説明

内燃機関の潤滑油供給装置

【課題】 ピストンオイルジェットの設置に起因する駆動損失や暖機の遅延等を抑制した内燃機関の潤滑油供給装置を提供する。
【解決手段】 エンジンオイルの温度が上昇すると、比較的低い油圧で油圧感応弁10が開弁してメインギャラリ7からサブギャラリ11にエンジンオイルが流入し、オイルジェット12からピストン24の下面等に向けてエンジンオイルが噴射される。一方、サブギャラリ11内のエンジンオイルは、その一部がコントロール油路13に流入し、コントロール油圧としてオイルポンプ4の油圧アクチュエータ34に供給される。コントロール油圧が供給されると、油圧アクチュエータ34が可動ハウジング33を回転駆動し、オイルポンプ4によるエンジンオイルの吐出量が増大する。これにより、オイルジェット12が消費するエンジンオイルがまかなわれ、動弁機構22やクランクシャフト23に十分な量のエンジンオイルが供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の各部に潤滑油を供給する潤滑油供給装置に係り、詳しくは、ピストンオイルジェットの設置に起因する駆動損失や暖機の遅延等を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(以下、エンジンと記す)には、エンジンオイルを動弁機構やクランクジャーナル等に圧送して潤滑や冷却を行わせるべく、オイルポンプやオイルフィルタ、ストレーナ、リリーフバルブ等からなる潤滑油供給装置が備えられている。また、一部のエンジンには、高回転・高負荷時等におけるピストンやシリンダの温度上昇を抑制するため、クランクケースにジェットノズルを設置して、これらのジェットノズルからピストンの下面に向けてエンジンオイルを噴射するピストンオイルジェット(以下、単にオイルジェットと記す)が採用されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のオイルジェットでは、メインギャラリとジェットノズルとの間に弁体や圧縮コイルスプリングからなるオイルジェットバルブが介装されており、エンジン回転速度の上昇に伴ってメインギャラリの油圧がある程度高くなるとオイルジェットバルブが開弁し、ジェットノズルからエンジンオイルが噴射される。なお、エンジンの潤滑油供給装置には定容量型のトロコイド式オイルポンプが採用されることが多いが、トロコイド式オイルポンプのなかには、駆動損失の低減等を図るため、高速回転時に吐出量を減少させることができる可変容量型(特許文献2参照)のものも存在する。
【特許文献1】実公昭62−24742号公報
【特許文献2】特開平8−210261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オイルジェットが組み込まれたエンジンでは、オイルジェットバルブが開弁するとジェットノズル側に多量のエンジンオイルが流入することで、動弁機構やクランクシャフトへのエンジンオイルの供給量が急減する。したがって、従来は、オイルジェットの作動時にも十分な量のエンジンオイルを供給できるように、オイルポンプの吐出量を大きく設定する必要があり、オイルジェットが作動しない低速回転域でエンジンの駆動損失が増大する問題があった。また、従来のオイルジェットでは、メインギャラリの油圧に応じてオイルジェットバルブが開弁するため、ピストンやエンジンオイルの温度が低い冷間時には、エンジンの暖機が遅くなる他、熱損失増大による燃費の悪化や有害排出ガス成分の増大がもたらされる問題もあった。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、ピストンオイルジェットの設置に起因する駆動損失や暖機の遅延等を抑制した内燃機関の潤滑油供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面では、内燃機関を構成する定常給油部材(22,23)と非定常給油部材(12)とにエンジンオイルを供給する潤滑油供給装置(1)であって、前記内燃機関に駆動され、コントロール油圧が供給されることで吐出容量が増大する可変容量型のオイルポンプ(4)と、前記内燃機関の運転時に前記オイルポンプから供給されたエンジンオイルを前記定常給油部材に常時導く定常オイルギャラリ(7)と、前記内燃機関の運転状態に応じて、前記エンジンオイルを前記非定常給油部材に導く非定常オイルギャラリ(11)と、前記定常オイルギャラリと前記非定常オイルギャラリとの間に介装され、前記定常オイルギャラリの油圧が所定の開弁閾値に達したときに開弁して当該定常オイルギャラリと当該非定常オイルギャラリとを連通させる油圧感応弁(10)と、前記非定常オイルギャラリの油圧をコントロール油圧として前記オイルポンプに供給するコントロール油路(13)とを備えた。
【0007】
また、第2の側面では、前記非定常給油部材は、前記内燃機関のピストン(24)やシリンダ(25)をエンジンオイルによって冷却するピストンオイルジェット(12)である。
【0008】
また、第3の側面では、前記油圧感応弁は、前記エンジンオイルの温度が低いときに前記開弁閾値が高くなり、当該エンジンオイルの温度が高いときに前記開弁閾値が低くなる。
【0009】
また、第4の側面では、前記油圧感応弁が、前記定常オイルギャラリと前記非定常オイルギャラリとを遮断する弁体(52)と、当該弁体を所定の付勢力で遮断方向に付勢するバルブスプリング(53)とを有し、前記バルブスプリングは、形状記憶合金を素材とし、その温度が所定値に達した時に前記付勢力が減少するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、油圧の上昇に伴って非定常給油部材へのエンジンオイルの供給が開始されると、非定常オイルギャラリからコントロール油圧が導入されることでオイルポンプの吐出量が増大し、定常給油部材に対するエンジンオイル供給量の減少が抑制される。また、非定常給油部材がピストンオイルジェットである場合、動弁機構やクランクシャフトの潤滑を阻害することなく、十分な量のエンジンオイルによってピストンやシリンダが冷却される。また、エンジンオイルの温度が低いときに油圧感応弁の開弁閾値が高くなるものでは、始動直後の冷間時には非定常オイルギャラリにエンジンオイルが供給されにくくなり、ピストンオイルジェットによって暖機が阻害されることが抑制される。また、油圧感応弁が形状記憶合金製のバルブスプリングを有するものでは、比較的簡単な構造で開弁閾値を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る潤滑油供給装置の概略構成図である。
【図2】実施形態に係るオイルポンプの内部構造を示す正面図である。
【図3】実施形態に係る定圧維持バルブの透視斜視図である。
【図4】実施形態に係る定圧維持バルブの作動説明図である。
【図5】実施形態に係る油圧感応弁の透視斜視図である。
【図6】実施形態に係る潤滑油供給装置の冷間時における作動を示す説明図である。
【図7】実施形態に係る潤滑油供給装置の暖機完了時における作動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を自動車用エンジンの潤滑油供給装置に適用した一実施形態を詳細に説明する。
【0013】
≪実施形態の構成≫
<潤滑油供給装置の全体構成>
図1に示すように、本実施形態の潤滑油供給装置1は、オイルパン2と、オイルストレーナ3と、オイルポンプ4と、オイルフィルタ5と、メインギャラリ7(定常オイルギャラリ)と、定圧維持バルブ8と、油圧感応弁10と、サブギャラリ11(非定常オイルギャラリ)と、オイルジェット12(非定常給油部材)と、コントロール油路13と、リリーフ油路15と、リリーフバルブ16とを主要構成要素としている。
【0014】
オイルポンプ4は、オイルパン2に貯留されたエンジンオイルをオイルストレーナ3を介して吸い上げ、メインギャラリ7に圧送する。オイルフィルタ5は、コンタミナントや水分を内装したフィルタ本体21で捕捉することでエンジンオイルを浄化する。定圧維持バルブ8は、メインギャラリ7の油圧を所定の圧力範囲に変圧した後、動弁機構22(吸排気カムシャフトや吸排気バルブ、カムチェーン等)やクランクシャフト23(クランクジャーナルやクランクピン)に供給する。油圧感応弁10は、エンジンオイルの油圧が開弁閾値に達したときに開弁し、エンジンオイルをサブギャラリ11に供給する。オイルジェット12は、その先端にオリフィスが形成されており、サブギャラリ11を介して供給されたエンジンオイルをピストン24の下面やシリンダ25の内壁面に所定の噴射圧で噴射する。コントロール油路13は、サブギャラリ11内の油圧をコントロール油圧としてオイルポンプ4に導入する。リリーフバルブ16は、メインギャラリ7の油圧が過度に上昇しないように、エンジンの中高速回転時(オイルポンプ4の吐出量増大時)に開弁してオイルポンプ4の下流側から上流側にエンジンオイルを環流させる。
【0015】
<オイルポンプ>
オイルポンプ4は、可変容量型であり、図2に示すように、可動ハウジング33、油圧アクチュエータ34、リターンスプリング35等をメインハウジング36に収納してなる。
【0016】
可動ハウジング33は、オイルポンプ4の吐出量を増減させるべく、所定の角度範囲で回動する。油圧アクチュエータ34は、コントロール油路13からコントロール油圧が導入されることにより、可動ハウジング33を図中で右回転方向に付勢する。リターンスプリング35は、コントロール油圧が抜けることで油圧アクチュエータ34の付勢力が無くなると、その弾発力によって可動ハウジング33を元位置に復帰させる。
【0017】
<定圧維持バルブ>
定圧維持バルブ8は、図3に示すように、段付円筒形状のバルブボディ41内に、弁体42と、弁体42を図中で下方に付勢するバルブスプリング43(圧縮コイルスプリング)とを収容してなる。バルブボディ41には、上下方向中間部にメインギャラリ7の上流側からエンジンオイルが流入する拡径部44が設けられている。また、弁体42は、上端(バルブスプリング43が当接する側)が鏡板45によって閉鎖された底付円筒形状を呈するとともに、バルブボディ41の軸方向に沿う複数のスリット46をその外周に有している。弁体42は、バルブボディ41に形成された上方段部47と下方段部48との間で上下に摺動する。
【0018】
この定圧維持バルブ8では、上流側の油圧が低いときには、図4(a)に示すように、バルブスプリング43の付勢力によって弁体42が下方に押し下げられ、拡径部44とスリット46とのオーバラップ量が大きくなる。一方、上流側の油圧が高くなると、図4(b)に示すように、鏡板45の下面に油圧が作用することでバルブスプリング43の付勢力に打ち勝って弁体42が上昇し、拡径部44とスリット46とのオーバラップ量が小さくなる。これによりメインギャラリ7の下流側の油圧が略一定に維持され、オイルポンプ4の吐出量の増減(すなわち、エンジン回転速度の変動)等にかかわらず動弁機構22やクランクシャフト23に適正量のエンジンオイルが供給される。
【0019】
<油圧感応弁>
油圧感応弁10は、図5に示すように、メインギャラリ7とサブギャラリ11との間に介装された円筒状のバルブボディ51内に、弁体52と、弁体52を閉鎖方向に付勢するバルブスプリング53(圧縮コイルスプリング)とを収容してなる。バルブスプリング53は、チタン?タンタル系やチタン?ニオブ系等の形状記憶合金を素材としており、低温時にはそのばね力が高く保たれる一方、所定の温度(例えば、80℃)になるとばね力が急減する。これにより、油圧感応弁10は、冷間時の開弁閾値(冷間時開弁閾値)が高くなり、温間時の開弁閾値(温間時開弁閾値)が低くなる。本実施形態の場合、冷間時開弁閾値はエンジンの中速回転域におけるメインギャラリ7の油圧よりも有意に高く設定されている。
【0020】
≪実施形態の作用≫
<冷間時>
比較的長時間停止していたエンジンが起動されてクランクシャフト23によってオイルポンプ4が駆動され始めると、図6に示すように、オイルポンプ4は、オイルパン2に貯留されているエンジンオイルをオイルストレーナ3を介して吸い上げた後、メインギャラリ7に所定の吐出圧をもって吐出(供給)し始める。メインギャラリ7内に吐出されたエンジンオイルは、オイルフィルタ5で浄化された後、定圧維持バルブ8および油圧感応弁10に流入する。定圧維持バルブ8側に流入したエンジンオイルは、定圧維持バルブ8によって略一定圧に調圧された後、動弁機構22やクランクシャフト23に供給されて潤滑や冷却を行う。
【0021】
一方、油圧感応弁10側に流入したエンジンオイルは、メインギャラリ7の油圧が冷間時開弁閾値に達しないと油圧感応弁10が開弁しないことから、エンジンの中低速回転域においては油圧感応弁10に遮られてサブギャラリ11に流入しない。これにより、冷間時には、オイルジェット12からエンジンオイルが噴射されず、低温のエンジンオイルによってエンジンの暖機が阻害されなくなるとともに、燃焼室内の燃料の気化が促進されることで燃費の向上や有害排出ガス成分の減少が実現される。
【0022】
<暖機完了後>
エンジンの暖機が完了してエンジンオイルの温度が温間時開弁閾値まで上昇すると、図7に示すように、油圧感応弁10が比較的低い油圧(エンジンの中低速回転域におけるメインギャラリ7の油圧)で開弁してメインギャラリ7からサブギャラリ11にエンジンオイルが流入する。これにより、サブギャラリ11の端部に設けられたオイルジェット12からピストン24の下面等に向けてエンジンオイルが噴射され、ピストン24やシリンダ25の内壁面の温度上昇が効果的に抑制される。
【0023】
一方、サブギャラリ11内のエンジンオイルは、その一部がコントロール油路13に流入し、コントロール油圧としてオイルポンプ4の油圧アクチュエータ34に供給される。コントロール油圧が供給されると、油圧アクチュエータ34が可動ハウジング33を図2中で右方向に回転駆動し、前述したようにオイルポンプ4によるエンジンオイルの吐出量が増大する。これにより、オイルジェット12が消費するエンジンオイルがまかなわれ、動弁機構22やクランクシャフト23に十分な量のエンジンオイルが供給されることになる。
【0024】
本実施形態では、このような構成を採ったことにより、オイルポンプ4による駆動損失を抑えながら、オイルジェット12の作動時においても動弁機構22やクランクシャフト23に十分な量のエンジンオイルを供給できるようになる。また、ピストンやエンジンオイルの温度が低い冷間時にオイルジェット12が作動しないため、エンジンの暖機が促進される他、燃焼室内で燃料の気化も妨げられて燃費の低下や有害排出ガス成分の増大がもたらされることも防止できる。
【0025】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では非定常給油部材としてピストンオイルジェットを挙げたが、例えば可変動弁機構等を非定常給油部材としてもよい。また、上記実施形態では形状記憶合金製のバルブスプリングによって開弁閾値が変化する油圧感応弁を用いたが、形状記憶合金に代えてワックス式の付勢手段を備えた油圧感応弁を採用してもよいし、開弁閾値がエンジンオイルの温度にかかわらず一定である油圧感応弁を採用してもよい。その他、潤滑油供給装置やピストンオイルジェットの具体的構成等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 潤滑油供給装置
4 オイルポンプ
7 メインギャラリ(定常オイルギャラリ)
8 定圧維持バルブ
10 油圧感応弁
11 サブギャラリ(非定常オイルギャラリ)
12 オイルジェット(非定常給油部材)
13 コントロール油路
22 動弁機構(定常給油部材)
23 クランクシャフト(定常給油部材)
24 ピストン
25 シリンダ
52 弁体
53 バルブスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を構成する定常給油部材と非定常給油部材とにエンジンオイルを供給する潤滑油供給装置であって、
前記内燃機関に駆動され、コントロール油圧が供給されることで吐出容量が増大する可変容量型のオイルポンプと、
前記内燃機関の運転時に前記オイルポンプから供給されたエンジンオイルを前記定常給油部材に常時導く定常オイルギャラリと、
前記内燃機関の運転状態に応じて、前記エンジンオイルを前記非定常給油部材に導く非定常オイルギャラリと、
前記定常オイルギャラリと前記非定常オイルギャラリとの間に介装され、前記定常オイルギャラリの油圧が所定の開弁閾値に達したときに開弁して当該定常オイルギャラリと当該非定常オイルギャラリとを連通させる油圧感応弁と、
前記非定常オイルギャラリの油圧をコントロール油圧として前記オイルポンプに供給するコントロール油路と
を備えたことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項2】
前記非定常給油部材は、前記内燃機関のピストンやシリンダをエンジンオイルによって冷却するピストンオイルジェットであることを特徴とする、請求項1に記載された内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項3】
前記油圧感応弁は、前記エンジンオイルの温度が低いときに前記開弁閾値が高くなり、当該エンジンオイルの温度が高いときに前記開弁閾値が低くなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項4】
前記油圧感応弁が、前記定常オイルギャラリと前記非定常オイルギャラリとを遮断する弁体と、当該弁体を所定の付勢力で遮断方向に付勢するバルブスプリングとを有し、
前記バルブスプリングは、形状記憶合金を素材とし、その温度が所定値に達した時に前記付勢力が減少するものであることを特徴とする、請求項3に記載された内燃機関の潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−83194(P2013−83194A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223357(P2011−223357)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】