説明

全身性エリテマトーデス(SLE)の診断

本発明は、被験者において全身性エリテマトーデス(SLE)を診断するための方法及びキットに関する。特に、本発明は被験者においてSLEを診断するのに有用な特定の抗体の特性に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者において全身性エリテマトーデス(SLE)を診断する方法及びキットに関する。特に、本発明は被験者においてSLEを診断するのに有用な特定の抗体の特性に関する。
【背景技術】
【0002】
全身性エリテマトーデス(SLE)は若い女性に圧倒的に発症する自己免疫が病因の炎症性疾患である。SLEは、腎臓、皮膚、関節、神経系、漿膜、血液細胞及び血管を含む身体の臓器系の多数を冒し得る。SLEの特定の原因は不明であるが、遺伝因子、人種因子、ホルモン因子及び環境因子を含む複数の因子が疾病の発症に関わっている。
【0003】
SLEの経過は普通、慢性的で再発性であり、予測できない。未治療のSLEは皮膚や関節の発病から、肺、心臓及び腎臓を含む内蔵に進行するので致命的である可能性があるために、SLEの早期で正確な診断及び/又はSLE発症のリスクの評価を行うことが特に重要になっている。SLEは、疾病の兆候がほとんどないか又は全くない介在期間を伴った一連の再燃として現れる。尿中タンパク質の量によって測定される腎臓の損傷はSLEにおける病原性に関連する損傷の最も急性の領域の1つであり、その疾病の死亡率及び罹患率の少なくとも50%の割合を占める。
【0004】
SLEは血中での異常な自己抗体の産生を特徴とする。100を超える異なった自己分子が異なった患者にて自己抗体を結合することが見い出されており(Sherer et al., 2004, Semin. Arthritis. Rheum. 34:501−37)、血液を循環し、最終的には組織に沈着する免疫複合体を形成する。これらの免疫複合体の沈着は慢性の炎症を引き起こし、最終的には組織の損傷を引き起こす。自己抗体はまた、溶血性貧血及び血小板減少症に寄与する直接的な病理効果も有する。
【0005】
通常、米国リウマチ学会(ACR)によって定義された11の基準に基づいてSLEの診断を行うことができる。これらの基準には、頬部発疹、円板状発疹、光過敏症、口腔潰瘍、関節炎、漿膜炎、腎臓疾患、神経疾患、血液疾患(たとえば、白血球減少、リンパ球減少、溶血性貧血又は血小板減少)、免疫疾患及び抗核抗体(ANA)が挙げられる(Tan et al., 1997, Arthritis Rheum 1997, 40:1725)。11の基準のうち少なくとも4つを満たせば被験者は臨床的にSLEと診断され得る。にもかかわらず、SLEは4つ未満の基準が存在しても可能であり得る。
【0006】
抗核抗体やdsDNA、リン脂質及びSmタンパク質に対する自己抗体がSLE診断に使用される11の基準の中にある(Tan et al., 1997, Arthritis Rheum 1997, 40:1725)一方で、SLEと診断された多数の患者は、特に臨床的に寛解である場合、これらの自己抗体を欠く。
【0007】
SLEのような複雑な自己免疫疾患の臨床的管理における最も難しい難題の1つは、患者における疾病の正確で早期の特定である。加えて、臨床家達がSLEの病態生理学的な態様、臨床的活動性、治療への応答又は予後を正確に定義することを可能にする信頼できる診断マーカーが特定されていない。
抗原チップ
【0008】
抗原マイクロアレイは免疫応答の高処理能力の性状分析のために最近開発されたツールであり(Robinson et al., 2002, Nat Med 8, 295−301)、ワクチン接種及び自己免疫疾患における免疫応答を分析するのに使用されている(Robinson et al., 2002; Robinson et al., 2003, Nat Biotechnol. 21, 1033−9; Quintana et al., 2004; Kanter et al., 2006, Nat Med 12, 138−43)。健常及び疾病におけるマウス(Quintana et al., 2004; Quintana et al., 2001, J Autoimmun 17, 191−7)及びヒト(Merbl et al., 2007, J Clin Invest 117, 712−8; Quintana et al., 2003, J Autoimmun 21, 65−75)の自己免疫レパトアの以前の解析で示されたように、複数の反応性のパターンは単一の抗原/抗体の関係(Quintana et al., 2006, Lupus 15, 428−30)よりも啓発的であり得ることが仮定されている。従って、自己抗体のレパトアは、疾病の病態形成への双方の新しい見識を提供し、疾患の過程の免疫生体マーカー(Cohen, 2007, Nat Rev Immunol. 7, 569−74)として役立つ可能性を有する。
【0009】
本発明の発明者らの一部へのPCT公開番号WO02/08755は、クラスタリングを行い、それによって疾病の診断又は治療のモニターを必要とする患者被験者に由来する血清の不確定な免疫グロブリンと反応性である所定の抗原を特定するための方法、系及び製造物品を指向する。’755公開は、種々の疾患に罹った被験者に由来する血清の免疫グロブリンと反応性である抗原を特定するための抗原アレイの使用を開示している。さらに開示されているのは、複数の抗原の抗原サブセットをクラスタリングする工程を用いた、これらの方法で有用な診断方法及び系であり、前記抗原サブセットは、損傷された免疫系を有し、疾病に罹った複数の患者に由来する複数の抗体と反応性であり、得られたクラスターを持つ被験者の抗体を会合する又は解離する。
【0010】
本発明の発明者らの一部への米国特許出願公開番号2005/0260770は、抗原アレイ系及びその診断用途を開示している。該出願は、抗原プローブのセットの各抗原プローブを特異的に結合する被験者の免疫グロブリンの能力を測定することを含む、被験者における免疫疾患、特にI型糖尿病又はその素因を診断する方法を提供する。
【0011】
本発明の発明者らの一部へのPCT公開番号WO10/128506は、特に個体における急性心筋梗塞(AMI)の過程の進展を認識するための、個体における循環器疾患の進展を特定する方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術のいずれも、SLEを診断するための特異的な、信頼できる、正確な且つ識別力のあるアッセイを提供することができる抗原アレイを開示していない。そのような識別力のあるアッセイは、患者におけるSLEの存在の特定又は疾病を発症する感度の判定において及び各患者のために適正な治療法を誂えることにおいて高度に有益である。
【0013】
被験者においてSLEを診断するのに有用な改善された診断方法及びキットに対するニーズが残っている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、被験者において全身性エリテマトーデス(SLE)を診断するための方法及びキットと、そのような診断を実践するための抗原プローブアレイと、そのようなアレイを生成するための抗原プローブを提供する。
【0015】
本発明は、抗原アレイを用いてSLE患者の抗体の反応性を調べる場合得られる予期しない結果に部分的に基づく。解析は、独特の自己抗体の反応性パターンの特定を結果的に生じた。予想外に、独特の自己抗体パターンは疾患活動性とは無関係に持続し、長期の臨床的寛解(たとえば、腎臓寛解にある被験者)の患者にも存在する。有利なことに、反応性パターンはSLEに対して際立って高い感度と高い特異性を示した。さらに、SLE抗体パターンを有する健常対照の被験者は臨床的SLEを発症することが後で分かった。
【0016】
従って、本発明は、SLEに関連する独特の抗原/自己抗体の反応性パターンを提供する。幾つかの単一抗原(たとえば、ヒアルロン酸)がSLEを適正に診断するのにそれ自体で十分であるとして特定された一方で、本明細書で以下に表1で詳説するようにこれら抗原の特定の組み合わせが各抗原単独よりも、SLE患者と対照被験者を識別するのに十分に正確であり、信頼できた。
【表1】

【0017】
第1の態様によれば、本発明は、被験者において全身性エリテマトーデス(SLE)を診断する方法を提供し、該方法は、
(i)IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原に対する、被験者から得た試料中のIgG抗体及びIgM抗体の反応性を測定し、それによって複数の抗原への試料の反応性パターンを決定することと、
(ii)前記試料の反応性パターンを対照の反応性パターンと比較することを含み、
その際、対照の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料の反応性の有意な差異は、被験者がSLEに罹っているという指摘である。
【0018】
一実施形態では、複数の抗原は少なくとも3つの抗原を含む。別の実施形態では、複数の抗原は少なくとも4つの抗原を含む。別の実施形態では、複数の抗原は少なくとも5つの抗原を含む。別の実施形態では、複数の抗原は少なくとも6つの抗原を含む。別の実施形態では、複数の抗原は少なくとも7つの抗原を含む。別の実施形態では、複数の抗原は少なくとも8つの抗原を含む。例となる実施形態によれば、複数の抗原はIGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン及びコラーゲンIIIから成る。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0019】
本明細書で使用されるとき、「複数の抗原」に対する「試料中の抗体の反応性」は、複数の抗原から選択された特定の抗原に対する試料中の各抗体の免疫反応性を指す。抗原に対する抗体の免疫反応性、すなわち、抗原を特異的に結合するその能力を用いて試料中の抗体の量を決定し得る。具体的には、「試料中のIgG抗体及びIgM抗体の反応性」を決定することは、複数の抗原から選択された特定の抗原に対する試料中の少なくとも1つのIgG抗体と複数の抗原から選択された特定の抗原に対する少なくとも1つのIgM抗体の反応性を指す。
【0020】
従って、試料の反応性パターンは、試料における調べた抗体それぞれのレベルを反映し、それによって定量的アッセイを提供する。特定の実施形態では、反応性は定量的に決定される。従って、たとえば、抗原に対する抗体の反応性は上がってもよいし、下がってもよい。特定の実施形態では、(複数の抗原からの)特定の抗原に対する少なくとも1つの抗体の反応性は上方調節される。好ましくは、IgG抗体の反応性は上方調節される(すなわち、高められる)。追加の実施形態では、特定の抗原に対する少なくとも1つの抗体の反応性は下方調節される。好ましくは、IgM抗体の反応性は下方調節される(すなわち、低下する)。さらに別の特定の実施形態では、対照の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料の反応性パターンの有意な定量的差異は、被験者がSLEに罹っているという指摘である。
【0021】
通常、複数の抗原に対する試料中の抗体の反応性を決定することは免疫アッセイを用いて行われる。有利なことに、複数の抗原は抗原アレイとして使用され得る。
【0022】
別の実施形態では、方法は、前記複数の抗原に対する前記試料中の少なくとも1つのIgG抗体と少なくとも1つのIgM抗体の反応性を測定することを含む。別の実施形態では、方法は、前記複数の抗原に対する前記試料中の複数のIgG抗体と複数のIgM抗体の反応性を測定することを含む。
【0023】
追加の実施形態によれば、方法は、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、BMP4、F50、HGF及びHSP60p18から成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得られた試料中のIgG抗体の反応性を測定することを含む。例となる実施形態によれば、方法は、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA及びdsDNAから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得られた試料中のIgG抗体の反応性を測定することを含む。特定の実施形態では、(複数の抗原から選択される)抗原に対するIgG抗体の反応性は上方調節される。これらの実施形態によれば、対照試料の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料の反応性パターンの有意な上方調節は、被験者がSLEに罹っているという指摘である。
【0024】
一部の実施形態によれば、方法は、CD99、IGFBP1、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、CMV、HRP、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得られた試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含む。例となる実施形態によれば、方法は、CD99、MPO、IGFBP1、カルジオリピン及びコラーゲンIIIから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得られた血清試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含む。別の実施形態によれば、方法は、CD99、IGFBP1、MPO及びカルジオリピンから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得られた血清試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含む。さらに別の実施形態によれば、方法は、CD99、MPO及びコラーゲンIIIから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得られた血清試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含む。特定の実施形態では、(複数の抗原から選択される)抗原に対するIgM抗体の反応性は下方調節される。特定の実施形態では、対照の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料の反応性パターンの有意な下方調節は、被験者がSLEに罹っているという指摘である。
【0025】
別の実施形態によれば、方法は、CD99、MPO及びコラーゲンIIIから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得られた血清試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含む。特定の実施形態では、対照の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料の反応性パターンの有意な下方調節は、被験者が腎臓寛解でSLEに罹っているという指摘である。
【0026】
別の実施形態によれば、被験者から得られる試料は体液である。一部の実施形態によれば、試料は、血漿、血清、血液、脳脊髄液、滑膜液、喀痰、尿、唾液、涙液、リンパ検体、又は当該技術で既知のそのほかの体液から成る群から選択される。特定の実施形態によれば、被験者から得られる試料は、血漿、血清及び血液から成る群から選択される。一実施形態によれば、試料は血清試料である。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0027】
本発明の方法の特定の実施形態によれば、対照は、少なくとも1人の健常な人に由来する試料、健常な人のセットに由来する対照試料のパネル、及び健常な人に由来するデータの保存セットから成る群から選択される。通常、健常な人は、SLE又はほかの形態のループスに罹っていない被験者である。別の実施形態では、健常な人は自己免疫疾患に罹っていない被験者である。
【0028】
一部の実施形態によれば、方法はさらに、試料中の抗体の反応性を決定する前に、たとえば、1:10以上に試料を希釈することを含む。
【0029】
反応性パターン間の「有意な差異」は、異なった実施形態では、統計的に有意な差異を指し、他の実施形態では、熟練者によって認識されるような有意な差異を指す。
【0030】
有利なことに、本発明の方法は、健常対照の被験者の反応性パターンとSLE患者のそれとの間を識別するために学習とパターン認識のアナライザ、クラスタリングアルゴリズムなどの使用を採用してもよい。そのようなものとして、この用語は具体的に、たとえば、複数の抗原に対する試験試料中の抗体の反応性を調べ、そのようなアルゴリズム及び/又はアナライザを用いて、陰性及び陽性の対照試料(たとえば、それぞれ、SLEに罹っていない対照被験者から得た試料又はSLEに罹った患者から得た試料)の反応性パターンと得られた反応性パターンを比較することによって測定される差異を含む。差異はまた、そのような方法で得られた所定の分類規則と試験試料の反応性パターンを比較することによっても測定され得る。
【0031】
特定の実施形態によれば、本発明は、IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原を含む、SLEの診断用のキットを提供する。
【0032】
特定の実施形態では、複数の抗原は、IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン及びコラーゲンIIIから成る。さらに別の実施形態では、複数の抗原は、ヒアルロン酸、CD99、MPO、IGFBP1及びコラーゲンIIIから成る。
【0033】
本発明の原理によれば、キットは本明細書では抗原プローブのセットとも呼ばれる複数の抗原を含む。複数の抗原を含むこれらの抗原プローブのセットはSLEを有する被験者の血清と特異的に反応性である。本発明の原理によれば、複数の抗原は抗原アレイの形態で有利に使用され得る。一部の実施形態によれば、抗原アレイは抗原チップの形態で好都合に配置される。
【0034】
他の実施形態では、キットはさらに、複数の抗原に対する試料中の抗体の反応性を決定する手段を含み得る。たとえば、キットは、本発明の抗原プローブへの抗体の特異的な結合を測定するのに使用されてもよい試薬、検出可能な標識及び/又は容器を含有し得る。特定の実施形態では、前記キットは抗原アレイの形態である。他の実施形態では、前記キットはさらに、陰性及び/又は陽性の対照試料を含んでもよい。たとえば、陰性対照試料は、少なくとも1人の健常な人(たとえば、SLEに罹っていない人)に由来する試料を含有し得る。陽性対照は、診断されている少なくとも1人のSLEに罹った人又はSLEの亜型に罹った人(たとえば、腎臓寛解にあるSLE被験者又はループス腎炎のSLE被験者)に由来する試料を含有し得る。そのほかの非限定例は、健常な人若しくは病気の人のセットに由来する対照試料のパネル、又は対照個体に由来するデータの保存セットである。
【0035】
他の実施形態では、キットはさらに複数の抗原に対する異なった試料中の抗体の反応性パターンを比較するための手段を含んでもよい。
【0036】
別の態様によれば、本発明は、IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される抗原プローブを含む抗原プローブのセットを提供する。特定の実施形態では、抗原プローブのセットは、IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン及びコラーゲンIIIから成る群から選択される抗原プローブを含む。
【0037】
別の態様によれば、本発明は、本発明の抗原プローブのセットを含む製造物品を提供する。
【0038】
別の態様によれば、本発明は、それを必要とする被験者にてSLEを診断するために診断組成物を調製するための抗原プローブのセットの使用を提供する。一実施形態では、診断組成物は、試料中の抗体の反応性を測定するのに有用であり、それによって前記複数の抗原に対する試料の反応性パターンを決定し、その際、対照試料の反応性パターンと比較した前記試料の反応性パターンの有意な差異はSLEについての指摘である。
【0039】
別の態様によれば、本発明は、被験者においてSLEを診断する方法を提供するが、該方法は、
(i)IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、MPO、コラーゲンIIIから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得られた試料中の抗体の反応性を測定し、それによって複数の抗原に対する試料の反応性パターンを決定することと、
(ii)対照の反応性パターンと前記試料の反応性パターンを比較することを含み、
その際、対照の反応性パターンと比較した被験者から得られた前記試料の反応性パターンの有意な差異は被験者がSLEに罹っているという指摘である。
【0040】
一実施形態によれば、複数の抗原はさらに、dsDNA、ssDNA、EBV及びカルジオリピンから選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ又は少なくとも3つの抗原を含む。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0041】
別の実施形態によれば、試料における抗体の反応性を測定することは、前記試料におけるIgG抗体及びIgM抗体の反応性を測定することを含む。特定の実施形態では、工程(i)は、ヒアルロン酸抗原に対する試料中のIgG抗体の反応性を測定することと、CD99、MPO、IGFBP1、コラーゲンIIIからなる群から選択される複数の抗原に対する試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含み、それによって複数の抗原に対する試料の反応性パターンを決定する。
【0042】
本発明のそのほかの目的、特徴及び利点は、以下の説明及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】SLE患者を特徴付ける抗原の反応性に対する個々の被験者の抗体の反応性を示す図である。指定された抗原に対する抗体の反応性について、健常対照(黒四角)と腎臓寛解のSLE被験者(白抜き丸)と、急性ループス腎炎のSLE被験者(白抜き三角)と、腎臓が関与しないSLE被験者(星印)の血清を調べた。抗体の反応性の相対的な量をY軸に示した。X軸はそれらの相対的な反応性に従って順に被験者を並べた。
【図2】三次元主成分分析(PCA)を示す図である。PCAは、腎臓寛解のSLE患者から健常対照を区別する7つの抗原の反応性に基づく(表6)。星型は、血清採取時点では健常であったが、後にSLEを発症した被験者の特徴を表し、健常対照は黒四角で表し、腎臓寛解のSLE被験者は白抜き丸で示し、急性ループス腎炎の被験者は三角で示し、腎臓が関与しないSLE被験者は星印で表す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、診断を実践するための抗原プローブアレイを用いて被験者において全身性エリテマトーデス(SLE)を診断する方法を提供し、そのようなアレイを生成するための特定の抗原プローブのセットを特定する。一部の実施形態によれば。本発明は、腎臓寛解のSLEを含むSLEの早期診断のための自己抗体に基づく生体マーカー検査に関する。
【0045】
作用の特定の理論又はメカニズムに束縛されることを望まないで、本発明は、SLE患者の血清における抗体の反応性特性が健常対照の人と明瞭に識別できたという知見に部分的に基づく。血清の自己抗体はSLEにおいて鋭意検討されてきたが、本明細書に記載されるような独特の抗体免疫の特徴は今まで記載されてこなかった。有利なことに、本発明の独特の抗体の特徴は、SLEの診断に感度の高い、且つ特異性の高いアッセイを提供する。
【0046】
一部の実施形態によれば、本発明は、被験者において全身性エリテマトーデス(SLE)を診断する方法を提供するが、該方法は、
(i)IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原に対する、被験者から得た試料中のIgG抗体及びIgM抗体の反応性を測定し、それによって複数の抗原への試料の反応性パターンを決定することと、
(ii)前記試料の反応性パターンを対照の反応性パターンと比較することを含み、
その際、対照の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料の反応性パターンの有意な差異は、被験者がSLEに罹っているという指摘である。
【0047】
好まれる実施形態では、方法は、前記複数の抗原に対する試料中のIgG抗体及びIgM抗体の反応性を測定することを含む。別の実施形態では、前記複数の抗原に対する前記試料中の少なくとも1つのIgG抗体及び少なくとも1つのIgM抗体の反応性を測定することを含む。
【0048】
試料の反応性パターンは試料にて調べた抗体それぞれのレベルを反映し、それによって定量的なアッセイを提供する。好まれる実施形態では、抗体は定量的に測定される。さらに別の好まれる実施形態では、対照の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料中の反応パターンの有意な定量的差異は、被験者がSLEに罹っているという指摘である。特定の実施形態では、抗原に対する試料中の抗体、具体的にはIgG抗体の反応性の上方調節は、対照における抗原に対する抗体の反応性レベルよりも少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、又は少なくとも約5倍高い(すなわち、大きい)増大(すなわち、上昇)を指す。別の実施形態では、抗原に対する試料中の抗体、具体的にはIgM抗体の反応性の下方調節は、対照における抗原に対する抗体の反応性レベルよりも少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、又は少なくとも約5倍低い減少(すなわち、低下)を指す。
【0049】
本明細書で以下に例示されるように、自己抗体の抗原解析(たとえば、マイクロアレイ解析を用いた)は、SLEの異なった臨床形態と関連する血清の自己抗体パターンを特定することができ;特徴は、単一の自己抗体の反応性ではなくまとめた自己抗体パターンに基づいた。これらの情報を与えるパターンには、IgM自己抗体と同様にIgG自己抗体も含まれた。さらに、情報を与えるパターンには、健常対照で見つかるものに対する自己抗体の反応性の上昇と共に低下も含まれた。
【0050】
特定の実施形態では、方法は
(i)ヒアルロン酸、EBV、ssDNA及びdsDNAから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得た試料中のIgG抗体の反応性を測定することと、
(ii)CD99、MPO、IGFBP1、カルジオリピン及びコラーゲンIIIから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得た試料中のIgM抗体の反応性を測定し、それによって複数の抗原に対する試料中の反応性パターンを決定することと、
(iii)対照の反応性パターンと前記試料中の反応性パターンを比較することを含み、
その際、対照の反応性パターンと比べた被験者から得た前記試料中のIgG抗体の反応性パターンの有意な上昇は、被験者がSLEに罹っているという指摘であり、又は対照の反応性パターンと比べた被験者から得た前記試料中のIgM抗体の反応性パターンの有意な低下は、被験者がSLEに罹っているという指摘である。
【0051】
さらに別の実施形態では、対照の反応性パターンと比べた被験者から得た前記試料中のIgG抗体の反応性パターンの有意な上昇は、被験者がSLEに罹っているという指摘であり、対照の反応性パターンと比べた被験者から得た前記試料中のIgM抗体の反応性パターンの有意な低下は、被験者がSLEに罹っているという指摘である。
抗原プローブ及び抗原プローブのセット
【0052】
さらなる実施形態によれば、本発明は本明細書で詳説するようにSLEを診断するのに有用な抗原プローブ及び抗原プローブのセットを提供する。
【0053】
本発明の原理によれば、本発明はさらに、本明細書で抗原プローブのセットとも呼ばれる複数の抗原を提供する。複数の抗原を含むこれら抗原プローブのセットは、SLEを有する被験者の血清と特異的に反応性である。本発明の原理によれば、複数の抗原は抗原アレイの形態で有利に使用されてもよい。一部の実施形態によれば、抗原アレイは抗原チップの形態で好都合に配置される。
【0054】
「プローブ」は本明細書で使用されるとき、成分に特異的に結合することが可能である任意の化合物を意味する。一態様によれば、本発明は、CD99、IGFBP1、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原を含む抗原プローブのセットを提供する。特定の実施形態によれば、抗原プローブのセットは本発明の抗原のサブセットを含む。特定の実施形態では、抗原のサブセットは、CD99、IGFBP1、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、及びコラーゲンIIIから成る。本発明の複数の抗原に対する抗体の反応性は当該技術で既知の技法に従って測定されてもよい。さらに、本発明で使用される抗原は当該技術で既知であり、たとえば、Sigma Aldrich又はProspecから市販されている。
【0055】
ヒアルロン酸
ヒアルロン酸は、結合組織、上皮組織及び神経組織の全体にわたって広く分布する陰イオン性の非硫酸化のグリコサミノグリカンである。特定の実施形態では、本発明のヒアルロン酸抗原は、たとえば、ヒト胎盤の臍帯血に由来するヒトのヒアルロン酸である(たとえば、Sigma Aldrichから市販、カタログ番号H1876;CAS番号9067−32−7)。ヒアルロン酸の追加の非限定例は31799−91−4又は9067−32−7から選択されるCAS番号を有する。
【0056】
EBV
ヒトヘルペスウイルス4(HHV−4)とも呼ばれるエプステイン・バーウイルス(EBV)は、ヘルペス科のウイルスである。EBV抗原に対する抗体の反応性は当該技術で既知の技法に従って測定されてもよい。特定の実施形態では、本発明のEBV抗原は、HHV−4早期抗原D型(GeneBank:CAD53407.1)、配列番号2で言及されるアミノ酸306〜390に存在するC末端領域を含有する。一実施形態では、前記EBVは配列番号2又はその類似体又はその断片から成る。EBV抗原は、たとえば、カタログ番号CMV−272でProspecから市販されている。
【0057】
二本鎖デオキシリボ核酸(dsDNA)
抗dsDNA抗体はSLEに対して特異性が高く;症例の70%に存在するが、SLEではない人々のたった0.5%にしか現れない。dsDNA抗原に対する抗体の反応性は当該技術で既知の技法に従って測定されてもよい。特定の実施形態では、dsDNAは73049−39−5のCAS番号を有する。dsDNA抗原は、カタログ番号D1501でSigma Aldrichから市販されている。
【0058】
単鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)
ssDNA抗原に対する抗体の反応性は当該技術で既知の技法に従って測定されてもよい。特定の実施形態では、ssDNAは91080−16−9のCAS番号を有する。ssDNA抗原はカタログ番号D8899でSigma Aldrichから市販されている。
【0059】
CD99
CD99(E2抗原、T細胞表面の糖タンパク質としても知られる)は、一部のリンパ球、皮質胸腺細胞及び卵巣の顆粒膜細胞の細胞膜に発現される。ほとんどの膵臓島細胞、精巣のセルトリ細胞及び一部の内皮細胞によってもその抗原は発現される。特定の実施形態では、本発明のCD99抗原は、ヒトCD99(NP_002405又はNP_001116370.1)である。ヒトCD99アイソフォームA前駆体のアミノ酸配列は配列番号1で言及されている。一実施形態では、前記CD99抗原は配列番号1又はその類似体又はその断片から成る。前記CD99抗原は、カタログ番号PRO−294でProspecから市販されている。
【0060】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)
MPOは、取り込まれた外来粒子の貪食溶解の間に顆粒球によって使用される重要な酵素である。正常な組織及び種々の骨髄増殖性疾患では、好中球及び好酸球の型双方の骨髄細胞は成熟のすべての段階でMPOに対する強い細胞質性の反応性を呈する。特定の実施形態では、本発明のMPO抗原はヒトMPO(NP_000241.1)である。ヒトMPOのアミノ酸配列は配列番号3にて言及される。一実施形態では、前記MPO抗原は配列番号3又はその類似体又はその断片から成る。前記MPO抗原は、たとえば、カタログ番号ENZ−334でProspecから市販されている。
【0061】
インスリン様増殖因子結合タンパク質(IGFBP−1)
IGFBP−1は、インスリン様増殖因子結合タンパク質(IGFBP−1)ファミリーのメンバーであり、IGFBPドメインとサイログロブリン1型ドメインを持つタンパク質をコードする。そのタンパク質はインスリン様増殖因子(IGF)IとII双方を結合し、血漿中を循環する。ヒトIGFBP1は28.8kDaの分子量を有し、218アミノ酸を含有する一本鎖ポリペプチドとして組換え的に製造され得る。特定の実施形態では、本発明のIGFBP1抗原はヒトIGFBP1(NP_000587.1)である。ヒトIGFBP1のアミノ酸配列は配列番号4に言及される。一実施形態では、前記IGFBP1抗原は配列番号4又はその類似体又はその断片から成る。前記IGFBP1抗原はカタログ番号CYT−299でProspecから市販されている。
【0062】
カルジオリピン
カルジオリピン(1,3−ビス(sn−3’−ホスファチジル)−sn−グリセロール)は、哺乳類組織で低濃度にて見い出され、内部ミトコンドリア膜にて最も多く見い出されるミトコンドリアのリン脂質である。カルジオリピンは、フィブロネクチン、ビトロネクチン及びI型コラーゲンの細胞付着を阻害する。特定の実施形態では、本発明のカルジオリピン抗原はウシのカルジオリピンである。カルジオリピン抗原に対する抗体の反応性は当該技術で既知の技法に従って測定されてもよい。特定の実施形態では、カルジオリピンは、383907−10−6のCAS番号を有する。ウシのカルジオリピン抗原は、たとえば、カタログ番号C0563でSigma Aldrichから市販されている。
【0063】
III型コラーゲン
III型コラーゲンはヒト組織で2番目に最も豊富なコラーゲンであり、特に、たとえば、皮膚、血管及び種々の内臓のような弾性特性を示す組織に存在する。III型コラーゲンの変異は動脈、内臓、関節及び皮膚が冒され、大動脈が破裂すると突然死を引き起こし得るエーラー・ダンロス症候群、EDSIVの最も重篤な形態の原因となる。特定の実施形態では、本発明のIII型コラーゲン抗原は、たとえば、ヒトの胎盤由来のBornstein及びTraubのIII型コラーゲンである。III型コラーゲン抗原に対する抗体の反応性は当該技術で既知の技法に従って測定されてもよい。特定の実施形態では、III型コラーゲンは9007−34−5のCAS番号を有する。III型コラーゲン抗原は、たとえば、カタログ番号C4407でSigma Aldrichから市販されている。
【0064】
IV型コラーゲン
ほとんどのコラーゲンとは異なって、基底膜の独占的なメンバーであり、分子間及び分子内の複合体の相互作用を介して、IV型コラーゲンは、細胞の接着、移動及び分化に影響する超分子ネットワークを形成する(Khoshnoodi et al., Microsc Res Tech. 2008 May;71(5):357−70)。特定の実施形態では、本発明のIV型コラーゲン抗原は、たとえば、ヒトの胎盤由来のBornstein及びTraubのIV型コラーゲンである。IV型コラーゲン抗原に対する抗体の反応性は当該技術で既知の技法に従って測定されてもよい。特定の実施形態では、IV型コラーゲンは9007−34−5のCAS番号を有する。IV型コラーゲン抗原は、たとえば、カタログ番号C7521でSigma Aldrichから市販されている。
【0065】
アクチン
アクチンは、種間で非常に高度に保存されている43kDaのタンパク質である。3つの主なアクチンのアイソタイプ(α、β及びγ)があり、アイソタイプ間で>90%のアミノ酸(aa)相同性を示し、特定のアイソタイプのメンバー内で>98%の相同性を示す。アクチンは、筋肉の収縮、細胞の運動性、細胞分裂及び細胞質分裂、小胞及び小器官の移動、細胞のシグナル伝達、及び細胞の接合と細胞の形状の確立と維持を含む多数の重要な細胞性の過程に加わる。特定の実施形態では、本発明のアクチン抗原はウシのアクチンである。アクチン抗原に対する抗体の反応性は当該技術で既知の技法に従って測定されてもよい。特定の実施形態では、アクチンは51005−14−2のCAS番号を有する。ウシのアクチン抗原は、たとえば、カタログ番号A3653でSigma Aldrichから市販されている。
【0066】
骨形成タンパク質−4(BMP−4)
BMP4はヒトにおける軟骨内の骨形成の開始に重要な役割を担う。BMP4発現の低下は、遺伝性疾患、進行性骨化性線維形成異常症を含む種々の骨疾患に関連している。ヒトBMP4(たとえば、NP_570912.2)は、単量体の非グリコシル化ポリペプチド鎖(13009ダルトンの分子量)として大腸菌にて組換えで製造され得る。特定の実施形態では、本発明のBMP4抗原は、ヒトBMP4(たとえば、カタログ番号CYT−361でProspecから市販されている)である。特定の実施形態では、BMP4抗原は、配列番号5(SPKHHSQRARKKNKNCRRHSLYVDFSDVGWNDWIVAPPGYQAFYCHGDCPFPLADHLNSTNHAIVQTLVNSVNSSIPKACCVPTELSAISMLYLDEYDKVVLKNYQEMVVEGCGCR)又はその類似体又はその断片で言及されるようなアミノ酸配列を有する。
【0067】
CMV
CMV(サイトメガロウイルス)は、単純性ヘルペスウイルス1型及び2型、水疱帯状疱疹ウイルス、及びエプステインバーウイルスを含むHerpesviridaeのBetaherpesvirinae亜科に属する。CMVは、脂質膜で取り囲まれた162の六方晶系タンパク質カプソメアを持つ二本鎖直鎖のDNAウイルスである。CMVは230〜240キロ塩基対に及ぶ、ヘルペスウイルスで最大のゲノムを有する。ヒトCMVはL−Sゲノム成分(クラスE)の反転によって生じた4ゲノム異性体の存在を含む独特の反転した反復から構成される。以下の本明細書の実施例で使用されるCMV抗原はアミノ酸1011〜1048に存在するCMVPp150(UL32)免疫優勢領域を含有する大腸菌に由来する組換えタンパク質である。前記CMVPp150(たとえば、GI:224496137又はGI:224496135)は当業者に既知である。前記CMVPp150のアミノ酸配列は配列番号6に言及される。一実施形態では、前記CMVPp150は配列番号6又はその類似体又はその断片から成る。本発明のCMV抗原は、たとえば、カタログ番号CMV−216でProspecから市販されている。
【0068】
F50
以下の本明細書の実施例で使用されるF50抗原は、配列番号7で言及されるようなアミノ酸配列、CVKGGTTKIFLVGDYSSSAEを有するオリゴペプチドである。一実施形態では、前記F50抗原は配列番号7又はその類似体又はその断片から成る。
【0069】
肝細胞増殖因子(HGF)
HGFは、細胞増殖と細胞の運動性の双方を調節する多機能性増殖因子である。それは、肝細胞及び一次上皮細胞に対して強い細胞分裂促進効果を発揮する。ヒトHGFは、78.0kDaの総分子量を有する463アミノ酸のα鎖と234アミノ酸のβ鎖を含有するヘテロ二量体の非グリコシル化ポリペプチドとしてバキュロウイルスにて組換えで製造され得る。特定の実施形態では、本発明のHGF抗原はヒトHGF(AAA64297.1)である。前記ヒトHGFのアミノ酸配列は配列番号8で言及される。一実施形態では、前記HGFは配列番号8又はその類似体又はその断片から成る。前記HGF抗原は、たとえば、カタログ番号CYT−244でProspecから市販されている。
【0070】
西洋ワサビペルオキシド(HRP)
西洋ワサビペルオキシダーゼは、4つのジスルフィド架橋を含有する単鎖ポリペプチドである。それは18%の炭水化物を含有する糖タンパク質である。炭水化物組成は、特定のアイソザイムによってガラクトース、アラビノース、キシロース、フコース、マンノース、マンノサミン及びガラクトサミンから成る。HRPは、ペルオキシダーゼのフェロフォトポルフィリン群に属し、西洋ワサビの根(Amoracia rusticana)から単離され得る。HRP抗原に対する抗体の反応性は当該技術で既知の技法に従って測定されてもよい。特定の実施形態では、HRPは9003−99−0のCAS番号を有する。HRP抗原は、たとえば、カタログ番号P6782でSigma Aldrichから市販されている。
【0071】
HSP60p18
以下の本明細書の実施例で使用されるHSP60p18は、配列番号9で言及されるようなアミノ酸配列、QSIVPALEIANAHRKPLVIIAを有するオリゴペプチドである。一実施形態では、前記HSP60p18抗原は配列番号9又はその類似体又はその断片から成る。
【0072】
風疹ウイルス(RV)
RVは、Togaviridae科のエンベロープのあるプラス鎖のRNAウイルスである。特定の実施形態では、RV抗原は、アミノ酸1〜123のRVカプシドC領域を含有する大腸菌に由来する組換えタンパク質である。RVカプシドCのアミノ酸配列、たとえば、NP_740662.1は当業者に既知である。RVカプシドCのアミノ酸1〜123のアミノ酸配列は配列番号10で言及される。一実施形態では、RV抗原は配列番号10又はその類似体又はその断片から成る。前記RV抗原は、たとえば、カタログ番号RUB−293でProspecから市販されている。
【0073】
S100A4
S100A4(S100カルシウム結合タンパク質A4、メタスタシン、カルバスクリンとしても知られる)は、2EFハンドカルシウム結合モチーフを含有するタンパク質のS100ファミリーのメンバーである。S100Aはα鎖とβ鎖で構成される。S100A4は、運動性、反転及びチューブリン重合で機能し得る。特定の実施形態では、本発明のS100A4抗原はヒトS100A4(CAG29341.1)である。ヒトS100A4のアミノ酸配列は配列番号11で言及される。一実施形態では、前記S100A4抗原は配列番号11又はその類似体又はその断片から成る。前記S100A4抗原は、たとえば、カタログ番号PRO−307でProspecから市販されている。
【0074】
CITED1
ヒトのCbp/p300−相互作用トランス活性化因子1(CITED1、メラニン細胞特異的タンパク質1又はMSG1としても知られる)は、193のアミノ酸を有するタンパク質である(NP_001138359.1)。ヒトCITED1のアミノ酸配列は配列番号12で言及される。一実施形態では、前記CITED1抗原は配列番号12又はその類似体又はその断片から成る。CITED1抗原は、たとえば、カタログ番号PRO−295でProspecから市販されている。
【0075】
FHIT
FHIT(脆弱ヒスチジン三連構造)は、プリン代謝に関与するヒスチジン三連構造遺伝子ファミリーのメンバーである。FHITタンパク質は腫瘍サプレッサーであり、多数の種類の癌で発現が低下するか、発現しない。特定の実施形態では、本発明のFHIT抗原はヒトFHIT(ABM66093.1)である。ヒトFHITのアミノ酸配列は配列番号13で言及される。一実施形態では、前記FHIT抗原は配列番号13又はその類似体又はその断片から成る。前記FHIT抗原は、たとえば、カタログ番号PRO−297でProspecから市販されている。
【0076】
好ましくは、複数の抗原は本発明の抗原のセットを含む。さらに他の実施形態では、複数の抗原(又は抗原プローブのセット)は、そのサブセット、たとえば、それぞれ本発明の抗原から選択される少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10又は11の異なった抗原のサブセットを含む、又はそれから成るが、その際、各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。そのようなサブセットは、診断アッセイの最適な感度及び/又は特異性を生じるように選択され得る。他の実施形態では、プローブのセットは10までの、又は他の実施形態では、15、20、30、40若しくは50までの異なった抗原を含む。そのようなプローブのセットがSLEの被験者を確実に特定するのに十分であるとみなされる一方で、本発明の抗原プローブのセットは、特定に実施形態では、さらに多数の抗原、たとえば25以上の抗原を含む抗原アレイの形態で好都合に使用され得ることが留意されるべきである。
【0077】
特定の実施形態によれば、本発明の抗原プローブのセットは、SLEの診断のために本明細書で詳説されるようなCD99、IGFBP1、ヒアルロン酸、MPO、EBV、ssDNA、dsDNA、及びカルジオリピンから選択される複数の抗原を含む。
【0078】
別の実施形態では、複数の抗原はヒアルロン酸、EBV、ssDNA及びdsDNAから成る。本明細書で開示されるように、抗原のこのサブセットは、SLEの被験者から得られた血清におけるIgG抗体との上方調節された反応性を示した。別の実施形態では、複数の抗原はCD99、MPO、IGFBP1及びカルジオリピンから成る。本明細書で開示されるように、抗原のこのサブセットは、SLEの被験者から得られた血清におけるIgM抗体との下方調節された反応性を示した。
【0079】
別の実施形態では、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、CD99、MPO及びコラーゲンIIIの抗原から成るプローブのセットは、腎臓寛解のSLE被験者とSLEに罹っていない健常な人の間を識別するのに十分である。別の実施形態では、複数の抗原はヒアルロン酸、EBV、ssDNA及びdsDNAから成る。本明細書で開示されるように、抗原のこのサブセットは、SLE、特に腎臓寛解のSLEの被験者から得られた血清におけるIgG抗体との上方調節された反応性を示した。別の実施形態では、複数の抗原はCD99、MPO及びコラーゲンIIIから成る。本明細書で開示されるように、抗原のこのサブセットは、SLE、たとえば、腎臓寛解のSLEの被験者から得られた血清におけるIgM抗体との下方調節された反応性を示した。
【0080】
本発明のアッセイで使用される抗原プローブは当該技術で周知の方法を用いて精製又は合成され得る。たとえば、抗原タンパク質又は抗原ペプチドは、固相(たとえば、Boc−又はf−Moc化学反応)合成法又は液相合成法を含むが、これらに限定されない既知の組換え法又は合成法を用いて製造され得る(Stewart and Young, 1963; Meienhofer, 1973; Schroder and Lupke, 1965; Sambrook et al., 2001)。当業者は、本発明の抗原プローブを入手する又は合成するのに必要とされる専門技術を持つであろう。抗原プローブの一部は、本明細書で以下の詳説されるように、たとえば、Sigma(米国、MO、St.Louis)、Prospec(イスラエル、Ness−Ziona)、Abnova(台湾、台北)、Matreya LLC(米国、PA、Pleasant Gap)、Avanti Polar Lipids(米国、AL、Alabaster)、Calbiochem(米国、CA、San Diego)、Chemicon(米国、CA、Temecula)、GeneTex(米国、TX、San Antonio)、Novus Biologicals(米国、CO、Littleton)、Assay Designs(米国、MI、Ann Arbor)、ProSci Inc.(米国、CA、Poway)、EMD Biosciences(米国、CA、San Diego)、Cayman Chemical(米国、MI、Ann Arbor)、HyTest(フィンランド、Turku)、Meridian Life Science(米国、TN、Memphis)及びBiodesign International(米国、ME、Saco)からも市販されている。
【0081】
本発明は、抗原プローブと同様にそのホモログ、断片及び誘導体を、これらホモログ、断片及び誘導体がこれらの抗原プローブと免疫的に交差反応性である限り、利用することが留意されるべきである。用語「免疫的に交差反応性」は本明細書で使用されるとき、同一の抗体によって特異的に結合される2以上の抗原を指す。用語「ホモログ」は本明細書で使用されるとき、抗原のアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%の同一性を有するペプチドを指す。交差反応性は、たとえば、競合アッセイ(既知の抗原に対する抗体の結合を競合的に阻害する試験抗原の能力を測定する)のような多数の免疫アッセイ法のいずれかによって決定することができる。
【0082】
用語「断片」は本明細書で使用されるとき、抗原プローブと免疫的に交差性のままであり、たとえば、標的抗原を免疫特異的に認識するポリペプチドの一部又はポリペプチド類似体を指す。断片は、各抗原の約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、又は約95%の長さを有し得る。
【0083】
用語ペプチドは通常、約50アミノ酸残基までの長さのポリペプチドを指す。特定の実施形態によれば、本発明の抗原ペプチドは10〜50アミノ酸の長さであってもよく、通常、約10〜30又は約15〜25のアミノ酸の長さである。
【0084】
その用語は、自然のペプチド(分解生成物、合成的に合成されたペプチド又は組換えペプチド)、ペプチド模倣体(通常、合成的に合成されたペプチド)及びペプチド類似体ペプトイド及びセミペプトイドを包含し、たとえば、生体内でペプチドをさらに安定にする又は細胞への侵入をさらに可能にする修飾を有し得る。そのような修飾には、N末端修飾;C末端修飾;CH−NH、CH−S、CH−S=O、O=C−NH、CH−O、CH−CH、S=C−NH、CH=CH及びCF=CHを含むが、これらに限定されないペプチド結合の修飾;主鎖の修飾;及び残基の修飾が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
カルボキシアミドとして、還元された末端アルコールとして又は薬学上許容可能な塩として、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩若しくはカルシウム塩を含む金属塩として、又は有機塩基との塩として、又は硫酸、塩酸若しくはリン酸を含む無機酸又は酢酸若しくはマレイン酸のような有機酸との塩として、末端カルボキシ酸を有する本発明の抗原を使用してもよい。
【0086】
機能的な誘導体は、前記ペプチドのアミノ酸側鎖及び/又はカルボキシ部分及び/又はアミノ部分への化学修飾から成る。そのような誘導体化された分子には、たとえば、遊離のアミノ基が誘導体化されてアミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基又はホルミル基を形成する分子が挙げられる。遊離のカルボキシル基は誘導体化されて塩、メチル及びエチルエステル又は別の型のエステル又はヒドラジドを形成してもよい。遊離のヒドロキシル基が誘導体化されてO−アシル又はO−アルキル誘導体を形成してもよい。ヒスチジンのイミダゾール窒素を誘導体化してN−im−ベンジルヒスチジンを形成してもよい。化学誘導体としても挙げられるのは、20の標準アミノ酸残基の天然に存在する又は修飾された1以上のアミノ酸誘導体を含有するポリペプチドである。たとえば、4−ヒドロキシルプロリンがプロリンについて置換されてもよく;5−ヒドロキシルリジンがリジンについて置換されてもよく;3−メチルヒスチジンがヒスチジンについて置換されてもよく;ホモセリンがセリンについて置換されてもよく;及びオルニチンがリジンについて置換されてもよい。
【0087】
本明細書に記載されるアミノ酸残基は、特に指示されない限り、「L」異性体の形態である。しかしながら、ペプチドが所望の抗体特異性を実質的に保持する限り、L−アミノ酸残基について「D」異性体形態が置換され得る。
【0088】
好適な類似体は、現在標準のペプチド合成法及び装置又は組換え法によって容易に合成され得る。そのような類似体はすべて本質的に、そのアミノ酸配列に関して本発明の抗原に基づくが、1以上の欠失した、置換された又は付加されたアミノ酸残基を有するであろう。アミノ酸残基が置換される場合、想定されるそのような保存的置き換えは、ポリペプチドの構造又は抗原性を有意に変化させないものである。たとえば、塩基性アミノ酸は他の塩基性アミノ酸で置き換えられ、酸性のものは酸性のもので、中性のものは中性のもので置き換えられるであろう。上記で詳説したような保存的置換を含む類似体に加えて、類似体が本発明のペプチドと免疫的に交差反応性である限り、非保存的アミノ酸置換を含む類似体がさらに熟考される。
【0089】
他の態様では、これらのペプチドをコードする核酸と、これらの核酸を含むベクターと、それらを含有する宿主細胞が提供される。これらの核酸、ベクター及び宿主細胞は当該技術で既知の組換え法によって容易に作製される(たとえば、Sambrook et al., 2001を参照)。たとえば、本発明の抗原をコードする単離された核酸は、その天然の供給源から、遺伝子全体(すなわち、完全な遺伝子)又はその一部として得ることができる。組換えDNA技術(たとえば、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)増幅、クローニング)又は化学合成を用いて核酸分子を作製することができる。核酸配列には、そのような修飾が本発明の機能的ペプチドをコードする核酸分子の能力を実質的に妨害しないような方法でヌクレオチドが挿入、欠失、置換及び/又は反転された天然の対立遺伝子変異体及び修飾された核酸配列を含むが、これらに限定されない天然の核酸配列及びそのホモログが挙げられる。
【0090】
本発明のアッセイで使用される脂質抗原は当該技術で周知の方法を用いて精製又は合成され得る(たとえば、Biochemistry of Lipids, Lipoproteins, and Membranes, 4.sup.th Ed.(2002; Vance D E and Vance, J E, editors; Elsevier, Amsterdam, Boston); Enzymes in Lipid Modification (2000; Bornsheuer, U T, editor; Wiley−VCH, Weinheim, N.Y.); Lipid Synthesis and Manufacture (1999; Gunstone, F D, editor; Sheffield Academic Press, Sheffield, England; CRC Press, Boca Raton, Fla.); Lipid Biochemistry, 5.sup.th Ed (2002; Gurr, M I, Harwood, J L, and Frayn, K N, editors; Blackwell Science, Oxford, Malden, Massを参照)。別の実施形態では、本発明のアッセイで使用される脂質抗原は、本明細書で以下に詳説されるように商業的に購入され得る。
診断方法
【0091】
一部の実施形態によれば、本発明はSLEの検出に有用な診断方法を提供する。
【0092】
一部の実施形態によれば、本発明の方法は、ヒアルロン酸、CD99、IGFBP1、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原に対する試験被験者から得た試料中の抗体の反応性を測定し、それによって複数の抗原に対する試料中の反応性パターンを決定し、対照の反応性パターンと前記試料中の反応性パターンを比較することによって達成される。一実施形態では、対照試料の反応性パターンと比較した前記試料中の反応性パターンの有意な差異は被験者がSLEに罹っていることを示す。
【0093】
本明細書で使用されるとき、「複数の抗原」に対する「試料中の抗体の反応性」は、複数の抗原から選択される特定の抗原に対する試料中の各抗体の免疫反応性を指す。抗原に対する抗体の免疫反応性、すなわち、抗原を特異的に結合する能力を用いて試料中の抗体の量を測定し、それによって定量的アッセイを提供し得る。試料中の調べられた抗体のそれぞれの計算されたレベルをそれら抗原に対する試料の反応性パターンと選択的に呼ぶ。
【0094】
ある抗原に「向けられた」ある抗体は、本明細書で使用されるとき、その抗原を特異的に結合することが可能である抗体である。複数の抗原に向けられた抗体のレベルを決定することは試料中の各抗体のレベルを測定することを含み、その際、各抗体は、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、CD99、MPO、IGFBP1、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから選択される特定の抗原に向けられる。この工程は通常、本明細書で詳説されるような免疫アッセイを用いて実施される。
【0095】
他の実施形態では、前記複数の抗原に対する前記試料中の抗体の反応性(及び試料中の調べられた抗体それぞれのレベル)を測定することは以下の過程によって実施される:
(i)特異的な抗原/抗体複合体が形成され得るような条件下で試料を前記複数の抗原を含む抗原プローブのセットに接触させることと、
(ii)各抗原プローブについて形成される抗原/抗体複合体の量を定量すること。
【0096】
抗原/抗体複合体の量は、試料中の調べられた抗体のレベル(又は抗原との試料の反応性)を示す。
【0097】
特定の実施形態では、試験試料及び対照試料はIgG抗体及び/又はIgM抗体を含む。特に試験試料及び対照試料はIgG抗体及びIgM抗体を含み得る。さらに別の好まれる実施形態では、試験試料及び対照試料は複数のIgG抗体及び複数のIgM抗体を含む。別の実施形態では、本発明の複数の抗原に由来する特定に抗原に対する少なくとも1つの抗体の反応性は上方調節される。別の実施形態では、特定に抗原に対する少なくとも1つの抗体の反応性は下方調節される。
【0098】
別の態様によれば、本発明は、被験者がSLEを発症するリスクにあるかどうかを評価する方法を提供し、該方法は、(i)ヒアルロン酸、CD99、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、IGFBP1、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得た試料中のIgG抗体及びIgM抗体の反応性を測定し、それによって複数の抗原に対する試料中の反応性パターンを決定することと、(ii)対照の反応性パターンと試料中の反応性パターンを比較することを含み、対照の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料中の反応性パターンの有意な差異は、被験者がSLEに罹っているという指摘である。
【0099】
例となる実施形態によれば、複数の抗原は、ヒアルロン酸、CD99、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、IGFBP1、カルジオリピン及びコラーゲンIIIから成る。別の実施形態によれば、複数の抗原は、ヒアルロン酸、CD99、MPO、IGFBP1及びコラーゲンIIIから成る。
【0100】
一部の実施形態では、本発明の方法は、本明細書で詳説するように、SLEの亜型のための特異的な生体マーカーとして抗体の情報が得られるパターンを情報的に特徴付けるための抗原マイクロアレイ方式を採用する。
【0101】
診断方法はその感度及び特異性で異なる。診断アッセイの「感度」は、検査で陽性と出る病気の個体の比率(「真の陽性」の比率)である。アッセイで検出されない病気の個体は「偽陰性」である。病気ではなく、アッセイで陰性と出る被験者は「真の陰性」と呼ばれる。診断アッセイの「特異性」は1マイナス偽陽性率であり、その際、「偽陽性」率は検査では陽性と出る病気ではない者の比率として定義される。
【0102】
一部の実施形態では、複数の抗原は、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の特異性と組み合わせた少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の感度を示すように選択される。一部の実施形態では、感度及び特異性の双方が少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%である。
【0103】
一実施形態では、方法は、対照被験者(たとえば、SLEに罹っていない健常な人)と比較した場合、少なくとも70%の感度で少なくとも85%の特異性でSLEを識別する。別の実施形態では、方法は、対照被験者と比べた場合、少なくとも80%の感度で少なくとも90%の特異性でSLEを識別する。別の実施形態では、方法は、対照被験者と比べた場合、少なくとも90%の感度で少なくとも90%の特異性でSLEを識別する。
抗体、試料及び免疫アッセイ
【0104】
抗体又は免疫グロブリンは、ジスルフィド結合で一緒に連結された2つの重鎖と2つの軽鎖を含み、各軽鎖は「Y」形の構造にてジスルフィド結合によって各重鎖に連結される。各重鎖は一方の末端に可変ドメイン(VH)を有し、その後に多数の定常ドメイン(CH)が続く。各軽鎖は一方の末端に可変ドメイン(VL)を、他方の末端に定常ドメイン(CL)を有し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと共に並び、軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1定常ドメイン(CH1)と共に並ぶ。軽鎖と重鎖の各対の可変ドメインは抗原結合部位を形成する。
【0105】
重鎖のアイソタイプ(ガンマ、アルファ、デルタ、イプシロン又はミュー)は免疫グロブリンのクラス(それぞれIgG、IgA、IgD、IgE又はIgM)を決定する。軽鎖は、あらゆる抗体クラスに見られる2つのアイソタイプ(カッパκ又はラムダλ)のいずれかである。
【0106】
用語「抗体(単数)」又は「抗体(複数)」が使用される場合、これは、たとえば、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体(mAbs)のような無処理の抗体と同様にたとえば、Fab又はF(ab’)2断片のようなそのタンパク分解断片を含むことが意図されることが理解されるべきである。本発明の範囲内(たとえば、本明細書で詳説されるような免疫アッセイ試薬のような))にさらに含まれるのは、キメラ抗体、組換え抗体及び遺伝子操作抗体、及びそれらの断片である。
【0107】
軽鎖及び重鎖双方の可変領域全体又は本質的に全体を含む例となる機能的な抗体断片は以下のように定義される:
(i)Fv:2つの鎖として発現される軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域から成る遺伝子操作された断片として定義される;
(ii)単鎖Fv(「scFv」):好適なポリペプチドリンカーで連結された軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域を含む遺伝子操作された単鎖分子;
(iii)Fab:抗体全体を酵素パパインで処理し、無傷の軽鎖と、重鎖の可変ドメイン及びCH1ドメインから成る重鎖のFd断片とを得ることによって得られる抗体分子の一価の抗原結合部分を含有する抗体分子の断片;
(iv)Fab’:抗体全体を酵素ペプシンで処理し、その後還元する(抗体分子当たり2つのFab’断片が得られる)ことによって得られる抗体分子の一価の抗原結合部分を含有する抗体分子の断片;並びに
(v)F(ab’):抗体全体を酵素ペプシンで処理(すなわち、2つのジスルフィド結合によって一緒に保持されるFab’断片の二量体)することによって得られる抗体分子の一価の抗原結合部分を含有する抗体分子の断片。
【0108】
用語「抗原」は本明細書で使用されるとき、抗体によって結合され得る分子又は分子の一部である。抗原は通常、動物が抗原のエピトープに結合することが可能である抗体を産生するよう仕向けることが可能である。抗原は1以上のエピトープを有し得る。上記で指す特異的な反応は、抗原が高度に選択的な方法でそれに相当する抗体と反応し、他の抗原によって誘発され得る多数の他の抗体とは反応しないことを指すこととする。「抗原性ペプチド」は抗体を特異的に結合することが可能であるペプチドである。
【0109】
別の実施形態では、抗原プローブを特異的に結合する抗体の能力の検出は、特異的な抗原/抗体複合体の形成を定量することによって実施され得る。用語「特異的に結合する」は本明細書で使用されるとき、抗体の抗原への結合が無関係な分子の存在によって競合的に阻害されないことを意味する。
【0110】
特定の実施形態では、本発明の方法は、被験者から単離されたIgGアイソタイプの抗体を、又は他の実施形態では、IgMの抗体を特異的に結合する本発明の抗原の能力を測定することによって実施される。
【0111】
被験者から好適な抗体を含有する生体試料を得る方法は、十分に当業者の能力の範囲内である。通常、好適な試料は、全血及びたとえば、血漿や血清のようなそれに由来する生成物を含む。他の実施形態では、他の抗体含有試料、たとえば、CSF、尿及び唾液の試料が使用され得る。
【0112】
多数の周知の流体採取方法を利用して、本発明の方法を実施するために被験者から生体試料を採取することができる。
【0113】
本発明によれば、被験者のペプチドと共に好適な免疫アッセイを使用することができる。そのような技法は当業者に周知であり、多数の標準的な免疫学のマニュアル及び教科書に記載されている。特定の好ましい実施形態では、抗原プローブアレイに基づいた方法を用いて、抗原プローブを特異的に結合する抗体の能力を測定する。好ましくは、血清に含有される抗体と不動化された抗原プローブとの間の特異的な結合を可能にするように被験者の好適に希釈された血清(たとえば、1:10に希釈された)と共にアレイをインキュベートし、未結合の血清をアレイから洗い流し、所望のアイソタイプの抗体の検出可能な標識を結合したリガンドと共に、洗浄したアレイをインキュベートし、未結合の標識をアレイから洗い流し、各抗原プローブに結合した標識のレベルを測定する。
【0114】
一部の態様によれば、本発明の方法は本発明の発明者らの一部へのWO02/08755及びU.S.2005/0260770に開示されたような抗原アレイを用いて実践され得る。WO02/08755は、クラスタリングのための方式と製造物品を指向し、それによって疾患の診断を必要とする又は治療のモニタリングを必要とする患者被験者に由来する血清の不確定な免疫グロブリンと反応性である所定の抗原を特定する。さらに開示されているのは、複数の抗原の抗原サブセットをクラスタリングする工程を採用する診断方法及びこれら診断方法に有用な方式であり、複数の抗体と反応性である前記抗原サブセットは複数の抗原に由来し、得られたクラスターを持つ被験者の抗体に会合する又はそれを解離する。本発明の発明者らの一部への米国特許出願公開番号2005/0260770は、抗原アレイ方式と診断へのその使用を開示している。該出願は、抗原プローブのセットの各抗原プローブを特異的に結合する被験者の免疫グロブリンの能力を測定することを含む、被験者における免疫疾患、特にI型糖尿病又はそれへの素因を診断する方法を提供する。前記開示の教示は本明細書で完全に言及されるかのようにその全体が本明細書に組み入れられる。
【0115】
他の実施形態では、酵素結合免疫吸収アッセイ(ELISA)、多重ビーズ(たとえば、Luminexによって作製された方式)によるフローサイトメトリー、表面プラスモン共鳴(SPR)、偏光解析法、及びたとえば、レーザー走査、光検出、光電子増倍管を介した光子検出、デジタルカメラに基づく方式又はビデオ方式による写真撮影、放射線計数、蛍光検出、電子検出、磁気検出及び抗原/抗体結合の定量的測定を可能にするそのほかの方式を採用する種々のそのほかの免疫アッセイを限定しないで含む種々のそのほかの免疫アッセイが使用され得る。
【0116】
本発明の方法に好適なアレイを調製するために種々の方法が開発されている。最先端の方法には、平面支持体、通常、顕微鏡スライドのようなガラス支持体の表面上における接近して間隔を空けた特定のアドレス可能な位置に抗原プローブを含有する別個の溶液を塗布する又はそれで「スポット」を作り、それに続いて好適な熱処理及び/又は化学処理によって処理し、支持体の表面に抗原プローブを付着させるロボット装置の使用が関与する。好都合なことに、表面上にエポキシ基のような反応性基の層を残す化学処理によって先ず、ガラス表面を活性化し、それは、遊離のアミン基又はチオール基を含有する任意の分子を共有結合する。好適な支持体には、シリコン、ニトロセルロース、紙、セルロース性支持体なども挙げられ得る。
【0117】
好ましくは、アレイの特定のアドレス可能な位置に付着させる本発明の各抗原プローブ又は別個のサブセットの抗原プローブは、統計的に強固なデータの生成を可能にするために、アレイの少なくとも2つ、さらに好ましくは3つの別々の特定のアドレス可能な位置に独立して付着させる。
【0118】
本発明の抗原プローブに加えて、アレイは対照抗原プローブ又はそのほかの標準的化学物質を有利に含み得る。そのような対照抗原プローブは標準化対照プローブを含み得る。標準化対照プローブから得られるシグナルは、結合条件、標識の強度、「読み取り」効率及び所与の結合している抗体/プローブリガンドの相互作用を変動させるそのほかの因子における変動についての対照を提供する。たとえば、抗原プローブアレイのそのほかの抗原プローブすべてから読み取られる蛍光強度のようなシグナルは、標準化対照プローブからのシグナル(たとえば、蛍光強度)によって分割され、それによって測定値を標準化する。標準化対照プローブは抗原プローブのアレイ上で種々のアドレス可能な位置に結合し、抗体/リガンドプローブの効率における空間変動を制御することができる。好ましくは、標準化対照プローブは、アレイの角又は縁に位置してアレイの中央と同様に縁効果を制御する。
【0119】
標識された抗体リガンドは、種々の好適な型の抗体リガンドのいずれであってもよい。好ましくは、抗体リガンドは、使用される被験者の抗体のFc部分を特異的に結合することが可能である抗体である。たとえば、被験者の抗体がIgMアイソタイプである場合、抗体リガンドは好ましくは、被験者のIgM抗体のFc領域に特異的に結合することが可能である抗体である。
【0120】
被験者の抗体のリガンドを種々の種類の検出可能な標識に抱合させてもよい。好ましくは、標識は蛍光色素分子であり、最も好ましくはCy3である。或いは、蛍光色素分子は、Cy5、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)、ローダミン、テキサスレッドなどを含む種々の蛍光色素分子のいずれかであってもよい。特定のアイソタイプの抗体に特異的な、好適な蛍光色素分子を結合した抗体は、供給業者から広く入手可能であり、その製造方法は定評がある。
【0121】
応用や目的によって、その抗原プローブに結合する能力を種々の方法で解析するために被験者の抗体を単離してもよい。被験者の抗体が血液の血清又は血漿又はその希釈物(たとえば、1:10希釈)の形態にて好適で、好都合であり得る一方で、抗原プローブを特異的に結合するその能力について調べる前に所望の程度の精製に抗体を供してもよい。被験者の抗体全体又は抗体の可変領域を含む被験者の抗体断片を用いて本発明の方法を実践してもよい。
データ解析
【0122】
一部の実施形態では、本発明の方法は、SLEの亜型を有する被験者の反応性パターンと対照被験者の反応性パターンの間を識別するために、学習とパターン認識のアナライザ、クラスタリングアルゴリズム等の使用を採用してもよい。たとえば、方法は、複数の抗原に対する試験試料中の抗体の反応性を測定することと、そのようなアルゴリズム及び/又はアナライザを用いて、得られたパターンを陰性及び陽性の対照試料の反応性パターンと比較することを含み得る。
【0123】
従って、別の実施形態では、対照試料の反応性パターンと比較した試験試料中の反応性パターンの有意な差異は、差異が学習とパターン認識のアルゴリズムを用いて計算される場合、被験者がSLEに罹っていることを示す。たとえば、アルゴリズムには、主成分分析(PCA)、部分最小二乗法(PLS)、多重線形回帰(MLR)、主成分回帰(PCR)、線形判別解析(LDA)を含む判別関数解析(DFA)、並びに最近傍アルゴリズム、人工神経ネットワーク、連結二方向クラスタリングアルゴリズム、多層パーセプトロン(MLP)、生成回帰神経ネットワーク(GRNN)、ファジー推論システム(FIS)、自己組織化マップ(SOM)、遺伝アルゴリズム(GAS)、ニューロファジーシステム(NFS)、適応共鳴理論(ART)を含むクラスター解析を含むが、これらに限定されない統計アルゴリズムを含む監視型又は非監視型の分類子が、限定しないで挙げられ得る。
【0124】
特定の実施形態では、所定のカットオフに対して(又は多数の所定のカットオフに対して)試験試料中で定量された各抗体の量を比較するために1以上のアルゴリズム又はコンピュータプログラムを使用してもよい。或いは、ヒトによって手動で必要な工程を実施するための1以上の指示書が提供され得る。
【0125】
パターン解析を決定し、比較するためのアルゴリズムには、主成分分析、フィッシャー線形解析、神経ネットワークアルゴリズム、遺伝アルゴリズム、ファジー論理様式認識などが挙げられるが、これらに限定されない。解析が完了した後、得られた情報はディスプレイに表示することができ、ホストコンピュータに送信することができ、その後の検索のために保存装置に保存することができる。
【0126】
アルゴリズムの多くは、神経ネットワークに基づいたアルゴリズムである。神経ネットワークは入力層と、処理層と出力層を有する。神経ネットワークにおける情報は処理層全体を介して分配される。処理層はノードへの相互接続によってニューロンを刺激するノードで構成される。データの収集における基礎的なパターンを示す統計的な解析と同様に、神経ネットワークは所定の基準に基づいてデータの収集における一貫したパターンを検索する。
【0127】
好適なパターン認識アルゴリズムには、主成分分析(PCA)、フィッシャー線形判別解析(FLDA)、クラス類似性のソフト独立型モデリング(SIMCA)、K−最近傍(KNN)、神経ネットワーク、遺伝アルゴリズム、ファジー論理及びそのほかのパターン認識のアルゴリズムが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、フィッシャー線形判別解析(FLDA)及び模範判別解析(CDA)及びその組み合わせを用いて出力の特徴とデータベースから利用できるデータを比較することができる。
【0128】
他の実施形態では、主成分分析が使用される。主成分分析(PCA)には、多数の相関する変数を少数の非相関変数に変換する数学的技法が関与する。少数の非相関変数は主成分として知られる。第1の主成分又は固有ベクトルはデータにおけるできるだけ多くの変動性を説明し、各連続成分はできるだけ多くの残りの変動性を説明する。PCAの主な目的はデータの次元性を減らし、新しい基礎的な変数を特定することである。
【0129】
主成分分析は、2つ以上の共分散行列の構造を階層的な方法で比較する。たとえば、1つの行列は、単一の定数に行列の各要素が乗じられることを除いて別の行列と同一であり得る。従って、行列は互いに比例する。さらに詳しくは、行列は同一の固有ベクトル(又は主成分)を共有するが、その固有ベクトルは定数が異なる。行列間の別の関係は、それらが一般に主成分を共有するが、その固有ベクトルは異なるということである。主成分分析で使用される数学的技法は、固有解析と呼ばれる。最大の固有値に関連する固有ベクトルは第1の主成分として同じ方向を有する。2番目に大きな固有値に関連する固有ベクトルは第2の主成分の方向を決定する。固有値の合計は正方行列のトレースに等しく、固有ベクトルの最大数はこの行列の行の数に等しい。
【0130】
別の実施形態では、アルゴリズムは分類子である。分類子の1つの型は、トレーニングセットからのデータを伴ったアルゴリズムを「トレーニング」することによって創られ、その性能は、試験セットデータによって評価される。本発明と併せて使用される分類子の例は、判別解析、決定木解析、受信者動作曲線又は分割スコア解析である。
【0131】
用語「決定木」は、分類に採用されるフローチャート様の木構造を持つ分類子を指す。決定木はサブセットへのデータセットの分割の繰り返しから成る。各分割は、変数1つに適用される単純な規則から成り、たとえば、「変数1」の値が「閾値1」より大きければ、左に行き、それ以外は右に行く。従って、所与の特徴の空間は長方形のセットに区画化され、各長方形がクラス1つに割り振られる。
【0132】
用語「試験セット」又は「未知の」又は「検証セット」は、トレーニングセットに含まれない項目から成る利用可能なデータセット全体のサブセットを指す。試験データを適用して分類子の性能を評価する。
【0133】
用語「トレーニングセット」又は「既知のセット」又は「参照セット」は、利用可能なデータセット全体のそれぞれのサブセットを指す。このサブセットは通常、無作為に選択され、分類子の構築を目的に単に使用される。
SLEを診断すること
【0134】
本発明の方法は、全身性エリテマトーデス(SLE)を診断するのに有用である。一部の実施形態では、SLEは皮膚SLEである。追加の実施形態では、前記SLEは亜急性の皮膚SLE又はSCLEである。たとえば、腎炎、腎臓外、脳炎、小児の、非腎臓の、円板状の(DLE)及び脱毛症のようなループスのそのほかの形態も本発明の方法及びキットを用いて診断され得る。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。「ループス」は本明細書で使用されるとき、結合組織を攻撃する抗体を含む自己免疫疾患又は障害である。
【0135】
本明細書で使用されるとき、用語「診断すること」又は「診断」は、たとえば、個体から得た生体試料(たとえば、血清)における抗体の、複数の抗原に対する反応性を検出することを含む、特に種々の診断手順の結果から兆候、症状によって医学的状態又は疾患(たとえば、SLE)を特定する過程を指す。さらに、本明細書で使用されるとき、用語「診断すること」又は「診断」は、疾患をスクリーニングすること、疾患の存在又は重症度を検出すること、1以上の類似の又は同一の症状を特徴とし得るそれら疾患を含むそのほかの疾患からある疾患を区別すること、疾患の予後を提供すること、疾患の予後又は再発をモニタリングすること、並びに治療有効性及び/又は疾患、障害若しくは状態の再発の評価、並びに疾患のための治療法及び/又は治療を選択すること、疾患の所与の治療法の最適化、疾患の治療をモニタリングすること、及び/又は特定の患者若しくは亜集団についての治療法の好適性を予測すること、又は患者若しくは亜集団にて治療製品の適切な用量を決定することを包含する。
【0136】
本明細書の以下(実施例4)で実証されるように、健康な状態にあり、標準の抗DNA抗体が陰性であったときの被験者から試料を得たが、8ヵ月後、彼女は非特異的な症状に悩まされ始め、最終的にはさらに7ヵ月後、SLEの診断基準を満たすことが見い出された。従って、抗原マイクロアレイの特徴は前臨床SLEも検出し得る。特定の実施形態では、本発明の方法及びキットは前臨床SLEを診断するのに有用である。さらに別の特定の実施形態では、本発明の方法及びキットはSLEの早期検出に有用である。
【0137】
一実施形態では、本発明の方法に従って診断される被験者は症候性である。他の実施形態では被験者は無症候性である。
【0138】
診断手順は生体内又は試験管内で、好ましくは試験管内で実施することができる。
SLEを診断する基準
【0139】
1982年の米国リウマチ学会(ACR)の基準はSLEを診断するのに必要な特徴を要約している。11の基準のうち4つの存在はSLEについて85%の感度と95%の特異性を生じる。SLE患者は臨床的特徴とループスの血清学的な証拠の組み合わせを示し得る。
・漿膜炎−検査又は診断用ECG又は画像化にて胸膜炎、心膜炎
・口腔潰瘍−普通、疼痛なしで口腔又は鼻咽腔;口蓋が最も特徴的である
・関節炎−非糜爛性、圧痛又は腫脹を伴った2箇所以上の末梢の関節
・光過敏症−光への暴露に対する異常な皮膚の反応
・血液障害−白血球減少症(2回以上にわたって<4×10個/μL)、リンパ球減少症(2回以上にわたって<1500個/μL)、血小板減少症(原因薬物の非存在下で<100×10個/μL)、溶血性貧血
・腎臓の関与−タンパク尿(>0.5g/d又は尿検査で3+陽性)又は細胞円柱
・ANA−高い力価が一般に特異的(>1:160);薬剤誘発のループスに関連した薬物の非存在下でなければならない
・免疫的な現象−dsDNA;抗スミス(Sm)抗体、抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン免疫グロブリンG[IgG]又は免疫グロブリンM[IgM]又はループス性抗凝固因子)、梅毒、エリテマトーデス(LE)細胞についての生物学的に疑陽性の血清学試験の結果(1997年に省略された)
・神経障害−他の原因の非存在下にて痙攣発作又は精神病
・頬部発疹−頬及び鼻梁にわたる固定された紅斑、平坦又は隆起
・円板状発疹−角化性落屑及び毛孔性角栓、多くは瘢痕を伴った紅斑性の隆起した縁のある病変
【0140】
SLEの診断に最も一般に使用される手段のうち2つは、全身性エリテマトーデス疾患活動性指標(SLEDAI)及び全身性ループス活動性測定(SLAM)である。
SLE疾患活動性指標(SLEDAI)
【0141】
SLEDAIは、関与する各臓器系の重要性に重みを加えることによって疾患活動性を測定する指標である。SLEDAIは9つの臓器系を表す24の項目を含む。既往歴、身体検査及び臨床検査によって変数が得られる。関与する臓器の重要性に基づいて各項目に1〜8の重みをつける。たとえば、口腔潰瘍には2というスコアを付ける一方で痙攣発作には8のスコアをつける。SLEDAIに関与する臨床検査パラメータには、白血球数、血小板数、尿検査、血清のC3、C4及び抗dsDNAが挙げられる。最大総スコアは105である。
全身性ループス活動性測定(SLAM)
【0142】
SLAMには11の臓器系を表す32の項目が含まれる。項目は存在/非存在としてスコア化されるだけでなく、重症度に基づいて1〜3の尺度で等級化される。SLAMについての可能な総スコアは86である。SLEDAI及びSLAM双方は、経時的な変化に対して妥当であり、信頼でき、感受性であることが示されており(Liang et al. 1989, Arth Rheum 32:1107−18)、研究プロトコール及び臨床試験で広く使用されている。これらの指標は、SLEにおける疾患活動性の新しく提案された血清学的な又は炎症性のマーカーの値を調べるのに特に有用である。
【0143】
これらの手段の明らかな有用性にもかかわらず、若干の欠点が存在する。先ず、同一セットの患者にてSLAMとSLEDAIの間で常に完全な一致があるとは限らない。これらの矛盾には幾つかの考えられる理由がある。SLEDAIとは異なって、SLAMには、疲労や発熱のような全身症状が含まれ、それが活動性SLEに起因するとみなされてもよく又はみなされなくてもよく;この活動性指標は内科医の解釈に依存する。加えて、SLEDAIは、一部の臓器系で穏やかな程度の活動性を捕捉せず、たとえば、溶血性貧血のような数種の活動性について記述子を有さない。
【0144】
本発明の一部の実施形態をさらに完全に説明するために以下の実施例を提示する。しかしながら、それらは本発明の広い範囲を限定すると決して解釈されるべきではない。
実施例
材料及び方法
ヒト被験者
【0145】
試験は、参加する各臨床施設の施設内倫理委員会によって認可され、参加者すべてからインフォームドコンセントを得た。
【0146】
SLE患者3群と対照群を調べた;腎臓寛解の患者15人、活動性ループス腎炎の患者14人、腎臓の関与がない患者11人、及び年齢と性別の一致した健常対照16人である。血液試料及び臨床データは、イスラエルのShebaメディカルセンターのリウマチ部及び血液学部門;イスラエル、エルサレムのEin KeremのHadassahメディカルセンターのリウマチ部;並びにコロンビア、MedellinのCorporacion para Investigaciones Biologicasの細胞生物学と免疫遺伝学の部門にてSLE患者から採取した。患者はすべて米国リウマチ学会のSLEについての基準を満たした(Tan et al: Arthritis. Rheum. 25:1271, 1982; updated by MC Hochberg, Arthritis. Rheum. 1997; 40:1725)。活動性ループス腎炎のSLE患者は≧8のSLEDAIと以下:≧1gのタンパク尿の新規発症;尿タンパクの上昇;≧2のクレアチニン比;又はベースラインの血清クレアチニンの≧50%の上昇の1つによって定義した。腎臓寛解のSLE患者は、上記で定義されたような活動性ループス腎炎を有するといったん診断されたが、今は全身性エリテマトーデス活動性指標(SLEDAI)≦4と以下:ベースラインレベルの25%以内へのタンパク尿の低下を伴ったベースラインの血清クレアチニンへの復帰、又はベースラインのタンパク尿への復帰とベースラインレベルの25%以内の血清クレアチニンの復帰の1つを伴う個人であった。寛解の患者はすべて少なくとも6ヵ月間安定のままであり、寛解の平均期間は8年であり、その範囲は3ヵ月〜30年であった。既知の腎臓関与のない患者は、過去において及び少なくとも1年間の経過観察の間に腎臓の関与で悩まされなかったことが分かっていた。診断からの平均期間は7年であり、その範囲は0.5〜27年だった。追加の患者データは表2に示す(値は平均値±標準誤差又はパーセントである)。
【表2】

抗原マイクロアレイ及び血清試験
【0147】
Merblら、2007年、J.Clin.Invest.117:712−8及びQuintanaら、2006年、Lupus、15:428−30;及びQuintanaら、2004年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.101:14615−21に記載されたように抗原マイクロアレイのチップを調製した。
【0148】
48ピンのロボットを用いてエポキシ活性化ガラス基材の上に3つ組にてそれぞれ最適な濃度(ほとんど1mg/mL)で694の抗原のスポットを作った(Microgrid 600, Genomics Solutions, Ann Arbor, MI, USA)。これらの抗原にはタンパク質、選択したタンパク質の配列由来の合成ペプチド、ヌクレオチド、リン脂質及びそのほかの自己分子及び非自己分子が含まれた。次いで37℃にて1時間1%ウシ血清アルブミンでマイクロアレイをブロックした。37℃にて1時間カバースリップのもとでブロッキング緩衝液中の試験血清(1:10希釈)をインキュベートした。次いでアレイを洗浄し、ヤギ抗ヒトIgGCy3結合抗体とヤギ抗ヒトIgMCy5結合抗体(双方共、米国、PA、West GroveのJackson ImmunoResearch Laboratories社から購入)を一緒に混合した1:500希釈の2つの抗体と共に37℃にて1時間インキュベートした。レーザーによって画像収集を実施し(米国、CA、Santa ClaraのAgilent Technologies)、結果をQuantarrayソフトウエア(米国、MA、BillericaのPackard BioChip Technologies)とさらに開発されたソフトウエアによって解析した。各抗原スポットへの結合のシグナル強度の定量的範囲は0〜65,000であり、検出のこの範囲によって1:10希釈での試験試料の信頼できるデータを得るのが可能になった(Quintana et al.. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 105:18889−94)。別にELISA(QUANTA−Lite, Inova, San Diego, CA)とFarrアッセイ(Wold et al., Science 161: 806)を用いて抗DNA抗体も測定した。
画像解析及びデータ処理
【0149】
技術的には、各スライドの視覚的検査によって不良スポットを手動で除外した。次いで各抗原の複数のスポットの前景と背景の強度を平均化し、前景と背景との差異の底が10の対数値を算出し;500未満の差異を500に固定し、次いで対数変換した。異なったスライド間の差異を調整するために、各スライド(相当するIgM又はIgGのチャンネルにて)の平均レーザー強度値を次いで差し引いた。次いでデータセット全体にわたる最小値がゼロに等しくなるように各抗原の値を移した。得られた値をそのスポットの抗原への抗体の結合の抗原反応性として解釈した。スライドの80%を超えてゼロの反応性を示した抗原は、スライド全域での変動係数が20%未満である抗原なので除外した。こうして、694のIgMと694のIgGの抗原反応性をIgMとIgGのチャンネル間でほぼ同等に分割して約930の反応性に減らした。
統計的解析
【0150】
統計的解析を行って抗原反応性と、対象の異なった群間を区別できる抗原反応性の群を特定した。それぞれnとnの対象から成る(各対象は別々のマイクロアレイのスライドにある)A群とB群としてここでは一般に指定して、同様の方法で差異の比較を行った。A群とB群の間の区別の量を推定するために、リーブワンアウト(LOO)法を適用した(Duda et al., 2001, Pattern Classification. John Wiley and Sons, Inc., New York. 654 pp)。n+nのうち対象1つを除外しておき、残りのn+n−1を用いてA群とB群を分離するための候補抗原を選択する。A群とB群(対象1つを除く)の間でT検定を適用し、5%の偽発見率(FDR)閾値をパスしたd抗原を選択した(Benjamini et al., 1995, Journal of the Royal Statistical Society B. 57:289−300)。次いでこれらの抗原を用い、K=3のK−最近傍アルゴリズム(Duda et al., 2001)を用いて除外した対象を分類した。さらに具体的には、除外した対象が、そのほかのn+n−1の対象を含有するd−次元の空間にてその3つの最近傍対象データポイントを探し求め、これら3つの対象の最重要等級に従って分類を行う。この方法をn+nの対象すべてについて繰り返し;表3に現れる性能は単に、特異性(1−疑陽性率)と感度(1−偽陰性率)の大きさとして定量された誤分類の数であった。
【0151】
抗原反応性を分離するリストの組成は、特定のLOO交差検証の実行にて除外される特定の対象によって異なり得る。A群とB群を分離するのに重要な役割を担う抗原反応性をさらに特定するために、LOO試験の少なくとも90%にて候補リストに現れる抗原反応性を選択した。単純な閾値基準を用いて除外された対象を分類することによって、これら選択された抗原反応性のそれぞれと共に単独でLOO法を繰り返し:特異性を最大化するその閾値に対象を向けるn+n−1の反応性の値を見つけ、次いでこの閾値を用いて除外したポイントを分類した。n+nの対象にわたるこの分類の平均のLOO特異性と感度は表4及び表6における選択された抗原のそれぞれについて見られる。抗原反応性の組み合わせの性能を調べるために、主成分分析(PCA)を用いた一次元空間に特定の組み合わせを投影し、上記の単一反応性と同様に処理した。
【0152】
LOO試験に加えて、抗原反応性を差別化するリストとA群とB群の対象をひとまとめにし、3つの最近傍を介した試験セットCを分類するのに用いた。たとえば、腎臓寛解のSLE被験者から健常対照を分離する頻度の高い抗原反応性のリスト全体を用いてほかの2つのSLE群−腎臓再発のものと腎臓が関与しないものを分類した。図2は、主成分分析(PCA)の表示(Duda et al., 2001)を用いた3次元空間へのこれら抗原反応性の投影を示す。
実施例1
抗原マイクロアレイの反応性は健常対照からSLE被験者を区別する。
【0153】
表3は、リーブワンアウト(LOO)試験に基づいた、3つのSLE群:全SLE被験者と腎臓寛解のSLE被験者と活動性ループス腎炎のSLE被験者と比べた健常対照被験者の合計930の抗体の反応性の広範囲解析を示す。平均LOO感度と特異性はK=3の最近傍分類子について提示する。
【0154】
解析は、マイクロアレイの反応性が健常対照からSLE被験者の3つの群を明らかに分離したことを示す。健常対照と腎臓が関与しないSLE被験者の間の比較は、LOO試験の一部で抗原が5%のFDRレベルを超えなかったので表には現れない。さらに、試験に利用できる数が限定されているSLE被験者の種々の亜群は、LOO試験のいずれかで5%FDRレベルを抗体反応性のいずれもパスしなかったので互いに分離することができなかった。
【表3】

実施例2
SLE被験者は、個々の反応性の上方調節及び下方調節の双方を示す。
【0155】
表5は、健常対照の被験者から群としてSLE患者すべてを区別した特定の抗体の反応性を列記する。8つのIgG抗体の反応性は対照と比べたとき、SLE群にて上方調節された:dsDNA、ssDNA、ヒアルロン酸、EBV、BMP4、F50、HGF及びhsp60p18。さらに13のIgM抗体の反応性は対照と比べたとき、SLE群にて下方調節された:MPO、IGFBP1、CD99、カルジオリピン、アクチン、CMV、コラーゲンIII、コラーゲンIV、HRP、RV、S100A4、CITED1及びFHIT。
【0156】
表4は、健常対照の被験者から群としてSLE患者すべてを区別した特定の抗体の反応性を列記する。図1は、各血清における表4で列記した抗原への抗体の反応性の相対量を示す。これら抗原のそれぞれについての2群間の差異は5%のFDRレベルを超えた(p<0.0007)。4つのIgG抗体の反応性はSLE群で上方調節され;以前見い出されていたdsDNAとssDNAに対する古典的な反応性、SLEに強く関連することが以前見い出されていた(Barzilai et al., 2007, Ann. N Y Acad. Sci. 1108:567−77)エプステイン・バーウイルス(EBV)に対する反応性及びヒアルロン酸への驚くべき反応性(図1)。
【表4】

【0157】
4つの新規の抗原への反応性は、すべてIgMであるが、SLEにて下方調節されることが見い出された:インスリン様増殖因子結合タンパク質1(IGFBP1)、CD99、カルジオリピン及びミエロペルオキシダーゼ(MPO)。これらの抗原へのSLE被験者のIgM抗体の反応性は、健常対照に比べて低下する又は検出不能である傾向があった(図1)。MPO及びカルジオリピンに対する低下したIgM抗体の反応性とは対照的に、これらの抗原に対する上昇したIgG抗体はSLE及びそのほかの血管炎関連の疾患に関連していた(Barzilai et al., 2007; Sen and Isenberg, 2003 Lupus 12:651−8; Love, P.E. and Santoro, S.A. 1990, Ann. Intern. Med. 112:682−98; Moreland et al., 1991. Clin. Immunol. Immunopathol. 60:412−8)。
【0158】
表4は、ヒアルロン酸に対するIgGの反応性を除いて、そのほかの個々の反応性が<80%のSLEについて感度を示したことを示す。しかしながら、各反応性の特異性は上昇したIgGであれ、低下したIgMであれ、>80%だった。8つの反応性すべての組み合わせは感度を>90%まで高め;4つのIgGの上昇した反応性の組み合わせは、4つのIgMの低下した反応性の組み合わせよりも感受性であり、それぞれ90%に比べて68%だった。組み合わせたセットのそれぞれの特異性は88%で等しかった。
【表5】

実施例3
寛解にあるSLE被験者はSLEの特徴を維持する
【0159】
重要な疑問は、臨床的な腎臓寛解がSLE抗体パターンの健常状態への復帰に関連するかどうかということである。表6は臨床的寛解にあるSLE患者が依然としてSLEの特徴を維持していたことを示す。これらの患者は、SLE被験者の一般的セットを特徴付ける同一の4つの抗原:dsDNA、ssDNA、ヒアルロン酸及びEBVに対する有意に上方調節されたIgGの反応性を示した。さらに、寛解にある者は3つのIgM反応性の下方調節を示し、そのうち2つは全体としてSLE群の特徴であり、CD99及びMPOに対する低下したIgM反応性は双方の群に存在したが、寛解にある者はカルジオリピン及びIGFBP1ではなくコラーゲンIIIに対する低下したIgM反応性を示した(図1)。
【0160】
表6はまた、4つの上昇したIgGの反応性と3つの低下したIgMの反応性の組み合わせが100%の感度と94%の特異性をもたらしたことを示す。従って、反応性の組み合わせは成分反応単独のいずれよりも程度の高い精度を提供し得る。実施された上昇IgM反応性の組み合わせたセットと同様に実施された低下IgM反応性の組み合わせたセットがSLEの特徴であると思われることにも留意のこと。
【表6】

実施例4
SLE寛解の特徴もそのほかのSLE群を特徴付ける
【0161】
寛解中のSLEに特徴的な抗原への反応性のリストは一般にSLEに適用し得るのかどうかを判定するために、我々は健常対照から寛解中の被験者を分離する7つの抗原(表6)を用いて14人の活動性ループス腎炎のSLE患者及び11人の腎臓が関与しないSLE患者を分類した。
【0162】
15人の寛解中のSLE患者と16人の健常対照に基づいて、3つの最近傍のアルゴリズムを介してこれら25人のSLE患者を分類した。これら25人のSLE患者のうち23人が正しく分類され、92%の感度を生成した。26人のSLE患者のうちたった2人は誤分類された(示さず)。
【0163】
図2は、健常対照被験者の3次元PCA表示(7つの別々の抗原によって渡された空間から投影された)及び種々のSLE亜群のそれを示す。健常対照は明らかに7つの抗原への反応性によって寛解中のSLE被験者から分離された。さらに、長期寛解中の人、急性ループス腎炎の人、又は腎臓が関与しない人は完全に重なり合っていた。言い換えれば、表3における抗原への反応性の寛解リストは、急性ループス腎炎のSLE被験者及び腎臓が関与しないSLE被験者を含むSLEの抗体の特徴を構成する。特に、図2のSLEの領域に投影された被験者を青色の星型で印したが;この被験者の血清は彼女が健常状態で標準的な抗DNA抗体が陰性であったときに得られたが、8ヵ月後彼女は非特異的な症状に悩まされ始め、さらに7ヵ月後、最終的にはSLEの診断基準を満たすことが見い出された。従って、抗原マイクロアレイの特徴は前臨床SLEも検出する。
【0164】
参考文献
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Isenberg, D.A., Colaco, C.B., Dudeney, C., Todd−Pokropek, A., Snaith, M.L. 1986. The relationship of anti−DNA antibody idiotypes and anti−cardiolipin antibodies to disease activity in systemic lupus erythematosus. Medicine 65:46−55. Li, Q.Z., Zhou, J., Wandstrat, A.E., Carr−Johnson, F., Branch, V., Karp, D.R., Mohan, C., Wakeland, E.K., Olsen, N.J. 2007. Protein array autoantibody profiles for insights into systemic lupus erythematosus and incomplete lupus syndromes. Clin. Exp. Immunol. 147:60−70.
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Benjamini, Y., Hochberg, Y. 1995. Controlling the False Discovery Rate: a Practical and Powerful Approach to Multiple Testing. Journal of the Royal Statistical Society B. 57:289−300.
【0165】
特定の実施形態の前述の記載は、現在の知識を適用することによって他者が、過度の実験を行うことなく、且つ一般の概念から逸脱することなく、そのような実施形態を容易に改変し、及び/又は種々の応用に適合させることができる本発明の一般的な性質を完全に明らかにしているので、そのような応用や改変は、開示された実施形態の同等物の意味及び範囲の中に包含されるべきであり、そのように意図される。本明細書で採用された言語表現及び専門用語は説明目的であって限定目的ではないことが理解されるべきである。種々の開示された機能を実行するための手段、材料及び工程は本発明から逸脱することなく種々の代替形態を取り得る。
【図1(1)】

【図1(2)】

【図1(3)】

【図1(4)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者において全身性エリテマトーデス(SLE)を診断する方法であって、
(i)IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原に対する、前記被験者から得た試料中のIgG抗体及びIgM抗体の反応性を測定し、それによって前記複数の抗原への試料の反応性パターンを決定することと、
(ii)前記試料の反応性パターンを対照の反応性パターンと比較することを含み、
対照試料の前記反応性パターンと比較した前記被験者から得た前記試料の前記反応性パターンの有意な差異は、前記被験者がSLEに罹っているという指摘である方法。
【請求項2】
複数の抗原が少なくとも3つの抗原を含む請求項1の方法。
【請求項3】
複数の抗原が少なくとも4つの抗原を含む請求項1の方法。
【請求項4】
複数の抗原が少なくとも5つの抗原を含む請求項1の方法。
【請求項5】
複数の抗原が少なくとも6つの抗原を含む請求項1の方法。
【請求項6】
複数の抗原が少なくとも7つの抗原を含む請求項1の方法。
【請求項7】
複数の抗原が少なくとも8つの抗原を含む請求項1の方法。
【請求項8】
複数の抗原がIGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン及びコラーゲンIIIから成る請求項1の方法。
【請求項9】
前記複数の抗原に対する前記試料中の複数のIgG抗体及び複数のIgM抗体の反応性を測定することを含む請求項1の方法。
【請求項10】
ヒアルロン酸、BMP4、EBV、ssDNA、dsDNA、F50、HGF及びHSP60p18から成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得た試料中のIgG抗体の反応性を測定することを含む請求項1の方法。
【請求項11】
ヒアルロン酸、EBV、ssDNA及びdsDNAから成る群から選択される複数の抗原に対する被験者から得た試料中のIgG抗体の反応性を測定することを含む請求項10の方法。
【請求項12】
対照試料の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料の反応性パターンの有意な上方調節は被験者がSLEに罹っているという指摘である請求項10〜11のいずれか1項の方法。
【請求項13】
CD99、IGFBP1、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、CMV、西洋ワサビペルオキシド、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原に対する、被験者から得た試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含む請求項1の方法。
【請求項14】
CD99、IGFBP1、MPO、カルジオリピン及びコラーゲンIIIから成る群から選択される複数の抗原に対する、被験者から得た試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含む請求項13の方法。
【請求項15】
CD99、IGFBP1、MPO及びカルジオリピンから成る群から選択される複数の抗原に対する、被験者から得た試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含む請求項13の方法。
【請求項16】
対照試料の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料の反応性パターンの有意な下方調節は被験者がSLEに罹っているという指摘である請求項13〜15のいずれか1項の方法。
【請求項17】
CD99、MPO及びコラーゲンIIIから成る群から選択される複数の抗原に対する、被験者から得た試料中のIgM抗体の反応性を測定することを含む請求項13の方法。
【請求項18】
対照試料の反応性パターンと比較した被験者から得た前記試料の反応性パターンの有意な下方調節は被験者が腎臓寛解のSLEに罹っているという指摘である請求項17の方法。
【請求項19】
被験者においてSLEを診断する方法であって、
(i)IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、MPO及びコラーゲンIIIから成る群から選択される複数の抗原に対する、被験者から得た試料中の抗体の反応性を測定し、それによって複数の抗原への試料の反応性パターンを決定することと、
(ii)前記試料の反応性パターンを対照の反応性パターンと比較することを含み、
対照の前記反応性パターンと比較した前記被験者から得た前記試料の前記反応性パターンの有意な差異は、前記被験者がSLEに罹っているという指摘である方法。
【請求項20】
試料中の抗体の反応性を測定することが、前記試料におけるIgG抗体とIgM抗体の反応性を測定することを含む請求項19の方法。
【請求項21】
複数の抗体がさらに、dsDNA、ssDNA、EBV及びカルジオリピンから選択される少なくとも1つを含む請求項19の方法。
【請求項22】
試料が血清試料である請求項1又は19のいずれか1項の方法。
【請求項23】
対照が、少なくとも1人の健常な人に由来する試料、健常な人のセットに由来する対照試料のパネル、及び対照の人に由来するデータの保存セットから成る群から選択される請求項1又は19のいずれか1項の方法。
【請求項24】
試料中の抗体の反応性を測定する前に試料を1:10に希釈することをさらに含む請求項1又は19のいずれか1項の方法。
【請求項25】
前記複数の抗体が抗体アレイの形態で使用される請求項1又は19のいずれか1項の方法。
【請求項26】
被験者におけるSLE診断のためのキットであって、
IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原を含むキット。
【請求項27】
前記キットが抗原アレイの形態である請求項26のキット。
【請求項28】
複数の抗原に対する試料中の抗体の反応性を測定する手段をさらに含む請求項26のキット。
【請求項29】
複数の抗原に対する異なった試料における抗体の反応性パターンを比較する手段をさらに含む請求項26のキット。
【請求項30】
抗原プローブのセットであって、
IGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、HRP、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原プローブを含む抗原プローブのセット。
【請求項31】
請求項30の抗原プローブのセットを含む製造物品。
【請求項32】
SLEを診断するための診断用組成物を調製するための抗原プローブセットの使用であって、
前記抗原プローブセットがIGFBP1、CD99、ヒアルロン酸、EBV、ssDNA、dsDNA、MPO、IGFBP1、カルジオリピン、コラーゲンIII、コラーゲンIV、アクチン、BMP4、CMV、F50、HGF、西洋ワサビペルオキシド、HSP60p18、RV、S100A4、CITED1及びFHITから成る群から選択される複数の抗原を含む使用。
【請求項33】
診断用組成物が試料中の抗体の反応性を測定するのに使用され、それによって複数の抗原に対する試料の反応性パターンを決定し、対照試料の反応性パターンと比較した前記試料の反応性パターンの有意な差異はSLEについての指摘である請求項32の使用。

【図2】
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【公表番号】特表2013−519875(P2013−519875A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552519(P2012−552519)
【出願日】平成23年2月13日(2011.2.13)
【国際出願番号】PCT/IL2011/000153
【国際公開番号】WO2011/099012
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(503202608)イエダ リサーチ アンド ディベロプメント カンパニー リミテッド (5)
【出願人】(511255421)テル ハショメール メディカル リサーチ インフラストラクチャー アンド サービシズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】