免疫グロブリン溶液を精製するための方法
本明細書では、発酵の直後または、一つもしくは複数の予備的精製工程、例えばプロテインAアフィニティクロマトグラフィーの後のどちらかにおいて、細胞培養上澄み液を精製するための方法を報告する。酸のpH値の範囲を調節すること及びそれに続く酸性化された溶液のインキュベーションによって、宿主細胞核酸及び宿主細胞タンパク質が沈殿され得るが、標的ポリペプチドは、溶液にとどまる。その後沈殿として、混入した宿主細胞成分が簡単な物理的分離工程によって除去されうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、細胞培養上澄み液またはプロテインAクロマトグラフィー溶出液などの溶液から、ポリペプチド含有量を減らすことなく、宿主細胞DNA及び宿主細胞タンパク質を除去するための方法を報告する。これは、溶液のpH値をpH6未満の値に下げ、このpH値で溶液をインキュベートすることによって達成される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組み換えモノクローナル抗体及び他のタンパク質などの生物学的巨大分子は、広範囲の診断および治療分野で使用されている。特に、モノクローナル抗体は、現在、癌または関節リウマチのような、種々の深刻な疾病において、広く使用されている。一般に、これらの複雑な生物学的分子は、バクテリア、酵母、または、哺乳類細胞の発酵工程で製造される。伝統的には、微生物細胞または哺乳類細胞は、遠心分離またはろ過によって、発酵ブロスから除去され、その後、細胞のない上澄み液がさらに濾過、沈殿、及びクロマトグラフィーのような種々の方法によって、発酵関係の不純物をさらに除かれ精製される。
【0003】
培地成分以外の発酵工程からの主な不純物は、生物学的巨大分子を生産する細胞からの、残渣量の核酸(宿主細胞DNA(HCDNA)及びRNA)並びに宿主細胞タンパク質(HCP)である。治療目的では、最終原体における宿主細胞DNA(HCDNA)または宿主細胞タンパク質の許容できる濃度は、有害作用を減らし患者の安全を保障するために、非常に低い。最近の発酵技術の改良によって生産バイオリアクターにおけるより高い細胞密度がもたらされ、細胞のない上澄み液におけるHCP及びHCDNAのレベルを増加させたため、精製工程により高い水準が求められるようになっている。
【0004】
したがって、細胞培養上澄み液から大量のHCDNA及びHCPを除去する効果的で安価な方法が、非常に望まれている。
【0005】
O'Brien, W.D., et al.(J. Acoust. Soc. Am. 52(1972) 1251-1255(非特許文献1))は、デオキシリボース核酸の水溶液の超音波調査を報告している。Vorlickova, M., et al.(Nucl. Acids Res. 27 (1999) 581-586(非特許文献2))は、DNAのグアニン‐アデニン反復鎖の二量体形成を報告している。哺乳類細胞の発酵ブロスの酸沈殿は、Lydersen et al. (Lydersen, B.K., et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 745 (1994) 222-231(非特許文献3))によって、報告されている。低いpH及び二価の陽イオンを用いた生物巨大分子を分離する方法は、WO2008/127305(特許文献1)に報告されている。EP1561756(特許文献2)及びEP1380589(特許文献3)では、タンパク質を精製するための方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008/127305
【特許文献2】EP1561756
【特許文献3】EP1380589
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】O'Brien, W.D., et al., J. Acoust. Soc. Am. 52(1972) 1251-1255
【非特許文献2】Vorlickova, M., et al., Nucl. Acids Res. 27 (1999) 581-586
【非特許文献3】Lydersen, B.K., et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 745 (1994) 222-231
【発明の概要】
【0008】
本明細書では、細胞培養上澄み液からポリペプチドを精製するための方法を報告する。pH値を酸の範囲に調節し、続いて特定の時間、酸性化した溶液をインキュベートすることによって、宿主細胞核酸及び宿主細胞タンパク質が沈殿するが、標的ポリペプチドは溶液にとどまることが見いだされた。その後沈殿物及びそれに混入した宿主細胞成分を、単一の物理的分離工程によって除去することができる。溶液の処理の間、目的のポリペプチドは溶液にとどまり、宿主細胞の混入物は沈殿する。
【0009】
本明細書で報告する一つの局面は、下記の工程を含む、免疫グロブリンを生産または得るための方法である:
(i) 酸及び水からなる溶液を、細胞及び細胞片が除去された細胞培養上澄み液に加え、pH値をpH4.5〜pH5.5の値に調節する工程であって、それによって溶液に二価の陽イオンが実質的に無いようにする、工程、
(ii) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(iii) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによって免疫グロブリンを生産または得る、工程、
ここで、細胞培養上澄みは、10mg/mlを超えない濃度で免疫グロブリンを含み、加える酸の濃度は、5.5mol/l以下である。
【0010】
一つの態様において、免疫グロブリンの少なくとも90%は、インキュベートする工程において溶液にとどまる。さらなる態様において、免疫グロブリンの少なくとも95%は、インキュベートする工程において溶液にとどまる。また一つの態様において、免疫グロブリンの98%超が、インキュベートする工程において溶液にとどまる。
【0011】
一つの態様において、ポリペプチドを生産するための方法は、下記の工程を含む:
(a) ポリペプチドをコードする核酸を含む細胞を培養する工程、
(b) 細胞培養上澄み液から細胞及び細胞片を除去する工程、
(c) 細胞培養上澄み液のpH値を、pH5.5未満の値に調節する工程、
(d) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(e) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによってポリペプチドを生産する、工程。
【0012】
また、本明細書で報告される一つの局面は、下記の工程を含む、細胞培養上澄み液を精製するための方法である:
(a) 細胞培養上澄み液のpH値をpH5.5未満の値に調節する工程、
(b) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(c) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによって細胞培養上澄み液を精製する、工程。
【0013】
別の局面は、下記の工程を含む、ポリペプチドを生産するための方法である:
(i) ポリペプチドをコードする核酸を含む哺乳類細胞を提供する工程、
(ii) 無血清条件下で細胞を培養する工程、
(iii) 細胞培養上澄み液を回収し、任意で、細胞及び細胞片を細胞培養上澄み液から除去する工程、及び
(iv) 細胞培養上澄み液を下記の工程によって精製する工程であって、それによってポリペプチドを生産する、工程、
(a) 酸及び水からなる溶液を、溶液に二価の陽イオンが実質的にない細胞培養上澄み液に加え、pH値をpH5.5未満の値に調節する工程、
(b) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(c) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程、
ここで、細胞培養上澄み液は、10mg/mlを超えない濃度でポリペプチドを含み、ここで、加える酸の濃度は、5.5mol/l以下である。
【0014】
一つの態様において、pH値を調節することは、pH値をpH5.5〜pH3.5にすることである。さらなる態様において、pH値を調節することは、pH値をpH5.5〜pH4.5にすることである。
【0015】
一つの態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、1℃〜30℃の温度で行う。別の態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、2℃〜10℃の温度で行う。さらなる態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約4℃で行う。
【0016】
一つの態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約0.5時間以上行う。別の態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約0.5時間〜約72時間行う。さらなる態様においてpHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約2時間〜約48時間行う。また別の態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約20時間〜約32時間行う。また別の態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約24時間行う。
【0017】
一つの態様において、細胞及び細胞片の除去及び/または沈殿の除去は、濾過、沈殿、または遠心分離によって行う。
【0018】
別の態様において、細胞培養上澄み液は、哺乳類細胞の培養上澄み液である。
【0019】
一つの態様において、ポリペプチドは免疫グロブリンである。別の態様において、免疫グロブリンは、クラスGの免疫グロブリンである。また別の態様において、免疫グロブリンは、クラスG、サブクラスがIgG1またはIgG4またはそれらの変異体である。
【0020】
一つの態様において、免疫グロブリンはサブクラスIgG1であり、インキュベートする工程は約2時間〜約48時間行い、pH値はpH4.5〜pH3.5である。
【0021】
一つの態様において、免疫グロブリンはサブクラスIgG4であり、インキュベートする工程は約2時間〜約30時間行い、pH値はpH5.5〜pH4.5である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本明細書で報告される方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞DNA含有量。
【図2】本明細書で報告される方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞タンパク質含有量。
【図3】本明細書で報告される方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄み中の抗体含有量。
【図4】本明細書で報告される方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞DNA含有量。
【図5】本明細書で報告される方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞タンパク質含有量。
【図6】本明細書で報告される方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄み中の抗体含有量。
【図7】本明細書で報告される方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞DNA含有量。
【図8】本明細書で報告される方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞タンパク質含有量。
【図9】本明細書で報告される方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄み中の抗体含有量。
【図10】本明細書で報告される方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄み中の、pH値及びインキュベーション時間に応じた抗体含有量。
【図11】本明細書で報告される方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄み中の、pH値及びインキュベーション時間に応じた抗体含有量。
【図12】本明細書で報告される方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄み中の、pH値及びインキュベーション時間に応じた抗体含有量。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本明細書では、下記の工程を含む、ポリペプチドを精製するための方法を報告する:
(a) ポリペプチドを含む細胞培養上澄み液のpH値をpH3.5〜5.5のpH値に調節する工程、
(b) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(c) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによってポリペプチドを精製する、工程。
【0024】
本明細書において報告される方法は、細胞及び細胞片が除去された未精製細胞の発酵上澄み液に対して直接行うことができるが、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーなどの一つまたは複数の予備的精製工程の後にも行うことができる。
【0025】
「細胞培養上澄み液」なる用語は、関心対象のポリペプチドを分泌する細胞の培養によって得られる溶液を意味する。上澄み液は、分泌されたポリペプチドのほかに、使用された細胞培養培地の成分、及び、培養中に細胞により分泌された関心対象のポリペプチド以外の代謝成分、及び、培養中に死細胞から、または細胞からのポリペプチドの回収の間に分解した細胞から遊離した、培養された細胞の他の成分を含む。細胞培養上澄み液は、細胞片及び/または無傷細胞を含まない。この用語はまた、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーなどの単一のクロマトグラフィー精製工程によって処理された、細胞培養上澄み液を含む。
【0026】
「ポリペプチド」なる用語は、天然に、あるいは合成によって生産されたかによらず、ペプチド結合によって結合されたアミノ酸からなるポリマーを意味する。約20未満のアミノ酸残基のポリペプチドは、「ペプチド」と呼ばれ得、一方、2以上のポリペプチドからなる分子、または、100より多いアミノ酸残基のポリペプチドを含む分子は、「タンパク質」と呼ばれうる。ポリペプチドはまた、炭水化物基、金属イオン、またはカルボン酸エステルなどの、非アミノ酸成分を含み得る。非アミノ酸成分は、ポリペプチドが発現する細胞により加えられ得、細胞型で変わり得る。ポリペプチドは、アミノ酸骨格構造またはアミノ酸をコードする核酸に関して、本明細書において定義される。炭水化物基などの付加物は通常特定されないが、それにもかかわらず存在しうる。本明細書で報告される方法の一つの態様では、ポリペプチドは、免疫グロブリン、免疫グロブリン断片、及び免疫グロブリン複合体から選択される。
【0027】
「免疫グロブリン」なる用語は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされた2以上のポリペプチドからなるたんぱく質を意味する。認識される免疫グロブリン遺伝子は、異なる定常領域遺伝子と同様に、種々の免疫グロブリンの可変領域遺伝子を含む。一般に免疫グロブリンは、二つのいわゆる軽鎖ポリペプチド(軽鎖)及び二つのいわゆる重鎖ポリペプチド(重鎖)を含む。重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれは、抗原と相互作用することができる結合領域を含む可変ドメイン(可変領域)(一般的に、ポリペプチド鎖のアミノ末端部)を含む。重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれは、定常領域(一般的にカルボキシル末端部)を含む。免疫グロブリンの軽鎖または重鎖の可変ドメインは、異なるセグメントを含む。すなわち、四つのフレームワーク領域(FR)及び三つの高頻度可変領域(CDR)である。免疫グロブリンの定常領域は、免疫グロブリンの抗原と結合するのに直接関係ないが、種々のエフェクター機能を示す。重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づいて、免疫グロブリンは、クラスIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMに区分される。これらのクラスのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)に区分される。すなわち、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4に、または、IgAは、IgA1及びIgA2である。免疫グロブリンが所属するクラスによって、免疫グロブリンの重鎖定常領域は、それぞれ、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、及びμ(IgM)と呼ばれる。
【0028】
「免疫グロブリン複合体」なる用語は、ペプチド結合を通してさらなるポリペプチドと結合した、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の少なくとも一つのドメインを含むポリペプチドを意味する。さらなるポリペプチドは、ホルモン、または、成長受容体、または細胞有毒ペプチド、または補体因子、またはそれと同様のものなどの、非免疫グロブリンペプチドである。
【0029】
一つの態様において、免疫グロブリンは、クラスGの免疫グロブリンである。別の態様では、免疫グロブリンは、クラスGサブクラスIgG1またはサブクラスIgG4またはそれらの変異体である。「変異体」なる用語は、親ペプチドのアミノ酸配列における一つまたは複数のアミノ酸残基の付加、削除、及び/または置換によって、親ポリペプチドアミノ酸配列とはアミノ酸配列が異なるポリペプチドを意味する。一つの態様において、変異体は、親ポリペプチドアミノ酸配列とアミノ酸配列が少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、別の態様では、少なくとも95%、さらなる態様では、少なくとも99%のアミノ酸配列の同一性を有するであろう。
【0030】
本明細書で使用される「pH値を調節する」なる用語は、溶液のpH値をpH7.0より低いpH値に下げるために、酸を溶液へ添加すること、特に、細胞培養上澄み液への添加を意味する。この調節は、酸性溶液、すなわち酸の添加によって達成されうる。一つの態様において、調節は、塩酸、リン酸、酢酸、及びクエン酸から選択される酸性溶液の添加によって行われる。
【0031】
本明細書で使用される「インキュベートする(インキュベーション)」なる用語は、それぞれの溶液が、セットされたpH値で維持されることを意味する。インキュベートする工程は、特定の時間行われうる。一つの態様では、インキュベートする工程は、約0.5時間以上行われる。別の態様では、インキュベートする工程は、約0.5時間〜約72時間行われる。さらなる態様では、インキュベートする工程は、約2時間〜約48時間行われる。さらに別の態様では、インキュベートする工程は、約20時間〜約32時間行われる。また別の態様では、インキュベートする工程は、約24時間行われる。一つの態様では、インキュベートする工程は、pH3.5〜pH5.5のpH値で、特に、pH4.5〜pH5.5のpH値で、上記で挙げられた態様において定義された特定の時間行われる。
【0032】
本明細書で使用される「約」なる用語は、直接後続する値が、厳密な値でなくむしろ範囲を意味することを意味する。この範囲は、一つの態様では、その値のプラスマイナス20%であり、別の態様では、その値のプラスマイナス10%であり、さらなる態様では、その値のプラスマイナス5%である。例えば、「約24時間」なる用語は、19.2時間〜28.8時間の範囲を意味する。
【0033】
「実質的にない」なる用語は、溶液に、そのような化合物が添加されていないことを意味する。しかし、その特定の化合物は、溶液に含まれる他の化合物に存在するために、少量存在しうる。一般的に、1mM以下の濃度で、特に、1μM以下の濃度でしかこの化合物が溶液に存在しないとき、溶液には、その化合物は実質的にない。
【0034】
ポリペプチドを生産する方法は当技術分野で公知であり、原核細胞及び真核細胞におけるタンパク質の発現、それに続くポリペプチドの単離及び通常薬学的に許容される純度への精製を含む。例えば、細胞における免疫グロブリンの発現のために、軽鎖及び重鎖をコードする核酸が、標準的な方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6(R)細胞、酵母、または、大腸菌(E. coli)細胞のような、適切な原核宿主細胞または真核宿主細胞で達成され、免疫グロブリンは、細胞(上澄み液または溶解後の細胞)から回収される。
【0035】
本出願において用いられる「細胞」なる用語は、ポリぺプチドを生産するように操作されうるいかなる種類の細胞系をも意味する。一つの態様では、細胞は、哺乳類細胞である。別の態様では、細胞は、HEK細胞及びCHO細胞から選択される。
【0036】
培養された細胞の核酸及び細胞タンパク質は沈殿するが、分泌されたポリペプチドは、細胞培養上澄み液のpH値がpH5.5未満の値に調節され、続いて溶液がそのpH値で特定の時間インキュベートされるならば、溶液にとどまることが見いだされた。その後、沈殿物と、それに混入した宿主細胞成分が、簡単な物理的分離工程によって除去され得る。
【0037】
本明細書で報告される方法は、いかなる種類の細胞培養上澄み液、すなわち、真核細胞培養上澄み液及び原核細胞培養上澄み液に対しても、用いられうる。一つの態様では、細胞培養上澄み液は、真核細胞培養上澄み液である。さらなる態様では、上澄みは、哺乳類細胞培養上澄み液である。別の態様では、上澄み液は、CHO、HEK、またはSp2/0細胞培養上澄み液である。
【0038】
今日、ほとんどすべての細胞培養工程が、動物の血清を加えることなく行われる。したがって一つの態様では、細胞培養上澄み液は、血清なしの条件下の細胞の培養から得られる。さらに、動物の血清を加えることがないと、動物の血清中に存在する未知の化合物からの潜在的干渉が除外され、また細胞培養上澄み液中のポリペプチドの濃度が減る。これは、関心対象のポリペプチドの共沈殿が起こりそれに伴って精製工程での収率を減らす精製目的で沈殿を使用する方法においては、一般的に有利である。同じ効果が、培養細胞またはそれからの細胞断片の存在下で観察される。したがって一つの態様では、細胞及び細胞断片は、pH値の調節に先立って、細胞培養上澄み液から除去される。
【0039】
本明細書で報告される方法において精製されるポリペプチドの濃度は10mg/mlを超えない。一つの態様では、細胞培養上澄み液のポリペプチドの濃度は0.1mg/ml〜約10mg/mlである。別の態様では、細胞培養上澄み液のポリペプチドの濃度は1mg/ml〜8mg/mlである。さらなる態様において、細胞培養上澄み液のポリペプチドの濃度は1mg/ml〜5mg/mlである。
【0040】
細胞培養上澄み液のpH値を調節するためには、酸が細胞培養上澄み液に添加されなくてはならない。この酸は、酸が不可逆的にポリペプチドと相互作用しない限り、いかなる酸でもよい。一つの態様では、酸は、塩酸、リン酸、硫酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、乳酸、及びクエン酸から選択される。酸は、細胞培養上澄み液に添加されるとき水溶液であることを指摘しておかなければならない。溶液は、遊離酸としての酸及び水のそれぞれからなり、他の物質、特に二価の陽イオンは実質的にない。「遊離酸」なる用語は、酸性水素原子が存在する形で酸が存在することを意味し、例えば、異なる陽イオンと交換されないことを意味する。これは、溶液を準備するのに使用される酸の形態もまた、遊離酸であることを含む。同様に、酸が、塩の形態で使用されることは除外される。一つの態様では、酸は、塩酸、リン酸、酢酸、及びクエン酸から選択される。それぞれの溶液における酸の濃度は、一つの態様では、5.5mol/l以下である。別の態様では、酸の濃度は1mol/l〜5.5mol/lである。さらなる態様では、酸の濃度は1.5mol/l〜4mol/lである。または、それぞれの溶液の酸の濃度は、一つの態様では30重量%以下である。一つの態様は、酸の濃度は1重量%〜30重量%である。別の態様では、濃度は5重量%〜25重量%である。さらなる態様では、酸の濃度は10重量%〜20重量%である。
【0041】
概して、本明細書で数値範囲が与えられるなら、その範囲は、示された境界点を明確に含む。
【0042】
pH値の調製の後、pH値が調節された細胞培養上澄み液は、特定の時間インキュベートされる。この特定の時間は、一つの態様では、少なくとも約0.5時間以上である。別の態様では、特定の時間は約0.5時間〜約72時間である。さらなる態様では、特定の時間は約2時間〜約48時間である。さらに別の態様では、特定の時間は約20時間〜約32時間である。また別の態様では、特定の時間は、約24時間である。一つの態様では、pH調製された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、1℃〜30℃の温度で行う。別の態様では、pH調製された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は2℃〜10℃の温度で行う。さらなる態様では、pH調製された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は約4℃の温度で行う。
【0043】
本明細書に報告される方法を用いれば、宿主細胞核酸及び宿主細胞タンパク質は沈殿する。すなわち、生産されたポリペプチドの濃度を減らすことなく、細胞培養上澄み液から除去される。約2時間のインキュベーション時間は、宿主細胞の核酸の大部分を除去するのに十分であり得る。したがって一つの態様では、インキュベートする工程は約2時間である。宿主細胞タンパク質の沈殿のためには、約2時間〜約48時間のインキュベーション時間が、調節されたpH値及びポリペプチドに応じて十分であり得る。したがって一つの態様では、インキュベートする工程は、pH値約5、温度約4℃で、約2時間行われる。別の態様では、インキュベートする工程は、pH値約pH5、温度約4℃で、約2時間〜約48時間行われる。
【0044】
一つの態様では、ポリペプチドは免疫グロブリンである。
【0045】
一つの態様では、免疫グロブリンは、サブクラスIgG1の免疫グロブリンである。別の態様では、インキュベートする工程は、pH値pH4.5〜pH3.5で、2時間〜48時間行われ、免疫グロブリンは、サブクラスIgG1の免疫グロブリンである。特定の態様では、インキュベートする工程は2時間〜30時間行われる。
【0046】
一つの態様では、免疫グロブリンは、サブクラスIgG4の免疫グロブリンである。別の態様では、インキュベートする工程は、pH値pH5.5〜pH4.5で、2時間〜48時間行われ、免疫グロブリンは、サブクラスIgG4の免疫グロブリンである。特定の態様では、インキュベートする工程はpH値約pH5で行われる。
【0047】
インキュベートする工程の後、沈殿は除去されなければならない。除去するためには、当業者に公知のいかなる方法を用いてもよい。典型的な例は、濾過、沈降及びデカンテーション、遠心分離及び沈下である。一つの態様では、沈殿は、沈降、濾過、沈下及び遠心分離から選択される方法によって除去される。
【0048】
沈殿を除去した後、例えば、当業者に公知のクロマトグラフィー方法で、ポリペプチドのさらなる精製が行われうる。したがって一つの態様では、本明細書に報告される方法は、クロマトグラフィーの一工程または複数工程を用いて、ポリペプチドを精製する工程を含む。
【0049】
免疫グロブリンの精製には、異なるカラムクロマトグラフィー工程の組み合わせが用いられうる。一つの態様では、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーに、一つまたは二つの追加的クロマトグラフィー分離工程、例えば、イオン交換クロマトグラフィー工程が続く。例えば、微生物タンパク質のアフィニティクロマトグラフィー(例えば、プロテインAまたはプロテインGのアフィニティクロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)、及び混合モード交換)、親イオウ性吸着(例えば、β―メルカプトエタノール及び他のSHリガンドを用いる)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニルセファロース、アザ‐アレノフィリック(aza-arenophilic)樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を用いる)、金属キレートアフィニティクロマトグラフィー(例えば、Ni(II)及びCu(II)-親和性物質を用いる)、分子ふるいクロマトグラフィー、及び電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動、毛細管電気泳動等)等の、さまざまな方法が良く確立されており、タンパク質の回収と精製に広く使用されている。
【0050】
下記の実施例及び図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は、添付の特許請求の範囲に述べられている。本発明の精神から離れない限り、述べられた方法において修正がなされうることが理解される。
【実施例】
【0051】
実施例1
材料及び方法
抗体
本明細書で報告される方法は、WO2008/017963に報告されたanti-EGFR抗体を用いて説明される。
【0052】
別の典型的な免疫グロブリンは、WO2006/099698に報告されたanti-PLGF抗体である。
【0053】
別の典型的な免疫グロブリンは、WO2005/100402に報告されたanti-P-selectin抗体である。
【0054】
別の典型的な免疫グロブリンは、PCT/EP2010/070062に報告されたanti-HER3抗体である。
【0055】
DNA
残留するDNA濃度は、Q-PCR(定量ポリメラーゼ連鎖反応)によって、測定した。したがって、試料中のDNAを変性させるため、試料を高温でインキュベートした。DNAは、シリカマトリックスによって溶液から捕捉し、製造者の指示に従ってそこから緩衝液で溶出した。抽出のために、QIAamp Viral RNA Kitを含むQIAcubeロボット(両方とも、Qiagen、Hilden、ドイツ)を使用した。したがって、試料、溶解バッファー、及び担体RNAを混合し、10分間インキュベートした。エタノールを各チューブに加え、QIAamp Viral RNA Kitのカラムに試料‐エタノール溶液をロードし、遠心分離した。その後洗浄溶液をカラムに適用し、再度カラムを遠心分離した。その後異なる洗浄溶液をカラムに適用し、カラムを再度遠心分離した。溶出バッファーを適用したのち、カラムは二度遠心分離される。
【0056】
DNAの定量化のために、LightCycler2.0(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、ドイツ)が使用される。表1には、PCRパラメーターの概要を示す。
【0057】
(表1)PCRパラメーター
【0058】
工程の間、染料で標識された1対のDNA鎖は、DNA単鎖に結合する。増幅の間、DNAの量に比例して蛍光が増加する。
【0059】
HCP
マイクロタイタープレートのウェルの壁は、血清アルブミン及びストレプトアビジンの混合物でコーティングされている。HCPに対するヤギ由来のポリクローナル抗体が、マイクロタイタープレートのウェルの壁に結合している。洗浄工程の後、マイクロタイタープレートの異なるウェルが、異なる濃度のHCP較正用配列及び試料溶液を用いてインキュベートされる。インキュベーションの後、非結合試料材料が、緩衝溶液で洗浄され除去される。検出のために、ウェルは、結合宿主細胞タンパク質を検出するための抗体ペルオキシダーゼ複合体とともにインキュベートされる。固定化されたペルオキシダーゼの活性は、ABTSとのインキュベーション及び405nmでの検出で検出される。
【0060】
SEC
ASI-100HPLCシステム(Dionex、Idstein、ドイツ)のTosoh Haas TSK 3000 SWXLカラムで、クロマトグラフィーを行った。溶出のピークは、UVダイオードアレイ検出器(Dionex)によって、280nmでモニターした。濃縮された試料を1mg/mlに溶解したのち、200mMリン酸二水素カリウム及び250mMの塩化カリウムからなるpH7.0の緩衝液で、安定したベースラインが達成されるまでカラムを洗浄した。分析ランは、0.5ml/分の流速で30分、室温で、均一濃度の条件下で行った。Chromeleon(Dionex、Idstein、ドイツ)を用い、クロマトグラムを手動で積分した。
【0061】
IEC
イオン交換クロマトグラフィーを用いて、タンパク質の電荷不均一性を解析した。陽イオン交換Dionex ProPac クロマトグラフィーカラムをDionex Chromeleon HPLC システムで使用した。
【0062】
タンパク質決定
クロマトグラフィー方法を、試料中に存在する抗体の量を定量化するのに使用した。抗体のFc領域と結合するPoros Aカラムを使用した。抗体はカラムに結合し、続いて低いpH条件で溶出される。タンパク質の濃度は、320nmの参照波長で、アミノ酸配列に基づいて計算されたモル吸光係数を用いて、280nmでの光学濃度(OD)を決定することによって決定された。
【0063】
実施例2
手法
試料は、個々の抗体を分泌する株化細胞の培地から直接得た。細胞及び細胞片の除去後、培養上澄み液をそれぞれ200mlのいくつかのアリコットに分け、それぞれに10%または20%(v/v)の酢酸を加えることによって、pH値をpH4.0、pH5.0、pH6.0に調節した。参照のアリコットに関しては、必要である場合pH値をおおよそpH7に調節した。アリコットは4℃で貯蔵し、2、24、及び48時間後に各アリコットから試料を採取した。
【0064】
貯蔵の間、異なるレベルの沈殿形成が、異なるpH値で観察された。沈殿は、沈降によって除去した。または、沈殿は、濾過または遠心分離によって分離することができる。
【0065】
沈殿の除去後、澄んだ液相は、宿主細胞DNA含有量、宿主細胞タンパク質(HCP)含有量、及びタンパク質量について分析された。
【0066】
(表2)本明細書で報告された方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量
【0067】
(表3)本明細書で報告された方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量
【0068】
(表4)本明細書で報告された方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量
【0069】
(表5)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量(第一回目のデータセット)
【0070】
(表5a)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量(第二回目のデータセット)
【0071】
(表5b)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞DNA含有量(第二回目のデータセット)
【0072】
(表6)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量(第一回目のデータセット)
【0073】
(表6a)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量(第二回目のデータセット)
【0074】
(表6b)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞タンパク質含有量(第二回目のデータセット)
【0075】
(表7)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量(第一回目のデータセット)
【0076】
(表7a)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量(第二回目のデータセット)
【0077】
(表8)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量(第一回目のデータセット)
【0078】
(表8a)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量(第二回目のデータセット)
【0079】
(表8b)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞DNA含有量(第二回目のデータセット)
【0080】
(表9)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量(第一回目のデータセット)
【0081】
(表9a)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量(第二回目のデータセット)
【0082】
(表9b)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞タンパク質含有量(第二回目のデータセット)
【0083】
(表10)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量(第一回目のデータセット)
【0084】
(表10a)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量(第二回目のデータセット)
【0085】
(表11)本明細書で報告された方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量
【0086】
(表11a)本明細書で報告された方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞DNA含有量
【0087】
(表12)本明細書で報告された方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量
【0088】
(表12a)本明細書で報告された方法で得られたanti- HER3抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞タンパク質含有量
【0089】
(表13)本明細書で報告された方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量
【技術分野】
【0001】
本明細書では、細胞培養上澄み液またはプロテインAクロマトグラフィー溶出液などの溶液から、ポリペプチド含有量を減らすことなく、宿主細胞DNA及び宿主細胞タンパク質を除去するための方法を報告する。これは、溶液のpH値をpH6未満の値に下げ、このpH値で溶液をインキュベートすることによって達成される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組み換えモノクローナル抗体及び他のタンパク質などの生物学的巨大分子は、広範囲の診断および治療分野で使用されている。特に、モノクローナル抗体は、現在、癌または関節リウマチのような、種々の深刻な疾病において、広く使用されている。一般に、これらの複雑な生物学的分子は、バクテリア、酵母、または、哺乳類細胞の発酵工程で製造される。伝統的には、微生物細胞または哺乳類細胞は、遠心分離またはろ過によって、発酵ブロスから除去され、その後、細胞のない上澄み液がさらに濾過、沈殿、及びクロマトグラフィーのような種々の方法によって、発酵関係の不純物をさらに除かれ精製される。
【0003】
培地成分以外の発酵工程からの主な不純物は、生物学的巨大分子を生産する細胞からの、残渣量の核酸(宿主細胞DNA(HCDNA)及びRNA)並びに宿主細胞タンパク質(HCP)である。治療目的では、最終原体における宿主細胞DNA(HCDNA)または宿主細胞タンパク質の許容できる濃度は、有害作用を減らし患者の安全を保障するために、非常に低い。最近の発酵技術の改良によって生産バイオリアクターにおけるより高い細胞密度がもたらされ、細胞のない上澄み液におけるHCP及びHCDNAのレベルを増加させたため、精製工程により高い水準が求められるようになっている。
【0004】
したがって、細胞培養上澄み液から大量のHCDNA及びHCPを除去する効果的で安価な方法が、非常に望まれている。
【0005】
O'Brien, W.D., et al.(J. Acoust. Soc. Am. 52(1972) 1251-1255(非特許文献1))は、デオキシリボース核酸の水溶液の超音波調査を報告している。Vorlickova, M., et al.(Nucl. Acids Res. 27 (1999) 581-586(非特許文献2))は、DNAのグアニン‐アデニン反復鎖の二量体形成を報告している。哺乳類細胞の発酵ブロスの酸沈殿は、Lydersen et al. (Lydersen, B.K., et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 745 (1994) 222-231(非特許文献3))によって、報告されている。低いpH及び二価の陽イオンを用いた生物巨大分子を分離する方法は、WO2008/127305(特許文献1)に報告されている。EP1561756(特許文献2)及びEP1380589(特許文献3)では、タンパク質を精製するための方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008/127305
【特許文献2】EP1561756
【特許文献3】EP1380589
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】O'Brien, W.D., et al., J. Acoust. Soc. Am. 52(1972) 1251-1255
【非特許文献2】Vorlickova, M., et al., Nucl. Acids Res. 27 (1999) 581-586
【非特許文献3】Lydersen, B.K., et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 745 (1994) 222-231
【発明の概要】
【0008】
本明細書では、細胞培養上澄み液からポリペプチドを精製するための方法を報告する。pH値を酸の範囲に調節し、続いて特定の時間、酸性化した溶液をインキュベートすることによって、宿主細胞核酸及び宿主細胞タンパク質が沈殿するが、標的ポリペプチドは溶液にとどまることが見いだされた。その後沈殿物及びそれに混入した宿主細胞成分を、単一の物理的分離工程によって除去することができる。溶液の処理の間、目的のポリペプチドは溶液にとどまり、宿主細胞の混入物は沈殿する。
【0009】
本明細書で報告する一つの局面は、下記の工程を含む、免疫グロブリンを生産または得るための方法である:
(i) 酸及び水からなる溶液を、細胞及び細胞片が除去された細胞培養上澄み液に加え、pH値をpH4.5〜pH5.5の値に調節する工程であって、それによって溶液に二価の陽イオンが実質的に無いようにする、工程、
(ii) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(iii) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによって免疫グロブリンを生産または得る、工程、
ここで、細胞培養上澄みは、10mg/mlを超えない濃度で免疫グロブリンを含み、加える酸の濃度は、5.5mol/l以下である。
【0010】
一つの態様において、免疫グロブリンの少なくとも90%は、インキュベートする工程において溶液にとどまる。さらなる態様において、免疫グロブリンの少なくとも95%は、インキュベートする工程において溶液にとどまる。また一つの態様において、免疫グロブリンの98%超が、インキュベートする工程において溶液にとどまる。
【0011】
一つの態様において、ポリペプチドを生産するための方法は、下記の工程を含む:
(a) ポリペプチドをコードする核酸を含む細胞を培養する工程、
(b) 細胞培養上澄み液から細胞及び細胞片を除去する工程、
(c) 細胞培養上澄み液のpH値を、pH5.5未満の値に調節する工程、
(d) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(e) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによってポリペプチドを生産する、工程。
【0012】
また、本明細書で報告される一つの局面は、下記の工程を含む、細胞培養上澄み液を精製するための方法である:
(a) 細胞培養上澄み液のpH値をpH5.5未満の値に調節する工程、
(b) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(c) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによって細胞培養上澄み液を精製する、工程。
【0013】
別の局面は、下記の工程を含む、ポリペプチドを生産するための方法である:
(i) ポリペプチドをコードする核酸を含む哺乳類細胞を提供する工程、
(ii) 無血清条件下で細胞を培養する工程、
(iii) 細胞培養上澄み液を回収し、任意で、細胞及び細胞片を細胞培養上澄み液から除去する工程、及び
(iv) 細胞培養上澄み液を下記の工程によって精製する工程であって、それによってポリペプチドを生産する、工程、
(a) 酸及び水からなる溶液を、溶液に二価の陽イオンが実質的にない細胞培養上澄み液に加え、pH値をpH5.5未満の値に調節する工程、
(b) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(c) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程、
ここで、細胞培養上澄み液は、10mg/mlを超えない濃度でポリペプチドを含み、ここで、加える酸の濃度は、5.5mol/l以下である。
【0014】
一つの態様において、pH値を調節することは、pH値をpH5.5〜pH3.5にすることである。さらなる態様において、pH値を調節することは、pH値をpH5.5〜pH4.5にすることである。
【0015】
一つの態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、1℃〜30℃の温度で行う。別の態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、2℃〜10℃の温度で行う。さらなる態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約4℃で行う。
【0016】
一つの態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約0.5時間以上行う。別の態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約0.5時間〜約72時間行う。さらなる態様においてpHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約2時間〜約48時間行う。また別の態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約20時間〜約32時間行う。また別の態様において、pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、約24時間行う。
【0017】
一つの態様において、細胞及び細胞片の除去及び/または沈殿の除去は、濾過、沈殿、または遠心分離によって行う。
【0018】
別の態様において、細胞培養上澄み液は、哺乳類細胞の培養上澄み液である。
【0019】
一つの態様において、ポリペプチドは免疫グロブリンである。別の態様において、免疫グロブリンは、クラスGの免疫グロブリンである。また別の態様において、免疫グロブリンは、クラスG、サブクラスがIgG1またはIgG4またはそれらの変異体である。
【0020】
一つの態様において、免疫グロブリンはサブクラスIgG1であり、インキュベートする工程は約2時間〜約48時間行い、pH値はpH4.5〜pH3.5である。
【0021】
一つの態様において、免疫グロブリンはサブクラスIgG4であり、インキュベートする工程は約2時間〜約30時間行い、pH値はpH5.5〜pH4.5である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本明細書で報告される方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞DNA含有量。
【図2】本明細書で報告される方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞タンパク質含有量。
【図3】本明細書で報告される方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄み中の抗体含有量。
【図4】本明細書で報告される方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞DNA含有量。
【図5】本明細書で報告される方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞タンパク質含有量。
【図6】本明細書で報告される方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄み中の抗体含有量。
【図7】本明細書で報告される方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞DNA含有量。
【図8】本明細書で報告される方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄み中の宿主細胞タンパク質含有量。
【図9】本明細書で報告される方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄み中の抗体含有量。
【図10】本明細書で報告される方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄み中の、pH値及びインキュベーション時間に応じた抗体含有量。
【図11】本明細書で報告される方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄み中の、pH値及びインキュベーション時間に応じた抗体含有量。
【図12】本明細書で報告される方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄み中の、pH値及びインキュベーション時間に応じた抗体含有量。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本明細書では、下記の工程を含む、ポリペプチドを精製するための方法を報告する:
(a) ポリペプチドを含む細胞培養上澄み液のpH値をpH3.5〜5.5のpH値に調節する工程、
(b) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(c) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによってポリペプチドを精製する、工程。
【0024】
本明細書において報告される方法は、細胞及び細胞片が除去された未精製細胞の発酵上澄み液に対して直接行うことができるが、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーなどの一つまたは複数の予備的精製工程の後にも行うことができる。
【0025】
「細胞培養上澄み液」なる用語は、関心対象のポリペプチドを分泌する細胞の培養によって得られる溶液を意味する。上澄み液は、分泌されたポリペプチドのほかに、使用された細胞培養培地の成分、及び、培養中に細胞により分泌された関心対象のポリペプチド以外の代謝成分、及び、培養中に死細胞から、または細胞からのポリペプチドの回収の間に分解した細胞から遊離した、培養された細胞の他の成分を含む。細胞培養上澄み液は、細胞片及び/または無傷細胞を含まない。この用語はまた、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーなどの単一のクロマトグラフィー精製工程によって処理された、細胞培養上澄み液を含む。
【0026】
「ポリペプチド」なる用語は、天然に、あるいは合成によって生産されたかによらず、ペプチド結合によって結合されたアミノ酸からなるポリマーを意味する。約20未満のアミノ酸残基のポリペプチドは、「ペプチド」と呼ばれ得、一方、2以上のポリペプチドからなる分子、または、100より多いアミノ酸残基のポリペプチドを含む分子は、「タンパク質」と呼ばれうる。ポリペプチドはまた、炭水化物基、金属イオン、またはカルボン酸エステルなどの、非アミノ酸成分を含み得る。非アミノ酸成分は、ポリペプチドが発現する細胞により加えられ得、細胞型で変わり得る。ポリペプチドは、アミノ酸骨格構造またはアミノ酸をコードする核酸に関して、本明細書において定義される。炭水化物基などの付加物は通常特定されないが、それにもかかわらず存在しうる。本明細書で報告される方法の一つの態様では、ポリペプチドは、免疫グロブリン、免疫グロブリン断片、及び免疫グロブリン複合体から選択される。
【0027】
「免疫グロブリン」なる用語は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされた2以上のポリペプチドからなるたんぱく質を意味する。認識される免疫グロブリン遺伝子は、異なる定常領域遺伝子と同様に、種々の免疫グロブリンの可変領域遺伝子を含む。一般に免疫グロブリンは、二つのいわゆる軽鎖ポリペプチド(軽鎖)及び二つのいわゆる重鎖ポリペプチド(重鎖)を含む。重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれは、抗原と相互作用することができる結合領域を含む可変ドメイン(可変領域)(一般的に、ポリペプチド鎖のアミノ末端部)を含む。重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれは、定常領域(一般的にカルボキシル末端部)を含む。免疫グロブリンの軽鎖または重鎖の可変ドメインは、異なるセグメントを含む。すなわち、四つのフレームワーク領域(FR)及び三つの高頻度可変領域(CDR)である。免疫グロブリンの定常領域は、免疫グロブリンの抗原と結合するのに直接関係ないが、種々のエフェクター機能を示す。重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づいて、免疫グロブリンは、クラスIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMに区分される。これらのクラスのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)に区分される。すなわち、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4に、または、IgAは、IgA1及びIgA2である。免疫グロブリンが所属するクラスによって、免疫グロブリンの重鎖定常領域は、それぞれ、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、及びμ(IgM)と呼ばれる。
【0028】
「免疫グロブリン複合体」なる用語は、ペプチド結合を通してさらなるポリペプチドと結合した、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の少なくとも一つのドメインを含むポリペプチドを意味する。さらなるポリペプチドは、ホルモン、または、成長受容体、または細胞有毒ペプチド、または補体因子、またはそれと同様のものなどの、非免疫グロブリンペプチドである。
【0029】
一つの態様において、免疫グロブリンは、クラスGの免疫グロブリンである。別の態様では、免疫グロブリンは、クラスGサブクラスIgG1またはサブクラスIgG4またはそれらの変異体である。「変異体」なる用語は、親ペプチドのアミノ酸配列における一つまたは複数のアミノ酸残基の付加、削除、及び/または置換によって、親ポリペプチドアミノ酸配列とはアミノ酸配列が異なるポリペプチドを意味する。一つの態様において、変異体は、親ポリペプチドアミノ酸配列とアミノ酸配列が少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有し、別の態様では、少なくとも95%、さらなる態様では、少なくとも99%のアミノ酸配列の同一性を有するであろう。
【0030】
本明細書で使用される「pH値を調節する」なる用語は、溶液のpH値をpH7.0より低いpH値に下げるために、酸を溶液へ添加すること、特に、細胞培養上澄み液への添加を意味する。この調節は、酸性溶液、すなわち酸の添加によって達成されうる。一つの態様において、調節は、塩酸、リン酸、酢酸、及びクエン酸から選択される酸性溶液の添加によって行われる。
【0031】
本明細書で使用される「インキュベートする(インキュベーション)」なる用語は、それぞれの溶液が、セットされたpH値で維持されることを意味する。インキュベートする工程は、特定の時間行われうる。一つの態様では、インキュベートする工程は、約0.5時間以上行われる。別の態様では、インキュベートする工程は、約0.5時間〜約72時間行われる。さらなる態様では、インキュベートする工程は、約2時間〜約48時間行われる。さらに別の態様では、インキュベートする工程は、約20時間〜約32時間行われる。また別の態様では、インキュベートする工程は、約24時間行われる。一つの態様では、インキュベートする工程は、pH3.5〜pH5.5のpH値で、特に、pH4.5〜pH5.5のpH値で、上記で挙げられた態様において定義された特定の時間行われる。
【0032】
本明細書で使用される「約」なる用語は、直接後続する値が、厳密な値でなくむしろ範囲を意味することを意味する。この範囲は、一つの態様では、その値のプラスマイナス20%であり、別の態様では、その値のプラスマイナス10%であり、さらなる態様では、その値のプラスマイナス5%である。例えば、「約24時間」なる用語は、19.2時間〜28.8時間の範囲を意味する。
【0033】
「実質的にない」なる用語は、溶液に、そのような化合物が添加されていないことを意味する。しかし、その特定の化合物は、溶液に含まれる他の化合物に存在するために、少量存在しうる。一般的に、1mM以下の濃度で、特に、1μM以下の濃度でしかこの化合物が溶液に存在しないとき、溶液には、その化合物は実質的にない。
【0034】
ポリペプチドを生産する方法は当技術分野で公知であり、原核細胞及び真核細胞におけるタンパク質の発現、それに続くポリペプチドの単離及び通常薬学的に許容される純度への精製を含む。例えば、細胞における免疫グロブリンの発現のために、軽鎖及び重鎖をコードする核酸が、標準的な方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6(R)細胞、酵母、または、大腸菌(E. coli)細胞のような、適切な原核宿主細胞または真核宿主細胞で達成され、免疫グロブリンは、細胞(上澄み液または溶解後の細胞)から回収される。
【0035】
本出願において用いられる「細胞」なる用語は、ポリぺプチドを生産するように操作されうるいかなる種類の細胞系をも意味する。一つの態様では、細胞は、哺乳類細胞である。別の態様では、細胞は、HEK細胞及びCHO細胞から選択される。
【0036】
培養された細胞の核酸及び細胞タンパク質は沈殿するが、分泌されたポリペプチドは、細胞培養上澄み液のpH値がpH5.5未満の値に調節され、続いて溶液がそのpH値で特定の時間インキュベートされるならば、溶液にとどまることが見いだされた。その後、沈殿物と、それに混入した宿主細胞成分が、簡単な物理的分離工程によって除去され得る。
【0037】
本明細書で報告される方法は、いかなる種類の細胞培養上澄み液、すなわち、真核細胞培養上澄み液及び原核細胞培養上澄み液に対しても、用いられうる。一つの態様では、細胞培養上澄み液は、真核細胞培養上澄み液である。さらなる態様では、上澄みは、哺乳類細胞培養上澄み液である。別の態様では、上澄み液は、CHO、HEK、またはSp2/0細胞培養上澄み液である。
【0038】
今日、ほとんどすべての細胞培養工程が、動物の血清を加えることなく行われる。したがって一つの態様では、細胞培養上澄み液は、血清なしの条件下の細胞の培養から得られる。さらに、動物の血清を加えることがないと、動物の血清中に存在する未知の化合物からの潜在的干渉が除外され、また細胞培養上澄み液中のポリペプチドの濃度が減る。これは、関心対象のポリペプチドの共沈殿が起こりそれに伴って精製工程での収率を減らす精製目的で沈殿を使用する方法においては、一般的に有利である。同じ効果が、培養細胞またはそれからの細胞断片の存在下で観察される。したがって一つの態様では、細胞及び細胞断片は、pH値の調節に先立って、細胞培養上澄み液から除去される。
【0039】
本明細書で報告される方法において精製されるポリペプチドの濃度は10mg/mlを超えない。一つの態様では、細胞培養上澄み液のポリペプチドの濃度は0.1mg/ml〜約10mg/mlである。別の態様では、細胞培養上澄み液のポリペプチドの濃度は1mg/ml〜8mg/mlである。さらなる態様において、細胞培養上澄み液のポリペプチドの濃度は1mg/ml〜5mg/mlである。
【0040】
細胞培養上澄み液のpH値を調節するためには、酸が細胞培養上澄み液に添加されなくてはならない。この酸は、酸が不可逆的にポリペプチドと相互作用しない限り、いかなる酸でもよい。一つの態様では、酸は、塩酸、リン酸、硫酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、乳酸、及びクエン酸から選択される。酸は、細胞培養上澄み液に添加されるとき水溶液であることを指摘しておかなければならない。溶液は、遊離酸としての酸及び水のそれぞれからなり、他の物質、特に二価の陽イオンは実質的にない。「遊離酸」なる用語は、酸性水素原子が存在する形で酸が存在することを意味し、例えば、異なる陽イオンと交換されないことを意味する。これは、溶液を準備するのに使用される酸の形態もまた、遊離酸であることを含む。同様に、酸が、塩の形態で使用されることは除外される。一つの態様では、酸は、塩酸、リン酸、酢酸、及びクエン酸から選択される。それぞれの溶液における酸の濃度は、一つの態様では、5.5mol/l以下である。別の態様では、酸の濃度は1mol/l〜5.5mol/lである。さらなる態様では、酸の濃度は1.5mol/l〜4mol/lである。または、それぞれの溶液の酸の濃度は、一つの態様では30重量%以下である。一つの態様は、酸の濃度は1重量%〜30重量%である。別の態様では、濃度は5重量%〜25重量%である。さらなる態様では、酸の濃度は10重量%〜20重量%である。
【0041】
概して、本明細書で数値範囲が与えられるなら、その範囲は、示された境界点を明確に含む。
【0042】
pH値の調製の後、pH値が調節された細胞培養上澄み液は、特定の時間インキュベートされる。この特定の時間は、一つの態様では、少なくとも約0.5時間以上である。別の態様では、特定の時間は約0.5時間〜約72時間である。さらなる態様では、特定の時間は約2時間〜約48時間である。さらに別の態様では、特定の時間は約20時間〜約32時間である。また別の態様では、特定の時間は、約24時間である。一つの態様では、pH調製された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は、1℃〜30℃の温度で行う。別の態様では、pH調製された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は2℃〜10℃の温度で行う。さらなる態様では、pH調製された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程は約4℃の温度で行う。
【0043】
本明細書に報告される方法を用いれば、宿主細胞核酸及び宿主細胞タンパク質は沈殿する。すなわち、生産されたポリペプチドの濃度を減らすことなく、細胞培養上澄み液から除去される。約2時間のインキュベーション時間は、宿主細胞の核酸の大部分を除去するのに十分であり得る。したがって一つの態様では、インキュベートする工程は約2時間である。宿主細胞タンパク質の沈殿のためには、約2時間〜約48時間のインキュベーション時間が、調節されたpH値及びポリペプチドに応じて十分であり得る。したがって一つの態様では、インキュベートする工程は、pH値約5、温度約4℃で、約2時間行われる。別の態様では、インキュベートする工程は、pH値約pH5、温度約4℃で、約2時間〜約48時間行われる。
【0044】
一つの態様では、ポリペプチドは免疫グロブリンである。
【0045】
一つの態様では、免疫グロブリンは、サブクラスIgG1の免疫グロブリンである。別の態様では、インキュベートする工程は、pH値pH4.5〜pH3.5で、2時間〜48時間行われ、免疫グロブリンは、サブクラスIgG1の免疫グロブリンである。特定の態様では、インキュベートする工程は2時間〜30時間行われる。
【0046】
一つの態様では、免疫グロブリンは、サブクラスIgG4の免疫グロブリンである。別の態様では、インキュベートする工程は、pH値pH5.5〜pH4.5で、2時間〜48時間行われ、免疫グロブリンは、サブクラスIgG4の免疫グロブリンである。特定の態様では、インキュベートする工程はpH値約pH5で行われる。
【0047】
インキュベートする工程の後、沈殿は除去されなければならない。除去するためには、当業者に公知のいかなる方法を用いてもよい。典型的な例は、濾過、沈降及びデカンテーション、遠心分離及び沈下である。一つの態様では、沈殿は、沈降、濾過、沈下及び遠心分離から選択される方法によって除去される。
【0048】
沈殿を除去した後、例えば、当業者に公知のクロマトグラフィー方法で、ポリペプチドのさらなる精製が行われうる。したがって一つの態様では、本明細書に報告される方法は、クロマトグラフィーの一工程または複数工程を用いて、ポリペプチドを精製する工程を含む。
【0049】
免疫グロブリンの精製には、異なるカラムクロマトグラフィー工程の組み合わせが用いられうる。一つの態様では、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーに、一つまたは二つの追加的クロマトグラフィー分離工程、例えば、イオン交換クロマトグラフィー工程が続く。例えば、微生物タンパク質のアフィニティクロマトグラフィー(例えば、プロテインAまたはプロテインGのアフィニティクロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル樹脂)、及び混合モード交換)、親イオウ性吸着(例えば、β―メルカプトエタノール及び他のSHリガンドを用いる)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニルセファロース、アザ‐アレノフィリック(aza-arenophilic)樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を用いる)、金属キレートアフィニティクロマトグラフィー(例えば、Ni(II)及びCu(II)-親和性物質を用いる)、分子ふるいクロマトグラフィー、及び電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動、毛細管電気泳動等)等の、さまざまな方法が良く確立されており、タンパク質の回収と精製に広く使用されている。
【0050】
下記の実施例及び図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は、添付の特許請求の範囲に述べられている。本発明の精神から離れない限り、述べられた方法において修正がなされうることが理解される。
【実施例】
【0051】
実施例1
材料及び方法
抗体
本明細書で報告される方法は、WO2008/017963に報告されたanti-EGFR抗体を用いて説明される。
【0052】
別の典型的な免疫グロブリンは、WO2006/099698に報告されたanti-PLGF抗体である。
【0053】
別の典型的な免疫グロブリンは、WO2005/100402に報告されたanti-P-selectin抗体である。
【0054】
別の典型的な免疫グロブリンは、PCT/EP2010/070062に報告されたanti-HER3抗体である。
【0055】
DNA
残留するDNA濃度は、Q-PCR(定量ポリメラーゼ連鎖反応)によって、測定した。したがって、試料中のDNAを変性させるため、試料を高温でインキュベートした。DNAは、シリカマトリックスによって溶液から捕捉し、製造者の指示に従ってそこから緩衝液で溶出した。抽出のために、QIAamp Viral RNA Kitを含むQIAcubeロボット(両方とも、Qiagen、Hilden、ドイツ)を使用した。したがって、試料、溶解バッファー、及び担体RNAを混合し、10分間インキュベートした。エタノールを各チューブに加え、QIAamp Viral RNA Kitのカラムに試料‐エタノール溶液をロードし、遠心分離した。その後洗浄溶液をカラムに適用し、再度カラムを遠心分離した。その後異なる洗浄溶液をカラムに適用し、カラムを再度遠心分離した。溶出バッファーを適用したのち、カラムは二度遠心分離される。
【0056】
DNAの定量化のために、LightCycler2.0(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、ドイツ)が使用される。表1には、PCRパラメーターの概要を示す。
【0057】
(表1)PCRパラメーター
【0058】
工程の間、染料で標識された1対のDNA鎖は、DNA単鎖に結合する。増幅の間、DNAの量に比例して蛍光が増加する。
【0059】
HCP
マイクロタイタープレートのウェルの壁は、血清アルブミン及びストレプトアビジンの混合物でコーティングされている。HCPに対するヤギ由来のポリクローナル抗体が、マイクロタイタープレートのウェルの壁に結合している。洗浄工程の後、マイクロタイタープレートの異なるウェルが、異なる濃度のHCP較正用配列及び試料溶液を用いてインキュベートされる。インキュベーションの後、非結合試料材料が、緩衝溶液で洗浄され除去される。検出のために、ウェルは、結合宿主細胞タンパク質を検出するための抗体ペルオキシダーゼ複合体とともにインキュベートされる。固定化されたペルオキシダーゼの活性は、ABTSとのインキュベーション及び405nmでの検出で検出される。
【0060】
SEC
ASI-100HPLCシステム(Dionex、Idstein、ドイツ)のTosoh Haas TSK 3000 SWXLカラムで、クロマトグラフィーを行った。溶出のピークは、UVダイオードアレイ検出器(Dionex)によって、280nmでモニターした。濃縮された試料を1mg/mlに溶解したのち、200mMリン酸二水素カリウム及び250mMの塩化カリウムからなるpH7.0の緩衝液で、安定したベースラインが達成されるまでカラムを洗浄した。分析ランは、0.5ml/分の流速で30分、室温で、均一濃度の条件下で行った。Chromeleon(Dionex、Idstein、ドイツ)を用い、クロマトグラムを手動で積分した。
【0061】
IEC
イオン交換クロマトグラフィーを用いて、タンパク質の電荷不均一性を解析した。陽イオン交換Dionex ProPac クロマトグラフィーカラムをDionex Chromeleon HPLC システムで使用した。
【0062】
タンパク質決定
クロマトグラフィー方法を、試料中に存在する抗体の量を定量化するのに使用した。抗体のFc領域と結合するPoros Aカラムを使用した。抗体はカラムに結合し、続いて低いpH条件で溶出される。タンパク質の濃度は、320nmの参照波長で、アミノ酸配列に基づいて計算されたモル吸光係数を用いて、280nmでの光学濃度(OD)を決定することによって決定された。
【0063】
実施例2
手法
試料は、個々の抗体を分泌する株化細胞の培地から直接得た。細胞及び細胞片の除去後、培養上澄み液をそれぞれ200mlのいくつかのアリコットに分け、それぞれに10%または20%(v/v)の酢酸を加えることによって、pH値をpH4.0、pH5.0、pH6.0に調節した。参照のアリコットに関しては、必要である場合pH値をおおよそpH7に調節した。アリコットは4℃で貯蔵し、2、24、及び48時間後に各アリコットから試料を採取した。
【0064】
貯蔵の間、異なるレベルの沈殿形成が、異なるpH値で観察された。沈殿は、沈降によって除去した。または、沈殿は、濾過または遠心分離によって分離することができる。
【0065】
沈殿の除去後、澄んだ液相は、宿主細胞DNA含有量、宿主細胞タンパク質(HCP)含有量、及びタンパク質量について分析された。
【0066】
(表2)本明細書で報告された方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量
【0067】
(表3)本明細書で報告された方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量
【0068】
(表4)本明細書で報告された方法で得られたanti-EGFR抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量
【0069】
(表5)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量(第一回目のデータセット)
【0070】
(表5a)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量(第二回目のデータセット)
【0071】
(表5b)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞DNA含有量(第二回目のデータセット)
【0072】
(表6)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量(第一回目のデータセット)
【0073】
(表6a)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量(第二回目のデータセット)
【0074】
(表6b)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞タンパク質含有量(第二回目のデータセット)
【0075】
(表7)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量(第一回目のデータセット)
【0076】
(表7a)本明細書で報告された方法で得られたanti-PLGF抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量(第二回目のデータセット)
【0077】
(表8)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量(第一回目のデータセット)
【0078】
(表8a)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量(第二回目のデータセット)
【0079】
(表8b)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞DNA含有量(第二回目のデータセット)
【0080】
(表9)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量(第一回目のデータセット)
【0081】
(表9a)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量(第二回目のデータセット)
【0082】
(表9b)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞タンパク質含有量(第二回目のデータセット)
【0083】
(表10)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量(第一回目のデータセット)
【0084】
(表10a)本明細書で報告された方法で得られたanti-P-selectin抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量(第二回目のデータセット)
【0085】
(表11)本明細書で報告された方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞DNA含有量
【0086】
(表11a)本明細書で報告された方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞DNA含有量
【0087】
(表12)本明細書で報告された方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄みにおける宿主細胞タンパク質含有量
【0088】
(表12a)本明細書で報告された方法で得られたanti- HER3抗体発酵培養液上澄みの沈降物における宿主細胞タンパク質含有量
【0089】
(表13)本明細書で報告された方法で得られたanti-HER3抗体発酵培養液上澄みにおける抗体含有量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) 細胞及び細胞断片が除去された細胞培養上澄み液に、酸と水からなる溶液を加え、pH値をpH4.5〜pH5.5の値に調節する工程であって、それによって溶液に二価の陽イオンが実質的にない、工程、
(ii) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(iii) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによって免疫グロブリンを生産する、工程、
を含む、免疫グロブリンを生産するための方法であって、
細胞培養上澄み液が、免疫グロブリンを10mg/mlを超えない濃度で含み、
加えられた酸の濃度が5.5mol/l以下である、方法。
【請求項2】
少なくとも90%の免疫グロブリンが、インキュベートする工程の間溶液にとどまっていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
インキュベートする工程が、2℃〜10℃の温度で行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
pH調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程が、約4℃の温度で行われることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
pH調節された上澄み液をインキュベートする工程が、少なくとも約2時間行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
インキュベートする工程が、約2時間〜約72時間行われることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
インキュベートする工程が、約2時間〜約48時間行われることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
インキュベートする工程が、約24時間行われることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
免疫グロブリンがサブクラスIgG1であり、インキュベートする工程が、pH4.5〜pH3.5のpH値で約2時間〜約48時間行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
免疫グロブリンがサブクラスIgG4であり、インキュベートする工程が、pH5.5〜pH4.5のpH値で約2時間〜約30時間行われることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
除去する工程が、沈降、デカンテーション、濾過、沈下及び遠心分離から選択される方法によることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
酸が、酢酸、クエン酸、塩酸、及びリン酸から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
酸の濃度が、1.5mol/l〜5.5mol/lであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
酸が、1.5mol/l〜4mol/lの濃度の酢酸であることを特徴とする、請求項12〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
免疫グロブリンの濃度が、1mg/ml〜5mg/mlであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
細胞がCHO細胞であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
インキュベートする工程が、約pH5または約pH4のpH値で、約4℃の温度で約2時間行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
インキュベートする工程が、約pH5または約pH4のpH値で、約4℃の温度で約2時間〜約48時間行われることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項1】
(i) 細胞及び細胞断片が除去された細胞培養上澄み液に、酸と水からなる溶液を加え、pH値をpH4.5〜pH5.5の値に調節する工程であって、それによって溶液に二価の陽イオンが実質的にない、工程、
(ii) pHが調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程、及び
(iii) インキュベートされた細胞培養上澄み液から沈殿物を除去する工程であって、それによって免疫グロブリンを生産する、工程、
を含む、免疫グロブリンを生産するための方法であって、
細胞培養上澄み液が、免疫グロブリンを10mg/mlを超えない濃度で含み、
加えられた酸の濃度が5.5mol/l以下である、方法。
【請求項2】
少なくとも90%の免疫グロブリンが、インキュベートする工程の間溶液にとどまっていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
インキュベートする工程が、2℃〜10℃の温度で行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
pH調節された細胞培養上澄み液をインキュベートする工程が、約4℃の温度で行われることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
pH調節された上澄み液をインキュベートする工程が、少なくとも約2時間行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
インキュベートする工程が、約2時間〜約72時間行われることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
インキュベートする工程が、約2時間〜約48時間行われることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
インキュベートする工程が、約24時間行われることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
免疫グロブリンがサブクラスIgG1であり、インキュベートする工程が、pH4.5〜pH3.5のpH値で約2時間〜約48時間行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
免疫グロブリンがサブクラスIgG4であり、インキュベートする工程が、pH5.5〜pH4.5のpH値で約2時間〜約30時間行われることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
除去する工程が、沈降、デカンテーション、濾過、沈下及び遠心分離から選択される方法によることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
酸が、酢酸、クエン酸、塩酸、及びリン酸から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
酸の濃度が、1.5mol/l〜5.5mol/lであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
酸が、1.5mol/l〜4mol/lの濃度の酢酸であることを特徴とする、請求項12〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
免疫グロブリンの濃度が、1mg/ml〜5mg/mlであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
細胞がCHO細胞であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
インキュベートする工程が、約pH5または約pH4のpH値で、約4℃の温度で約2時間行われることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
インキュベートする工程が、約pH5または約pH4のpH値で、約4℃の温度で約2時間〜約48時間行われることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−521323(P2013−521323A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556507(P2012−556507)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053547
【国際公開番号】WO2011/110598
【国際公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053547
【国際公開番号】WO2011/110598
【国際公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
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