説明

再生信号処理装置

【課題】 ディジタル情報記録装置のデータ転送レートの高速化に対応するためには、高速に動作する情報復号装置が必要となり、回路規模、消費電力、復号遅延の増加となってしまう。
【解決手段】 記録媒体1から得られた再生波形をA/D(アナログ・ディジタル)変換器4によってディジタル化した情報に対して、1/2位相が遅れたデータを用いてPR等化を行うPR等化器5と、そのPR等化装置におけるフィルタ係数を適応的に学習する適応等化係数算出器6と、その等化波形に対して、パスメモリからの出力結果を選別するによりパスメモリ長を削減した最尤復号を行うビタビ復号器7を用いて、再生性能を向上させながら、消費電力を低減し、復号遅延を削減したPRML情報処理装置8を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)信号処理方式を用いた再生信号処理装置において、再生波形を適応的に等化する適応等化装置および、その復号方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報記録再生用の記録媒体としてCD(Compact Disc)又はDVD(Digital Versatile Disc)が使用されている。それらの記録媒体に記録されている情報を再生する場合において、より読み取る能力の高い再生信号処理装置を要求されている。
【0003】
特にDVDは、CDに比べ記録密度が高いため、DVDの再生波形は、符号間干渉の影響を受け、再生波形が歪んでしまう。例えば、DVDは、8ビットの情報を16ビットの符号語に変調するEFM(Eight to Fourteen Modulation)変調を用いているため、基準長をTとしたとき、ピット長は3T〜11T乃至14Tとなっている。ピットの長さが正確に3T〜11T乃至14Tであることが望ましいが、例えば、記録可能なDVDの記録品質が悪い場合、ピット長が正しく形成されていないものや、再生専用のDVDにおいてもピット長が正しく形成されていないものがあるため、再生波形が歪んでしまう。さらに、高倍速でDVDの情報を読み取るために再生信号処理装置は高速にデータ処理を行う必要があるが、アナログ信号処理系である、光ピックアップ46(図11)、FEP(Front End Processor)47(図11)によって再生波形の通過に必要な周波数特性の不足による郡遅延特性の劣化によって再生信号の歪みがさらに増加する現象が発生している。
【0004】
それらの再生波形に対して単純に信号振幅のみで二値化することによってディジタルデータの「1」乃至「0」を判定してしまうと、そのピット形成が正しく形成されていない状態や、アナログ信号処理系の周波数通過帯域による郡遅延特性の劣化による再生波形の歪みによってデータの読み取り誤りを生じ、信頼性が著しく損なわれたデータとして読み出してしまい、BER(Bit Error Rate)を悪化してしまいデータの読み出しができなくなってしまう。
【0005】
そこで、近年、高い再生能力を有する再生信号処理装置としてPRML検出方式が注目されている。PRML検出方式は、HDD(Hard Disk Drive)、書き換え可能な光ディスク等の高密度記録されている記録媒体に対する信号処理方式として利用されている技術であり、波形等化技術であるパーシャルレスポンス方式と最尤復号法の一つであるビタビ復号法を組み合わせた方式で、S/N(信号対雑音)比の低い再生信号や、非線形歪みの多い再生信号から正しいデータを復号する方式である。
図11は、一般的なPRML検出方式の信号処理を行う情報再生装置の構成を示すブロック図である。記録媒体45に対して光ピックアップ46からレーザーを照射する。その反射光の強弱を検出することによって記録媒体45に記録されているデータを読み取り、アナログ電気信号に変換する。
【0006】
FEP47は、読み出された再生信号を増幅し、ゲインを調整し、高域のノイズ成分を除去し、必要な帯域を強調する処理を行う。FEP47からの出力信号は、A/D変換器48により、アナログ信号をディジタル信号に変換される。
そのディジタル信号は、PRML検出装置51におけるトランスバーサルフィルタ、又はFIR(Finite Impulse Response)フィルタにより構成される
PR等化器49に入力される。
【0007】
その等化装置について、図2に示すようなDVDの光再生特性であるMTF(Mutual Transfer Function)特性からDVDにおける信号帯域は規格化周波数における1/4以下の帯域に集中していることを利用して、図3に示すような1T(T:1チャネルビットあたりの時間)遅延する遅延器42を2つ使い2Tごとに乗算器43を挿入し、その乗算結果を加算する加算器44から構成され、低消費電力化を行っているものがある。
【0008】
一般に、MTF特性に近い周波数特性を持つPR方式ほど有利なパーシャルレスポンス方式と考えられているが、また、PR長の長いPR方式を用いた場合、ビタビ復号器25の回路規模がPR長とともに回路規模が指数関数的に増加するため、PR長の短いPR方式を用いるといったことを考慮した場合、その両方を満たすPR方式として、PR(1、2、2、1)方式と、PR(3、4、4、3)方式であるPR(a、b、b、c)がそれにあたる。
【0009】
このPR方式に最適なタップ係数を適当等化係数算出装置50(図11)によって求め、PR等化器49(図11)によって、そのタップ係数を用いて波形等化される。
その最適なタップ係数を算出する方式としてLMS(Least Mean Square)アルゴリズムがあり、そのアルゴリズムを用いた適応等化係数算出器50(図11)について説明する。
【0010】
LMSアルゴリズムは、PR等化器出力値と、その等化目標値との差である等化誤差信号の二乗値を最小にするPR等化器49(図11)のタップ係数を随時更新学習することによって算出することである。LMSアルゴリズムの一般的なタップ係数の更新式を次式に示す。
【0011】
Ci(t+1)=Ci(t)+μ×e(t)×xi(t) 式(1)
(但し、t=0、1、2、3、・・・)
式(1)においてCiは時刻tのi番目のタップ係数、Ci(t+1)は更新されたi番目のタップ係数、μはループゲイン、e(t)は時刻tにおける等化誤差、xi(t)はi番目に対するFIRフィルタの入力値を示していて、i番目に対する等化誤差e(t)とFIRフィルタの入力値xiを積算したものをLMSアルゴリズムにおける相関値という。
【0012】
そのPR等化器49(図11)によって意図的に与えられた波形干渉を利用した復号方式であり、PR方式によって推定される値とビタビ復号器入力信号の差が小さくなるような符号系列を復号していく最尤復号法のひとつであるビタビ復号法を行い記録媒体に記録されているディジタルデータを復号することができる。
【0013】
図6に一般的なビタビ復号器25の構成を示す。ビタビ復号器は、PR等化器出力信号とPR方式から推定される推定値によって尤度情報を算出するブランチメトリック26と、パスメトリック27(ACS:Add Compare Select)によってレジスタ28で保存している一時刻前の尤度情報と前記ブランチメトリックの出力から尤度の高い情報系列を判別していき、その判別された情報から最も尤度情報が高いと考えられるパスを選別するためパスメモリ29と、そのパスメモリの出力結果からさらに尤度の高い情報を選択する出力選択器から構成されている。
【0014】
ここで、DVDに用いられているEFM変調方式の特徴である同じ符号が3つ以上連続するといった特徴とPR(a、b、b、a)方式に限定したビタビ復号器について説明す
る。その前記ビタビ復号器における状態遷移を図7に示す。この図において、EFM変調方式の特徴である同じ符号が3つ以上連続することから状態はS0〜S5の6状態に分けることができ、状態Siから状態Sjに遷移するパスを示し、それぞれのパスにおける推定値を次式によって求める。
【0015】
推定値=a×ck+b×ck−1+b×ck−2+a×ck−3 式(2)
式(2)におけるa、bはPR(a、b、b、a)方式のa、bを示し、ck、ck−1、ck−2、ck−3は時刻k、k−1、k−2、k−3における記録系列cを示している。
【0016】
このビタビ復号器における状態遷移を図にしたものが、図8に示すトレリス線図となる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−123487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、従来のPRML検出装置において、高倍速再生に対応するためには、PR等化器、適応等化係数算出器及びビタビ復号器を高速に動作させる必要がある。
その高速に動作さ対応させるためには、PR等化器、適応等化係数算出器及びビタビ復号器におけるさまざまな演算に対してパイプライン処理や並列処理を行う必要があるが、その処理を行うことによって回路規模が増加し、消費電力も増加してしまう。
さらに、パイプライン処理や並列処理に伴って、光ピックアップから信号を得て、復号結果を求めるまでの時間が増加してしまう。
【0018】
その回路規模を減少させる手法として、図2のMTF特性を考慮したPR等化器(図3)があるが、図2に示すPR(1、2、2、1)方式、又はPR(3、4、4、3)方式は1/4以上の帯域を使用しているのに対して、回路規模を優先してしまい1/4以下の帯域の信号を制御するような構成になっているため等化目標であるPR方式に対して、取り扱う周波数帯域のミスマッチのために、十分な波形等化を行いにくく、そのPR等化器のタップ係数を自動的に学習する適応等化係数算出器50(図11)においても不安定な制御になってしまう。そのため、PRML検出装置が不安定な状態になってしまいPRML検出装置51(図11)の特性劣化を招いている。
【0019】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、記録媒体1(図1)に記録されているディジタルデータを読み取る手段として、回路規模及び消費電力を抑え、かつ、出力遅延を減少させながら再生性能を向上させることが可能となるPRML検出装置5(図1)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するために、本発明のPRML検出装置は、同じ符号が3つ以上連続する制約を有する記録符号によりディジタル記録されている記録媒体からディジタルデータを復調する手段として、チャネルビットの規格化周波数の1/3を制御するためのFIR(Finite Impulse Response)フィルタにより構成されるPR等化器と、前記PR等化器のタップ係数を適応的に学習する適応等化係数算出器と、前記PR等化器の出力結果を復号する際に、出力遅延を可変する機能を有するビタビ復号器によって最尤復号を行うことを特徴とするもとのである。
【0021】
さらに、入力信号を1T(T:1チャネルビットあたりの時間)遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続されたN個の遅延器と、入力信号に対して1/2位相が遅れた信号を1T遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続されたM個の遅延器と、N個の第一の遅延器とM
個の第二の遅延器に2Tごとに乗算器を有し外部から入力可能な複数のタップ係数と乗算を行い、前記乗算器の出力を加算する加算器から構成されることを特徴とするものである。
【0022】
さらに、A/D変換器においてチャネルレートによるサンプリングさせたデータおいて1/2位相が後れた信号を生成する補間器を有し、前記補間器の出力を、前記1/2位相が遅れた信号を1T遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続されたM個の遅延器に入力することを特徴とするものである。
【0023】
さらに、PRML検出装置におけるPR等化器において、A/D変換器においてチャネルレートの2倍のクロックでサンプリングされたデータにおいて、1/2位相が遅れた信号を、前記1/2位相が遅れた信号を1Tずつ遅延する遅延素子に入力することを特徴とするものである。
【0024】
さらに、前記PR等化器において、PR等化器において、A/D変換器においてチャネルレートの2倍のクロックでサンプリングされたデータにおいて、1/2位相が遅れた信号を、前記1/2位相が遅れた信号を1Tずつ遅延する遅延素子に入力することを特徴とするものである。
【0025】
さらに、PRML検出装置における補間器において、A/D変換器において、サンプリングされたデータと、その1T前にサンプリングされたデータから直線補間することで1/2位相が遅れた信号を生成することを特徴とするものである。
【0026】
さらに、PRML検出装置におけるPR等化器において、前記補間器から出力される1/2位相が後れた信号と、A/D変換器においてチャネルレートの2倍でサンプリングにより得られる1/2位相が後れた信号とを外部制御によって可変することを特徴とするものである。
【0027】
さらに、PRML検出装置における適応等化係数算出器において、前記PR等化器の出力と等化目標値との差から求めた等化誤差と前記PR等化器の入力波形との相関値を求める相関演算器において、等化誤差の情報における符号情報と前記PR等化器の入力波形の符号情報から相関値の符号情報を求め、相関値の大きさは、前記PR等化器の入力波形のデータを用いることを特徴とするものである。
【0028】
さらに、PRML検出装置における適応等化係数算出器において、前記相関演算器の出力において、ゲインを可変する機能を有するルールフィルタゲイン設定器と、前記ループフィルタゲイン設定器の出力を積分する積分器を行うことを特徴とするものである。
さらに、請求項1に記載のPRML検出装置におけるビタビ復号器において、ブランチメトリック演算器と、パスメトリック演算器と、パスメモリと、復号結果選択器から構成され、前記復号結果選択器において、前記パスメモリの出力を二つ毎の組に分けて、前記各組において、一致した場合は、前記パスメモリの出力を復号結果の候補として残し、また、一致しない場合は、その組における前記パスメモリの出力は復号結果の候補から除外し、前記復号結果の候補として残った組に対して二つの組毎に分けて前期操作を行い、前記操作を一組になるまで行い、その一組をビタビ復号器の復号結果として出力する機能を有することを特徴とするものである。
【0029】
さらに、PRML検出装置におけるビタビ復号器において、パスメメモリ長を外部制御によって可変することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係わるPRML検出装置によれば、規格化周波数の1/3を制御するためのFIRフィルタにより構成されるPR等化器により、MTF特性と等化目標であるPR特性に対して安定的な等化特性を得ることが可能となる。
【0031】
また、本発明に係わるPRML検出装置によれば、1T遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続されたN個の遅延器と、入力信号に対して1/2位相が遅れた信号を1T遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続されたM個の遅延器と、N個の第一の遅延器とM個の第二の遅延器に2Tごとに乗算器を有し外部から入力可能な複数のタップ係数と乗算を行い、前記乗算器の出力を加算する加算器から構成されているため、乗算器を少ない増加分で安定的なPR等化器を実現することが可能となる。
【0032】
また、本発明に係わるPRML検出装置によれば、チャネルレートサンプリングされたデータによって、1/2位相が遅れた信号を生成する補間器を用いて生成するため、チャネルレートサンプリングされたデータに対して1/2位相が送れたデータを生成することが可能となる。
【0033】
また、本発明に係わるPRML検出装置によれば、チャネルレートの2倍のクロックでサンプリングされたデータにおける1/2位相が遅れた信号をPR等化器に入力するためPR等化器による等化特性を安定させることができる。
【0034】
また、本発明に係わるPRML検出装置によれば、チャネルレートサンプリングされたデータに対しても1/2位相が遅れた信号を直線補間によって簡易的に算出するため、回路規模を抑えることができる。
【0035】
また、本発明に係わるPRML検出装置によれば、A/D変換器においてサンプリングモードをチャネルレートサンプリングと2倍のチャネルレートサンプリングで切り替えることで、サンプリングが早い場合は、チャネルレートサンプリングで補間器を用いて1/2位相が遅れたデータを生成し、遅い倍速では2倍のチャネルレートサンプリングで1/2位相が遅れたデータを生成することでより倍速に応じてPR等化器を使い分けることが可能となる。
【0036】
また、本発明に係わるPRML検出装置によれば、直線補間による補間器によって1/2位相が遅れたデータを生成することによって、回路規模を抑えたPR等化を行うことが可能となる。
【0037】
また、本発明のPRML検出装置において、PR等化器のタップ係数を適応的に算出する場合に、相関演算器において、等化誤差の情報における符号情報と前記PR等化器の入力波形の符号情報から相関値の符号情報を求め、相関値の大きさは、前記PR等化器の入力波形のデータを用いることによって、乗算器を用いないため回路削減が可能となる。
【0038】
また、本発明のPRML検出装置において、パスメモリからの出力を2つ毎の組に分けて一致確認を行うことによって、復号結果を選択することにより、回路規模を抑えた方法によってビタビ復号器の復号結果の信頼度を向上することが可能となる。
【0039】
また、本発明のPRML検出装置において、パスメモリ長を外部制御に可変することによって復号遅延を削減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0041】
(実施の形態1)
本実施の形態によるPRML検出装置は、チャネルビットの規格化周波数の1/3の信号帯域を制御するためのPR等化器や、回路規模、消費電力を削減した適応等化係数算出器や、出力遅延を可変することができるビタビ復号器を用いることによって高倍速動作に対応したものである。
【0042】
図1は、本実施の形態に係わるPRML検出装置の構成を示すブロック図である。図において、1は記録媒体、2は光ピックアップ、3は読み出された再生信号を増幅し、ゲインを調整し、高域のノイズ成分を除去し、必要な帯域を強調する処理を行うFEP、4はアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換器、5はA/D変換されたディジタル信号をPR方式に波形等化するPR等化器、6はPR等化器5におけるタップ係数を自動学習することによって算出する適応等化係数算出器、7は前記PR等化器の出力信号に対して最尤復号を行うビタビ復号器である。
【0043】
図1に示すPR等化器5は、A/D変換によってFEP3から出力されたアナログ信号をディジタル変換された信号に対して、各PR方式に適応したフィルタ係数を適応等化係数算出器6によって算出し、そのフィルタ係数を用いて波形等化するためのものである。PR等化器として一般的に用いられているFIRフィルタは、1Tの遅延素子が直列に接続され、前記遅延素子1つに対して1つの乗算器を挿入し、前記乗算器の出力を加算する加算器から構成される。しかし、FEP3における郡遅延劣化を補正するためには、できるだけ長い時間幅を持つFIRフィルタを構成しなければならない。
しかし、長い時間幅のFIRフィルタを構成した場合、1Tの遅延素子1つに対して1つの乗算器を用いた場合は、回路規模が増大してしまう。
【0044】
そこで、図2に示すようなDVDの光再生特性であるMTF特性において、DVDにおける信号帯域は規格化周波数における1/4以下の帯域に集中しているという特徴を利用して、図3に示すような1T遅延する遅延器42を二つ使い、2Tごとに乗算器43を挿入し、その乗算器出力を加算する加算器44から構成されるようなPR等化器49を用いて、回路規模を抑え、低消費電力化を行っているものがある。
【0045】
しかし、上記PR等化装置49は回路規模を優先してしまい、等化目標であるPR方式、例えば、図2に示すような、PR(1、2、2、1)方式やPR(3、4、4、3)方式のように、図3のような構成のPR等化器49では、周波数特性が1/4以上の帯域の信号を制御できない構成になっているため、等化目標であるPR(1、2、2、1)方式やPR(3、4、4、3)方式に対して、取り扱う周波数帯域のミスマッチのために、十分な波形等化を行うことは難しくなる。さらに、そのPR等化装置49のタップ係数を自働的に算出する適応等化係数算出器においても、その周波数帯域のミスマッチの影響によって、動作が不安定になってしまう。
【0046】
そこで、以上の理由から本実施の形態におけるPR等化器5を図4のように構成する。このPR等化器5は、A/D変換によってサンプリングされたPR等化器入力信号が、1T遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続された遅延器10と、入力信号に対して1/2位相の遅れた信号を1T遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続された遅延器11と、それぞれ2Tごとに乗算器15を挿入し外部から入力可能な複数の係数と乗算を行い、その乗算器15の出力を加算する加算器16から構成されている。このPR等化器5によって制御可能な周波数範囲が1/3となる。
【0047】
したかって、PR等化器5によって制御可能な周波数範囲が1/3と拡張されたため、MTF特性の低域に信号成分が集中している部分と、PR(1、2、2、1)方式や、PR(3、4、4、3)方式における出力ゲインが最初にゼロになる点の周波数帯域から、
より安定した波形等化特性を得ることができると考えられる。また、PR方式としては、PR(1、2、2、1)方式やPR(3、4、4、3)方式のようなPR(a、b、b、a)方式や、これら以外のPR方式でも良い。
【0048】
また、例えば、14Tの時間幅を制御できるPR等化器について、回路規模に多きく影響する乗算器の数を比較した場合、一般的な1Tの遅延素子1つに対して1つの乗算器を用いた場合は14個必要で、1T遅延する遅延器42を二つ使い2Tごとに乗算器43を挿入した場合は7個必要となり、本発明におけるPR等化器5は、乗算器が9個で14Tの時間幅を制御できるため、回路規模の増加を抑えて、且つ安定したPR等化特性を得ることが可能となる。
【0049】
ここで、PR等化器5において、1/2位相が遅れた信号は、A/D変換器4によってチャネルクロックでサンプリングされたデータと、その1T前にサンプリングされたデータを用いて補間器12で直線補間することによって生成される。
【0050】
また、1/2位相が遅れた信号を生成する手段として、補間器12を使用しないで、A/D変換器4においてチャネルクロックの2倍でサンプリングすることによって、1/2位相が遅れたデータを生成し、そのデータを遅延器11に入力する方法も考えられ、実際サンプリングしたデータを用いることによって、直線補間によって算出した場合よりもよい等化特性を得ることが可能であると考えられる。
【0051】
また、1/2位相が遅れた信号を生成する手法として、補間器12で直線補間によって生成する方法と、A/D変換器4において実際にサンプリングされたデータを用いる方法の両方を備えるPR等化器5で、それをレジスタ14などの外部制御によってセレクタ13の切り替え及び、A/D変換器4の動作を切り替えることが可能なPR等化器5も考えられる。
【0052】
次に、適応等化係数算出器6について説明する。適応等化係数算出器は、PR等化器5によって等化目標である等化目標であるPR方式に波形等化するために必要なタップ係数を算出する装置である。そのタップ係数を算出する手法としてLMSアルゴリズムを使用している。LMSアルゴリズムは、PR等化器出力値と、その等化目標値との差である等化誤差の二乗値を最小にするのタップ係数を自動的に随時更新学習することによって算出する方法である。
【0053】
図5に本実施形態である適応等化係数算出器6を示し、その適応等化係数算出器6について説明する。適応等化係数算出器6は、レジスタ21による外部制御によって設定可能なPR方式の等化目標値20と、PR等化器出力信号からレベル判別によって二値化信号を生成する仮二値化判定器18から、PR等化器5の出力信号に対する等化目標値を選択し、その等化目標値とPR等化器5の出力信号から等化誤差を求める。一般的にその等化誤差とPR等化器入力信号を乗算することによって相関値を算出する相関演算器22によって、タップ係数を更新する基準となる信号を生成する。その相関値にループフィルタのゲインを設定するループフィルタゲイン設定23があり、そのループフィルタゲイン設定23の出力値を積分する積分器24がある。
【0054】
しかし、一般的な形式の適応等化係数算出器50では、相関値を求める相関演算器において、タップ数の数だけ乗算器が存在しているため、算出するタップ数によっては乗算器の数が多くなり、回路規模の増大を招いてしまう。
【0055】
そこで、本発明における適応等化係数算出器6は、等化誤差信号の符号情報とPR等化器入力信号の符号情報から相関値の符号情報を得て、相関値における値の大きさについて
はPR等化器入力信号の振幅情報を用いて算出する。これによって従来の適応等化係数算出器50では、タップ数の数だけ存在した乗算器がすべて不要となり、回路規模の削減及び、演算時間の短縮といった効果がある。
【0056】
したがって、PR等化器5において乗算器は増加したが、適応等化係数算出装置6においてフィルタ係数を更新させるための相関値を求める乗算器が不要になるため、全体では回路規模の削減が可能となり、また、安定的なPR等化特性を得ることができ、且つ、PRML検出器としての性能の向上も可能となる。
【0057】
次に、最尤復号法の一つであるビタビ復号器7について説明する。これは、PR等化器5によって、PR(1、2、2、1)方式又はPR(3、4、4、3)方式のようなPR(a、b、b、a)方式に波形等化された波形に対するビタビ復号器を例として紹介する。
ビタビ復号器7は、一般的に図6に示す構成となり、PR等化器出力信号とPR方式から推定される推定値によって尤度情報を算出するブランチメトリック26と、パスメトリック27によってレジスタ28で保存している一時刻前の尤度情報と前記ブランチメトリックの出力から尤度の高い情報系列を判別していき、その判別情報から最も確からしい、即ち、尤度情報が高いと考えられる復号結果を判別するためのパスメモリ29と、そのパスメモリ29の出力結果から復号結果を選択する出力選択器30から構成されている。
【0058】
ここで、PR(a、b、b、a)方式に対するビタビ復号器は、状態数が8状態で枝の数が16本となるが、同じ符号が3つ以上連続する記録系列を持つ符号語を用いている場合は、存在しない状態と枝を削除することができ、図7で示すようなS0〜S5の6状態とそれに対する枝が8本となる。そして、ビタビ復号器において、最も確からしい系列を求めるために、ある程度の過去の情報を蓄積して、その蓄積した情報をもとに復号結果を得ている。その過去の情報を蓄積する手段として、図7で示されるS0〜S5の6つの状態に対応したパスメモリ29がある。そのパスメモリ29は図9で示すような、パスメトリック27でパスを選択するパス選択SEL0、SEL1によってセレクタ33を制御し、パスメモリの内容を記憶するFF(Flip Flop)32の値を随時更新していくことによって復号系列を算出する。
【0059】
パスメモリ29において、その6状態のパスメモリ29の出力がすべて一致した場合は、マージ状態と呼ばれ、どれを選択しても同じ結果となるが、もしパスメモリ29の出力が異なる場合はノーマージ状態と呼ばれ、どの状態のパスメモリの出力を復号結果とすることによって値が異なってしまう。
【0060】
そこで、復号結果を補償する手段として、ノーマージ状態を発生しにくくするために、さらに長いパスメモリをもつものを用いることも考えられるが、復号遅延が増加してしまい、さらに回路希望も増加してしまう。
【0061】
また、その他に、ノーマージが発生した場合においても、尤度の高い復号結果を選択する方式として、6つの状態に対応したパスメトリックにおいて、最も小さいパスメトリックの値を持つ状態におけるパスメモリ29からの出力を復号結果として選択するような方式があるが、それぞれの状態においてパスメトリックを大小比較し、その中かで最も小さいパスメトリックがどれであるかを求める必要があるが、例で示す6状態よりさらに状態数の多いビタビ復号器においては、その演算に必要な回路が増加してしまう。
【0062】
そこで、そのノーマージが発生した場合においても、回路規模を抑えたかたちで尤度の高い復号結果を選択する方法を図10に示す。6つの状態から2つの組毎に状態を分けて、一致検出器1〜3(27〜29)のそれぞれにおいて「1」又は「0」が一致した場合
は、そのパスメモリの出力を復号結果の候補として残し、また、一致しない場合は、その組における前記パスメモリの出力は復号結果の候補から除外する。そして、一致検出器4(30)、一致検出器5(31)で一組になるまで行い、その残った組に対する状態のパスメモリ出力値を復号結果として選択する。
【0063】
これを用いることで、単純な方法によって復号結果を選別することができパスメモリ長が短い場合においてノーマージが発生した場合においても、より正しい復号結果を得ることが可能となる。また、この方式は、状態数が多いビタビ復号器においても回路規模の増加が少ないため有効である。
【0064】
また、ビタビ復号器に入力される信号が生成されるまでの信号処理方式が異なり、ビタビ復号器に入力するまでの演算遅延が異なった場合においても、パスメモリ長を上記手法によって可変してもビタビ復号器における性能劣化がないため、そのパスメモリの長さの切り替えを外部レジスタによって制御することによって、ビタビ復号器に入力するまでの演算遅延が異なった場合においても、ピックアップから復号結果を求めるまでの復号遅延を同じにすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係るPRML検出装置は、記録媒体の高密度化及び高倍速化に伴う再生波形の歪みを低減し、かつ、回路規模及び消費電力を削減するために、回路規模を抑えながら再生性能を向上させる機能を有するPR等化器と適応等化係数算出器と、復号遅延を可変可能なビタビ復号器から構成され、高倍速におけるDVD再生に対するPRML検出装置として有用である。また、Blu−rayディスク等の次世代の高密度記録された光ディスクの再生波形に対するPRML検出装置の用途にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明におけるPRML検出方式の信号処理を行うPRML検出装置の構成を示すブロック図
【図2】各種PR方式の周波数特性とMTF特性を示す図
【図3】従来のPR等化器の構成を示すブロック図
【図4】本発明におけるFIR型のPR等化器を示す図
【図5】本発明におけるLMSアルゴリズムを用いた適応等化係数算出器を示す図
【図6】一般的なビタビ復号器の構成を示す図
【図7】EFM変調された符号語に対するPR(a、b、b、a)方式におけるビタビ復号器の状態遷移を示す図
【図8】EFM変調された符号語に対するPR(a、b、b、a)方式におけるビタビ復号器のメトリックを示す図
【図9】EFM変調された符号語に対するPR(a、b、b、a)方式におけるビタビ復号器のパスメモリを示す図
【図10】本発明におけるパスメモリの出力選択機能を示す図
【図11】一般的なPRML検出方式の信号処理を行う情報再生装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0067】
1、45 記録媒体
2、46 光ピックアップ
3、47 FEP
4、48 A/D変換器
5 PR等化器
6 適応等化係数算出器
7 ビタビ復号器
8 PRML検出装置
9 PR等化器
10 2T間隔の遅延素子
11 1/2位相が遅れたデータ用2T間隔の遅延素子
12 補間器
13 チャネルサンプリング、2倍サンプリング用入力切り替え装置
14 チャネルサンプリング、2倍サンプリング外部切り替え装置
15、43 乗算器
16、44 加算器
17 適応等化係数算出器
18 仮二値化判定器
19 等化誤差演算器
20 等化目標値
21 等化目標値外部制御装置
22 相関演算器
23 ループゲイン設定器
24 積分器
25 ビタビ復号器
26 ブランチメトリック
27 パスメトリック
28 パスメトリックの遅延器
29 パスメモリ
30 パスメモリ出力選択器
31 パスメモリ初期値
32 パスメモリ内部のFF
33 パス選択用の選択器
34 復号結果選択器
35 パスメモリ
36 復号結果選択器
37 一致検出器1
38 一致検出器2
39 一致検出器3
40 一致検出器4
41 一致検出器5
42 1T遅延素子



【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ符号が3つ以上連続する制約を有する記録符号によりディジタル記録されている記録媒体からディジタルデータを復調する手段として、チャネルビットの規格化周波数の1/3を制御するためのFIR(Finite Impulse Response)フィルタにより構成されるPR等化器と、前記PR等化器のタップ係数を適応的に学習する適応等化係数算出器と、前記PR等化器の出力結果を復号する際に、出力遅延を可変する機能を有するビタビ復号器によって最尤復号を行うことを特徴とするPRML検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のPRML検出装置におけるPR等化装置において、入力信号を1T(T:1チャネルビットあたりの時間)遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続されたN個の遅延器と、入力信号に対して1/2位相が遅れた信号を1T遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続されたM個の遅延器と、N個の第一の遅延器とM個の第二の遅延器に2Tごとに乗算器を有し外部から入力可能な複数のタップ係数と乗算を行い、前記乗算器の出力を加算する加算器から構成されることを特徴とするPRML等化装置。
【請求項3】
請求項2に記載のPRML検出装置におけるPR等化器において、A/D変換器においてチャネルレートによるサンプリングさせたデータおいて1/2位相が後れた信号を生成する補間器を有し、前記補間器の出力を、前記1/2位相が遅れた信号を1T遅延する遅延素子を2個ずつ直列に接続されたM個の遅延器に入力することを特徴とするPRML検出装置。
【請求項4】
請求項2に記載のPRML検出装置におけるPR等化器において、A/D変換器においてチャネルレートの2倍のクロックでサンプリングされたデータにおいて、1/2位相が遅れた信号を、前記1/2位相が遅れた信号を1Tずつ遅延する遅延素子に入力することを特徴とするPRML検出装置。
【請求項5】
請求項3に記載のPRML検出装置における補間器において、A/D変換器において、サンプリングされたデータと、その1T前にサンプリングされたデータから直線補間することで1/2位相が遅れた信号を生成することを特徴とするPRML検出装置。
【請求項6】
請求項2に記載のPRML検出装置におけるPR等化器において、前記補間器から出力される1/2位相が後れた信号と、A/D変換器においてチャネルレートの2倍でサンプリングにより得られる1/2位相が後れた信号とを外部制御によって可変することを特徴とするPRML検出装置。
【請求項7】
請求項2に記載のPRML検出装置における適応等化係数算出器において、前記PR等化器の出力と等化目標値との差から求めた等化誤差と前記PR等化器の入力波形との相関値を求める相関演算器において、等化誤差の情報における符号情報と前記PR等化器の入力波形の符号情報から相関値の符号情報を求め、相関値の大きさは、前記PR等化器の入力波形のデータを用いることを特徴とするPRML検出装置。
【請求項8】
請求項7に記載のPRML検出装置における適応等化係数算出器において、前記相関演算器の出力において、ゲインを可変する機能を有するルールフィルタゲイン設定器と、前記ループフィルタゲイン設定器の出力を積分する積分器を行うことを特徴とするPRML検出装置。
【請求項9】
請求項1に記載のPRML検出装置におけるビタビ復号器において、ブランチメトリック演算器と、パスメトリック演算器と、パスメモリと、復号結果選択器から構成され、前記復号結果選択器において、前記パスメモリの出力を二つ毎の組に分けて、前記各組におい
て、一致した場合は、前記パスメモリの出力を復号結果の候補として残し、また、一致しない場合は、その組における前記パスメモリの出力は復号結果の候補から除外し、前記復号結果の候補として残った組に対して2つの組毎に分けて前期操作を行い、前記操作を一組になるまで行い、その一組をビタビ復号器の復号結果として出力する機能を有することを特徴とするPRML検出装置。
【請求項10】
請求項9に記載のPRML検出装置におけるビタビ復号器において、パスメメモリ長を外部制御によって可変することを特徴とするPRML検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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