説明

全方向移動ロボット

【課題】駆動力を効率的に球状車輪に伝達することができる全方向移動ロボットを提供する。
【解決手段】1又は2以上の球状車輪2と、前記球状車輪2の中心で交差するピッチ軸、ロール軸、及びヨー軸周りに回転自在に前記球状車輪2を支持し、直列に連結されたピッチリンク10、ロールリンク11、及びヨーリンク12と、前記各リンクを回転駆動させるアクチュエータ5と、前記アクチュエータ5を動作制御する制御部6と、前記ヨーリンク12に固定された搭乗部4と、前記搭乗部4の姿勢を検出する変化量検出センサ7とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全方向移動ロボットに関し、特に球状車輪を用いたロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
全方向移動ロボットとして、球状タイヤと、全方向移動駆動手段を備えたロボット本体と、ロボット本体を倒立振子型モデルで制御する制御手段とを有する全方向移動ロボットが開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
上記特許文献1では、いくつかのアクティブな小車輪とそれに直交する方向へのパッシブな小車輪が球状タイヤと摩擦で接することによって小車輪の駆動力を球状タイヤに伝達するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−282160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、アクティブな小車輪の駆動力が球状タイヤまで滑りなく伝達されるためには一定以上の接触摩擦を維持しなければならない。また、適切な接触摩擦より大きい場合には伝達効率が悪くなるという問題がある。小車輪と球車輪間の摩擦が小さい場合はすべりが生じ駆動力伝達が困難であるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、駆動力を効率的に球状車輪に伝達することができる全方向移動ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る発明は、1又は2以上の球状車輪と、前記球状車輪の中心で交差するピッチ軸、ロール軸、及びヨー軸周りに回転自在に前記球状車輪を支持し、直列に連結されたピッチリンク、ロールリンク、及びヨーリンクと、前記各リンクを回転駆動させるアクチュエータと、前記アクチュエータを動作制御する制御部と、前記ヨーリンクに固定された搭乗部と、前記搭乗部の姿勢を検出する変化量検出センサとを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は、前記ピッチリンクは一端において、前記球状車輪内に設けられた前記アクチュエータを介して前記球状車輪に回転可能に連結されたことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に係る発明は、搭乗者が加える力及びモーメントを検出する力センサを備え、前記制御部は、前記力センサで検出された前記力に基づき前記球状車輪を回転させ、前記力の方向に前記搭乗部を移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、球状車輪に連結されたピッチリンク、ロールリンク、ヨーリンクの3つのリンクを介してアクチュエータの駆動力を直接球状車輪に伝達する構成としたから、駆動源と車輪の間に滑りがない駆動メカニズムを実現することができるので、駆動力をより効率的に球状車輪に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係る全方向移動ロボットの全体構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る全方向移動ロボットの全体構成を示す背面図である。
【図3】本実施形態に係る全方向移動ロボットの構成を示す部分断面図1である。
【図4】本実施形態に係る全方向移動ロボットの構成を示す部分断面図2である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(全体構成)
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。図1に示す全方向移動ロボット1は、1つの球状車輪2と、一端が前記球状車輪2に連結されたリンク機構3と、前記リンク機構3の他端に連結された搭乗部4と、前記リンク機構3を作動させるアクチュエータ5と、前記アクチュエータ5を制御する制御部6と、前記搭乗部4の姿勢を検出する変化量検出センサ7とを備える。
【0013】
球状車輪2は、床面と必要な摩擦を有する部材、例えば、ゴム製(タイヤ状のものを含む)あるいは合成樹脂製の部材で構成されており、リンク機構3により、全方向、すなわち、前後左右方向に回転可能に支持されている。
【0014】
リンク機構3は、ピッチリンク10と、ロールリンク11と、ヨーリンク12とからなり、各リンクは、シリアルに接続されている。ピッチリンク10は、球状車輪2の外周の約1/4を囲むように湾曲状に形成されており、一端10Aにおいて球状車輪2内に設けられたピッチ軸アクチュエータ20を介して球状車輪2と回転自在に連結されている。また、ピッチリンク10は、他端10Bにおいてロールリンク11の一端11Aとロール軸アクチュエータ21を介して回転可能に連結されている。ロールリンク11は、ピッチリンク10に対し垂直方向に立設されており、他端11Bにおいてヨーリンク12とヨー軸アクチュエータ22を介して回転可能に連結されている。ヨーリンク12は、搭乗部4が一体的に形成されている。
【0015】
なお、球状車輪2の中心を通り、ピッチリンク10とロールリンク11の連結部分を結ぶ軸をX軸又はロール軸、ピッチリンク10の一端10Aを結ぶ軸をY軸又はピッチ軸、ロールリンク11の他端11Bとヨーリンク12の連結部分を結ぶ軸をZ軸又はヨー軸とする。また、本図中、F方向を全方向移動ロボット1の前方向、R方向を右方向、U方向を上方向とする。ヨーリンク12は、ヨー軸上に設けられている。
【0016】
なお、ピッチは全方向移動ロボット1の前後方向すなわちY軸周りの回転をいい、ロールは全方向移動ロボット1の左右方向すなわちX軸周りの回転をいい、ヨーは地面に対し平行な面における回転すなわちZ軸周りの回転をいう。
【0017】
ロール軸アクチュエータ21は、2つの電動モータ23を有している。ロール軸アクチュエータ21の構成は特に限定されるものではないが、例えば、2つの電動モータ23がベルト24を介して1つのプーリ25に接続されている。当該プーリ25は、ピッチリンク10の他端10Bに固定されている。これにより、ロールリンク11は、ピッチリンク10を基準として、ロール軸アクチュエータ21の駆動力によってX軸周りに回転する。これはすなわち、ロールリンク11がピッチリンク10をX軸周りに相対的に回転させることに等しくなる。
【0018】
搭乗部4は、杆状部30と、当該杆状部30に連結されたフレーム部31と、当該フレーム部31に設けられたステップ部32とを有する。本実施形態の場合、搭乗者は、杆状部30を背にしてステップ部32に乗り前記杆状部30に腰掛けたり、又は杆状部30に向かってステップに乗り前記杆状部30に膝や太ももを押し当てたりして、搭乗することができる。
【0019】
杆状部30は、筒状の部材で構成され、左右方向を長手方向として配置されている。杆状部30は、略中央においてヨーリンク12の他端12Bに連結されている。この杆状部30の内部には、図示しないが、動力源としてのバッテリ、及び力センサとしての第1の力センサ33が設けられている。
【0020】
フレーム部31は、垂直部34と水平部35とを略直角に接続してなる一対のL字型部材を有し、上端において前記杆状部30の両側端30A,30Bに固定されている。また、水平部35の一端は、互いに連結されている。水平部35には、板状部材36が固定されており、当該板状部材36上に力センサとしての第2の力センサ37が設けられている。
【0021】
第1の力センサ33及び第2の力センサ37は、特に限定されるものではないが、例えば、6軸センサ(直交する3方向、及び各モーメント)を用いることができる。
【0022】
制御部6と変化量検出センサ7は、本実施形態の場合、ロールリンク11に固定されている。変化量検出センサ7は、例えば、加速度センサ、ジャイロセンサ、地磁気センサのいずれか1つ以上を用いることができる。また、加速度センサはこれを積分した速度センサを含み、ジャイロセンサは、これを積分した姿勢センサを含む。この場合、重力方向を変化量検出センサ7で検出することにより、重力方向に対する搭乗部4の姿勢を検出して、制御部6に検出結果を出力する。当該検出結果に基づき制御部6がピッチ軸アクチュエータ20、ロール軸アクチュエータ21、ヨー軸アクチュエータ22に対して適切なトルク指示を出力し、これにより搭乗部4の姿勢の安定化を図る。本実施形態において、制御方法は特に限定されないが、例えば倒立振子型モデルにより制御することとしてもよい。
【0023】
図2に示すように、ピッチリンク10は、ロール軸アクチュエータ21とベルト24を介して接続されたプーリ25に他端10Bが固定され、当該プーリ25からY軸に平行に一側に突出し、一端10Aが球状車輪2内に設けられたピッチ軸アクチュエータ20(本図には図示しない)に連結されている。また、ロール軸アクチュエータ21及びプーリ25は、V字状に配置されている。
【0024】
図3に示すように、球状車輪2は、中心を通りY軸に平行にくりぬかれた有底筒状のリンク設置部40が形成されている。当該リンク設置部40には、ピッチ軸アクチュエータ20が設置されている。ピッチ軸アクチュエータ20は2個の電動モータ23を有している。ピッチ軸アクチュエータ20の構成は特に限定されるものではないが、例えば、球状車輪2に固定された筒部43と、当該筒部43内に軸支された軸部44とを備える。軸部44には、上記電動モータ23及びモータドライバ45が設けられており、当該電動モータ23と筒部43とが伝導部(図示しない)を介して接続される。また軸部44の端部はピッチリンク10の一端10Aに固定される。これにより、球状車輪2は、ピッチリンク10を基準として、ピッチ軸アクチュエータ20の駆動力によってY軸周りに回転する。
【0025】
図4に示すように、ヨーリンク12には、ケース体42が設けられている。当該ケース体42には、ヨーリンク12を作動するヨー軸アクチュエータ22が収容されている。ヨー軸アクチュエータ22は2個の電動モータ23を有している。ヨー軸アクチュエータ22の構成は特に限定されるものではないが、例えば、ケース体42の上部開口に基部47が設けられており、当該基部47に電動モータ23が固定されている。当該電動モータ23とロールリンク11とが伝導部(図示しない)を介して接続される。ケース体42はロールリンク11と接続されていない。これにより、ヨーリンク12は、ロールリンク11を基準として、ヨー軸アクチュエータ22の駆動力によってZ軸周りに回転する。これはすなわち、ヨーリンク12がロールリンク11をZ軸周りに相対的に回転させることに等しくなる。
【0026】
(動作及び効果)
次に上記のように構成された全方向移動ロボット1の動作及び効果について説明する。まず、全方向移動ロボット1が前後方向に動作する場合について説明する。例えば、倒立振子制御によって搭載された変化量検出センサ7を用いて安定化された状態で、第1の力センサ33または第2の力センサ37は、搭乗者が前向き又は後ろ向きに加えた力を検出すると、当該検出結果を制御部6に出力する。制御部6は、検出結果に基づき、所定のトルク指示をピッチ軸アクチュエータ20に出力する。ピッチ軸アクチュエータ20は、トルク指示に基づき駆動力を発生し、ピッチリンク10を作動する。そうすると、ピッチリンク10を基準として、球状車輪2がY軸周りに回転する。これにより、全方向移動ロボット1は、前方向又は後方向に移動することができる。
【0027】
次いで、全方向移動ロボット1が左右方向に動作する場合について説明する。第1の力センサ33または第2の力センサ37により、搭乗者が右向き又は左向きに加えた力を検出すると、当該検出結果を制御部6に出力する。制御部6は、検出結果に基づき、所定のトルク指示をまずロール軸アクチュエータ21に出力する。ロール軸アクチュエータ21は、トルク指示に基づき駆動力を発生し、ロールリンク11を作動する。そうすると、ロールリンク11を基準としてピッチリンク10X軸周りに回転するので、球状車輪2がX軸周りに回転する。これにより、全方向移動ロボット1は、左又は右方向に移動する。
【0028】
ところで、球状車輪2は、ピッチリンク10とピッチ軸アクチュエータ20とが連結されている部分において球面ではないので、左右方向の移動量はわずかで、ロールリンク11を作動させただけでは全方向移動ロボット1は左右方向に継続的に移動することはできない。そこで、本実施形態に係る全方向移動ロボット1では、球状車輪2の球面ではない面が地面に接する前にヨーリンク12を作動させる。
【0029】
すなわち、制御部6は、所定のトルク指示を上記トルク指示に次いでヨー軸アクチュエータ22に出力する。ヨー軸アクチュエータ22は、トルク指示に基づき駆動力を発生し、ヨーリンク12を作動する。そうすると、ヨーリンク12を基準としてロールリンク11がZ軸周りに回転するので、球状車輪2がZ軸周りに回転する。これにより、ピッチリンク10を左右方向に垂直に配置することができる。
【0030】
次いで、制御部6は、所定のトルク指示をピッチ軸アクチュエータ20に出力する。そうすると、ピッチリンク10を基準として球状車輪2がY軸周りに回転する。これにより、全方向移動ロボット1は、継続的に左又は右方向に移動することができる。
【0031】
次に、全方向移動ロボット1が回転する場合について説明する。第1の力センサ33または第2の力センサ37により、搭乗者が加えたモーメント、すなわちZ軸を中心とする回転方向に加えた力を検出すると、当該検出結果を制御部6に出力する。制御部6は、検出結果に基づき、所定のトルク指示をヨー軸アクチュエータ22に出力する。ヨー軸アクチュエータ22は、トルク指示に基づき駆動力を発生し、ヨーリンク12を作動する。そうすると、ロールリンク11を基準としてヨーリンク12すなわち搭乗部4がZ軸周りに回転する。
【0032】
上記したように、全方向移動ロボット1は、球状車輪2に連結されたピッチリンク10、ロールリンク11、ヨーリンク12の3つのリンクを介してアクチュエータの駆動力を直接球状車輪2に伝達する構成としたから、駆動源と車輪の間に滑りがない駆動メカニズムを実現することができる。したがって、全方向移動ロボット1は、小車輪と球状車輪2との摩擦力により駆動力を伝達していた従来に比べ、駆動力をより効率的に球状車輪2に伝達することができる。
【0033】
全方向移動ロボット1は、左右方向へ移動する際、まずロールリンク11を作動させて左右方向に移動することとしたので、搭乗者の動作に対する応答性を向上することができる。
【0034】
また、必要に応じヨーリンク12を作動させてピッチリンク10の向きを移動方向に対し垂直方向とすることでピッチリンク10の回転により、前後方向、及び左右方向共に、継続的に移動可能とした。これにより、ピッチリンク10のみが継続的な移動機構を備えればよいので、全体として構成を簡略化することができる。
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0035】
例えば、上記した実施形態では、球状車輪2が1つである場合について説明したが、本発明はこれに限らず、2つ又は3つ等と複数設けてもよい。
【0036】
また、上記した実施形態では、各アクチュエータとして電動モータを用いた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、油圧モータを用いてもよい。各アクチュエータとして油圧モータを用いることにより、デザインの自由度を向上することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 全方向移動ロボット
2 球状車輪
4 搭乗部
6 制御部
7 変化量検出センサ
10 ピッチリンク
11 ロールリンク
12 ヨーリンク
20 ピッチ軸アクチュエータ(アクチュエータ)
21 ロール軸アクチュエータ(アクチュエータ)
22 ヨー軸アクチュエータ(アクチュエータ)
33 第1の力センサ(力センサ)
37 第2の力センサ(力センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は2以上の球状車輪と、
前記球状車輪の中心で交差するピッチ軸、ロール軸、及びヨー軸周りに回転自在に前記球状車輪を支持し、直列に連結されたピッチリンク、ロールリンク、及びヨーリンクと、
前記各リンクを回転駆動させるアクチュエータと、
前記アクチュエータを動作制御する制御部と、
前記ヨーリンクに固定された搭乗部と、
前記搭乗部の姿勢を検出する変化量検出センサと
を備えることを特徴とする全方向移動ロボット。
【請求項2】
前記ピッチリンクは一端において、前記球状車輪内に設けられた前記アクチュエータを介して前記球状車輪に回転可能に連結されたことを特徴とする請求項1記載の全方向移動ロボット。
【請求項3】
搭乗者が加える力及びモーメントを検出する力センサを備え、
前記制御部は、前記力センサで検出された前記力に基づき前記球状車輪を回転させ、前記力の方向に前記搭乗部を移動させる
ことを特徴とする請求項1又は2記載の全方向移動ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188046(P2012−188046A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54471(P2011−54471)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】