説明

冷陰極放電管用電極、その製造方法、および冷陰極放電管

【課題】冷陰極放電管の長寿命化を図ることができる信頼性の高い冷陰極放電管用電極を製造すること。
【解決手段】金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第1の混練物RB1を成形して電極本体DHのグリーン体を形成する第1のステップと、電極本体DHのグリーン体の一方の端部23に、第1の混練物RB1と組成の異なる金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第2の混練物RB2からなる接合層24のグリーン体を付加する第2のステップと、電極本体DHのグリーン体と接合層24のグリーン体とを同時に焼成することにより、電極本体DHと接合層24とが一体になった金属の電極DKを生成する第3のステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置のバックライト用光源などとして用いられる冷陰極放電管用電極、その製造方法、および冷陰極放電管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、種々の形状の冷陰極放電管用電極およびその製造方法が提案されている。例えば、特許文献1には、金属の棒材をプレス加工することによって形成した、有底円筒状のホロー電極と棒状の封止金属とが一体となった冷陰極放電管用電極が提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、中空部が形成されたカップ状の電極部と棒状の封着線とが一体となった冷陰極放電管用電極を射出成形によって製造することが開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、タングステンまたはモリブデンの微細焼結粉末と2液性熱可塑性バインダー樹脂とを混練したものを射出成形してグリーン体を形成し、溶剤により一方の熱可塑性バインダー樹脂を溶出させてポーラスな脱脂グリーン体とした後、これを焼成することによってカップ状の電極を製造することが提案されている。
【特許文献1】特開2003−59445
【特許文献2】特開2004−63469
【特許文献3】特開2005−71972
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年において、液晶テレビやパーソナルコンピュータなどの普及にともなって液晶表示装置の需要が急激に増大しており、これとともに液晶表示装置の大型化および長寿命化が急速に進んでいる。そのバックライト用光源として用いられる冷陰極放電管においてもさらなる長寿命化が望まれている。
【0006】
従来においては、冷陰極放電管用電極の材料として、加工性およびコストの面で優れるニッケルが主として使われてきた。しかし、放電用の電極材料としてはニッケルよりも融点の遙かに高いタングステンやモリブデンの方が有利であり、タングステンを用いることによって冷陰極放電管の寿命を飛躍的に延ばすことが可能である。例えば、タングステンを用いることによって点灯2万時間を遙かに越える寿命を得ることも可能である。しかし、タングステンは加工が容易ではなくまた高価でもあるのでまだ量産化には至っていない。
【0007】
つまり、特許文献1に記載のようにタングステンをプレス加工により放電用の電極とするには、極めて高い温度の下でプレスを行う必要があるなど、実用化は極めて困難である。また、特許文献2または3のようにタングステンの粉末を用いて射出成形を行うには、バインダー樹脂などの種類および混合方法、温度、圧力、金型など、解決すべき課題は多い。
【0008】
また、特許文献3に記載のように、一旦ポーラスな脱脂グリーン体とした後に焼成して電極とする場合に、製造された電極にポーラスな部分が残らないように製造条件を選択しまたその品質管理を行う必要がある。つまり、電極はガラス管の端部に配置されるが、電極をガラス管で支持し且つリード線と接続するために、電極に一体に設けられた線状の電極基部(導入線基部)の外周面にガラスが融着した構造となる。この構造において、もし電極基部にポーラスな部分が残っていた場合には、冷陰極放電管の内部のガスが外へ漏れるおそれがあり冷陰極放電管の寿命の低下につながる。したがって、理論的におよび開発試験における結果については問題がないとした場合でも、タングステンを今までにない長寿命化のために用いるという目的を考慮した場合に、この部分に実績のない構造を採用することは信頼性の点において慎重にならざるを得ない。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、冷陰極放電管の長寿命化を図ることができる信頼性の高い冷陰極放電管用電極の製造方法、冷陰極放電管用電極、および冷陰極放電管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る冷陰極放電管用電極の製造方法は、金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第1の混練物を成形して電極本体のグリーン体を形成する第1のステップと、前記電極本体のグリーン体の一方の端部に、前記第1の混練物と組成の異なる金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第2の混練物からなる接合層のグリーン体を付加する第2のステップと、前記電極本体のグリーン体と前記接合層のグリーン体とを同時に焼成することにより、前記電極本体と前記接合層とが一体になった金属の電極を生成する第3のステップと、を有する。
【0011】
好ましくは、前記第1の混練物の金属として主にタングステンまたはモリブデンが含まれ、前記第2の混練物の金属として焼成された後においてはタングステンまたはモリブデンよりも融点の低い合金となる複数種類の金属が含まれてなる。
【0012】
また、前記第1のステップにおいて、バインダ樹脂として溶剤不溶性樹脂が溶剤可溶性樹脂に配合されたものを用い、電極本体のグリーン体を形成した後に脱脂を行う。
【0013】
また、前記第1のステップにおいて成形される前記電極本体のグリーン体はカップ状であり、前記第2のステップにおいて、前記カップ状のグリーン体の底部の外側に前記接合層のグリーン体を付加する。
【0014】
また、前記第2のステップにおいて、前記接合層のグリーン体として前記第2の混練物によるペースト状のものを用い、当該ペースト状のものを前記電極本体の前記グリーン体の前記端部に塗布することによって付加する。
【0015】
また、前記第2のステップにおいて、前記接合層のグリーン体として前記第2の混練物を成形した固形状のものを用い、当該固形状のものを前記電極本体のグリーン体の前記端部に配置することによって付加する。
【0016】
また、前記電極本体のグリーン体および前記接合層のグリーン体には、前記接合層のグリーン体を前記電極本体のグリーン体の端部に配置したときに互いに嵌合して位置決めがなされる嵌合部が設けられる。
【0017】
また、前記電極本体のグリーン体の前記一方の端部に、その端面から突出してその上に前記接合層のグリーン体が付加されるべき突起部が設けられる。
【0018】
また、前記第3のステップで生成された金属の電極の接合層に、前記第1の混練物の金属に近い熱膨張係数を有する金属を含む電極基部を溶着する第4のステップを有する。
【0019】
また、前記電極基部は、熱間引き抜きによって製造されたものである。
【0020】
本発明に係る冷陰極放電管用電極は、金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第1の混練物を成形して得られた電極本体のグリーン体と、前記電極本体のグリーン体の一方の端部に付加され前記第1の混練物と組成の異なる金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第2の混練物からなる接合層のグリーン体とが、同時に焼成され、前記電極本体と前記接合層とが融合して一体に形成されてなる。
【0021】
好ましくは、前記第1の混練物の金属として主にタングステンまたはモリブデンが含まれ、前記第2の混練物の金属として焼成された後においてはタングステンまたはモリブデンに近い熱膨張係数を有し且つタングステンまたはモリブデンよりも融点の低い合金となる複数種類の金属が含まれてなる。
【0022】
また、前記接合層に、前記第1の混練物の金属に近い熱膨張係数を有する金属を含む電極基部が溶着されてなる。
【0023】
本発明に係る冷陰極放電管は、ガラス管と前記ガラス管の両端部に配置された電極とを有してなる冷陰極放電管であって、前記電極は、金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第1の混練物を成形して得られた電極本体のグリーン体と、前記電極本体のグリーン体の一方の端部に付加され前記第1の混練物と組成の異なる金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第2の混練物からなる接合層のグリーン体とが、同時に焼成され、前記電極本体と前記接合層とが融合して一体に形成され、且つ、前記接合層に、前記ガラス管に近い熱膨張係数を有する金属からなる電極基部が溶着されてなり、前記ガラス管の端部において前記電極が挿入され且つ前記電極基部の部分で前記ガラス管との間が密封されてなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、冷陰極放電管の長寿命化を図ることができる信頼性の高い冷陰極放電管用電極の製造方法、冷陰極放電管用電極、および冷陰極放電管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は本発明に係る冷陰極放電管1の断面正面図、図2は冷陰極放電管1の要部を拡大して示す断面図、図3は電極構造体12の断面正面図、図4は図3に示す電極構造体12の左側面図、図5は図3に示す電極構造体12の右側面図、図6は電極DKの断面正面図である。
【0026】
図1および図2において、冷陰極放電管1は、ガラス管11、ガラス管11の両端に配置されて封止された電極構造体12a,12b、および電極構造体12a,12bにそれぞれ接続されたリード線13a,13bを有する。
【0027】
ガラス管11は、細長い円筒形状を有した直管形のものである。ガラス管11の両端部において、電極構造体12a,12bが、その各電極基部25の部分でガラスビーズ26を介し融着し、これによってガラス管11との間が密封されている。ガラス管11は、電極基部25およびガラスビーズ26とほぼ同じ熱膨張係数を有するので、この部分での温度変化による応力は生じない。ガラス管11の寸法の例をあげると、外径1.5〜5mm程度、内径1〜4mm程度、長さ数十mm〜数百mm程度、長いものでは1メートル以上の場合もある。
【0028】
2つの電極構造体12a,12bは互いに同じ構造のものであるので、一方の電極構造体12aについてのみ説明する。なお、これらの電極構造体12a,12bを「電極構造体12」と記載することがある。
【0029】
図3〜図6をも参照して、電極構造体12は、電極DK、電極DKに溶着された電極基部25、および電極基部25に装着されたガラスビーズ26からなる。
【0030】
電極DKは、径大部21と径小部22とを有する2段の有底の円筒状つまりカップ状に形成されている。なお、後でも述べるように2段に限定されるものではない。径大部21の外径は、ガラス管11の内径とほぼ同じであり、例えばガラス管11の内径よりも僅かに小さい。
【0031】
なお、ガラス管11の内径と径大部21の外径との間に十分な隙間を設けるようにしてもよい。径大部21と径小部22との連結部分32は、テーパの円錐面状に形成してもよい。カップ状の底部31aの外側の端面21aには、その中心から軸方向に突出した突起部23が一体に設けられている。本実施形態において、突起部23は、先端にいく程径小となるテーパ状(円錐台状)に形成されている。そして、突起部23において、接合層24が溶着によって一体に設けられている。
【0032】
なお、電極DKには、径小部22の端面22aに開口する円柱形状の空洞部31が、径大部21に至る深さにまで設けられている。つまり、空洞部31は、径小部22から径大部21の奥深くまで形成され、その底面部31aは端面21aに近づいており、それらの間に側端壁21bを形成している。なお、底面部31aは、その隅部がアール状になっており、これによって底面部31aの全体が皿状ないし半球面状になっている。空洞部31によって、上に述べたように電極DKの全体がカップ状となっている。また、径小部22の端面22aは、その外周縁および内周縁のいずれもアール状となっている。
【0033】
電極DKの寸法の例をあげると、径大部21の外径1〜4mm程度、径小部22の外径0.8〜3mm程度、全体の長さ3〜10mm程度、空洞部31の内径0.5〜2.5mm程度、深さ2〜8mm程度である。
【0034】
本実施形態において、このような電極DKは、金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第1の混練物を成形して得られた電極本体DHのグリーン体と、電極本体DHのグリーン体の一方の端部に付加され第1の混練物と組成の異なる金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第2の混練物からなる接合層24のグリーン体とが、同時に焼成(とも焼き)され、電極本体DHと接合層24とが溶着(融着)して一体に形成されたものである。
【0035】
接合層24のグリーン体として、第2の混練物によるペースト状のものを用いてもよく、また、第2の混練物を成形した固形状のものを用いてもよい。ペースト状のものを用いる場合には、それを電極本体DHのグリーン体の端部に塗布すればよい。固形状のものを用いた場合には、それを電極本体DHのグリーン体の端部に載せたり被せたりし、または溶剤などを用いて接着すればよい。
【0036】
また、本実施形態において、第1の混練物の金属として、主にタングステンまたはモリブデンが含まれ、これにニッケルなどの添加物が少量添加されている。第2の混練物の金属として、焼成された後においてはタングステンまたはモリブデンに近い熱膨張係数を有し且つタングステンまたはモリブデンよりも融点の低い合金となる複数種類の金属、例えば、鉄、ニッケル、コバルトなどが含まれている。これら、鉄、ニッケル、コバルトの微粉末は、焼成により融合してコバールとなる。コバールの熱膨張係数はタングステンとほぼ同じである。
【0037】
具体例を上げると、鉄54重量%、ニッケル29重量%、コバルト17重量%のコバールは熱膨張係数が4.3×10-6 であり、これはタングステンの4.6×10-6、モリブデンの4.9×10-6に近い。電極DKの製造方法については後で詳しく説明する。
【0038】
電極基部25は、上に述べた第1の混練物の金属に近い熱膨張係数を有する金属を含んで円柱状(線状)に形成されたものである。本実施形態において、電極基部25は、電極本体DHと同じ材料であるタングステンまたはモリブデンが用いられ、例えば熱間引き抜きによって緻密な構造の線材に形成されたものを所定の長さに切断することによって製造される。
【0039】
この電極基部25は、電極DKの接合層24との間で、抵抗溶接またはレーザ溶接によって一体化されている。接合層24は、電極本体DHよりも融点が低く、溶融し易いので、極短時間の抵抗溶接によって確実に電極基部25と一体化し、電極本体DHの本来の機能である放電特性に悪い影響を与えない。
【0040】
ガラスビーズ26は、上に述べたように電極基部25とほぼ同じ熱膨張係数を持つガラス材料からなり、球状またはそれに近い形状であり、中央に貫通孔が設けられたものである。ガラスビーズ26を電極基部25に装着した状態で、ガラスビーズ26を加熱して電極基部25に溶着させる。このようにして電極構造体12が構成される。さらに、リード線13aを接続したものを電極構造体12としてもよい。その場合には、電極基部25の先端に短いリード線13aが溶着により接続される。リード線13aは、ニッケルまたはニッケル合金などの金属材料によって形成され、その先端部を電極基部25の先端部と突き合わせた状態で溶接33される。溶接33には電気溶接またはレーザ溶接などが用いられる。
【0041】
上に述べたような電極構造体12が、ガラス管11の端部から挿入され、ガラス管11の端部およびガラスビーズ26が加熱され、それらが溶融し電極基部25に溶着することによって、それらの間が密封され、冷陰極放電管1が形成されている。なお、ガラス管11の内部には少量の放電ガスや水銀などが封入される。
【0042】
その後、リード線13aに対して実際の配線が行われる。配線に際してはリード線13aにはんだ付けを行う。リード線13aが未だ接続されていない場合には電極基部25に対して配線を行う。
【0043】
電極12の製造に当たっては、例えば、粉末冶金法(PM法)の1つであるホットランナ方式による金属粉末射出成形法をその工程の1つに用いることができる。次に、電極DKおよび電極構造体12の製造方法についてさらに詳しく説明する。なお、グリーン体については、その最終生成物名の符号の後に「G」を付加して示すことがある。
【0044】
図7は電極構造体12の製造方法を説明するための図、図8は電極構造体12の製造方法の例を示すフローチャートである。図8のフローチャートに沿って電極構造体12の製造方法を説明する。
【0045】
図7において、金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第1の混練物RB1を準備する(図7左下、図8の#11)。第1の混練物RB1の金属として、主にタングステンまたはモリブデンを用いる。例えば、タングステンの微粉末を95〜99重量%程度とし、これにニッケルの微粉末を1重量%程度、残りを他の金属の微粉末とする。バインダ樹脂として、溶剤不溶性樹脂が溶剤可溶性樹脂に配合されたものを用いる。例えば、溶剤不溶性樹脂としてポリエチレンを用い、溶剤可溶性樹脂としてポリスチレンを用いる。必要に応じて可塑剤や離形剤などをも用いる。金属(メタルコンパウンド)とバインダ樹脂との混合比は体積比で1対1程度とする。または、金属を30〜60体積%程度とし、残りをバインダ樹脂とする。これを120〜200℃程度の高温で混合したものが第1の混練物RB1である。
【0046】
第1の混練物RB1を用いて電極本体DHのグリーン体(DHG)を射出成形によって製作する(#12)。このような目的のための射出成形用金型および射出成形方法として、本発明者は先に特願2005−202728を提案した。提案した金型を用いることによって、電極本体DHのグリーン体(DHG)を射出成形によって高い効率で量産することができる。
【0047】
その概略を説明すると、金型は、キャビティと、キャビティの注入口に接続するよう設けられた材料注入室と、材料注入室に溶融した材料を送り込むためのスプルーと、材料注入室において注入口を開閉するためにその長手方向に移動可能に設けられたバルブピンと、を有し、バルブピンの内部には、材料注入室内の材料を溶融させるために当該バルブピンを加熱するヒータが、その長手方向に沿って設けられており、バルブピンの先端部が注入口に当接することによって当該注入口が閉塞され、バルブピンの先端部が注入口から離れることによって当該注入口が開放され、且つバルブピンの先端部によって加熱されて溶融した材料が注入口からキャビティの内部に注入されるように構成される。
【0048】
また、射出成形方法は、第1の混練物RB1をスプルーから材料注入室に送り込み、少なくともバルブピンの外周に沿った部分に材料の溶融層を形成しておき、油圧シリンダによってバルブピンの先端部が注入口に当接するように押し付けて注入口を閉塞した状態から、バルブピンを移動することによってバルブピンの先端部を注入口から離し、これによってバルブピンの先端部に存在する材料の溶融層を注入口からキャビティの内部に注入し、キャビティの内部において材料を冷却する。
【0049】
その後、移動側金型を下降させ、これによってキャビティを開き、且つ雄型をキャビティ内から抜き出し、成形品を雄型から抜き出す。これによってカップ状の成形品が得られる。これが電極本体DHのグリーン体(DHG)となる。
【0050】
電極本体DHの成形において、本実施形態においては突起部23がテーパ状に形成されているので、成形品の抜き出しが容易であり、金型が割り型でなくてもよいのでコスト的に有利である。
【0051】
次に、電極本体DHのグリーン体(DHG)を脱脂する(#13)。脱脂は、電極本体DHGを、溶剤可溶性樹脂を溶解する溶剤中に浸漬することにより行う。脱脂によって、溶剤可溶性樹脂が溶け出して、グリーン体(DHG)は多孔質状態となる。この状態において、溶剤不溶性樹脂が繊維状となって電極本体DHGの形状が維持される。
【0052】
また、第1の混練物RB1とは別に、第2の混練物RB2を準備する(#14)。第2の混練物RB2は、第1の混練物RB1と組成の異なる金属の微粉末を用い、これとバインダ樹脂とによる混練物である。つまり、第2の混練物RB2の金属として、例えば、鉄、ニッケル、コバルトの微粉末を用いる。これらは焼成により融合してコバールとなる。これらの他、銀および銅などを用いることもある。バインダ樹脂として、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、または第1の混練物RB1の場合と同様なものを用いる。必要に応じて、ケトン系、エステル系、石油系などの溶剤を入れて混合する。金属とバインダ樹脂との混合比および混合方法などについて、第1の混練物RB1の場合と同様とすることができる。このようにして第2の混練物RB2を得る。
【0053】
第2の混練物RB2を、脱脂した電極本体DHのグリーン体(DHG)の突起部23Gの先端部に付加し、これによって電極DKのグリーン体(DKG)を得る(#15)。第2の混練物RB2を付加するために、第2の混練物RB2をペースト状のままで付加する方法、または固形状として付加する方法がある。
【0054】
例えば、第2の混練物RB2を、ペースト状の状態で、突起部23Gの先端面に塗布する。塗布に際して、例えば、第2の混練物RB2を圧力タンクに収容して加圧し、デスペンサーによって第2の混練物RB2の一定量を突起部23Gの先端面に向かって吐出させ、付着させる。
【0055】
または、第2の混練物RB2を押し出し成形などによって丸棒MBとし、丸棒MBを切断してペレット状の接合層24のグリーン体(24G)を得る。また、第2の混練物RB2をペレット状に射出成形して固形状の接合層24のグリーン体(24G)を得る。接合層24のグリーン体(24G)を突起部23Gの先端面に載せる。接合層24Gを突起部23Gに載せる際に、その前に接合層24Gの先端部にシンナーなどの溶剤を塗布すると、両者がなじみや易く、離れ難くなる。
【0056】
なお、突起部23Gと接合層24Gの形状として種々の形状を採用することができる。例えば、図9(A)に示すように、円錐台状の突起部23GAの先端面に円柱状の接合層24GAを配置する。図9(B)に示すように、円錐台状の突起部23GBの先端部に、キャップ状の接合層24GBを被せるように配置する。図9(C)に示すように、円錐台状の突起部23GCの先端部に凹部を設けておき、接合層24GBに設けられた突部が嵌入するように配置する。
【0057】
また、図9(D)に示すように、円柱状の突起部23GDの先端部に凹部を設けておき、凹部に円柱状の接合層24GDを嵌め込むように配置する。図9(E)に示すように、突起のない端面部23GEに凹部を設けておき、凹部に円柱状の接合層24GEを嵌め込むように配置する。このように、配置によって互いに嵌合する嵌合部を設けておくことによって、接合層24Gの位置決めが容易に行われる。また、図9(F)に示すように、突起のない端面部23GFに円柱状の接合層24GFを配置する。
【0058】
また、図9(G)に示すように、突起のない端面部23GGに凹部を設けておき、凹部にペースト状の第2の混練物RB2を塗布して接合層24GGとする。また、図9(A)〜(D)に示す突起部23GA〜D、図9(E)に示す凹部、または図9(F)に示す平坦な端面部23GFに対しても、ペースト状の第2の混練物RB2を塗布して接合層24Gとすることが可能である。
【0059】
そして、電極DKのグリーン体(DKG)を焼成する(#16)。電極DKGの焼成は、例えば炉の中に電極DKGを入れて、1400〜1450℃程度の温度となるまで加熱する。または、電極DKGをコンベアで搬送し、1400〜1450℃程度のトンネル炉の中を通過させる。これによって、樹脂が熱分解して消失するとともに、金属同士が焼結して緻密に一体化した電極DKとなる。つまり、電極本体DHGの金属同士および接合層24Gの金属同士がそれぞれ融合して緻密に一体化するとともに、突起部23Gと接合層24Gとの間においてもそれらの金属同士が互いに融合して緻密で一体の合金層を形成する。電極DKGを焼成することによって、その形状を維持したまま相似的に収縮した電極DKが得られる。
【0060】
次に、電極DKの接合層24に、電極基部25を抵抗溶接によって一体化する(#17)。電極基部25は、ガラス管11およびガラスビーズ26とほぼ同じの熱膨張係数を持つ金属材料を用いて熱間引き抜きによって製造されたものである。電極基部25の一方の端面を接合層24の表面に押し当て、圧力を加えた状態で電流を流して両者を溶接する。抵抗溶接を不活性ガス中で行ってもよい。抵抗溶接によって、電極基部25と接合層24とのそれぞれの端部は溶融し、緻密で一体の合金層を形成する。このとき、接合層24は、電極本体DHよりも融点が低いので、溶接が短時間で容易に確実に行われる。これによって、一体化した電極構造体12が製造される。また、ガラスビーズ26を装着する(#18)。その後、ガラス管11の端部に挿入してガラスビーズ26とともに電極基部25に溶着し、電極基部25の先端に短いリード線13aを溶着する。
【0061】
なお、上に述べた電極本体DHGの成形や電極DKGの焼成などにおいて、本発明者が先に提案した特開2003−313603に記載の粉末焼結用成形組成物および焼結用粉末の焼結方法を適用することができる。
【0062】
このように製造した電極構造体12を、ガラス管11の両端部に挿入し、ガラス管11およびガラスビーズ26を加熱して電極基部25に溶着させて密封する。これによって冷陰極放電管1が製造される。
【0063】
上のように製造された冷陰極放電管1は、電極DKとしてタングステンまたはモリブデンを用いることにより、放電によって電極DKが劣化することがほとんどなく、寿命が極めて長い。電極構造体12とガラス管11との間の密封部分は、従来から実績のある熱間引き抜きによって製造された電極基部25が貫通し、電極基部25にガラスが融着しているので、長期にわたって密封性を維持する点において信頼性が高い。
【0064】
また、電極DKと電極基部25とを連結するに当たり、連結部分は融点の低い金属からなる接合層24であるから、その溶着が容易であり、連結を短時間で容易に確実に行うことができ、また電極本体DHへの悪影響もない。
【0065】
電極DKは、空洞部31の存在によって、径小部22がリング状に突出しており、ガラス管11内における露出表面積を大きくとることができるので、放電し易い。また、単位面積当たりの圧力が低くなるので寿命の点で有利である。端面22aの内外周縁部および底面部31aがアール状になっているので、放電特性が初期から安定し、放電による劣化が抑えられて冷陰極放電管1の寿命が延びる。
【0066】
上に述べた実施形態において、電極DKの形状は、上に述べた以外の種々の形状とすることができる。例えば、図10の電極構造体12Bに示すように、電極本体DHBは、上のようには外径が2段になっていない単純なカップ状である。この場合に、上に述べた電極本体DHと同様な材料および方法で製造した電極本体DHBに、同様な材料からなる接合層24Bを同様な方法で付加し、それを焼成して電極DKBとする。
【0067】
上の実施形態において、冷陰極放電管1の使用時における温度変化によってガラス管11が割れないようにするためには、電極基部25、ガラス管11、およびガラスビーズ26との熱膨張係数を合わせる必要である。電極本体DHがガラス管11に接しない場合には、電極本体DHとガラス管11との熱膨張係数、したがって電極本体DHと電極基部25との熱膨張係数を合わせる必要は必ずしもない。
【0068】
上の実施形態において、第1の混練物RB1と第2の混練物RB2とで、金属の組成が互いに異なったものとしたが、これは、第2の混練物RB2による接合層24に要求される性質に応じて第2の混練物RB2の金属の組成を選択すればよいのである。本実施形態においては、電極基部25の溶接を容易化するために接合層24を設けたので、接合層24の融点が電極本体DHの融点よりも低い金属を用いればよいのである。また、第2の混練物RB2の金属として、焼成された後においては第1の混練物RB1の金属に近い熱膨張係数を有した金属とした場合には、電極構造体12の全体の熱膨張係数がほぼ一定となり、温度変化による歪みの発生が極限的に抑えられ、一層の長寿命化が期待できる。
【0069】
上の実施形態において、ガラス管11を直管形としたが、U字管形でもよい。電極本体DH、電極DK、突起部23、接合層24、電極基部25、電極構造体12、リード線13a,13b、ガラス管11、または冷陰極放電管1の全体または各部の構造、形状、寸法、個数、材料、材質、混合比、または温度などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る冷陰極放電管の断面正面図である。
【図2】冷陰極放電管の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】電極構造体の断面正面図である。
【図4】図3に示す電極構造体の左側面図である。
【図5】図3に示す電極構造体の右側面図である。
【図6】電極の断面正面図である。
【図7】電極構造体の製造方法を説明するための図である。
【図8】電極構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】突起部と接合層の形状の例を示す図である。
【図10】電極の形状の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 冷陰極放電管
11 ガラス管
12 電極構造体
23 突起部
24 接合層
25 電極基部
26 ガラスビーズ
RB1 第1の混練物
RB2 第2の混練物
DK 電極
DKG 電極のグリーン体
DH 電極本体
DHG 電極本体のグリーン体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷陰極放電管用電極の製造方法であって、
金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第1の混練物を成形して電極本体のグリーン体を形成する第1のステップと、
前記電極本体のグリーン体の一方の端部に、前記第1の混練物と組成の異なる金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第2の混練物からなる接合層のグリーン体を付加する第2のステップと、
前記電極本体のグリーン体と前記接合層のグリーン体とを同時に焼成することにより、前記電極本体と前記接合層とが一体になった金属の電極を生成する第3のステップと、
を有してなることを特徴とする冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項2】
前記第1の混練物の金属として主にタングステンまたはモリブデンが含まれ、前記第2の混練物の金属として焼成された後においてはタングステンまたはモリブデンよりも融点の低い合金となる複数種類の金属が含まれてなる、
請求項1記載の冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項3】
前記第1のステップにおいて、バインダ樹脂として溶剤不溶性樹脂が溶剤可溶性樹脂に配合されたものを用い、電極本体のグリーン体を形成した後に脱脂を行う、
請求項1または2記載の冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項4】
前記第1のステップにおいて成形される前記電極本体のグリーン体はカップ状であり、
前記第2のステップにおいて、前記カップ状のグリーン体の底部の外側に前記接合層のグリーン体を付加する、
請求項1ないし3のいずれかに記載の冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項5】
前記第2のステップにおいて、前記接合層のグリーン体として前記第2の混練物によるペースト状のものを用い、当該ペースト状のものを前記電極本体の前記グリーン体の前記端部に塗布することによって付加する、
請求項1ないし4のいずれかに記載の冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項6】
前記第2のステップにおいて、前記接合層のグリーン体として前記第2の混練物を成形した固形状のものを用い、当該固形状のものを前記電極本体のグリーン体の前記端部に配置することによって付加する、
請求項1ないし4のいずれかに記載の冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項7】
前記電極本体のグリーン体および前記接合層のグリーン体には、前記接合層のグリーン体を前記電極本体のグリーン体の端部に配置したときに互いに嵌合して位置決めがなされる嵌合部が設けられている、
請求項6記載の冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項8】
前記電極本体のグリーン体の前記一方の端部に、その端面から突出してその上に前記接合層のグリーン体が付加されるべき突起部が設けられている、
請求項1乃至7のいずれかに記載の冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項9】
前記第3のステップで生成された金属の電極の接合層に、前記第1の混練物の金属に近い熱膨張係数を有する金属を含む電極基部を溶着する第4のステップを有する、
請求項1乃至8のいずれかに記載の冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項10】
前記電極基部は、熱間引き抜きによって製造されたものである、
請求項9記載の冷陰極放電管用電極の製造方法。
【請求項11】
金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第1の混練物を成形して得られた電極本体のグリーン体と、前記電極本体のグリーン体の一方の端部に付加され前記第1の混練物と組成の異なる金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第2の混練物からなる接合層のグリーン体とが、同時に焼成され、前記電極本体と前記接合層とが融合して一体に形成されてなる、
ことを特徴とする冷陰極放電管用電極。
【請求項12】
前記第1の混練物の金属として主にタングステンまたはモリブデンが含まれ、前記第2の混練物の金属として焼成された後においてはタングステンまたはモリブデンに近い熱膨張係数を有し且つタングステンまたはモリブデンよりも融点の低い合金となる複数種類の金属が含まれてなる、
請求項11記載の冷陰極放電管用電極。
【請求項13】
前記接合層に、前記第1の混練物の金属に近い熱膨張係数を有する金属を含む電極基部が溶着されてなる、
請求項11または12記載の冷陰極放電管用電極。
【請求項14】
ガラス管と前記ガラス管の両端部に配置された電極とを有してなる冷陰極放電管であって、
前記電極は、
金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第1の混練物を成形して得られた電極本体のグリーン体と、前記電極本体のグリーン体の一方の端部に付加され前記第1の混練物と組成の異なる金属の微粉末とバインダ樹脂とによる第2の混練物からなる接合層のグリーン体とが、同時に焼成され、前記電極本体と前記接合層とが融合して一体に形成され、且つ、前記接合層に、前記ガラス管に近い熱膨張係数を有する金属からなる電極基部が溶着されてなり、
前記ガラス管の端部において前記電極が挿入され且つ前記電極基部の部分で前記ガラス管との間が密封されてなる、
ことを特徴とする冷陰極放電管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−294242(P2007−294242A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121142(P2006−121142)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(591109751)有限会社コーキ・エンジニアリング (9)
【Fターム(参考)】