内張り材の硬化状態検査方法
【課題】受信波形のピークの検出を容易にし、硬化状態の判定の精度を高めること。
【解決手段】超音波発信器10と超音波受信器11を、内張り材1の内面に沿って距離をあけて設置する(設置工程)。次に、超音波発信器10から内張り材1に向けて所定周波数の超音波を発信し、内張り材1の内部を伝播した超音波を超音波受信器11で受信する(超音波測定工程)。そして、超音波受信器11で受信した超音波の波形に基づいて、内張り材1の硬化状態を判定する(判定工程)。さらに、判定工程においては、超音波受信器11で受信された受信波形と、この受信波形に対して時間的にずれた波形とを合成し、得られた合成波形に基づいて、内張り材1の硬化状態を判定する。
【解決手段】超音波発信器10と超音波受信器11を、内張り材1の内面に沿って距離をあけて設置する(設置工程)。次に、超音波発信器10から内張り材1に向けて所定周波数の超音波を発信し、内張り材1の内部を伝播した超音波を超音波受信器11で受信する(超音波測定工程)。そして、超音波受信器11で受信した超音波の波形に基づいて、内張り材1の硬化状態を判定する(判定工程)。さらに、判定工程においては、超音波受信器11で受信された受信波形と、この受信波形に対して時間的にずれた波形とを合成し、得られた合成波形に基づいて、内張り材1の硬化状態を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路内に施工された内張り材の硬化状態を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、老朽化した上下水道管や農業用水管、あるいは、ガス導管などの、主として地中に埋設された管路の内面に内張り材を設置し、管路の補修や補強を行う工法(更生工法ともいう)が知られている。一般的な更生工法においては、硬化性樹脂が含浸された内張り材を管路内に挿入し、加熱や紫外線照射等の硬化工程を経て上記樹脂を硬化させることによって、管路の内側に強固な補強構造(更生管)を構築する。
【0003】
ところで、上記の更生工法において、内張り材の施工後に、この内張り材に含まれる硬化性樹脂が十分に硬化していない場合には、未硬化部分において劣化しやすくなったり、外圧によって内張り材の内面に膨れが発生したりするなど、更生管の品質が低下する。そこで、施工後に硬化性樹脂の硬化状態を把握することが重要となる。
【0004】
これに関し、特許文献1には、超音波を用いて内張り材の硬化状態を検査する方法が開示されている。この特許文献1の検査方法では、管路内に超音波発信器(超音波発信用探触子)と超音波受信器(超音波受信用探触子)とを距離をあけて配置し、超音波発信器から内張り材へ向けて超音波を発信する一方で、内張り材を伝播した超音波を超音波受信器で受信する。ここで、内張り材の硬化性樹脂が未硬化状態である場合には、硬化状態と比べて超音波が減衰されて伝播しにくくなることから、超音波受信器で受信された受信波形(特に、内張り材の内部を伝播してきた超音波を受信したときのピークの振幅)が異なることになる。従って、超音波受信器で受信された超音波の波形から、内張り材の硬化性樹脂が十分に硬化しているか否かを判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−250755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載の検査方法において、内張り材の内部が均一な材質で構成されている場合など、内張り材の内部での超音波の減衰が少なければ、内張り材の内部を伝播してきた超音波を受信したときに生じる、受信波形のピークの振幅は大きくなり、このピークを比較的検出しやすい。
【0007】
しかし、内張り材の内部での超音波の減衰が大きい場合には、上記受信波形のピークの振幅が小さくなってピークの検出が困難になる。例えば、多くの内張り材は、硬化性樹脂のみによって構成されるものではなく、通常、強度を担保する強化繊維などを含んだ、異なる複数種類の材料が複合された構成である。このような構成の内張り材では、超音波が内張り材の内部を伝播する途中で異種材料の界面で反射するなどして、超音波が減衰することから、前記ピークの振幅が小さくなる。このような場合には、ノイズの影響を受けやすくなり、ピークを検出することが困難となって、硬化/未硬化の判定を誤ってしまう虞がある。
【0008】
本発明の目的は、受信波形のピークの検出を容易にし、硬化状態の判定の精度を高めることである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
第1の発明の内張り材の硬化状態検査方法は、管路内に配置された、硬化性樹脂を含む内張り材の硬化状態を検査する方法であって、超音波発信器と超音波受信器を、前記内張り材の内面に沿って距離をあけて設置する設置工程と、前記超音波発信器から前記内張り材に向けて所定周波数の超音波を発信し、前記内張り材の内部を伝播した超音波を前記超音波受信器で受信する超音波測定工程と、前記超音波受信器で受信した超音波の波形に基づいて、前記内張り材の硬化状態を判定する判定工程と、を備え、
前記判定工程において、前記超音波受信器で受信された受信波形と、この受信波形に対して時間的にずれた波形とを合成し、得られた合成波形に基づいて、前記内張り材の硬化状態を判定することを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、超音波発信器から発信された超音波が、内張り材の内部を伝播して超音波受信器で受信されたときの、その受信波形に基づいて内張り材の硬化状態を判定する。また、この判定工程において、超音波受信器の受信波形に、この受信波形に対して時間的にずれた波形を合成して合成波形を生成する。そして、この合成波形においては、2以上の波形のピークが互いに重ね合わされることによってピークの振幅が大きくなるとともに、それぞれの波形に含まれるノイズが相殺されてノイズの影響が低減されることから、ピークの検出が容易になる。従って、硬化状態を誤って判定してしまうことが防止され、判定の精度が向上する。
尚、本願明細書における「ピーク」とは、振幅の大きい1点を指すのではなく、その1点と前後の部分とを含む、ある範囲にわたって振幅が大きくなった波形部分全体を指す概念である。
【0011】
第2の発明の内張り材の硬化状態検査方法は、前記第1の発明において、前記判定工程において、前記受信波形と、この受信波形に対して前記所定周波数の逆数である超音波の1周期だけ時間的にずれた波形とを合成して、前記合成波形を生成することを特徴とするものである。
【0012】
受信波形に合成する波形の、受信波形に対する時間のずれが大きいと、2つの波形を合成させたときにピーク同士が重なり合わなくなる。本発明では、受信波形に対してわずかに超音波の1周期だけずらした波形を用いることで、2つの波形のピークがほぼ重なり合うことになり、合成波形のピークの振幅を大きくすることができる。
【0013】
第3の発明の内張り材の硬化状態検査方法は、前記第2の発明において、前記受信波形を含み、前記超音波の1周期ずつ時間がずれた3〜7個の波形を合成して前記合成波形を生成することを特徴とするものである。
【0014】
合成する波形の数を多くすると、ピークの振幅は大きくなるのであるが、合成する波形の数を一定以上に多くしても、合成波形のピークの振幅は頭打ちになってそれ以上大きくならないため、重ね合わせる波形の数はあまりに多くしても無駄である。そこで、受信波形を含む3〜7個の波形を合成することにより合成波形を生成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る更生工法の対象である管路の縦断面図である。
【図2】内張り材の断面図である。
【図3】内張り材の硬化状態を検査する際の管路の断面図である。
【図4】不飽和ポリエステル樹脂のみで構成された内張り材の受信波形を示す図である。
【図5】図2に示す多層構造の内張り材の受信波形を示す図である。
【図6】図4の受信波形から生成した合成波形を示す図である。
【図7】図5の受信波形から生成した合成波形を示す図である。
【図8】判定手法の検証に使用した試験体の、測定点を示す図である。
【図9】図8の各測定点における受信波形から生成した合成波形を示す図である。
【図10】各測定点において切り出した試験片の曲げ試験結果を示すグラフである。
【図11】各測定点の未硬化指数を示すグラフである。
【図12】未硬化指数と曲げ弾性係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、地中に埋設された下水道等の既設管路の更生を行う場合に、本発明を適用した一例である。
【0017】
(更生工法の概要)
まず、内張り材を用いた管路の更生工法について説明する。図1は、本実施形態に係る更生対象の管路の縦断面図である。図1に示すように、内張り材1は、硬化性樹脂を含む筒状体であり、この内張り材1をマンホールMから管路P内に引き込んだ後、内圧をかけて内張り材1を管路Pの内面に押し付けた状態で硬化性樹脂を硬化させることで、老朽化した既設管路Pの内面に新しく更生管を形成する。また、硬化性樹脂としては、熱硬化性、あるいは、光硬化性のものを使用でき、熱硬化性の場合は加熱、光硬化性の場合は紫外線等の光照射によって硬化させる。
【0018】
内張り材1は、硬化性樹脂を含むものであれば様々な構成のものを使用できるが、一定以上の強度を確保する上で、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の強化繊維に、硬化性樹脂液が含浸された、いわゆる、FRPを好適に使用できる。
【0019】
上記の内張り材1の一例を以下に示す。図2は内張り材の一例を断面で示した図である。図2の内張り材1は、増粘させた不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂にガラス繊維等の強化繊維が分散されたシート材(シートモールディングコンパウンド:SMC)を基材2とし、筒状に丸められた基材2の外側と内側にはポリエステル繊維等によって織成された筒状織物3,4がそれぞれ配置されている。また、内側の筒状織物4の内面には合成樹脂の被膜5が形成されている。尚、筒状織物3には熱硬化性樹脂が含浸されている。
【0020】
その他、基材2としては、上記のSMCの他、不織布に硬化性樹脂液が含浸されたものを使用することもできる。また、筒状織物3,4は内外何れか一方にのみ設けられたものでもよく、さらには、筒状織物が設けられていないものでもよい。あるいは、SMC等からなる基材2に、ガラスロービングクロスが積層された構成であってもよい。また、合成樹脂の被膜5がなくてもよい。
【0021】
(内張り材の硬化状態検査方法)
次に、上述した内張り材1の硬化性樹脂の硬化状態を検査する方法について説明する。図3は、内張り材の硬化状態を検査する際の管路の断面図である。図3に示すように、まず、管路P内に、超音波発信器10と超音波受信器11(以下、単に、「発信器10」、「受信器11」という)を、内張り材1の内面に沿って距離をあけて設置する(設置工程)。発信器10と受信器11は、測定装置12(コントローラ)に接続される。尚、図3では、発信器10と受信器11を管路Pの周方向に沿って配置しているが、配置の方向はこれには限られず、例えば、管路Pの長手方向(図3の紙面直交方向)に発信器10と受信器11を離して配置してもよい。また、本実施形態では、発信器10と受信器11をそれぞれ内張り材1の内面に接触させる。
【0022】
次に、発信器10から内張り材1に向けて所定周波数(例えば、180kHz)の超音波を発信させる。発信器10から発信された超音波は内張り材1の内部を伝播するが、図3に破線で示すように、一部が内張り材1の周方向に沿って受信器11まで伝播し、受信器11で受信される(超音波測定工程)。そして、受信器11は超音波の受信信号(受信波形)を測定装置12に送る。尚、図3では、発信器10の超音波発信方向が内張り材1に対して垂直な方向(管径方向)となっているが、超音波が周方向に伝播しやすいように、管径方向に対して受信器11側に傾斜した方向に発信してもよい。
【0023】
また、先にも触れたように、本実施形態では、発信器10と受信器11をそれぞれ内張り材1の内面に接触させている(接触方式)。この接触方式では、非接触方式と比べると、発信器10から内張り材1に向けて超音波が発信される際、及び、内張り材1の内部を伝播した超音波が受信器11で受信される際に、ノイズが乗りにくくなる。そのため、超音波の発信周波数を下げることが可能となる。また、空気層を通過しないことから超音波の減衰が抑えられる。
【0024】
測定装置12は、受信器11から送られた受信波形に基づいて、内張り材1の硬化性樹脂の硬化状態を判定する。内張り材1の内部を伝播してきた超音波が受信器11で受信されると、受信波形にピークが生じる。ここで、内張り材1の硬化性樹脂が完全に硬化している状態と、硬化が不十分な状態(未硬化状態)とでは、超音波の伝播のしやすさが異なり、未硬化状態では、完全に硬化した状態と比較して、伝播途中で超音波が減衰しやすい。従って、受信器11で受信される超音波の強さ(即ち、ピークの振幅)に違いが生じるため、硬化状態を判定することが可能となる。
【0025】
受信波形について、以下、具体例を挙げてさらに説明する。図4、図5に、受信器11の受信波形の一例をそれぞれ示す。図4は、硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂のみで構成された内張り材1(厚み3mm)に超音波を発信したときの受信波形である。また、図5は、図2に示す多層構造の内張り材1(厚み15mm)に超音波を発信したときの受信波形である。尚、図4、図5の横軸は超音波の1つの波が発信されてからの経過時間(単位:μs)を示し、縦軸は受信波形の電圧値(受信した超音波の強さ)を示す。また、図4、図5において発信周波数は180kHzであり、また、共に、硬化性樹脂が硬化した状態での受信波形である。
【0026】
図4、図5において、超音波の発信直後にピークP1が生じているが、これは発信器10から発信された超音波が、その直後に内張り材1の表面で反射し、内張り材1の表面を伝播して受信器11で受信されていることを示す。
【0027】
その後、図4、図5において、一定時間経過後(図4では約70μs後、図5では約50μs後)に別のピーク(ピークP2)が出現しており、このピークP2は、内張り材1の内部を伝播した超音波が受信器11で初めて受信されたことを示している。尚、以下の説明において、「ピーク」とは、振幅の大きい1点を指すのではなく、その1点と前後の部分とを含む、ある範囲にわたって振幅が大きくなった波形部分全体を指すものとする。
【0028】
ところで、内張り材が単一材料(硬化性樹脂のみ)で構成された場合は、図4に示すように、硬化状態におけるピークP2の振幅が、その前後と比べて大きく、ピークP2を検出することは比較的容易である。しかしながら、硬化性樹脂以外に、ガラス繊維等の他の材料を含む内張り材では、図5に示すように、硬化状態であってもピークP2の振幅は小さくなっており、ピークP2の検出が難しくなる。この理由は、図2の内張り材1は、硬化性樹脂にガラス繊維が分散された基材2と、筒状織物3,4と、樹脂被膜5とが積層された、複数種類の材料からなる複合構造であり、このような内張り材1の内部を超音波が伝播する際に、異種材料の界面において超音波が反射することによって、超音波が減衰してしまうからである。
【0029】
そこで、硬化性樹脂以外の材料を含む内張り材においても、ピークP2の検出が容易になるように、測定装置12により以下の作業を行う。まず、受信器11で受信した受信波形に対して、時間をずらした波形を1以上生成する。そして、受信波形に対して時間のずれた1以上の波形を、同じ時間軸上で、受信波形に重ね合わせることによって合成波形を生成する。
【0030】
図6は、図4の受信波形から生成した合成波形の波形図である。また、図7は、図5の受信波形から生成した合成波形の波形図である。尚、ここでは、受信波形に対して、超音波の1周期(発信周波数の逆数の時間)ずつずれた波形を生成し、受信波形と合成している。例えば、図6(a)、図7(a)の「2波」とは、受信波形と、この受信波形に対して1周期だけずれた波形の、2個の波形を重ね合わせている。また、(b)の「3波」とは、受信波形と、受信波形に対して1周期ずれた波形と、受信波形に対して2周期ずれた波形の、合計3個の波形を重ね合わせている。
【0031】
まず、単一材料からなる内張り材においては、図4に示す受信波形でもピークP2は明確に現れているが、図6に示す合成波形では、さらにピークP2の振幅が大きくなっている。一方、硬化性樹脂以外の材料を含む内張り材1では、図5の受信波形ではピークP2の振幅がその前後の波形部分と比べてさほど大きいものではなく、あまり明確ではなかったが、図7に示す合成波形では、ピークP2の振幅がその前後と比べてかなり大きくなり、ピークP2が明確に現れている。
【0032】
上記のように、時間が少しだけずれた、受信波形を含む2以上の波形が合成されると、それぞれの波形のピークP2が重ね合わされるために、合成波形のピークP2の振幅が大きくなり、ピークP2の検出が容易になる。従って、硬化状態を誤って判定してしまうことが防止され、判定の精度が向上する。
【0033】
尚、単純にピークP2の振幅を大きくするだけであれば、測定装置12で受信波形を大きく増幅してもよいのだが、この場合は受信波形に含まれるノイズも増幅されてしまう。これに対して、上記のように、受信波形に対して少しの時間(例えば超音波の1周期)をずらした波形を生成して受信波形に重ね合わせることで、それぞれの波形に含まれるノイズが相殺されることからノイズの影響が低減される。また、上述のように、単純に受信波形を増幅するとノイズが増幅されるという問題があるのに対して、本願では、ゲインをそれほど大きくしなくても、合成波形を生成することによって明確なピークを得ることができる。
【0034】
また、図7に示すように、合成波形では、受信波形に重ね合わせる波形の数を多くするほど、ピークP2の振幅が大きくなっているが、8波以上の合成波形では、7波の合成波形と比べて、ピークP2の振幅はほとんど変わらない。このように、合成する波形の数を一定以上に多くしても、合成波形のピークの振幅は頭打ちになってそれ以上大きくならないため、重ね合わせる波形の数はあまりに多くしても無駄である。そこで、受信波形も含めて3〜7個の波形を重ね合わせて合成波形を生成することが好ましい。
【0035】
さらに、上記の合成波形を用いて、内張り材の硬化状態を判定する手法について具体的に説明する。上述したように、硬化性樹脂が未硬化の部分では、完全に硬化している部分と比較して、受信波形(合成波形)のピークP2の振幅(電圧値)が低くなる。従って、内張り材1の複数箇所について超音波測定を行い、得られた合成波形のピークP2の電圧がどの程度であるかによって、各測定点における硬化性樹脂の硬化の程度を判定することができる。
【0036】
この硬化状態の判定についての具体的手法を確立するために、以下の試験を行った。ここでは、熱硬化性樹脂(不飽和ポリエステル樹脂)にガラス繊維が分散されたSMC(図2の基材2と同じ材料)の、矩形状の平板を試験体として用いた。図8に、試験体の平面図を示すとともに、この試験体における超音波測定の測定点の位置も併せて示す。尚、図8の試験体の作製時において、硬化性樹脂の硬化状態を意図的に異ならせており、図8の右側に向かうほど、硬化性樹脂の硬化度合が低い、未硬化状態となっている。
【0037】
図8に示すように、発信器10と受信器11を試験体20の短手方向に距離をあけて配置し、それぞれ試験体20の表面に接触させた状態で、発信器10と受信器11を試験体20の長手方向に移動させながら、長手方向に並ぶ15箇所の測定点(No.1〜No.15)においてそれぞれ超音波測定を行った。また、超音波測定後に、各測定点について、発信器10の接触位置と受信器11の接触位置(それぞれ黒丸で示される位置)の中間に位置する部分(白丸で示される部分)を試験片として切り出し、それぞれの試験片について曲げ試験を行った。
【0038】
図9に、各測定点における受信波形から生成した合成波形を示す。尚、この図9の合成波形は、受信器11で得られた受信波形も含む3波を重ね合わせたものであり、測定点3,10,11,12,13の5箇所についてそれぞれ示す。
【0039】
図8において左側に位置する測定点3においては、図9の丸で囲まれたピークP2の振幅が大きくなっており、硬化性樹脂が十分に硬化した状態であると考えられる。これに対して、図8の右側に位置するものほどピークの振幅は小さくなっている。但し、測定点10や測定点11では、測定点3と比べると振幅はやや小さいもののピークは明確に現れている。しかし、測定点12や測定点13ではピークは非常に小さくなっており、これらの測定点12や測定点13においては未硬化状態であると考えられる。また、図10は、各測定点において切り出した試験片の曲げ試験結果を示すグラフである。図10に示すように、測定点1〜10では曲げ弾性係数が大きいが、測定点11〜15では曲げ弾性係数が小さくなっている。以上の結果から、合成波形のピークの振幅(電圧値)と硬化状態との間には相関関係があり、ピークの電圧値から硬化状態を判定することが可能なことが理解される。
【0040】
以下、上記の判定についてさらに具体的に説明する。まず、各測定点について合成波形のピーク電圧値をデシベル換算した、未硬化指数を算出する。即ち、ピーク電圧値をT(単位:V)として、
未硬化指数=−20log(T)
で算出される。
【0041】
そして、図9に示される各測定点の合成波形のピーク電圧値から、各測定点の未硬化指数を算出すると、図11のようになる。さらに、図11の未硬化指数と図10に示される曲げ弾性係数との関係をグラフにすると、図12のようになる。
【0042】
図12に示すように、未硬化指数が小さいと曲げ弾性係数は大きく、逆に、未硬化指数が大きいと曲げ弾性係数は小さくなる。従って、未硬化指数が一定値を超えた場合に、未硬化状態であると判定することができる。ここでは、硬化状態と判定するための曲げ弾性係数の閾値を6700N/mm2(図10に一点鎖線で示す)としており、未硬化指数が20を超える測定点10において、曲げ弾性係数が上記閾値を下回る。従って、この結果に則するのであれば、未硬化指数が20を超える場合に未硬化状態であると判定すればよい。
【0043】
この判定手法では、合成波形からピーク電圧値を取得し、このピーク電圧値から未硬化指数を求めることで、この未硬化指数の値から、内張り材1の各部の硬化状態を簡単に判定することができる。また、この判定の結果、一部に未硬化部分が存在することが分かった場合には、特に、前記未硬化部分に対して加熱や光照射等の硬化工程を行うことにより、前記未硬化部分を確実に硬化させる。
【0044】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0045】
1]前記実施形態では、受信波形に重ね合わせる波形として、少なくとも、受信波形に対して超音波の1周期だけずれた波形を重ね合わせているが、重ね合わせる波形の、受信波形に対する時間のずれ量は前記超音波の1周期には限られない。例えば、受信波形に対して2周期ずれた波形であってもよいし、あるいは、半周期ずれた波形であってもよい。但し、時間のずれがあまりにも大きな波形同士を重ね合わせると2つの波形のピークP2同士が重ならなくなり、合成波形のピークP2の振幅が大きくならない。そこで、重ね合わせる波形の間の時間のずれは、互いのピークP2が重なり合うように、受信波形のピークP2の全幅(時間幅)よりも短い時間、より好ましくは、ピークP2の全幅の半分よりも短い時間とする。
【0046】
2]前記実施形態では、内張り材1の内面に発信器10と受信器11を接触させているが、内張り材1の内面に対して発信器10と受信器11を離して配置した、非接触方式を採用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 内張り材
10 超音波発信器
11 超音波受信器
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路内に施工された内張り材の硬化状態を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、老朽化した上下水道管や農業用水管、あるいは、ガス導管などの、主として地中に埋設された管路の内面に内張り材を設置し、管路の補修や補強を行う工法(更生工法ともいう)が知られている。一般的な更生工法においては、硬化性樹脂が含浸された内張り材を管路内に挿入し、加熱や紫外線照射等の硬化工程を経て上記樹脂を硬化させることによって、管路の内側に強固な補強構造(更生管)を構築する。
【0003】
ところで、上記の更生工法において、内張り材の施工後に、この内張り材に含まれる硬化性樹脂が十分に硬化していない場合には、未硬化部分において劣化しやすくなったり、外圧によって内張り材の内面に膨れが発生したりするなど、更生管の品質が低下する。そこで、施工後に硬化性樹脂の硬化状態を把握することが重要となる。
【0004】
これに関し、特許文献1には、超音波を用いて内張り材の硬化状態を検査する方法が開示されている。この特許文献1の検査方法では、管路内に超音波発信器(超音波発信用探触子)と超音波受信器(超音波受信用探触子)とを距離をあけて配置し、超音波発信器から内張り材へ向けて超音波を発信する一方で、内張り材を伝播した超音波を超音波受信器で受信する。ここで、内張り材の硬化性樹脂が未硬化状態である場合には、硬化状態と比べて超音波が減衰されて伝播しにくくなることから、超音波受信器で受信された受信波形(特に、内張り材の内部を伝播してきた超音波を受信したときのピークの振幅)が異なることになる。従って、超音波受信器で受信された超音波の波形から、内張り材の硬化性樹脂が十分に硬化しているか否かを判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−250755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載の検査方法において、内張り材の内部が均一な材質で構成されている場合など、内張り材の内部での超音波の減衰が少なければ、内張り材の内部を伝播してきた超音波を受信したときに生じる、受信波形のピークの振幅は大きくなり、このピークを比較的検出しやすい。
【0007】
しかし、内張り材の内部での超音波の減衰が大きい場合には、上記受信波形のピークの振幅が小さくなってピークの検出が困難になる。例えば、多くの内張り材は、硬化性樹脂のみによって構成されるものではなく、通常、強度を担保する強化繊維などを含んだ、異なる複数種類の材料が複合された構成である。このような構成の内張り材では、超音波が内張り材の内部を伝播する途中で異種材料の界面で反射するなどして、超音波が減衰することから、前記ピークの振幅が小さくなる。このような場合には、ノイズの影響を受けやすくなり、ピークを検出することが困難となって、硬化/未硬化の判定を誤ってしまう虞がある。
【0008】
本発明の目的は、受信波形のピークの検出を容易にし、硬化状態の判定の精度を高めることである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
第1の発明の内張り材の硬化状態検査方法は、管路内に配置された、硬化性樹脂を含む内張り材の硬化状態を検査する方法であって、超音波発信器と超音波受信器を、前記内張り材の内面に沿って距離をあけて設置する設置工程と、前記超音波発信器から前記内張り材に向けて所定周波数の超音波を発信し、前記内張り材の内部を伝播した超音波を前記超音波受信器で受信する超音波測定工程と、前記超音波受信器で受信した超音波の波形に基づいて、前記内張り材の硬化状態を判定する判定工程と、を備え、
前記判定工程において、前記超音波受信器で受信された受信波形と、この受信波形に対して時間的にずれた波形とを合成し、得られた合成波形に基づいて、前記内張り材の硬化状態を判定することを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、超音波発信器から発信された超音波が、内張り材の内部を伝播して超音波受信器で受信されたときの、その受信波形に基づいて内張り材の硬化状態を判定する。また、この判定工程において、超音波受信器の受信波形に、この受信波形に対して時間的にずれた波形を合成して合成波形を生成する。そして、この合成波形においては、2以上の波形のピークが互いに重ね合わされることによってピークの振幅が大きくなるとともに、それぞれの波形に含まれるノイズが相殺されてノイズの影響が低減されることから、ピークの検出が容易になる。従って、硬化状態を誤って判定してしまうことが防止され、判定の精度が向上する。
尚、本願明細書における「ピーク」とは、振幅の大きい1点を指すのではなく、その1点と前後の部分とを含む、ある範囲にわたって振幅が大きくなった波形部分全体を指す概念である。
【0011】
第2の発明の内張り材の硬化状態検査方法は、前記第1の発明において、前記判定工程において、前記受信波形と、この受信波形に対して前記所定周波数の逆数である超音波の1周期だけ時間的にずれた波形とを合成して、前記合成波形を生成することを特徴とするものである。
【0012】
受信波形に合成する波形の、受信波形に対する時間のずれが大きいと、2つの波形を合成させたときにピーク同士が重なり合わなくなる。本発明では、受信波形に対してわずかに超音波の1周期だけずらした波形を用いることで、2つの波形のピークがほぼ重なり合うことになり、合成波形のピークの振幅を大きくすることができる。
【0013】
第3の発明の内張り材の硬化状態検査方法は、前記第2の発明において、前記受信波形を含み、前記超音波の1周期ずつ時間がずれた3〜7個の波形を合成して前記合成波形を生成することを特徴とするものである。
【0014】
合成する波形の数を多くすると、ピークの振幅は大きくなるのであるが、合成する波形の数を一定以上に多くしても、合成波形のピークの振幅は頭打ちになってそれ以上大きくならないため、重ね合わせる波形の数はあまりに多くしても無駄である。そこで、受信波形を含む3〜7個の波形を合成することにより合成波形を生成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る更生工法の対象である管路の縦断面図である。
【図2】内張り材の断面図である。
【図3】内張り材の硬化状態を検査する際の管路の断面図である。
【図4】不飽和ポリエステル樹脂のみで構成された内張り材の受信波形を示す図である。
【図5】図2に示す多層構造の内張り材の受信波形を示す図である。
【図6】図4の受信波形から生成した合成波形を示す図である。
【図7】図5の受信波形から生成した合成波形を示す図である。
【図8】判定手法の検証に使用した試験体の、測定点を示す図である。
【図9】図8の各測定点における受信波形から生成した合成波形を示す図である。
【図10】各測定点において切り出した試験片の曲げ試験結果を示すグラフである。
【図11】各測定点の未硬化指数を示すグラフである。
【図12】未硬化指数と曲げ弾性係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、地中に埋設された下水道等の既設管路の更生を行う場合に、本発明を適用した一例である。
【0017】
(更生工法の概要)
まず、内張り材を用いた管路の更生工法について説明する。図1は、本実施形態に係る更生対象の管路の縦断面図である。図1に示すように、内張り材1は、硬化性樹脂を含む筒状体であり、この内張り材1をマンホールMから管路P内に引き込んだ後、内圧をかけて内張り材1を管路Pの内面に押し付けた状態で硬化性樹脂を硬化させることで、老朽化した既設管路Pの内面に新しく更生管を形成する。また、硬化性樹脂としては、熱硬化性、あるいは、光硬化性のものを使用でき、熱硬化性の場合は加熱、光硬化性の場合は紫外線等の光照射によって硬化させる。
【0018】
内張り材1は、硬化性樹脂を含むものであれば様々な構成のものを使用できるが、一定以上の強度を確保する上で、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維等の強化繊維に、硬化性樹脂液が含浸された、いわゆる、FRPを好適に使用できる。
【0019】
上記の内張り材1の一例を以下に示す。図2は内張り材の一例を断面で示した図である。図2の内張り材1は、増粘させた不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂にガラス繊維等の強化繊維が分散されたシート材(シートモールディングコンパウンド:SMC)を基材2とし、筒状に丸められた基材2の外側と内側にはポリエステル繊維等によって織成された筒状織物3,4がそれぞれ配置されている。また、内側の筒状織物4の内面には合成樹脂の被膜5が形成されている。尚、筒状織物3には熱硬化性樹脂が含浸されている。
【0020】
その他、基材2としては、上記のSMCの他、不織布に硬化性樹脂液が含浸されたものを使用することもできる。また、筒状織物3,4は内外何れか一方にのみ設けられたものでもよく、さらには、筒状織物が設けられていないものでもよい。あるいは、SMC等からなる基材2に、ガラスロービングクロスが積層された構成であってもよい。また、合成樹脂の被膜5がなくてもよい。
【0021】
(内張り材の硬化状態検査方法)
次に、上述した内張り材1の硬化性樹脂の硬化状態を検査する方法について説明する。図3は、内張り材の硬化状態を検査する際の管路の断面図である。図3に示すように、まず、管路P内に、超音波発信器10と超音波受信器11(以下、単に、「発信器10」、「受信器11」という)を、内張り材1の内面に沿って距離をあけて設置する(設置工程)。発信器10と受信器11は、測定装置12(コントローラ)に接続される。尚、図3では、発信器10と受信器11を管路Pの周方向に沿って配置しているが、配置の方向はこれには限られず、例えば、管路Pの長手方向(図3の紙面直交方向)に発信器10と受信器11を離して配置してもよい。また、本実施形態では、発信器10と受信器11をそれぞれ内張り材1の内面に接触させる。
【0022】
次に、発信器10から内張り材1に向けて所定周波数(例えば、180kHz)の超音波を発信させる。発信器10から発信された超音波は内張り材1の内部を伝播するが、図3に破線で示すように、一部が内張り材1の周方向に沿って受信器11まで伝播し、受信器11で受信される(超音波測定工程)。そして、受信器11は超音波の受信信号(受信波形)を測定装置12に送る。尚、図3では、発信器10の超音波発信方向が内張り材1に対して垂直な方向(管径方向)となっているが、超音波が周方向に伝播しやすいように、管径方向に対して受信器11側に傾斜した方向に発信してもよい。
【0023】
また、先にも触れたように、本実施形態では、発信器10と受信器11をそれぞれ内張り材1の内面に接触させている(接触方式)。この接触方式では、非接触方式と比べると、発信器10から内張り材1に向けて超音波が発信される際、及び、内張り材1の内部を伝播した超音波が受信器11で受信される際に、ノイズが乗りにくくなる。そのため、超音波の発信周波数を下げることが可能となる。また、空気層を通過しないことから超音波の減衰が抑えられる。
【0024】
測定装置12は、受信器11から送られた受信波形に基づいて、内張り材1の硬化性樹脂の硬化状態を判定する。内張り材1の内部を伝播してきた超音波が受信器11で受信されると、受信波形にピークが生じる。ここで、内張り材1の硬化性樹脂が完全に硬化している状態と、硬化が不十分な状態(未硬化状態)とでは、超音波の伝播のしやすさが異なり、未硬化状態では、完全に硬化した状態と比較して、伝播途中で超音波が減衰しやすい。従って、受信器11で受信される超音波の強さ(即ち、ピークの振幅)に違いが生じるため、硬化状態を判定することが可能となる。
【0025】
受信波形について、以下、具体例を挙げてさらに説明する。図4、図5に、受信器11の受信波形の一例をそれぞれ示す。図4は、硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂のみで構成された内張り材1(厚み3mm)に超音波を発信したときの受信波形である。また、図5は、図2に示す多層構造の内張り材1(厚み15mm)に超音波を発信したときの受信波形である。尚、図4、図5の横軸は超音波の1つの波が発信されてからの経過時間(単位:μs)を示し、縦軸は受信波形の電圧値(受信した超音波の強さ)を示す。また、図4、図5において発信周波数は180kHzであり、また、共に、硬化性樹脂が硬化した状態での受信波形である。
【0026】
図4、図5において、超音波の発信直後にピークP1が生じているが、これは発信器10から発信された超音波が、その直後に内張り材1の表面で反射し、内張り材1の表面を伝播して受信器11で受信されていることを示す。
【0027】
その後、図4、図5において、一定時間経過後(図4では約70μs後、図5では約50μs後)に別のピーク(ピークP2)が出現しており、このピークP2は、内張り材1の内部を伝播した超音波が受信器11で初めて受信されたことを示している。尚、以下の説明において、「ピーク」とは、振幅の大きい1点を指すのではなく、その1点と前後の部分とを含む、ある範囲にわたって振幅が大きくなった波形部分全体を指すものとする。
【0028】
ところで、内張り材が単一材料(硬化性樹脂のみ)で構成された場合は、図4に示すように、硬化状態におけるピークP2の振幅が、その前後と比べて大きく、ピークP2を検出することは比較的容易である。しかしながら、硬化性樹脂以外に、ガラス繊維等の他の材料を含む内張り材では、図5に示すように、硬化状態であってもピークP2の振幅は小さくなっており、ピークP2の検出が難しくなる。この理由は、図2の内張り材1は、硬化性樹脂にガラス繊維が分散された基材2と、筒状織物3,4と、樹脂被膜5とが積層された、複数種類の材料からなる複合構造であり、このような内張り材1の内部を超音波が伝播する際に、異種材料の界面において超音波が反射することによって、超音波が減衰してしまうからである。
【0029】
そこで、硬化性樹脂以外の材料を含む内張り材においても、ピークP2の検出が容易になるように、測定装置12により以下の作業を行う。まず、受信器11で受信した受信波形に対して、時間をずらした波形を1以上生成する。そして、受信波形に対して時間のずれた1以上の波形を、同じ時間軸上で、受信波形に重ね合わせることによって合成波形を生成する。
【0030】
図6は、図4の受信波形から生成した合成波形の波形図である。また、図7は、図5の受信波形から生成した合成波形の波形図である。尚、ここでは、受信波形に対して、超音波の1周期(発信周波数の逆数の時間)ずつずれた波形を生成し、受信波形と合成している。例えば、図6(a)、図7(a)の「2波」とは、受信波形と、この受信波形に対して1周期だけずれた波形の、2個の波形を重ね合わせている。また、(b)の「3波」とは、受信波形と、受信波形に対して1周期ずれた波形と、受信波形に対して2周期ずれた波形の、合計3個の波形を重ね合わせている。
【0031】
まず、単一材料からなる内張り材においては、図4に示す受信波形でもピークP2は明確に現れているが、図6に示す合成波形では、さらにピークP2の振幅が大きくなっている。一方、硬化性樹脂以外の材料を含む内張り材1では、図5の受信波形ではピークP2の振幅がその前後の波形部分と比べてさほど大きいものではなく、あまり明確ではなかったが、図7に示す合成波形では、ピークP2の振幅がその前後と比べてかなり大きくなり、ピークP2が明確に現れている。
【0032】
上記のように、時間が少しだけずれた、受信波形を含む2以上の波形が合成されると、それぞれの波形のピークP2が重ね合わされるために、合成波形のピークP2の振幅が大きくなり、ピークP2の検出が容易になる。従って、硬化状態を誤って判定してしまうことが防止され、判定の精度が向上する。
【0033】
尚、単純にピークP2の振幅を大きくするだけであれば、測定装置12で受信波形を大きく増幅してもよいのだが、この場合は受信波形に含まれるノイズも増幅されてしまう。これに対して、上記のように、受信波形に対して少しの時間(例えば超音波の1周期)をずらした波形を生成して受信波形に重ね合わせることで、それぞれの波形に含まれるノイズが相殺されることからノイズの影響が低減される。また、上述のように、単純に受信波形を増幅するとノイズが増幅されるという問題があるのに対して、本願では、ゲインをそれほど大きくしなくても、合成波形を生成することによって明確なピークを得ることができる。
【0034】
また、図7に示すように、合成波形では、受信波形に重ね合わせる波形の数を多くするほど、ピークP2の振幅が大きくなっているが、8波以上の合成波形では、7波の合成波形と比べて、ピークP2の振幅はほとんど変わらない。このように、合成する波形の数を一定以上に多くしても、合成波形のピークの振幅は頭打ちになってそれ以上大きくならないため、重ね合わせる波形の数はあまりに多くしても無駄である。そこで、受信波形も含めて3〜7個の波形を重ね合わせて合成波形を生成することが好ましい。
【0035】
さらに、上記の合成波形を用いて、内張り材の硬化状態を判定する手法について具体的に説明する。上述したように、硬化性樹脂が未硬化の部分では、完全に硬化している部分と比較して、受信波形(合成波形)のピークP2の振幅(電圧値)が低くなる。従って、内張り材1の複数箇所について超音波測定を行い、得られた合成波形のピークP2の電圧がどの程度であるかによって、各測定点における硬化性樹脂の硬化の程度を判定することができる。
【0036】
この硬化状態の判定についての具体的手法を確立するために、以下の試験を行った。ここでは、熱硬化性樹脂(不飽和ポリエステル樹脂)にガラス繊維が分散されたSMC(図2の基材2と同じ材料)の、矩形状の平板を試験体として用いた。図8に、試験体の平面図を示すとともに、この試験体における超音波測定の測定点の位置も併せて示す。尚、図8の試験体の作製時において、硬化性樹脂の硬化状態を意図的に異ならせており、図8の右側に向かうほど、硬化性樹脂の硬化度合が低い、未硬化状態となっている。
【0037】
図8に示すように、発信器10と受信器11を試験体20の短手方向に距離をあけて配置し、それぞれ試験体20の表面に接触させた状態で、発信器10と受信器11を試験体20の長手方向に移動させながら、長手方向に並ぶ15箇所の測定点(No.1〜No.15)においてそれぞれ超音波測定を行った。また、超音波測定後に、各測定点について、発信器10の接触位置と受信器11の接触位置(それぞれ黒丸で示される位置)の中間に位置する部分(白丸で示される部分)を試験片として切り出し、それぞれの試験片について曲げ試験を行った。
【0038】
図9に、各測定点における受信波形から生成した合成波形を示す。尚、この図9の合成波形は、受信器11で得られた受信波形も含む3波を重ね合わせたものであり、測定点3,10,11,12,13の5箇所についてそれぞれ示す。
【0039】
図8において左側に位置する測定点3においては、図9の丸で囲まれたピークP2の振幅が大きくなっており、硬化性樹脂が十分に硬化した状態であると考えられる。これに対して、図8の右側に位置するものほどピークの振幅は小さくなっている。但し、測定点10や測定点11では、測定点3と比べると振幅はやや小さいもののピークは明確に現れている。しかし、測定点12や測定点13ではピークは非常に小さくなっており、これらの測定点12や測定点13においては未硬化状態であると考えられる。また、図10は、各測定点において切り出した試験片の曲げ試験結果を示すグラフである。図10に示すように、測定点1〜10では曲げ弾性係数が大きいが、測定点11〜15では曲げ弾性係数が小さくなっている。以上の結果から、合成波形のピークの振幅(電圧値)と硬化状態との間には相関関係があり、ピークの電圧値から硬化状態を判定することが可能なことが理解される。
【0040】
以下、上記の判定についてさらに具体的に説明する。まず、各測定点について合成波形のピーク電圧値をデシベル換算した、未硬化指数を算出する。即ち、ピーク電圧値をT(単位:V)として、
未硬化指数=−20log(T)
で算出される。
【0041】
そして、図9に示される各測定点の合成波形のピーク電圧値から、各測定点の未硬化指数を算出すると、図11のようになる。さらに、図11の未硬化指数と図10に示される曲げ弾性係数との関係をグラフにすると、図12のようになる。
【0042】
図12に示すように、未硬化指数が小さいと曲げ弾性係数は大きく、逆に、未硬化指数が大きいと曲げ弾性係数は小さくなる。従って、未硬化指数が一定値を超えた場合に、未硬化状態であると判定することができる。ここでは、硬化状態と判定するための曲げ弾性係数の閾値を6700N/mm2(図10に一点鎖線で示す)としており、未硬化指数が20を超える測定点10において、曲げ弾性係数が上記閾値を下回る。従って、この結果に則するのであれば、未硬化指数が20を超える場合に未硬化状態であると判定すればよい。
【0043】
この判定手法では、合成波形からピーク電圧値を取得し、このピーク電圧値から未硬化指数を求めることで、この未硬化指数の値から、内張り材1の各部の硬化状態を簡単に判定することができる。また、この判定の結果、一部に未硬化部分が存在することが分かった場合には、特に、前記未硬化部分に対して加熱や光照射等の硬化工程を行うことにより、前記未硬化部分を確実に硬化させる。
【0044】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0045】
1]前記実施形態では、受信波形に重ね合わせる波形として、少なくとも、受信波形に対して超音波の1周期だけずれた波形を重ね合わせているが、重ね合わせる波形の、受信波形に対する時間のずれ量は前記超音波の1周期には限られない。例えば、受信波形に対して2周期ずれた波形であってもよいし、あるいは、半周期ずれた波形であってもよい。但し、時間のずれがあまりにも大きな波形同士を重ね合わせると2つの波形のピークP2同士が重ならなくなり、合成波形のピークP2の振幅が大きくならない。そこで、重ね合わせる波形の間の時間のずれは、互いのピークP2が重なり合うように、受信波形のピークP2の全幅(時間幅)よりも短い時間、より好ましくは、ピークP2の全幅の半分よりも短い時間とする。
【0046】
2]前記実施形態では、内張り材1の内面に発信器10と受信器11を接触させているが、内張り材1の内面に対して発信器10と受信器11を離して配置した、非接触方式を採用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 内張り材
10 超音波発信器
11 超音波受信器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路内面に配置された、硬化性樹脂を含む内張り材の硬化状態を検査する方法であって、
超音波発信器と超音波受信器を、前記内張り材の内面に沿って距離をあけて設置する設置工程と、
前記超音波発信器から前記内張り材に向けて所定周波数の超音波を発信し、前記内張り材の内部を伝播した超音波を前記超音波受信器で受信する超音波測定工程と、
前記超音波受信器で受信した超音波の波形に基づいて、前記内張り材の硬化状態を判定する判定工程と、を備え、
前記判定工程において、前記超音波受信器で受信された受信波形と、この受信波形に対して時間的にずれた波形とを合成し、得られた合成波形に基づいて、前記内張り材の硬化状態を判定することを特徴とする内張り材の硬化状態検査方法。
【請求項2】
前記判定工程において、前記受信波形と、この受信波形に対して前記所定周波数の逆数である超音波の1周期だけ時間的にずれた波形とを合成して、前記合成波形を生成することを特徴とする請求項1に記載の内張り材の硬化状態検査方法。
【請求項3】
前記受信波形を含み、前記超音波の1周期ずつ時間がずれた3〜7個の波形を合成して前記合成波形を生成することを特徴とする請求項2に記載の内張り材の硬化状態検査方法。
【請求項1】
管路内面に配置された、硬化性樹脂を含む内張り材の硬化状態を検査する方法であって、
超音波発信器と超音波受信器を、前記内張り材の内面に沿って距離をあけて設置する設置工程と、
前記超音波発信器から前記内張り材に向けて所定周波数の超音波を発信し、前記内張り材の内部を伝播した超音波を前記超音波受信器で受信する超音波測定工程と、
前記超音波受信器で受信した超音波の波形に基づいて、前記内張り材の硬化状態を判定する判定工程と、を備え、
前記判定工程において、前記超音波受信器で受信された受信波形と、この受信波形に対して時間的にずれた波形とを合成し、得られた合成波形に基づいて、前記内張り材の硬化状態を判定することを特徴とする内張り材の硬化状態検査方法。
【請求項2】
前記判定工程において、前記受信波形と、この受信波形に対して前記所定周波数の逆数である超音波の1周期だけ時間的にずれた波形とを合成して、前記合成波形を生成することを特徴とする請求項1に記載の内張り材の硬化状態検査方法。
【請求項3】
前記受信波形を含み、前記超音波の1周期ずつ時間がずれた3〜7個の波形を合成して前記合成波形を生成することを特徴とする請求項2に記載の内張り材の硬化状態検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−61180(P2013−61180A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198545(P2011−198545)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】
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