説明

免震構造

【課題】構造物形状に対する制約を緩和でき、施工性を向上できるとともに、容易に維持管理でき、さらには、片側からのみ土水圧が作用しても抵抗できる免震構造を提供すること。
【解決手段】免震構造1は、地中に構築される擁壁21および底盤22と、当該底盤22上に免震装置3を介して構築された建物10と、を備える。建物10は、擁壁21同士の間に当接して設置されて土圧あるいは土水圧を負担する床版14を備える。床版14を擁壁21に当接させて土圧を負担したので、擁壁21の壁厚を軽減できる。さらに、床版14は支保工に比べて形状の自由度が高いため、従来のように擁壁同士の間に支保工を設けた場合に比べて、擁壁や底盤の形状に柔軟に対応できる。その結果、建物形状に対する制約を緩和できるとともに、施工性を向上でき、容易に維持管理できる。また、擁壁同士が互いに対向せず、片側からのみ土水圧が作用する場合でも、抵抗できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造に関する。詳しくは、例えば、免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基礎や地下階などの構造物を免震装置で支持することで、地震の揺れが構造物に与える影響を軽減する免震建物が知られている。
このような免震建物では、免震ピットを形成しておき、免震ピット内に免震装置を配置する。そして、免震ピット内の壁面との間にクリアランスを確保しつつ、免震装置で建物を支持する。
これにより、地震が発生しても、免震装置により、地震の周期よりも長い周期で建物が振動するため、地震の揺れが建物に与える影響を低減できる。
【0003】
ところで、このような建物において、地下の階数が多くなると、免震ピットの壁面に作用する土圧や水圧が増大し、この土水圧に対抗するために免震ピットの壁厚を厚くする必要がある。その結果、施工コストが上昇するおそれがある。
【0004】
この問題を解決するため、免震ピットの深さ方向の途中に格子状の支保工を設けた免震構造が提案されている(特許文献1参照)。
つまり、山留め壁を施工した後、地盤の1次掘削を行い、1次掘削面に支保工を架設するとともに、地下躯体を建設する。ここで、地下躯体を建設する際、支保工を撤去せずに、本設支保工として利用する。つまり、この本設支保工は地下躯体を貫通することになる。その後、このような工程を繰り返すことで、任意の深さの地下躯体を構築する。
この方法によれば、土水圧を本設支保工で支持できるから、免震ピットの壁厚を厚くする必要がなく、施工コストを低減できる。
【特許文献1】特許3807113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、免震ピットに多数の本設支保工を上下方向や水平方向に配置し、これら本設支保工を地下躯体に貫通させるため、建築構造が複雑になり、建物形状に対する制約が大きく、施工性が低い上に維持管理も困難である。また、地盤や地層の傾斜または地質の相違による影響で、互いに対向する免震ピットの擁壁に作用する土水圧が大きく異なる場合や片側に擁壁がない場合には、これらの擁壁間に支保工を架設しても、この支保工による抵抗を利用して擁壁を支えることが困難になる。
【0006】
本発明は、構造物形状に対する制約を緩和でき、施工性を向上できるとともに、容易に維持管理でき、さらには、片側からのみ土水圧が作用しても抵抗できる免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の免震構造は、地中に構築される擁壁および底盤と、当該底盤上に免震装置を介して構築された構造物と、を備える免震構造であって、前記構造物は、前記擁壁同士の間に当接して設置されて土圧あるいは土水圧を負担する床版を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、面内の多方向の力に抵抗できる床版を擁壁に当接させて土圧や水圧を負担したので、擁壁の壁厚を軽減できる。
また、床版は、支保工のように鋼材を格子状に設ける構造ではないため、剛性が高くなる。さらに、床版は支保工に比べて形状の自由度が高いため、従来のように擁壁同士の間に支保工を設けた場合に比べて、擁壁や底盤の形状に柔軟に対応できる。その結果、構造物形状に対する制約を緩和できるとともに、施工性を向上でき、容易に維持管理できる。
また、擁壁同士が互いに対向せず、片側からのみ土水圧が作用する場合でも、抵抗できる。
また、床版は鉄筋コンクリートで形成できるため、従来のように複数の鋼材を組み合わせて支保工を設けた場合に比べて、施工性が向上する。
【0009】
請求項2に記載の免震構造は、前記床版には、前記構造物の柱が貫通する貫通孔が形成され、当該貫通孔と前記柱の間には、クリアランスが設けられていることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、床版に柱が貫通する貫通孔を形成した。つまり、上部の荷重を床版で受けない構造であり、簡易な構造となる。
【0011】
請求項3に記載の免震構造は、前記構造物は、前記床版より上の上部と、前記床版より下の下部と、に分離され、前記床版の上面でかつ前記上部の柱の位置には、免震装置が設けられ、前記床版の下面でかつ前記下部の柱の位置には、免震装置が設けられることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、上部と下部とを床版で分離し、上部の荷重を床版で受ける構造としたので、床版の剛性を向上できる。
【0013】
請求項4に記載の免震構造は、前記床版は、前記擁壁の少なくとも2面に当接することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、擁壁の少なくとも2面に当接させたので、構造物が擁壁に囲まれていない場合でも、土圧や水圧に抵抗できる。例えば、片側からのみの土圧や水圧に抵抗できる。よって、敷地が傾斜地であっても有効であり、その結果、土圧や水圧を受けない擁壁の一部を無くすことができる。
【0015】
請求項4に記載の免震構造は、前記床版には、階段、エレベータ、設備配管および配線のうち少なくとも1つが上下に貫通する貫通孔が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、床版を擁壁に当接させて土圧や水圧を負担したので、地盤条件によらず擁壁の壁厚を軽減できる。また、床版は、支保工のように鋼材を格子状に設ける構造ではないため、面内の多方向の力に抵抗できるとともに、剛性が高くなる。さらに、床版は支保工に比べて形状の自由度が高いため、従来のように擁壁同士の間に支保工を設けた場合に比べて、擁壁や底盤の形状に柔軟に対応できる。その結果、構造物形状に対する制約を緩和できるとともに、施工性を向上でき、容易に維持管理できる。また、擁壁同士が互いに対向せず、片側からのみ土水圧が作用する場合でも、抵抗できる。また、床版は鉄筋コンクリートで形成できるため、従来のように複数の鋼材を組み合わせて支保工を設けた場合に比べて、施工性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る免震構造1の縦断面図である。
【0018】
免震構造1は、地中に構築された擁壁21および底盤22からなる免震ピット2と、この免震ピット2の底盤22上に構築された建物10と、を備える。
建物10は、床版14より上側の上部121と、床版14より下側の下部122と、を備える。
【0019】
底盤22には、複数の免震装置3が設けられており、建物10の基礎13は、これら免震装置3を介して底盤22に支持される。免震装置3としては、例えば、積層ゴム支承やすべり支承が挙げられる。
【0020】
擁壁21と建物10との間には、所定のクリアランスが設けられる。建物10の床版14は、免震ピット2の擁壁21まで延びている。これにより、床版14は、互いに対向する2つの擁壁21の間に設けられて当接し、土圧や水圧を負担している。
上部121と下部122とは、柱123で連結されており、床版14には、柱123が貫通する貫通孔141が形成されている。
貫通孔141と柱123との間には、クリアランスが設けられ、緩衝材が介装されている。なお、緩衝材を設けずにプレートで隙間を覆い隠してもよい。
【0021】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)床版14を免震ピット2の擁壁21に当接させて土圧や水圧を負担したので、免震ピット2の擁壁21の壁厚を軽減できる。
また、床版14は、支保工のように鋼材を格子状に設ける構造ではないため、剛性が高くなる。さらに、床版14は支保工に比べて形状の自由度が高いため、従来のように支保工を設けた場合に比べて、擁壁や底盤の形状に柔軟に対応できる。その結果、建物形状に対する制約を緩和できるとともに、施工性を向上でき、容易に維持管理できる。
また、床版14は鉄筋コンクリートで形成できるため、従来のように複数の鋼材を組み合わせて支保工を設けた場合に比べて、施工性が向上する。
【0022】
<第2実施形態>
図2は、本発明の第2実施形態に係る免震構造1Aの縦断面図である。
本実施形態では、建物10Aの構造が、第1実施形態と異なる。
すなわち、上部121と下部122とは、柱で連結されておらず、床版15には貫通孔が設けられていない。
そして、床版15の上面でかつ上部121の柱の位置には、免震装置126が設けられる。また、床版15の下面でかつ下部122の柱の位置には、免震装置125が設けられる。これにより、床版15は、免震装置125を介して下部122に支持されるとともに、免震装置126を介して上部121を支持している。免震装置125、126としては、例えば、積層ゴム支承やすべり支承が挙げられる。
【0023】
本実施形態によれば、上述の(1)の効果に加えて、以下のような効果がある。
(2)上部121と下部122とを床版15で分離し、上部121の荷重を床版15で受ける構造としたので、土圧や水圧により床版15に水平方向の力が加わっても、上部121と下部122とで床版15を拘束でき、床版15の剛性を向上できる。
【0024】
<第3実施形態>
図3は、本発明の第3実施形態に係る免震構造1Bの縦断面図である。図4は、免震構造1Bの横断面図である。
本実施形態では、免震ピット2Bおよび建物10Bの構造が、第1実施形態と異なる。
【0025】
すなわち、免震ピット2Bは、平面矩形状であり、4つの擁壁のうちの1つが土水圧を受けずに開放されている。つまり、免震ピットには、3つの擁壁21Bが設けられており、床版14は、これら3つの擁壁21Bに当接している。
また、床版14には、階段設備、エレベータ設備、設備配管、配線などの設備が上下に貫通する貫通孔151が形成されている。
【0026】
本実施形態によれば、上述の(1)の効果に加えて、以下のような効果がある。
(3)床版14を免震ピット2Bの3つの擁壁21Bに当接させた。このようにしても、床版14で3方向からの土圧や水圧に抵抗できるから、敷地が傾斜地であっても、床版14により、擁壁21Bのそれぞれの擁壁厚を軽減できる。
【0027】
<第4実施形態>
図5は、本発明の第4実施形態に係る免震構造1Cの横断面図である。
本実施形態では、免震ピット2Cおよび建物10Cの構造が、第1実施形態と異なる。
【0028】
すなわち、免震ピット2Cは、平面矩形状であり、4つの擁壁のうちの2つが開放されている。つまり、免震ピット2Cには、互いに隣り合う2つの擁壁21Cが設けられており、床版14は、これら2つの擁壁21Cまで延びている。
また、床版14は、開放された擁壁に到達するまで延びておらず、開放された擁壁の手前まで、つまり、擁壁21Cの水平方向の中間位置まで延びている。これは、擁壁21Cのうち土水圧の大きい部分にのみ、床版14を設ければよいためである。
【0029】
本実施形態によれば、上述の(1)の効果に加えて、以下のような効果がある。
(4)床版14を互いに隣り合う2つの擁壁21Cに当接させた。このようにしても、床版14で2方向からの土圧や水圧に抵抗できるから、敷地が傾斜地であっても、床版14により、擁壁21Bのそれぞれの擁壁厚を軽減できる。
【0030】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の第3実施形態では、開放された擁壁に到達するまで床版14を延ばしたが、これに限らない。すなわち、図6および図7に示すように、擁壁21Bの水平方向の中間位置まで床版14を設けてもよい。つまり、擁壁21Bのうち土水圧の大きい部分にのみ、床版14を設けてもよい。また、図7に示すように、床版14のどの位置に貫通孔151を設けてもよく、特に限定されない。
【0031】
また、上述の第3実施形態では、建物10Bに床版14を設けたが、これに限らない。すなわち、図8に示すように、建物10Bに床版15を設けてもよい。
さらに、この図8では、開放された擁壁に到達するまで床版15を延ばしたが、これに限らない。すなわち、図9に示すように、開放された擁壁の手前まで、つまり、擁壁21Cの水平方向の中間位置まで床版15を設けてもよい。つまり、擁壁21Bのうち土水圧の大きい部分にのみ、床版15を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係る免震構造物の縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る免震構造物の縦断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る免震構造物の縦断面図である。
【図4】前記実施形態に係る免震構造物の横断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る免震構造物の横断面図である。
【図6】本発明の変形例に係る免震構造物の一部の縦断面図である。
【図7】前記変形例に係る免震構造物の横断面図である。
【図8】本発明の別の変形例に係る免震構造物の縦断面図である。
【図9】本発明のさらに別の変形例に係る免震構造物の一部の縦断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1、1A、1B、1C 免震構造
3 免震装置
10、10A、10B、10C 建物(構造物)
14、15 床版
21、21B、21C 擁壁
22 底盤
121 上部
122 下部
123 柱
141 貫通孔
151 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に構築される擁壁および底盤と、当該底盤上に免震装置を介して構築された構造物と、を備える免震構造であって、
前記構造物は、前記擁壁同士の間に当接して設置されて土圧あるいは土水圧を負担する床版を備えることを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記床版には、前記構造物の柱が貫通する貫通孔が形成され、
当該貫通孔と前記柱の間には、クリアランスが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記構造物は、前記床版より上の上部と、前記床版より下の下部と、に分離され、
前記床版の上面でかつ前記上部の柱の位置には、免震装置が設けられ、
前記床版の下面でかつ前記下部の柱の位置には、免震装置が設けられることを特徴とする請求項1に記載の免震構造。
【請求項4】
前記床版は、前記擁壁の少なくとも2面に当接することを特徴とする請求項1から3に記載の免震構造。
【請求項5】
前記床版には、階段、エレベータ、設備配管および配線のうち少なくとも1つが上下に貫通する貫通孔が形成されることを特徴とする請求項1から4に記載の免震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−184865(P2008−184865A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21277(P2007−21277)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)