説明

再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルム

【課題】再帰反射シートとして使用した際に必要となる色相及び反射性能を満足しうる
再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】着色アクリル樹脂フィルムと、マンセル記号がN5.5のねずみ色の油性
色紙とを重ね合わせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照
明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で
測定した時のXYZ表色系での色度座標(x,y)が、(0.572,0.427)、(
0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378
)の範囲内にあり、Y値が9以上である再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルム

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再帰反射シートの表皮材であって、再帰反射シートを保護し、優れた視認性を付与する透明で、かつ着色したアクリル樹脂フィルムに関し、さらに詳しくは、看板や道路標識などに使用される再帰反射シートの表皮材として用いられてその表面を保護するとともに、優れた視認性を付与することができる着色アクリル樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
入射した光を光源方向に向けて反射させる再帰反射シートは、従来から良く知られており、その再帰反射性、夜間における優れた視認性を利用して種々の分野で使用されている。例えば、再帰反射シートを用いた道路標識、工事標識等は、夜間等において、走行する車両等のヘッドライト等の光源からの光を光源方向、即ち走行する車両の方向へ向けて反射させ、標識の視認者である車両の運転者に対し優れた視認性を提供し、明確な情報伝達を可能にするという優れた特性を有している。このような道路標識、工事標識等として用いられる再帰反射シートは、視認性を良好にするために着色されており、さらに、着色された再帰反射シートには、直接文字や模様がスクリーン印刷することにより形成されている。
【0003】
着色された再帰反射シートの色の種類としては、白、黄、赤、橙、緑、青があり、各色について、色の範囲やY値の下限値が規格に定められている。例えばASTM D4956の場合、橙の再帰反射シートの色は、色度座標(x,y)が、0/45の照度/幾何条件(又は同等の45/0)によって測定されてCIE標準の光D65で評価された、CIE1931表色系を用いて、(0.558,0.352)、(0.636,0.364)、(0.570,0.429)及び(0.506,0.404)の範囲であり、Y値の下限値が14であることが定められている。
【0004】
例えば、上記の色度座標(x,y)及びY値を有する再帰反射シートは、道路標識の一つである工事標識に使用されている。そのデザインは橙の再帰反射シートに黒色の文字や図柄が描かれたものである。この配色の理由は、上記の色相を背景色とし、黒色で文字や図柄をデザインすることにより視認性をより高めることができ、このように配色された工事標識は、自動車の運転手等に対し、瞬時に注意を促すことができるためである。このような工事標識に、ASTM D4956に規定する上記の色度座標(x,y)の範囲を外れたり、Y値の下限値を下回る再帰反射シートを用いた場合、自動車の運転手等が他の標識と誤認したり、瞬時にその標識を判断できないため、橙の再帰反射シートの色相がASTM D4956の規格を満足することは非常に重要である。
【0005】
上述のような着色された再帰反射シートを得る方法としては、再帰反射シートの表層に印刷によって着色する方法の他に、フィルムを製造するまでの工程の何れかで着色剤を練り込み、得られた着色フィルムを保護層として再帰反射シートの基材に積層する方法等が考えられる。これら方法の中でも、再帰反射シートの反射性能や製造コストを考慮すると、後者の方が好ましい。
【0006】
再帰反射シート用カバーフィルムとしては、特開昭62−4741号公報(特許文献1)、特開昭62−4742号公報(特許文献2)に、熱可塑性重合体と多層構造重合体とからなり、ゲル含量がコントロールされたものが開示されている。このフィルムは、耐候性と加工性に優れるものである。更に、特開平11−15415号公報(特許文献3)の実施例に、無色透明のポリメチルメタクリレートフィルムを使用した再帰反射シートおよびその製造方法が開示されている。このフィルムは耐衝撃性、耐候性に優れるものである

【0007】
これらフィルムは、耐候性、加工性、耐衝撃性については優れているものの、いずれの公開公報においても、着色された再帰反射シート及びこれを得る方法については全く言及されてない
一方、再帰反射シートの表皮材として用いることを前提とはしていないものの、着色されたフィルムや着色層については、これまでに様々なものが開示されている。
【0008】
このうち、特開2002−331619号公報(特許文献4)には、屋外で使用可能な耐候性を有し、かつ曲面への施工が可能な柔軟性を有するマーキングフィルム用基材を構成するための着色アクリル系樹脂フィルムが開示されている。該公報の実施例には、市販の柔軟性アクリル原料に酸化チタン顔料を添加して着色アクリル系樹脂フィルムが得られることが開示されている。
【0009】
又、特開2001−253033号公報(特許文献5)には、適度なフィルム強度と柔軟性や形状追従性を有し、高彩度色の発色性や耐候性に富むマーキングフィルムを構成するための着色透明層が開示されている。該公報の実施例には、アクリルウレタン系塗料にシアニンブルー有機顔料を添加し、青色の着色透明層が得られることが開示されている

【0010】
又、特開2002−49315号公報(特許文献6)には、耐候性に優れ、適度な柔軟性や形状追従性を有するマーキングフィルムを構成するための着色基材層が開示されている。該公報の実施例には、塩化ビニル樹脂に白色顔料を添加したり、ポリプロピレン系樹脂にシアニンブルーを添加したりして着色基材層を得ることが開示されている。
【0011】
しかしながら、上述の特開2002−331619号公報(特許文献4)で開示されている着色アクリル系樹脂フィルムは、マーキングフィルムを構成するための着色層としては優れた性能を示すものの、この公開公報においては、再帰反射シートとして使用した際に必要となる色相及び透明性に関しては言及されていない。更に、該公報の実施例に開示されている着色アクリル系樹脂フィルム1は、樹脂成分100質量部に対して酸化チタンが15質量部添加されて、透明性に劣るため、再帰反射シートの表皮材として満足できるものではない。
【0012】
又、特開2001−253033号公報(特許文献5)で開示されている基材層は、マーキングフィルムを構成するための着色層としては非常に優れた性能を示すものの、この公開公報においては、熱可塑性樹脂に着色した時の具体的な色相及び透明性について言及されていない。更に、該公報の実施例に開示されている、基材層にシアニンブルー有機顔料を樹脂分100質量部に対して5質量部含有したフィルムは、再帰反射シートとして必要となる色相が得られず、更に透明性に劣るため、再帰反射シートの表皮材としては満足できないものである。
【0013】
更に、特開2002−49315号公報(特許文献6)で開示されている着色基材層は、マーキングフィルムを構成するための着色層としては優れた性能を示すものの、この公開公報においては、具体的なフィルムの色相について言及されていない。更に、該公報の実施例に記載された着色基材層は、樹脂100質量部に対して白色顔料が45質量部添加された塩化ビニル樹脂、又は樹脂100質量部に対してシアニンブルー顔料が4質量部添加された着色ポリプロピレン系樹脂組成物であり、このフィルムを再帰反射シートの表皮として使用した場合、再帰反射シートとして必要となる色相が得られず、更に透明性が劣るため、再帰反射シートの表皮材として満足できるものではない。
【0014】
上述の如く、これまで、再帰反射シートとして使用した際に必要となる色相及び反射性能を満足しうる、再帰反射シートの表皮材として用いることのできる着色アクリル樹脂フィルムは知られていなかった。このため、着色された再帰反射シート表皮用アクリル樹脂フィルム、詳しくは再帰反射シートとして使用した際に必要となる色相及び反射性能を満足しうる再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムの開発が強く望まれていた。
【特許文献1】特開昭62−4741号公報
【特許文献2】特開昭62−4742号公報
【特許文献3】特開平11−15415号公報
【特許文献4】特開2002−331619号公報
【特許文献5】特開2001−253033号公報
【特許文献6】特開2002−49315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
よって、本発明の目的は、再帰反射シートとして使用した際に必要となる色相及び反射性能を満足しうる再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムを提供することにある

【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムについて鋭意検討した結果、色度座標(x,y)を特定の範囲内になるようにアクリル樹脂フィルムに特定の着色剤を練り込んで着色することにより、再帰反射シートとして使用した際に必要となる色相及び反射性能を満足しうる着色アクリル樹脂フィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
すなわち、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、再帰反射シートの表皮材として用いられる着色アクリル樹脂フィルムであり、該着色アクリル樹脂フィルムと、マンセル記号がN5.5のねずみ色の油性色紙とを重ね合わせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で測定した時のXYZ表色系での色度座標(x,y)が、(0.572,0.427)、(0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378)の範囲内にあり、Y値が9以上であることを特徴とするものである。
【0018】
又、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、下記化学式(1)〜(5)で表される着色剤のいずれか1種を含有することが望ましい。
【化1】

(式中、R、X、及びYは任意の置換基を示す。)
又、JIS K7136に準拠する方法で測定したヘーズ値は、1〜30%であることが望ましい。
【0019】
又、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、ヘーズ向上剤を含有するものであることが望ましい。
【0020】
又、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、下記多層構造重合体(I)及び下記熱可塑性重合体(II)を含有するアクリル樹脂組成物からなるものであることが望ましい。
【0021】
[多層構造重合体(I)]
多層構造重合体(I)は、中心から最内層重合体(I−A)、第1中間層重合体(I−B)、第2中間層重合体(I−C)、最外層重合体(I−D)の順に配置された多層構造重合体であり、
最内層重合体(I−A)は、炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−A1)、炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−A2)、芳香族ビニル単量体(I−A3)及び多官能性単量体(I−A4)を重合して得られた、ガラス転移温度が10℃以上である重合体であり、
第1中間層重合体(I−B)は、炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−B1)、芳香族ビニル単量体(I−B2)、多官能性単量体(I−B3)およびグラフト交叉剤(I−B5)を重合して得られた、ガラス転移温度が0℃以下である重合体であり、
第2中間層重合体(I−C)は、炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−C1)、炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−C2)、芳香族ビニル単量体(I−C3)及びグラフト交叉剤(I−C4)を重合して得られた重合体であり、
最外層重合体(I−D)は、炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−D1)、炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−D2)及び芳香族ビニル単量体(I−D3)を重合して得られた、ガラス転移温度が50℃以上である重合体である。
【0022】
[熱可塑性重合体(II)]
熱可塑性重合体(II)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート単位50〜100質量%及びこれと共重合可能な他のビニル単量体単位0〜50質量%からなり、重合体の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃で測定)が0.1l/g以下である重合体である。
【0023】
又、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、下記多層構造重合体(III)を含有するアクリル樹脂組成物からなるものであることが望ましい。
【0024】
[多層構造重合体(III)]
下記多層構造重合体(III)を含有するアクリル樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1ないし4いずれか一項に記載の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルム。
[多層構造重合体(III)]
多層構造重合体(III)は、中心から最内層重合体(III−A)、中間層重合体(III−B)、最外層重合体(III−C)の順に配置された多層構造重合体であり、 最内層重合体(III−A)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−A1)単位及びグラフト交叉剤(III−A5)単位からなる重合体であり、
中間層重合体(III−B)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−B1)単位炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−B2)単位及びグラフト交叉剤(III−B5)単位からなり、かつ最内層重合体(III−A)とは異なる組成の重合体であり、
最外層重合体(III−C)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−C1)単位からなる重合体である。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、着色アクリル樹脂フィルムと、マンセル記号がN5.5のねずみ色の油性色紙とを重ね合わせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で測定した時のXYZ表色系での色度座標(x,y)が、(0.572,0.427)、(0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378)の範囲内にあり、Y値が9以上であるものなので、再帰反射シートとして使用した際に必要となる色相及び反射性能を満足しうる。
【0026】
又、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、上記化学式(1)〜(5)で表される着色剤のいずれか1種を含有するものであれば、再帰反射シートとして使用した際に必要となる色相及び反射性能を満足しうる。
【0027】
又、JIS K7136に準拠する方法で測定したヘーズ値が、1〜30%であれば、着色アクリル樹脂フィルムを表皮材として製造した再帰反射シートの反射性能が低下することなく、道路標識などに使用した場合、視認性がたいへん良好である。
【0028】
又、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムが、ヘーズ向上剤を含有するものであれば、上記ヘーズ値の達成が容易である。
【0029】
又、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムが、上記多層構造重合体(I)及び熱可塑性重合体(II)を含有するアクリル樹脂組成物からなるものであれば、耐候性、耐衝撃性が良好となり、透明性の温度依存性が小さくなる。
【0030】
又、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムが、上記多層構造重合体(III)を含有するアクリル樹脂組成物からなるものであれば、耐候性、耐衝撃性が良好となり、透明性の温度依存性が小さくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0032】
<着色アクリル樹脂フィルム>
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルム(以下、着色アクリル樹脂フィルムとも記す)は、該着色アクリル樹脂フィルムと、マンセル記号がN5.5のねずみ色の油性色紙とを重ね合わせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で測定した時のXYZ表色系での色度座標(x,y)が、(0.572,0.427)、(0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378)の範囲内でなければならない。
【0033】
ここで、「(0.572,0.427)、(0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378)の範囲」とは、図1に示すように、色度座標(x,y)における(0.572,0.427)、(0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378)そして最初の(0.572,0.427)の各座標を順に直線で結ぶことによって囲まれる領域を意味する。
【0034】
この範囲外の色度座標(x,y)を持つ着色アクリル樹脂フィルムを再帰反射シートの表皮材として用いた場合、その再帰反射シートは、例えばASTM D4956の規格の色相を満足せず、この再帰反射シートを標識等に用いた場合の視認性が低い。
【0035】
好ましい色度座標(x,y)の範囲は、(0.572,0.427)、(0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378)の範囲、より好ましくは(0.577,0.421)、(0.510,0.400)、(0.539,0.371)及び(0.618,0.382)の範囲、最も好ましくは(0.583,0.416)、(0.523,0.397)、(0.548,0.372)及び(0.618,0.382)の範囲である。
【0036】
マンセル記号がN5.5のねずみ色の油性色紙としては、日本色研事業(株)の標準色カード230のねずみ色(マンセル記号:N5.5)を用いることができる。
【0037】
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムのY値は、着色アクリル樹脂フィルムと、マンセル記号がN5.5のねずみ色の油性色紙とを重ね合わせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で測定した値であり、このY値が9以上でなければならない。
【0038】
Y値が9以上であると、その着色アクリル樹脂フィルムを再帰反射シートの表皮材として用いた場合、その再帰反射シートの色相はASTM D4956の規格を満足することができ、道路標識などに使用した場合、視認性が良好になる。更に好ましいY値は9.5以上である。
【0039】
上述のように、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、着色アクリル樹脂フィルムとマンセル記号がN5.5のねずみ色の油性色紙とを重ね合わせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で測定した時のXYZ表色系での色度座標(x,y)を(0.572,0.427)、(0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378)の範囲内にし、Y値を9以上にすることによって、これを表皮材として用いた再帰反射シートの色相を、ASTM D4956規格を満足するものにすることができる。
【0040】
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、JIS K7136に準拠する方法で測定したヘーズ値が1〜30%であることが好ましい。ヘーズが1%未満の場合、その着色アクリル樹脂フィルムを表皮材として製造した再帰反射シートのY値が低下する傾向にあり、道路標識などに使用した場合、視認性が悪くなる傾向があるため好ましくない。又、ヘーズが30%を超えると、その着色アクリル樹脂フィルムを表皮材として製造した再帰反射シートの反射性能が低下する傾向にあるため好ましくない。より好ましいヘーズは5〜15%、特に好ましくは6〜14%、更に好ましくは8〜13%である。
【0041】
上記ヘーズを達成する方法として、着色アクリル樹脂フィルムにヘーズ向上剤を添加することが好ましい。ヘーズを向上させるためには、内部ヘーズを向上させる方法と外部ヘーズを向上させる方法とがあり、前者の具体的な方法として、アクリル樹脂と屈折率の異なるものを添加する等の方法があり、一方、外部ヘーズを向上させる方法として、シリカやマイカなどの無機物を添加したり、架橋重合体、高分子量樹脂組成物等を添加する方法がある。本発明の着色アクリル樹脂フィルムを表皮材とする再帰反射シートの反射性能を考慮すると、外部ヘーズを向上させる方が好ましい。外部ヘーズを向上させるためのヘーズ向上剤としては、下記の熱可塑性重合体(P)や、特開平7−238202号公報に記載の直鎖状重合体(B)が挙げられ、特に熱可塑性重合体(P)が好ましい。
【0042】
ヘーズ向上剤である熱可塑性重合体(P)は、メチルメタクリレート50〜100質量%と、これと共重合可能な他のビニル系単量体0〜50質量%とを重合してなり、生成重合体の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃で測定)が0.2〜2l/gとなるように重合した重合体であり、着色アクリル樹脂フィルムのヘーズ及びフィルム成形性に対し重要な役割を示す成分である。熱可塑性重合体(P)の還元粘度は重要であり、還元粘度が0.2l/g未満では目的とするヘーズは得られにくい。特に好ましい還元粘度は0.2〜1.2l/gである。
【0043】
熱可塑性重合体(P)において、メチルメタクリレートと共重合可能な他の単量体としては、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート、芳香族ビニル化合物、ビニルシアン化合物等が挙げられる。炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートは直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられる。又、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートは、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−置換スチレン、核置換スチレン及びその誘導体、例えばα−メチルスチレン、クロルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。又、ビニルシアン化合物としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0044】
上記単量体より熱可塑性重合体(P)を得るにあたり使用する重合開始剤としては、通常の過硫酸塩などの無機開始剤又は有機過酸化物、アゾ化合物等を単独で、又は上記化合物と亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、第一金属塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート等とを組み合わせ、レドックス系開始剤として用いることもできる。重合開始剤として好ましい過硫酸塩は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等である。有機過酸化物としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等が挙げられる。
【0045】
熱可塑性重合体(P)の分子量及び分子量分布は、加工性付与効果に対して重要な因子であり、目的に応じて適当な連鎖移動剤を使用することができる。
【0046】
重合は、重合開始剤の分解温度以上の温度にて、通常の乳化重合条件で行うことができ、目的に応じて一段又は多段で重合することができる。重合体の回収は、通常、塩析あるいは酸析凝固後、濾過水洗し粉末状で回収するか、あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥を行い粉末状で回収することができる。
【0047】
上記熱可塑性重合体(P)は、三菱レイヨン(株)製メタブレンPとして工業的に入手可能である。
【0048】
着色アクリル樹脂フィルム中の熱可塑性重合体(P)の含有量は、後述のアクリル樹脂100質量部に対し0.1〜10質量部であることが好ましい。0.1質量部以上の場合、その着色アクリル樹脂フィルムを表皮材として製造した再帰反射シートのY値が向上する傾向にあり、又、熱可塑性重合体(P)が10質量部以下の場合、透明性が良好になり、再帰反射シートとして必要な反射性能が良好になる傾向にあるため好ましい。
【0049】
<アクリル樹脂>
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、アクリル樹脂を主成分とし、これに着色剤等を添加したアクリル樹脂組成物からなるフィルムである。アクリル樹脂を用いることによって、フィルムに耐候性の優れた特性を付与できる。
【0050】
アクリル樹脂としては、特に限定されないが、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート及びブチルメタクリレートから成る群より選ばれる少なくとも一種を主原料とし、必要に応じて炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、アクリロニトリルメタクリロニトリル等を共重合成分として用いることによって得られる単一重合体又は共重合体が挙げられる。
又、特公昭59−36646号公報、特公昭62−19309号公報、特公昭63−20459号公報及び特開昭63−77963号公報に記載されているような多層構造重合体を用いることができる。
【0051】
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムに用いられる好ましいアクリル樹脂は、例えば、以下に説明する多層構造重合体(I)及び熱可塑性重合体(II)を組み合わせたアクリル樹脂(L)、又は多層構造重合体(III)である。
【0052】
すなわち、再帰反射シートは、主に道路標識など屋外で使用されるため、耐候性、耐衝撃性の良好な表皮材を用いることが好ましい。この耐衝撃性を付与する方法として、ゴム成分を含有させる方法等があるが、この場合、環境温度が変化することにより、表皮材の透明性が変化し、再帰反射シートとして重要な反射性能が低下したり、再帰反射シートの色相が変化したりすることがある。上述のアクリル樹脂(L)、多層構造重合体(III)を用いた着色アクリル樹脂フィルムは、耐候性、耐衝撃性が良好で、透明性の温度依存性が小さいため、再帰反射シートの表皮材として好適に用いることができる。
【0053】
以下、上述した好ましい形態のアクリル樹脂について具体的に説明する。
【0054】
<多層構造重合体(I)>
本発明において用いられるアクリル樹脂(L)は、好ましくは、多層構造重合体(I)20〜90質量部及び熱可塑性重合体(II)80〜10質量部((I)+(II)=1
00質量部)からなるものである。
【0055】
多層構造重合体(I)は、中心から最内層重合体(I−A)、第1中間層重合体(I−B)、第2中間層重合体(I−C)、最外層重合体(I−D)の順に配置された多層構造重合体である。
【0056】
最内層重合体(I−A)は、
炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−A1)30〜99.7質量%、
炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−A2)0.1〜69.8質量%、
芳香族ビニル単量体(I−A3)0.1〜25質量%、
多官能性単量体(I−A4)0.1〜10質量%、及び
グラフト交叉剤(I−A5)0〜5質量%を重合して得られた、ガラス転移温度(以下、Tgと記す)が10℃以上である重合体である。Tgが10℃以上の場合、得られる着色アクリル樹脂フィルムの透明性が良好になる傾向にある。又、多層構造重合体(I)に占める最内層重合体(I−A)の量は、得られる着色アクリル樹脂フィルムの耐衝撃性の点で2〜35質量%であることが好ましい。
【0057】
第1中間層重合体(I−B)は、
炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−B1)60〜99.7質量%、
芳香族ビニル単量体(I−B2)0.1〜39.8質量%、
多官能性単量体(I−B3)0.1〜10質量%、
共重合可能な二重結合を有する単量体(I−B4)0〜20質量%、及び
グラフト交叉剤(I−B5)0.1〜5質量%を重合して得られた、Tgが0℃以下である重合体である。Tgが0℃以下の場合、得られる着色アクリル樹脂フィルムの耐衝撃性が良好になる傾向にある。又、多層構造重合体(I)に占める第1中間層重合体(I−B)の量は、得られる着色アクリル樹脂フィルムの耐衝撃性の点で5〜60質量%であることが好ましい。
【0058】
第2中間層重合体(I−C)は、
炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−C1)20〜89.8質量%、
炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−C2)10〜79.8質量%、
芳香族ビニル単量体(I−C3)0.1〜25質量%、及び
グラフト交叉剤(I−C4)0.1〜5質量%を重合して得られた重合体である。多層構造重合体(I)に占める第2中間層重合体(I−C)の量は、2〜20質量%であることが好ましい。又、多層構造重合体(I)の製造中における、第2中間層重合体(I−C)段階でのラテックス粒子径は、0.03〜0.2μmであることが好ましい。
【0059】
最外層重合体(I−D)は、
炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−D1)51〜99.8質量%、
炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−D2)0.1〜48.9質量%、及び
芳香族ビニル単量体(I−D3)0.1〜25質量%を重合して得られた、Tgが50℃以上である重合体である。Tgが50℃以上の場合、得られる着色アクリル樹脂フィルムの耐熱性が良好になる傾向にある。又、多層構造重合体(I)に占める最外層重合体(I−D)の量は、得られる着色アクリル樹脂フィルムの耐熱性の点で10〜80質量%であることが好ましい。
【0060】
ここで、重合体のTgは、例えば、単量体a,b,c・・・からなる共重合体の場合、以下のFox式で求められる。
【0061】
1/Tg=ma/Tga+mb/Tgb+mc/Tgc・・・
Tg:共重合体のTg[K]、ma:単量体aの質量分率、Tga:単量体aから得られるホモポリマーのTg[K]、mb:単量体bの質量分率、Tgb:単量体bから得られるホモポリマーのTg[K]、mc:単量体cの質量分率、Tgc:単量体cから得られるホモポリマーのTg[K]。
【0062】
最内層重合体(I−A)を構成する炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−A1)としては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、例えば、ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルメタクリレート等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、透明性の点からメチルメタクリレートが望ましい。
【0063】
炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−A2)としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、Tgの点からブチルアクリレートが望ましい。
【0064】
芳香族ビニル単量体(I−A3)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、経済性の点からスチレンが好ましい。
【0065】
多官能性単量体(I−A4)としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレートのようなアルキレングリコールジメタクリレート;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン;アルキレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、アルキレングリコールジメタクリレートが好ましく、1,3−ブチレングリコールジメタクリレートがさらに好ましい。
【0066】
グラフト交叉剤(I−A5)としては、例えば、共重合性のα,β−不飽和モノカルボン酸又はジカルボン酸のアリルエステル、メタアリルエステル、クロチルエステル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレートが特に好ましい。
【0067】
第1中間層重合体(I−B)を構成する炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−B1)としては、(I−A2)で示したアルキルアクリレートを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
芳香族ビニル単量体(I−B2)としては、(I−A3)で示したスチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0069】
多官能性単量体(I−B3)としては、(I−A4)で示したエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレートのようなアルキレングリコールジメタクリレート;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン;アルキレングリコールジアクリレート等を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、アルキレングリコールジメタクリレートが好ましく、1,3−ブチレングリコールジメタクリレートがさらに好ましい。
【0070】
共重合可能な二重結合を有する単量体(I−B4)としては、上述の単量体以外で、かつ上述の単量体と共重合可能な単量体であり、例えば、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0071】
グラフト交叉剤(I−B5)としては、(I−A5)で示した共重合性のα,β−不飽和モノカルボン酸又はジカルボン酸のアリルエステル、メタアリルエステル、クロチルエステル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレートが特に好ましい。
【0072】
第2中間層重合体(I−C)及び最外層重合体(I−D)を構成する、単量体及びグラフト交叉剤としては、最内層重合体(I−A)及び第1中間層重合体(I−B)と同様のものが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0073】
多層構造重合体(I)の最終ラテックス粒子径は、0.03〜0.2μmであることが好ましく、更に好ましい粒子径は0.04〜0.15μm、最も好ましい粒子径は0.05〜0.1μmである。最終ラテックス粒子径が大きくなりすぎると、透明性が低下するだけでなく、温度変化により透明性が変化することがある。道路標識など屋外で再帰反射シートの表皮材として使用される場合、外気温の変化により透明性が変化すると、反射性能の低下、色相の変化を招くため好ましくない。一方、粒子径が小さくなりすぎると、耐衝撃性が低下するため好ましくない。
【0074】
再帰反射シートの表皮材として使用されるアクリル樹脂は、透明性が高いほうが反射性能の点で好ましく、又、道路標識など屋外で主に使用されるため、耐衝撃性が高いほうが好ましい。
【0075】
さらに、全光線透過率や曇価の温度依存性を少なくするためには、多層構造重合体(I)において各層に占める炭素数4以下のアルキルメタクリレート量が、第1中間層重合体(I−B)から、第2中間層重合体(I−C)、最外層重合体(I−D)に向かって単調増加し、かつ最内層重合体(I−A)に占めるアルキルメタクリレート量が第1中間層重合体(I−B)に占める量よりも多いことが好ましい。
【0076】
多層構造重合体(I)の各層(I−A)、(I−B)、(I−C)、(I−D)における芳香族ビニル単量体と炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレートとの質量比(芳香族ビニル単量体/アルキルアクリレート)が5/95〜50/50であることが好ましく、10/90〜30/70であることがさらに好ましい。該質量比が、この範囲から離れるにつれて透明性が低下し、再帰反射シートの表皮材として使用した時に反射性能が低下する傾向にある。
【0077】
多層構造重合体(I)の製造法としては、乳化重合法による逐次多段重合法が最も適した重合法である。多層構造重合体(I)の製造は、特にこれに制限されることはなく、例えば、乳化重合後、それぞれの最外層重合体の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法によっても行うことができる。
【0078】
又、特に限定されるわけではないが、多層構造重合体(I)を乳化重合により製造する場合は、最内層重合体(I−A)を与える単量体混合物をあらかじめ水及び界面活性剤と混合して乳化液を調製し、この乳化液を反応器に供給し重合した後、残りの各層を構成する単量体混合物をそれぞれ順に反応器に供給し、重合する方法が好ましい。
【0079】
最内層重合体(I−A)を与える単量体混合物を、あらかじめ水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し、重合させることにより、特にアセトン中に分散させた際に、その分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体(I)100gあたり0〜50個である多層構造重合体を容易に得ることができる。こうして得られた多層構造重合体(I)を原料に用いた着色アクリル樹脂フィルムは、フィルム中のフィッシュアイ数が少ないという特性を有し、外観が良好になるため好ましい。
【0080】
乳化液を調製する際に使用される界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、およびノニオン系の界面活性剤が使用でき、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、ロジン石鹸;オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等が挙げられる。このうち、特に昨今問題となっている内分泌かく乱化学物質からの生態系保全の点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩が好ましい。
【0081】
上記界面活性剤の好ましい具体例としては、三洋化成工業社製のNC−718、東邦化学工業社製のフォスファノールLS−529、フォスファノールRS−610NA、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA、フォスファノールRS−660NA、花王社製のラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406、ラテムルP−0407等が挙げられる。
【0082】
又、乳化液を調製する方法としては、水中に単量体混合物を仕込んだ後、界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後、単量体混合物を投入する方法、単量体混合物中に界面活性剤を仕込んだ後、水を投入する方法等が挙げられる。このうち、水中に単量体を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法、及び水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体混合物を投入する方法が多層構造重合体(I)を得る方法としては好ましい。
【0083】
又、多層構造重合体(I)を構成する最内層重合体(I−A)を与える単量体混合物を、水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を調製するための混合装置としては、攪拌翼を備えた攪拌機;ホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置;膜乳化装置等が挙げられる。
【0084】
又、調製する乳化液としては、W/O型、O/W型のいずれの分散構造でもよく、特に水中に単量体混合物の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であることが好ましい。
【0085】
多層構造重合体(I)を構成する最内層重合体(I−A)、第1中間層重合体(I−B
)、第2中間層重合体(I−C)、及び最外層重合体(I−D)を形成する際に使用する重合開始剤としては、公知のものが使用できる。その添加方法は、水相、単量体相のいずれか片方、又は双方に添加する方法を採用できる。特に好ましい重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、又は酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。この中で更にレドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0086】
特に、上述の最内層重合体(I−A)を与える単量体混合物を水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し、重合した後、第1中間層重合体(I−B)、第2中間層重合体(I−C)及び最外層重合体(I−D)を与える単量体混合物をそれぞれ順に反応器に供給し、重合する方法においては、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリットを含む水溶液を重合温度まで昇温した後、調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで過酸化物等の重合開始剤を含む第1中間層重合体(I−B)、第2中間層重合体(I−C)、及び最外層重合体(I−D)を与える単量体混合物を順次反応器に供給し、重合する方法が、多層構造重合体(I)を得る方法としては最も好ましい。
【0087】
なお、重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは60〜95℃である。
【0088】
<熱可塑性重合体(II)>
本発明における熱可塑性重合体(II)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位50〜100質量%、及びこれと共重合可能な他のビニル単量体に由来する構成単位0〜50質量%からなり、重合体の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃で測定)が0.1l/g以下である重合体である。
【0089】
熱可塑性重合体(II)で用いられる炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレートが最も好ましい。
【0090】
熱可塑性重合体(II)で用いられる、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物等が挙げられる。
【0091】
又、熱可塑性重合体(II)の還元粘度は、0.1l/g以下である。還元粘度が0.1l/gを超えると、流動性が悪化しフィルム成形性の点で好ましくない。
【0092】
熱可塑性重合体(II)を得るための重合方法は、特に限定されるものではなく、通常公知の懸濁重合法、乳化重合法等の各種方法が適用される。
【0093】
熱可塑性重合体(II)は、三菱レイヨン(株)製ダイヤナールBRシリーズとして工業的に入手可能である。
【0094】
<多層構造重合体(III)>
多層構造重合体(III)は、中心から最内層重合体(III−A)、中間層重合体(III−B)、最外層重合体(III−C)の順に配置された多層構造重合体である。
【0095】
多層構造重合体(III)には、フィルム物性を損なわない範囲で、熱可塑性重合体(II)を混合してもよい。
【0096】
最内層重合体(III−A)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−A1)に由来する構成単位50〜99.9質量%、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−A2)に由来する構成単位0〜49.9質量%、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−A3)に由来する構成単位0〜20質量%、多官能性単量体(III−A4)に由来する構成単位0〜10質量%およびグラフト交叉剤(III−A5)に由来する構成単位0.1〜10質量%からなる重合体である。
【0097】
中間層重合体(III−B)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−B1)に由来する構成単位9.9〜90質量%、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−B2)に由来する構成単位9.9〜90質量%、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−B3)に由来する構成単位0〜20質量%、多官能性単量体(III−B4)に由来する構成単位0〜10質量%およびグラフト交叉剤(III−B5)に由来する構成単位0.1〜10質量%からなり、かつ最内層重合体(III−A)とは異なる組成の重合体である。
【0098】
最外層重合体(III−C)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−C1)に由来する構成単位80〜100質量%、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−C2)に由来する構成単位0〜20質量%及び共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−C3)に由来する構成単位0〜20質量%からなる重合体である。
【0099】
最内層重合体(III−A)を構成する、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−A1)は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものはn−ブチルアクリレートである。
【0100】
最内層重合体(III−A)を構成する、炭素数1〜4のアルキルメタクリレート(III−A2)は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。その具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート等が挙げられる。これらは、単独で、又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメチルメタクリレートである。
【0101】
最内層重合体(III−A)を構成する、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−A3)としては、例えば、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体;スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。
【0102】
最内層重合体(III−A)を構成する、多官能性単量体(III−A4)は、必要に応じて用いることができる。多官能性単量体とは、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その好ましい具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートが挙げられる。又、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等も使用可能である。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。
【0103】
又、多官能性単量体が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤が存在する限り、かなり安定な多層構造重合体を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて、多官能性単量体の添加を任意に行えばよい。
【0104】
最内層重合体(III−A)を構成する、グラフト交叉剤(III−A5)とは、異なる共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その具体例としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸又はジカルボン酸のアリル、メタリル、又はクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、またはフマル酸のアクリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏し、好ましい。その他、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も有効である。グラフト交叉剤(III−A5)においては、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基、又はクロチル基よりはるかに早く反応し、化学的に結合する。アリル基、メタリル基、又はクロチル基の実質上、かなりの部分は、次層重合体の重合中に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。
【0105】
なお、連鎖移動剤の存在下で重合してもよい。
【0106】
最内層重合体(III−A)中の炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−A1)単位の含有量は、多層構造重合体(III)のフィルム成形性及び耐衝撃性等の物性の点から50〜99.9質量%であり、より好ましくは55〜77.9質量%であり、最も好ましくは60〜69.9質量%である。
【0107】
最内層重合体(III−A)中の炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−A2)単位の含有量は、0〜49.9質量%であり、より好ましくは20質量%以上であり、最も好ましくは30質量%以上である。又、より好ましくは44.9質量%以下であり、最も好ましくは39.9質量%以下である。
【0108】
最内層重合体(III−A)中の共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−A3)単位は、0〜20質量%であり、より好ましくは15質量%以下である。
【0109】
最内層重合体(III−A)中の多官能性単量体(III−A4)単位の含有量は、0〜10質量%であり、より好ましくは0.1質量%以上、6質量%以下である。
【0110】
最内層重合体(III−A)中のグラフト交叉剤(III−A5)単位の含有量は、0.1〜10質量%である。0.1質量%以上の含有量では、得られる多層構造重合体を、透明性等の光学的物性を低下させずにフィルム成形することができる。又、10質量%以下の含有量では、多層構造重合体に十分な柔軟性、強靭さを付与することができるため、好ましい。より好ましくは0.5質量%以上、2質量%以下である。
【0111】
最内層重合体(III−A)における各構成単位の含有量は、上記範囲であることが、多層構造重合体(III)を成形して得られる着色アクリル樹脂フィルムの透明性及び耐衝撃性等の物性の点から好ましい。
【0112】
最内層重合体(III−A)単独のTgは、多層構造重合体(III)を成形して得られる着色アクリル樹脂フィルムの耐衝撃性の観点から、後述の中間層重合体(III−B)単独のTg未満であることが好ましい。より好ましくは25℃未満、さらに好ましくは10℃以下、最も好ましくは0℃以下である。
【0113】
多層構造重合体(III)中の最内層重合体(III−A)の含有量は、多層構造重合体(III)を成形して得られる着色アクリル樹脂フィルムの透明性の点で15〜50質量%が好ましく、より好ましくは15〜35質量%以下である。この場合、該多層構造重合体(III)を再帰反射シートの表皮材として使用した時の反射性能の点で有利である

【0114】
最内層重合体(III−A)は、単層でも良いが、2層からなるものがより好ましい。又、特に限定はされないが、最内層重合体(III−A)中の2層の単量体構成比は、それぞれ異なっていることが好ましい。
【0115】
最内層重合体(III−A)が2層からなる場合、多層構造重合体(III)を成形して得られる着色アクリル樹脂フィルムの耐衝撃性、及び透明性の観点から、内側層(III−A−1)のTgは、外側層(III−A−2)のTgよりも低いほうが好ましい。具体的には、内側層(III−A−1)のTgは、耐衝撃性の観点から−30℃未満が好ましく、外側層(III−A−2)のTgは、透明性の観点から−15℃〜10℃が好ましい。
【0116】
又、透明性の観点から、最内層重合体(III−A)中の内側層(III−A−1)の含有量は1〜20質量%が好ましく、外側層(III−A−2)の含有量は80〜99質量%が好ましい。道路標識など主に屋外で使用される再帰反射シートの表皮材として使用されるアクリル樹脂は、透明性が高いほうが好ましい。
【0117】
最内層重合体(III−A)が2層からなる場合の好ましい多層構造重合体としては、特公昭62−19309号公報に記載の多層構造重合体等が挙げられる。
【0118】
中間層重合体(III−B)を構成する、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−B1)は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメチルアクリレート、n−ブチルアクリレートである。
【0119】
中間層重合体(III−B)を構成する、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−B2)は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。その具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート等が挙げられる。これらは、単独で、又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメチルメタクリレートである。
【0120】
中間層重合体(III−B)を構成する、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−B3)としては、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。
【0121】
中間層重合体(III−B)を構成する、多官能性単量体(III−B4)は、必要に応じて用いればよい。その好ましい具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートが挙げられる。又、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等も使用可能である。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。
【0122】
多官能性単量体が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤が存在する限り、かなり安定な多層構造重合体を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて、多官能性単量体の添加を任意に行えばよい。
【0123】
中間層重合体(III−B)を構成する、グラフト交叉剤(III−B5)としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸又はジカルボン酸のアリル、メタリル、又はクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、又はフマル酸のアクリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏し、好ましい。その他、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も有効である。グラフト交叉剤(III−B5)においては、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基、又はクロチル基よりはるかに早く反応し、化学的に結合する。アリル基、メタリル基、又はクロチル基の実質上、かなりの部分は、次層重合体の重合中に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。
【0124】
なお、連鎖移動剤の存在下で重合してもよい。
【0125】
中間層重合体(III−B)中の炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−B1)単位の含有量は、9.9〜90質量%である。多層構造重合体(III)を成形して得られる着色アクリル樹脂フィルムの透明性の観点から、より好ましくは19.9質量%以上、最も好ましくは29.9質量%以上である。又、より好ましくは60質量%以下、最も好ましくは50質量%以下である。
【0126】
中間層重合体(III−B)中の炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−B2)単位の含有量は、9.9〜90質量%である。多層構造重合体(III)を成形して得られる着色アクリル樹脂フィルムの透明性の観点から、より好ましくは39.9質量%以上、最も好ましくは49.9質量%以上である。又、より好ましくは80質量%以下、最も好ましくは70質量%以下である。
【0127】
中間層重合体(III−B)中の共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−B3)単位の含有量は、0〜20質量%であり、より好ましくは15質量%以下である。
【0128】
中間層重合体(III−B)中の多官能性単量体(III−B4)単位の含有量は、0
〜10質量%であり、より好ましくは6質量%以下である。
【0129】
中間層重合体(III−B)中のグラフト交叉剤(III−B5)単位の含有量は、0.1〜10質量%である。0.1質量%以上の含有量では、得られる多層構造重合体(III)を、透明性等の光学的物性を低下させずに成形することができる。又、10質量%以下の含有量では、多層構造重合体(III)に十分な柔軟性、強靭さを付与することができるため、好ましい。より好ましくは0.5質量%以上であり、2質量%以下である。
【0130】
中間層重合体(III−B)の組成は、最内層重合体(III−A)の組成と異なることが好ましい。これらの重合体の組成が異なることで、耐衝撃性等のフィルム物性及び透明性等を満足することができる。
【0131】
ここで、本発明で言う「異なる組成」とは、各重合体を形成するアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、共重合可能な二重結合を有する他の単量体、多官能性単量体、及びグラフト交叉剤の、種類及び/又は量が異なることである。
【0132】
中間層重合体(III−B)単独のTgは、25〜100℃の範囲であることが好ましい。Tgが25℃以上の場合、多層構造重合体(III)成形して得られる着色アクリル樹脂フィルムの耐熱性、耐擦傷性、透明性が良好になるため好ましい。より好ましくは40℃以上、最も好ましくは50℃以上である。又Tgが100℃以下の場合、製膜性の良好な多層構造重合体が得られるため好ましい。より好ましくは80℃以下、最も好ましくは70℃以下である。
【0133】
又、特に限定されるわけではないが、多層構造重合体(III)中の中間層重合体(III−B)の含有量は、5〜35質量%が好ましく、より好ましくは20質量%以下である。この範囲内であれば、中間層として必要な機能、例えば透明性を発現させることができる。
【0134】
最外層重合体(III−C)を構成する、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−C1)は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。その具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート等が挙げられる。これらは、単独で、又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメチルメタクリレートである。
【0135】
最外層重合体(III−C)を構成する、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−C2)は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでも良い。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメチルアクリレート、n−ブチルアクリレートである。
【0136】
最外層重合体(III−C)を構成する、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−C3)としては、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。
【0137】
最外層重合体(III−C)中の炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−C1)単位の含有量は、80〜100質量%であり、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは93質量%以上である。又、より好ましくは99質量%以下である。
【0138】
最外層重合体(III−C)中の炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−C2)単位の含有量は、0〜20質量%であり、より好ましくは1質量%以上である。又、より好ましくは10質量%以下、最も好ましくは7質量%以下である。
【0139】
最外層重合体(III−C)中の共重合可能な二重結合を有する単量体(III−C3)単位の含有量は、0〜20質量%であり、より好ましくは15質量%以下である。
【0140】
又、特に限定されないが、最外層重合体(III−C)の重合時に連鎖移動剤を使用し、最外層重合体(III−C)の分子量を調整することができる。この連鎖移動剤は通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いるのが好ましく、具体例としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独、又は二種以上を混合して使用できる。連鎖移動剤の含有量は、最外層重合体(III−C)の単量体((III−C1)〜(III−C3))100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましい。より好ましくは0.2質量部以上、最も好ましくは0.4質量部以上である。
【0141】
最外層重合体(III−C)を形成するアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、共重合可能な二重結合を有する他の単量体、多官能性単量体、及びグラフト交叉剤の含有量は、上記範囲であることが、多層構造重合体(III)を成形して得られる着色アクリル樹脂フィルムのフィルム成形性、透明性の観点から好ましい。
【0142】
最外層重合体(III−C)単独のTgは、60℃以上が好ましい。該Tgが60℃以上の場合、多層構造重合体(III)をフィルム状に成形したときの耐擦傷性等、フィルム物性の良好な着色アクリル樹脂フィルムが得られるため好ましい。より好ましくは80℃以上、最も好ましくは90℃以上である。
【0143】
又、特に限定されないが、多層構造重合体(III)中の最外層重合体(III−C)の含有量は、フィルム物性の点で15〜80質量%が好ましく、より好ましくは45〜80質量%、最も好ましくは45〜70質量%以下である。
【0144】
多層構造重合体(III)の製造法としては、多層構造重合体(I)と同様に乳化重合法による逐次多段重合法が最も適した重合法である。多層構造重合体(III)の製造は、特にこれに制限されることはなく、例えば、乳化重合後、それぞれの最外層重合体の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法によっても行うことができる。
【0145】
又、特に限定されるわけではないが、多層構造重合体(III)を、多層構造重合体(I)と同様に乳化重合により製造する場合は、最内層重合体(III−A)を与える単量体混合物の一部又は全量を、あらかじめ水及び界面活性剤と混合して乳化液を調製し、この乳化液を反応器に供給し重合した後、残りの各層を構成する単量体混合物をそれぞれ順に反応器に供給し、重合する方法が好ましい。
【0146】
最内層重合体(III−A)を与える単量体混合物を、あらかじめ水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し、重合させることにより、特にアセトン中に分散させた際に、その分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体(III)100gあたり0〜50個である多層構造重合体を容易に得ることができる。こうして得られた多層構造重合体(III)を原料に用いた着色アクリル樹脂フィルムは、フィルム中のフィッシュアイ数が少ないという特性を有し、外観が良好になるため好ましい。
【0147】
乳化液を調製する際に使用される界面活性剤としては、多層構造重合体(I)で乳化液を調整する際に使用される界面活性剤と同様のものが使用できる。
【0148】
又、乳化液を調製する方法も、多層構造重合体(I)と同様の方法が好ましい。
【0149】
又、多層構造重合体(III)を構成する最内層重合体(III−A)を与える単量体混合物を水、及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を調製するための混合装置としては、多層構造重合体(I)を製造する際の乳化液の調製に用いられる装置が挙げられる。
【0150】
又、調製する乳化液としては、W/O型、O/W型のいずれの分散構造でもよく、特に水中に単量体混合物の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であることが好ましい。
【0151】
多層構造重合体(III)を構成する最内層重合体(III−A)、中間層重合体(III−B)、及び最外層重合体(III−C)を形成する際に使用する重合開始剤としては、公知のものが使用できる。その添加方法は、水相、単量体相のいずれか片方、又は双方に添加する方法を採用できる。特に好ましい重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、又は酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。この中で更にレドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0152】
特に、上述の最内層重合体(III−A)を与える単量体混合物を水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し、重合した後、中間層重合体(III−B)、及び最外層重合体(III−C)を与える単量体混合物をそれぞれ順に反応器に供給し、重合する方法においては、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリットを含む水溶液を重合温度まで昇温した後、調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで過酸化物等の重合開始剤を含む中間層重合体(III−B)、及び最外層重合体(III−C)を与える単量体混合物を順次反応器に供給し、重合する方法が、多層構造重合体(III)を得る方法としては最も好ましい。
【0153】
なお、重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは60〜95℃である。
【0154】
上述のようにして多層構造重合体(I)、(III)を乳化重合で得るときは、連鎖移動剤、その他の重合助剤等を使用してもよい。連鎖移動剤は公知のものが使用でき、好ましくはメルカプタン類である。
【0155】
多層構造重合体(I)、(III)は、上述の方法で製造した重合体ラテックスから多層構造重合体を回収することによって製造することができる。重合体ラテックスから多層構造重合体を回収する方法としては特に限定されないが、塩析又は酸析凝固、あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられ、粉状で回収される。
【0156】
<着色剤>
着色剤としては、アクリル樹脂をバインダーとして着色剤成分を配合した着色剤マスターバッチ、分散剤と着色剤成分とを配合したドライカラーが挙げられる。ここでいう着色剤マスターバッチとは、樹脂に着色剤成分を高濃度に配合した着色剤マスターバッチであり、形態としてはペレット状、軟らかい板状のもの等が挙げられる。又、バインダーとなる樹脂は特に限定されないが、着色アクリル樹脂フィルムに用いられるアクリル樹脂と同種、あるいは類似したものが好ましい。又、ドライカラーとは、分散性粉末着色剤を示し、適当な分散剤を添加して機械的に微粉末状にした着色剤である。好ましい分散剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0157】
着色剤成分としては、特に限定されるものではないが、下記化学式(1)〜(5)の構造を持つものが挙げられる。(式中、R、X、及びYは任意の置換基を示す。)
【化2】

【0158】
式(1)であれば、例えば、CI Pigment Yellow 93、CI Pigment Yellow 95、CI Pigment Yellow 128、CI Pigment RED 144、CI Pigment RED 166、CI Pigment RED 214、CI Pigment RED 221、CI Pigment BROWN 23などが挙げられる。
【0159】
式(2)であれば、例えば、CI Pigment Yellow 109、CI Pigment Yellow 110、CI Pigment Yellow 139、CI Pigment Orange 61等が挙げられる。
【0160】
式(3)であれば、例えば、CI Pigment Yellow 24、CI Pigment Yellow 99、CI Pigment Yellow 108、CI Pigment Yellow 123、CI Pigment Yellow 147、CI Pigment Yellow 199、CI Solvent Yellow 163、CI Pigment Red 177、CI Disperse Red 22、CI Disperse Red 57、CI Disperse Red 60等が挙げられる。
【0161】
式(4)であれば、例えば、CI Disperse Red 122、CI Disperse Red 202等が挙げられる。
【0162】
式(5)であれば、例えば、CI Disperse Orange 71、CI Disperse Orange 73、CI Disperse Red 254、CI Disperse Red 255、CI Disperse Red 264、CI Disperse Red 272等が挙げられる。
【0163】
特に再帰反射シートの表皮材として必要な透明性、鮮明性の点でCI Pigment Yellow 110が好ましい。上記CI Pigment Yellow 110は、大日精化工業(株)製「DYMIC MBR 443 エロー」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「CROMOPHTAL Yellow 2RLP」、「CROMOPHTAL Yellow 2RLTS」、「CROMOPHTAL Yellow 3RT」、「IRGAZIN Yellow 2RLT」、「IRGAZIN Yellow 3RLTN」、「MICROLITH Yellow 3R−K/KP」、「MICROLITH Yellow 3R−T」、「MICROLITH Yellow 3R−WA」、「MICROLEN Yellow 2RLTS−MC」、「MICROLEN Yellow 2RLTS−UA」、「UNISPERSE Yellow 2RLT−S」として工業的に入手可能である。これら着色剤成分は単独で又は二種以上を混合して使用できる。
【0164】
又、補色の目的で、キナクリドン系、ペリレン系、ペリノン系、チオインジゴ系、キノフタロン系等の着色剤を添加しても良い。
【0165】
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムに含有される着色剤の濃度は、着色アクリル樹脂フィルムとマンセル記号がN5.5のねずみ色の油性色紙とを重ね合わせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で測定した時のXYZ表色系での色度座標(x,y)が、(0.572,0.427)、(0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378)の範囲内に入るような濃度にすればよい。例えば、CI Pigment Yellow 110とペリレン系着色剤のCI Pigment Red 149の組み合わせであれば、着色剤成分の質量比をCI Pigment Yellow 110/CI Pigment Red 149=2/1としたときに、CI Pigment Yellow 110の濃度は0.3g/m2 〜0.7g/m2 が好ましい範囲である。着色剤の濃度が高すぎる場合、透明性が低下し、再帰反射シートに重要な反射性能が低下する傾向がある。より好ましくは0.3g/m2 〜0.6g/m2 である。
【0166】
<着色アクリル樹脂フィルムの製造>
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムを成形する方法としては、特に限定されるものではないが、公知の溶液流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法等があげられ、このうち経済性の点でTダイ法がもっとも好ましい。
【0167】
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、フィルム物性の点で10〜500μmである。10〜500μmであると、適度な剛性となるためラミネート性、二次加工性等が容易となり、更に製膜性が安定してフィルムの製造が容易となる。さらに好ましくは15μm〜200μmさらに好ましくは30μm〜200μmである。
【0168】
又、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムには、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、帯電防止剤、艶消剤、紫外線吸収剤等を含むことができる。特に基材(再帰反射シート)の保護の点では、耐候性を付与するために、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。使用される紫外線吸収剤の分子量は300以上であることが好ましく、特に好ましくは400以上である。分子量が300より小さな紫外線吸収剤を使用すると、フィルムを製造する際に転写ロール等に揮発し、ロール汚れを発生させることがある。紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、分子量400以上のベンゾトリアゾール系又は分子量400以上のトリアジン系のものが特に好ましく使用でき、前者の具体例としては、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)のチヌビン234、旭電化工業社のアデカスタブLA−31、後者の具体例としては、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)のチヌビン1577等が挙げられる。
【0169】
上記配合剤の添加方法としては、アクリル樹脂を用いてフィルムを製膜するための製膜機に、アクリル樹脂とともに供給する方法と、予めアクリル樹脂に配合剤を添加した混合物を各種混練機にて混練混合する方法がある。後者の方法に使用する混練機としては、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリミキサー、ロール混練機等が挙げられる。
【0170】
<再帰反射シート>
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムを表面に有する再帰反射シートは、主に、道路標識、表示板あるいは視認性を目的とした安全器具に使用される。
【0171】
再帰反射シートの種類としては、アルミニウム蒸着を施したガラスビーズを基材に埋め込んだカプセル型再帰反射シート、プリズム加工した樹脂シートを反射体として使用したプリズム型再帰反射シート等があり、いずれのタイプにおいても本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、再帰反射シートの表面に積層されて使用される。
【0172】
例えば、カプセル型再帰反射シートは以下のようにして製造される。
【0173】
仮支持体層にガラスビーズの上半球部分を一旦埋込み、ビーズの下半球部分とビーズ相互の間隙にわたって一面に金属膜を蒸着してから、これに密着して熱可塑性ポリマからなる支持フィルムを塗布形成し、その面を更に耐熱性樹脂などからなるフィルムで被覆して反対側の上記仮支持体層を剥離し、露呈したガラスビーズの上半球部の上に本発明の着色アクリル樹脂フィルムを重ね、所望の独立小区画空室を作るための凸形網目パターンを有する金型によって、耐熱性樹脂などからなるフィルム側から加熱プレスし、支持フィルムを熱溶融して着色アクリル樹脂フィルムと部分的に密着させ、上記パターンどおりの連結壁を形成して独立小区画空室を形成して、カプセル型再帰反射シートが製造される。このとき、支持フィルムと着色アクリル樹脂フィルムの密着面積が大きいと、再帰反射シートとして重要な反射性能が損なわれる傾向がある。
【0174】
本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムを表面に有する再帰反射シートは、ASTM D4956の規格を満足するものであり、道路標識、工事標識など、様々な表示類に使用できる。このように、本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムは、工業的利用価値が極めて高いものである。
【実施例】
【0175】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0176】
ここで、実施例及び比較例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
又、参考例中の略号は以下のとおりである。
【0177】
メチルメタクリレート:MMA
n-ブチルアクリレート:BA
メチルアクリレート:MA
スチレン:ST
アリルメタクリレート:AMA
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート:BD
t−ブチルハイドロパーオキサイド:tBH
クメンハイドロパーオキサイド:CHP
n−オクチルメルカプタン:n−OM
又、実施例及び比較例において、調製した多層構造重合体の評価、着色アクリル樹脂フィルムの諸物性の測定は、以下の試験法により実施した。
【0178】
1)多層構造重合体の質量平均粒子径:
乳化重合にて得られた多層構造重合体のポリマーラテックスを大塚電子(株)製の光散乱光度計DLS−700を用い、動的光散乱法で測定し求めた。
【0179】
2)着色アクリル樹脂フィルムのヘーズ:
JIS K7136に準拠して測定した。
【0180】
3)着色アクリル樹脂フィルムの色度座標(x,y)及びY値:
日本色研事業(株)の標準色カード230(マンセル記号がN5.5のねずみ色)と着色アクリル樹脂フィルムを重ね合わせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で測定した。
【0181】
4)白色反射シート上での着色アクリル樹脂フィルムの色度座標(x,y)及びY値:
市販のカプセルレンズ型再帰反射シート(白)(ニッカポリマ(株)製、商品名:ニッカライトULS)上に着色アクリル樹脂フィルムをのせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で測定した。
【0182】
5)視認性:
20cm四方の市販のカプセルレンズ型再帰反射シート(白)(ニッカポリマ(株)製(商品名:ニッカライトULS)に20cm四方の着色アクリル樹脂フィルムを4辺が合うように貼りあわせた。更に、着色アクリル樹脂フィルム上に縦10cm、横3cmの長方形に切り出した黒画用紙を貼り付け、地面と垂直に設置して、再帰反射シートから約50m離れた距離に自動車を止め、その運転席から再帰反射物品を観察した。なお、再帰反射シートを照明する光としては、その自動車のヘッドライトを用いた。
【0183】
◎:長方形が鮮明に確認できる
○:長方形が確認できる
△:長方形がぼやけて見える
×:長方形が確認できない
(調製例1)
多層構造重合体(I−1)の調製:
冷却器付き反応容器内にイオン交換水195部を投入し、70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.10部、硫酸第一鉄0.0002部、EDTA0.0006部を加えて調製した混合物を一括投入した。次いで、窒素下で撹拌しながら、MMA2.3部、BA2.13部、ST0.37部、BD0.2部、CHP0.01部からなる第1の単量体混合物及び乳化剤(東邦化学工業社製:フォスファノールRS610NA)1.3部からなる混合物を8分間かけて反応容器に滴下した後、15分間反応を継続させて最内重合体(I−1−A)を得た。ここで、最内層重合体(I−1−A)のTgは13℃であった。
【0184】
続いて、重合容器内に、BA24.54部、ST4.26部、BD1.2部、AMA0.225部からなる第2の単量体混合物をCHP0.03部と共に90分間かけて添加した後、60分間反応を継続させて架橋弾性重合体を含む第1中間層重合体(I−1−B)を得た。ここで、第1中間層重合体(I−1−B)のTgは−40℃であった。
【0185】
続いて、重合容器内に、MMA6部、BA3.28部、ST0.72部、AMA0.15部、及びCHP0.02部の第3の単量体混合物を30分間かけて滴下した後、60分間反応を継続させて第2中間層重合体(I−1−C)を形成させた。
【0186】
次いで、重合容器内に、MMA52.25部、BA2.26部、ST0.49部、n−OM0.193部、及びtBH0.055部からなる第4の単量体混合物を130分間かけて滴下した後、60分間反応を継続させて最外層重合体(I−1−D)を形成させ、多層構造重合体(I−1)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。ここで、最外層重合体(I−1−D)のTgは94℃であった。重合後測定した重量平均粒子径は、0.09μmであった。
【0187】
得られた多層構造重合体(I−1)の重合体ラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(I−1)を得た。
【0188】
(調製例2)
多層構造重合体(III−1)の調製
攪拌機を備えた容器に脱イオン水10.8部を仕込んだ後、MMA0.3部、BA4.45部、BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる単量体混合物を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、乳化剤(東邦化学工業社製:フォスファノールRS610NA)1.3部を攪拌しながら上記容器に投入し、再度攪拌を20分間継続し、乳化液を調製した。
【0189】
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水139.2部を投入し、75℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を該重合容器内に一括投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、乳化液を8分間にわたり該重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、最内層重合体(III―1−A1 )の重合を完結した。続いて、MMA9.5部、BA14.25部、BD1.0部、AMA0.25部からなる単量体混合物をCHP0.016部と共に90分間にわたり該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、架橋弾性重合体(III−1−A2 )を含む架橋ゴム弾性体を得た。ここで、最内層重合体(III−1−A1 )単独のTgは−48℃、架橋弾性重合体(III−1−A2 )単独のTgは−10℃であった。
【0190】
続いて、MMA5.96部、MA3.97部、AMA0.07部からなる単量体混合物をCHP0.0125部と共に45分間にわたり該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間層重合体(III−1−B)を形成させた。ここで、中間層重合体(III−1−B)単独のTgは60℃であった。
【0191】
次いで、MMA57部、MA3部、n−OM0.264部、tBH0.075部からなる単量体混合物を140分間にわたり該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外層重合体(III−1−C)を形成し、多層構造重合体(III−1)の重合体ラテックスを得た。ここで、最外層重合体(III−1−C)単独のTgは99℃であった。重合後測定した重量平均粒子径は0.11μmであった。
【0192】
得られた多層構造重合体(III−1)の重合体ラテックスを、調製例1と同様の方法で濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(III−1)を得た。
【0193】
[実施例1、実施例8、比較例1〜2、比較例4]
調製例1で得られた多層構造重合体(I−1)60部、熱可塑性重合体(II)40部に、紫外線吸収剤として旭電化工業(株)製アデカスタブLA−31(商品名)、HALSとして旭電化工業(株)製アデカスタブLA−57(商品名)、抗酸化剤として旭電化工業(株)製アデカスタブAO−50(商品名)、着色剤を表1に示す配合量を添加し、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30)に供給し、混練してペレットを得た。ここで、このときの熱可塑性重合体(II)としては、ダイヤナールBR−75(三菱レイヨン(株)製、還元粘度0.057l/g)を使用した。
【0194】
又、着色剤としては、イソインドリノン系黄色顔料(大日精化工業(株)製、商品名ダイミックカラーMBR 443、CI Pigment Yellow 110)、アンスラキノン系黄色顔料(大日精化工業(株)製、商品名ダイミックカラーMBR 421、CI Pigment Yellow 199)、アンスラキノン系黄色染料(大日精化工業(株)製、商品名ダイミックカラーMBR D−05、CI Solvent Yellow 163)、イソインドリノン系黄色顔料(大日精化工業(株)製、商品名ダイミックカラーPMP 403、CI Pigment Yellow 110)、ペリレン系赤顔料(大日精化工業(株)製、商品名ダイミックカラーPMP 203、CI Pigment Red 149)、アンスラキノン系赤顔料(大日精化工業(株)製、商品名ダイミックカラーMBR 151、CI Pigment Red 177)、ペリレン系赤顔料(大日精化工業(株)製、商品名ダイミックカラーMBR 155、CI Pigment Red 149)を使用した。
【0195】
上記の方法で製造したペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いてシリンダー温度200℃〜240℃、Tダイ温度250℃、冷却ロール温度70℃の条件で着色アクリル樹脂フィルムを製膜した。
【0196】
得られた着色アクリル樹脂フィルムのXYZ表色系での色度座標(x,y)、Y値、ヘーズの測定結果及び視認性評価結果を表1及び図2に示す。
【0197】
[実施例2〜5、比較例3]
調製例1で得られた多層構造重合体(I−1)60部、熱可塑性重合体(II)40部、表1に示す熱可塑性重合体(P)、配合剤、着色剤を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で着色アクリル樹脂フィルムを得た。ここで、熱可塑性重合体(P)としては、メタブレンP−551A(三菱レイヨン(株)製、還元粘度0.375l/g)を使用した。
【0198】
得られた着色アクリル樹脂フィルムのXYZ表色系での色度座標(x,y)、Y値、ヘーズの測定結果及び視認性評価結果を表1及び図2に示す。
【0199】
[実施例6]
アクリル樹脂に調製例2で得られた多層構造重合体(III−1)を80部、熱可塑性
重合体(II)を20部、熱可塑性重合体(P)を2部、表1に示す配合剤、着色剤を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で着色アクリル樹脂フィルムを得た。
【0200】
得られた着色アクリル樹脂フィルムのXYZ表色系での色度座標(x,y)、Y値、ヘーズの測定結果及び視認性評価結果を表1及び図2に示す。
【0201】
[実施例7]
調製例2で得られた多層構造重合体(III−1)を100部、熱可塑性重合体(P)を4部、表1に示す配合剤、着色剤を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で着色アクリル樹脂フィルムを得た。
【0202】
得られた着色アクリル樹脂フィルムのXYZ表色系での色度座標(x,y)、Y値、ヘーズの測定結果及び視認性評価結果を表1及び図2に示す。
【表1】

【0203】
実施例及び比較例より、次のことが明らかとなった。
【0204】
実施例1〜8における着色アクリル樹脂フィルムを用いた再帰反射シートは、ASTM D4956の規格を満足するとともに良好な視認性を有する。特に、実施例2〜5及び実施例7のヘーズ向上剤を含有する着色アクリル樹脂フィルムを用いた再帰反射シートは更に視認性が向上するものであった。これら本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムを使用したものは、いずれも例えば工事標識等の高度な視認性が必要となる再帰反射シートとして使用することができ、工業的利用価値は極めて高い。
【0205】
一方、比較例1における着色アクリル樹脂フィルムを用いた再帰反射シートは、ASTM D4956記載のY値を満足するものの、色度座標(x,y)を満足しないものであった。又、比較例2及び3については、色度座標(x,y)を満足するものの、Y値を満足しないものであった。又、比較例4の着色アクリル樹脂フィルムを用いた再帰反射シートは、色度座標(x,y)、Y値ともに満足しないものであった。これら比較例1〜4の着色アクリル樹脂フィルムを使用したものは、いずれも例えば工事標識として必要となる高度な視認性が得られないため工業的利用価値が低い。
【図面の簡単な説明】
【0206】
【図1】本発明の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルムが満足すべき、XYZ表色系での色度座標(x,y)の範囲を示すグラフである。
【図2】実施例及び比較例における着色アクリル樹脂フィルムのXYZ表色系での色度座標(x,y)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CI Pigment Yellow 110である着色剤とペリレン系着色剤を含有し、再帰反射シートの表皮材として用いられる着色アクリル樹脂フィルムであり、 該着色アクリル樹脂フィルムと、マンセル記号がN5.5のねずみ色の油性色紙とを重ね合わせ、着色アクリル樹脂フィルム側を、JIS Z8722に規定する照明及び受光の幾何学的条件a(45°照明、垂直受光)により、標準の光D65の条件で測定した時のXYZ表色系での色度座標(x,y)が、(0.572,0.427)、(0.505,0.405)、(0.542,0.368)及び(0.622,0.378)の範囲内にあり、Y値が9以上であることを特徴とする再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルム。
【請求項2】
JIS K7136に準拠する方法で測定したヘーズ値が、1〜30%であることを特徴とする請求項1記載の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
ヘーズ向上剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
下記多層構造重合体(I)及び下記熱可塑性重合体(II)を含有するアクリル樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルム。
[多層構造重合体(I)]
多層構造重合体(I)は、中心から最内層重合体(I−A)、第1中間層重合体(I−B)、第2中間層重合体(I−C)、最外層重合体(I−D)の順に配置された多層構造重合体であり、
最内層重合体(I−A)は、炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−A1)、炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−A2)、芳香族ビニル単量体(I−A3)及び多官能性単量体(I−A4)を重合して得られた、ガラス転移温度が10℃以上である重合体であり、
第1中間層重合体(I−B)は、炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−B1)、芳香族ビニル単量体(I−B2)、多官能性単量体(I−B3)およびグラフト交叉剤(I−B5)を重合して得られた、ガラス転移温度が0℃以下である重合体であり、
第2中間層重合体(I−C)は、炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−C1)、炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−C2)、芳香族ビニル単量体(I−C3)及びグラフト交叉剤(I−C4)を重合して得られた重合体であり、
最外層重合体(I−D)は、炭素数4以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(I−D1)、炭素数8以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート(I−D2)及び芳香族ビニル単量体(I−D3)を重合して得られた、ガラス転移温度が50℃以上である重合体である。
[熱可塑性重合体(II)]
熱可塑性重合体(II)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート単位50〜100質量%及びこれと共重合可能な他のビニル単量体単位0〜50質量%からなり、重合体の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃で測定)が0.1l/g以下である重合体である。
【請求項5】
下記多層構造重合体(III)を含有するアクリル樹脂組成物からなることを特徴とする請
求項1ないし3いずれか一項に記載の再帰反射シート表皮用着色アクリル樹脂フィルム。[多層構造重合体(III)]
多層構造重合体(III)は、中心から最内層重合体(III−A)、中間層重合体(III−B)、最外層重合体(III−C)の順に配置された多層構造重合体であり、
最内層重合体(III−A)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−A1)単位及びグラフト交叉剤(III−A5)単位からなる重合体であり、
中間層重合体(III−B)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(III−B1)単位、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−B2)単位及びグラフト交叉剤(III−B5)単位からなり、かつ最内層重合体(III−A)とは異なる組成の重合体であり、
最外層重合体(III−C)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(III−C1)単位からなる重合体である。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−179019(P2011−179019A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140158(P2011−140158)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【分割の表示】特願2003−304956(P2003−304956)の分割
【原出願日】平成15年8月28日(2003.8.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】