説明

冷却基材、冷却シート及びネッククーラー

【課題】手軽で省エネルギー的な冷却方法を提供するものであり、柔軟性に富み、広い面積の冷却にも充分対応できる冷却技術を提供することを目的とする。
【解決手段】高分子ポリマーに微粉末シリカ及び液状軟化材を配合した水拡散用冷却基材(拡散膜)を用いた冷却シートであり、蒸発に必要な量の水だけが自動的に供給され、更に、駆動力には拡散力と云う自然力だけを使用しているので、冷却のための電力等は全く必要としない優れた省資源省エネルギー的冷却法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却シート及びネッククーラーに関するもので、更に詳しくは、物体を省エネルギー的に冷却する冷却基材、冷却シート及びネッククーラーに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の冷却には主に気体の断熱圧縮膨張による冷却法が採用されているが、これには電力その他の多大のエネルギーを必要とし装置も複雑化している。
【0003】
近年、温室効果ガスによる地球温暖化現象が顕著になり、特に夏期には猛暑日が連続し、冷却機器の使用なしでは生活出来ない状態になっている。そして現在採用されている冷却機器は、ある種の気体の断熱圧縮膨張による吸熱作用を利用した種類の機器が主流になっている。しかしこれらの機器は圧縮に電力が必要であり、装置が複雑化し高価であり、装置全体の重量が大きく手軽で省エネルギーであるとは言い難い。社会全体としては電力の多量消費は温室効果ガスの多量排出にもつながり悪循環に陥る。
【0004】
従って、もう少し手軽で省エネルギー的な冷却方法が社会的に求められている。本発明はこの課題の解決を目的とするものである。
【0005】
従来より、微細な空隙を有する素焼きの瓶等で中の水がしみ出て来た時の蒸発潜熱を利用し、中の水を冷却する考えはあったが、これらの材料は極めて硬く、かつ柔軟性に欠けるので広い面積を冷却する冷却シートには向かない。
【0006】
また、先行技術として特許文献1がある。この先行技術の発明は省エネルギー的な冷却方法として、表面側が通気性素材からなるシート、裏面側が合成樹脂製シートで構成された包装材内に、吸水性ポリマーを充填してクーラーマットとしたものである。
用いられる水の吸収剤としてはポリアクリル酸ソーダ等の合成高分子吸収剤が知られているが、これらの材料を使用すると水膨張現象が著しく、包装材としての膜の物性が低下してしまうという大きな欠点がある。また水の拡散能力も期待した程ではない事が分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−028034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、手軽で省エネルギー的な冷却方法を提供するものであり、効率的に優れたものであることは勿論、柔軟性に富み、広い面積の冷却にも充分対応できる冷却技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の要旨は、水拡散用冷却基材に係るものであり、高分子ポリマーに微粉末シリカ及び液状軟化材を配合したことを特徴とする基材である。そして、これらの配合割合は、重量部数で高分子ポリマー100部に対して、微粉末シリカを30部から150部、液状軟化材を50部から200部使用するものである。
【0010】
具体的には、高分子ポリマーが非極性ゴムであり、微粉末シリカの量は好ましくは70部から120部、液状軟化材の量は好ましくは70部から170部用いた基材である。
【0011】
本基材は、例えば、水に浸漬させて本基材の表面に水を付着させ、この状態で冷却シートとして用いることも可能である。そして、長時間の冷却を目的とする場合は、本発明の第2が好ましい。
本発明の第2の要旨は、水が充填される水室の周囲の全部分又は一部分を、上記本発明の第1の水拡散用冷却基材よりなる水拡散膜で構成したことを特徴とする冷却シートである。
【0012】
具体的には、水拡散膜が、布類で裏打ちされた冷却シートであり、水拡散膜の水室内の水と接触する面が、300℃以下の温度で溶融するポリマーの多孔性シートで裏打ちされたものである。尚、水室がその周囲の一部をポリエチレンフィルムやポリ塩化ビニルフィルムなどの非透水性膜で覆ってもよく、表面に送風する装置を付帯しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1である水拡散用冷却基材(水拡散膜)は、柔軟な均一透明な膜であるので広い面積の物体の冷却に適している。更に基材(膜)中には微細な空隙は存在せず通気性がないので、外傷が発生しない限り水漏れの心配は全くない。
そして、水の拡散力は非常に大きく、従って、これを用いた第2発明の冷却シートにあっては、蒸発に必要な量の水だけが自動的に供給されるので水の無駄な使用が避けられる。更に、駆動力には拡散力と云う自然力だけを使用しているので、断熱圧縮膨張冷却法で使用している電力は全く必要としない。従って本発明の冷却法は省資源省エネルギー的冷却法であると云うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の第2の冷却シートの一形態の断面図である。
【図2】図2は本発明の第2の冷却シートを適用した着脱型のネッククーラーである。
【図3】図3は本発明の第2の冷却シートを適用した内蔵型のネッククーラーである。
【図4】図4は実施例7の評価結果を示す。
【図5】図5は実施例8における冷却性能の評価結果を示す。
【図6】図6は実施例9における実験方法の模式図である。
【図7】図7は実施例9における透湿量の評価結果を示す。
【図8】図8は実施例10において作製したチューブ状水拡散用冷却基材である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1を中心に述べるが、水拡散膜を通過した水が蒸発する時に周囲の熱を奪う現象を利用した冷却法を完成したもので、水は蒸発する時に蒸発潜熱あるいは気化熱と呼ばれる一定量の熱量を必要とすることは良く知られている。しかるに、前記したような素焼きの瓶等で代表される基材は、硬く柔軟性に欠けるので広い面積を冷却する冷却シートには向かなかった。これに対し本発明の第1である水拡散用冷却基材(水拡散膜)は、柔軟な均一透明な膜であるので広い面積の物体の冷却に適している。更に基材(膜)中には微細な空隙は存在せず通気性がないので、外傷が発生しない限り水漏れの心配は全くない。
【0016】
ここでは基材(拡散膜)を水が拡散する時の推進力を拡散力と称すが、第1発明の基材における拡散力は非常に大きく、場合によっては、千気圧以上に達することも希ではない。しかるに、この拡散力は内側の膜部分の水の濃度と蒸発面である外側の膜部分の水の濃度の差によって決まり、濃度差が大きい程大きくなる。従って環境の温度が上昇し蒸発が活発になる程拡散量は増し、温度が低下したり湿度が上昇すると蒸発が停滞して外側の膜部分の水濃度が高くなり水の拡散量は減少する。つまり本発明の第1の水拡散用冷却基材(水拡散膜)にあっては、蒸発に必要な量の水だけが自動的に供給されるので水の無駄な使用が避けられる。そして、駆動力には拡散力と云う自然力だけを使用しているので、断熱圧縮膨張冷却法で使用している電力は全く必要としないという大きな特徴がある。従って本発明冷却法は省資源・省エネルギー的冷却法であるということができる。
【0017】
第2発明は、この蒸発潜熱を効率的に利用して冷却シートとしたものであり、その冷却の原理は一定量の水を保有する水室を水の分子拡散量が極めて大きい水拡散膜に接触させ、水室中の水が拡散膜を拡散透過し外気に接触している膜の表面近傍で蒸発する時の蒸発熱を冷却に利用するものである。この原理を基に構造をシート状にして多面積の冷却を行うことができるようにしたものである。
【0018】
以下、本発明を更に詳細に説明すると、水拡散用冷却基材(水拡散膜)は、微粉末シリカ、高分子ポリマー、液状軟化剤の三種の原料からなる。微粉末シリカ(酸化珪素の粉末)は、比重1.95、粒子径15〜35mμ、比表面積150〜380m/g、吸油量160〜300ml/100gの規格のものが好適に使用される。かかるシリカは本発明の基材の拡散膜にあって、水を吸収し移動させる媒体として重要な働きをなす。水の吸収剤としてポリアクリル酸ソーダ等の合成高分子吸収剤が知られているが、これは好ましくないことは既に述べたが、無機系水吸収剤としてベントナイト、モンモリロナイト、セピオライト、ゼオライト等が存在するが、水は吸収されるものの、水を移動させる能力においては本発明の微粉末シリカに比べ格段に劣る。この理由は今のところ明らかではないが、シリカの水を拡散する能力は際立っている。
【0019】
微粉末シリカの量は重量部数で高分子ポリマー100部に対し30部から150部の割合で使用できる。シリカの部数が少ないと水の拡散量が低下し、多すぎると基材(膜)が堅くなり粘着力が低下して好ましくない。好ましいのは70部から120部の間である。
【0020】
高分子ポリマーは基材(膜)の形成能力を高める重要な素材であり、内部に架橋構造、凝集構造(ハードセグメント)や結晶構造を有せず高分子量分子鎖に活発な自由分子運動が期待されるポリマーが好ましい。架橋構造、凝集構造、結晶構造が存在すると水の吸収量が減少し且つ水の移動が抑制される。このような高分子ポリマーとして、ゴムや合成樹脂がある。ゴムとしては天然ゴムと合成ゴムがあり、合成ゴムとしてはポリスチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリアクリロニトリルブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、ポリエチレンプロピレンジエンマーゴム、ポリエチレンプロピレンゴム、ポリイソブチレンイソプレンゴム、フッ素ゴム、等の各種の合成ゴムが用いられる。特に耐候性、耐老化性が優れていることからポリエチレンプロピレンジエンマーゴム、ポリエチレンプロピレンゴム、ポリイソブチレンイソプレンゴム等の一般に無極性ゴムと呼ばれている合成ゴムが好ましい。
【0021】
次に液状軟化剤について述べるが、具体的には油や可塑剤をいう。油は一般にゴムの配合に用いられ、ポリアクリロニトリルブタジエンゴムには可塑剤と呼ばれている液状物が配合される。何れもポリマーを軟化しそれらの加工作業性を改善する目的で使用されている。本発明で液状軟化剤の使用が重要である理由は、ポリマー自身の弾性率を低減し吸水量を増して水の拡散移動を容易にする働きがあるからである。ただし、あまり多量に加えると基材(膜)の物性が損なわれ好ましくない。ゴム用の軟化剤には主にアロマティツク系、ナフテン系、パラフィン系の油が使用される。無極性ゴムの軟化には比重0.86〜0.90、流動点−15〜−18℃のパラフィン系の使用が好ましい。可塑剤には一般市場で入手可能な多種品種の可塑剤が使用できる。例えばジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジ2エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルグリコールアジペート、ジオクチルセバケート、ジブチルカルビトールアジペート、ジオクチルセバケート、ジブチルセバケート、トリクレジルフォスフェート、クレジルフェニルフォスフェート、アジピン酸系ポリエステル等の可塑剤である。
【0022】
液状軟化剤の量は同じく高分子ポリマー100部に対し50部から200部の間で使用する。少なすぎると膜製造時の加工性が悪くなり多すぎると前述したように基材(膜)の物性が低下する。好ましいのは70部から170部の間である。
【0023】
以上の微粉末シリカ、高分子ポリマー、液状軟化剤の三要素の他に目的に応じ性能を損なわない範囲で他種類の材料あるいは薬剤が使用できる。これらには例えば紫外線吸収剤、老化防止剤、粘着付与剤、防徴剤、防菌剤、着色顔料、酸化チタン等の光線遮蔽剤、カーボンブラック、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の充填剤等がある。
【0024】
水拡散用冷却基材(水拡散膜)には、防菌防カビ剤を添加することができる。
防菌防カビ剤としては、公知のものが適用され、例えば、アミン系、アルコール系、アルデヒド系、アミノ酸系、イソチアゾリン系、イソチオシアネート系、イミダゾール系、ウレア系、エーテル系、エステル系、塩素系、オキサゾリジン系、過酸化物系、カルボン酸系、カーバニリド系、カーバメート系、キノリン系、酸化物系、サルファイド系、サルファミド系、第四アンモニウム塩系、チアゾール系、チオカーバメート系、トリアジン系、ニトリル系、ビグアナイド系、ヒダントイン系、ピリジン系、フェノール系、フタルイミド系、モルフォリン系、ヨウ素系、両性界面活性剤系等が挙げられる。
また、防菌防カビ剤の中で、水溶性防カビ剤の例としては、2−メルカプトピリジンN−オキシドナトリウムが挙げられ、非水溶性防カビ剤の例としては、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾールが挙げられる。
なお、上記防菌防カビ剤に代えて、抗菌作用を有するヒバ油等を用いてもよい。
これらの中でも、2−メルカプトピリジンN−オキシドナトリウム、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール及びヒバ油がよく、2−メルカプトピリジンN−オキシドナトリウムを用いるのがより好ましい。
防カビ剤の含有量は、水拡散膜の全質量に対して0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、1質量%がより好ましい。
【0025】
また、水拡散用冷却基材(水拡散膜)は、例えば、水に浸漬させて本基材の表面に水を付着させて、冷却シートとして用いてもよい。加えて、水拡散用冷却基材(水拡散膜)の表面を布類や吸水性構造体で覆うことで、基材の水の保持力を高めて、冷却シートとして利用してもよい。
吸水性構造体の例としては、吸水性ポリマーを含む/からなるシート(フィルム)、吸水性繊維を含む/からなるシート(フィルム)、吸水性鉱物を含む/からなるシート(フィルム)、パルプ(紙)を含む/からなるシート(フィルム)、上記シート(フィルム)を複数枚積層させたもの、保水力を有する発泡体等が挙げられる。
また、吸水性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(ポリアクリル酸ナトリウムなど)、ポリアクリル酸ナトリウム架橋体、ポリビニルアルコール、アクリル酸−ビニルアルコール共重合体、デンプン、デンプン−アクリル酸共重合体、カルボキシルメチルセルロース、変性ポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。
【0026】
また、水拡散用冷却基材(水拡散膜)は、チューブ状としてもよい。チューブ状の水拡散用冷却基材(水拡散膜)は、配管等の冷却カバーとして利用できる。
【0027】
次に本発明の第2における冷却シートの構成要素の一つである水室について述べる。水室は冷却シートにおいて蒸発冷却用の水を貯蔵し供給する重要な機能を担うものであり、水は外部から水室へ適宜あるいは常時注入される。そして、水室の周囲を第1発明の基材(拡散膜)で囲むか、あるいは周囲の一部をこの基材(拡散膜)で構成し、他の部分を非透水性の膜で囲んで水室を設ける。つまり、第1発明における二枚の基材(拡散膜)の間に空間を設けその空間を水室とする場合と、一枚の基材(拡散膜)ともう一枚の非透水性膜の間に空間を設けその空間を水室とする場合がある。勿論、何れの場合も水と基材(拡散膜)が接触していることが必須の要件になる。
【0028】
非透水性膜にはポリエチレンフィルムシートやポリ塩化ビニルフィルムシートを使用するのが好ましい。水室の周縁部分においては基材(拡散膜)同士あるいは基材(拡散膜)と非透水性膜を熱融着や両面接着テープその他の方法で接着して冷却シートを製造する。
【0029】
水室一個の大きさをあまり大きくすると水を注入した場合水室が過度に膨れて思わしくないので、シート全体の広さを勘案して適当な大きさにすれば良い。また複数の水室を水路でつないで水室群を作ることも可能である。この水室群一つに対して少なくとも一個の活栓付き注入口を設ける必要がある。シートの使用開始時にこの注入口から水を給水し、使用後にここから残った水を排出することになる。
【0030】
第1発明の水拡散用冷却基材、即ち第2発明における水拡散膜にあって、実際に使用される膜は使用条件に対応した強度を保つ必要がある。このため、水拡散膜の蒸発面あるいは内面に各種の布つまり織布や不織布を張り合わせ積層補強して使用するのが良い。織布や不織布は各用途の使用条件に耐える強度のものが相応しい。これには綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維の織布やナイロン、ポリエステル、ポリアクリル、芳香族ポリアミド等の合成繊維の織布あるいは不織布が使用できる。織布や不織布を積層することで拡散能力の低下が心配されたが、実際にはそのようなことはなく、あったとしても許容出来る程度の低下であった。むしろ、逆に拡散量が増加する場合が多い。それは実質的な蒸発面の増加と繊維による吸水に因るものではないかと考えられる。
【0031】
水室は二枚の拡散膜に囲まれて構成され、その端部は膜同志を熱融着して水洩れを防ぐことが多い。その場合、拡散膜には高分子ポリマーを使用しているけれどもそれは非結晶性のポリマーであるし且つ架橋していないので強度は低い。このため、特に膜の接合部に応力が集中すると亀裂が発生し破損する可能性がある。このため、それを防ぐには拡散膜の外面に織布又は不織布と貼り合わせ、内面には300℃以下の温度で熱溶融するポリマーの多孔性シートと貼り合わせるのが良い。ここで多孔性と云う意味は水の移動が自由で水の拡散を妨害しない程度の孔を多数有すると云う意味であり、熱溶融性ポリマーの織布や不織布あるいは網状物等を指す。こうする事で接合部では熱溶融性ポリマー同志が熱溶融接着し強固な接合部が形成されるし、水室の内面も多孔性ポリマーで保護されているので丈夫な膜になる。
【0032】
適切に製造した第2発明の冷却シートを猛暑日を想定した35℃の環境で測定したところ、シートの裏側の表面温度は29℃まで低下していた。また環境温度が上昇する程水の蒸発量も増大するので温度差も大きくなることが確認された。しかも水の消費量は非常に少なく且つ水漏れがないので、一回の給水で長時間の冷却が可能であり、給水の頻度はおよそ一日一回の割合で十分であることが分かった。
【0033】
なお、大面積の冷却シートに用いる大面積の水拡散用冷却基材(水拡散膜)を作製する場合、例えば、カレンダーロール成形機を利用することができる。成形温度は、使用材料等に応じて適宜検討するが、例えば、90℃が挙げられる。
【0034】
図1は第2発明の冷却シートの具体的構造を示したものであり、1は2枚の水拡散膜(第1発明の基材)、2は膜1の外面に当接・積層された帆布である。3は水室を形成するため、水拡散膜2、2の端面を一体化するための両面接着剤である。4は外径3mmのポリエチレン細管であり、水の供給口である。5は栓であり、6は水室を示す。
【0035】
図1に示す第2発明の冷却シートにあって、水室6から拡散膜1を通してしみ出て来た水は大気中に蒸発して空気中に拡散して行く。従って冷却シートに接する空気には水蒸気の拡散層が形成される。この水蒸気の拡散層を風力で払拭してやれば冷却シート近傍の空気の水蒸気密度は低下し蒸発が促進される。その結果、冷却効果も促進されることとなる。 勿論、冷却シートの表面に送風する装置(図示せず)を付帯することで、冷却を促進することが可能である。
【0036】
第2発明の冷却シートは、例えば、図2に示すように、ネッククーラー10に適用できる。具体的には、図2(a)、(b)に示すネッククーラー10は、例えば、帯状のネッククーラー本体11の中央部に、冷却シート12を挿入する挿入部を設け、その挿入部に、カートリッジ式の冷却シートを着脱可能に挿入して構成されている。
なお、図2(a)が、ネッククーラー本体11とカートリッジ式の冷却シート12が分離した状態を示しており、図2(b)が、ネッククーラー本体11の中央部にカートリッジ式の冷却シート12が挿入されて構成されている状態である。
また、第2発明の冷却シートは、例えば、図3に示すように、冷却シート内蔵型のネッククーラー10とすることができる。具体的には、図3に示すネッククーラー10は、例えば、帯状のネッククーラー本体11中央部に、冷却シート12が一体化されて内蔵されている。図3に示すネッククーラー10において、冷却シート12は、ネッククーラー11本体と接着剤や熱融着等で一体にすることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、第2発明による実施例で更に具体的に説明するが、本発明の範囲がこの実施例で限定されないことは言うまでもない。
【0038】
(実施例1)
ポリエチレンプロピレンジエンマーゴム(商品名JSREP57C)100gに微粉末シリカ(商品名ニプシルVN−3)100g、パラフィン系オイル143gを二本ロールで混練りし厚さ0.5mmの水拡散膜とした。この膜を二本ロールを使用しロール温度120℃で11号帆布に圧着し積層してシートを調製した。上記シートから縦12cm・横19.5cmの四角形シート(符号1と2との積層体)を二枚切り出し、図1に説明した構造の冷却シートの雛形を作った。この積層体の周縁に幅1.5cm・厚さ0.08mmの不織布を支持体としたアクリル樹脂系の両面接着テープ3を貼り二枚のシートを拡散膜1、1の面が向き合う様に重ねて貼り合わせた。従って、縦9cm・横16.5cmの四角形の水室6が形成される。
【0039】
この冷却シートに約50gの水を図1に示したポリエチレン細管4を通して注入し密栓5した。次にこの冷却シートを自然界に相似するように循環風量を制限した35℃の恒温装置の中に静置した。冷却シートの裏側下面の表面温度は約2時間後に26℃で平衡に達し、表側上面の表面温度は約4時間後に27.5℃で平衡に達した。
単位時間当たりの水の蒸発量を水室蒸発面全面積で除し、水の質量流速つまり透過速度とすれば、その値は4.381×10−6g/cm・secとなった。更に拡散係数は5.918×10−7cm/secとなった。またこの冷却シート全体で1時間当たり4.78gの水が蒸発している。冷却シートの表面温度は恒温装置内の風量に左右され、冷却性能の絶対評価とはならないが、水が蒸発しているのは確実でありその量がその環境での冷却シート性能の評価値にはなる。上記の蒸発速度を吸熱速度に換算すれば36.1J/cm・secとなる。更にシート全体の面積当たりの効率を計算すれば127.2W/mとなり、第2発明の冷却シート1平方メートル当たり約100Wの白熱電灯の熱を吸収すると同等と考えられる。
【0040】
(実施例2)
実施例1の帆布の代わりに木綿の晒布2を使用した場合は、水の透過速度は4.829×10−6g/cm・secであった。
【0041】
(実施例3)
実施例1の帆布の代わりに作業服用ポリエステル生地2を使用した場合は、水の透過速度は6.232×10−6g/cm・secであった。
【0042】
(実施例4)
実施例1の拡散膜1のみの場合は水の透過速度は2.568×10−6g/cm・secであった。この例から、織布等を使用した場合の方がより水の透過速度が大きくなる傾向にあると云える。
【0043】
(比較例1)
実施例1の微粉末シリカの代わりに、無機系吸水剤であるモンモリロナイトを使用した場合水の透過速度は殆ど零に近い値を示した。
【0044】
(実施例5)
実施例1で使用した厚さ0.5mmの水拡散膜1の片面に厚さ約0.01mmのポリエステル製不織布と他面に厚さ約0.1mmのポリエチレンネット(網状物)を熱圧着しポリエチレン側を向かい合わせて更に熱圧着した。これから幅25mmの短冊を切り出し剥離接着力を測定した。この場合5.8kgで材質が破壊した。
一方、ポリエチレンネットで裏打ちしない場合の剥離接着力は0.15kgであった。
【0045】
(実施例6)
実施例1で作製した冷却シートの脇から外枠長さ92mm・回転数2000rpm・送風量1.22m/minのパソコン用送風機で蒸発面に送風した。水の透過速度は室温20℃で9.770×10−6g/cm・secであった。蒸発面に送風することで蒸発を促進することが分かつた。
【0046】
(実施例7)
実施例1で使用した水拡散膜とポリエチレンプロピレンジエンマーゴム(商品名JSREP57C)、微粉末シリカ(商品名ニプシルVN−3)、パラフィン系オイルの配合比は同様とし、水溶性防カビ剤である2−メルカプトピリジンN−オキシドナトリウム(和光純薬工業(株))、非水溶性防カビ剤である2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール(東京化成工業(株))又はヒバ油のいずれかを全重量に対して1質量%(3.43g)添加した厚さ0.5mmの水拡散膜を作製した。
そして、JIS Z 2911(2010)に従い、上記各水拡散膜の防カビ性を評価した。試験環境は26℃、95%RH以上とし、4週間後に目視で観察することで、防カビ性を評価した。
結果を図4に示す。
図4より、2−メルカプトピリジンN−オキシドナトリウムで、最も防カビ性が得られることが示された。
【0047】
(実施例8)
冷却シートと市販品Aとの冷却性能を、以下の方法で比較した。
まず、ポリエチレンプロピレンジエンマーゴム(商品名JSREP57C)100gに微粉末シリカ(商品名ニプシルVN−3)100g、パラフィン系オイル143gを二本ロールで混練りした後、カレンダーロール成形機を用いて水拡散膜を成形し、その表面にスフ(ステープル・ファイバー)と圧着した厚さ0.4mmの積層シートを作製した。そして、上記積層シートの中央部にポリプロピレン製の注水口を取り付けた後、0.2mm厚のブルーシート(ポリエチレン製)の四辺を100℃のプレス機を用いて貼り合わせ、冷却シートを作製した。
次に、上記冷却シートに、水温19℃の水道水を約380g注入し密栓した。また、上記市販品Aには、水道水を約580g注入し密栓した。これらを30±2℃、50±5%RHの環境下で厚さ3mmの合板の上に設置し、上記冷却シート及び上記市販品Aが接触している面の温度変化をサーモグラフィによって測定した。30分経過時までは5分毎に測定し、それ以後は10分毎に測定した。
結果を図5に表示する。
図5より、上記市販品Aに比べ、上記冷却シートの方が、冷却効果が長続きすることが示された。
なお、合板表面の初期温度は、30.8℃であった。
【0048】
(実施例9)
実施例8と同様の方法で作製した厚さ0.23mmの積層シート(水拡散膜+スフ)と市販品Bから切り出した厚さ0.26mmのポリウレタンシートの透湿量を比較した。
実験は以下のように行った。
図6に示すように、35℃の恒温槽内に電子天秤を設置した後、プラスチック製カップを、水を30g入れ上記積層シート(水拡散膜+スフ)及び上記ポリウレタンシートをサンプルとして用いて上記カップに蓋をした状態で逆さまにし、各シートの表面が天秤に接触しないように設置した。なお、積層シート(水拡散膜+スフ)の場合、上記カップを逆さまにした際に水拡散膜側が水と接触するように、プラスチック製カップに取り付けた。
水が各シートを透過することによる重量変化を、電子天秤のインターバル記録機能を使用し自動的に記録した。
結果を図7に表示する。
図7より、市販品Bから切り出したポリウレタンシートに比べ、上記積層シート(水拡散膜+スフ)の方が、透湿量は高いことが示された。
【0049】
(実施例10)
溶融粘度測定装置(東洋精機製作所製、キャピログラフ1C)に、内径1mm・外径2mmのチューブ状キャピラリを取り付け、チューブ状水拡散用冷却基材を作製した。成形温度は90℃とし、押出速度は任意とした。
図8に示すように、チューブ状水拡散用冷却基材の成形が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
近年、地球温暖化現象が顕著になり夏期の猛暑日日数が富に増加している。この猛暑を凌ぐために益々電力の使用が増加し、それに比例して温室効果ガス排出も増加し地球温暖化が進行するという社会的なジレンマに陥っている。本発明の冷却シートによる冷却は温室効果ガスを排出しない省エネルギー的、省資源的な冷却法であり、その実用性は顕著である。
【0051】
第2発明の冷却シートの用途としては、建築物の屋根や壁の冷却が先ず考えられる。具体的には、ビル屋上、一般住居の屋根や壁、倉庫、簡易仮設住居並びに簡易テントの屋根部分、各種家畜小屋の屋根部分の冷却である。また自動車や電車等各種運送車両の屋根部分の冷却もある。更には柔軟性に優れ軽量であることから、作業服、ベスト、帽子等の服飾関係の用途も考えられる。その他、コンピューター、パソコン等の各種計器の冷却にも適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 水拡散膜(第1発明の基材)
2 帆布
3 両面接着剤
4 ポリエチレン細管(外径3mm)
5 栓
6 水室
10 ネッククーラー
11 ネッククーラー本体
12 冷却シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ポリマーに微粉末シリカ及び液状軟化材を配合したことを特徴とする水拡散用冷却基材。
【請求項2】
重量部数で高分子ポリマー100部に対して、微粉末シリカを30部から150部、液状軟化材を50部から200部使用した請求項1記載の水拡散用冷却基材。
【請求項3】
高分子ポリマーが非極性ゴムである請求項1又は2の水拡散用冷却基材。
【請求項4】
微粉末シリカを70部から120部用いた請求項1乃至3いずれか1記載の水拡散用冷却基材。
【請求項5】
液状軟化材を70部から170部用いた請求項1乃至3いずれか1記載の水拡散用冷却基材。
【請求項6】
前記水拡散用冷却基材がチューブ状であることを特徴とする水拡散用冷却基材。
【請求項7】
水が充填される水室の周囲の全部分又は一部分を、請求項1乃至5にて記載の水拡散用冷却基材よりなる水拡散膜で構成したことを特徴とする冷却シート。
【請求項8】
水拡散膜が、布類で裏打ちされた請求項7記載の冷却シート。
【請求項9】
水拡散膜の水室内の水と接触する面が、300℃以下の温度で溶融するポリマーの多孔性シートで裏打ちされた請求項7又は8記載の冷却シート。
【請求項10】
水室がその周囲の一部を非透水性膜で覆った構造である請求項7乃至9いずれか1記載の冷却シート。
【請求項11】
非透水性膜がポリエチレンフィルムである請求項10記載の冷却シート。
【請求項12】
非透水性膜がポリ塩化ビニルフイルムである請求項10記載の冷却シート。
【請求項13】
表面に送風する装置を付帯した請求項7記載の冷却シート。
【請求項14】
請求項7乃至13いずれか1記載の冷却シートが着脱可能に挿入されて構成されたことを特徴とするネッククーラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−210407(P2012−210407A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68325(P2012−68325)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(502145092)
【Fターム(参考)】