説明

冷凍機用作動流体組成物及び冷凍サイクル装置

【課題】冷媒充填量を削減しつつ、プルダウン時の冷媒循環量を増加させてプルダウン性能の向上を図ることができる冷凍機用作動流体組成物及びこれを用いた冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】化学式がC3HjFk(ただし、水素原子Hの数j及びフッ素原子Fの数kは、1以上5以下の整数で、且つ、j+k=6が成立する。)で表され、且つ、分子構造中に炭素間の二重結合を1個持つハイドロフルオロオレフィン系冷媒と、アルキルベンゼン油とを含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル装置を循環する冷媒を含む冷凍機用作動流体組成物、及びこれを用いた冷凍サイクル装置に関するものであり、特に分子構造中に炭素間の二重結合を有する冷媒を含む冷凍機用作動流体組成物及びこれを用いた冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より冷凍サイクル装置を構成する冷媒回路内には、R21、R22といった所謂HCFCなどが用いられていたが、係る冷媒は、オゾン層を破壊する原因とされる塩素原子が含まれているため、成層圏オゾン層の保護の観点から、フロン規制の対象冷媒とされている。このため、オゾン層を破壊する危険性が無く、且つ、従来からの冷凍回路を変更すること無くその性能を維持できる代替可能な冷媒組成物の開発が行われている。
【0003】
昨今では、地球温暖化係数(GWP)が低い冷媒として、炭素間に二重結合を有する冷媒、例えばハイドロフルオロオレフィン(以下、HFOと略記する)系冷媒を使用した冷凍サイクル装置が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
冷凍サイクル装置は、一般に、圧縮機、凝縮器、減圧装置及び蒸発器を冷媒配管により順次環状に接続することにより冷媒回路が構成されている。この際、圧縮機の潤滑不良やロックを防止するため、冷媒回路内には、冷媒と共にオイル(潤滑油)が所定量封入されている。
【0005】
この際、冷媒回路内において圧縮機から冷凍サイクル中に吐出されたオイルが、冷凍サイクル中にとどまってしまうと、回路内の冷媒循環が阻害されて冷凍能力が低下すると共に、圧縮機内のオイル減少によって圧縮機自体の焼き付きが生じやすくなるため、冷媒が溶け込みやすい、即ち、冷媒と相溶性のあるオイルを採用している。上述したようなHFO系冷媒を単独または混合冷媒中の成分として用いる場合、相溶性の高いオイルとして、通常はPAG、PVE、POE等の油が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−298927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、冷媒がオイルに溶け込みやすいと、逆にオイルに寝込んだ状態で圧縮機内にとどまる冷媒が多くなってしまい、冷媒循環量が減少するという問題がある。特に、圧縮機が停止している状態では、圧縮機内のオイルに冷媒が溶け込んでいるため、その状態から起動したときの冷媒循環量が少なくなってしまう。係るプルダウン性能の低下を回避すべく、冷媒回路内には、係るオイルへの溶け込みによる冷媒の減少量を考慮して多くの冷媒を充填しなければならなかった。
【0008】
本発明は、従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、冷媒充填量を削減しつつ、プルダウン時の冷媒循環量を増加させてプルダウン性能の向上を図ることができる冷凍機用作動流体組成物及びこれを用いた冷凍サイクル装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の冷凍機用作動流体組成物は、HFO系冷媒であり、より具体的に、化学式がC(ただし、 水素原子Hの数j及びフッ素原子Fの数kは、1以上5以下の整数で、且つ、j+k =6が成立する。)で表され、且つ、分子構造中に炭素間の二重結合を1個持つ冷媒と、アルキルベンゼン油とを含有することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、上記発明において、冷媒がHFO系冷媒を構成成分とする混合冷媒であることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、上記発明において、HFO系冷媒は、フルオロプロペンであることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、上記発明において、フルオロプロペンは、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペンのうちの少なくとも一つであることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明の冷凍サイクル装置は、請求項1乃至請求項4のうちの何れかの作動流体組成物が封入されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、HFO系冷媒、例えば1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、及び、3,3,3−トリフルオロプロペン等のフルオロプロペンを含む冷媒と、アルキルベンゼン油から成るオイルを含有することにより、冷媒に対してオイルは相溶性が低く、オイルに溶け込む冷媒の量を低減することができる。
【0015】
そのため、冷凍サイクル装置への冷媒充填量を低減しながら、プルダウン時の冷媒循環量を増やすことができ、これによって、プルダウン性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施例に係る冷凍サイクル装置の概略冷媒回路図である。
【図2】圧縮機の縦断側面図である。
【図3】本混合冷媒No.1での冷媒充填量とプルダウン時間について示す図である。
【図4】本混合冷媒No.2での冷媒充填量とプルダウン時間について示す図である。
【図5】各オイルの最大プルダウン性能を示した冷媒封入量での庫内温度の時間推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は本実施例に係る冷凍サイクル装置の概略冷媒回路図を示している。本実施例における冷凍サイクル装置1は、例えば、冷凍装置や、空気調和装置等の冷媒回路として用いられる。
【0018】
冷凍サイクル装置1は、圧縮機2と、凝縮器3と、減圧手段4と、蒸発器5とから構成されている。本実施例において圧縮機2は、図2の縦断側面図に示すように、円筒状の密閉容器10と、密閉容器10内に収容された電動機20及び圧縮装置30を備える。電動機20は、密閉容器10の内壁部に固定されたステータ22とロータ24を有し、ロータ24の中心にとりつけられた回転軸25は、シリンダ31、32の開口部を閉鎖する2枚のプレート33、34に回転自在に軸支される。回転軸25の一部には偏心して設けられるクランク部26が形成される。2枚のプレート33、34の内部に、シリンダ31、32が配設される。このシリンダ31、32(以下、シリンダ32について述べる)は、回転軸25の軸線と同一の軸線を有する。このシリンダ32の周壁部には、冷媒の吸入口と吐出口が設けてある。
【0019】
シリンダ32内にはリング状のローラが装備され、このローラは、その内周面がクランク部26の外周面に接触し、ローラの外周面はシリンダ32の内周面に接触する。シリンダ32には、ベーンが摺動自在に設けられ、ベーンの先端はローラの外周面に接触する。ベーンをローラに向けて付勢し、また、ベーンの背面に圧縮された冷媒を導入することによりベーン先端とローラとのシールを確実にする。このベーンと、ローラと、シリンダ32と、シリンダ32を閉塞するプレート34などに囲まれて圧縮室が形成される。
【0020】
そして、本実施例では、この圧縮機2には、冷媒としてHFO系冷媒、具体的には、化学式がC(ただし、 水素原子Hの数j及びフッ素原子Fの数kは、1以上5以下の整数で、且つ、j+k =6が成立する。)で表され、且つ、分子構造中に炭素間の二重結合を1個持つ冷媒、例えば、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、及び、3,3,3−トリフルオロプロペンのうちの少なくとも一つのフルオロプロペンを含む混合冷媒が使用される。尚、本実施例では、分子構造中に二重結合を有する冷媒としてテトラフルオロプロペンを例に挙げているが、これに限定されるものではなく、他のHFO系冷媒であっても良い。また、潤滑油としてのオイルは、アルキルベンゼン油が使用される。
【0021】
そして、上記圧縮機2は、図1に示すように、凝縮器3と、減圧手段4と、蒸発器5と共に冷媒サイクルを構成し、これらを順次配管接続することにより冷凍サイクル装置1の冷媒回路6が構成されている。
【0022】
これにより、圧縮機2から吐出された高圧冷媒は、凝縮器3で凝縮されて放熱液化した後、減圧手段3にて減圧され、蒸発器5に流入して蒸発すると共に気化熱を周囲から吸収して蒸発器5で冷凍効果を発揮し、圧縮機2に帰還する。
【0023】
このとき、本実施例では、冷媒回路6には、冷媒として、例えば、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、及び、3,3,3−トリフルオロプロペンのうちの少なくとも一つのフルオロプロペン等のHFO系冷媒を含む混合冷媒が封入されている。
【0024】
そして、本実施例では、潤滑油であるオイルとしてアルキルベンゼン油が封入されている。この際、混合冷媒を構成する、HFO系冷媒(一例としてテトラフルオロプロペン)などの分子構造中に二重結合を有する冷媒に対して係るオイルは、相溶性が低い。そのため、冷媒回路11内、特に圧縮機2内において、混合冷媒に含まれるHFO系冷媒がオイルに溶け込んでしまう量を低減することができる。
【0025】
ここで、図3乃至図5を参照して、ハイドロフルオロカーボン系冷媒や自然冷媒とHFO系冷媒から成る混合冷媒とアルキルベンゼン油を用いた場合の効果について説明する。図3はある種の本冷媒充填量とプルダウン時間について示している。尚、図3にて使用した混合冷媒は、ハイドロフルオロカーボン系の複数の冷媒とHFO系冷媒から成る冷媒(混合冷媒No.1)であり、図4にて使用した混合冷媒は、ハイドロフルオロカーボン系冷媒,自然冷媒とHFO系冷媒から成る冷媒(混合冷媒No.2)である。図3及び図4に示すとおり、各オイルとも冷媒充填量が所定量以上になると、プルダウン性能が確保されることが確認できる。相溶性の低いオイルであるアルキルベンゼン油を用いた場合、相溶性の高いオイルであるPVEやPOEを用いた場合に比べて、プルダウン時間が短縮していることがわかる。
【0026】
これは、相溶性の低いオイルであるアルキルベンゼン油を用いることにより、特にプルダウン運転開始時(停止している状態で冷媒が多量に溶け込んでいる状態)において、冷凍回路内に所定量封入されている冷媒の、オイルへの溶け込みを低減することができるため、冷凍効果を発揮する有効冷媒量が増加するためと考えられる。
【0027】
図5は、各オイルの最大プルダウン性能を示した冷媒封入量での庫内温度の時間推移を示す。上記のような理由から、相溶性の低いオイルであるアルキルベンゼン油を用いた場合、他の相溶性の高いオイル(PVE、POE)の場合に比べプルダウン運転開始時の庫内温度低下が著しく、結果としてプルダウン時間の短縮が図ることができる。
【0028】
そのため、HFO系冷媒を含む混合冷媒の場合に、高い相溶性を有するオイルよりも相溶性の低いアルキルベンゼン油を用いることによって、冷却性能の向上を図ることができる。これにより、冷凍サイクル装置1への冷媒充填量を低減しながら、プルダウン時の冷媒循環量を増やすことができ、かつ、プルダウン性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 冷凍サイクル装置
2 圧縮機
3 凝縮器
4 減圧手段
5 蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式がC(ただし、水素原子Hの数j及びフッ素原子Fの数kは、1以上5以下の整数で、且つ、j+k =6が成立する。)で表され、且つ、分子構造中に炭素間の二重結合を1個持つハイドロフルオロオレフィン系冷媒と、アルキルベンゼン油とを含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物。
【請求項2】
前記冷媒は、ハイドロフルオロオレフィン系冷媒を構成成分とする混合冷媒であることを特徴とする請求項1に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項3】
前記ハイドロフルオロオレフィン系冷媒は、フルオロプロペンであることを特徴とする請求項2に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項4】
前記フルオロプロペンは、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、及び、3,3,3−トリフルオロプロペンのうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項3に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のうちの何れかの作動流体組成物が封入されたことを特徴とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−207181(P2012−207181A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75628(P2011−75628)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】