説明

冷凍すり身魚製品

冷凍すり身魚ベースは、不快な臭いを抑制するための添加剤として、式(I)及び/又は式(II):OOXO(I)OOHOROH(II)(式中、Xは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示すか又は式COY(式中、Yは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示す)の基を示し、Rは水素原子、メチル基、アセチル基又はエトキシカルボニル基を表す)による化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、不快な臭いが低減された冷凍すり身魚製品及び冷凍すり身魚製品の製造方法に関する。
【0002】
背景技術及び先行技術
従来、冷凍すり身魚(「冷凍すり身」を指す)は、スケトウダラなどの魚から得られたすり身魚肉を、最初に清水で2回以上洗浄し、最後の洗浄工程の間に少量の食塩を添加することによって製造されてきた。その後、必要であれば外皮を除去し、スクリュープレスによって脱水し、且つ砂糖、糖アルコール、ポリリン酸塩等を添加しながら得られた製品の混合を行う。最後に、この製品を包装し且つ冷蔵条件下で−20℃〜−40℃で貯蔵する。
【0003】
次に冷凍すり身を解凍し、かまぼこ、ちくわ、すり身のスティック、チャンク、ダイス、ロール及びナゲット等の種々のすり身ベースの製品に加工することができる。
【0004】
魚を捕らえるために、トロール船はしばしば漁獲の割り当てに課せられる制約によって長距離を移動しなければならず、そのため、漁獲と陸揚げの間の期間が一ヶ月以上になり得る。その結果、すり身の商品価値は、鮮度の損失と貯蔵中に生じた潜在的に強力な不快な臭いのために著しく低下する。臭いが特に強い場合、すり身ベース製品の効用は非常に限定される。
【0005】
冷凍工程前に、例えば、シクロデキストリンを添加することによって冷凍すり身ベースを脱臭することが公知である。シクロデキストリンは、不快な臭いを発生させるフレーバーを閉じこめるクラスレートを形成する。しかしながら、シクロデキストリンは更にすり身の味を改善させる他のフレーバーをも捕捉し、そのためこの効用は限定される。冷凍すり身の脱臭の他の例が、米国特許第4,910,039号(Fujitaら)に与えられており、この目的のために低減されたデキストリン及び界面活性剤と共に分枝鎖状のデキストリンを含む添加剤が開示されている。分枝鎖状のデキストリンは3000を超える分子量を有する大きな化合物であり、以下にこの分子量での臭いの制御は効果がないことが述べられる。係るシステムは、様々な化合物と存在するポリマーとの大規模な混合によって扱いが複雑になり、更に複雑な加工を介して、この目的を果たさないデキストリンを分離する必要がある。
【0006】
本発明は、1つ以上の上述の問題に取り組むこと及び/又は1つ以上の上述の利益を提供することに努める。
【0007】
本発明の特に有利な目的は、望ましい臭いをマスクすることなく、冷凍すり身ベース中の不快な臭いをマスクするための単一の添加剤を提供することである。
【0008】
本発明の概要
従って、本発明は、式(I)及び/又は式(II):
【化1】

(式中、Xは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示すか又は式
【化2】

(式中、Yは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示す)の基を示し、Rは水素原子、メチル基、アセチル基又はエトキシカルボニル基を表す)による化合物の冷凍すり身魚ベース中の不快な臭いを脱臭及び/又はマスクするための使用を提供する。
【0009】
本発明は、更に冷凍すり身魚ベースの製造方法であって:
(a)魚をすり身にする工程、
(b)すり身魚を洗浄する工程、
(c)場合により洗浄された魚を混合する工程、
(d)洗浄された魚に式(I)及び/又は式(II):
【化3】

(式中、Xは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示すか又は式
【化4】

(式中、Yは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示す)の基を示し、Rは水素原子、メチル基、アセチル基又はエトキシカルボニル基を表す)による化合物を添加する工程、及び
(e)得られた混合物を冷凍する工程
を含む冷凍すり身魚ベースの製造方法を提供する。
【0010】
別の態様において、本発明は、不快な臭いを抑制するための添加剤として、式(I)及び/又は式(II):
【化5】

(式中、Xは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示すか又は式
【化6】

(式中、Yは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示す)の基を示し、Rは水素原子、メチル基、アセチル基又はエトキシカルボニル基を表す)による化合物を含む、冷凍すり身魚ベースを提供する。
【0011】
本発明の詳細な説明
本発明は、製品に付随する不快な臭いのマスクによる冷凍すり身のフレーバーの改良に関する。不快な臭いのマスク剤は、式(I)及び/又は式(II):
【化7】

(式中、Xは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示すか又は式
【化8】

(式中、Yは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示す)の基を示し、Rは水素原子、メチル基、アセチル基又はエトキシカルボニル基を表す)による化合物を含む。
【0012】
この式を有する化合物のうち、この化合物が、3−ヒドロキシ−4,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン、3−ヒドロキシ−2−メチル−4(4H)−ピラノン、3−ヒドロキシ−2−エチル−4(4H)−ピラノン、2−ヒドロキシ−2−ペンテン−4−オリド及び4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノンの1つ又はそれ以上から選択されることが特に有利である。不快な味のマスク剤は4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノンであることが特に有利である。これはFuraneol(登録商標)(出所:Firmenich SA, Geneva)の商品名で現在販売されている成分である。
【0013】
上述の全ての成分は、米国特許第4,910,039号に開示された分枝鎖状のデキストリンの分子量よりも有意に小さい分子量を有する。更に、本発明における活性成分は、異なる種類の成分の複雑な重合性混合物を要求しない。
【0014】
活性な臭いのマスク成分が存在する冷凍すり身魚製品は、一般的には冷凍すり身として公知である。「すり身」という用語は、更に、様々な魚ベース製品の総称である。例えば、以下の魚は「すり身」として公知である;アラスカポラック、シマホッケ、イワシ、サバ、サンマ、タチウオ、アナゴ、スケトウダラ(walleye pollack)、ニシン、ウナギ、カレイ、アジ、カレイ(melulusa Flatfish)、マグロ、メルルーサ(merlu)又はそれらの混合物。この一覧は単なる例示であり、決して網羅するものではない。
【0015】
従って、本発明の適用範囲は上述の種類の魚に制限されないが、全ての魚又はすり身に加工可能な他の海水又は淡水の生物を含む。
【0016】
不快な臭いのマスク成分は、冷凍すり身魚(すり身)組成物の全質量を基準として0.0015質量%〜0.25質量%の量で存在する。更に有利には、不快な臭いのマスク成分は、0.002〜0.2質量%、更に有利には0.005〜0.15質量%、最も有利には0.007〜0.12質量%の量で存在する。
【0017】
特に驚くべきことは、米国特許第4’910’039号に記載された先行技術が、更に高い濃度が要求されることを教示しているため、このような低濃度の不快な臭いのマスク成分が、すり身魚製品中の不快な臭いを効果的に低減させ得ることである。特に、この文献は、魚肉の質量を基準として、0.5質量%以上、更に有利には約1〜3質量%の分枝鎖状のデキストリンが要求されることを記載している。
【0018】
本発明による方法において、不快な臭いのマスク成分は、洗浄工程後であるが冷凍工程前に導入される。この不快な臭いのマスク成分の効果は、他の加工段階で薬剤が添加された場合と比較して、非常に大きく改善されるため、これは極めて重要であることが判明した。更に、この効果は、特に、不快な臭いのマスク成分が上述された非常に低い濃度で使用された時に顕著である。
【0019】
様々な任意の成分を加工中にすり身に添加してよい。例えば、グリセロール脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル、レシチン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びそれらの混合物などの界面活性剤は、冷凍すり身製品の白色度及び/又は弾性を改善するように添加されてよい。
【0020】
食品用の界面活性剤は、本発明のすり身用の添加剤として使用され、有利には0.1〜1.0質量%、特に0.1〜0.5質量%の割合で魚肉と混合される。食品用の界面活性剤は、単独で又は脂肪及びオイルとの混合物として使用してよい。有利には、食品用の界面活性剤並びに脂肪及びオイルの全量は、脂肪及びオイルが使用される時に上述の範囲内である。界面活性剤は有利には糖又は糖アルコール中に分散される。適した糖は、グルコース、マルトース、スクロース、ラクトース、マルチトール、ソルビトール等を含む。
【0021】
付加的に、他の改良剤、例えば、冷凍変性予防剤(例えば、ポリリン酸塩、ソルビトール、糖、ホエー蛋白質濃縮物、デンプン等)及び弾性改良剤(例えば、グルテン、大豆蛋白質、卵蛋白質、乳蛋白質又は血しょう)を添加してよい。
【0022】
有機酸塩もまた冷凍すり身ベースの弾性を改良するために添加してよい。例としてクエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カルシウム及びグルコン酸ナトリウムが挙げられる。最も有利にはクエン酸ナトリウム及び/又はグルコン酸ナトリウムが挙げられる。
【0023】
有機酸塩は、有利にはすり身ベースの全質量を基準として0.1〜0.5質量%の量で、有利には0.1〜0.2質量%の範囲内で添加される。
【0024】
有機酸塩を冷凍すり身魚ベース中に添加することによって冷凍すり身ベースの望ましい弾性を維持できることが判明した。
【0025】
使用される場合、塩化ナトリウムは、有利には冷凍魚ベースの全質量を基準として、0.6〜1質量%の量で存在する。1%を超えて添加される場合、製品の弾性に悪影響を及ぼすことが判明した。
【0026】
本発明はここで、以下の実施例を参照して記載される。実施例は本発明の例示であり、本発明の範囲はそれに限定されないことが理解されるべきである。
【0027】
実施例
全ての量は他に指示がない限り質量%である。
【0028】
実施例1
塩水すり身魚製品の製造
新鮮なアラスカポラック(スケトウダラ)を切り身にし、すり身にするために5mm直径の孔を有する標準的なベルト式ドラムを通過させ、この魚から部分的に水を取り除いた。次に水溶性物質を除去するために、すり身魚を清水の容器中で5℃の温度で15分間にわたり撹拌することによって洗った。この工程はわずかに塩気のある水の容器中で2回繰り返された。洗浄された魚を精製して外皮を除去し、次いでスクリュープレスを用いて脱水して約80〜90%の含水率を有するすり身魚を提供する。標準的な凍結保護剤を2質量%の濃度で添加した。混合物を次いで2つの試料に分割した。第1の試料を急速にマイナス20℃に冷凍した。第2の試料に、冷凍前に、Furaneol(登録商標)(Firmenich製)を0.07%の濃度で混ぜた。次に第2の試料を急速にマイナス20℃に冷凍した。急速な冷凍は、標準的な送風凍結技術を用いて行った。
【0029】
これらの試料を1週間保管し、次いで20℃の温度に解凍した。第1の試料は急速に望ましくない不快な臭いを発生させたが、第2の試料は実質的に不快な臭いのないことが判明した。
【0030】
実施例2
本発明による淡水のすり身魚製品の製造
実施例1による方法を、草魚(Ctenopharyngodon idella)をアラスカポラックの代わりに使用したことを除いて正確に繰り返した。
【0031】
冷凍された試料を再び20℃の温度に解凍させた。試料1は静置時に急速に「泥の」臭いを発生させたが、試料2は有意な不快な臭いがなく新鮮な魚の臭いを維持することが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不快な臭いを抑制するための添加剤として、式(I)及び/又は式(II)
【化1】

(式中、Xは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示すか又は式
【化2】

(式中、Yは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示す)の基を示し、Rは水素原子、メチル基、アセチル基又はエトキシカルボニル基を表す)による化合物を含む、冷凍すり身魚ベース。
【請求項2】
添加剤が0.0015質量%〜0.25質量%の量で存在する、請求項1記載の冷凍すり身魚ベース。
【請求項3】
添加剤が3−ヒドロキシ−4,5−ジメチル−2(5H)−フラノン、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン、3−ヒドロキシ−2−メチル−4(4H)−ピラノン、3−ヒドロキシ−2−エチル−4(4H)−ピラノン、2−ヒドロキシ−2−ペンテン−4−オリド及び4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノンからなる群から選択される、請求項1又は2記載の冷凍すり身魚ベース。
【請求項4】
添加剤が4−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノンである、請求項3記載の冷凍すり身魚ベース。
【請求項5】
式(I)及び/又は式(II):
【化3】

(式中、Xは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示すか又は式
【化4】

(式中、Yは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示す)の基を示し、Rは水素原子、メチル基、アセチル基又はエトキシカルボニル基を表す)による化合物の
冷凍すり身魚ベース中の不快な臭いを脱臭及び/又はマスクするための使用。
【請求項6】
冷凍すり身魚ベースの製造方法であって:
(a)魚をすり身にする工程、
(b)すり身魚を洗浄する工程、
(c)場合により洗浄された魚を混合する工程、
(d)洗浄された魚に式(I)及び/又は式(II):
【化5】

(式中、Xは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示すか又は式
【化6】

(式中、Yは直鎖状もしくは分枝鎖状の、飽和もしくは不飽和のC〜C炭化水素基を示す)の基を示し、Rは水素原子、メチル基、アセチル基又はエトキシカルボニル基を表す)による化合物を添加する工程、及び
(e)得られた混合物を冷凍する工程
を含む冷凍すり身魚ベースの製造方法。

【公表番号】特表2010−528673(P2010−528673A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511751(P2010−511751)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際出願番号】PCT/IB2008/052097
【国際公開番号】WO2008/152538
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】