説明

冷却シート、冷却シートの製造方法及び冷却服

【課題】簡易な構造で冷却効果が高く、特に外気温が高く比較的乾燥している環境下で用いるのに好適な冷却シートを提供する。
【解決手段】冷却シート10は、通気性を有する第一シート状部材11と、それに対向して配置された、吸水性を有する第二シート状部材12と、第一シート状部材11と第二シート状部材12の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤13と、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤13を囲むように第一シート状部材11と第二シート状部材12を接合することにより形成された、吸水剤13を収納する複数のセル14とを備える。吸水剤13としては、水を容易に吸水すると共にその吸水した水が容易に蒸発する特性を備えるものを使用する。冷却シート10を体に密着させることにより、吸水剤13に吸水させた水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱を利用して体を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば人間の胴体等、さまざまな冷却対象物を冷却する冷却シート、その冷却シートの製造方法、及び、その冷却シートを適用した冷却服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間にはもともと温度調整機能が備わっており、脳の温度調整中枢の指令により暑ければ体を冷却するために汗腺から必要量の汗が出る。汗がすぐに気化すれば体表面温度は脳の指令どおりの温度に保たれ快適である。これは生理クーラー理論と称され、その詳細は例えば国際公開第2005/063065号パンフレットに開示されている。この生理クーラー理論に基づいて、体と略平行に大量の風を送風して汗を蒸発させ、蒸発時の気化熱により外気温がある程度暑いところでも快適に過ごすことのできる空調服が本発明者により発明され商品化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/063065号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の空調服でも使用する環境に限界がある。例えば温度が50度にも達するアルミの溶解作業現場など、湿度は低いが温度が非常に高い作業現場や、中東諸国など、もともと高温乾燥した環境で空調服を使用した場合には、十分な冷却効果が得られなかった。
【0005】
これに対し、アルミの溶解作業現場などでは保冷剤を内蔵した保冷パックを冷蔵庫で冷却して体に密着させるなどの対策が採られていたが、保冷剤は顕熱を利用しているため体に密着した初期は冷たすぎ、時間がたつと共に温度が上昇して短時間で効かなくなり、保冷パックを頻繁に交換しなければならなかった。また、人間の胴体全体を冷却しようとすると多量の保冷パックを必要とし、長時間冷却効果を持続させるためには大量の保冷剤が必要となり非常に重くなり実用的ではなかった。
【0006】
また、布袋の中に吸水性ポリマーを入れ、この吸水性ポリマーに吸水させた後、これを体に密着させ、水が蒸発する際の気化熱を利用して体を冷却する方式の製品も商品化されている。この製品は気化熱を利用するので長時間使用することができるが、布袋の中に吸水性ポリマーを入れただけなので、小面積のものは作ることができるが、例えば人間の胴体全体を冷却しようとすると非常に多くの数が必要になり実用的でなかった。
【0007】
本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、簡易な構造で冷却効果が高く、特に外気温が高く比較的乾燥している環境下で用いるのに好適な冷却シート、その冷却シートの製造方法、及び、その冷却シートを適用した冷却服を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明に係る冷却シートは、第一シート状部材と、第一シート状部材に対向して配置された第二シート状部材と、第一シート状部材と第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤と、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤を囲むように第一シート状部材と第二シート状部材を接合することにより形成された、各箇所に配置された吸水剤を収納する複数の収納部とを備えることを特徴とするものである。ここで、吸水剤は、水を吸水すると共にその吸水した水が蒸発する特性を備えるものであることが望ましい。
【0009】
かかる冷却シートは所望の対象物を冷却するために使用される。この冷却シートを用いて対象物を冷却するには、吸水剤に水を吸水させた後、冷却シートを対象物に密着させる。対象物は、冷却シートと対象物との温度差による熱の移動を利用して冷却される。また、対象物は、吸水剤に吸水させた水が蒸発する際に周囲から気化熱を奪うことによっても冷却される。
【0010】
上記のように、本発明に係る冷却シートは、対向して配置された第一シート状部材と第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤と、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤を囲むように第一シート状部材と第二シート状部材を接合することにより形成された、各箇所に配置された吸水剤を収納する複数の収納部とを備えている。これにより、冷却シート上において吸水剤をほぼ一定間隔で配置することができると共に、大面積の冷却シートを作製してもその冷却シートに柔軟性を持たせることができる。このため、かかる吸水剤がほぼ一定間隔で配置された平面状の冷却シートを用いると、例えば人間の胴体等、広い面積を有する部分を冷却することが可能である。また、吸水剤を各収納部に収納したことにより、各収納部に収納された吸水剤は当該収納部の位置から移動することができないので、大面積の冷却シートを例えば人間の胴体に巻きつけて使用しても、水を含んだ吸水剤が全体として下に偏ってしまうことはない。更に、本発明に係る冷却シートを、特に外気温が高く比較的乾燥している環境下において使用すると、吸水剤に吸水させた水が盛んに蒸発し、その水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱により吸水剤の温度上昇を効果的に抑えることができるので、吸水剤の温度上昇の速度を緩やかにすることができ、したがって、冷却効果が長時間持続する。
【0011】
また、本発明に係る冷却シートにおいて、第一シート状部材及び第二シート状部材のうち一方は吸水性を有する部材であり、他方は通気性を有する部材であることが望ましい。これにより、吸水剤に水を吸水させる場合、吸水性を有するシート状部材が水に接するように、水を入れた容器に冷却シートを浮かべれば、その容器内の水を当該シート状部材を介して吸水剤に吸水させることができると共に、収納部の中の空気を通気性を有するシート状部材を介して外部に逃がすことができるので、吸水剤への吸水作業を容易に行うことができる。
【0012】
更に、本発明に係る冷却シートにおいて、第一シート状部材及び第二シート状部材のうち一方のシート状部材の素材として水濡れ性の低い素材を用い、他方のシート状部材の素材として水濡れ性の高い素材を用いることが望ましい。これにより、吸水剤に水を吸水させる場合、水濡れ性の高い素材を用いたシート状部材が水に接するように、水を入れた容器に冷却シートを浮かべると、水に接しない側のシート状部材は水に濡れにくいので、空気が収納部の中に留まってしまうのを効果的に防止することができる。
【0013】
特に、第一シート状部材及び第二シート状部材のうち一方のシート状部材の素材として、吸水性を有する水濡れ性の高い素材を用い、他方のシート状部材の素材として通気性を有し且つ水濡れ性の低い素材を用いることが好ましい。これにより、吸水剤に水を吸水させる場合、水濡れ性の高い素材を用いたシート状部材が水に接するように、水を入れた容器に冷却シートを浮かべると、その容器内の水を、吸水性を有する水濡れ性の高い素材を用いたシート状部材を介して吸水剤に素早く吸水させることができると共に、水に接しない側のシート状部材は水に濡れにくく且つ通気性を有するので、収納部の中の空気を当該シート状部材を介して外部に容易に逃がすことができ、空気が収納部の中に留まってしまうのをより効果的に防止することができる。したがって、吸水剤への吸水作業を容易に且つ短時間で行うことができる。
【0014】
また、本発明に係る冷却シートにおいて、吸水剤として吸水性ポリマーを用いることが望ましい。かかる吸水性ポリマーは高い吸水性を有するので、本冷却シートの吸水剤として用いるのに好適である。
【0015】
また、本発明に係る冷却シートにおいて、互いに対向して配置された第一シート状部材及び第二シート状部材について吸水剤を囲んだ部分を縫合することにより、第一シート状部材と第二シート状部材を接合することが望ましい。これにより、各収納部に吸水剤を確実に配置し、他の収納部への移動を完全に防止することができる。
【0016】
更に、本発明に係る冷却シートにおいて、第一シート状部材及び第二シート状部材の素材として布を用いることが望ましい。これにより、冷却シートに十分な耐久性を持たせることができる。
【0017】
上記の目的を達成するための本発明に係る冷却シートの製造方法は、対向して配置された第一シート状部材と第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に吸水剤を配置する配置工程と、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤を囲むように第一シート状部材と第二シート状部材を仮接合する仮接合工程と、仮接合工程の後に、第一シート状部材と第二シート状部材における仮接合した部分を本接合する本接合工程と、を具備することを特徴とするものである。
【0018】
このように、本発明では、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤を囲むように第一シート状部材と第二シート状部材を仮接合した後に、第一シート状部材と第二シート状部材における仮接合した部分を本接合することにより、仮接合の後から本接合が完了するまでの間に、各箇所に配置された吸水剤がその配置された箇所からこぼれ落ちたり別の箇所に移動したりするのを防止することができるので、不良品の発生率を大幅に抑えることができる。
【0019】
また、本発明に係る冷却シートの製造方法において、第一シート状部材と第二シート状部材の仮接合を、接着剤を用いて行うことが望ましい。この場合、例えば、接着剤を付着させるための突起部を有する構造の転写具を使用し、接着剤が付着された突起部を一方のシート状部材に押し当てることにより、接着剤を当該シート状部材に容易に転写することができるので、仮接合の作業を短時間で行うことができる。
【0020】
更に、本発明に係る冷却シートの製造方法において、仮接合工程では、第一シート状部材又は第二シート状部材のうちいずれか一方のシート状部材に対して、一定方向に沿って間隔をあけて接着剤を直線状に転写し、次に、その間隔をあけた方向と略直交する方向に沿って間隔をあけて接着剤を直線状に転写し、その後、接着剤が転写された当該一方のシート状部材と他方のシート状部材とを重ね合わせることにより第一シート状部材と第二シート状部材の仮接合を行うことが望ましい。接着剤を付着させるための突起部を有する構造の転写具を使用して接着剤をシート状部材に転写する場合、突起部を格子状に形成しておくことにより、シート状部材に対して上記両方向に沿って間隔をあけて同時に接着剤の転写を行うことができるが、接着剤を突起部に付着させたときに、特に粘度の低い接着剤は毛細管現象により転写具の突起部の交差部分に溜まってしまうので、このような接着剤の付着状態のまま転写具を用いて接着剤をシート状部材に転写すると、シート状部材上において当該交差部分に対応する部分では接着剤が広がってしまう。これに対し、本発明では、接着剤の転写を、一定方向に沿って間隔をあけての転写とその方向と略直交する方向に沿って間隔をあけての転写とに分けて行うことにより、シート状部材上において接着剤が部分的に広がってしまうのを防止することができる。
【0021】
上記の目的を達成するための本発明に係る冷却服は、
第一シート状部材と、第一シート状部材に対向して配置された第二シート状部材と、第一シート状部材と第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤と、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤を囲むように第一シート状部材と第二シート状部材を接合することにより形成された、各箇所に配置された吸水剤を収納する複数の収納部とを有する一又は複数の冷却シートと、
メッシュ状の素材又は防水性を有するシート状の素材を用いて形成された、体の所定部位を覆うことができる服状体と、
を備え、
各冷却シートの吸水剤に水を吸水させ、服状体において体に接する面と反対の面に吸水させた冷却シートを取り付けたことを特徴とするものである。
【0022】
このように、本発明に係る冷却服では、各冷却シートが、対向して配置された第一シート状部材と第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤と、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤を囲むように第一シート状部材と第二シート状部材を接合することにより形成された、各箇所に配置された吸水剤を収納する複数の収納部とを備えて構成されているので、冷却シート上において吸水剤はほぼ一定間隔で配置され、大面積の冷却シートを作製してもその冷却シートは柔軟性を有している。このため、かかる吸水剤がほぼ一定間隔で配置された平面状の冷却シートを服状体に取り付けることにより、柔軟性に富んだ冷却服を作製することができると共に、冷却服の着用時に、吸水剤の配置が下に偏ってしまうことはない。また、特に外気温が高く比較的乾燥している環境下において本発明の冷却服を使用すると、吸水剤に吸水させた水が盛んに蒸発し、その水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱を利用して体を十分に冷却することができる。しかも、その水の蒸発の際に周囲から奪う気化熱により吸水剤の温度上昇を効果的に抑えることができるので、吸水剤の温度上昇の速度を緩やかして、冷却効果を長時間維持することができる。
【0023】
また、本発明に係る冷却服は、メッシュ状の素材を用いて作製された、服状体に取り付けられた各冷却シートを押圧する押圧手段を備えることが望ましい。この場合、押圧手段が冷却シートを押圧する力により、各収納部内の吸水剤に吸水された水が蒸発して吸水剤の体積が減少する際に収納部内に空気層が発生するのを防止することができるので、吸水剤に水を吸水してから吸水剤に吸水されている水がなくなるまで一定の冷却効果を維持することができる。尚、押圧手段はメッシュ状の素材を用いて作製されているので、押圧手段自体が、吸水剤に吸水された水の蒸発を妨げることはない。
【0024】
更に、本発明に係る冷却服は、体の所定部位を覆う服地部と、服地部と体との間の空間に空気の流れを強制的に生じさせるための一又は複数の送風手段とを有する空調服を更に備え、冷却シートが取り付けられた服状体の上に空調服を着用し、送風手段を駆動することにより空調服の内側に外気を流通させ、その流通する外気により服状体に取り付けられた冷却シートの吸水剤に吸水された水の蒸発を促進することが望ましい。このように、体表面に略平行に空気の流れを発生させるという空調服の機能を利用することにより、吸水剤に吸水された水の蒸発の促進を図ることができるので、冷却効果をより一層高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る冷却シートによれば、大面積の冷却シートを作製してもその冷却シートに柔軟性を持たせることができるので、例えば人間の胴体等、広い面積を有する部分を冷却することが可能である。また、この冷却シートを、特に外気温が高く比較的乾燥している環境下において使用すると、吸水剤に吸水させた水が盛んに蒸発し、その水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱により吸水剤の温度上昇を効果的に抑えることができるので、吸水剤の温度上昇の速度を緩やかにすることができ、冷却効果が長時間持続する。したがって、本発明に係る冷却シートは、簡易な構造でありながら、外気温が高くても比較的湿度の低い環境下ならば十分な冷却能力を有しており、暑さ対策の衣服など、各種の目的で使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1(a)は本発明の第一実施形態である冷却シートの概略平面図、図1(b)はその冷却シートのA−A矢視方向概略断面図、図1(c)はその冷却シートの吸水剤に水を吸水させたときのA−A矢視方向概略断面図である。
【図2】図2(a)は冷却シートの平均厚みを説明するための冷却シートの概略断面図、図2(b)は吸水剤に吸水された水の一部が蒸発したときの冷却シートの概略断面図、図2(c)は吸水剤に吸水された水が完全に蒸発したときの冷却シートの概略断面図である。
【図3】図3(a)は接着剤転写工程で使用される糊転写具の概略正面図、図3(b)はその糊転写具の概略側面図である。
【図4】図4(a)は横方向に沿って間隔をあけて糊が転写された第二シート状部材を説明するための図、図4(b)は格子状に糊が転写された第二シート状部材を説明するための図である。
【図5】図5(a)は吸水剤配置工程で使用される吸水剤配置具の概略正面図、図5(b)はその吸水剤配置具の概略背面図、図5(c)はその吸水剤配置具のB−B矢視方向概略断面図である。
【図6】図6(a)は転写された糊により形成される各格子の中央部に吸水剤が配置された第二シート状部材を説明するための図、図6(b)はその第二シート状部材のC−C矢視方向概略断面図である。
【図7】図7(a)は仮接合工程で使用される押し具の概略正面図、図7(b)はその押し具の概略側面図である。
【図8】図8(a)は本発明の第二実施形態である簡易型冷却服の概略正面図、図8(b)は人の胴体に取り付けられた簡易型冷却服を前面側から見たときの概略図、図8(c)は人の胴体に取り付けられた簡易型冷却服を背面側から見たときの概略図である。
【図9】図9(a)は本発明の第三実施形態である冷却服を着衣した状態を前面側から見たときの概略図、図9(b)はその冷却服を着衣した状態を背面側から見たときの概略図である。
【図10】図10(a)は第三実施形態の冷却服における服状体の概略展開図、図10(b)はその冷却服における密着メッシュ手段の概略展開図、図10(c)はその冷却服における第一の冷却シートの概略平面図、図10(d)はその冷却服における第二の冷却シートの概略平面図である。
【図11】図11(a)は本発明の第四実施形態である冷却服を着衣した状態を前面側から見たときの概略図、図11(b)はその冷却服を着衣した状態を背面側から見たときの概略図である。
【図12】図12は本発明の冷却服の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照して、本願に係る発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0028】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。図1(a)は本発明の第一実施形態である冷却シートの概略平面図、図1(b)はその冷却シートのA−A矢視方向概略断面図、図1(c)はその冷却シートの吸水剤に水を吸水させたときのA−A矢視方向概略断面図である。また、図2(a)は冷却シートの平均厚みを説明するための冷却シートの概略断面図、図2(b)は吸水剤に吸水された水の一部が蒸発したときの冷却シートの概略断面図、図2(c)は吸水剤に吸水された水が完全に蒸発したときの冷却シートの概略断面図である。
【0029】
第一実施形態の冷却シート10は、図1(a)及び(b)に示すように、第一シート状部材11と、第二シート状部材12と、吸水剤13と、複数のセル(収納部)14とを備える。第一シート状部材11と第二シート状部材12とは略同一形状のものであり、互いに対向して配置されている。第一シート状部材11及び第二シート状部材12の素材としては布が用いられる。また、吸水剤13は水を吸水する性質を有するものである。本実施形態では、吸水剤13として、吸水性とともに蒸発性を有するもの、すなわち、水を容易に吸水すると共にその吸水した水が容易に蒸発する特性を備えるものを使用する。例えば、吸水剤13としては吸水性ポリマーを用いることができる。かかる吸水性ポリマーは高い吸水性を有するので、冷却シート10の吸水剤13として用いるのに好適である。具体的には、かかる吸水剤13として、大作商事株式会社が販売するマジクール(登録商標)等、各種の冷感スカーフに使用されている吸水性ポリマーと同様なものを用いることができる。
【0030】
吸水剤13は第一シート状部材11と第二シート状部材12の間において間隔をあけて複数の箇所に配されている。吸水剤13は各セル14に収納されている。これらのセル14は、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤13を囲むように第一シート状部材11と第二シート状部材12を接合することにより形成される。ここでは、互いに対向して配置された第一シート状部材11及び第二シート状部材12について吸水剤13を囲んだ部分を糸で縫合している。
【0031】
具体的には、図1(a)及び(b)に示すように、第一シート状部材11と第二シート状部材12とが縦横に20mm間隔で縫合され、多数のセル14が構成されている。各セル14の中には適量の吸水剤13が閉じ込められている。このように20mmピッチでセル14を形成した場合には、各セル14には例えば約50ミリグラムの吸水剤が配置される。尚、図1(a)及び(b)において、符号「16」はセル14を形成するために糸で縫合した縫い目(接合部)を表している。
【0032】
第一実施形態の冷却シート10を用いて所望の対象物を冷却するには、吸水剤13に水を吸水させた後、冷却シート10を対象物に密着させる。対象物は、冷却シート10と対象物との温度差による熱の移動を利用して冷却されると共に、吸水剤13に吸水させた水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱を利用して冷却される。したがって、この冷却シート10は、吸水剤13に吸水させた水が盛んに蒸発するような、外気温が高く比較的乾燥している環境の下において使用するのに特に適している。
【0033】
吸水剤13への吸水作業は次のようにして行われる。すなわち、水の入った容器に冷却シート10を浮かべることにより、水に接したシート状部材を介して吸水剤13に容易に吸水させることができる。この吸水作業後は、図1(c)に示すように、吸水剤13の体積が増加し、冷却シート10は使用可能な状態になる。かかる状態の冷却シート10を使用すると、対象物が冷却される。ここで、対象物の冷却中、吸水剤13に吸水された水の一部が蒸発すると、図2(b)に示すように、吸水剤13の体積が少し減少し、そして、吸水された水が完全に蒸発すると、図2(c)に示すように、吸水剤13の体積は最も減少し、乾燥時の状態に戻る。その後は、吸水剤13への吸水作業を再度行うことにより、冷却シート10は再び使用可能な状態になる。
【0034】
ところで、使用後の乾燥した冷却シート10の各セル14には、図2(c)に示すように空気層が生じている。もし第一シート状部材11及び第二シート状部材12の素材としてともに吸水性に優れた素材を用いることにすると、吸水作業を行うために水を入れた容器に冷却シート10を浮かべたとき、水に接する側のシート状部材を介して吸水剤13が十分に吸水するよりも先に、縫い目の糸などを介して水に接していない上側のシート状部材が濡れてしまう。水に濡れたシート状部材は空気流通性が非常に低いので、セル14の中に生じている空気層の空気はそこに留まり、吸水剤13が吸水する妨げとなってしまう。この問題を解消するには、第一シート状部材11として通気性を有する素材を用い、第二シート状部材12として吸水性を有する素材を用いればよい。この場合、吸水作業の際には、吸水性を有する素材を用いた第二シート状部材12が水に接するように、水を入れた容器に冷却シート10を浮かべるようにする。これにより、その容器内の水を第二シート状部材12を介して吸水剤13に吸水させることができると共に、セル14の中の空気を通気性を有する第一シート状部材11を介して外部に逃がすことができるので、吸水剤への吸水作業を容易に行うことができる。特に、第一シート状部材11の素材としては水濡れ性の低い素材を用い、第二シート状部材12の素材としては水濡れ性の高い素材を用いることが望ましい。吸水作業の際に、第二シート状部材12が水に接するように、水を入れた容器に冷却シート10を浮かべると、水に接しない側の第一シート状部材11は水に濡れにくいので、吸水に伴う吸水剤13の体積増加の圧力でセル14の中の空気を上側の第一シート状部材11から容易に押し出すことができ、したがって、空気がセル14の中に留まってしまうのを効果的に防止することができるからである。
【0035】
上述した理由により、本実施形態では、第一シート状部材11の素材として通気性を有し且つ水濡れ性の低い素材を用い、第二シート状部材12の素材として吸水性を有する水濡れ性の高い素材を用いることにする。これにより、吸水剤13に水を吸水させる場合、第二シート状部材12が水に接するように、水を入れた容器に冷却シート10を浮かべると、その容器内の水を、第二シート状部材12を介して吸水剤13に素早く吸水させることができると共に、第一シート状部材11は水に濡れにくく且つ通気性を有するので、セル14の中の空気を第一シート状部材11を介して外部に容易に逃がすことができ、空気がセル14の中に留まってしまうのをより効果的に防止することができる。したがって、吸水剤13への吸水作業を容易に且つ短時間で行うことができる。
【0036】
吸水剤13への吸水作業後は、図1(c)に示すように、吸水剤13の体積が増加することに伴い各セル14が膨らむ。この膨らみの高さは主にセル14の大きさで決まるが、そのほかに、吸水剤13の量、吸水剤13の特性、第一シート状部材11と第二シート状部材12のしなやかさ等にも左右される。また、この冷却シート10が吸水した水の総量は吸水し膨らんだ冷却シート10の平均厚さTと総面積により決まる。ここで、冷却シート10の平均厚さTとは、図2(a)に示すように、文字通り冷却シート10の厚みの平均値である。この冷却シート10の平均厚みTは、冷却シート10全体の面積には無関係で、セル14の膨らみの高さに依存し、したがって主にセル14の大きさにより決めることができる。例えば、セル14を一辺の長さ20mmの正方形状に形成した場合には、吸水剤13が水を吸水した後の冷却シート10の平均厚さTは4mm程度である。一般に、セル14のピッチが大きいほど、吸水剤13が水を吸水した後の冷却シート10の平均厚Tみは厚くなる。
【0037】
次に、第一実施形態の冷却シート10の製造方法について説明する。冷却シート10は、接着剤転写工程、吸水剤配置工程、仮接合工程、本接合工程を経て製造される。接着剤転写工程は、第一シート状部材11と第二シート状部材12とを仮接合するための接着剤を、第一シート状部材11及び第二シート状部材12のうちいずれか一方に転写する工程である。ここでは、接着剤として、例えば粘度の低い水溶性の糊を用いることにする。そして、その接着剤を第二シート状部材12に転写することにする。吸水剤配置工程は、接着剤転写工程で糊が転写されたシート状部材上において間隔をあけて複数の箇所に吸水剤13を配置する工程である。仮接合工程は、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤13を囲むように第一シート状部材11と第二シート状部材12を仮接合する工程である。本接合工程は、仮接合工程で仮接合された第一シート状部材11と第二シート状部材12に対して、その仮接合された部分を本接合する工程である。以下、各工程の内容を詳しく説明する。
【0038】
まず、接着剤転写工程について説明する。図3(a)は接着剤転写工程で使用される糊転写具の概略正面図、図3(b)はその糊転写具の概略側面図である。また、図4(a)は横方向に沿って間隔をあけて糊が転写された第二シート状部材12を説明するための図、図4(b)は格子状に糊が転写された第二シート状部材12を説明するための図である。
【0039】
本実施形態では、図3に示す糊転写具20を用いて糊の転写作業が行われる。この糊転写具20は、図3に示すように、平板状の本体部21と、複数の糊付着用突起部22とを備えるものである。複数の糊付着用突起部22は、本体部21の一方の面において、一定方向に沿って一定間隔で取り付けられている。糊の転写作業では、まず、底が平らな容器(図示せず、以下これを「糊容器」とも称す。)に粘度の低い水溶性の糊を適量入れ、この糊容器の中に糊転写具20を置いて、糊付着用突起部22の先端部を糊に浸すことにより、糊付着用突起部22に糊を付着させておく。次に、布製の第二シート状部材12を平らな面に置き、糊が付着した糊付着用突起部22が第二シート状部材12と対向するようにして糊転写具20を第二シート状部材12に載せる。そして、糊転写具20を取り除くと、第二シート状部材12上には、図4(a)に示すように、横方向に沿って間隔をあけて糊17が縦方向に直線状に転写される。
【0040】
次に、糊転写具20を再度、糊容器の中に置いて糊付着用突起部22に糊を付着させる。その後、糊17が横方向に沿って間隔をあけて縦方向に直線状に転写された第二シート状部材12に対して、糊が付着した糊付着用突起部22が横方向を向くように且つ第二シート状部材12と対向するようにして糊転写具20を第二シート状部材12に載せる。そして、糊転写具20を取り除くと、第二シート状部材12上には、図4(b)に示すように、横方向に沿って間隔をあけて糊17が縦方向に直線状に転写されると共に縦方向に沿って間隔をあけて糊17が横方向に直線状に転写される。すなわち、第二シート状部材12には糊17が格子状に転写される。
【0041】
このように、第一実施形態では、糊の転写作業を、シート状部材に対して一定方向に沿って間隔をあけて糊を転写する作業と、その間隔をあけた方向と略直交する方向に沿って間隔をあけて糊を転写する作業とに分けて行うことにしている。これは次の理由による。後述する押し具(図7参照)と同様な構造、すなわち格子状の糊付着用突起部を備える構造の糊転写具を用いれば、縦方向及び横方向に沿って間隔をあけて同時に糊の転写を行うことができる。しかしながら、このような糊転写具では、糊付着用突起部が縦横両方向に配された格子状に形成されているので、糊転写具を糊容器の中に置いて糊付着用突起部に糊を付着させたときに、粘度の低い糊は毛細管現象により糊付着用突起部の交差部分に溜まってしまう。このため、このような糊の付着状態のまま糊転写具を用いて糊をシート状部材に転写すると、シート状部材上における上記交差部分に対応する部分では糊が広がってしまう。これに対し、本実施形態のように糊の転写を、横方向に沿って間隔をあけての転写と縦方向に沿って間隔をあけての転写とに分けて行うことにより、シート状部材上において糊が部分的に広がってしまうのを防止することができる。尚、接着剤として例えば粘度の高い糊を用いる場合等には、格子状の糊付着用突起部を備える構造の糊転写具を用いて糊の転写作業を行うことも可能である。
【0042】
次に、吸水剤配置工程について説明する。図5(a)は吸水剤配置工程で使用される吸水剤配置具の概略正面図、図5(b)はその吸水剤配置具の概略背面図、図5(c)はその吸水剤配置具のB−B矢視方向概略断面図である。また、図6(a)は転写された糊17により形成される各格子の中央部に吸水剤13が配置された第二シート状部材12を説明するための図、図6(b)はその第二シート状部材12のC−C矢視方向概略断面図である。
【0043】
本実施形態では、図5に示す吸水剤配置具30を用いて吸水剤13の配置作業が行われる。この吸水剤配置具30は、図5に示すように、平板状の本体部31と、吸水剤13を投入するための複数の孔部32と、糊よけ用の溝部33とを備えるものである。本体部31としては、例えば厚さ3mmの長方形状の板が用いられる。この本体部31の一方の面(正面側の面)には、格子状の溝部33が形成されている。この溝部33は、その大きさ・形状が第二シート状部材12上に格子状に転写された糊17の大きさ・形状と一致するように形成されている。複数の孔部32は、溝部33により形成される複数の格子の中央部に開けられている。ここでは、例えば直径5.5mmの孔部32を形成している。
【0044】
吸水剤13の配置作業では、まず、糊17が格子状に転写された第二シート状部材12の上に吸水剤配置具30を載せる。このとき、吸水剤配置具30の溝部33が第二シート状部材12に転写された糊17と相対するように正確に位置合わせを行う。これにより、吸水剤配置具30に糊17が付着することがないので、糊が吸水剤配置具30に付着することに伴い発生するさまざまなトラブルを回避することができる。次に、吸水剤配置具30の背面側からすべての孔部32に吸水剤13を入れる。実際、20mm角のセル14を複数有する構造の冷却シート10を製造する場合には、各孔部32から、例えば約50ミリグラムの粒状の吸水剤13を投入する。その後、吸水剤配置具30を上方向に引き上げると、図6に示すように、糊17が格子状に転写された第二シート状部材12において各格子の中央部に吸水剤13が適量配置される。
【0045】
次に、仮接合工程について説明する。図7(a)は仮接合工程で使用される押し具の概略正面図、図7(b)はその押し具の概略側面図である。
【0046】
第一シート状部材11と第二シート状部材12との仮接合の作業は、図7に示す押し具40を用いて行われる。この押し具40は、図7に示すように、平板状の本体部41と、押付け用突起部42とを備えるものである。押付け用突起部42は、第二シート状部材12において格子状に転写された糊17の間隔と同一間隔で縦横格子状に形成されている。仮接合の作業では、まず、糊17が格子状に転写された第二シート状部材12の上に、その糊17が乾く前に第一シート状部材11を重ね合わせる。次に、第二シート状部材12上に転写された糊17の位置と押付け用突起部42の位置とが一致するように押し具40を第一シート状部材11及び第二シート状部材12の上に載せて押圧する。こうして、第一シート状部材11と第二シート状部材12とは糊17により格子状に接着される。糊17が乾いて第一シート状部材11と第二シート状部材12とが仮接合されると、各セル14の中の吸水剤13は、多少の振動等があったとしても、第一シート状部材11と第二シート状部材12の間からこぼれおちたり、別のセルに移動したりすることはない。
【0047】
仮接合工程の後には、本接合工程が行われる。本実施形態では、第一シート状部材11と第二シート状部材12との本接合を、糸で縫合することにより行う。具体的には、仮接合工程で仮接合された第一シート状部材11及び第二シート状部材12に対して、その仮接合された部分(糊付けされた部分)を、ミシンを使って縦横に縫合する。ここで、上述したように第一シート状部材11と第二シート状部材12とが仮接合された後は、各セル14に収納された吸水剤13が当該セル14から移動することはないので、ミシンを使った縫合作業の際にも、各セル14に収納された吸水剤13が外にこぼれ落ちたり移動したりすることはない。こうして、図1に示すように、第一シート状部材11と第二シート状部材12との間の複数の箇所に吸水剤13が配置され、複数のセル14が約20mmのピッチで形成された構造の冷却シート10が完成する。
【0048】
このように、糊転写具20、吸水剤配置具30、押し具40等の各種の専用具を用いることにより、冷却シート10を容易に製造することができる。また、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤13を囲むように第一シート状部材11と第二シート状部材12を仮接合した後に、第一シート状部材11と第二シート状部材12における仮接合した部分を本接合することにより、仮接合の後から本接合が完了するまでの間に、各箇所に配置された吸水剤13がその配置された箇所からこぼれ落ちたり別の箇所に移動したりするのを防止することができるので、不良品の発生率を大幅に抑えることができる。
【0049】
また、冷却シート10の大量生産を行う場合には、冷却シート10を連続的に製造すればよい。この場合でも、冷却シート10の製造工程には、上記の仮接合工程を含めることが合理的であり、仮接合するための接着剤として粘度の低い水溶性の糊を用いるときには、接着剤の転写作業を、シート状部材に対して一定方向に沿って間隔をあけて糊を直線状に転写する作業と、その転写された方向と略直交する方向に沿って間隔をあけて糊を直線状に転写する作業とに分けて行うことが望ましい。また、仮接合の方法としては、糊などの接着剤を用いる方法に限らず、シート状部材に用いる布の種類によっては熱による接着する方法も適用可能である。
【0050】
第一実施形態の冷却シートは、対向して配置された第一シート状部材と第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤と、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤を囲むように第一シート状部材と第二シート状部材を接合することにより形成された、各箇所に配置された吸水剤を収納する複数のセルとを備えて構成されている。これにより、冷却シート上において吸水剤をほぼ一定間隔で配置することができると共に、大面積の冷却シートを作製してもその冷却シートに柔軟性を持たせることができる。このため、かかる吸水剤がほぼ一定間隔で配置された平面状の冷却シートを用いると、例えば人間の胴体等、広い面積を有する部分を冷却することが可能である。また、吸水剤を各セルに収納したことにより、各セルに収納された吸水剤は当該セルの位置から移動することができないので、大面積の冷却シートを例えば人間の胴体に巻きつけて使用しても、水を含んだ吸水剤が全体として下に偏ってしまうことはない。更に、特に外気温が高く比較的乾燥している環境下において本冷却シートを使用すると、吸水剤に吸水させた水が盛んに蒸発し、その水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱により吸水剤の温度上昇を効果的に抑えることができるので、吸水剤の温度上昇の速度を緩やかにすることができ、したがって、冷却効果を長時間維持することができる。このように、第一実施形態の冷却シートは、簡易な構造でありながら、外気温が高くても比較的湿度の低い環境下ならば十分な冷却能力を有しており、各種の目的で使用することが可能である。
【0051】
また、第一実施形態の冷却シートでは、互いに対向して配置された第一シート状部材及び第二シート状部材について吸水剤を囲んだ部分を縫合することにより、第一シート状部材と第二シート状部材を接合しているので、各セルに吸水剤を確実に配置し、他のセルへの移動を完全に防止することができる。更に、第一シート状部材と第二シート状部材の素材として布を用いたことにより、冷却シートに十分な耐久性を持たせることができる。
【0052】
尚、上記の第一実施形態では、冷却シートにおいて複数のセルを約20mmのピッチで形成した場合について説明した。セルのピッチが大きいほど、吸水剤が水を吸水した後の冷却シートの平均厚Tみが厚くなるので、一般には、冷却シートの使用目的等に応じて、セルのピッチを決定すればよい。実際、本発明者等が調べたところでは、セルの面積をSとすると、冷却シートの平均厚みTはS1/2×0.2程度である。実用的にはセルの面積を0.3cmから16cmまでの範囲内で決定することが好ましい。セルの面積が0.3cmのときには冷却シートの平均厚みTは約1mmとなり、これよりも小さい面積のセルを形成することにすると、そのセルにはあまり多くの量の吸水剤を配置することができず、冷却効果の持続時間が極端に短くなってしまうからである。一方、セルの面積が16cmのときには冷却シートの平均厚みは約8mmとなり、これよりも大きい面積のセルを形成することにすると、そのセルには大量の吸水剤を配置することができるが、吸水剤に水を吸水したときに、冷却シートが重くなり、使用上かえって不便になってしまうからである。また、0.3cmから16cmの範囲の面積のセルを形成する場合には、セルの大きさ、吸水剤の特性にもよるが、冷却シート1m当たりの吸水剤の質量を10グラムから300グラムまでの範囲とするのが適当である。
【0053】
また、上記の第一実施形態では、セルの形状を正方形状とした場合について説明したが、セルを、正方形に限らず、冷却シートの使用目的に応じて長方形、平行四辺形、ひし形などの形状に形成してもよい。更に、冷却シートにおいて、例えば上部に位置するセルを10mmピッチ、中央部に位置するセルを15mmピッチ、下部に位置するセルを20mmピッチで形成するなど、冷却シートの各部でセルのピッチを変えたり、一部のセルを正方形状に形成しその他のセルを長方形状に形成するなど、冷却シートの各部でセルの形状を変えたりしてもよい。これにより、吸水剤に水を吸水させたときに、一枚の冷却シートの各部ごとにその平均厚みTを変えることができる。
【0054】
更に、上記の第一実施形態では、各セルに約50ミリグラムの粒状の吸水剤を配置する場合について説明したが、例えば吸水剤配置具に形成する各孔部の大きさを変えることにより、各セルに配置される吸水剤の量をセル毎に異なるようにしてもよい。一般的に、高分子吸水ポリマーは、その量が多いほど吸水しやすくなるが吸水した水を蒸発しにくくなるという傾向がある。かかる高分子吸水ポリマーを吸水剤として用いる場合には、風(外気)がよく当たる冷却シートの部分は水が蒸発しやすいので、当該部分のセルに配置される高分子吸収ポリマーの量を増やし、風があまり当たりにくい冷却シートの部分のセルに配置される高分子ポリマーの量を少なくするようにすることが望ましい。これにより、風が所定の方向から吹いているような環境下で冷却シートを使用しても、冷却シートのどの部分においても、水が完全に蒸発するまでの時間を略同じになるように調整することができるので、冷却効果の持続時間の均一化を図ることができる。このように、セルの大きさ、セルの形状、吸水剤の量、吸水剤の特性などにより、使用目的に応じた様々な冷却シートを作製することが可能である。
【0055】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について図面を参照して説明する。図8(a)は本発明の第二実施形態である簡易型冷却服の概略正面図、図8(b)は人の胴体に取り付けられた簡易型冷却服を前面側から見たときの概略図、図8(c)は人の胴体に取り付けられた簡易型冷却服を背面側から見たときの概略図である。
【0056】
図8に示す簡易型冷却服50は、冷却シート10Aと、四つの調整ベルト51a,51b,52a,52bとを備えている。冷却シート10Aとしては、第一実施形態の冷却シート10とほぼ同じ構造のものを用いている。この簡易型冷却服50に使用する冷却シート10Aの外形寸法は、例えば縦30cm、横80cmであり、その冷却シート10Aは、約20mm角のセル14が600(15×40)個有する構造に構成されている。また、図8(a)に示すように、冷却シート10Aの左端部における上部及び下部にはそれぞれ調整ベルト51a,51bが取り付けられ、冷却シート10Aの右端部における上部及び下部にはそれぞれ調整ベルト52a,52bが取り付けられている。
【0057】
この簡易型冷却服50を使用する場合には、まず、冷却シート10Aに対して吸水作業を行う。その後、図8(b)及び(c)に示すように、冷却シート10Aを胴体に巻き付けるようにして体の上に取り付け、調整ベルト51aと調整ベルト52aを結び付けると共に調整ベルト51bと調整ベルト52bを結び付けることにより、冷却シート10Aを体に密着させる。このように簡易型冷却服50は簡単に着用することができる。ここで、本明細書においては、冷却シートを「体の上に取り付ける」、「体に密着させる」という表現は、冷却シートを直接、体に取り付けることを意味するだけでなく、冷却シートを下着、作業服、防護服等の上に取り付け、それらを介して体に密着させることをも意味するものとする。尚、冷却シートを冷却服に適用する場合、冷却シートのうち体に密着させる側は第一シート状部材11、第二シート状部材12のいずれでもよい。
【0058】
この簡易型冷却服50による体への冷却効果には次の2つがある。まず、第1の冷却効果について説明する。吸水剤13に水が吸水された冷却シート10Aの温度はその吸水した水の温度とほぼ同じであり、この水の温度は体表面の温度よりもずっと低い。このため、冷却シート10Aを体に取り付けると、冷却シート10Aと体表面との温度差により体表面の熱が冷却シート10Aに移動することにより、胴体全体が冷却される。実際、吸水剤13が水を吸水した後の冷却シート10Aの平均厚さTは4mm程度なので、4mm厚のシート状の保冷パックを取り付けているのと同様の効果がある。したがって、簡易型冷却服50では、着衣した瞬間に体を冷却することができる。次に、第2の冷却効果について説明する。冷却シート10Aに使用する吸水剤(吸水性ポリマー)13としては、紙おむつなどに使用されている水を強力に吸水し容易には水を離さないタイプのものと異なり、容易に吸水し且つその吸水した水が容易に蒸発する特性のものを使用している。このため、簡易型冷却服50を着用し、吸水剤13に水が吸水された冷却シート10Aが胴体に密着されると、ほぼ胴体全体が実質的に厚さ4mmの水の層で覆ったことと同様の効果がある。したがって、外気が高温でも湿度があまり高くなければ、吸水剤13に吸水された水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱を利用して、胴体全体を十分に冷却することができる。しかも、その水の蒸発の際に周囲から奪う気化熱により水を吸水した吸水剤の温度上昇を効果的に抑えることができるので、吸水剤の温度上昇の速度を緩やかにして、冷却効果を長時間維持することができる。このように、簡易型冷却服50の冷却効果には2つの効果があり、この簡易型冷却服50は効果が非常に長時間持続するシート状の保冷パックであるという見方もできる。
【0059】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について図面を参照して説明する。図9(a)は本発明の第三実施形態である冷却服を着衣した状態を前面側から見たときの概略図、図9(b)はその冷却服を着衣した状態を背面側から見たときの概略図、図10(a)はその冷却服における服状体の概略展開図、図10(b)はその冷却服における密着メッシュ手段の概略展開図、図10(c)はその冷却服における第一の冷却シートの概略平面図、図10(d)はその冷却服における第二の冷却シートの概略平面図である。
【0060】
第三実施形態の冷却服100は、肩ベルトを用いて人の上半身に着用されるものであり、図9及び図10に示すように、二つの第一の冷却シート10B,10Bと、一つの第二の冷却シート10Cと、服状体110と、密着メッシュ手段120とを備えている。尚、図9においては、密着メッシュ手段120は着用されておらず、冷却シート10B,10B,10Cを取り付けた服状体110だけが着用されているときの様子を示している。
【0061】
第一の冷却シート10B及び第二の冷却シート10Cとしては、第一実施形態の冷却シート10とほぼ同じ構造のものを用いている。二つの第一の冷却シート10B,10Bはそれぞれ主として胴体の前側右部、前側左部を冷却するためのものであり、第二の冷却シート10Cは胴体の背部を冷却するためのものである。このため、第一の冷却シート10Bと第二の冷却シート10Cとでは、サイズ・形状が異なっている。実際、第一の冷却シート10Bは、図10(c)に示すように略正方形状に形成され、一方、第二の冷却シート10Cは、図10(d)に示すように略長方形状に形成されている。また、各冷却シート10B,10B,10Cの一方の側の面において四つの角部にはそれぞれ、面ファスナー19が設けられている。各冷却シート10B,10B,10Cは、図9に示すように、面ファスナー19により服状体110の所定位置に取り付けられる。尚、各冷却シート10B,10B,10Cの面ファスナー19が設けられた四つの角部には、吸水剤13を配置しないことが望ましい。吸水剤13が各角部になければ、これらの冷却シート10B,10B,10Cに吸水させても面ファスナー19が設けられた各角部は膨らむことがなく、吸水後に冷却シート10B,10B,10Cを服状体110に容易に取り付けることができるからである。
【0062】
服状体110は、図10(a)に示すように、略長方形状のシート状部材111と、二つの肩ベルト112,112と、四つの調整ベルト113a,113b,114a,114bとを有する。シート状部材111は胴体を覆うための生地である。このシート状部材111の表面、すなわち、着衣したときに体と接する面と反対側の面には、冷却シート10B,10B,10Cを取り付けるための面ファスナー115が合計12個設けられている。図10(a)に示すように、シート状部材111の右側部P1及び左側部P2にそれぞれ設けられた四つの面ファスナー115は、冷却シート10Bの面ファスナー19と結合することにより冷却シート10Bを服状体110に着脱可能に取り付けるためのものであり、シート状部材111の中央部P3に設けられた四つの面ファスナー115は、冷却シート10Cの面ファスナー19と結合することにより冷却シート10Cを服状体110に着脱可能に取り付けるためのものである。また、第三実施形態では、シート状部材111の素材として、防水性の素材を用いている。これにより、冷却シート10B,10B,10Cに吸水された水がシート状部材111の下に着用している下着などに移ることを防止することができる。
【0063】
二つの肩ベルト112,112はそれぞれ、シート状部材111の右上端部、左上端部に取り付けられている。すなわち、服状体110は肩ベルト112,112を肩にかけて着用するタイプのものである。また、図10(a)に示すように、シート状部材111の左端部における上部及び下部にはそれぞれ調整ベルト113a,113bが取り付けられ、シート状部材111の右端部における上部及び下部にはそれぞれ調整ベルト114a,114bが取り付けられている。図9(a)に示すように、肩ベルト112,112を肩にかけた後、調整ベルト113aと調整ベルト114aを結び付けると共に調整ベルト113bと調整ベルト114bを結び付けることにより、服状体110を上半身に密着させて着用することができる。
【0064】
密着メッシュ手段120は、服状体110に取り付けられた各冷却シート10B,10B,10Cの、体への密着性を更に高めるためのものである。この密着メッシュ手段120は、図10(b)に示すように、略長方形状のメッシュ状部材121と、伸縮性を有する六つの伸縮調整ベルト122a,122b,122c,123a,123b,123cとを備えている。メッシュ状部材121の素材としては、目の粗いものが用いられる。ここで、このメッシュ状の素材の目の粗さは、冷却シート10B,10Cのセルの大きさより少し細かい程度であることが望ましい。
【0065】
また、図10(b)に示すように、メッシュ状部材121の左端部における上部、中央部及び下部にはそれぞれ伸縮調整ベルト122a,122b,122cが取り付けられ、メッシュ状部材121の右端部における上部、中央部及び下部にはそれぞれ伸縮調整ベルト123a,123b,123cが取り付けられている。密着メッシュ手段120は、冷却シート10B,10B,10Cを取り付けた服状体110の上に装着される。すなわち、服状体110に取り付けられた各冷却シート10B,10B,10Cをメッシュ状部材121で覆い、その後、体の前面側において、伸縮調整ベルト123aと伸縮調整ベルト124a、伸縮調整ベルト123bと伸縮調整ベルト124b、及び、伸縮調整ベルト113cと伸縮調整ベルト124cを結び付けることにより、密着メッシュ手段120が服状体110の上に装着される。ここで、本実施形態では、各伸縮調整ベルト122a〜123cの長さを予め短めに設定している。このため、密着メッシュ手段120を服状体110の上に装着したときには、密着メッシュ手段120は、各伸縮調整ベルト122a〜123cの有する伸縮性の力により服状体110に取り付けられた冷却シート10B,10B,10Cを押圧するので、これらの冷却シート10B,10B,10Cは、密着メッシュ手段120を用いない場合に比べて、体により一層密着することになる。
【0066】
第三実施形態の冷却服100の使用方法及びその冷却効果は、上記の簡易型冷却服50と同じである。すなわち、この冷却服100を着用すると、冷却シート10B,10B,10Cと体表面との温度差により体表面の熱が冷却シート10B,10B,10Cに移動することにより、胴体全体を冷却することができると共に、冷却シート10B,10B,10Cの吸水剤13に吸水された水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱を利用して、胴体全体を十分に冷却することができる。特に、第三実施形態の冷却服100では、密着メッシュ手段120を設けたことにより、冷却シート10B,10B,10Cを体に一層密着させることができるので、簡易型冷却服50に比べて冷却効果が向上するという特徴がある。
【0067】
ところで、冷却服100を着用した後、冷却シート10B,10B、10Cの各セル14においては、吸水剤13に吸水された水が蒸発し、その吸水剤13の体積が減少することにより、当該セル14内に空気層が発生することがある。例えば、吸水剤13に吸水された水の一部が蒸発したときには、図2(b)に示すように、セル14内に空気層が発生する。かかる空気層が発生すると、風(外気)が冷却シートに当たっても、未だ吸水剤13に吸水されたまま残っている水の蒸発が空気層の存在により妨げられるので、冷却効果が低下してしまう。密着メッシュ手段120は冷却シートを押圧して体に密着させるので、この密着メッシュ手段120が冷却シートを押圧する力を利用して、セル14内に空気層が発生するのを防止することができる。換言すれば、冷却服100の着用直後の冷却シートの平均厚みTは厚いが、セル14の中の吸水剤13に吸水された水の蒸発が進むにつれて、密着メッシュ手段120が冷却シートを押圧する力により冷却シートの平均厚みTを自動的に薄くすることができるので、セル14の中の吸水剤13に水を吸水してから吸水剤13に吸水されている水がなくなるまで一定の冷却効果を維持することができる。尚、かかる密着メッシュ手段120は、本発明の「押圧手段」に該当する。
【0068】
このように、密着メッシュ手段120は、冷却シートを体に密着させるという役割の他に、吸水剤13に吸水された水が蒸発することに伴い各セル14の中に発生する空気層の発生を防止するという役割を果たすものであるので、密着メッシュ手段120のメッシュ状部材121の目の粗さは冷却シートのセル14の大きさより少し細かい程度であればよい。メッシュ状部材121の目の粗さがあまりに細かいと、メッシュ状部材121自体が、吸水剤13に吸水された水の蒸発を妨げることになってしまうからである。
【0069】
また、一般に、歩行時には、体の前面や側面は風を受けやすいが、体の背面は風を受けにくい。このため、冷却服100を着用して歩行する場合、体の前面側に配置される冷却シート10B,10Bと体の背面側に配置される冷却シート10Cとの特性が同じであるとすると、体の前面側に配置される冷却シート10B,10Bが体の背面側に配置される冷却シート10Cよりも先に乾燥してしまい、これら冷却シート10B,10Cの間で冷却効果持続時間に差が生じてしまう。これを防止するには、例えば、背面側に配置される冷却シート10Cに対しては、前面側に配置される冷却シート10B,10Bに比べて、各セル14の中に入れる吸水剤13の量を少なくして、吸水剤13に吸水される水が完全に蒸発するまでの時間を短くするようにすればよい。また、前面側に配置される冷却シート10B,10Bと背面側に配置される冷却シート10Cとで、蒸発特性の異なる吸水剤13を使用したり、セル14の大きさを変えたりすることにより、この問題を解決することも可能である。
【0070】
第三実施形態の冷却服では、各冷却シートが、対向して配置された第一シート状部材と第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤と、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤を囲むように第一シート状部材と第二シート状部材を接合することにより形成された、各箇所に配置された吸水剤を収納する複数のセルとを備えて構成されているので、冷却シート上において吸水剤はほぼ一定間隔で配置され、大面積の冷却シートを作製してもその冷却シートは柔軟性を有している。このため、かかる吸水剤がほぼ一定間隔で配置された平面状の冷却シートを服状体に取り付けることにより、柔軟性に富んだ冷却服を作製することができると共に、冷却服の着用時に、吸水剤の配置が下に偏ってしまうことはない。また、特に外気温が高く比較的乾燥している環境下において第三実施形態の冷却服を使用すると、吸水剤に吸水させた水が盛んに蒸発し、その水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱を利用して体を十分に冷却することができる。しかも、その水の蒸発の際に周囲から奪う気化熱により吸水剤の温度上昇を効果的に抑えることができるので、吸水剤の温度上昇の速度を緩やかして、冷却効果を長時間維持することができる。
【0071】
尚、上記の第三実施形態では、服状体のシート状部材の素材として防水性素材を用いた場合について説明したが、これは冷却シートの吸水剤に吸水された水が下着などに移るのを防止するためである。しかしながら、冷却服を着用しても多少の汗をかくような環境下では、下着などは汗で濡れてしまうので、服状体のシート状部材の素材としては必ずしも防水性素材を用いる必要はなく、例えばメッシュ状の素材等でシート状部材を構成するようにしてもよい。
【0072】
また、防水性素材には透湿性を有するものと透湿性を有しないものとがあるが、服状体のシート状部材の素材として透湿性を有する防水性素材を用いれば、冷却シートが乾燥して冷却能力がなくなった場合でも汗の蒸発をあまり妨げることがないので、汗による不快感を冷却服の着用者にそれ程与えることがないという利点がある。一方、服状体のシート状部材の素材として透湿性を有しない防水性素材を用いた場合には、冷却シートの冷却能力がなくなればすぐに冷却シートを交換するか、冷却服そのものを脱いでしまえばよい。このような方法で冷却服を使用することにすれば、服状体のシート状部材の素材としては、ビニール等、透湿性のない安価な素材を用いることもできる。
【0073】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態について図面を参照して説明する。図11(a)は本発明の第四実施形態である冷却服を着衣した状態を前面側から見たときの概略図、図11(b)はその冷却服を着衣した状態を背面側から見たときの概略図である。
【0074】
第四実施形態の冷却服200は、図11に示すように、第三実施形態の冷却服100に加えて更に空調服210を備えるものである。ここで、空調服210は、冷却服100の上に着用される。
【0075】
空調服210は、体の所定部位を覆う服地部211と、服地部211と体との間の空間に空気の流れを強制的に生じさせるための二つのファン(送風手段)212,212とを備えるものである。服地部211は、空気の漏れにくい生地を使用して、裾などから空気が漏れないように構成されている。二つのファン212,212は、図11(b)に示すように、服地部211の背中側の下部に取り付けられている。各ファン212,212は、外部の空気を服地部211内に取り込む方向に回転する。
【0076】
二つのファン212,212を回転させると、ファン212,212は外部の空気(外気)を服地部211内に取り込み、その取り込まれた外気は、服地部211と体との間の空間内を胴体に沿って上方に流れ、首周りや袖口から外部に排出される。かかる空調服210を単体で使用した場合には、体の表面に平行に空気の流れを発生させることにより体から出た汗を蒸発させ、その蒸発の際に体から気化熱が奪われることを利用して、身体を冷却することができる。この空調服210の詳細は前述の特許文献1に開示されている。しかしながら、例えば外気があまりにも暑い場合には、空調服210を単体で使用しても、暑さに対応する汗の供給が間に合わなくなり、十分な冷却効果が得られない。
【0077】
第四実施形態の冷却服200は、冷却効果を高めるために、第三実施形態の冷却服100と上記の空調服210とを併用したものである。かかる冷却服200では、図11に示すように、第三実施形態の冷却服100の上に空調服210を着用する。この空調服210のファン212,212を駆動して回転させると、空調服210の内側の空間、すなわち、服地部211と冷却服100との間の空間に胴体に沿って略平行に大量の外気を流通させることができる。このため、その流通する外気によって、冷却服200に取り付けられた冷却シート10B,10B,10Cの吸水剤13に吸水された水の蒸発を促進することができる。このように、第四実施形態の冷却服200では、体表面に略平行に空気の流れを発生させるという空調服210の機能を利用することにより、吸水剤13に吸水された水の蒸発の促進を図ることができるので、外気温が相当高くても比較的乾燥している環境下であれば、冷却効果をより一層高めることができ、体を十分に冷却することができる。
【0078】
但し、ファンの周辺では風量が特に大きいので、ファン周辺の部分における吸水剤は他の部分の吸水剤よりも先に乾燥してしまう。これを防止するためには、ファン周辺の部分における冷却シートのセルには吸水した水が蒸発しにくい吸水剤を配置したり、あるいはファン周辺の部分における冷却シートに当たる風量を調節したりすればよい。ここで、冷却シートに当たる風量を調節する方法の例としては、例えば、風量を調節したい冷却シートの上に目の細かいメッシュ状の素材を取り付けるという方法を挙げることができる。
【0079】
尚、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【0080】
上記の第三及び第四実施形態では、冷却服が三つの冷却シートを有する場合について説明したが、冷却服は大面積の冷却シートを一つだけ有し、この一つの冷却シートを服状体に取り付けるようにしてもよい。また、冷却服に用いる冷却シートの数は二つ又は四つ以上であってもよい。
【0081】
また、上記の第三及び第四実施形態では、面ファスナーを用いて冷却シートを服状体に装着する場合について説明したが、図12に示すように、服状体110にメッシュ状の袋130,130,130を取り付け、各袋130の中に冷却シートを入れることにより、冷却シートを服状体110に取り付けるようにしてもよい。この場合には、密着メッシュ手段を用いなくても、このメッシュ状の袋に、当該冷却シートを押圧して各セルの中に発生する空気層の発生を防止するという役割を持たせることができる。また、面ファスナーの代わりに、ホックや一般のファスナーを使用して、冷却シートを服状体に装着することも可能である。
【0082】
また、上記の第二、第三及び第四実施形態では、冷却服が上半身に着用する服である場合について説明したが、冷却服は下半身に着用するズボン等の服や、体の特定の一部に装着されるものであってもよい。
【0083】
更に、上記の第四実施形態では、空調服に二つのファンを設けた場合について説明したが、空調服にはファンを一つ又は三つ以上設けるようにしてもよい。また、ファンの回転を逆方向にするなどにより胴体に沿って流れる外気の向きを逆向きにしてもよい。
【0084】
上記の各実施形態では、冷却シートにおける第一シート状部材及び第二シート状部材として布製のものを用いた場合について説明したが、第一シート状部材及び第二シート状部材のうち一方のシート状部材が水濡れ性(吸水性)のよいものであり、他方のシート状部材が空気透過性(通気性)のよいものであれば、第一シート状部材及び第二シート状部材の素材としては、布以外の、どのような素材を用いてもよい。例えば、不織布を用いることができる。特に、冷却シートを人体の冷却目的で使用するような場合には、第一シート状部材及び第二シート状部材としては、十分な耐久性を有するが、それ程厚くないものを用いることが望ましい。
【0085】
また、上記の各実施形態では、冷却シートにおける第一シート状部材と第二シート状部材とを仮接合するための接着剤として、粘度の低い水溶性の糊を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、かかる仮接合するための接着剤としては、第一シート状部材及び第二シート状部材の材質に適した接着剤であれば、どのようなものでも使用することができる。
【0086】
上記の各実施形態では、冷却シートの各セルに収納する吸水剤として、吸水性ポリマーを用いた場合について説明したが、吸水剤は吸水性ポリマーに限定されるものではなく、吸水性がよく且つその吸水した水が蒸発しやすい特性を有するものであれば、どのようなものでも用いることができる。また、上記の各実施形態では、例えば図6に示したように、各セルに一個の粒状の吸水剤を配置した場合について説明したが、各セルには複数の粒状の吸水剤を配置するようにしてもよい。実際、吸水剤としては、砂粒状のものを用いることが望ましい。粒が細かいほど、表面積が大きくなり、吸水速度が速くなるからである。更に、吸水剤は、粒状のものに限らず、粉状のものであってもよい。
【0087】
また、吸水剤としては、紙おむつなどに使用される、吸水性はよいが蒸発性が非常に低いものを用いることも可能である。このような吸水剤を用いて作製した冷却シートには、シート状の保冷剤(保冷シート)としての役割を持たせることができる。この場合、その保冷シートについては、吸水されていない軽量な状態で販売し、使用時に使用者に吸水を行ってもらうという使い方ができるので、市販の保冷剤に比べて利便性に優れているという利点がある。
【0088】
更に、上記の各実施形態では、本発明の冷却シートを、主として人体を冷却するために使用する場合について説明したが、本発明の冷却シートの使用目的は人体の冷却に限定されるものではない。例えば、人間以外の動物の冷却などにも使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明に係る冷却シートは、対向して配置された第一シート状部材と第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤と、各箇所において当該箇所に配置された吸水剤を囲むように第一シート状部材と第二シート状部材を接合することにより形成された、各箇所に配置された吸水剤を収納する複数の収納部とを備えて構成されている。これにより、冷却シート上において吸水剤をほぼ一定間隔で配置することができると共に、大面積の冷却シートを作製してもその冷却シートに柔軟性を持たせることができる。このため、かかる吸水剤がほぼ一定間隔で配置された平面状の冷却シートを用いると、例えば人間の胴体等、広い面積を有する部分を冷却することが可能である。また、吸水剤を各収納部に収納したことにより、各収納部に収納された吸水剤は当該収納部の位置から移動することができないので、大面積の冷却シートを例えば人間の胴体に巻きつけて使用しても、水を含んだ吸水剤が全体として下に偏ってしまうことはない。更に、本発明に係る冷却シートを、特に外気温が高く比較的乾燥している環境下において使用すると、吸水剤に吸水させた水が盛んに蒸発し、その水が蒸発する際に周囲から奪う気化熱により吸水剤の温度上昇を効果的に抑えることができるので、吸水剤の温度上昇の速度を緩やかにすることができ、冷却効果が長時間持続する。したがって、本発明に係る冷却シートは、簡易な構造でありながら、外気温が高くても比較的湿度の低い環境下であれば十分な冷却能力を有しており、暑さ対策の衣服など、各種の目的で使用することが可能である。
【符号の説明】
【0090】
10,10A,10B,10C 冷却シート
11 第一シート状部材
12 第二シート状部材
13 吸水剤
14 セル(収納部)
16 縫い目(接合部)
17 糊
19 面ファスナー
20 糊転写具
21 本体部
22 糊付着用突起部
30 吸水剤配置具
31 本体部
32 孔部
33 溝部
40 押し具
41 本体部
42 押付け用突起部
50 簡易型冷却服
51a,51b,52a,52b 調整ベルト
100 冷却服
110 服状体
111 シート状部材
112 肩ベルト
113a,113b,114a,114b 調整ベルト
115 面ファスナー
120 密着メッシュ手段(押圧手段)
121 メッシュ状部材
122a,122b,122c,123a,123b,123c 伸縮調整ベルト
130 メッシュ状の袋
200 冷却服
210空調服
211 服地部
212 ファン(送風手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一シート状部材と、前記第一シート状部材に対向して配置された第二シート状部材と、前記第一シート状部材と前記第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤と、前記各箇所において当該箇所に配置された前記吸水剤を囲むように前記第一シート状部材と前記第二シート状部材を接合することにより形成された、前記各箇所に配置された前記吸水剤を収納する複数の収納部とを備えることを特徴とする冷却シート。
【請求項2】
前記吸水剤は、水を吸水すると共にその吸水した水が蒸発する特性を備えるものであることを特徴とする請求項1記載の冷却シート。
【請求項3】
前記第一シート状部材及び前記第二シート状部材のうち一方は吸水性を有する部材であり、他方は通気性を有する部材であることを特徴とする請求項1又は2記載の冷却シート。
【請求項4】
前記第一シート状部材及び前記第二シート状部材のうち一方のシート状部材の素材として水濡れ性の低い素材を用い、他方のシート状部材の素材として水濡れ性の高い素材を用いることを特徴とする請求項1、2又は3記載の冷却シート。
【請求項5】
前記吸水剤として吸水性ポリマーを用いることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の冷却シート。
【請求項6】
互いに対向して配置された前記第一シート状部材及び前記第二シート状部材について前記吸水剤を囲んだ部分を縫合することにより、前記第一シート状部材と前記第二シート状部材を接合することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の冷却シート。
【請求項7】
前記第一シート状部材及び前記第二シート状部材の素材として布を用いることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の冷却シート。
【請求項8】
対向して配置された第一シート状部材と第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に吸水剤を配置する配置工程と、
前記各箇所において当該箇所に配置された前記吸水剤を囲むように前記第一シート状部材と前記第二シート状部材を仮接合する仮接合工程と、
前記仮接合工程の後に、前記第一シート状部材と前記第二シート状部材における仮接合した部分を本接合する本接合工程と、
を具備することを特徴とする冷却シートの製造方法。
【請求項9】
前記第一シート状部材と前記第二シート状部材の仮接合を、接着剤を用いて行うことを特徴とする請求項8記載の冷却シートの製造方法。
【請求項10】
前記仮接合工程では、前記第一シート状部材又は前記第二シート状部材のうちいずれか一方のシート状部材に対して、一定方向に沿って間隔をあけて前記接着剤を直線状に転写し、次に、その間隔をあけた方向と略直交する方向に沿って間隔をあけて前記接着剤を直線状に転写し、その後、前記接着剤が転写された当該一方のシート状部材と他方のシート状部材とを重ね合わせることにより前記第一シート状部材と前記第二シート状部材の仮接合を行うことを特徴とする請求項9記載の冷却シートの製造方法。
【請求項11】
第一シート状部材と、前記第一シート状部材に対向して配置された第二シート状部材と、前記第一シート状部材と前記第二シート状部材の間において間隔をあけて複数の箇所に配置された吸水剤と、前記各箇所において当該箇所に配置された前記吸水剤を囲むように前記第一シート状部材と前記第二シート状部材を接合することにより形成された、前記各箇所に配置された前記吸水剤を収納する複数の収納部とを有する一又は複数の冷却シートと、
メッシュ状の素材又は防水性を有するシート状の素材を用いて形成された、体の所定部位を覆うことができる服状体と、
を備え、
前記各冷却シートの前記吸水剤に水を吸水させ、前記服状体において体に接する面と反対の面に前記吸水させた前記各冷却シートを取り付けたことを特徴とする冷却服。
【請求項12】
メッシュ状の素材を用いて作製された、前記服状体に取り付けられた前記各冷却シートを押圧する押圧手段を備えることを特徴とする請求項11記載の冷却服。
【請求項13】
体の所定部位を覆う服地部と、前記服地部と体との間の空間に空気の流れを強制的に生じさせるための一又は複数の送風手段とを有する空調服を更に備えており、
前記冷却シートが取り付けられた前記服状体の上に前記空調服を着用し、
前記送風手段を駆動することにより前記空調服の内側に外気を流通させ、その流通する外気により前記服状体に取り付けられた前記冷却シートの前記吸水剤に吸水された水の蒸発を促進することを特徴とする請求項11又は12記載の冷却服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−183228(P2012−183228A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49058(P2011−49058)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(592171005)株式会社セフト研究所 (11)
【Fターム(参考)】