説明

共沸混合物組成物、共沸混合物様組成物、洗浄用溶剤及び塗布用溶剤

【課題】
オゾン層破壊の心配が少なく、安定であって、優れた材料適合性と、優れた溶解性能と洗浄性能及び洗浄仕上がり性を有し、しかも引火による火災の心配がない、共沸混合物組成物及び共沸混合物様組成物、並びに、これらの組成物を用いる洗浄用溶剤または塗布用溶剤を提供する。
【解決手段】
環状フッ素化炭化水素化合物及び1−ブロモプロパンを含むことを特徴とする、共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物、これらの組成物を含むことを特徴とする洗浄用溶剤又は塗布用溶剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状フッ素化炭化水素化合物及び1−ブロモプロパンを含む共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物、これらの組成物を含む洗浄用溶剤又は塗布用溶剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トリクロロトリフルオロエタンなどの塩素を含むフロン系炭化水素や1,1,1−トリクロロエタンなどの塩素系炭化水素等を主成分とする溶剤組成物が、金属加工部品や電子部品などの洗浄用溶剤として広く用いられている。しかし、かかる塩素を含むフロン系炭化水素や塩素系炭化水素は塩素を有するため、オゾン層を破壊するという重大な欠点が指摘され、世界的規模でその生産が中止され、その使用が規制されている。そして、このような状況の下、従来の塩素を含むフロン系炭化水素や塩素系炭化水素に代えて、オゾン層を破壊しない代替品の研究開発が活発に行われている。
【0003】
これまでにも、かかる代替品として、オゾン層を破壊するおそれがなく、低毒性で、しかも従来のフロン系炭化水素や塩素系炭化水素と同等又はそれ以上の優れた洗浄性を有する洗浄用溶剤組成物として、(a)1,1,1,2,3,4,4,5,5,5,−デカフルオロペンタンを含む組成物(特許文献1参照)や、(b)1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンとメタノール、1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンとエタノール、1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンとイソプロパノール等の、1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンと他のアルコール類等との共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物(特許文献2〜5参照)が提案されている。
【0004】
しかしながら、(a)で用いられる1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタンは、地球温暖化への影響が大きく、国内においても規制対象化合物となっている。また、(b)で用いられる1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンは、化学的安定性に乏しく、リサイクル使用が求められる洗浄用溶剤としての使用上に問題がある。
【0005】
また、特許文献6には、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンを含有する洗浄用溶剤が開示されている。そこでは、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタシフルオロシクロペンタンが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール等のアルコール類と共沸混合物組成物を形成すること、及びこの組成物が洗浄用溶剤として使用できる旨が記載されている。
【特許文献1】特表平9−502181号公報
【特許文献2】特開平6−271488号公報
【特許文献3】特開平6−271489号公報
【特許文献4】特開平6−271490号公報
【特許文献5】特開平6−271491号公報
【特許文献6】国際公開第98/51651号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献に記載された1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンはオゾン破壊係数が0で、地球温暖化係数も小さく、環境に優しい洗浄剤成分であり、また化学的安定性にも優れることから、そのままであるいはアルコール類等の他の有機溶剤とともに用いることにより、仕上がりのよい洗浄性能を発揮する。
【0007】
しかしながら、特許文献6に記載された、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンとエタノールやイソプロピルアルコール等との共沸混合物様組成物は、いずれも引火点をもつため、使用上の安全性に問題があった。一方、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンとn−ブタノールや2−ブタノールとの共沸混合物は引火点をもたないが、n−ブタノールや2−ブタノールは揮発性に乏しく、洗浄処理後の速乾性に乏しいという問題があった。
【0008】
また、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンは、油やフラックス等の汚れに対する溶解力が必ずしも高くなく、軽質油の脱脂洗浄や除塵洗浄など適用できる分野が限られていた。
【0009】
一方、塩素を含むフロン系炭化水素や塩素系炭化水素の代替品として用いられている含臭素炭化水素である1−ブロモプロパンは、塩素系溶剤同等に汚れ成分に対する溶解力が非常に高く、中質油以上の高粘度加工油の脱脂洗浄や、フラックス、ワックス洗浄などに適用できるが、プラスチックやエラストマーなどを含む複合部品の洗浄では、材料に対するケミカルアタック性に課題がある。更に、従来の洗浄剤と比較して毒性が高いため、使用に際しては、毒性の低いフッ素化炭化水素化合物等で希釈するのが望ましい。
【0010】
洗浄剤の汚れ成分に対する溶解力を示す一つの指標としてKB値(カウリブタノール値)が用いられている。この数値の大きい溶剤ほど油脂や樹脂に対する溶解力が大きいことを表す。代表的な溶剤のKB値を表1に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
表1に示すとおり、KB値が20〜80の洗浄溶剤が望ましいと言える。例えば、1,1,1−トリクロロエタンなど塩素系溶剤のKB値は90〜136と非常に高く、油脂や樹脂に対する溶解性に優れるが、ケミカルアタック性が高いという課題がある。また、1−ブロモプロパンのKB値も塩素系溶剤と同等レベルである。一方、HFC類(ハイドロフルオロカーボン類)やHFE類(ハイドロフルオロエーテル類)のKB値は5〜13であり、環状HFC類のKB値も14〜20と低く、塩素を含まないフッ素系溶剤では汚れ成分に対する溶解力に乏しいことが分かる。
【0013】
一方、CFC−113(トリクロロトリフルオロエタン)及びHCFC−225(ジクロロペンタフルオロプロパン)のKB値はそれぞれ31、また、HCFC−141b(ジクロロフルオロエタン)のKB値は56であり、これら塩素を含むフロン系溶剤は適度な溶解力を有していることが分かる。
これらのフロン系溶剤は、汚れ成分に対する選択的な溶解力を持ちながら、各種プラスチックやエラストマーなどの材料に対するケミカルアタック性が低いという特性から、電気・電子機器や光学機器などの複合部品の洗浄剤として長年多用されてきた。
【0014】
しかしながら、フロン系溶剤の多くは、オゾン層破壊物質であるとして、使用量の段階的な削減や全廃の対象となっている。
【0015】
昨今、半導体や精密機器分野の技術進歩に伴い、被洗浄物の高精度化、高付加価値化が進み、種々電子部品が搭載されたプリント基板、半導体パッケージ基板、モジュール基板、ハードディスクドライブのHSA(ヘッドスタックアッセンブリー)、光学系モジュール部品など、多種多様のプラスチックやエラストマーを含む複合的なパーツ類の精密洗浄のニーズが高まってきている。単に溶解力が高いだけではなく、これら材料に対するケミカルアタック性が低い、選択的な溶解力を有する洗浄剤組成物が求められている。
【0016】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、オゾン層破壊の心配が少なく、ケミカルアタック性が低く、化学的に安定であって、優れた材料適合性や優れた溶解性能、洗浄性能、洗浄仕上がり性を有し、しかも引火による火災の心配がない、共沸混合物組成物及び共沸混合物様組成物、並びに、これらの組成物を用いる洗浄用溶剤又は塗布用溶剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンは、油やフラックス等の汚れに対する溶解力が必ずしも高くなく、適用できる分野が限られている。一方、含臭素炭化水素である1−ブロモプロパンは、汚れに対する溶解力は非常に高い。そのため、逆に材料に対するアタック性に課題がある。また従来の洗浄剤と比較して毒性が高いため、使用に際しては、毒性の低い物質で希釈するのが望ましい。
【0018】
本発明者らは、オゾン破壊係数が0で、地球温暖化係数が低く、低毒性で且つ化学的安定性と材料適合性に優れた環状フッ素化炭化水素化合物と、汚れに対する溶解力が非常に高い1−ブロモプロパンとを組み合わせた洗浄剤について鋭意研究した。その結果、これらの化合物は特定の組成比をもつ共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物を形成すること、及びこれらの組成物は優れた溶解性能と洗浄性能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(3)の共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物が提供される。
(1)環状フッ素化炭化水素化合物及び1−ブロモプロパンを含むことを特徴とする、共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物。
(2)環状フッ素化炭化水素化合物が1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンである(1)に記載の共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物。
(3)1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンの含有量が35〜45重量%で、1−ブロモプロパンの含有量が55〜65重量%である(2)に記載の共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物。
【0020】
本発明の第2によれば、下記(4)の洗浄用溶剤又は塗布用溶剤が提供される。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物を含むことを特徴とする、洗浄用溶剤又は塗布用溶剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1によれば、オゾン層破壊の心配が少なく、地球温暖化に与える影響が小さい環状フッ素化炭化水素化合物と、1−ブロモプロパンとの共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物が提供される。
また、本発明の第2によれば、優れた溶解力・洗浄力と乾燥性を有し、かつ不燃性である洗浄用溶剤又は塗布用溶剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
1)共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物
本発明の共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物は、環状フッ素化炭化水素化合物及び1−ブロモプロパンを含むことを特徴とする。
【0023】
本発明において、共沸混合物組成物とは、単一物質として挙動する二つ又はそれより多くの一定に沸騰する液体混合物をいう。すなわち、液体の混合物を一定の外圧の下で蒸留した場合に、ある温度及び組成で、溶液の組成と蒸気の組成が一致する場合がある。そのため、沸点がそこで極大又は極小となり、定沸点の混合液体が得られる。この現象を共沸といい、このような共沸を示す混合液体を共沸混合物という。
【0024】
また、共沸混合物様組成物とは、単一物質として挙動する二つ又はそれより多くの一定に沸騰する混合液体という点で共沸混合物と共通するが、この混合液体の部分的蒸発又は蒸留により発生する蒸気は、それが蒸発されあるいは蒸留される液体と実質的に同じ組成をもつ点で異なる混合液体である。すなわち、共沸混合物様組成物は、その組成の実質的な変化なしに留出/還流し、組成物の特定の温度における沸点蒸気圧及び露点蒸気圧が実質的に等しくなる。
【0025】
環状フッ素化炭化水素化合物は、環状構造を有し、水素原子の一部がフッ素原子により置換された炭化水素であれば特に限定されるものでない。本発明に用いる環状フッ素化炭化水素化合物の炭素数は、通常3〜10個、好ましくは4〜10個、より好ましくは5個である。さらに、環状フッ素化炭化水素化合物の水素原子数は好ましくは1〜5個、より好ましくは2個又は3個である。
【0026】
また、本発明に用いる環状フッ素化炭化水素化合物は、環状フッ素化飽和炭化水素化合物であっても、環状フッ素化不飽和炭化水素化合物であってもよい。
【0027】
環状フッ素化飽和炭化水素化合物の具体例としては、1,1,2,2−テトラフルオロシクロブタン、1,2,2,3,3−ペンタフルオロシクロブタン、1,1,2,2,3,4−ヘキサフルオロシクロブタン、ヘプタフルオロシクロブタン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,4,5−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,3,3,4,5−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,5−オクタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンタン、ノナフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,5−オクタフルオロシクロヘキサン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,6−デカフルオロシクロヘキサン、テトラデカフルオロデカリン、ヘキサデカフルオロデカリンなどが挙げられる。
【0028】
これらの中でも、1,2,2,3,3−ペンタフルオロシクロブタン、1,1,2,2,3,4−ヘキサフルオロシクロブタン、ヘプタフルオロシクロブタン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,4,5−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,3,3,4,5−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,5−オクタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンタン、ノナフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,6−デカフルオロシクロヘキサンが好ましい。
【0029】
環状フッ素化不飽和炭化水素化合物の具体例としては、1,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテン、1,2,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテン、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、1,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、2,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、1,3,3,4,4,5,5,6,6−ノナフルオロシクロヘキセン、1,2,3,4,4,5,5,6,6−ノナフルオロシクロヘキセン、1,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロシクロヘキセン、3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロシクロヘキセンなどが挙げられる。
【0030】
これらの環状フッ素化炭化水素化合物は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
これらの中でも、本発明に用いる環状フッ素化炭化水素化合物としては、式:C10−n(式中、nは5〜9、好ましくは7〜9の整数を示す。)で表される化合物が好ましい。
【0032】
かかる環状フッ素化炭化水素化合物の具体例としては、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,4,5−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,3,3,4,5−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,5−オクタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンタン、ノナフルオロシクロペンタン、1,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテン、1,2,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテン、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、1,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、2,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン等が挙げられる。
【0033】
本発明に用いる環状フッ素化炭化水素化合物の多くは公知物質であり、公知の方法により製造、入手することができる。例えば、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンは、例えば特開平10−316760号公報に記載された方法によって製造し、入手することができる。また、市販されているものをそのまま使用することもできる。
【0034】
本発明に用いる環状フッ素化炭化水素化合物としては、不燃性のものが好ましい。不燃性の環状フッ素化炭化水素化合物の中で、好ましい化合物の沸点と凝固点は以下に示すとおりである。1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(沸点:82.5℃、凝固点:20.5℃)、1,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテン(沸点:46℃、凝固点:−91℃)、1,2,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテン(沸点:51℃、凝固点:−70℃)、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン(沸点:75℃、凝固点:−33℃)。
【0035】
なかでも、最も好ましいものは、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンである。このものは、沸点82.5℃の常温で液体の環状フッ素化炭化水素であり、オゾン破壊係数が0で、地球温暖化係数も小さく、また水や熱に対して安定な化合物である。
【0036】
また、1−ブロモプロパンは、沸点71℃の常温で液体の含臭素炭化水素であり、商業的に入手可能な化合物である。例えば、ABZOL(登録商標)/ALpowerの商品名で市販されているものを使用することができる。
【0037】
本発明の共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物(以下、これらをまとめて「本発明の組成物」ということがある。)としては、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンと1−ブロモプロパンを含有するものが好ましい。
【0038】
1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンと1−ブロモプロパンを含有する、共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物としては、組成物全体に対し、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンを35〜45重量%、及び1−ブロモプロパンを55〜65重量%含むものが好ましく、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンを38〜42重量%、及び1−ブロモプロパンを58〜62重量%を含むものがより好ましい。なかでも、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンの含有量が40.6重量%で、1−ブロモプロパンの含有量が59.4重量%である共沸混合物組成物が特に好ましい。
【0039】
本発明の組成物は共沸組成が存在し、組成の変動が少ないので、リサイクル使用が可能である。また、本発明の共沸組成物の沸点は常圧で67.0℃である。この沸点は従来の代表的洗浄剤である1,1,1−トリクロロエタンの沸点に近いので、1,1,1−トリクロロエタンの代替品として好適に使用できる。
【0040】
前述したように、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンと各種アルコール類との共沸混合物組成物は知られている(WO98/51651号公報参照)。しかしながら、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンと、エタノールやイソプロピルアルコールとの共沸混合物組成物はいずれも引火点を有しており、使用する上で発火による火災の危険がある。一方、本発明の1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンと1−ブロモプロパンはいずれも不燃性の液体であり、これらの共沸混合物組成物及び共沸混合物様組成物も不燃性である。したがって、本発明の組成物は発火による火災などの危険はなく、これまで使用されてきた既存の洗浄装置にも、そのまま適用することができる。
【0041】
さらに、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンの融点は20.5℃であり、保存時や使用時に凝固してしまうため、使用条件によっては、単体では扱いにくいという問題がある。一方、本発明の組成物によれば、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンの融点を通常の使用条件下では凝固しない温度にまで降下させることができる。本発明の組成物は取り扱いが容易であり、洗浄用溶剤又は塗布用溶剤として有用である。
【0042】
本発明の組成物は、環状フッ素化炭化水素化合物と1−ブロモプロパンに加えて、さらに他の成分を含んで、共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物となったものであってもよい。
【0043】
前記他の成分としては、アルコール類、炭化水素類、エステル類、塩素化炭化水素類、他のフッ素化炭化水素類、エーテル類、ケトン類、及び揮発性有機シリコーン類などが挙げられる。これらの中で、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコールが好ましい。
【0044】
また、本発明の組成物には、必要に応じて安定剤を添加しても良い。用いる安定剤としては、ニトロメタン、ニトロエタン等の脂肪族ニトロ化合物;ニトロベンゼン、ニトロスチレン等の芳香族ニトロ化合物;1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン等のエーテル類;1,2−ブチレンオキサイド、エピクロルヒドリン等のエポキシ類;2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、o−、m−、p−クレゾールを含むフェノール類;2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルアミン、ジフェニルアミン等のアミン類;ジエチレングリコール等のグリコールエーテル類;ブチルヒドロキシキシレン;ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらの中では、ニトロメタン、1,2−ブチレンオキサイド、ブチルヒドロキシトルエンが好ましく、なかでも、ニトロメタンは、0.01〜5重量%の組成で共沸混合物様組成物を形成するので特に好ましい。
【0045】
安定剤の使用量は安定剤の種類により異なるが、本発明の組成物に対して通常0.01〜10重量%程度、好ましくは0.1〜5重量%程度である。
【0046】
本発明の組成物のKB値は20〜80、好ましくは30〜60であり、望ましいKB値の範囲内に適合している。すなわち、本発明の組成物は、汚れ成分に対する選択的な溶解力を持ちながら、プラスチック類やエラストマーなどの各種材料に対するケミカルアタック性が低いという特性を有する組成物であり、後述するように、種々の材料が混在する複合的なパーツ類の洗浄用溶剤や塗布用溶剤として好適である。
【0047】
2)洗浄用溶剤または塗布用溶剤
本発明の組成物は、従来から用いられてきた塩素を含むフロン系炭化水素等と同様に好適に使用できる。具体的な用途としては、汚れが付着した物品から汚れを除去するための洗浄用溶剤、種々の化合物の塗布用溶剤などである。
【0048】
上記の物品の材質としては、ガラス、セラミックス、プラスチック、エラストマー、又は金属などが挙げられる。また、物品の具体例としては、電気・電子機器、精密機械・器具、光学機器等、及びそれらの部品であるIC、マイクロモーター、リレー、ベアリング、光学レンズ、ガラス基板などが挙げられる。
【0049】
物品に付着する汚れとしては、物品又は物品を構成する部品を製造する際に使用され、最終的に除去されなければならない汚れ、又は物品の使用時に付着する汚れが挙げられる。また、汚れを形成する物質としては、鉱油類、グリース類、ワックス類、油性インキ類等の油脂類や塵埃が挙げられる。
【0050】
上記汚れを除去する具体的手段としては、例えば、手拭き、スプレー、浸漬揺動、浸漬噴流、蒸気洗浄、あるいはこれらを組み合わせた方法など、従来から用いられている方法を挙げることができる。また、この場合、加熱、超音波照射などを同時に行うことも、洗浄効果を向上させる上で好ましい。
【0051】
本発明の洗浄剤を用いる物品に付着する汚れを洗浄するには、例えば、図1に示す超音波洗浄装置を使用して、以下の手順で行うことができる。
【0052】
(ステップ1)洗浄の対象とする物品を浸漬洗浄槽1中に浸漬し、超音波発生装置5を用いて超音波を発生させながら物品の洗浄を行った後、浸漬洗浄槽1から物品を引き上げる。
(ステップ2)次に、洗浄用溶剤の蒸気9が充満する蒸気ゾーン10中で蒸気洗浄を行う。なお、蒸気発生槽2中の洗浄用溶剤は、蒸気発生槽2中に設置された加熱ヒーター8により加熱されて、洗浄用溶剤の蒸気が発生し、蒸気ゾーン10内には、洗浄用溶剤の蒸気が充満している。
(ステップ3)次いで、蒸気ゾーン10からゆっくり引き上げて液切り乾燥を行う(ステップ3)ことで、目的とする物品の汚れを洗浄・除去することができる。
【0053】
ステップ1の洗浄温度は、通常20〜60℃であり、洗浄時間は、汚れの種類や程度にもよるが、通常1分から数十分である。また、ステップ2の蒸気洗浄時間は、通常数秒から数分である。
【0054】
なお、図1に示す洗浄装置において、蒸気ゾーン10において蒸気洗浄に用いられた洗浄用溶剤の蒸気は、冷却管3により冷却されて液化して、水分分離器4に回収され、再び浸漬洗浄槽1に戻される。また、ろ過循環ポンプ6により、洗浄用溶剤は濾過フィルターに送液され、再び浸漬洗浄槽1に戻される間に、浸漬洗浄槽1内に存在する浮遊物などは、ろ過フィルター7により除去される。
【0055】
種々の化合物の塗布用溶剤としての用途としては、光学フィルム、光学レンズ、電子部品、プリント配線基板等の表面にフッ素樹脂やフッ素オイルなどの薄膜を形成するコーティング用途;ミニチュアベアリングなどの精密金属加工部品の防錆剤塗布用途;ハードディスクなど磁気記録媒体の潤滑層形成用途;ナノインプリントの離型処理溶剤用途;光情報記録媒体の記録層形成用色素材料の塗布溶剤用途;などが挙げられる。
【0056】
また、塗布方法としては、浸漬法、スピンコート法、スプレー法など従来から用いられている方法を採用すればよい。
【実施例】
【0057】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「%」は、特に断りのない限り重量%の意である。
【0058】
(共沸混合物の製造)
本実施例では、マグネチックスターラー、オイルバス、ガラス製蒸留釜、理論段数7段の還流装置付き蒸留塔(東科精機社製、KS型)、冷却器及び留分受器からなる精留装置を用いた。また、オイルバス温度、蒸留釜内温度、蒸留塔の塔頂部温度を測定記録するための熱電対式温度記録計を用いた。
【0059】
具体的手順を以下に示す。
100mlの蒸留釜に、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンを50gと1−ブロモプロパンを50g仕込み、ポリテトラフルオロエチレン製の磁気回転子を入れた。次いで、蒸留釜を精留装置に取り付けて、混合溶液を攪拌しながらオイルバスを100〜120℃に加熱した。なお、加熱開始後30分経過した後でも温度が上昇しない場合には、オイルバス温度を130℃、140℃に段階的に上昇させた。また、塔頂温度が上昇し、一定温度に達してから約1時間さらに還流させた。
その後、留分の抜き出し速度=2ml/40秒で、約5mlずつ3回(フラクション1〜3)に分けて留分を受器に抜き出した。
各留分の組成比は、ガスクロマトグラフィー分析により求めた。留分の共沸温度と留分組成の分析結果を以下に示す。なお、留分の共沸温度はフラクション3の抜き出し時の塔頂温度を示し、共沸組成比は、フラクション3の組成比を表す。
【0060】
共沸組成比:1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン/1−ブロモプロパン=40.6重量%/59.4重量%
共沸温度(沸点):67.0℃
【0061】
ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)条件
装置:G−5000(日立製作所社製)
カラム:TC−WAX(60m×I.D0.25μm、0.5μmdf)(GLサイエンス社製)
カラム温度:40℃
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素ガス
検出器:FID
【0062】
以上のようにして得られた1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンと、1−ブロモプロパンとの共沸混合物組成物〔(1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンと1−ブロモプロパンの含有割合:1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン/1−ブロモプロパン=40.6重量%/59.4重量%)、以下、「実施例の共沸組成物」と略記する。〕、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン(以下、「F7CPA」と略記する。)、及び1−ブロモプロパンのそれぞれを評価サンプルとして用い、以下の(1)〜(4)の評価試験を行った。
【0063】
(1)融点測定
実施例の共沸組成物、F7CPA及び1−ブロモプロパンのそれぞれの融点を調べた。30mlサンプル瓶に、実施例の共沸組成物、F7CPA及び1−ブロモプロパンをそれぞれ20mlを入れ、0℃にコントロールした恒温水槽に1時間浸漬した後、状態を目視評価した。評価は以下の基準による。
【0064】
○:均一な液体
×:完全に凝固
【0065】
(2)KB値の測定
ASTM D1133−61に記載の測定方法に従い、実施例の共沸組成物、F7CPA及び1−ブロモプロパンのそれぞれのKB値を測定した。すなわち、細かく砕いた天然カウリ樹脂をn−ブタノールに重量比1:5で混合し、完全に溶解させてKB値測定溶液を作製した。次いで、KB値測定溶液20gに、実施例の共沸組成物、F7CPA及び1−ブロモプロパンを滴下し、カウリ樹脂を析出させるのに要した溶剤の量(ml)を求めることによりKB値を測定した。なお、作製したKB値測定溶液で代表的な溶剤のKB値を測定したところ、トルエンは105〜110、HCFC−225は31、HCFC−141bは56、トリクロロエチレンは120〜130の値になることが確認できている。 測定結果を表2に示す。
【0066】
表2に示すとおり、実施例の組成物のKB値は適度な溶解力を有する望ましい値であることがわかる。
【0067】
(3)ケミカルアタック性
実施例の共沸組成物、F7CPA及び1−ブロモプロパンのそれぞれの材料に対する適合性(ケミカルアタック性)を下記の手順に従って評価した。
【0068】
100mlサンプル瓶に、実施例の共沸組成物、F7CPA及び1−ブロモプロパンのそれぞれ80mlを入れ、サイズが5cm×3cm×(厚み)3mmの、プラスチック又はエラストマーの試験片を浸漬させ、室温(24℃)で一昼夜放置した。試験前と試験後の試験片の重量変化率から、材料に対するケミカルアタック性を評価した。なお、試験片としては、塩化ビニル樹脂とエチレンプロピレンゴム(EPDM)の2種類を用いた。
【0069】
【数1】

【0070】
重量変化率を上記式から求め、以下の基準により評価した。
○:重量変化率が30%未満
×:重量変化率が30%以上
【0071】
(4)加工油の溶解性
実施例の共沸組成物、F7CPA及び1−ブロモプロパンによる加工油の溶解性を評価した。溶解性が高いほど、加工油の脱脂洗浄性に優れる、又は薄膜を形成する際の塗布性に優れると判断できる。
加工油は、切削油(出光興産社製,ダフニーマーグプラスLA15)、防錆油(新日本石油社製,アンチラストP−2000)とシリコーンオイル(信越化学工業社製,KF−96−100CS)の3種類を用いた。
【0072】
試験管に、実施例の共沸組成物、F7CPA及び1−ブロモプロパンのそれぞれ3mlと加工油3mlを入れ、ゴム栓をして、室温下(24℃)、攪拌棒により1分間強攪拌して、溶剤に対する加工油の溶解性を、透明で均一になるか、白濁するか、二層に分離するかの状態を目視にて観察し、あるいは任意に相溶するか否かを調べ、以下の基準により評価した。
【0073】
○:任意に相溶
×:不溶
【0074】
(5)切削油の脱脂洗浄性評価
図1に示すごとき、浸漬洗浄槽1と蒸気発生槽2を装備した2槽式超音波洗浄装置を用いて、洗浄性評価試験を行った。
【0075】
プレス加工部品(ステンレス製、50mm角)を50枚整列させ、針金で束ねたものを、切削油(出光興産製、ダフニーマーグプラスLA15)を入れたビーカー内に常温にて浸漬させ、切削油を全体になじませるため超音波を1分間かけた。そのまま常温で一昼夜放置後、切削油上に引き上げ、油切りのため5分間放置したものを洗浄評価用サンプルとした。
【0076】
実施例の共沸組成物、F7CPA及び1−ブロモプロパンのそれぞれを、図1に示す2槽式超音波洗浄装置に仕込み、洗浄評価用サンプルを浸漬洗浄槽1に浸漬し、40℃の加温下で5分間超音波洗浄を行い、次いで、溶剤蒸気が充満している蒸気ゾーン10で1分間蒸気洗浄の後、蒸気ゾーンからゆっくり引き上げて液切り乾燥を行なった。
【0077】
洗浄後の評価用サンプルが冷却した後、束ねていた針金をはずし1枚ずつにばらした上で、切削油の除去具合を目視観察、及び墨汁水(市販の墨汁を純水で10倍に希釈したもの)によるはじきテストによって、切削油の脱脂洗浄性を評価した。
【0078】
評価基準を以下に示す。
○:洗浄良好
×:洗浄不可
(1)〜(5)の評価結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2より、実施例の共沸組成物は、融点が低く、好適なKB値を有し、ケミカルアタック性もなく、加工油の溶解性及び脱脂洗浄性のすべてに優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】浸漬洗浄槽1と蒸気発生槽2を装備した2槽式超音波洗浄装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0082】
1 浸漬洗浄槽
2 蒸気発生槽
3 冷却管
4 水分分離器
5 超音波発生装置
6 濾過循環ポンプ
7 濾過フィルター
8 加熱ヒーター
9 蒸気の流れ
10 蒸気ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状フッ素化炭化水素化合物及び1−ブロモプロパンを含むことを特徴とする、共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物。
【請求項2】
環状フッ素化炭化水素化合物が1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンである、請求項1に記載の共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物。
【請求項3】
1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンの含有量が35〜45重量%で、1−ブロモプロパンの含有量が55〜65重量%である、請求項2に記載の共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物を含むことを特徴とする、洗浄用溶剤又は塗布用溶剤。

【図1】
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