説明

冷却用治具の冷却回路構造

【課題】鋳造品の製造コストの高騰を抑制できるとともに、環境負荷を低減できる冷却用部材の冷却回路構造を提供する。
【解決手段】傾斜面上に溶湯14を流動させて得られた半凝固スラリーをキャビティ80に充填し、該半凝固スラリーを固化して鋳造品を得るにあたり、前記傾斜面を介して溶湯14を冷却する冷却用治具18の冷却回路構造であって、溶湯14の出湯側から注湯側にわたって冷却能力が次第に高くなるように冷却回路を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、傾斜面上に溶湯を流動させて得られた半凝固スラリーをキャビティに充填し、該半凝固スラリーを固化して鋳造品を得るにあたり、前記傾斜面を介して前記溶湯を冷却する冷却用治具の冷却回路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な鋳造においては、液相である高温の溶湯が金型に形成されたキャビティに充填されるが、近時、溶湯に代替し、固相と液相が共存した半凝固スラリーを用いることも行われている。例えば、冷却用治具に溶湯を接触させながら流動させ、この流動の間に前記溶湯を冷却して固相を生じさせる。
【0003】
特許文献1には、冷却用治具の注湯側を冷却部により冷却するとともに、該冷却用治具の出湯側を加熱部により加熱することで、溶湯の温度を調節する冷却用治具が開示されている。これにより、溶湯の温度を任意に制御が可能であり、所望の半凝固スラリーを得ることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−285805号公報([0010]参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の冷却用治具では、その加熱制御を適切に行うためには、操業時にヒータを常時オンの状態にしなければならない。すなわち、過度に冷却された溶湯を加熱するという本来の目的を達成するために、余計な電力を消費し、あるいは二酸化炭素の排出量が増加することになる。その結果、製造コストの高騰や環境負荷の増大という不都合が生じる。
【0006】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、鋳造品の製造コストの高騰を抑制できるとともに、環境負荷を低減できる冷却用部材の冷却回路構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、傾斜面上に溶湯を流動させて得られた半凝固スラリーをキャビティに充填し、該半凝固スラリーを固化して鋳造品を得るにあたり、前記傾斜面を介して前記溶湯を冷却する冷却用治具の冷却回路構造に関する。
【0008】
そして、前記溶湯の出湯側から注湯側にわたって冷却能力が次第に高くなるように冷却回路を設けていることを特徴とする。
【0009】
このように、出湯側から注湯側にわたって冷却能力を次第に高くしたので、冷却用治具への入熱量に応じた冷却処理を行うことができる。すなわち、冷却用治具の傾斜面上に溶湯を流動させる際、その入熱量が相対的に高い注湯側に対して強く冷却し、その入熱量が相対的に低い出湯側に対して弱く冷却することができる。そうすると、溶湯の流動後であっても冷却用治具の傾斜面上における温度分布を一定に保持可能であり、該冷却用治具を加熱する機構を別途設ける必要がない。これにより、余計な電力の消費や二酸化炭素の排出を削減可能であり、鋳造品の製造コストの高騰を抑制できるとともに、環境負荷を低減できる。
【0010】
また、前記注湯側の冷却回路を前記出湯側の冷却回路よりも密に配置し、又は前記注湯側の冷却回路を前記出湯側の冷却回路よりも断面積を大きくすることが好ましい。これにより、冷却用治具の傾斜面上における温度分布を安定化させるための、冷却回路の最適化設計が容易となる。
【0011】
さらに、前記注湯側の冷却回路と前記出湯側の冷却回路とを独立に設けていることが好ましい。これにより、冷却用治具の傾斜面上における温度分布を安定化させるための、冷却制御の最適化が容易となる。
【0012】
さらにまた、前記冷却回路は冷媒を繰り返し流動させる循環構造を有しており、その内部を負圧にすることが好ましい。これにより、冷却回路から外部に通じるクラックが発生した場合であっても冷媒の噴出を防止可能であり、該冷媒と流動する溶湯との接触を回避できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る冷却用治具の冷却回路構造によれば、傾斜面上に溶湯を流動させて得られた半凝固スラリーをキャビティに充填し、該半凝固スラリーを固化して鋳造品を得るにあたり、前記傾斜面を介して前記溶湯を冷却するものであって、前記溶湯の出湯側から注湯側にわたって冷却能力が次第に高くなるように冷却回路を設けているので、冷却用治具の傾斜面上に溶湯を流動させる際、その入熱量が相対的に高い注湯側に対して強く冷却し、その入熱量が相対的に低い出湯側に対して弱く冷却することができる。そうすると、溶湯の流動後であっても冷却用治具の傾斜面上における温度均一性を保持可能であり、該冷却用治具を加熱する機構を別途設ける必要がない。これにより、余計な電力の消費や二酸化炭素の排出を削減可能であり、鋳造品の製造コストの高騰を抑制できるとともに、環境負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る冷却用治具が組み込まれた鋳造装置のブロック図である。
【図2】図1に示す冷却用治具の平面図である。
【図3】図3Aは、図2に示す冷却用治具のIIIA−IIIA線に沿う拡大断面図である。図3Bは、図2に示す冷却用治具のIIIB−IIIB線に沿う拡大断面図である。
【図4】図4Aは、本発明の第2の実施形態に係る冷却用治具の平面図である。図4Bは、図4Aに示す冷却用治具のIVB−IVB線に沿う拡大断面図である。図4Cは、図4Aに示す冷却用治具のIVC−IVC線に沿う拡大断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る冷却用治具の一部省略分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る冷却用治具の冷却回路構造について、その冷却用治具が組み込まれた鋳造装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る冷却用治具18が組み込まれた鋳造装置10のブロック図である。この鋳造装置10は、ラドル12から流下された溶湯14をプランジャスリーブ16(射出スリーブ)まで案内する冷却用治具18と、前記プランジャスリーブ16内を往復動作するプランジャ20(射出機構)と、前記プランジャスリーブ16が設けられた固定金型22と、図示しない駆動機構の作用下に前記固定金型22に対して接近又は離間自在な可動金型24とを有する。
【0017】
図1及び図2に示すように、長尺物として構成された冷却用治具18は、溶湯14を所定の流動速度でプランジャスリーブ16に導くべく、鉛直方向に対して所定の角度で傾斜している。勿論、冷却用治具18の起点である注湯側端部26はラドル12に近接し(図1参照)、一方、終点である出湯側端部28は、プランジャスリーブ16の天井部に形成された注湯口30に臨む(図1及び図2参照)。
【0018】
図2に示すように、冷却用治具18は、底部32と、該底部32の各側方端部に屈曲して連なる第1側部34、第2側部36とを有する。これら底部32、第1側部34及び第2側部36に囲繞された空間が、流動溝38(図1、図3A及び図3B参照)として機能する。また、第1側部34及び第2側部36が存在することにより、冷却用治具18の側方から溶湯14(ないし半凝固スラリー)が溢流・落下することが防止される。
【0019】
冷却用治具18の内部には、破線で示す中空状の冷却回路40が形成されている。冷却回路40は、第1通路42、第2通路44、複数の連通路46、及び複数の堰止部材48から基本的に構成される。
【0020】
断面が円形状である第1通路42は、第1側部34の中央上方部に、溶湯14の流動方向に延在して設けられている。断面が円形状である第2通路44は、第2側部36の中央上方部に、溶湯14の流動方向に延在して設けられている。第1通路42及び第2通路44は、略同径であり、且つ、底部32に対して互いに平行に同じ高さに設けられている(図3A参照)。複数の連通路46は、IIIB−IIIB線に沿った冷却用治具18の断面形状と同様に、それぞれU字形に屈曲して設けられている(図3B参照)。
【0021】
図2に戻って、各連通路46は、第1通路42及び第2通路44にそれぞれ垂直に交叉している。これにより、各連通路46を介して、第1通路42と第2通路44とが連通されている。なお、隣接する連通路46同士の離間距離は、注湯側端部26から出湯側端部28にかけて徐々に拡開されている。
【0022】
なお、冷却回路40を構成する各通路(第1通路42、第2通路44、又は複数の連通路46)の断面形状は円形に限られることなく、例えば、楕円形、三角形、矩形、その他多角形であってもよい。また、通路毎に異なる断面形状を有していてもよい。
【0023】
複数の堰止部材48は、第1通路42又は第2通路44内の所定の位置に設けられており、冷媒としての冷却水50が所定の空間内に流入することを阻止する。
【0024】
第1側部34には、注湯側端部26の近傍に円形状の連通孔51が設けられており、該連通孔51を介して、冷却回路40は冷却用治具18の外部に連通している。また、連通孔51には連結部材52が係合されており、冷却用治具18は、該連結部材52を介して円筒状の流入管54と連結されている。
【0025】
同様に、第2側部36には、出湯側端部28の近傍に円形状の連通孔55が設けられており、該連通孔55を介して、冷却回路40は冷却用治具18の外部に連通している。また、連通孔55には連結部材56が係合されており、冷却用治具18は、該連結部材56を介して円筒状の流出管58と連結されている。
【0026】
図1に示すように、流入管54を介して、冷却水50を冷却用治具18側に供給する負圧水供給装置60が設けられている。流入管54の負圧水供給装置60側には、冷却水50の流量の調整が自在である負圧水供給弁62が設けられている。さらにその下流側(冷却用治具18側)には、冷却水50の流量を測定する第1流量計64が設けられている。さらにまた、負圧水供給弁62と第1流量計64との間には、空気を供給するための配管65と、該配管65からの空気の供給量を調整自在である空気供給弁66とが設けられている。なお、図示しない制御部は、負圧水供給弁62又は空気供給弁66の開度を自在に駆動制御できる。
【0027】
一方、流入管54のみならず、流出管58を介しても、冷却用治具18と負圧水供給装置60とが接続されている。流出管58の負圧水供給装置60側には、冷却水50の流量を測定する第2流量計68が設けられている。
【0028】
プランジャスリーブ16は略円筒体であり、上記したように、その天井部に注湯口30が形成される。このプランジャスリーブ16内に配設されたプランジャ20は、図示しない油圧シリンダにロッド70を介して連結されており、従って、前記油圧シリンダの作用下に往復動作することが可能である。
【0029】
また、プランジャスリーブ16は、固定金型22側に半凝固スラリーを導くように、水平方向に延在して形成されている。そして、プランジャスリーブ16と固定金型22の間には、連結盤72が介在する。
【0030】
固定金型22における可動金型24に臨む側の端面には凹部76が陥没形成され、一方、可動金型24における固定金型22に臨む側の端面には、前記凹部76に対応する位置に、凸部78が突出形成される。凸部78の突出高さは、凹部76の陥没深さに比して若干小さく、このため、凹部76の底面と凸部78の頂面の間にはクリアランスが形成される。このクリアランスが、キャビティ80となる。
【0031】
なお、ランナ82は、固定金型22と可動金型24の合わせ面近傍において、キャビティ80に向かって略垂直に立ち上がっている。従って、半凝固スラリーは、ランナ82に導かれてキャビティ80に到達する。
【0032】
本実施の形態に係る冷却用治具18は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その動作及び作用効果につき、鋳造装置10との関係で説明する。
【0033】
図1に示すように、鋳造作業に先んじて、冷却用治具18の流動溝38をなす底部32、第1側部34及び第2側部36(図2参照)の各内側壁に離型材が塗布される。その後、ラドル12が傾斜され、これにより、該ラドル12に予め貯留された金属、例えば、アルミニウム合金の溶湯14が冷却用治具18の注湯側端部26の流動溝38に流下される。
【0034】
流下した溶湯14は、流動溝38に沿って、傾斜した冷却用治具18の出湯側端部28に向かって流動する。この過程で、冷却用治具18によって熱が奪取され、その結果、一部が固相となる。すなわち、溶湯14は、冷却用治具18に案内される最中に、固相及び液相が共存する半凝固スラリーに徐々に変態する。
【0035】
ここで、溶湯14を十分に冷却できない場合又は過剰に冷却する場合は、所望の半凝固スラリーを得ることができず、その結果、引け欠陥やガス欠陥等に起因する鋳造品の品質不良が発生する。このような不具合が惹起されることを回避するべく、本実施の形態において、溶湯14の適切な冷却処理を行う。
【0036】
負圧水供給装置60は、流入管54を介して冷却水50を供給する。図示しない制御部は、第1流量計64の測定値等の制御信号に基づいて冷却水50の流量を決定する。そして、負圧水供給装置60は、負圧水供給弁62の開閉制御に伴って所望の流量だけ冷却水50を供給する。適切な流量だけ供給された冷却水50は、流入管54、連結部材52、及び連通孔51(図2参照)を介して冷却用治具18の内部に流入される。
【0037】
図2に示すように、冷却水50(図3参照)は、冷却回路40内を所定の経路に従って流動する。連通孔51を通過した冷却水50は、堰止部材48により第1通路42への流入が阻止されるので、連通路46側に向けて流動する。このとき、第1側部34、底部32、第2側部36の方向に沿って、U字形に流動する(図3B参照)。
【0038】
その後、冷却水50は、堰止部材48により流入が阻止される位置まで第2通路44を流動する。そして、冷却水50は、堰止部材48により直進流入が阻止されるので、次は連通路46側に向けて流動する。このとき、第1側部34、底部32、第2側部36の方向に沿って、U字形に流動する(図3B参照)。
【0039】
以下同様にして、冷却水50は、第1通路42、連通路46、第2通路44、連通路46、‥‥の方向に沿って、冷却回路40内を蛇行しながら流動する。この冷却水50の流動過程の中で、底部32、第1側部34及び第2側部36の各内壁に接触する溶湯14からの発熱を奪い、溶湯14を冷却する。
【0040】
ここで、冷却回路40に設けられている単一の冷却回路40のうち、注湯側の連通路46の方が出湯側の連通路46よりも密に配置されている。換言すれば、溶湯14の出湯側から注湯側にわたって冷却能力が次第に高くなるように冷却回路40を設けている。
【0041】
このように構成しているので、冷却用治具18への入熱量に応じた冷却処理を行うことができる。すなわち、冷却用治具18の傾斜面上に溶湯を流動させる際、その入熱量が相対的に高い注湯側に対して強く冷却し、その入熱量が相対的に低い出湯側に対して弱く冷却することができる。そうすると、溶湯14の流動後であっても冷却用治具18の傾斜面上における温度分布を一定に保持可能である。
【0042】
また、溶湯14の流動方向(冷却用治具18の長尺方向)に対して冷却回路40の配置密度を変えることで、冷却用治具18の傾斜面上における温度分布を安定化させるための、冷却回路の最適化設計が容易となる。
【0043】
冷却水50は、冷却回路40内を所定の経路に従って流動した後に、連通孔55に到達する。その後、冷却水50は、連通孔55、連結部材56、及び流出管58を介して、冷却用治具18の外部に流出される。
【0044】
図1に示すように、流出された冷却水50は、流出管58、第2流量計68を介して、負圧水供給装置60に戻る。このように、冷却水50を循環させることにより、溶湯14の冷却処理が行われる。
【0045】
ところで、注湯側端部26から出湯側端部28にかけての冷却回路40の配置密度の決定(いわゆる詳細設計)をする前に、冷却回路40の基本設計を行う必要がある。この手順について、以下詳細に説明する。
【0046】
先ず、冷却用治具18の外形を決定する。具体的には、鋳造装置10に組み込まれる際の配置上・寸法上の制約を見極めた上で、その外形を決定する。
【0047】
次いで、冷却処理能力の要求仕様を決定し、その仕様を実現するための構成を検討する。発熱量に影響する各種変数として、サイクルタイム(単位時間当たりの溶湯の供給量)、溶湯14の重量、比熱や凝固潜熱等が挙げられる。冷却能力に影響する各種変数として、冷却用治具18の材質、肉厚、冷却回路40の形状(断面積、長さ)が挙げられる。
【0048】
ここで、上記各変数に基づいて、最低限必要とされる冷却回路40の長さを見積もる方法について説明する。具体的には、冷却用治具18に供給される単位時間当たりの熱量と、冷却用治具18から奪われる単位時間当たりの熱量とのバランスを試算する。
【0049】
溶湯14からの入熱量q0は、次の(1)式で算出される。
0=NW{c(Tin−Tout)+H1} …(1)
【0050】
ここで、N[shot/h]は単位時間当りのショット数、W[kg/shot]は1ショット当たりの溶湯14の重量、Tin[K]は注湯時の溶湯14の温度、Tout[K]は出湯時の溶湯14の温度、c[kJ/(K・kg)]は平均比熱、H1[kJ/kg]は凝固潜熱である。
【0051】
冷却用治具18上に停滞した凝固金属片からの入熱量qaは、次の(2)式で算出される。
0=NW{c(Tin−Tsol)+H2} …(2)
【0052】
ここで、Tsol[K]は凝固金属片の温度、H2[kJ/kg]は凝固金属片の凝固潜熱である。なお、N、W、c及びTinは、式(1)と同じ定義である。
【0053】
大気による自然放熱量qnは、次の(3)式の関係を満たすものと仮定する。他の熱量と比べて無視できる程度に微小量であると考えてもよいからである。
n≒0 …(3)
【0054】
冷却回路40の冷却能力qmは、次の(4)式で算出される。
m=aπdL …(4)
【0055】
ここで、a[kJm2/h]は冷却回路40中を流動する冷却水50の冷却能力、πは円周率、d[m]は冷却回路40の径、L[m]は冷却回路40の長さである。
【0056】
単位時間当たりの総発熱量(q0+qa)[kJ/h]と、単位時間当たりの総放熱量(qn+qm)[kJ/h]との関係が(5)式の関係を満たすように、
0+qa≦qn+qm …(5)
すなわち、冷却回路40の長さLが、
L≧NW{c(2Tin−Tout−Tsol)+H1+H2}/aπd …(6)
を満たすように決定すればよい。その後は、冷却用治具18の内部に長さLの冷却回路40を収容可能であるか否かについて検討すればよい。
【0057】
また、鋳造装置10を円滑且つ安全に連続操業するために、種々の制御機能を設けることができる。
【0058】
例えば、冷却回路40の外壁に、冷却用治具18の外部に通じるクラックが生じた場合を想定する。正圧下で冷却水50を供給するときは、大気との圧力差によって、冷却回路40内の冷却水50がクラックを介して噴出する場合がある。そうすると、噴出した冷却水50が溶湯14と接触し、水蒸気爆発のおそれがある。
【0059】
本実施の形態では、負圧水供給装置60を用いているので、クラックが生じても冷却水50の噴出を回避することができる。
【0060】
また、チョコ停等の発生により注湯間隔が空く場合は、過度の冷却を防止することが好ましい。なお、「チョコ停」とは、設備が自動運転中に突然停止する故障のうち、オペレータが容易に復帰させることが可能な故障である。
【0061】
このとき、図示しない制御部は、負圧水供給弁62の開度を調整することで、冷却水50の流量を下げる制御を行う。これにより、冷却回路40全体の冷却能力を下げることが可能であり、過度の冷却の発生を事前に予防することができる。
【0062】
また、図示しない制御部は、空気供給弁66の開度を調整することで、配管65を介して供給された空気を冷却回路40内に充満させ、冷却水50を一時的に退避させる(エアパージ)。これにより、抜熱を抑制し、過度の冷却を未然に防止することができる。
【0063】
さらに、冷却用治具18の所定の部位の温度や冷却時間を計測しておき、一定量の抜熱が完了したものと判断したときに、冷却回路40による冷却処理を弱く設定し、又は冷却処理自体を停止することができる。
【0064】
大部分の半凝固スラリーは、流動溝38に導かれてプランジャスリーブ16の注湯口30から該プランジャスリーブ16の内部に移送される。勿論、このときには、プランジャ20は最大に後退している。
【0065】
所定量の半凝固スラリーがプランジャスリーブ16の内部に導入された後、前記油圧シリンダが駆動され、プランジャ20が前進動作する。その結果、プランジャスリーブ16内の半凝固スラリーが押圧され、ランナ82を通過してキャビティ80に充填される。
【0066】
その後、キャビティ80にて溶湯14が冷却固化され、これにより鋳造品が得られるに至る。この鋳造品は、いわゆる型開きが行われることによって、キャビティ80から取り出される。
【0067】
このように、冷却用治具18にヒータ等の加熱手段を設ける必要がないため、鋳造装置10の操業時に消費する電力量を節約できるとともに、二酸化炭素の排出量を削減できる。また、冷却用治具18の小型化が可能であるから、流動溝38上に、残留する凝固物(凝固金属片)の総量が削減でき、歩留まりが改善される。さらに、冷却用治具18の小型化により、凝固金属片のサイズが相対的に小さくなることで、その除去が容易となる。これらにより、鋳造物の製造コストを一層削減できる。
【0068】
次いで、第2の実施形態に係る冷却用治具18について、図4A〜図4Cを参照しながら説明する。
【0069】
なお、以下の実施形態においては、第1の実施形態と同様の構成要素について同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0070】
図4Aに示すように、冷却用治具18の冷却回路機構は、第1冷却回路100、第2冷却回路102、第1流入管104、第1流出管106、第2流入管108、及び第2流出管110から構成される。
【0071】
破線で示す中空状の第1冷却回路100は、溶湯14の注湯側半分に収まるよう冷却用治具18の内部に形成されており、通路112a〜112hから構成される。
【0072】
すなわち、図4A及び図4Bに示すように、第1流入管104と第1流出管106とは、通路112a、112b、112c、112d、112e、112f、112g、112hを介して連通されている。ここで、通路112a、112c、112e、112gは、冷却用治具18の中央部から注湯側端部26に向かって設けられている冷媒の通路である。一方、通路112b、112d、112f、112hは、注湯側端部26から冷却用治具18の中央部に向かって設けられている冷媒の通路である。
【0073】
破線で示す中空状の第2冷却回路102は、溶湯14の出湯側半分に収まるよう冷却用治具18の内部に形成されており、通路114a〜114hから構成される。
【0074】
すなわち、図4A及び図4Cに示すように、第2流入管108と第2流出管110とは、通路114a、114b、114c、114d、114e、114f、114g、114hを介して連通されている。ここで、通路114a、114c、114e、114gは、出湯側端部28から冷却用治具18の中央部に向かって設けられている冷媒の通路である。一方、通路114b、114d、114f、114hは、冷却用治具18の中央部から出湯側端部28に向かって設けられている冷媒の通路である。
【0075】
通路112a〜112h及び通路114a〜114hの断面はいずれも円形状であり、通路112a〜112hの直径は通路114a〜114hの直径よりも大きく設けられている。
【0076】
ここで、冷却用治具18の内部に並設されている2つの冷却回路(第1冷却回路100、第2冷却回路102)のうち、注湯側の通路112a〜112hの方が出湯側の通路114a〜114hよりも直径(断面積)が大きく構成されている。換言すれば、溶湯14の出湯側から注湯側にわたって冷却能力が次第に高くなるように2つの冷却回路を設けている。
【0077】
このように構成しているので、上述した第1の実施形態の場合と同様に、冷却用治具18への入熱量に応じた冷却処理を行うことができる。
【0078】
なお、冷却用治具18の部位毎に冷却能力を異ならせる手段は、第1冷却回路100、第2冷却回路102の直径(断面積)を大小に設けることに限られない。例えば、単一の冷却回路であっても、注湯側端部26から出湯側端部28にかけて徐々に拡径するように設けてもよい。また、冷媒の熱伝達効率に着目して、冷却回路の部位毎に冷却能力を異ならせてもよい。すなわち、第2冷却回路102側には熱伝達効率の高い材質からなる冷媒を流動させることができる。さらに、冷却回路の分割数は2つに限られず、3つ以上の冷却回路を設けてもよい。さらに、冷却用治具18の温度によりも高い温度の流動媒体を流すことにより、冷却用治具18の予熱を行うこともできる。
【0079】
次いで、第3の実施形態に係る冷却用治具18について、図5を参照しながら説明する。
【0080】
図5に示すように、冷却用治具18の冷却回路機構は、本体120、回路部122、流入管54、及び流出管58から構成される。本体120は、外観上、図1〜図3に示す冷却用治具18と略同形状を有しているが、その内部に冷却回路40(図2参照)を有さない点が第1の実施形態と異なる。本体120の底部32は、平坦な裏面124を有しており、4つの孔126、128、130、132が設けられている。
【0081】
直方体の形状を有する回路部122は、その表面134に蛇行した回路溝136が設けられている。回路溝136のうちの短手方向に延在する溝(図5では、11本)の配設間隔は、連通孔51側(注湯側端部26)から連通孔55側(出湯側端部28)にかけて徐々に拡開されている。
【0082】
本体120の裏面124と、回路部122の表面134とが対面するように取り付けることにより、冷却用治具18を形成することができる。
【0083】
このように構成しているので、冷却回路を形成する際には回路部122の表面134に回路溝136を設ければよいため、技術的に比較的容易な加工作業により冷却回路を形成可能である。その結果、冷却用治具18の製造コストを抑えることができる。特に、冷却用治具18の冷却効率や復温能力を向上する等を目的として、複雑な冷却回路を作製する場合において効果的である。
【0084】
次いで、第4の実施形態に係る冷却用治具18について説明する。
【0085】
冷却用治具18の冷却手段としてヒートパイプを用いてもよい。このとき、溶湯14の注湯側であって入熱量が大きい部位には、効率的な冷却を行えるようにする。例えば、作動液のドライアウトを防止するために、平板又は蛇行型のヒートパイプをループ構造にして、熱輸送量を向上させる。一方、溶湯14の出湯側であって入熱量が比較的小さい部位には、注湯側よりも抜熱表面積を小さくする。例えば、管型のヒートパイプを蛇行型に設置し、必要に応じてループ構造にする。
【0086】
あるいは、第1の実施形態の場合と同様に、ヒートパイプの配置密度を異ならせてもよいことはいうまでもない。
【0087】
なお、ヒートパイプの材質は、耐熱性の観点から、銅若しくは鉄の合金を用いることが好ましい。また、液漏れの際に溶湯14との接触事故を回避することができるので、作動液は水以外の液体を使用することが好ましい。さらに、水平設置やトップヒート設置にすると、ヒートパイプの伝熱性能は著しく低下する。かかる場合、ポンプ等により作動液を循環させることが好ましい。
【0088】
次いで、第5の実施形態に係る冷却用治具18について説明する。
【0089】
冷却用治具18の冷却手段としてヒートシンクを用いてもよい。このとき、第1の実施形態の場合と同様に、ヒートパイプの配置密度を異ならせて設ける。すなわち、溶湯14の注湯側であって入熱量が大きい部位にはヒートシンクを密に配置し、溶湯14の出湯側であって入熱量が比較的小さい部位にはヒートシンクを疎に配置する。冷却用治具18への入熱量に応じた冷却処理を行うことができる。
【0090】
また、ヒートパイプを搭載したヒートシンクを用いれば冷却効率を向上できるし、ヒートシンクに空気を吹き付けることで冷却効率をさらに向上できる。
【0091】
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0092】
10…鋳造装置 14…溶湯
18…冷却用治具 32…底部
34…第1側部 36…第2側部
40…冷却回路 42…第1通路
44…第2通路 46…連通路
48…堰止部材 50…冷却水
54…流入管 58…流出管
60…負圧水供給装置 66…空気供給弁
100…第1冷却回路 102…第2冷却回路
112a〜112h、114a〜114h…通路
120…本体 122…回路部
136…回路溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜面上に溶湯を流動させて得られた半凝固スラリーをキャビティに充填し、該半凝固スラリーを固化して鋳造品を得るにあたり、前記傾斜面を介して前記溶湯を冷却する冷却用治具の冷却回路構造であって、
前記溶湯の出湯側から注湯側にわたって冷却能力が次第に高くなるように冷却回路を設けている
ことを特徴とする冷却用治具の冷却回路構造。
【請求項2】
請求項1記載の冷却用治具の冷却回路構造において、
前記注湯側の冷却回路を前記出湯側の冷却回路よりも密に配置し、又は前記注湯側の冷却回路を前記出湯側の冷却回路よりも断面積を大きくする
ことを特徴とする冷却用治具の冷却回路構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の冷却用治具の冷却回路構造において、
前記注湯側の冷却回路と前記出湯側の冷却回路とを独立に設けている
ことを特徴とする冷却用治具の冷却回路構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷却用治具の冷却回路構造において、
前記冷却回路は冷媒を繰り返し流動させる循環構造を有しており、その内部を負圧にする
ことを特徴とする冷却用治具の冷却回路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−161498(P2011−161498A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29149(P2010−29149)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)