説明

六価クロムの浄化剤および六価クロム含有物の六価クロム浄化方法

【課題】建設産業廃棄物であるコンクリート塊の破砕物、土壌、メッキ廃液などの六価クロム含有物の六価クロムを浄化する際に用いられる、環境に優しく、取り扱いが簡単で、安価で、しかも浄化作用に優れた六価クロム浄化剤を提供する。
【解決手段】粗糖の製造あるいは精製糖の製造の際に副産物として得られる廃糖蜜を六価クロム浄化剤として用いる。廃糖蜜は、必要に応じ水により希釈され、コンクリート塊の破砕物、土壌などに噴霧されるあるいは廃糖蜜水溶液中に浸漬される、あるいは土壌に注入される、あるいは廃液などに添加される。これにより、建設産業廃棄物であるコンクリート塊の破砕物、土壌、廃液の六価クロム浄化が行われ、路盤材・埋め戻し材等に安全に利用可能なコンクリート再生材料や、安全な土壌、無公害廃液を形成することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロムを含む土壌やコンクリート砕石、地下水、表層水などの被汚染体(六価クロム含有物)を浄化するための浄化剤、及びこれを用いた六価クロム含有物の六価クロム浄化方法に関する。より詳細には、環境に優しく、取り扱いも簡単で、浄化効果の優れた六価クロムの浄化剤及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が重視され、土木・建築分野においても、環境問題の観点から、土木、建築に使用される材料、あるいは土壌から、重金属、ダイオキシン、トリクロロエチレンなどの除去を行う方法、浄化剤が種々提案されている。例えば、六価クロムにより汚染された土壌や地下水を復元する技術としては、掘削除去、固形化・不溶化、封じ込めが一般的に行われている方法である。
【0003】
例えば、有害重金属などを無害化する技術として、汚染された土壌などに過マンガン酸塩、オゾン、次亜塩素酸、過酸化水素などの酸化剤を注入する方法、土壌をクエン酸または酒石酸水溶液により処理して有害重金属を除去する方法、植物に重金属を吸収・蓄積して土壌から汚染物を除去するファイトレメディエーションと呼ばれる方法などが提案され、実施もされている。
【0004】
六価クロムに着目した場合、六価クロムを還元して水に不溶な三価クロムとして浄化する技術が種々提案されている。このような方法としては、例えば、第一鉄塩等の還元剤を用いる方法(特許文献1参照)、鉄(0)または第一鉄塩と糖類などの微生物活性剤からなる浄化剤を用い、微生物活性剤により増殖・活性化された土着の六価クロム還元微生物による生物的還元作用を利用するとともに、添加した鉄の還元力を長期にわたり持続させる方法(特許文献2参照)、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、リボースなど還元性末端基を有する単糖類、マルトースやラクトースなど還元性末端基を有する二糖類・少糖類、上白糖などのショ糖分解物、還元性末端基を多く有するデキストリンなどの還元性を備えた糖類である還元糖を用いる方法(特許文献3参照)などが提案されている。
【0005】
一方、建設産業廃棄物であるコンクリート塊は、そのほとんどは中間処理破砕され、路盤材・埋め戻し材等の砕石として再利用されている。また、このとき生成するズリや砂も再利用されている。しかし、これらのコンクリート塊から得られる再生材料の多くに、有害な可溶性六価クロムが混入している場合があることが問題となっている。その場合は、可溶性六価クロムを土壌環境基準値0.05mg/Lを超えて溶出しないようにする対策が必要である(平成3年8月23日環境庁告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」参照)。このような対策として、六価クロムを含有する物質を工作物中に密閉処理する方法、溶出している六価クロムを捕捉材により吸着し保持する方法、雨水等が浸透しないように遮水するか、コンクリート再生材料から浸透水が外部に漏れないように遮水するなどの方法が採られている。しかし、これらの方法は六価クロムを除去するものでなく、根本的な問題解決となるものではない。
【0006】
これに対し、コンクリート塊を破砕することにより得られるズリ、砕石、砂などに含まれる六価クロムに対しても、上記土壌や地下水の処理と同様三価クロムに還元して無害化することが提案されている。例えば、コンクリート塊中の六価クロムを処理水によって溶出させ、溶出した六価クロムを、還元剤として硫酸化第1鉄を使用し還元処理する方法(特許文献4参照)、還元剤として亜硫酸カルシウムを使用し、亜硫酸カルシウムを粉の状態でコンクリート塊の粉砕物に配合し、被着・混合させることにより、コンクリート塊の粉砕物が水分と接触した場合に溶出する六価クロムを還元し、六価クロムの溶出を防止する方法(特許文献5参照)、還元剤として亜硫酸ナトリウムを添加し可溶性六価クロムを無害化する方法(特許文献6参照)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−86322号公報
【特許文献2】特開2006−204963号公報
【特許文献3】特開2008−229540号公報
【特許文献4】特開2001−121109号公報
【特許文献5】特開2007−014881号公報
【特許文献6】特開2010−201333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したように、六価クロムを三価クロムに還元して土壌、コンクリート廃材の砕石材などに含まれる六価クロムを無害化する技術は種々提案されているが、例えば、特許文献4の方法においては、処理水を使用することから、そのための設備が必要となり、また処理工程も多くなることから、コスト的な問題がある。また、特許文献5の方法では、還元作用の即効性はなく、また亜硫酸カルシウムは水に溶けにくいので、コンクリート塊の破砕物を骨材として利用する場合、コンクリートとの混練時間が長くなる。さらに、特許文献6の方法では、還元剤と破砕物をミキサーに投入し、これに所定量の亜硫酸ナトリウム水溶液を添加しミキシングすればよく、工程的にも簡単であるが、亜硫酸ナトリウム水溶液を放置すると硫酸ナトリウムに変質するし、酸、熱などで分解し二酸化硫黄ガスを発生する。また、亜硫酸ナトリウムは安価であるといっても、化学物質であるのでその製造にはそれなりのコストはかかる。したがって、より安価で、環境に優しく、しかも効果も良好で、かつ取り扱いも簡単な六価クロムの浄化剤が求められている。
【0009】
本発明は、上記のごとき問題が解消された、環境に優しく、pH、熱などの条件により影響を受けず、したがって取り扱いが簡単であり、浄化効果も良好で、安価な六価クロム浄化剤を提供することを目的とするものである
【0010】
また、本発明は、上記六価クロム浄化剤を用いた六価クロム含有物の六価クロム浄化方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、砂糖を精製する際に精糖残渣として得られる糖蜜(廃糖蜜)が、六価クロムの還元性に優れていることを見出し、この知見に基づいて本発明を成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に示す六価クロム浄化剤及び六価クロム浄化方法に関する。
【0013】
(1)廃糖蜜を含有することを特徴とする六価クロム浄化剤。
【0014】
(2)前記六価クロム浄化剤にさらに水が含まれることを特徴とする上記(1)に記載の六価クロム浄化剤。
【0015】
(3)上記(1)または(2)に記載の六価クロム浄化剤において、該浄化剤がコンクリート廃材の砕石材の浄化に用いられることを特徴とする六価クロム浄化剤。
【0016】
(4)前記コンクリート廃材の砕石材が再生砂であることを特徴とする上記(3)に記載の六価クロム浄化剤。
【0017】
(5)上記(1)または(2)に記載の六価クロム浄化剤において、該浄化剤が土壌または廃液の浄化に用いられることを特徴とする六価クロム浄化剤。
【0018】
(6)上記(1)または(2)に記載の六価クロム浄化剤を用いて六価クロム含有物を処理することを特徴とする六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。
【0019】
(7)前記六価クロム含有物がコンクリート廃材の砕石材または土壌であり、これに前記六価クロム浄化剤を噴霧することを特徴とする上記(6)に記載の六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。
【0020】
(8)前記六価クロム含有物がコンクリート廃材の砕石材であり、これを前記六価クロム浄化剤に浸漬することを特徴とする上記(6)に記載の六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。
【0021】
(9)前記六価クロム含有物が土壌であり、これに前記六価クロム浄化剤を注入することを特徴とする上記(6)に記載の六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。
【0022】
(10)前記六価クロム含有物が廃液であり、これに前記六価クロム浄化剤を添加することを特徴とする上記(6)に記載の六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の六価クロム浄化剤として用いられる廃糖蜜は、精製糖を製造する際に副次的に得られる材料であることから、非常に安価であり、したがって六価クロム浄化を安価に行うことができる。また、廃糖蜜は天然由来の材料であることから安全で、環境に優しく、取り扱いも簡単であり、しかも六価クロム浄化作用に優れていることから、従来六価クロムを浄化する際に用いられている材料と同等あるいはそれ以上の効果を上げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明においては、六価クロム処理剤として廃糖蜜が用いられる。上記したように、廃糖蜜は砂糖を原料であるサトウキビあるいは甜菜から製造する際に精糖残渣として得られものである。廃糖蜜としては、原料としてサトウキビが用いられる場合、サトウキビを精糖する際に得られる廃糖蜜や、さらにサトウキビの精糖により得られた原料糖(粗糖)をさらに精糖し、三温糖を製造したした後の、糖分を結晶させられなかった残りである精製糖廃糖蜜がある。前記廃糖蜜は、糖分などを6割前後含んでおり、そのまま甘味料として、またうま味調味料(グルタミン酸の生成)やアルコール(工業用だけでなくラム酒なども)などの発酵工業の原料として用いられている。一方、甜菜からの廃糖蜜は、糖分はほぼ取り尽くされている。本発明においては、廃糖蜜であればよく、前記したものの何れのものをも使用することができるし、それらの任意の混合物であってもよい。なお、精製糖廃糖蜜は、使用用途も限られていることから安価であり、このため精製糖廃糖蜜がコストの面から好ましいものである。また、後述するように、砂糖(蔗糖)自体六価クロムの還元能力は極めて低く、このことから廃糖蜜の六価クロム浄化作用は、廃糖蜜に含まれる蔗糖以外の成分によって奏されているものであると考えられる。
【0025】
本発明の六価クロム浄化剤は、種々の六価クロムを含む浄化対象物に適用することができ、また適用方法も適用対象物により適宜変更できる。代表的な浄化対象物としては、コンクリート廃材であるコンクリート塊を破砕して得られた砕石材である、再生ズリ、再生砕石、再生砂や、六価クロムを含む土壌、廃液、例えばメッキ廃液などが挙げられる。適用方法としては、噴霧、混合、浸漬、圧入、添加などの方法が適宜採用され、必要であれば複数の方法が組み合わされてもよい。例えば、前記砕石材に対しては、噴霧、混合、浸漬方法が、土壌に対しては噴霧、混合、圧入方法が、廃液に対しては、添加方法が好ましく用いられる。
【0026】
廃糖蜜は粘度が高い。このため、例えば噴霧などで適用される場合には、そのままでは噴霧することが非常に難しい。また、噴霧できたとしても、砕石材の表面全体に行きわたるように適用するためには、希釈したものに比べより多くの処理剤が必要となる。このため噴霧で用いられる場合には、通常、水などにより、噴霧に適した粘度、あるいは処理に適した濃度となるよう調整される。このとき、必要であれば、廃糖蜜の溶解性を促進するため、水とともにアルコールなどの水親和性の溶媒がさらに用いられてもよい。水は廃糖蜜を希釈できるものであればよく、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水など入手し得る何れの水であってもよい。
【0027】
本発明の六価クロム浄化剤を用いて、六価クロムを浄化する方法を、コンクリート構造物を解体した際に排出されたコンクリート塊を粉砕することにより得られた、再生ズリ、再生砕石、再生砂などに適用し、六価クロムの浄化を行う場合を例に挙げて、さらに詳しく説明する。
【0028】
コンクリート構造物を解体した際に排出された廃材であるコンクリート塊は、通常次のような方法により再生ズリ、再生砕石、再生砂などとして製品化される。コンクリート構造物を解体した際に排出されたコンクリート塊は、再生プラント工場に集積される。これをまず始めに、パワーショベル等を利用しクラッシャー機に投入し一次破砕を行い、廃材に含まれる鉄クズやその他のごみを取り除く。その後二次破砕、必要に応じ三次破砕を行い、各製品規格に合った篩を通し、粒度を調整した後ベルトコンベアーにて所定の区画に堆積される。この過程で含水比の調整および防塵目的により、製品に水が噴霧される。なお、通常、再生ズリは二次破砕前のもの、再生砕石は粒径が40mm程度以下とされたもの、再生砂は10mm程度以下とされたものである。
【0029】
こうして製品化された再生ズリ、再生砕石、再生砂などに、本発明の六価クロム浄化剤が適用される。再生砂に関しては、前記環境庁告示第46号により、可溶性六価クロムを土壌環境基準値0.05mg/Lを超えて溶出しないようすることが規定されていることから、再生砂について説明すると、上記基準値を超えて六価クロムが溶出しないような量、濃度の廃糖蜜水溶液を再生砂に噴霧する。その後、必要に応じ、噴霧処理された砂を適宜の手段で攪拌あるいは混ぜ合わせ、噴霧された廃糖蜜水溶液が再生砂の表面全体に行きわたるようにされることが好ましい。再生砂はコンクリート塊を破砕した際、再生ズリ、再生砕石と篩分けされて分別され、ベルトコンベアーなどで集積場所に搬送され、ベルトコンベアーから落下、山積みされるが、このとき、砂に適度の水分を含ませるため、および埃の発生を防止するため、従来落下時に水が噴霧されている。このことから、この噴霧される水として廃糖蜜を溶解した水を用いることが好ましい。この方法によれば、従来のコンクリート破砕装置、分別装置、搬送装置、噴霧装置をそのまま用い、噴霧装置の水供給装置に六価クロム浄化剤を添加する装置を付加するのみで、再生砂の浄化を行うことができる。本発明の浄化剤である廃糖蜜が溶解された水溶液が噴霧された再生砂には、例えばビニールシートを被せるなどして、六価クロムの三価クロムへの還元処理が終了するまで水分が蒸発しないようにし、しばらく静置されることが好ましい。
【0030】
また、再生ズリ、再生砕石などの処理に当たっては、破砕から分別集積までの間の適宜の箇所、例えば篩分けされた後に、廃糖蜜水溶液をその表面に均一に行きわたるように噴霧してやればよい。さらに、噴霧に代えて、再生ズリ、再生砕石、再生砂などを例えばロッグウォッシャー(ミキサー)に投入し、本発明の浄化剤である廃糖蜜溶液を添加し、ミキシング後しばらく放置しておくなどの方法でもよい。また、再生ズリ、再生砕石、再生砂などを、廃糖蜜水溶液中に投入、浸漬させてもよい。このとき、浸漬状態で出荷まで保存されてもよいし、浸漬後適宜の時間が経過した後、廃糖蜜水溶液を適宜の手段で分離してもよい。
【0031】
一方、土壌に適用する場合、土壌を掘り起こし、これに適宜の濃度の廃糖蜜水溶液を適宜の量噴霧した後、適宜の攪拌手段を用いて土壌を攪拌混合し、静置する方法や、土壌に適宜の濃度の廃糖蜜水溶液を圧入する方法が好ましい方法として挙げられる。また、メッキ廃液などの六価クロム含有廃液に本発明の六価クロム浄化剤を適用する場合、六価クロム含有廃液に廃糖蜜水溶液を加えてもよいし、溶解性の問題が無ければ、廃糖蜜を廃液中に直接添加し、廃液中で溶解して所定の濃度とし、還元、浄化処理が行われてもよい。
【0032】
本発明の六価クロム浄化剤の廃糖蜜の濃度、および六価クロム浄化剤の量は、六価クロムに汚染された処理物の汚染程度に合わせ、適宜の濃度、量とされればよく、特に限定されるものではない。例えば、再生砂に噴霧する場合、噴霧される廃糖蜜の粘度は、噴霧装置で噴霧できる粘度となる濃度とされる。噴霧装置との関係もあるが、廃糖蜜1重量部に対し、通常0.5重量部以上の水が用いられればよい。一般的には、廃糖蜜1重量部に対し1重量部程度の量で用いられる。廃糖蜜濃度が薄くなればなるほど、同量の廃糖蜜を再生砂に供給するために、より多くの量の廃糖蜜水溶液を噴霧することが必要とされる。また、廃糖蜜水溶液の濃度が低くなれば、浄化処理に、より長時間を要することとなる。再生砂を例に挙げて適用される廃糖蜜水溶液の濃度を例示したが、前記の通り、廃糖蜜水溶液の濃度は処理対象物、適用方法により、最適の濃度とされ、使用されればよい。
【0033】
六価クロムで汚染された被処理対象物に対する六価クロム浄化剤中の廃糖蜜の量は、被処理対象物における処理されなければならない六価クロム量によって異なり、特に限定されるものではない。すなわち、砕石材の大きさ、六価クロム汚染の程度などにより六価クロム溶出量が異なり、この溶出量に応じて浄化剤の量が適宜決定されることとなる。処理されなければならない六価クロムの量に対し、必要以上の量廃糖蜜を用いても、処理剤が無駄となるし、一方、処理されなければならない六価クロムの量に対し、必要量の廃糖蜜が用いられない場合、六価クロムが三価に還元されないで残留することになる。後記実施例に示されるように、被処理対象物が再生砂であり、六価クロム溶出量が0.06mg/Lである場合、再生砂の重量に対し0.05重量%程度用いれば、平成3年8月23日環境庁告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」の溶出基準0.05mg/Lをクリヤーすることができるし、六価クロム溶出量が0.18mg/Lであれば、1重量%程度用いればよい。このようなことを勘案すると、本発明の六価クロム処理剤の使用量は、被処理物の六価クロム溶出量を予め測定し、この測定量に応じ使用量を決定することが好ましい。しかし、一般的には、再生砂の六価クロム溶出量は前記環境庁告示第46号で規定された量を幾分超える程度のものが多いことからすると、通常被処理再生砂の重量に対し、廃糖蜜の量で0.05重量%程度以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1重量%、更に好ましくは0.2重量%以上である。なお、再生砕石、再生ズリの場合、再生砂に比べ単位重量当たりの表面積は小さいことから、上記再生砂に対する量に比べより少量でも効果を得ることができる。土壌などの浄化処理を行う場合には、六価クロム浄化剤の量は、再生砂の処理の場合に比べより多量に用いることが一般的には必要となる。六価クロム含有廃液の場合には、廃液に含まれる六価クロムの量を勘案して、六価クロムが少なくとも全て還元される量以上用いることが好ましい。
【0034】
本発明で用いられる廃糖蜜は、後記実施例、比較例の記載から明らかなように、従来六価クロムを含む重金属などの浄化剤として提案されているグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、リボースなど還元性末端基を有する単糖類、マルトースやラクトースなど還元性末端基を有する二糖類・少糖類、上白糖などの蔗糖分解物、還元性末端基を多く有するデキストリンなどの還元性を備えた糖類に比べ極めて六価クロムの還元性に優れている。また、比較例に蔗糖の還元性を示したが、蔗糖には、六価クロムを還元する能力はほとんどない。このことから、本発明の六価クロム浄化剤である廃糖蜜の効果は、廃糖蜜に含まれる蔗糖によるものでないことは明らかである。
【0035】
本発明の六価クロムの浄化剤および六価クロム含有物の六価クロム浄化方法は、必要であれば、従来公知の六価クロム浄化剤あるいは六価クロム浄化方法と組み合わせて用いられてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例、比較例をあげて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の例中において、「部」、「%」は、特に断りが無い限り「重量部」、「重量%」を表す。また、以下の例で用いられた精製糖廃糖蜜は、原料糖(粗糖)を精製して精製糖を製造した際に白下から分蜜して得られたものであり、BX(Brix)は81.6°、糖度(Z°)は29.6°、還元糖は23.1%、総糖分は68.6%、純糖率は36.3%、灰分は8.29%、pHは5.8であった。
【0037】
(実施例1)
水80部に対し、20部の精製糖廃糖蜜を溶解して、20%精製糖廃糖蜜水溶液を調製し、これを121℃で15分間加熱し、無菌状態にした。その後、121℃で15分間加熱して無菌状態とされた水と前記20%精製糖廃糖蜜水溶液を混ぜて、0.1%精製糖廃糖蜜水溶液を調製した。前記0.1%精製糖廃糖蜜水溶液に、CrO3を121℃で15分間加熱した滅菌水に溶解した1.9mM六価クロム水溶液を添加して、0.80ppmの六価クロム濃度にした。これを常温で静置して、経時的に六価クロム濃度を測定した。溶液中の六価クロム濃度の測定は、ジフェニルカルバジド吸光光度法により行った。結果を表1に示す。
【0038】
なお、ジフェニルカルバジド吸光光度法による測定は以下のとおりの方法で行った。
4.85mgの1,5−ジフェニルカルボノヒドラジドを2mlのアセトンに溶解し、10mM濃度のジフェニルカルボノヒドラジドアセトン溶液を調製した。10mMジフェニルカルボノヒドラジドアセトン溶液1容量とH2SO4(H2SO4(1+9) JIS K8956に規定する硫酸)水溶液9容量を混合して、1mMジフェニルカルボノヒドラジド水溶液を調製した。検体の試料と1mMジフェニルカルボノヒドラジド水溶液を容量比1:1で混合して、室温で10分間静置した。六価クロムが存在すると色を呈するので、この呈色を分光光度計を用いて540nmの吸光度として測定した。種々の濃度の六価クロムを含有する標準物質からの測定結果を基準にして、検体試料中の六価クロム濃度を算出した。
【0039】
(実施例2)
0.1%精製糖廃糖蜜水溶液に代えて0.5%精製糖廃糖蜜水溶液を用いることを除き実施例1と同様にして、0.80ppmの六価クロム濃度の0.5%精製糖廃糖蜜水溶液を調製し、溶液中の六価クロム濃度を実施例1と同様の方法で経時的に測定した。結果を表1に示す。
【0040】
(比較例1)
0.1%精製糖廃糖蜜水溶液に代えて、121℃で15分間加熱し無菌状態とされた水を用いることを除き実施例1と同様にして、0.8ppm六価クロム水溶液を調製し、溶液中の六価クロム濃度を実施例1と同様の方法で経時的に測定した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から、精製糖廃糖蜜を含まない比較例1においては六価クロム濃度の変化が無かったのに対し、精製糖廃糖蜜を含有する実施例1及び実施例2においては、六価クロムの浄化がなされ、また精製糖廃糖蜜濃度が高い実施例2においては、実施例1に比べより高い浄化が行われることが分かる。
【0043】
(実施例3)
水80部に対し、20部の精製糖廃糖蜜を溶解して、20%精製糖廃糖蜜水溶液を調製し、この精製糖廃糖蜜水溶液を121℃で15分間加熱し、無菌状態にした。その後、121℃で15分間加熱して無菌状態とされた水と前記20%精製糖廃糖蜜水溶液を混ぜて、0.4%精製糖廃糖蜜水溶液を調製した。前記0.4%精製糖廃糖蜜水溶液に、六価クロム水溶液を添加して、0.53ppmの六価クロム濃度にした。これを常温で静置して、経時的に六価クロム濃度を測定した。溶液中の六価クロム濃度の測定は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表2に示す。
【0044】
(比較例2)
水60部に対し、40部のグルコースを溶解して、40%グルコース水溶液を調製し、これを121℃で15分間加熱し、無菌状態にした。その後、121℃で15分間加熱して無菌状態とされた水と前記40%グルコース水溶液を混ぜて、0.4%グルコース水溶液を調製した。前記0.4%グルコース水溶液に、六価クロム水溶液を添加して、0.53ppmの六価クロム濃度にした。これを常温で静置して、経時的に六価クロム濃度を測定した。溶液中の六価クロム濃度の測定は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表2に示す。
【0045】
(比較例3)
0.4%グルコース水溶液に代えて、121℃で15分間加熱し無菌状態とされた水を用いることを除き実施例3と同様にして、0.53ppm六価クロム水溶液を調製し、溶液中の六価クロム濃度を実施例1と同様の方法で経時的に測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2から、精製糖廃糖蜜を用いた実施例3においては時間の経過とともに六価クロム濃度が減少し、六価クロム浄化が行われたものの、グルコースを用いた比較例2および何も添加しなかった比較例3では、ともに時間が経過しても六価クロム濃度はほとんど変化せず、またグルコース添加による効果は六価クロム浄化剤無添加の比較例3と同じであることから、グルコースには六価クロム浄化作用はほとんどないと考えられる。
【0048】
(比較例4)
水を121℃で15分間加熱して、無菌状態の水を調製した。10%蔗糖水溶液をフィルター滅菌し、これに前記無菌状態の水を加え0.4%蔗糖水溶液を調製した。こうして調製された蔗糖水溶液100部に対し10mM六価クロム水溶液0.2部を添加して、実施例1と同様な方法により経時的に六価クロム濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0049】
(比較例5)
蔗糖水溶液を用いないことを除き比較例4と同様にして六価クロム含有水溶液を調製し、比較例4と同様にして経時的に六価クロム濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表3から、蔗糖を添加した比較例4の水溶液は、六価クロム濃度が低減しなかった。比較例5の無添加のものも同様に六価クロム濃度の低減を示さなかった。したがって、蔗糖には六価クロム浄化作用はないものと考えられる。
【0052】
表1〜3の結果から、精製糖廃糖蜜の六価クロムに対する還元力が極めて優れていることが分かる。また、従来六価クロム浄化剤として提案された還元糖の中で好ましいものとして挙げられたグルコースによっては、六価クロム浄化効果(還元力)はないこと、さらに廃糖蜜に含まれる蔗糖にも六価クロムの浄化作用(還元力)が無く、このため精製糖廃糖蜜の六価クロム還元力は少なくとも蔗糖、グルコース還元糖などによるものでないことが分かる。
【0053】
(実施例4〜7、比較例6)
コンクリート塊を破砕した際に得られた粒径10mm以下の再生砂(野外に山積みされていた再生砂)を浄化対象物として用いた。一方、六価クロム浄化剤として、精製糖廃糖蜜100部に対し水を100部用いて希釈した水溶液、すなわち水で2倍(重量ベース)に希釈した精製糖廃糖蜜水溶液を用いた。まず、再生砂300gをボール状の容器に入れ、これに前記精製糖廃糖蜜水溶液を、噴霧器で0.30g(精製糖廃糖蜜の量で0.15g;再生砂に対し0.05%:実施例4)、0.60g(精製糖廃糖蜜の量で0.30g;再生砂に対し0.10%:実施例5)、1.2g(精製糖廃糖蜜の量で0.60g;再生砂に対し0.20%:実施例6)、3.0g(精製糖廃糖蜜の量で1.5g;再生砂に対し1.00%:実施例7)各々噴霧した後、ボール状の容器の中で攪拌し、ビニール袋に入れ静置した。こうして得られた精製糖廃糖蜜水溶液処理された再生砂について、六価クロム溶出量をJIS K 0102−65.2.1に準拠して2週間後に測定した。なお、比較のため、水0.30gを噴霧した再生砂(比較例6)の六価クロム溶出量も同様に測定した。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
(実施例8〜11、比較例7)
被処理再生砂を121℃で15分加熱して無菌化することを除き実施例4〜7及び比較例6と同様に処理し、実施例4〜7、比較例6と同様の方法で、2週間後に六価クロム溶出量を測定した。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】

【0057】
表4および表5から、六価クロム処理剤として精製糖廃糖蜜水溶液を用いることにより、2週間後六価クロムの溶出量が減少し、その減少は使用量が多くなるに従って少なくなることが分かる。また、無菌化した再生砂と無菌化していない再生砂において同じ結果が得られたことから、本発明の精製糖廃糖蜜を用いた六価クロム浄化処理は、再生砂に存在する微生物の効果によるものではなく、また本発明の浄化処理は微生物の影響を受けるものでないことも分かる。
【0058】
なお、実施例4〜11において、振とう前の処理された再生砂のpH値をJIS K 0102−12.1に準拠して測定したところ、10.3〜10.6であり、振とう後6時間後の処理された再生砂のpH値はこれより0.4〜0.5pH値が上がり、10.8〜11.0となっていた。未処理の再生砂の振とう前のpH値は、10.3であり、振とう後6時間後のpH値は10.9であった。
【0059】
(実施例12〜16、比較例8)
粒径10mm以下の被処理再生砂として、実施例4〜7、比較例6で用いたものとは異なる再生砂を用い、噴霧量を、300gの再生砂に対し、0.30g(精製糖廃糖蜜の量で0.15g;再生砂に対し0.05%:実施例12)、0.60g(精製糖廃糖蜜の量で0.30g;再生砂に対し0.10%:実施例13)、1.2g(精製糖廃糖蜜の量で0.60g;再生砂に対し0.20%:実施例14)、3.0g(精製糖廃糖蜜の量で1.5g;再生砂に対し1.00%:実施例15)、6.0g(精製糖廃糖蜜の量で3.0g;再生砂に対し1.00%:実施例16)とすることを除き、実施例4〜7、比較例6と同様にして処理を行い、3日後、4日後、5日後、7日後の六価クロム溶出量をJIS K 0102−65.2.1に準拠して測定した。結果を表6に示す。
【0060】
【表6】

【0061】
表6から、3日後の値と7日後の値がほとんど同じであることから、精製糖廃糖蜜による六価クロム処理の大部分は3日目までに終了したものと考えられる。また、六価クロムの減少量は、ほぼ精製糖廃糖蜜の量に比例することが伺え、使用された精製糖廃糖蜜による還元力が使い果たされた後には、さらなる還元は起こらなかったと考えられる。
【0062】
(実施例17)
粒径10mm以下の再生砂5gに100mM六価クロム水溶液15μLを添加し、これを被処理試料として用いた。なお、水はイオン交換水を用いた。この被処理試料に対し1%精製糖廃糖蜜水溶液10mLを混合した。所定時間静置した後試料中の六価クロム量をジフェニルカルバジド吸光光度法により測定した。結果を表7に示す。
【0063】
(比較例9)
精製糖廃糖蜜水溶液を加えないことを除き実施例17と同様にして被処理試料を調製し、実施例17同様試料中の六価クロム量を測定した。結果を表7に示す。
【0064】
【表7】

【0065】
以上詳細に述べたように、本発明の六価クロム浄化剤を用いることにより、安全、簡便、環境に優しく、安価に、建設産業廃棄物であるコンクリート塊の破砕物、土壌、廃液など六価クロム含有物の六価クロム浄化が行われ、路盤材・埋め戻し材等に安全に利用可能なコンクリート再生材料の製造、安全な土壌の形成、廃液の無公害化を行うことが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃糖蜜を含有することを特徴とする六価クロム浄化剤。
【請求項2】
前記六価クロム浄化剤にさらに水が含まれることを特徴とする請求項1記載の六価クロム浄化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の六価クロム浄化剤において、該浄化剤がコンクリート廃材の砕石材の浄化に用いられることを特徴とする六価クロム浄化剤。
【請求項4】
前記コンクリート廃材の砕石材が再生砂であることを特徴とする請求項3記載の六価クロム浄化剤。
【請求項5】
請求項1または2に記載の六価クロム浄化剤において、該浄化剤が土壌または廃液の浄化に用いられることを特徴とする六価クロム浄化剤。
【請求項6】
請求項1または2記載の六価クロム浄化剤を用いて六価クロム含有物を処理することを特徴とする六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。
【請求項7】
前記六価クロム含有物がコンクリート廃材の砕石材または土壌であり、これに前記六価クロム浄化剤を噴霧することを特徴とする請求項6記載の六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。
【請求項8】
前記六価クロム含有物がコンクリート廃材の砕石材であり、これを前記六価クロム浄化剤に浸漬することを特徴とする請求項6記載の六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。
【請求項9】
前記六価クロム含有物が土壌であり、これに前記六価クロム浄化剤を注入することを特徴とする請求項6記載の六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。
【請求項10】
前記六価クロム含有物が廃液であり、これに前記六価クロム浄化剤を添加することを特徴とする請求項6記載の六価クロム含有物の六価クロム浄化方法。

【公開番号】特開2012−126843(P2012−126843A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280440(P2010−280440)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【特許番号】特許第4807709号(P4807709)
【特許公報発行日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(510331858)初野建材工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】