説明

再結合器の性能評価方法及びその性能評価装置

【課題】ケイ素が蓄積する再結合触媒の性能低下を精度良く評価することができる再結合器の性能評価方法を提供する。
【解決手段】オフガス系配管に設けた再結合器内に蛍光X線分析装置を挿入し、再結合器内の触媒層の上端面からの蛍光X線を測定し、この蛍光X線から触媒に付着しているD5のケイ素及びPtの各重量を定量する(S1)。Si/Pt重量比αを算出し(S2)、Si/Pt重量比と足結合器の性能劣化率の相関から、算出したSi/Pt重量比αに対する再結合器の性能劣化率βを求める(S3)。β<β0(β0は性能劣化率の設定値)であるかが判定され、β<β0であるとき、再結合器内の触媒の使用が継続される。β<β0が満足されないとき、再結合器内の触媒が交換される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再結合器の性能評価方法及びその性能評価装置に係り、特に、沸騰水型原子力発電プラントのオフガス系に設けられた再結合器に適用するのに好適な再結合器の性能評価方法及びその性能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(以下COと略す)などによる地球温暖化が深刻になる状況において、COを発生しない原子力発電プラントは、将来のエネルギー供給源として、年々、全世界で需要が高まっている。
【0003】
原子力発電プラントとして、沸騰水型原子力発電プラントがある。沸騰水型原子力発電プラントには、原子炉圧力容器内の炉心への冷却水の供給を、原子炉圧力容器に接続された再循環系配管に設けられた再循環系ポンプを駆動して行うタイプと、その冷却水の供給を、原子炉圧力容器の底部に設けられてインペラが原子炉圧力容器内に配置されたインターナルポンプを用いて行うタイプの二種類がある。インターナルポンプを有する後者のタイプの沸騰水型原子力発電プラントは、改良型沸騰水型原子力発電プラントと呼ばれている。
【0004】
沸騰水型原子力発電プラントでは、原子炉圧力容器内の炉心に装荷された複数の燃料集合体に含まれる核燃料物質の核分裂によって発生する熱により冷却水を加熱して蒸気を発生させる。原子炉圧力容器内で発生したその蒸気がタービンに直接供給される。沸騰水型原子力発電プラントの運転中、炉心内の冷却水は、核分裂によって発生する中性子及びγ線等の放射線の照射により、放射線分解され、水素(H)及び酸素(O)が発生する。この水素及び酸素は原子炉内で発生する水蒸気とともにタービンに移行し、非凝縮性ガスとなる。この水素及び酸素の気相反応が生じると燃焼する危険性がある。このため、沸騰水型原子力発電プラントでは、水素と酸素の再結合を促進させる再結合触媒を充填した再結合器を、復水器に接続されたオフガス系の配管に設け、この再結合器内で、再結合触媒の作用により、放射線分解により発生した水素と酸素を再結合させて水にしている。
【0005】
再結合触媒として、ニッケルクロム合金又はステンレス等の金属担体表面に、アルミナの層を設け、このアルミナ層に白金属貴金属粒子を担持した再結合触媒が提案されている(特開昭60−86495号公報参照)。また、金属触媒として、目開きが0.5〜6mmの孔径となるように形成したスポンジ状の金属担体を用いて白金族貴金属粒子を担持した触媒が提案されている(特開昭62−83301号公報参照)。さらに、アルミナ層に担持する貴金属として、PtまたはPdを用いた触媒が、特開昭60−224100号公報、特開昭58−15007号公報、特開昭60−219595号公報及び特許第2680489号公報に記載されている。
【0006】
Karl Arnby et al. Applied Catalysis B, Characterization of Pt/Fe-Al2O3 catalysts deactivated by hexamethyldisiloxane, pp.1-7(2004)、Masahiko Matsumiya et al. Sensors and Actuators B, Poisoning of platinum thin film catalyst by hexamethyldisiloxane(HMDS) for thermoelectric hydrogen gas sensor, pp516-522(2003)、及びJean-Jacques Ehrhardt et al. Sensors and Actuators B, Poisoning of platinum surfaces by hexamethyldisiloxane(HMDS): Application to catalytic methane sensors, pp117-124(1997)は、室温でも液状パッキングから微量のヘキサメチルジシロキサン(HMDS)が発生し、このHMDSが可燃式水素センサーの電極に付着して可燃式水素センサーの性能を低下させることを報告している。
【0007】
沸騰水型原子力発電プラントでは、オフガス系配管が接続された復水器に設置されている低圧タービンに、パッキング部のシール剤として亜麻仁油を使用していた。最近では、タービン効率の低下を改善するために亜麻仁油より気密性を維持し易い有機ケイ素化合物を含む液状パッキンに変更するプラントが増加している。
【0008】
Karl Arnby et al.、Masahiko Matsumiya et al.及びJean-Jacques Ehrhardt et al.の各報告事例を踏まえると、有機ケイ素化合物を含む液状パッキングを使用している沸騰水型原子力発電プラントで用いられる再結合触媒もケイ素の付着により性能が劣化する可能性があると考えられる。
【0009】
沸騰水型原子力発電プラントでは、沸騰水型原子力発電プラントの健全性を維持するために、プラントの運転を停止して実施する定期検査において、機器及び配管等の保守点検を行っている。この保守点検は前述の再結合器でも実施され、再結合触媒の性能評価も行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−86495号公報
【特許文献2】特開昭62−83301号公報
【特許文献3】特開昭60−224100号公報
【特許文献4】特開昭58−15007号公報
【特許文献5】特開昭60−219595号公報
【特許文献6】特許第2680489号公報
【特許文献7】特開2006−98387号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Karl Arnby et al. Applied Catalysis B, Characterization of Pt/Fe-Al2O3 catalysts deactivated by hexamethyldisiloxane, pp.1-7(2004)
【非特許文献2】Masahiko Matsumiya et al. Sensors and Actuators B, Poisoning of platinum thin film catalyst by hexamethyldisiloxane(HMDS) for thermoelectric hydrogen gas sensor, pp516-522(2003)
【非特許文献3】Jean-Jacques Ehrhardt et al. Sensors and Actuators B, Poisoning of platinum surfaces by hexamethyldisiloxane(HMDS): Application to catalytic methane sensors, pp117-124(1997)
【非特許文献4】田中庸裕、山下弘巳、固体表面キャラクタリゼーションの実際−ナノ材料に利用するスペクトロスコピー、講談社、p13(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の再結合触媒の性能評価方法では、再結合触媒の一部または全てを再結合器から抜き取り、抜き取った再結合触媒を、実験室の反応装置に入る程度の大きさ(例えば、直径25mm程度)に切断して、この切断された再結合触媒を反応装置内に入れ、模擬ガスを反応装置内に流して、水素浄化性能を調べた。この水素浄化性能に基づいて、再結合触媒の性能低下の度合いを評価した。この方法は、直接的に再結合触媒の性能低下度合いを評価できる。しかしながら、再結合触媒を破壊して評価するため、再結合触媒が性能低下していない場合でも、再結合器から取り出した再結合触媒の分だけ、新たらしい再結合触媒を再結合器に補充しなければならない。さらに、この性能評価方法では、再結合器の開放後に、再結合触媒の抜き取り工程、試験サイズへの切断工程、反応試験工程、再結合器への再結合触媒の補充工程などの複数の作業工程が必要になり、再結合触媒の性能評価に長時間を要していた。
【0013】
また、再結合反応は水素と酸素からHOが生成する発熱反応であるため、再結合触媒の再結合性能が低下すると、再結合器内での発熱量が低下する。そこで、再結合器内に熱電対などの温度測定器を設け、再結合触媒の性能低下を監視する方法もある。しかしながら、この再結合触媒の性能監視方法を既設の沸騰水型原子力発電プラントに適用する場合には、オフガス系配管に設けられた再結合器の改良工事等の新たな作業が発生する。
【0014】
本発明の目的は、ケイ素が蓄積する再結合触媒の性能低下を精度良く評価することができる再結合器の性能評価方法及びその性能評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、原子炉圧力容器から排出された蒸気を凝縮する復水器から排気されたガスが供給される、内部に触媒層を有する再結合器の性能評価する方法であって、
触媒層の上流側端部に存在する再結合触媒に付着しているケイ素の量を、非破壊測定装置により求め、このケイ素量、及びその非破壊測定装置により求められた、その再結合触媒の触媒成分の量に対するそのケイ素量の比率のいずれかを用いて、再結合器の性能を評価することにある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ケイ素が蓄積する再結合触媒の性能低下を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の再結合器の性能評価方法に用いられる再結合器性能評価装置の構成図である。
【図2】実施例1の再結合器の評価方法が適用される再結合器が設けられた沸騰水型原子力発電プラントのオフガス系の構成図である。
【図3】図1に示す再結合器性能評価装置で実行される実施例1の再結合器の性能評価方法の処理手順を示す説明図である。
【図4】再結合器内の再結合触媒層の上端部におけるSi/Pt重量比と再結合器出口の水素濃度の関係を示す特性図である。
【図5】再結合器内の再結合触媒層の上端面におけるSi/Pt重量比と反応速度定数比の関係を示す特性図である。
【図6】再結合器内の再結合触媒層の上端面におけるSi/Pt重量比と再結合性能の低下率の関係を示す特性図である。
【図7】再結合器内の再結合触媒層の上端面におけるSi/Pt重量比と再結合器エ出口の水素濃度の関係を示す特性図である。
【図8】再結合器性能評価装置を用いて実行される実施例2の再結合器の性能評価方法の処理手順を示す説明図である。
【図9】本発明の他の実施例である実施例3の再結合器の性能評価方法に用いられる再結合器性能評価装置の構成図である。
【図10】図9に示す再結合器性能評価装置で実行される実施例3の再結合器の性能評価方法の処理手順を示す説明図である。
【図11】再結合器性能評価装置で実行される実施例4の再結合器の性能評価方法の処理手順を示す説明図である。
【図12】本発明の他の実施例である実施例5の再結合器の性能評価方法の処理手順を示す説明図である。
【図13】再結合器内の再結合触媒層の上端面におけるSi/Pt原子数比と再結合性能の低下率の関係を示す特性図である。
【図14】本発明の他の実施例である実施例6の再結合器の性能評価方法の処理手順を示す説明図である。
【図15】本発明の他の実施例である実施例7の再結合器の性能評価方法の処理手順を示す説明図である。
【図16】本発明の他の実施例である実施例8の再結合器の性能評価方法の処理手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明者らは、有機ケイ素化合物による再結合触媒の性能低下メカニズムに関して鋭意検討した結果、再結合触媒に蓄積したケイ素濃度から再結合触媒の性能低下程度を評価できることを見出した。そして、発明者らは、再結合触媒の性能低下度合いを評価することにより、再結合触媒が充填された再結合器の性能評価が可能であることを見出した。
【0019】
再結合触媒が収納された再結合器の上流側で気密性保持のためにシリコーン樹脂を主成分とするシール剤が用いられた場合、シール剤由来の有機ケイ素化合物が排ガス中に含有する場合がある。この有機ケイ素化合物が再結合器に流入すると、有機ケイ素化合物が再結合器に収納された再結合触媒に徐々に蓄積され、再結合触媒の活性成分となる貴金属を覆って触媒性能を徐々に低下させる。
【0020】
さらに、再結合器の再結合触媒層の厚みは、再結合器のガス流入口からガス排出口に向う方向で数十cmに亘る。発明者らは、このような再結合触媒層において、流入するガスと最初に接触する再結合触媒の上端面に蓄積したケイ素量を測定することによって、再結合器内に設けられた再結合触媒層全体の性能低下度合いを評価できることを新たに見出した。
【0021】
再結合触媒に蓄積されたケイ素の量を非破壊で調べるためには、蛍光X線分析装置を用いることが望ましい。蛍光X線分析装置としては、エネルギー分散型分析装置または波長分散型分析装置がある。なお、物質へのX線照射により発生する蛍光X線の波長が物質に含まれる元素に特有であるため、蛍光X線分析装置が、発生した蛍光X線の波長からその元素を同定することができ、検出された蛍光X線の強度に基づいてその元素の濃度を求めることができる(田中庸裕、山下弘巳、「固体表面キャラクタリゼーションの実際−ナノ材料に利用するスペクトロスコピー」、講談社、p13(2005)参照)。また、蛍光X線分析装置は、大気圧雰囲気におかれた試料を非接触で分析することができる。蛍光X線分析装置の測定結果は、測定元素の重量比(または原子比)で表示される。
【0022】
ケイ素量の表示には、再結合触媒に蓄積したケイ素量の絶対値、及び再結合触媒の構成成分である触媒成分(例えば、活性成分となるPt)の重量に対するケイ素の重量の比(または原子比)の相対値(以下、ケイ素量相対値という)を用いることができる。
【0023】
例えば、再結合器の上部から下部に排ガスが流通するダウンフロー型再結合器の場合、沸騰水型原子力発電プラントの定期検査の時に、再結合器の定期点検のために再結合器の上蓋を開けたとき、再結合触媒が存在する触媒層のうちで、常に、再結合器に供給されるガスと最初に接触している、触媒層の最上層部が現れる。この最上層に対して蛍光X線測定を実施することにより、触媒層のケイ素量相対値を得ることができる。あるいは、上蓋が開放された再結合器内に蛍光X線測定装置の測定プローブを直接挿入することにより、触媒層の最上層の再結合触媒を取り出すことなく触媒層のケイ素量相対値を得ることができる。どちらかの方法により、再結合触媒を破壊することなく再結合器内の再結合触媒のケイ素量相対値を得ることができる。
【0024】
このケイ素量相対値を得るための具体的な例を以下に説明する。
【0025】
沸騰水型原子力発電プラントは、再結合触媒に有機ケイ素化合物が蓄積することにより、再結合器出口の水素濃度が4%−dryを超えた場合には、プラント停止に至る。従って、ケイ素量相対値に対する再結合器出口の水素濃度との関係を予め求めておくことにより、ケイ素量相対値の測定値から再結合器の性能を定量的に評価可能である。
【0026】
予め、例えば、図6に示すような、再結合触媒層の上端面における再結合触媒の触媒成分(例えば、白金)に対するケイ素の重量比(例えば、Si/Pt)と再結合性能の低下率との相関(以下、ケイ素量−性能相関という)を求めておく。再結合器の定期点検時において、再結合器内に配置されている触媒層の上端面の蛍光X線測定を実施し、この上端面のケイ素量を求める。上記ケイ素量−性能相関と、測定されたケイ素量により求めたSi/Ptとにより、定期点検時における再結合器の性能低下率(β)を求める。ここで、予め定められた再結合器の設定性能低下率(β0)と比較し、βがβ0より小さいときには、そのまま再結合触媒の使用を継続し、βがβ0以上であるときには再結合器に充填されている再結合触媒を新しい再結合触媒に交換する。
【0027】
βがβ0よりも小さいときには、例えば、以下の2つの方法により再結合器に収納された再結合触媒の余寿命を推定することができる。
(方法1)
上記したケイ素量−性能相関に基づいて、予め定められた再結合器の設定性能低下率(β0)となるケイ素量(α0)が求まる。単位時間当たりに再結合器に流入する有機ケイ素化合物の量の情報があれば、単位時間当たりに再結合触媒に蓄積するケイ素量(Δα)を推定できる。従って、再結合器の定期点検時のケイ素量(α)がα0となるまでの時間(t)が再結合器の余寿命の推定値となる。余寿命の推定値は式(1)により求められる。
【0028】
再結合触媒の寿命の推定値t=(α0−α)/Δα …(1)
(方法2)
定期点検の回数が2回目以降の場合、各回のケイ素量を測定することにより、前回の定期点検と今回の定期点検の間に蓄積したケイ素量を求めることが可能である。すなわち、n回目の定期点検でのケイ素量をα(n)とし、(n−1)回目の定期点検とn回目の定期点検の間の時間をtnとしたとき、沸騰水型原子力発電プラントの運転時に再結合器内の触媒層の上端面に蓄積したケイ素量の平均値αavは、式(2)で表される。
【0029】
αav=(α(n)−α(n−1))/tn …(2)
n回目の定期点検の時点での再結合器の余寿命の推定値tは、式(3)で表される。
【0030】
再結合触媒の寿命の推定値t=(α0−α(n))/αav …(3)
上記の余寿命の推定値に基づいて、次回の定期点検までの再結合器の健全性を再度確認することができる。
【0031】
再結合器の性能を評価する方法として、再結合器出口の水素濃度の他に、再結合反応の反応速度定数、またはケイ素蓄積前の反応度速度定数に対するケイ素蓄積後の反応速度定数の比(以下、反応速度定数比と記す)を用いることが可能である。
【0032】
再結合反応は、式(4)に示す反応であり、水素と酸素からHOを生成する。
【0033】
+1/2O→HO …(4)
再結合器入口におけるガスに含まれる水素濃度に対する酸素濃度の濃度比(酸素/水素濃度比)は、水素濃度に対して酸素濃度が量論比(0.5)よりも大きい(例えば、0.53以上)ため、再結合反応の反応速度は、再結合器出口の水素濃度C(H)を用いて一時近似式(式(5))で表されると仮定する。
【0034】
dC(H)/dtr=−kC(H) …(5)
ここで、kは再結合反応の反応速度定数、及びtrは反応時間である。
式(5)を積分すると式(6)が得られる。
【0035】
ln(C(H))=−k・tr …(6)
有機ケイ素による再結合触媒の性能低下が無い場合における反応速度定数をk0、再結合器出口の水素濃度をC0(H)とし、有機ケイ素による再結合触媒の性能低下後における反応速度をk、再結合器出口の水素濃度をC(H)としたとき、再結合器出口の水素濃度と反応速度定数比の関係は、式(7)で表される。
【0036】
k/k0=ln(C(H))/ln(C0(H)) …(7)
ここで、k/k0が1である場合は、有機ケイ素化合物による再結合触媒の性能低下が無いことを表している。k/k0が0.7である場合は、再結合触媒の性能が、初期の性能から30%(=(1−0.7)×100)低下したことを示している。
【0037】
従って、ケイ素量相対値と反応速度定数比との関係を予め求めておくことにより、ケイ素量相対値から反応速度定数比を得ることができる。この反応速度定数比に基づいて再結合器の性能を定量的に評価することができる。
【0038】
発明者らは、上記の概念を実現するために、さらに詳細な検討を行った。この検討の内容を以下に説明する。
【0039】
再結合器に収納される再結合触媒として、セラミック触媒及び金属触媒などがある。担体を粒状または柱状などに成形したものに活性成分を担持した触媒を、セラミック触媒と称する。また、多孔性のスポンジ状金属基材上に担体及び活性成分を有する触媒を金属触媒と称する。
【0040】
上記の再結合触媒は、担体として多孔質金属酸化物、及び活性成分として貴金属を有している。再結合触媒の形態は限定されないが、例えば、多孔質金属酸化物を顆粒状または円柱状に整形したもの、発泡金属基材上に多孔質金属酸化物がコーティングされたもの、またはコージェライトなどのセラミックス及びNi−Cr−Fe−Alなどの金属材料で作製されたハニカム基材上に多孔質酸化物がコーティングされたものに、活性成分を含有した形態がある。
【0041】
多孔質金属酸化物は、再結合反応中に活性金属を安定に高分散保持する担体として機能している。貴金属は、活性成分であり、再結合器に流入するガスに含まれる水素を酸素と反応させてHOとする反応、すなわち、再結合反応を行うための反応場である。HとOをHOに変換させる活性成分は、水素分子を解離して活性化する成分である貴金属(Pt、Pd、Rh、Ru、Ir)、及び酸素分子を活性化する成分であるAuから選ばれた少なくとも一つとすることが好ましい。特に、Pt及びPdは、再結合反応に必要な155℃の低温領域においてもHOへの変換性能が高いため好適である。
【0042】
再結合器の上流において、例えば、タービンにおいて、気密性保持のためにシリコーン樹脂を主成分とするシール剤が用いられた場合には、シール剤から揮発した有機ケイ素化合物が、タービンの蒸気を排出する復水器から排気される排ガスに混入する可能性がある。この有機ケイ素化合物の具体例としては、環状シロキサンがある。環状シロキサンは、ケイ素(Si)、酸素(O)及び有機基(R)を含む「−Si(R)−O−Si(R)−構造」を有する環式有機化合物である。例えば、Rがメチル(CH)基であり、分子式としてC1030Siのものは、デカメチルシクロペンタシロキサン(以下、D5)と呼ばれる。
【0043】
有機ケイ素化合物が再結合触媒に蓄積し続けた場合には、再結合触媒において有機ケイ素化合物の活性成分である貴金属の表面を覆う割合が高くなって、水素と酸素との結合反応が阻害され、再結合触媒の性能低下が生じる。再結合器出口の水素濃度が設定濃度(例えば、4%−dry)を超えた場合には、原子力プラントの運転停止に至る。
【0044】
発明者らは、再結合触媒を作製し、この再結合触媒を収納した再結合器に有機ケイ素化合物を含むガスを供給して再結合触媒の性能を調べた。
【0045】
その再結合触媒(試料触媒という)は、以下のように作製した。Ni−Cr合金製のスポンジ状の金属基材表面にアルミナをコーティングし、このアルミナをコーティングした金属基材を塩化Pt溶液に浸漬して塩化Pt溶液をアルミナに含浸させた後、金属基材表面にコーティングしたアルミナを乾燥させた。その後、アルミナに付着したPtの水素還元を500℃で実施し、温水洗浄により脱塩素処理を施して、試料触媒を得ることができた。スポンジ状の金属基材は、目開きとして1個が2〜3mmの孔を有している。また、金属基材の形状は、直径25mmで、厚さ11mmである。試料触媒の1LあたりのPt含有量は、金属換算で2gである。
【0046】
発明者らは、試料触媒の、有機ケイ素化合物に対する耐被毒性を、実験によって調べた。この実験において、有機ケイ素化合物としてデカメチルシクロペンタシロキサン(以下、D5という)を用いた。
【0047】
試料触媒の、有機ケイ素化合物に対する耐被毒性を確認する実験では、5個の試料触媒を充填して触媒層を形成した内径28mmの石英製反応管を有し、模擬排ガスが反応管の上端部から下端部に向って流れるダウンフロー型の反応装置を用いた。なお、試料触媒は反応管の軸方向に5個重ねて充填した。この結果、5個の試料触媒を含む触媒層が反応管内に形成され、触媒層の反応管の軸方向における厚みが55mm、触媒層の直径が25mmとなった。
【0048】
実験条件を以下に説明する。模擬排ガスは、0.028mN/hの水素、0.015mN/hの酸素、0.011mN/hの窒素、4928mN/hの蒸気を混合し、この混合されたガスに0.03ml/hのD5を供給して生成した。この模擬排ガスの反応塔内の触媒層の入口温度は155℃であり、この入口温度では触媒層に供給したD5は全て気化している。また、反応塔内の触媒層での水素と酸素の反応時間を500分、1000分及び2250分とした3つのケースについて、実験を行った。
【0049】
D5を含む模擬排ガスを、反応塔の上端部から反応塔内に供給した。この模擬排ガスは、入口温度が155℃の触媒層に流入し、触媒層内を下降して反応塔の下端部から排出された。模擬排ガスに含まれた水素と酸素は、触媒層内で式(4)の反応によりHOを生成した。触媒層の最下層の試料触媒から排出された排ガスを反応塔内から吸引し、この排ガスから水分を除去した後、ドライベースのその排ガスの水素濃度をガスクロマトグラフ法により測定した。ドライベースの排ガスの水素濃度の測定は、反応時間が異なる3つのケースについてそれぞれ行った。模擬排ガスに含まれたD5は試料触媒に付着する。
【0050】
D5を含む模擬排ガスを反応塔に供給する3ケースの実験が終了した後、エネルギー分散型蛍光X線分析装置を搭載したX線分析顕微鏡(HORIBA製XGT−7000)を用いて、各ケースにおける反応塔内の試料触媒のSiとPtの重量比(Si/Pt重量比)を測定した。この重量比を測定する試料触媒は、反応塔内で5層に重ねられた試料触媒のうち、模擬排ガスと常に最初に接触する最上層の試料触媒とした。また、エネルギー分散型蛍光X線分析装置によるSiの測定箇所は、最上層の試料触媒の上端面(触媒層の上端面)の中心部の2cm四方の領域である。エネルギー分散型蛍光X線分析装置による測定条件は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置の試料室の温度及び圧力が室温及び大気圧雰囲気であり、管電圧が50kV、管電流が1mAである。
【0051】
触媒層の下端から排出された排ガスに含まれるドライベースの水素の濃度を触媒層出口の水素濃度と定義する。再結合器出口の水素濃度はこの触媒層出口の水素濃度と同じである。また、前述のSi/Pt重量比を触媒層の上端部のSi/Pt重量比と定義する。
【0052】
反応時間が500分のケースでは、触媒層出口の水素濃度が約0.12%−dryを維持した。また、1000分のケースでは触媒層出口の水素濃度が1.2%−dryとなり、2250分のケースでは触媒層出口の水素濃度が4.2%−dryとなった。
【0053】
そこで、反応塔内の触媒層の上端面におけるSi/Pt重量比をエネルギー分散型蛍光X線分析装置により測定し、このSi/Pt重量比と触媒層出口(再結合器出口)の水素濃度の関係を調べた。
【0054】
測定された、触媒層の上端面でのSi/Pt重量比に対する触媒層出口の水素濃度を、図4に示す。触媒層の上端面におけるSi/Pt重量比が0.2までは触媒層出口の水素濃度は、0.12%−dryである。しかし、上端面のSi/Pt重量比が0.2より大きくなると、触媒層出口の水素濃度は触媒層の上端面でのSi/Pt重量比にほぼ比例して上昇し、その上端面でのSi/Pt重量が0.39まで増加すると、触媒層出口の水素濃度が4.2%−dryになる。
【0055】
以上の触媒層の上端面でのSi/Pt重量比と触媒層出口の水素濃度の関係から、再結合触媒を収納した再結合器において、排ガスと最初に接触する、触媒層の上端面でのSi/Pt重量比を測定することにより、再結合器の性能を定量的に評価できることが明らかになった。
【0056】
図4に示す実験結果と式(7)を用いて、触媒層上端面におけるSi/Pt重量比に対する反応速度定数比(k/k0)の関係を求めた。これの関係は、図5に示される。
【0057】
図5において、触媒層上端面におけるSi/Pt重量比が0から0.2までの範囲では触媒層出口の水素濃度が、ほぼ1に維持される。しかしながら、触媒層上端面におけるSi/Pt重量比が0.2より大きくなると、反応速度定数比は、触媒層上端面におけるSi/Pt重量比にほぼ比例して減少する。
【0058】
以上の検討結果により、再結合器の再結合触媒を収納した再結合器において、排ガスと最初に接触する、触媒層の上端面におけるSi/Pt重量比を測定することにより、再結合器の性能を定量的に評価できることが明らかになった。
【0059】
前述したように、沸騰水型原子力発電プラントでは、再結合器内の再結合触媒に有機ケイ素化合物が蓄積することにより、再結合器出口の水素濃度が4%−dryを超えた場合にはプラント停止に至る。従って、実用的には再結合器出口の水素濃度が4%−dryとなった状態を、再結合器の性能低下率が100%になったと見なすことができる。このため、ダウンフロー型の再結合器において、この再結合器内での排ガスの流れに対して、触媒層上端面のSi/Pt重量比と再結合器の性能の低下率の相関は、例えば、図6に示す関係になる。触媒層上端面におけるSi/Pt重量比を蛍光X線測定により求めることによって、図6に示す相関により、再結合器の性能低下率を得ることができる。
【0060】
試料触媒は、活性金属としてPt、及び活性金属を高分散担持するための担体としてアルミナ(Al)を用いている。そこで、発明者らは、試料触媒が存在する触媒層の上端面におけるSi/Pt重量比の替わりに、その上端面のSi/Al原子比を用い、このSi/Al原子比と触媒層出口の水素濃度の相関を整理した。図7に、得られた、触媒層の上端面におけるSi/Al原子比と触媒層出口の水素濃度の相関結果を示す。触媒層上端面におけるSi/Pt重量比を用いる場合(図4)と同様に、触媒層上端面のSi/Al原子比を蛍光X線測定により求めることによって、再結合器の性能低下率を得ることができる。
【0061】
なお、例えば、Si/Pt重量比は、各元素の分子量(Siの分子量は32、Ptの分子量は195)で割ることによって、Si/Pt原子比に変換できる。具体的には、Si/Pt重量比に6.09を掛ければ良い。
【0062】
以上の検討結果から、再結合触媒の構成成分に対するSiの重量比及びまたは再結合触媒の構成成分に対するSiの原子比のいずれかを蛍光X線測定により求めることによって、再結合器の性能低下率を求められることが明らかになった。
【0063】
以上の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0064】
本発明の好適な一実施例である実施例1の再結合器の性能評価方法を、図1及び図3を用いて説明する。
【0065】
本実施例の再結合器の性能評価方法が適用される再結合器が設けられる沸騰水型原子力プラントを、図2を用いて説明する。この沸騰水型原子力プラントは、原子炉、高圧タービン(図示せず)、低圧タービン11、復水器12、オフガス系配管15、再結合器(再結合装置)18を備えている。原子炉は、原子炉圧力容器10及び原子炉圧力容器10内に配置した炉心(図示せず)を有する。核燃料物質を含む複数の燃料集合体が炉心に装荷されている。原子炉圧力容器10には複数の制御棒が設けられ、これらの制御棒が炉心に出し入れされることによって原子炉出力が制御される。
【0066】
高圧タービン(図示せず)及び低圧タービン11が主蒸気配管13によって原子炉圧力容器10に接続される。低圧タービン11は、高圧タービンの下流に配置されて復水器12に設置される。低圧タービン11のパッキング部にシール材として液状パッキングが用いられている。復水器12に接続された給水配管14が原子炉圧力容器10に接続される。給水ポンプ(図示せず)が給水配管14に設けられる。発電機(図示せず)が高圧タービン及び低圧タービン11の回転軸に連結される。
【0067】
オフガス系配管15が復水器12に接続され、空気抽出器16、排ガス予熱器17、再結合器18、排ガス復水器21、希ガスホールドアップ装置22及び空気抽出器23がこの順番に下流に向ってオフガス系配管15に設けられる。オフガス系配管15は主排気筒24に接続される。
【0068】
再結合器18は、水素と酸素を再結合させる再結合触媒が収納されている触媒層19を再結合器18の容器内に設けている。この再結合触媒として前述の試料触媒が用いられる。
【0069】
沸騰水型原子力プラントの運転中、原子炉圧力容器10内の冷却水が、図示されていない再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)で昇圧されて炉心に供給される。この冷却水は、炉心に装荷されている燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、主蒸気配管13を通って、高圧タービン及び低圧タービン11に順次供給され、高圧タービン及び低圧タービン11を回転させる。これらのタービンに連結された発電機も回転し、電力を発生する。
【0070】
低圧タービン11から排気された蒸気は復水器12で凝縮されて水になる。復水器12の底部に溜まっているこの水は、給水として、給水ポンプにより昇圧され、給水配管14を通って原子炉圧力容器10に供給される。
【0071】
復水器12内のガスが、空気抽出器16によって吸引され、オフガス系配管15内に排出される。タービン効率を向上させるために、復水器12内の圧力は、空気抽出器16の作用によって約5kPaの真空になっている。炉心内の冷却水は、核分裂によって発生する放射線(中性子及びγ線等)を照射されることによって水素及び酸素に分解される。この水素及び酸素は、炉心で発生する蒸気に随伴し、高圧タービン及び低圧タービン11を経て復水器12に排出される。復水器12に排出された水素及び酸素も、空気抽出器16の吸引作用により、オフガス系配管15に排出される。
【0072】
復水器12から排出された水素及び酸素を含む排ガスは、オフガス系配管15を通って流れ、排ガス予熱器17に到達する。その排ガスが排ガス予熱器17で所定温度まで加熱される。再結合器18内の触媒層19の再結合触媒による水素と酸素の結合反応は温度が高いほど促進されるので、排ガス予熱器17での排ガスの加熱は再結合器18内での水素と酸素の結合反応を促進させることになる。温度が上昇して排ガス予熱器17から排出された排ガスは、再結合器18に供給される。排ガスに含まれている水素と酸素が、再結合器18内の触媒層19に充填された再結合触媒の作用によって再結合され、水になる。このため、再結合器18から排出される排ガスに含まれる水素の濃度が許容範囲内に低減される。再結合器18から排出された排ガスは、オフガス系配管15に設けられた排ガス復水器21にて冷却され、排ガスに含まれている水分が除去される。その後、排ガスは、希ガスホールドアップ装置22に供給される。希ガスホールドアップ装置22は、排ガスに含まれる半減期の短いクリプトン及びキセノンの放射能を減衰させる。規定値以下の放射能になった排ガスが、空気抽出器23の作動により主排気筒24から外部環境に放出される。
【0073】
低圧タービン11では、パッキング部のシール剤として高い気密性が得られる、有機ケイ素化合物を含む液状パッキングを使用している。このため、有機ケイ素化合物、例えば、D5が負圧の復水器12内に放出される。
【0074】
揮発性のD5も、空気抽出器16の作用により、復水器12からオフガス系配管15に排出される。復水器12からオフガス系配管15へのD5の排出が、沸騰水型原子力発電プラントの起動時において原子炉出力が75%に到達するまでの期間で生じている。このため、その期間では、復水器12からオフガス系配管15に排出される排ガスが、水素及び酸素以外に、D5を含んでいる可能性がある。
【0075】
D5を含む排ガスが復水器12からオフガス系配管15に排出されたとき、水素、酸素及びD5を含む排ガスが、再結合器18の容器内に流入し、さらに、容器内の触媒層19に流入する。触媒層19に存在する再結合触媒は、D5を含む排ガスと接触しても水素と酸素の結合反応を生じる。しかしながら、この排ガスに含まれるD5が、再結合器18内の触媒層19に存在する再結合触媒に付着し、再結合器18の性能を低下させる。
【0076】
本実施例の再結合器の性能評価方法によって、この再結合器18の性能を評価する。本実施例の再結合器の性能評価方法に用いる再結合器性能評価装置を、図1を用いて説明する。再結合器性能評価装置1は、非破壊測定装置2、データ処理装置3及び表示装置4を有する。非破壊測定装置2とデータ処理装置3、及びデータ処理装置3と表示装置4は、配線5で接続されている。非破壊測定装置2は、蛍光X線測定が可能な蛍光X線分析装置を含んでいる。
【0077】
1つの運転サイクルでの運転が終了したとき、沸騰水型原子力発電プラントの運転が停止され、このプラントの定期検査が実施される。この定期検査の期間中において、再結合器18の定期点検が実施される。再結合器18の定期点検において、オフガス系配管15を再結合器18の開口部20から取り外し、再結合器18の開口部20を通して再結合器18の容器内で触媒層19の上方に、非破壊測定装置2が挿入される。
【0078】
本実施例の再結合器の性能評価方法を、図3に示す手順を基に説明する。まず、触媒層の上端面の蛍光X線測定を行なう(ステップS1)。非破壊測定装置2の蛍光X線分析装置から触媒層19の上端面(上流側端部の端面)に向かってX線が照射される。この上端面は、再結合器18内に流入した排ガスが、最初に接触する、触媒層19の面である。蛍光X線分析装置は、X線照射によりその上端面に存在する再結合触媒で発生する蛍光X線を検出し、触媒層19の上端面におけるSi及び再結合触媒の構成元素であるPtを非破壊で定量分析し、それぞれの重量を求める。検出された蛍光X線の波長に基づいて、再結合触媒の構成元素及び再結合触媒に付着している物質の元素を同定することができ、その蛍光X線の強度に基づいてそれらの元素の濃度を求めることができる。非破壊測定装置2によって定量されるSiの重量は、触媒層19の上端部に存在する再結合触媒、特に、触媒層の上端面に存在する再結合触媒に付着したD5に含まれるSiの重量である。
【0079】
データ処理装置3が図3に示されたステップS2〜S6の各処理を実行する。Si/Pt重量比(α)を算出する(ステップS2)。データ処理装置3が、非破壊測定装置2からSi及びPtのそれぞれの重量を入力し、触媒層19の上端面でのSi/Pt重量比(α)を算出する。Si/Pt重量比(α)に基づいて再結合器の性能劣化率(β)を求める(ステップS3)。図6に示すSi/Pt重量比と再結合器の性能劣化率の相関情報から、算出したSi/Pt重量比(α)に基づいて、これに対応する再結合器の性能劣化率(β)を求める。図6に示されたSi/Pt重量比と再結合器の性能劣化率の相関情報は、データ処理装置3のメモリ(図示せず)に予め登録されている。
【0080】
再結合器の性能劣化率(β)が性能劣化率の設定値(β0)より小さいかが判定される(ステップS4)。再結合器の性能劣化率(β)が性能劣化率の設定値(β0)より小さいとき(β<β0)、ステップS4の判定が「YES」になり、再結合触媒の使用継続を示す表示情報を作成して出力する(ステップS5)。再結合触媒の使用継続を示す表示情報、例えば、「再結合触媒の使用を継続」の表示情報が、表示装置4に出力され、表示装置4に表示される。再結合器の性能劣化率(β)が性能劣化率の設定値(β0)以上であるとき(β≧β0)、ステップS4の判定が「NO」になり、再結合触媒の交換を示す表示情報を出力する(ステップS6)。再結合触媒の交換を示す表示情報、例えば、「再結合触媒の交換」の表示情報が、表示装置4に出力され、表示装置4に表示される。
【0081】
作業員は、表示装置4に表示情報である「再結合触媒の使用を継続」が表示されたとき、再結合器18から非破壊測定装置2を取り出し、その後、オフガス系配管15を再結合器18の開口部20に接続する。「再結合触媒の使用を継続」が表示されたときには、再結合器18内の再結合触媒が交換されず、定期点検前に再結合器18に収納されている再結合触媒が、沸騰水型原子力発電プラントの定期検査終了後における次の運転サイクルの運転期間においても使用される。他の表示情報である「再結合触媒の交換」が表示されたときには、作業員が、再結合器18に収納されている再結合触媒を取り出し、新しい再結合触媒を再結合器18内に収納する。その後、オフガス系配管15を再結合器18の開口部20に接続する。定期検査終了後に沸騰水型原子力発電プラントが起動される。
【0082】
非破壊測定装置2は、再結合器18の触媒層19の上端面にX線を照射し、このX線照射によって発生する蛍光X線を検出し、この蛍光X線の検出信号に基づいて触媒層19の上端面でのSi及び再結合触媒構成元素を非破壊で定量分析する。データ処理装置3は、非破壊測定装置2によって定量されたSi及び触媒金属の重量を用いて、Si/触媒金属(例えば、Pt)重量比αを求め、再結合器内の再結合触媒の継続使用、交換を判定する。
【0083】
本実施例によれば、再結合器18の開放された開口部20から、蛍光X線分析装置を有する非破壊測定装置2を再結合器18内に挿入して、再結合器18の排ガス流入口に近い、触媒層19の上端面の再結合触媒に付着しているD5、具体的には、ケイ素(Si)の量を測定するので、再結合触媒に付着しているSi量を精度良く測定することができる。さらに、Si/触媒金属(例えば、Pt)重量比αを用いて求められた、再結合器18の再結合性能の低下率βに基づいて、再結合器18の再結合触媒の継続使用を判断するので、再結合器18の性能を定量的に評価することができる。再結合器18の再結合性能の低下率βに基づいて、再結合器18の再結合触媒の継続使用を判断するため、再結合触媒の継続使用、その交換をより精度良く判定することができる。
【0084】
このような本実施例によれば、再結合器18の再結合性能の低下による沸騰水型原子力発電プラントの運転停止を回避することができ、沸騰水型原子力発電プラントの稼働率を向上させるこができる。
【0085】
表示情報である「再結合触媒の使用を継続」または「再結合触媒の交換」が表示装置4に表示されるので、作業員が、再結合器18内の再結合触媒の継続使用または交換を容易に知ることができる。
【0086】
本実施例では、Si/触媒金属(例えば、Pt)重量比αに基づいて再結合器18の再結合性能の低下率を求めたが、Si重量に基づいて再結合器18の再結合性能の低下率を求めても良い。この再結合性能の低下率を用いて再結合触媒の継続使用または交換を判断しても良い。
【実施例2】
【0087】
本発明の他の実施例である実施例2の再結合器の性能評価方法を、図8を用いて説明する。
【0088】
本実施例の再結合器の性能評価方法においても、実施例1で用いた再結合器性能評価装置1が使用される。本実施例の再結合器の性能評価方法では、再結合器性能評価装置1のデータ処理装置3が、図8に示すステップS2、S4A,S5及びS6の各処理を実行する。
【0089】
本実施例においても、実施例1と同様に、再結合器18の開放された開口部20から、蛍光X線分析装置を有する非破壊測定装置2を再結合器18内に挿入し、触媒層18の上端面の蛍光X線測定を行なう(ステップS1)。実施例1と同様に、Si/Pt重量比(α)を算出する(ステップS2)。本実施例では、ステップS4Aにおいて、算出されたSi/Pt重量比(α)がSi/Pt重量比の設定値(α0)より小さいかが判定される。Si/Pt重量比(α)がSi/Pt重量比の設定値(α0)より小さいとき(α<α0)、ステップS4Aの判定が「YES」になり、再結合触媒の使用継続を示す表示情報を出力する(ステップS5)。例えば、表示情報である「再結合触媒の使用を継続」が、表示装置4に出力され、表示装置4に表示される。Si/Pt重量比(α)がSi/Pt重量比の設定値(α0)以上であるとき(α≧α0)、ステップS4Aの判定が「NO」になり、再結合触媒の交換を示す表示情報を出力する(ステップS6)。例えば、表示情報である「再結合触媒の交換」が、表示装置4に出力され、表示装置4に表示される。
【0090】
表示装置4に「再結合触媒の使用を継続」が表示された場合には、再結合器18内の再結合触媒が交換されず、定期点検前に再結合器18に収納されている再結合触媒が、沸騰水型原子力発電プラントの定期検査終了後における次の運転サイクルの運転期間においても使用される。「再結合触媒の交換」が表示されたときには、作業員が、再結合器18内の再結合触媒を、新しい再結合触媒と交換する。
【0091】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例では、実施例1で実行されたステップS3の処理が行われないので、実施例1よりも、再結合器18内の再結合触媒の性能判定に要する時間を短縮することができる。
【実施例3】
【0092】
本発明の他の実施例である実施例3の再結合器の性能評価方法を、図9及び図10を用いて説明する。
【0093】
本実施例の再結合器の性能評価方法で用いられる再結合器性能評価装置1Aは、実施例1で用いられる再結合器性能評価装置1において、データ処理装置3をデータ処理装置3Aに替え、ケイ素濃度測定装置25を付加した構成を有する。再結合器性能評価装置1Aの他の構成は再結合器性能評価装置1と同じである。
【0094】
データ処理装置3Aが、蛍光X線分析装置を有する非破壊測定装置2、及び表示装置4に配線5により接続される。ケイ素濃度測定装置25は、ケイ素濃度測定器26及びデータ処理装置27を有する。ケイ素濃度測定器26が配線28によってデータ処理装置27に接続される。データ処理装置27が配線29によってデータ処理装置3Aに接続される。データ処理装置3Aとデータ処理装置27を統合して1つのデータ処理装置にしても良い。ケイ素濃度測定器26は、排ガス予熱器17と再結合器18の間のオフガス系配管15に設けられる。
【0095】
ケイ素濃度測定器26は、例えば、非分散型赤外線分析プローブを用いる。非分散型赤外線分析プローブは、オフガス系配管15内に挿入され、オフガス系配管15内を流れる排ガスに含まれる有機ケイ素化合物のオンライン計測が可能である。なお、再結合器18に供給される排ガスに含まれるシロキサンの濃度の連続分析方法として、非分散型赤外線分析が知られている(特開2006−98387号公報)。オフガス系配管15内を流れる排ガスの有機ケイ素化合物の検出に、オフライン測定を行うガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いても良い。再結合器18の上流のオフガス系配管15から採取した排ガスに含まれた物質を、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)により分析し、排ガスに含まれる有機ケイ素化合物を検出する。
【0096】
本実施例の再結合器の性能評価方法を、具体的説明する。本実施例の再結合器の性能評価方法においても、実施例1で実行される蛍光X線測定(ステップS1)及びステップS2〜S6の各処理が実行される。ステップS4の判定が「NO」でステップS6の処理が実行されたときには、本実施例の再結合器の性能評価方法は終了する。ステップS4の判定が「YES」でステップS5の処理が実行されたときには、ステップS7〜S14の各処理が実行される。ステップS8の処理はデータ処理装置27で実行され、ステップS7,S9〜S14の各処理はデータ処理装置3Aで実行される。
【0097】
ステップS7〜S14の各処理を具体的に説明する。再結合器の診断を開始する(ステップS7)。データ処理装置3Aは、ステップS5の処理を実行した後に、データ処理装置27に、再結合器の診断開始指令を出力する。有機ケイ素化合物濃度を求める(ステップS8)。ケイ素濃度測定器26は、沸騰水型原子力発電プラントの運転中、好ましくは、運転サイクルの末期で再結合器18に供給される排ガスに含まれている有機ケイ素化合物を検出する。ケイ素濃度測定器26から出力された有機ケイ素化合物の検出信号が、アナログ/デジタル変換器(図示せず)でデジタル信号に変換されてデータ処理装置27に入力され、データ処理装置27のメモリ(図示せず)に記憶される。ステップS8において、データ処理装置27が、メモリから記憶されている有機ケイ素化合物のデジタル信号に基づいて、再結合器18に単位時間当たりに供給される排ガスに含まれている有機ケイ素濃度を算出する。
【0098】
次回の定期点検までに増加するSi/Pt重量比(Si/Pt重量比の増加値)を推定する(ステップS9)。ステップS8で算出した、単位時間当たりの排ガスに含まれる有機ケイ素化合物濃度に基づいて、今回の定期検査終了後の次の運転サイクルにおける沸騰水型原子力発電プラントの起動から再結合器18の次回の定期点検までの期間において、再結合器18の触媒層19の上端面への有機ケイ素化合物(例えば、D5)のさらなる蓄積により増加するSi/Pt重量比(Si/Pt重量比の増加値Δα)を推定する。具体的には、単位時間当たりの排ガスに含まれる有機ケイ素化合物の濃度を用いて、触媒層19の上端面に存在する再結合触媒の表面に、単位時間当たりに蓄積するSi/Pt重量比(蓄積速度)を推定し、この蓄積速度に次回の定期点検までの時間を掛けることによって、Si/Pt重量比の増加値Δαが得られる。このため、次回の再結合器18の定期点検時におけるSi/Pt重量比は、(α+Δα)と予測される。
【0099】
Si/Pt重量比(α+Δα)に基づいて次回の定期検査における再結合器の性能低下率(β’)を算出する(ステップS10)。図6に示すSi/Pt重量比と再結合器の性能劣化率の相関から、算出したSi/Pt重量比(α+Δα)に基づいて、これに対応する再結合器の性能劣化率(β’)を求める。
【0100】
再結合器の性能劣化率(β’)が性能劣化率の設定値(β0)より小さいかが判定される(ステップS11)。再結合器の性能劣化率(β’)が性能劣化率の設定値(β0)より小さいとき(β’<β0)、ステップS11の判定が「YES」になり、再結合触媒の使用継続を示す表示情報を作成して出力する(ステップS12)。再結合触媒の使用継続を示す表示情報、例えば、表示情報である「再結合触媒の使用を継続」が、表示装置4に出力され、表示装置4に表示される。再結合器の性能劣化率(β’)が性能劣化率の設定値(β0)以上であるとき(β’≧β0)、ステップS11の判定が「NO」になり、再結合触媒の交換を示す表示情報を作成して出力する(ステップS13)。再結合触媒の交換を示す表示情報、例えば、表示情報である「再結合触媒の交換」が、表示装置4に出力され、表示装置4に表示される。ステップS12またはS13の処理が終了したとき、診断が終了する(ステップS14)。
【0101】
表示装置4に「再結合触媒の使用を継続」が表示されたとき、再結合器18内の再結合触媒が交換されず、定期点検前に再結合器18に収納されている再結合触媒が、沸騰水型原子力発電プラントの定期検査終了後における次の運転サイクルの運転期間においても使用される。「再結合触媒の交換」が表示されたときには、再結合器18に収納されている再結合触媒が新しい再結合触媒と交換される。
【0102】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、今回の定期点検終了後の沸騰水型原子力発電プラントの運転開始から次回の定期点検までに再結合器18の触媒層19の上端面におけるSi/Pt重量比(α+Δα)に基づいて次回の定期点検時における再結合器の性能低下率(β’)を算出するので、再結合器18に収納された再結合触媒の寿命を評価することができる。再結合器の性能低下率(β’)が性能劣化率の設定値(β0)よりも小さい場合には、再結合器18の所定の性能が次回の定期点検まで保持されるので、今回の定期点検で再結合器18内の再結合触媒の交換が不要である。再結合器の性能低下率(β’)が性能劣化率の設定値(β0)以上になったときには、再結合器18の所定の性能が次回の定期点検まで維持されず、再結合触媒が次回の運転サイクルにおけるプラントの運転中に寿命になる。このため、再結合器18内の再結合触媒は、今回の定期点検時に新しい再結合触媒と交換しなければならない。このように、本実施例は、次回点検までに再結合器18内の再結合触媒が寿命になるかならないかを精度良く判定することができる。なお、再結合触媒の寿命は、実用的な観点から、再結合器出口の水素濃度が4%−dryになるまでの期間である。
【0103】
性能劣化率の設定値(β0)は、ケイ素量−性能相関(図6)において、再結合性能の低下率100%としても良いし、ある程度の余裕を持たせた値(例えば、80%)としても良い。
【0104】
本実施例のステップS1〜S6を、実施例2で実行されるステップS1,S2、S4A,S5及びS6の各処理(図8参照)に替えても良い。
【実施例4】
【0105】
本発明の他の実施例である実施例4の再結合器の性能評価方法を、図11を用いて説明する。
【0106】
本実施例の再結合器の性能評価方法で用いられる再結合器性能評価装置は、実施例3で用いられる再結合器性能評価装置1Aである。本実施例の再結合器の性能評価方法では、実施例3で実行される処理(図10参照)のうち、ステップS3〜S6の各処理を取り止め、ステップS1の測定及びステップS2の処理がステップS8及びS9の各処理と並行して行われる。
【0107】
診断が開始されたとき(ステップS7)、蛍光X線分析装置を有する非破壊測定装置2による蛍光X線の計測(ステップS1)及びSi/Pt重量比(α)の算出(ステップS2)が行われ、これらと並行して、有機ケイ素化合物濃度を求め(ステップS8)、Si/Pt重量比の増加値Δαを算出する(ステップS9)。その後、実施例3と同様に、ステップS10〜S14の各処理が実行される。
【0108】
本実施例は、実施例3で生じる各効果を得ることができる。
【実施例5】
【0109】
本発明の他の実施例である実施例5の再結合器の性能評価方法を、図12及び図13を用いて説明する。本実施例の再結合器の性能評価方法は、実施例1の再結合器の性能評価方法においてステップS2の処理をステップS2Aの処理に替え、ステップS3の処理をステップS3Aの処理に替えた手順を有する。本実施例の再結合器の性能評価方法における他のステップは、実施例1の再結合器の性能評価方法におけるステップと同じである。ステップS2A及びS3Aの処理内容を中心に本実施例の再結合器の性能評価方法の手順を説明する。本実施例の再結合器の性能評価方法は、再結合器性能評価装置1を用いて実行され、沸騰水型原子力プラントのオフガス系配管15に設置される再結合器18を対象に行われる。再結合器性能評価装置1のデータ処理装置3が、図12に示すステップS2A,S3A及びS4〜S6の各処理を実行する。
【0110】
非破壊測定装置2の蛍光X線分析装置を用いて触媒層の上端面の蛍光X線測定を行なう(ステップS1)。触媒層19の上端部に存在する再結合触媒に付着したSiの重量が、非破壊測定装置2によって定量される。Si/Pt原子数比(γ)を算出する(ステップS2A)。データ処理装置3が、非破壊測定装置2からSi及びPtのそれぞれの原子数を入力し、触媒層19の上端面でのSi/Pt原子数比(γ)を算出する。Si/Pt原子数比(γ)に基づいて再結合器の性能劣化率(β)を求める(ステップS3A)。図13に示すSi/Pt原子数比と再結合器の性能劣化率の相関情報から、算出したSi/Pt原子数比(γ)に基づいて、これに対応する再結合器の性能劣化率(β)を求める。図6に示されたSi/Pt原子数比と再結合器の性能劣化率の相関情報は、データ処理装置3のメモリ(図示せず)に予め登録されている。
【0111】
ステップS3Aで求められた再結合器の性能劣化率(β)が性能劣化率の設定値(β0)より小さいかが判定される(ステップS4)。ステップS4の判定が「YES」であるとき、再結合触媒の使用継続を示す表示情報を作成して出力する(ステップS5)。ステップS4の判定が「NO」であるとき、再結合触媒の交換を示す表示情報を出力する(ステップS6)。表示情報は表示装置4に表示される。
【0112】
Si/Pt重量比の替りにSi/Pt原子数比を求める本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【実施例6】
【0113】
本発明の他の実施例である実施例6の再結合器の性能評価方法を、図14を用いて説明する。本実施例の再結合器の性能評価方法では、実施例1で用いた再結合器性能評価装置1が使用される。本実施例の再結合器の性能評価方法では、再結合器性能評価装置1のデータ処理装置3が、図14に示すステップS2A、S4B,S5及びS6の各処理を実行する。本実施例の再結合器の性能評価方法は、沸騰水型原子力プラントのオフガス系配管15に設置される再結合器18を対象に行われる。
【0114】
実施例1と同様に、S1の非破壊測定装置2による、ステップS1の触媒層18の上端面の蛍光X線測定を行なう。実施例5と同様に、Si/Pt原子数比(γ)を算出する(ステップS2A)。算出されたSi/Pt原子数比(γ)がSi/Pt原子数比の設定値(γ0)より小さいかが判定される(ステップS4B)。ステップS4Bの判定が「YES」であるとき、再結合触媒の使用継続を示す表示情報を作成して出力する(ステップS5)。ステップS4Bの判定が「NO」であるとき、再結合触媒の交換を示す表示情報を出力する(ステップS6)。表示情報は表示装置4に表示される。
【0115】
本実施例は、実施例2で生じる各効果を得ることができる。
【実施例7】
【0116】
本発明の他の実施例である実施例7の再結合器の性能評価方法を、図15を用いて説明する。本実施例の再結合器の性能評価方法では、実施例3で用いた再結合器性能評価装置1Aが使用される。本実施例の再結合器の性能評価方法は、実施例3の再結合器の性能評価方法において、ステップS2の処理をステップS2Aの処理に、ステップS3の処理をステップS3Aの処理に、ステップS9の処理をステップS9Aの処理に、ステップS10の処理をステップS10Aの処理に替えた手順を実行する。本実施例の再結合器の性能評価方法の他のステップでの処理は、実施例3の再結合器の性能評価方法と同じである。本実施例の再結合器の性能評価方法では、再結合器性能評価装置1Aのデータ処理装置3Aが、図15に示すステップS2A,S3A,S4〜S8,S9A,S10A及びS11〜S14の各処理を実行する。本実施例の再結合器の性能評価方法は、沸騰水型原子力プラントのオフガス系配管15に設置される再結合器18を対象に行われる。
【0117】
本実施例の再結合器の性能評価方法においても、実施例1で実行される蛍光X線測定(ステップS1)及び実施例5で実行されるステップS2A,S3A及びS4〜S6の各処理が実行される。実施例3で実行されるステップS7及びS8を実行する。
【0118】
次回の定期点検までに増加するSi/Pt原子数比(Si/Pt原子数比の増加値)を推定する(ステップS9A)。ステップS8で算出した、単位時間当たりの排ガスに含まれる有機ケイ素化合物濃度に基づいて、今回の定期検査終了後の次の運転サイクルにおける沸騰水型原子力発電プラントの起動から再結合器18の次回の定期点検までの期間において、再結合器18の触媒層19の上端面への有機ケイ素化合物(例えば、D5)のさらなる蓄積により増加するSi/Pt原子数比(Si/Pt原子数比の増加値Δγ)を推定する。具体的には、単位時間当たりの排ガスに含まれる有機ケイ素化合物の濃度を用いて、触媒層19の上端面に存在する再結合触媒の表面に、単位時間当たりに蓄積するSi/Pt原子数比(蓄積速度)を推定し、この蓄積速度に次回の定期点検までの時間を掛けることによって、Si/Pt原子数比の増加値Δγが得られる。このため、次回の再結合器18の定期点検時におけるSi/Pt原子数比は、(γ+Δγ)と予測される。
【0119】
Si/Pt原子数比(γ+Δγ)に基づいて次回の定期検査における再結合器の性能低下率(β’)を算出する(ステップS10)。図13に示すSi/Pt原子数比と再結合器の性能劣化率の相関から、算出したSi/Pt原子数比(γ+Δγ)に基づいて、これに対応する再結合器の性能劣化率(β’)を求める。ステップS11の判定が「YES」になり、再結合触媒の使用継続を示す表示情報を作成して出力する(ステップS12)。ステップS11の判定が「NO」になり、再結合触媒の交換を示す表示情報を作成して出力する(ステップS13)。表示情報は表示装置4に表示される。
【0120】
本実施例は、実施例3で生じる各効果を得ることができる。
【実施例8】
【0121】
本発明の他の実施例である実施例8の再結合器の性能評価方法を、図16を用いて説明する。本実施例の再結合器の性能評価方法では、実施例3で用いた再結合器性能評価装置1Aが使用される。本実施例の再結合器の性能評価方法は、実施例4の再結合器の性能評価方法において、ステップS2の処理をステップS2Aの処理に、ステップS9の処理をステップS9Aの処理に、ステップS10の処理をステップS10Aの処理に替えた手順を実行する。本実施例の再結合器の性能評価方法の他のステップでの処理は、実施例3の再結合器の性能評価方法と同じである。本実施例の再結合器の性能評価方法では、再結合器性能評価装置1Aのデータ処理装置3Aが、図16に示すステップS2A,S7,S8,S9A,S10A及びS11〜S14の各処理を実行する。本実施例の再結合器の性能評価方法は、沸騰水型原子力プラントのオフガス系配管15に設置される再結合器18を対象に行われる。
【0122】
診断が開始されたとき(ステップS7)、蛍光X線分析装置を有する非破壊測定装置2による蛍光X線の計測(ステップS1)及びSi/Pt原子数比(γ)の算出(ステップS2A)が行われ、これらと並行して、有機ケイ素化合物濃度を求め(ステップS8)、Si/Pt原子数比の増加値Δγを算出する(ステップS9A)。その後、実施例7と同様に、ステップS10A,S11〜S14の各処理が実行される。
【0123】
本実施例は、実施例3で生じる各効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0124】
1,1A…再結合器性能評価装置、2…非破壊測定装置、3,3A,27…データ処理装置、10…原子炉圧力容器、11…低圧タービン、12…復水器、15…オフガス系配管、16…空気抽出器、18…再結合器、19…触媒層、25…ケイ素濃度測定装置、26…ケイ素濃度測定器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器から排出された蒸気を凝縮する復水器から排気されたガスが供給される、内部に触媒層を有する再結合器の性能を評価する方法であって、
前記触媒層の上流側端部に存在する再結合触媒に付着しているケイ素の量を、非破壊測定装置により求め、このケイ素量、及び前記非破壊測定装置により求められた、前記上流側端部に存在する前記再結合触媒の触媒成分の量に対する前記ケイ素量の比率のいずれかを用いて、前記再結合器の性能を評価することを特徴とする再結合器の性能評価方法。
【請求項2】
前記再結合器の性能評価は、前記ケイ素量及び前記比率のいずれかを用いて前記再結合器の再結合性能の第1低下率を求め、この再結合性能の第1低下率に基づいて行う請求項1に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項3】
前記再結合性能の第1低下率は、前記ケイ素量及び前記比率のいずれかと前記第1低下率の相関を示す相関情報を用いて求められる請求項2に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項4】
前記非破壊測定装置として蛍光X線分析装置を用い、前記蛍光X線分析装置から前記上流側端部に存在する前記再結合触媒にX線を照射し、このX線照射によって前記再結合触媒で発生する蛍光X線を前記蛍光X線分析装置によって検出し、前記蛍光X線分析装置が、前記蛍光X線の検出信号に基づいて、前記再結合触媒に付着している前記ケイ素量を求める請求項1ないし3のいずれか1項に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項5】
前記再結合器の性能評価を、前記比率を用いて行うとき、前記再結合触媒の前記触媒成分の量が、前記蛍光X線分析装置によって、前記蛍光X線の前記検出信号に基づいて求められる請求項4に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項6】
前記再結合触媒の触媒成分の量に対する前記ケイ素量の比率は、前記触媒成分の重量に対する前記ケイ素の重量の割合である重量比、及び前記触媒成分の原子数に対する前記ケイ素の原子数の割合である原子数比のいずれかである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項7】
前記第1低下率が設定低下率よりも小さいとき、再結合触媒の使用継続を示す第1表示情報を作成し、前記第1低下率が前記設定低下率以上であるとき、再結合触媒の交換を示す第2表示情報を作成する請求項1ないし6のいずれか1項に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項8】
前記再結合性能の第1低下率が設定低下率よりも小さいとき、前記再結合器に供給される前記ガスに含まれるケイ素化合物の濃度を求め、前記ケイ素化合物の濃度に基づいて、前記再結合器の今回定期点検から前記再結合器の次回定期点検までの期間における前記ケイ素量及び前記比率のいずれかの増加量を求め、この増加量を用いて前記次回定期点検における前記ケイ素量及び前記比率のいずれかの前記増加量を用いて前記再結合器の再結合性能の第2低下率を求め、前記再結合器の性能評価を、前記第2低下率に基づいて再度行う請求項1ないし4のいずれか1項に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項9】
前記第1低下率が前記設定低下率以上であるとき、再結合触媒の交換を示す第2表示情報を作成する請求項8に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項10】
前記第2低下率が前記設定低下率よりも小さいとき、再結合触媒の使用継続を示す第1表示情報を作成し、前記第2低下率が前記設定低下率以上であるとき、前記第2表示情報を作成する請求項8または9に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項11】
原子炉圧力容器から排出された蒸気を凝縮する復水器から排気されたガスが供給される、内部に触媒層を有する再結合器の性能を評価する方法であって、
前記触媒層の上流側端部に存在する再結合触媒に付着しているケイ素の量を、非破壊測定装置により求め、
前記非破壊測定装置により求められた、前記上流側端部に存在する前記再結合触媒の触媒成分の量に対する前記ケイ素量の比率を求め、
前記再結合器に供給される前記ガスに含まれるケイ素化合物の濃度を求め、
前記ケイ素化合物の濃度に基づいて、前記再結合器の今回定期点検から前記再結合器の次回定期点検までの期間における前記比率の増加量を求め、
前記求められた比率、及び前記求められた増加量に基づいて、前記再結合器の再結合性能の低下率を求め、
前記低下率に基づいて、前記再結合器の性能を評価することを特徴とする再結合器の性能評価方法。
【請求項12】
前記非破壊測定装置として蛍光X線分析装置を用い、前記蛍光X線分析装置から前記上流側端部に存在する前記再結合触媒にX線を照射し、このX線照射によって前記再結合触媒で発生する蛍光X線を前記蛍光X線分析装置によって検出し、前記蛍光X線分析装置が、前記蛍光X線の検出信号に基づいて、前記再結合触媒に付着している前記ケイ素量を求める請求項11に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項13】
前記低下率が設定低下率よりも小さいとき、再結合触媒の使用継続を示す第1表示情報を作成し、前記低下率が前記設定低下率以上であるとき、再結合触媒の交換を示す第2表示情報を作成する請求項11または12に記載の再結合器の性能評価方法。
【請求項14】
再結合機内の触媒層の上流側端部に存在する再結合触媒にX線を照射し、このX線照射によって前記再結合触媒で発生する蛍光X線を検出し、この蛍光X線の検出信号に基づいて、前記再結合触媒の触媒成分の量、及び前記再結合触媒に付着している前記ケイ素量を求める蛍光X線分析装置と、
前記触媒成分の量に対する前記ケイ素量の比率を用いて、前記再結合器の性能を評価するデータ処理装置と、
前記データ処理装置で得られた評価結果の情報を表示する表示装置と
を備えたことを特徴とする再結合器性能評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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