説明

再生式軟水化装置

【課題】発生したガスが下流に流れないように電力を用いずにイオン交換による軟水化処理を行い、再生時は電圧印加で硬度成分を脱離する水分解イオン交換膜において、再生性能を保ちながら吸着容量を増やすことで、再生後の軟水化性能を向上させる。
【解決手段】水分解イオン交換膜1において厚みの異なる多孔質陽イオン交換膜2と陰イオン交換膜5を加熱処理などにより貼り合せ水分解イオン交換膜1を得る。多孔質陽イオン交換膜2を陰イオン交換膜5より厚くすることにより、膜の体積あたりの硬度成分イオンの吸着容量を増やす。一方で、水分解イオン交換膜1が水を乖離して再生するための膜界面、つまり陽イオン交換樹脂粒子3と陰イオン交換樹脂粒子6の接点を形成する。なお、厚みの比率として陽イオン交換膜2層は陰イオン交換膜5層の2倍以上、望ましくは3倍以上が望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟水処理された水を使用者に提供すること、あるいは機器の配管内のスケール生成を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、薬剤を使用せずに電気再生による軟水化技術として、水分解イオン交換膜を用いた脱イオン技術がある。(特許文献1参照)
図6は、従来の水分解イオン交換膜を用いた脱イオン装置の構成図を示すものである。
【0003】
図6において、脱イオン装置28は、ハウジング29内に水分解膜100が前記ハウジング29内の電極40と45の間におかれる。それぞれの水分解膜100は、隣り合い接触している陽イオン交換面105及び陰イオン交換面110の組合せを少なくとも1つ含む。前記水分解膜100は、膜の陽イオン交換面が第1の電極40に対面し、膜の陰イオン交換面が第2の電極45に対面するように、ハウジング29内に配置されている。
【0004】
ここで、水分解膜100は、同質あるいは異質イオン交換膜が得られる方法によって作製されている。
【0005】
同質膜作成の代表的方法は、ガラス板の間に混合モノマーを流し込み、モノマーまたは溶剤の蒸発に注意しながら加熱硬化することである。そして、イオン交換樹脂と同様に官能基を修飾している。水分解膜は、硬化層の上に第2の混合モノマーを流し込み続いて2つの層の官能基修飾を段階的に行うことにより作成することができる。
【0006】
また、異質水分解イオン交換膜は、イオン交換樹脂とポリエチレン等の熱可塑性ポリマーの溶融混合により作製される方法である。例えば練りロール機あるいは混練押出機を用いる方法が採用されている。それぞれのイオン交換材の薄いシートが、例えば圧縮成形または押出成形により形成され、水分解膜が2枚ないしそれ以上の層から同じ方法により形成されている。
【0007】
上記のような脱イオン装置28について、以下その動作を説明する。
【0008】
脱イオン工程において、陽イオン交換面105に面している第1の電極40が陽極として、陰イオン交換面110に面している第2の電極45が陰極として荷電される。
【0009】
そして、入口30から導入された原水中の陽イオンであるカルシウムイオン等が陰極である電極45に向かって移動し水分解膜100の陽イオン交換面105に吸着して、陽イオン交換面105内でイオン交換して除去される。一方、原水中の陰イオンである塩素イオン等が陽極である電極40に向かって移動し水分解膜100の陰イオン交換面110に吸着して、陰イオン交換面110内でイオン交換して除去される。こうして、脱イオンされた処理水が出口35から流出する。
【0010】
脱イオンにより水分解膜100が飽和状態に近づくと、初期状態に戻す為に再生工程が行われる。
【0011】
再生工程において、ハウジング29内には脱イオン工程と同じように、原水が入口30から導入され、第1の電極40と第2の電極45は極性が逆転され、電極40が陰極、電極45が陽極となる。そして、水分解膜100の陽イオン交換面105と陰イオン交換面
110の界面で水解離により水素イオンと水酸化物イオンが生成する。生成した水素イオンは陰極である電極40に向かって移動し陽イオン交換面105内でカルシウムイオンとイオン交換される。一方、水酸化物イオンは陽極である電極45に向かって移動し陰イオン交換面内110内の塩素イオンとイオン交換される。こうして、電極間に逆電圧を印加して水分解膜100の界面における水解離によって水分解膜100は再生され、再生時に生成した塩化カルシウムは出口35から排出される。
【0012】
このように、薬剤を使わずに電気により軟水化処理及び再生を行う脱イオン装置が従来提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4044148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に示した前記従来の構成では、水分解膜100はイオン交換樹脂と熱可塑性ポリマーを溶融混合して混錬押し出し成型されるか、あるいはガラス板の間に混合モノマーを流し込み、モノマーを加熱硬化した後官能基を修飾して作製されていることから、膜内部は比較的緻密な構造である。この為、再生時の電圧印加による水分解膜界面での水解離が起き易いので水分解膜の再生は効率良く行われる。しかし、脱イオン工程においては、膜内部が緻密な構造である為、原水中のイオン成分が膜内部に拡散し難いので、脱イオン処理の効率が低い。この為、電圧印加により膜内部へ積極的にイオン成分を拡散して処理効率を維持しており再生工程以外に脱イオン処理時も電力消費を伴うという課題や、電圧印加により処理水には水の電気分解により電極40、45から生成する水素あるいは酸素が混入し、脱イオン装置の下流側に設置される機器内にガスが蓄積してしまうので機器の安全性に問題が生じるという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するためには、脱イオン処理工程いわゆる軟水化工程において電圧を印加して膜の内部にイオン成分を誘引しなくてもよい構成にし、効率よく大量のイオン成分を吸着する必要がある。
【0016】
そのため本発明の再生式軟水装置では、ケーシングの内部に少なくとも一対の電極と、陽イオン交換面と陰イオン交換面を有した水分解イオン交換膜を備え、前記電極の陽極側に陰イオン交換面が対向するように前記電極間に前記水分解イオン交換膜を配設した再生式軟水装置であって、前記水分解イオン交換膜において陽イオン交換層が陰イオン交換層より膜の厚みが厚い構成であるものである。
【0017】
これによって、単位体積あたりにおけるようイオン交換樹脂を含む陽イオン交換層の体積が増え、これにより陽イオン交換容量が増える。そのため、現水中の硬度成分であるカルシウムイオンやマグネシウムイオンが効率よく吸着できるようになり、イオン成分をイオン交換によって吸着できるため、脱イオン処理工程で電圧を印加する必要がなくなり、装置の下流側に設置される機器内にガスが蓄積してしまうことを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0018】
薬剤を使わずにメンテナンスフリーで軟水化することができ、かつ電気分解によって生成したガスがシステム内に滞留することを防止し安全性を向上することができる電気再生式軟水化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1における水分解イオン交換膜の概略図
【図2】本発明の実施の形態1における軟水化装置の概略図
【図3】本発明の実施例1における通水評価容器の概略図
【図4】本発明の実施例1および比較例1の水分解イオン交換膜の処理硬度および吸着容量の差を示すグラフ
【図5】本発明の実施例1における再生評価装置の概略図
【図6】従来の軟水化装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の発明は、ケーシングの内部に少なくとも一対の電極と、陽イオン交換面と陰イオン交換面を有した水分解イオン交換膜を備え、前記電極の陽極側に陰イオン交換面が対向するように前記電極間に前記水分解イオン交換膜を配設した電気再生式の軟水化装置である。そして前記水分解イオン交換膜は、陽イオン交換層が陰イオン交換層より膜の厚みが厚いことにより、体積あたりの陽イオン交換層の体積を増やし、それによって陽イオン交換容量を相対的に増加させ、よって、従来よりも処理水中の硬度成分であるカルシウムイオンやマグネシウムイオンの吸着容量および接触効率が向上することで、軟水処理能力が向上した軟水化装置である。単位体積あたりの吸着容量および硬度成分との接触効率が向上することにより、電圧を印加することによって陽イオン交換樹脂層内に硬度成分イオンを誘引する必要がなくなり、軟水処理中に電気分解が起きないため得られる軟水にガスが混入しない軟水を得ることができ、装置下流へのガス溜りなどの危険を回避でき安全性を向上させることができる。
【0021】
本発明の第2の発明は、特に第1の発明の水分解イオン交換膜の陽イオン交換層は少なくとも陽イオン交換樹脂粒子と熱可塑性樹脂粒子を熱可塑性樹脂粒子の融点温度で焼結してなる焼結膜である再生式軟水化装置であり、陽イオン交換樹脂粒子と熱可塑性樹脂粒子とを均一に混合し、かつ膜状に成形し、これを熱可塑性樹脂粒子の融点温度まで加熱し、その後冷却することで熱可塑性樹脂の粒子形状を保ちながら熱可塑性粒子同士また、熱可塑性樹脂と陽イオン交換樹脂粒子とが接着して一定の空間を保ちながら膜状に保形される。これにより、一定の通水性を有した多孔質上の陽イオン交換膜を作成することができ、これを陰イオン交換膜と張り合わせることによって前記の陽イオン交換層と陰イオン交換層からなる水分解イオン交換膜を成形する。陽イオン交換層が多孔質となることにより、陽イオン交換層内部まで硬度成分を含む処理水が浸透しやすくなるため、硬度成分との接触効率が向上し、軟水処理能力が向上した軟水化装置を提供できる。さらに単位体積あたりの吸着容量および硬度成分との接触効率が向上することにより、電圧を印加することによって陽イオン交換樹脂層内に硬度成分イオンを誘引する必要がなくなり、軟水処理中に電気分解が起きないため得られる軟水にガスが混入しない軟水を得ることができ、装置下流へのガス溜りなどの危険を回避でき安全性を向上させることができる。
【0022】
本発明の第3の発明は、前記多孔質陽イオン交換膜に対し陰イオン交換層を接着するために、陰イオン交換層を加熱しながら加圧して膜層表面同士を張り合わせて作成する前記の水分解イオン交換膜を搭載した再生式軟水化装置である。
たとえば、前記陰イオン交換層は熱可塑性樹脂粒子と陰イオン交換樹脂粒子とで作成され、このとき前記多孔質陽イオン交換膜で使用した粒子径よりも細かい粒子を使用することで陰イオン交換層を陽イオン交換層より薄い膜として作成する。そして少なくとも陰イオン交換層もしくは陽イオン交換層の熱可塑性樹脂が溶融する温度で加熱しながら陰イオン交換層と陽イオン交換層を加熱して張り合わせる。接着する際に、加熱し、接着性能ある熱可塑性樹脂粒子を溶融することによって接着力が向上し、陽イオン交換層と陰イオン交換層を強固に張り合わせることができ、電気再生を行う際に、陽イオン交換層と陰イオン交換層の界面において水が乖離しやすく、再生効率が向上する。また、強固に接着するこ
とにより耐久性も向上する。また、陰イオン交換樹脂の薄膜を陽イオン交換樹脂の多孔膜に貼り付けることにより、体積あたりの陽イオン交換層の体積を増やし、それによって陽イオン交換容量を相対的に増加させ、よって、従来よりも処理水中の硬度成分であるカルシウムイオンやマグネシウムイオンの吸着容量および接触効率が向上することで、軟水処理能力が向上した軟水化装置である。単位体積あたりの吸着容量および硬度成分との接触効率が向上することにより、電圧を印加することによって陽イオン交換樹脂層内に硬度成分イオンを誘引する必要がなくなり、軟水処理中に電気分解が起きないため得られる軟水にガスが混入しない軟水を得ることができ、装置下流へのガス溜りなどの危険を回避でき安全性を向上させることができる。
【0023】
再生工程では前記水分解イオン交換膜からカルシウムイオン、マグネシウムイオンなどの硬度成分が脱離する。そのメカニズムを説明する。
【0024】
前記電極の陽極側に陰イオン交換面が対向するように前記電極間に前記水分解イオン交換膜ケーシング内の陽極と陰極に電圧を印加し、これによって作られる電位差が与えられると、水分解イオン交換膜の陽イオン交換層と陰イオン交換層の界面では水が乖離し陰極側の面、すなわち陽イオン交換層側に水素イオンが生成され、陽極側の面、すなわち陰イオン交換層側に水酸化物イオンが生成される。
【0025】
陽イオン交換層内に吸着したカルシウムイオン、マグネシウムイオンが、生成された水素イオンとイオン交換することで脱離し、陽イオン交換層内の陽イオン交換樹脂は再生されるものである。
【0026】
本発明の第4の発明は、前記の水分解イオン交換膜において、陰イオン交換層は、少なくとも陰イオン交換樹脂粒子と接着剤を混合した分散液にして、陽イオン交換層に薄膜状に塗りつけて接着した水分解イオン交換膜であって、陽イオン交換層より薄い膜として陰イオン交換層を陽イオン交換層上に作成することにより体積あたりの陽イオン交換層の体積を増やし、それによって陽イオン交換容量を相対的に増加させ、よって、従来よりも処理水中の硬度成分であるカルシウムイオンやマグネシウムイオンの吸着容量および接触効率が向上することで、軟水処理能力が向上した軟水化装置である。単位体積あたりの吸着容量および硬度成分との接触効率が向上することにより、電圧を印加することによって陽イオン交換樹脂層内に硬度成分イオンを誘引する必要がなくなり、軟水処理中に電気分解が起きないため得られる軟水にガスが混入しない軟水を得ることができ、装置下流へのガス溜りなどの危険を回避でき安全性を向上させることができる。
【0027】
また、塗工法により安価で簡便に薄膜を陽イオン交換層上に作成することができ、かつ熱可塑性樹脂を混合した陰イオン交換膜より陰イオン交換樹脂粒子の配合量を増やして接着することも可能である。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0029】
(実施の形態1)
図1に本発明における水分解イオン交換膜1の構成の概略図を示す。
【0030】
まず多孔質陽イオン交換膜2について説明する。
【0031】
多孔質陽イオン交換膜2は陽イオン交換樹脂粒子3と熱可塑性樹脂粒子4の混合体を、熱可塑性樹脂粒子4の融点近傍で加熱し、熱可塑性樹脂粒子4を焼結することで、陽イオン交換樹脂粒子3を熱可塑性樹脂粒子4マトリックス中に固定化している焼結多孔体膜で
ある。
【0032】
熱可塑性樹脂としてはポリオレフィン樹脂、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体などが使用可能である。陽イオン交換樹脂としては交換基−SOHを有する強酸性陽イオン交換樹脂が好適であるが、交換基−RCOOHを有する弱酸性陽イオン交換樹脂を用いることもできる。
【0033】
また、多孔質陽イオン交換膜2を構成するよう陽イオン交換樹脂粒子3の平均粒子径は50〜300μm用いられ、さらには50〜150μmが望ましい。150μm以上では粒子径が大きく、表面積が小さくなるため、吸着能力が落ち、かつ水の吸着による膨潤のため、熱可塑性樹脂との結着時に膨潤で脱落する恐れがある。一方で50μm以下では、小さい粒子が凝集し空間が得られにくいため通水時の圧力損失になりやすいためである。
【0034】
また、多孔質陽イオン交換膜2を構成する熱可塑性樹脂粒子4の粒子径は50〜300μmが用いられる。水分解イオン交換膜1を水処理装置として、たとえばカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの硬度成分の除去を行う場合は、粒子径が小さいほうが硬度成分の吸着速度が大きくなり、硬度除去効果が良くなる。一方で圧損は大きくなるので最適な粒子径の選択が必要である。
【0035】
さらに、多孔質陽イオン交換膜2における陽イオン交換樹脂粒子3の含有量は多孔質陽イオン交換膜2の総重量に対し10〜60wt%、望ましくは30〜50wt%が好ましい。60%以上の場合はイオン交換樹脂粒子に対して、固定化するための熱可塑性樹脂粒子4が少なくなるので、イオン交換樹脂粒子の固定化がむずかしくなり、10%以下ではイオン交換容量が小さくなるため、目的とするイオン交換性能を得るために、膜の容積を大きくする必要が生じる。30〜50wt%によって、水分解イオン交換膜1の吸着速度やイオン交換容量を維持するとともに熱可塑性樹脂粒子4による陽イオン交換樹脂粒子3の固定を確実にして、長期間安定して使用できる多孔質陽イオン交換膜2を得ることができる。
【0036】
また、得られる多孔質陽イオン交換膜2の厚みは0.5mm〜2mmが望ましい。0.5mm以下では熱可塑性樹脂で保持できる、粉落ちをしないための陽イオン交換樹脂粒子の大きさは100μm以下である必要があるが、粒子径が細かくなることによって膜の通水性能および圧力損失が上がり、膜内部への硬度成分の拡散が望みにくくなる。一方で厚みが2mm以上ある場合は、水分解イオン交換膜の再生時に界面で発生する水素イオンが拡散して、再生に十分な濃度の水素イオンが得られない。そのため陽イオン交換膜の厚みは0.5mm〜2mmが望ましい。
【0037】
次に、陰イオン交換膜5について説明する。
【0038】
陰イオン交換膜5は、前記陽イオン交換樹脂粒子3より平均粒子径の小さい陰イオン交換樹脂粒子6と、前記熱可塑性樹脂粒子4より平均粒子径の小さいフィルム用熱可塑性樹脂粒子7とを混合して分散させ離型シート上に塗布し、乾燥後、フィルム用熱可塑性樹脂粒子7の融点温度でフィルム用熱可塑性樹脂粒子7を溶融し、陰イオン交換樹脂粒子6と接着し、シート状に加工する。その後、離型シートをはがし、陰イオン交換膜5を得る。なお、陰イオン交換樹脂粒子6の平均粒子径は、10μm〜100μmが望ましい。10μm以下では粒子径が細かく、フィルム用熱可塑性樹脂粒子7で十分に保持できず脱落してしまう。一方で100μm以上では、前記多孔質陽イオン交換層の厚みに対し、十分な薄さを実現するために、フィルム用熱可塑性樹脂粒子7の充填量を増やす必要があり、後述するように、陽イオン交換樹脂粒子3と陰イオン交換樹脂粒子6の接触する点が必要で
あるが、フィルム用熱可塑性樹脂粒子7の配合量が増えることで、接触する点が減り、再生性能が低下するため望ましくない。
【0039】
なお、陰イオン交換樹脂粒子6とフィルム用熱可塑性樹脂粒子7とは平均粒子径の差で20μm以内の大きさで、より近いほうが膜を成形しかつ陰イオン交換樹脂粒子6が粉落ちせず配合比率を増やすことができるため望ましい。なお、陰イオン交換樹脂粒子6の配合比率が増えることで、後述の水分解イオン交換膜1に加工した際、陽イオン交換樹脂粒子3と陰イオン交換樹脂粒子6の接触する点が増え、電圧を印加した際に水を乖離し、水素イオンおよび水酸化物イオンを生成する量が増える。よって陰イオン交換樹脂粒子6の配合量および陽イオン交換樹脂粒子3の配合量が多いほうが望ましい。
【0040】
陰イオン交換樹脂としては交換基−NROH有する強塩基性イオン交換樹脂が好適であるが、−NRを有する弱塩基性イオン交換樹脂を用いることもできる。
【0041】
前記陽イオン交換膜2および前記陰イオン交換膜5を重ね合わせ、上下を熱可塑性樹脂粒子4もしくはフィルム用熱可塑性樹脂粒子7の融点のどちらか低い温度以上まで加熱したプレス機にいれ、熱可塑性樹脂粒子4もしくはフィルム用熱可塑性樹脂粒子7が溶融するまで熱しながらプレス加工し、前記陽イオン交換膜2と前記陰イオン交換膜5を接着する。このときプレス機と重ねた陽イオン交換膜陰イオン交換膜の間にフッ素樹脂シートなどの離型シートを挟み、溶融した熱可塑性樹脂が接着しないようにするのが望ましい。
【0042】
なお、陰イオン交換膜5が通水性を有しないもしくは、通水性を有していても通水の圧力損失が大きい場合においては、物理的に陰イオン交換膜5の層に機械的に穴を開けて通水性を有させてもよい。通水性を有することによって、水分解イオン交換膜1に対し略鉛直に処理水を通水することで、吸着効率を向上させることが可能である。
【0043】
図2に本発明の軟水化装置8の概略図を示す。一対の電極を備えたケーシング9内に、多孔質陽イオン交換膜2層が陰極10と平行に向き合って位置するように、前記水分解イオン交換膜1を積層して配置する。陰イオン交換膜5は陽極11と平行に向き合うことになる。また、前記ケーシング9は、処理水入口12、処理水出口13備え、処理水を流すことができる。処理水を流すと、処理水はケーシング内の水分解イオン交換膜1内の陽イオン交換膜2層中の陽イオン交換樹脂粒子3と接触し、陽イオン交換樹脂粒子3はイオン交換によって処理水中の硬度成分イオン、たとえばカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどを吸着する。その結果、処理水は軟水となり処理水出口13より供給される。
【0044】
一方、再生工程では、水分解イオン交換膜1内の陽イオン交換膜2層中の陽イオン交換樹脂粒子3に吸着した硬度成分イオンを脱離して、濃縮排水する。そのメカニズムはケーシング9内の陽極11と陰極10に電圧を印加し、これによって作られる電位差が与えられると、水分解多孔質イオン交換膜1の陽イオン交換樹脂粒子3と陰イオン交換樹脂粒子6の界面では水が乖離し陰極側の面、すなわち多孔質陽イオン交換膜2側に水素イオンが生成され、陽極側の面、すなわち陰イオン交換膜5側に水酸化物イオンが生成される。
【0045】
多孔質陽イオン交換膜2層内に吸着したカルシウムイオン、マグネシウムイオンが、生成された水素イオンとイオン交換することで脱離し、多孔質陽イオン交換膜2内の陽イオン交換樹脂粒子3は再生される。
【0046】
なお、厚みの比率として陽イオン交換膜2層は陰イオン交換膜5層の2倍以上、望ましくは3倍以上が望ましい。通常水の硬度は120以上180未満を硬水と呼び、硬度60以下を軟水と呼べる。そのため、図2のように、膜に対して平行に通水する構成の場合、陰イオン交換層を通水する処理水と陽イオン交換層を通水する処理水に分かれるが、硬水
を軟水とするために全体の2/3以上の硬度成分を最低限除去することが必要になる。そのためには全体体積の少なくとも2/3以上が多孔質陽イオン交換膜2層である必要があるため、多孔質陽イオン交換膜2層は陰イオン交換膜5層の2倍以上、さらに膜外での処理水の通過や吸着速度が遅い場合には高度成分野除去が不十分であるため3倍以上の厚みが望ましい。
【0047】
(実施の形態2)
実施の形態1では、水分解イオン交換膜1の作成のため、前記多孔質陽イオン交換膜2に陰イオン交換膜5を熱とプレスにより熱可塑性樹脂を溶融して接着させた。
【0048】
一方で、第2の実施の形態では前記多孔質陽イオン交換膜2に対し、陰イオン交換膜を塗工法により接着するものである。
【0049】
陰イオン交換樹脂粒子と接着剤を混合し、水もしくは有機溶媒に分散させ前記多孔質陽イオン交換膜に塗布する。
【0050】
接着剤としてはエマルジョン系の接着剤がよく、これにより接着剤の粒子が陰イオン交換樹脂同士を接着しながら粒子間での空間を構成することができ、陰イオン交換樹脂内での通水性を確保することができるものである。
【0051】
塗工法として、ローラー塗工やダイコートなどが望ましい。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
粉砕した陽イオン交換樹脂とポリエチレン粒子とを混合し、ポリエチレン粒子の融点まで加熱し、その後冷却して厚みが1.2mmの板状の多孔質陽イオン交換膜14を得る。
【0053】
粉砕した陰イオン交換樹脂とポリエチレン粒子とを混合した後にシート化し、ポリエチレンの融点まで加熱し、その後冷却し、厚みが200μmのシート状の陰イオン交換膜15を得る。
【0054】
前記多孔質陽イオン交換膜14と前記陰イオン交換膜15をポリエチレンの軟化温度で加熱プレスして張り合わせ、水分解イオン交換膜Aを得る。濡れた状態における水分解イオン交換膜Aの厚みは1.4mmであった。
(比較例1)
実施例1と同様に多孔質陽イオン交換膜を得る。
【0055】
また粉砕した陰イオン交換樹脂とポリエチレン粒子とを混合し、ポリエチレン粒子の融点まで加熱し、その後冷却して厚みが1.2mmの板状の多孔質陰イオン交換膜を得る。
【0056】
前記多孔質陽イオン交換膜と前記多孔質陰イオン交換膜をポリエチレンの軟化温度で加熱プレスして張り合わせ、水分解イオン交換膜Bを得る。濡れた状態における水分解イオン交換膜Bの厚みは2.4mmであった。
【0057】
水分解イオン交換膜A、Bを図3に示す通水路φ25mm(図中L)の通水評価容器16に入れ(図3中には水分解イオン交換膜Aを表示)、上流硬度約200ppm(CaCO3換算)の硬水を160ml/min.の流量で通水し、下流の水を採取し、通水で処理した硬度および累積の吸着量(初期吸着容量)を測定した。なお、φ25mmの外周は非通水性のパッキンによって挟み込み、水が流れないようにする。これを膜の厚み1mmあたりに換算し、処理した硬度および累積の吸着量を図4および表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
次に図5に示す水分解イオン交換膜再生評価装置17に水分解イオン交換膜AおよびBを入れ(図5中には水分解イオン交換膜Aを表示)た。
【0060】
再生評価装置17は4つのセルに区切られており、両端に陽極18および陰極19を備え、各電極の入ったセルには硫酸ナトリウム水溶液20そして、陽極18側のセルA21その隣のセルB22を非通水性の陽イオン交換膜23で区切り、陰極19側のセルD24とその隣のセルC25を非通水性の陰イオン交換膜26で区切り、中央の二つのセルC25とセルD24には塩化カリウム水溶液27を浸し、中央のセルB22とセルC25の間に、水分解イオン交換膜AもしくはBを、陰極19と水分解イオン交換膜の陽イオン交換層である多孔質陽イオン交換膜14、陽極18と水分解イオン交換膜の陰イオン交換層である陰イオン交換膜15が向かい合うように配設する。
【0061】
電極に電圧を印加し、一定時間後塩化カリウム水溶液26を入れ替えて繰り返し、再度図4の通水評価容器16に入れ、水分解イオン交換膜AおよびBの再生度を吸着容量(再生後吸着容量)で評価した。(数値はCaCO3換算値)再生率は水分解イオン交換膜Aで75%、水分解イオン交換膜Bで79%であり、それぞれが電圧印加によりカルシウム成分が脱離して再生することがわかった。
【0062】
以上の結果から、水分解イオン交換膜の厚み、つまり体積あたりのカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの硬度成分イオンの吸着容量が大きく、かつ、吸着した硬度成分イオンを脱離する能力を有する水分解イオン交換膜が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明にかかる軟水化装置は、薬剤を使わずにメンテナンスフリーで軟水化することができ、電気分解によって生成したガスがシステム内に滞留することを防止し安全性を向上することができるので、給湯機、温水暖房システム、洗濯機、浄水システムにも適用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 水分解イオン交換膜
2 多孔質陽イオン交換膜
3 陽イオン交換樹脂粒子
4 熱可塑性樹脂粒子
5 陰イオン交換膜
6 陰イオン交換樹脂粒子
7 フィルム用熱可塑性樹脂粒子
8 軟水化装置
9 ケーシング
10 陰極
11 陽極
12 処理水入口
13 処理水出口
14 多孔質陽イオン交換膜
15 陰イオン交換膜
16 通水評価容器
17 再生評価装置
18 陽極
19 陰極
20 硫酸ナトリウム水溶液
21 セルA
22 セルB
23 陽イオン交換膜
24 セルD
25 セルC
26 陰イオン交換膜
27 塩化カリウム水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの内部に少なくとも一対の電極と、陽イオン交換面と陰イオン交換面を有した水分解イオン交換膜を備え、前記電極の陽極側に陰イオン交換面が対向するように前記電極間に前記水分解イオン交換膜を配設し、前記水分解イオン交換膜は、陽イオン交換層が陰イオン交換層より膜の厚みが厚いことを特徴とする再生式軟水化装置。
【請求項2】
陽イオン交換層は、少なくとも陽イオン交換樹脂粒子と熱可塑性樹脂粒子を熱可塑性樹脂粒子の融点温度で焼結してなる焼結膜であることを特徴とする請求項1記載の再生式軟水化装置。
【請求項3】
水分解イオン交換膜は、陽イオン交換層と陰イオン交換層とを加熱しながら加圧して膜層表面同士を張り合わせて作成することを特徴とする請求項2記載の再生式軟水化装置。
【請求項4】
陰イオン交換層は、少なくとも陰イオン交換樹脂粒子と接着剤を混合した分散液にして、陽イオン交換層に薄膜状に塗りつけて接着したことを特徴とする請求項1または2記載の再生式軟水化装置。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−236172(P2012−236172A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108012(P2011−108012)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】