説明

全胴回転式反応機を用いた高濃度γ−アミノ酪酸の製造

【課題】γ−アミノ酪酸の血圧上昇抑制作用を幅広い食品に応用するため、大量のγ−アミノ酪酸を高濃度、安全、安価、簡便に製造することができる実用性に秀れた技術を提供するものである。
【解決手段】米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米の少なくとも1種に、高濃度のグルタミン酸を多く含む天然濃縮スープもしくはグルタミン酸水溶液を添加して高効率の全胴回転式反応機にて反応させ、該添加溶液中のグルタミン酸と前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸とを、前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用によりγ−アミノ酪酸とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−アミノ酪酸の生成方法及びγ−アミノ酪酸を含む食品の製造に関するものである。
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
【0002】
成人病或いは生活習慣病とも呼ばれる高血圧症は、通院患者原因の第1位であるとともに、心疾患の基礎疾患として保健・医療上、大きな問題になっている。また、高齢化社会を迎えた日本は、これらの生活習慣病諸問題に加え、アルツハイマー症をはじめとする老人病諸問題の解決を迫られることとなる。
【0003】
ところで、γ−アミノ酪酸は神経伝達物質として作用する非タンパク質性アミノ酸であり、生体内ではグルタミン酸脱炭酸酵素によってグルタミン酸から生合成される。このγ−アミノ酪酸にγ−アミノ酪酸の効能について、株式会社ファンケルの報道発表資料や大学等の実験発表により、ラットによる血清および肝臓の脂質含量に及ぼす影響(名古屋女子大学)、発芽玄米摂取が健康人の食事形態と結成脂肪酸組成に与える影響について(株式会社ファンケル)、発芽玄米摂取に於ける高血圧患者の血圧に及ぼす影響(株式会社ファンケル)、発芽玄米のアルツハイマー型痴呆症予防効果(株式会社ファンケル)等の研究成果から、γ−アミノ酪酸にはダイエット効果、アルツハイマー型痴呆症予防効果と高血圧患者に対する高血圧症抑制効果、コレステロールの低下などが既に広く知られている。このγ−アミノ酪酸の血圧降下作用には一定の制限があり、必要量以上を投与しても正常血圧以下になることはないことから、安全性の点でも非常に優れた機能性成分と考えられる。従って、γ−アミノ酪酸は血圧降下作用と言うよりも、血圧上昇抑制作用と呼ぶべき生理機能を有するアミノ酸であり、この特性を生かした多くの製品が既に上市されている。
【0004】
このγ−アミノ酪酸を食品に応用するために、米胚芽の水浸漬によるγ−アミノ酪酸の蓄積・生産(特開平7−213252号)、柑橘系果実からのγ−アミノ酪酸抽出(特開平10−215812号)、植物由来グルタミン酸脱炭酸酵素によるγ−アミノ酪酸の生産(特公平7−12296号)、乳酸菌によるγ−アミノ酪酸の生産(特開平7−227245号)若しくは麹菌によるγ−アミノ酪酸の生産(特開平10−165191号)、γ−アミノ酪酸の生成方法及びγ−アミノ酪酸を含む食品(特開平2000−210075号)などである。
また、上記方法の内、γ−アミノ酪酸の製造方法として特開平2000−210075号に開示された技術においては、γ−アミノ酪酸を米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米の少なくとも1種に、グルタミン酸若しくはグルタミン酸の塩を含む溶液を添加して反応させ、該添加溶液中のグルタミン酸と前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸とを、前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用によりγ−アミノ酪酸とすることを特徴とするγ−アミノ酪酸の大量生成方法に係るものである。
【0005】
また、上記方法の内、特開平2000−210075号に開示された技術においては、γ−アミノ酪酸を米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米の少なくとも1種に、グルタミン酸若しくはグルタミン酸の塩を含む溶液を添加して反応させ、該添加溶液中のグルタミン酸と前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸とを、前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用によりγ−アミノ酪酸とすることを特徴とするγ−アミノ酪酸の大量生成方法に係るものであるが、この製法ではγ−アミノ酪酸の大量生産を目的とするものであり、舌がしびれる等のグルタミン酸に拒否反応を示す人たちが激増しつつある昨今では、グルタミン酸をそのまま用いることは適切であるとは言えない。しかし、食用以外の用途においてはグルタミン酸そのものを用いた製造方法も必要であり、これを除外するものではない。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、天然濃縮スープ、およびグルタミン酸水溶液に含まれるL−グルタミン酸を、前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用によりγ−アミノ酪酸の血圧上昇抑制作用を幅広い食品に応用するため、大量のγ−アミノ酪酸を、天然物を使用して高濃度、安全、安価、簡便に製造することができる実用性に秀れた技術を提供するものである。しかし、天然濃縮スープを使ったγ−アミノ酪酸の製造においては、グルタミン酸を使ったγ−アミノ酪酸製造方法に比べ、長時間の安定した反応機が必要となり、生成物自体も粘性をおび通常のバイオリアクター等では正常な反応を行うことは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、長時間の安定した反応工程を得るため、全胴回転式反応機を考案した。
【0008】
全胴回転式反応機とは、反応機の胴自体が回転し、内部につけられた螺旋羽が反応物を掻き揚げ落下させ、均質な攪拌を長時間持続できるアジテータ式反応装置である。
【0009】
また、全胴回転式反応機外部を温水層で囲み、一定温度で加温しながら均一な反応を長時間持続できるものである。
【0010】
反応が進行するにつれて、米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米は粘りけを帯びてくるが、全胴回転式反応機においては、スクリューやプロペラ攪拌式に比べ、機構部分に負担をかけることなく均質に回転がおこなわれる。
【0011】
また、全胴回転式反応機外部から湯煎によって加温されているため、外部の空気に触れることなく反応は進行していく利点がある。
【発明の作用及び効果】
【0012】
本発明は繰り返した実験により得られた作用効果を請求まとめたものである。
【0013】
精米過程で大量に排出され安価に入手が可能である米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米をグルタミン酸脱炭酸酵素源とし、このグルタミン酸脱炭酸酵素により、グルタミン酸を多く含む天然濃縮スープもしくはグルタミンサン水溶液を添加して反応させ、天然濃縮スープ、およびグルタミン酸水溶液中のグルタミン酸及び前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸を全胴回転式反応機にて反応させると、大量のγ−アミノ酪酸が得られることになる。即ち、γ−アミノ酪酸の元になるグルタミン酸は、前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸のみならず、添加される天然濃縮スープ溶液中のグルタミン酸からも供給される為、十分なγ−アミノ酪酸を生成できることになる。
【0014】
また、反応系にピリドキサルリン酸を添加するとγ−アミノ酪酸の生成量が増大することも実験により確認した。
【0015】
また、反応系にpH調整用の酸として2−モルフォリノエタンスルホン酸を添加するとγ−アミノ酪酸の生成量が増大することも実験により確認した。
【0016】
また、天然物濃縮スープを使用することで、γ−アミノ酪酸を含む食品素材や栄養食品等の食品を、スープ状やオートミル状の高齢者にも摂取しやすい、流動食としての形態も簡便かつ効率的に製造することができ、製造した食品素材や栄養食品を、高血圧患者の食事療法のみならず、高齢者へも対応した、アルツハイマー症予防、高血圧予防のための栄養食品としても利用することができる実用性に秀れた技術となる。
【0017】
また、米胚芽や胚芽を含む米糠は精米過程の副産物として大量に生じており、その処分に苦慮しているのが現状であるが、天然物の濃縮スープも、コンブや缶詰工場等の加工品工場から、煮沸後の高濃度の産業廃棄物溶液として排出されている。従って、本発明は、米胚芽や米糠という未利用資源を有効に活用できると共に、高濃度の産業廃棄物溶液の活用方法として、廃棄物処理にも貢献することができる。
【0018】
本発明の実施例について、以下説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本実施例は、グルタミン酸脱炭酸酵素を含む天然物に、グルタミン酸を多く含む天然濃縮スープもしくはグルタミン酸水溶液を添加して全胴回転式反応機にて反応させ、該添加溶液中のグルタミン酸と前記天然物中のグルタミン酸とを、前記天然物中のグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用によりγ−アミノ酪酸とするものである。
【0020】
グルタミン酸脱炭酸酵素を含む天然物としては米胚芽を使用する。尚、米胚芽の米の品種は制限されない。また、米胚芽を単独で用いる方が望ましいが、胚芽を含む米糠や胚芽米も米胚芽と同様に利用することができる。これら米胚芽、米糠、胚芽米は、通常の精米機と適当なふるいを用いることで容易に調製可能である。さらには、米胚芽、米糠、胚芽米からグルタミン酸脱炭酸酵素を抽出或いは精製し、これを懸濁・溶解または固定化したものを用いることも可能である。
【0021】
グルタミン酸を多く含む天然濃縮スープ中のグルタミン酸もしくはグルタミン酸水溶液のグルタミン酸の塩の量は、γ−アミノ酪酸の希望生産量や触媒源となる米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米の使用量に基づいて決定すればよい。
【0022】
反応条件は、pHは3.0〜7.0、好ましくは5.5〜6.5とすると良い。また、温度は10〜50℃、好ましくは35〜40℃とすると良い。
【0023】
pH調製に用いる酸は無機酸と有機酸のいずれも使用可能である。無機酸を例示すると塩酸、酢酸、硫酸などである。また有機酸にはクエン酸、リンゴ酸、2−モルフォリノエタンスルホン酸等が使用可能であるが、好ましくは2−モルフォリノエタンスルホン酸を使用する。
【0024】
pH調整用アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が用いられるが、当然、これに限るものではない。
【0025】
この条件で反応を行ってもある程度多量のγ−アミノ酪酸を製造できるが(胚芽100gあたり約3gのγ−アミノ酪酸を生成することができる)、γ−アミノ酪酸の生成速度を早めて最大限の製造効率を得るためには、ピリドキサルリン酸を加える方が望ましい。
【0026】
ピリドキサルリン酸の量は生産したいγ−アミノ酪酸の量や希望とする基質転換率(反応開始時に反応液に存在するグルタミン酸量のうち、γ−アミノ酪酸に転換されたものの量比)に基づいて決定すればよい。
【0027】
ピリドキサルリン酸は精製或いは抽出標品が利用可能であるし、また、ピリドキサルリン酸は、ホエーパウダーなど、ビタミンB6の活性成分のひとつとして広範な生物材料に含まれるので、これらをピリドキサルリン酸源として利用することもできる。また、ピリドキサルリン酸はピリドキサルをリン酸化することでも合成できるので、ピリドキサルからの合成系を併用してもよい。
【0028】
本実施例は上述のようにするから、大量のγ−アミノ酪酸を簡便かつ安価に製造することが可能になる。また、使用する材料は米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米、アミノ酸であるグルタミン酸にグルタミン酸を多く含む天然濃縮スープ、ビタミンB6の活性成分であるピリドキサルリン酸、pH調製用の酸やアルカリであり、いずれの成分も食品に用いた場合に有害作用を及ぼすものでないため、反応液からの懸濁物除去、脱色、必要に応じて脱塩、などの簡単な調整操作を行うのみで食品素材として供給することができる。
【0029】
以下、本実施例の作用効果を裏付ける実験例について述べる。
【0030】
実験例1
コシヒカリから調整した胚芽125gを、0.4モル/リットルグルタミン酸濃度の濃縮だし汁(pH5.5)溶液1リットルに懸濁し、ピリドキサルリン酸36.3mgを加え、40℃で6時間、250rpmで撹拌しながら反応させた。反応開始から1時間ごとにピリドキサルリン酸36.3mgを追加添加した。
【0031】
実験結果を図1に示す。
【0032】
図1により、6時間の反応によって、最初に添加したグルタミン酸を多く含む天然濃縮スープ中グルタミン酸量の87.9%をγ−アミノ酪酸に転換できることが判明した。このときのγ−アミノ酪酸生産量は36.3gで、胚芽100g当たりにすると29.0gものγ−アミノ酪酸を生産することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実験例1におけるγ−アミノ酪酸の生成とグルタミン酸の減少、ならびに添加したグルタミン酸からγ−アミノ酪酸への転換率を示したグラフである。
【図2】全胴回転式反応機である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米の少なくとも1種に、グルタミン酸を多く含む天然濃縮スープもしくはグルタミン酸水溶液を添加して反応させ、該添加溶液中のグルタミン酸と前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸とを、前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用によりγ−アミノ酪酸とすることを特徴とするγ−アミノ酪酸の生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のグルタミン酸を多く含む天然濃縮スープを添加して反応させ、該添加溶液中のグルタミン酸と前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸とを、前記米胚芽、胚芽を含む米糠若しくは胚芽米中のグルタミン酸脱炭酸酵素の酵素作用によりγ−アミノ酪酸とすることを特徴とするγ−アミノ酪酸の生成方法において、反応時間の経過とともに粘度が高くなり均質な反応が困難となるγ−アミノ酪酸の生成反応機と反応物全体を前胴回転することで、最適温度で長時間、均質に反応させることができるアジテータ方式のγ−アミノ酪酸製造機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−325576(P2007−325576A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184921(P2006−184921)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(500362992)
【出願人】(504357093)
【Fターム(参考)】