説明

冷凍手術装置およびその温度制御方法

【目的】 胃などの体内の患部を冷凍治療できるとともに、温度を精密に制御することができる冷凍手術装置およびその温度制御方法を提供する。
【解決手段】 患部を冷凍するためのプローブ20と、このプローブへ冷媒を送るための可撓性の管10とを含む冷凍手術装置において、プローブ20は、患部40と接触する一方の面を有するペルチェ素子と、このペルチェ素子の他方の面に熱的に接続する伝熱部とを含んでなり、可撓性の管10は多重管構造を有しており、伝熱部を冷却するために、多重管構造の外側の管11内から内側の管12内へと冷媒1を流して冷媒を膨張させる細孔が設けられている。この冷凍手術装置は、ペルチェ素子に電圧を印加してプローブ20の患部と接触する面を常温に保ち、このペルチェ素子への印加電圧の極性を切り替えて患部と接触する面を冷却することで、温度制御が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍手術装置およびその温度制御方法に関し、詳しくは、胃や食道、肝臓、肝臓、子宮などの体内の患部の治療に適した冷凍手術装置およびその温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、癌や腫瘍などに侵された患部を切除せず、クライオプローブと呼ばれる冷凍手術用プローブを用いて患部を−100℃以下の低温まで冷却し冷凍させて壊死させるという冷凍手術が行われている。冷凍手術は、患部のみの局所的な治療を行うことができ、出血や炎症反応が少なく、術後の変性や機能障害が少ないといった様々な利点が指摘されている。
【0003】
冷凍手術装置の冷却方法としては、クライオプローブ内に液体窒素を流して先端部で気化させることで冷却を行う相変化の利用や、アルゴンガスや二酸化炭素のような高圧ガスを用いてジュールトムソン冷却を行う等エンタルピー膨張の利用がある。
【0004】
しかしながら、このような装置では、冷却能力は高いものの、冷媒の物性に依存するため伝熱制御が難しく、精密な患部の処置には限界があるという問題や、また、胃などの体内の患部を冷凍する場合、患部に達するまで極低温となるパイプを断熱する必要があるという問題がある。
【0005】
一方、精密に温度制御ができる冷凍手術装置として、特開2002−177296号公報や特開2004−261210号公報には、冷却と加熱の切り替えが可能なペルチェ素子を利用し、このペルチェ素子の患部と接触する面とペルチェ素子の電極兼ヒートシンクとの間を断熱層で断熱するとともに、電極兼ヒートシンクをドライアイスなどの冷却剤が封入された外部冷却器で冷却することで、ペルチェ素子の患部と接触する面を急速冷却できることが記載されている。
【0006】
しかしながら、上記文献に記載された装置には、真空断熱層や、不活性ガスが封入された断熱ガス層などの断熱層が設けられているとともに、電極兼ヒートシンクの冷却にドライアイスを用いた外部冷却器が設置されているので、この装置は大型であり、皮膚などの外部に露出している患部の治療には最適であるが、クライオプローブに組み込んで胃などの体内の患部を治療するには困難であるという問題がある。
【特許文献1】特開2002−177296号公報
【特許文献2】特開2004−261210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、胃などの体内の患部を治療できるとともに、温度を精密に制御することができる冷凍手術装置およびその温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、冷凍手術装置であって、患部を冷凍するためのプローブと、このプローブへ冷媒を送るための可撓性の管とを含んでなる冷凍手術装置において、前記プローブは、患部と接触する一方の面を有するペルチェ素子と、このペルチェ素子の他方の面に熱的に接続する伝熱部とを含んでなり、前記可撓性の管は多重管構造を有しており、前記伝熱部を冷却するために、前記多重管構造の外側の管内から内側の管内へと前記冷媒を流して前記冷媒を膨張させる細孔が設けられていることを特徴とする。
【0009】
このように、プローブへ冷媒を送るための可撓性の管を多重管構造とし、その外側の管内から内側の管内に冷媒が流れる際に冷媒が膨張してプルーブの伝熱部を冷却するように細孔を設けたことによって、冷凍治療を行うのに十分な温度まで伝熱部を冷却できるとともに、伝熱部を冷却した冷媒は内側の管内を通って排出されるので、パイプやプローブを特別な断熱構造にする必要がなくなり、胃などの体内の患部に対しても冷凍治療を行うことができる。また、ペルチェ素子の患部と接触する面とは反対側の面に伝熱部を熱的に接続させたので、このペルチェ素子により患部と接触する面を急速冷却あるいは急速加熱することができ、体内の患部の冷凍手術においてもプローブ先端の温度を精密に制御することができる。
【0010】
前記細孔は、前記多重管構造の内側の管に設けられていることが好ましく、さらに、前記細孔は、前記冷媒が前記多重管構造の外側の管内から前記伝熱部内を通って前記多重管構造の内側の管内へと流れるように設けられていることが好ましい。このように、冷媒を伝熱部の内部を通って膨張させることで、伝熱部を効率良く冷却することができる。
【0011】
前記多重管構造の外側および内側の管は、円筒形状に形成されており、前記プローブの患者と接触する面は、前記外側の管の内径に対応する径を有する円形状に形成され、前記プルーブの反対側の面は、前記内側の管の内径に対応する径を有する円形状に形成されており、このように形成されたプルーブは、前記内側の管内に挿入されていることが好ましい。このような構成とすることで、多重管構造の管とプルーブとの間の接合が強固となり、冷媒が漏れるのを防ぐことができる。
【0012】
本発明は、別の態様として、冷凍手術装置に設けられた患部を冷凍するためのプローブにおける患部と接触する面の温度制御方法であって、多重管構造を有する可撓性の管の外側の管内に冷媒を導入して前記プローブへ冷媒を送る工程と、この冷媒を細孔を介して内側の管内へ流し、冷媒の膨張により冷媒の温度を低下させる工程と、この温度が低下した冷媒で、前記患部を接触する面を有するペルチェ素子の他方の面に熱的に接続する伝熱部を冷却する工程と、前記ペルチェ素子に電圧を印加して前記患部と接触する面を常温に保つ工程と、前記ペルチェ素子への印加電圧の極性を切り替えて、前記患部と接触する面を冷却する工程とを含んでなることを特徴とする。
【0013】
このように、多重管構造の外側の管内に冷媒を導入し、細孔を介してこの冷媒を内側の管内に流すことで、冷媒が膨張され、冷凍治療を行うのに十分な温度まで伝熱部を冷却することができる。また、伝熱部を冷却した冷媒を内側の管内から排出するので、パイプやプローブを特別な断熱構造にすることなく、胃などの体内の患部に対しても冷凍治療を行うことができる。さらに、伝熱部を冷却する一方で、ペルチェ素子に電圧を印加することにより、患部と接触する面は常温状態に保つことができる。そして、電圧の極性を切り替えることで、患部と接触する面を急速冷却することができ、体内の患部の冷凍手術においてもプローブ先端の温度を精密に制御することができる。
【0014】
前記多重管構造の外側の管内に導入する冷媒は、高圧に圧縮された冷媒であって、膨張により温度が低下して伝熱部を−10℃以下に冷却できる冷媒であれば特に限定されないが、取り扱いが便利なことから、常温で高圧に圧縮された液体の冷媒が好ましい。
【0015】
また、この温度制御方法は、前記ペルチェ素子への印加電圧の極性を再び切り替えて、冷却されていた前記患部と接触する面を加熱する工程をさらに含むことが好ましい。このように印加電圧の極性を再び切り替えて前記患部と接触する面を加熱することで、プローブの患部と接触する面が過冷却された場合には、患部と接触する面を適当な温度に制御することができ、また患部の治療が終了した場合には、患部と接触する面をすぐに常温状態に戻すことができる。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明によれば、胃などの体内の患部を治療できるとともに、温度を精密に制御することができる冷凍手術装置およびその温度制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る冷凍手術装置およびその温度制御方法の一実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る冷凍手術装置の一実施の形態であって、その全体的な構成を概略的に示す模式図である。図2は、図1に示した冷凍手術装置の一部である患部を冷凍するためのプローブの構成を概略的に示す断面図である。
【0018】
図1に示すように、冷凍手術装置は、可撓性の二重管10と、この二重管10の先端に設けられた患部を冷却するためのプローブ20と、このプローブ20内のペルチェ素子に電圧を印加するための電源30とから主に構成されている。なお、本実施の形態では、食道を介してプローブ20を胃の内部に導入し、胃壁の表面にできた癌などの患部40を治療する場合を説明するが、以下の説明を読めば、本発明が食道や肝臓、腎臓、子宮などの体内の患部の治療にも適用できることがわかるであろう。
【0019】
二重管10は同軸状の断面円形の外管11と内管12とで構成されており、二重管10の一方の端はプローブ20に接続されている。二重管10の他方の端は外管11と内管12とに分岐されており、外管11の端は高圧冷媒ボンベ16に接続され、内管12の端は大気に開放されている。二重管10は、プローブ20を経口で胃に挿入できるような可撓性でかつ生体適合性のある材料で形成されており、例えば、テフロンなどの各種プラスチックや可撓性の金属などの材料で形成されていることが好ましい。
【0020】
二重管10は、無理なく食道を通過して胃の内部にまで到達できる程度の細さで、かつ高圧や低温の冷媒に耐える強度を有していることが好ましい。例えば、外管11は外径および内径が1mm〜10mmおよび0.8mm〜9mmであることが好ましい。また、内管12は外径および内径が0.5mm〜5mmおよび0.3mm〜4.5mmであることが好ましい。なお、内管12の外径は、外管11の内径よりも直径で0.3mm〜2.5mm細くすることが好ましい。外管11および内管12の肉厚はともに0.05mm〜0.5mmであることが好ましい。
【0021】
高圧冷媒ボンベ16には、常温で高圧に圧縮された液体の冷媒が貯蔵されている。このような常温高圧液体冷媒としては、例えば、代替フロンであるハイドロフルオロカーボン(HFC)、フロン、エタン、アンモニア、またはこれらの混合物などが好ましい。ボンベ16の圧力は、冷媒を十分に液化できる程度の圧力であれば特に限定されないが、2〜100気圧の範囲が好ましい。外管11のボンベ16出口にはバルブ17が設けられている。
【0022】
電源30は、プローブ20内のペルチェ素子に印加する電圧の極性を切り替えることができるものであれば特に限定されず、公知の電源を使用できる。電源30とプローブ20内のペルチェ素子とを接続する導線32は、二重管10の外管11内を通って接続されている。なお、図面が煩雑になるのを避けるため、導線32の図示を一部省略している。
【0023】
プローブ20は、二重管10の先端で外管11および内管12の内部に強固の接合されている。そして、プローブ20の先端面が、患者の胃壁表面の患部40に接触するように構成されている。プローブ20については、図2を用いてさらに詳細に説明する。
【0024】
図2に示すように、プローブ20は、金属導電体21を介して一対の熱電半導体22を接合したπ型回路のペルチェ素子と、このペルチェ素子の一対の熱電半導体22にそれぞれ接合する一対の伝熱体23とから主に構成されている。
【0025】
熱電半導体22はP型素子22aとN型素子22bとからなる。このP型素子22aとN型素子22bは、僅かな間隔をあけて通常は配置されているが、本実施の形態においては、電気絶縁層25を介して配置され、コンパクトな装置構成を達成している。電気絶縁層25は、二酸化ケイ素などの絶縁材料で形成されていることが好ましい。
【0026】
金属導電体21は、P型素子22aとN型素子22bの両先端面に接合され、その反対側の端面が患部に接触する接触面となっている。金属導電体21は、熱伝導性に優れた材料で形成されていることが好ましく、例えば、銅やアルミニウムなどで形成されていることが好ましい。なお、金属導電体21の患部に接触する接触面は、電気絶縁性の先端カバー(図示省略)で覆われていることが好ましい。
【0027】
一対の伝熱体23a、23bの間には、P型およびN型素子22a、22bの場合と同様に、電気絶縁層25が配置されている。また、この一対の伝熱体23a、23bには、電源30からの導線32a、32bがそれぞれ接続されている。したがって、伝熱体23はペルチェ素子の電極としての機能も有している。伝熱体23は、導電体であるとともに熱伝導性に優れた材料から形成されていることが好ましく、例えば、銅やアルミニウムなどで形成されていることが好ましい。
【0028】
金属導電体21と熱電半導体22とからなるペルチェ素子は、円柱形状に形成されおり、伝熱体23は、ペルチェ素子との接合面が同一径であり、その反対側の端面に向かって細くなるようにテーパ角をつけた円錐台形状に形成されている。よって、プローブ20全体では略円錐台形状に形成されている。また、ペルチェ素子の直径は、外管11の内径より大きく形成されており、伝熱体23のペルチェ素子と接合する反対側の端面の直径は、内管12の内径とほぼ等しく形成されている。
【0029】
そして、プローブ20は、その略円錐台の側面が二重管10の内管12で全て覆われるように、二重管10の内管12内に挿入されている。さらに、二重管10の外管11の外側から、ステンレススチールからなる円筒形状のチューブカバー27で締め付けられている。このようにして二重管10とプローブ20とをその内外両方から強固に接合することによって、二重管10とプローブ20との接合部の耐圧性を高めることができ、高圧の冷媒が漏れるのを防ぐことができる。
【0030】
また、プローブ20は、患部に接触する接触面とその反対側の端面とが同軸状の円形状となるように形成されているので、外管11と内管12との間の間隔を均等に保持することができる。プローブ20の大きさは、患者の負担を軽くするため、無理なく食道を通過して胃の内部にまで到達できる程度の大きさが好ましく、例えば、直径が最大部で1mm〜10mm、長さが約300mm〜約1500mmとすることが好ましい。
【0031】
二重管10の外管11から内管12へ冷媒を流すために、内管12および一対の伝熱体23a、23bには、その円錐台形状の側面と熱電半導体22と反対側の端面とをつなぐ細孔15a、15bがそれぞれ設けられている。この細孔15は、外管11内の冷媒が内管12内へと流れる際に、大気圧程度まで圧力降下を起こして減圧するような内径であれば特に限定されないが、例えば、内径0.3mm〜4.5mm、長さ300〜1500mmが好ましい。
【0032】
伝熱体23の内部に設けた細孔15は、図2に示すように、熱電半導体22側に一旦向かってから戻るU字型の流路としてもよいし、また、伝熱体23の内部に細孔15の断面より大きい断面を有する空間部を設け、細孔15がこの空間部を経由するような流路としてもよい。このような流路とすることで、伝熱体23を更に効率良く冷却することができる。
【0033】
以上の構成によれば、図1に示すように、先ず、プローブ20を患者の食道から胃の内部に導入し、プローブ20の先端を胃壁表面の患部40に当てる。次に、バルブ17を開き、高圧冷媒ボンベ16から二重管10の外管11内に常温高圧液体冷媒1を導入する。この常温高圧液体冷媒1は、図2に示すように、外管11と内管12との間の環状流路13から、プローブ20に設けられた細孔15内を通って、内管12内の中央流路14へと流れる。
【0034】
細孔15を通過する際に、常温高圧流体冷媒1は等エンタルピー膨張を起こして減圧され温度が低下する。そして、二重管10の内管12内に流入した低温の気液混相冷媒は、伝熱体23から熱を奪い気化して低温常圧気体冷媒3となる。これにより、プローブ20の伝熱体23が冷却される。低温常圧気体冷媒3は、内管12内の中央流路14を通って最終的に外部に排出される。
【0035】
なお、常温高圧液体冷媒1は、単位体積あたりの熱容量が低温常圧気体冷媒3に比べて1000倍程度大きい。よって、二重管10の外側の環状流路13に常温高圧流体冷媒1が流れ、内側の中央流路14にプローブ20を冷却した後の低温常圧気体冷媒3が流れても、常温高圧液体冷媒1による外側の常温高圧液体冷媒1の冷却はわずかである。したがって、二重管10の表面が極低温となることがなく、人体の内部の冷凍手術にも適用することができる。
【0036】
また、プローブ20の先端(金属伝導体21)が加熱モードとなるように、電源30から導線32を介してプローブ20のペルチェ素子に電圧を印加する。これにより、冷却された伝熱体23の低温は、熱電半導体22によって金属伝導体21には伝わらず、プローブ20の先端(金属伝導体21)は常温状態に保たれ、伝熱体23は低温状態に保たれる。
【0037】
なお、常温高圧液体冷媒1が二重管10の外管11内に充填されており、プローブ20で気化した低温常圧気体冷媒3が二重管10の内管12内を通過しても、常温高圧液体冷媒1によってプローブ20の先端(金属伝導体21)は加熱される。また、上述したように、常温高圧液体冷媒1は、単位体積あたりの熱容量が低温常圧気体冷媒3に比べて1000倍程度大きいので、常温高圧液体冷媒1による常温高圧液体冷媒1の冷却はわずかである。これらの理由から、金属伝導体21と伝熱体23との間の断熱層は不要となり、プローブ20の外径を著しく小さくできる。
【0038】
そして、患部40を冷凍して壊死させる際に、ペルチェ素子への印加電圧の極性を切り替えて、プローブ20の先端(金属伝導体21)が冷却モードとなるようにする。これにより、冷却された伝熱体23の低温は、熱電半導体22を介して金属伝導体21に伝わり、プローブ20の先端(金属伝導体21)が急速冷却される。
【0039】
患部40の冷凍治療が終了したら、もしくは患部40の冷凍を中断する際は、再び、ペルチェ素子への印加電圧の極性を切り替えて、プローブ20の先端(金属伝導体21)が加熱モードとなるようにする。これにより、低温の金属伝導体21は急速に加熱されることとなるので、プローブ20の先端を常温状態にまで急速に戻すこともできる。なお、金属伝導体21が過冷却された場合にも、同様に電圧の極性を切り替えることで、プローブの先端の温度を上昇させて適当な温度に調節することができる。
【0040】
このように、二重管10の外管11に常温高圧液体冷媒1を導入し、断熱膨張により伝熱体23を冷却した低温常圧気体冷媒3を内管12から排出することで、冷凍治療を行うのに十分な温度まで伝熱体23を冷却できるとともに、パイプやプローブを特別な断熱構造にする必要がなくなり、胃などの体内の患部に対しても冷凍治療を行うことができる。さらに、熱電半導体22の金属導電体21に接する面とは反対側の面で伝熱体23と熱的に接続させたので、金属導電体21を加熱モードから冷却モードにあるいはその逆になるようにペルチェ素子への印加電圧の極性を切り替えることで、金属導電体21を急速冷却あるいは急速加熱することができ、体内の患部の冷凍手術においてもプローブ20先端の温度を精密に制御することができる。
【実施例】
【0041】
(冷却実験)
二重管の外管から内管へと高圧冷媒を減圧膨張することによるプローブの冷却性能の評価試験を行った。冷媒には、オゾン破壊係数(ODP)が0である代替フロンの1つであるR−410A(沸点:−51.58℃)を用いた。二重管には、外径および内径がそれぞれ6mmおよび4mmの外管と3mmおよび2mmの内管の2種類のテフロンチューブを用いた。
【0042】
また、使用したプローブを図3に示す。図3に示すように、本実験ではペルチェ素子は設けず温度制御は行わなかった。なお、図2と同様な構成については同一の符号を付し、その説明は省略する。プローブ50には、長さ15mm、先端の径が5mm、テーパ角10°の円錐台形状の銅栓を用いた。細孔としては、先端から20mmの位置にキャピラリ55を内管12のみに設けた。キャピラリの径は0.1mm、長さ0.5mmとした。また、チューブカバー27としては、長さ10mm、内径6mm、肉厚0.5mmのステンレス管を用いて締め付けを行った。
【0043】
冷却実験では、先ず、約10気圧の液体フロンを外管内に流量1.0×10-3kg/sで流入させた。液体フロンは、キャピラリ55を通って二重管の内管12内に流入した。キャピラリ55を通過する際に、液体フロンは10気圧程度の圧力降下を起こし大気圧程度まで減圧され、等エンタルピー膨張を起こして温度が低下した。内管12に流入した低温の気液混相フロンは、管先端のプローブ50に衝突し、プローブ50から熱を奪い気化した。この時のプローブ50先端(冷却部)の温度を経時的に測定した。プローブ50の先端に温度制御媒体として空気および水を用いた場合の結果を、図4および図5にそれぞれ(a)として示す。
【0044】
(数値解析)
上記の実験結果との比較のために図6に示す一次元伝熱モデルを用いて非定常温度分布の数値解析を行った。図中、61は冷媒(R−410A)、62はプローブ(銅)、63は冷却部、64は温度制御媒体(水)を示す。解析領域はプルーブ左端から温度制御媒体右端までとし、物性値および断面積を位置の関数として与え、各断面積内で熱流束と温度が一様とした。数値解析に用いた支配方程式は式1に示した非定常一次元熱伝導方程式である。
【0045】
【数1】

【0046】
ここでA[m2]:断面積、ρ[kg/m3]:密度、c[J/(kg・K)]:比熱、T[K]:温度、t[s]:時間、λ[W/(m・K)]:熱伝導率、x[m]:位置、Qlatent[W/m]:単位長さあたりの水の凝固潜熱による伝熱量である。
【0047】
初期条件を式2に、境界条件を式3に示す。
【数2】

【0048】
ここで、Tf[K]:周囲環境温度、Tsat[K]:冷媒の沸点、h[W/(m2・K)]:熱伝達率である。熱伝達率hは単相衝突噴流の熱伝達を考え、式4に示す石丸の実験式を用いた。
【0049】
【数3】

【0050】
ここで、Nu[−]:ヌセルト数、ρ[kg・m3]:密度、Re[−]:レイノルズ数、Pr[−]:プラントル数、添え字のl、gはそれぞれ流体、気体の物性を表す。式4よりR−410Aの場合、熱伝達率はh=3630[W/(m2・K)]と算出された。
【0051】
また、水を冷却する場合、水から氷へ相変化が起こる際に凝固潜熱が生じるので冷却部温度が0℃を下回った場合に凝固潜熱Qlatentを式1に生成項として導入した。
【0052】
数値解析によるプローブ先端の冷却部の温度変化を図4および図5に(b)として併記した。また、数値解析による冷媒、プローブおよび温度制御媒体の温度分布を図7に示す。
【0053】
(冷却実験および数値解析の結果)
空気を冷却した場合、図4に示すように、実験結果(図中a)では冷却部は−45℃まで低下した。数値解析(図中b)との比較では、空気の対流や空気中に含まれる水蒸気の凝縮潜熱の影響により数値解析ほど温度が低下しなかった。
【0054】
水を冷却した場合、図5に示すように、実験結果(図中a)では冷却部は−19℃まで低下した。また、冷却開始から約10秒後に一度温度が上昇した。これは氷が生成し、凝固潜熱が生じたためであると考えられる。数値解析との比較では、実験結果との温度差が空気の場合と比べて大きくなった。これは温度制御媒体である水の対流の影響が空気に比べ大きいため、時間変化とともに実験結果との温度差が大きくなると考えられる。また、実際には半径方向の熱損失が無視できないために一次元数値解析ほど温度が低下しなかった。
【0055】
図7より、銅の温度は熱伝導が良いためほぼ一様になっている。温度制御媒体の水領域において温度勾配が急激に変化している所は、水から氷へ相変化している凝固面であり、この凍結領域が徐々に広がっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る冷凍手術装置の一実施の形態の全体的な構成を示す模式図である。
【図2】図1に示した冷凍手術装置のうちのプローブを拡大した断面図である。
【図3】冷却実験で使用したプローブを概略的に示す断面図である。
【図4】空気を冷却した際の冷却部の温度変化を示すグラフであり、(a)は実験結果を示し(b)は数値解析を示す。
【図5】水を冷却した際の冷却部の温度変化を示すグラフであり、(a)は実験結果を示し(b)は数値解析を示す。
【図6】数値解析のために用いた一次元伝熱モデルを示す図である。
【図7】数値解析による冷媒、プローブおよび温度制御媒体の温度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 常温高圧液体冷媒
3 低温常圧気体冷媒
10 二重管
11 外管
12 内管
13 環状流路
14 中央流路
15 細孔
16 高圧冷媒ボンベ
17 バルブ
20 プローブ
21 金属導電体
22 熱電半導体
23 伝熱体
25 電気絶縁層
27 チューブカバー
30 電源
32 導線
40 患部
50 冷却実験用プローブ
55 キャピラリ
61 冷媒(R−410A)
62 プローブ(銅)
63 冷却部
64 温度制御媒体(水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部を冷凍するためのプローブと、このプローブへ冷媒を送るための可撓性の管とを含んでなる冷凍手術装置であって、前記プローブは、患部と接触する一方の面を有するペルチェ素子と、このペルチェ素子の他方の面に熱的に接続する伝熱部とを含んでなり、前記可撓性の管は多重管構造を有しており、前記伝熱部を冷却するために、前記多重管構造の外側の管内から内側の管内へと前記冷媒を流して前記冷媒を膨張させる細孔が設けられている冷凍手術装置。
【請求項2】
前記細孔は、前記冷媒が前記多重管構造の外側の管内から前記伝熱部内を通って前記多重管構造の内側の管内へと流れるように設けられている請求項1に記載の冷凍手術装置。
【請求項3】
前記多重管構造の外側および内側の管が、円筒形状に形成され、前記プローブの患者と接触する面が、前記外側の管の内径に対応する径を有する円形状に形成され、前記プルーブの反対側の面が、前記内側の管の内径に対応する径を有する円形状に形成され、前記プルーブが前記内側の管内に挿入されている請求項1または2に記載の冷凍手術装置。
【請求項4】
冷凍手術装置に設けられた患部を冷凍するためのプローブにおける患部と接触する面の温度制御方法であって、多重管構造を有する可撓性の管の外側の管内に冷媒を導入して前記プローブへ冷媒を送る工程と、この冷媒を細孔を介して内側の管内へ流し、冷媒の膨張により冷媒の温度を低下させる工程と、この温度が低下した冷媒で、前記患部を接触する面を有するペルチェ素子の他方の面に熱的に接続する伝熱部を冷却する工程と、前記ペルチェ素子に電圧を印加して前記患部と接触する面を常温に保つ工程と、前記ペルチェ素子への印加電圧の極性を切り替えて、前記患部と接触する面を冷却する工程とを含んでなる温度制御方法。
【請求項5】
前記ペルチェ素子への印加電圧の極性を再び切り替えて、冷却されていた前記患部と接触する面を加熱する工程をさらに含んでなる請求項4に記載の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−130024(P2006−130024A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321543(P2004−321543)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年5月10日 社団法人日本伝熱学会発行の「第41回 日本伝熱シンポジウム 講演論文集 Vol.2」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】