は、被検体の画像化する部分を複数の領域に分割した分割領域のそれぞれに対応した複数の光照射部を含んでいる。選択情報取得手段17は、複数の光照射部のうちのどの光照射部から被検体内に光が照射されたかを示す情報を光照射範囲情報として取得する。
【0026】
図2は、照明手段13と超音波探触子11とを示す。照明手段13は、例えば6つの光照射部21a〜21fを有する。超音波探触子11は、x方向に一列に並ぶ複数の超音波振動子を有する。光照射部21aと光照射部21dとは、超音波探触子11をy方向に挟んで対向する位置に配置される。光照射部21bと光照射部21eとは、超音波探触子11をy方向に挟んで対向する位置に配置される。光照射部21cと光照射部21fとは、超音波探触子11をy方向に挟んで対向する位置に配置される。光源12(図1)からの光は、光ファイバ22を用いて各光照射部21a〜21fまで導かれる。各光照射部21a〜21fが被検体内に照射する光のパワーは同一であるとする。
【0027】
光音響画像の生成に際して、照明手段13が有する6つの光照射部21a〜21fは、所望のパターン(組み合わせ)で被検体内に光を照射する。例えばある局面において、照明手段13は、光照射部21aと光照射部21dとのペアを用いて被検体内に光を照射する。別の局面では、光照射部21aと光照射部21dとのペアに加えて、光照射部21bと光照射部21eとのペアを用いて被検体内に光を照射することができる。更に別の局面では、光照射部21a〜21fの全てを用いて、被検体内に光を照射してもよい。被検体内に光を照射する際に用いられた光照射部の組み合わせに応じて、被検体内に照射される光の範囲(照明範囲)が変化する。
【0028】
図3は、光音響信号の深さ方向の減衰特性を示す。シミュレーションにより、直径8cm(Φ8)から直径0.3cm(Φ0.3)までの計5つの大きさで同一のエネルギー密度の光を被検体内に照射したときの音源の深さ方向の位置と光音響信号の強度との関係を求めた。シミュレーションでは、光吸収係数μaを0.1とし、光散乱係数μsを10とした。また、レーザ光の波長は532nmとした。図3のグラフにおいて、縦軸は光音響信号の強度を表し、横軸は深さ方向の位置を表す。縦軸は対数目盛で示している。
【0029】
図3に示すグラフを参照すると、光音響信号の信号強度は、深さ方向の位置が深くなるほど弱くなることがわかる。すなわち、光音響信号の減衰は、深さ方向の位置が深くなるほど大きくなることがわかる。また、光音響信号の強度は、照射された光の直径に依存し、直径が大きいほど(光の照射面積が広いほど)、光信号の信号強度が高くなることがわかる。各光の直径に対して、図3のグラフに示す減衰特性を補償し、信号強度が深さ方向の位置によらず一定となるように光音響信号を増幅することで、深部の観察が可能になる。
【0030】
図1に戻り、ゲイン情報記憶手段19は、ゲイン選択情報とゲイン調整情報とを対応付けて記憶する。例えば照明手段13が6つの光照射部21a〜21f(図2)を有し、そのうちの2つ、4つ、6つの何れかを用いて被検体内に光を照射する場合、ゲイン情報記憶手段19は、3つの光照射範囲のそれぞれに対応してゲイン調整情報を記憶する。ここで、ゲイン調整情報とは、増幅手段15において深さ方向の位置応じたゲインで光音響信号を増幅する際に、どのようにゲインを調整するかに関係する情報である。
【0031】
例えば、2つの光照射部21から光が照射されたときに対応するゲイン選択情報に対応付けて記憶されるゲイン調整情報は、シミュレーションなどを用いて、2つ光照射部21から光が照射されたときの光音響信号の深さ方向に対する減衰特性を求めておくことで決定できる。4つの光照射部21から光が照射されたとき、及び6つの光照射部21から光が照射されたときに対応するゲイン選択情報に対応付けて記憶されるゲイン調整情報も、同様に、例えばシミュレーションなどを用いて光音響信号の深さ方向に対する減衰特性を求めておくことで決定できる
【0032】
ゲイン情報記憶手段19は、ゲイン調整情報を、ゲイン選択情報ごとのLUT(Look Up Table)として記憶することができる。例えばゲイン情報記憶手段19は、3つの光照射範囲情報のそれぞれに対応して、深さ方向の位置から、その位置での光音響信号を増幅する際のゲインを決定するためのLUTを記憶する。あるいはゲイン情報記憶手段19は、増幅手段15において光音響信号を増幅する際のゲインを決定するときに用いられる、深さ方向の関数である所定の関数のパラメータをゲイン調整情報として記憶してもよい。関数のパラメータとしては、光音響信号の信号強度特性(図3)を指数関数を用いて近似したときの、指数部における深さ方向の位置の係数などが考えられる。
【0033】
例えば図3に示す各光照射範囲の光音響信号の信号強度特性を、指数部における係数をμeffとして、
I(Z)=e−μeff×Z
で近似する。図3に示す減衰特性を用いて、例えば深さ方向の位置2cmまでの近似で各光照射範囲についてμeffを計算すると、下記表1が得られる。
【表1】

例えばΦ0.3の光が照射されたときの光音響信号の深さ方向の位置Zに対する信号強度I(Z)は、
I(Z)=e−2.79×Z
で求めることができる。ゲイン情報記憶手段19は、上記表1の各光照射範囲に対応するμeffをゲイン調整情報として記憶する。この場合、ゲインは、例えば1/I(Z)とすることができる。
【0034】
上記では、光照射範囲とゲイン調整に関するパラメータとを対応付けて記憶することとしたが、各光照射範囲に対するパラメータを求めるための計算式をゲイン情報記憶手段19に記憶しておいてもよい。図4は、光照射範囲とμeffとの関係を示す。図4に示すように、表1に示される各光照射範囲におけるμeffをグラフ上にプロットし、そのプロット点を通る曲線で、光照射範囲とμeffとの関係を近似する。例えば図4では、近似曲線はy=1.266x−0.7956と求まる。ゲイン情報記憶手段19は、この近似曲線(そのパラメータ)を、ゲイン調整情報として記憶してもよい。
【0035】
ゲイン制御手段18は、ゲイン情報記憶手段19から、選択情報取得手段17が取得したゲイン選択情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出す。ゲイン制御手段18は、読み出したゲイン調整情報に基づくゲインを増幅手段15に設定する。増幅手段15は、ゲイン制御手段18が設定した、ゲイン調整情報に基づく、深さ方向の位置に応じたゲインで光音響信号を増幅する。
【0036】
例えばゲイン調整情報がLUTで表わされるときは、ゲイン制御手段18は、選択情報取得手段17が取得した光照射範囲情報に対応付けて記憶されるLUTをゲイン情報記憶手段19から読み出し、読み出したLUTを増幅手段15に設定する。増幅手段15は設定されたLUTを用いて、深さ方向の位置に応じたゲインで光音響信号を増幅する。
【0037】
ゲイン調整情報がゲイン調整に関するパラメータで表わされる場合、ゲイン制御手段18は、選択情報取得手段17が取得した光照射範囲情報に対応付けて記憶されるパラメータ(μeff)をゲイン情報記憶手段19から読み出す。ゲイン情報記憶手段19に、パラメータを求めるための計算式が記憶されているときは、選択情報取得手段17が取得した光照射範囲情報を用いて計算式を計算し、パラメータを求めればよい。増幅手段15は、例えばゲイン情報記憶手段19から読み出されたパラメータに基づく、深さ方向の位置に応じたゲインで光音響信号を増幅する。
【0038】
増幅手段15は、例えば光音響信号が深さ方向の位置によらず一定となるように、光音響信号を増幅する。あるいは増幅手段15は、どの光照射範囲で被検体に対する光照射が行われたときでも、増幅後の光音響信号の減衰特性が所定の減衰を示すように光音響信号を増幅してもよい。例えば何れの光照射範囲についても図3におけるΦ8の光音響信号の減衰特性と同等な減衰特性となるように、すなわち、何れの光照射範囲についてもΦ8の場合の光音響信号の信号強度と同等な信号強度が得られるように、光音響信号を増幅してもよい。
【0039】
図5は、動作手順を示す。光源12は、図示しない制御部からのトリガを受けてパルスレーザ光を生成する。照明手段13は、例えば複数の光照射部のうちのいくつかから、被検体内にパルスレーザ光を照射する(ステップS1)。超音波探触子11は、パルスレーザ光の照射により被検体内で生じた光音響信号を検出する(ステップS2)。検出された光音響信号は、図示しないAD変換器などを経て、信号処理手段14に入力される。
【0040】
選択情報取得手段17は、照明手段13における光照射範囲情報を取得する(ステップS3)。ゲイン制御手段18は、ゲイン情報記憶手段19から、ステップS3で取得された光照射範囲情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出す(ステップS4)。ゲイン制御手段18は、読み出したゲイン調整情報に基づく、深さ方向の位置に応じたゲイン調整値を増幅手段15に設定する。ゲイン制御手段18は、例えばゲイン情報記憶手段19がLUTをゲイン調整情報として記憶する場合は、取得された光照射範囲情報に対応付けて記憶されたLUTを、増幅手段15に設定する。
【0041】
増幅手段15は、ゲイン制御手段18から設定されたゲインで光音響信号を増幅する(ステップS5)。画像生成手段16は、増幅手段15で深さ方向の位置に応じたゲインで増幅された光音響信号に基づいて、光音響画像を生成する(ステップS6)。表示手段20は、生成された光音響画像を表示モニタなどの表示画面上に表示する(ステップS7)。
【0042】
本実施形態では、ゲイン情報記憶手段19に、光照射範囲情報(ゲイン選択情報)とゲイン調整情報とを記憶しておく。選択情報取得手段17は、例えば光音響画像の生成に際して光照射範囲情報を取得し、ゲイン制御手段18は、取得された光照射範囲情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報をゲイン情報記憶手段19から読み出す。増幅手段15は、読み出されたゲイン調整値に基づく、深さ方向の位置に応じたゲインで光音響画像生成に用いられる光音響信号を増幅する。本実施形態では、光照射範囲に応じてSTCにおけるゲイン調整がなされるため、ユーザは、特別な操作を行わなくても、光音響画像において深部を適切な観察状態で観察することができる。
【0043】
次いで、本発明の第2実施形態を説明する。本実施形態の光音響画像化装置の構成は、図1に示す第1実施形態の光音響画像化装置と同様な構成である。光音響イメージングにおいては、被検体内に照射された光が深さ方向に進行する際の光拡散や、生体組織における光吸収が、測定対象の組織やその状態に応じて変化すると考えられる。また、光吸収体で生じた光音響信号が超音波探触子11方向に進行する際の減衰特性などは、測定対象の生体組織やその状態に応じて変化すると考えられる。本実施形態では、第1実施形態で用いた光照射範囲情報に加えて、測定対象の組織に関係する測定対象組織情報をゲイン選択情報として用いる。
【0044】
ゲイン情報記憶手段19は、ゲイン調整情報を、光照射範囲情報と測定対象組織情報とに対応付けて記憶する。測定対象組織情報には、測定対象の部位(組織)の指定情報、及び部位の状態情報の何れか一方又は双方を用いることができる。測定対象の組織の指定情報には、例えば皮膚、乳房、内蔵などの情報が考えられる。内蔵は、更に食道、胃、大腸などに細分化されていてもよい。部位の状態情報としては、例えばメラノーシス有無を示す情報などが考えられる。例えば測定対象の部位に応じて使用する超音波探触子11が異なる場合などでは、選択情報取得手段17は、使用される超音波探触子11の種別情報などを超音波探触子11から読み出し、読み出した種別情報を測定対象組織情報として用いてもよい。
【0045】
図6は、測定対象組織ごとの照明範囲とμeffとの関係を示す。μeffの求め方は第1実施形態と同様である。測定対象組織に応じて光散乱係数や光吸収係数を変更してシミュレーションを行い、測定対象組織ごとに、複数の光照射範囲におけるμeffを求める。図6には、「食道」、「皮膚・胃」、「乳房」の3つのケースについて、求めたμeffに基づいて光照射範囲とμeffとの関係を近似した近似曲線を示している。ゲイン情報記憶手段19には、「食道」、「皮膚・胃」、「乳房」のそれぞれに対して求めた近似曲線を記憶することができる。その場合、例えば選択情報取得手段17が取得した測定対象組織情報が「胃」を示すときは、「皮膚・胃」に対応付けて記憶された近似曲線を読み出し、その近似曲線を用いて、選択情報取得手段17が取得した光照射範囲情報に該当する光照射範囲に対するμeffを計算し、ゲイン調整値を決定すればよい。
【0046】
本実施形態では、ゲイン選択情報に測定対象組織情報を用いる。ゲイン情報記憶手段19に、測定対象組織情報とゲイン調整情報とを対応付けて記憶しておき、光音響画像生成の際に取得された測定対象組織情報に対応づけて記憶されたゲイン調整情報を読み出し、読み出されたゲイン調整値に基づく、深さ方向の位置に応じたゲインで光音響信号を増幅することで、測定対象の組織に応じたSTC処理を実現できる。このため、ユーザは、各測定対象の組織について、特別な操作を行わなくても、光音響画像において深部を適切な観察状態で観察することができる。
【0047】
なお、上記各実施形態では、増幅手段15が光音響画像生成に用いる光音響信号を増幅することでSTC処理を実現する例を説明したが、これには限定されない。例えば画像生成手段16がSTCなしの状態で光音響画像を生成し、増幅手段15が、生成された光音響画像が表示手段20に表示される際に、光音響画像の画素値を深さ方向の位置に応じて増幅してもよい。この場合でも、例えば暗く表示される深部の部分の画素値を深さ方向の位置に応じたゲインで増幅することで明るくすることができ、光音響画像において深部を適切な観察状態で観察することができる。
【0048】
第1実施形態では、1つの光照射範囲について1つのパラメータ(μeff)を求める例について説明したが、これには限定されない。例えば光音響信号の減衰特性のグラフ(図3)において、深さ方向の位置を複数の範囲に分割し、分割した範囲ごとにμeffを求めてもよい。具体的には、各照明範囲について、深さ方向の位置0cmから2cmまでの範囲におけるμeffと、深さ方向の位置2cmから8cmまでの範囲におけるμeffとを求め、それらを光照射範囲に対応付けてゲイン情報記憶手段19に記憶してもよい。また、第2実施形態では、光照射範囲情報に加えて測定対象組織情報を用いることとしたが、光照射範囲情報に代えて測定対象組織情報を用いることとしてもよい。
【0049】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の光音響画像化装置、方法、及びプログラムは、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
10:光音響画像化装置
11:超音波探触子
12:光源
13:照明手段
14:信号処理手段
15:増幅手段
16:画像生成手段
17:選択情報取得手段
18:ゲイン制御手段
19:ゲイン情報記憶手段
20:表示手段
21:光照射部
22:光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を被検体内に照射する照明手段と、
前記光照射手段から照射された光により前記被検体内で生じた光音響信号を検出する超音波探触子と、
前記光音響信号に基づいて光音響画像を生成する画像生成手段と、
前記画像生成手段に入力される光音響信号又は前記光音響画像における画素値を、深さ方向の位置に応じたゲインで増幅する増幅手段と、
光音響画像の生成に際して、前記超音波探触子で検出される光音響信号の深さ方向の減衰特性に影響を与える情報をゲイン選択情報として取得する選択情報取得手段と、
前記ゲイン選択情報とゲイン調整情報とを対応付けて記憶するゲイン情報記憶手段から、前記選択情報取得手段が取得したゲイン選択情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出し、該読み出したゲイン調整情報に基づくゲインを前記増幅手段に設定するゲイン制御手段とを備えたことを特徴とする光音響画像化装置。
【請求項2】
前記照明手段が、切替え可能な照明範囲で光を照射するものであり、前記ゲイン選択情報が、前記照明手段が前記被検体内に照射した光の照明範囲に関係する光照射範囲情報を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の光音響画像化装置。
【請求項3】
前記照明手段が、前記被検体の画像化する部分を複数の領域に分割した分割領域のそれぞれに対応した複数の光照射部を含み、前記光照射範囲情報が、前記複数の光照射部のうちのどの光照射部から前記被検体内に光が照射されたかを示す情報を含むものであることを特徴とする請求項2に記載の光音響画像化装置。
【請求項4】
前記ゲイン選択情報が、前記光照射範囲情報に代えて、又はこれに加えて、測定対象の組織に関係する測定対象組織情報を含むものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の光音響画像化装置。
【請求項5】
前記測定対象組織情報が、測定対象の組織の指定情報及び測定対象組織の状態情報の何れか一方又は双方を含むものであることを特徴とする請求項4に記載の光音響画像化装置。
【請求項6】
前記増幅手段が、前記深さ方向の位置に応じた光音響信号の減衰又は前記画素値の低下を補償するように、前記受信された光音響信号又は前記光音響画像における画素値を増幅するものであることを特徴とする請求項1から5何れかに記載の光音響画像化装置。
【請求項7】
前記ゲイン情報記憶手段が、前記ゲイン調整情報を、前記ゲイン選択情報ごとにLUT(Look Up Table)として記憶するものであることを特徴とする請求項1から6何れかに記載の光音響画像化装置。
【請求項8】
前記ゲイン情報記憶手段が、前記ゲインを決定する際に用いられる、深さ方向の関数である所定の関数のパラメータを前記ゲイン調整情報として記憶するものであることを特徴とする請求項1から6何れかに記載の光音響画像化装置。
【請求項9】
被検体内に照射された光により前記被検体内で生じた光音響信号を検出するステップと、
前記検出された光音響信号に基づいて光音響画像を生成するステップと、
前記光音響画像の生成に際して、検出される光音響信号の深さ方向の減衰特性に影響を与える情報をゲイン選択情報として取得するステップと、
前記ゲイン選択情報とゲイン調整情報とを対応付けて記憶するゲイン情報記憶手段から、前記取得されたゲイン選択情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出すステップと、
光音響画像の生成の際に用いられる光音響信号又は前記光音響画像における画素値を、前記読み出されたゲイン調整情報に基づく、深さ方向の位置に応じたゲインで増幅するステップとを有することを特徴とする光音響画像化方法。
【請求項10】
コンピュータに、
被検体内に照射された光により前記被検体内で生じた光音響信号を検出する手順と、
前記検出された光音響信号に基づいて光音響画像を生成する手順と、
前記光音響画像の生成に際して、検出される光音響信号の深さ方向の減衰特性に影響を与える情報をゲイン選択情報として取得する手順と、
前記ゲイン選択情報とゲイン調整情報とを対応付けて記憶するゲイン情報記憶手段から、前記取得されたゲイン選択情報に対応付けて記憶されたゲイン調整情報を読み出す手順と、
前記光音響画像の生成の際に用いられる光音響信号又は前記光音響画像における画素値を、前記読み出されたゲイン調整情報に基づく、深さ方向の位置に応じたゲインで増幅する手順とを実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−70949(P2012−70949A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218134(P2010−218134)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】