説明

六角板状形態をしたアラゴナイト系炭酸カルシウムの製造方法

【課題】可溶性カルシウム塩水溶液と可溶性炭酸塩水溶液と界面活性剤を用いて、六角板状の炭酸カルシウムを製造することを目的とし、樹脂、ゴム、塗料や製紙あるいは化粧品等の機能性添加剤としての六角板状炭酸カルシウムを提供する。
【解決手段】可溶性カルシウム塩水溶液と可溶性炭酸塩水溶液に界面活性剤をミセル濃度以上滴下添加し40℃以上で反応させることにより、六角板状形態をしたアラゴナイト系炭酸カルシウムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は白色充填材や化粧品等の有用な六角板状の形態のアラゴナイト系炭酸カルシウムを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、炭酸カルシウムには、安定型のカルサイト系結晶、淳安定型のアラゴナイト系結晶と不安定型のバテライト系結晶がある。カルサイト系結晶の形態は、一般に立方状または紡錘状であり、アラゴナイト系結晶の形態は、針状あるいは柱状であり、バテライト系結晶の形態は、球状であると言われている。
【0003】
<従来技術>
板状形態をした炭酸カルシウムの合成方法として、以下のものが提案されている。
板状形態をした水酸化カルシウムを高温で、炭酸ガスで炭酸化しカルサイト系板状形態をした炭酸カルシウム合成する方法(石膏石灰学会誌「石膏と石灰」No.196(以下、非特許文献1という))、の記載がある。
特開昭61−219717(以下、特許文献1という)に、「板状形態をした塩基性炭酸カルシウムを200℃以上の温度で、炭酸ガスと接触させて炭酸化しカルサイト系の板状炭酸カルシウムを製造する方法」の記載がある。
特開昭63−6469(以下、特許文献2と言う)には、「一部炭酸化した石灰乳とアルカリ性炭酸水溶液と反応させて得る方法」の記載がある。
特開昭63−50316(以下、特許文献3と言う)には、「板状形態の炭酸カルシウムの製造方法としては、第一段階として炭酸カルシウムあるいは水酸化カルシウムの水溶液に過剰の炭酸ガスを反応させて炭酸水素カルシウム水溶液を調整し、次いで第二段階として加熱制御された水に滴下あるいは注水して得る方法」の記載がある。
特開平11−314915(以下、特許文献4という)に、「特定量の生石灰及び/又は消石灰と特定量の水を含有するメタノール懸濁液に炭酸ガスを導入し、炭酸化反応途中の特定時点で反応系内温度を特定の温度に調整し、炭酸化反応開始から反応系内の導電率が特定の値に到達する時間を特定化して炭酸化反応を行ない、球状又は楕円球状バテライト炭酸カルシウムの製造方法」の記載がある。
特許第1991290(以下、特許文献4と言う)には、「石灰乳に炭酸ガスを導入し、板状形態をした塩基性炭酸カルシウム生成条件下に有機ホスホン酸化合物を共存下で炭酸化反応をさせることにより合成する方法」の記載がある。
特許第3362239(以下、特許文献5と言う)には、「石灰乳に炭酸ガスを導入し、塩基性炭酸カルシウム乳液にアミン化合物を添加し炭酸化を行い、円板状炭酸カルシウムを製造する方法」の記載がある。
特開2003−277049(以下、特許文献7と言う)には、「カルシウム化合物をアルカリ金属水酸化物の水溶液と反応させ後、炭酸化して合成する方法」の記載がある。
特許文献1〜3と特許文献6及び非特許文献1の方法で製造された板状炭酸カルシウムは、全て結晶系がカルサイトであり、特許文献4と5の方法で製造された炭酸カルシウムの結晶系はバテライトであり、粒子径制御が困難であり利用範囲が限定されている。
また、アラゴナイト系炭酸カルシウムの形態は、針状あるいは柱状と言われていたが、六角板状形態となることは、結晶学的にも結晶表面のイオン配列が異なるため、変わった物性が期待できる。
【0004】
しかしながら、非特許文献1と特許文献1は、固体の板状形態の水酸化カルシウムや塩基性炭酸カルシウムを気体の炭酸ガスと接触反応させ、炭酸化させ炭酸カルシウムを生成させるため、大量の熱エネルギーを必要とし、更に炭酸化に長時間を要し、コスト高となり工業的製造に向いていない。更に、生成する炭酸カルシウムの形態が六角板状であるが、結晶系はカルサイトであり、本発明の六角板状と形態が同じであるが、結晶系がアラゴナイト系であり異なる。
特許文献2の製造方法は、一部炭酸化した石灰乳とアルカリ性炭酸水溶液と反応させて得る方法で得られる炭酸カルシウムには、大量のアルカリ物を含むための水洗が必要であり手間が掛かり生成炭酸カルシウムもカルサイト系であるため、本発明の形態は同じ六角板状であるがアラゴナイト系結晶となり異なる。
特許文献3の製造方法は、炭酸カルシウムあるいは水酸化カルシウムの水溶液に過剰の炭酸ガスを導入して炭酸水素カルシウム溶液を大量に製造することが困難であり、多量の熱エネルギーを消費し工業化に不向きであり、カルサイト系であるため、本発明の形態は同じ六角板状であるがアラゴナイト系結晶となり異なる。
特許文献4の製造方法は、石灰乳に大量のアルコールを加え炭酸ガスで炭酸化する方法で、アルコールの回収に設備と費用がかかりコスト高になると同時に、石灰石由来の石灰乳中の不純物により日本薬局方や食品添加物規格には不適となり、工業的製造に向いていない。更に、生成する炭酸カルシウムの形態が球状又は楕円球状であり、本発明の六角板状形態と異なる。
特許文献5の製造方法は、石灰乳の炭酸ガス導入時に塩基性炭酸カルシウム生成条件下で炭酸化を行い、塩基性炭酸カルシウム生成時に有機ホスホン酸化合物を添加し、塩基性炭酸カルシウムの形態を保ったまま炭酸化されるため、生成炭酸カルシウムの形態は六角板状であるが、結晶系はカルサイトであるため、本発明の形態は同じ六角板状であるがアラゴナイト系結晶となり異なる。
特許文献6の製造方法は、石灰乳の炭酸ガス導入時に塩基性炭酸カルシウム生成条件下で炭酸化を行い、塩基性炭酸カルシウム生成時にアミン化合物を添加し炭酸化を行うが、生成炭酸カルシウムの形態は円板状であり、結晶系はバテライトであるので、本発明は六角板状形態であり結晶系がアラゴナイトと異なる。
特許文献7の製造方法は、カルシウム化合物を水溶性アルカリ金属水酸化物でカルシウムイオンに分解後炭酸化を行うことにより、生成する炭酸カルシウムの形態は鱗片状であり結晶系はカルサイトであるで、本発明は六角板状形態であり結晶系がアラゴナイトと異なる
【0005】
【特許文献1】特開昭61−219717号公報
【特許文献2】特開昭63−6469号公報
【特許文献3】特開昭63−50316号公報
【特許文献4】特開平11−314915号公報
【特許文献5】特許第1991290号公報
【特許文献6】特許第3362239号公報
【特許文献7】特開2003−277049号公報
【非特許文献1】安江任、土田良明、田中健一、荒井康夫、六角板状水酸化カルシウムの加熱炭酸化と炭酸化物の性質、石膏と石灰、日本、石膏石灰学会、1986年、No.196,121
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、六角板状形態をした炭酸カルシウムであるので、通常の炭酸カルシウムの持っている特長である白色性と板状構造であるカオリンやタルクの持っている特長である平滑性の両方の特徴を持つものとなり、塗料、樹脂や製紙等あるいは化粧品に配合するやと、平滑性、光沢性や白色性を高めることができ、物性が改善され配合効果が現れ、利用範囲を飛躍的に拡大させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、鋭意研究の結果、前記課題を達成するため、溶液法の簡易さの利点を生かし、可溶性カルシウム塩に可溶性炭酸塩、あるいは可溶性炭酸塩に可溶性カルシウム塩をある温度条件で滴下反応して炭酸化反応を行う時に、界面活性剤を共存させることにより、六角板状のアラゴナイト系炭酸カルシウムが生成することを見出し、実現したものである。
又、このようにして製造された六角板状アラゴナイト系炭酸カルシウムは、粒子径が3〜30μmと塩基性炭酸カルシウムから合成された板状炭酸カルシウムよりも10倍以上大きく、樹脂、ゴム、塗料等の充填材や紙の塗工剤あるいは化粧品等に利用されている板状鉱物カオリンやタルク等の代替あるいはそれ以上の機能性材料として期待されるものである。
而して、本発明の特徴とするところは次の(1)〜(3)の通りである。
(1)、水溶性カルシウム塩溶液に予め界面活性剤を存在させた後に水溶性炭酸塩溶液を滴下し反応させるに際し、あるいは水溶性炭酸塩溶液に予め界面活性剤を存在させた後に水溶性カルシウム塩溶液を滴下し反応させるに際し、あるいは水溶性カルシウム塩溶液と水溶性炭酸塩溶液の各々に予め界面活性剤を存在させた後に両液を滴下し反応させるに際し、水溶性カルシウム塩と水溶性炭酸塩の濃度を0.01〜1モル/Lにし、前記界面活性剤の添加量を臨界ミセル濃度を超える量にすると共に前記滴下反応時間を0.1〜6時間にし、反応温度を40〜90℃にすることを特徴とする六角板状形態をしたアラゴナイト系炭酸カルシウムの製造方法。
(2)、前記水溶性カルシウム塩は、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム等を1種類以上を用い、水溶性炭酸塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等を1種類以上を用いることを特徴とする前記(1)に記載の六角板状形態をしたアラゴナイト系炭酸カルシウムの製造方法。
(3)、前記界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤あるいはノニオン性界面活性剤等の一般公知の界面活性剤を1種類以上を用いることを特徴とする前記(1)に記載の六角板状形態をしたアラゴナイト系炭酸カルシウムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明の六角板状形態をしたアラゴナイト系炭酸カルシウム製造方法は、好ましくは、可溶性カルシウム塩に可溶性炭酸塩、あるいは可溶性炭酸塩に可溶性カルシウム塩を40〜80℃温度条件で滴下反応して炭酸化反応を行う時に、界面活性剤を臨界ミセル濃度(CMC)以上に共存させることにより、六角板状のアラゴナイト系炭酸カルシウムを確実に生成することができるものである。更にこの六角板状のアラゴナイト系炭酸カルシウムは、今まで提案されている板状炭酸カルシウムよりも粒子径が10倍以上大きいいため、樹脂、ゴム、塗料や製紙等に配合すれば板状効果が出るため、平滑性、光沢性や白色性が増加するものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤あるいはノニオン性界面活性剤の1種類以上を含み、添加量が臨界ミセル濃度を超えることが必要条件である。例えばアニオン性界面活性剤としては、脂肪酸あるいは不飽和脂肪酸のアルカリ金属塩、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩やモノアルキルリン酸塩がある。カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩やアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩がある。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシドやアルキルカルボキシベタミンがある。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミドやアルキルモノグリセリルエーテルがある。これらの1種類以上をcmcの濃度を超える量を添加して反応を行う必要がある。
アニオン性界面活性剤のモノアルキル硫酸塩であるドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDSという)を使用して説明をする。
【0010】
0.05〜1.5モル/L好ましくは1モル/LのSDS(cmcは25℃で0.008モル/L)臨界ミセル濃度を溶かした、0.01〜1モル/L好ましくは0.1〜0.5モル/Lの可溶性カルシウム塩水溶液の液温を40〜90℃好ましくは50〜70℃に、0.01〜1モル/L好ましくは0.1〜0.5モル/Lの可溶性炭酸塩水溶液を0.1〜6時間好ましくは0.5〜5時間で滴下し反応を完結させる。SDS濃度が0.05モル/L未満では、SDSの限界ミセル濃度以下となり六角板状形態が生成しない。SDS濃度が1.5モル/Lを超えると、SDSが完全に溶解せず六角板状形態が生成しない。塩化カルシウムと炭酸ナトリウム濃度が0.01モル/L未満では、生成炭酸カルシウムの量が少なく工業的でない。又、1モル/Lを超えると濃度が濃すぎるために均一に反応させることが困難となり、生成物の形状が均一にならない。又反応温度が50℃未満では、アラゴナイト結晶の含有率が低下し、均一な形態が生成しない。又反応温度が70℃を超えると熱エネルギーを多量に使用するようになり、エネルギー無駄となる。更に、滴下反応時間が0.1時間未満では、六角板状のアラゴナイトの含有量が少なくなり、6時間を越えても六角板状のアラゴナイトの含有量がほとんど変わらいことより、工業的製造には0.1〜6時間が良い。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤に拘らず、どのような種類の界面活性剤単独あるいは2種類以上の混合物でも良い。更に、可溶性カルシウム塩としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム等の1種類以上を含めばよい。又、可溶性炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の1種類以上を含めばよい。
以下、本発明の実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
SDS28.84gを500mlビーカーに秤量し、60℃の温水100mlに溶かす。この液に塩化カルシウム5.55gを秤量した溶液を攪拌しながら、100mlの水に炭酸ナトリウム5.30gを溶解した液を、33.6ml/時間で滴下した。滴下終了後、濾過し、充分に水洗後、アルコール水洗後、70℃で20時間乾燥して粉体を得た。この生成物のSEM観察結果、5〜10μmの六角板状形態をしていた。(図1)またこの生成物のX線回折の結果、アラゴナイト結晶を主成分で少量のカルサイト結晶が認められた。(図2)
【実施例2】
【0012】
SDS14.42g秤量した以外は実施例1と同様に行った。SEM観察の結果は5〜8μmの六角板状形態で、X線回折の結果はアラゴナイト結晶を主成分で少量のカルサイト結晶が認められた。
【実施例3】
【0013】
SDS28.84gを500mlビーカーに秤量し、60℃の温水100mlに溶かす。この液に炭酸ナトリウム5.30gを秤量した溶液を攪拌しながら、100mlの水に塩化カルシウム5.55gを溶解した液を、33.6ml/時間で滴下した。滴下終了後、濾過し、充分に水洗後、アルコール水洗後、70℃で20時間乾燥して粉体を得た。この生成物のSEM観察結果、3〜7μmの六角板状形態をしていた。またこの生成物のX線回折の結果、アラゴナイト結晶を主成分で少量のカルサイト結晶が認められた。
〔比較例1〕
【0014】
SDSを秤量しなかった以外は実施例1と同様に行った。SEM観察の結果は3〜12μmの針状形態で(図3)、X線回折の結果はアラゴナイト結晶を主成分で少量のカルサイト結晶が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】六角板状アラゴナイト型炭酸カルシウムの粒子構造を表す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍)である(実施例1)
【図2】六角板状アラゴナイト型炭酸カルシウムのX線回折図である(実施例1)。
【図3】針状アラゴナイト型炭酸カルシウムの粒子構造を表す走査型電子顕微鏡写真(倍率4000倍)である(比較例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性カルシウム塩溶液に予め界面活性剤を存在させた後に水溶性炭酸塩溶液を滴下し反応させるに際し、あるいは水溶性炭酸塩溶液に予め界面活性剤を存在させた後に水溶性カルシウム塩溶液を滴下し反応させるに際し、あるいは水溶性カルシウム塩溶液と水溶性炭酸塩溶液の各々に予め界面活性剤を存在させた後に両液を滴下し反応させるに際し、水溶性カルシウム塩と水溶性炭酸塩の濃度を0.01〜1モル/Lにし、前記界面活性剤の添加量を臨界ミセル濃度を超える量にすると共に前記滴下反応時間を0.1〜6時間にし、反応温度を40〜90℃にすることを特徴とする六角板状形態をしたアラゴナイト系炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記水溶性カルシウム塩は、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムの1種類以上を用い、水溶性炭酸塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムの1種類以上を用いることを特徴とする請求項1に記載の六角板状形態をしたアラゴナイト系炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
前記界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤あるいはノニオン性界面活性剤の1種類以上を用いることを特徴とする請求項1に記載の六角板状形態をしたアラゴナイト系炭酸カルシウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−67605(P2009−67605A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234400(P2007−234400)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(307022804)株式会社ニューライム (2)
【Fターム(参考)】