説明

内燃機関の冷却液回路のベントのためのバルブ機構

【課題】冷却液回路の複数の部分流路が、個別に、1つの共通のリザーバタンク内でベントされる内燃機関の冷却液回路のベントのバルブ機構を提供する。
【解決手段】冷却液回路1が、部分流路1a,1b,1cと、ベント管路3,4,5とを有する。ベント管路3,4,5のいずれかが、部分流路1a,1b,1cの少なくとも1つから伸びる。ベント管路3,4,5のそれぞれが、冷却液回路1において最も高い位置に配置されたリザーバタンク6に繋がる。1つの1次ベント管路4と少なくとも1つの2次ベント管路3とが、バルブ7を通して、リザーバタンク6に繋がる1つの共通ベント管路5に集約される。1次ベント管路4が、リザーバタンク6に、常時、流体的に接続されている。バルブ7が、2次ベント管路3に気泡が存在する場合にのみ、2次ベント管路3からリザーバタンク6への流体的な接続を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の冷却液回路のベントのためのバルブ機構に関し、特に、複数の部分流路を有する冷却液回路のベントのためのバルブ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷却液回路は、例えば、米国特許第5111776号または独国特許出願公開第19956893号に示されているように、内燃機関を有している。これらの内燃機関は、熱交換器を含む冷却液回路を通して、熱除去の瞬間に冷却液で影響を与えることができる。内燃機関の稼働で冷却液が加熱されることによって、冷却液には、気泡が発生する。この気泡は、構成部品の損傷および/または冷却性能の低下を招く。そこで、冷却液回路には、ベント管路が接続される。このベント管路は、高い位置に配置されたリザーバタンクに通じる。リザーバタンクには、部分的にのみ、冷却液が入れられている。その結果、冷却液回路からの冷却液に含まれる空気をリザーバタンク内に集めることができる。また、例えば、内燃機関の搭載後または修理後に必要になることだが、冷却液回路は、リザーバタンクを通して冷却液で満たされる。
【0003】
また、独国特許発明第19607638号および独国特許出願公開第19854544号に開示されている内容では、ベント管路が、複数の異なる部分流路から、1つの共通のリザーバタンクに通じている。しかしながら、リザーバタンクで、冷却液の混合が起こる。これは、特に、部分流路が、個別に、異なる温度レベルで運用される場合には、望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5111776号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第19956893号明細書
【特許文献3】独国特許発明第19607638号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第19854544号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、冷却液回路の複数の部分流路が、個別に、1つの共通のリザーバタンク内でベントされる内燃機関の冷却液回路のベントのためのバルブ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる内燃機関の冷却液回路のベントのためのバルブ機構では、下記の特徴によって、この課題が解決される。
内燃機関の冷却液回路のベントのためのバルブ機構であって、前記冷却液回路が、複数の部分流路と、複数のベント管路とを有し、前記複数のベント管路のいずれかが、前記複数の部分流路の少なくとも1つから伸び、前記複数のベント管路のそれぞれが、前記冷却液回路において最も高い位置に配置されたリザーバタンクに繋がり、1つの1次ベント管路と少なくとも1つの2次ベント管路とが、バルブを通して、前記リザーバタンクに繋がる1つの共通ベント管路に集約され、前記1次ベント管路が、前記リザーバタンクに、常時、流体的に接続されており、前記バルブが、前記2次ベント管路に気泡が存在する場合にのみ、前記2次ベント管路からリザーバタンクへの流体的な接続を行う。
【0007】
さらに、前記バルブが、バルブケースと、前記バルブケース内に配置されたバルブボールとを有し、前記バルブボールが、前記冷却液によって、バルブシートを塞ぐようにバルブシートに向かって押し付けられる。好ましくは、前記2次ベント管路が、バルブケースにおいてバルブシートよりも下側に接続されており、前記1次ベント管路と前記共通ベント管路とが、バルブケースにおいてバルブシートよりも上側に接続されている。
【0008】
好ましくは、前記バルブボールが、冷却液よりも比重が小さい。
好ましくは、前記バルブが、2次ベント管路の最も高い位置に設置される。
なお、本発明に係わるベントのためのバルブ機構を有する内燃機関の冷却液回路は、下記に示される。
【0009】
内燃機関用の冷却液回路が、本発明に係わるベントのためのバルブ機構を有する。さらに、前記内燃機関が、1つのシリンダブロックと少なくとも1つのシリンダヘッドとを有し、前記シリンダブロックが、第1の部分流路に含まれており、前記少なくとも1つのシリンダヘッドが、第2の部分流路に含まれており、前記第1の部分流路と前記第2の部分流路とが、個別に、冷却液の通過可能なものである。
【0010】
好ましくは、前記1次ベント管路が、前記第2の部分流路から伸びるものであり、前記2次ベント管路が、前記第1の部分流路から伸びるものである。
好ましくは、一般の熱交換器が、前記第1の部分流路および/または前記第2の部分流路に含まれており、リザーバタンクの排出路が、前記一般の熱交換器の上流に繋がる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係わる内燃機関の冷却液回路のベントのためのバルブ機構によれば、下記の効果を奏する。
様々な部分流路からの複数のベント管路が、1つのバルブを通して、単一のリザーバタンクの1つの共通ベント管路に繋がることによって、余計な管路の長さが短縮し、リザーバタンクの構造が単純になる。バルブが、通常の動作の間、ベント管路を分離させる。これに伴い、様々な部分流路からの冷却液の混合が見られない代わりに、様々な部分流路が個別に管理される。このことは、1つ以上の部分流路において、例えば、内燃機関のウォームアップの間、冷却液の流れが得られず、冷却液が停滞することで冷却液を迅速に温めるという利点を有する。ここで、1次ベント管路は、常に、リザーバタンク内でベントすることができる。2次ベント管路は、バルブ内で気泡が上昇する場合にのみ、バルブによって、共通ベント管路の接続を得る。その後、2次ベント管路からの気泡が消失すると、2次ベント管路から共通ベント管路への接続が、再度、取り消される。なお、必要に応じて、複数のベント管路がバルブに接続されているとしてもよい。この場合においても、再度、気泡が上昇する場合にのみ、共通ベント管路への接続になる。
【0012】
また、バルブシートは、好ましくは、バルブケースを窄めることによって形成されている。バルブケースの窄められた部分の直径が、バルブボールよりも小さい。バルブボールは、中空状のバルブケース内の冷却液で、通常、塞ぐようにバルブシートに向かって押し付けられている。2次ベント管路からの気泡が、バルブケース内で上昇すると、バルブボールが一時的に下がる。一時的に、2次ベント管路と共通ベント管路との間の流体的な接続が生じる。
【0013】
また、冷却液に浮かぶことができるバルブボールの浮力によって、バルブボールが、バルブシートに向かって押し付けられる。バルブボールの下に及ぶ気泡が、このようにして生じた冷却液と空気の混合物の比重を一時的に下げる。その結果、バルブボールがバルブシートから下がり、気泡が、共通ベント管路に向かって、バルブシートを通過する。
【0014】
また、バルブが2次ベント管路の最も高い位置に設置されることにより、バルブケース内で上昇する気泡が確実に集められる。
なお、本発明に係わるベントのためのバルブ機構を有する冷却液回路によれば、下記の効果を奏する。
【0015】
第1の部分流路と第2の部分流路とが、互いに平行に通じており、制御バルブおよび/または遮断バルブに従って、個別に、冷却液の通過を許す。なお、冷却液の循環については、通常の冷却液ポンプが適している。
【0016】
また、第2の部分流路に含まれた少なくとも1つのシリンダヘッドは、1次ベント管路を通して、リザーバタンクに、常時、流体的に接続されている。第1の部分流路に含まれたシリンダブロックは、バルブ内に気泡が発生する場合にのみ、リザーバタンクに流体的に接続される。
【0017】
また、一般の熱交換器によって、内燃機関の余熱で加熱された冷却液が再冷却される。排出路が一般の熱交換器の上流に繋がることによって、リザーバタンクに貯蔵されている冷却液が、排出路を通して、内燃機関の冷却のための冷却液回路に、再度、案内される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明におけるバルブの2つの断面図
【図2】ベントのためのバルブ機構を有する冷却液回路の概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の特徴と利点とを明らかにするために、図面を参照しながら、好ましい実施例を詳細に説明する。
図1に示されるように、内燃機関の冷却液回路のベントのためのバルブ機構は、バルブ7を有している。バルブ7は、中空状のバルブケース8と、バルブケース8を窄めることによって形成されたバルブシート10とを備える。中空状のバルブケース8内には、冷却液上に浮かぶことができるバルブボール9が配置される。バルブシート10には、バルブボール9が、バルブボール9に浮力が働くことによって、バルブケース8の内部を塞ぐように到達する。バルブケース8は、通常、冷却液で満たされている。その冷却液は、ベント管路3,4から流入し、共通ベント管路5を経由して、図2に示されるリザーバタンク6に排出される。ここでは、2次ベント管路3を経由して流入した冷却液が、さらなる2次ベント管路3を経由して、排出される。ただし、2次ベント管路3がバルブ7で終わる場合もある。1次ベント管路4と共通ベント管路5は、バルブシート10よりも上側に配置される。2次ベント管路3は、バルブシート10よりも下側に配置される。これによって、1次ベント管路4からバルブケース8に流入する冷却液は、バルブケース8内のバルブボール9の位置と無関係で、共通ベント管路5に流出する。ただし、2次ベント管路3からバルブケース8に流入する冷却液は、図1の右図に示されるように、2次ベント管路3から上昇する気泡で、バルブボール9がバルブシート10から下がる場合にのみ、共通ベント管路5に流出する。バルブボール9の下側の冷却液に気泡がない場合には、図1の左図に示されるように、バルブボール9が、バルブボール9の上昇によって、バルブシート10を塞ぐようにバルブシート10に向かって押し付けられる。その結果、2次ベント管路3からの冷却液は、共通ベント管路5に流出しない。
【0020】
図2に示されるように、内燃機関2の冷却液回路1は、ベントのためのバルブ機構を有している。内燃機関2は、1つのシリンダブロック2aと少なくとも1つのシリンダヘッド2bとを有している。シリンダブロック2aは、冷却液回路1の第1の部分流路1aに含まれている。第1の部分流路1aは、冷却液回路1の第2の部分流路1bから分岐し、第2の部分流路1bに対して平行に通じている。第2の部分流路1bは、少なくとも1つのシリンダヘッド2bを含んでいる。ここでは、第1の部分流路1aは、シリンダブロック2aの下流に配置された遮断バルブ15で選択的に開閉されるとしてもよい。他の部分流路1cには、自動車の室内の温度制御のためのヒータの熱交換器16が配置されている。すべての部分流路1a,1b,1cには、内燃機関2の上流に配置された冷却液ポンプ13から、冷却液で影響が与えられる。第1の部分流路1aと第2の部分流路1bから流出する冷却液は、制御バルブ14に従って、一般の熱交換器11で冷却されるとしてもよいし、バイパス管路で制御バルブ14に渡されるとしてもよい。シリンダブロック2aからは、2次ベント管路3が、図1に詳細に示されたバルブ7に通じる。シリンダヘッド2bからは、1次ベント管路4が、バルブ7に通じる。バルブ7は、共通ベント管路5を介して、リザーバタンク6に繋がる。リザーバタンク6は、冷却液回路1内で最も高い位置に存在する。これに対して、バルブ7は、2次ベント管路3の最も高い位置に設置される。リザーバタンク6からは、第2の部分流路1bに戻る排出路12が、一般の熱交換器11の上流に通じる。1次ベント管路4は、図1に示されたバルブ7の特別な構造のために、リザーバタンク6に、常時、流体的に接続されている。2次ベント管路3は、バルブ7内で気泡が上昇する場合にのみ、リザーバタンク6に、一時、流体的に接続される。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明に係わる内燃機関の冷却液回路のベントのためのバルブ機構は、自動車において、冷却液から不必要な気泡を分離するために使用される。
【符号の説明】
【0022】
1 冷却液回路
1a 第1の部分流路
1b 第2の部分流路
1c 他の部分流路
2 内燃機関
2a シリンダブロック
2b シリンダヘッド
3 2次ベント管路
4 1次ベント管路
5 共通ベント管路
6 リザーバタンク
7 バルブ
8 バルブケース
9 バルブボール
10 バルブシート
11 一般の熱交換器
12 排出路
13 冷却液ポンプ
14 制御バルブ
15 遮断バルブ
16 ヒータの熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(2)の冷却液回路(1)のベントのためのバルブ機構であって、
前記冷却液回路(1)が、複数の部分流路(1a,1b,1c)と、複数のベント管路(3,4,5)とを有し、
前記複数のベント管路(3,4,5)のいずれかが、前記複数の部分流路(1a,1b,1c)の少なくとも1つから伸び、
前記複数のベント管路(3,4,5)のそれぞれが、前記冷却液回路(1)において最も高い位置に配置されたリザーバタンク(6)に繋がり、
1つの1次ベント管路(4)と少なくとも1つの2次ベント管路(3)とが、バルブ(7)を通して、前記リザーバタンク(6)に繋がる1つの共通ベント管路(5)に集約され、
前記1次ベント管路(4)が、前記リザーバタンク(6)に、常時、流体的に接続されており、
前記バルブ(7)が、前記2次ベント管路(3)に気泡が存在する場合にのみ、前記2次ベント管路(3)から前記リザーバタンク(6)への流体的な接続を行う
ことを特徴とするバルブ機構。
【請求項2】
前記バルブ(7)が、バルブケース(8)と、前記バルブケース(8)内に配置されたバルブボール(9)とを有し、
前記バルブボール(9)が、前記冷却液によって、バルブシート(10)を塞ぐようにバルブシート(10)に向かって押し付けられる
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブ機構。
【請求項3】
前記2次ベント管路(3)が、バルブケース(8)においてバルブシート(10)よりも下側に接続されており、
前記1次ベント管路(4)と前記共通ベント管路(5)とが、バルブケース(8)においてバルブシート(10)よりも上側に接続されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のバルブ機構。
【請求項4】
前記バルブボール(9)が、冷却液よりも比重が小さい
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のバルブ機構。
【請求項5】
前記バルブ(7)が、2次ベント管路(3)の最も高い位置に設置される
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバルブ機構。
【請求項6】
請求項1に記載のベントのためのバルブ機構を有する内燃機関(2)の冷却液回路。
【請求項7】
前記内燃機関(2)が、1つのシリンダブロック(2a)と少なくとも1つのシリンダヘッド(2b)とを有し、
前記シリンダブロック(2a)が、第1の部分流路(1a)に含まれており、
前記少なくとも1つのシリンダヘッド(2b)が、第2の部分流路(1b)に含まれており、
前記第1の部分流路(1a)と前記第2の部分流路(1b)とが、個別に、冷却液の通過可能なものである
ことを特徴とする請求項6に記載の冷却液回路。
【請求項8】
前記1次ベント管路(4)が、前記第2の部分流路(1b)から伸びるものであり、
前記2次ベント管路(3)が、前記第1の部分流路(1a)から伸びるものである
ことを特徴とする請求項6または7に記載の冷却液回路。
【請求項9】
一般の熱交換器(11)が、前記第1の部分流路(1a)および/または前記第2の部分流路(1b)に含まれており、
リザーバタンクの排出路(12)が、前記一般の熱交換器(11)の上流に繋がる
ことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の冷却液回路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−231761(P2011−231761A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90541(P2011−90541)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(591006586)アウディ アクチェンゲゼルシャフト (34)
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
【住所又は居所原語表記】D−85045 Ingolstadt,Germany