説明

共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレート

【課題】耐デラミ性と透明性と色相に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレートの提供。
【解決手段】全酸成分に対して、特定のビフェニルもしくは水添ビフェニルのジオール化合物の少なくとも一種を0.1〜2モル%共重合した共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐デラミ性および透明性に優れた共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンナフタレート(PEN)は抗張力、伸度、ヤング率、弾性回復率等の機械的性質、耐熱性、寸法安定性等の物理的性質、耐薬品性、耐水性等の化学的性質が優れ、安価であるために工業的に大きな価値を有していることは良く知られており、例えば、繊維、タイヤコード、ボトル、フィルム等で多く用いられている。
しかしながら、PENはデラミネーション(分子層間剥離)が発生するために、厚物フィルムが要求される分野、例えば自動車部品、電子部品、電照板、耐熱食品容器等の分野ではその使用が制限されてきた。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1(特開2002−273788号公報)ではポリイミドを特定量混合させることが、特許文献2(特開2002−371145号公報)では、PENにイソフタル酸を共重合させることが提案されている。しかしながら、これらの方法によれば、透明性が損なわれたり、膜厚が200μmを越えるいわゆる厚物としたときに色相が不十分になりやすく、色相向上が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開2002−273788号公報
【特許文献2】特開2002−371145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述の従来技術の問題点に鑑み、耐デラミ性と透明性と色相に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上述の目的を達成するために鋭意検討の結果、特定のジオールもしくはその誘導体を特定量共重合成分として使用したとき、耐デラミ性と透明性と色相とを高度に具備させることができることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
かくして本発明によれば、全酸成分に対して、下記構造式(I)〜(III)
【化1】

で示される群の中から選ばれる少なくとも一種の構造単位を0.1〜2モル%共重合した共重合ポリエチレン−2、6−ナフタレートが提供され、この共重合ポリエチレン−2、6−ナフタレートはフィルムの製膜、特に厚みが200μm以上のフィルムの製膜に極めて適したものである。なお、説明の便宜上、ポリエチレン−2、6−ナフタレートを、以下でPENと称することがある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐デラミ性と透明性と色相に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレートが提供され、例えば膜厚が200μmを越えるいわゆる厚物と呼ばれるフィルムなどに好適に使用でき、その工業的価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の共重合PENは、前記の構造式(I)〜(III)で示される構造単位を0.1〜2モル%共重合したものである。
前記構造式(I)〜(III)からなるいずれかの化合物を上記割合で共重合することにより、本発明の共重合PENは、PEN特有の機械的性能を損なうことなく優れた耐デラミ性、透明性、成形性を兼ね備えるという特徴が得られる。これらの中でも、より耐デラミ性と色相とを高度に具備させやすいことから、前記構造式(II)で示される構造単位が好ましい。また、好ましい共重合量は、本発明の効果の点から0.5〜1.5%の範囲である。共重合量が下限未満では、前記の構造式(I)〜(III)で示される構造単位を共重合したことによる効果が発現しがたく、他方上限を超えると耐デラミ性の向上効果はほとんど得られず、むしろ色相などが低下するなどの問題が出てきたり、溶融粘度が低下して製膜製が損なわれたりする。
【0010】
本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレートは、透過Col−b値が1.0〜2.0、さらに1.3〜1.9の範囲であることが好ましい。Col−bが上記範囲にあることで、過度に成形性を損なうような低温での処理にしなくても、得られる成形品に優れた色相を付与することができる。なお、このような透過Col−b値は、前述の構造式(I)〜(III)で示される構造単位を特定の割合で共重合することと、ポリマーの受ける熱履歴をできるだけ抑制することで達成できる。
【0011】
また、本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレートは、厚み300μmの二軸延伸フィルムとし、0.5MPaの荷重を付加して折り曲げたときの、折り目デラミ率が高々50%、さらに30%以下、特に10%以下であることが好ましい。折り目デラミ率が上限を超えると、成形体が白化しやすく、その使用が制限される。
【0012】
さらにまた、本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレートは、その溶融粘度が380〜430Pa・sの範囲にあることが、フィルムなどに製膜する際の成形性の点から好ましい。このような溶融粘度は、前述の構造式(I)〜(III)で示される構造単位を特定の割合で共重合することと、ポリマーの固有粘度などによって調整できる。
【0013】
本発明のPENは、それ自体公知の方法によって製造することができ、例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法などを挙げることができる。また、エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることが出来る。具体的なエステル交換触媒としては、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物が例示でき、エステル化触媒としては、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物が例示でき、エーテル化防止剤としてはアミン化合物等が例示でき、重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタン等の化合物が例示でき、熱安定剤としてはリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸等の各種リン化合物を例示できる。その他、光安定剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤等を必要に応じて加えても良い。もちろん、本発明の共重合PENは、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸成分、エチレングリコール成分および上記構造式(I)〜(III)で示される構造単位のほかに、それ自体公知の他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で共重合してもよい。
【0014】
本発明の共重合PENを製造する上で重要なことは、PENの重縮合反応が終了する以前の任意の段階で上記構造式(I)〜(III)のいずれかの構造単位を有するジオールを反応系に添加し、PENと反応させることである。具体的な添加時期は、エステル交換反応または直接エステル化反応の前、途中、反応終了後でもよく、重縮合反応の前、途中、反応終了直前のいずれでも構わないが、エステル化またはエステル交換反応初期から重縮合反応反応途中より以前の段階であることが、上記式(I)〜(III)の構造単位を有するジオールとの反応を十分に進めやすいことから好ましい。
【実施例】
【0015】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。また、本発明におけるPENの各種性状の測定は、以下の方法および基準にて行った。
【0016】
(1)固有粘度(IV、dl/g)
フェノール/トリクロロエタン=6/4(重量比)を溶媒に用いて35℃恒温下オストワルト型粘度計を用いて測定した。
【0017】
(2)共重合ジオールの定量
ポリマー1gをメタノール/水(1/1重量比)混合溶液で分解し、ウォーターズ製液体クロマトグラフィーLC Module plus(カラムShodex RS pak D8−613)を用い、検量線法で定量した。
【0018】
(3)溶融粘度
測定装置は、島津製作所製フローテスターCF−500を用い、測定温度300℃、予熱時間:1分、ノズル径:1mm、ノズル長:10mm、で測定し、回帰式より剪断速度1000(1/秒)における剪断速度を求めた。
【0019】
(4)二軸延伸フィルムの作製
得られたPEN樹脂を、170℃で5時間乾燥した後、溶融温度290℃でスリット状ダイを通してシート状に溶融押出し、回転冷却ドラム上に密着させて固化させ、厚さ2.5mmの未延伸シートとし、これを150℃の温度で、製膜方向に3倍、幅方向に2.8倍延伸し、厚さ300μmの二軸延伸フィルムとした。
【0020】
(5)耐デラミ性
上記(4)で得た二軸延伸フィルムを80×80mmの大きさに切り出し、折目ができるように手で軽く2つに折りながら、平坦な一対の金属板で挟んだ後、プレス機により0.5MPaの圧力で20秒間プレスした。プレス後、プレスを開放し、次いで、2つ折りのフィルムサンプルを手で元の状態に戻し、前記金属板に挟んで再度0.5MPaの圧力で20秒間プレスした。その後、フィルムサンプルを取り出し、折目にあらわれた白化部分の長さ(mm)を顕微鏡で測定する。この測定を、それぞれ新しいフィルムサンプルを使用し、10回繰り返す。そして白化部分の長さ(mm)の合計の平均値が折目の全長(80mm)に占める割合をもって折目デラミネーション白化率とし、この値をフィルムのデラミネ−ション(層間剥離)の起こり易さを示す指標として使用する。この折目デラミネーション白化率の値が小さいほど耐デラミネーションが良好と判断した。
【0021】
(6)全光線透過率および透過Col−b値
上記(4)で得た厚み300μmの二軸延伸フィルムを、JIS−K−7105に準じて、測定装置は、日本電色工業社製の測定装置(型式:COH−300A)を使用して全光線透過率および透過Col−b値を測定した。なお、全光線透過率は大きいほど透明性が高いことを示し、透過Col−b値は大きいほど黄着色の度合いが強いことを示す。
【0022】
(7)オリゴマー量
樹脂10mgをクロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(容量比3/2)混液2mlに溶解し、その後クロロホルムを加えて10mlとしてサンプル液とし、キャリアーにクロロホルムを用いたGPC(カラムは東ソー製TSKgel−G2000H8 7.5mmID×60cmを使用)により、検量線法にてPENの繰り返し単位からなる1〜5量体それぞれを定量し、それらの合計をオリゴマー量とした。
【0023】
[実施例1]
(1)樹脂の合成:2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下NDCMという)100モル(24.4kg)、エチレングリコール(以下、EGという)180モル(11.2kg)、DMT100モルに対し酢酸マンガン四水和物0.03モル、窒素雰囲気下で240℃まで昇温してエステル交換反応を行った。メタノールの留出量が理論量に対して90%以上に達した後、NDCM100モルに対し、酸化アンチモン(III)0.02モルとトリメチルホスフェート(以下、「TMP」という)0.04モルを加え、下記式(I−a)で示す化合物2モルを添加し、260℃で30分間保持した。その後、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に300℃、0.1kPa以下で重合を行った。適度な溶融粘度になった時点で反応を終了し、固有粘度(IV)0.63dl/gの共重合PENを得た。共重合PEN中に含まれる繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は0.8重量%であった。
【0024】
【化2】

【0025】
[実施例2]
実施例1において、上記式(I−a)で示す化合物を、下記式(II−a)で示す化合物に変更し、添加量を2モルとした以外は同様な操作を繰り返した。得られたPENは、固有粘度(IV)が0.62dl/gで、繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は0.7重量%であった。
【0026】
【化3】

【0027】
[実施例3]
実施例1において、上記式(I−a)で示す化合物を、下記式(III−a)で示す化合物に変更し、添加量を2モルとした以外は同様な操作を繰り返した。得られたPENは、固有粘度(IV)が0.64dl/gで、繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は0.6重量%であった。
【0028】
【化4】

【0029】
[比較例1]
実施例1において、上記式(I−a)で示す化合物を添加しなかった以外は同様な操作を繰り返した。得られたPENは、固有粘度(IV)が0.64dl/gで、繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は1.3重量%であった。
【0030】
[比較例2]
実施例1において、上記式(I−a)で示す化合物を、スピログリコールに変更し、添加量を2モルとした以外は同様な操作を繰り返した。得られたPENは、固有粘度(IV)が0.62dl/gで、繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は0.9重量%であった。
【0031】
[比較例3]
実施例1において、NDCMを98モルに変更し、上記式(I−a)で示す化合物を、イソフタル酸に変更して、添加量を2モルとした以外は同様な操作を繰り返した。得られたPENは、固有粘度(IV)が0.64dl/gで、繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は1.0重量%であった。
【0032】
[実施例4]
実施例2において、添加量を0.1モルとした以外は同様な操作を繰り返した。得られたPENは、固有粘度(IV)が0.62dl/gで、繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は1.1重量%であった。
【0033】
[実施例5]
実施例2において、添加量を1モルとした以外は同様な操作を繰り返した。得られたPENは、固有粘度(IV)が0.64dl/gで、繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は0.9重量%であった。
【0034】
[比較例4]
実施例2において、添加量を0.05モルとした以外は同様な操作を繰り返した。得られたPENは、固有粘度(IV)が0.62dl/gで、繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は1.2重量%であった。
【0035】
[比較例5]
実施例2において、添加量を2.5モルとした以外は同様な操作を繰り返した。得られたPENは、固有粘度(IV)が0.62dl/gで、繰り返し単位からなる1〜5量体の含有量は0.6重量%であった。
【0036】
【表1】

【0037】
なお、表1中の、(I)は前記構造式(I−a)で示す化合物、(II)は前記構造式(II−a)で示す化合物、(III)は前記構造式(III−a)で示す化合物、SPGはスピログリコール、IAはイソフタル酸を示す。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレートは、PENの有する機械的性能や成形性および透明性を維持しつつ、さらに優れた耐デラミ性と色相を有することから自動車用部品、電子部品、フィルム、シート、食品包装材、電照板、ICカード、ディスプレイ表示画面板等、また光ディスク基板、プラスチックファイバー、プラスチックレンズ等の光学用成形品など有用な素材として用いることができ、特に厚み200μmを超えるフィルムなどに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全酸成分に対して、下記構造式(I)〜(III)で示される群の中から選ばれる少なくとも一種の構造単位を0.1〜2モル%共重合したことを特徴とする共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレート。
【化1】

【請求項2】
フィルムに用いられる請求項1記載の共重合ポリエチレン−2、6−ナフタレート。

【公開番号】特開2007−254652(P2007−254652A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82895(P2006−82895)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】