説明

入力電気量の異常兆候判定装置

【課題】複数台の保護制御計測装置に入力される多数の入力電気量データの各ペアに関して相関係数を算出し、この相関係数に基づいて異常兆候を判定することによって、高感度でかつ、信頼性が高い電気量データの異常兆候判定装置を提供する。
【解決手段】電力系統の同一地点の電気量を3台以上複数台のディジタル型保護制御計測装置3−1〜3−Nに取り込み、ピアソンの積率相関係数を用いて計器用変成器(VT、CT)4−1〜4−Nの異常兆候または保護制御計測装置3−1〜3−Nに具備されたアナログ回路の異常兆候を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統から入力した電気量を相関係数(ピアソン相関係数)に基づいて異常兆候の判定を行うようにした入力電気量の異常兆候判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の保護制御に用いられるディジタル保護継電装置では、信頼性向上のために電力系統から取り込んだ入力電気量およびこの入力電気量を演算して求めたデータについて監視や点検を行うようにしており、この監視や点検によって計器用変成器例えば、計器用変圧器(VT)や計器用変流器(CT)の異常兆候、あるいは入力変換器およびA/D変換部からなるアナログ回路の異常兆候の判定を行うようにしている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
計器用変圧器(VT)および計器用変流器(CT)の異常兆候は、1次側の電圧または電流と、2次側の電圧または電流との変換比率によって発見することができる。また、アナログ回路の異常兆候は、入力変換器およびA/D変換部を構成する部品の電気出力によって発見することができる。
【0004】
ところで、従来のディジタル保護継電装置の点検方式として、同一地点の電気量を取り込む2装置以上のディジタル保護継電装置から、共通の演算手法により得られた入力電気量データを、共通のデータ収集手段により収集して、この収集した入力電気量データを判定部に入力して異常兆候を判定する点検方式がある(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
この特許文献1に開示されている点検方式には、幾つかの判定方式が記載されており、その一つに下記(1)式に基づいて異常兆候の判定を行うようにしたものがある。
|IAmax−IBmax| ≧ ε+k(|IAmax|+|IBmax|) ……(1)
ここで、
ε:固定分誤差
k (|IAmax| + |IBmax|):比例分誤差
k:比例分誤差係数
IAmax = MAX (IAm〜IAm-i) (i:0〜nのn秒間)n秒間の最大値
IBmax = MAX (IBm〜IBm-i) (i:0〜nのn秒間)n秒間の最大値
IAmax:ディジタル保護継電装置DigRy1の電気量のn秒間の最大値
IBmax:ディジタル保護継電装置DigRy2の電気量のn秒間の最大値
|IAmax−IBmax|:DigRy1とDigRy2のn秒間最大値の差
【0006】
また、同特許文献1に開示されている第2の判定方式として、入力電気量データをデータ記憶手段に記憶させておき、トレンド判定部で下記の(2)式に従って過去の入力電気量データに基づいて算出された判定値と今回の入力電気量データに基づいて算出された判定値とを比較し、異常兆候を判定する方式がある。
|Xn−Xn-1| ≧ υ[%] ……(2)
ここで、
υ:異常兆候の検出感度
Xi=|IAmax−IBmax|/(k+|IAmax|+|IBmax|)
Xn:今回判定値
Xn-1:前回判定値
【0007】
また、同特許文献1に開示されている第3の判定方式として、知的移動エージェントにより入力電気量データを収集し、ディジタル継電装置の異常兆候を判定し、さらにエージェントが操作画面上に異常兆候の判定結果を表示する方式が開示されている。なお、知的移動エージェントは、ネットワーク内で結合された計算機や各種装置間を自律的に移動して処理を行うソフトウェアを指す。
【0008】
さらに、同特許文献1には、コンピュータなどの親装置に対して、複数の保護継電装置から入力電気量データを収集して異常兆候を判定する集中型のシステム構成が開示されている。
さらにまた、同特許文献3には、時間の経過とともにリアルタイムに保護継電装置の異常兆候の判定する手法も開示されている。
【0009】
また、原子力発電プラントや水力発電プラントにおいては、通常の運転状態では運転員の立入りが困難な場所に設置された機器や無人化運転に伴う機器の異常を監視するために、機器表面から放射された赤外線を検出して正常時の熱画像と監視時の熱画像とを相関係数に基づいて機器の異常を監視する技術が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−168138号公報
【特許文献1】特開平5−328586号公報
【特許文献3】特開2002−152964号公報
【特許文献4】特開平6−281543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記特許文献3における(1)式の判定手法は、多数の入力電気量データのうち、ディジタル保護継電装置DigRy1の入力電気量のn秒間の最大値と、ディジタル保護継電装置DigRy2の入力電気量のn秒間の最大値との代表2値の差分に着目した方式であり、(2)式の判定手法は、今回の判定値と前回(あるいは初回)の判定値との代表2値の差分に着目した方式である。
【0012】
このように代表値に着目した前記(1)式および(2)式の判定手法では、ホワイトノイズの影響、保護継電装置間の時刻同期誤差、入力電気量のサンプリングタイミング誤差の影響を直接的に受けやすく、本来は異常兆候がない状態であっても、これらの誤差要因により不要に異常兆候判定に至る恐れがある。前記(1)式および(2)式の判定手法では、係数kの設定値を大きくすることで、これら誤差要因に基づく不要な異常兆候判定を抑制することは可能であるが、一方で肝心な異常兆候の判定感度が必要以上に低下する恐れがある。
【0013】
また、特許文献3に記載されている「知的移動エージェントによりデータ収集を行うようにした方式」では、サーバ側に知的移動エージェントを受け入れて実行するためにエージェントプラットフォームを新たに付加しなければならないという欠点がある。
【0014】
また、特許文献3に記載されている「親装置に対して複数の保護継電装置から入力電気量データを収集して異常兆候を判定する集中型のシステム構成」では、親装置が必要不可欠となり、親装置のメンテナンス時には異常兆候判定を継続できないという欠点がある。
【0015】
さらに、特許文献3に記載されている「時間の経過とともにリアルタイムに保護継電装置の異常兆候の判定する手法」には、判定パラメータを変更して改めて保存データに基づいて異常兆候を判定させる解析手段については触れられていない。
【0016】
さらにまた、特許文献4に記載されている「熱画像に対して相関係数を用いて機器異常を監視する技術」には、保護制御計測装置の入力電気量データに対して相関係数を用いて異常兆候を判定する手法についての開示はもとより示唆もない。
【0017】
そこで、本発明は、以上述べた従来技術の課題に鑑みて、3台以上複数台の保護制御計測装置に入力される多数の入力電気量データの各ペアに関して相関係数を算出し、この相関係数に基づいて異常兆候を判定することによって、高感度でかつ、信頼性が高い入力電気量の異常兆候判定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、電力系統の同一地点の電気量を3台以上複数台のディジタル型保護制御計測装置に取り込み、当該取り込んだ入力電気量を用いて計器用変成器の異常兆候または保護制御計測装置に具備されたアナログ回路の異常兆候を判定する異常兆候判定装置であって、前記複数台の保護制御計測装置をネットワーク上でサーバコンピュータおよびクライアントコンピュータに接続するようにし、前記各保護制御計測装置は、電力系統の電気量を取り込むアナログ回路と、取り込んだ入力電気量を演算する演算部と、この演算部により得られた入力電気量データを前記サーバに送信する伝送部とを有し、前記クライアントコンピュータは、要求内容を入力する操作部と、入力された要求内容に応じてサーバコンピュータから送られてきた応答内容を出力する表示部とを有し、前記サーバコンピュータは、前記各保護制御計測装置において一定周期でサンプリングされた入力電気量データを収集して保存する保存部と、この保存部に保存されている入力電気量データのうち、任意時点でサンプリングされた入力電気量データおよび当該任意時点よりも所定周期前にサンプリングされた入力電気量データの各ペアに対して下記(3)式に基づいて定期的に相関係数RMNを算出し、さらに、この算出された相関係数RMNを下記(4)式に基づいて判定して異常兆候装置を特定する判定部を有することを特徴とする。
【0019】
【数1】

【0020】
MN<ε ……(4)
ここで、
・装置#Mの入力電気量の値;{M1,M2,…Mi,…,Mn} (i=1,2,…,n)、
・装置#Nの入力電気量の値;{N1,N2,…Ni,…,Nn} (i=1,2,…,n)、
・n:サンプリング数(異常兆候判定に利用する入力電気量ペア(Mi,Ni)の総数)、
・[M]:{M1,M2,…,Mn}の相加平均、
・[N]:{N1,N2,…,Nn}の相加平均、
・ε:相関係数閾値、
【0021】
また、請求項2にかかる発明は、電力系統の同一地点の電気量を3台以上の複数台のディジタル型保護制御計測装置に取り込み、当該取り込んだ入力電気量を用いて計器用変成器の異常兆候または保護制御計測装置に具備されたアナログ回路の異常兆候を判定する異常兆候判定装置であって、前記複数台の保護制御計測装置をネットワーク上でクライアントコンピュータに接続するようにし、前記各保護制御計測装置は、電力系統の電気量を取り込むアナログ回路と、取り込んだ入力電気量を演算する演算部と、この演算部により得られた入力電気量データを出力する伝送部と、当該保護制御計測装置において一定周期でサンプリングされた入力電気量データを収集して保存する保存部と、この保存部に保存されている入力電気量データのうち、任意時点でサンプリングされた入力電気量データおよび当該任意時点よりも所定周期前にサンプリングされた入力電気量データの各ペアに対して下記(3)式に基づいて定期的に相関係数RMNを算出し、さらに、この算出された相関係数RMNを下記(4)式に基づいて判定を行い、異常兆候が発生した装置を特定する判定部を有し、前記クライアントコンピュータは、要求内容を入力する操作部および入力された要求内容に応じて前記各保護制御計測装置から送られてきた応答内容を出力する表示部を有することを特徴とする。
【0022】
【数2】

【0023】
MN<ε ……(4)

ここで、
・装置#Mの入力電気量の値;{M1,M2,…Mi,…,Mn} (i=1,2,…,n)、
・装置#Nの入力電気量の値;{N1,N2,…Ni,…,Nn} (i=1,2,…,n)、
・n:サンプリング数(異常兆候判定に利用する入力電気量ペア(Mi,Ni)の総数)、
・[M]:{M1,M2,…,Mn}の相加平均、
・[N]:{N1,N2,…,Nn}の相加平均、
・ε:相関係数閾値、
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、3台以上複数台の各保護制御計測装置同士の入力電気量データの相関係数を用いて異常兆候の判定を行うようにしたので、単発的なホワイトノイズなどの誤差要因に対して不要検出を発生させにくく、かつ異常兆候を発生した保護制御計測装置を確実に検出できる。
【0025】
また、本発明によれば、保護制御計測機能を行う保護制御計測装置と、異常兆候の判定を実現するための入力電気量データの収集および異常兆候の判定を行うサーバとを、ハードウェアとして分離するようにしたので、保護機能、制御機能、計測機能に物理的に影響を与えることなく異常兆候の判定手法に関する機能追加や変更を行うことができる。この結果、セキュリティ、利便性で大いに効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態1のシステム構成図。
【図2】本発明の実施形態1の相関係数RMNの対象データと相関係数の算出タイミングを示す図。
【図3】本発明の実施形態1の相関行列を示す図。
【図4】本発明の実施形態1の異常兆候のない入力電気量における相関係数演算窓長に含まれるN組の座標データ(xi,yi)をプロットした図。
【図5】本発明の実施形態1の全ての装置が正常な場合での相関関係を示す図。
【図6】本発明の実施形態1の異常兆候のある入力電気量における相関係数演算窓長に含まれるN組の座標データ(xi,yi)をプロットした図。
【図7】本発明の実施形態1の1台の装置が異常な場合における相関関係を示す図。
【図8】本発明の実施形態1の2台の装置が異常な場合における相関関係を示す図。
【図9】本発明の実施形態2における、何らかの異常兆候発生の場合の相関行列を示す図。
【図10】本発明の実施形態3におけるクライアントの表示例を示す図。
【図11】本発明の実施形態4におけるクライアントの表示例を示す図。
【図12】本発明の実施形態5のシステム構成図。
【図13】本発明の実施形態6のシステム構成図。
【図14】本発明の実施形態7のシステム構成図。
【図15】本発明の実施形態8のシステム構成図。
【図16】本発明の実施形態9における保護制御計測装置の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、各図を通して共通する装置、部品あるいは機能については、同一符号を付けて重複する説明は適宜割愛する。
【0028】
(実施形態1)
本発明の実施形態1について図1乃至図7を参照して説明する。
(構成)
図1に示すシステム構成図は、任意の電力系統1の同一地点例えば、変電所の遮断器2近傍に複数第(図では3台)のディジタル型保護制御計測装置(1)3−1、ディジタル型保護制御計測装置(2)3−2およびディジタル型保護制御計測装置(3)3−3が計器用変成器(ここでは、計器用変圧器(VT)および計器用変流器(CT)を計器用変成器と総称する)4−1、4−2および4−3を介して設置されている様子を示す。
【0029】
ここで、ディジタル型保護制御計測装置(以下、単に「保護制御計測装置」または「装置」と略称する場合がある)とは、例えば特開平05-068319号公報に記載されている保護制御計測装置と同様に、系統事故判定を行うディジタルリレー、系統事故を標定するフォールトロケータ、系統の安定化を行う系統安定化装置、系統に発生する高調波を観測するオシロ装置などを総称する用語であり、超高圧系では、一つの電気所に主保護用保護継電器、後備保護継電器およびオシロ装置を設置する場合がある。図1では、3台の保護制御計測装置3−1〜3−3をそれぞれ送電線主保護装置、送電線後備保護装置および母線保護装置として機能させる形態を想定している。
【0030】
なお、ここでは、複数台の保護制御計測装置3−1、保護制御計測装置3−2および保護制御計測装置3−3をほぼ同一のハードウェアで構成しているものとし、保護制御計測装置(1)3−1を代表して内部構成要素を説明し、保護制御計測装置(2)3−2および保護制御計測装置(3)3−3の内部構成要素には、対応する添字を付けて説明を省略する。
【0031】
保護制御計測装置3−1は、入力変換器、アナログフィルタ、サンプルホールド回路、マルチプレクサ、およびA/D変換部等からなるアナログ入力部3−11と、ディジタル演算部3−12と、伝送部3−13とを備えており、さらに図示していない整定部や入出力インターフェイス等も標準装備している。
【0032】
ディジタル演算部3−12は、例えばCPU、RAMおよびROM等を有するマイクロプロセッサユニットによって構成され、所定のソフトウェアを搭載することにより、入力電気量に基づいてリレー演算および異常兆候判定機能用の入力電気量加工演算を行うほかに、必要に応じて故障点標定演算や系統に発生する高調波の観測等を行う。
【0033】
また、各保護制御計測装置の伝送部3−13、3−23および3−33は、LANなどで構成されたネットワーク5により複数のクライアントコンピュータ(以下、クライアントと略称する)6−1および6−Nと、サーバコンピュータ(以下、サーバと略称する)7とに接続されている。
【0034】
このうち、クライアント6−1および6−Nは、運転員が要求内容を入力するための操作部6−11および6−N1と、サーバコンピュータ7から送られてきた応答内容を出力する表示部6−12および6−N2を備えている。
【0035】
一方、サーバ7は、前記各保護制御計測装置の伝送部3−13、3−23および3−33から現時点で収集した入力電気量データ保存する保存部7−1と、この保存部7−1に保存されているnサンプリング前に収集され保存してある入力電気量データおよび現時点で収集した入力電気量データの各ペアに対して後述する相関係数を利用した多系列比較による異常兆候判定アルゴリズムにて多数決方式により異常兆候判定演算を行って異常兆候が発生している計器用変成器、保護制御計測装置を特定する判定部7−2とを有する。
この場合、サーバ7が前述した保存に必要なメモリや異常兆候判定に必要なソフトウェアを搭載していることは言うまでもない。
【0036】
次に、前記判定部7−2で実施する異常兆候判定演算手法(異常兆候判定アルゴリズム)について説明する。
はじめに、一般的に知られている相関係数について説明する。
相関係数(ピアソンの積率相関係数)は、2つのデータ列の間の相関(類似性の度合い)を示す統計学的指標である。−1から1の間の実数値をとり、1に近いときは2つのデータ列には正の相関があると言う。
2つのデータ列として、x={xi}およびy={yi}(i=1,2,…,n)が与えられたとき、相関係数Rは式(3)で定義される。
【0037】
【数3】

ここで[x]、[y]は、それぞれデータx={xi},y={yi}の相加平均を表す。
【0038】
次に、図2を参照して本実施形態1による相関係数Rの対象データと相関係数の算出タイミングについて説明する。
本発明による異常兆候判定手法は、複数台(N台、N>3)設置されている保護制御計測装置のうち、
・保護制御計測装置#Mの入力電気量の値(振幅値); x={xi} (i=1,2,…,n)、
・保護制御計測装置#Nの入力電気量の値(振幅値); y={yi} (i=1,2,…,n)、
として、振幅値で表した保護制御計測装置#1〜#Nの入力電気量の値の各ペアに対して相関係数Rを算出し、異常兆候判定に利用する。
【0039】
ここで装置#M≠装置#Nとし、Nはサンプリング数、つまり入力電気量のペア数を表す。 なお、上記(3)式には、「電気量の値」として「振幅値」を用いたが、振幅値に替えて「実効値」または「平均値」を用いても良い。また、より高い判定精度を追求する場合は、「瞬時値」をベースとすることも考えられる。
【0040】
図2において、前記演算部3−12は相単位でしかも一定の収集周期Tで各入力電気量振幅値をサーバ7に収集し、基準となる任意時点からサンプリング数n個分前の過去データを用いて、定期的に各相関係数RMNを相単位かつオンラインで算出する。
【0041】
図2の場合、装置#1、#2および#Nでサンプリングされたデータをプロットした様子を示しており、この図の場合、装置#1および#2には異常兆候は見られず、装置#Nのみが異常兆候を示している。
なお、図2の相関係数演算窓長Wと、サンプリング数nと、収集周期Tとは、次の関係がある。
【0042】
相関係数演算窓長W=サンプリング数n×収集周期T
次に、各相関係数に基づいて異常兆候が発生している装置を特定する仕組みについて説明する。
求められた各相関係数RMNを、相関行列の要素として整理する。相関行列とは、図3に示すように行および列にそれぞれ装置番号(#1〜#N)を振り、それに対応する相関係数RMNを成分とした行列を指す。
【0043】
因みに、R12とは装置#1と#2間の相関係数を、R1Nとは装置#1と#N間の相関係数を指し、同様にしてRN3とは装置#Nと#3間の相関係数を指す。なお、ピアソン相関係数の定義より、対角成分が全て1となる対称行列になる。
【0044】
ここで、対角成分を除く特定の行一列(または列一列)の相関係数R12,R13,・・・、R3n・・・の全てが、予め定められた相関係数閾値ε(0<ε<1)未満の場合、つまり下記(4)式が成立する場合、その行または列に該当する装置に異常兆候発生と判定する。
MN<ε ……(4)
【0045】
(作用)
次に本実施形態1の作用について説明する。
図1において、各保護制御計測装置3−1、3−2および3−3は、電力系統1の電気量をアナログ入力部3−11〜3−31から取り込み、演算部3−12〜3−32にて保護制御計測演算を実施する。本実施形態1では、各保護制御計測装置3−1、3−2および3−3の演算部3−12〜3−32から共通の演算手段により得られた入力電気量データを、伝送部3−1〜3−33における共通のデータ収集手段により、ネットワーク5を介してサーバ7に収集する。
【0046】
サーバ7では、この収集した入力電気量データを保存部7−1に保存し、この保存部7−1に保存した保存データを判定部7−2に入力する。判定部7−2では、これらの入力電気量データを利用して前記(3)式および(4)式により異常兆候判定を行う。なお、便宜上(3)式および(4)式を併せて、異常兆候判定のための判定基準1という。この判定基準1の判定結果は、判定部7−2に必要な時間記憶させておく。
【0047】
判定部7−2による判定結果、保護制御計測装置#Mおよび保護制御計測装置#Nのいずれも異常兆候が発生していない場合、相関係数演算窓長Wに含まれるN組の座標データ(xi,yi)をプロットすると、図4に示すように入力電気量の振幅値に応じてほぼ一直線上に並ぶ(但し、当該直線と各プロットとの誤差要因としては、ホワイトノイズによる入力誤差などが考えられる)。
この場合のN組の座標データの相関係数RMNを求めると極めて強い正の相関があり、1に近い値(RMN≒1)となり、このときの相関行列を示すと、図5のようになる。
【0048】
一方、あるタイミングで保護制御計測装置#Mあるいは保護制御計測装置#Nのいずれか一方に異常兆候が発生した場合は、相関係数演算窓長Wには、正常時と異常時のデータが混在することになる。
【0049】
このときの相関係数演算窓長Wに含まれるN組の座標データ(xi,yi)をプロットすると、図6に示すように一直線上に並ぶ黒丸の座標データ(正常時のデータ組)と、一直線上に並ばない白丸の座標データ(異常時のデータ組)とが存在する。
この場合の相関係数RMNを求めると、極めて強い正の相関とはならず、1から逸脱する(RMN<1)。
【0050】
このように、例えば、保護制御計測装置#2に異常兆候が発生したと仮定すると、保護制御計測装置#2に対応する行一列(または列一列、ただし対角成分は除く)の相関係数(図7の網掛け箇所)が全て式(4)RMN<εを満たし、保護制御計測装置#2に異常兆候発生と判定される。
【0051】
また、保護制御計測装置の総数が5台以上の場合で、保護制御計測装置#2および保護制御計測装置#3に異常兆候が発生したと仮定すると、保護制御計測装置#2および保護制御計測装置#3に対応する行一列(または列一列、ただし対角成分は除く)の相関係数(図8の網掛け箇所)が全て式(4)RMN<εを満たし、保護制御計測装置#2および保護制御計測装置#3に異常兆候発生と判定される。
【0052】
このように、サーバ7では相単位で各保護制御計測装置の入力電気量データを比較し、特に逸脱した傾向を示す装置を異常兆候ありと判定する。そして、クライアント6−1あるいは6−Nが、サーバ7に判定結果を要求すると、サーバ7は要求のあったクライアントに対して異常兆候判定結果を伝送する。このようにして、クライアントでは、表示部6−11でサーバ7による異常兆候判定結果を画面に出力して見ることができる。
【0053】
(効果)
以上述べた本実施形態1による入力電気量の異常兆候判定装置によれば以下の効果を奏することができる。
(i) 3台以上の複数台の保護制御計測装置における多数の入力電気量データの相関係数を用いて装置の異常兆候判定を行うようにしたので、このうち1台の保護制御計測装置でのみ異常兆候が発生した際には、多数決方式により当該装置および異常相を特定できる。また、単発的なホワイトノイズなどの誤差要因に対して不要検出を発生させにくく、かつ異常兆候を確実に検出できる。
【0054】
(ii) また、保護制御計測機能を行う保護制御計測装置と、異常兆候の判定を実現するための入力電気量データの収集および異常兆候の判定を行うサーバとは、別個のハードウェアになるので、保護制御計測装置の保護機能、制御機能、計測機能に物理的な影響を与えることなく異常兆候の判定手法に関する機能追加や変更を行うことができる。この結果、セキュリティ、コスト、利便性で大いに効果がある。
【0055】
(iii) 従来の保護制御計測装置では、零相監視やCT/VT回路監視などのアナログ入力部を対象とした自動監視機能を有しているが、これらは対象部位の不良を確実に検出することを目的としており、また原理的に系統特性の影響を受ける方式のため、不要検出を回避するため一定の検出マージンを考慮している。しかしながら、本実施形態1の異常兆候判定装置は、異常兆候の把握を目的としており、また複数の保護制御計測装置の入力電気量を比較する方式により系統特性の影響を受けないため、検出感度を上げられる。また異常兆候の発生装置の特定に加えて、発生した相まで特定できる。
【0056】
(iv) 各保護制御計測装置における特定の瞬時値データを比較する方式ではなく、多数の時系列(数時間単位あるいは数日単位)から成る振幅値データの相関関係に着目する方式であり、各保護制御計測装置の入力電気量データに、データ収集周期より十分小さい程度の同期ズレが生じても、電力系統の常時運用時における負荷変動は緩慢であり、異常兆候判定に行うに際し無視できる。
つまり本実施形態1の異常兆候判定装置では、各保護制御計測装置の時刻同期は不要であり、GPS受信器などの設備を設ける必要はないという長所を備えている。
【0057】
(v) クライアントを複数台設置することができるため、例えば電力会社の本店にサーバを設置し、各支店にクライアントを設置して判定結果を閲覧するサービスなどを提供することができる。
【0058】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について図9を参照して説明する。
(構成)
本実施形態2は、前述した実施形態1と同様にして求められた相関係数RMNの相関行列の判定結果にて、行の一部(または列の一部、ただし対角成分は除く)の相関係数のみRMN<εを満たす際は、グループ一括不良と判定するものである。
ここで、εは前述の相関係数閾値(0<ε<1)である。
【0059】
(作用)
異常兆候の様相によっては、行の一部(または列の一部、ただし対角成分は除く)の相関係数のみRMN<εとなり得る(図9の網掛け箇所)。
この場合、原理的に多系列方式により異常が発生した保護制御計測装置を特定することはできないが、いずれかの装置に異常兆候が発生している可能性が高いとして、グループ一括不良と判定する。
【0060】
(効果)
本実施形態2では、異常が発生した保護制御計測装置が特定できなくとも、一部の相関係数の逸脱によりグループ一括不良と判定されるため、早期の異常兆候把握に貢献できる。
【0061】
(実施形態3)
本発明の実施形態3について図10を参照して説明する。
(構成)
本実施形態3は、図10で示すように、クライアント6−1〜6−Nの表示部6−11〜6−N2に対して、実施形態1による異常兆候の判定結果(装置あるいはグループ一括不良)の表示内容Aに加えて、相単位で各保護制御計測装置の入力電気量のトレンド(縦軸:入力電気量、横軸:時間)の表示内容B、相関係数トレンド(縦軸:相関係数値、横軸:時間)の表示内容Cを表示することができるようにしたものである。
【0062】
このため、本実施形態3では表示部6−11〜6−N2で異常兆候の判定結果の表示内容A、相単位で各保護制御計測装置の入力電気量のトレンドの表示内容B、相関係数トレンドの表示内容Cを表示することができるようなソフトウェアをサーバ7の判定部7−2と、クライアント6−1〜6−Nとに搭載している。
【0063】
(作用)
サーバ7の判定部7−2における定期的な異常兆候判定処理に応じて、クライアント6−1〜6−Nの表示部6−11〜6−N2で、その判定結果Aとともに、過去の入力電気量保存データも含めて各保護制御計測装置の入力電気量トレンドBや相関係数トレンドCを表示することができる。
【0064】
(効果)
本実施形態3によれば、異常兆候の判定結果Aと併せて、各保護制御計測装置の入力電気量トレンドBや相関係数トレンドCが補足情報として表示することができるので、人間系による詳細状況把握が容易に行え、迅速かつ適切に設備更新要否などの判断が行える。
【0065】
(実施形態4)
本発明の実施形態4について図11を参照して説明する。
(構成)
以上述べた実施形態1乃至3では、オンラインによって定期的異常兆候判定を実施するようにしたが、本実施形態4は、サーバ7の判定部7−2に、定期的に実施されるオンラインの異常兆候判定とは別に保護制御計測装置(1)3−1〜保護制御計測装置(N)3−Nの入力電気量の保存データに基づいて、マニュアル操作によりオフラインで異常兆候判定を行うために表示部6−12に相関係数閾値εやサンプリング数nの設定部Dを設けるようにしたものである。
【0066】
(作用)
運転員がクライアント(1)6−1〜クライアント(N)6−Nの表示部6−12で画面を必要に応じてマニュアル操作を行うことで、保護制御計測装置(1)3−1〜保護制御計測装置(N)3−Nにおける過去の保存データに基づいて所望の異常兆候判定が行うことができる。
【0067】
(効果)
本実施形態4では、相関係数閾値εやサンプリング数nを設定変更して、過去の入力電気量保存データに基づき綿密な実態調査を行うことや、保守支援システムの更なる高度化に向けた情報収集などがオフラインで可能になる。
【0068】
(実施形態5)
本発明の実施形態5について図12を参照して説明する。
(構成)
前述した実施形態1では、電力系統の同一地点に3装置以上の保護制御計測装置が設置されている構成を示したが、本実施形態5では、図12に示すように、電力系統としての送電線1Lの途中に分岐が存在しない場合は、送電線1Lの自端電気所に設置された保護制御計測装置(1)3−1および保護制御計測装置(2)3−2、に加えて、相手端電気所に設置された保護制御計測装置(3)3−3を判定対象に含めた構成としたものである。
【0069】
(作用)
送電線1Lの途中に分岐が存在しない場合、通常運転時は自端および相手端の電流値はほぼ同一になる。よって、この電流値を入力電気量として取り込む保護制御計測装置3−1、3−2および3−3を判定対象として、前述の実施形態1と同様に異常兆候判定を行う。
【0070】
(効果)
電力系統の低位系では、送電線1Lの自端電気所に3台以上の保護制御計測装置を設置しない場合が一般的であるが、このような場合でも本実施形態5では自端および相手端を含めて保護制御計測装置の判定対象を3台以上とすることで、以上述べてきた異常兆候判定手法を適用することが可能である。
【0071】
ただし、送電線の充電電流などの影響により、通常運転時においても両端の電気量は厳密には一致しない。このため、適切な異常兆候判定を実現するためには検出感度を損なわない程度に相関係数閾値εを実施形態1の場合よりも下げる等の見直しの必要性はある。
【0072】
(実施形態6)
本発明の実施形態6について図13を参照して説明する。
(構成)
本実施形態6は、変圧器を含むシステムに異常兆候判定方式を適用したものである。
【0073】
図13に示すように電力系統1に変圧器1Tが設置され、この変圧器1Tは、変圧器保護装置8によって保護されるようになっている。2−1および2−2は変圧器1Tの両端にそれぞれ設置された遮断器である。
【0074】
この遮断器2−1および2−2の両側にはそれぞれ計器用変流器4−1および4−4、計器用変流器4−2および4−5が設置されており、このうち、計器用変流器4−4および4−5の出力は変圧器保護装置8に入力され、また、計器用変流器4−1および4−2の出力はそれぞれ保護制御計測装置3−1、3−2に入力されるように接続されている。
【0075】
ここで、保護制御計測装置3−1および保護制御計測装置3−2の入力電流値をそれぞれI#1およびI#2、また、変圧器保護装置8の高圧側電流値をIH、低圧側電流値をILとすると、これらの各入力電気量I#1、I#2、IH、ILを異常兆候の判定対象とすることができる。
【0076】
(作用)
通常運転時においても変圧器1Tの巻線構成や巻線比に応じて、変圧器1Tの両端電気量は大きさや位相に相違が生じる。しかし各入力電気量I#1、I#2、IH、ILの相関関係は、これらの相違が生じていても、負荷変動に対してほぼ一定に保たれる。
【0077】
(効果)
以上述べたように、変圧器1Tの高圧側と低圧側の電流値を個別に判定対象とし、これに他の保護制御計測装置で採取した電流値と組み合わせることにより実施形態1で述べた異常兆候判定を適用することが可能となる。
【0078】
(実施形態7)
本発明の実施形態7について図14を参照して説明する。
(構成)
本実施形態7は、母線保護装置を含むシステムに異常兆候判定方式を適用したものである。
図14において、1Bは母線、2−3、2−4および2−5はそれぞれ遮断器、4−6、4−7、4−8および4−9は計器用変流器、9は母線保護装置であり、9−1は母線保護装置親局、9−2〜9−4は母線保護装置子局である。3−4は保護制御計測装置である。
【0079】
図14に示すように母線保護装置9と保護制御計測装置3が母線1Bに接続されている形態では、母線保護装置子局(1)9−2および保護制御計測装置3−4の電流振幅値をI#1、I#4、また母線保護装置子局(2)9−3および母線保護装置子局(3)9−4の電流瞬時値をi#2、i#3とすると、I#1、I#4、|i#2+i#3|(絶対値記号||は振幅値を表す)を異常兆候の判定対象とした構成が採用できる。
【0080】
(作用)
母線1Bに事故が生じていない場合は、母線保護装置親局9−1に入力される入力電気量I#1、I#4と、他回線電気量の加算値|i#2+i#3|の相関関係は、負荷変動に対してほぼ一定に保たれている。
【0081】
(効果)
母線保護装置子局(1)9−2および保護制御計測装置3−4のみでは入力電気量数の制約により、実施形態1で述べた異常兆候判定手法を適用することができないが、母線1Bに接続された他回線の電気量の加算データ|i#2+i#3|を利用することで解決できる。
【0082】
(実施形態8)
本発明の実施形態8について図15を参照して説明する。
(構成)
図15は、本実施形態8のシステム構成図であり、保護制御計測装置内に実施形態1のサーバ7に設けた保存部と判定部の機能を各保護制御計測装置内に設けることで、サーバ7を設けない構成としたものである。
【0083】
すなわち、保護制御計測装置(1)3−1、保護制御計測装置(2)3−2および保護制御計測装置(3)3−3に、図1のサーバ7に設けていた保存部および判定部と同じ機能を有する保存部3−14〜3−34および判定部3−15〜3−35をそれぞれ設ける構成とし、分散型の異常兆候判定システムを構成するようにしたものである。その他の構成は図1と同じである。
【0084】
(作用)
本実施形態8の構成は、各保護制御計測装置内で異常兆候を判定する分散型システムを提供する。特定の保護制御計測装置が休止となる場合でも、残りの3台以上の保護制御計測装置のみで異常兆候判定を継続する。
【0085】
(効果)
本実施形態8では、サーバが不要となるため、より低コストでシステムを実現し得る。また、分散型システムであり、柔軟性を備えたロバストな異常兆候判定システムを提供できる。
【0086】
(実施形態9)
次に、本発明の実施形態9について図16を参照して説明する。
(構成)
図16は、本実施形態9における保護制御計測装置の内部構成に注目して示した図であり、保護制御計測装置3−1を代表して示している。
【0087】
前述した実施形態1(図1)の場合、保護制御計測装置3−1、3−2、3−3は、1つの演算部3−12で保護リレー演算および入力電気量加工演算を行うようにしたが、本実施形態9では、演算部3−12を、保護リレー演算を行う演算部3−17と入力電気量加工演算を行う演算部3−18とにハードウェア分離し、かつ、アナログ入力部3−11および演算部3−17からなる保護機能部3−19と、演算部3−18および伝送部3−13からなる伝送機能部3−20とをデュアルポートRAM(データが入出力するための信号の出入口(ポート)を2つ設けたRAM)3−16を介して接続した構成を採用したものである。
【0088】
(作用)
本実施形態9では、保護制御計測機能を実現する上で必要となる演算は、アナログ入力部3−11および演算部3−17で行われる。また、異常兆候判定を実現するために必要な演算は演算部3−18が行い、この演算部3−18の演算結果を伝送部3−13がネットワーク5に出力する。
【0089】
(効果)
本実施形態9では、伝送機能部3−20で行われる処理が、アナログ入力部3−11および演算部3−17に物理的に影響しないハードウェア構成のため、特定の装置より保護制御計測装置の運用中に異常兆候判定に必要となる機能を伝送部に実装させること、伝送部から消去すること、伝送部をリスタートさせること、あるいは伝送部の処理内容を変更すること等が可能となるので、高セキュリティかつ柔軟性をも持つシステムを実現できる。
【0090】
(実施形態10)
本実施形態10は、システム構成図等を図示しないが、特許文献1等に記載されている知的エージェントなどのソフトウェア技術を適用することにより、保護制御計測装置3−1、3−2、3−3における入力電気量データの演算手法、保護制御計測装置3−1、3−2、3−3からサーバ7への入力電気量データの収集手法、サーバ7における異常兆候の判定手法等を、特定の装置から特定の操作を行うことで必要に応じて変更できるようにしたものである。
【0091】
但し、この場合各保護制御計測装置3−1、3−2、3−3、サーバコンピュータ7、クライアントコンピュータ6−1〜6−Nに、知的エージェントによる変更指令操作を受け付ける機能を搭載させる必要がある。
【0092】
本実施形態10によれば、異常兆候の判定アルゴリズムの仕様変更についても、作業者が変電所などの現地に出向かなくても特定の装置からオンラインにて操作することにより、即座に全ての装置を設定変更することなく行え、利便性が高いシステムを実現できる。
【0093】
(実施形態11)
本実施形態11も実施形態10同様、知的エージェント機能を使用して、特定の操作により必要に応じて異常兆候の判定機能が一切実装されていない状態に変更することができるようにしたものである。
【0094】
保護制御計測装置3−1、3−2、3−3については、電力系統の保護機能を装置の主機能と位置づけ、その他保護制御計測装置の画面機能などの保守支援機能がCPU能力を占有するなどにより、主機能が影響を受けて、電力系統の保護責務が絶たれることがあってはならない。
【0095】
そのため、異常兆候の判定機能が主機能たる保護機能に影響を及ぼす可能性が判明した場合には即座に異常兆候の判定機能を司る機能そのものを一切実装されていない状態にすることで保護機能を優先させるべきであるが、従来の保護制御計測装置では製造過程で実装した機能の変更・削除を行う場合は、作業者が変電所などの現地に出向き、ROMなどの変更によりソフトウェアの変更を行なうのが普通であった。
【0096】
しかしながら、本実施形態11は、実施形態10同様に知的エージェントなどのソフトウェア技術を適用することにより、作業者が変電所などの現地に出向かなくても特定の装置からオンラインにて操作することにより、即座に保護制御計測装置を異常兆候判定機能が一切実装されていない状態に変更、すなわち異常兆候判定機能を削除することができるので、利便性が高いシステムを実現できる。
【符号の説明】
【0097】
1…電力系統、1L…送電線、1T…変圧器、1B…母線、2、2−1〜2−5…遮断器、3−1〜3−4…保護制御計測装置、3−11…アナログ入力部、3−12…演算部、3−13…伝送部、3−14…保存部、3−15…判定部、3−16…デュアルポートRAM、4−1〜4−8…計器用変成器(VT、CT)、5…ネットワーク(LAN)、6−1〜6−N…クライアントコンピュータ、6−1…操作部、6−2表示部、7…サーバコンピュータ、7−1…保存部、7−2…判定部、8…変圧器保護装置、9…母線保護装置、9−1…母線保護装置親局、9−2〜9−4…母線保護装置子局。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の同一地点の電気量を3台以上複数台のディジタル型保護制御計測装置に取り込み、当該取り込んだ入力電気量を用いて計器用変成器の異常兆候または保護制御計測装置に具備されたアナログ回路の異常兆候を判定する異常兆候判定装置であって、
前記複数台の保護制御計測装置をネットワーク上でサーバコンピュータおよびクライアントコンピュータに接続するようにし、
前記各保護制御計測装置は、電力系統の電気量を取り込むアナログ回路と、取り込んだ入力電気量を演算する演算部と、この演算部により得られた入力電気量データを前記サーバに送信する伝送部とを有し、
前記クライアントコンピュータは、要求内容を入力する操作部と、入力された要求内容に応じてサーバコンピュータから送られてきた応答内容を出力する表示部とを有し、
前記サーバコンピュータは、前記各保護制御計測装置において一定周期でサンプリングされた入力電気量データを収集して保存する保存部と、この保存部に保存されている入力電気量データのうち、任意時点でサンプリングされた入力電気量データおよび当該任意時点よりも所定周期前にサンプリングされた入力電気量データの各ペアに対して下記(3)式に基づいて定期的に相関係数RMNを算出し、さらに、この算出された相関係数RMNを下記(4)式に基づいて判定して異常兆候装置を特定する判定部を有することを特徴とする入力電気量の異常兆候判定装置。
【数4】

MN<ε ……(4)
ここで、
・装置#Mの入力電気量の値;{M1,M2,…Mi,…,Mn} (i=1,2,…,n)、
・装置#Nの入力電気量の値;{N1,N2,…Ni,…,Nn} (i=1,2,…,n)、
・n:サンプリング数(異常兆候判定に利用する入力電気量ペア(Mi,Ni)の総数)、
・[M]:{M1,M2,…,Mn}の相加平均、
・[N]:{N1,N2,…,Nn}の相加平均、
・ε:相関係数閾値、
【請求項2】
電力系統の同一地点の電気量を3台以上の複数台のディジタル型保護制御計測装置に取り込み、当該取り込んだ入力電気量を用いて計器用変成器の異常兆候または保護制御計測装置に具備されたアナログ回路の異常兆候を判定する異常兆候判定装置であって、
前記複数台の保護制御計測装置をネットワーク上でクライアントコンピュータに接続するようにし、
前記各保護制御計測装置は、電力系統の電気量を取り込むアナログ回路と、取り込んだ入力電気量を演算する演算部と、この演算部により得られた入力電気量データを出力する伝送部と、当該保護制御計測装置において一定周期でサンプリングされた入力電気量データを収集して保存する保存部と、この保存部に保存されている入力電気量データのうち、任意時点でサンプリングされた入力電気量データおよび当該任意時点よりも所定周期前にサンプリングされた入力電気量データの各ペアに対して下記(3)式に基づいて定期的に相関係数RMNを算出し、さらにこの算出された相関係数RMNを下記(4)式に基づいて判定を行い、異常兆候が発生した装置を特定する判定部を有し、
前記クライアントコンピュータは、要求内容を入力する操作部および入力された要求内容に応じて前記各保護制御計測装置から送られてきた応答内容を出力する表示部を有することを特徴とする入力電気量の異常兆候判定装置。
【数5】


MN<ε ……(4)
ここで、
・装置#Mの入力電気量の値;{M1,M2,…Mi,…,Mn} (i=1,2,…,n)、
・装置#Nの入力電気量の値;{N1,N2,…Ni,…,Nn} (i=1,2,…,n)、
・n:サンプリング数(異常兆候判定に利用する入力電気量ペア(Mi,Ni)の総数)、
・[M]:{M1,M2,…,Mn}の相加平均、
・[N]:{N1,N2,…,Nn}の相加平均、
・ε:相関係数閾値、
【請求項3】
請求項1または2記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
前記3式および4式による判定基準1に加えて、以下の判定基準2に基づいて異常兆候装置を特定する判定部を有する異常兆候判定装置。
(判定基準2)
各相関係数RMN<ε(ε;予め定められた相関係数閾値)を相関行列の要素とした際に、対角成分を除く、特定の行一列および列一列の相関係数が全てRMN<εを満たす場合、その行または列に該当する装置を異常兆候ありと判定する。
ここで、相関行列とは、行、列に装置番号をとり、それに対応する相関係数RMN<εを成分とした行列を指す。
【請求項4】
請求項1または2記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
前記判定基準1と判定基準2に加えて、以下の判定基準3に基づいて異常兆候装置を特定する判定部を有する異常兆候判定装置。
(判定基準3)
相関行列の判定結果にて、行の一部および列の一部の相関係数のみRMN<εを満たす場合に、グループ一括不良と判定する。
【請求項5】
請求項4に記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
クライアントコンピュータの表示部に、異常兆候の判定結果(装置あるいはグループ一括不良)を表示する手段に加えて、相単位で各保護制御計測装置の入力電気量トレンドまたは相関係数トレンドの双方またはいずれか一方を表示するようにしたことを特徴とする異常兆候判定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
サーバコンピュータの判定部に、定期的に実施される異常兆候判定とは別に、各保護制御計測装置の入力電気量の保存データに基づいて、マニュアル操作によりオフラインで異常兆候判定を行う手段を有する異常兆候判定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
保護制御計測対象である送電線の途中に分岐が存在しない場合、当該送電線の一端に接続された保護制御計測装置に加えて、他端に接続された保護制御計測装置を異常兆候判定対象に含めたことを特徴とする異常兆候判定装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
保護制御計測対象である変圧器の高圧側端子および低圧側端子の電流を取り込んで保護演算を行う変圧器保護装置と、前記変圧器の高圧側および低圧側の双方またはいずれか一方に保護制御計測装置が接続されている場合、当該保護制御計測装置の入力電流値と、変圧器保護装置に取り込まれる高圧側電流値または、低圧側電流値を異常兆候の判定対象としたことを特徴とする異常兆候判定装置。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれかに記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
保護制御計測対象である母線の各端子の電流を取り込んで保護演算を行う母線保護装置と、前記母線の各端子に保護制御計測装置とが母線に接続されている場合、特定の母線保護装置子局の入力電流値と、当該母線保護装置子局と同一地点の電気量を取り込む保護制御計測装置の入力電流値と、他の全母線保護装置子局の電流瞬時値の和電流の値を異常兆候の判定対象としたことを特徴とする異常兆候判定装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
各保護制御計測装置の伝送部が、アナログ入力部および演算部と、ハードウェア分離され、かつ、演算部がデュアルポートRAMを介して伝送部と接続される構成としたことを特徴とする異常兆候判定装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
前記各保護制御計測装置、サーバコンピュータおよびクライアントコンピュータに、知的エージェントによる変更指令操作を受け付ける機能を搭載させ、これら各保護制御計測装置、サーバコンピュータおよびクライアントコンピュータの内の任意の装置からの操作により入力電気量データの演算手法、入力電気量データの収集手法、異常兆候の判定手法の全てまたはいずれかを変更することを特徴とする異常兆候判定装置。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれかに記載の入力電気量の異常兆候判定装置おいて、
前記各保護制御計測装置、サーバコンピュータおよびクライアントコンピュータに、知的エージェントによる変更指令操作を受け付ける機能を搭載させ、これら各保護制御計測装置、サーバコンピュータおよびクライアントコンピュータ内から、異常兆候の判定機能を削除することを特徴とする異常兆候判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−193625(P2010−193625A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35580(P2009−35580)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【Fターム(参考)】