説明

写真感光材料用ポリエステルフィルム及び写真感光材料

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、共重合ポリエステルフイルムに関するものであり、特に本発明は、写真感光材料の支持体またはカバー層として有用な透明性・吸水性・機械的特性に優れた写真感光材料用ポリエステルフイルムおよび写真感光材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】写真感光材料としては、X線用フイルム、製版用フイルム及びカットフイルムの如くシート状の形態のものと、ロールフイルム状のものがある。ロールフイルムの代表的なものは、35mm幅またはそれ以下の幅でパトローネ内に収められており、一般のカメラに装填して撮影に用いるカラーまたは白黒ネガフイルムである。
【0003】写真感光材料は一般的に、プラスチックフイルム支持体上に少なくとも1層の写真感光性層を塗布することによって製造される。このプラスチックフイルムとしては一般的にトリアセチルセルロース(以下「TAC」と記す)に代表される繊維系のポリマーとポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と記す)に代表されるポリエステル系のポリマーが使用されている(繊維と工業,41(9),329−324)。
【0004】TACフイルムは、主溶媒として塩化メチレンを用いた溶液製膜法で作られ、光学的異方性が小さく、透明性・平面性に優れたフイルムである。また、適度な吸水性を有するため現像処理後のカール解消性にも優れた性質を有する。すなわちロールフイルムとして巻かれた状況で経時されることによってフイルムには巻きぐせカールが生じるが、現像処理における吸水で分子鎖の運動性が増し、巻き経時で固定化された分子鎖が再配列を起こす結果、巻きぐせカールが解消するわけである。
【0005】TACフイルムのような巻きぐせカール回復性を有さないフイルムを用いた写真感光材料では、ロール状態で用いられた際に、例えば現像後写真印画紙に画像を形成させる焼き付け工程等で、すり傷の発生、焦点ぼけ、搬送時のジャミング等の問題が生じてしまう。従って、写真感光材料としてTACフイルムは広く用いられてきた。
【0006】ところが、近年、写真用感光材料の用途は多様化しており、撮影時のフイルム巻出しの高速化、撮影倍率の高倍率化、撮影装置の小型化が著しく進んでいる。そのため写真感光材料用の支持体としては、機械的特性、寸法安定性、薄膜化等の性質が要求されてきた。
【0007】二軸延伸したPETフイルムは、優れた透明性・機械的特性・寸法安定性を有しており、フイルムの薄膜化が必要なマイクロフイルムや、寸法安定性が厳しく要求される印刷感材では、TACフイルムに代ってPETフイルムが用いられている。ところがPETフイルムの場合、吸水性が小さいため、TACフイルムのような巻きぐせカール回復性が小さいため現像処理後の取扱い性が悪く、上記の優れた特性がありながらその使用範囲が限定されていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】すなわち本発明における課題は、PETフイルム並の透明性・機械的特性・寸法安定性を維持しながら、TACフイルムなみの吸水性、延いてはTAC並の巻きぐせカール回復性を有する写真感光材料用ポリエステルフイルムおよび写真感光材を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するたの手段】本発明は、かかる課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、フィルムを構成するポリエステルのジカルボン酸共重合成分が、金属スルホネートを有する芳香族ジカルボン酸及び/又はその誘導体と、(a)式で示される平均分子量600〜20000のポリエーテルジカルボン酸及び/又はその誘導体とを含むことを特徴とする写真感光材料用ポリエステルフイルムである。
1 OOCCH2 −(O−R2 )n −OCH2 COOR3 (a)(R1 、R3 :Hまたは炭素数1〜8のアルキル基、R2 :炭素数2〜8のアルキレン基、n:正の整数)。
【0010】本発明に好ましく用いられる共重合ポリエステルフイルムは、金属スルホネートを有する芳香族ジカルボン酸成分を共重合成分とした共重合ポリエステルフイルムからなるものである。
【0011】前記金属スルホネートを有する芳香族ジカルボン酸としては、具体的には、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2ーナトリウムスルホテレフタル酸、4ーナトリウムスルホフタル酸、4ーナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸およびこれらのナトリウムを他の金属、例えばカリウム、リチウムなどで置換した化合物を挙げることができる。金属スルホネートを有する芳香族ジカルボン酸成分の共重合割合としては、反応生成物のポリエステルに対して2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%、特に好ましくは7〜12重量%である。
【0012】本発明に用いる共重合ポリエステルフイルムには、更に(a)式で示されるポリエーテルジカルボン酸成分が共重合されていることが、フイルムに透明性、寸法安定性、機械的強度を付与する点で好ましい。このポリエーテルジカルボン酸の平均分子量は、600〜20000が好ましく、更には1000〜15000、特には2000〜10000の範囲にあるものが好ましい。平均分子量が600以下の場合吸水性が不十分となり、巻きぐせ回復性を十分に得ることができない。TACフイルム並の巻きぐせ回復性を得るには、ポリエーテル鎖長が長い方が良いが、20000以上の分子量では逆にフイルムの透明性や剛性が低下するため好ましくない。ポリエーテルジカルボン酸としては、ポリエチレンオキシジカルボン酸、ポリテトラメチレンオキシジカルボン酸が好ましいが、ポリエステルの重合反応性やフイルムの寸法安定性の点で特に(b)式で示されるポリエチレンオキシジカルボン酸がより好ましい。
【0013】
1 OOCCH2 −(O−CH2 CH2 )n −OCH2 COOR2 (b)
(R1 、R2 :Hまたは炭素数1〜8のアルキル基、n:正の整数)また、ポリエーテルジカルボン酸成分の共重合割合としては、反応生成物のポリエステルに対して2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%、特に好ましくは7〜12重量%である。
【0014】本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムの含水率の測定は、該フイルムを23℃、30%RH、3時間の条件で調湿した後、23℃の蒸留水に15分間浸漬させ、しかる後に微量水分計(たとえば、三菱化成(株)製CA−20型)を用い乾燥温度150℃で行なう。
【0015】本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムは、かかる方法で測定された含水率が0.5重量%以上である点に特徴があり、好ましくは0.6〜5.0重量%である。含水率が0.5重量%未満であると現像処理後の巻きぐせカール回復性が良化せず、逆に含水率が大き過ぎると、吸湿による寸法安定性が悪化する。
【0016】本発明において、ポリエステルとは、芳香族二塩基酸とグリコールを主要な構成成分とするポリエステルであり、二塩基酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。また、グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。これらの成分からなるポリエステルの中でも耐熱性、機械的強度、寸法安定性等の点から、ポリエチレンテレフレート、シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0017】本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムのガラス転移温度は、50℃以上が好ましく、更に好ましくは60℃以上である。ただし、これは25℃50%RHの雰囲気におかれたフイルムを示差走査熱量計で測定したものである。ガラス転移温度が50℃より低いと、例えば夏場の高温下でフイルムが変形する恐れがあるため好ましくない。また、ガラス転移温度が高い方がもちろん耐熱性は向上するが、巻き癖回復性が低下していくため吸水性を向上させて吸水時のガラス転移温度を低下させる必要がある。吸水時のガラス転移温度は、フイルムを38℃の蒸留水中に30分間浸漬した直後に示差走査熱量計で測定したものであり、好ましくは60℃以下、更に好ましくは50℃以下である。
【0018】なお、本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムにおいては、透明性、機械的特性を阻害しない範囲の小割合であれば、更に他の酸性分あるいはグリコール成分を共重合せしめることも可能である。たとえば、ジカルボン酸として、セバシン酸、エイコ酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸等の炭素数が8〜60のアルキレン基を有する長鎖脂肪族ジカルボン酸、グリコール成分として分子量が600〜20000のポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールといったポリアルキレングリコール等が挙げられ、0〜10重量%共重合せしめることができる。
【0019】本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムのヘイズ値は5%以下であり、好ましくは2%以下である。ヘイズ値が5%を越えるとフイルムを写真感光材料として用いた場合、画像がぼけてしまい不鮮明になるという問題がある。
【0020】ポリエステルフイルムを写真感光材料として使用する際に問題となる性質の一つに支持体が高屈折率であるために発生するライトパイピング現象がある。TACフイルムの場合屈折率は1.5と小さいのに対して、たとえばポリエステルフイルムの屈折率は1.6程度と高い。一方、下びき層ならびに写真乳剤層にもっぱら用いられるゼラチンの屈折率は1.50〜1.55であり、ゼラチンの屈折率の比をとるとTACフイルムの場合1.50〜1.55/1.5と1より大きいため問題ないが、ポリエステルフイルムでは、1.5/1.6と1より小さく、光がフイルムエッジから入射したとき、ベースフイルムと乳剤層の界面で反射しやすい。このためライトパイピング現象を起こしてしまうわけである。
【0021】このようなライトパイピング現象を回避する方法としてはフイルムに不活性無機粒子等を含有させる方法ならびに染料を添加する方法等が知られている。本発明において好ましいライトパイピング防止方法はフイルムヘイズを著しく増加させない染料添加による方法である。
【0022】フイルム染色に使用する染料については特に限定を加えるものではないが色調は感光材料の一般的な性質上グレー染色が好ましく、また染料はポリエステルフイルムの製膜領域での耐熱性に優れ、かつポリエステルとの相溶性に優れたものが好ましい。
【0023】染料としては、上記観点から三菱化成(株)製のDiaresin、日本化薬(株)製のKayaset等ポリエステル用として市販されている染料を混合することによって目的を達成することが可能である。
【0024】染色濃度に関しては、マクベス社製の色濃度計にて可視領域での色濃度を測定し少なくとも0.01以上であることが必要である。更に好ましくは0.03以上である。
【0025】本発明による写真感光材料用ポリエステルフイルムには、用途に応じて易滑性を付与することも可能であり、易滑性付与手段としては特に限定を加えるところではないが、不活性無機化合物の練り込み、あるいは界面活性剤の塗布等が一般的手法として用いられる。
【0026】かかる不活性無機粒子としては、SiO2 、TiO2 、BaSO4 、CaCO2 、タルク、カオリン等が例示される。また、上記のポリエステル合成反応系に不活性な粒子を添加する外部粒子系による易滑性付与以外にポリエステルの重合反応時に添加する触媒等を析出させる内部粒子系による易滑性付与方法も採用可能である。
【0027】これら易滑性付与手段には特に限定を加えるものではないが、写真感光材料用支持体としては透明性が重要な要件となるため、上記易滑性付与方法では外部粒子系としてはポリエステルフイルムと比較的近い屈折率をもつSiO2 、あるいは析出する粒子径を比較的小さくすることが可能な内部粒子系を選択することが望ましい。
【0028】更には、練り込みによる易滑性付与を行なう場合、よりフイルムの透明性を得るために機能付与した層を積層する方法も好ましい。この手段としては具体的には複数の押出機ならびにフィールドブロック、あるいはマルチマニフォールドダイによる共押出法が例示される。
【0029】本発明においては、共重合比によっては下びき層を設ける際の熱処理にて低重合物の析出が問題となる場合があるが、その際、該支持体の少なくとも片面に通常のポリエステル層を積層することが可能でありその際にも、共押出法が有効な手段として用いられる。
【0030】本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムの150℃、30分における熱収縮率は2%以下が好ましく、更に好ましくは1.5%以下である。TACフイルムやPETフイルムの熱収縮率は、2%以下と小さいのに対して、共重合ポリエステルフイルムの熱収縮率は一般に大きくなる傾向があるが、本発明の共重合ポリエステルフイルムの熱収縮率はPETフイルム以下であることが大きな特徴である。フイルムを写真感光材料用支持体として使用する場合、疎水性であるポリエステルフイルムやTACフイルムに親水性の乳剤層(ゼラチンバインダー)を直接塗布しても必要な接着力は得られない。そこで通常フイルムには下塗層を付与しているが、この工程ではフイルムに約150℃の熱がかけられる。また、塗布した乳剤の乾燥工程は100〜150℃で加熱される。フイルムがこれらの工程で変形・伸縮しないことが好ましく、すなわちフイルムに熱寸法安定性が求められるわけである。
【0031】また、本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムの引裂伝播抵抗が500g/mm以上が好ましく、更に好ましくは800g/mm以上である。通常TACフイルムの引裂伝播抵抗は200〜400g/mm程度と小さく手で引き裂ける程度であるが、この特性が例えば映画用フイルムの編集作業では必要であったが、逆にこれがパーフォレーションの打ち抜き時の引き裂けの原因ともなった。従って、通常の写真用フイルムとしては、引裂伝播抵抗は高い値が求められるわけである。
【0032】また、本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムの破断強度は、8kg/mm2 以上であり好ましくは13kg/mm2 以上である。さらにヤング率は、300kg/mm2 以上であり、好ましくは350kg/mm2 以上である。これら機械的強度が低下すると、フイルムがカメラ内での巻取時や機械による自動現像・焼き付け時に外力によって容易に変形あるいは破断してしまうおそれがあるわけである。本発明の共重合ポリエステルフイルムの原料ポリマーの合成法は従来公知のポリエステルの製造方法にしたがって製造できる。例えば酸性分をグリコール成分と直接エステル化反応するか、または酸性分としてジアルキルエステルを用いる場合はグリコール成分とでエステル交換反応し、これを減圧下に加熱して余剰のグリコール成分を除去することにより、共重合ポリエステルを得ることができる。この際必要に応じてエステル交換反応触媒あるいは重合反応触媒を用い、あるいは耐熱安定剤を添加することができる。もちろん実用上、着色防止剤、酸化防止剤、結晶核剤、すべり剤、ブロッキング防止剤、粘度調節剤、消泡剤、透明化剤、帯電防止剤などを添加させてもよい。
【0033】前記にて得られた共重合ポリエステルは一般に粒状に成型し、乾燥後溶融し、Tダイより押し出しして、未延伸シートとする。溶融ポリエステルシートを冷却ロールに接触させる際は、静電印加冷却法を適応することが好ましい。
【0034】得られた未延伸シートをそのまま使用することもできるがシートがTダイから押し出される時にシート表面にすじが発生するため、写真用フイルムとして使うとすじによって画像が歪んでしまう。そこで、シートの表面を平滑化することが好ましい。例えば押し出された溶融状態のフイルムをキャストドラムと付設の冷却ロール、あるいはキャストドラムと金属製のエンドレスベルトで圧着して冷却するのがよい。その際に、キャストドラムだけでなく、付設の冷却ロール、あるいは、金属製のエンドレスベルトの表面は平滑であること、すなわち冷却体表面の最大粗さは0.2S以下と平滑であることが求められ、また十分に冷却することによって、フイルムの両面を急冷してその結晶化を防止しできる。
【0035】又、別の手法として、0.2S以下の平滑なドラムにキャストしたフイルムの非ドラム面をガラス転移以上に加熱した付設のロールで圧着し、冷却ロールで急冷しても良い。
【0036】更に、押し出された溶融状態のポリマーを0.2S以下の表面の平滑な2本のロールの間にバンクとして溜め、ロールの間から押し出して、カレンダリングしても良い。
【0037】又、押し出された溶融状態のポリマーを0.2S以下の平滑な金属製のエンドレスベルト上にキャストし、そのエンドレスベルトと別の平滑な金属製のエンドレスベルトで加熱、圧着し、急冷しても良い。
【0038】フイルムに機械的強度を付与するには、Tダイより押し出しした未延伸シートをさらに2軸延伸するのがよい。二軸延伸の場合、逐次二軸延伸法または同時二軸延伸法を用いることができるが、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行なう逐次二軸延伸法が好ましい。このとき、未延伸シートに発生したすじは延伸工程で消滅させることができるため、前述のようにシート表面を平滑化しなくてもよい。
【0039】延伸温度は、ガラス転移温度〜冷結晶化温度の範囲で行なうのがよいが、本発明においては長手方向の場合60〜100℃、幅方向の延伸の場合70〜150℃であることが望ましい。延伸倍率は通常2.0〜5.0倍が適当である。フイルムの強度を高めるためには、製膜性が低下しない範囲内で延伸倍率を高くした方がよく、好ましくは3.5倍以上、特に好ましくは4.0倍以上にである。また、縦、横延伸後、縦、横のいずれかに再延伸してもかまわない。
【0040】フイルムの引裂伝播抵抗を向上させるためには延伸倍率を高倍率にして長手方向及び横方向をバランスさせることが望ましく、好ましくは3.4倍以上、特に好ましくは3.8倍以上で、長手方向と横方向の延伸倍率の差が0.7以下が好ましく、更に好ましくは0.5以下である。
【0041】更に、延伸したフイルムに熱処理を施しても良い。この場合の熱処理条件としては、定長下、弛緩状態、微延伸状態のいずれでもよく、本発明のポリエステルフイルムの場合、150〜225℃好ましくは170〜220℃の範囲で0.5〜60秒間が好適である。特に、本発明の場合、製膜性が低下しない範囲内で熱処理温度は高い方がよく、これによって150℃の熱収縮率が低下し、更には巻き癖回復性を向上させることができる。
【0042】特に本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムの場合、高倍率で延伸を行なった後、高温で熱処理することにより、破断強度及び引裂伝播抵抗をバランスよく高めることができ、しかも低熱収縮性、巻き癖回復性も良好となる。
【0043】本発明の共重合ポリエステルフイルムの厚さとしては特に限定しないが、延伸フイルムの場合、3〜360μm、無延伸フイルムの場合、50〜2000μmのものが好んで用いられる。写真フイルムの用途分野の場合、25〜250μが望ましく、更に望ましくは40〜150μの厚みが採用される。
【0044】本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムは接着性向上およびコーティング液のぬれ特性を改良するため、フイルムにコロナ放電処理、薬液処理、火炎処理などの各種表面処理を必要に応じて施すことができる。本発明ではコロナ放電処理が好ましい。
【0045】本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムは、写真感光材料として利用する際に、ポリエステルフイルムとその上に塗設される感光性層等の写真層との接着力を増すために必要な下塗層、更には帯電防止性、アンチハレーション性、カールバランス、滑り性、耐傷性等の機能を持たせるためのバッキング層の付与、乳剤層その他のコーティング等の適用は周知のものを用いてよい。
【0046】本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムは、写真感光材料の支持体またはカバー層として好適に用いることができる。
【0047】
【物性の測定方法】(1) ガラス転移温度、冷結晶化温度ポリエステルフイルム10mgを、示差走査型熱量計にセットし、窒素気流下で20℃/minの速度で昇温していき、ベースラインが偏奇し始める温度と、新たなベースラインに戻る温度との平均値をガラス転移温度とした。また、結晶化に伴う発熱ピーク温度を冷結晶化温度とした。
【0048】(2) フイルムヘイズフイルムヘイズは、ASTM−D1003−52に従って測定した。
【0049】(3) 含水率ポリエステルフイルムを23℃、30%RH、3時間の条件で調湿した後、23℃の蒸留水に15分間浸漬させ、しかる後に微量水分計(たとえば、三菱化成(株)製CA−20型)を用い乾燥温度150℃で行なった。
【0050】(4) 熱収縮率10mm幅250〜300mm長さのフイルムサンプルを200mm間隔にマーキングし、サンプル支持板に一定張力下で固定し、万能投影機(日本光学製V16A)を用いてマーキング間隔の原長を測長した。測長したサンプルに3gのクリップを用いて荷重をかけ、150℃に設定した熱風オーブン中で回転させながら処理した。処理したサンプルは、原長を測定した雰囲気下に2時間放置後、原長測定法と同様にマーキング間隔を測長して収縮率を求めた。
【0051】(5) 引裂伝播抵抗軽荷重式引裂試験機(東洋精機(株)製))を用いて、ASTM−D−1922に従って測定した。サンプルサイズは、51×64mmで13mmの切れ込みを入れ、残り51mmを引き裂いた時の指示値を読み取った。
【0052】(6) 巻き癖カール回復性ポリエステルフイルムを横方向35mm、長手方向135mmの大きさにサンプリングし、直径10mmの巻芯に巻き付け、70℃、30%RH、72時間の処理を行ない、その後巻芯から開放し38℃の蒸留水に30分間浸漬後、30gの張力をかけた状態で、50℃の熱風オーブン中で5分間乾燥する。処理したフイルムサンプルを平面上に置いた時に形成される円筒の直径を測定した。巻き癖カール回復性は、以下の5段階で評価した。
5:フイルムがカールせず、平らになった4:円筒直径が60mm以上3:円筒の直径が40〜60mm2:円筒の直径が20〜40mm1:円筒の直径が20mm未満(7) 破断強度・ヤング率JIS−Z1702−1976に準じて、幅10mm、長さ100mmの短冊片で、引張り速度は破断強度の測定の際には300mm/分、初期弾性率は20mm/分で測定した。
【0053】
【実施例】次に本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
【0054】実施例1テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール70重量部、5ーナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル10重量部、平均分子量4000のポリエチレンオキシジカルボン酸10重量部に、酢酸カルシウム0.1重量部および三酸化アンチモン0.03重量部を添加し、常法によりエステル交換反応を行なった。得られた生成物にリン酸トリメチルエステル0.05重量部を添加し、徐々に昇温、減圧し、最終的に280℃、1mmHg以下で重合を行ない固有粘度IV=0.9の共重合ポリエステルを得た。
【0055】共重合ポリエステルを常法で乾燥した後、280℃で溶融押出し、未延伸シートを作成した。次いで、80℃で縦方向に3.8倍、85℃で横方向に4.0倍逐次延伸した後、210℃で5秒間熱固定して厚さ100μmの2軸延伸フイルムを得た。
【0056】実施例2テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール70重量部、5ーナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル10重量部、平均分子量4000のポリテトラメチレンオキシジカルボン酸5重量部、アジピン酸ジメチル5重量部に、酢酸カルシウム0.1重量部および三酸化アンチモン0.03重量部を添加し実施例1と同様に共重合ポリエステルを作成し、更にシート化し、85℃で縦方向に3.6倍、90℃で横方向に4.0倍逐次延伸した後、200℃で5秒間熱固定して厚さ100μmの2軸延伸フイルムを得た。
【0057】実施例3テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール70重量部、5ーナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル10重量部、平均分子量6000のポリエチレンオキシジカルボン酸5重量部、平均分子量1000のポリエチレングリコール5重量部に、酢酸カルシウム0.1重量部および三酸化アンチモン0.03重量部を添加し実施例1と同様に共重合ポリエステルを作成し、更にシート化し、85℃で縦方向に3.6倍、90℃で横方向に4.0倍逐次延伸した後、200℃で5秒間熱固定して厚さ100μmの2軸延伸フイルムを得た。
【0058】比較例1常法により固有粘度IV=0.65のポリエチレンテレフタレートを作成し、更にシート化し、90℃で縦方向に3.5倍、95℃で横方向に3.8倍逐次延伸した後、220℃で5秒間熱固定して厚さ100μmの2軸延伸フイルムを得た。
【0059】比較例2テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール70重量部、5ーナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル10重量部、平均分子量4000のポリエチレングリコール10重量部に、酢酸カルシウム0.1重量部および三酸化アンチモン0.03重量部を添加し実施例1と同様に共重合ポリエステルを作成し、更にシート化し、85℃で縦方向に3.6倍、90℃で横方向に4.0倍逐次延伸した後、200℃で5秒間熱固定して厚さ100μmの2軸延伸フイルムを得た。
【0060】比較例3テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール70重量部、5ーナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル10重量部、アジピン酸ジメチル10重量部に、酢酸カルシウム0.1重量部および三酸化アンチモン0.03重量部を添加し実施例1と同様に共重合ポリエステルを作成し、更にシート化し、85℃で縦方向に3.6倍、90℃で横方向に3.8倍逐次延伸した後、200℃で5秒間熱固定して厚さ100μmの2軸延伸フイルムを得た。
【0061】表1に実施例1〜3、比較例1〜3及びTACフイルムの物性を示す。比較例1では、吸水性が低く、巻癖カール回復がみられず、また比較例2では巻癖カール回復性は比較的良好であるものの熱寸法安定性が不十分であった。比較例3では、巻ぐせカール回復性・熱寸法安定性とも不十分であった。これに対し、実施例1〜3では、透明性・機械的特性・熱寸法安定性・巻癖カール回復性に優れたフイルムが得られ、これらのフイルムは、写真感光材料などのフイルム支持体として有用であった。
【0062】
【表1】


【0063】
【発明の効果】本発明の写真感光材料用ポリエステルフイルムは、透明性・吸水性・機械的特性・耐熱性に優れた共重合ポリエステルフイルムであり、写真感光材料の支持体またはカバー層として利用する場合、従来のTACフイルムより薄膜化が可能となり、撮影装置の小型化・巻出しの高速化等を実現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フィルムを構成するポリエステルのジカルボン酸共重合成分が、金属スルホネートを有する芳香族ジカルボン酸及び/又はその誘導体と、(a)式で示される平均分子量600〜20000のポリエーテルジカルボン酸及び/又はその誘導体とを含むことを特徴とする写真感光材料用ポリエステルフイルム。
1 OOCCH2 −(O−R2 )n −OCH2 COOR3 (a)(R1 、R3 :Hまたは炭素数1〜8のアルキル基、R2 :炭素数2〜8のアルキレン基、n:正の整数)
【請求項2】 ポリエステルに対して、金属スルホネートを有する芳香族ジカルボン酸及び/又はその誘導体が2〜20重量%、ポリエーテルジカルボン酸が2〜20重量%であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の写真感光材料用ポリエステルフイルム。
【請求項3】 ポリエーテルジカルボン酸が(b)式で示されるポリエチレンオキシジカルボン酸であることを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の写真感光材料用ポリエステルフイルム。
1 OOCCH2 −(O−CH2 CH2 )n −OCH2 COOR2 (b)
(R1 、R2 :Hまたは炭素数1〜8のアルキル基、n:正の整数)
【請求項4】 ポリエステルフイルムが二軸配向され、フイルムのヘイズ値が5%以下で、かつ含水率が0.5%以上であり、150℃における熱収縮率が2%以下であることを特徴とする特許請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載の写真感光材料用ポリエステルフイルム。
【請求項5】 ポリエステルフイルムの引裂伝播抵抗が500g/mm以上であり、ガラス転移温度が50℃以上であることを特徴とする特許請求の範囲第1〜4項のいずれかに記載の写真感光材料用ポリエステルフイルム。
【請求項6】 特許請求の範囲第1〜5項のいずれかに記載のポリエステルフイルムを支持体として、そのポリエステルフイルム上に少なくとも1層の感光性層を有してなることを特徴とする写真感光材料。

【特許番号】特許第3082246号(P3082246)
【登録日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【発行日】平成12年8月28日(2000.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−405258
【出願日】平成2年12月21日(1990.12.21)
【公開番号】特開平4−220329
【公開日】平成4年8月11日(1992.8.11)
【審査請求日】平成9年9月29日(1997.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【参考文献】
【文献】特開 昭58−173121(JP,A)
【文献】特開 平1−244446(JP,A)
【文献】特開 平2−175720(JP,A)
【文献】特開 平1−236247(JP,A)
【文献】特開 昭58−32632(JP,A)
【文献】特開 平4−235037(JP,A)
【文献】特開 平3−215550(JP,A)
【文献】特開 平4−131239(JP,A)