説明

冶金原料用造粒物の製造方法

【課題】粉砕が容易にできると共に乾燥の負荷を少なくすることができ、造粒物製造コストを抑制するのに有効な冶金原料用造粒物の製造方法を提案することにある。
【解決手段】高湿分を有する炭素含有湿ダストおよび/またはスラッジと、それより湿分が低い金属酸化物含有原料とをまず混合し、次いで、粉砕処理し、その後、塊成化処理する冶金原料用造粒物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金原料用造粒物の製造方法に関し、とくに回転炉床炉もしくはシャフト炉等の冶金炉にて還元金属を製造するときの原料となる造粒物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所等では、大量のダストやスラッジが発生する。このダストやスラッジは、FeやCr、Znなどの有用な金属、それらの酸化物や水酸化物を含有すると共に、炭素分である固体還元材をも含有しており、有用な資源の1つである。
【0003】
このようなダストやスラッジからは、これらを加熱することによって、脱水ならびに還元反応を経て、各種の有用な金属の回収ができる。その回収技術としては、非特許文献1に記載されているような方法が知られている。この方法は、前記のダストやスラッジを、回転炉床炉やシャフト炉などで加熱、還元することにより、鉄などの蒸気圧の低い金属は固体のまま、亜鉛や鉛など蒸気圧の高い金属は蒸気もしくはヒューム状のダストとして、回収する方法である。
【非特許文献1】「新日鉄技報」(2002年3月、第25ページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記回転炉床炉やシャフト炉に装入される原料は、一部を除いて造粒物を用いるのが普通である。冶金用原料となるその造粒物は、炉内での還元反応をよくするためには、ダストおよびスラッジの場合、被還元酸素量を分母とし、炭素量の物質量を分子としたときの炭素分比率を、0.6〜1.2程度に制御することが有効であると言われている。
【0005】
一般に、ダストやスラッジは、炭素分の含有率が高く、前記炭素分比率が1.2を超えている。そこで従来、このダスト、スラッジを使う場合、被還元酸素分を多く含む鉄鉱石やミルスケールなどを共に配合して、前記炭素分比率を低下させる処理を行うのが普通である。
【0006】
かかる造粒物を製造する方法としては、従来、ブリケッティングもしくはペレタイジングが一般的であり、その粒径は5mm以下の小粒径で不均一なものが望ましい。しかし、例えば、鉄鉱石、とくに焼結鉱用の鉄鉱石は、比較的粒度が粗く、粉砕しなければ、適切な粒度および粒度分布のものにすることができない。
【0007】
ところが、こうした鉄鉱石などは硬度が高く、ミルを使用して粉砕する場合、損耗がはげしく、ミルの交換を頻繁に行わなければならず、コストの増大を招くので、この問題の解決が求められている。
【0008】
また、湿式処理されたダスト、即ち、湿ダストやスラッジは、湿分(水分)が多いのが普通である。しかし、冶金炉用原料としては、約10mass%未満の水分量にした方が造粒性に優れることが知られている。また、水分を低下することで、冶金炉の燃料原単位を低下することも知られている。そのため、この湿ダストやスラッジを使う場合、従来、乾燥をすることが多いが、この湿ダストやスラッジはそもそも付着性が高く、特に乾燥機中においてはこれらが機内壁面に付着して、操業障害を招くことが多い。従って、湿ダストやスラッジを冶金原料とするには、乾燥機への付着を抑えることのできる乾燥方法の開発が求められている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、粉砕が容易にできると共に乾燥の負荷を少なくすることができ、造粒物製造コストを抑制するのに有効な冶金原料用造粒物の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を実現する手段として、本発明は、高湿分を有する炭素含有湿ダストおよび/またはスラッジと、それより湿分が低い金属酸化物含有原料とをまず混合し、次いで、粉砕処理し、その後、塊成化処理することを特徴とする冶金原料用造粒物の製造方法を提案する。
【0011】
本発明において、前記金属酸化物含有原料が、鉄鉱石、焼結鉱粉またはミルスケールのいずれか1種以上であること、前記粉砕は乾燥しながら行うこと、前記湿ダストおよび/またはスラッジは、水分が10mass%以上のもの、より好ましくは25mass%以上のものを用いることが、そして、前記金属酸化物含有原料は、水分が10mass%未満のものを用いることが、好ましい解決手段である。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明によれば、混合原料の粉砕前の段階で、低湿分の鉄鉱石等の金属酸化物含有原料に対して予め、高湿分のダストやスラッジを混合しておくので、粉砕の負荷が軽くなる。また、本発明によれば、その粉砕と同時に乾燥を行うので、低湿分の鉄鉱石等が高湿分のダスト・スラッジによる乾燥障害(付着)を緩和して乾燥処理が容易にないり、ひいては造粒物製造コストを低下させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の考え方の特徴をまとめると以下のとおりである。まず、本発明において重要な役割を担う湿ダストやスラッジは、その中に平均5mass%〜50mass%程度の炭素分、多くのものは平均20mass%〜30mass%を含み高湿分(≧10mass%)であるのが特徴である。この炭素分は、コークスや石炭、油分などに由来する固体還元材であり、これらは鉄鉱石などと比べると、硬度が著しく低い。従って、金属酸化物含有原料である鉄鉱石を粉砕する前に、炭素を含有するために硬度が低い湿ダストやスラッジを予め混合し、その後、その混合物を粉砕するようにすれば、これら湿ダストやスラッジが鉄鉱石よりも先に粉砕され、その粉が鉄鉱石とミル表面との間に入って緩衝し、ミル壁の摩耗を防止する。
【0014】
このような作用効果は、硬度の高い金属酸化物含有原料であればどのような原料に対しても有効であるが、製鉄原料の中では特に、鉄鉱石、焼結鉱、ミルスケールなどに対して、効果を発揮する。
【0015】
一方で、本発明では、このように予混合したあと粉砕処理するが、このとき、乾燥を同時に行ってもよい。このような粉砕・乾燥の同時処理の場合、新たな効果も発揮する。それは、鉄鉱石などの金属酸化物原料は、湿ダストやスラッジと比較して水分量が少なく(<10mass%)、付着性(親水性)が低いことに起因する。この付着性の低い鉄鉱石などの金属酸化物含有原料が、高湿分で付着性の高い湿ダストやスラッジと乾燥機内壁面との間に流れ込み、高湿分の湿ダストやスラッジが乾燥機内壁面に付着するのを効果的に防止する作用を発揮するからである。
【0016】
このような作用効果は、粉砕、乾燥工程の全般において生ずるが、低湿分(<10mass%)の鉄鉱石等に対し、高湿分(≧10mass%)のダスト・スラッジの組み合わせのときに顕著であり、特にダスト・スラッジの水分が25mass%以上の湿ダストやスラッジを混合する場合において効果が高い。
【実施例】
【0017】
以下、上述した本発明方法の作用効果を検証するために、図1(従来方法)および図2(発明方法)の小型設備を組み立てて造粒を行い、ミルの損耗量や乾燥機内壁面への原料の付着量を測定し比較する実験を行った。なお、両設備とも、造粒物製造量1トン/時間で鉄鉱石と湿ダスト・スラッジの混合比率は3:7である。
【0018】
(1)従来方法の説明
この方法は、図1に示す造粒設備を用いて造粒した例である。図示した設備について、マテリアルフローに従って説明する。
ダストおよびスラッジは、ダスト・スラッジ受け入れ装置1にて受け入れする。この装置は、開放型のホッパと切り出し装置からなり、そのホッパ内にはダスト・スラッジをショベルもしくはダンプカーなどにより投入する。この場合、スラッジは水分が多く、壁面と付着しやすいので、ノッカーなどの付着防止装置を備えたり、表面が平滑なステンレス鋼で製作したものでもよい。切り出し装置としては、スクリューフィーダ、ベルトフィーダーなどを使用する。
【0019】
このようにして受け入れたダスト・スラッジは、それぞれ定量が切り出されて、乾燥装置Dに投入され、個別に乾燥される。この乾燥装置Dは、熱風炉2、ミル3、燃焼室4、バグフィルタ5などによって構成される。例えば、水分量の多いスラッジは、熱風によって乾燥され、その乾燥時に微粒となったものは熱風に搬送されて、バグフィルタ5に回収される。一方、熱風にて搬送されなかったものは、燃焼室4の底部に設置されているミル3で粉砕され、細粒となり、コンベヤにて、ダスト・スラッジホッパ6に搬送される。
【0020】
なお、従来方法では、鉄鉱石は別ラインに設置されている乾燥機Dにて同様に乾燥され、鉱石ホッパ7に搬送される。この鉄鉱石は、スラッジに比べて、水分が低い傾向にあるため、例えば、水分が十分に低い(<10mass%、好ましくは≦5mass%)場合は、熱風炉は不要である。
【0021】
これらのダスト・スラッジおよび鉄鉱石は、まずホッパ6、7(図示の8はフラックス・バインダホッパである)にて備蓄され、フラックスおよびバインダーと定量に配合されて切り出され、混合機9へ送られる。この混合機9で十分に混合された原料は、次に造粒装置10へ送られ、造粒物となる。この図では、双ロールタイプのブリケツトマシーンを記載しているが、ぺレタイザーなどであっても効果は変わらない。
なお、図示の11は、乾燥装置Dの燃焼室4の内壁面に付着した付着物を示している。
【0022】
(2)本発明方法の説明
図2は、本発明方法で使用する造粒設備の模式図である。この図に示す設備は、図1に示す従来設備と、乾燥装置Dおよび混合機9の配置が異なるだけである。即ち、本発明方法を適用する図2の設備は、混合機9が乾燥装置Dの上流側に配設されているのに対し、従来方法で用いる装置は、乾燥装置D、Dの後工程に混合機9を配置して、それぞれ独立して乾燥した鉄鉱石と湿ダスト、スラッジとを、造粒の前に混合するようになっている点で、際立った相違点がある。
【0023】
図2に示す本発明方法では、ダスト・スラッジ受け入れ装置1および鉱石受け入れ装置12と混合機9を直接つなぎ、湿ダストやスラッジが高水分のまま鉄鉱石やフラックスと混合される。高水分の湿ダストやスラッジを混合することは、一般に難しいと考えられるが、例えば、高速攪拌ミキサーやアイリッヒミキサーなどを用いて、攪拌を強化することで、混合が可能である。また、乾燥粉の搬送コンベアー間にも混合機を配置しておき予め、フラックスやバインダーを添加して予混合することも有効である。
このように混合機9において混合された湿ダスト、スラッジと鉱石等との混合粉は、従来方法と同様に造粒機10にて造粒処理される。
【0024】
(3)この実験において使用した混合原料
表1に使用した鉄鉱石、ダストスラッジ(高炉、転炉等で発生したダストを湿式集塵してスラッジ状になったもの)の組成を示す。このダストスラッジは、高炉系のスラッジであり、リングスリットウォッシャー(RSW)で湿式除塵されたものをフィルタープレスで水分を除去したものであり、本発明において湿ダストといい、単にスラッジとも言うものである。このダストスラッジの水分濃度は、圧さく圧力や滞留時間などによって10mass%−35mass%に変化する。また、鉄鉱石の水分もヤードに積み上げられて以後の天候により、10mass%〜5mass%の間で変化する。
【0025】
【表1】

【0026】
(4)性能評価
性能の評価はミルの損耗量と乾燥機内付着物の低減量で行った。
a.ミルの損耗量
ミルの損耗量は新品ミルの重量と1週間使用した後にミルを回収し、清掃を行った上で測った使用後のミルの重量との差を新品ミルの重量で割ったものを損耗量とした。発明方法では、使用するミルが1基であるのに対し、従来方法では、使用するミルが2基であるため、全てのミルを同一スペックにして使用することとし、それぞれのミルの損耗量を合計量で示した。ただし、本発明法3〜6については、付着量を測定するために行った操業であるため、損耗量は測定しなかった。
【0027】
b.乾燥機内付着量
乾燥構内の付着量は一週間操業した後に機内に付着している量を測定した。乾燥機内の体積は15mである。発明方法で使用する乾燥機が1基であるのに対して、従来方法では使用する乾燥機が2基であるため、それぞれの乾燥榛の付着量と合計量を示した。
【0028】
c.実験操業の詳細
操業結果を表2に示す。各条件は以下の通りである。
従来方法1:図1の設備を使用し、鉄鉱石水分5mass%、スラッジ水分10mass%で乾燥機無しで製造した場合、
従来方法2:図1の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分18mass%で製造した場合、
従来方法3:図1の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分22mass%で製造した場合、
従来方法4:図1の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分25mass%で製造した場合、
従来方法5:図1の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分28mass%で製造した場合、
従来方法6:図1の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分32mass%で製造した場合、
本発明方法1:図2の設備を使用し、鉄鉱石水分5mass%、スラッジ水分10mass%で乾燥機無しで製造した場合、
本発明方法2:図2の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分18mass%で製造した場合、
本発明方法3:図2の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分22mass%で製造した場合、
本発明方法4:図2の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分25mass%で製造した場合、
本発明方法5:図2の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分28mass%で製造した場合、
本発明方法6:図2の設備を使用し、鉄鉱石水分10mass%、スラッジ水分32mass%で製造した場合、
【0029】
【表2】

【0030】
発明方法1、2および従来方法1、2を比較するとわかるように、本発明方法を使用することにより、損耗量が大幅に低下した。この効果は乾燥あり/なしともに同様の効果を示した。
【0031】
図3は、処理前原料の平均水分量と付着量との関係を示した。この図に示すように、平均水分量が増加すると付着量は増加することがわかる。特に、従来方法ではスラッジ水分25mass%を超えると、急激に付着量が増加するのに対して、発明方法では増加傾向に大きな変化が見られなかった。つまり、発明方法は、水分量25mass%以上で、急激に付着量が増加するのを防ぐ効果があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の技術は、回転炉床炉やシャフト炉の原料となる還元鉄を製造するときに用いられる原料を提供する場合の他、他の冶金炉などの原料としても使用される造粒物の製造技術として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来方法の設備構成図である。
【図2】発明方法の設備構成国である。
【図3】処理前原料の平均水分量と付着量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 ダスト・スラッジ受け入れ装置
2 熱風炉
3)ミル
4 燃焼室
5 バグフィルタ
6 ダスト・スラッジホッパ
7 鉱石ホッパ
9 フラックス、バインダホッパ
9 混合機
10 造粒機
11 付着物
12 鉱石受け入れホッパ
、D 乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高湿分を有する炭素含有湿ダストおよび/またはスラッジと、それより湿分が低い金属酸化物含有原料とをまず混合し、次いで、粉砕処理し、その後、塊成化処理することを特徴とする冶金原料用造粒物の製造方法。
【請求項2】
前記金属酸化物含有原料が、鉄鉱石、焼結鉱粉またはミルスケールのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1記載の冶金原料用造粒物の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕は、乾燥しながら行うことを特徴とする請求項1または2に記載の冶金原料用造粒物の製造方法。
【請求項4】
前記湿ダストおよび/またはスラッジは、水分が10mass%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の冶金原料用造粒物の製造方法。
【請求項5】
前記湿ダストおよび/またはスラッジは、水分が25mass%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の冶金原料用造粒物の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物含有原料は、水分が10mass%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の冶金原料用造粒物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189970(P2008−189970A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24189(P2007−24189)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成13年新エネルギー・産業技術総合開発機構基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】