説明

冷陰極とそれを用いた放電管と冷陰極の製造方法

【課題】 冷陰極放電管等に用いられる冷陰極に関しスパッターによる電極の消耗が少ないタングステン、モリブデン、タンタル、ニオブその他高融点金属材料等の難塑性加工材料でも、電子の放出効率が良い形状のものを自由に得ることが出来きる冷陰極とそれを用いた放電管と冷陰極の製造方法を得ることである。
【解決手段】 化学蒸着により型表面にタングステン、モリブデン、タンタル、ニオブその他の高融点材料の電極形状物を析出させて所望の冷陰極を形成させることを特徴としている。化学蒸着に用いる原料ガスは、上記高融点金属のハロゲン化物や有機金属化合物を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極放電管等に用いられる冷陰極とそれを用いた放電管と冷陰極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から冷陰極放電管等に用いられる電極としてニッケル電極が使用されてきたが、最近ではスパッターによる電極の消耗が少ないタングステン、モリブデン、タンタル、ニオブその他高融点金属材料を用いた電極が使用されている。これらの高融点金属材料を用いた電極の製造方法として、特許文献1または特許文献2に示すようなプレス等の塑性加工や射出成形等の方法が紹介されている。
しかしながら、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブその他高融点金属材料は塑性加工が難しい上、射出成形で製造する場合は内部に多数の微細なボイドを有し、成形に用いる樹脂の分解物が内部に残存するので、電子放出効率がよい任意形状の電極を得ることができなかったり、発光効率が悪かったり、放電管の黒化の問題があった。
このため、スパッターによる電極の消耗が少ないタングステン、モリブデン、タンタル、ニオブその他高融点材料を用いた電子放出効率がよく、任意形状の電極を得る方法の開発が待望されていた。
【0003】
【特許文献1】特開2003−59445号公報
【特許文献2】特開2003−242927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、冷陰極放電管等に用いられる冷陰極に関しスパッターによる電極の消耗が少ないタングステン、モリブデン、タンタル、ニオブその他高融点金属材料等の難塑性加工材料でも、電子の放出効率が良い形状のものを自由に得ることが出来きる冷陰極とそれを用いた放電管と冷陰極の製造方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段は、化学蒸着により型表面にタングステン、モリブデン、タンタル、ニオブその他の高融点材料の電極形状物を析出させて所望の冷陰極を形成させることを特徴としている。化学蒸着に用いる原料ガスは、上記高融点金属のハロゲン化物や有機金属化合物を用いることができる。
また、本発明の実施にあたり、電子放射効率を向上させるため、又電子放射性物質を担持するために、一端に開口部を有する中空円筒状部材または前記部材の外面底部に棒状部材を一体化させた形状にしたり、使用時のスパッター現象により電極の消耗を防止するため、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブその他の高融点材料を用いる。
さらに、塑性加工が難しいタングステン、モリブデン、タンタル、ニオブその他の高融点材料を用いて、電子放射効率を向上させるための形状を任意に設計できるように、化学蒸着に用いられる原料ガスを各種形状が形成できるような型に導入することにより本発明の冷陰極を形成する。
そして、電子放射効率を向上させるための形状を得ることができるように、円柱状の凹部を多数有する型から取り出された形成物が、一端に開口部を有する中空円筒状部材または前記部材の外面底部に棒状部材が一体化された形状を有することを特徴とする冷陰極の製造方法により本発明の冷陰極を得ることができる。型の材料としては、カーボン製、アルミナ製、ジルコニア製等(主要成分が表記セラミックのもの)高温で安定で離型性がよいものが各種使用できる。
【発明の効果】
【0006】
1.本発明の冷陰極は、塑性加工が難しい高融点金属材料のものでも自由な形状に形成できる。
2.高融点材料であるので、スパッタによる電極消耗の影響が小さく長寿命である。
3.電子放射効率が大きく、輝度が高い。
以下、本願発明を実施するための最良の形態を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
請求項1に記載の本発明は、化学蒸着により形成されることを特徴とする冷陰極であり、高融点金属や塑性加工が難しい金属でも自由な形状の電極を得ることができる。
請求項2に記載の本発明は、一端に開口部を有する中空円筒状部材または前記部材の外面底部に棒状部材が一体化された形状を有することを特徴とする化学蒸着により形成された冷陰極であり、電子放出効率が良くこの電極を用いて放電管を製造した場合輝度が向上する。
請求項3に記載の本発明は、Mo、W、Ta、Nbのいずれか1種以上からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の冷陰極であり、前記特性に加え、高融点金属を用いているので電極のスパッターによる電極管の黒化や消耗も少なく長寿命である。
請求項4に記載の本発明は、請求項1から請求項3記載のいずれかに記載の冷陰極を用いることを特徴とする放電管であり、電子放出効率を高めるために表面積が大きく自由な形状の電極を用いることができ、電極に低スパッター率の高融点金属を用いるのでスパッターされにくく変形しにくいので、放電管の黒化や電極の消耗も少なく長寿命である。
請求項5に記載の本発明は、化学蒸着に用いられる原料ガスを型に導入又は接触させることにより形成させることを特徴とする冷陰極の製造方法であり、電子放出効率を向上させることができるように表面積を大きくして電子線放射物質を担持し易い形状の型を造ることにより必要とする形状の電極を得ることができる。
請求項6に記載の本発明は、型材から取り出された形成物が、一端に開口部を有する中空円筒状部材または前記部材の外面底部に棒状部材が一体化された形状を有することを特徴とする請求項5記載の冷陰極の製造方法であるが、例えば円柱形状又はゴルフボールを打つ時に使用するティーの形状の穴を平板表面に多数有する型表面に化学蒸着に用いられる原料ガスを導入すれば、型表面に前記形状の本発明の電極を析出させることができる。
以下、本願発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0008】
外熱型CVD(化学蒸着)装置の1300℃に加熱した反応容器内に、直径が3mmで深さ3mmの穴又は直径が3mmで深さ3mmの穴の底面中心に更に直径2mmで深さ5mmの穴が設けられた2段穴を表面に多数有する直径300mm×厚さ20mmのカーボン円盤を数枚セットし、原料のMoCl(常温で液体)を入れた気化器を約270℃に加熱し気化させながら、HとArとの混合ガスを反応容器への搬送ガスとして100ml/分の割合で気化器へ送りそれを別配管から500ml/分の割合で導入するHと一緒に、反応容器に導入することにより、その円盤表面に原料ガスが吹き付けられるか接触するように導入してMoClのHによる還元反応により円盤穴部表面にMoを析出させた。このとき、真空ポンプにより反応容器内の圧力を0.1×10−1から0.9×10−1MPaとした。圧力が高くなると成膜速度は、小さくなるが微細で緻密な膜を得ることができ、圧力を低くすると成膜速度を大きくすることができる。
析出時間を調整することにより、前記型表面には型形状に応じカップ状又はカップ外底面に棒が結合した形状の析出物を得ることができる。
このようにして得られた析出物を型から抜き取り、不要部分であるいわゆるバリを除去することにより本発明の冷陰極を得ることができる。得られた本発明の冷陰極は、歪みをとるため又は強度を上げるため、アニール、HIP処理又は焼き入れを行って使用することもできる。
本発明の冷陰極と従来の冷陰極とを比較するため予め、Mo棒をプレスして本発明の形状と同様の電極とMo粉末と樹脂との混合物を射出成形により成形し、脱脂し焼結して電極を作製した。
Mo製の電極の製造は、Moが高融点(2600℃)であり鋳造に不向きで、塑性加工も難しくプレスで成形した比較のための電極は内部や表面に多数の割れがあり放電管の電極として使用できる状態ではなかった。また、射出成形で作製した比較のための電極も内部に多数のボイドが存在し、放電管を作製したところ、電極は管内部に充填されたHg、Arが電子により励起されたイオンによりスパッタされやすく放電管の黒化や電極の消耗が激しく寿命が短った。ボイドが内部に多数存在するので、放電管を製作するときに電極の封止部からガスがリークし電極の酸化や異常放電が起こり短寿命であった。またボイド内部に残存するガスが放出され異常な放電が起こった。
これに対し本発明のMo製の冷陰極は、高融点で塑性加工が難しいMoでも複雑な形状の電極の作製ができ、射出成形で製作したもののようなボイドは殆どなく、この電極を使用して放電管を製造した場合でも、電極の異常な消耗がなく、放電が安定し、寿命が比較例のような従来のものより長かった。
尚、本発明の電極で、型の形状により取り出したものがカップ型のもので通電のための脚部がないものについては、Mo棒を電子ビーム、レーザービーム、抵抗溶接等又はろう付け等の方法で接合して用いることにより前記と同様に本発明の放電管を製造することができる。
また、本実施例では原料としてMoClを使用したが、その他の金属ハロゲン化合物やMo(CO)のような約100℃で分解する金属カルボニル化合物のような有機金属化合物も使用できる。
【実施例2】
【0009】
本発明のW製の冷陰極を製造する場合は、化学蒸着の原料としてWF等のハロゲン化物、W(CO)のような分解温度が低い金属カルボニル等有機金属化合物を用いれば実施例1と同様にW製のものが製造できる。本発明のW製の冷陰極及びそれを用いる放電管の性能については、実施例1と同様の結果となった。
本発明のTa製の冷陰極を製造する場合は、化学蒸着の原料としてTaF等のハロゲン化合物、Ta(CO)のような分解温度が低い金属カルボニル等有機金属化合物を用いれば実施例1と同様にTa製のものが製造できる。本発明のTa製の冷陰極及びそれを用いる放電管の性能については、実施例1と同様の結果となった。
本発明のNb製の冷陰極を製造する場合は、化学蒸着の原料としてNbF等のハロゲン化合物、Nb(CO)のような分解温度が低い金属カルボニル等有機金属化合物を用いれば実施例1と同様にNb製のものが製造できる。本発明のNb製の冷陰極及びそれを用いる放電管の性能については、実施例1と同様の結果となった。
以上の結果を表1にまとめた。この結果は、Mo、W、Ta、Nb単体の電極の結果であるが、これら単体の化学蒸着のための原料ガスをいくつか組み合せてCVD装置の反応容器に導入すれば、これらの複合物の本発明の冷陰極を得ることができるが、表1と同様な結果となる。また、比較例としてプレス成形および射出成形のMo製冷陰極を製造して評価したが、W、Ta、Nb等他の材料についても表1の比較例の結果と同様となった。
【0010】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0011】
Mo、W、Ta、Nbのように高融点で塑性加工が難しい金属でも特定形状を形成するための型を作製することにより所望の形状の電極を得ることができるので、表面積が大きくスパッタ率が低く変形が小さい高融点の電極を得ることができ液晶表示に使用される冷陰極放電管等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蒸着により形成されることを特徴とする冷陰極。
【請求項2】
一端に開口部を有する中空円筒状部材または前記部材の外面底部に棒状部材が一体化された形状を有することを特徴とする請求項1記載の冷陰極。
【請求項3】
Mo、W、Ta、Nbのいずれか1種以上からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の冷陰極。
【請求項4】
請求項1から請求項3記載のいずれかに記載の冷陰極を用いることを特徴とする放電管。
【請求項5】
化学蒸着に用いられる原料ガスを型に導入又は接触させることにより形成することを特徴とする冷陰極の製造方法。
【請求項6】
型から取り出された形成物が、一端に開口部を有する中空円筒状部材または前記部材の外面底部に棒状部材が一体化された形状を有することを特徴とする請求項5記載の冷陰極の製造方法。

【公開番号】特開2006−140057(P2006−140057A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329340(P2004−329340)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】