説明

再帰反射シート

【課題】内部全反射型反射素子の持つ問題点、すなわち、再帰反射素子を構成する素子の光学軸に対して比較的大きな角度(入射角)で入った光線が、反射の条件を満足せず、透過してしまい、従って、再帰反射する光の強度が低下するという問題点に対して改善を試みるものである。すなわち、入射角の増大にともない再帰反射する光の強度の低下が著しいという問題点(入射角特性)の改善を試みる。
【解決手段】再帰反射素子基材中に屈折率が1.45〜2.90で平均粒径が1〜150nmの金属酸化物微粒子を添加することにより、再帰反射素子層の屈折率を増加させ、これにより臨界角が減少し、入射角が大きくなるにつれて再帰反射係数が著しく減衰するという内部全反射型再帰反射シート特有の問題点を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーナーキューブ型再帰反射シートなどの内部全反射型反射シートに関し、詳しくは、道路標識、工事標識等の標識類、自動車、オートバイ等の車両ナンバープレート類、衣料、救命具等の安全資材類、看板等のマーキング材、可視光またはレーザー光反射型センサー類の反射板などにおいて有用な内部全反射型再帰反射シートに関する。

【背景技術】
【0002】
従来より、入射した光を光源に向って反射する再帰反射シートは良く知られており、その再帰反射性を利用した該シートは上記のごとき利用分野で広く利用されており、中でもキューブコーナーの再帰反射原理を利用した再帰反射シートは、従来のガラス微小球を用いた再帰反射シートに比べ光の再帰反射効率が格段に優れており、その優れた再帰反射性能により年々用途が拡大しつつある。
【0003】
しかしながら、キューブコーナー型再帰反射シートは、その反射原理からシートを構成するキューブコーナー型再帰反射素子の持つ光学軸(該素子を構成する互いに90°の角度を持つ3個の面から等しい距離に有る軸)と入射光線とがなす角度が小さい角度の範囲では良好な再帰反射性を示すが、この角度が大きくなるにつれて再帰反射効率は低下する。臨界角は、再帰反射素子層の屈折率と空気の屈折率の比によって定められ、内部全反射条件を満足する臨界角よりも小さい角度で入射した光線は、該素子の界面で全反射せずに大部分の光線が透過してしまうため、再帰反射するための入射角の条件が限られるという不都合があった。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的はキューブコーナー型反射シートの持つ問題点、すなわち、再帰反射シートを構成する素子の光学軸に対して比較的大きな角度(入射角)で入った光線が、再帰反射素子と空気層との界面において全反射条件を満足せず、透過してしまい、従って、再帰反射する光の強度が低下するという問題点に対して改善を試みるものである。すなわち、入射角の増大にともない再帰反射する光の強度の低下が著しいという前記問題点(入射角特性)の改善を試みるものである。

【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前述の問題を解決すべくなされたものであり、再帰反射性能に大きく影響を及ぼす再帰反射素子層の屈折率を、屈折率が1.45〜2.90で平均粒径が1〜150nmの金属酸化物微粒子を添加することにより1.45〜2.30に制御し、入射角特性を改善した再帰反射シートを提供するものである。
【0006】
本発明における再帰反射シートの代表的な態様は、再帰反射素子基材に金属酸化物微粒子を添加して屈折率を制御した再帰反射素子層とその反射面を界してなる空気層と該空気層を形成する為の結合剤層から少なくともなり、さらに、再帰反射シートの使用目的、使用環境に応じて、表面保護層、観測者に情報を伝達するための印刷層、結合剤層を支持する支持体層及び該再帰反射シートを他の構造体に貼付するために用いる接着剤層と剥離材層とを設置できる。
【0007】
本発明におけるキューブコーナー型再帰反射素子は、それ自体公知な内部全反射原理により入射した方向に光を反射する。
【0008】
本発明における再帰反射素子層は、従来の再帰反射素子基材に加えて金属酸化物微粒子を含有させることにより、その材質の屈折率を上げるもしくは、制御することができ、再帰反射素子層と空気層との界面での臨界角を下げるもしくは制御することができ再帰反射性能の向上もしくは制御が提供される。
【0009】
再帰反射素子層の屈折率を上げることにより、前記、入射角の増大にともない再帰反射する光の強度の低下が著しいという問題点(入射角特性)を改善することが提供される。
【0010】
本発明で用いることができる再帰反射素子層を構成する金属酸化物微粒子の例としては、高屈折率1.45〜2.90程度を有する酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化銅、二酸化ケイ素、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化亜鉛が例示でき、好ましくは酸化チタンまたは酸化チタン系複合体、酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウム系複合体、酸化シリカまたは酸化シリカ系複合体の微粒子からなり、また、その微粒子は、表面処理がなされていてもよい。
【0011】
再帰反射素子基材としては特に限定されるものではないが、光学的均質性のものが好ましい。本発明において使用し得るこのような材料としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニール樹脂、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフイン樹脂、セルロール系樹脂及びウレタン樹脂などを挙げることができる。
【0012】
再帰反射素子基材に金属酸化物微粒子を分散させた再帰反射素子層は、反射効率の観点から全光線透過率は90%以上とするのが望ましい。また、金属酸化物微粒子を分散させた再帰反射素子層はHazeが0.5以下であることが望ましい。
【0013】
本発明の再帰反射素子層の製造方法は、特に限定されるものではなく、キャスト製膜法、押し出し製膜法等を例示できる。
【0014】
本発明の再帰反射シートに用いるキューブコーナー型再帰反射素子の作成方法としては、真鍮、銅、アルミニウムなどの金属表面を繰り返し切削して金属製母型を形成し、電鋳法にて成型用金型を作成したものを熱し、構成する樹脂材料を押し当てる、もしくは金属製型にコーティングなどして紫外線硬化させて該樹脂材料表面に再帰反射素子を形成する方法、多角形型断面を持つ金属ピンの先端に再帰反射素子を形成し、それらのピンを束ねることにより集合体を形成したものを母型として、電鋳法で金型を形成し、以下同様にこの金型を熱し押し当てるもしくは金属製型にコーティング、鋳型加工などして硬化させて該樹脂材料表面に再帰反射素子層を形成する方法などが例示できる。形成する再帰反射素子の大きさは特に限定されるものではないが、シートの外観がそこなわれないような大きさが好ましくは外寸0.1〜10mmの大きさとして用いるのが良い。
【0015】
本発明における再帰反射シートには、再帰反射シートの使用目的や使用環境に応じて、表面保護層、観測者に情報を伝達する為の印刷層、再帰反射素子層と支持体層とその界面の水分の侵入防止のため密封封入構造を形成するための結合剤層、及び、該再帰反射シートを他の構造体に貼付するために用いる接着剤層と剥離材層とを設置できる。
【0016】
表面保護層には再帰反射素子層を構成する樹脂と同じものを用いることができるが、耐候性を向上する目的で紫外線吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤などをそれぞれ単独又は組み合わせて用いることができる。さらに、着色剤として有機顔料、無機顔料及び染料などを含有させることができる。印刷層は表面保護層、再帰反射素子層に設置することができ、通常グラビア印刷、スクリーン印刷などの手段により設置可能である。
【0017】
本発明の再帰反射シートは、内部全反射条件を満足する臨界角を小さくする目的で、再帰反射素子層と空気層が接して設けられている。使用条件下における水分の浸入による臨界角の増大を防止するためには、再帰反射素子層と支持体層とは結合剤層によって結合され、空気層が密封封入されるのが好ましい。この密封封入の方法としては実開昭50-28669号明細書に示されている方法が採用できる。結合剤層に用いる樹脂としては(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂などが選択でき、接合の方法としては熱融着性樹脂接合法、熱硬化性樹脂接合法、紫外線硬化性樹脂接合法、電子線硬化性樹脂接合法などが採用可能である。
【0018】
結合剤層の背面には本発明の再帰反射シートの強度の向上、寸法安定性の改善、裏面からの水分及び化学薬品の浸入等を防止する目的で支持体層を設置し得る。この支持体層を構成する材料の例としては、再帰反射素子層を構成する樹脂、樹脂や繊維、布、ステンレス鋼やアルミニウムなどの薄層金属シートをそれぞれ単独又は複合して用いることができる。
【0019】
本発明の再帰反射シートを金属板、木板、ガラス板、プラスティック板などに貼付するために用いる接着剤層及び該接着剤層保護のための剥離材層は適宜、公知のものを選択しうる。

【発明の効果】
【0020】
本発明における再帰反射素子層は、内部全反射原理に従い、入射した方向に光を再帰反射する。大きな入射角でも効率的に光を再帰反射するためには、臨界角が小さいことが必要であり、そのためには、再帰反射素子基材の屈折率が大きいことが望ましい。
【0021】
しかしながら、本発明に適用可能な透明な再帰反射素子基材の屈折率は、たとえばアクリル樹脂材料を、用いた場合には約1.48であり、その場合の臨界角は約42°である。しかして、キューブコーナー型再帰反射素子に臨界角以下で入射した光は、空気層との界面で内部反射せず、透過してしまうために再帰反射に寄与することができない。
【0022】
本発明は、再帰反射素子基材に金属酸化物よりなる微粒子を均一分散させることにより、再帰反射素子層の屈折率1.48を屈折率1.6にすることが可能であり、臨界角が、42°であったものが、39°と狭くなる効果が見いだされた。

【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の構成要素を図面に従って説明する。
【0024】
図1は、本発明の再帰反射素子層を構成する再帰反射素子の平面図を示したものである。各素子は三方向から断面がV状に刻まれた谷(1),(2),(3)により定められている。なお、小斑点を付した面は、谷(3)に対してほぼ垂直の方向からの光に対して陰となる面を示している。
【0025】
図2は本発明の基本構成を示す断面図であり、(4)は表面保護層、(5)は再帰反射素子層、(6)は空気層、(7)は結合剤層、(8)は支持体層、(9)は接着剤層、(10)は剥離材層を示している。

【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明の詳細を更に具体的に説明するが、本発明は実施例にのみ限定されるものではないことはいうまでもない。
【0027】
〈再帰反射係数〉
実施例をはじめ本明細書に記載の再帰反射係数は、以下で述べる方法で測定されたものである。再帰反射係数測定器として、ガンマーサイエンティフィック社製「モデル920」を用い100mm×100mmの再帰反射シートの再帰反射係数をASTM E810−91に準じて観測角0.5°/入射角5°、10°、20°、30°、40°、50°の角度条件で測定し再帰反射係数とした。
【0028】
〈屈折率〉
実施例をはじめ本明細書に記載の屈折率は、以下述べる方法で測定されたものである。
屈折率測定器として、ATAGO社製アッべ屈折計NAR−1Tを用い測定を行い、屈折率とした。
【0029】
〈HAZE、全光線透過率〉
実施例をはじめ本明細書に記載のHAZE並びに全光線透過率は、以下述べる方法で測定されたものである。
測定器として、東洋精機製作所製ヘイズメーターを用い測定を行い、HAZE並びに全光線透過率とした。
【0030】
実施例1
再帰反射素子1の作成
先端角度が68.53度、71.52度の2種類のダイヤモンドバイトを用いて、高純度アルミニウム板の上に交差角がそれぞれ60.62度で断面形状がV字の溝をくり返しのパターンで三方向からフライカッティング法によって形成し、アルミニウム板上に山の高さが100μmの三角錐を形成した。
【0031】
この母型を用いて電鋳法により材質がニッケルの反転された形状の成型用金型を作成した。
【0032】
表面保護層及び再帰反射素子層の作成
ビーズミル分散機を使用し、アクリル樹脂中に屈折率が2.76である酸化チタン微粒子を含む酸化チタン分散液〔触媒化成工業(株)〕をアクリル樹脂固形分100重量部に対し酸化チタン固形分15重量部となるように溶媒と共に混練し分散液を得た。表面保護層(4)として厚み50μmのアクリル樹脂シート〔鐘淵化学工業(株)製014NST〕上に分散液をアプリケータにて塗工し乾燥を行い厚み約150μmの膜を得ることができた。
その後、このアクリル樹脂シート上の酸化チタン微粒子が分散されたアクリル膜面において、前記、成型用金型を用い再帰反射素子層が酸化チタン微粒子分散アクリル膜に形成するように成型温度200℃、成型圧力50kg/cmの条件で圧縮成型した後に30℃まで加圧下で冷却して樹脂シートを取り出し、表面に再帰反射素子層の厚さが約150μmのコーナーキューブ型再帰反射素子を最密状に配置した酸化チタン微粒子分散アクリル樹脂製の表面保護層(4)及び再帰反射素子層(5)を作成した。
【0033】
結合剤層の作成
支持体層及び結合剤層の作成
厚さ38μmの平滑なPETフィルムの表面にポリエステル樹脂組成物を厚みが30μmとなるように塗布して支持体層(8)及び結合剤層(7)となした。
【0034】
再帰反射シートの作成
に表面保護層(4)及び再帰反射素子層(5)と支持体層(8)及び結合剤層(7)を線幅0.3mmの網目状凸彫刻を施した表面温度が190℃の金属金型とゴムロールとの間を、再帰反射素子がゴムロールに接するようにして加圧しながら通過させて、熱融着法により密封封入構造を形成して本発明の再帰反射シートを作成した。得られた再帰反射シートの再帰反射係数を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0035】
実施例2
実施例1においてアクリル樹脂固形分100重量部に対し微粒子酸化チタン固形分を25重量部となるようにして分散液を得て同様の方法で再帰反射シートを作成し、実施例1と同様に再帰反射係数を測定した。測定結果を表1に示す。
【0036】
実施例3
実施例1においてアクリル樹脂固形分100重量部に対し微粒子酸化チタン固形分を35重量部となるようにして分散液を得て同様の方法で再帰反射シートを作成し、実施例1と同様に再帰反射係数を測定した。測定結果を表1に示す。
【0037】
比較例1
実施例1において酸化チタン微粒子分散液入りアクリル樹脂を用いる代わりに酸化チタン超微粒子分散液を含まない同じアクリル樹脂を用いて同様の方法で再帰反射シートを作成し、実施例1と同様に再帰反射係数を測定した。測定結果を表1に示す。

【0038】
【表1】

【0039】
本発明は再帰反射素子基材に高屈折率の金属酸化物微粒子を分散させることにより、再帰反射素子層の屈折率を上げることができ、それにより、臨界角が減少し、入射角が大きくなるにつれて再帰反射係数が著しく減衰するという内部全反射型再帰反射シート特有の問題点を改善するものである。

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は本発明の再帰反射シートを構成する型再帰反射素子層の平面図を示している。
【図2】図2は本発明の基本的構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1,2,3・・・・三方向から刻まれた断面がV状の谷
4・・・・・・・・・表面保護層
5・・・・・・・・再帰反射素子層
6・・・・・・・・・空気層
7・・・・・・・・・結合剤層
8・・・・・・・・・支持体層
9・・・・・・・・・接着剤層
10・・・・・・・・剥離材層









【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のキューブコーナー型再帰反射素子からなる再帰反射素子層を有する再帰反射シートにおいて、該再帰反射素子層を構成する再帰反射素子基材に、金属酸化物微粒子を添加したことを特徴とする再帰反射シート。
【請求項2】
前記金属酸化物微粒子の粒子径が1nm〜150nmである請求項1に記載の再帰反射シート。
【請求項3】
前記金属酸化物微粒子が酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化銅、二酸化ケイ素、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化亜鉛であり、好ましくは酸化チタンまたは酸化チタン系複合体、酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウム系複合体、酸化シリカまたは酸化シリカ系複合体の微粒子からなる請求項1〜2のいずれかに記載の再帰反射シート。
【請求項4】
前記再帰反射素子基材がアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニール樹脂エポキシ樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、セルロース系樹脂およびウレタン樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の再帰反射シート。
【請求項5】
前記金属酸化物超微粒子の量が再帰反射素子基材100重量部に対し5〜80重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の再帰反射シート。
【請求項6】
前記再帰反射素子層の全光線透過率が90%以上であり、且つHazeが0.5以下である請求項1〜5のいずれかに記載の再帰反射シート。
【請求項7】
前記再帰反射素子層の厚みが30μm〜2mmである請求項1〜6のいずれかに記載の再帰反射シート。
【請求項8】
前記金属酸化物微粒子の屈折率が1.45〜2.90である請求項1〜7のいずれかに記載の再帰反射シート。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−249962(P2008−249962A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90751(P2007−90751)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】