説明

内面4分割管およびその製造方法

【課題】冷間加工回数の削減による製造コストの低減が図れ、同時にシール性と内面空間の分割性に優れ、かつ軽量な構造からなる内面4分割管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】円筒状の外管と、その内部に冷間引き抜き加工により内接される1本の内管を備え、前記内管の両端部の外周面には、前記外管と接触しそれぞれの端部の少なくとも一部が外管の内周面と形成される外側シール部と、前記内管の外周面が内側に向けて押し潰し加工されて、内管の管壁が圧接し、当該内管の内部空間を2分割する内側シール部と、外側シール部の一端部と内側シール部の一端部とを連結する連結部が全周に4箇所設けられ、前記内管により2分割された空間部に加え、連続する2箇所の連結部と外管の内周面との間にそれぞれ1つの空間部が形成される内面4分割管、およびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械構造用鋼管として適用される、管全長にわたり同一断面を有する円筒状の外管とこの外管に内接される内管とで構成され、当該管の内面空間を前記内管の内周面および外周面によって4分割に区画される内面分割管(以下、「内面4分割管」という)に関し、さらに詳しくは、内管の内接方式を冷間引き抜き加工に限定させることにより、内管の圧入作業の改善とともに、冷間加工回数の削減による製造コストの低減が図れ、同時に内面空間の分割性に優れかつ軽量な構造でありながら、管の強度を効果的に高めることができる内面4分割管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において、機械構造用として適用される鋼管の中には、自動車業界における地球環境を配慮した自動車用部品の開発要請にともない、特殊な機能を発揮する管部品の開発が進められている。例えば、自動車用エンジンのバルブロッカシャフトで使用される管は、バルブ開閉用の作動油を流通させる機能が要求されるが、燃費の向上や省エネルギーといった観点から、バルブ開閉を複雑に制御するニーズが生じ、その管内部に互いに隔離された複数の流体通路を設けることが必要になる。
【0003】
この場合に、より一層の制御性を確保する必要から、従来の管内部に互いに独立する2つの流体通路を軸方向に沿って形成する構造に替えて、管内部を4分割することにより独立する4個の流体通路を形成することが要求されるようになる。しかも、特殊な機能部品の開発にも拘わらず、同時に自動車部品の軽量化および低コスト化も強く要請される。
【0004】
従来、管内部に独立する複数の流体通路を形成する管を製造する場合には、中実丸棒にその軸方向に沿って複数の孔をガンドリル等で穿孔し、これらの孔を流体通路として用いる方法が採用されていた。この方法によれば、穿孔できる孔は2個または4個に限定されることがなく、開発要請にともなう個数の孔を穿孔することができる。
【0005】
しかし、中実丸棒に穿孔する場合には、可能な穿孔深さに限界があり、長い流体通路を形成することは極めて困難であるとともに、中実丸棒の軸方向に沿って平行に穿孔するのが難しく、加工精度を確保できない。さらに、製造された管には余分な肉厚部分が残り、軽量化が図れないという問題もある。
【0006】
このような問題を解決するため、特許文献1では、例えば、ロッカシャフトの断面構造として、外部管の内側に、上下に凹み部が形成された内部管を嵌挿し、この内部管と凹み部とで複数の流通路を形成する管構造が提案されている。
【0007】
図1は、特許文献1で提案したロッカシャフトの断面構造を示す図である。すなわち、ロッカアームを支持する外部管1に、所定の長さの凹み部3を備えた内部管2を圧入し、この内部管2と凹み部3とで複数の流通路を形成する管構造であるが、内部管2内の油路本数を増やすために、内部管2の内部を分割することもできる。
【0008】
しかしながら、図1に示すロッカシャフトの断面構造では、外部管1内に内部管2を圧入する構造であるため、内部管2を圧入する作業は容易ではない。さらに、圧入する際に、内部管2の凹み形状を維持したまま圧入することは困難であり、凹み部3または内部管2の端部が径方向内側から外部管1の管壁に食い込み、ロッカシャフトとしての真円度を悪化させるおそれがある。
【0009】
そして、外部管1および内部管2の閉塞端はロー付けが施されることから、内部管の分割部にも熱変形が生じ、油路を管壁を圧接させたシール部で形成する場合には、十分なシール性能を発揮することができないという問題がある。
【0010】
このような問題を回避するため、特許文献2では、外部管の内周面に外周面の一部が圧接する内部管を設けて、この内部管の管壁において外部管と圧接していない部分で管内空間を仕切ることにより、管の内部空間に独立した流体通路を形成する管を提案している。
【0011】
図2は、特許文献2で提案した、内部空間に独立した4個の流体通路を形成した管の構造を示す断面図である。特許文献2で提案した管では、各内部管2の断面形状を互いに同形の扇形とし外部管1を円管とする設計であり、4個の流体通路を形成する場合に、中心角が90°の扇形をなす4本の内部管2を互いに圧接させ、断面十字状の内部仕切り壁を形成している。
【0012】
すなわち、図2に示す管構造であれば、各内部管が互いに等しい扇形であることから、管各部に発生する応力も均一化され、局所的に応力が集中する度合が軽減され、簡単な構造でありながら互いに直交する2つの方向について効果的な補強が可能であるとしている。
【0013】
管内部に独立した4個の流体通路を形成した管を製造する場合に、前記図2に示す管構造を採用すれば、管各部に発生する応力の均一化が図れるとともに、内部管同士の重合により内部仕切り壁が形成されているので、この内部仕切り壁の強度を高めることができる。
【0014】
しかしながら、前記図2に示す管構造では、製造コストを高騰させるだけでなく、管内面に確保できる流通空間が少なくなるとともに、部品の軽量化が図れないという問題がある。
【0015】
まず、製造コストに関して、前記図2に示す管は、4本の内部管2を外部管1内に挿入し、この挿入状態のまま冷間引き抜き加工することにより製造されるが、使用する素管および要求される寸法精度により異なるが、一般的な冷間加工では、外部管1の冷間引き抜き回数は1回であり、各内部管2の冷間引き抜き回数は2回であり、さらに仕上加工として合わせ引きが1回行われる。このため、前記図1に示す管を冷間引き抜き加工により製造する場合に、外部管1および各内部管2の冷間引き抜き回数が総合計で10回となる冷間加工が必要となり、これにともなう製造コストの高騰が顕著になる。
【0016】
次に、管内面での空間確保に関し、例えば、自動車用エンジンのバルブロッカシャフトで使用される管は小径管が用いられており、外部管の外径が20mm程度で設計されている。また、内部管と外部管の密着度、および内部管の管壁強度を確保するため、その肉厚は1.0〜1.2mmとする必要がある。このような寸法構成で、内部管同士の重合により内部仕切り壁が形成させると、4個の流体通路を形成するために確保できる空間が少なく、充分な制御性を確保することが困難になる。
【0017】
さらに、部品の軽量化に関しても、小径の外部管を用いるのに拘わらず、内部管同士の重合により内部仕切り壁が形成させる必要から、軽量化を図ることが困難になるという問題もある。
【0018】
【特許文献1】特開平4−134104号公報
【特許文献2】特開平7−144221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前述の通り、特許文献1で提案されたロッカシャフト構造であっても、また特許文献2で提案された内部空間を4分割した管であっても、外部管内に内部管を圧入する際の作業性やシール性の悪化、冷間加工にともなう製造コストの高騰、さらには管内面に確保できる流通空間が少なくなるという分割性の劣化等の問題が生じる。
【0020】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、管内部に独立した4個の流体通路を形成した管を製造する場合に、内管の内接方式を冷間引き抜き加工に限定させることにより、内管の圧入作業の改善を図り、冷間引き抜き回数の削減による製造効率化を達成し、それに基づく製造コストの低減と同時に、管内面空間の分割性に優れかつ軽量な構造でありながら、管の強度を効果的に高めることができる内面4分割管およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、前記の課題を解決するため、種々の冷間引き抜き加工による内面4分割管の製造方法について検討した結果、効率的に内面4分割管を製造するには、1本の内管を外管に内接させて、内管の両端部および中央部に外側シール部および内側シール部を構成し、外管の内面空間を内管の内周面および外周面によって4分割に区画するのが有効であることを知見した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0022】
したがって、本発明の内面4分割管は、管全長にわたり同一断面を有する円筒状の外管と、その内部に冷間引き抜き加工により内接される1本の内管を備え、前記内管の全長方向と直交する断面の両端部の外周面には、前記外管と接触しそれぞれの端部の少なくとも一部が外管の内周面と同心円に形成される外側シール部と、前記外側シール部を構成しない前記内管の外周面が内側に向けて押し潰し加工されて、内管の管壁が圧接し、当該内管の内部空間を2分割する内側シール部と、外側シール部の一端部と内側シール部の一端部とを連結する連結部が、内管の全周に亘り4箇所設けられ、前記内管の2分割された空間部に加え、連続する2箇所の連結部と外管の内周面との間にそれぞれ1つの空間部が形成されることを特徴とする(請求項1)。
【0023】
本発明の内面4分割管によれば、外管内への内管の内接方式を冷間引き抜き加工に限定させることにより、内管の圧入作業の改善を図るとともに、内管の外周面と外管の内周面とで形成される外側シール部、および内管の管壁を圧接し内部空間を2分割する内側シール部ともに接触面でシールを構成することにより、シール性を向上させることができる。
【0024】
さらに、本発明の内面4分割管は、前記外側シール部は、内側シール部より長く形成させるとともに、前記外側シール部には、穴明け加工により連通穴が形成され、前記連結部は前記外管の径方向に延びるように構成するのが望ましい(請求項2)。
【0025】
通常、バルブロッカシャフトで使用される管には、外管と内管を通して連通穴が加工されるが、外側シール部を長く形成することで、連通穴の加工自由度を向上させることができる。また、連結部が外管の径方向に延びるように構成することにより、外側シール部の端部にて確実にシールすることができ、連通穴を形成しても外側シール部のシール性を損なうことがない。
【0026】
本発明の製造方法では、少なくとも外管が仕上寸法より大きくなるように予め外管および内管を成形し、さらに当該内管はその管壁が上下方向から内側に向けて押し潰し加工された断面形状とし、得られた1本の内管を外管内に装着したのち、管全体を冷間引き抜き加工することにより、前記内管の全長方向と直交する断面の両端部の外周面の一部を前記外管の内周面に圧接させて外側シール部を形成させるとともに、前記内管の押し潰し加工された管壁を圧接させて当該内管の内部空間を2分割する内側シール部を形成させ、かつ当該内管の外周面と外管の内周面との間に2つの空間部を構成することを特徴とする(請求項3)。
【0027】
本発明の製造方法によれば、冷間引き抜き回数の削減による製造効率化を達成することができ、それに基づく製造コストの低減を図れるとともに、軽量な構造でありながら、管の強度を効果的に高めることが可能になる。
【0028】
本発明の製造方法において、「少なくとも外管が仕上寸法より大きくなるように予め外管および内管を成形し」と規定しているのは、後述する図4に示すように、内管の装着を容易にするため、外管寸法は仕上げ寸法よりも大きくする必要があるが、内管寸法は仕上寸法と同じであってもよく、または仕上げ寸法よりも大きくしてもよいことを意味している。
【0029】
本発明の内面分割管は、特にその用途は限定されるものではなく、例えば、前述のバルブロッカシャフト、またはピストンピン、熱交換器など内部に少なくとも4分割の管内通路を必要とする管の他、内部を区画する管壁により管強度を補強する機械構造用鋼管として広く適用することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の内面4分割管および製造方法によれば、管内部に独立した4個の流体通路を形成した管の製造に際し、外管内への内管の内接方式を冷間引き抜き加工に限定させる製造プロセスを適用するものであり、内管圧入の作業性およびシール性を改善させ、冷間引き抜き回数の低減が図れるとともに、外管が小径管であっても管内面空間を流体通路として有効に確保でき、管内部を独立した4個の流体通路に分割することができる。
【0031】
さらに、部品数を削減した簡単な管構造を採用するものであり、軽量化を図るとともに管の強度を確保することができ、しかも、一層の製造コストの低減を達成することができる。
【0032】
また、本発明の内面4分割管において、外側シール部を内側シール部より長く形成させるとともに、外側シール部に連通穴を形成し、連結部は外管の径方向に延びるように構成することにより、連通穴の加工自由度を向上させることができると同時に、外側シール部の端部にて確実にシールすることができ、連通穴を形成した場合でもシール性を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図3は、本発明の内面4分割管の断面構成例を説明する図である。本発明の内面4分割管は、管全長にわたり同一断面を有する円筒状の外管1と、その内部に冷間引き抜き加工により内接される1本の内管2を備え、前記内管2の全長方向と直交する断面の両端部の外周面には、前記外管1と接触しそれぞれの端部の少なくとも一部が外管1の内周面と同心円に形成される外側シール部4と、前記外側シール部4を構成しない前記内管2の外周面が内側に向けて押し潰し加工されて、内管2の管壁が圧接し、当該内管2の内部空間を2分割する内側シール部5と、外側シール部4の一端部と内側シール部4の一端部とを連結する連結部6が、内管の全周に亘り4箇所設けられ、前記内管2の2分割された空間部に加え、連続する2箇所の連結部と外管の内周面との間にそれぞれ1つの空間部が形成されることを特徴としている。
【0034】
本発明の内面4分割管は、内管の内接方式を冷間引き抜き加工に限定させることにより、前記図1に示す管構造に比べ、内管の圧入作業の改善を図るとともに圧入にともなう外管の変形を防止し、内管の外周面と外管の内周面とで形成される外側シール部、および内管の管壁を圧接し内部空間を2分割する内側シール部ともに、接触面でシールを構成することにより、シール性を向上させることができる。
【0035】
本発明の内面4分割管は、内管として単数の管が外管に内接され、当該内管の断面形状において内側に向けて押し潰し加工された管壁が上下方向から圧接されて内側シール部を構成し、かつ内管の外周面と外管の内周面とで形成される外側シール部を構成する構造である。このため、前記図2に示す管構造に比べ、内管同士の重合部分を減らし、管直径に対する管内面空間の比率を大きく確保することが可能になる。
【0036】
したがって、対象とする外管の外径が20mm程度と小径管であっても、管内面空間を流体通路として有効に確保し、管内部を独立した4個の流体通路に分割することができる。しかも、簡単な管構造であるから、管全体の軽量化と同時に管の強度を確保することができる。
【0037】
さらに、本発明の内面4分割管は、前記外側シール部は、内側シール部より長く形成させるとともに、前記外側シール部には、穴明け加工により連通穴を形成するのがよい。外側シール部を長く形成することで、外側シール部のシール性を確保するのみでなく、外側シール部に連通穴が形成する場合に、連通穴の加工自由度を向上させることができる。また、連結部が外管の径方向に延びるように構成することにより、外側シール部の端部にて確実にシールすることができ、連通穴を形成しても外側シール部のシール性を損なうことがない。
【0038】
本発明の内面4分割管の製造方法は、少なくとも外管が仕上寸法より大きくなるように予め外管および内管を成形し、さらに当該内管はその管壁が上下方向から内側に向けて押し潰し加工された断面形状とし、得られた1本の内管を外管内に装着したのち、管全体を冷間引き抜き加工することにより、前記内管の全長方向と直交する断面の両端部の外周面の一部を前記外管の内周面に圧接させて外側シール部を形成させるとともに、前記内管の押し潰し加工された管壁を圧接させて当該内管の内部空間を2分割する内側シール部を形成させ、かつ当該内管の外周面と外管の内周面との間に2つの空間部を構成することを特徴としている。
【0039】
これにより、外管の内部に装入された内管が互いに接触する圧接部において内側シール部を構成するとともに、内管の両端部での外周面と外管の内周面が同心円に当接する圧接部において外側シール部を構成することにより、充分なシール性を確保するものであり、
部品数を削減した簡単な管構造にできる。
【0040】
本発明の内面4分割管の製造に際して、仕上寸法より大きな1本の内管を用いるが、予め内管の中央部の外周面が上下方向から内側に向けて押し潰し加工された断面形状に異形成形を施す必要がある。このとき、異形成形の方法として、ロール成形法、プレス成形法、または引き抜き加工による成形法を採用することができる。
【0041】
このとき、例えば異形成形の方法としてロール成形法およびプレス成形法を採用すれば、外管の冷間引き抜き回数は1回とし、仕上加工としての合わせ引きを1回とするので、総合計で2回の冷間加工になる。したがって、本発明の内面4分割管の製造では、冷間引き抜き回数は外管の2回だけとなり、前記図2に示す管構造では総合計で10回の冷間加工が必要となるのに比べ、大幅な製造効率化と製造コストの低減が図れる。
【0042】
本発明の内面4分割管が有する外側シール部および内側シール部は、内管を外管内に装着した状態で管全体を冷間引き抜き加工することにより、内管の該当する箇所を圧接してシール部を構成する。
【0043】
特に、内側シール部は、予め内管の中央部の外周面が上下方向から内側に向けて押し潰し加工された断面形状とした状態で冷間引き抜き加工することにより、押し潰し加工された管壁を圧接して接触面によるシール部を構成する。したがって、本発明の内面4分割管であれば、困難な作業を必要とせず、簡単にしかも所定の箇所に確実にシール部を構成することができる。
【0044】
本発明の内面4分割管において、外管および内管の材質は機械構造用鋼管として冷間引き抜き加工が可能なものであればよいが、特にこれらに限定されるものではなく、鉄鋼材料、非鉄金属材料、その他、用途に応じて適宜設定すればよい。また、内管と外管とは必ずしも同材質である必要はなく、内管と外管との特性に応じて異なる材質を適用することができる。
【実施例】
【0045】
本発明の内面4分割管をロッカシャフトとして使用するため、外管の内部に1本の内管を備えた、管内空間部を独立した4個の流体通路を配置した内面4分割管を製造した。ロッカシャフトとして用いられる内面4分割管は、前記図3に示す断面構造を管全長にわたり有している。
【0046】
図4は、本発明の内面4分割管の製造方法を説明する図であり、(a)は仕上加工前の内管の断面形状を、(b)は仕上加工前の外管の断面形状を、(c)は内管を外管内に装着した状態を示している。図4(a)に示すように、仕上加工前の内管2として、外径長さDLを有し、管壁が上下方向から内側に向けて押し潰し加工された断面形状である途中素管を準備する。内管2の断面形状は、ロール加工またはプレス加工により丸管を出発素管として成形することができる。
【0047】
図4(a)に示す断面形状では、押し潰し加工された管壁の間に間隙Cが設けれているが、その後の冷間引き抜き加工で圧接される程度のクリアランスに設計する必要がある。本発明の内面4分割管では、押し潰し加工の際に管壁を圧接し間隙Cを設けない断面形状も設計することできるが、この場合には、合わせ引きによる仕上加工でシール性を高めることができる。
【0048】
図4(b)に示すように、仕上加工前の外管1は、仕上寸法より大きく内径DIの円管を準備する。通常、仕上加工前の外管1は、寸法形状を調整するとともに表面性状を整えるために、1回の冷間引き抜き加工により成形される。
【0049】
その後、図4(c)に示すように、プレス成形された内管2が外管1内に装着されるが、このとき外管1と内管2との隙間(DI−DL)を確保し、内管2の装着を容易にする。次に、内管2を外管1に装着した状態で、管全体を仕上用の円形ダイスに通し、合わせ引きで冷間引き抜き加工を施す。
【0050】
この引き抜き加工にともない、内管2の両端部の外周面の一部を外管1の内周面に圧接させて外側シール部を形成するとともに、内管の押し潰し加工された管壁が上下方向より当接し、さらに圧接されることにより密閉された内側シール部を形成する。そして、形成された内側シール部により内管の内部空間が2分割されるのに加え、内管の外周面と外管の内周面との間に2つの空間部を構成することができる。これにより、管内面空間を独立した4つの空間に区画された内面4分割管を構成できる。
【0051】
図5は、本発明の内面4分割管をロッカシャフトとして使用する場合のシャフト構成を説明する図である。ロッカシャフト1は内部に内管2を備え、内面空間が4分割されており、ロッカシャフト1の外側にはカムフォロア(ロッカアーム)を嵌挿する構造であり、内面に設けられた流通路は潤滑用オイルや作動油の通路として活用される。図示するカム7はロッカアーム(図示せず)とカムフォロアを構成し、バルブを駆動する部材として作用する。
【0052】
前記図4に示す製造方法で得られて内面分割管を、図5に示すロッカシャフトとして組み立て、4分割された内面空間を潤滑用オイルや作動油の流通通路として作動試験を実施したが、充分なシール性を確保できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の内面4分割管および製造方法によれば、管内部に独立した4個の流体通路を形成した管の製造に際し、外管内への内管の内接方式を冷間引き抜き加工に限定させる製造プロセスを適用するものであり、内管圧入の作業性およびシール性を改善させ、冷間引き抜き回数の低減が図れるとともに、外管が小径管であっても管内面空間を流体通路として有効に確保でき、管内部を独立した4個の流体通路に分割することができる。
【0054】
さらに、部品数を削減した簡単な管構造を採用するものであり、軽量化を図るとともに管の強度を確保することができ、しかも、一層の製造コストの低減を達成することができる。
【0055】
また、本発明の内面4分割管において、外側シール部を内側シール部より長く形成させるとともに、外側シール部に連通穴を形成し、連結部は外管の径方向に延びるように構成することにより、連通穴の加工自由度を向上させることができると同時に、外側シール部の端部にて確実にシールすることができ、連通穴を形成した場合でもシール性を損なうことがない。
【0056】
これらの優れた作用、効果に基づき、管内面空間を4分割した機械構造用鋼管として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】特許文献1で提案したロッカシャフトの断面構造を示す図である。
【図2】特許文献2で提案した、内部空間に独立した4個の流体通路を形成した管の構造を示す断面図である。
【図3】本発明の内面4分割管の断面構成例を説明する図である。
【図4】本発明の内面4分割管の製造方法を説明する図であり、(a)は仕上加工前の内管の断面形状を、(b)は仕上加工前の外管の断面形状を、(c)は内管を外管内に装着した状態を示している。
【図5】本発明の内面分割管をロッカシャフトとして使用する場合のシャフト構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0058】
1:外管、外部管、ロッカシャフト、 2:内管、内部管
3:凹み部、 4:外側シール部
5:内側シール部、 6:連結部
7:カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管全長にわたり同一断面を有する円筒状の外管と、その内部に冷間引き抜き加工により内接される1本の内管を備え、
前記内管の全長方向と直交する断面の両端部の外周面には、前記外管と接触しそれぞれの端部の少なくとも一部が外管の内周面と同心円に形成される外側シール部と、
前記外側シール部を構成しない前記内管の外周面が内側に向けて押し潰し加工されて、内管の管壁が圧接し、当該内管の内部空間を2分割する内側シール部と、
外側シール部の一端部と内側シール部の一端部とを連結する連結部が、前記内管の全周に亘り4箇所設けられ、
前記内管により2分割された空間部に加え、連続する2箇所の連結部と外管の内周面との間にそれぞれ1つの空間部が形成されることを特徴とする内面4分割管。
【請求項2】
前記外側シール部は、内側シール部より長く形成されるとともに、
前記外側シール部には、加工により連通穴が形成され、
前記連結部は前記外管の径方向に延びることを特徴とする請求項1に記載の内面4分割管。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内面4分割管の製造方法であって、
少なくとも外管が仕上寸法より大きくなるように予め外管および内管を成形し、さらに当該内管はその管壁が上下方向から内側に向けて押し潰し加工された断面形状とし、得られた1本の内管を外管内に装着したのち、
管全体を冷間引き抜き加工することにより、前記内管の全長方向と直交する断面の両端部の外周面の一部を前記外管の内周面に圧接させて外側シール部を形成させるとともに、
前記内管の押し潰し加工された管壁を圧接させて当該内管の内部空間を2分割する内側シール部を形成させ、かつ当該内管の外周面と外管の内周面との間に2つの空間部を構成することを特徴とする内面4分割管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−245164(P2007−245164A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68299(P2006−68299)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(506086270)株式会社三日市鋼管製造所 (3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(503003739)株式会社小林製作所 (2)
【Fターム(参考)】