説明

冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線の製造方法

【課題】比較的少なく且つ簡素な工程によって、表面にシュウ酸塩皮膜を強固に密着させたステンレス鋼線(線材)を確実に提供できるステンレス鋼線の製造法を提供する。
【解決手段】断面ほぼ円形のステンレス鋼からなる線材w1の表層を皮剥きする皮剥き工程S3と、皮剥きされたステンレス鋼の線材w2の表面にシュウ酸塩被膜を被覆する被膜工程S4と、表面にシュウ酸塩被膜が被覆されたステンレス鋼の線材w3を伸線ダイスdに通して縮径する伸線工程S5と、を含む、冷間鍛造性に優れたステンレス鋼の線材w4の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線の製造方法に関する。尚、本発明の鋼線(線材)には、ステンレス鋼からなり、直径が4mm以上の棒材も含まれる。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼からなる線材(棒材を含む)は、これを所定長さに切断したブランクを冷間鍛造する際の成形性を良好にするため、予め、その表面にシュウ酸塩皮膜が被覆されている。しかし、係るステンレス鋼からなる線材の表面には、Cr系酸化物などの不動態膜が形成されているので、シュウ酸塩とステンレス鋼とが反応し難く、仮に反応してステンレス鋼の表面に被覆されても、係るシュウ酸塩皮膜は、剥離し易い。このため、冷間鍛造時に、シュウ酸塩皮膜が剥離してブランクと金型との間で、焼き付きや製品のカジリ(部分欠損)を生じ易くなる。
上記シュウ酸塩皮膜の剥離を防ぐため、ステンレス鋼を塩基性溶液に浸漬して、表面の不動態膜を除去し且つ断面ほぼ凹凸形の孔食を形成すると共に、係る孔食内を含む表面にシュウ酸塩などの潤滑性皮膜を形成した有皮膜ステンレス鋼およびその製造法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−29854号公報 (第1〜10頁、図1)
【0004】
前記特許文献1の有皮膜ステンレス鋼によれば、塩基性溶液に浸漬することで、表面の不動態膜が除去できると共に、断面ほぼ凹凸形の孔食内に前記潤滑性皮膜の一部が進入している。このため、係る皮膜がアンカー効果を伴ってステンレス鋼の表層に密着するので、潤滑性皮膜が剥離し難くなる、という効果が得られる。
しかし、前記断面ほぼ凹凸形(平均深さが0.1〜20μm)の孔食を、ステンレス鋼の表面において、ほぼ均一に形成するには、塩基性溶液中に15分〜1時間ほど浸漬する工程(特許文献1の段落番号(0038)参照)が必要となる。このため、所定の直径を得るために上記工程の管理が煩雑となり、且つステンレス鋼の溶損量が多くなるため、特に細径のステンレス鋼線には、不向きであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術において説明した問題点を解決し、比較的少なく且つ簡素な工程によって、表面にシュウ酸塩皮膜を強固に密着させたステンレス鋼線を確実に提供できる冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線の製造法を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するするため、ステンレス鋼の表面に自動的に被着される不動態膜を最小限の厚みとし、その表面上にシュウ酸塩皮膜を被覆する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明による第1の冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線の製造方法(請求項1)は、断面ほぼ円形のステンレス鋼線の表層を皮剥きする皮剥き工程と、皮剥きされたステンレス鋼線の表面にシュウ酸塩被膜を被覆する被膜工程と、表面にシュウ酸塩被膜が被覆された上記ステンレス鋼線を伸線ダイスに通して縮径する伸線工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、皮剥き工程においてステンレス鋼線の表層に形成されていたCr系酸化物などの不動態膜が除去され、且つ次の皮膜工程まで間に生成される極薄の不動態膜のみが表層を覆うため、シュウ酸塩被膜と母材のステンレス鋼との反応性が向上する。このため、ほぼ均一な厚みのシュウ酸塩被膜が表面全体に被覆されたステンレス鋼線が得られる。従って、冷間鍛造の際に、焼き付きや製品のカジリなどを低減し、精度の良い冷間鍛造を施すことが可能となる。
【0008】
尚、前記皮剥き工程の前には、前記ステンレス鋼線を所要の線径に仕上げ圧延する圧延工程と、係るステンレス鋼線の加工歪みを除去するための歪み取り焼鈍を行う熱処理工程と、が予め行われている。
また、前記皮剥き工程は、前記ステンレス鋼線の表層を切削加工によって、約0.2〜0.5mmの厚みで切除するものである。
更に、前記皮剥き工程後におけるステンレス鋼線の表面には、その表面形状に倣った極薄い厚み(数nm)のCr系酸化物などの不動態膜が生成されている。
【0009】
また、前記伸線工程は、伸線前のステンレス鋼線の断面積を、伸線後で約3〜8%の減面率で減縮(縮径)するものである。
更に、本発明の対象となるステンレス鋼には、フェライト系、マルテンサイト系、あるいはオーステナイト系ステンレス鋼が含まれ、これらの線材(鋼線)には、直径が10mm以下(例えば、直径4mm)の線材のほか、直径が20mm超(例えば、直径25mm)の棒材も含まれる。
加えて、前記冷間鍛造には、室温(常温)での鍛造のほか、対象となるステンレス鋼の再結晶温度未満の温度帯、あるいは温間鍛造温度域よりも低い温度に加熱した状態で行う形態も含まれている。
【0010】
一方、本発明による第2の冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線の製造法(請求項2)は、断面ほぼ円形のステンレス鋼線の表層を皮剥きする皮剥き工程と、表層が皮剥きされた上記ステンレス鋼線に塩化第2鉄溶液を接触させて、係るステンレス鋼線の表面を肌荒らしする肌荒らし工程と、上記ステンレス鋼線の肌荒らしされた表面にシュウ酸塩被膜を被覆する被膜工程と、表面にシュウ酸塩被膜が被覆された上記ステンレス鋼線を伸線ダイスに通して縮径する伸線工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0011】
これによれば、皮剥き工程でステンレス鋼線の表層に形成されていたCr系酸化物などの不動態膜が除去され、且つ次の肌荒らし工程で母材のステンレス鋼の表面が塩化第2鉄溶液による腐食作用で微細な凹凸面となる。このため、次の被膜工程までの間に、上記ステンレス鋼線の表面には、上記微細な凹凸面に倣った極薄で断面ほぼ波形状のCr系酸化物などからなる不動態膜が生成される。その結果、次いで表面に被覆されるシュウ酸塩被膜との接触面積が増大するため、ほぼ均一で所要の厚みを有するシュウ酸塩被膜が表面全体に被覆されたステンレス鋼線が得られる。従って、冷間鍛造するに際し、焼き付きやカジリなどをなくすか低減でき、形状および寸法精度の良い冷間鍛造を施すことが可能となる。
尚、前記肌荒らし工程は、ステンレス鋼線を塩化第2鉄溶液中に所要時間にわたって浸漬するか、係る溶液を所要時間スプレーまたはシャワーして行われる。
【0012】
付言すれば、本発明には、ステンレス鋼からなり断面ほぼ波打ち形状の表面を有するステンレス鋼の母材と、係る母材の波打ち形状の表面に被覆され且つ係る表面に倣った断面ほぼ波形状を呈する極薄(数nm)の不動態膜と、係る不動態膜の表面に被覆されたシュウ酸塩被膜と、を含む、冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線も含まれ得る。
これによる場合、当初の不動態膜が除去され且つ肌荒らしされた微細な凹凸の表面に、これに倣った断面ほぼ波形状で極薄の不動態膜を介して、ほぼ均一で所要の厚みを有するシュウ酸塩被膜が表面全体に被覆されたステンレス鋼線となっている。従って、冷間鍛造時に、成形金型との焼き付きや製品のカジリなどをなくすか低減できるため、精度の良い鍛造製品を確実に提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下において、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明による第1の冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線の製造方法を示す流れ図、およびその一部の工程を示す概略図である。
先ず、図1に示すように、線材(鋼線)w1に対し、線材圧延S1を施す。具体的には、図1中で示すように、周面中央の円周方向に沿ってほぼ断面半円形の凹溝gを対向して有する一対のロールR1,R2間に、線材w1を強制的に通して、線径が10.4mmの円形断面に仕上げる。
【0014】
次いで、図1に示すように、前記線材w1に対し、歪取り焼鈍S2を施す。具体的には、図示しない焼鈍炉内に線材w1を装入し、例えば、不活性ガス雰囲気(窒素)または還元性雰囲気(窒素+水素)中で700〜800℃に約3〜12時間加熱する。その結果、前記圧延時に内蔵された加工歪みが除去される。
更に、焼鈍された上記線材w1に対し、図1に示すように、皮剥き工程S3を施す。具体的には、図1中で例示するように、回転する線材w1の表面に対し、半径方向からバイトbを押し当て、約0.2〜0.5mmの厚みで表層を切削を切除する。この際、予め、線材w1の表層に精製されていたCr系酸化物などからなる不動態膜の大半が除去される結果、母材のステンレス鋼が表面に露出した線材w2となる。
【0015】
次に、図1に示すように、線材w2の表面に対し、シュウ酸塩被膜を被覆する被膜工程S4を施す。具体的には、図示しないシュウ酸塩の液槽中に線材w2を連続して浸漬する。
その結果、図2の部分断面図で模式的に示すように、母材のステンレス鋼Mの表面全体に対して、前記工程S3,S4間で生成された約数nmの極薄(例えば、3nm)の不動態膜fのみを介して、シュウ酸塩の被膜sが、反応性良くほぼ均一な厚み(約数μm〜数100μm)が被覆された線材w3となる。
次いで、図1に示すように、上記線材w3に対し、伸線工程S5を施す。具体的には、図1中に示すように、線材w3を伸線ダイスdを貫通するほぼ円錐形の孔h内に強制的に通し、直径10mmに縮径された線材w4とする。この際の減面率は、約6%である。係る減面率に応じて、図2で例示するように、母材のステンレス鋼Mおよびシュウ酸塩の被膜sも同様に縮径されている。
【0016】
更に、図1に示すように、前記線材w4をメエリーソーなどにより所定の長さに切断して、円柱形のブランクw5とする切断工程S6を行う。
そして、図1に示すように、ブランクw5をダイDの上にセットし、係るブランクw5の軸方向に沿って、パンチPをダイD側に下降させる冷間鍛造S7を施す。この際、ブランクw5の周面には、前記極薄の不動態膜fを介して、ほぼ一定の厚みのシュウ酸塩皮膜sが被覆されているため、パンチPとダイDとによる据え込み鍛造を受けても、軸方向に沿ってスムースに圧縮され且つ径方向に延出する。しかも、ブランクw5とパンチPなどとの間で焼け付きや、製品w6のカジリを生じないと共に、係る鍛造後において、ダイD内部のノックアウトピン(図示せず)によるノックアウトも少ない荷重で行える。その結果、ブランクw5が据え込み鍛造された偏平な形状の製品w6を、精度良く得ることができる。
【0017】
図3は、本発明による第2の冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線の製造方法を示す流れ図、および一部の工程の概略図である。
先ず、図3に示すように、線材(鋼線)w1に対し、前記同様の線材圧延S1を施す。
次いで、上記圧延後の線材w1に対し、前記同様の歪取り焼鈍S2を施す。
更に、焼鈍された線材w1に対し、図3に示すように、前記同様の皮剥き工程S3を施して線材w2とする。この際、予め、線材w1の表層に精製されていたCr系酸化物などからなる不動態膜の大半が除去される結果、母材のステンレス鋼が表面に露出した線材w2となる。
【0018】
次いで、皮剥きされた線材w2に対し、図3に示すように、肌荒らし工程S4aを施す。具体的は、皮剥きされた直後の線材w2をコイル状にし、濃度:30〜50wt%の塩化第2鉄溶液の液槽中に数10分〜約1時間にわたって浸漬する。その結果、線材w2で露出していたステンレス鋼の表面は、塩化第2鉄による腐食作用を受けて、微細な凹凸面となる。
次に、肌荒らしされた上記線材w2の表面に対し、図3に示すように、前記同様のシュウ酸塩被膜を被覆する被膜工程S4を施す。その結果、図4の部分断面図で模式的に示すように、母材のステンレス鋼Mの表面全体に対して、前記工程S3,S4a間で生成された約数nmの極薄で且つ断面ほぼ波形状の不動態膜faのみを介して、シュウ酸塩の被膜sが、反応性良くほぼ均一な厚み(約数μm〜数100μm)で強固に被覆された線材w3aとなる。
【0019】
更に、図3に示すように、上記線材w3aに対し、前記同様の伸線工程S5を施して所定の直径に縮径された線材w4aとする。係る減面率に応じて、図4で例示するように、線材w4aにおける母材のステンレス鋼Mとシュウ酸塩の被膜sも同様に縮径されている。
次いで、線材w4aを前記同様に切断して、円柱形のブランクw5aとする切断工程S6を行う。
そして、図3に示すように、パンチPおよびダイDを用いて、上記ブランクw5aに対し前記同様の冷間鍛造S7を施す。
【0020】
この際、ブランクw5aの周面には、前記極薄で且つ断面ほぼ波形状の不動態膜faを介して、ほぼ一定の厚みのシュウ酸塩皮膜sが被覆されているため、パンチPとダイDとによる据え込み鍛造を受けても、軸方向に沿った圧縮および径方向に沿った延出が一層スムースに成される。同時に、ブランクw5aとパンチPなどとの間で焼け付きや、製品w6aのカジリが生じず、且つ係る鍛造後のノックアウトも一層少ない荷重で行える。その結果、ブランクw5aを据え込み鍛造した偏平な形状の製品w6aを、一層形状・寸法精度良く得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下において、本発明の具体的な実施例について説明する。
先ず、Cr:13wt%、Si:0.1wt%、Al:0.7wt%、Pb:0.1wt%、残部Feおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼の棒鋼を、一対の前記ロールR1,R2間に、上記線材w1を強制的に通し、これらを線径が10.5mmの円形断面に仕上げる線材圧延を行って、線材w1を複数本用意した。
次いで、上記線材w1を焼鈍炉内に装入し、窒素ガス雰囲気中で、760℃×6時間の歪取り焼鈍S2を施した。
更に、焼鈍された一部の線材w1に対し、バイトbによって表層を0.25mm切削する皮剥き工程S3を施し、線径が10.0mmの線材w2とした。この際、表層の不動態膜fは、その大半が切除されていた。
尚、前記皮剥しなかった残りの線材w1は、比較例であり、前記焼鈍の後に酸洗(弗酸:5wt%、硫酸:15wt%、×60分浸漬)および中和(水洗)を施した。
【0022】
次に、前記皮剥きされた一部の線材w2をコイル状にして、濃度が40%の塩化第2鉄溶液の液槽中に1時間または30分にわたって浸漬(工程S4a)した後、シュウ酸塩の液槽中に浸漬し、シュウ酸塩被膜を被覆する被膜工程S4aを施して線材w3aとした。これらは、実施例1(工程S4aの浸漬:1時間)と、実施例2(工程S4aの浸漬:30分)である。
一方、前記皮剥きされた残りの線材w2に対し、直ちに上記と同じ被膜工程S4を施して、線材w3とした。これを、実施例3とした。また、前記酸洗された比較例の線材に対しても、上記と同じ被膜工程S4を施した。
次いで、実施例1〜3の線材w3a,w3と比較例の線材とを、減面率が4%となる伸線ダイスdに通すことで、それぞれに伸線工程(S5)を施し、直径が9.8mmの線材w4a,w4などとした。
【0023】
更に、実施例1〜3の前記線材w4a,w4と比較例の線材とを、軸方向の長さ20mmに切断(工程S6)し、各例ごとに100個ずつのブランクw5a,w5などを得た。
そして、図5の左側に示すように、各例のブランクw5a,w5などを、ダイDの表面に開口する浅い凹溝d1上にセットし、低面に断面ほぼ台形で且つリング形のリブp1とこれに囲まれた凹みp2とを有するパンチPを、図5中の左側に矢印で示すように、ダイD側に下降させる冷間鍛造(S7)を行った。
その結果、図5の右側に示すように、ブランクw5a,w5などは、軸方向に沿って圧縮され且つ径方向に沿って延出する塑性変形を生じ、偏平なほぼ円盤形の製品w6a,w6などとなった。
【0024】
この際、パンチPの上方にセットした図示しないロードセルによって、各例ごと100個ずつの製品w6a,w6などを冷間鍛造するのに要した成形荷重を測定し、各例ごとの平均値を算出した。
次いで、鍛造された製品w6a,w6などに対し、ダイDの凹溝d1内に貫通する垂直孔d2内に予めセットされたノックアウトピンd3を、図5中の右側で破線の矢印で示すように、垂直方向に沿って上昇させ、製品w6a,w6などをダイDの凹溝d1から外側に突き上げ、取り出し可能とした。この際、ダイDの下方にセットした図示しないロードセルによって、各例ごと100個ずつの製品w6a,w6などをノックアウトするために要したノックアウト荷重を測定し、各例ごとの平均値を算出した。それらの結果を図6のグラフに示した。
【0025】
図6のグラフによれば、実施例1は、成形荷重が約333×10Nと最少で且つノックアウト荷重が約3.9×10Nであり、また、実施例2は、成形荷重が約343×10Nで且つノックアウト荷重が上記実施例1と同様であった。
更に、実施例3は、成形荷重が約360×10Nで且つノックアウト荷重が上記実施例1,2と同等であった。
これら対し、比較例1は、成形成形荷重が約362×10Nで且つノックアウト荷重が約7.8×10Nであり、双方とも最多となった。
【0026】
上記結果は、実施例1,2では、前記皮剥き工程S3、肌荒らし工程S4a、および皮膜工程S4を行って、断面ほぼ波形状の不動態膜faとほぼ一定の厚みのシュウ酸塩皮膜sとが被覆されていたため、冷間鍛造工程S7での塑性変形が著しくスムースに行えたことによるものと推定される。且つ、実施例1の成形荷重が最少となったのは、肌荒らし工程S4aでの処理時間が実施例2よりも長かったためと推測される。尚、実施例1,2は、焼け付きやカジリを生じなかった。
また、実施例3では、前記皮剥き工程S3、および皮膜工程S4を行って、極薄の不動態膜fとほぼ一定の厚みのシュウ酸塩皮膜sとが被覆されていたため、冷間鍛造工程S7での塑性変形が比較的スムースに行えたことによるものと推定される。但し、肌荒らし工程S4aがなく、不動態膜fの表面積が小さくなったため、実施例1,2よりも成形荷重をより多く要したものと思われる。
【0027】
一方、比較例では、酸洗後に直に皮膜工程S4を施したため、当初の不導体膜fが比較的厚く残留しており、その上方に被覆したシュウ酸塩皮膜sが伸線工程や冷間鍛造工程で、顕著に剥離していた。このため、前記のように、成形荷重およびノックアウト荷重の双方が最多となり、冷間鍛造工程で焼け付きやカジリを10数個生じる結果になったもの、と推定される。
以上のような実施例1〜3の結果によって、本発明の作用が理解され、且つ効果が裏付けられた。
尚、本発明は、前記実施例1〜3に用いた前記鋼種以外のステンレス鋼によっても、同様の作用・効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の製造方法を示す流れ図およびその一部の工程を示す概略図。
【図2】第1の製造方法で得られたステンレス鋼線を模式的に示す部分断面図。
【図3】第2の製造方法を示す流れ図およびその一部の工程を示す概略図。
【図4】第2の製造方法で得られたステンレス鋼線を模式的に示す部分断面図。
【図5】実施例と比較例の線材を切断して得たブランクを冷間鍛造する工程を示す概略図。
【図6】実施例と比較例との上記ブランクを冷間鍛造する際の成形荷重とノックアウト荷重とを示すグラフ。
【符号の説明】
【0029】
w1〜w4,w4a…線材(ステンレス鋼線)
S3……………………皮剥き工程
S4a…………………肌荒らし工程
S4……………………被膜工程
S5……………………伸線工程
d………………………伸線ダイス
s………………………シュウ酸塩被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面ほぼ円形のステンレス鋼線の表層を皮剥きする皮剥き工程と、
皮剥きされた上記ステンレス鋼線の表面にシュウ酸塩被膜を被覆する被膜工程と、
表面にシュウ酸塩被膜が被覆された上記ステンレス鋼線を伸線ダイスに通して縮径する伸線工程と、を含む、
ことを特徴とする冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線の製造方法。
【請求項2】
断面ほぼ円形のステンレス鋼線の表層を皮剥きする皮剥き工程と、
表層が皮剥きされた上記ステンレス鋼線に塩化第2鉄溶液を接触させて、係るステンレス鋼線の表面を肌荒らしする肌荒らし工程と、
上記ステンレス鋼線の肌荒らしされた表面にシュウ酸塩被膜を被覆する被膜工程と、
表面にシュウ酸塩被膜が被覆された上記ステンレス鋼線を伸線ダイスに通して縮径する伸線工程と、を含む、
ことを特徴とする冷間鍛造性に優れたステンレス鋼線の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−169405(P2008−169405A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1053(P2007−1053)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】