説明

全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブとからなるコンポジットファイバー

【課題】 全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブとからなるコンポジットファイバーを提供する。
【解決手段】 下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(上記一般式(A)、(B)において、Ar、Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす。)
の構成単位から主としてなる全芳香族ポリアミド100重量部と外径が0.7〜50nm、平均アスペクト比が5.0以上の薄層カーボンナノチューブ0.01〜20重量部から構成されるコンポジットファイバーであり、全芳香族ポリアミド中に薄層カーボンナノチューブが、凝集直径が200nm以下で分散していることを特徴とするコンポジットファイバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブとからなるコンポジットファイバーであり、全芳香族ポリアミド中に薄層カーボンナノチューブが高度に分散し、かつ繊維軸方向に薄層カーボンナノチューブが配向していることを特徴とする機械特性に優れたコンポジットファイバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミドは、剛直な芳香族環を連結させた構造をとり、耐熱性、機械特性、耐薬品性等に優れた素材として、繊維あるいはフィルムの形態で電気絶縁材料、各種補強剤、防弾繊維等、幅広く利用されており工業的に極めて価値の高い素材の一つであるが、使用される用途に応じて樹脂に対してより高度な特性が要求されるようになってきた。
【0003】
このような要求特性を満たす技術の一つとして、熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブをナノスケールで分散させた組成物、所謂ナノコンポジットが最近注目されており、カーボンナノチューブを例えば電解、適当なせん断作用もしくはコーミングによってマトリックス中で配向させるとの記載がある(特許文献1)。
【0004】
カーボンナノチューブは炭素6員環からなるグラファイトシートが円筒状を形成した物質であり、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブという。
【0005】
カーボンナノチューブは、高電気伝導性、機械的性質や化学安定性等、これまでにない優れた特性を有しており、複合材料,半導体素子,導電材料,水素吸蔵材料などの実用化に向けた研究が進められている。
【0006】
例えば、高強度、高弾性率、高導電性という特徴を生かしてポリマー中にフィラーとして添加して、機械的物性や導電性を向上させようとする試みも行われている。特に、単層カーボンナノチューブは、高いアスペクト比を有することからフィラーとして期待されている。単層カーボンナノチューブの機能を十分に発現させるためには、単層カーボンナノチューブを高度に分散させる必要がある。しかし、単層カーボンナノチューブ間に働くファンデルワールス相互作用により安定的にカーボンナノチューブを分散させることが困難であり、安定的に高度に分散させるために煩雑な操作が必要である。
【0007】
これまで、単層カーボンナノチューブを液中に分散するまたは溶解するために種々の検討が行われている。例えば、強酸中で超音波処理することにより、カルボキシル基、ヒドロキシル基といった官能基を単層カーボンナノチューブの表面に付与し、脂肪族アミンやアルキルアニリンで修飾することで、有機溶媒に可溶な単層カーボンナノチューブを合成する技術を開示している。(例えば非特許文献1〜2)また、カルボキシル基を付与した単層カーボンナノチューブとアミノ基を有するクラウンエーテル、アミノ基を有するポリエチレングリコールや脂肪族アミンをイオン相互作用により修飾することにより有機溶媒に可溶な単層カーボンナノチューブを開示している。(例えば非特許文献3〜5)しかしながら、これらの技術は操作が煩雑であるばかりか、表面修飾するための前処理として強酸処理を行っているため、単層カーボンナノチューブの機械的特性や導電性が損なわれたりする問題があった。
【0008】
これまで単層カーボンナノチューブと芳香族ポリアミドからなる組成物の製造法および繊維について、芳香族ポリアミドの無水硫酸溶液中にカーボンナノチューブを添加する方法を用いて検討されているが(特許文献2)、コンポジットファイバー中のカーボンナノチューブの分散、配向状態やそれが物性に及ぼす影響についての記載はなく、また繊維の機械特性に関する改善効果も不明である。
【0009】
一方、多層カーボンナノチューブはファンデルワールス相互作用が小さいため溶媒およびポリマー中への分散は単層カーボンナノチューブよりも容易ではあるが、直径が大きいためポリマーと多層カーボンナノチューブとの界面接着力が不十分で補強用フィラーとしての効果が十分発現しないという問題があった。
【0010】
【特許文献1】特公平8−26164号公報
【特許文献2】WO03/085049号公報
【非特許文献1】Science voi.282 95−97(1998)
【非特許文献2】Adv.Mater.vol.11 834−840(1999)
【非特許文献3】Nano.Lett.vol.2 1215−1218(2002)
【非特許文献4】Nano.Lett.vol.3 565−568(2003)
【非特許文献5】J.Phys.Chem.B vol.105 2525−2528(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は機械特性、特に弾性率や強度が向上した全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブとからなるコンポジットファイバー、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、外径が0.7〜50nm、平均アスペクト比が5.0以上の薄層カーボンナノチューブを全芳香族ポリアミドに添加することで、薄層カーボンナノチューブが高度に分散し、かつ繊維軸方向に分散した全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブからなるコンポジットファイバーが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(上記一般式(A)、(B)において、Ar、Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす。)
の構成単位から主としてなる全芳香族ポリアミド100重量部と外径が0.7〜50nm、平均アスペクト比が5.0以上の薄層カーボンナノチューブ0.01〜20重量部から構成されるコンポジットファイバーであり、全芳香族ポリアミド中に薄層カーボンナノチューブが、凝集直径が200nm以下で分散していることを特徴とするコンポジットファイバー。
【0014】
2.偏光ラマン分光測定で入射レーザーを繊維の側面に繊維軸と直交方向から照射したときのカーボンナノチューブ由来のラマンスペクトルにおいて下記式(1)
P=IYY/IXX (1)
(式中、レーザー偏光面を繊維軸と平行に配置した場合のGバンド強度をIXX,レーザー偏光面を繊維軸と垂直に配置した場合のGバンド強度をIYYとする。)
で表される配向度Pが0より大きく0.2以下を満たすことを特徴とする上記記載のコンポジットファイバー。
【0015】
3.全芳香族ポリアミドが、Ar
【化1】

及び/または
【化2】

であり、Ar
【化3】

である上記記載のコンポジットファイバー。
【0016】
4.全芳香族ポリアミドが、Ar
【化4】

(a)
及び
【化5】

(b)
であり、Ar
【化6】

である共重合体であって、そのジアミン成分における上記式(a)と(b)の割合が1:0.8〜1:1.2である上記記載のコンポジットファイバー。
【0017】
5.用いられる薄層カーボンナノチューブのラマン分光測定から算出したD/G値(Dバンド強度/Gバンド強度)が0.5以下であることを特徴とする上記記載のコンポジットファイバー。
【0018】
6.薄層カーボンナノチューブと分散溶媒とを混合して混合液を得る工程、ついで混合液中に少量の全芳香族ポリアミドを添加して薄層カーボンナノチューブ分散液を調製する工程、ついで分散液中に全芳香族ポリアミドを添加して全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブからなる紡糸用溶液を得る工程、ついでその溶液から紡糸する工程を有することを特徴とする上記記載のコンポジットファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明で得られる全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブからなるコンポジットファイバーは、薄層カーボンナノチューブが微細にコンポジットファイバー中に分散し、かつ繊維軸方向に薄層カーボンナノチューブが高度に配向している事により機械特性、とくに弾性率や引っ張り強度に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳述する。
(薄層カーボンナノチューブについて)
本発明において、薄層カーボンナノチューブとは、外径がおよそ0.7〜50nm、好ましくは1.4〜30nm、長さがおよそ10nm〜10μmのカーボンからなるチューブ状材料であり、理想的な構造としては炭素の6角網目の面(グラフェンシート)がチューブ軸に平行に管を形成し、多重管になっているものであって、層数としては2〜10であることが好ましい。
【0021】
外径が50nmよりも大きい場合、全芳香族ポリアミドとのコンポジットを作製した場合、界面の接着力が不十分であり、十分な補強効果が得られず好ましくない。薄層カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブに比較してチューブ間に働くファンデルワールス力が小さく、溶媒中およびポリマー中に分散させる点で好ましい。また、薄層カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブとは異なり、多重管からなるので表面処理を施しても内部のチューブまでダメージを受けないため好ましい。また、機械的物性および耐熱性の観点からも薄層カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブよりも好ましいことが知られている。
【0022】
上記の薄層カーボンナノチューブの従来公知の製法として、現在は主に炭素化合物を高温下で触媒金属微粒子に接触させて熱分解する化学気相成長法(以下,CVD法とする)、アーク放電法、およびレーザー蒸発法が用いられている。またこの上記以外にもプラズマ合成法や固相反応法が知られているが、本発明に用いられる単層カーボンナノチューブの製造方法として、これらに限定されるものではない。篠原らが報告している多孔性担体に金属触媒を担持した基体に原料炭素源となる炭素化合物気体を接触させて熱分解するCVD法によるカーボンナノチューブの製造方法は、特に精製することなく、純度が高く、高度にグラファイト化された単層カーボンナノチューブが得られることから好ましい製造方法である。(Chemical Physics Letter 303(1999) 117−124)
【0023】
薄層カーボンナノチューブの不純物として単層カーボンナノチューブ、直径が50nmよりも大きい多層カーボンナノチューブ、フラーレン、活性炭、カーボンブラック、アモルファスカーボン、触媒金属等が知られている。薄層カーボンナノチューブの純度としては60%以上、さらには70%以上であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明で使用される薄層カーボンナノチューブは、ラマン散乱測定から算出したDバンドとGバンドの強度比(D/G)が、0.5以下であることが好ましく、さらには0.3以下であることが好ましい。D/Gの値が0.5よりも大きい場合は、アモルファスカーボン等不純物が多く含まれているか、あるいは薄層カーボンナノチューブに欠陥構造が多いために好ましくはない。
【0025】
本発明において、薄層カーボンナノチューブは、例えば上記に記載したとおりの従来公知の方法で合成された薄層カーボンナノチューブを使用することができる。また、分散性を向上させる目的で、従来公知の強酸処理や化学修飾された薄層カーボンナノチューブも使用することができる。
【0026】
通常、化学修飾していない単層カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ間に働くファンデルワールス力により凝集力が著しく強く、液体中に入れただけでは分散させることが困難であり、分散させることができたとしても極めて低濃度であった。
【0027】
そこで、単層カーボンナノチューブの分散性を向上させる目的で、化学修飾を単層カーボンナノチューブに施した場合、分散性が向上するものの単層カーボンナノチューブ表面に与えるダメージが大きく、単層カーボンナノチューブ本来の機械的物性、導電性といった特徴を損なうという問題があった。
一方で、薄層カーボンナノチューブは、表面修飾を行ったとしても内部にあるナノチューブの構造は保たれるため、単層カーボンナノチューブよりも好ましい。
【0028】
(全芳香族ポリアミドについて)
本発明のコンポジットファイバーにおける全芳香族ポリアミドは、実質的に下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(上記一般式(A)、(B)において、Ar,Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす。
の2つの構成単位が交互に繰り返された構造からなる全芳香族ポリアミドである。
【0029】
上記Ar,Arは、各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基であるが、その具体例としては、メタフェニレン基、パラフェニレン基、オルトフェニレン基、2,6−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、4,4’−ジフェニレンスルフィド基、4,4’−ジフェニレンスルホン基、4,4’−ジフェニレンケトン基、4,4’−ジフェニレンエーテル基、3,4’−ジフェニレンエーテル基、メタキシリレン基、パラキシリレン基、オルトキシリレン基等が挙げられる。
【0030】
これら芳香族基の水素原子のうち1つまたは複数がそれぞれ独立にフッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。なお、上記式(A)及び/又(B)の構成単位が、2種以上の芳香族基からなる共重合体であっても差し支えない。
【0031】
これらのうち、Arはメタフェニレン基、パラフェニレン基、3,4’−ジフェニレンエーテル基が好ましく、パラフェニレン基、またはパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基とを併用したものがさらに好ましく、パラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基とを併用した場合にはそのモル比が1:0.8〜1:1.2の範囲にあることがさらに好ましい。
Arはメタフェニレン基、パラフェニレン基、が好ましく、パラフェニレン基がさらに好ましい。
【0032】
すなわち本発明において好適に用いられるものとして具体的には、Arがパラフェニレン基及び3,4’−ジフェニレンエーテル基であり、Arがパラフェニレン基である共重合体であって、その共重合比(Arのパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基のモル比)が1:0.8〜1:1.2の範囲にある全芳香族ポリアミド、およびArとArがともにパラフェニレン基である全芳香族ポリアミドを挙げることが出来る。
【0033】
すなわち全芳香族ポリアミドとして、Ar
【化7】

及び/または
【化8】

であり、Ar
【化9】

であるもの、およびAr
【化10】

(a)
及び
【化11】

(b)
であり、Ar
【化12】

である共重合体であって、そのジアミン成分における上記式(a)と(b)の割合が1:0.8〜1:1.2であるものが好ましい。
【0034】
これらの全芳香族ポリアミドは溶液重合法、界面重合法、溶融重合法など従来公知の方法により製造する事が出来る。重合度は芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分の比率によりコントロールすることが出来、得られるポリマーの分子量としては98重量%濃硫酸に0.5g/100mLの濃度で溶かした溶液を30℃にて測定した特有粘度(inherent viscosity)ηinhが0.05〜20dL/gであることが好ましく、1.0〜10dL/gであることがより好ましい。
【0035】
(組成)
本発明のコンポジットファイバーの組成としては全芳香族ポリアミド100重量部に対して、薄層カーボンナノチューブが0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部である。薄層カーボンナノチューブが0.01重量部未満であると機械特性の向上の効果が観察されにくく、20重量部より上のものは薄層カーボンナノチューブの分散性が低下する。
【0036】
(分散性について)
本発明ではコンポジットファイバー中の薄層カーボンナノチューブが、凝集直径が200nm以下で分散していることを特徴とする。本発明において薄層カーボンナノチューブの分散性は繊維軸と平行に切断した繊維断面を直接TEM等の電子顕微鏡で観察することができる。
【0037】
(配向、及び配向方法について)
本発明ではコンポジットファイバー中の薄層カーボンナノチューブが、繊維軸方向に配向していることを特徴とする。かかる薄層カーボンナノチューブの配向性は繊維軸と平行に切断した繊維断面を直接TEM等の電子顕微鏡で観察する他に、偏向ラマン分光測定により評価する。
【0038】
偏光ラマン分光測定とは入射レーザーを繊維の側面に繊維軸と直交方向から照射したときの薄層カーボンナノチューブ由来のラマンスペクトルにおいて下記式(1)
P=IYY/IXX (1)
(式中、レーザー偏光面を繊維軸と平行に配置した場合のGバンド強度をIXX,レーザー偏光面を繊維軸と垂直に配置した場合のGバンド強度をIYYとする。)
で表される配向度Pにて配向性を評価する方法である。本発明では配向度Pが0以上0.2以下を満たすことが好ましい。
【0039】
配向度Pはナノチューブが繊維軸方向に平行に配向したときにP=0に漸近し,ランダムな配向ではP=1となる。Pの値の上限としてより好ましくは0.2、さらに好ましくは0.1であり、0に近いほど好ましい。Pの値が0.2を超えると薄層カーボンナノチューブの配向が不十分であるため好ましくない。
【0040】
薄層カーボンナノチューブおよび全芳香族ポリアミドの繊維軸方向への配向方法としては全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブからなる混合溶液から紡糸する際、流動配向、液晶配向、せん断配向、又は延伸配向させる事等が挙げられる。得られた繊維組成物をさらに延伸配向させることにより薄層カーボンナノチューブの配向係数を上昇させる事も本発明のコンポジットファイバーを得るうえでさらに好ましい。配向度Pの減少度としては、0.01以上好ましくは0.05さらには0.1以上が好ましい。
【0041】
(コンポジットファイバー)
本発明のコンポジットファイバーは単繊維径は0.01〜1000dtexである。好ましくは、0.1から500dtexである。
【0042】
(コンポジットファイバーの製造法)
本発明のコンポジットファイバーの製造法としては、全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブの混合溶液を調製し、その混合溶液から紡糸する方法が好ましい。
【0043】
混合溶液を調製する方法としては、例えば、1)全芳香族ポリアミドの溶液に、固体のカーボンナノチューブを添加する。2)全芳香族ポリアミド溶液とカーボンナノチューブの溶媒分散液とを混合する。3)カーボンナノチューブの溶媒分散液に固体の全芳香族ポリアミドを添加する。4)カーボンナノチューブの溶媒分散液中で、全芳香族ポリアミドのIn-situ重合を行う等の方法が知られている。しかし、混合溶液内で薄層カーボンナノチューブが均一に分散していることが、薄層カーボンナノチューブの配向つまりはコンポジットファイバーの機械物性向上のためには重要である。その観点からは紡糸用混合溶液の調製方法として上記2)のカーボンナノチューブの溶媒分散液を作製し、全芳香族ポリアミド溶液と混合する方法が好ましい。
【0044】
しかし、単にカーボンナノチューブの溶媒分散液と前芳香族ポリアミド溶液とを混合するだけでは、分散性に優れた紡糸用混合溶液を得ることは困難である。
そこで本発明者らは、カーボンナノチューブ分散液の分散性を向上させる方法として、カーボンナノチューブ溶媒分散液に少量の全芳香族ポリアミドを分散剤として添加し、分散させることで飛躍的にカーボンナノチューブの分散性が向上することを見出した。
【0045】
すなわち、カーボンナノチューブと分散溶媒とを混合して混合液を得る工程、ついで混合液中に少量の全芳香族ポリアミドを添加してカーボンナノチューブ分散液を調製する工程、ついで分散液中に全芳香族ポリアミドを添加して全芳香族ポリアミドとカーボンナノチューブからなる紡糸用溶液を得る工程、その溶液から紡糸する工程により、本発明のコンポジットファイバーを好ましく製造することができる。
【0046】
以下本発明のコンポジットファイバーの製造方法について詳述する。
分散溶媒は、種類が特に限定されるものではなく、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等、100%硫酸、りん酸、ポリりん酸、メタンスルホン酸等の酸溶媒が挙げられる。これらの液体は単独で用いても、2種以上を混合して用いることもできる。これらの分散媒は、薄層カーボンナノチューブを分散させるのに好ましい液体である。また、分散性を阻害しない範囲において水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールといった1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールといった2価アルコール、グリセリンといった3価アルコール、アセトンといったケトン類、テトラヒドロフランといった環状エーテル、1,2−ジクロロベンゼンといったハロゲン化芳香族炭化水素、クロロホルムといったハロアルカン、1−メチルナフタレンといった置換複素環化合物を含んでいてもさしつかえない。
【0047】
薄層カーボンナノチューブを分散媒に混合する際には、特に限定されないが超音波や各種攪拌方法を用いることができる。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。中でも超音波処理装置が好ましい。
【0048】
薄層カーボンナノチューブの分散媒に対する濃度は特に限定されるものではないが、濃度が薄すぎると利用価値が低く、濃度が高すぎると薄層カーボンナノチューブの分散性が低下することもあるので、0.0001〜1重量%が好ましく、0.005〜0.5重量%がより好ましい。
本発明において、少量の全芳香族ポリアミドを分散剤として添加するによって薄層カーボンナノチューブ分散液の分散性が極めて向上する。
【0049】
本発明において分散剤として用いられる全芳香族ポリアミドは、実質的に下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(上記一般式(A)、(B)において、Ar、Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす。)
の2つの構成単位が交互に繰り返された構造からなる全芳香族ポリアミドである。
【0050】
上記Ar、Arは、各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基であるが、その具体例としては、メタフェニレン基、パラフェニレン基、オルトフェニレン基、2,6−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基、4,4’−イソプロピリデンジフェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、4,4’−ジフェニレンスルフィド基、4,4’−ジフェニレンスルホン基、4,4’−ジフェニレンケトン基、4,4’−ジフェニレンエーテル基、3,4’−ジフェニレンエーテル基、メタキシリレン基、パラキシリレン基、オルトキシリレン基等が挙げられる。
【0051】
これらの芳香族基の水素原子のうち1つまたは複数がそれぞれ独立にフッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。なお、上記式(A)及び/又(B)の構成単位が、2種以上の芳香族基からなる共重合体であっても差し支えない。
【0052】
これらのうち、Arはメタフェニレン基、パラフェニレン基、3,4’−ジフェニレンエーテル基が好ましく、パラフェニレン基、またはパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基とを併用したものがさらに好ましく、パラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基とを併用した場合にはそのモル比が1:0.8〜1:1.2の範囲にあることがさらに好ましい。
Arはメタフェニレン基、パラフェニレン基、が好ましく、パラフェニレン基がさらに好ましい。
【0053】
すなわち本発明において好適に用いられるものとして具体的には、Arがパラフェニレン基及び3,4’−ジフェニレンエーテル基であり、Arがパラフェニレン基である共重合体であって、その共重合比(Arのパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基のモル比)が1:0.8〜1:1.2の範囲にある全芳香族ポリアミド、およびArとArがともにパラフェニレン基である全芳香族ポリアミドを挙げることが出来る。
【0054】
これらの全芳香族ポリアミドは溶液重合法、界面重合法、溶融重合法など従来公知の方法にて製造する事が出来る。重合度は芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分の比率によりコントロールすることが出来、得られるポリマーの分子量としては98重量%濃硫酸に0.5g/100mLの濃度で溶かした溶液を30℃にて測定した特有粘度(inherent viscosity)ηinhが0.05〜20dL/gであることが好ましく、1.0〜10dL/gの間に有るものがより好ましい。
【0055】
また、本発明において、分散剤として用いられる全芳香族ポリアミドは、コンポジットファイバーの構成要素である全芳香族ポリアミドと同じであることが好ましい。
分散剤としての全芳香族ポリアミドの使用量としては薄層カーボンナノチューブに対して、0.1〜50重量%であることが好ましく、0.2〜20重量%であることがより好ましい。
【0056】
本発明において、薄層カーボンナノチューブの混合液に、全芳香族ポリアミドを添加する方法として、固体の状態で添加する方法、または分散剤を溶解する溶媒に溶解した溶液の状態で添加する方法が挙げられる。分散剤溶液で添加する場合においては、使用する溶媒として特に限定はされないが、薄層カーボンナノチューブを分散させるのに使用している分散媒と同種であることが好ましい。
【0057】
混合液中に全芳香族ポリアミドを添加して薄層カーボンナノチューブ分散液を調整する方法としては、特に限定はされないが超音波や各種攪拌方法を用いることができる。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。なかでも超音波処理を行うことが好ましい。
【0058】
このように本発明において全芳香族ポリアミドを分散剤として添加することで、分散性の向上、分散している状態が保持、安定化し、分散性に優れた薄層カーボンナノチューブ分散液を得ることができる。これらの作用機構については、明らかではないが分散している薄層カーボンナノチューブの間に分散剤が均一に挿入された状態であり凝集を抑制しているものと推定される。
得られた薄層カーボンナノチューブ分散液を濃縮することにより、分散性を保持したまま高濃度の薄層カーボンナノチューブ分散液を得ることも可能である。
【0059】
次いで薄層カーボンナノチューブ分散液と全芳香族ポリアミド溶液とを混合することにより、紡糸用混合溶液を作製することができる。
薄層カーボンナノチューブ分散液と全芳香族ポリアミド溶液とを混合する方法としては、特に限定はされないが、超音波や各種攪拌方法を使用することができる。
【0060】
紡糸用混合溶液からの紡糸方法は、湿式、乾式、乾式湿式の併用いずれを用いても良い。前述したように紡糸工程において、流動配向、液晶配向、せん断配向、又は延伸配向させる事により全芳香族ポリアミドおよびカーボンナノチューブの配向を高め機械特性を向上させる事が出来る。
【0061】
全芳香族ポリアミドが例えば、Arがパラフェニレン基及び3,4’−ジフェニレンエーテル基でありArがパラフェニレン基であって、その共重合比(Arのパラフェニレン基と3,4’−ジフェニレンエーテル基のモル比)が1:0.8〜1:1.2の範囲にある共重合全芳香族ポリアミドの場合は、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒を混合溶媒として乾湿式紡糸を行った後、高温下、高倍率で延伸配向させることによりコンポジットファイバーを得ることが出来る。かかる際の好ましい延伸倍率としては2〜40倍、より好ましくは5〜30倍であるが、最大延伸倍率(MDR)になるべく近づけて延伸することが機械物性の面で望ましい。好ましい延伸配向時の温度としては100℃〜800℃、より好ましくは200℃〜600℃である。また全芳香族ポリアミドが例えば、ArとArがともにパラフェニレン基であるポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の場合は、100%硫酸、りん酸、ポリりん酸、メタンスルホン酸等の酸溶媒を混合溶媒として、液晶紡糸によりコンポジットファイバーを得ることが出来る。液晶紡糸では通常、高いドラフト比でキャップから溶液を紡糸することにより配向させることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(1)コンポジットファイバー中のカーボンナノチューブの凝集直径:EFI社製TECNAI12 BIO TWINを用いて繊維軸と平行に切断した繊維断面(倍率:10万倍)を用いて4μmの範囲での凝集直径を直接観察することにより評価した。
(2)偏向ラマン分光測定:ラマン分光装置は,顕微レーザーラマン分光測定装置(堀場ジョバンイボン製LabRamHR)を用いた。励起レーザー光源として波長785nmの半導体レーザーを用い,レーザービーム径は約1μmに集光した。かかる装置を使い、以下のようにして偏光ラマン分光測定を行なった。入射レーザーを繊維組成物の側面に繊維軸と直交方向から照射してカーボンナノチューブのラマンスペクトルを測定する際、レーザー偏光面を繊維軸と平行に配置した場合のラマンシフト波数1580cm−1付近のグラファイト構造由来のGバンド強度(IXX),レーザー偏光面を繊維軸と垂直に配置した場合のGバンド強度(IYY)を測定した。
(3)ラマン分光測定:ラマン分光装置は,顕微レーザーラマン分光測定装置(堀場ジョバンイボン製T64000)を用いた。励起レーザー光源として波長514.5nmのArイオンレーザーを用い,レーザービーム径は約1μmに集光した。D/Gの値はラマンシフト波数1360cm−1付近のディスオーダー構造由来のDバンド強度とラマンシフト波数1580cm−1付近のグラファイト構造由来のGバンド強度から算出した。
(4)繊維の機械特性:オリエンテック株式会社製テンシロン万能試験機1225Aを用いて、得られた繊維の単糸での引張り試験を行い、弾性率および強度を求めた。
【0063】
[参考例1]アラミド樹脂溶液の作成
十分に乾燥した攪拌装置付きの三口フラスコに、脱水精製したNMP2152g、p−フェニレンジアミン27.04g及び3、4’―ジアミノジフェニルエーテル50.06gを常温下で添加し窒素中で溶解した後、氷冷し攪拌しながらテレフタル酸ジクロリド101.51gを添加した。その後徐々に昇温して最終的に80℃、60分反応させたところで水酸化カルシウム37.04gを添加して中和反応を行い、NMPのアラミド樹脂溶液を得た。得られたドープを水にて再沈殿することにより得たアラミド樹脂の濃度0.5g/100mLの濃硫酸溶液を30℃で測定した特有粘度は3.5dL/gであった。
【0064】
[実施例1]
NMP30gに薄層カーボンナノチューブ(DWNT シンセンナノテクポート社製 D/G=0.21)0.1gを加え、発振周波数38kHzの超音波により8時間超音波処理を行った。この薄層カーボンナノチューブNMP混合液に、参考例1で作成したNMPのアラミド樹脂溶液1.67gを分散剤として加えて温度0℃で4時間超音波処理することにより、アラミド樹脂を少量含む薄層カーボンナノチューブ分散液を調製した。アラミド樹脂溶液を添加することにより、薄層カーボンナノチューブの分散性は飛躍的に向上した。さらに薄層カーボンナノチューブ分散液にアラミド樹脂溶液を少しずつ攪拌しながら添加して均一な全芳香族ポリアミド100重量部/薄層カーボンナノチューブ1重量部からなるポリマー濃度5重量%の紡糸用混合溶液を調製した。かくして得られたポリマードープを孔径0.3mm、L/D=1、孔数5個のキャップを用いて、シリンダー温度50℃にてNMP30重量%の水溶液である温度50℃の凝固浴中に速度3m/分にて押出した。キャップ面と凝固浴面との距離は10mmとした。凝固浴から取り出した繊維を50℃の水浴中にて水洗し、120℃の乾燥ローラーで乾燥後、500℃の熱板上にて延伸させた。先にこの延伸工程における最大延伸倍率(MDR)を求め、その0.9倍の倍率(15.3倍)で延伸を行い,コンポジットファイバーを得た。コンポジットファイバーのTEM縦断面測定から200nmを超える薄層カーボンナノチューブの凝集物は観察されなかった。偏向ラマン分光測定から配向係数Pは0.11であった。ファイバーの単繊維径は1.6dtex、弾性率は84.1GPa、強度は25.60cN/dtexであった。
【0065】
[実施例2]
NMP30gに薄層カーボンナノチューブ(カーボンナノチューブA+Bタイプ マイクロフェーズ社製 D/G=0.22)0.1gを加え、発振周波数38kHzの超音波により8時間超音波処理を行った。この薄層カーボンナノチューブNMP混合液に、参考例1で作成したNMPのアラミド樹脂溶液1.67gを分散剤として加えて温度0℃で4時間超音波処理することにより、アラミド樹脂を少量含む薄層カーボンナノチューブ分散液を調製した。アラミド樹脂溶液を添加することにより、薄層カーボンナノチューブの分散性は飛躍的に向上した。さらに薄層カーボンナノチューブ分散液にアラミド樹脂溶液を少しずつ攪拌しながら添加して均一な全芳香族ポリアミド100重量部/薄層カーボンナノチューブ1重量部からなるポリマー濃度5重量%の紡糸用混合溶液を調製した。かくして得られたポリマードープを孔径0.3mm、L/D=1、孔数5個のキャップを用いて、シリンダー温度50℃にてNMP30重量%の水溶液である温度50℃の凝固浴中に速度3m/分にて押出した。キャップ面と凝固浴面との距離は10mmとした。凝固浴から取り出した繊維を50℃の水浴中にて水洗し、120℃の乾燥ローラーで乾燥後、500℃の熱板上にて延伸させた。先にこの延伸工程における最大延伸倍率(MDR)を求め、その0.9倍の倍率(15.3倍)で延伸を行い,コンポジットファイバーを得た。コンポジットファイバーのTEM縦断面測定から200nmを超える薄層カーボンナノチューブの凝集物は観察されなかった。偏向ラマン分光測定から配向係数Pは0.13であった。ファイバーの単繊維径は1.7dtex、弾性率は79.9GPa、強度は25.57cN/dtexであった。
【0066】
[実施例3]
NMP30gに薄層カーボンナノチューブ(DWNT Nanocyl社製 D/G=0.13)0.1gを加え、発振周波数38kHzの超音波により8時間超音波処理を行った。この薄層カーボンナノチューブNMP混合液に、参考例1で作成したNMPのアラミド樹脂溶液1.67gを分散剤として加えて温度0℃で4時間超音波処理することにより、アラミド樹脂を少量含む薄層カーボンナノチューブ分散液を調製した。アラミド樹脂溶液を添加することにより、薄層カーボンナノチューブの分散性は飛躍的に向上した。さらに薄層カーボンナノチューブ分散液にアラミド樹脂溶液を少しずつ攪拌しながら添加して均一な全芳香族ポリアミド100重量部/薄層カーボンナノチューブ1重量部からなるポリマー濃度5重量%の紡糸用混合溶液を調製した。かくして得られたポリマードープを孔径0.3mm、L/D=1、孔数5個のキャップを用いて、シリンダー温度50℃にてNMP30重量%の水溶液である温度50℃の凝固浴中に速度3m/分にて押出した。キャップ面と凝固浴面との距離は10mmとした。凝固浴から取り出した繊維を50℃の水浴中にて水洗し、120℃の乾燥ローラーで乾燥後、500℃の熱板上にて延伸させた。先にこの延伸工程における最大延伸倍率(MDR)を求め、その0.9倍の倍率(15.3倍)で延伸を行い,コンポジットファイバーを得た。コンポジットファイバーのTEM縦断面測定から200nmを超える薄層カーボンナノチューブの凝集物は観察されなかった。偏向ラマン分光測定から配向係数Pは0.14であった。ファイバーの単繊維径は1.7dtex、弾性率は82.6GPa、強度は24.50cN/dtexであった。
【0067】
[比較例1]
NMP30gに多層カーボンナノチューブ(MWNT 外径60〜100nm シンセンナノテクポート社製)0.1gを加え、発振周波数38kHzの超音波により8時間超音波処理を行った。この多層カーボンナノチューブNMP混合液に、参考例1で作成したNMPのアラミド樹脂溶液1.67gを分散剤として加えて温度0℃で4時間超音波処理することにより、アラミド樹脂を少量含む多層カーボンナノチューブ分散液を調製した。アラミド樹脂溶液を添加することにより、多層カーボンナノチューブの分散性は飛躍的に向上した。さらに多層カーボンナノチューブ分散液にアラミド樹脂溶液を少しずつ攪拌しながら添加して均一な全芳香族ポリアミド100重量部/多層カーボンナノチューブ1重量部からなるポリマー濃度5重量%の紡糸用混合溶液を調製した。かくして得られたポリマードープを孔径0.3mm、L/D=1、孔数5個のキャップを用いて、シリンダー温度50℃にてNMP30重量%の水溶液である温度50℃の凝固浴中に速度3m/分にて押出した。キャップ面と凝固浴面との距離は10mmとした。凝固浴から取り出した繊維を50℃の水浴中にて水洗し、120℃の乾燥ローラーで乾燥後、500℃の熱板上にて延伸させた。先にこの延伸工程における最大延伸倍率(MDR)を求め、その0.9倍の倍率(15.3倍)で延伸を行い,コンポジットファイバーを得た。コンポジットファイバーのTEM縦断面測定から200nmを超える多層カーボンナノチューブの凝集物が観察された。また、多層カーボンナノチューブとポリマーとの界面でクラックが発生していることが確認された。ファイバーの単繊維径は1.7dtex、弾性率は69.9GPa、強度は21.60cN/dtexであった。
【0068】
[比較例2]
参考例1で作成したNMPのアラミド樹脂溶液245gに、さらにNMP55gを加えて温度80℃で4時間攪拌することにより、実施例1とほぼ同じポリマー濃度であるカーボンナノチューブを含まないアラミド樹脂溶液を得た。かくして得られたポリマードープを孔径0.3mm、L/D=1、孔数5個のキャップを用いて、シリンダー温度50℃にてNMP30重量%の水溶液である温度50℃の凝固浴中に速度3m/分にて押出した。キャップ面と凝固浴面との距離は10mmとした。凝固浴から取り出した繊維を50℃の水浴中にて水洗し、120℃の乾燥ローラーで乾燥後、500℃の熱板上にて延伸させた。先にこの延伸工程における最大延伸倍率(MDR)を求め、その0.9倍の倍率(15.3倍)で延伸を行い,ファイバーを得た。ファイバーの単繊維径は1.7dex、弾性率は76.1GPa、強度は23.70cN/dtexであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)及び(B)
―NH―Ar―NH― (A)
―OC―Ar―CO― (B)
(上記一般式(A)、(B)において、Ar、Arは各々独立に炭素数6〜20の2価の芳香族基を表わす。)
の構成単位から主としてなる全芳香族ポリアミド100重量部と外径が0.7〜50nm、平均アスペクト比が5.0以上の薄層カーボンナノチューブ0.01〜20重量部から構成されるコンポジットファイバーであり、全芳香族ポリアミド中に薄層カーボンナノチューブが、凝集直径が200nm以下で分散していることを特徴とするコンポジットファイバー。
【請求項2】
偏光ラマン分光測定で入射レーザーを繊維の側面に繊維軸と直交方向から照射したときのカーボンナノチューブ由来のラマンスペクトルにおいて下記式(1)
P=IYY/IXX (1)
(式中、レーザー偏光面を繊維軸と平行に配置した場合のGバンド強度をIXX,レーザー偏光面を繊維軸と垂直に配置した場合のGバンド強度をIYYとする。)
で表される配向度Pが0より大きく0.2以下を満たすことを特徴とする請求項1に記載のコンポジットファイバー。
【請求項3】
全芳香族ポリアミドが、Ar
【化1】

及び/または
【化2】

であり、Ar
【化3】

である請求項1または2に記載のコンポジットファイバー。
【請求項4】
全芳香族ポリアミドが、Ar
【化4】

(a)
及び
【化5】

(b)
であり、Ar
【化6】

である共重合体であって、そのジアミン成分における上記式(a)と(b)の割合が1:0.8〜1:1.2である請求項3に記載のコンポジットファイバー。
【請求項5】
用いられる薄層カーボンナノチューブのラマン分光測定から算出したD/G値(Dバンド強度/Gバンド強度)が0.5以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のコンポジットファイバー。
【請求項6】
薄層カーボンナノチューブと分散溶媒とを混合して混合液を得る工程、ついで混合液中に少量の全芳香族ポリアミドを添加して薄層カーボンナノチューブ分散液を調製する工程、ついで分散液中に全芳香族ポリアミドを添加して全芳香族ポリアミドと薄層カーボンナノチューブからなる紡糸用溶液を得る工程、ついでその溶液から紡糸する工程を有することを特徴とする請求項1〜5に記載のコンポジットファイバーの製造方法。

【公開番号】特開2006−307367(P2006−307367A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129612(P2005−129612)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】