説明

内皮細胞および心筋細胞用培地MV06

【課題】内皮前駆細胞および心筋前駆細胞をin vitroで増殖させ得るMV06培地の提供。
【解決手段】イスコフ改変ダルベッコ培地と、ウシ胎児血清と、ウマ血清と、L‐グルタミン200mM(100倍)と、ペニシリン(10000u/mL)/ストレプトマイシン(1000μg/mL)と、Hu‐R骨形態形成蛋白質2(BMP‐2)と、Hu‐R線維芽細胞成長因子(FGF2)と、Hu‐R血管内皮成長因子(VEGF)からなるMV06培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD34細胞由来の内皮前駆細胞と心筋前駆細胞の両方のin vitroでの増殖を可能にする培地MV06に関する。
【0002】
さらなる臨床適用のため、以前免疫選択により精製されたCD34由来の内皮前駆細胞および心筋前駆細胞の分化およびex vivo増幅を進展させることが求められている。
【0003】
重要な問題は、CD34細胞のサブセットに特有の分化および機能的能力がex vivo増幅後に変化しないことを証明することである。
【背景技術】
【0004】
ヒト成体幹細胞をin vitroで内皮細胞または心筋細胞へ分化させ得るとして、様々な培地が文献で報告されている。
【0005】
内皮細胞について、Hernandezらは、血液アフェレーシスから生じた単核細胞(MNC)を内皮細胞へ分化させる培地を開発した。ここでMNCをウシ胎児血清(FCS)、インスリン、トランスフェリン、内皮細胞成長サプリメント、およびヘパリンを加えたM199培地中のゼラチンまたはフィブロネクチン上で培養した。
【0006】
Poratらも、X‐VIVO15(登録商標)培地上で培養後、内皮細胞分化用にヒト末梢血MNCを使用し、自己血清、血管内皮成長因子(VEGF)、およびヘパリンを加えた。細胞は、以前フィブロネクチンまたは自己血漿でコーティングした培養皿で培養された。
【0007】
Endocult(登録商標)は、Stem Cells technologies社から販売されている、CFU‐内皮細胞(CFU‐EC)を作製するための培地である。この培地により末梢血(PB)を循環する、あるいは骨髄に存在する総MNC中の内皮細胞サブ集団の定量化が可能になる。しかし、本培養法は、MNCの代わりに精製された血液CD34細胞を平板培養する際には不適切と考えられる。それはこのような培養条件下に限って、CD34細胞が2日後にアポトーシスを受けるためである。
【0008】
Peichevら側は、コラーゲンでコーティングした皿に入れたウシ胎児血清(FBS)、線維芽細胞成長因子2(FGF2)、およびヘパリンを加えたM199培地を用いて、ヒトPB‐CD34細胞から著明な内皮細胞への分化を誘発することに成功した。
【0009】
心筋細胞については、ヒト成体幹細胞をin vitroで心筋細胞へ分化させ得る培地を開発した研究グループはごくわずかである。
【0010】
内皮細胞の部分的分化については、Poratの研究グループがPB‐MNCの心筋細胞への分化にも関心を示し、5‐アザシチジン含有培地を使用した。しかし、5‐アザシチジンは変異原物質であるため、この方法では幹細胞の自然な分化は促進されない。しかも、この変異原性機序により、分化した細胞のその後の最終的な臨床使用も危険なものとなり得る。
【0011】
ヒト成体幹細胞のin vitroでの心筋細胞への分化に用いられる別の方法は、初代培養における幹細胞と新生ラットとの共培養である。YoonらはBandorffらと同じく、この方法を用いてヒト骨髄細胞株の心筋細胞への分化を誘発した。アフェレーシスにより生じたヒトPB CD34細胞は用いなかった。しかし、このようなヒト細胞とラット細胞の共培養によって2種類の細胞間で融合メカニズムが促進されると考えられ、このような方法のさらなる臨床使用の可能性を不適切なものにしかねない。
【0012】
このように、これら全ての培養法を考慮しても、現段階では、心筋細胞内再注入後に起こり得ることと同様の方法で、いわゆる造血幹細胞について内皮細胞と心筋細胞の両方への分化を誘発する能力を有する単独の培地を開発したものはいない。
【発明の開示】
【0013】
本発明によれば、内皮前駆細胞と心筋前駆細胞の両方をin vitroで増殖させ得るMV06培地は、
イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dubellco’s Medium)と、
ウシ胎児血清と、
ウマ血清と、
L‐グルタミン200mM(100倍)と、
ペニシリン(10000u/mL)/ストレプトマイシン(1000μg/mL)と、
ヒト組換え(hu‐R)骨形態形成蛋白質‐2(BMP‐2)と、
Hu‐R線維芽細胞成長因子‐2(FGF2)と、
Hu‐R血管内皮成長因子(VEGF)からなる。
【0014】
本発明の培養を実現するための好適な方法によれば、イスコフ改変ダルベッコ培地は容積の83%である。
【0015】
本発明の培養を実現するための好適な方法によれば、ウシ胎児血清は容積の12.5%である。
【0016】
本発明の培養を実現するための好適な方法によれば、ウマ血清は容積の2.5%である。
【0017】
本発明の培養を実現するための好適な方法によれば、L‐グルタミン200mM(100倍)は容積の1%である。
【0018】
本発明の培養を実現するための好適な方法によれば、ペニシリン(10000u/mL/ストレプトマイシン(1000μg/mL)は容積の1%である。
【0019】
本発明の培養を実現するための好適な方法によれば、Hu‐R BMP‐2の濃度は1ng/mLである。
【0020】
本発明の培養を実現するための好適な方法によれば、Hu‐R FGF2の濃度は5ng/mLである。
【0021】
本発明の培養を実現するための好適な方法によれば、hu‐R VEGFの濃度は10ng/mLである。
【0022】
本発明を実現するための有利な方法によれば、この培養は、
フィブロネクチンと、
ゼラチンからなる細胞外マトリックス上で実施される。
【0023】
好ましくは、フィブロネクチンは容積の0.0005%、ゼラチンは容積の0.02%である。
【0024】
有利には、ゼラチンはウシ皮膚由来のB型である。
【0025】
本発明の組成は、CD34細胞を7日間以上生存させ得る能力と、これらの細胞を内皮細胞および心筋細胞へ分化させ得る能力のどちらも有することで評価されている。FGF2およびVEGFは内皮細胞への分化に使用し、BMP‐2(胚発生時の心筋分化の主要な誘発因子として知られている)およびFGF2は心筋細胞への分化に使用する。さらに、梗塞後の心筋組織の瘢痕を厳密に再現するため、フィブロネクチンとゼラチンにより培養皿をコーティングする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明により開発された培地MV06は、各細胞型の遺伝子マーカーの著明な発現により示された通り、CD34細胞から内皮前駆細胞および心筋前駆細胞へのin vitroでの分化を可能にする。
【0027】
図1は、MV06培地上で培養したときのCD34細胞による内皮前駆細胞(1A)または心筋前駆細胞(1B)のいずれかに関する分子生物学的マーカーの漸次的発現を示す。
【0028】
図2は、免疫蛍光法により、MV06培地上のin vitro培養において増殖させた一部のCD34前駆細胞の内皮細胞への漸次的分化を、抗フォンウィルブラント因子抗体(vWF)抗体およびジアセチル‐LDLの取り込みにより標識化し可視化している。
【0029】
図3は、免疫蛍光法により得られた、本発明の培地上で増殖させ、抗トロポニンTおよび抗α‐サルコメアアクチンモノクローナル抗体で標識化したCD34細胞由来の心筋細胞の結果の写真である。
【0030】
本発明によるMV06培地は、
イスコフ改変ダルベッコ培地(GibcoBRL#21980)83%と、
ウシ胎児血清12.5%と、
ウマ血清2.5%と、
L‐グルタミン200mM(100倍)1%と、
ペニシリン(10000u/mL)/ストレプトマイシン(1000μg/mL)1%と、
Hu‐R骨形態形成蛋白質‐2(Eurobio)1ng/mLと、
Hu‐R線維芽細胞成長因子2(FGF2)(Eurobio)5ng/mLと、
Hu‐R血管内皮成長因子(VEGF)(Eurobio)10ng/mLからなる。
【0031】
さらにこの培養は、
フィブロネクチン(ウシ血漿由来の溶液、SIGMA#F1141)0.0005%と
ゼラチン(ウシ皮膚由来のB型、SIGMA#G1393)0.02%からなる細胞外マトリックス上で実施される。
【0032】
第1段階では、本発明によるMV06培地は、CD34細胞増幅の評価にのみ使用される。MV06培地は様々な動物起源(主にウシ)の成分を含むため、直接的な臨床使用には不適切である。
【0033】
しかし、動物成分の代わりにヒト起源の成分を用いる可能性については現在試験されており、計画された臨床的手順全体に関与するまさに細胞増幅用培地として、本発明による培地がさらに使用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明とその利点は、非制限的な実施例という形で提供された添付図に関する以下の好適な実施形態の説明によりさらに明らかになる。
【図1】MV06培地で増殖させた、CD34細胞における内皮細胞および心筋細胞の遺伝子発現を示す図。
【図2】免疫蛍光法により明らかにされた、CD34細胞由来の内皮前駆細胞の増殖結果を示す写真。
【図3】免疫蛍光法によるCD34細胞由来の心筋細胞の増殖を標識した写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内皮前駆細胞および心筋前駆細胞をin vitroで増殖させ得る
‐イスコフ改変ダルベッコ培地と、
‐ウシ胎児血清と、
‐ウマ血清と、
‐L‐グルタミン200mM(100倍)と、
‐ペニシリン(10000u/mL)/ストレプトマイシン(1000μg/mL)と、
‐Hu‐R骨形態形成蛋白質2(BMP‐2)と、
‐Hu‐R線維芽細胞成長因子(FGF2)と、
Hu‐R血管内皮成長因子(VEGF)からなるMV06培地。
【請求項2】
イスコフ改変ダルベッコ培地が前記容積の83%である、請求項1に記載の培地。
【請求項3】
ウシ胎児血清が前記容積の12.5%である、請求項1に記載の培地。
【請求項4】
ウマ血清が前記容積の2.5%である、請求項1に記載の培地。
【請求項5】
L‐グルタミン200mM(100倍)が前記容積の1%である、請求項1に記載の培地。
【請求項6】
ペニシリン(10000u/mL)/ストレプトマイシン(1000μg/mL)が前記容積の1%である、請求項1に記載の培地。
【請求項7】
hu‐R BMP‐2の濃度が1ng/mLである、請求項1に記載の培地。
【請求項8】
塩基性hu‐R FGF2の濃度が5ng/mLである、請求項1に記載の培地。
【請求項9】
hu‐R VEGFの濃度が10ng/mLである、請求項1に記載の培地。
【請求項10】
培養が、
‐フィブロネクチンと
‐ゼラチン
からなる細胞外マトリックス上で実施される、請求項1に記載の培地。
【請求項11】
前記フィブロネクチンが前記容積の0.0005%である、請求項10に記載の培地。
【請求項12】
前記ゼラチンが前記容積の0.02%である、請求項10に記載の培地。
【請求項13】
前記ゼラチンがウシ皮膚由来のB型である、請求項12に記載の培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−161183(P2008−161183A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311730(P2007−311730)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(507387918)
【Fターム(参考)】