説明

冷凍菓子用チョコレート

【課題】アイスクリーム等の冷凍菓子と一緒に食した際に、適度な噛み出しと良好な口溶けを有し、冷凍菓子と一緒に食した際の食感が調和した冷凍菓子用チョコレートを開発することである。
【解決手段】チョコレート中の油脂が、P2XトリグリセリドとPX2トリグリセリドとを合計で35〜75質量%、及びトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数の合計が32〜44であるトリグリセリド(CN32〜CN44)を5〜45質量%含有し、沃素価が25〜45であることを特徴とする冷凍菓子用チョコレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイスクリーム、シャーベット、カキ氷等の冷凍菓子に、粒状、チップ状、板状等の状態で含ませた際に、適度な噛み出しと良好な口溶けを有する冷凍菓子用チョコレートに関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍菓子類と組み合わされるチョコレートに使用される油脂としては、従来、主な用途であるコーティングを対象として、コーティング時の作業性やコーティング後の乾きの速さを得るために、また、冷凍温度下でシャープな口溶けを得るために、ヤシ油やパーム核油等のラウリン脂、及びそれらと大豆油や菜種油等の液体油との混合油が使用されている。
【0003】
一方、冷凍菓子類の中に、粒状、チップ状、板状等の状態で含ませ、その食感を楽しむチョコレートの開発も行われて来た。例えば、特許文献1には、2−不飽和−1,3−ジ飽和グリセリドが60好ましくは70%以上のグリセリド組成からなるパーム中融点画分を使用した硬さと清涼感に優れた冷食用チョコレートが記載されており、特許文献2には、ジ飽和モノ不飽和グリセリド中当該グリセリドに対するジ飽和モノリノレートが35%以上であり、軟化融点が27℃以下である油脂を油脂成分とするソフトな食感を有する冷凍菓子用チョコレートが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の冷凍菓子用チョコレートは優れた融解特性を示すものの噛み出しが硬く、現在の嗜好には合わないものであった。また、特許文献2に記載の冷凍菓子用チョコレートは、噛み出しは非常にソフトであるが、歯応えに物足りない食感となるため、現在の嗜好には合わないものであった。従って、噛み出しがソフトであり、口溶けが良く、且つ、冷凍菓子と一緒に食しても適度な歯応えのある冷凍菓子用チョコレートの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−114261号公報
【特許文献2】特開平5−49399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、アイスクリーム等の冷凍菓子と一緒に食した際に、適度な噛み出しと良好な口溶けを有し、冷凍菓子と一緒に食した際に冷凍菓子と食感が調和した冷凍菓子用チョコレートを開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、チョコレート中の油脂に特定のトリグリセリドを含有させることにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、チョコレート中の油脂が、P2XトリグリセリドとPX2トリグリセリドとを合計で35〜75質量%、及びトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数の合計が32〜44であるトリグリセリド(CN32〜CN44)を5〜45質量%含有し、沃素価が25〜45である冷凍菓子用チョコレートであり、ただし、Pはパルミチン酸、Xは炭素数18以上の不飽和脂肪酸であり、P2Xトリグリセリド/PX2トリグリセリド=1.5〜5.0を満たし、且つ、トリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数の合計が36〜40であるトリグリセリド(CN36〜CN40)とトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数の合計が32〜44であるトリグリセリド(CN32〜CN44)との質量比((CN36〜CN40)/(CN32〜CN44))が0.42〜0.72を満たすチョコレートである。そして、前記冷凍菓子用チョコレートが冷凍菓子のセンター用であるチョコレートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、適度な噛み出しと口溶けを有し、アイスクリーム等の冷凍菓子と一緒に食した際に冷凍菓子と食感が調和した冷凍菓子用チョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に関してより詳細に説明を行う。
本発明における冷凍菓子用チョコレートは、チョコレートの油脂中に、P2Xトリグリセリド(以下、P2Xと表すことがある)とPX2トリグリセリド(以下、PX2と表すことがある)とを合計で35〜75質量%含有する。ここで、Pはパルミチン酸、Xは炭素数18以上の不飽和脂肪酸であり、P2Xは2つのパルミチン酸と1つの不飽和脂肪酸がグリセリンとエステル結合したトリグリセリドを表し、PX2は1つのパルミチン酸と2つの不飽和脂肪酸がグリセリンとエステル結合したトリグリセリドを表す。そして、P2XとPX2の質量比であるP2X/PX2が1.5〜5.0を満たすものである。
P2XとPX2の総量は40〜70質量%であることが好ましく、P2X/PX2は2.0〜4.5であることが好ましい。
P2XとPX2の総量及びP2X/PX2比が上記範囲にあると、冷凍菓子用チョコレートの噛み出しが適度にソフトになり好ましい。
【0010】
P2Xを構成する炭素数18以上の不飽和脂肪酸であるXは、不飽和脂肪酸であれば特に制限はないが、冷凍菓子用チョコレートとしてより適度な噛み出しと口溶け感を得るという意味で、Xは70質量%以上がオレイン酸である(すなわち、P2Xの70質量%以上がP2O(O:オレイン酸)である)ことが好ましく、80〜90質量%がオレイン酸であることがより好ましい。
【0011】
本発明における冷凍菓子用チョコレートは、チョコレートの油脂中に、P2X及びPX2の他、トリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数の合計が32〜44であるトリグリセリド(以下、CN32〜CN44と表すことがある)を5〜45質量%含有する。ただし、トリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数の合計が36〜40であるトリグリセリド(以下、CN36〜CN40と表すことがある)とCN32〜CN44との質量比である(CN36〜CN40)/(CN32〜CN44)が0.42〜0.72を満たすものである。
CN32〜CN44の総量は10〜40質量%であることが好ましく、(CN36〜CN40)/(CN32〜CN44)は0.46〜0.68であることが好ましい。
CN32〜CN44の総量及び(CN36〜CN40)/(CN32〜CN44)比が上記範囲にあると、冷凍菓子用チョコレートの噛み出しが適度にソフトになり好ましい。
なお、トリグリセリドの分析は、例えば、JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)に準じたガスクロマトグラフィー法によって行うことができる。
【0012】
また、本発明における冷凍菓子用チョコレート中の油脂は、沃素価が25〜45であり、32〜42であることがより好ましい。冷凍菓子用チョコレート中の油脂の沃素価が上記範囲にあると、冷凍菓子用チョコレートの噛み出しが適度にソフトになり、アイスクリーム等の冷凍菓子と一緒に食した際に冷凍菓子と食感が調和したものとなるので好ましい。
【0013】
本発明における冷凍菓子用チョコレート中の油脂は、上記条件を満たすものであれば、天然油脂であれ合成油脂であれ如何なる由来のものであっても構わないが、入手の利便性と経済性を考慮した場合、特定のパーム油分別油とラウリン脂を含むことが好ましい。パーム油分別油としては、いわゆるパーム油中融点画分を使用することができる。沃素価が40〜50であるパーム油中融点画分が好ましく、沃素価が42〜48であるパーム油中融点画分がより好ましい。また、ラウリン脂としては、油脂の構成脂肪酸としてラウリン酸を40質量%以上含むラウリン脂であることが好ましく、沃素価が7.5〜30であることが好ましい。これらの条件を満たすパーム油中融点画分及びラウリン脂を本発明の冷凍菓子用チョコレートに使用することにより、チョコレート中の油脂が本発明の構成要件を満たすように調整し易くなる。
【0014】
より具体的には、沃素価が40〜50であるパーム油中融点画分とラウリン酸含量が40質量%以上であり沃素価が7.5〜30であるラウリン脂とを、50/50〜90/10の質量比で混合した混合油脂を、チョコレート中の油脂として好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上使用するのがよい。その他油脂としては、チョコレート中の油脂が、P2XとPX2とを合計で35〜75質量%、CN32〜CN44を5〜45質量%含有し、P2X/PX2=1.5〜5.0、((CN36〜CN40)/(CN32〜CN44))=0.42〜0.72であり、沃素価が25〜45である、という条件を満たす限りにおいて、通常食用に用いられる油脂、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、ヒマワリ種子油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、カカオ脂、イリッペ脂、サル脂、シア脂等の植物性油脂、並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、及び、これらに、硬化、分別、エステル交換(油脂と脂肪酸または脂肪酸エステルとのエステル交換も含む)等から選ばれる1種または2種以上の加工手段を施した加工油脂が使用できる。
【0015】
沃素価が40〜50であるパーム油中融点画分は、パーム油を1段分別した液体部であるパームオレインを更に分別した固体部(結晶部)に得ることができる。また、パーム油を1段分別した固体部であるパームステアリンを更に分別した液体部に得ることもできる。ラウリン酸含量が40質量%以上であり沃素価が7.5〜30であるラウリン脂としては、より具体的には、ヤシ油やパーム核油及びそれらを分別した液体部であるヤシ油オレインやパーム核油オレインを使用できる。分別方法は、乾式、湿式、溶剤の何れの方法であっても構わない。また、沃素価が異なるパーム油中融点画分及び/又はパームオレインを適宜組み合わせて沃素価が40〜50であるパーム油中融点画分を調整しても良いし、同様に、ラウリン酸含量と沃素価が異なるラウリン脂を適宜組み合わせてラウリン酸含量が40質量%以上であり沃素価が7.5〜30であるラウリン脂を調整しても良い。
【0016】
本発明の冷凍菓子用チョコレートは、少なくとも油脂と糖類とを含む油脂加工食品を指すものであり、全国チョコレート業公正取引協議会で規定されたチョコレート生地、準チョコレート生地に限定されるものではない。特に、イチゴ風味チョコレートや抹茶風味チョコレート等のいわゆるカラーチョコレートも本発明のチョコレートの範囲である。チョコレート中の油脂含量としては20〜65質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜65質量%であり、最も好ましくは40〜65質量%である。
【0017】
本発明の冷凍菓子用チョコレートに使用される糖類としては、例えば、デキストリン、水あめ、オリゴ糖類、単糖類、及び糖アルコール類を例示できる。より具体的には、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、ショ糖、マルトース、乳糖、トレハロース、マルトトリオース、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、オリゴ糖アルコール等を例示することができる。チョコレート中の糖類含量としては20〜55質量%であることが好ましく、より好ましくは25〜50質量%であり、最も好ましくは30〜45質量%である。
【0018】
本発明の冷凍菓子用チョコレートは、油脂と糖類とを含有する他は、通常チョコレートに使用されるカカオマス、ココアパウダー、乳固形類、乳化剤、香料、色素等の他、澱粉類、ガム類、熱凝固性蛋白、各種粉末類等の食品改質材等を含有することができる。チョコレートは、常法に従い、ロールリファイニング等による微粒化、必要に応じてコンチング処理、テンパリング処理等を行い製造することができが、テンパリング処理は特に行う必要はなく、ノーテンパーチョコレートとして使用することが好ましい。なお、チョコレートは、水、果汁、各種洋酒、牛乳、濃縮乳、生クリーム等を含有した含水物であってもよく、O/W乳化型、W/O乳化型の何れであってもよい。
【0019】
本発明の冷凍菓子用チョコレートは、冷凍菓子の中に、粒状、チップ状、板状等の状態で含ませたり、コーティングに使用したりすることができるが、特にセンター用のチョコレートとして使用する場合、噛み出しの適度な硬さと冷凍菓子との調和した食感が強調されるので好ましい。例えば、両側をアイスクリームにサンドされた板状のセンターチョコレートとしての使用が例示できる。また、本発明の冷凍菓子用チョコレートは、冷凍菓子との組合せ以外に、いわゆる冷食用チョコレートとして冷凍あるいは冷蔵温度で保存され、単独で或は複合菓子として食される用途にも適用できる。
なお、冷凍菓子とは、冷凍温度域で保存され喫食される菓子類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、いわゆる乳等省令で規定されるアイスクリーム、アイスミルク及びラクトアイスや、いわゆるカキ氷に代表される氷菓が例示できる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
チョコレートに使用する原料油脂を以下の様に準備した。
〔パーム油分別油〕
パーム中融点画分I〜III及びパームオレインを準備した。分析値を表1に示した。
【0021】
【表1】

【0022】
〔ラウリン脂〕
ラウリン脂I〜IVを準備した。分析値を表2に示した。
【0023】
【表2】

【0024】
〔チョコレートの調製、評価〕
表3〜5の配合により、常法に従って実施例1〜8、比較例1〜4のチョコレートを調製した。50℃で融解してテンパリング工程を経ずに30℃に調温したチョコレートを、−18℃に冷却した金属板上に厚さ約3mmで展延して薄板状に加工した。薄板状のチョコレートを市販の冷凍菓子(商品名:モナ王、株式会社ロッテ製)のセンターにサンドして−13℃に調温後、5名の専門パネラーにより、以下の項目について官能評価を行った。結果は同様に表3〜5に纏めた。
なお、カカオマス、ココアパウダーに含有されるカカオ脂は、沃素価38.6、P2Xが18.0質量%、P2Oが16.0質量%、PX2が4.0質量%、CN32〜CN44は0質量%であった。
【0025】
<噛み出し感>
冷凍菓子とよく調和した硬さ ◎
冷凍菓子と調和した硬さ ○
許容範囲 △
硬すぎるか軟らかすぎて適当でない ×
<咀嚼時の食感>
冷凍菓子とよく調和した歯応え/脆さがある ◎
冷凍菓子と調和した歯応え/脆さがある ○
許容範囲 △
歯応えが強すぎるか脆さが無くて適当でない ×
<口溶け感>
素早く溶けて、あと残り感が全くない ◎
素早く溶けて、あと残り感もほぼない ○
許容範囲 △
口溶けに優れないか、あと残り感が強い ×
【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、適度な噛み出しと口溶けを有し、アイスクリーム等の冷凍菓子と一緒に食した際の食感が調和した冷凍菓子用チョコレートを提供することができる。そして、本発明のチョコレートを冷凍菓子と組み合わせることにより、現在の消費者嗜好にマッチした冷凍複合菓子を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョコレート中の油脂が、P2XトリグリセリドとPX2トリグリセリドとを合計で35〜75質量%、及びトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数の合計が32〜44であるトリグリセリド(CN32〜CN44)を5〜45質量%含有し、沃素価が25〜45であることを特徴とする冷凍菓子用チョコレート。
ただし、Pはパルミチン酸、Xは炭素数18以上の不飽和脂肪酸であり、P2Xトリグリセリド/PX2トリグリセリド=1.5〜5.0を満たし、且つ、トリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数の合計が36〜40であるトリグリセリド(CN36〜CN40)とトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数の合計が32〜44であるトリグリセリド(CN32〜CN44)との質量比((CN36〜CN40)/(CN32〜CN44))が0.42〜0.72を満たす。
【請求項2】
冷凍菓子のセンター用であることを特徴とする請求項1に記載の冷凍菓子用チョコレート。