説明

冷蔵しないインフルエンザワクチンの保存

各インフルエンザウイルス株の抗原を組み合わせて多価インフルエンザウイルスワクチンを製造するまで、冷蔵を行わない。さらに、インフルエンザワクチンの包装から投与までの間にも冷蔵を行わない。こうして冷蔵に対する必要性を最小限に抑えるため、ワクチンの製造から投与に到るまでコールドチェーンを維持する必要がない。本発明の一実施形態においては、インフルエンザワクチンのHA含量は、少なくとも6ヶ月間室温で保管しても許容範囲内にとどまり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に引用する文書についてはすべて、参照によってその全体を援用する。
【0002】
本発明は、インフルエンザウイルス感染症の予防ワクチン、特に、冷蔵を要さずに有効性を維持するワクチンの分野のものである。
【背景技術】
【0003】
現在、様々な形態のインフルエンザウイルスワクチンが入手可能である(参考文献1の17章および18章などを参照のこと)。一般に、ワクチンは、生ウイルスまたは不活化ウイルスのどちらかをベースにしている。不活化ワクチンのベースとなるのは、全ビリオン、ウイルス「スプリット」粒子あるいは精製表面抗原である場合がある。
【0004】
通常のインフルエンザワクチンに求められる有効期間は、52週間である。この要件を満たすため、現在のインフルエンザワクチンに共通する特徴の1つは、インフルエンザワクチンが投与の時点まで冷蔵状態で保存されることにある。こうした状態であれば、赤血球凝集素(HA:haemagglutinin)などの感染防御抗原の安定性が保たれる。
【0005】
参考文献2(非特許文献1)には、様々なワクチン調製物を対象としたHA分解に関する解析が含まれており、HA含量は、5℃で保存されれば、78週間許容範囲にとどまるが、保存温度が25℃(すなわち室温)まで上昇すると、分解率が少なくとも6倍(最悪の観察例では24倍まで)上昇することが報告されている。被検ワクチンの1つでは、有効期間は、5℃で保存した場合、104週間と推定されたが、25℃で保存した場合、16週間に短縮し、さらに5.3週間を超えて25℃で保管される場合、このワクチンは使用不能になることが推定された。
【0006】
こうした温度感受性のため、現在のインフルエンザワクチンの製造、包装および分配のシステムでは、コールドチェーンを維持する必要がある。
【0007】
コールドチェーンを不要にするために、ワクチン接種の様々な代替戦略が提示されてきた。たとえば、参考文献3および4(非特許文献2および3)では、インフルエンザワクチンを乾燥粉末として製剤化することが報告されている。タンパク質ベースのワクチンの代わりにDNAワクチンを用いることも提案されている。
【0008】
本発明は、コールドチェーンを維持する必要がない、特に分配の過程および/または最終の医療機関の施設内においてコールドチェーンを維持する必要がない、一段と改良されたインフルエンザワクチンおよびその製造プロセスを提供することを目的としている。
【非特許文献1】Coenenら、Vaccine(2006)24:525−31
【非特許文献2】Huangら、Vaccine(2004)23:794−801
【非特許文献3】Garmiseら、AAPS PharmSciTech(2006)7(1):Article19.DOI:10.1208/pt070119.
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、包装から投与までの間にインフルエンザワクチンを冷蔵する必要がない。従来技術の考えに反して、インフルエンザワクチンのHA含量は、少なくとも6ヶ月間室温で保管しても許容範囲内にとどまり得る。
【0010】
また、本発明は、ウイルス増殖後のバルク抗原の製造過程(抗原の精製過程など)において冷蔵状態を必要としないが、既承認の製造方法を変更せずに済むように、冷蔵状態のままでこうした工程を実施し、バルク後の工程(様々な株の抗原の混合、用量充填、保管、分配など)を冷蔵せずに行うこともできる。本発明の重要な利点の1つは、分配者および/または医師などが包装されたワクチンを冷蔵せずに保管できることである。さらに、本発明では、ワクチンが体温により近い温度で投与されるため、患者の快適性が増すことになる。
【0011】
したがって、本発明は、複数の包装された水性インフルエンザワクチンを分配するためのプロセスであって、ワクチンを第1の場所から第2の場所に非冷蔵状態下で輸送する工程を含む、プロセスを提供する。第1と第2の場所は、好ましくは1キロメートル超離れている。
【0012】
また、本発明は、バルク水性インフルエンザワクチンを分配するためのプロセスであって、ワクチンを第1の場所から第2の場所に非冷蔵状態で移動する工程を含む、プロセスも提供する。第1および第2の場所は、好ましくは1キロメートル超離れている。バルクは、一価バルクでも、多価バルクでもよい。このプロセスは、バルクからワクチンの1単位用量を取り出し、この1単位用量を容器内に配置する工程をさらに含むものである。
【0013】
したがって、本発明は、複数の包装された水性インフルエンザワクチンを分配するためのプロセスであって、ワクチンを第1の場所から第2の場所に輸送し、かつ、ワクチンを第2の場所に非冷蔵状態で少なくともh時間保管する工程を含む、プロセスを提供する。hの値は、12、18、24、36、48、60、72、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、5000あるいはそれ以上から選択される。第2の場所は、好ましくは、たとえば、クリニック、医院など、ワクチンを患者に投与する場所である。
【0014】
また、本発明は、インフルエンザワクチンを分配するためのプロセスであって、ワクチンを第1の場所から第2の場所に非冷蔵状態で移動し、第2の場所は、患者が(好ましくは)ワクチンの予防接種を受けることができる場所である、プロセスも提供する。第2の場所は、たとえば、クリニック、保健所、ショッピングモール、患者の自宅、患者の職場などであっても構わない。
【0015】
また、本発明は、水性インフルエンザワクチンを保管するためのプロセスであって、ワクチンを10℃超で10週間を超えて保管する工程を含む、プロセスも提供する。保管ワクチンは、バルクワクチン(一価または多価)でも、包装されたワクチンでもよい。ワクチンがバルクワクチンである場合、このプロセスは、バルクからワクチンの1単位用量を取り出し、この1単位用量を容器内に配置する工程をさらに含んでもよい。バルクが一価バルクである場合、このプロセスは、一価バルクを(希釈する場合はその前、そのさなかまたはその後に)別の一価バルクと組み合わせる工程をさらに含んでもよい。ワクチンが包装されたワクチンである場合、ワクチンは、好ましくは(i)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株と、A/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株と、B/Yamanashi/166/98株とを含む三価ワクチン;(ii)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株と、A/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株と、B/Guangdong/120/00株とを含む三価ワクチン;または(iii)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株と、A/NEW Caledonia/20/99 IVR−116−reass.株と、B/Shangdong/7/97株とを含む三価ワクチンではない。
【0016】
また、本発明は、包装される水性ワクチンをワクチンバルクから調製するためのプロセスであって、ワクチンの1単位用量をバルクから取り出し、非冷蔵状態で容器に入れる工程を含む、プロセスも提供する。
【0017】
また、本発明は、濃縮されたインフルエンザ抗原バルクを希釈するためのプロセスであって、濃縮バルクを水性媒体により非冷蔵状態で希釈する工程を含む、プロセスも提供する。このプロセスを行えば、抗原調製物は所望の最終濃度に調製される。バルクは、複数のインフルエンザウイルスの抗原を含んでも構わない。代替の方法として、バルクは、単一のインフルエンザウイルス株の抗原を含む一価バルクであってもよく、この場合、プロセスは、希釈抗原と1種または複数種の別のインフルエンザウイルス株の抗原とを組み合わせて、多価組成物を得る工程をさらに含んでも構わない。
【0018】
また、本発明は、多価インフルエンザワクチンを調製するためのプロセスであって、第1のインフルエンザウイルス株の抗原を含む水性調製物を、非冷蔵状態において第2のインフルエンザウイルス株の抗原を含む水性調製物と混合する工程を含む、プロセスも提供する。このプロセスを用いてバルクワクチンを調製してもよいし、包装ワクチンを調製してもよい。好ましくは、このプロセスを用いて3種類のインフルエンザウイルス株の抗原を混合することで、三価インフルエンザワクチンを調製する。このプロセスを用いてバルクワクチン調製する場合、プロセスは、バルクからワクチンの1単位用量を取り出し、この1単位用量を容器内に配置する工程をさらに含んでもよい。
【0019】
また、本発明は、インフルエンザウイルスを含む組成物を不活化するためのプロセスであって、組成物を不活化剤(ホルムアルデヒドなど;より詳細には以下を参照のこと)と非冷蔵状態で混合する工程を含む、プロセスも提供する。
【0020】
また、本発明は、アジュバントインフルエンザウイルスワクチンを調製するためのプロセスであって、インフルエンザウイルス抗原をアジュバントと非冷蔵状態で組み合わせる工程を含む、プロセスも提供する。このプロセスを用いてバルクワクチンを得てもよく、したがって、このプロセスは、アジュバントワクチンの1単位用量をバルクから取り出し、この1単位用量を容器内に配置する工程をさらに含んでもよい。アジュバントと組み合わせるインフルエンザウイルス抗原は、好ましくは多価である。
【0021】
また、本発明は、これらのプロセスにより取得可能なまたは得られたワクチンも提供する。
【0022】
また、本発明は、非冷蔵状態で少なくともh時間保管されている水性インフルエンザウイルスワクチンであって:(a)hが12、18、24、36、48、60、72、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、5000あるいはそれ以上から選択され、(b)ワクチンが、(i)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株と、A/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株と、B/Yamanashi/166/98株とを含む三価ワクチン;(ii)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株と、A/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株と、B/Guangdong/120/00株とを含む三価ワクチン;または(iii)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株と、A/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株と、B/Shangdong/7/97株とを含む三価ワクチンではない、インフルエンザウイルスワクチンも提供する。
【0023】
また、本発明は、非冷蔵状態で少なくともh時間保管されている水性インフルエンザウイルスワクチンであって:(a)hは、12、18、24、36、48、60、72、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、5000あるいはそれ以上から選択され、(b)ワクチンを、細胞培養で増殖させたインフルエンザウイルスから調製する、ワクチンも提供する。したがって、このワクチンは、鶏卵から調製されるワクチンと異なり、ニワトリのDNAおよび卵タンパク質(オボアルブミンおよびオボムコイドなど)を含まないため、アレルゲン性を低下させることができる。
【0024】
また、本発明は、(a)水性インフルエンザワクチンと、(b)ワクチンを(i)非冷蔵状態および/または(ii)室温で保管できることを示す資料とを含むキットも提供する。
【0025】
また、本発明は、少なくとも1種のインフルエンザウイルス株の赤血球凝集素を含む水性ワクチンであって、ワクチンを25℃で保管する場合、赤血球凝集素の分解率が1株当たり年間33%未満である、ワクチンも提供する。たとえば、抗原濃度が1株当たり30μg/mlの場合、分解率は、1株当たり年間10μg/ml未満である。
【0026】
また、本発明は、少なくとも1種のインフルエンザウイルス株のノイラミニダーゼを含む水性ワクチンであって、ワクチンを25℃で保管する場合、ノイラミニダーゼの分解率が1株当たりの年間33%未満である、ワクチンも提供する。
【0027】
また、本発明は、少なくとも1種のインフルエンザウイルス株の赤血球凝集素とノイラミニダーゼとの両方を含む水性ワクチンであって、ワクチンを25℃で保管する場合、赤血球凝集素およびノイラミニダーゼの分解率がともに、1株当たりの年間33%未満である、ワクチンも提供する。
【0028】
また、本発明は、開業医が患者に投与する薬品を製造するにおけるインフルエンザウイルス抗原の使用であって、薬品の製造から開業医が薬品を受領するまでの間に薬物を冷蔵しない、使用も提供する。
【0029】
また、本発明は、開業医が患者に投与する薬品を製造するにおけるインフルエンザウイルス抗原の使用であって、開業医が受領してから患者に投与するまでの間に薬品を冷蔵しない、使用も提供する。
【0030】
また、本発明は、インフルエンザウイルスワクチンを患者に投与するためのプロセスであって、投与の前の24時間において(注射の前など)、ワクチンを非冷蔵状態で少なくとも12時間(好ましくは少なくとも18時間、一層好ましくは少なくとも23時間、たとえば、投与前の24時間の全時間)保管しておく、プロセスも提供する。
【0031】
また、本発明は、インフルエンザウイルスワクチンを患者に投与するためのプロセスであって、ワクチンを非冷蔵状態で少なくともh時間保管した後に患者に投与し、hは、12、18、24、36、48、60、72、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、5000あるいはそれ以上から選択される、プロセスも提供する。
【0032】
本発明のプロセス、使用およびワクチンにおける抗原については、好ましくは卵で増殖させたウイルスではなく細胞培養で増殖させたウイルスから調製する。これらの抗原が、特に安定であることが確認されているためである。理論に拘泥するわけではないが、現状では、本発明者らは、卵で増殖させた抗原に対するこのような安定性の向上には:(a)現行ワクチンにおいては卵由来の残留成分(たとえば、プロテアーゼおよび/またはグリコシダーゼなどの酵素)がHA分解に関与している可能性があるため、ウイルス増殖基質としての卵を回避することで、ワクチンの熱安定性が向上する;および/または(b)細胞培養、特に哺乳動物細胞培養で得られるインフルエンザウイルスの糖タンパク質のグリコフォームは、卵において得られるグリコフォームよりも安定であるという2つの理由があり得ると考える。
【0033】
本発明のワクチンは、特にスプリット抗原ワクチンまたは表面抗原ワクチンを対象に、ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(「トウィーン(Tween)」と呼ばれる)、オクトキシノール(オクトキシノール−9(トリトン(Triton)X−100)またはt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノールなど)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(「CTAB」:cetyl trimethyl ammonium bromide)またはデオキシコール酸ナトリウムなどの洗浄剤を含んでもよい。トウィーン80は、HA1μg当たり5〜25μgなど、たとえば、10〜15μg/μgのようにHAよりも大きな質量(すなわちHA1μg当たり1μg超)で存在してもよい。CTABは、たとえば、1.0〜1.5μg/μgなど、HA1μg当たり0.5〜2.5μgで存在してもよい。トウィーン80およびCTABは、同時に存在しても構わない。洗浄剤(単数または複数)は、インフルエンザウイルス抗原(HAなど)を安定化し、熱による分解を防止することが可能である。以下の実施例で見られる熱安定性を、特にトウィーン80(ポリソルベート80)の存在で説明することができる。
【0034】
抗原成分
本発明は、インフルエンザウイルス抗原を用いる。抗原については一般に、インフルエンザビリオンから調製するが、代替方法として、抗原を組換え宿主で発現させて、精製した形で用いてもよい。たとえば、組換え赤血球凝集素に関しては、たとえば、バキュロウイルスベクターを用いて昆虫細胞株で発現させ[5、6]、抗原として使用されており、組換えノイラミニダーゼの場合も同様である[7]。しかしながら、抗原は、ビリオン由来であるのが一般的である。
【0035】
抗原は、生ウイルスの形をとってもよいし、一層好ましくは、不活化ウイルスの形をとってもよい。ウイルスを不活化する化学的手段には、洗浄剤、ホルムアルデヒド(ホルマリンなど)、β−プロピオラクトンといった薬剤の1種または複数種による有効量での処理または紫外線による処理がある。不活性化のさらなる化学的手段として、メチレンブルー、ソラレン、カルボキシフラーレン(C60)またはこれらの任意の組み合わせによる処理が挙げられる。ウイルス不活化の他の方法については、たとえば、バイナリーエチルアミン、アセチルエチレンイミンまたはγ線照射など、当該技術分野において公知である。INFLEXAL(商標)製品は、不活化全ビリオンワクチンである。
【0036】
ビリオンについては、様々な方法によりウイルス含有液から採取することができる。たとえば、精製プロセスとして、ビリオンを壊す洗浄剤を含むショ糖直線密度勾配液によるゾーン遠心分離を挙げることができる。次いで、任意に希釈後、ダイアフィルトレーションによって抗原を精製することができる。
【0037】
スプリットビリオンについては、「トウィーン−エーテル」スプリットプロセスなど、精製ビリオンを洗浄剤(たとえば、エチルエーテル、ポリソルベート80、デオキシコラート、トリ−N−ブチルホスファート、トリトンX−100、トリトンN101、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、タージトール(Tergitol)NP9など)で処理してサブビリオン調製物を製造する。インフルエンザウイルスをスプリットする方法に関しては、当該技術分野において周知であり、たとえば、参考文献8−13などを参照されたい。一般に、ウイルスのスプリットは、感染性か非感染性かを問わず、ウイルスを破壊する濃度でスプリット剤を用いて全ウイルスを破壊または断片化することで行われる。破壊の結果、ウイルスタンパク質の全部または一部が可溶化され、ウイルスの完全性が変化する。好ましいスプリット剤は、非イオンおよびイオン(陽イオンなど)界面活性剤、たとえば、アルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド、アシル糖、スルホベタイン、ホベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、N,N−ジアルキル−グルカミド、ヘカメグ(Hecameg)、アルキルフェノキシ−ポリエトキシエタノール、第四級アンモニウム化合物、サルコシル、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)、トリ−N−ブチルホスファート、セタブロン、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、リポフェクチン、リポフェクタミン、DOTMA(N−[1−(2,3−dioleyloxy)propyl]−N,N,N,trimethylammonium chloride)、オクチルフェノキシポリオキシエタノールまたはノニルフェノキシポリオキシエタノール(たとえば、トリトンX−100またはトリトンN101などのトリトン界面活性剤)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(トウィーン界面活性剤)、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエトレンエステルなどである。有用なスプリット手順の1つは、デオキシコール酸ナトリウムおよびホルムアルデヒドの持続的作用を用いるもので、最初のビリオン精製の過程(ショ糖密度勾配液など)でスプリットを行うことができる。スプリットビリオンを、リン酸ナトリウム緩衝等張塩化ナトリウム溶液に再懸濁できると有用である。BEGRIVAC(商標)、FLUARIX(商標)、FLUZONE(商標)およびFLUSHIELD(商標)といった製品は、スプリットワクチンである。
【0038】
精製表面抗原ワクチンは、インフルエンザ表面抗原である赤血球凝集素を含み、さらに、ノイラミニダーゼも含むのが一般的である。これらのタンパク質を精製された形に調製するためのプロセスは、当該技術分野において周知である。FLUVIRINE(商標)、AGRIPPAL(商標)およびINFLUVAC(商標)といった製品は、サブユニットワクチンである。
【0039】
また、インフルエンザ抗原は、INFLEXAL V(商標)およびINVAVAC(商標)といった製品と同様に、ビロゾームの形[14](核酸を含まないウイルス様リポソーム粒子)をとることがあるが、ビロゾームを本発明と一緒に用いないことが好ましい。したがって、いくつかの実施形態では、インフルエンザ抗原は、ビロゾームの形ではない。
【0040】
インフルエンザウイルスについては、弱毒化することができる。インフルエンザウイルスは、温度感受性であっても構わない。インフルエンザウイルスは、低温順応型であってもよい。これら3つの特徴は、生ウイルスを抗原として用いる場合、特に有用である。
【0041】
ワクチンに使われるインフルエンザウイルス株は季節により異なるが、現在の汎流行の中間期では、ワクチンは一般に、2種類のインフルエンザA株(H1N1およびH3N2)と、1種類のインフルエンザB株とを含み、三価ワクチンが一般的である。また、本発明は、(特にインフルエンザAウイルスの)H2、H5、H7またはH9サブタイプ株など、汎流行株(すなわち、ワクチン接種者および一般のヒト集団が免疫学的に感受性である株)のHAも用いるが、汎流行株のインフルエンザワクチンは、一価のものでもよいし、汎流行株を添加した通常の三価ワクチンベースのものでもよい。一方、季節およびワクチンに含まれる抗原の性質に応じて、本発明は、HAサブタイプであるH1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16(インフルエンザAウイルス)の1種または複数種から防御することがある。H1抗原の場合、参考文献2と比較して、HA分解率の大幅な低下が認められた。分解率の低下は、H3抗原、さらにはインフルエンザBウイルス抗原でも認められた。
【0042】
本発明は、インフルエンザAウイルスのNA(neuraminidase)サブタイプであるN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8またはN9を防御することがある。
【0043】
本発明の組成物は、汎流行の中間期の株に対する免疫性を与えるのに好適であるばかりでなく、汎流行株に対する免疫性を与えるのに特に有用である。汎流行の発生の原因となり得るインフルエンザ株の特徴として:(a)現在循環しているヒト株の血球凝集素よりも新しい血球凝集素、すなわち、10年以上にわたりヒト集団において認められていない血球凝集素(H2など)、あるいは、ヒト集団において以前にまったく確認されたことがない血球凝集素(通常、鳥集団だけに確認されるH5、H6またはH9など)を含んでいる、および/または現在循環しているヒト株のノイラミニダーゼよりも新しいノイラミニダーゼを含んでいるため、ヒト集団は株の血球凝集素および/またはノイラミニダーゼに対して免疫学的に感受性であること;(b)ヒト集団に水平感染する能力があること;および(c)ヒトに対して病原性を持つことが挙げられる。H5N1株などの汎流行インフルエンザに対する免疫性を与えるには、H5型赤血球凝集素を持つウイルスが好ましい。他に考えられる株として、H5N3、H9N2、H2N2、H7N1、H7N7およびこれ以外の出現する可能性がある任意の汎流行株が挙げられる。H5サブタイプ内のウイルスは、HAクレード1、HAクレード1’、HAクレード2またはHAクレード3に分類できる[15]が、クレード1および3が特に重要である。
【0044】
その抗原を組成物に含ませると有用であり得る他の株には、耐性汎流行株[17]など、抗ウイルス性治療に抵抗性(オセルタミビル[16]および/またはザナミビルに対する抵抗性など)を示す株がある。
【0045】
本発明の組成物は、インフルエンザAウイルスおよび/またはインフルエンザBウイルスなど、インフルエンザウイルス株の1種または複数種(1種、2種、3種、4種あるいはそれ以上など)の抗原(単数または複数)を含んでもよい。一価ワクチンを調製してもよく、2価、3価、4価なども同様である。ワクチンがインフルエンザ株を2種以上含む場合、一般に、ウイルスを採取し、抗原を調製した後、異なる株を別々に増殖させて混合する。したがって、本発明のプロセスは、2種以上のインフルエンザ株の抗原を混合する工程を含んでもよいが、このプロセスについては、非冷蔵状態で実施することができる。2種のインフルエンザAウイルス株と1種のインフルエンザBウイルス株との抗原など、三価ワクチンは好ましいものである。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態では、組成物は、単一のインフルエンザA株の抗原を含んでもよい。いくつかの実施形態では、組成物は、2種のインフルエンザA株の抗原を含んでもよいが、これら2種の株は、H1N1およびH3N2でないことを条件とする。いくつかの実施形態では、組成物は、3種以上のインフルエンザA株の抗原を含んでも構わない。
【0047】
インフルエンザウイルスは、リアソータント株であってもよく、逆遺伝学技術で得られたものでもよい。逆遺伝学技術[たとえば、18−22]を用いれば、所望のゲノムセグメントを持つインフルエンザウイルスを、プラスミドによりインビトロで調製することができる。一般に、逆遺伝学技術は、(a)所望のウイルスRNA分子をコードしているDNA分子をポル(pol)Iプロモーターなどから、および(b)ウイルスタンパク質をコードしているDNA分子をポルIIプロモーターなどから発現させるもので、細胞に2つのタイプのDNAが発現するため、完全にインタクトな感染性ビリオンが構築される。このDNAは、好ましくは、ウイルスRNAおよびタンパク質をすべて与えるものであるが、ヘルパーウイルスを用いてRNAおよびタンパク質の一部を与えることも可能である。プラスミドベースの方法は、各ウイルスRNAを製造するために別々のプラスミドを用いたものが好ましく[23−25]、これらの方法は、ウイルスタンパク質の全部または一部(たとえば、PB1、PB2、PAおよびNPといったタンパク質だけ)を発現させるプラスミドも使用するもので、最大12種のプラスミドを使用する方法もある。必要とするプラスミドの数を減らすため、最近のアプローチ[26]では、同じプラスミドの(ウイルスRNA合成用の)複数のRNAポリメラーゼI転写カセット(たとえば、インフルエンザAのvRNAセグメントのうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つまたは8つすべてをコードしている配列)と、別のプラスミドのRNAポリメラーゼIIプロモーターの複数のタンパク質コード領域(たとえば、インフルエンザAのmRNA転写物のうち1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つまたは8つすべてをコードしている配列)とを組み合わせている。参考文献26の方法の好ましい態様は:(a)単一のプラスミドにPB1、PB2およびPAのmRNAコード領域;および(b)単一のプラスミドに8つすべてのvRNAコードセグメントを含むものである。一方のプラスミドにNAセグメントとHAセグメントを含み、他方のプラスミドに他の6つのセグメントを含む場合も都合がよい。
【0048】
ウイルスRNAセグメントをコードするポルIプロモーターの使用に代わる方法として、バクテリオファージポリメラーゼプロモーター[27]を用いることもできる。たとえば、SP6、T3またはT7ポリメラーゼのプロモーターを手軽に用いることができる。ポルIプロモーターには種特異性があるため、バクテリオファージポリメラーゼプロモーターの方が、多くの細胞型(MDCK:Madin−Darby canine kidneyなど)にとり一層好都合であるかもしれない。ただ、バクテリオファージポリメラーゼプロモーターの場合、外来性のポリメラーゼ酵素をコードしているプラスミドも細胞にトランフェクトしなければならない。
【0049】
他の技法では、単一の鋳型からウイルスRNAおよび発現可能なmRNAを同時にコードするポルIとポルIIの二重プロモーターを用いることができる[28、29]。
【0050】
したがって、ウイルス、特にインフルエンザAウイルスは、A/PR/8/34ウイルスの1つまたは複数のRNAセグメントを含んでもよい(一般にA/PR/8/34の6つのセグメントとワクチン株に由来するHAおよびNセグメント、すなわち、6:2のリアソータント)。インフルエンザAウイルスはさらに、A/WSN/33ウイルスまたはワクチン調製物用のリアソータントウイルスの製造に有用なこれ以外の任意のウイルス株の1つまたは複数のRNAセグメントを含んでも構わない。一般に、本発明は、ヒトからヒトに感染する能力がある株を防御するものであり、このため、その株のゲノムは、ほとんどの場合、哺乳類(ヒトなど)のインフルエンザウイルスに由来する少なくとも1つのRNAセグメントを含む。この株のゲノムは、鳥インフルエンザウイルスに由来するNSセグメントを含んでも構わない。
【0051】
上記のように、抗原の供給源としてのウイルスを、細胞培養で増殖させるのが一般的であるが、いくつかの実施形態では、卵で増殖させる場合もある。現在のインフルエンザウイルス増殖の標準的な方法では、特定病原体未感染(SPF:specific pathogen−free)の孵化鶏卵を用いて、卵内容物(尿膜腔液)からウイルスを精製する。卵ベースのウイルス増殖を用いる場合、ウイルスと一緒に1種または複数種のアミノ酸を卵の尿膜腔液(allantoid fluid)に導入してもよい[12]。
【0052】
細胞基質は一般に、哺乳動物起源の細胞株である。好適な哺乳動物由来の細胞には、ハムスター、ウシ、霊長類(ヒトおよびサル)およびイヌの細胞があるが、これに限定されるものではない。たとえば、腎細胞、線維芽細胞、網膜細胞、肺細胞など、様々な細胞型を用いてもよい。好適なハムスター細胞の例として、BHK(baby hamster kidney)21またはHKCC(hamster kidney cell culture)と呼ばれる細胞株が挙げられる。好適なサル細胞には、たとえば、ベロ(Vero)細胞株と同様の腎細胞として、アフリカミドリザル細胞などがある。好適なイヌ細胞は、たとえば、MDCK細胞株などの腎細胞である。したがって、好適な細胞株には:MDCK;CHO(Chinese hamster ovary);293T;BHK;ベロ;MRC−5;PER.C6;WI−38等があるが、これに限定されるものではない。哺乳動物細胞を用いることは、ワクチンに、ニワトリのDNAばかりでなく卵タンパク質(オボアルブミンおよびオボムコイドなど)が含まれない可能性があり、それによりアレルゲン性が低下することを意味する。
【0053】
インフルエンザウイルスを増殖させる好ましい哺乳動物細胞株には:マディンダービー(Madin Darby)イヌ腎臓由来のMDCK細胞[30−33];アフリカミドリザル(サバンナモンキー)腎臓由来のベロ細胞[34−36];またはヒト網膜芽細胞由来のPER.C6細胞[37]がある。これらの細胞株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC:American Type Culture Collection)[38]、コーリエルセルレポジトリーズ(Coriell Cell Repositories)[39]またはヨーロピアンコレクションオブセルカルチャーズ(ECACC:European Collection of Cell Cultures)などから一般に入手することができる。たとえば、ATCCは、カタログ番号CCL−81、CCL−81.2、CRL−1586およびCRL−1587で種々様々なベロ細胞を、カタログ番号CCL−34でMDCK細胞を提供している。PER.C6は、寄託番号96022940でECACCから入手可能である。哺乳動物細胞株に代わる方法として、ウイルスを、鳥胚性幹細胞[40、43]およびアヒル(アヒル網膜など)または雌鶏由来の細胞株など、鳥細胞株で増殖させてもよい[たとえば、参考文献40−42]。好適な鳥胚性幹細胞には、ニワトリ胚性幹細胞であるEB45、EB14およびEB14−074由来のEBx細胞株がある[44]。また、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF:chicken embryo fibroblast)などを用いてもよい。
【0054】
インフルエンザウイルスを増殖させる最も好ましい細胞株は、MDCK細胞株である。MDCKの起源細胞株は、CCL−34としてATCCから入手できるが、この細胞株の誘導体を用いても構わない。たとえば、参考文献30は、懸濁培養液での増殖に適合されたMDCK細胞株(DSM ACC 2219として寄託されている「MDCK 33016」)を開示している。参考文献45も同様に、無血清培養液に加えた懸濁液中で増殖するMDCK由来の細胞株(FERM BP−7449として寄託されている「B−702」)を開示している。参考文献46は、「MDCK−S」(ATCC PTA−6500)、「MDCK−SF101」(ATCC PTA−6501)、「MDCK−SF102」(ATCC PTA−6502)および「MDCK−SF103」(PTA−6503)など、非腫瘍原性MDCK細胞を開示している。参考文献47は、「MDCK.5F1」細胞(ATCC CRL−12042)などの感染に対して高感受性を有するMDCK細胞株を開示している。こうしたMDCK細胞株のどれを使用しても構わない。
【0055】
細胞増殖用の培養液ならびに培養の開始に用いるウイルス接種物は、好ましくは単純ヘルペスウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス3、SARSコロナウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、レオウイルス、ポリオーマウイルス、ビルナウイルス、サーコウイルスおよび/またはパルボウイルスを含まない(すなわち、これらのウイルスについて混入試験を行ってもその結果が陰性になる)[48]。単純ヘルペスウイルスが存在しないことは特に好ましい。
【0056】
ウイルスを、懸濁液[30、49、50]または接着培養液中の細胞で増殖させてもよい。一実施形態では、細胞を懸濁液中の増殖に適応させてもよい。懸濁培養液中の増殖に適応する好適なMDCK細胞株の1つは、MDCK33016(DSM ACC 2219として寄託)である。代替方法として、マイクロキャリア培養を用いることもできる。
【0057】
インフルエンザウイルスの複製を支持する細胞株については、好ましくは無血清培地および/または無タンパク質培地で増殖させる。本発明において、培地とは、ヒトまたは動物由来の血清から得られる添加物を含まない無血清培地をいう。無タンパク質とは、タンパク質、増殖因子、他のタンパク質添加物および無血清タンパク質がなくても細胞の分裂増殖が起こる培養液という意味で解釈されるものであるが、任意にトリプシンまたはウイルス増殖に必要な場合がある他のプロテアーゼなどのタンパク質を含んでもよい。当然のことながら、こうした培養液中で増殖する細胞は、それ自体タンパク質を含むものである。
【0058】
インフルエンザウイルス複製を支持する細胞株については、ウイルス複製の過程で好ましくは37℃未満(30〜36℃など)で増殖させる[51]。
【0059】
培養細胞でウイルスを増殖させる方法は通常、培養細胞に培養したい株を接種する工程と、その感染細胞を、たとえば、ウイルス力価または抗原発現などを基準に望ましいと判定したウイルス増殖期間(接種後24〜168時間など)培養する工程と、増殖したウイルスを回収する工程とを含むものである。培養細胞には、(PFUまたはTCID50で測定して)ウイルス対細胞の比が1:500〜1:1、好ましくは1:100〜1:5、一層好ましくは1:50〜1:10になるように接種する。ウイルスを細胞の懸濁液に加えるか、細胞の単層に付着させ、25℃〜40℃、好ましくは28℃〜37℃で少なくとも60分間、ただし、ほとんどの場合、300分間未満、好ましくは90〜240分間ウイルスを細胞で吸収させる。この感染細胞培養物(単層など)を、凍結融解あるいは酵素作用により除去して、回収する培養上清のウイルス含量を増加させてもよい。次いで、この回収した液体を不活化、あるいは、凍結保存する。培養細胞については、感染多重度(「m.o.i.:multiplicity of infection」)約0.0001〜10、好ましくは0.002〜5、一層好ましくは0.001〜2で感染させてもよい。さらに一層好ましくは、細胞をm.o.i.約0.01で感染させても構わない。感染細胞を、感染から30〜60時間後に回収することができる。好ましくは、感染から34〜48時間後に細胞を回収する。さらに一層好ましくは、感染から38〜40時間後に細胞を回収する。ウイルス放出を可能にするため、細胞培養の過程でプロテアーゼ(一般にトリプシン)を加えるのが一般的で、プロテアーゼについては、培養の過程で任意の好適な段階で加えて構わない。
【0060】
現在、インフルエンザワクチンは通常、SRID(single radial immunodiffusion)で測定されるHAレベルを参照して標準化される。既存のワクチンは一般に、1株当たり約15μgのHAを含むが、投与量を減らして用いてもよい(アジュバントを用いる場合など)。投与量が多くなる場合(投与量が3倍または9倍など[52、53])、1/2(すなわち、1株当たり7.5μgのHA)、1/4および1/8といった分割投与が用いられている[65、66]。したがって、ワクチンは、インフルエンザ1株当たり0.1〜150μgのHA、たとえば、0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μgなど、好ましくは0.1〜50μgのHAを含んでもよい。具体的な投与量として、たとえば、1株当たり約90、約45、約30、約15、約10、約7.5、約5、約3.8、約1.9、約1.5などが挙げられる。本発明のワクチン、キットおよびプロセスの成分(の量および濃度など)については、最終製品においてこうした抗原投与量が得られるように選択すればよい。濃縮バルクを所望の最終HA濃度に希釈する場合、非冷蔵状態で行ってもよい。
【0061】
生ワクチンについては、HA含量ではなく50%組織培養感染量(TCID50:median tissue culture infectious dose)で投与量を測定し、1株当たり10〜10(好ましくは106.5〜107.5)TCID50が一般的である。
【0062】
本発明と一緒に用いるHAは、ウイルスに見られる天然のHAでもよいし、変性されていてもよい。たとえば、HAを変性して、ウイルスが鳥種で高い病原性を示す原因となる決定因子(たとえば、HA1とHA2に開裂する部位の周辺など、高塩基性領域)を除去することが知られている。除去しないと、この決定因子により、卵におけるウイルスの増殖が妨げられるためである。
【0063】
本発明の組成物は、赤血球凝集素を含むばかりでなく、インフルエンザウイルスタンパク質をさらに含んでもよい。たとえば、本発明の組成物は一般に、ノイラミニダーゼ糖タンパク質を含む。本発明の組成物は、M1および/またはM2(またはこれらのフラグメント)および/または核タンパク質など、マトリックスタンパク質をさらに含んでも構わない。
【0064】
いくつかの実施形態、特に(a)卵で増殖させたワクチンから抗原を調製する場合、(b)ワクチンが不活化表面抗原ワクチンである場合、および/または(c)ワクチンがチオメルサールを含む場合、本発明は、参考文献2に開示されている以下の3種類のワクチンと関連性がない:(i)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株およびA/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株およびB/Yamanashi/166/98株を含む三価ワクチン;(ii)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株およびA/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株およびB/Guangdong/120/00株を含む三価ワクチン;または(iii)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株およびA/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株およびB/Shangdong/7/97株を含む三価ワクチン。
【0065】
宿主細胞DNA
細胞株でウイルスを増殖させる場合、DNAの任意の発癌活性を最小限にとどめるため、最終ワクチンの残留細胞株DNAの量を最小限に抑えるのが一般的である。したがって、この組成物が含む残留宿主細胞DNAは、1用量当たり好ましくは10ng未満(好ましくは1ng未満、一層好ましくは100pg未満)であるが、微量の宿主細胞DNAが存在しても構わない。一般に、本発明の組成物から除外することが望ましい宿主細胞DNAは、100bpよりも長いDNAである。
【0066】
現在、残留宿主細胞DNAの測定は、生物学的製剤に関する一般的な規制要件であり、当業者の通常の技術の範囲内である。DNAの測定に用いるアッセイは一般に、検証済みアッセイである[54、55]。検証済みアッセイの性能特性については、数学的および定量的に記載することが可能であり、誤差が生じても原因が特定されることになる。アッセイについては通常、正確度、精度、特異性などの特性を検査する。アッセイのキャリブレーションを(宿主細胞DNAの既知の標準量などを基準に)行い、アッセイの検査を行ったら、DNAの定量的測定を日常的に行うことができる。DNAの定量化には、サザンブロットまたはスロットブロットなどのハイブリダイゼーション法[56];スレッシュホールド(商標)システム(Threshold(商標)System)などのイムノアッセイ法[57];および定量PCR(polymerase chain reaction)[58]という主に3つの技法を用いることができる。これらの方法はすべて、当業者にはよく知られているものだが、各方法の詳細な特性は、たとえば、ハイブリダイゼーション用のプローブの選択、増幅用のプライマーおよび/またはプローブの選択など、該当する宿主細胞によって異なることがある。モレキュラーデバイス(Molecular Devices)社製のスレッシュホールド(商標)システムは、全DNAをピコグラムレベルで定量するアッセイであり、生物学的製剤に混入したDNAレベルのモニタリングに用いられている[57]。通常のアッセイでは、ビオチン化ssDNA(single strand DNA)結合タンパク質、ウレアーゼコンジュゲート抗ssDNA抗体とDNAとの反応複合体が配列非特異的に形成される。アッセイの構成成分はすべて、製造者から入手することができるコンプリート総DNAアッセイキットに含まれている。残留宿主細胞DNAを検出する定量PCRアッセイについては、たとえば、AppTec(商標)ラボラトリーサービスイズ(AppTec(商標)Laboratory Services)、バイオリライアンス(BioReliance)(商標)、アルセアテクノロジー(Althea Technologies)など、様々なメーカーが提供している。ヒトウイルスワクチンにおける宿主細胞DNA混入の測定に関する化学発光ハイブリダイゼーションアッセイと総DNAスレッシュホールド(商標)システムとの比較については、参考文献59で確認することができる。
【0067】
混入DNAについては、たとえば、クロマトグラフィーなどの標準的な精製手続きを用いてワクチンの調製中に除去することができる。残留宿主細胞DNAの除去を、たとえば、デオキシリボヌクレアーゼを用いたヌクレアーゼ処理により促進させてもよい。宿主細胞DNAの混入を抑える簡便な方法については、参考文献60および61に開示されており、最初にウイルス増殖の過程で使用してもよいデオキシリボヌクレアーゼ(ベンゾナーゼなど)、次いでビリオン破壊の過程で使用してもよい陽イオン界面活性剤(CTABなど)を用いる2工程処理などがある。β−プロピオラクトンなどのアルキル化剤による処理に関しても、宿主細胞DNAの除去に用いてよく、さらに、ビリオンの不活化に用いても都合がよい場合がある[62]。
【0068】
ワクチンに含まれる宿主細胞DNAは、赤血球凝集素15μg当たり<10ng(<1ng、<100pgなど)であり、容量0.25ml当たりでは、<10ng(<1ng、<100pgなど)で宿主細胞DNAを含むことが好ましい。ワクチンに含まれる宿主細胞DNAは、赤血球凝集素50μg当たり<10ng(<1ng、<100pgなど)であり、容量0.5ml当たりでは、<10ng(<1ng、<100pgなど)で宿主細胞DNAを含むことが一層好ましい。
【0069】
保管状態および輸送
ワクチンまたは抗原組成物を冷蔵されていない(または、同様の表現)という場合、ワクチンまたは抗原組成物が≦8℃の温度になるような条件下で保管されていないことをいう。したがって、組成物を一時的に冷蔵庫に入れても、全体の温度が8℃以下まで低下するほど時間が十分に長くない場合、この組成物は、冷蔵されていないものである。しかしながら、好ましい実施形態では、短い期間でも、本発明を任意の冷蔵状態に付さなくてもよい。
【0070】
本発明が2つの場所間の輸送を含む場合、2つの場所は、好ましくはnキロメートル超離れており、nは、1、2、3、4、5、10、20、25、30、40、50、100あるいはそれ以上から選択される。
【0071】
組成物を10℃超で保管する場合、≧11℃、≧12℃、≧13℃、≧14℃、≧15℃、≧16℃、≧17℃、≧18℃、≧19℃、≧20℃、≧21℃、≧22℃、≧23℃、≧24℃で保管してもよい。組成物は一般に、40℃未満、たとえば、≦39℃、≦38℃、≦37℃、≦36℃、≦35℃、≦34℃、≦33℃、≦32℃、≦31℃、≦30℃、≦29℃、≦28℃、≦27℃、≦26℃で保管する。標準的な保管温度は、室温、たとえば18℃〜23℃、20±1℃などである。
【0072】
組成物を10週間を超えて非冷蔵状態で保管する場合、≧11週間、≧12週間、≧13週間、≧14週間、≧15週間、≧16週間、≧17週間、≧18週間、≧19週間、≧20週間、≧25週間、≧26週間、≧30週間、≧35週間、≧40週間保管してもよい。保管は、1年間未満が通例である。
【0073】
直接の光を避けて、たとえば暗所でワクチンを保管してもよい。
【0074】
ワクチンの赤血球凝集素の分解率が1株当たり年間33%未満である場合、分解率は、好ましくは≦32%、≦31%、≦30%、≦29%、≦28%、≦27%、≦26%、≦25%、≦24%、≦23%、≦22%、≦21%、≦20%、≦19%、≦18%、≦17%、≦16%、≦15%、≦14%、≦13%、≦12%、≦11%、≦10%、≦9%、≦8%、≦7%、≦6%、≦5%あるいはそれよりも低いことが好ましい。分解率については、好ましくは「安定性試験ガイドライン(Stability Testing of New Drug Substances and Products)」というICH(日米EU医薬品規制調和国際会議(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use))のガイドラインQ1A(R2)により、関連する統計解析を含めて測定する。
【0075】
アジュバント
本発明の組成物は、組成物を投与される患者に起こる免疫反応(体液性および/または細胞性)を増強する働きをするアジュバントを含むと都合がよいことがある。インフルエンザワクチンと一緒にアジュバントを用いることは、すでに記載されている。参考文献63および64では、水酸化アルミニウムが使用され、参考文献65では、水酸化アルミニウムとリン酸アルミニウムの混合物が使用された。参考文献66にも、アルミニウム塩アジュバントの使用が記載された。カイロンワクチンズ(Chiron Vaccines)社製のFLUAD(商標)は、水中油型エマルジョンを含むものである。
【0076】
本発明に用いることができるアジュバントは、以下を含むが、これに限定されるものではない:
・ カルシウム塩およびアルミニウム塩(またはこれらの混合物)などのミネラル含有組成物。カルシウム塩は、リン酸カルシウム(参考文献67に開示されている「CAP(calcium phosphate)」粒子など)を含む。アルミニウム塩は、任意の好適な形態(たとえば、ゲル、結晶、非結晶など)をとっている水酸化物、リン酸塩、硫酸塩などの塩を含む。こうした塩への吸着は、好ましいものである。ミネラル含有組成物は、金属塩の粒子として調製されても構わない[68]。アルミニウム塩アジュバントに関しては、以下に詳細に記載する。
【0077】
・ サイトカイン誘導剤(より詳細には以下を参照のこと)。
【0078】
・ サポニン[参考文献104の第22章]。サポニンは、広範囲の植物種の樹皮、葉、茎、根および花でも確認されるステロールグリコシドおよびトリテルペノイドグリコシドの異種群である。バラ科キラヤ(Quillaia saponaria Molina)の樹皮から得られるサポニンは、アジュバントとして広く研究されている。サポニンはまた、スミラックスオルナタ(Smilax ornata)(サルサプリラ(sarsaprilla))、ギプソフィラパニクラタ(Gypsophilla paniculata)(ブリデスベイル(brides veil))およびサポナリアオフィシアナリス(Saponaria officianalis)(ソープルート(soap root))由来の市販品も入手できる。サポニンアジュバント製剤は、QS21などの精製製剤ならびにISCOM(immunostimulating complex)などの脂質製剤を含むものである。QS21は、スティミュロン(Stimulon)(商標)として販売されている。サポニン組成物は、HPLC(high performance liquid chromatography)およびRP−HPLC(reversed phase−high performance liquid chromatography)を用いて精製されている。こうした技法を用いて精製された特定の画分として、QS7、QS17、QS18、QS21、QH−A、QH−BおよびQH−Cなどが確認されている。好ましくは、サポニンはQS21である。QS21の製造方法は、参考文献69に開示されている。Quil Aの画分Aに関しては、他の少なくとも1種のアジュバントと一緒に用いることができる[70]。サポニン製剤は、コレステロールなどのステロールをさらに含んでもよい[71]。サポニンとコレステロールの組み合わせを用いて、免疫刺激複合体(ISCOM)と呼ばれる独特の粒子を形成してもよい[参考文献104の第23章]。また、ISCOMは一般に、ホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンなどのリン脂質も含むものである。ISCOMには、任意の既知のサポニンを用いることができる。好ましくは、ISCOMは、QuilA、QHAおよびQHCの1種または複数種を含むものである。ISCOMは、参考文献71−73に詳細に記載されている。任意に、ISCOMは、さらなる洗浄剤を有していなくてもよい[74]。各複合体が本質的に1種のサポニン画分を含む、少なくとも2種類のISCOM複合体の混合物を用いてもよく、この複合体は、ISCOM複合体またはISCOMマトリックス複合体である[75]。サポニンベースのアジュバント開発に関する概説については、参考文献76および77で確認することができる。
【0079】
・ 脂肪性アジュバント(より詳細には以下を参照のこと)。
【0080】
・ 細菌性ADP(adenosine diphosphate)リボシル化毒素(大腸菌易熱性エンテロトキシン「LT」、コレラ毒素「CT」または百日咳毒素「PT」など)およびその解毒化誘導体である、LT−K63およびLT−R72と呼ばれる変異体毒素など[78]。解毒化ADPリボシル化毒素を粘膜アジュバントとして用いることは、参考文献79に、非経口アジュバントとして用いることは、参考文献80に記載されている。
【0081】
・ エステル化ヒアルロン酸ミクロスフェア[81]またはキトサンおよびその誘導体[82]などの生体接着剤および粘膜接着剤。
【0082】
・ 生体内分解性かつ無毒性の材料(たとえば、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリカプロラクトンなど)から形成される微小粒子(すなわち、直径が約100nm〜約150μm、一層好ましくは直径が約200nm〜約30μmまたは直径が約500nm〜約10μmの粒子)。任意に、表面が(SDS:sodium dodecyl sulfateなどにより)負に、または(たとえば、陽イオン界面活性剤、CTABなどにより)正に帯電するように処理されたポリ(ラクチド−コ−グリコリド)が好ましい。
【0083】
・ リポソーム(参考文献104の第13章および第14章)。アジュバントとして使用するのに好適なリポソーム製剤の例は、参考文献83−85に記載されている。
【0084】
・ 水中油型エマルジョン(より詳細には以下を参照のこと)。
【0085】
・ ポリオキシエチレンエーテルおよびポリオキシエチレンエステル[86]。こうした製剤は、オクトキシノールとの併用でポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤[87]、さらにはオクトキシノールなどの少なくとも1種の別の非イオン界面活性剤との併用でポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルエステル界面活性剤をさらに含むものである[88]。好ましいポリオキシエチレンエーテルは、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル(ラウレト9(laureth 9))、ポリオキシエチレン−9−ステオリルエーテル、ポリオキシテイレン−8−ステオリルエーテル、ポリオキシエチレン−4−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−35−ラウリルエーテルおよびポリオキシエチレン−23−ラウリルエーテルからなる群から選択される。
【0086】
・ N−アセチルムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(「thr−MDP」)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルグルクサミニル−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−Ala−ジパルミトキシプロピルアミド(「DTP−DPP」すなわち「Theramide」(商標))、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(「MTP−PE」)などのムラミルペプチド。
【0087】
・ 第1のグラム陰性菌から調製される外膜タンパク質プロテオソーム調製物と第2のグラム陰性菌由来のリポサッカリド調製物との組み合わせ。この外膜タンパク質プロテオソーム調製物とリポサッカリド調製物は、安定な共有結合アジュバント複合体を形成する。こうした複合体として、髄膜炎菌外膜タンパク質およびリポポリサッカリドからなる複合体「TVX−908」がある。これらの複合体は、インフルエンザワクチンのアジュバントとして用いられている[89]。
【0088】
・ メチルイノシン 5’−モノホスファート(「MIMP」)[90]。
【0089】
・ 以下の式を持つ化合物のようなポリヒドロキスル化ピロリジジン化合物[91]:
【0090】
【化1】

式中、Rは、水素、直鎖または分枝、非置換または置換、飽和または不飽和のアシル基、アルキル基(シクロアルキル基など)、アルケニル基、アルキニル基およびアリール基またはこれらの薬学的に許容される塩もしくは誘導体を含む群からから選択される。例として、カスアリン、カスアリン−6−α−D−グルコピラノース、3−エピ−カスアリン、7−エピ−カスアリン、3,7−ジエピ−カスアリンなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0091】
・ γイヌリン[92]またはアルガンムリンなどのその誘導体。
【0092】
・ α−グリコシルセラミド、たとえばα−ガラクトシルセラミドなどのCD1dリガンド。
【0093】
これらおよび他のアジュバント活性物質は、参考文献104および105に詳細に記載されている。
【0094】
組成物は、2種以上の該アジュバントを含んでも構わない。たとえば、組成物は、水中油型エマルジョンとサイトカイン誘導剤との両方を含むと都合がよいことがある。これは、その組み合わせが、インフルエンザワクチンにより引き起こされるインターフェロンγ反応などのサイトカイン反応を高めるためであり、改善の程度は、水中油型エマルジョンまたはサイトカイン誘導剤を単独で使用する場合に比べてはるかに大きい。
【0095】
組成物中の抗原およびアジュバントは一般に、混合状態にある。
【0096】
ワクチンがアジュバントを含む場合、ワクチンの分配時に即座に調製してもよい。したがって、本発明は、すぐに混合できるように抗原およびアジュバントの成分を含むキットを提供する。キットを用いれば、アジュバントおよび抗原を使用時まで別々に保管することができる。キット内の成分は、互いに物理的に切り離されているため、様々な方法で分けておくことができる。たとえば、この2つの成分をバイアルなど、2つの容器に入れておいてもよい。その後、2つのバイアルの内容物については、たとえば、一方のバイアルの内容物を取り出してこれを他方のバイアルに加えて、あるいは、2つのバイアルの内容物を別々に取り出して第3の容器で混合することで、混合しても構わない。好ましい構成では、キット成分の一方をシリンジに入れておき、他方をバイアルなどの容器に入れておく。シリンジを用いて(針などにより)内容物を第2の容器に挿入して混合し、次いでこの混合物をシリンジに移してもよい。その後、この混合したシリンジの内容物を、一般には新しい無菌の注射針で患者に投与してもよい。1成分を1本のシリンジに充填すれば、患者への投与に際し別のシリンジを使用する必要がなくなる。別の好ましい構成は、キットの2つの成分を一緒に保管するものだが、たとえば、参考文献93−100等で開示されているようなデュアルチャンバーシリンジなど、同じシリンジ中で別々になっている。シリンジを操作する際(患者に投与する間など)に、2つのチャンバーの内容物を混合する。このように構成すれば、使用時に別の混合工程を行う必要がなくなる。
【0097】
水中油型エマルジョンアジュバント
水中油型エマルジョンは、インフルエンザウイルスワクチンのアジュバントとして用いるのに特に好適であることが明らかにされている。様々な水中油型エマルジョンが知られており、これらは一般に、少なくとも1種の油と少なくとも1種の界面活性剤を含み、油(類)および界面活性剤(単数または複数)は、生体分解性(代謝可能)かつ生体適合性である。エマルジョン中の油滴は通常、直径が5μm未満であり、サブミクロンであることもあるが、こうした小さなサイズはマイクロフルイダイザーにより実現され、安定なエマルジョンが得られる。濾過滅菌に付すことができるため、液滴のサイズは、220nm未満であることが好ましい。
【0098】
本発明を、動物(魚など)性油または植物性油などの油と一緒に用いてもよい。植物油の供給源としては、堅果、種子および穀物が挙げられる。最も一般的に入手可能な堅果油として、落花生油、大豆油、ヤシ油およびオリーブ油が挙げられる。たとえば、ホホバ豆から得られるホホバ油を用いてもよい。種油には、サフラワー油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油および同種ものがある。穀物群では、コーン油が最も入手しやすいが、コムギ、カラスムギ、ライムギ、米、テフ、ライコムギおよび同種ものなど、他の穀物油を用いてもよい。炭素数6〜10個の、グリセリンおよび1,2−プロパンジオールの脂肪酸エステルについては、種油においては天然に存在しないものだが、堅果油および種油を出発物質として適切な材料を加水分解、分離およびエステル化することで調製することができる。哺乳類の乳の脂肪および油は、代謝可能であるため、本発明の実施に際して用いてもよい。動物供給源から純粋な油を得るうえで必要な分離、精製、鹸化および他の手段の手順については、当該技術分野において周知である。大部分の魚は、容易に回収できる代謝可能な油を含む。本明細書で使用可能な魚油の一部として、たとえば、タラ肝油、サメ肝油および鯨蝋などの鯨油が挙げられる。分枝鎖油の多くは、炭素数5個のイソプレンを単位として生化学的に合成され、通常、テルペノイドと呼ばれている。サメ肝油は、本明細書に特に好ましいスクアレンと呼ばれる分枝鎖不飽和テルペノイドである2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエンを含む。スクアレンの飽和アナログであるスクアランも、好ましい油である。スクアレンおよびスクアランなどの魚油については、商業的供給源から容易に入手できるか、当該技術分野において公知の方法により得ることができる。これ以外の好ましい油として、トコフェロールがある(以下を参照のこと)。油の混合物を用いてもよい。
【0099】
界面活性剤については、「HLB」(hydrophile/lipophile balance:親水性親油性バランス)で分類することもできる。本発明の好ましい界面活性剤は、HLBが少なくとも10、好ましくは少なくとも15、一層好ましくは少なくとも16である。本発明を、以下の界面活性剤と一緒に用いてもよいが、これに限定されるものではない:ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤(一般にトウィーンと呼ばれる)、特にポリソルベート20およびポリソルベート80;EO(ethylene oxide)/PO(propylene oxide)線状ブロックコポリマーなど、DOWFAX(商標)という商品名で販売されている酸化エチレン(EO)、酸化プロピレン(PO)および/またはブチレンオキシド(BO:butylene oxide)のコポリマー;反復基であるエトキシ(オキシ−1,2−エタンジイル)の数が異なってもよいオクトキシノール(特にオクトキシノール−9(トリトンX−100またはt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)が注目される);(オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール(IGEPAL CA−630/NP−40);ホスファチジルコリン(レシチン)などのリン脂質;トリエチレングリコールモノラウリルエーテル(ブリジ30)など、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールおよびオレイルアルコール(ブリジ(Brij)界面活性剤と呼ばれる)から得られるポリオキシエチレン脂肪エーテル;ソルビタントリオレアート(スパン85(Span 85))およびソルビタンモノラウラートなどのソルビタンエステル(一般にSPANと呼ばれる)。エマルジョンに加える好ましい界面活性剤は、トウィーン80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)、スパン85(ソルビタントリオレアート)、レシチンおよびトリトンX−100である。上記のように、トウィーン80などの洗浄剤は、以下の実施例に見られる熱安定性に寄与する可能性がある。
【0100】
トウィーン80/スパン85の混合物など、界面活性剤の混合物を用いてもよい。ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(トウィーン80)などのポリオキシエチレンソルビタンエステルとt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX−100)などのオクトキシノールとの組み合わせも、好適なものである。別の有用な組み合わせには、ラウレト9にポリオキシエチレンソルビタンエステルおよび/またはオクトキシノールを加えたものがある。
【0101】
界面活性剤の好ましい量(重量%)は:ポリオキシエチレンソルビタンエステル(トウィーン80など)0.01〜1%、特に約0.1%;オクチルフェノキシポリオキシエタノールまたはノニルフェノキシポリオキシエタノール(トリトンX−100またはトリトンシリーズの他の洗浄剤など)0.001〜0.1%、特に0.005〜0.02%;ポリオキシエチレンエーテル(ラウレト9など)0.1〜20%、好ましくは0.1〜10%、特に0.1〜1%または約0.5%である。
【0102】
本発明に有用な具体的な水中油型エマルジョンアジュバントは、以下を含むが、これに限定されるものではない:
・ スクアレンと、トウィーン80と、スパン85とのサブミクロンのエマルジョン。エマルジョンの体積組成は、スクアレンが約5%、ポリソルベート80が約0.5%およびスパン85が約0.5%であってもよい。これら比率を、重量で見ると、スクアレンが4.3%、ポリソルベート80が0.5%およびスパン85が0.48%になる。このアジュバントは、参考文献104の第10章および参考文献105の第12章に詳細に記載されているように「MF59」[101−103]と呼ばれている。MF59エマルジョンは、シトラートイオン、たとえば、10mMクエン酸ナトリウム緩衝液を含んでいると都合がよい。
【0103】
・ スクアレンと、トコフェロールと、トウィーン80のエマルジョン。このエマルジョンは、リン酸緩衝生理食塩水を含んでもよい。さらに、スパン85(1%など)および/またはレシチンを含んでも構わない。これらのエマルジョンは、スクアレンを2〜10%、トコフェロールを2〜10%、トウィーン80を0.3〜3%で含んでいてもよいが、エマルジョンがより安定するため、スクアレン:トコフェロールの重量比は、好ましくは≦1である。スクアレンおよびトウィーン80は、体積比約5:2で存在してもよい。こうしたエマルジョンの1つを、トウィーン80をPBS(phosphate buffered saline)に溶解して2%溶液を得て、次いでこの溶液90mlを(5gのDL−α−トコフェロールおよび5mlのスクアレンの)混合物と混合し、その後、この混合物をマイクロフルイダイズすることで製造することができる。得られたエマルジョンは、たとえば、平均直径が100〜250nm、好ましくは約180nmであるサブミクロンの油滴を含んでもよい。
【0104】
・ スクアレンと、トコフェロールと、トリトン洗浄剤(トリトンX−100など)とのエマルジョン。このエマルジョンは、3d−MPL(monophosphoryl lipid A)(以下を参照のこと)を含んでもよい。このエマルジョンは、リン酸緩衝液を含んでも構わない。
【0105】
・ ポリソルベート(ポリソルベート80など)と、トリトン洗浄剤(トリトンX−100など)と、トコフェロール(α−トコフェロールスクシナートなど)とを含むエマルジョン。このエマルジョンは、これら3つの成分を質量比約75:11:10(750μg/mlポリソルベート80、110μg/mlトリトンX−100、100μg/mlα−トコフェロールスクシナートなど)で含んでもよいが、これらの成分で抗原由来のものがあれば、その分もこの濃度に含めるべきである。このエマルジョンは、スクアレンを含んでもよい。このエマルジョンは、3d−MPL(以下を参照のこと)を含んでも構わない。この水相は、リン酸緩衝液を含んでもよい。
【0106】
・ スクアランと、ポリソルベート80と、ポロキサマー401とのエマルジョン(「プルロニック(Pluronic)(商標)L121」)。このエマルジョンについては、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)で製剤化してもよい。このエマルジョンは、ムラミルペプチドの有用な送達ビヒクルであり、「SAF−1」アジュバントに加えたトレオニル−MDPと一緒に用いられている[106](0.05〜1%Thr−MDP、5%スクアラン、2.5%プルロニックL121および0.2%ポリソルベート80)。また、このエマルジョンを、「AF」アジュバントの場合のように、Thr−MDPを使用せずに用いてもよい[107](5%スクアラン、1.25%プルロニックL121および0.2%ポリソルベート80)。マイクロフルイダイズすることが好ましい。
【0107】
・ 油を0.5〜50%、リン脂質を0.1〜10%、非イオン界面活性剤を0.05〜5%で含むエマルジョン。参考文献108に記載されているように、好ましいリン脂質成分は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリンおよびカルジオリピンである。液滴の大きさはサブミクロンであると都合がよい。
【0108】
・ 代謝不可能な油(ライトミネラルオイルなど)と少なくとも1種の界面活性剤(レシチン、トウィーン80またはスパン80など)とのサブミクロンの水中油型エマルジョン。QuilAサポニン、コレステロール、サポニン−リポフィルコンジュゲート(グルクロン酸のカルボキシル基を介して脂肪族アミンをデサシルサポニンに加えて製造する、参考文献109に記載のGPI−0100など)、ジメチイジオクタデシルアンモニウムブロミドおよび/またはN,N−ジオクタデシル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)プロパンジアミンなど、添加物を含んでもよい。
【0109】
・ 鉱油、非イオン性親油性エトキシ化脂肪アルコールおよび非イオン性親水性界面活性剤(エトキシ化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーなど)を含むエマルジョン[110]。
【0110】
・ 鉱油、非イオン性親水性エトキシ化脂肪アルコールおよび非イオン性親油性界面活性剤(エトキシ化脂肪アルコールおよび/またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーなど)を含むエマルジョン[110]。
【0111】
・ サポニン(QuilAまたはQS21など)とステロール(コレステロールなど)とが、らせん状ミセルとして存在しているエマルジョン[111]。
【0112】
エマルジョンについては、分配時に即座に抗原と混合してもよい。したがって、包装されたワクチンまたは分配されたワクチンでは、使用時にすぐに最終製剤にしやすいようにして、アジュバントおよび抗原を別々に保管してもよい。抗原は通常、液状であるため、2種類の液体を混合して、ワクチンの最終的な調製を行う。混合する2種類の液体の体積比は、異なってもよい(5:1および1:5など)が、通常は約1:1である。
【0113】
抗原とアジュバントの混合後、赤血球凝集素抗原は通常、水溶液の状態のままであるが、油/水界面の周辺に移動することがある。一般に、赤血球凝集素がエマルジョンの油相に入り込むことがあっても、わずかである。
【0114】
組成物がトコフェロールを含む場合、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、ε−トコフェロールまたはξ−トコフェロールのうちどれを用いてもよいが、α−トコフェロールが好ましいものである。トコフェロールは、様々な塩および/または異性体など、複数の形態をとることができる。塩としては、スクシナート、アセタート、ニコチナートなどの有機塩がある。D−α−トコフェロールおよびDL−α−トコフェロールについては、どちらも用いることができる。高齢患者(60歳以上など)に用いる場合、ビタミンEがこの患者群の免疫反応を促進すると報告されているため、ワクチンにトコフェロールを加えると都合がよい[112]。また、トコフェロールには、エマルジョンの安定化に役立つ可能性がある酸化防止剤特性もある[113]。好ましいα−トコフェロールは、DL−α−トコフェロールであり、このトコフェロールの好ましい塩は、スクシナートである。スクシナート塩は、インビボでTNF(tumor necrosis factor)関連リガンドと協同的に作用することが確認されている。加えて、α−トコフェロールスクシナートは、インフルエンザワクチンとの適合性があり、水銀化合物の代替として有用な保存剤であることも知られている[11]。
【0115】
サイトカイン誘導剤
本発明の組成物に加えるサイトカイン誘導剤は、患者に投与する際に、免疫系にインターフェロンおよびインターロイキンなどのサイトカインの放出を誘発する作用がある。サイトカイン反応は、インフルエンザ感染に対する宿主防御の初期段階および決定的な段階に関与していることが分かっている[114]。好ましい薬剤は:インターフェロンγ;インターロイキン−1;インターロイキン−2;インターロイキン−12;TNF−α;TNF−β;およびGM−CSF(granulocyte−macrophage colony−stimulating factor)のうち1つまたは複数の放出を誘発する作用がある。好ましい薬剤は、インターフェロンγ、TNF−α、インターロイキン−2など、Th1型免疫反応と関係するサイトカインの放出を誘発する。インターフェロンγとインターロイキン−2をともに刺激することが好ましい。
【0116】
したがって、本発明の組成物の投与の結果、患者のT細胞は、インフルエンザ抗原により刺激を受けると、抗原特異的に所望のサイトカイン(類)を放出する。たとえば、患者の血液から精製されたT細胞は、インビトロでインフルエンザウイルス赤血球凝集素に曝露されると、γ−インターフェロンを放出する。末梢血単核球(PBMC:peripheral blood mononuclear cell)においてこうした反応を測定する方法は、当該技術分野において公知であり、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、ELISPOT(enzyme−linked immunospot)、フローサイトメトリーおよびリアルタイムPCR(polymerase chain reaction)が挙げられる。たとえば、参考文献115では1つの研究が報告されている。その中で、破傷風トキソイドに対するT細胞による抗原特異的免疫反応、特にγ−インターフェロン反応をモニターし、TT(tetanus toxoid)による抗原特異的反応と自然反応とを識別するには、ELISPOTが最も高感度な方法である一方、再刺激の作用を検出には、フローサイトメトリーによる細胞質内サイトカインの検出が、最も効果的な方法であることが分かった。
【0117】
好適なサイトカイン誘導剤には、以下があるが、これに限定されるものではない:
・ CpGモチーフ(グアノシンに結合したリン酸に連結している非メチル化シトシンを含むジヌクレオチド配列)を含むオリゴヌクレオチドまたは二本鎖RNAまたはパリンドローム配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリ(dG)配列を含むオリゴヌクレオチドなど、免疫刺激オリゴヌクレオチド。
【0118】
・ 3−O−アシル化モノホスホリル脂質A(「MPL(商標)」とも呼ばれる「3dMPL」)[116−119]。
【0119】
・ イミキモド(「R−837」)、レシキモド(「R−848」)[122]およびこれらのアナログなどのイミダゾキノリン化合物[120、121];およびその塩(ヒドロクロリド塩など)。免疫刺激イミダゾキノリンに関する詳細については、参考文献123−127で確認できる。
【0120】
・ 参考文献128に開示されているようなチオセミカルバゾン化合物。この活性化合物を製剤化、製造およびスクリーニングする方法に関しても、参考文献128に記載されている。チオセミカルバゾンは、TNF−αなどのサイトカインを産生するヒト末梢血単核球の刺激には特に効果的である。
【0121】
・ 参考文献129に開示されているようなトリプタントリン化合物。この活性化合物を製剤化、製造およびスクリーニングする方法に関しても、参考文献129に記載されている。チオセミカルバゾンは、ヒト末梢血単核球を刺激してTNF−αなどのサイトカインを産生するには特に効果的である。
【0122】
・ 以下のようなヌクレオシドアナログ:(a)イサトラビン(ANA−245;7−チア−8−オキソグアノシン):
【0123】
【化2】

およびそのプロドラッグ;(b)ANA975;(c)ANA−025−1;(d)ANA380;(e)参考文献130−132に開示されている化合物;(f)以下の式を持つ化合物であって:
【0124】
【化3】

式中:
およびRは各々独立に、H、ハロ、−NR、−OH、C1〜6アルコキシ、置換C1〜6アルコキシ、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、C6〜10アリール、置換C6〜10アリール、C1〜6アルキルまたは置換C1〜6アルキルであり;
は、存在しないか、H、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、C6〜10アリール、置換C6〜10アリール、ヘテロシクリルまたは置換ヘテロシクリルであり;
およびRは各々独立に、H、ハロ、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリル、−C(O)−R、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキルであるか、あるいは結合してR4〜5のような5員環を形成し:
【0125】
【化4】

この結合は
【0126】
【化5】

で示す結合で行われ
およびXは各々独立に、N、C、OまたはSであり;
は、H、ハロ、−OH、C1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、−OH、−NR、−(CH−O−R、−O−(C1〜6アルキル)、−S(O)または−C(O)−Rであり;
は、H、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、ヘテロシクリル、置換ヘテロシクリルまたはR9aであり、
式中、R9aは:
【0127】
【化6】

この結合は
【0128】
【化7】

で示す結合で行われ
10およびR11は各々独立に、H、ハロ、C1〜6アルコキシ、置換C1〜6アルコキシ、−NRまたは−OHであり;
各RおよびRは独立に、H、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、−C(O)R、C6〜10アリールであり;
各Rは独立に、H、リン酸塩、二リン酸塩、三リン酸塩、C1〜6アルキルまたは置換C1〜6アルキルであり;
各Rは独立に、H、ハロ、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、C1〜6アルコキシ、置換C1〜6アルコキシ、−NH、−NH(C1〜6アルキル)、−NH(置換C1〜6アルキル)、−N(C1〜6アルキル)、−N(置換C1〜6アルキル)、C6〜10アリールまたはヘテロシクリルであり;
各Rは独立に、H、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、C6〜10アリール、置換C6〜10アリール、ヘテロシクリルまたは置換ヘテロシクリルであり;
各Rは独立に、H、C1〜6アルキル、置換C1〜6アルキル、−C(O)R、リン酸塩、二リン酸塩または三リン酸塩であり;
各nは独立に、0、1、2または3であり;
各pは独立に、0、1または2である、化合物;
または(g)(a)〜(f)のいずれかの薬学的に許容される塩、(a)〜(f)のいずれかの互変異性体または互変異性体の薬学的に許容される塩。
【0129】
・ ロキソリビン(7−アリル−8−オキソグアノシン)[133]。
【0130】
・ 以下のような参考文献134に開示されている化合物:アシルピペラジン化合物、インドールジオン化合物、テトラヒドライソキノリン(THIQ:tetrahydraisoquinoline)化合物、ベンゾシクロジオン化合物、アミノアザビニル化合物、アミノベンズイミダゾールキノリノン(ABIQ:aminobenzimidazole quinolinone)化合物[135、136]、ヒドラプタルアミド化合物、ベンゾフェノン化合物、イソオキサゾール化合物、ステロール化合物、キナジリノン化合物、ピロール化合物[137]、アントラキノン化合物、キノキサリン化合物、トリアジン化合物、ピラザロピリミジン化合物およびベンゾアゾール化合物[138]。
【0131】
・ ポリオキシドニウムポリマー[139、140]または他のN−酸化ポリエチレン−ピペラジン誘導体。
【0132】
・ 参考文献141に開示されている化合物。
【0133】
・ RC−529などのアミノアルキルグルコサミニドホスファート誘導体[142、143]。
【0134】
・ α−グリコシルセラミド(α−ガラクトシルセラミドなど)、フィトスフィンゴシン含有α−グリコシルセラミド、OCH、KRN7000[(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトピラノシル)−2−(N−ヘキサコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタデカントリオール]、CRONY−101、3’’−O−スルホ−ガラクトシルセラミドなどのCD1dリガンド[144−151]。
【0135】
・ たとえば、参考文献152および153に記載されているようなポリ[ジ(カルボキシラトフェノキシ)ホスファゼン](「PCPP:poly[di(carboxylatophenoxy)phosphazene]」)などのホスファゼン。
【0136】
・ 以下のような小分子免疫賦活剤(SMIP:small molecule immunopotentiator):
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2,N2−ジメチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−エチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−(2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−ペンチル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N2−プロプ−2−エニル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−(2−メチルプロピル)−2−[(フェニルメチル)チオ]−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−4−アミン
1−(2−メチルプロピル)−2−(プロピルチオ)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−4−アミン
2−[[4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−イル](メチル)アミノ]エタノール
2−[[4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−イル](メチル)アミノ]エチルアセタート
4−アミノ−1−(2−メチルプロピル)−1,3−ジヒドロ−2H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2−オン
N2−ブチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−ブチル−N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2−メチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
N2,N2−ジメチル−1−(2−メチルプロピル)−N4,N4−ビス(フェニルメチル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン
1−{4−アミノ−2−[メチル(プロピル)アミノ]−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−1−イル}−2−メチルプロパン−2−オール
1−[4−アミノ−2−(プロピルアミノ)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−1−イル]−2−メチルプロパン−2−オール
N4,N4−ジベンジル−1−(2−メトキシ−2−メチルプロピル)−N2−プロピル−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−2,4−ジアミン。
【0137】
本発明に用いるサイトカイン誘導剤は、トール様受容体(TLR:Toll−Like Receptor)のモジュレーターおよび/またはアゴニストであってもよい。たとえば、このサイトカイン誘導剤は、ヒトTLR1タンパク質、ヒトTLR2タンパク質、ヒトTLR3タンパク質、ヒトTLR4タンパク質、ヒトTLR7タンパク質、ヒトTLR8タンパク質および/またはヒトTLR9タンパク質の1つまたは複数のアゴニストでも構わない。好ましい薬剤は、TLR7(イミダゾキノリンなど)および/またはTLR9(CpGオリゴヌクレオチドなど)のアゴニストである。これらの薬剤は、先天性免疫経路を活性化するうえで有用である。
【0138】
サイトカイン誘導剤については、組成物の製造における様々な段階で組成物に加えることができる。たとえば、サイトカイン誘導剤は、抗原組成物中に存在してもよく、その後、この混合物を水中油型エマルジョンに加えてもよい。代替方法として、サイトカイン誘導剤は、水中油型エマルジョン中に存在してもよく、この場合、この薬剤を乳化前にエマルジョン成分に加えてもよいし、あるいは、乳化後にエマルジョンに加えても構わない。同様に、この薬剤を、エマルジョン液滴中でコアセルベート化してもよい。最終組成物中のサイトカイン誘導剤の位置および分布は、その親水性/親油性特性によって異なり、たとえば、この薬剤は、水相、油相および/または油−水界面に位置することがある。
【0139】
サイトカイン誘導剤を、抗原(たとえば、CRM197)など、別の薬剤にコンジュゲートしてもよい。小分子のコンジュゲーション技法に関する一般的な概説は、参考文献154に記載されている。代替方法として、このアジュバントを、疎水性相互作用またはイオン相互作用などにより、追加の薬剤に非共有結合させることもできる。
【0140】
好ましいサイトカイン誘導剤は、(a)免疫刺激オリゴヌクレオチドおよび(b)3dMPLの2種類である。
【0141】
免疫刺激オリゴヌクレオチドは、ホスホロチオネート修飾体などのヌクレオチド修飾体/アナログを含んでもよく、二本鎖または(RNAを除く)一本鎖であってもよい。参考文献155、156および157は、あり得べきアナログ置換、たとえば、2’−デオキシ−7−デアザグアノシンによるグアノシンの置換を開示している。CpGオリゴヌクレオチドのアジュバント作用については、参考文献158−163にさらに記載されている。GTCGTTまたはTTCGTTモチーフなどのCpG配列は、TLR9を指向してもよい[164]。CpG配列は、CpG−A ODN(oligodeoxynucleotide:オリゴデオキシヌクレオチド)など、Th1免疫反応の誘導に特異的であってもよいし、CpG−B ODNなど、B細胞反応の誘導に一層特異的であってもよい。CpG−A ODNおよびCpG−B ODNは、参考文献165−167で論じられている。好ましくは、CpGは、CpG−A ODNである。好ましくは、CpGオリゴヌクレオチドは、5’末端が受容体に認識されやすいように構築される。任意に、2つのCpGオリゴヌクレオチド配列を3’末端で結合して「イムノマー(immunomer)」を形成してもよい。たとえば、参考文献164および168−170を参照されたい。有用なCpGアジュバントは、CpG7909であり、プロミューン(ProMune)(商標)(コリーファーマシューティカルグループインク(Coley Pharmaceutical Group,Inc.))とも呼ばれている。
【0142】
CpG配列の使用に代わる方法として、またはそれに加えて、TpG配列を用いてもよい[171]。これらのオリゴヌクレオチドは、非メチル化CpGモチーフを含まなくても構わない。
【0143】
免疫刺激オリゴヌクレオチドは、ピリミジンリッチであってもよい。たとえば、免疫刺激オリゴヌクレオチドは、2つ以上の連続したチミジンヌクレオチド(参考文献171に開示されているようなTTTTなど)を含んでもよく、および/またはチミジンが>25%(たとえば、>35%、>40%、>50%、>60%、>80%など)のヌクレオチド組成物を含んでもよい。たとえば、免疫刺激オリゴヌクレオチドは、2つ以上の連続したシトシンヌクレオチド(たとえば、参考文献171に開示されているようなCCCCなど)を含んでもよく、および/またはシトシンが>25%(たとえば、>35%、>40%、>50%、>60%、>80%など)のヌクレオチド組成物を含んでもよい。これらのオリゴヌクレオチドは、非メチル化CpGモチーフを含まなくても構わない。
【0144】
免疫刺激オリゴヌクレオチドは一般に、少なくとも20ヌクレオチドを含むものである。免疫刺激オリゴヌクレオチドは、100個未満のヌクレオチドを含んでもよい。
【0145】
3dMPL(3デ−O−アシル化モノホスホリル脂質Aまたは3−O−デサシル−4’−モノホスホリル脂質Aとも呼ばれる)は、モノホスホリル脂質Aの還元末端グルコサミンの3位が脱アシル化されているアジュバントである。3dMPLは、サルモネラミネソタのヘプトースを含まない変異体から調製されており、化学的には脂質Aと類似しているが、酸不安定ホスホリル基および塩基不安定アシル基を欠いている。3dMPLは、単球/マクロファージ系統の細胞を活性化し、IL−1、IL−12、TNF−αおよびGM−CSFなど、複数のサイトカインの放出を刺激する作用がある(参考文献172も参照のこと)。3dMPLの調製に関しては、参考文献173に最初に記載された。
【0146】
3dMPLは、関連分子の混合物の形をとるものであり、アシル化により変化しても構わない(たとえば、長さが異なってもよい3、4、5または6つのアシル鎖を持つ)。2つのグルコサミン(2−デオキシ−2−アミノ−グルコースとも呼ばれる)単糖が、2位の炭素(すなわち、2位および2’位)でN−アシル化され、さらに、3’位でO−アシル化されている。炭素2に結合する基は、式−NH−CO−CH−CR1’を持つ。炭素2’に結合する基は、式−NH−CO−CH−CR2’を持つ。炭素3’に結合する基は、式−O−CO−CH−CR3’を持つ。代表的な構造は、以下である:
【0147】
【化8】

基R、基Rおよび基Rは各々独立に、−(CH−CHである。nの値は、好ましくは8〜16、一層好ましくは9〜12、最も好ましくは10である。
【0148】
基R1’、基R2’および基R3’は各々独立に:(a)−H;(b)−OH;または(c)−O−CO−Rであってもよく、式中、Rは、−Hあるいは−(CH−CHのいずれかであり、式中、mの値は、好ましくは8〜16、一層好ましくは10、12または14である。mは、2位では、好ましくは14である。mは、2’位では、好ましくは10である。mは、3’位では、好ましくは12である。したがって、基R1’、基R2’および基R3’は、好ましくはドデカン酸、テトラデカン酸またはヘキサデカン酸由来の−O−アシル基である。
【0149】
1’、R2’およびR3’のすべてが−Hである場合、3dMPLのアシル鎖は、3つだけになる(2位、2’位および3’位に各々1つ)。R1’、R2’およびR3’のうち2つだけが−Hである場合、3dMPLのアシル鎖は、4つであってもよい。R1’、R2’およびR3’のうち1つだけが−Hである場合、3dMPLのアシル鎖は、5つであってもよい。R1’、R2’およびR3’のいずれもが−Hでない場合、3dMPLのアシル鎖は、6つであってもよい。本発明に従って用いられる3dMPLアジュバントは、3〜6つのアシル鎖を持つこれらの形態の混合物であってもよいが、混合物は、6つのアシル鎖を持つ3dMPLを含み、特にヘキサアシル鎖形が3dMPL全体の少なくとも10重量%、たとえば、≧20%、≧30%、≧40%、≧50%あるいはそれ以上を占めるようにすると好ましい。6つのアシル鎖を持つ3dMPLは、最もアジュバント活性のある形態であることが明らかになっている。
【0150】
したがって、本発明の組成物に加える3dMPLの最も好ましい形態は、以下である:
【0151】
【化9】

3dMPLを混合物形態で用いる場合、本発明の組成物中の3dMPLの量または濃度に関しては、混合物中の3dMPL種を合わせたものをいう。
【0152】
水性状態では、3dMPLは、直径が<150nmまたは>500nmなど、大きさの異なるミセル凝集体またはミセル粒子を形成してもよい。これらのいずれかまたは両方を、本発明と一緒に用いてもよいが、通常のアッセイにより、よりよい粒子を選択してもよい。本発明の使用では、活性に優れているため、比較的小さい粒子(たとえば、3dMPLの透明な水性懸濁液を与えるのに十分に小さい)が好ましい[174]。好ましい粒子は、平均直径が220nm未満、一層好ましくは200nm未満または150nm未満または120nm未満であり、平均直径が100nmでも構わない。しかしながら、ほとんどの場合、平均直径は、50nm以上になる。これらの粒子は、十分に小さいため、濾過滅菌に好適である。粒子直径については、粒子の平均直径を明らかにする動的光散乱の一般的な手法で判定することができる。粒子の直径がχnmとされる場合、通常、この平均値の周りに粒子分布があるが、粒子数で少なくとも50%(≧60%、≧70%、≧80%、≧90%あるいはそれ以上など)は、直径がχ±25%の範囲内になるであろう。
【0153】
3dMPLを水中油型エマルジョンと併用すると都合がよいことがある。3dMPLは、実質的にすべてエマルジョンの水相に存在する場合がある。
【0154】
3dMPLを単独で用いてもよいし、さらに1種または複数種の別の化合物と併用してもよい。たとえば、3dMPLは、QS21サポニン[175]との併用(水中油型エマルジョンに添加[176])、免疫刺激オリゴヌクレオチドとの併用、QS21および免疫刺激オリゴヌクレオチドの両方との併用、リン酸アルミニウム[177]との併用、水酸化アルミニウム[178]との併用あるいはリン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムの両方との併用が知られている。
【0155】
脂肪性アジュバント
本発明と一緒に用いてもよい脂肪性アジュバントは、上記の水中油型エマルジョンに加えて、たとえば、以下も含むものである:
・ 以下の式I、IIもしくはIIIの化合物またはその塩であって:
【0156】
【化10】

たとえば、以下のような’ER803058’、’ER803732’、’ER804053’、ER804058’、’ER804059’、’ER804442’、’ER804680’、’ER804764’、ER803022または’ER804057’など、参考文献179に明らかにされているような化合物またはその塩:
【0157】
【化11】

・ OM−174などの大腸菌由来の脂質Aの誘導体(参考文献180および181に記載)。
【0158】
・ アミノプロピル−ジメチル−ミリストレイルオキシ−プロパンアミニウムブロミド−ジフィタノイルホスファチジル−エタノールアミン(「バクスフェクチン(Vaxfectin)(商標)」)またはアミノプロピル−ジメチル−ビス−ドデシルオキシ−プロパンアミニウムブロミド−ジオレオイルホスファチジル−エタノールアミン(「GAP−DLRIE:DOPE」)など、陽イオン性脂質および(ほとんどの場合中性の)共脂質の製剤。(±)−N−(3−アミノプロピル)−N,N−ジメチル−2,3−ビス(syn−9−テトラデセネイルオキシ)−1−プロパンアミニウム塩を含む製剤は、好ましいものである[182]。
【0159】
・ 3−O−脱アシル化モノホスホリル脂質A(上記を参照のこと)。
【0160】
・ TLR4アンタゴニストE5564など、リン酸含有非環式骨格に結合した脂質を含む化合物[183、184]:
【0161】
【化12】

アルミニウム塩アジュバント
水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムと呼ばれるアジュバントを用いてもよい。こうした名称は、便宜上用いられているが、慣習的なものにすぎず、どちらの名称も、含まれている実際の化学物質を正確に説明するものではない(たとえば、参考文献104の第9章を参照のこと)。本発明では、アジュバントとして一般に用いられているのであれば、どのような「水酸化(hydroxide)」アジュバントあるいは「リン酸(phosphate)」アジュバントも使用することができる。
【0162】
「水酸化アルミニウム」と呼ばれるアジュバントは、ほとんどの場合、少なくとも一部が結晶のオキシ水酸化アルミニウム塩であるのが一般的である。オキシ水酸化アルミニウムに関しては、式AlO(OH)で表すことができ、赤外(IR:infrared)分光法、特に1070cm−1での吸収バンドの存在および3090〜3100cm−1での強いショルダーにより、水酸化アルミニウムAl(OH)など、他のアルミニウム化合物との識別が可能である[参考文献104の第9章]。水酸化アルミニウムアジュバントの結晶化度の程度は、回折バンドの半価幅(WHH:width at half height)に反映され、結晶性が不十分な粒子では、結晶子サイズがより小さいため、線の広幅化が大きくなる。WHHの増大にともない表面積が拡大し、アジュバントのWHH値が大きくなれば、抗原吸着能が高まると見られている。水酸化アルミニウムアジュバントの場合、(たとえば、透過型電子顕微鏡写真で確認されるような)繊維形態が通常である。水酸化アルミニウムアジュバントのpI(isoelectric point)は一般に、約11であり、すなわち、アジュバント自体は、生理的pHで正の表面電荷を帯びている。水酸化アルミニウムアジュバントの吸着能は、pH7.4でAl+++1mg当たり1.8〜2.6mgタンパク質であることが報告されている。
【0163】
「リン酸アルミニウム」と呼ばれるアジュバントは一般に、ヒドロキシリン酸アルミニウムであり、さらに、少量の硫酸塩(すなわち、アルミニウムヒドロキシホスファートスルファート)を含むものである。リン酸アルミニウムアジュバントについては、沈殿によって得られ、沈殿過程での反応条件および濃度が、塩におけるヒドロキシルへのリン酸の置換の度合いに影響を与える。ヒドロキシホスファートは通常、PO/Alのモル比が0.3〜1.2である。ヒドロキシル基の存在により、ヒドロキシホスファートを厳密なAlPOと識別することができる。たとえば、3164cm−1でのIRスペクトルバンド(200℃まで加熱した場合など)から、ヒドロキシル構造の存在が示される[参考文献104の第9章]
リン酸アルミニウムアジュバントのPO/Al3+モル比は通常、0.3〜1.2、好ましくは0.8〜1.2、一層好ましくは0.95±0.1であろう。リン酸アルミニウムは通常、無定形で、特にヒドロキシリン酸塩ではこれが顕著になる。典型的なアジュバントは、PO/Alモル比が0.84〜0.92の無定形ヒドロキシリン酸アルミニウムであり、1ml当たり0.6mgのAl3+が含まれる。リン酸アルミニウムは通常、粒状(たとえば、透過型電子顕微鏡写真で確認されるような板状形態)である。粒子の標準的な直径は、抗原吸着後であれば0.5〜20μm(約5〜10μmなど)の範囲である。リン酸アルミニウムアジュバントの吸着能は、pH7.4でAl+++1mg当たり0.7〜1.5mgタンパク質であることが報告されている。
【0164】
リン酸アルミニウムの電荷ゼロ点(PZC:point of zero charge)は、ヒドロキシルへのリン酸の置換の度合いと逆の関係にあり、この置換の度合いは、塩を沈殿により調製する際に用いる反応条件および反応物の濃度によって異なることがある。また、PZCについても、溶液中の遊離リン酸イオンの濃度を変える(リン酸の増加=PZCの酸性化)、あるいは、ヒスチジン緩衝液などの緩衝液を加える(PZCの塩基化)と変化する。本発明に従って用いられるリン酸塩アルミニウムは通常、PZCが4.0〜7.0、一層好ましくは5.0〜6.5、たとえば、約5.7である。
【0165】
本発明の組成物の調製に用いるアルミニウム塩の懸濁液は、緩衝液(リン酸またはヒスチジンまたはトリス緩衝液など)を含むものであるが、緩衝液は、必ずしも必要ではない。懸濁液は、好ましくは無菌、かつ、パイロジェンフリーである。懸濁液は、水性遊離リン酸イオンを含んでもよく、たとえば、濃度1.0〜20mM、好ましくは5〜15mM、一層好ましくは約10mMで含む。さらに、懸濁液は、塩化ナトリウムを含んでも構わない。
【0166】
本発明は、水酸化アルミニウムとリン酸アルミニウムとの混合物を用いてもよい[65]。この場合、リン酸アルミニウムが水酸化物(hydroxide)よりも多く、重量比で少なくとも2:1など、たとえば、≧5:1、≧6:1、≧7:1、≧8:1、≧9:1等で存在しても構わない。
【0167】
患者に投与する組成物のAl+++の濃度は、好ましくは10mg/ml未満、たとえば、≦5mg/ml、≦4mg/ml、≦3mg/ml、≦2mg/ml、≦1mg/mlなどである。好ましい範囲は、0.3〜1mg/mlである。最大0.85mgで投与することが好ましい。
【0168】
アジュバント成分は、1種または複数種のアルミニウム塩アジュバントを含むばかりでなく、さらに1種または複数種のアジュバントまたは免疫刺激剤を含んでもよい。こうした追加成分には、3−O−脱アシル化モノホスホリル脂質Aアジュバント(「3d−MPL」)および/または水中油型エマルジョンがあるが、これに限定されるものではない。3d−MPLは、3デ−O−アシル化モノホスホリル脂質Aまたは3−O−デサシル−4’−モノホスホリル脂質Aとも呼ばれている。この名称は、モノホスホリル脂質Aの還元末端グルコサミンの3位が脱アシル化されていること示す。3d−MPLは、サルモネラミネソタのヘプトースを含まない変異体から調製されており、化学的には脂質Aと類似しているが、酸不安定ホスホリル基および塩基不安定アシル基を欠いている。3dMPLは、単球/マクロファージ系統の細胞を活性化し、IL−1、IL−12、TNF−αおよびGM−CSFなど、複数のサイトカインの放出を刺激する作用がある。3d−MPLの調製に関しては、参考文献173に最初に記載されたが、その産物は、コリキサコーポレーション(Corixa Corporation)がMPL(商標)という商品名で製造および販売している。詳細については、参考文献116−119で確認できる。
【0169】
医薬組成物
本発明の組成物は、薬学的に許容されるものである。本発明の組成物は、ほとんどの場合、抗原以外の成分を含み、たとえば、1種または複数種の薬学的キャリア(単数または複数)および/または賦形剤(単数または複数)を含むものが一般的である。こうした成分の詳しい考察は、参考文献185に示されている。
【0170】
組成物は通常、水性形態である。
【0171】
組成物は、チオメルサールまたは2−フェノキシエタノールなどの保存剤を含んでもよい。しかしながら、ワクチンは、水銀物質を実質的に含まない(すなわち、5μg/ml未満)、たとえば、チオメルサールを含まないことが好ましい[11、186]。水銀をまったく含まないワクチンは、一層好ましいものである。保存剤を含まないワクチンは、特に好ましい。
【0172】
浸透圧を調節するため、ナトリウム塩などの生理的塩を含めることが好ましい。塩化ナトリウム(NaCl)は好ましいものであり、1〜20mg/mlで存在してもよい。存在しても構わない他の塩として、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二ナトリウム脱水物、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0173】
組成物は通常、重量オスモル濃度が200mOsm/kg〜400mOsm/kg、好ましくは240〜360mOsm/kgであり、一層好ましくは、290〜310mOsm/kgの範囲内に収まる。重量オスモル濃度については、ワクチン接種による痛みに影響しないことが以前に報告されている[187]が、それでも、重量オスモル濃度をこの範囲に保つことが好ましい。
【0174】
組成物は、1種または複数種の緩衝液を含んでもよい。標準的な緩衝液として、リン酸緩衝、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、コハク酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液またはクエン酸緩衝液が挙げられる。緩衝液については一般に、5〜20mMの範囲で含ませる。緩衝液は、エマルジョンの水相に存在してもよい。
【0175】
組成物のpHは通常、5.0〜8.1、より一般的には6.0〜8.0、たとえば、6.5〜7.5または7.0〜7.8である。したがって、本発明のプロセスは、包装の前にバルクワクチンのpHを調製する工程を含んでもよい。
【0176】
組成物は、好ましくは無菌である。組成物は、好ましくは発熱性物質を含まないものであり、たとえば、1用量当たり<1EU(endotoxin unit、標準測定値)、好ましくは1用量当たり<0.1EUで含む。組成物は、好ましくはグルテンを含まない。
【0177】
ワクチンは、抗生物質(ネオマイシン、カナマイシン、ポリミキシンBなど)などの残留成分を微量で含んでも構わない。
【0178】
組成物は、1回のワクチン接種に見合った材料を含んでもよいし、複数回のワクチン接種に見合った材料(すなわち、「反復投与」組成物)を含んでもよい。反復投与の手配の際に保存剤を含めることは、好ましい。反復投与組成物に保存剤を含めるのに代わる方法として(あるいは、それに加えて)、組成物を、材料の除去用のアダプターを備えた容器に入れてもよい。
【0179】
インフルエンザワクチンについては、約0.5mlの投与量で投与するのが一般的であるが、用量を半分(すなわち、約0.25ml)にして小児に投与してもよく、たとえば、ある患者への投与の1単位用量を0.5mlにするなど、適宜に各1単位用量を選択する。
【0180】
組成物またはキット成分の包装
本発明のプロセスは、ワクチンを容器に、特に医師が使用する分配用の容器に入れる工程を含んでもよい。こうした容器への充填後、容器を冷蔵しない。
【0181】
ワクチン用の好適な容器は、無菌にしておくべきバイアル、鼻スプレーおよびディスポーザブル注射筒を含む。
【0182】
組成物/成分がバイアル内にある場合、バイアルは、好ましくはガラスまたはプラスチック材料性である。組成物をバイアルに入れる前に、好ましくはバイアルを滅菌する。ラテックス感受性患者の問題を回避するため、バイアルは、好ましくはラテックスを含まない栓で密封し、すべての包装材料は、ラテックスを含まないことが好ましい。バイアルは、ワクチンの1回用量を含んでもよいし、2回以上の用量、たとえば、10用量を含んでもよい(「反復投与」バイアル)。好ましいバイアルは、無色のガラス製である。
【0183】
バイアルは、事前に充填されたプレフィルドシリンジを挿入できるように適合されたキャップ(ルアーロックなど)を備えていてもよく、シリンジの内容物については、バイアルに入れてもよく、バイアルの内容物については、再びシリンジに戻してもよい。バイアルからシリンジを取り出した後、針を装着して組成物を患者に投与してもよい。キャップは、好ましくはシールまたはカバーで覆われているため、キャップを使用する前にシールまたはカバーを取り去る必要がある。バイアルは、内容物を無菌的に取り出すことができるキャップを備えていてもよく、特に反復投与バイアルにはこれが当てはまる。
【0184】
組成物/成分をシリンジに充填する場合、シリンジには、針が装着されていてもよい。針が装着されていない場合、別の針をシリンジに付け、組み立てて使用しても構わない。こうした針を覆ってもよい。セーフティー針は好ましいものである。一般的な針は、23ゲージの1インチ針、25ゲージの1インチ針および25ゲージの5/8インチ針である。シリンジは、記録を管理しやすくするロット番号、インフルエンザシーズンおよび内容物の有効期限が印刷されていることがある剥離式ラベルが付いていてもよい。シリンジのプランジャーには、吸引中に誤ってプランジャーを取り外さないように栓があることが好ましい。シリンジは、ラテックスゴムのキャップおよび/またはプランジャーを備えていても構わない。ディスポーザブル注射筒は、ワクチンの1回用量を含むものである。シリンジには通常、針の装着前の先端をシールする先端キャップが付いており、先端キャップは、好ましくはブチルゴム製である。シリンジおよび針が別々に収められている場合、針には、ブチルゴム製の保護物が装着されていることが好ましい。好ましいシリンジには、「Tip−Lok」(商標)という商品名で販売されているものがある。
【0185】
容器については、たとえば、小児への投与を容易にするように用量の半分量を示す目印が付いていてもよい。たとえば、0.5ml用量を含むシリンジに、0.25ml容量を示す目印が付いても構わない。
【0186】
ガラス容器(シリンジまたはバイアルなど)を用いる場合、ソーダ石灰ガラス製よりもホウケイ酸ガラス製の容器を用いる方が好ましい。
【0187】
組成物に関しては、たとえば、投与の際の注意点、ワクチン内の抗原の詳細など、ワクチンの詳細を含む説明書を(同じ箱の中など)付けてもよい。また、注意点として、たとえば、ワクチン接種後のアナフィラキシー反応の場合にすぐに利用できるアドレナリン溶液を保管しておくことなど、警告を含んでも構わない。
【0188】
ワクチンの処置および投与の方法
本発明の組成物は、ヒト患者の投与に好適なものであり、本発明は、患者に免疫反応を引き起こす方法であって、本発明の組成物を患者に投与する工程を含む、方法を提供する。
【0189】
また、本発明は、薬品として用いられる本発明のキットまたは組成物も提供する。
【0190】
本発明の方法および使用により引き起こされる免疫反応は通常、抗体反応、好ましくは防御的抗体反応を含むものである。インフルエンザウイルスワクチン接種後の抗体反応、中和能および保護作用を判定する方法については、当該技術分野において周知である。ヒトを対象とした試験から、ヒトインフルエンザウイルスの血球凝集素に対する抗体価は、保護作用と相関する(血清サンプルの血球凝集抑制抗体価が約30〜40である場合、同種ウイルスによる感染に対する保護作用は約50%である)ことが示されている[188]。抗体反応は一般に、血球凝集抑制、マイクロ中和、一元放射免疫拡散(SRID:single radial immunodiffusion)および/または一元放射溶血反応(SRH:single radial hemolysis)で測定する。これらのアッセイ技法は、当該技術分野において周知である。
【0191】
本発明の組成物については、様々な方法で投与してもよい。最も好ましいワクチンの接種経路は、筋肉内注射(腕または脚など)であるが、これ以外の有効な経路として、皮下注射、鼻腔内[189−191]、経口[192]、皮内[193、194]、経皮(transcutaneous、transdermal)[195]などが挙げられる。
【0192】
本発明に従って調製されるワクチンを用いて小児、成人をともに処置してもよい。インフルエンザワクチンに関しては現在、生後6ヶ月以上の小児および成人を対象として接種することが推奨されている。したがって、患者は、1歳未満、1〜5歳、5〜15歳、15〜55歳または55歳以上であっても構わない。ワクチンを投与するのに好ましい患者は、高齢者(≧50歳、≧60歳、好ましくは≧65歳など)、若年者(≦5歳など)、入院患者、医療従事者、軍関係者、妊婦、慢性疾患者、免疫不全患者、ワクチン投与の7日前に抗ウイルス性化合物(オセルタミビルまたはザナミビル化合物など;以下を参照のこと)を服用したことのある患者、卵アレルギーの人および海外旅行者である。ワクチンは、こうした群に好適であるばかりでなく、より一般的には1つの集団に用いてもよい。汎流行株の場合、すべての年齢群に投与することが好ましい。
【0193】
本発明の好ましい組成物は、有効性に関するCPMP(Committee for Proprietary Medicinal Products)の基準の1、2または3を満たしている。成人(18〜60歳)に対するそれらの基準は:(1)セロプロテクション率≧70%;(2)セロコンバージョン率≧40%;および/または(3)GMT(geometric mean titers)上昇率≧2.5倍である。高齢者(>60歳)に対するそれらの基準は:(1)セロプロテクション率≧60%;(2)セロコンバージョン率≧30%;および/または(3)GMT上昇率≧2倍である。こうした基準は、少なくとも50例のオープン試験に基づくものである。
【0194】
処置を行うには、単回投与スケジュールでも、反復投与スケジュールでもよい。初回ワクチン接種スケジュールおよび/または追加ワクチン接種スケジュールにおいて、反復投与を用いても構わない。反復投与スケジュールでは、たとえば、初回を非経口として追加を粘膜、初回を粘膜として追加を非経口とするなど、同一または異なる経路で様々な用量を投与しても構わない。2用量以上(一般に2用量)を投与すれば、たとえば、以前にインフルエンザワクチンを投与されたことがない人などの免疫学的に感受性の患者、または新しいHAサブタイプ(汎流行の発生の場合)のワクチン接種には、特に有用である。反復投与は一般に、少なくとも1週間(たとえば、約2週間、約3週間、約4週間、約6週間、約8週間、約12週間、約16週間など)の間隔をおいて行う。
【0195】
本発明により製造されるワクチンを、他のワクチンと実質的に同時(同じ医師との相談中または同じ医療関係者もしくはワクチン接種センターへの訪問時などに)に患者に投与してもよい。たとえば、麻疹ワクチン、おたふくかぜワクチン、風疹ワクチン、MMR(measles−mumps−rubella)ワクチン、水痘ワクチン、MMRV(measles−mumps−rubella−varicella)ワクチン、ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン、百日咳ワクチン、DTP(diphtheria−tetanus−pertussis)ワクチン、インフルエンザ菌B型コンジュゲートワクチン、不活化ポリオウイルスワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、髄膜炎菌コンジュゲートワクチン(四価A C W135 Yワクチンなど)、呼吸器合胞体ウイルスワクチン、肺炎球菌コンジュゲートワクチンなどと実質的に同時に患者に投与してもよい。肺炎球菌ワクチンおよび/または髄膜炎菌ワクチンと実質的に同時に投与すると、高齢患者には特に有用である。
【0196】
同様に、本発明のワクチンを、抗ウイルス性化合物、特にインフルエンザウイルスに対して効果がある抗ウイルス性化合物(オセルタミビルおよび/またはザナミビルなど)と実質的に同時(同じ医師との相談中または同じ医療関係者への訪問時など)に患者に投与してもよい。こうした抗ウイルス薬には、(3R,4R,5S)−4−アセチルアミノ−5−アミノ−3(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸または5−(アセチルアミノ)−4−[(アミノイミノメチル)−アミノ]−2,6−アンヒドロ−3,4,5−トリデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクトノン−エノン酸(そのエステル(エチルエステルなど)およびその塩(リン酸塩など)を含む)などのノイラミニダーゼ阻害剤がある。好ましい抗ウイルス薬は、リン酸オセルタミビル(TAMIFLU(商標))とも呼ばれる(3R,4R,5S)−4−アセチルアミノ−5−アミノ−3(1−エチルプロポキシ)−1−シクロヘキセン−1−カルボン酸,エチルエステル,ホスファート(1:1)である。
【0197】
一般的な事項
「含む(comprising)」という語は、「含む(including)」および「含む(consisting)」を包含し、たとえば、Xを「含む(comprising)」組成物は、Xのみからなってもよいし、他のもの、たとえば、X+Yを含んでもよい。
【0198】
「実質的に」という語は、「完全に(completely)」を排除するものではなく、たとえば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない可能性がある。「実質的に」という語については、必要に応じて本発明の定義から削除してもよい。
【0199】
数値χに対する「約(about)」は、たとえば、χ±10%を意味する。
【0200】
特に記載がない限り、2種以上の成分を混合する工程を含むプロセスでは、混合に任意の特定の順序を必要としない。したがって、成分を任意の順序で混合しても構わない。成分が3種類ある場合、2種類の成分を互いに混合して、次いで、この混合したものを第3の成分と混合するなどしてもよい。
【0201】
細胞培養の際に動物(特にウシ)の材料を用いる場合、その材料を、感染性海綿状脳症(TSE:transmissible spongiform encaphalopathy)、特にウシ海綿状脳症(BSE:bovine spongiform encephalopathy)を含まない供給源から採取すべきである。全体として、動物由来の材料の完全な非存在下で細胞を培養することが好ましい。
【0202】
組成物の一部として化合物を体内に投与する場合、その化合物の代わりに好適なプロドラッグを用いてもよい。
【0203】
遺伝子再集合または逆遺伝学の手順のために細胞基質を用いる場合、細胞基質は、たとえば、ヨーロッパ薬局方の一般条項5.2.3にあるような、ヒトワクチンの製造で使用が認められている基質であることが好ましい。
【0204】
ポリペプチド配列間の同一性は、MPSRCHプログラム(オックスフォードモレキュラー(Oxford Molecular))において、パラメータであるギャップオープンペナルティを12およびギャップエクステンションペナルティを1としてアファインギャップ検索を用いて実行されるように、スミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)ホモロジー検索アルゴリズムにより、測定することが好ましい。
【0205】
本発明を実施するモード
種々のインフルエンザウイルス株;A/Panama(H3N2);A/NEW Caledonia(H1N1);A/Wyoming(H3N2);A/Wellington(H3N2);B/Shangdong;B/Guangdong;およびB/Jiangsuを、MDCK細胞基質で増殖させた[30]。株を個々に増殖させ、各株から一価抗原バルクを調製した。株を選択し、組み合わせて臨床用の三価の最終ロットを得た。最終産物は、トウィーン80(ポリソルベート80)洗浄剤(HA1g当たり<25μg)を含んでいたが、水銀を含んでいなかった。ウイルス破壊による残留CTABも存在した。
【0206】
一価バルクおよび最終の三価ロットを、冷蔵状態(2〜8℃)または非冷蔵状態(23〜27℃)下で保管し、SRIDによりHA含量を様々な時点で測定した。HA濃度は一価バルクでそれぞれ異なっていたが、最終の三価材料における所定のHA開始レベル(ゼロ時)は、1用量につき1株当たり15μgであった。これは1株当たり30μg/mlである。
【0207】
図1〜図7は、異なる温度で保管した際に、経時的に測定した様々な一価または三価材料のHAレベルの例を示す。
【0208】
図1〜図7のワクチンは、2〜8℃では12ヶ月、37℃では4週間、優れた安定性を示した。さらに、データを示していないロットを含めすべてのロットにおいて、各測定時点で安定性要件を満たし、安定性規格に適合しないロットはなかった。したがって、すべての一価バルクを、2〜8℃で12ヶ月または37℃で4週間、保管することができており、これは、最終の三価産物でも同様である。このデータからは、2〜8℃で保管する場合、有効期間が39ヶ月であることが示される。
【0209】
以下の表は、23〜27℃で最長15ヶ月間保管した様々な一価ワクチンロットのHAレベルを示す。いずれの場合も、開始濃度の80%を下回るHAレベルは認められなかった:
【0210】
【化13】

経時的なHAの測定値に基づき、HAレベルを外挿することが可能である。そうすれば、予想有効期間、すなわち、HA濃度が24μg/mlまたは開始濃度の80%を下回らない期間)を得ることができる。以下の表に、2〜8℃で保管され数ヶ月にわたり測定された様々な臨床三価材料の予想有効期間を示す。ウイルス株は、(N)A/NEW Caledonia;(P)A/Panama;(G)B/Guangdongであった:
【0211】
【化14】

すべての臨床材料に対して確認される予想有効期間は、少なくとも15ヶ月である。15ヶ月という有効期間は、前臨床毒性試験用に調製された材料に対しても推定された。
【0212】
HAデータを参考文献2のデータと比較して、HA分解率および推定有効期間を得た。しかしながら、インフルエンザシーズンの違いから、すべての事例で、株間の直接比較ができたわけではなかった。
【0213】
図8は、参考文献2の試験と本発明との統計学的比較の1例を示す。
【0214】
23〜27℃で保管する場合、参考文献2のデータにおいては、HA分解が年間11.37μg/ml〜33.71μg/mlで起きていることが示される。これに対して、被検ワクチンにおいては、HA分解が年間1.71μg/ml〜4.52μg/mlという非常に低率で起きていることが示された。特にA/NEW Caledonia株の場合、観察対象の分解率が、参考文献2では年間11.37μg/mlであったのに対し、被検ワクチンでは年間2.67μg/mlであった。4℃で保管されたワクチンにおいても、分解率はやはり被検ワクチンの方が低かった。
【0215】
【化15】

データからは、三価混合物は、23〜27℃でも最長15ヶ月の有効期間を有し得ることが示されたが、これは、参考文献2の場合よりもかなり長いものである。4℃での有効期間は、最長42〜45ヶ月であり得た:
三価ワクチンを40℃で保管した場合でも、B/江蘇成分の有効期間は、約6ヶ月であることが推定された。より低い保存温度(25℃)での有効期間は、少なくとも9ヶ月まで拡大し、18ヶ月以上になるかもしれない。
【0216】
参考文献2と比較して安定性が向上した理由としては:(i)本ワクチンを卵からではなく哺乳動物細胞培養から調製したこと、および参考文献2で確認された分解の原因が、卵由来の残留成分(たとえば、プロテアーゼおよび/またはグリコシダーゼなどの酵素)および/またはグリコシル化の違いであった可能性があること;または(ii)本ワクチンではHAを安定させる可能性があるトウィーン80が高レベルで存在することが考えられる。
【0217】
本発明について例示のみを目的として記載してきたが、本発明の範囲および主旨から逸脱せずに修正を施すことが可能であることが理解されるであろう。
【0218】
参考文献(これらの内容は、参考として本明細書に援用される)
【0219】
【化16】

【0220】
【化17】

【0221】
【化18】

【0222】
【化19】

【0223】
【化20】

【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】以下の表の図1のサンプルに関して時間にわたって測定したHAレベル(μg/mL)を示す。
【図2】以下の表の図2のサンプルに関して時間にわたって測定したHAレベル(μg/mL)を示す。
【図3】以下の表の図3のサンプルに関して時間にわたって測定したHAレベル(μg/mL)を示す。
【図4】以下の表の図4のサンプルに関して時間にわたって測定したHAレベル(μg/mL)を示す。
【図5】以下の表の図5のサンプルに関して時間にわたって測定したHAレベル(μg/mL)を示す。
【図6】以下の表の図6のサンプルに関して時間にわたって測定したHAレベル(μg/mL)を示す。
【図7】以下の表の図7のサンプルに関して時間にわたって測定したHAレベル(μg/mL)を示す。
【化21】

【図8】80週間にわたり23〜27℃でのB/江蘇(Jiangsu)のHA含量(μg/ml)を外挿する。データに関しては、異なるモデルまたは同種のモデルにより統計学的に評価した。図は、95%信頼限界での回帰直線を示す。参考文献2のデータのインフルエンザBウイルスデータとの比較から、本材料の有効期間の方が長いことが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インフルエンザワクチンを保管するためのプロセスであって、該ワクチンは、10℃超で10週間を超えて保管される工程を含む、プロセス。
【請求項2】
前記ワクチンは、バルクワクチンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記バルクからワクチンの1単位用量を取り出し、該1単位用量を容器内に配置する工程をさらに含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ワクチンは、包装されたワクチンである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
複数の包装された水性インフルエンザワクチンを分配するためのプロセスであって、該ワクチンは、非冷蔵状態で第1の場所から第2の場所に輸送される工程を含む、プロセス。
【請求項6】
バルク水性インフルエンザワクチンを分配するためのプロセスであって、該ワクチンは、非冷蔵状態で第1の場所から第2の場所に移動される工程を含む、プロセス。
【請求項7】
前記バルクからワクチンの1単位用量を取り出し、該1単位用量を容器内に配置する工程をさらに含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記バルクは、一価バルクである、請求項6または請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記バルクは、多価バルクである、請求項6または請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
前記第1および第2の場所は、1キロメートル超離れている、請求項1〜9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
複数の包装された水性インフルエンザワクチンを分配するためのプロセスであって、該ワクチンは、第1の場所から第2の場所に輸送され、かつ、該第2の場所に非冷蔵状態で少なくとも100時間保管される工程を含む、プロセス。
【請求項12】
包装される水性ワクチンをワクチンバルクから調製するためのプロセスであって、ワクチンの1単位用量が、該バルクから取り出され、非冷蔵状態で容器に入れられる工程を含む、プロセス。
【請求項13】
濃縮されたインフルエンザ抗原バルクを希釈するためのプロセスであって、該濃縮バルクは、水性媒体により非冷蔵状態で希釈される工程を含む、プロセス。
【請求項14】
前記バルクは、一価バルクである、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記希釈された抗原と1種または複数種の別のインフルエンザウイルス株由来の抗原とを組み合わせて、多価組成物を得る工程をさらに含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記バルクは、多価バルクである、請求項13に記載のプロセス。
【請求項17】
多価インフルエンザワクチンを調製するためのプロセスであって、第1のインフルエンザウイルス株由来の抗原を含む水性調製物が、非冷蔵状態で第2のインフルエンザウイルス株由来の抗原を含む水性調製物と混合される工程を含む、プロセス。
【請求項18】
3種類の株に由来する抗原が混合され、三価インフルエンザワクチンを得る、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
インフルエンザウイルスを含む組成物を不活化するためのプロセスであって、該組成物は、非冷蔵状態で不活化剤と混合される工程を含む、プロセス。
【請求項20】
アジュバントインフルエンザウイルスワクチンを調製するためのプロセスであって、インフルエンザウイルス抗原が、非冷蔵状態でアジュバントと組み合わされる工程を含む、プロセス。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載のプロセスにより取得可能なまたは得られた、ワクチン。
【請求項22】
(a)少なくとも1種のインフルエンザウイルス株由来の赤血球凝集素を含む水性ワクチンおよび(b)該ワクチンが(i)非冷蔵状態で保管されてもよいか、および/または(ii)室温で保管されてもよいことを示す資料を含む、キット。
【請求項23】
非冷蔵状態で少なくとも100時間保管されている水性インフルエンザウイルスワクチンであって、ただし、該ワクチンは(i)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株およびA/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株およびB/Yamanashi/166/98株を含む三価ワクチンでも;(ii)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株およびA/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株およびB/Guangdong/120/00株を含む三価ワクチンでも;(iii)A/Panama/2007/99 RESVIR−17 reass.株およびA/NEW Caledonia/20/99 IVR−116 reass.株およびB/Shangdong/7/97株を含む三価ワクチンでもない、ワクチン。
【請求項24】
非冷蔵状態で少なくとも100時間保管されている水性インフルエンザウイルスワクチンであって、細胞培養で増殖されたインフルエンザウイルスから調製される、ワクチン。
【請求項25】
非冷蔵状態で少なくとも100時間保管されている水性インフルエンザウイルスワクチンであって、ニワトリのDNA、オボアルブミンおよびオボムコイドを含まない、ワクチン。
【請求項26】
非冷蔵状態で少なくとも100時間保管されている水性インフルエンザウイルスワクチンであって、水銀を含まない、ワクチン。
【請求項27】
非冷蔵状態で少なくとも100時間保管されている水性インフルエンザウイルスワクチンであって、スプリットビリオンワクチン、全ビリオンワクチン、生ウイルスワクチンまたはビロゾームワクチンである、ワクチン。
【請求項28】
少なくとも1種のインフルエンザウイルス株由来の赤血球凝集素を含む水性ワクチンであって、該ワクチンが25℃で保管される場合、該赤血球凝集素の分解率が1株当たり年間33%未満である、ワクチン。
【請求項29】
開業医が患者に投与する薬品の製造におけるインフルエンザウイルス抗原の使用であって、該薬品は、該薬品の製造から該薬品が開業医により受領されるまでの間冷蔵されない、使用。
【請求項30】
開業医が患者に投与する薬品の製造におけるインフルエンザウイルス抗原の使用であって、該薬品は、該開業医により受領されてから該患者に投与されるまでの間冷蔵されない、使用。
【請求項31】
インフルエンザウイルスワクチンを患者に投与するためのプロセスであって、該投与前の24時間において、該ワクチンは、非冷蔵状態で少なくとも12時間保管されている、プロセス。
【請求項32】
インフルエンザウイルスワクチンを患者に投与するためのプロセスであって、該ワクチンは、非冷蔵状態で少なくとも12時間保管されてから該患者に投与される、プロセス。
【請求項33】
前記ワクチンは、細胞培養で増殖されたウイルスから調製される、請求項1〜32のいずれかに記載のプロセス、ワクチンまたは使用。
【請求項34】
前記細胞培養は、MDCK;CHO;293T;BHK;Vero;MRC−5;PER.C6;またはWI−38から選択される細胞株によるものである、請求項33に記載のプロセス。
【請求項35】
前記ワクチンは、洗浄剤を含む、請求項1〜34のいずれかに記載のプロセス、ワクチンまたは使用。
【請求項36】
前記ワクチンは、不活化ウイルスから調製される、請求項1〜35のいずれかに記載のプロセス、ワクチンまたは使用。
【請求項37】
前記ワクチンは、スプリットウイルスから調製される、請求項36に記載のプロセス、ワクチンまたは使用。
【請求項38】
前記ワクチンは、精製表面糖タンパク質ワクチンである、請求項36に記載のプロセス、ワクチンまたは使用。
【請求項39】
前記ワクチンは、HAサブタイプH1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16の1種または複数種から防御する、請求項1〜38のいずれかに記載のプロセス、ワクチンまたは使用。
【請求項40】
前記ワクチンは、アジュバントを含む、請求項1〜39のいずれかに記載のプロセス、ワクチンまたは使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−534303(P2009−534303A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500961(P2009−500961)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001149
【国際公開番号】WO2007/110776
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(308007284)ノバルティス ヴァクシンズ アンド ダイアグノスティクス ゲーエムベーハー アンド カンパニー カーゲー (4)
【Fターム(参考)】