説明

内視鏡の鉗子栓

【課題】処置具の挿脱が繰り返されてもスリットから発生する亀裂が広がらず、しかも蓋体の閉鎖膜に形成されたスリットが処置具不使用時にしっかり閉じる内視鏡の鉗子栓を、小型にコンパクトに構成することができるようにすること。
【解決手段】蓋体12に形成された閉鎖膜17の裏側のスリット19を囲む位置から鉗子栓本体11の突端入口部15内に突出する土手状部30が形成されていて、土手状部30の内周壁面30iは、スリット19を直径位置においた円形状に形成され、土手状部30の外周壁面30oは、スリット19の長手方向を短軸とする略長円形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内視鏡の処置具挿通チャンネルを通じて体内汚液等が内視鏡外に噴出しないように処置具挿通チャンネルの入口部分を弾力的にシールするための内視鏡の鉗子栓に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の鉗子栓は一般に、基部が内視鏡の処置具挿通チャンネルの入口部分に取り付けられる鉗子栓本体と、鉗子栓本体の突端入口部に着脱自在に取り付けられる蓋体とが共に弾力性のある部材により形成されて、処置具挿通チャンネルに挿通される処置具により押し開かれるスリットが形成された閉鎖膜が蓋体に形成されている。
【0003】
しかし、処置具がスリットに押し込まれる度に弾性変形して裏側に膨らむ動作が繰り返されると、使用を重ねていくうちにスリットの端部から外方に亀裂が発生して鉗子栓の気密性が低下してしまう場合がある。
【0004】
そこで従来は、閉鎖膜の裏側から鉗子栓本体の突端入口部内に突出する土手状部が、スリットの延長位置に突出形成され、スリットから伸びる亀裂が閉鎖膜に発生しても土手状部でくい止められて、亀裂がそれ以上広がらないようにしている。具体的には、土手状部がスリットの延長位置のみに形成されたり、スリットの長手方向を長軸とする長円形状に形成されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−80867
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓋体の閉鎖膜に形成されているスリットは、処置具が通されない状態では、体内汚液等が噴出しないようにできるだけきつく閉じた状態になっている必要があり、鉗子栓本体側からスリットを締め付ける力が付与されるように構成することが望ましい。
【0006】
そこで、特許文献1に記載された発明等のような従来の内視鏡の鉗子栓においては、鉗子栓本体側からスリットを締め付ける力を受ける締め付け部を蓋体に設けていたが、そのような締め付け部とスリットの亀裂を防ぐための土手状部とが各々独立して設けられていたので、鉗子栓が大きくなってしまう欠点があった。
【0007】
本発明は、処置具の挿脱が繰り返されてもスリットから発生する亀裂が広がらず、しかも蓋体の閉鎖膜に形成されたスリットが処置具不使用時にしっかり閉じる内視鏡の鉗子栓を、小型にコンパクトに構成することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡の鉗子栓は、基部が内視鏡の処置具挿通チャンネルの入口部分に取り付けられる鉗子栓本体と、鉗子栓本体の突端入口部に着脱自在に取り付けられる蓋体とが共に弾力性のある部材により形成されて、処置具挿通チャンネルに挿通される処置具により押し開かれるスリットが形成された閉鎖膜が蓋体に形成された内視鏡の鉗子栓において、閉鎖膜の裏側のスリットを囲む位置から鉗子栓本体の突端入口部内に突出する土手状部が形成されていて、土手状部の内周壁面は、スリットを直径位置においた円形状に形成され、土手状部の外周壁面は、スリットの長手方向を短軸とする略長円形状に形成されているものである。
【0009】
なお、鉗子栓本体の突端入口部の内周壁面が円形に形成されていて、蓋体が鉗子栓本体に取り付けられると、蓋体の土手状部の外周壁面がその略長円形状の長軸方向においては鉗子栓本体の突端入口部内にきつく圧入され、短軸方向ではゆるく嵌め込まれた状態になるようにするとよい。
【0010】
また、鉗子栓本体の突端入口部内に蓋体の土手状部の先端が当接する段部が形成されていて、蓋体が鉗子栓本体に取り付けられた状態では、土手状部の先端が段部に押し付けられた状態になるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、閉鎖膜の裏側のスリットを囲む位置から鉗子栓本体の突端入口部内に突出する土手状部が形成されていて、土手状部の内周壁面は、スリットを直径位置においた円形状に形成され、土手状部の外周壁面は、スリットの長手方向を短軸とする略長円形状に形成されていることにより、処置具の挿脱が繰り返されてもスリットから発生する亀裂が広がらず、しかも蓋体の閉鎖膜に形成されたスリットが処置具不使用時にしっかり閉じる内視鏡の鉗子栓を、小型にコンパクトに構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
基部が内視鏡の処置具挿通チャンネルの入口部分に取り付けられる鉗子栓本体と、鉗子栓本体の突端入口部に着脱自在に取り付けられる蓋体とが共に弾力性のある部材により形成されて、処置具挿通チャンネルに挿通される処置具により押し開かれるスリットが形成された閉鎖膜が蓋体に形成された内視鏡の鉗子栓において、閉鎖膜の裏側のスリットを囲む位置から鉗子栓本体の突端入口部内に突出する土手状部が形成されていて、土手状部の内周壁面は、スリットを直径位置においた円形状に形成され、土手状部の外周壁面は、スリットの長手方向を短軸とする略長円形状に形成されている。
【実施例】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図8において、1は、可撓性を有する内視鏡の挿入部、2は、挿入部1の基端に連結された操作部である。
【0014】
挿入部1内には、図示されていない処置具を挿通するための処置具挿通チャンネル3が全長にわたって挿通配置されていて、操作部2の下端部に配置された処置具挿通チャンネル3の入口開口部には、処置具挿通チャンネル3を通って逆流する体内汚液等が外方に吹き出さないようにするための鉗子栓10の鉗子栓本体11が着脱自在に取り付けられている。12と14は、後述する蓋体と連結帯状部材である。
【0015】
図3と図4は、鉗子栓10の90°異なる方向の断面における縦断面図、図5は斜視図である。鉗子栓10は、図示されていない処置具挿通チャンネル3の入口口金に着脱自在に取り付けられる略円筒状に形成された鉗子栓本体11と、鉗子栓本体11の上端の突端入口部15側から鉗子栓本体11に対し被さった状態に着脱自在に取り付けられる略キャップ状の蓋体12とを備えていて、全体が弾力性のあるゴム材等によって構成されている。
【0016】
鉗子栓本体11の内面の基端寄りの部分には、処置具挿通チャンネル3の入口口金に対して係脱自在な小径部13が形成されており、小径部13を弾性変形させて、処置具挿通チャンネル3の入口口金を締め付ける状態に取り付け及び取り外すことができる。
【0017】
蓋体12は、弾力性のあるゴム材により蓋体12と一体に形成された連結帯状部材14で鉗子栓本体11の基部と連結されていて、図6及び図7にも示されるように、蓋体12が鉗子栓本体11から取り外されてもその近くにぶら下げられた状態になるようになっている。
【0018】
図3及び図4に戻って、蓋体12と鉗子栓本体11には、閉鎖膜17と補助閉鎖膜16が形成されている。補助閉鎖膜16には、処置具挿通チャンネル3に挿通される処置具により押し開かれる小孔18が形成され、閉鎖膜17には、処置具挿通チャンネル3に挿通される処置具により押し開かれるスリット19が形成されている。
【0019】
したがって、蓋体12が鉗子栓本体11に取り付けられて処置具が使用されない状態では、閉鎖膜17に形成されたスリット19と補助閉鎖膜16に形成された小孔18とにより、処置具挿通チャンネル内から体内汚液等が噴出しないように封止される。
【0020】
鉗子栓本体11の基端寄りの位置の外周部には、円周溝21が全周にわたって外周面から凹んだ状態に形成されている。そして、鉗子栓本体11の外周を囲む状態に、蓋体12側に環状壁22が形成され、円周溝21に対して全周にわたり係合させることができる環状の内方突起23が環状壁22の先端部分の内周部の全周から内方に向けて突出形成されている。
【0021】
内方突起23は、環状壁22を弾性変形させて円周溝21に係脱させることができ、蓋体12が鉗子栓本体11から外れるのを防止するための抜け止め係合部が、円周溝21と内方突起23とで構成されている。
【0022】
鉗子栓本体11の外周部の中間部分には、上端部より径の大きな大径部26が形成され、その大径部26の基部側に隣接して円周溝21が全周にわたって凹んで形成されている。
【0023】
また、大径部26の外周部には、蓋体12の内方突起23部分が弾性変形してスライドする際に鉗子栓本体11の外周部と蓋体12の環状壁22とで囲まれた空間を外部と連通させる通気溝27が形成されている。
【0024】
蓋体12には、図3、図4及び図1に示されるように、閉鎖膜17の裏側のスリット19を囲む位置から鉗子栓本体11の突端入口部15内に突出する土手状部30が形成されている。したがって、処置具の挿脱が繰り返されてスリット19の端部から外方に伸びる亀裂が閉鎖膜17に発生しても、その亀裂は土手状部30でくい止められてそれ以上に広がらない。
【0025】
土手状部30を輪切りにした断面図である図2に示されるように、土手状部30の内周壁面30iは、スリット19を直径位置においた円形状に形成され、土手状部30の外周壁面30oは、スリット19の長手方向を短軸とする略長円形状に形成されている。「略長円形状」は、小判形や楕円形等も含む慨念である。なお、前出の図3は図2におけるIII−III断面を示し、図4はIV−IV断面を示している。
【0026】
そして、前出の図3及び図4に示されるように、鉗子栓本体11の突端入口部15内には土手状部30の先端が当接する段部31が形成されていて、蓋体12が鉗子栓本体11に取り付けられた状態では、土手状部30の先端が段部31に押し付けられた状態になる。
【0027】
また、その時に土手状部30を囲んで位置する突端入口部15の内周壁面が円形に形成されているので、蓋体12が鉗子栓本体11に取り付けられると、蓋体12の土手状部30の外周壁面30oが、略長円形状の長軸方向においては図4に示されるように鉗子栓本体11の突端入口部15内にきつく圧入され、短軸方向では図3に示されるようにゆるく嵌め込まれた状態になる。
【0028】
したがって、土手状部30が突端入口部15に嵌め込まれることにより、スリット19を閉じる方向に締め付ける力が突端入口部15の内周壁面から土手状部30に対して作用し、処置具の不使用時等であってもスリット19がしっかりとよく閉じて汚液等が漏れ出さない。
【0029】
このように、本発明においては、一つの土手状部30が、スリット19からの亀裂の広がり防止とスリット19の閉じ力増大の両方の機能を発揮し、鉗子栓10を小型でコンパクに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の蓋体の一部を切断して示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の土手状部を輪切りにした状態の断面図である。
【図3】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓のスリットを含む面(図2におけるIII−III断面)での縦断面図である。
【図4】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓のスリットと直交する面(図2におけるIV−IV断面)での縦断面図である。
【図5】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の外観斜視図である。
【図6】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の蓋体が鉗子栓本体から取り外された状態の縦断面図である。
【図7】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の蓋体が鉗子栓本体から取り外された状態の外観斜視図である。
【図8】本発明の実施例の内視鏡の全体構成を示す側面図である。
【符号の説明】
【0031】
3 処置具挿通チャンネル
10 鉗子栓
11 鉗子栓本体
12 蓋体
15 突端入口部
17 閉鎖膜
19 スリット
30 土手状部
30i 内周壁面
30o 外周壁面
31 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部が内視鏡の処置具挿通チャンネルの入口部分に取り付けられる鉗子栓本体と、上記鉗子栓本体の突端入口部に着脱自在に取り付けられる蓋体とが共に弾力性のある部材により形成されて、上記処置具挿通チャンネルに挿通される処置具により押し開かれるスリットが形成された閉鎖膜が上記蓋体に形成された内視鏡の鉗子栓において、
上記閉鎖膜の裏側の上記スリットを囲む位置から上記鉗子栓本体の突端入口部内に突出する土手状部が形成されていて、上記土手状部の内周壁面は、上記スリットを直径位置においた円形状に形成され、上記土手状部の外周壁面は、上記スリットの長手方向を短軸とする略長円形状に形成されていることを特徴とする内視鏡の鉗子栓。
【請求項2】
上記鉗子栓本体の突端入口部の内周壁面が円形に形成されていて、上記蓋体が上記鉗子栓本体に取り付けられると、上記蓋体の土手状部の外周壁面がその略長円形状の長軸方向においては上記鉗子栓本体の突端入口部内にきつく圧入され、短軸方向ではゆるく嵌め込まれた状態になる請求項1記載の内視鏡の鉗子栓。
【請求項3】
上記鉗子栓本体の突端入口部内に上記蓋体の土手状部の先端が当接する段部が形成されていて、上記蓋体が上記鉗子栓本体に取り付けられた状態では、上記土手状部の先端が上記段部に押し付けられた状態になる請求項1又は2記載の内視鏡の鉗子栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−148734(P2008−148734A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336745(P2006−336745)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】