説明

内面溝付伝熱管及び蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器

【課題】冷媒として、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器であって、蒸発熱伝達特性に優れる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器を提供すること。
【解決手段】アルミニウムフィンと、該アルミニウムフィンに組み付けられている内面溝付伝熱管とを有し、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器用の内面溝付伝熱管であって、該内面溝付伝熱管の底肉厚をt(mm)、管外径をD(mm)とするとき、下記式(1):0.06≦t/D≦0.095(1)を満たし、内面溝深さをd(mm)、内面溝幅をWg(mm)、内面溝側面角をα(°)とするとき、下記式(2)、(3)及び(4):0.07≦Wg≦0.15(2)、0.5≦Wg/d≦0.8(3)、0<α≦15(4)の全てを満たす内面溝を有すること、を特徴とする内面溝付伝熱管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる冷凍機、空調機、給湯機等の蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器及びその製造に用いられる内面溝付伝熱管に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスである冷媒ガスの排出抑制の観点から、熱交換器の冷媒として、フロン系冷媒に替わり、二酸化炭素冷媒に代表される自然冷媒の使用が検討されてきている。
【0003】
このような二酸化炭素冷媒が使用される熱交換器のうち、蒸発器用の熱交換器としては、従来のフロン系の場合と同様、アルミニウムフィンと銅製伝熱管を組み付けたクロスフィンチューブ型熱交換器が主流であり、該銅製伝熱管としては、内面溝付伝熱管が使用されてきている。
【0004】
そして、従来より、このようなクロスフィンチューブ型熱交換器は、以下のような工程を経て製造されている。先ず、プレス加工等により、所定の組み付け孔が複数形成されたアルミニウムフィンを成形する。次いで、得られたアルミニウムフィンを積層した後、該組み付け孔の内部に、別に作製した銅製伝熱管を挿通する。次いで、該銅製伝熱管をアルミニウムフィンに拡管して固着し、ヘアピン曲げ加工を施した側とは反対側の伝熱管端部に、Uベンド管をろう付け加工する工程を経て、クロスフィンチューブ型熱交換器を製造する。
【0005】
該クロスフィンチューブ型熱交換器に用いられる該銅製伝熱管には、内面溝付伝熱管が使用されてきている。
【0006】
例えば、特開2003−343942号公報(特許文献1)には、チューブ内を流れる二酸化炭素を蒸発させる蒸発器であって、前記チューブの通路断面形状は円形であり、かつ、前記チューブの内壁には、中心側に突出した複数個の突起部が設けられており、
数式1:0.5×d1.2682≦L≦2.09×d1.2682
前記チューブの通路長さ(L)と前記チューブの平均内径(d)とは、上記数式1に示される関係を有していることを特徴とする蒸発器が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1に示す蒸発器では、内面溝付伝熱管が用いられているが、平滑管が用いられているものと比較して、管内熱伝達率は高いものの、単に、内面に溝加工を施しただけなので、管内熱伝達率は不十分であった。
【0008】
内面溝付伝熱管の管内熱伝達率を改善するものとして、例えば、特開2006−162100号公報(特許文献2)には、高圧冷媒を用いるクロスフィンチューブ式熱交換器を構成する伝熱管にして、管内面に多数の溝が管周方向に又は管軸に対して所定のリード角をもって延びるように形成されているとともに、それら溝間には、所定高さの内面フィンが形成されてなる銅又は銅合金製の内面溝付伝熱管において、管外径D(mm)、前記溝の形成部位における管壁厚となる底肉厚をt(mm)、前記溝の溝深さをd(mm)、管軸に対して垂直な断面における溝1個あたりの断面積をA(mm)としたときに、t/Dが0.041以上0.146以下であり、且つd/Aが0.75以上1.5以下であると共に、Nを前記溝の溝条数、Diを前記溝の溝底をつないで形成される管内径に相当する最大内径としたときに、N/Diが8以上24以下となるように構成したことを特徴とする高圧冷媒用内面溝付伝熱管が開示されている。
【0009】
また、特開2002−90086号公報(特許文献3)には、アルミニウムフィンに、内面溝付伝熱管を組み付けて、クロスフィンチューブ型熱交換器を製造する際に、管内面の内面フィンが変形することを抑制することができる内面溝付伝熱管として、管内面に多数の溝が管周方向に又は管軸に対して所定のリード角をもって延びるように形成されていると共に、それらの溝間に、所定高さの内面フィンが形成されてなる内面溝付伝熱管にして、管外径が4mm〜10mmとされ、且つ前記溝の溝深さが0.10mm〜0.30mmとされると共に、前記溝の形成部位における管壁厚となる底肉厚(t)が、次式:t≦0.1248×D0.32782(但し、Dは管外径を示す)を満足するように、構成されていることを特徴とする内面溝付伝熱管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−343942号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−162100号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002−90086号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2の内面溝付伝熱管では、蒸発熱伝達特性が向上するものの、それでもなお、更なる蒸発熱伝達特性の向上が求められている。また、特許文献3の内面溝付伝熱管でも、同様に、更なる蒸発熱伝達特性の向上が求められている。
【0012】
従って、本発明は、冷媒として、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器であって、蒸発熱伝達特性に優れる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器を提供すること、及び蒸発熱伝達特性に優れる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器を製造することができる内面溝付伝熱管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、内面溝付伝熱管の内面溝の幅を狭くし且つ内面溝の幅に対して内面溝の深さを深くすることにより、該内面溝がオープンキャビティーとして機能し、核沸騰を促進させるので、蒸発熱伝達特性に優れるクロスフィンチューブ型熱交換器が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明(1)は、アルミニウムフィンと、該アルミニウムフィンに組み付けられている内面溝付伝熱管とを有し、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器用の内面溝付伝熱管であって、
該内面溝付伝熱管の底肉厚をt(mm)、管外径をD(mm)とするとき、下記式(1):
0.06≦t/D≦0.095 (1)
を満たし、
内面溝深さをd(mm)、内面溝幅をWg(mm)、内面溝側面角をα(°)とするとき、下記式(2)、(3)及び(4):
0.07≦Wg≦0.15 (2)
0.5≦Wg/d≦0.8 (3)
0<α≦15 (4)
の全てを満たす内面溝を有すること、
を特徴とする内面溝付伝熱管を提供するものである。
【0015】
また、本発明(2)は、本発明(1)の内面溝付伝熱管を、アルミニウムフィンに挿通し、次いで、拡管率3〜9%で拡管することにより、該内面溝付伝熱管を該アルミニウムフィンに固着して得られることを特徴とする蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷媒として、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器であって、蒸発熱伝達特性に優れる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】内面溝付伝熱管(A)を用いて製造される蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器の形態例の模式図である。
【図2】内面溝付伝熱管(A)及び内面溝付伝熱管(B)を、管軸方向に対して垂直な面で切ったときの断面図である。
【図3】内面溝付伝熱管(A)及び内面溝付伝熱管(B)の断面のうちの内面フィンの一部分を拡大した図である。
【図4】内面溝付伝熱管(A)及び内面溝付伝熱管(B)の断面のうちの内面フィンの一部分を拡大した図である。
【図5】実施例及び比較例で製造した評価用のクロスフィンチューブ型熱交換器を示す断面図である。
【図6】管内熱伝達率性能評価方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の内面溝付伝熱管(A)は、アルミニウムフィンと、該アルミニウムフィンに組み付けられている内面溝付伝熱管(B)とを有し、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器用の内面溝付伝熱管(A)であって、
該内面溝付伝熱管の底肉厚をt(mm)、管外径をD(mm)とするとき、下記式(1):
0.06≦t/D≦0.095 (1)
を満たし、
該内面溝付伝熱管(A)の内面溝深さをd(mm)、内面溝幅をWg(mm)、内面溝側面角をα(°)とするとき、下記式(2)、(3)及び(4):
0.07≦Wg≦0.15 (2)
0.5≦Wg/d≦0.8 (3)
0<α≦15 (4)
の全てを満たす内面溝を有する内面溝付伝熱管である。
なお、本発明では、拡管前の内面溝付伝熱管を「内面溝付伝熱管(A)」と記載し、拡管後の内面溝付伝熱管を「内面溝付伝熱管(B)」と記載する。
【0019】
該内面溝付伝熱管(A)は、該アルミニウムフィンと、該アルミニウムフィンに組み付けられている内面溝付伝熱管とを有し、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器の製造に用いられる内面溝付伝熱管であり、該アルミニウムフィンに挿通されて、次いで、拡管されることにより、該アルミニウムフィンに組み付けられる内面溝付伝熱管である。つまり、該内面溝付伝熱管(A)は、拡管前の内面溝付伝熱管である。また、該内面溝付伝熱管(B)は、該内面溝付伝熱管(A)を拡管することによって、該アルミニウムフィンに取り付けられた内面溝付伝熱管である。つまり、該内面溝付伝熱管(B)は、拡管後の内面溝付伝熱管である。
【0020】
該内面溝付伝熱管(A)及び該内面溝付伝熱管(B)について、図1〜図4を参照して説明する。
【0021】
図1は、該内面溝付伝熱管(A)を用いて製造される蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器の形態例の模式図である。図1中、蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器1は、アルミニウムフィン2と、内面溝付伝熱管(B)3とを有する。該内面溝付伝熱管(B)3は、該内面溝付伝熱管(A)を拡管することによって、該アルミニウムフィン2に組み付けられたものであり、拡管後の内面溝付伝熱管である。該内面溝付伝熱管(B)3は、ヘアピン加工部4で、ヘアピン加工されて、U字形状に加工されており、複数の該アルミニウムフィン2に挿通されて組み付けられている。そして、複数の該内面溝付伝熱管(B)3が、該アルミニウムフィン2に挿通され、該内面溝付伝熱管(B)3の該ヘアピン加工部4と反対側が、Uベンド管5により、1の該内面溝付伝熱管(B)3の管端と、他の該内面溝付伝熱管(B)3の管端が繋がれている。このことにより、該蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器1に、炭酸ガス冷媒6の流路が形成される。
【0022】
図2は、該内面溝付伝熱管(A)及び該内面溝付伝熱管(B)を、管軸方向に対して垂直な面で切ったときの断面図である。
【0023】
図2に示すように、内面溝付伝熱管10を管軸方向対して垂直な面で切った断面において、該内面溝付伝熱管10の管内面には、管周方向13に、多数の内面溝12が、管軸方向に対して、一定のらせん角θ(°)をもって、らせん状に形成されると共に、多数の内面フィン11が、らせん状に形成されている。管外径D(mm)とは、該内面溝付伝熱管10の外径を指す。なお、該内面溝付伝熱管10には、管周方向13に亘って該内面溝12及び該内面フィン11が形成されているが、作図の都合上、図2においては、該内面溝12及び該内面フィン11の一部を記載し、他の記載を省略した。
【0024】
図3及び図4は、該内面溝付伝熱管(A)及び該内面溝付伝熱管(B)の断面のうちの内面フィンの一部分を拡大した図である。
【0025】
図3に示すように、該内面溝付伝熱管10の管内面には、該内面溝12及び該内面フィン11が形成されている。該内面フィン11の形状は、管の中心に向かって細くなっている略等脚台形である。図3中、底肉厚t(mm)とは、該内面溝付伝熱管10の該内面溝12の最も深い部分22における該内面溝付伝熱管10の肉厚を指す。なお、以下、各内面溝12の最も深い部分22が円周上に重なるように引いた円、すなわち、該内面溝付伝熱管10の外周の円と同心円であり且つ半径が該底肉厚t分だけ小さい円を、底肉厚線23(図3中、符号23で示す一点鎖線)と呼ぶ。内面フィン高さh(mm)とは、該内面フィン11の頂点21の高さを指し、該底肉厚線23から管の中心に向かって突き出している部分の長さを指す。ここで、該内面フィン高さhは、該内面フィン11の幅方向の中央部の高さ、つまり、該内面フィンの中心線の長さである。内面フィンピッチp(mm)とは、隣り合う該内面フィン11間における、該内面フィン11の中心線と該底肉厚線23とが交差する点間の直線距離を指す。内面溝側面角α(°)は、該内面溝12の側面を延ばしたときの交差角を示す。なお、該内面溝付伝熱管10では、αが0°より大きいので、該内面溝12は、下に行くほど幅が狭くなる形状を有している。そして、図3において、αが0°のときは、内面溝の両側の側面同士は平行であり、0°より大きくなる(正の数)と、内面溝の形状は、下に行くほど(管の中心から外側に向かうほど)幅が狭くなる形状となる。一方、0°未満になる(負の数)と、内面溝の形状は、下に行くほど幅が広くなる形状となる。内面フィン幅Wf(mm)は、該内面フィン高さhの半分の位置における、該内面フィン11の幅を指す。なお、該内面フィン11の先端の形状は、図3及び図4では円弧であるが、これに限らず、先端が偏平となった形状や、先端が尖った三角形状であってもよい。
【0026】
図4中、内面溝深さd(mm)とは、内面フィン頂点線24から、該内面溝12の最も深い部分22までの距離である。なお、該内面溝付伝熱管10の該内面フィン11の頂点21が円周上に重なるように引いた円、すなわち、該内面溝付伝熱管10の外周の円と同心円であり且つ半径が該底肉厚t及び該内面フィン高さhの合計分だけ小さい円を、該内面フィン頂点線24(図4中、符号24で示す一点鎖線)と呼ぶ。内面溝幅Wg(mm)は、該内面溝深さdの半分の位置における、該内面溝12の幅を指す。
【0027】
該内面溝付伝熱管(A)は、拡管率3〜9%で拡管されて、該アルミニウムフィンに固着されて取り付けられる。そして、該内面溝付伝熱管(A)が、下記式(2)、(3)及び(4):
0.07≦Wg≦0.15 (2)
0.5≦Wg/d≦0.8 (3)
0<α≦15 (4)
の全てを満たす内面溝を有することにより、拡管率3〜9%で拡管した内面溝付伝熱管、すなわち、内面溝付伝熱管(B)に、核沸騰を促進させる効果が高い内面溝を形成させることができる。
【0028】
上記式(2)、(3)及び(4)の全てを満たす内面溝は、拡管率3〜9%で拡管されたときに、内面溝幅が狭く且つ内面溝幅に対して内面溝深さが深い内面溝となる。そして、このような内面溝は、オープンキャビティーとして機能して、核沸騰を促進させるので、蒸発熱伝達率を高くすることができる。すなわち、液冷媒は内面溝内で気相となって核沸騰の起点となるが、内面溝幅が狭く且つ内面溝幅に対して内面溝深さが深い内面溝は、この気相を内面溝内で保持する機能が高く、核沸騰を持続させることができるので、核沸騰を促進させる効果が高い。特に、熱交換器の冷媒入口付近の液膜が厚い低クォリティー領域において、その効果が顕著なものとなる。そのため、上記式(2)、(3)及び(4)の全てを満たす内面溝を有する内面溝付伝熱管(A)は、拡管率3〜9%で拡管して得られる該内面溝付伝熱管(B)に、内面溝内で発生した核沸騰の起点となる気相を、内面溝内で保持する機能が高い内面溝、つまり、内面溝幅が狭く且つ内面溝幅に対して内面溝深さが深い内面溝を形成させることができる。
【0029】
該内面溝付伝熱管(A)のWg、Wg/d及びαの範囲を、上記範囲とする必要があるのは、後述する拡管後の内面溝付伝熱管(B)のWg’、Wg’/d’及びα’を、後述する範囲とするためである。すなわち、Wgが0.15を超えるか、Wg/dが0.8を超えるか、又はαが15を超えると、拡管後の内面溝付伝熱管(B)の内面溝内に沸騰の起点となる気相を十分に保持することができないので、核沸騰を促進させるという効果が得られない。また、Wgが0.07未満だと、拡管後の内面溝付伝熱管(B)の溝幅が狭くなり過ぎて、対流による熱伝達促進が不十分となる。また、Wg/dが0.5未満だと、拡管後の内面溝付伝熱管(B)の内面溝内に液冷媒が入り込み難くなり、熱伝達が促進されない。また、αが0以下だと、内面溝付伝熱管(A)の製造が難しくなる。
【0030】
なお、該内面溝付伝熱管(A)において、管軸方向に垂直な断面における管周方向の全内面溝のうちの一部に、前記式(2)、(3)及び(4)の全てを満たす内面溝があれば、拡管後に核沸騰の促進に十分寄与する。そして、管軸方向に垂直な断面における管周方向の全内面溝のうちの50%以上が、前記式(2)、(3)及び(4)の全てを満たす内面溝であることが好ましく、管軸方向に垂直な断面における管周方向の全内面溝の全てが、前記式(2)、(3)及び(4)の全てを満たす内面溝であることが特に好ましい。
【0031】
該内面溝付伝熱管(A)では、下記式(1):
0.06≦t/D≦0.095 (1)
を満たす。該内面溝付伝熱管(A)におけるt/Dの値を上記範囲とする必要があるのは、後述する拡管後の内面溝付伝熱管(B)におけるt’/D’の値を、0.055≦t’/D’≦0.09とするためである。
【0032】
該内面溝付伝熱管(A)において、Dは4.0〜12.7であり、hは0.1〜0.3、好ましくは0.15〜0.20であり、dは0.08〜0.3、好ましくは0.15〜0.20であり、pは0.2〜0.5、好ましくは0.2〜0.25であり、Wfは0.08〜0.3、好ましくは0.1〜0.15である。
【0033】
該内面溝付伝熱管(A)のらせん角θは、5°以上、好ましくは10〜30°である。らせん角が大きくなる程、液冷媒を伝熱管の頂部に上げる効果が大きくなり、管内面全体として液膜が薄くなる。液膜が薄くなる程、蒸発熱伝熱は促進され、蒸発熱伝達性能が向上する。なお、該らせん角θとは、該内面溝の管軸に対する角度を指す。
【0034】
該内面溝付伝熱管(A)の内面溝の乗数は、60〜100条/周、好ましくは75〜90条/周である。
【0035】
該内面溝付伝熱管(A)は、原管を転造加工することにより、該原管の内面に内面溝を形成することにより得られる。
【0036】
該原管の材質は、特に制限されるものではないが、加工性及び熱伝導性が共に良好な、純銅又は純銅に最大2%程度の添加成分を添加した低合金銅が好ましい。
【0037】
該原管を転造加工する方法としては、特に制限されない。例えば、公知の転造加工方法により、連続する1本の該原管の内側に、溝付きプラグを挿入し、該溝付きプラグと、該原管の外側に配置される円形ダイスとの間で、該原管を押圧することによって、該原管の管外径を縮径するとともに、管内面に溝を形成させて、該内面溝付伝熱管(A)を得る。
【0038】
該原管を転造加工したものの外径を縮径させて、該内面溝付伝熱管(A)を得る。
【0039】
該内面溝付伝熱管(A)は、該アルミニウムフィンに挿通され、拡管されることにより、該アルミニウムフィンに固着されて、該アルミニウムフィンに組み付けられ、本発明の蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器が製造される。
【0040】
該内面溝付伝熱管(A)を拡管する方法は、特に制限されず、例えば、公知の機械拡管や液圧拡管により、該内面溝付伝熱管(A)を拡管する方法が挙げられる。
【0041】
該内面溝付伝熱管(A)を拡管する際の拡管条件は、伝熱管外径基準の拡大率(拡管率)で、3〜9%である。
【0042】
そして、本発明の蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器は、該内面溝付伝熱管(A)を、アルミニウムフィンに挿通し、拡管率3〜9%で拡管することにより、該内面溝付伝熱管(A)を該アルミニウムフィンに固着して得られる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器である。
【0043】
言い換えると、本発明の蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器は、アルミニウムフィンと、該アルミニウムフィンに組み付けられている内面溝付伝熱管(B)とを有し、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器であって、
該内面溝付伝熱管(B)の底肉厚をt’(mm)、管外径をD’(mm)とするとき、下記式(5):
0.055≦t’/D’≦0.09 (5)
を満たし、
該内面溝付伝熱管(B)の内面溝深さをd’(mm)、内面溝幅をWg’(mm)、内面溝側面角をα’(°)とするとき、該内面溝付伝熱管(B)が、下記式(6)、(7)及び(8):
0.06≦Wg’≦0.14 (6)
0.55≦Wg’/d’≦0.85 (7)
0<α’≦15 (8)
の全てを満たす内面溝を有する蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器である。
【0044】
本発明の蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器に係る該アルミニウムフィンの材質は、特に制限されるものではないが、加工性及び熱伝導性が高い点で、JIS A 1050等の純アルミニウムが好ましい。
【0045】
本発明の蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器は、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用として用いられる。本発明の蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器に用いられる該二酸化炭素を主成分とする冷媒は、二酸化炭素単独か、あるいは、冷凍機油を0〜15質量%含有する二酸化炭素冷媒である。
【0046】
本発明の蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器には、該内面溝付伝熱管(B)、つまり、拡管後の内面溝付伝熱管が組み付けられている。
【0047】
該内面溝付伝熱管(B)は、該内面溝付伝熱管(A)が拡管率3〜9%で拡管されたものである。そして、本発明の蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器では、該内面溝付伝熱管(B)が、下記式(6)、(7)及び(8):
0.06≦Wg’≦0.14 (6)
0.55≦Wg’/d’≦0.85 (7)
0<α’≦15 (8)
の全てを満たす内面溝を有することにより、核沸騰を促進させる効果が高くなる。
【0048】
上記式(6)、(7)及び(8)の全てを満たす内面溝は、内面溝幅が狭く且つ内面溝幅に対して内面溝深さが深い内面溝である。前述したように、このような内面溝は、オープンキャビティーとして機能して、核沸騰を促進させるので、蒸発熱伝達率を高くすることができる。すなわち、内面溝内で液冷媒が気相となって核沸騰の起点となるが、上記式(6)、(7)及び(8)の全てを満たす内面溝は、この気相を内面溝内で保持する機能が高く、核沸騰を持続させることができるので、核沸騰を促進させる効果が高い。特に、熱交換器の冷媒入口付近の液膜が厚い低クォリティー領域において、その効果が顕著なものとなる。
【0049】
一方、Wg’が0.14を超えるか、Wg’/d’が0.85を超えるか、又はα’が15を超えると、核沸騰の起点となる気相を十分に保持することができないので、核沸騰を促進させるという効果が得られない。また、Wg’が0.06未満だと、溝幅が狭くなり過ぎて、対流による熱伝達促進が不十分となる。また、Wg’/d’が0.55未満だと、液冷媒が内面溝内に入り込み難くなり、熱伝達が促進されない。また、αが0以下だと、内面溝付伝熱管(A)の製造が難しくなる。
【0050】
なお、該内面溝付伝熱管(B)において、管軸方向に垂直な断面における管周方向の全内面溝のうちの一部に、前記式(6)、(7)及び(8)の全てを満たす内面溝があれば、核沸騰の促進に十分寄与する。そして、管軸方向に垂直な断面における管周方向の全内面溝のうちの50%以上が、前記式(6)、(7)及び(8)の全てを満たす内面溝であることが好ましく、管軸方向に垂直な断面における管周方向の全内面溝の全てが、前記式(6)、(7)及び(8)の全てを満たす内面溝であることが特に好ましい。
【0051】
該内面溝付伝熱管(B)において、0.055≦t’/D’≦0.09である。二酸化炭素を主成分とする冷媒は、その作動圧力が3.5〜15MPaと高いため、伝熱管の耐圧強度を向上させる必要があり、そのため、該底肉厚tを厚くする必要がある。該底肉厚tの厚さは、該管外径D及び伝熱管材質の引張強さσBにより、安全係数を考慮して適宜決定される。伝熱管材質として一般的に用いられるりん脱酸銅等の軟質材又は純銅に最大2質量%程度の添加成分を添加した低合金銅の場合、拡管後の該内面溝付伝熱管(B)では、t’/D’は、0.055以上であることが必要である。一方、t’/D’が0.09を超えると、該内面溝付伝熱管(B)の単重が大きくなって、コストアップとなるとともに、熱伝達性が悪くなり、該内面フィン高さhを低くせざるを得なくなることから、十分な熱交換性能が得られなくなる。そのため、t’/D’は0.09以下であることが必要である。
【0052】
該内面溝付伝熱管(B)の内面フィン高さをh’(mm)、内面フィンピッチをp’(mm)、内面フィン幅をWf’(mm)とすると、該内面溝付伝熱管(B)において、D’は4.0〜12.7であり、h’は0.10〜0.3、好ましくは0.15〜0.2であり、d’は0.08〜0.3、好ましくは0.15〜0.2であり、p’は0.2〜0.5、好ましくは0.20〜0.25であり、Wf’は0.08〜0.3、好ましくは0.1〜0.15である。
【0053】
該内面溝付伝熱管(B)のらせん角θ’は、5°以上、好ましくは10〜30°である。らせん角が大きくなる程、液冷媒を伝熱管の頂部に上げる効果が大きくなり、管内面全体として液膜が薄くなる。液膜が薄くなる程、蒸発熱伝熱は促進され、蒸発熱伝達性能が向上する。なお、該らせん角θとは、該内面溝の管軸に対する角度を指す。
【0054】
該内面溝付伝熱管(B)の内面溝の条数は、60〜100条/周、好ましくは75〜90条/周である。
【実施例】
【0055】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0056】
(実施例1〜7、比較例1〜5)
<転造加工>
りん脱酸銅製の原管を用いて、転造加工し、管外径Dが7mmの内面溝付伝熱管(拡管前)を作製した。得られた該内面溝付伝熱管(拡管前)の寸法諸元を表2〜表4に示す。
<クロスフィンチューブ型熱交換器の製造>
上記で得た該内面溝付伝熱管(拡管前)を、下記条件で機械拡管により拡管して、アルミニウムフィンに組み付け、図5に示す評価用のクロスフィンチューブ型熱交換器を製造した。その諸元を表1に示す。
(拡管の条件)
外径φ6.09mmの拡管プラグを用いて機械拡管を行った。
【0057】
【表1】

【0058】
<内面溝付伝熱管(拡管後)の抜管>
上記のようにして製造した評価用のクロスフィンチューブ型熱交換器から、内面溝付伝熱管(拡管後)を抜管した。該内面溝付伝熱管(拡管後)の寸法諸元を表2〜表4に示す。
【0059】
<内面溝付伝熱管(拡管後)の管内熱伝達率性能評価>
図6に示すように、実施例1〜7及び比較例1〜5の評価用のクロスフィンチューブ型熱交換器より抜管した内面溝付伝熱管(拡管後)33を内管として、外管31の内側に挿通し、下記に示す条件に制御した二酸化炭素冷媒を拡管後の内面溝付伝熱管33内に流し、環状部32を流れる水と熱交換させ、水及び冷媒の出入口温度及び流量から熱伝達率を求めた。条件としては、伝熱管出口圧力4.07MPa、飽和温度:7.0℃、出口過熱度:3.0℃、入口乾き度0.1、質量冷媒速度:300又は500kg/m・sとした。その結果を表2〜表4に示す。
【0060】
【表2】

1)比較例1の内面溝付伝熱管(拡管後)の熱伝達率を100としたときの、各内面溝付伝熱管(拡管後)の熱伝達率
【0061】
【表3】

1)比較例1の内面溝付伝熱管(拡管後)の熱伝達率を100としたときの、各内面溝付伝熱管(拡管後)の熱伝達率
【0062】
【表4】

1)比較例1の内面溝付伝熱管(拡管後)の熱伝達率を100としたときの、各内面溝付伝熱管(拡管後)の熱伝達率
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、熱交換性能に優れる蒸発器を製造することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 蒸発器用のクロスフィンチューブ型交換器
2 アルミニウムフィン
3、10 内面溝付伝熱管
4 ヘアピン加工部
5 Uベンド管
11 内面フィン
12 内面溝
13 管周方向
21 内面フィンの頂点
22 内面溝12の最も深い部分
23 底肉厚線
24 内面フィン頂点線
31 外管
32 環状部
33 抜管した内面溝付伝熱管(拡管後)
D 管外径
t 底肉厚
d 内面溝深さ
h 内面フィン高さ
p 内面フィンピッチ
Wf 内面フィン幅
Wg 内面溝幅
α 内面溝側面角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムフィンと、該アルミニウムフィンに組み付けられている内面溝付伝熱管とを有し、二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器用の内面溝付伝熱管であって、
該内面溝付伝熱管の底肉厚をt(mm)、管外径をD(mm)とするとき、下記式(1):
0.06≦t/D≦0.095 (1)
を満たし、
内面溝深さをd(mm)、内面溝幅をWg(mm)、内面溝側面角をα(°)とするとき、下記式(2)、(3)及び(4):
0.07≦Wg≦0.15 (2)
0.5≦Wg/d≦0.8 (3)
0<α≦15 (4)
の全てを満たす内面溝を有すること、
を特徴とする内面溝付伝熱管。
【請求項2】
請求項1記載の内面溝付伝熱管を、アルミニウムフィンに挿通し、次いで、拡管率3〜9%で拡管することにより、該内面溝付伝熱管を該アルミニウムフィンに固着して得られることを特徴とする蒸発器用のクロスフィンチューブ型熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−52704(P2012−52704A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193697(P2010−193697)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)