説明

免疫グロブリン凝集物

本発明は、ポリマー形態の免疫グロブリンを濃縮後に除去することができる、タンジェンシャルフロー濾過によって免疫グロブリン溶液を濃縮するための方法を報告する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質濃縮の分野にあり、より詳細には、免疫グロブリン濃縮および免疫グロブリン凝集物除去のためのタンジェンシャルフロー濾過(tangential flow filtration)(TFF)の使用に関する。
【0002】
発明の背景
タンパク質、特に免疫グロブリンは、今日の医学ポートフォリオにおいて重要な役割を果たしている。組換えポリペプチドの産生のための発現系は当技術分野の水準で周知であり、そして、例えば、Marino, M.H., Biopharm. 2 (1989) 18-33;Goeddel, D.V., et al., Methods Enzymol. 185 (1990) 3-7;Wurm, F., and Bernard, A., Curr. Opin. Biotechnol. 10 (1999) 156-159によって記載されている。薬学的適用における使用のためのポリペプチドは、CHO細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、HEK細胞、BHK細胞、PER.C6(登録商標)細胞などのような哺乳動物細胞において主に産生される。
【0003】
ヒトへの適用のために、全ての薬学的物質は別個の基準を満たさなければならない。生物製剤のヒトに対する安全性を確実にするために、例えば、核酸、ウイルス、および宿主細胞タンパク質(これは重篤な害を引き起こす)を除去しなければならない。規制仕様を満たすために、1つ以上の精製工程を製造プロセスの後に続けなければならない。とりわけ、純度、処理量、および収率が、適切な精製プロセスの決定において重要な役割を果たす。
【0004】
二次的修飾を含む、分子量およびドメイン構造のようなその化学的および物理的特性に起因して、免疫グロブリンの下流プロセシングは非常に複雑である。例えば、経済的な取り扱いおよび適用貯蔵のために低容量を達成するために、処方された薬物のためだけでなく、下流プロセシング(DSP)における中間体のためにも、濃縮された溶液が必要とされる。さらに、円滑なプロセスおよび短い操作時間を確実にするために、高速濃縮プロセスが好ましい。この関係で、特に最終精製工程後の、不完全なタンジェンシャルフロー濾過(TFF)プロセスは、持続した損傷を引き起こし得、最終薬物産物に影響を及ぼしさえする。モノクローナル抗体(mAb)中間体溶液のためのタンジェンシャルフロー濃縮プロセスにおける剪断応力と凝集との間の相関が、Ahrer, K., et al., J. Membr. Sci. 274 (2006) 108-115によって研究された。規定された流れおよび圧のパラメーターを選択することによる、測量可能なプロセス性能に対する影響がモニターされた(例えば、Dosmar, M., et al., Bioprocess Int. 3 (2005) 40-50;Luo, R., et al., Bioprocess Int. 4 (2006) 44-46参照)。Mahler, H.-C., et al.(Eur. J. Pharmaceut. Biopharmaceut. 59 (2005) 407-417)は、様々な攪拌ストレス方法によって形成される液体IgG1−抗体処方物における凝集物の誘導および分析を報告した。US6,252,055において、濃縮されたモノクローナル抗体調製物が報告されている。濃縮された抗体調製物を産生するための方法がUS2006/0182740において報告されている。限外濾過、ダイアフィルトレーション、および第2の限外濾過シークエンスを含む組み合わせのプロセスがUS2006/0051347において報告されている。EP0 907 378において、250ml/分の固定された再循環速度でクロスフロー(cross-flow)限外濾過を使用する、抗体調製物を濃縮するためのプロセスが報告されている。
【0005】
発明の概要
本発明の1つの態様は、濃縮された免疫グロブリン溶液をタンジェンシャルフロー濾過によって得るための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在し、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定した場合、提供される溶液中に存在するポリマー可溶性免疫グロブリン形態の割合は2.5%より大きな第1の値を有する、工程、
ii)i)で提供された溶液を、タンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮する工程、
iii)ポリマー免疫グロブリンをタンジェンシャルフロー濾過の終了後に濾過によって除去し、それにより、濃縮された免疫グロブリン溶液を得る工程、
を含み、
ここで、免疫グロブリンのポリマー可溶性形態の割合は、工程ii)の後に第1の値より大きく、そして第1の値の1.25倍である第2の値より小さいことを特徴とする、方法である。
【0006】
本発明の別の態様は、濃縮された免疫グロブリン溶液をタンジェンシャルフロー濾過によって得るための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在し、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定した場合、提供される溶液中に存在するポリマー可溶性免疫グロブリン形態の割合は2.5%より大きく、光遮蔽(light obscuration)によって決定される溶液中の1μmより大きなサイズを有する粒子の第1の数を有する、工程、
ii)i)で提供された溶液を、3.0バールの一定のΔpでのタンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮し、それにより、光遮蔽によって決定される溶液中の1μmより大きなサイズを有する粒子の第2の数を有する濃縮された免疫グロブリン溶液を得る工程、
を含み、
ここで、1μmより大きなサイズを有する粒子の第2の数は、1μmより大きなサイズを有する粒子の第1の数の200倍より小さいことを特徴とする、方法である。
【0007】
本発明のさらなる態様は、異種免疫グロブリンを産生するための方法であって、以下の工程:
a)異種免疫グロブリンをコードする1個以上の核酸を含む組換え哺乳動物細胞を提供する工程、
b)細胞を異種免疫グロブリンの発現に適切な条件下で培養する工程、
c)異種免疫グロブリンを組換え哺乳動物細胞または培養培地から回収する工程、
d)異種免疫グロブリンを含む得られた水性緩衝化溶液を、3.0バールの一定のΔpでのタンジェンシャルフロー濾過方法を使用して濃縮する工程であって、ここで、粒子数を光遮蔽によって決定した場合、1μmより大きなサイズを有する濃縮された溶液中の粒子の数は、濃縮前の溶液中の1μmより大きなサイズを有する粒子の数の200倍より小さい、工程、
を含む、方法である。
【0008】
本発明のなおさらなる態様は、免疫グロブリン溶液から免疫グロブリン凝集物を除去するための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在する、工程、または
濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、溶液において、ポリマー形態の免疫グロブリンの形成が熱をかけることによって誘導される、工程
ii)i)で提供された溶液を、3.0バールの一定のΔp、および0.6バールの一定の膜間差圧(transmembrane pressure)でのタンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮する工程、
iii)工程ii)において得られた免疫グロブリン溶液から、0.2μmポアサイズフィルターを用いる濾過によって免疫グロブリン凝集物を除去する工程、
を含み、
ここで、粒子数を光遮蔽によって決定した場合、1μmより大きなサイズを有する工程ii)の濃縮された溶液中の粒子の数は、濃縮前の溶液中の1μmより大きなサイズを有する粒子の数の200倍より小さいことを特徴とする、方法である。
【0009】
本発明の最後の態様は、タンジェンシャルフロー濾過を用いる濃縮工程の間のポリマー可溶性形態の免疫グロブリンの形成を低下させるための方法であって、ここで、低下は、濃縮工程の開始前のポリマー可溶性形態の免疫グロブリンの添加、補充、または生成によって達成される、方法である。
【0010】
本発明による方法の1つの実施態様において、粒子数を光遮蔽によって決定した場合、5μmより大きなサイズを有する濃縮された溶液中の粒子の数は、濃縮前の溶液中の5μmより大きなサイズを有する粒子の数の100倍より小さい。さらなる実施態様において、溶液のサイズ排除クロマトグラムにおけるモノマー免疫グロブリンのピークの前に溶出されるピークの曲線下面積として決定した場合、ポリマー可溶性免疫グロブリン形態の割合は、5%より大きい。別の実施態様において、本発明による方法は、工程d)の前または後に以下の工程:
e)異種免疫グロブリンを含む水性緩衝化溶液を精製する工程、
を含む。
【0011】
1つの実施態様において、異種免疫グロブリンは、完全免疫グロブリン、または免疫グロブリンフラグメント、または免疫グロブリン複合体である。さらなる実施態様において、哺乳動物細胞は、CHO細胞、BHK細胞、またはPER.C6(登録商標)細胞である。別の実施態様において、光遮蔽による決定は、90mg/mlのタンパク質濃度におけるものである。1つの実施態様において、免疫グロブリンのポリマー可溶性形態の割合は、第1の値より大きく、そして第1の値の1.10倍である第2の値より小さい。1つの実施態様において、本発明の1つの態様は、タンジェンシャルフロー濾過によって不溶性免疫グロブリン凝集物を含まない濃縮された免疫グロブリン溶液を得るための方法であり、そして濃縮された免疫グロブリン溶液は不溶性免疫グロブリン凝集物を含まない。別の実施態様において、方法は、タンジェンシャルフロー濾過によって、不溶性免疫グロブリン凝集物および5μmより大きな可溶性免疫グロブリン凝集物を含まない濃縮された免疫グロブリン溶液を得るためのものであり、ここで、濃縮された免疫グロブリン溶液は不溶性免疫グロブリン凝集物を含まず、そして5μmより大きな可溶性免疫グロブリン凝集物を含まず、そしてポリマー免疫グロブリンの除去は1.0μmポアサイズ以下、1つの実施態様において0.2μmポアサイズを有するフィルターを用いる濾過による。さらなる実施態様において、濃縮後の免疫グロブリンの濃度は、80mg/mlより高く、別の実施態様において90mg/mlより高く、さらに別の実施態様において100mg/mlより高い。1つの実施態様において、濃縮後の免疫グロブリンの濃度は、275mg/mlより低いか、または180mg/mlより低いか、または130mg/mlより低い。別の実施態様において、5μmより大きな可溶性凝集形態の免疫グロブリンを除去し、そして不溶性凝集形態の免疫グロブリンを除去するために、濃縮された免疫グロブリン溶液の濾過には、1μm以下のポアサイズを有するフィルターを用いる。1つの実施態様において、ポリマー免疫グロブリン形態は、可溶性凝集および不溶性凝集免疫グロブリンである。1つの実施態様において、ポリマー形態の免疫グロブリンは、可溶性凝集免疫グロブリン形態である。1つの実施態様において、ポリマー可溶性免疫グロブリン形態の割合は、25%未満であり、別の実施態様において15%未満であり、さらに別の実施態様において10%未満である。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、免疫グロブリン凝集物を含まない濃縮された免疫グロブリン溶液をタンジェンシャルフロー濾過によって得るための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在し、提供される溶液のサイズ排除クロマトグラムにおけるモノマー免疫グロブリンのピークの前に溶出される、すなわち可溶性高分子量(HMW)形態の、ピークの曲線下面積として決定した場合、可溶性ポリマー形態の割合は2.5%より大きい、工程、
ii)i)で提供された溶液を、タンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮する工程であって、ここで、タンジェンシャルフロー濾過の間に、ポリマー形態の免疫グロブリンに含まれる免疫グロブリン分子の数は、好ましくは不溶性粒子が形成されるまで、増加する、工程、
iii)ポリマー形態の不溶性免疫グロブリンをタンジェンシャルフロー濾過の終了後に濾過工程によって除去し、それにより、免疫グロブリン凝集物を含まない濃縮された免疫グロブリン溶液を得る工程、
を含む、方法を提供する。
【0013】
抗IL−1R抗体(WO2005/023872参照)が本発明のときに本発明者らの研究室において十分な量で利用可能であり、それゆえ、本発明をこの免疫グロブリンについて例示する。本発明は他の免疫グロブリンについて同様に一般に実行可能である。この例示する記載は例としてのみ行われるものであり、本発明の限定として行われるものではない。これらの例は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0014】
本発明内で互換的に使用する用語「タンジェンシャルフロー濾過」または「TFF」は、濃縮しようとするポリペプチドを含む溶液が濾過膜の表面に沿って、すなわちそれに対して接線方向で流れる濾過プロセスを示す。濾過膜は特定のカットオフ値を有するポアサイズを有する。1つの実施態様において、カットオフ値は20kDa〜50kDaの範囲にあり、別の実施態様において30kDaである。この濾過プロセスは限外濾過プロセスの一種である。用語「クロスフロー」は、膜(保持物(retentate)流)に対して接線方向の、濃縮しようとする溶液の流れを示す。
【0015】
本発明内で互換的に使用する用語「膜間差圧」または「TMP」は、濾過膜の孔を通して濾過膜のカットオフ値より小さな成分および溶媒を動かすためにかけられる圧を示す。1つの実施態様において、本発明による方法における膜間差圧は0.6バールである。膜間差圧は入口、出口および透過物の平均圧であり、そして以下のように算出され得る:
【数1】

【0016】
用語「免疫グロブリン」は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる1個以上のポリペプチドからなるタンパク質を指す。認識されている免疫グロブリン遺伝子は様々な定常領域遺伝子ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。免疫グロブリンは、例えば、Fv、Fab、およびF(ab)ならびに単鎖(scFv)またはディアボディ(diabody)を含む、種々の形式で存在し得る(例えば、Huston, J.S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988) 5879-5883;Bird, R.E., et al., Science 242 (1988) 423-426;一般に、Hood, L.E., et al., Immunology, The Benjamin N.Y., 2nd edition (1984);およびHunkapiller, T., and Hood, L., Nature 323 (1986) 15-16)。
【0017】
用語「完全免疫グロブリン」は、2個のいわゆる軽鎖免疫グロブリン鎖ポリペプチド(軽鎖)および2個のいわゆる重免疫グロブリン鎖ポリペプチド(重鎖)を含む免疫グロブリンを示す。完全免疫グロブリンの重および軽免疫グロブリン鎖ポリペプチドの各々は、抗原と相互作用することができる結合領域を含む可変ドメイン(可変領域)(一般に、ポリペプチド鎖のアミノ末端部分)を含む。完全免疫グロブリンの重および軽免疫グロブリン鎖ポリペプチドの各々は、定常領域(一般に、カルボキシル末端部分)を含む。重鎖の定常領域は、抗体の、i)Fcγ受容体(FcγR)を有する細胞(例えば、食細胞)への、またはii)Brambell受容体としても知られる新生(neonatal)Fc受容体(FcRn)を有する細胞への結合を媒介する。それは、コンポーネント(C1q)のような古典補体系の因子を含むいくつかの因子への結合もまた媒介する。免疫グロブリンの軽または重鎖の可変ドメインは今度は様々なセグメント、すなわち4個のフレームワーク領域(FR)および3個の超可変領域(CDR)を含む。
【0018】
用語「免疫グロブリンフラグメント」は、重鎖の可変ドメイン、C1ドメイン、ヒンジ領域、C2ドメイン、C3ドメイン、もしくはC4ドメイン、または軽鎖の可変ドメインもしくはCドメインから選択される少なくとも1個のドメインを含むポリペプチドを示す。その誘導体および変異体も含まれる。例えば、1個以上のアミノ酸またはアミノ酸領域が欠失している可変ドメインが存在し得る。
【0019】
用語「免疫グロブリン複合体」は、さらなるポリペプチドにペプチド結合を介して結合されている免疫グロブリン重または軽鎖の少なくとも1個のドメインを含むポリペプチドを示す。さらなるペプチドは、ホルモン、または増殖受容体、または抗膜融合(antifusogenic)ペプチド、または補体因子などのような非免疫グロブリンペプチドである。1つの実施態様において、免疫グロブリン複合体は、2個または4個の非免疫グロブリンポリペプチドに共有結合された免疫グロブリン分子を含む。
【0020】
一般的なクロマトグラフィー方法およびその使用は当業者に公知である。例えば、Chromatography, 5th edition, Heftmann, E. (ed.), Part A: Fundamentals and Techniques, Elsevier Science Publishing Company, New York, (1992);Deyl, Z. (ed.), Advanced Chromatographic and Electromigration Methods in Biosciences, Elsevier Science BV, Amsterdam, The Netherlands, (1998);Poole, C. F., and Poole, S. K., Chromatography Today, Elsevier Science Publishing Company, New York, (1991);Scopes, R.K., Protein Purification: Principles and Practice, Springer Verlag, New York, (1982);Sambrook, J., et al., (ed.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1989);またはCurrent Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F. M., et al., (eds), John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを参照のこと。
【0021】
組換え産生された異種免疫グロブリンの精製のために、しばしば様々なカラムクロマトグラフィー工程の組み合わせが用いられる。一般に、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーに、1つまたは2つのさらなる分離工程が続く。最終精製工程は、凝集免疫グロブリン、残留HCP(宿主細胞タンパク質)、DNA(宿主細胞核酸)、ウイルス、またはエンドトキシンなどの微量不純物および混入物の除去のための、いわゆる「ポリッシング工程(polishing step)」である。このポリッシング工程のために、しばしばフロースルー様式の陰イオン交換材料が使用される。
【0022】
微生物タンパク質を用いるアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)および混合様式(mixed-mode)交換)、チオフィリック(thiophilic)吸着(例えば、β−メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを用いる)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニル−セファロース、アザ−アレノフィリック(aza-arenophilic)樹脂、またはm−アミノフェニルボロン酸を用いる)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)−およびCu(II)−アフィニティ材料を用いる)、サイズ排除クロマトグラフィー、および電気泳動方法(例えば、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)のような様々な方法が、タンパク質の回収および精製のために十分に確立されており、そして広く使用されている(Vijayalakshmi, M. A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)。
【0023】
用語「異種免疫グロブリン」は、哺乳動物細胞によって天然には産生されない免疫グロブリンを示す。本発明の方法により産生される免疫グロブリンは、組換え手段によって産生される。そのような方法は当技術分野の水準で広く知られており、そして真核細胞におけるタンパク質発現とその後の異種免疫グロブリンの回収および単離、ならびに、通常、薬学的に許容され得る純度への精製を含む。免疫グロブリンの産生(すなわち、発現)のために、軽鎖をコードする核酸および重鎖をコードする核酸が各々発現カセット中に標準的な方法によって挿入される。免疫グロブリン軽および重鎖をコードする核酸は、従来の手順を使用して容易に単離および配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、そのような核酸の供給源として作用し得る。発現カセットは発現プラスミド(単数または複数)中に挿入され得、これは次いで、そうでなければ免疫グロブリンを産生しない細胞中にトランスフェクトされる。発現は適切な原核または真核細胞において行われ、そして免疫グロブリンは、溶解後に細胞から、または培養上清から回収される。
【0024】
本出願内で使用する用語「濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液」は、完全免疫グロブリン、免疫グロブリンフラグメント、または免疫グロブリン複合体を含む水性緩衝化溶液を示す。この溶液は、例えば、培養上清、またはカラムクロマトグラフィー溶出液、またはポリッシングされた免疫グロブリン溶液であり得る。
【0025】
「異種DNA」または「異種ポリペプチド」は、所与の宿主細胞内に天然には存在しないDNA分子もしくはポリペプチド、またはDNA分子の集団もしくはポリペプチドの集団を指す。特定の宿主細胞に対して異種のDNA分子は、宿主DNAが非宿主DNA(すなわち、外因性DNA)と組み合わされている限り、宿主細胞種由来のDNA(すなわち、内因性DNA)を含んでもよい。例えば、プロモーターを含む宿主DNAセグメントに作動可能に連結されたポリペプチドをコードする非宿主DNAセグメントを含むDNA分子は、異種DNA分子であると考えられる。逆に、異種DNA分子は、外因性プロモーターに作動可能に連結された内因性構造遺伝子を含み得る。
【0026】
非宿主DNA分子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドは、「異種」ペプチドまたはポリペプチドである。
【0027】
用語「異種免疫グロブリンの発現に適切な条件下」は、免疫グロブリンを発現する哺乳動物細胞の培養のために使用され、そして当業者に知られているかまたは当業者によって容易に決定され得る条件を示す。これらの条件が、培養される哺乳動物細胞の型および発現される免疫グロブリンの型に依存して変動し得ることもまた当業者に知られている。一般に、哺乳動物細胞は、20℃〜40℃の温度で、そして免疫グロブリンの効果的なタンパク質産生を可能にするために十分な期間(例えば、4〜28日の期間)培養される。
【0028】
本発明は、免疫グロブリン凝集物を実質的に含まない濃縮された免疫グロブリン溶液をタンジェンシャルフロー濾過によって得るための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在し、溶液のサイズ排除クロマトグラムにおけるモノマー免疫グロブリンのピークの前に溶出されるピークの曲線下面積として決定した場合、可溶性ポリマー形態の割合は2.5%より大きい、工程、
ii)i)で提供された溶液を、タンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮する工程であって、ここで、濃縮された溶液のサイズ排除クロマトグラムにおけるモノマー免疫グロブリンのピークの前に溶出されるピークの曲線下面積として決定した場合、免疫グロブリンの可溶性ポリマー形態は25%より大きく増加しない、工程、
iii)ポリマー不溶性免疫グロブリンをタンジェンシャルフロー濾過の終了後に濾過によって除去し、それにより、免疫グロブリン凝集物を実質的に含まない濃縮された免疫グロブリン溶液を得る工程、
を含む、方法を提供する。
【0029】
換言すると、本発明は、濃縮された免疫グロブリン溶液をタンジェンシャルフロー濾過によって得るための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在し、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定した場合、提供される溶液中に存在するポリマー可溶性免疫グロブリン形態の割合は2.5%より大きな第1の値を有する、工程、
ii)i)で提供された溶液を、タンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮する工程、
iii)ポリマー免疫グロブリンをタンジェンシャルフロー濾過の終了後に濾過によって除去し、それにより、濃縮された免疫グロブリン溶液を得る工程、
を含み、
ここで、免疫グロブリンのポリマー可溶性形態の割合は、工程ii)の後に第1の値より大きく、そして第1の値の1.25倍である第2の値より小さいことを特徴とする、方法を含む。
【0030】
用語「実質的に含まない」は、免疫グロブリンの調製物が少なくとも50%(w/w)のモノマー形態の免疫グロブリンを、1つの実施態様において少なくとも75%のモノマー形態の免疫グロブリンを、別の実施態様において少なくとも90%のモノマー形態の免疫グロブリンを、またはさらなる実施態様において95%より多くののモノマー形態の免疫グロブリンを含むことを示す。
【0031】
本出願内で使用する用語「10%より大きく増加しない」は、ポリマー可溶性形態の免疫グロブリンの割合が10%より大きく増加しないことを示す。例えば、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定されるタンジェンシャルフロー濾過前のポリマー可溶性形態の免疫グロブリンの割合が7.5%である場合、この用語は、割合が0.75%より大きく増加しない、すなわち最大で8.25%までであることを示す。
【0032】
本出願内で使用する用語「モノマー形態の免疫グロブリン」は、1個以上の他の免疫グロブリン分子と共有結合または非共有結合のいずれかをしていない免疫グロブリンを示す。これは、免疫グロブリン分子が1個以上の非免疫グロブリン分子(例えば、炭水化物、クロマチンなど)と共有結合または非共有結合のいずれかをしていることを除外しない。
【0033】
本出願内で使用する用語「ポリマー形態の免疫グロブリン」および「凝集形態の免疫グロブリン」は、1個以上の免疫グロブリン分子と共有結合または非共有結合のいずれかをしている免疫グロブリンを示す。これらの結合している免疫グロブリン分子は、同じ免疫グロブリン分子のものであってもよく、または異なる免疫グロブリン分子のものであってもよい。これは、免疫グロブリン分子が1個以上の非免疫グロブリン分子(例えば、炭水化物、クロマチンなど)と共有結合または非共有結合のいずれかをしていることを除外しない。本出願内で互換的に使用し得る用語「ポリマー可溶性形態」または「高分子量(HMW)形態」は、凝集物が水性緩衝化溶液中でなお可溶性である、ポリマーの、すなわち凝集した免疫グロブリンを示す。用語「ポリマー不溶性形態」は、凝集物が水性緩衝化溶液中で可溶性でない、ポリマーの、すなわち凝集した免疫グロブリンを示す。
【0034】
本発明による方法の工程i)において、免疫グロブリンはモノマー形態およびポリマー形態で存在し、ここで、これら2つの形態は溶液中で可溶性である。方法の工程ii)において、タンジェンシャルフロー濾過方法を使用して濃縮されたモノマー形態およびポリマー形態の免疫グロブリンを含む免疫グロブリン溶液が提供される。タンジェンシャルフロー濾過を用いる濃縮工程の前にポリマーであるが可溶性の形態の免疫グロブリンを溶液が含む場合、ポリマー形態の免疫グロブリンに含まれる免疫グロブリン分子の数(すなわち、粒子のサイズ)が、ポリマー形態の免疫グロブリンが溶液中でもはや可溶性でなくなるまで増加することがここで驚くべきことに見出された。同時に、タンジェンシャルフロー濾過の間に、ポリマー形態の新たな可溶性免疫グロブリンはほとんど形成されない。従って、タンジェンシャルフロー濾過を用いる濃縮工程の前にポリマー可溶性形態の免疫グロブリンを含む免疫グロブリン溶液において、含まれるポリマー可溶性形態の免疫グロブリンは、溶液からさらなる免疫グロブリン分子をさらに凝集させ、ポリマー可溶性形態の新たな免疫グロブリンの形成の減少を生じることが見出された。従って、これは、濃縮された免疫グロブリン溶液から濃縮工程の後に簡単な濾過工程によって除去することができる、ポリマー不溶性形態の免疫グロブリンを生じる。
【0035】
本発明の別の態様は、濃縮された免疫グロブリン溶液をタンジェンシャルフロー濾過によって得るための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在する、工程、
ii)i)で提供された溶液を、3.0バールのΔpでのタンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮する工程、
を含み、
ここで、粒子数を光遮蔽によって決定した場合、溶液中の1μmより大きなサイズを有する粒子の数は、濃縮工程の間に200倍より大きく増加しない、方法である。1つの実施態様において、粒子数は、光遮蔽によって90mg/mlのタンパク質濃度において決定される。1つの実施態様において、粒子数を光遮蔽によって決定した場合、5μmより大きなサイズを有する粒子の数は、100倍より大きく増加しない。別の実施態様において、溶液のサイズ排除クロマトグラムにおけるモノマー免疫グロブリンのピークの前に溶出されるピークの曲線下面積として決定した場合、免疫グロブリンのポリマー形態の割合は5%より大きい。さらなる実施態様において、濃縮後の免疫グロブリンの濃度は、80mg/mlより高く、1つの実施態様において90mg/ml以上である。別の実施態様において、タンジェンシャルフロー濾過の間の膜間差圧は0.6バールで一定である。
【0036】
本発明の別の態様は、異種免疫グロブリンを産生するための方法であって、以下の工程:
a)異種免疫グロブリンをコードする1個以上の核酸を含む組換え哺乳動物細胞を提供する工程、
b)細胞を異種免疫グロブリンの発現に適切な条件下で培養する工程、
c)異種免疫グロブリンを組換え哺乳動物細胞または培養培地から回収する工程、
d)異種免疫グロブリンを含む回収された水性緩衝化溶液を、3.0バールの一定のΔpでのタンジェンシャルフロー濾過方法を使用して濃縮する工程であって、ここで、粒子数を光遮蔽によって決定した場合、1μmより大きなサイズを有する溶液中の粒子の数は、200倍より大きく増加しない、工程、
を含む、方法である。
【0037】
1つの実施態様において、粒子数は90mg/mlのタンパク質濃度において決定される。さらなる実施態様において、異種免疫グロブリンは、完全免疫グロブリン、または免疫グロブリンフラグメント、または免疫グロブリン複合体である。さらに別の実施態様において、哺乳動物細胞は、CHO細胞、BHK細胞、またはPER.C6(登録商標)細胞である。
【0038】
用語「組換え哺乳動物細胞」は、その中に核酸(例えば、異種ポリペプチドをコードする)が導入/トランスフェクトされ得るかまたはされている細胞を指す。用語「細胞」は、核酸の発現のために使用される細胞を含む。1つの実施態様において、哺乳動物細胞は、CHO細胞(例えば、CHO K1、CHO DG44)、またはBHK細胞、またはNS0細胞、またはSP2/0細胞、またはHEK 293細胞、またはHEK 293 EBNA細胞、またはPER.C6(登録商標)細胞、またはCOS細胞である。別の実施態様において、哺乳動物細胞は、CHO細胞、またはBHK細胞、またはPER.C6(登録商標)細胞である。本明細書において使用する表現「細胞」は、対象の細胞およびその子孫を含む。従って、用語「組換え細胞」は、一次のトランスフェクトされた細胞、およびそれに由来する子孫細胞を含む培養物をトランスファーの数にかかわらず含む。意図的または偶発的な変異に起因して、全ての子孫がDNA内容物において正確に同一ではないかもしれないこともまた理解される。元の形質転換細胞と同じ機能または生物学的活性を有する変異子孫が含まれる。
【0039】
本出願内で使用する用語「緩衝化」は、酸性または塩基性物質の添加または遊離に起因するpHの変化が緩衝物質によってならされる溶液を示す。そのような効果を生じる任意の緩衝物質を使用することができる。1つの実施態様において、薬学的に許容され得る緩衝物質、例えば、リン酸もしくはその塩、酢酸もしくはその塩、クエン酸もしくはその塩、モルホリンもしくはその塩、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸もしくはその塩、ヒスチジンもしくはその塩、グリシンもしくはその塩、アルギニンもしくはその塩、またはトリス(ヒドロキシメチルアミノメタン)もしくはその塩が使用される。1つの実施態様において、緩衝物質は、リン酸もしくはその塩、酢酸もしくはその塩、またはクエン酸もしくはその塩、またはヒスチジンもしくはその塩、またはアルギニンもしくはその塩である。場合により、緩衝化溶液は、さらなる塩、例えば、塩化ナトリウム、および/または硫酸ナトリウム、および/または塩化カリウム、および/または硫酸カリウム、および/またはクエン酸ナトリウム、および/またはクエン酸カリウムを含んでもよい。本発明の1つの実施態様において、緩衝化水溶液のpH値は、pH3.0〜pH10.0であり、別の実施態様においてpH3.0〜pH7.0であり、さらなる実施態様においてpH4.0〜pH6.0であり、さらに別の実施態様においてpH4.5〜pH5.5である。
【0040】
別の実施態様において、方法は、工程d)に先立って(すなわち、その前に)またはその後に、以下の工程:
e)異種免疫グロブリンを含む水性緩衝化溶液を精製する工程、
を含む。
【0041】
工程e)における精製は、クロマトグラフィー工程、または異なるかもしくは類似するクロマトグラフィー工程の組み合わせ、または沈殿、または塩析、または限外ろ過、またはダイアフィルトレーション、または凍結乾燥、または緩衝液交換、またはその組み合わせなどのような様々な方法および技術によることができる。
【0042】
別の実施態様において、異種免疫グロブリンは、完全免疫グロブリン、または免疫グロブリンフラグメント、または免疫グロブリン複合体である。1つの実施態様において、哺乳動物細胞は、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、HEK細胞、またはPER.C6(登録商標)細胞である。
【0043】
本発明のさらに別の態様は、濃縮された免疫グロブリン溶液を得るための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在する、工程、
ii)溶液を、タンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮し、それにより、濃縮された免疫グロブリン溶液を産生する工程、
iii)ポリマー形態の免疫グロブリンを除去するために、ii)で得られた濃縮された免疫グロブリン溶液を濾過する工程、
を含む、方法である。
【0044】
従って、モノマー形態およびポリマー形態の免疫グロブリンを含む免疫グロブリン溶液のタンジェンシャルフロー濾過の間に、さらなるポリマー形態の可溶性免疫グロブリンの形成が低下され、一方、溶液中で可溶性である既に含まれているポリマー形態の免疫グロブリンは、溶液中で不溶性であるポリマー形態の免疫グロブリンに移行されることが見出された。従って、ポリマー形態の免疫グロブリンにおける互いに結合している免疫グロブリン分子の数は、タンジェンシャルフロー濾過を用いる免疫グロブリン溶液の濃縮の間に、ポリマー形態の免疫グロブリンがもはや溶液中で可溶性でなくなるまで増加する。従って、本発明の別の態様は、タンジェンシャルフロー濾過を用いる濃縮工程の間のポリマー形態の可溶性免疫グロブリンの形成を低下させるための方法であって、ここで、低下は、タンジェンシャルフロー濾過の開始前のポリマー形態の可溶性免疫グロブリンの添加、補充、または生成によって達成される、方法である。ポリマー形態の免疫グロブリンは、例えば、熱ストレスによって生成され得る。
【0045】
以下の実施例および図面は本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載されている。記載した手順において本発明の精神から逸脱することなしに改変をなし得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】異なる濃縮様式を介した濃縮の間の濁度;X軸:mg/mlでの濃度、Y軸:350nmで決定された濁度。
【図2】異なる濃縮様式を介した濃縮の間の溶液1ml当たりの>1μmの粒子の数;X軸:濃縮係数(CF)、Y軸:10粒子/ml>1μm。
【図3】濃縮された抗IL−1R抗体溶液の中からの染色された不溶性凝集物(左:Δp 3.0バール;右:Δp 1.2バール)。
【図4】濃縮前の試料中に存在する高分子量形態(HMW)との関係でのHMWの増加;X軸:1:Δp 1.2バールでのTFFの前に低HMW含量を有する(約0.6%);2:Δp 1.2バールでのTFFの前に高HMW含量を有する(約7.2%);3:Δp 3.0バールでのTFFの前に低HMW含量を有する;4:Δp 3.0バールでのTFFの前に高HMW含量を有する;Y軸 %でのHMWの増加。
【図5】それぞれ、1.2バールまたは3.0バールのΔpでの濃縮の前および濃縮の後の溶液中の1ml当たりの粒子数;X軸:1:濃縮前、低HMW含量を有する;2:濃縮前、高HMW含量を有する;3:1.2バールのΔpでの低HMW含量を有する溶液の濃縮後;4:1.2バールのΔpでの高HMW含量を有する溶液の濃縮後;5:3.0バールのΔpでの低HMW含量を有する溶液の濃縮後;6:3.0バールのΔpでの高HMW含量を有する溶液の濃縮後;左Y軸:10粒子/ml;右Y軸:>25μmのサイズについての粒子/ml。
【図6】高初期高分子量形態含量を有する材料について、モノマーについての強度の減少のほかに約5000nmでの種が観察可能である(濃縮前は1つのシグナルのみ);X軸:nmでの粒子サイズ;Y軸:%での相対強度;四角:1.2バールのΔpでの低HMW含量溶液の濃縮物;菱形:1.2バールのΔpでの高HMW含量溶液の濃縮物;三角:3.0バールのΔpでの低HMW含量溶液の濃縮物;丸:3.0バールのΔpでの高HMW含量溶液の濃縮物。
【0047】
実施例1
方法
a)濁度測定
測光吸光度を、抗体溶液中の内在性の発色団が吸収しない、350nmおよび550nmで決定した(UV-VIS spectrophotometer Evolution 500, Thermo Fisher Scientific, Waltham, USA)。試料を無希釈で測定した。参照媒質として、適切な緩衝溶液を使用した。全ての測定を3回行った。
【0048】
b)サイズ排除HPLC
クロマトグラフィーを、Summit HPLCシステム(Dionex, Idstein, Germany)上でTosoh Haas TSK 3000 SWXLカラムを用いて行った。溶出ピークを280nmでUVダイオードアレイ検出器(Dionex)によってモニターした。濃縮された試料の1mg/mlへの溶解の後、安定なベースラインが達成されるまで、200mMリン酸二水素カリウムおよび250mM塩化カリウムからなる緩衝液(pH7.0)でカラムを洗浄した。分析ランを均一濃度条件下で0.5ml/分の流速を使用して30分間にわたって室温で行った。クロマトグラムをChromeleon(Dionex, Idstein, Germany)を用いて手動で積分した。%での凝集を、高分子量形態の曲線下面積(AUC)を、モノマーピークのAUCと比較することによって決定した。
【0049】
c)光遮蔽
1〜200μmの範囲の粒子負荷をモニターするために、SVSS-C粒子分析器を使用した(PAMAS Partikelmess- und Analysesysteme, Rutesheim, Germany)。システムを、ほぼ単一サイズの(near-monosize)ポリスチレン球を用いて、US Pharmacopeia Vol. 24, <788>の要件に従って較正した。0.5mlの事前フラッシング容量を伴う0.5mlの容量の3回の測定を行った。結果を平均値として算出し、そして1.0mlの試料容量に当てはめた。計数された粒子数はセンサーの濃度限界内であった。
【0050】
d)動的光散乱(dynamic light scattering)(DLS)
DLSは、典型的にはμm未満のサイズ範囲の、粒子サイズを測定するための非侵襲性の技術である。本発明において、温度制御石英キュベット(25℃)を備えたZetasizer Nano S装置(Malvern Instruments, Worcestershire, UK)を、1nm〜6μmのサイズ範囲をモニターするために使用した。後方散乱レーザー光の強度を173°の角度で検出した。強度は、粒子拡散速度に依存する速度で変動し、粒子拡散速度は今度は粒子サイズによって支配される。それゆえ、粒子サイズデータを散乱光強度の変動の分析から生じさせることができる(Dahneke, B.E. (ed), Measurement of Suspended Particles by Quasielectric Light Scattering, Wiley Inc. (1983); Pecora, R., Dynamic Light Scattering: Application of Photon Correlation Spectroscopy, Plenum Press (1985))。強度によるサイズ分布をDTSソフトウェア(Malvern)の多重狭モード(multiple narrow mode)を使用して算出した。実験を無希釈試料を用いて行った。
【0051】
e)不溶性凝集物の検出のための染色方法
濃縮された抗体溶液を0.22μmセルロースアセテートフィルター膜(Sartorius, Gottingen, Germany)を通して濾過し、そして保持された粒子をSigma-Aldrich(Steinheim, Germany)からのReversible Protein Detection Kit溶液を用いて染色した。膜を、緩衝液で洗浄した後に、デジタルカメラDC 100(Leica)を備えた実体顕微鏡MZ 12(Leica, Wetzlar, Germany)下で80倍の拡大率で検査した(例えば、Li, B., et al., J. Pharmaceutical Sci. 96 (2007) 1840-1843参照)。
【0052】
実施例2
タンジェンシャルフロー濾過
馴化および濾過された、抗IL−1R抗体のヒスチジン緩衝化水溶液(pH5.8)を、自動化TFFシステムAKTAcrossflow(商標)(GE Healthcare, Amersham Bioscience AB, Uppsala, Sweden)の使用によって、30kDaの名目上の分子量カットオフ、0.02mの膜面積および約400g/mの総膜負荷を有する、再生セルロースのHydrosart(商標)膜を備えた測量可能フラットシートカセット(scalable flat sheet cassette)(Sartorius, Gottingen, Germany)を用いることによって100mg/mlまで20倍濃縮した。
【0053】
標的濃度を90mg/mlに設定した。異なるΔpパラメーターを試験し、そしてそれらは以下のとおりであった:
方法1:膜間差圧=0.6バール
クロスフロー=90ml/分
Δp=1.2バール
方法2:膜間差圧=0.6バール
Δp=3.0バール
【0054】
濃縮プロセスの過程の濁度測定(図1)、LO結果(図2、表1)は、凝集不溶性形態の免疫グロブリンの形成の増強が、かけられた剪断応力に依存することを示した。
【0055】
【表1】

【0056】
濾過−染色方法を使用することによる濃縮された溶液中のポリマー形態の不溶性免疫グロブリンの視覚容易検出可能負荷は、かけられた剪断応力および使用された濃縮方法に依存し、このことは、LOおよび濁度測定によって得られた結果を支持した(図3)。濃縮された溶液についてのポリマー形態の免疫グロブリンの増加は、濃縮前のポリマー前駆体の状態に依存する。ポリマー形態の免疫グロブリンを既に含んでいる材料を使用する場合(本実施例におけるように、SECによって決定したところ7.5%)、タンジェンシャルフロー濾過の間のポリマー形態の量の増加はSECによって検出可能ではなかった(表2参照)。
【0057】
【表2】

【0058】
これとは対照的に、高分子量形態/ポリマー可溶性形態の量は、ほぼモノマーの材料(SECによって決定したところ0.6%のポリマー形態の免疫グロブリン)を濃縮した場合に増加した(図4)。濃縮後のより大きなそして不溶性の凝集物の状態に関しては、反対の関係が観察された。濃縮前に高程度のポリマー形態前駆体を有する溶液は、初期にほぼモノマーの溶液と比較して、より多くのより大きなそして不溶性の凝集物を示した(図5)。使用される中間体のポリマー前駆体の状態に依存する、TFFプロセスの間の、より小さな可溶性ポリマー前駆体からの、すなわち、少しの免疫グロブリン分子のみが凝集しているポリマー形態からの、より大きな不溶性凝集物へのシフトが見出された。DLSデータはこの見方を支持する(図6)。
【0059】
TFFにおける好ましくない高圧プロファイルだけでなく、可溶性凝集物のような混入物も、TFFによる濃縮の間のより大きな不溶性種および沈殿への凝集物のシフトを伴う進行中の凝集プロセスを引き起こし得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮された免疫グロブリン溶液をタンジェンシャルフロー濾過によって得るための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在し、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定した場合、提供される溶液中に存在するポリマー可溶性免疫グロブリン形態の割合は2.5%より大きな第1の値を有する、工程、
ii)i)で提供された溶液を、タンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮する工程、
iii)ポリマー免疫グロブリンをタンジェンシャルフロー濾過の終了後に濾過によって除去し、それにより、濃縮された免疫グロブリン溶液を得る工程、
を含み、
ここで、免疫グロブリンのポリマー可溶性形態の割合は、工程ii)の後に第1の値より大きく、そして第1の値の1.25倍である第2の値より小さいことを特徴とする、方法。
【請求項2】
濃縮された免疫グロブリン溶液をタンジェンシャルフロー濾過によって得るための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在し、サイズ排除クロマトグラフィーによって決定した場合、提供される溶液中に存在するポリマー可溶性免疫グロブリン形態の割合は2.5%より大きく、光遮蔽によって決定される溶液中の1μmより大きなサイズを有する粒子の第1の数を有する、工程、
ii)i)で提供された溶液を、3.0バールの一定のΔpでのタンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮し、それにより、光遮蔽によって決定される溶液中の1μmより大きなサイズを有する粒子の第2の数を有する濃縮された免疫グロブリン溶液を得る工程、
を含み、
ここで、1μmより大きなサイズを有する粒子の第2の数は、1μmより大きなサイズを有する粒子の第1の数の200倍より小さいことを特徴とする、方法。
【請求項3】
異種免疫グロブリンを産生するための方法であって、以下の工程:
a)異種免疫グロブリンをコードする1個以上の核酸を含む組換え哺乳動物細胞を提供する工程、
b)細胞を異種免疫グロブリンの発現に適切な条件下で培養する工程、
c)異種免疫グロブリンを組換え哺乳動物細胞または培養培地から回収する工程、
d)異種免疫グロブリンを含む得られた水性緩衝化溶液を、3.0バールの一定のΔpでのタンジェンシャルフロー濾過方法を使用して濃縮する工程であって、ここで、粒子数を光遮蔽によって決定した場合、1μmより大きなサイズを有する濃縮された溶液中の粒子の数は、濃縮前の溶液中の1μmより大きなサイズを有する粒子の数の200倍より小さい、工程、
を含む、方法。
【請求項4】
免疫グロブリン溶液から免疫グロブリン凝集物を除去するための方法であって、以下の工程:
i)濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、免疫グロブリンは溶液中にモノマー形態およびポリマー形態で存在する、工程、または
濃縮しようとする免疫グロブリンを含む溶液を提供する工程であって、ここで、溶液において、ポリマー形態の免疫グロブリンの形成が熱をかけることによって誘導される、工程
ii)i)で提供された溶液を、3.0バールの一定のΔp、および0.6バールの一定の膜間差圧でのタンジェンシャルフロー濾過を用いることによって濃縮する工程、
iii)工程ii)において得られた免疫グロブリン溶液から、0.2μmポアサイズフィルターを用いる濾過によって免疫グロブリン凝集物を除去する工程、
を含み、
ここで、粒子数を光遮蔽によって決定した場合、1μmより大きなサイズを有する工程ii)の濃縮された溶液中の粒子の数は、濃縮前の溶液中の1μmより大きなサイズを有する粒子の数の200倍より小さいことを特徴とする、方法。
【請求項5】
タンジェンシャルフロー濾過を用いる濃縮工程の間のポリマー可溶性形態の免疫グロブリンの形成を低下させるための方法であって、ここで、低下は、濃縮工程の開始前のポリマー可溶性形態の免疫グロブリンの添加、補充、または生成によって達成される、方法。
【請求項6】
粒子数を光遮蔽によって決定した場合、5μmより大きなサイズを有する濃縮された溶液中の粒子の数が、濃縮前の溶液中の5μmより大きなサイズを有する粒子の数の100倍より小さいことを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
溶液のサイズ排除クロマトグラムにおけるモノマー免疫グロブリンのピークの前に溶出されるピークの曲線下面積として決定した場合、ポリマー可溶性免疫グロブリン形態の割合が5%より大きいことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程d)の前または後に以下の工程:
e)異種免疫グロブリンを含む水性緩衝化溶液を精製する工程、
を含むことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項9】
異種免疫グロブリンが、完全免疫グロブリン、または免疫グロブリンフラグメント、または免疫グロブリン複合体であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物細胞が、CHO細胞、BHK細胞、またはPER.C6(登録商標)細胞であることを特徴とする、請求項3〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
光遮蔽による決定が、90mg/mlのタンパク質濃度におけるものであることを特徴とする、請求項2〜10のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−504513(P2011−504513A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535289(P2010−535289)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010060
【国際公開番号】WO2009/068282
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】