説明

六チタン酸ナトリウム及びその製造方法

【課題】新規な形状を有し、摩擦材における優れた耐摩耗性や、樹脂組成物における優れた補強性能を有する六チタン酸ナトリウム及びその製造方法並びに該六チタン酸ナトリウムを含有する摩擦材を得る。
【解決手段】平均粒子径が2〜5μmの範囲であり、不定形の形状を有することを特徴としており、チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物を焼成して得られるか、チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物を焼成して得られる三チタン酸ナトリウムから調製されることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六チタン酸ナトリウム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦材に用いる摩擦調整剤としては、アスベストのような発癌性を持たないチタン酸カリウム繊維が、主に自動車用ブレーキパッドとして広く使用されている。チタン酸カリウム繊維を含む摩擦材は、摺動性に優れ、良好な制動効果を発揮するにもかかわらず、ブレーキディスクを傷つけないという非常に好ましい利点を有している。
【0003】
しかしながら、チタン酸カリウム繊維を含む摩擦材は、低温度域における摩擦係数が低く、自動車等の高速度化や、制動装置の小型化・軽量化等に対処するには、摩擦抵抗性に優れると共に、より高い摩擦係数を有し、その高摩擦係数が低温域から高温域に亘る広い温度範囲において安定に維持し得るものであることを要する。
【0004】
このような問題点を解決するため、六チタン酸ナトリウム多結晶繊維を含む摩擦材が提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、耐摩耗性、特に高温域での耐摩耗性をさらに改善することができる摩擦調整剤が求められている。
【特許文献1】特開平07−196817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な形状を有し、摩擦材における優れた耐摩耗性や、樹脂組成物における優れた補強性能を有する六チタン酸ナトリウム及びその製造方法並びに該六チタン酸ナトリウムを含有する摩擦材及び樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の六チタン酸ナトリウムは、平均粒子径(メディアン径)が2〜5μmの範囲であり、不定形の形状を有することを特徴としている。
【0008】
本発明の六チタン酸ナトリウムは、新規な形状を有しており、摩擦材における摩擦調整剤として用いた場合に、優れた耐摩耗性を得ることができる。また、樹脂に混合することにより優れた補強性能を得ることができる。
【0009】
本発明における平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0010】
また、本発明の六チタン酸ナトリウムは、比表面積が2〜4m/gであることが好ましい。比表面積は、動的定圧法による低温ガス吸着法(BET多点法)により測定することができる。
【0011】
本発明の六チタン酸ナトリウムは、不定形の形状を有している。従って、従来の六チタン酸ナトリウムのような、繊維状、板状、または粒状の形状ではなく、不規則な形状を有している。具体的には、複数の柱状粒子が不規則に配向して一体化した形状を有している。従って、柱状の一次粒子が凝集して二次粒子を形成したようなものとは異なるものである。
【0012】
本発明の六チタン酸ナトリウムは、チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物を焼成して得ることができる。
【0013】
また、本発明の六チタン酸ナトリウムは、チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物を焼成して得られる三チタン酸ナトリウムから調製することもできる。より具体的には、焼成して得られる三チタン酸ナトリウムを酸処理してナトリウム分を溶出させた後、焼成して、本発明の六チタン酸ナトリウムを得ることができる。
【0014】
本発明の一実施形態に従う六チタン酸ナトリウムは、チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物を焼成して得られることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の他の実施形態に従う六チタン酸ナトリウムは、チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる三チタン酸ナトリウムを酸処理してナトリウム分を溶出させた後、焼成して得られることを特徴としている。
【0016】
本発明の六チタン酸ナトリウムの製造方法(a)は、チタン源及びナトリウム源をメカノケミカルに粉砕しながら混合する工程と、粉砕混合物を焼成する工程とを備えることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の六チタン酸ナトリウムの製造方法(b)は、チタン源及びナトリウム源をメカノケミカルに粉砕しながら混合する工程と、粉砕混合物を焼成して、三チタン酸ナトリウムを調製する工程と、三チタン酸ナトリウムを酸処理してナトリウム分を溶出させた後、焼成する工程とを備えることを特徴としている。
【0018】
本発明の製造方法において、チタン源及びナトリウム源をメカノケミカルに粉砕しながら混合して得られる粉砕混合物は、反応活性の高い粉砕混合物である。
【0019】
チタン源としては、酸化チタンを含有する化合物を用いることができ、具体的には、酸化チタン、ルチル鉱石、水酸化チタンウェットケーキ、含水チタニアなどが挙げられる。
【0020】
ナトリウム源としては、加熱により酸化ナトリウムを生じる化合物を用いることができ、具体的には、酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、特に炭酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0021】
上記製造方法(a)においては、チタン源とナトリウム源の粉砕混合物を焼成することにより六チタン酸ナトリウムを調製する。従って、上記製造方法(a)においては、チタン源とナトリウム源の混合割合は、Ti:Na=1.0:6.0(モル比)を基本とすることが好ましく、Naは6.0±5%程度の範囲内であることが好ましい。
【0022】
また、上記製造方法(b)においては、チタン源とナトリウム源の粉砕混合物を焼成して、三チタン酸ナトリウムを調製する。従って、チタン源とナトリウム源の混合割合は、Ti:Na=1.0:3.0(モル比)を基本とすることが好ましく、Naが3.0±5%程度の範囲であることが好ましい。
【0023】
上記のチタン源及びナトリウム源の混合割合の範囲を外れると、所望の六チタン酸ナトリウムまたは三チタン酸ナトリウムが得られない場合がある。
【0024】
本発明において、メカノケミカルな粉砕としては、物理的な衝撃を与えながら粉砕する方法が挙げられる。具体的には、振動ミルによる粉砕が挙げられる。振動ミルによる粉砕を行うことにより、混合粉体の摩砕による剪断応力によって、原子配列の乱れと原子間距離の減少が同時に起こり、異種粒子の接点部分の原子移動が起こる結果、準安定相が得られると考えられる。このように準安定相が得られることにより、反応活性の高い粉砕混合物が得られると考えられる。
【0025】
本発明の上記製造方法(a)においては、上記のようにして得られた粉砕混合物を焼成して六チタン酸ナトリウムを調製する。粉砕混合物の焼成温度は、650〜1000℃の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、700〜1000℃の範囲であり、さらに好ましくは860〜950℃の範囲である。また、焼成時間は、0.5時間〜6時間であることが好ましく、さらに好ましくは、3時間〜5時間である。焼成温度が低すぎたり、焼成時間が短すぎると、粒子径が小さくなり、不定形状のチタン酸ナトリウムの単一組成が得られにくい場合がある。また、焼成温度が高すぎたり、焼成時間が長すぎると、チタン酸ナトリウムの形状が柱状となり、不定形の形状が得られにくい場合がある。
【0026】
本発明の上記製造方法(b)においては、粉砕混合物を焼成して三チタン酸ナトリウムを得る。このときの焼成温度及び焼成時間は、上記製造方法(a)の場合と同様である。このようにして得られた三チタン酸ナトリウムを酸処理してナトリウム分を溶出させる。酸処理においては、酸を添加した後のpHが、6.5〜7.5の範囲であることが好ましい。
【0027】
酸処理に用いる酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸や、酢酸等の有機酸を用いることができる。酸は必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0028】
上記のようにして三チタン酸ナトリウムを酸処理してナトリウム分を溶出させた後、例えば、吸引濾過などにより濾過し、脱水処理を行うことが好ましい。脱水処理後、焼成することにより、最終生成物である本発明の六チタン酸ナトリウムを得ることができる。このときの焼成温度は、400〜700℃の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは500〜650℃である。また、焼成時間は、0.5時間〜4時間であることが好ましく、さらに好ましくは0.5時間〜1時間である。焼成温度が低すぎたり、焼成時間が短すぎると、六チタン酸ナトリウムのXRD強度が低くなる場合がある。また、焼成温度が高すぎたり、焼成時間が長すぎると、粉体同士が固着する場合がある。
【0029】
粉砕混合物の焼成及び酸処理後の生成物の焼成は、電気炉、ロータリーキルン、管状炉、流動焼成炉、トンネルキルン等の各種焼成手段により行うことができる。
【0030】
焼成後は、ジョークラッシャー、ピンミル等を用いて粗粉砕、及び微粉砕を行い、必要に応じて篩処理や分級等を行う。
【0031】
以上のように、本発明の製造方法によれば、本発明の六チタン酸ナトリウムを製造することができる。
【0032】
本発明の摩擦材は、本発明の六チタン酸ナトリウムを摩擦調整剤として含むことを特徴としている。その含有量としては、1〜80重量%の範囲であることが好ましい。本発明の六チタン酸ナトリウムの含有量が1重量%未満であると、摩擦係数の安定等、摩擦調整剤としての効果を発現しにくい場合がある。80重量%を越えると、パッド成形が出来にくい場合がある。
【0033】
本発明の摩擦材は、本発明の六チタン酸ナトリウムを摩擦調整剤として含有しているので、低温から高温域にわたって極めて安定な摩擦摩耗特性(耐摩耗性、摩擦係数等)を発揮し得る。本発明の六チタン酸ナトリウムを含有することにより、良好な摩擦摩耗特性が得られる理由の詳細については明らかでないが、本発明の六チタン酸ナトリウムが、上記のような特定の形状を有しているため、良好な耐摩耗性及び摩擦係数が得られるものと思われる。また、高温でも組成が安定であることもその要因の一つであると思われる。
【0034】
従って、本発明の摩擦材は、例えば、自動車、鉄道車両、航空機、各種産業用機器類等に用いられる制動部材用材料、例えばクラッチフェーシング用材料及びブレーキライニングやディスクパッド等のブレーキ用材料等として用いることができるものであり、制動機能の向上、安定化、耐用寿命の改善効果を得ることができる。
【0035】
結合材としては摩擦材分野において常用されるものをいずれも使用でき、例えば、フェノール樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、天然ゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリルゴム、ハイスチレンゴム、スチレンプロピレンジエン共重合体等のエラストマー、ポリアミド樹脂、ポリフェニレルサルファイド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性液晶ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等の有機質結合材、アルミナゾル、シリカゾル、シリコーン樹脂等の無機質結合材等を挙げることができる。結合材は、1種を単独で使用でき、場合によっては2種以上の相溶性のあるもの同士を併用してもよい。
【0036】
本発明の摩擦材は、繊維状物を含んでいてもよい。繊維状物としては従来からこの分野で常用されているものをいずれも使用でき、例えば、アラミド繊維等の樹脂繊維、スチール繊維、黄銅繊維等の金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール、木質パルプ等を挙げることができる。これらの繊維状物は1種を単独で使用でき又は2種以上を併用できる。また、これらの繊維状物には、分散性、結合材との密着性向上等のために、アミノシラン系、エポキシシラン系、ビニルシラン系等のシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、リン酸エステル等で表面処理を施してもよい。
【0037】
また、本発明の摩擦材は、その好ましい特性を損なわない範囲で、従来からこの分野で常用されている摩擦調整剤を含んでいてもよい。該摩擦調整剤としては、例えば、加硫又は未加硫の天然又は合成ゴム粉末、カシュー樹脂粉末、レジンダスト、ゴムダスト等の有機物粉末、カーボンブラック、黒鉛粉末、二硫化モリブデン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、タルク、ケイソウ土、アンチゴライト、セピオライト、モンモリロナイト、ゼオライト、三チタン酸ナトリウム、六チタン酸ナトリウム、六チタン酸カリウム、八チタン酸カリウム等の無機質粉末、銅、アルミニウム、亜鉛、鉄等の金属粉末、アルミナ、シリカ、酸化クロム、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物粉末等を挙げることができる。これら従来の摩擦調整剤は、1種を単独で使用してもよいし、必要に応じて2種以上を用いてもよい。
【0038】
さらに、本発明の摩擦材は、防錆剤、潤滑剤、研削剤等の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0039】
本発明の摩擦材における各成分の配合割合は、使用する結合材の種類、必要に応じて配合する繊維状物、従来の摩擦調整剤、その他の添加剤等の種類、得ようとする摩擦材に求める摺動特性や機械的特性、その用途等の種々の条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常、摩擦材全量に対し、結合材を5〜60重量%(好ましくは10〜40重量%)、摩擦調整剤を1〜80重量%(好ましくは3〜50重量%)、繊維状物を60重量%まで(好ましくは1〜40重量%)、その他の添加剤を60重量%までとすればよい。
【0040】
本発明の摩擦材は、公知の摩擦材の製造方法に従って製造できる。例えば、必要に応じて結合材中に繊維状物を分散させた後、摩擦調整剤及び任意に配合されるその他の成分を混合してまたは別々に加えて混合し、得られる混合物を金型中に注入し、加圧加熱して結着成形すればよい。
【0041】
また、結合材を二軸押出機にて溶融混練し、サイドホッパーから摩擦調整剤、任意に配合される繊維状物、その他の成分を混合して又は別々に加え、押出成形後、所望の形状に機械加工してもよい。
【0042】
さらには、必要に応じて結合材中に繊維状物を分散させ、引き続き摩擦調整剤及び任意に配合されるその他の成分を加えて得られる混合物を水等に分散させ、抄き網上に抄き上げ、脱水してシート状に抄造した後、プレス機にて加圧加熱して結着成形し、得られる成形体を適宜切削、研磨加工等を施して所望の形状にすることもできる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の六チタン酸ナトリウムは、新規な形状を有しており、摩擦材における摩擦調整剤として用いることにより優れた耐摩耗性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)(直接法)
本実施例では、上記本発明の製造方法(a)に従い六チタン酸ナトリウムを調製した。
【0046】
〔粉砕混合物の調製〕
酸化チタン655g及び炭酸ナトリウム145gをヘンシェルミキサーで混合し、得られた混合物を振動ミルで粉砕しながら0.5時間混合した。なお、Ti:Na(モル比)は、6.0:1.0である。
【0047】
〔焼成〕
以上のようにして得られた粉砕混合物50gをルツボに充填し、電気炉にて900℃で4時間焼成した。得られた生成物を用いて、10重量%スラリー450mlを調製し、3時間撹拌した。このスラリーを炉別、乾燥し、電気炉にて550℃で1時間焼成した。
【0048】
得られた焼成物をハンマーミルにて解砕し、六チタン酸ナトリウム31.8gを得た。
【0049】
得られた六チタン酸ナトリウムを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図1は、得られた六チタン酸ナトリウムを示す走査型電子顕微鏡写真である。
【0050】
図1から明らかなように、得られた六チタン酸ナトリウムは、不定形の形状を有しており、複数の柱状粒子が不規則に配向して一体化した形状を有している。
【0051】
得られた六チタン酸ナトリウムについて、蛍光X線分析で確認したところ、NaTi13の組成を有する六チタン酸ナトリウムであることがわかった。
【0052】
図2は、得られた六チタン酸ナトリウムのX線回折チャートを示す図である。なお、X線回折装置(株式会社リガク製:RINT2000)にてX線回折の測定を行った。
【0053】
本実施例の六チタン酸ナトリウムの平均粒子径(メディアン径)は3.1μmであった。また、比表面積は、2.43m/gであった。
【0054】
また、図1に示すように、本実施例の六チタン酸ナトリウムは、不定形の形状を有しており、従来の繊維状、粒状の六チタン酸ナトリウムとは明らかに異なる形状を有するものである。
【0055】
(実施例2)(三チタン酸ナトリウム経由の製造方法)
本実施例においては、上記本発明の製造方法(b)に従い六チタン酸ナトリウムを調製した。
【0056】
〔粉砕混合物の調製〕
酸化チタン555g及び炭酸ナトリウム245gをヘンシェルミキサーで混合し、得られた混合物を振動ミルで粉砕しながら0.5時間混合した。なお、Ti:Na(モル比)は、3.0:1.0である。
【0057】
〔三チタン酸ナトリウムの調製〕
以上のようにして得られた粉砕混合物50gをルツボに充填し、電気炉にて900℃で4時間焼成して、三チタン酸ナトリウムを得た。
【0058】
〔酸処理及び焼成〕
得られた三チタン酸ナトリウムを用いて、10重量%スラリー450mlを調製し、3時間撹拌し、これに70重量%HSO水溶液10.02gを加えて1時間撹拌し、pH7.1に調整した。このスラリーを炉別、乾燥し、電気炉にて550℃で1時間焼成した。
【0059】
得られた焼成物をハンマーミルにて解砕し、六チタン酸ナトリウム35.6gを得た。
【0060】
得られた六チタン酸ナトリウムを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図3は、得られた六チタン酸ナトリウムを示す走査型電子顕微鏡写真である。
【0061】
図3から明らかなように、得られた六チタン酸ナトリウムは、不定形の形状を有しており、複数の柱状粒子が不規則に配向して一体化した形状を有している。
【0062】
得られた六チタン酸ナトリウムについて、蛍光X線分析で確認したところ、NaTi13の組成を有する六チタン酸ナトリウムであることがわかった。
【0063】
図4は、得られた六チタン酸ナトリウムのX線回折チャートを示す図である。なお、X線回折装置(株式会社リガク製:RINT2000)にてX線回折の測定を行った。
【0064】
本実施例の六チタン酸ナトリウムの平均粒子径(メディアン径)は3.4μmであった。また、比表面積は、3.13m/gであった。
【0065】
また、図3に示すように、本実施例の六チタン酸ナトリウムは、不定形の形状を有しており、従来の繊維状、粒状の六チタン酸ナトリウムとは明らかに異なる形状を有するものである。
【0066】
(比較例1)(繊維状六チタン酸ナトリウム)
〔粉砕混合物の調製〕
酸化チタン468gと炭酸ナトリウム207gと塩化ナトリウム125gをヘンシェルミキサーで0.5時間混合した。
【0067】
〔三チタン酸ナトリウムの調製〕
以上のようにして得られた粉砕混合物50gをルツボに充填し、電気炉にて900℃で4時間焼成した。
【0068】
〔酸処理及び焼成〕
得られたチタン酸ナトリウムを用いて、10重量%スラリー450mlを調製し、3時間撹拌し、これに70重量%HSO水溶液7.43gを加えて1時間撹拌し、pH7.0に調整した。このスラリーを炉別、乾燥し、電気炉にて600℃で1時間焼成した。
【0069】
得られた焼成物をハンマーミルにて解砕し、六チタン酸ナトリウム24.6gを得た。
【0070】
得られた六チタン酸ナトリウムを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図5は、得られた六チタン酸ナトリウムを示す走査型電子顕微鏡写真である。
【0071】
図5から明らかなように、得られた六チタン酸ナトリウムは、繊維状の形状を有している。
【0072】
得られた六チタン酸ナトリウムについて、蛍光X線分析で確認したところ、NaTi13の組成を有する六チタン酸ナトリウムであることがわかった。
【0073】
図6は、得られた六チタン酸ナトリウムのX線回折チャートを示す図である。なお、X線回折装置(株式会社リガク製:RINT2000)にてX線回折の測定を行った。
【0074】
本比較例の六チタン酸ナトリウムの平均繊維径は0.74μm、平均繊維長は6.5μmであった。また、比表面積は、4.25m/gであった。
【0075】
図12に、実施例1、実施例2及び比較例1の六チタン酸ナトリウムのX線回折チャートをまとめて示す。なお、図12には、六チタン酸ナトリウム(NaTi13)のX線回折チャートの文献値も併せて示している。
【0076】
<六チタン酸ナトリウムの粒度分布の測定>
実施例1及び2で得られた六チタン酸ナトリウムの粒度分布を測定した。粒度分布の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて行った。
【0077】
実施例1及び2で得られた六チタン酸ナトリウムを、振動ミルを用いて解砕し、解砕前、解砕10分後、及び解砕120分後において、D10、D50、D90及び標準偏差を求めた。測定結果を表1及び表2に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
また、実施例1の六チタン酸ナトリウムの解砕前及び解砕120分後のSEM写真を図7(実施例1)及び図8(実施例2)に示す。
【0081】
また、比較例1で得られた繊維状の六チタン酸ナトリウムについても、上記と同様に振動ミル粉砕により解砕し、その粒度分布を測定した。測定結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
また、比較例1の繊維状六チタン酸ナトリウムの解砕前及び解砕120分後のSEM写真を図9に示す。
【0084】
上記表1及び表2並びに図7及び図8から明らかなように、実施例1及び2で得られた六チタン酸ナトリウムは、振動ミル粉砕により解砕しても、粒子径が若干小さくなるものの、粒子径の大きな低減はなく、一体化された形状を保っていることがわかる。このことから、本発明の六チタン酸ナトリウムは、複数の柱状粒子が凝集して二次粒子を形成したものではなく、複数の柱状粒子が一体化した形状を有するものであることがわかる。
【0085】
<摩擦材における摩擦調整剤としての検討>
なお、以下に示す「部」は「重量部」である。
【0086】
(実施例3)(直接法六チタン酸ナトリウム)
実施例1で得られた六チタン酸ナトリウム20部、アラミド繊維10部、フェノール樹脂20部、硫酸バリウム50部を混合し、8.6MPaの圧力下にて1分間予備成形をした後、15MPaの圧力下および150℃の温度で5分間、金型による結着成形を行い、引き続き180℃で3時間熱処理した。成型物を金型から取り出し、研磨化工を施してディスクパッドA(JIS D 4411試験片)を製造した。
【0087】
(実施例4)(三チタン酸ナトリウム経由六チタン酸ナトリウム)
実施例2で得られた六チタン酸ナトリウム20部、アラミド繊維10部、フェノール樹脂20部、硫酸バリウム50部を混合し、8.6MPaの圧力下にて1分間予備成形をした後、15MPaの圧力下および150℃の温度で5分間、金型による結着成形を行い、引き続き180℃で3時間熱処理した。成型物を金型から取り出し、研磨化工を施してディスクパッドB(JIS D 4411試験片)を製造した。
【0088】
(比較例2)(繊維状六チタン酸ナトリウム)
比較例1で得られた繊維状六チタン酸ナトリウム20部、アラミド繊維10部、フェノール樹脂20部、硫酸バリウム50部を混合し、8.6MPaの圧力下にて1分間予備成形をした後、15MPaの圧力下および150℃の温度で5分間、金型による結着成形を行い、引き続き180℃で3時間熱処理した。成型物を金型から取り出し、研磨化工を施してディスクパッドC(JIS D 4411試験片)を製造した。
【0089】
(試験例1)(摩擦材−摩擦摩耗試験)
実施例3〜4及び比較例2で得られたディスクパッドA、B及びCにつき、JIS D 4411「自動車用ブレーキライニング」の規定に準じて低速式摩擦摩耗試験(ディスク摩擦面:FC25ねずみ鋳鉄、面圧:0.98MPa、摩擦速度7m/秒)を行って、摩耗率(cm/kgm)及び摩擦係数(μ)を測定した。結果を図10及び図11に示す。
【0090】
図10及び図11から明らかなように、本発明の六チタン酸ナトリウムを用いたディスクパッドA及びBは、繊維状六チタン酸ナトリウムを用いたディスクパッドCに比べ、摩耗率が小さく、耐摩耗性に優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に従う実施例1における六チタン酸ナトリウムを示す走査型電子顕微鏡写真。
【図2】本発明に従う実施例1において得られた六チタン酸ナトリウムのX線回折チャートを示す図。
【図3】本発明に従う実施例2における六チタン酸ナトリウムを示す走査型電子顕微鏡写真。
【図4】本発明に従う実施例2において得られた六チタン酸ナトリウムのX線回折チャートを示す図。
【図5】比較例1における繊維状六チタン酸ナトリウムを示す走査型電子顕微鏡写真。
【図6】比較例1において得られた繊維状六チタン酸ナトリウムのX線回折チャートを示す図。
【図7】本発明に従う実施例1における六チタン酸ナトリウムの解砕前及び解砕後を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図8】本発明に従う実施例2における六チタン酸ナトリウムの解砕前及び解砕後を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図9】比較例1における六チタン酸ナトリウムの解砕前及び解砕後を示す走査型電子顕微鏡写真。
【図10】ディスクパッドA〜Cのディスク温度と摩耗率の関係を示す図。
【図11】ディスクパッドA〜Cのディスク温度と摩耗係数の関係を示す図。
【図12】本発明に従う実施例1及び実施例2並びに比較例1の六チタン酸ナトリウムのX線回折チャートを併せて示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が2〜5μmの範囲であり、不定形の形状を有することを特徴とする六チタン酸ナトリウム。
【請求項2】
比表面積が2〜4m/gであることを特徴とする請求項1に記載の六チタン酸ナトリウム。
【請求項3】
複数の柱状粒子が不規則に配向して一体化した形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の六チタン酸ナトリウム。
【請求項4】
チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物を焼成して得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の六チタン酸ナトリウム。
【請求項5】
チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物を焼成して得られる三チタン酸ナトリウムから調製されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の六チタン酸ナトリウム。
【請求項6】
三チタン酸ナトリウムを酸処理してナトリウム分を溶出させた後、焼成して得られることを特徴とする請求項5に記載の六チタン酸ナトリウム。
【請求項7】
チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる粉砕混合物を焼成して得られることを特徴とする六チタン酸ナトリウム。
【請求項8】
チタン源及びナトリウム源のメカノケミカルな粉砕で得られる三チタン酸ナトリウムを酸処理してナトリウム分を溶出させた後、焼成して得られることを特徴とする六チタン酸ナトリウム。
【請求項9】
チタン源及びナトリウム源をメカノケミカルに粉砕しながら混合する工程と、
粉砕混合物を焼成する工程とを備えることを特徴とする六チタン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項10】
チタン源及びナトリウム源をメカノケミカルに粉砕しながら混合する工程と、
粉砕混合物を焼成して、三チタン酸ナトリウムを調製する工程と、
三チタン酸ナトリウムを酸処理してナトリウム分を溶出させた後、焼成する工程とを備えることを特徴とする六チタン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項11】
メカノケミカルな粉砕が、振動ミルによる粉砕であることを特徴とする請求項9または10に記載の六チタン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項12】
粉砕混合物の焼成温度が、650〜1000℃の範囲であることを特徴とする請求項9または10に記載の六チタン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項13】
三チタン酸ナトリウムの焼成温度が、400〜700℃の範囲であることを特徴とする請求項10に記載の六チタン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項14】
摩擦調整剤として、請求項1〜8のいずれか1項に記載の六チタン酸ナトリウムまたは請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法で製造された六チタン酸ナトリウムを含有することを特徴とする摩擦材。


【図4】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−303121(P2008−303121A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153083(P2007−153083)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】