説明

六価クロムの抽出方法

【課題】 特殊かつ高価な設備を要することなく、クロムめっきまたはクロメ−ト皮膜の表面または内部に残存する有害な六価クロムを確実かつ安価に抽出し、被処理素材からの六価クロムの溶出を阻止して、六価クロム残存部品の安全な使用や廃棄を図れ、環境汚染や人体への影響を防止できる、六価クロムの抽出方法を提供すること。
【解決手段】 被処理素材3に残存する六価クロムの抽出方法であること。
前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材3を液状または微粒子状の還元剤2に接触させる。
前記皮膜から六価クロムを抽出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊かつ高価な設備を要することなく、クロムめっきまたはクロメ−ト皮膜の表面または内部に残存する有害な六価クロムイオンを確実かつ安価に抽出し、被処理素材からの六価クロムの溶出を阻止して、六価クロム残存部品の安全な使用や廃棄を図れ、環境汚染や人体への影響を防止できる、六価クロムの抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄、非鉄金属、合成樹脂等の素材には、防錆や装飾、改質等を目的として、めっきや化成処理法等の種々の表面処理がなされている。なかでも、クロムめっきは、装飾性、耐食性、耐摩耗性に優れるため、装飾クロムめっきまたは工業用クロムめっきとして、自動車や電子および電気機器等の分野に広く採用されている。
【0003】
前記クロムめっき浴は、一般にクロムイオンの供給源としてクロム酸、つまり六価クロムを大量に使用するため、安全性や衛生、公害等に充分な対策を要するとともに、析出した金属クロムやクロム酸化物に六価クロムが残存し、これが雨水等で溶出して地下水や環境を汚染し、人体へ深刻な影響を及ぼすことが指摘されていた。
このため、欧米の自動車業界においては、六価クロムの使用量低減や使用禁止の法規制が検討され、電子および電気機器業界においても同様な動向が見受けられ、我国においてもこれに追随する動きが見られている。
【0004】
また、前記化成処理法であるクロメ−ト処理は、亜鉛めっき製品やカドミウムめっき製品の後処理として利用され、これはクロム酸または重クロム酸を主成分とする溶液中に被処理素材であるワ−クを浸漬し、ワ−クの表面に薄膜の不動態皮膜である防錆皮膜を生成させるものであるが、ワ−ク表面に残存する六価クロムが雨水等で溶出し、環境汚染や人体へ深刻な影響を及ぼすことが指摘されていた。
【0005】
このため、六価クロムやクロメ−ト処理に代わる代替技術の開発が急がれているが、その中心は三価クロム系が主流で、三価クロム皮膜をトップコ−トしたものが多い。
しかし、これらの代替技術は、試験レベルで六価クロムないしクロメ−ト処理と同程度のものが得られているが、概して量産レベルでのコスト面に課題があり、未だ十分なものは得られていない。
【0006】
一方、現状のクロムめっきまたはクロメ−ト処理部品は、前述のように六価クロムの溶出による環境汚染が問題視されているため、これをそのまま廃棄することはできず、また既存部品の使用にも不安があって、それらの問題の解決が早急に望まれている。
特に、欧州では電気電子機器に含まれる有害物質の使用制限に関するWEEE指令やRoHS指令の発効が近々予定され、我国においても同様な規制が予定され、その対応が急がれている。
【0007】
このような問題解決に応ずる手段として、六価クロムの抽出ないし除去法がある。
例えば、工場排水に還元剤を添加する反応槽と、反応槽から導入した排水に沈殿剤を添加してクロム沈殿物を生じさせる沈殿槽を有し、それらを接続する管路と排水供給管路に、排水中の六価クロム濃度を測定する測定手段を設け、該手段の測定値を基に還元剤の添加量を制御し、クロム沈殿物を調量することによって、沈殿物による管路の目詰まりを防止し、排水中のクロムを効率良く除去するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかし、前記クロムの除去方法は、排水中の六価クロムの除去を対象にしているため、固体のワ−クに残留する六価クロムの抽出に対応できず、しかも反応槽や沈殿槽、測定手段等を要して、設備が高価になり広い設置スペ−スを要する等の問題があった。
【0009】
前記問題を解決するものとして、Mg(II)およびCr(III)と有害なCr(IV)を含有するマグクロレンガやクロマグレンガのような六価クロム含有廃棄物に還元剤を加えて混合物とする混合工程と、該混合物を無酸素雰囲気で加熱してMg(II)を金属マグネシウムに還元し、Cr(IV)を還元無害化する還元処理工程と、還元処理と同時に還元処理された混合物から金属マグネシウムを気化させて分離回収する分離回収工程とを備えた、六価クロム含有廃棄物の処理方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
しかし、前記処理方法は、マグクロレンガをそのまま使用せず、これを微粉末状に粉砕する工程と粉砕設備を要して、廃棄物の処理に手間が掛かるとともに、複雑かつ煩雑な工程を要して、生産性が悪い等の問題があった。
【0011】
【特許文献1】特開2005−87988号公報
【特許文献2】特開平11−169814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような問題を解決し、特殊かつ高価な設備を要することなく、クロムめっきまたはクロメ−ト皮膜の表面または内部に残存する有害な六価クロムを確実かつ安価に抽出し、被処理素材からの六価クロムの溶出を阻止して、六価クロム残存部品の安全な使用や廃棄を図れ、環境汚染や人体への影響を防止できる、六価クロムの抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、被処理素材に残存する六価クロムの抽出方法において、六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を液状または微粒子状の還元剤に接触させ、前記皮膜から六価クロムを抽出して、六価クロムが残存する有形の被処理素材から、容易かつ速やかにしかも安価に六価クロムを抽出し得るようにしている。
請求項2の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、原形または略原形を維持して前記還元剤に接触させ、固体状の被処理素材を粉砕または粉末状に処理することなく、基本的に処理前の状態で抽出し得るようにして、容易かつ速やかにしかも安価な抽出処理を実現し、抽出処理の量産化に応じられるようにしている。
【0014】
請求項3の発明は、クロメ−ト処理後または廃棄前の六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、前記還元剤に接触させ、クロメ−ト皮膜またはクロムめっき皮膜に残存する六価クロムの抽出に好適であるとともに、被処理素材の生産過程または廃棄過程の双方の抽出処理に応じられ、六価クロム残存部品を適正に処理し、その安全な使用と廃棄を図り、環境汚染や人体への影響を防止するとともに、WEEE指令やRoHS指令等の発効や我国における規制に対応可能にしている。
請求項4の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を還元剤に浸漬し、該還元剤に超音波を放射し、還元剤による六価クロムの抽出処理に超音波放射処理を併用し、六価クロムを迅速かつ精度良く抽出するようにしている。
請求項5の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜から抽出した六価クロムを、前記還元剤を介して三価クロムに還元し、還元剤を六価クロムの抽出と三価クロムへの還元の双方への利用を図り、還元剤の合理的な利用を図るようにしている。
【0015】
請求項6の発明は、被処理素材に残存する六価クロムの抽出方法において、六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を液状または微粒子状の電解液に接触し、前記被処理素材に正または負電圧を印加して、前記皮膜から六価クロムを抽出し、被処理素材に残存する六価クロムを強制的かつ速やかに抽出し、抽出処理の能率向上と抽出精度の向上を図るようにしている。
請求項7の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、原形または略原形を維持して前記電解液に接触させ、固体状の被処理素材を粉砕または粉末状に処理することなく、基本的に処理前の状態で抽出し得るようにして、容易かつ速やかにしかも安価な抽出処理を実現し、抽出処理の量産化に応じられるようにしている。
【0016】
請求項8の発明は、クロムめっき後または廃棄前の六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、前記電解液に接触させ、クロメ−ト皮膜またはクロムめっき皮膜に残存する六価クロムの抽出に好適であるとともに、被処理素材の生産過程または廃棄過程の双方の抽出処理に応じられ、六価クロム残存部品を適正に処理し、その安全な使用と廃棄を図り、環境汚染や人体への影響を防止するとともに、WEEE指令やRoHS指令等の発効や我国における規制に対応可能にしている。
請求項9の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を電解液に浸漬し、該電解液に超音波を放射し、電解液による六価クロムの抽出処理に超音波放射処理を併用し、六価クロムを迅速かつ精度良く抽出するようにしている。
【0017】
請求項10の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材に正または負電圧を交互に印加し、六価クロムの抽出を能率良くかつ精度良く行なうようにしている。
請求項11の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜から抽出した六価クロムを前記電解液中に移動し、該六価クロムを還元剤に接触させて三価クロムに還元するようにして、六価クロムの抽出と三価クロムへの還元を合理的に行なうようにしている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明は、六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を液状または微粒子状の還元剤に接触させ、前記皮膜から六価クロムを抽出させるから、六価クロムが残存する有形の被処理素材から、容易かつ速やかにしかも安価に六価クロムを抽出することができる。
請求項2の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、原形または略原形を維持して前記還元剤に接触させるから、固体状の被処理素材を粉砕または粉末状に処理することなく、基本的に処理前の状態で抽出し得るようにして、容易かつ速やかにしかも安価な抽出処理を実現し、抽出処理の量産化に応じられる効果がある。
【0019】
請求項3の発明は、クロメ−ト処理後または廃棄前の六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、前記還元剤に接触させるから、クロメ−ト皮膜またはクロムめっき皮膜に残存する六価クロムの抽出に好適であるとともに、被処理素材の生産過程または廃棄過程の双方の抽出処理に応じられ、六価クロム残存部品を適正に処理し、その安全な使用と廃棄を図り、環境汚染や人体への影響を防止するとともに、WEEE指令やRoHS指令等の発効や我国における規制に対応することができる。
【0020】
請求項4の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を還元剤に浸漬し、該還元剤に超音波を放射するから、還元剤による六価クロムの抽出処理に超音波放射処理を併用し、六価クロムを迅速かつ精度良く抽出することができる。
請求項5の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜から抽出した六価クロムを、前記還元剤を介して、三価クロムに還元し、還元剤を六価クロムの抽出と三価クロムへの還元の双方への利用を図り、還元剤の合理的な利用を図るようにしている。
【0021】
請求項6の発明は、六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を液状または微粒子状の電解液に接触し、前記被処理素材に正または負電圧を印加して、前記皮膜から六価クロムを抽出させるから、被処理素材に残存する六価クロムを強制的かつ速やかに抽出し、抽出処理の能率向上と抽出精度の向上を図ることができる。
請求項7の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、原形または略原形を維持して前記電解液に接触させるから、固体状の被処理素材を粉砕または粉末状に処理することなく、基本的に処理前の状態で抽出し得るようにして、容易かつ速やかにしかも安価な抽出処理を実現し、抽出処理の量産化に応じられる効果がある。
【0022】
請求項8の発明は、クロムめっき後または廃棄前の六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、前記電解液に接触させるから、クロメ−ト皮膜またはクロムめっき皮膜に残存する六価クロムの抽出に好適であるとともに、被処理素材の生産過程または廃棄過程の双方の抽出処理に応じられ、六価クロム残存部品を適正に処理し、その安全な使用と廃棄を図り、環境汚染や人体への影響を防止するとともに、WEEE指令やRoHS指令等の発効や我国における規制に対応することができる。
請求項9の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を電解液に浸漬し、該電解液に超音波を放射するから、電解液による六価クロムの抽出処理に超音波放射処理を併用し、六価クロムを迅速かつ精度良く抽出することができる。
【0023】
請求項10の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材に正または負電圧を交互に印加するから、六価クロムの抽出を能率良くかつ精度良く行なうことができる。
請求項11の発明は、前記六価クロムが残存する皮膜から抽出した六価クロムを前記電解液中に移動し、該六価クロムを還元剤に接触させて三価クロムに還元するから、六価クロムの抽出と三価クロムへの還元を合理的に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を被処理素材(ワ−ク)の表面をクロメ−ト処理し、ワ−ク表面に被覆した不動態のクロメ−ト皮膜に残存する六価クロムの抽出に適用した図示の実施形態について説明すると、図1において1は反応浴槽で、内部にピロ亜硫酸ナトリウム等の還元剤2の希釈溶液、実施形態では5%濃度溶液が常温、常圧で収容され、該還元剤2中に表面をクロメ−ト処理した鉄若しくは非鉄金属または合成樹脂製の被処理素材(ワ−ク)3が浸漬されている。
【0025】
このように構成した六価クロムの抽出処理は、クロメ−ト処理後の六価クロム抽出工程、または経年的に使用したワ−ク3の廃棄前の処理工程において行なわれる。
前記六価クロムの抽出に際しては、還元剤2を収容可能な反応浴槽1を用意し、該反応浴槽1に市販の適宜な還元剤2を希釈して収容し、該還元剤2にワ−ク3を基本的にそのままの状態、つまり粉砕や圧潰加工することなく原形または略原形を維持して浸漬する。
したがって、ワ−ク3をそのまま還元剤2に収容できるから、クロメ−ト処理後に六価クロムを抽出する場合は、ワ−ク3を変形することなく抽出後に本来の利用を図れ、また廃棄前に六価クロムを抽出する場合は、粉砕や粉末化処理等の手間を要せず容易かつ迅速に抽出できる。
【0026】
こうしてクロメ−ト皮膜を有するワ−ク3を還元剤2に浸漬すると、還元剤2による還元反応が始まる。すなわち、クロメ−ト皮膜に残存する六価クロムが還元剤2に接触すると、三価クロムに還元されて還元剤2に拡散する。
この状況はクロメ−ト皮膜色の変化で確認される。すなわち、クロメ−ト皮膜は還元処理前は赤色を呈し、還元処理が進行するにつれて白色に変化することで還元の程度が確認され、白色の変化を確認したところで、六価クロムの抽出を終了し、抽出後のワ−ク3を還元剤2中から引き上げる。発明者の実験では、前記一連の六価クロムの抽出に約10〜15秒要することが確認された。
【0027】
前記六価クロムの抽出後、これが還元されて前記還元剤2に三価クロムが拡散し、アルカリ濃度が低減する一方、人体への影響を無視できるから、作業環境の劣化や環境汚染の心配がなく、基本的に廃液処理を要せずそのまま排水可能である。
このように、この実施形態では六価クロムの抽出と、抽出した六価クロムの三価クロムへの還元を同一の還元剤2によって行なっているから、還元剤2の有効利用を図れ、合理的な処理を実現する。
【0028】
このような六価クロムの抽出方法について、発明者は次のような六価クロムの溶出実験を行なった。すなわち、テストピ−スとしてクロメ−ト処理したアルミニウム製の二つのワ−ク3を用意し、これらを前記還元剤2に10秒または3分間浸漬し、これを純水を収容したビ−カに移し替えて加熱し、各テストピ−スを約5分間沸騰水中に浸漬し、六価クロムの溶出の有無を公知の検出薬剤を用いて確認した。
【0029】
その結果、還元剤2に10秒浸漬したワ−ク3から六価クロムが溶出し、還元剤2に3分間浸漬したワ−ク3からは六価クロムの溶出は確認できなかった。
このことから、クロメ−ト処理したワ−ク3を還元剤2に所定時間以上浸漬することによって、六価クロムの溶出を阻止できることが確認された。
また、浸漬時間が所定時間以下の場合は、クロメ−ト皮膜に残存していた六価クロムの三価クロムへの還元が不十分のため、未還元の六価クロムが溶出したと推定される。
【0030】
図2乃至図5は本発明の他の実施形態を示し、前述の実施形態の構成と対応する部分に同一の符号を用いている。
このうち、図2は本発明の第2の実施形態を示し、この実施形態は反応浴槽1の内部に電解液4が常温常圧で収容され、該電解液4として実施形態では、酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、オルソけい酸ナトリウム等からなる市販のアルカリ電解洗浄液を水で適宜希釈して使用している。
【0031】
前記電解液4にワ−ク3と電極板である鉄板製の陽極板5とが浸漬され、これらに導線6が接続されていて、該導線6にスイッチ7と電源8が介挿されている。前記ワ−ク3に電源8の陰極側が接続され、陽極板5に電源8の陽極側が接続されている。
前記ワ−ク3は表面をクロムめっきし、そのめっき皮膜は金属クロムとクロムの酸化物とでマット状ないしポ−ラス状をしていて、該めっき表面またはポア(孔)に残存する六価クロムないし六価クロムイオンを抽出するようにしている。
図中、9は反応浴槽1に投入した前述と同様なピロ亜硫酸ナトリウム等の還元剤で、その投入時期は、例えば六価クロムイオンの電気泳動開始時、または予め反応浴槽1に投入して置いても良い。
【0032】
この実施形態において、前記ワ−ク3の六価クロムないし六価クロムイオンを抽出する場合は、クロムめっき処理後の六価クロム抽出工程、または経年的に使用したワ−ク3の廃棄前の処理工程に行なわれる。
前記六価クロムの抽出に際しては、反応浴槽1に所定の電解液4を収容し、該電解液4にクロムめっきしたワ−ク3と陽極板5とを浸漬し、これらに電源8の陰極側または陽極側を接続する。
この場合、ワ−ク3は前述の実施形態と同様に基本的にそのままの状態、つまり粉砕や圧潰加工することなく浸漬する。
【0033】
したがって、ワ−ク3をそのまま電解液4に収容できるから、クロムめっき後に六価クロムを抽出する場合は、ワ−ク3を変形することなく抽出後に本来の利用を図れ、また廃棄前に六価クロムを抽出する場合は、粉砕等の手間を要せず容易かつ迅速に抽出できる。
【0034】
こうして電解液4にクロムめっきしたワ−ク3を浸漬し、スイッチ7をONして、ワ−ク3に負電圧を印加し、陽極板5に正電圧を印加すると、陰極側では電源8から電子を供給されて還元され、電解液4中の水素イオンが還元されて水素が発生し、陽極側では電源8から電子を放出され、電解液4中の水が酸化して酸素が発生する。
このような陰極電解状況の下でクロムめっきに残留する六価クロムが負電荷を帯び、これが反対の電荷を帯びた陽極板5方向へ電気泳動し、電解液4中に拡散する。
その際、六価クロムは前記発生した水素によって撹拌され、電解液4中の一様な拡散を促される。
【0035】
こうして、水素および酸素が発生し、六価クロムイオンが電気泳動ないし拡散し始めたところで、反応浴槽1に還元剤9を投入し、該還元剤9に六価クロムを接触させて、六価クロムを三価クロムに還元する。
したがって、六価クロムによる毒性が消失し、人体への影響を無視できるから、作業環境の劣化や環境汚染の心配がなく、基本的に廃液処理を要せず、そのまま廃液可能である
この場合、還元剤9を予め反応浴槽1に投入して置いても良く、そのようにすれば還元剤9の投入作業や投入時期を管理する面倒から解消される。
【0036】
図3は本発明の第3の実施形態を示し、この実施形態はワ−ク3と電極板5に前述と反対向きに電圧を印加している。このようにすることで、ワ−ク3に正電圧を印加し、該ワ−ク3に電源8から電子を放出して、電解液4中の水を酸化し酸素を発生させる。
このような陽極電解状況の下で、クロムめっきに残留する六価クロムは正電荷を帯び、これが反対の電荷を帯びた電極板5方向へ電気泳動し、電解液4中に拡散する。
その際、前記発生した酸素によって六価クロムを撹拌し、電解液4中の一様な拡散を促すとともに、該六価クロムを還元剤9に接触させて、六価クロムを三価クロムに還元し、所期の効果を得る。
【0037】
この場合、ワ−ク3に対する印加電圧の向きを変更可能にし、かつ陰極通電時と陽極通電時との比率を、電解液4の成分組成や汚染状態によって加減調節可能にする。
このようにするとワ−ク3に交番電圧が印加され、残存する六価クロムイオンの電荷が交番して帯電されるから、該六価クロムイオンが陽極または陰極側へ交互に電気泳動し、六価クロムが精密かつ確実に抽出され、還元剤9を介して三価クロムに精密かつ効率良く還元される。
【0038】
図4は本発明の第4の実施形態を示し、この実施形態は第2若しくは第3の実施形態、または前述の交番電圧を印加する応用形態において、反応浴槽1の近接位置に超音波発信器10を設けるとともに、該発信器10に連係して作動する超音波振動子11を反応浴槽1内の底部または側面に複数設置する。
そして、超音波振動子11によって小さな気泡を多量に発生させ、還元剤2または電界液4と還元剤9との撹拌を増進させるとともに、前記気泡が消滅する際の衝撃波によって、ワ−ク3に残留する六価クロムの抽出や移動を促し、六価クロムの抽出精度を向上するとともに、三価クロムへの還元作用を旺盛かつきめ細かく行なうようにしている。
【0039】
このような六価クロムの抽出方法について、発明者は次のような六価クロムの溶出ないし抽出実験を行なった。すなわち、テストピ−スとして前述のクロムめっきしたアルミニウム製のワ−ク3を複数用意し、その一つを1000mLの純水中に浸漬して加熱し、前記純水を沸騰させて約100mLに濃縮後、前記純水中の六価クロムの溶出の有無を測定したところ、2ppm以上の六価クロム濃度を計測した。
【0040】
次に、別のテストピ−スを10%濃度の還元剤9に3分間浸漬後、1000mLの純水中に浸漬して加熱し、前記純水を沸騰させて約100mLに濃縮後、前記純水中の六価クロムの溶出の有無を測定したところ、2ppm以上の六価クロム濃度を計測した。
更に、別のテストピ−スを10%濃度の還元剤9に浸漬し、かつその際超音波を1分間放射した後、1000mLの純水中に浸漬して加熱し、前記純水を沸騰させて約100mLに濃縮後、前記純水中の六価クロムの溶出の有無を測定したところ、2ppm以上の六価クロム濃度を計測した。
【0041】
また、別のテストピ−スを電解液4に浸漬し、1分間陰極電解した後、1000mLの純水中に浸漬して加熱し、前記純水を沸騰させて約100mLに濃縮後、前記純水中の六価クロムの溶出の有無を測定したところ、0.5ppmの六価クロム濃度を計測した。
更に、別のテストピ−スを電解液4に浸漬し、2分間陰極電解した後、1000mLの純水中に浸漬して加熱し、前記純水を沸騰させて約100mLに濃縮後、前記純水中の六価クロムの溶出の有無を測定したところ、0.3ppmの六価クロム濃度を計測した。
【0042】
次に、別のテストピ−スを電解液4に浸漬し、3分間陰極電解した後、1000mLの純水中に浸漬して加熱し、前記純水を沸騰させて約100mLに濃縮後、前記純水中の六価クロムの溶出の有無を測定したところ、0.05ppm以下の六価クロム濃度を計測した。
また、前記電解液4に浸漬し、その際超音波を3分間放射して陰極電解した後、1000mLの純水中に浸漬して加熱し、前記純水を沸騰させて約100mLに濃縮後、前記純水中の六価クロムの溶出の有無を測定したところ、0.05ppm以下の六価クロム濃度を計測した。
更に、別のテストピ−スを前記電解液4に浸漬し、その際超音波を1分間照射して陰極電解した後、1000mLの純水中に浸漬して加熱し、前記純水を沸騰させて約100mLに濃縮後、前記純水中の六価クロムの溶出の有無を測定したところ、0.1ppmの六価クロム濃度を計測した。
【0043】
このように前記実験では図2に示す陰極電解法によって、六価クロムの溶出濃度が低下するが、その効果は陰極電解時間に関係し、1分間で0.5ppm、2分間で0.3ppm、3分間で0.05ppm以下になり、これらが法規制値の0.5ppm以下になることが確認された。
また、前記陰極電解法に、超音波照射を併用することによって、六価クロムの溶出濃度は法規制値の0.5ppm以下になり、法規制値を満足するとともに、六価クロムの抽出精度が向上することが確認された。
【0044】
図5は本発明の第5の実施形態を示し、この実施形態は第1の実施形態に超音波放射法を併用したもので、還元剤2を収容した反応浴槽1の近接位置に超音波発信器10を設け、該発信器10に連係して作動する超音波振動子11を反応浴槽1内の底部または側面に複数設置する。
そして、超音波振動子11によって小さな気泡を多量に発生させ、還元剤2の撹拌を増進させるとともに、前記気泡が消滅する際の衝撃波によって、クロメ−ト処理したワ−ク3に残留する六価クロムの抽出や移動を促し、六価クロムの抽出精度を向上するとともに、三価クロムの還元作用を旺盛かつ能率良く行なうようにしている。
【0045】
なお、前述の実施形態では何れもワ−ク3を還元剤2または電解液4および/または還元剤9に浸漬しているが、これに限らず還元剤2または電解液4および/または還元剤9を微粒子状に形成し、これらに接触させることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
このように本発明の六価クロムの抽出方法は、特殊かつ高価な設備を要することなく、クロムめっきまたはクロメ−ト皮膜の表面または内部に残存する有害な六価クロムを確実かつ安価に抽出し、被処理素材からの六価クロムの溶出を阻止して、六価クロム残存部品の安全な使用や廃棄を図れ、環境汚染や人体への影響を防止できるようにしたものである
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明をクロメ−ト皮膜に残存する六価クロムの抽出に適用した正面図で、クロメ−ト処理部品を還元剤に浸漬して六価クロムを抽出し、これを三価クロムへ還元させている状況を示している。
【図2】本発明をクロムめっき部品に残存する六価クロムの抽出に適用した正面図で、クロムめっき部品を電解液に浸漬して陰極電解し、抽出した六価クロムを還元剤に接触させて、三価クロムへ還元させている状況を示している。
【0048】
【図3】本発明をクロムめっき部品に残存する六価クロムの抽出に適用した正面図で、クロムめっき部品を電解液に浸漬して陽極電解し、抽出した六価クロムを還元剤に接触させて、三価クロムへ還元させている状況を示している。
【図4】図2の陰極電解法による六価クロムの抽出法に、超音波放射法を併用して、クロムめっき部品に残存する六価クロムを抽出し、三価クロムへ還元させている状況を示している。
【0049】
【図5】図1の六価クロムの抽出法に超音波放射法を併用して、クロメ−ト皮膜に残存する六価クロムを抽出し、三価クロムへ還元させている状況を示している。
【符号の説明】
【0050】
2 還元剤
3 被処理素材(ワ−ク)
4 電解液
9 還元剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理素材に残存する六価クロムの抽出方法において、六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を液状または微粒子状の還元剤に接触させ、前記皮膜から六価クロムを抽出させることを特徴とする六価クロムの抽出方法。
【請求項2】
前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、原形または略原形を維持して前記還元剤に接触させる請求項1記載の六価クロムの抽出方法。
【請求項3】
クロメ−ト処理後または廃棄前の六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、前記還元剤に接触させる請求項1記載の六価クロムの抽出方法。
【請求項4】
前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を還元剤に浸漬し、該還元剤に超音波を放射する請求項1記載の六価クロムの抽出方法。
【請求項5】
前記六価クロムが残存する皮膜から抽出した六価クロムを、前記還元剤を介して三価クロムに還元する請求項1または請求項3記載の六価クロムの抽出方法。
【請求項6】
被処理素材に残存する六価クロムの抽出方法において、六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を液状または微粒子状の電解液に接触し、前記被処理素材に正または負電圧を印加して、前記皮膜から六価クロムを抽出させることを特徴とする六価クロムの抽出方法。
【請求項7】
前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、原形または略原形を維持して前記電解液に接触させる請求項6記載の六価クロムの抽出方法。
【請求項8】
クロムめっき後または廃棄前の六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を、前記電解液に接触させる請求項6記載の六価クロムの抽出方法。
【請求項9】
前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材を電解液に浸漬し、該電解液に超音波を放射する請求項6記載の六価クロムの抽出方法。
【請求項10】
前記六価クロムが残存する皮膜を有する被処理素材に正または負電圧を交互に印加する請求項6記載の六価クロムの抽出方法。
【請求項11】
前記六価クロムが残存する皮膜から抽出した六価クロムを前記電解液中に移動し、該六価クロムを還元剤に接触させて三価クロムに還元する請求項6または請求項8記載の六価クロムの抽出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−320805(P2006−320805A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144858(P2005−144858)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(500398289)
【Fターム(参考)】