説明

冷却水系のスケール防止方法

【課題】リン化合物を使用しない水処理で冷却水系の炭酸カルシウムスケールの生成を効果的に防止する。
【解決手段】冷却水系に水溶性ポリマーと亜鉛化合物とを添加する冷却水系のスケール防止方法であって、該冷却水系の亜鉛濃度が0.5〜3mg/Lとなるように亜鉛化合物を添加すると共に、水溶性ポリマー濃度が2〜50mg−固形分/Lとなるように水溶性ポリマーを添加する冷却水系のスケール防止方法。リン化合物を使用することなく、水溶性ポリマーと亜鉛化合物とを併用添加することにより、水系のCSIが上昇し、高カルシウム硬度の水系であっても、冷却水系のスケール、特に炭酸カルシウムスケールの生成を効果的に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系のスケール防止方法に係り、特に、リン化合物を使用しない水処理において、冷却水系の炭酸カルシウムスケールの生成を効果的に防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系の熱交換器などにスケールが付着すると、伝熱障害による効率低下、性能不良を生じさせる。配管へのスケール付着は流路狭窄をもたらし、ポンプ吐出圧を上昇させる。スケールがさらに多量に付着すると、配管が閉塞する。
【0003】
従来、冷却水系における炭酸カルシウムスケールの析出防止には、ホスホン酸や重合リン酸などのリン化合物と水溶性ポリマーとを併用する処理が行われているが(例えば特許文献1)、近年の環境負荷低減の流れを受け、冷却水系の水処理においてリン化合物の使用制限が厳しくなっていることから、リン化合物を使用しないスケール防止技術が望まれる。また、同時に、節水及びブロー水排出量の削減を目的として、冷却水系の高濃縮運転の要求も高まっているが、従来の水処理ではCSI(炭酸カルシウムの限界飽和指数)が低いため、炭酸カルシウムスケールの発生を防止するために濃縮度を下げ、カルシウム硬度を低く維持する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−174092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、リン化合物を使用しない水処理で冷却水系の炭酸カルシウムスケールの生成を効果的に防止する冷却水系のスケール防止方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水溶性ポリマーと亜鉛化合物とを併用することで、水系のCSIを上げることができ、炭酸カルシウムスケールの抑制効果が向上し、節水や排水量削減が可能になることを知見した。
【0007】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、本発明(請求項1)の冷却水系のスケール防止方法は、冷却水系に水溶性ポリマーと亜鉛化合物とを添加する冷却水系のスケール防止方法であって、該冷却水系の亜鉛濃度が0.5〜3mg/Lとなるように亜鉛化合物を添加すると共に、水溶性ポリマー濃度が2〜50mg−固形分/Lとなるように水溶性ポリマーを添加することを特徴とする。
【0008】
請求項2の冷却水系のスケール防止方法は、請求項1において、該冷却水系が非リン、亜鉛処理を行う冷却水系であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リン化合物を使用することなく、水溶性ポリマーと亜鉛化合物とを併用添加することにより、水系のCSIが上昇し、高カルシウム硬度の水系であっても、冷却水系のスケール、特に炭酸カルシウムスケールの生成を効果的に防止することができる。
【0010】
水溶性ポリマーと亜鉛化合物とを併用する本発明によるスケール防止効果の作用機構の詳細は明らかではないが、水溶性ポリマーのスケール分散機能と、亜鉛による炭酸カルシウム結晶の成長阻害作用とによって、炭酸カルシウムスケールの発生が抑制されているものと推定される。
【0011】
本発明によれば、水溶性ポリマーと亜鉛化合物とを併用することによる優れたスケール防止効果により、高濃縮運転が可能となり、節水、排水量の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜4及び比較例1,2の結果(CSI値)を示すグラフである。
【図2】実施例5〜10及び比較例3〜8の結果(CSI値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の冷却水系のスケール防止方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明においては、冷却水系に水溶性ポリマーと亜鉛化合物とを添加して冷却水系のスケールを防止する。
【0015】
亜鉛化合物としては特に制限はなく、通常、硫酸亜鉛や塩化亜鉛を用いることができる。これらの亜鉛化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
水溶性ポリマーとしても特に制限はなく、冷却水系のスケール防止剤として用いられているものをいずれも好適に用いることができる。例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、HAPS(2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸)、マレイン酸、AMPS(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、HEMA(2−ヒドロキシエチルメタアクリレート)、アクリル酸メチル、スチレンスルホン酸、イソブチレンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合又は共重合した、ホモポリマー又はコポリマー、好ましくはアクリル酸、メタアクリル酸、HAPS、マレイン酸、AMPS、イソブチレンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合又は共重合した、ホモポリマー又はコポリマーであって、平均分子量が5000〜50000の低分子量水溶性ポリマーが挙げられる。
【0017】
低分子水溶性ポリマーとしては、特にマレイン酸又はアクリル酸のホモポリマー或いは、アクリル酸とHAPSとのモル比20〜80:80〜20のコポリマー、アクリルアミドとAMPSとのモル比20〜80:80〜20のコポリマー、マレイン酸とイソブチレンとのモル比50〜80:50〜20のコポリマー等が好適である。
これらの水溶性ポリマーは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0018】
本発明において、冷却水系への亜鉛化合物の添加量は、冷却水系中の亜鉛濃度が0.5〜3mg/Lとなるような量とする。亜鉛濃度が0.5mg/Lよりも少ないと亜鉛の添加効果を十分に得ることができず、3mg/Lよりも多いと亜鉛塩のスケールが生じやすくなる。
【0019】
また、水溶性ポリマーは、冷却水系中の水溶性ポリマーの固形分濃度として、2〜50mg/L、好ましくは10〜20mg/Lとなるように添加する。水溶性ポリマーの濃度が2mg/L未満では、水溶性ポリマーによるスケール分散効果を十分に得ることができず、50mg/Lを超えると水溶性ポリマーのゲル化や冷却水の発泡が起こりやすくなる。
【0020】
本発明においては、このように亜鉛化合物と水溶性ポリマーとを併用して良好なスケール防止効果を得ることができるため、排水規制が問題となるホスホン酸等のリン化合物は添加することなく、非リン、亜鉛処理の冷却水系に本発明を適用することが好ましい。
【0021】
また、本発明によれば、亜鉛化合物と水溶性ポリマーの併用によるCSIの上昇で高カルシウム硬度の冷却水系においてもスケール防止効果を有効に得ることができる。このため、カルシウム硬度1,000mg−CaCO/L程度の冷却水系にも本発明を有効に適用可能であるが、好ましくは本発明が適用される冷却水系のカルシウム硬度は500mg−CaCO/L以下である。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0023】
以下の実施例及び比較例において、水溶性ポリマーとしては以下のものを用いた。
・アクリル樹脂(AA)と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)とのコポリマー、分子量10,000、AAとAMPSとのモル比は4:1(以下「AA/AMPS」と略記する。)
・アクリル樹脂(AA)と3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HAPS)とのコポリマー、分子量5,000、AAとHAPSとのモル比は4:1(以下「AA/HAPS」と略記する。)
・マレイン酸(MA)のホモポリマー(分子量500、以下「PMA」と略記する。)
・アクリル樹脂(AA)のホモポリマー(分子量5,000、以下「PAA」と略記する。)
・イソブチレン(IB)とマレイン酸(MA)とのコポリマー、分子量15,000、IBとMAとのモル比は1:1(以下「IB/MA」と略記する。)
【0024】
試験は以下の方法で行った。
1)試験条件
試験装置:恒温水槽,500mLネジ口ビン
期間:20時間
温度:50℃
試験水質:カルシウム硬度300mg−CaCO/L,酸消費量pH4.8
2)評価手順
(1)500mLネジ口ビンに超純水を入れた(500mLから各試薬添加量を差引いた量)。
(2)更に、2.5重量%カルシウム硬度(硝酸カルシウム)水溶液(6mL)、水溶性ポリマー水溶液(必要量mL)、硫酸亜鉛水溶液(必要量mL)、酸消費量(pH4.8)(重炭酸ナトリウム)水溶液(6mL)を添加後、0.01〜1NのNaOHまたは硫酸でpH調整した。
(3)次いで、種晶として0.5重量%の炭酸カルシウム水溶液を添加した(10mL)。
(4)ネジ口ビンを50℃の恒温水槽に入れて静置した。
(5)20時間後、0.22μmGSWPミリポアフィルターでネジ口ビン内の試験水100〜150mLを濾過した。
(6)濾液のカルシウム硬度を測定した。
(7)30℃まで温度が下がってからネジ口ビン内の残液のpHを測定した。
(8)試験後のSI(ランジェリア指数)を計算し、極大値をCSIとした。
【0025】
[実施例1〜4、比較例1,2]
水溶性ポリマーとしてAA/HAPSを15mg−固形分/L添加すると共に、亜鉛濃度を0mg/L(比較例1)、0.2mg/L(比較例2)、0.5mg/L(実施例1)、1mg/L(実施例2)、2mg/L(実施例3)又は3mg/L(実施例4)として試験を行ったときのCSI値を図1に示す。
図1に示されるように、亜鉛濃度0.5〜3mg/LでCSIの上昇が顕著であり、亜鉛無添加の場合に比べて最大で0.4も上昇した。
【0026】
[実施例5〜10、比較例3〜8]
水溶性ポリマーとして表1に示すものを表1に示す濃度で添加すると共に、亜鉛濃度を2mg/Lとした場合(実施例5〜10)と亜鉛を添加しなかった場合(比較例3〜8)について試験を行ったときのCSI値を図2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
図2より、亜鉛の存在下において、水溶性ポリマーの添加効果が高められ、CSIが顕著に上昇することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水系に水溶性ポリマーと亜鉛化合物とを添加する冷却水系のスケール防止方法であって、該冷却水系の亜鉛濃度が0.5〜3mg/Lとなるように亜鉛化合物を添加すると共に、水溶性ポリマー濃度が2〜50mg−固形分/Lとなるように水溶性ポリマーを添加することを特徴とする冷却水系のスケール防止方法。
【請求項2】
請求項1において、該冷却水系が非リン、亜鉛処理を行う冷却水系であることを特徴とする冷却水系のスケール防止方法。

【図1】
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【図2】
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