説明

共役ジエンのカルボニル化のためのプロセス

(a)パラジウムソース;及び(b)式IIの二座ジホスフィン配位子:
>P−R−P<R(式中、P及びPは、リン原子を表し;Rは、場合によっては置換される、2個の第三級炭素原子により該リン原子に連結された二価有機基を表し;R及びRは、独立に、第三級炭素原子(これを介して各基が該リン原子に連結される。)を含有する、1個から20個の原子の一価の基を表すか、又は、R及びRは、一緒に、場合によっては置換される、少なくとも2個の第三級炭素原子(これを介して該基が該リン原子に連結される。)を含有する二価有機基を形成し;Rは、3個の原子(これを介してPがPに直線的に連結する。)を含有する二価架橋基を表す。);及び(c)陰イオンソースを含む触媒システムの存在下で、共役ジエンを一酸化炭素及び、活性水素原子を有する共反応物質と反応させることを含む、共役ジエンのカルボニル化のためのプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジエンのカルボニル化のためのプロセスを提供する。
【背景技術】
【0002】
共役ジエンのカルボニル化反応は、当技術分野で周知である。本願において、カルボニル化という用語は、一酸化炭素及び共反応物質存在下での、遷移金属錯体による、触媒下における共役ジエンの反応を指す。このプロセスにおいて、例えばWO−A−03/031457で述べられるように、一酸化炭素ならびに共反応物質をジエンに添加する。WO−A−03/031457は、(a)パラジウム陽イオンソース、(b)式(I)
>P−(CH)n−PQ (I)
のリン含有配位子(式中、Qは、それが連結されるリン原子と一緒に非置換又は置換2−ホスファ−アマダンタン基もしくはその誘導体を表し、その炭素原子の1以上がヘテロ原子により置換される、二価基であり、Q及びQは、独立に、1個から20個の原子を有する一価基又は、一緒に、2個から20個の原子を有する二価基を表し、nは4又は5である。)又はその混合物を基にした触媒システムの存在下で、共役ジエンを一酸化炭素及び、活性水素原子を有する化合物(例えば、水素、水、アルコール及びアミン)と反応させる、共役ジエンのカルボニル化のためのプロセスを開示する。
【0003】
カルボニル化のために通常用いられる条件下で、例えば、WO−A−03/040065で述べられるように、共役ジエンはまた、二量体及び/又は短鎖重合体を形成し得る。この副反応は、所望するカルボニル化生成物の収率を低下させるため、極めて好ましくない。短鎖重合体化生成物を上回る、カルボニル化生成物に対する選択性は、本明細書中で化学選択性としてさらに言及される。
【0004】
可能な限り高い化学選択性を達成する必要がある他に、いくつかの可能な異性体のカルボニル化生成物の1つに対して特に高い選択性を達成することも望まれており、本明細書中で、位置選択性としてさらに言及する。共役ジエンのカルボニル化に対して、分枝生成物は通常、工業的用途がなく、一方、線状生成物は、例えば、ポリアミドにおける使用のためのアジピン酸誘導体の合成において重要な中間体であるため、線状生成物に対する、つまり第一級炭素原子における反応に対する、位置選択性が望まれることが多い。
【0005】
WO−A−03/031457で開示されている触媒の場合の化学選択性及び収率は低く、少なくとも申し分のないターンオーバー数を達成するためにパラジウム及び配位子を比較的大量に必要とし、高温である必要がある。このために、この開示プロセスを操作するための費用が嵩む。さらに、得られる生成物混合物は、選択性が低いために、副産物からの、及び使用される配位子の安定性が低いために、配位子残留物(工業プロセスにおいて不要である。)からの、かなりの精製及び/又は分離を行う必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、高い化学選択性と線状カルボニル化生成物に対する高い位置選択性とを兼ね備え、同時に、プロセスの全体的な効率を向上させるために、より少量のパラジウムを使用して高いターンオーバー及び収率を与える触媒システムを提供することが、未だに必要とされている。このような組合せにより、また、短鎖重合体及び重合副産物ならびに非線状生成物を除去するために、生成物混合物を実質的な精製に供する必要がなくなる。
【0007】
今回、少なくとも1個の活性水素原子を有する共反応物質を用いる、上記で示す共役ジエンのカルボニル化のためのプロセスを、下記で示すような新規触媒システムの存在下で非常に効率的に行うことができることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、
(a)パラジウムソース;及び
(b)式IIの二座ジホスフィン配位子、
>P−R−P<R (II)
(式中、P及びPは、リン原子を表し;
は、場合によっては置換される、2個の第三級炭素原子により該リン原子に連結された二価有機基を表し;R及びRは、独立に、第三級炭素原子(これを介して各基が該リン原子に連結される。)を含有する、1個から20個の原子の一価の基を表すか、又は、R及びRは、一緒に、場合によっては置換される、少なくとも2個の第三級炭素原子(これを介して該基が該リン原子に連結される。)を含有する二価有機基を形成し;Rは、3個の原子(これを介してPがPに直線的に連結する。)を含有する二価架橋基を表す。);及び
(c)陰イオンソース
を含む触媒システムの存在下で、共役ジエンを一酸化炭素及び、活性水素原子を有する共反応物質と反応させることを含む、共役ジエンのカルボニル化のためのプロセスを提供する。
【0009】
本発明によるプロセスにおいて、成分(a)のパラジウムのための適切なソースには、パラジウム金属及び錯体及びその化合物、パラジウム塩など、例えば、パラジウム及び、ハロゲン化酸、硝酸、硫酸又はスルホン酸の塩;パラジウム錯体、例えば、一酸化炭素又はアセチルアセトナートとの錯体、又はイオン交換体などの固体材料と組合わされたパラジウムが含まれる。好ましくは、パラジウム及びカルボン酸の塩が使用され、適切には、12個以下の炭素原子を有するカルボン酸、例えば、酢酸、プロピオン酸及びブタン酸の塩など、又は置換カルボン酸(トリクロロ酢酸及びトリフルオロ酢酸など)の塩が使用される。非常に適切なソースは、酢酸パラジウム(II)である。
【0010】
式(II)による二座ジホスフィン配位子(b)において、Rは、2個の第三級炭素原子により前記リン原子と連結された、場合によっては置換される二価有機基を表し;R及びRは、一緒に、又は独立に、同一又は異なる、第三級炭素原子(これを介して、各基が該リン原子に連結する。)を含有する場合によっては置換される有機基を表す。
【0011】
基R及びR及びRは、独立に、又は一緒に、酸素、窒素、イオウもしくはリンなどの、1以上のヘテロ原子をさらに含有し得、及び/又は、例えば、酸素、窒素、イオウ及び/又はハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素)及び/又はシアノ基を含む、1以上の官能基で置換され得る。
【0012】
は、各場合において、アルキレン鎖において4個から10個の原子を有する、分枝環状、ヘテロ原子非置換又は置換二価アルキル基であり、このCH基はまた、例えば、−CO−、−O−、−SiR−又は−NR−などのヘテロ基により置換され得、ここで、水素原子の1以上が、例えばアリール基などの置換基で置換され得る。
【0013】
適切な一価基R及びRは、リン原子 Pを介してのみ互いに連結し、好ましくは、4個から20個の炭素原子を有し、さらにより好ましくは、4個から8個の炭素原子を有する。これを介して各基がリン原子に連結する本第三級炭素原子は、脂肪族、脂環式又は芳香族置換基で置換することができるか、又は、置換飽和もしくは不飽和脂肪族環構造の一部を形成することができ、その全てがヘテロ原子を含有し得る。好ましくは、本第三級炭素原子は、アルキル基で置換され、それにより本第三級炭素原子が第三級アルキル基の一部になるか、又は、エーテル基で置換される。特に適切な有機基R及びRの例は、tert−ブチル、2−(2−メチル)−ブチル、2−(2−エチル)ブチル、2−(2−フェニル)ブチル、2−(2−メチル)ペンチル、2−(2−エチル)ペンチル、2−(2−メチル−4−フェニル)−ペンチル及び1−(1−メチル)シクロヘキシル基である。
【0014】
一価基、R及びRは、それぞれ個々に、異なる有機基ではあるが、本合成における異なる原材料の使用量をより少なくするために、これらの基は、好ましくは、同じ基を表す。さらにより好ましくは、R及びRは、これらの基により誘導される高い立体障害性及びそのような配位子で達成される高い選択性の理由から、tert−ブチル基を表す。
【0015】
基R及びRが、tert−ブチル基などの同じ一価第三級アルキル基を表す配位子を用いて非常に良好な結果が得られているが、このような配位子は、グリニャール反応物質などの金属有機化合物の使用が必要とされるため、工業スケールを達成することが困難である可能性がある。
【0016】
ジホスフィン配位子(R及びR及びRは、一緒に、2個の第三級炭素原子を介してリン原子と直接連結する、同一又は異なる二価の基を表す。)を用いても、非常に良好な結果が得られた。この二価の基は、単環又は多環構造を有し得る。
【0017】
したがって、Rは、Rと一緒に、Rに対して上記で定義するように、2個の第三級炭素原子によりリン原子に連結される、場合によっては置換される二価有機基を形成し得る。
【0018】
これを介して各基がリン原子に連結される第三級炭素原子は、脂肪族、脂環式により置換され得、置換飽和又は不飽和脂肪族環構造の一部を形成し、その全てがヘテロ原子を含有し得る。好ましくは、本第三級炭素原子は、アルキル基で置換され、それにより本第三級炭素原子が第三級アルキル基の一部になるか、又は、エーテル基で置換される。
【0019】
適切な一価ジホスフィン構造には、R及びR及びRが、一緒に、非置換又は置換C−C30アルキレン基を表し、ここで、CH基が、−O−などのヘテロ基により置換され得る、1,1,4,4−テトラメチル−ブタ−1,4−ジイル−、1,4−ジメチル−1,4−ジメトキシ−ブタ−1,4−ジイル、1,1,5,5−テトラメチル−ペンタ−1,5−ジイル−、1,5−ジメチル−1,5−ジメトキシ−ペンタ−1,5−ジイル−、3−オキサ−1,5−ジメトキシ−ペンタ−1,5−ジイル−、3−オキサ−1,1,5,5−テトラメチル−ペンタ−1,5−ジイル−、3−オキサ−1,5−ジメチル−1,5−ジメトキシ−ペンタ−1,5−ジイル−及び、リン原子に連結される2個の第三級炭素原子を有する同様の二価基構造を含むものが含まれる。
【0020】
このような二価の基を含有するジホスフィンは、穏やかな条件でホスフィンを反応させることを含む、様々な合成経路を介して入手可能であるという長所を有し、それにより、工業スケールでより得やすくなる。したがって、R及びR及びRはまた、一緒に、場合によっては置換される二価の脂環式基を表し得、この脂環式基は、2個の第三級炭素原子を介してリン原子に連結される。R、及びRと一緒にRは、この場合、好ましくは、そのアルキレン鎖に4個から10個の原子を有する、分枝環状、ヘテロ原子非置換又は置換二価アルキル基であり、このCH基はまた、例えば−CO−、−O−、−SiR−又は−NR−などのヘテロ基により置換され得、また水素原子の1以上が、例えばアリール基などの置換基で置換され得る。
【0021】
これらのうち、特に好ましいR、場合によってはR及びRと一緒の二価単環構造、例えば、2,2,6,6−テトラ置換ホスフィナン−4−オン又は2,2,6,6−テトラ置換ホスフィナン−4−チオン構造であり、その環原子は、ヘテロ原子により場合によっては置換され得る。このような構造を含む配位子は、好都合に、WO02/064249で記載されるような穏やかな条件下で得られ得る。
【0022】
例えば、同一の有機基R、及び一緒にR及びRを有する、二座ジホスフィンは、好都合に、化合物H−R−P(A)を、化合物(ZC)=(CZ)−(C=Y)−(CZ)=(CZ)(B)(式中、Z、Z、Z及びZは、場合によってはヘテロ原子で置換される有機基を表し、Z及びZは、場合によってはヘテロ原子で置換される有機基又は水素基を表し、Yは、酸素又はイオウを表す。)と反応させることにより得られ得る。
【0023】
このような化合物に対する例は、2,6−ジメチル−2,5−へプタジエン−4−オン(ジイソプロピリデンアセトン又はホロンとしても知られる。)である。1個を超える化合物(B)が使用される場合、R及びRを含有する、及びR及びRを含有する、異なる基を有する配位子が形成される。この二座配位子は、メソ及びrac型で調製することができる。本発明の目的に対しては、メソ型が好ましい。
【0024】
式(II)によるジホスフィン配位子において、Rは、好ましくは、これを介してPがPに線状に連結される3個の原子を含む二価架橋基を表す。当業者にとって、「線状に連結される」という用語は、明白に、及び、明らかに、リン原子P及びPが、3原子鎖により線状に、及び直接連結されるという意味を有する。例えば、Rがトリメチレン基である場合、配位子は、
>P−Ch−CH−CH−P<R
の構造を有する。
【0025】
適切な架橋基Rは、場合によっては置換され得る、トリメチレン(n−プロパン)など、炭素原子に基づくもの及び/又はその誘導体であり得、例えば、オキシジメタンにおいて、又はジメチルアミンにおいてなど、その炭素原子の1以上が、ヘテロ原子により置換される。適切なヘテロ原子には、窒素、イオウ、ケイ素又は酸素原子が含まれる。したがって、架橋基Rは、例えばアルキル基もしくはヘテロ原子で置換され得るか、又は非置換であり得る。本架橋基に対する適切な置換基には、ハロゲン化物、イオウ、リン、酸素及び窒素などのヘテロ原子を含有する基が含まれる。このような基の例には、塩化物、臭化物、ヨウ化物及び一般式−O−H、−O−X、−CO−X、−CO−O−X、−S−H、−S−X、−CO−S−X、−NH、−NHX、−NO、−CN、−CO−NH、−CO−NHX及び−CO−NX(式中、Xは、独立に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル及びn−ブチルなど、1個から4個の炭素原子を有するアルキル基を表す。)が含まれる。しかし、Rは、好ましくは、トリメチレン(n−プロパン)を表すが、それはこのような配位子が容易に使用可能だからである。
【0026】
本発明による特に好ましいジホスフィン配位子は、式(II)による化合物である(式中、R及び、Rと一緒にRは、個々のリン原子P又はPと一緒に、2,2,6,6−テトラ−置換ホスフィナン−4−オンを形成し、Rは、プロピレン(トリメチレン)骨格構造を表す。)。
【0027】
パラジウム(つまり、触媒成分(a))1モル原子あたりの、二座ジホスフィン(つまり触媒成分(b))のモル比は、決定的なものではない。好ましくは、それは、0.1から100の範囲、より好ましくは0.5から10、さらにより好ましくは1から5、さらにより好ましくは1から3、またより好ましくは、1から2、さらにより好ましくは1から1.5の範囲である。酸素存在下で、化学量論的量よりもわずかに高いと有益である。
【0028】
まさに驚くべきことに、リン原子において第三級ブチル又は環状置換基を有する同様の配位子(Rは、エチレンである。)が、本発明のプロセスによる配位子と比較して、活性が非常に限定的であることが分かった。同様に、WO−A−03/031457で開示される配位子(式中、RからRは、本明細書中で定義されるとおりであるが、Rは、3個を超える原子を有する(とりわけ4もしくは5個)架橋基を表す。)は、非常に活性が低く、同レベルの変換を達成するためには、パラジウムがより大量に必要であり(ジエン置換基においておよそ1:450)、より高温でなければならず、選択性が非常に低い。したがって、本発明プロセスにおいて、好ましくは、触媒は、共役ジエン1モルあたり、パラジウム 500モル原子以下の量で存在する。
【0029】
本プロセスにより、共役ジエンを一酸化炭素及び共反応物質と反応させることができるようになる。本共役ジエン反応物質は、少なくとも4個の原子を有する。好ましくは、本ジエンは、4個から20個、より好ましくは4個から14個の炭素原子を有する。しかし、様々な好ましい実施形態において、本プロセスはまた、それらの分子構造中で(例えば、合成ゴムなどのポリマーの鎖中で)、共役二重結合を含有する分子に適用され得る。
【0030】
本共役ジエンは、置換されるか、又は非置換であり得る。好ましくは、本共役ジエンは、非置換ジエンである。有用な共役ジエンの例は、1,3−ブタジエン、共役ペンタジエン、共役ヘキサジエン、シクロペンタジエン及びシクロヘキサジエン(これらは全て、置換され得る。)である。特に商業的に興味深いのは、1,3−ブタジエン及び2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)である。
【0031】
ジエン反応物質を含有するフィードは、必ずしも、アルケンの混入がないものである必要はなく、それは、本発明のカルボニル化反応が、特に、ジエンフィードに選択的だからである。フィード中に、ジエン反応物質を基にアルキン最大5モル%の混入が許容され得る。
【0032】
フィード中のジエン及び共反応物質の比(v/v)は、広く変化し得、適切には、1:0.1から1:500の範囲となる。
【0033】
本発明による共反応物質は、可動性水素原子を有し、求核試薬として触媒下で本ジエンと反応可能なあらゆる化合物であり得る。本共反応物質の性質により、形成される生成物のタイプが概して決定される。適切な共反応物質は、水、カルボン酸、アルコール、アンモニアもしくはアミン、チオール又はそれらの組合せである。共反応物質が水である場合、得られる生成物は、エチレン的に不飽和のカルボン酸となる。エチレン的に不飽和の無水物は、共反応物質がカルボン酸である場合に得られる。アルコール共反応物質の場合、カルボニル化生成物は、エステルである。同様に、アンモニア(NH)又は一級もしくは2級アミンRNHもしくはR’R”NHの使用により、アミドが生成し、チオールRSHの使用により、チオエステルが生成する。上記で定義した共反応物質において、R、R’及び/又はR”は、場合によっては、ヘテロ原子置換有機基を表し、好ましくは、アルキル、アルケニル又はアリール基を表す。アンモニア又はアミンが使用される場合、これらの共反応物質のうち少量が、アミド及び水の形成下で存在する酸と反応する。それゆえ、アンモニア又はアミン共反応物質の場合、いつも水が存在する。
【0034】
好ましくは、本カルボン酸共反応物質は、ジエン反応物質プラス1と同数の炭素原子を有する。
【0035】
好ましいアルコール共反応物質は、1分子あたり、1から20、より好ましくは1から6個の炭素原子を有するアルカノール及び、1分子あたり、2から20、より好ましくは2から6個の炭素原子を有するアルカンジオールである。本アルカノールは、脂肪族、脂環式又は芳香族であり得る。本発明のプロセスにおいて適切なアルカノールには、メタノール、エタノール、エタンジオール、n−プロパノール、1,3−プロパンジオール、イソ−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール(sec ブタノール)、2−メチル−1−プロパノール(イソブタノール)、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブタノール)、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール(イソアミルアルコール)、2−メチル−2−ブタノール(tert−アミルアルコール)、1−へキサノール、2−へキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、1−へプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1,2−エチレングリコール及び1,3−プロピレングリコールが含まれるが、高ターンオーバーを達成でき、得られる生成物が特に有用であるため、このうち、メタノールが最も好ましい。
【0036】
好ましいアミンは、1分子あたり、1から20個、より好ましくは1から6個の炭素原子を有し、ジアミンは、1分子あたり、2から20個、より好ましくは2から6個の炭素原子を有する。本アミンは、脂肪族、脂環式又は芳香族であり得る。高ターンオーバーが達成されるために、より好ましいものは、アンモニア及び一級アミンである。本触媒システムの陰イオン(c)が酸である場合、好ましくは、アンモニア又はアミンの量は、アミン官能基に基づく化学量論よりも少ない。
【0037】
何らかの事情で、共反応物質がアンモニア、及び少量の、一級アミンである場合、存在する少量の酸が、水の遊離下でアミドに対して反応する。それゆえ、共役ジエン、一酸化炭素及び水から形成される少量の酸もまた常に存在し、これはつまり、上述のような直接反応によりアミドへと変換される酸を置き換える。
【0038】
チオール共反応物質は、脂肪族、脂環式又は芳香族であり得る。好ましいチオール共反応物質は、1分子あたり、1から20個、より好ましくは1から6個の炭素原子を有する、脂肪族チオールであり、1分子あたり、2から20個、より好ましくは2から6個の炭素原子を有する脂肪族ジチオールである。
【0039】
陰イオンソース(c)は、好ましくは、酸、より好ましくはカルボン酸であり、促進因子(c)ならびに反応のための溶媒の両方として働き得る。
【0040】
さらにまた、より好ましくは、本陰イオンソースは、2.0より大きいpKaを有する酸であり(18℃にて水溶液中で測定)、さらに好ましくは、触媒成分(c)は、3.0より大きいpKaを有する酸であり、より好ましくは3.6より大きいpKaの酸である。
【0041】
好ましい酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ペンテン酸及びノナン酸などのカルボン酸が含まれ、後の3種類の酸は、極性が低く、pKaが高いために、本触媒システムの活性を向上させることが見出されたため、非常に好ましい。非常に都合よく、本反応の所望する生成物に対応する酸は、触媒成分(c)として使用することができる。
【0042】
ペンテン酸は、本共役ジエンが1,3−ブタジエンである場合に、特に好ましい。触媒成分(c)はまた、カルボン酸基を含有するイオン交換樹脂であり得る。これにより、有利に、生成物混合物の精製が単純化される。
【0043】
陰イオン及びパラジウムのソース、つまり触媒成分(c)及び(b)のモル比は、決定的ではない。しかし、本触媒システムの活性を向上させるので、適切には、2:1と10:1との間、より好ましくは10:1と10:1との間、さらにより好ましくは10:1と10:1との間、最も好ましくは10:1と10:1との範囲である。
【0044】
共反応物質が、陰イオンのソースとして作用する酸と反応すべき場合、共反応物質に対するその酸の量は、適切な量の遊離酸が存在するように、選択されるべきである。一般に、反応速度を上昇させるために、共反応物質を超える大量の余剰の酸が好ましい。
【0045】
完全な触媒システムが使用される量は、決定的ではなく、広い範囲内で変化し得る。通常、共役ジエン1モルあたり、パラジウムは、10−8から10−1の範囲の量、好ましくは10−7から10−2モル原子の範囲の量が使用され、好ましくは1モルあたり、10−5から10−2グラム原子の範囲にある。本プロセスは、場合によっては、溶媒の存在下で行われ得るが、好ましくは成分(c)として作用する酸が、溶媒及び促進物質として使用される。
【0046】
本発明によるカルボニル化反応は、中程度の温度及び圧力で行われる。適切な反応温度は、0から250℃の範囲であり、より好ましくは50から200℃の範囲であり、さらにより好ましくは80から150℃の範囲である。
【0047】
反応圧力は、通常、少なくとも大気圧である。適切な圧力は、0.1から15MPa(1から150bar)の範囲、好ましくは0.5から8.5MPa(5から85bar)の範囲である。0.1から8MPa(1から80bar)の範囲の一酸化炭素分圧が好ましく、4から8MPaの上方範囲がより好ましい。より高い圧力には、特別な装置の準備が必要である。
【0048】
本発明によるプロセスにおいて、一酸化炭素だけで、又は窒素、二酸化炭素などの不活性ガス又はアルゴンなどの希ガス、又はアンモニアなどの共反応物質ガスで希釈して、一酸化炭素を使用することができる。
【0049】
さらに、使用する一酸化炭素量の3から20モル%など、限られた量の水素を添加することにより、カルボニル化反応が促進される。しかし、より大量の水素を使用することにより、ジエン反応物質及び/又は不飽和カルボン酸生成物の不必要な水素添加が起こる傾向がある。
【実施例】
【0050】
本発明は、次の非限定的な実施例により例示される。
【0051】
(実施例1及び比較実施例AからD)
メタノールを用いた、ブタジエンのカルボニル化のためのバッチ反応。
【0052】
250mlのマグネチック撹拌オートクレーブに、酢酸パラジウム(0.1mmol)、20ml メタノール、40ml ペンテン酸及び実施例1及び比較実施例A及びBでそれぞれの配位子 0.3mmol及び、比較実施例C及びDで使用する配位子 0.5mmolを続けて添加した。
【0053】
次に、そのオートクレーブを閉じ、空気を抜き、窒素をフラッシュし、次いで、20ml ブタジエンを汲みいれた。そのオートクレーブに、COで6.0MPaまで圧をかけ、密閉し、135℃に加熱し、その温度で10時間維持した。最後に、そのオートクレーブを冷却し、反応混合物をGLCにより分析した。
【0054】
表Iで示されるように、このバッチ操作の初期カルボニル化速度(モル/モルPd/時間)は、最初の2時間にわたるCO消費の平均速度として定義される。
【0055】
実施例1において、ブタジエンの約80%が、95%以上のメチルペンテノアートへの選択性で、変換された。比較実施例A及びBにおいて、そのブタジエンの約30%が、4−ビニルシクロヘキセン及びブタジエンポリマーの混合物に反応した。比較実施例C及びDにおいて、CO変換は測定できなかった。
【0056】
【表1】

【0057】
この結果から、本プロセスが、主張される触媒システムで、驚くべき高い変換及び選択性を示し、一方で、本発明によるものではないが構造的に密接な関係のある配位子の性能が非常に劣ることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(c)パラジウムソース;及び
(d)式IIの二座ジホスフィン配位子、
>P−R−P<R (II)
(式中、P及びPは、リン原子を表し;Rは、場合によっては置換される、2個の第三級炭素原子により該リン原子に連結された二価有機基を表し;R及びRは、独立に、第三級炭素原子(これを介して各基が該リン原子に連結される。)を含有する、1個から20個の原子の一価の基を表すか、又は、R及びRは一緒に、場合によっては置換される、少なくとも2個の第三級炭素原子(これを介して該基が該リン原子に連結される。)を含有する二価有機基を形成し;Rは、3個の原子(これを介してPがPに直線的に連結する。)を含む二価架橋基を表す。);及び
(c)陰イオンソース
を含む触媒システムの存在下で、共役ジエンを一酸化炭素及び、活性水素原子を有する共反応物質と反応させることを含む、共役ジエンのカルボニル化のためのプロセス。
【請求項2】
Rが、場合によっては置換されるトリメチレン基である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
及び/又はR及びRが一緒に、2,2,6,6−テトラ−置換ホスフィナン−4−オン構造又は2,2,6,6−テトラ−置換ホスフィナン−4−チオン構造を表す、請求項1又は請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
陰イオンソース(c)が、カルボン酸である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
一酸化炭素に対して、水素 3から20モル%の量が添加される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
共役ジエンが、1,3−ブタジエン又は2−メチル−1,3−ブタジエンである、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
触媒成分(c)が、触媒成分(a)に対して、10:1及び10:1の範囲のモル比で存在する、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
反応温度が、50から250℃の範囲であり、反応圧力が、0.1から15MPaの範囲であり、一酸化炭素の分圧が、0.1から6.5MPaの範囲である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
触媒成分が、共役ジエン1モルあたり、パラジウム 500モル原子以下の量で存在する、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のプロセス。

【公表番号】特表2007−524697(P2007−524697A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500215(P2007−500215)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050790
【国際公開番号】WO2005/082829
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】