凍結保存方法、凍結デバイス、凍結保存システム
【課題】凍結保存方法、凍結デバイス、凍結保存システムを提供する。
【解決手段】試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結保存方法と装置であって、前記懸濁液の凍結保存に用いる凍結デバイス1において、前記試料を収納する第1区画2と、前記凍結液を収納する第2区画3を形成し、前記第1区画と前記第2区画との境界を、非接触操作により前記第2区画に収納した凍結液を第1区画に収納した試料に供給可能な供給手段(液収納部、ノズル)により形成し、前記非接触操作(遠心力を与える操作)により前記凍結液を前記試料に供給する方法および装置。
【解決手段】試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結保存方法と装置であって、前記懸濁液の凍結保存に用いる凍結デバイス1において、前記試料を収納する第1区画2と、前記凍結液を収納する第2区画3を形成し、前記第1区画と前記第2区画との境界を、非接触操作により前記第2区画に収納した凍結液を第1区画に収納した試料に供給可能な供給手段(液収納部、ノズル)により形成し、前記非接触操作(遠心力を与える操作)により前記凍結液を前記試料に供給する方法および装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞や組織を凍結保存するためのデバイス、特にヒトiPS細胞やヒトES細胞、動物やヒトの胚などを凍結保存する場合に好適に用いられる瞬間凍結法を用いてこれらの細胞や組織を凍結保存するに特に好適に用いられるデバイス並びに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を凍結状態で保存するための装置や方法に関する各種の技術が報告されている。例えば霊長類ES細胞などの幹細胞を急速凍結する際に好適に用いられる媒体(凍結液)の組成が、特許文献1に記載されている(以下第1の従来例)。具体的にはDMSO、プロピレングリコール、培地、アセトアミドを特定の濃度で含むDAP媒体が開示されている。またこの媒体を用いる幹細胞の凍結方法である簡易ガラス化法も第1の従来例に開示されている。簡易ガラス化法は、幹細胞等の凍結すべき細胞を、前記媒体を用いて封入管のような汚染しにくい容器に封入し、封入管を液体窒素中に浸すことにより急速冷凍し、その後、急速解凍する方法である。具体的には、継代操作により回収したヒトES細胞のコロニーを遠心分離し、上清を取り除くことにより、予め細胞をペレット状としておく。細胞にDAP媒体200μLを加え、穏やかに懸濁し、予め準備した凍結保存用チューブ(容器)に移す。(チューブのフタを密栓して封入管状態とした上で、)ピンセットでチューブをつかみ、液体窒素につける。液体窒素中で30〜60秒凍結し、内部まで完全に凍らせた後、液体窒素保存容器に移す。
【0003】
ここで、DAP媒体は細胞毒性が強いため、細胞に媒体を添加してからチューブを液体窒素に浸すまでの工程を出来る限りすばやく作業すること、目安として15秒以内、と記載されている。
【0004】
また非特許文献1(以下第2の従来例)にも、上記の細胞に媒体を添加してからチューブを液体窒素に浸すまでの時間として15秒以内を目指すこと、この操作をできるだけon−iceで細胞を温めないように行うこと、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/045007号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ヒト多能性幹細胞維持培養の実践プロトコール(2008)、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターヒト幹細胞研究支援室 刊行、2008年版、12頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来例は、(i)細胞への媒体の添加、(ii)細胞の懸濁、(iii)チューブへの移し替え、(iv)チューブの密栓、(v)チューブの保持と運搬、(vi)液体窒素中へのチューブの浸漬、という多数のステップからなる一連の工程を短時間で行う必要がある。従って、オペレータはこれら一連のクリティカルな工程の操作に予め十分習熟する必要があり、また操作に当たっては細心の注意を払う必要があり、オペレータの負担が大きい、という問題があった。ここで細胞を密栓容器に封入する前は汚染防止のため安全キャビネット内で取り扱う必要があることから、工程(i)から(v)の途中までは安全キャビネットの中での操作となり、操作上の制約が多い。また液体窒素入りの容器は除染しにくいため一般に安全キャビネットの外に設置されることから、(v)の後半の運搬の距離が長くなる制約もある。この様な制約下で万一操作に手間取って時間がかかったり、逆に時間の制約を気にしすぎて操作手順を間違えたり、不完全な操作をするなどの失敗をすると、細胞への悪影響があり、貴重な幹細胞を劣化させたり、それを死滅させる(失う)リスクがある、という問題があった。
【0008】
また上記のクリティカルな工程は時間の制約条件があるため、一度に一つの試料しか処理できず、多数の試料を凍結する場合は作業効率が低い課題があった。第2の従来例によると、ヒトiPS細胞やES細胞などのヒト多能性幹細胞は継代数が多くなると、増殖性、分化能、未分化性、核型などに異常を持つ頻度が徐々に上がってくることが多いため、比較的若い継代数のもので実験を行う方が良いとされており、細胞の凍結ストックもできるだけ若い継代数のものをたくさん作っておくとよいとされている。多数の細胞を凍結することが求められているにも関わらず、作業効率が低いため、オペレータの負担が極めて大きい、という問題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点に着目し、細胞を凍結液に懸濁させて凍結保存する場合において、作業者への負担を軽減し、細胞へのダメージを抑制して短時間で確実に凍結保存を行う、凍結保存方法、凍結デバイス、凍結保存システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る凍結保存方法は、試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結保存方法であって、前記試料を収納する第1区画と、前記凍結液を収納する第2区画を有する凍結デバイスを形成し、前記第1区画と前記第2区画との境界を、非接触操作により前記第2区画に収納した凍結液を第1区画に収納した試料に供給可能な供給手段により形成し、前記凍結デバイスに前記非接触操作を行い、前記凍結液を前記供給手段を介して前記試料に供給することを特徴とする。
【0011】
また、前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に形成され表面張力により前記凍結液を保持可能なノズルと、を有し、前記非接触操作は、前記凍結液が前記ノズルから出力する加速度を前記凍結デバイスに印加する操作であることを特徴とする。
【0012】
さらに、前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2のノズルと、前記強磁性体により吸引され、前記第2のノズルを封止する磁石と、を有し、前記非接触操作は、前記磁石が前記第2のノズルから離脱する磁場を印加して前記第2のノズルの封止を解除することにより前記第2のノズルから前記凍結液を出力する操作であることを特徴とする。
【0013】
上記凍結保存方法を具現化する本発明に係る凍結デバイスは、第1には、試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結デバイスであって、前記凍結デバイスは、前記試料を収納する第1区画と、前記凍結液を収納する第2区画と、前記第1区画と前記第2区画との境界を形成し、前記凍結液を非接触操作により前記試料に供給する供給手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
第2には、前記凍結デバイスは、開口部を有する容器と、前記開口部を密栓可能な蓋を有し、前記供給手段は、前記蓋に一体で形成されるとともに前記開口部から挿入可能で前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に形成され表面張力により前記凍結液を保持可能なノズルを有するとともに、前記非接触操作は、前記凍結液が前記ノズルから出力する加速度を印加する操作であることを特徴とする。
【0015】
第3には、前記中空の管または前記ノズルには、メッシュ状の充填材が充填されたことを特徴とする。
【0016】
第4には、前記凍結デバイスは、開口部を有する容器と、前記開口部を密栓可能な蓋を有し、前記供給手段は、前記蓋側が開口し前記容器に挿入されて、前記容器の内壁に当接して前記容器に保持され、前記蓋側から前記凍結液を注入可能な中間ユニットと、前記中間ユニットの挿入側に形成された出力孔と、前記出力孔を封止するように形成され、前記凍結液を保持するとともに前記被接触操作により前記凍結液を前記容器に出力する第2の充填材を有するとともに、前記非接触操作は、前記凍結液が前記第2の充填材を介して前記出力孔から出力する加速度を印加する操作であることを特徴とする。
【0017】
第5には、前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2のノズルと、前記第2のノズルに吸着され、前記第2のノズルを封止する磁石と、を有し、前記非接触操作は、前記磁石が前記第2のノズルから離脱する磁場を印加して前記第2のノズルの封止を解除することにより前記第2のノズルから前記凍結液を出力する操作であることを特徴とする。
【0018】
また本発明に係る試料の前記凍結保存システムは、前記凍結デバイスを保持する容器ホルダと、前記容器ホルダを回転運動及び偏心円運動をさせる駆動装置と、を有し、前記容器ホルダは、前記容器ホルダの周縁において前記供給手段の出力側を前記容器ホルダの外周側に向けた状態で前記凍結デバイスを保持し、前記駆動装置は、前記容器ホルダを回転運動させ、前記凍結デバイスに発生する遠心力により前記供給手段から前記凍結液を出力して前記試料に供給するとともに、前記容器ホルダを偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁し、前記容器ホルダは、前記駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能であることを特徴とする。
【0019】
さらに本発明の試料の凍結保存システムは、前記凍結デバイスを保持する容器ホルダと、前記容器ホルダに搭載され前記磁場を発生させる第2の磁石と、前記容器ホルダを偏心円運動させる第2の駆動装置と、を有し、前記第2の磁石は、前記磁石を前記磁場により前記第2の磁石側に吸引し前記第2のノズルの封止を解除して前記凍結液を前記第2のノズルから出力して前記試料に前記凍結液を供給し、前記第2の駆動装置は、前記容器ホルダに偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁させるとともに、前記容器ホルダは、前記第2の駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能であることを特徴とする。
そして、前記容器ホルダは、前記凍結デバイスを複数保持可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る凍結保存方法及び凍結デバイスによれば、第1には、凍結デバイス内において試料と凍結液が分離され、それぞれ独立に収納が可能である。すなわち、凍結デバイスに凍結液を注入する工程と、凍結デバイスに収納された試料に凍結液を供給する工程とが分離される。そして、非接触操作により凍結液が試料に供給されるため、上述の(i)、(ii)の工程を自動的、連続的に処理することができる。なお本発明では凍結デバイスだけを用いて細胞等と凍結液の混合、分散、凍結を一貫して行うため、本発明では工程(iii)に相当する移し替え工程を省略することができる。したがって、作業者が凍結液をピペット等で試料に供給する作業等を行う必要がなく、懸濁液の凍結保存までの時間を短縮できるのみならず、その時間のムラも抑制することができるので、試料へのダメージを安定的に抑制することができる。
【0021】
第2には、供給手段は凍結デバイスの蓋に一体で形成されたため、供給手段を容器から離した状態で凍結液を収納することができる。そして、容器の密栓工程が、細胞等と凍結液とが互いに接触する以前に完了しているため、上述の工程(iv)に相当する容器の密栓工程を、クリティカルな工程の時間カウント外とし、作業効率を向上させることができる。そして、供給手段は中空の管と管の先端に形成されたノズルからなるが、供給手段に加速度、具体的には遠心力を印加することで凍結液を試料に供給することができるので、遠心分離器等の簡易な装置に搭載して人為的作業を伴うことなく容易に凍結液を試料に供給することができる。
【0022】
第3には、中空の管またはノズルにメッシュ状の充填材を充填することで、凍結液の通液抵抗を増加させて、非接触操作前においてノズルから凍結液が漏れることを防止することができる。
【0023】
第4には、凍結液を蓋及び容器とは分離し蓋側が開口した中間ユニットを容器に挿入する構成とすることにより凍結液の供給手段への注入が容易になり作業効率が向上する。
【0024】
第5には、供給手段は凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2ノズルと、前記強磁性体により吸引され、前記第2ノズルを封止する磁石と、を有し、非接触操作は、前記磁石が前記第2ノズルから離脱する磁場を印加して前記凍結液を前記第2ノズルから出力させる操作とすることにより、第2ノズルは凍結液の表面張力を利用する必要はなく、第2ノズルの内径を大きくすることが出来るので、凍結液の試料への供給を短時間で行うことが可能となり、凍結保存までの時間をより短縮することができる。
【0025】
また本発明に係る試料の凍結保存システムによれば、遠心運動に代表される非接触の操作により凍結液を細胞等へ添加する工程(上記(i)に相当する)を実現し、また偏心円運動に代表される非接触の操作により細胞等を凍結液に懸濁する工程(同(ii)に相当する)を実現することができる。ここで非接触の意味は、これらの工程を行うために、容器の蓋を開ける必要が無く、容器内部にピペットを挿入して操作する必要が無い、という意味である。
【0026】
さらに本発明に係る試料の凍結保存システムによれば、磁力により第2ノズルの封止を解除することができるので、第2ノズルの内径を大きくすることができ、凍結液の試料への供給を短時間で行うことが可能となり、凍結保存までの時間をより短縮した凍結保存システムとなる。そして容器ホルダは駆動装置または第2駆動装置から着脱自在であるので、懸濁後速やかに容器ホルダごと凍結デバイスを凍結用冷媒に浸漬することができ、作業効率を向上させることができる。
【0027】
また容器ホルダは凍結デバイスを複数保持可能であるので、作業効率を向上させるとともに、各凍結デバイスにおいて試料と凍結液との懸濁液が同時に形成されるため、作業ムラも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施例による凍結デバイスの断面を模式的に示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施例による凍結デバイスの構成を模式的に示す概略図である。
【図3】本発明の第1の実施例による撹拌遠心機の容器ホルダのワンタッチ脱着機構の構成を模式的に示す概略図である。
【図4】本発明の第1の実施例による容器ホルダの形状を模式的に示す概略図である。
【図5】本発明の第1の実施例による凍結デバイスの動作を模式的に示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施例、並びに従来例に従って凍結した細胞の、解凍後の生細胞率を評価した結果の例である。
【図7】本発明の第1の実施例の第1の変形例による容器ホルダの断面を模式的に示す概略図である。
【図8】本発明の第1の実施例の第2の変形例による容器ホルダの断面を模式的に示す概略図である。
【図9】本発明の第3の実施例による凍結デバイスの断面を模式的に示す概略図である。
【図10】本発明の第3の実施例によるホルダの断面及びその使用方法を模式的に示す概略図である。
【図11】本発明の第4の実施例による凍結デバイスの構成を模式的に示す概略図である。
【図12】本発明の第4の実施例による凍結デバイスの使用方法を模式的に示す概略図である。
【図13】本発明の第4の実施例による凍結デバイスの使用前の構成と準備手順を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0030】
図1に凍結デバイスの模式図を示す。本発明に係る凍結保存方法は、試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結保存方法であって、前記試料を収納する第1区画2と、前記凍結液を収納する第2区画3を有する凍結デバイス1を形成し、前記第1区画2と前記第2区画3との境界を、非接触操作により前記第2区画3に収納した凍結液を第1区画2に収納した試料に供給可能な供給手段により形成し、前記凍結デバイス1に前記非接触操作を行い前記凍結液を前記試料に供給するものであり、これを具現化する凍結デバイス1は、試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結デバイス1であって、凍結デバイス1は、前記試料を収納する第1区画2と、前記凍結液を収納する第2区画3と、前記第1区画2と前記第2区画3との境界を形成し、前記凍結液を非接触操作により前記試料に供給する供給手段と、を有するものである。
【0031】
本実施例に係る凍結デバイス1においては、前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管である液収納部13と、前記管の先端に形成され凍結液の表面張力により前記凍結液を保持可能なノズル13aを有するとともに、前記非接触操作は、前記凍結液が前記ノズル13aから出力する加速度(遠心力)を印加する操作である。
【0032】
図1は本実施例による凍結デバイス1の断面の模式図である。図2は本実施例による凍結デバイス1の主要構成要素である上部ユニット10と、下部ユニット20の断面の模式図である。この供給手段を構成する液収納部13とノズル13aとで凍結デバイス1において第1区画2、及び第2区画3の境界を形成する。そして、本実施例に係る凍結デバイス1は、上部ユニット10、下部ユニット20により構成される。
【0033】
上部ユニット10の構成概略は以下の通りである。11はキャップ、12はパッキン、13は液収納部、14は開口部、15は充填剤である。液収納部13は基本的に中空の管であり、その先端(図の下方向)に内径約0.3mmの毛細管状のノズル13aを有し、キャップ11と一体に形成され、液収納部13及びノズル13aは下部ユニット20(後述の容器本体21)の開口部20aから挿通可能となっている。開口部14は液収納部13の側壁に設けた貫通孔であり中空管の内外を連通する。充填剤15は液収納部13の先端内部に充填されている。充填剤15としては、日本石英硝子(現東ソー)製のスーパーファイン級の石英ウールを用いた。パッキン12は扁平なドーナツ状のシリコンゴムからなり、図中ではキャップ11とは独立に記したが、両者は一体で用いられるため、以下ではキャップ11はパッキン12を含むものとして説明する。
【0034】
下部ユニット20の構成概略は以下の通りである。21は容器本体、22は容器底部、23はネジ部である。容器底部22は容器本体21の内側面の一部であり、ネジ部23は容器本体21の外側面の一部である。従って、本実施例では下部ユニット20は容器本体21と同義である。なおネジ部23(雄ねじ)に対応する雌ねじがキャップ11の内側に形成されているが、その図番は省略した。
【0035】
ちなみに凍結デバイス1の上部ユニット10から液収納部13を除いたキャップ部と、下部ユニット20(即ち容器本体21)は、従来技術によるクライオチューブのキャップと容器本体にそれぞれ対応する。従来のクライオチューブのキャップを以下従来のキャップ11’と記す(不図示)。従って、本実施例による凍結デバイス1は、従来のクライオチューブを元に、液収納部13をキャップ部分に新たに設けた構成を採用したということもできる。
【0036】
本実施例において好適に用いられる撹拌遠心機について説明する。本実施例では撹拌遠心機として、(株)日伸理化製の撹拌遠心機NSD−12Jを使用した。この装置は12個(複数)の容器を保持可能な容器ホルダを有し、遠心動作と、撹拌動作の両方の機能を有する。標準の容器ホルダは2mLの遠沈管に対応するが、凍結デバイス1の下部ユニット外径に適合する容器ホルダ穴を有する特注の容器ホルダを用いることにより、凍結デバイス1を容器ホルダ穴に収納して使用した。この撹拌遠心機は容器ホルダを固定ネジにより装置本体に固定する。固定ネジを取り外せば容器ホルダも取り外し可能であるが、固定ネジの取り外しには手間と時間がかかる。そこで本実施例ではこの製品における容器ホルダの固定機構を改良し、容器ホルダを瞬時に取り外し可能なワンタッチ脱着機構を新たに開発して採用した。
【0037】
図3は、本実施例における撹拌遠心機の容器ホルダのワンタッチ脱着機構の断面の模式図である。100は容器ホルダ、110は固定具、120はCリング、 130と140はナットである。図4は、本実施例で採用した撹拌遠心機の容器ホルダ100の形状概略を示す上面図である。101は容器用穴、102はセンター穴、103は容器ホルダ穴である。
【0038】
よって、本実施例の凍結保存システムは、凍結デバイス1を保持する容器ホルダ100と、容器ホルダ100を回転運動及び偏心円運動をさせる駆動装置となる攪拌遠心機、を有し、容器ホルダ100は、容器ホルダ100の周縁において前記供給手段(液収容部13、ノズル13a)の出力側を容器ホルダ100の外周側に向けた状態で凍結デバイス1を保持し、前記駆動装置は、容器ホルダ100を回転運動させ、凍結デバイス1に発生する遠心力により前記供給手段から前記凍結液を出力して前記試料に供給するともに、容器ホルダ100を偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁し、容器ホルダ100は、前記駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能である構成を有する。
【0039】
次に実施例1に基づく凍結デバイスを用いた凍結保存システムの動作の概略を説明する。図5は、本実施例の動作を模式的に示すフローチャートである。ステップ1001は準備工程、ステップ1002は遠心工程、ステップ1003は撹拌工程、ステップ1004は液体窒素等の凍結用冷媒への浸漬工程である。本発明による凍結デバイスの動作の概略は、準備工程(ステップ1001)において凍結デバイス1の下部ユニット20の容器底部22に細胞等のペレットを収納し、凍結液を液収納部13に収納し、上部ユニット10を下部ユニット20にはめ込むことにより凍結デバイス1を密栓状態とし、それを撹拌遠心機の容器ホルダ100に設置した。遠心工程(ステップ1002)において撹拌遠心機の遠心動作により、凍結液に対し遠心加速度を作用させることにより、非接触で(換言すると凍結液や細胞などを直接操作することなく)、凍結液を液収納部13から容器底部22に落下させた。撹拌工程(ステップ1003)において撹拌遠心機の撹拌動作により、細胞等のペレットを凍結液と混合して懸濁した。液体窒素への浸漬工程(ステップ1004)において容器ホルダごと凍結デバイス1を撹拌遠心機からワンタッチで取り外し、液体窒素浴に浸漬して細胞等を凍結した。
【0040】
次に実施例1の凍結デバイスを用いた凍結保存システムについて詳細に説明する。
事前準備として、まず撹拌遠心機NSD−12Jの遠心調節つまみ(Spindown)を5.3メモリ、撹拌調節つまみ(Speed)を7.5メモリに設定し、容器ホルダ100を撹拌遠心機に設置し、容器ホルダ100にバランス容器(細胞や凍結液を入れていない新品の凍結デバイス1など)を、定法に従って適宜設置した。また撹拌遠心機のそばに液体窒素浴を準備した。遠心調節つまみ5.3メモリは、回転数にして約2400rpm、遠心力換算で約400xgの条件に相当する。また撹拌調節つまみ(Vortex)は偏心円運動の回転数にして約1200rpmに相当する。
【0041】
準備工程(ステップ1001)の第1手順として、凍結デバイス1から上部ユニット10を取り外し、代わりに従来のキャップ11’を用いて、細胞等のペレットを得た。具体的には、凍結デバイス1の下部ユニット20に細胞等の懸濁液を収納し、従来のキャップ11’により密栓し、遠心分離機に設置して170xgの遠心力により5分間遠心分離を行い、キャップ11’を外し、上清を概ね除去した。キャップ11’により密栓し、再度1分間遠心分離を行い、キャップ11’を外し、上清を完全に除去することにより、下部ユニット20の容器底部22に細胞等のペレットを得た。なお下部ユニット20は使用開始前に4℃に冷却しておき、遠心分離工程に冷却遠心機を4℃に設定して使用し、上清除去操作や操作完了後の保管を4℃に設定した電子冷却プレート等の上で行うことにより、細胞等を保冷したまま操作することが好ましい。
【0042】
準備工程(ステップ1001)の第2手順として、凍結液を液収納部13に収納した。第2手順は第1手順の遠心分離を行っている間に実行可能である。具体的には前記第1手順で取り外した上部ユニット10の液収納部13に、凍結液(リプロセル社製霊長類ES細胞用凍結液)200マイクロリットルを、開口部14を通して微量分注ピペッターを用いて注入した。注入の際は開口部14が鉛直上向きとなるように上部ユニット10の中心軸を水平に保持した。また液収納部13先端の毛細管状のノズル部13aの内部に気泡と凍結液とをピペッターを用いて交互に注入した。
【0043】
次に、凍結液を収納した液収納部13について、液漏れの確認試験を行った。液漏れとは凍結液が遠心工程以前に液収納部13から落下することを指す。液漏れの確認試験には、凍結液を液収納部13に収納した上部ユニット10を、細胞等のペレットを収納したものとは別の(空の)下部ユニット20の上に、キャップ11が鉛直上向きに、ノズル13aが鉛直下向きになるようにかぶせてはめ込み、密栓動作の繰り返しや、軽い振動を加えたり、放置などしても、凍結液が液収納部13の先端のノズル13aから下部ユニット20へ落下しないことを確認した。
【0044】
上記方法で凍結液を収納した液収納部13を準備すると、ほとんどの個体は液漏れを起こさなかった。これはノズル13aが毛細管状であって表面張力により凍結液を保持可能であることや、毛細管の内部に気液が交互に存在する状況や、先端内部に充填されている充填剤15、などの相乗効果によって、表面張力や通液抵抗が高い状況が達成され、凍結液が重力等により落下することを防止できたと考えられる。ノズル13aの毛細管径をより狭くし、充填剤15として石英ウールよりも表面積の大きい微粒子状の充填剤、あるいは微粒子を焼結して作成した目皿状の充填剤を用いる、などの方法により液の流通抵抗を上昇させることにより、毛細管の内部に気液を交互に形成しなくても、凍結液の落下を防止できる。
【0045】
なお極めて低い確率で液漏れを起こす個体があったが、それら不良品はこの確認工程で排除し、確認試験をパスした良品のみを次の工程に使用した。もちろん確認試験と良品の選別を製造工程の途中で行うことにより、準備工程における確認試験は省略できる。本実施例では凍結液を液収納部13に収納する際に開口部14を通して注入する方式を例にとって説明したが、凍結液は液収納部13の先端のノズル部から微量分注ピペッターで(先が太いピペットチップを用いて)注入することもできる。この場合は開口部14の位置は図2における上方、即ち液収納部13のキャップ11との接続部により近い位置に設けることが出来る。この場合、液収納部13の長さは短縮可能である。極端な例としては、開口部14は液収納部13側面の貫通孔としてではなく、液収納部13の(キャップ11との接続部における)切り込みとしても形成可能である。
【0046】
準備工程(ステップ1001)の第3手順として、上記第1手順で準備した細胞ペレットを収納する下部ユニット20の上に、第2手順で準備した上部ユニット10をはめ込み、密栓して、凍結デバイス1を得て、それを撹拌遠心機の容器ホルダ100に設置し、撹拌遠心機のフタを閉じた。この凍結デバイス1の内部には、細胞等のペレットが容器底部22に収納され、また凍結液が液収納部13に収納され、両者は互いに独立の区画に存在する。換言するとここまでの準備工程において凍結液と細胞等は互いに接触も混合もしていない。従ってここまではクリティカルな工程時間にはカウントされないため、時間的制約を受けずに操作できる。
【0047】
次に、遠心工程(ステップ1002)において、撹拌遠心機の遠心スイッチ(Spindown)を1秒間入れ、その後スイッチを切って、3秒間放置した。このとき供給手段(液収納部13、ノズル13a)の出力側(ノズル13a側)が容器ホルダ100の外周側を向く配置となっている。400xgで1秒間の遠心動作により、凍結デバイス1内の液収納部13に収納した凍結液は遠心力によりノズル13bから出力して容器底部22に落下し、細胞等のペレットと接触した。従って、本実施例においてはクリティカルな工程時間のカウントは、この時点から始まる。ここで遠心調節つまみのメモリは所定の遠心力が得られるよう、容器の数等に応じて適宜選択可能である。また、本実施例では遠心動作終了後、回転がほぼ停止するまでの待ち時間として3秒を採用したため、本工程時間は4秒である。
【0048】
次に、撹拌工程(ステップ1003)において、撹拌遠心機の撹拌スイッチ(Vortex)を2秒間入れ、その後スイッチを切った。また撹拌動作の間に、撹拌遠心機のふたを開けた。2秒間の撹拌動作により、凍結液が細胞等のペレットと混合し、細胞等の懸濁液を得た。本工程時間は2秒である。
【0049】
次に、液体窒素への浸漬工程(ステップ1004)において、凍結デバイス1を容器ホルダ100ごと撹拌遠心機から取り外し、液体窒素浴まで移動し、液体窒素浴に浸漬した。これにより、細胞等を瞬間的に凍結した。前述の通り、本実施例では容器ホルダ100をワンタッチで脱着可能な機構を用いたため、容器ホルダ100は瞬時に撹拌遠心機から取り外せる。本工程(液体窒素に浸漬するまで)の時間は約2秒である。以下、このワンタッチ脱着機構の詳細な構造と動作を説明する。
【0050】
固定具110の断面は凸状であり、横長の下部と縦長の上部は一体に形成され、上部側面には雄ねじが形成されている。固定具110は撹拌遠心機の遠心機構と連結しており、図3の垂直方向の中心線を中心に固定具110ごと回転する。また撹拌遠心機の遠心機構は撹拌機構と連結しており、固定具110を偏心円運動させる。固定具110に設けられた容器ホルダー用ボス(不図示)は容器ホルダ穴103にかん合する。またCリング120はナット130、140により固定具110上部の中心軸の周囲に固定される。Cリング120の下部斜面は、容器ホルダ100のセンター穴102の上縁と圧接するため、容器ホルダ100は固定具110に固定される。従って固定具110の回転や偏心円運動は容器ホルダ100に伝達され、容器ホルダ100の容器用穴101に収納した容器に対し、遠心や、撹拌の作用を及ぼす。
【0051】
ちなみに図3の状態で撹拌遠心機あるいは固定具110の上部を固定した上で、容器ホルダ100を上方に引き上げる力を加えると、Cリング120が縮んで、容器ホルダ100のセンター穴102はCリング120の周囲を滑り抜けて、容器ホルダ100は固定具110から外れる。即ち容器ホルダ100は撹拌遠心機からワンタッチで脱着可能である。逆に、容器ホルダ100を撹拌遠心機の固定具110とCリング120の間に押し込むことにより、ワンタッチで撹拌遠心機に装着可能である。
【0052】
本実施例では容器ホルダ100を撹拌遠心機からワンタッチで脱着可能とするための機構部品としてCリング120を用いたが、この目的に利用可能な機構はCリング方式に限定されない。他の採用可能な機構の例としては、弾性体で形成したツメを用いる方式に代表される、光学式ディスクを軸に固定する目的で使用される各種の方式、電磁チャック方式、エアバルーンチャック方式、電磁石や永久磁石などの磁力により容器ホルダを固定具に着脱自在に固定する方式、Oリング方式、などがある。これら各種の方式を採用することにより、容器ホルダ100を撹拌遠心機からワンタッチで脱着可能とすることができる。
【0053】
本実施例で採用した容器ホルダ100は図4に示したとおり容器用穴101を12個備える。従って、上記準備工程(ステップ1001)において、複数の(最大12の)試料についてそれぞれ独立の凍結デバイス1を準備し、それぞれを1つの容器ホルダに設置することができる。また遠心工程(ステップ1002)、撹拌工程(ステップ1003)、液体窒素への浸漬工程(ステップ1004)はいずれも容器ホルダ100を単位として行うため、これら複数試料を一括操作可能である。即ち、本実施例ではクリティカルな工程について複数試料を一括処理可能である。より多くの容器用穴101を備える容器ホルダ100を採用することにより、一括処理可能な試料数を12以上に増やすことが可能である。撹拌遠心機としてより大型のものを採用することにより、同時処理可能な試料数をさらに増やすことも可能である。
【0054】
本実施例におけるクリティカルな工程の時間、即ち凍結液と細胞等が互いに接触してから液体窒素に浸漬されるまでの時間は、ステップ1002からステップ1004までの時間の合計、即ち約8秒である。つまり、従来例に記載されているクリティカルな工程時間の目安である15秒の約半分であるため、細胞への悪影響が少ない。また、本実施例におけるクリティカルな工程の操作は、スイッチ2つの操作と、ふた開け、容器ホルダのワンタッチ取り外しと、液体窒素浴への投入という単純な操作だけであり、熟練や注意は不要で、失敗のリスクもほとんど無いため、オペレータの負担が少なく、細胞への悪影響のリスクも低い。
【0055】
本実施例では毛細管状のノズル13aや充填剤15の表面張力により凍結液を保持したが、他の原理を用いて凍結液を保持することも可能である。例えば、弾性体で支持した弁(不図示)をノズル13aに設け、通常は弁(不図示)が閉じた状態とし、強い遠心加速度が作用した場合のみ弁(不図示)が開いて凍結液が落下する構成を採用することも可能である。
【0056】
本実施例の効果について、細胞を用いて評価した。細胞として接着性のヒトセルライン(HT−29)をATCCのプロトコルに従って培養し、播種4日後に剥離、回収した細胞200万個を実験材料として使用した。それを本実施例あるいは第2の従来例のいずれかの方法で凍結した。これらの凍結細胞を第2の従来例の10頁に記載の方法により解凍し、細胞の生細胞率を評価した。結果の一例を図6に示す。ちなみに実験に用いた細胞は、剥離回収後、培地中に氷温で約6時間保冷したものであり、実験に供する直前の生細胞率は98.3%であった。本発明方法による凍結実験は3回行い、うち後二者は複数試料を同時に凍結処理した。図6から明らかなとおり、いずれの試料についても、解凍後の生細胞率は従来法と同等以上であった。同様の実験を複数回繰り返したが、いずれの場合も同様の結果が得られた(不図示)。本発明方法によって凍結した細胞は解凍後の生細胞率が高いことから、本発明方法は細胞に対する悪影響が少なく、信頼性が高い方法であることが確認された。この理由は、本発明のクリティカル工程時間が約8秒と、従来法の約半分であるため、常温において毒性の高い凍結液の影響を受けにくいためと考えられる。
【0057】
従って、本実施例は、従来よりも短時間かつ簡便な操作で、複数試料について同時に、高い信頼性をもって、凍結を行えるという特有の効果がある。
なお、本実施例では撹拌遠心機に標準で付属する容器ホルダ100を用いたが、本発明の目的のためにやや異なる形状の容器ホルダを製作して用いることも可能である。この第1の変形例による容器ホルダ100’の断面概略図を図7に示す。図示の通り、容器ホルダ100’は実施例1の容器ホルダ100と類似であるが、容器を保持する部分の傾斜が急であり、容器を水平に近い角度で保持する点が異なる。また凍結デバイス1のキャップ11に、開口部14の位置を示すマークを付記した点も異なる。
【0058】
本変形例を用いる場合の動作は実施例1と概ね同等であるが、以下の点が異なる。まず準備工程(ステップ1001)の第2手順において、凍結デバイス1の液収納部13に凍結液を収納する際、液収納部13先端の毛細管状のノズル部の内部に気泡と凍結液とを交互に注入する工程を省略した。また凍結液を液収納部13に収納後、開口部14が鉛直上向き、換言すると上部ユニット10の中心軸を水平に保持したままとした(液漏れの確認試験を行わなかった)。次に準備工程(ステップ1001)の第3手順において、上記第2手順で準備した(凍結液入りの)上部ユニット10を、第1手順で準備した(細胞ペレット入りの)下部ユニット20をはめ込んで密栓して、凍結デバイス1を得て、それを撹拌遠心機の容器ホルダ100’に設置した。この間、開口部14が常に鉛直上向きとなるように姿勢を維持した。即ち凍結デバイス1中に凍結液を入れた後に、先端ノズル部は水平に維持され、鉛直下向きを向くことが無いため、凍結液が液漏れを起こす虞がない。
【0059】
本変形例特有の効果は、凍結液が液漏れを起こす虞がないため、凍結デバイス1の液収納部13、特にその先端のノズル13aの形状の尤度が高く、作成が容易であることと、凍結液を収納する際に、ノズル13aの内部に気泡と凍結液とを交互に注入する必要が無いため、操作が簡便であることである。
【0060】
第2の変形例として、容器ホルダとしてスイングローター式の容器ホルダを用いることも可能である。特にスイングローターとして、回転前においては、図8(a)に概念的に示す様に、容器を概ね水平に保持可能な初期状態に設定できるものを採用することが好ましい。このスイングローターは、回転時には図8(b)に概念的に示す様に、遠心力により通常のスイングローターの状態に遷移する。即ち容器を保持する部分が遠心力と重力加速度との兼ね合いで自由な角度を取る。本第2の変形例は第1の変形例同様、先端ノズル部の表面張力や通液抵抗が少ない液収納部13を有する凍結デバイス1と組み合わせることが可能である。さらに、図8(b)の状態では凍結液の落下に重力加速度を用いることが出来るため、遠心を極めて短時間行うだけでよい(図8(a)から同(b)の状態に遷移させるだけでよい)、という特有の効果がある。
【0061】
よって本実施例に係る凍結保存方法及び凍結デバイスによれば、第1には、凍結デバイス1内において試料と凍結液が分離され、それぞれ独立に収納が可能である。すなわち、凍結デバイスに凍結液を注入する工程と、凍結デバイスに収納された試料に凍結液を供給する工程とが分離される。そして、非接触操作により凍結液が試料に供給されるため、従来技術で述べた(i)、(ii)の工程を自動的、連続的に処理することができる。なお本実施例では凍結デバイス1だけを用いて細胞等と凍結液の混合、分散、凍結を一貫して行うため、本発明では従来技術で述べた工程(iii)に相当する移し替え工程を省略することができる。したがって、作業者が凍結液をピペット等で試料に供給する作業等を行う必要がなく、懸濁液の凍結保存までの時間を短縮できるのみならず、その時間のムラも抑制することができるので、試料へのダメージを安定的に抑制することができる。
【0062】
第2には、供給手段(液収納部13、ノズル13a)は凍結デバイス1の蓋である上部ユニット10に一体で形成されたため、供給手段を容器から離した状態で凍結液を収納することができる。そして、容器である下部ユニット20の密栓工程が、細胞等と凍結液とが互いに接触する以前に完了しているため、従来技術で述べた工程(iv)に相当する容器の密栓工程を、クリティカルな工程の時間カウント外とし、作業効率を向上させることができる。そして、供給手段は中空の管である液収納部13とその先端に形成されたノズル13aからなるが、供給手段に加速度、具体的には遠心力を印加することで凍結液を試料に供給することができるので、遠心分離器等の簡易な装置に搭載して人為的作業を伴うことなく容易に凍結液を試料に供給することができる。
【0063】
第3には、中空の管である液供給部13またはノズル13aにメッシュ状の充填剤15を充填することで、凍結液の通液抵抗を増加させて、非接触操作前においてノズルから凍結液が漏れることを防止することができる。
【0064】
また本実施例の凍結デバイスを用いた凍結保存システムによれば、遠心に代表される非接触の操作により凍結液を細胞等へ添加する工程(従来技術の(i)に相当する)を実現し、また偏心円運動に代表される非接触の操作により細胞等を凍結液に懸濁する工程(同(ii)に相当する)を実現することができる。また凍結保存システムを構成する容器ホルダ100は凍結デバイス1を複数保持可能であるので、作業効率を向上させるとともに、各凍結デバイス1において試料と凍結液との懸濁液が同時に形成されるため、作業ムラも抑制することができる。そして容器ホルダ100は駆動装置から着脱自在であるので、懸濁後速やかに容器ホルダ100ごと凍結デバイスを凍結用冷媒に浸漬することができるので作業効率を向上させることができる。
【実施例2】
【0065】
実施例2による凍結デバイス及び凍結保存システムの構成は実施例1と類似であるが、撹拌遠心機として、遠心動作終了後に機械的にブレーキをかける機構を有するものを採用し、遠心後の待ち時間を短縮した点と、撹拌工程における撹拌強度設定を高めて撹拌時間を短縮した点、撹拌遠心機の動作をPLC(ロジックコントローラ)で制御することにより、操作を自動化した点などが異なる。
【0066】
具体的には、撹拌遠心機NSD-12Jのカバー部分を改造し、容器ホルダに対してスポンジなどの弾性体を押しつけることができる電動のブレーキ機構を設けた。従来は遠心後容器ホルダが概ね停止するまでに約3秒の待ち時間が必要であったが、遠心動作終了後に電動ブレーキを作動させることにより、容器ホルダの回転は1秒以内に停止した。また、撹拌遠心機の遠心スイッチ、撹拌スイッチ、電動ブレーキのスイッチをPLCに配線し、撹拌遠心機の動作をPLCにより自動制御するシーケンスを組むことにより、起動スイッチ一つで、遠心工程(ブレーキ動作を含む)と撹拌工程を全自動で実行可能とした。
【0067】
事前準備の段階において、撹拌調節つまみ(Speed)をMAXメモリに設定して使用した。
遠心工程(ステップ1002)において、遠心動作終了後に電動ブレーキをかけることにより、容器ホルダが概ね停止するまでの待ち時間を約1秒に短縮し、工程時間を2秒とした。
撹拌工程(ステップ1003)において、撹拌を1秒間とした。
それ以外は実施例1と同様の構成と手順を採用した。
【0068】
本実施例ではクリティカルな工程時間は合計5秒である。これは従来例の1/3であり、従来よりもクリティカルな工程時間が極めて短いため、細胞への悪影響が極めて少なく、また時間的な余裕があり、起動スイッチ1つの操作だけで撹拌までの工程が完了するため、操作者の負担も少ない、という特有の効果がある。
【0069】
なお本実施例では撹拌遠心機としてNSD−12Jを改造して使用する例を説明したが、他の撹拌遠心機、例えばBiosan社MSC−3000を用いることもできる。MSC−3000が装備するブレーキは強力なためか遠心後容器ホルダが概ね停止するまでの時間が短い。また遠心と撹拌の動作をプログラム可能であるため、PLCを外付けすることなしに自動化が可能である。本発明に使用可能な撹拌遠心機はNSD−12Jに限定されず、市販の各種の装置を目的に応じて選定したり、改造して使用することができる。
【実施例3】
【0070】
実施例3による凍結デバイス及び凍結保存システムの構成は実施例1と類似であるが、液収納部13の構造が異なり、それに付随して凍結液を細胞に落下させる機構が異なる。
【0071】
実施例3において、供給手段は、凍結液を収納する中空の管である液収納部13と、管の先端に強磁性体で形成された第2のノズル13bと、第2のノズル13bに吸着され、第2のノズル13bを封止する磁石の小球16と、を有し、非接触操作は、磁石の小球16が第2のノズル13bから離脱する磁場を印加して第2のノズル13bの封止を解除することにより第2のノズル13bから凍結液を出力する操作である。
【0072】
具体的には、本実施例で採用した凍結デバイス1bは、図9に模式的に示すとおり、上部ユニット10bの構成要素である液収納部13先端の毛細管状のノズル13bが、テフロン(登録商標)で被覆したニッケル等の強磁性体で形成され、また新規構成要素として、ノズルの先端に、テフロン(登録商標)で被覆した磁石の小球16を有する。また、図10上部に模式的に示すとおり、容器ホルダ30を設けた。容器ホルダ30は、凍結デバイス1bを収納可能な窪みを有する収納部32と、強力なアルニコ磁石により形成された第2の磁石31を有する側壁部33とから構成される。図10下部((a)、(b))に模式的に示すとおり、収納部32と側壁部33は互いに着脱自在であり、側壁部33が内蔵する第2の磁石31は凍結デバイス1bの小球16に対向する位置に設置される。また本実施例では撹拌遠心機ではなく、遠心機構を持たない単なる撹拌装置を第2の駆動装置として用いた。
【0073】
実施例3の動作の概略は第3の実施例と同様であるが、以下の点が異なる。磁石の小球16は磁力によりノズル13b(ニッケル)に吸着し、ノズル13bの先端を封止するため、凍結デバイス1bの液収納部13に凍結液を収納する際、液漏れを起こすことがない。本実施例では遠心工程(ステップ1002)の代わりである凍結液添加工程(ステップ1002’)において、予め凍結デバイス1bを(側壁部33を外した)容器ホルダ30の収納部32に設置した(図10(a))。次に容器ホルダ30の側壁部33を、収納部32に着合した。
【0074】
すると、第2の磁石31の作用により、磁石の小球16は液収納部13先端のノズルから離脱し、容器ホルダ30の第2の磁石31近傍の容器本体21の壁面に吸着する(図10(b))。ノズル13bの先端を封止する磁石の小球16が無くなったため、液収納部13から凍結液が細胞に落下する。撹拌工程(ステップ1003’)において、凍結デバイス1bを容器ホルダ30ごと撹拌装置により撹拌した。最後に、液体窒素への浸漬工程(ステップ1004’)において、凍結デバイス1bを容器ホルダ30ごと液体窒素浴まで移動し、液体窒素浴に浸漬した。なお図9には容器ホルダ30としてひとつの凍結デバイス1bを収納するものを例示したが、複数の凍結デバイス1bを収納可能な複数の窪みを有する収納部と、複数の第2の磁石31を有する側壁部とを組み合わせて用いることも可能である。この構成により多数の凍結デバイス1bを同時に並行処理することが可能となる。
【0075】
本実施例は、磁力を契機として、非接触で、凍結液の保持と落下を制御する。従って、遠心機構が不要であり、また液漏れの不具合を起こしにくい、という特有の効果がある。
【0076】
また本実施例に係る凍結デバイス及び凍結保存システムによれば、磁力により第2のノズル13bの封止を解除することができるので、第2のノズル13bの内径を大きくすることができ、凍結液の試料への供給を短時間で行うことが可能となり、凍結保存までの時間をより短縮することができる。そして実施例1と同様に、容器ホルダ100は第2の駆動装置から着脱自在であるので、懸濁後速やかに容器ホルダ100ごと凍結デバイスを凍結用冷媒に浸漬することができ、作業効率を向上させることができる。また容器ホルダ100は凍結デバイス1を複数保持可能であるので、作業効率を向上させるとともに、各凍結デバイス1において試料と凍結液との懸濁液が同時に形成されるため、作業ムラも抑制することができる。
【実施例4】
【0077】
実施例4による凍結デバイスの構成は実施例1と類似であるが、液収納部13の構造が異なる。実施例4において凍結デバイス1cは、開口部を有する容器となる下部ユニット20cと、前記開口部を密栓可能な蓋となる上部ユニット10cを有し、供給手段は、上部ユニット10c側が開口し前記下部ユニット20cに挿入されて、下部ユニット20cの内壁に当接して下部ユニット20cに保持され、開口部側から凍結液を注入可能な中間ユニット40と、中間ユニット40の挿入側に形成された出力孔となる第2のノズル13dと、第2のノズル13dを封止するように形成され、凍結液を保持するとともに被接触操作により凍結液を下部ユニット20cに出力する第2の充填剤15cを有するとともに、非接触操作は、凍結液が第2の充填剤15cを介してノズル13dから出力する加速度を印加する操作である。このように、凍結液を上部ユニット10c及び下部ユニット20cとは分離し上部ユニット10c側が開口した中間ユニット40を下部ユニット20cに挿入する構成とすることにより凍結液の供給手段への注入が容易になり作業効率が向上する。
【0078】
図11は、本実施例による凍結デバイス1cを構成する、上部ユニット10c、中間ユニット40、下部ユニット20cの断面の模式図である。上部ユニット10cは、実施例1におけるキャップ11(パッキン12を含む)と同等である。中間ユニット40は実施例1における液収納部13cに対応するが、中空管の下部の先端には毛細菅状のノズル部の代わりにより口径の大きなノズル13dを有する点、第2の充填剤15cとして石英ウールの代わりに目皿を有する点、開口部14(図2参照)を持たない点、中間ユニット40がキャップ(上部ユニット10c)とは独立に構成され、下部ユニット20cに着脱自在に装着される点、管の内壁に翼状に形成したツマミ17を有する点、などが異なる。下部ユニット20cは突起24を備える点以外は実施例1のそれと同等である。
【0079】
実施例4の動作の概略は実施例1と類似である。準備工程(ステップ1001)において凍結デバイス1cの下部ユニット20cの容器底部22に細胞等のペレットを収納した後、中間ユニット40を下部ユニット20cに収納した(図12下)。ここで中間ユニット40は突起24により支持されるため、容器底部22には落下しない。液収納部13cの上部の開口部から凍結液を内部(目皿の上)に注入し、(中間ユニット40を収納した)下部ユニット20cに上部ユニット10をはめ込むことにより凍結デバイス1cを密栓状態とし、それを撹拌遠心機の容器ホルダに設置した。遠心工程以降の動作は実施例1と同様である。なお解凍時には上部ユニット10cを緩めて外した後、ツマミ17を(滅菌済みの)ピンセットなどで保持して引き上げることにより、下部ユニット20cから中間ユニット40を引き抜き、容器底部22に凍結細胞を収納する下部ユニット20cを得た上で、解凍操作を行った。
【0080】
上部ユニット10cと下部ユニット20cは予め組み合わせて(図13(a))一対の梱包とし、また中間ユニット40はそれに外接する円筒41、ピストン42と組み合わせて(図13(b))梱包し、両方の梱包ともにガンマ線などにより滅菌した上で、使用者に提供することができる。この場合、準備工程の詳細は下記のとおりとなる。まず、準備工程の第1手順において、上部と下部のユニットの組み合わせを用いて細胞ペレットを下部のユニット20cに形成する。準備工程の第2手順において、ピストン42を用いて円筒41から中間ユニット40を下部ユニット20cに無菌的に圧入する(図13(c))。以下、凍結液の収納以降の手順は前述のとおりである。
【0081】
充填剤15cとして用いた目皿にはポリスチレンの微粒子を焼結して平板状に形成した物を使用した。目皿の材質、空隙率、断面積、厚みなどは任意に選択することが可能である。適切な選択により、準備工程では凍結液が液漏れしない、かつ、遠心工程では凍結液が迅速に落下する、という2つの条件を両立することができる。
【0082】
本実施例では、液収納部13を中間ユニット40として、上部ユニット10cとは独立に形成したが、本実施例における中間ユニット40と類似の形状を有する液収納部を、上部ユニットと一体に形成することも可能である。
【0083】
本実施例は液収納部13cに毛細菅状のノズル部や貫通孔、石英ウールを用いないため、構造が簡単、作製が容易、コストが低い、という特有の効果がある。凍結液は口径の大きい液収納部13cの上部開口部から注入すれば良いため、開口部14(図2参照)を通して注入する必要がなく、また毛細菅に気泡と凍結液とを交互に注入する必要もないため、操作性が高いという特有の効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明を適用することにより、細胞や組織などを急速凍結する際、クリティカルな工程時間を短縮し、操作を簡略化、自動化し、オペレータの負担を軽減でき、また操作の失敗や、細胞等への悪影響のリスクを低減でき、さらに複数試料を同時に処理可能とし、効率を向上できる、という特長がある。従って、本発明による細胞凍結デバイス及び方法を用いることにより、細胞や組織を低コストかつ高品質に維持できる、という産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0085】
1………凍結デバイス、1b………凍結デバイス、1c………凍結デバイス、10………上部ユニット、10b………上部ユニット、10c………上部ユニット、11………キャップ、11’………従来のキャップ、12………パッキン、13………液収納部、13a………ノズル、13b………ノズル、13c………液収納部、13d………第2のノズル、14………開口部、15………充填剤、15c………第2の充填剤、16………磁石の小球、17………ツマミ、20………下部ユニット、20a………開口部、20c………下部ユニット、21………容器本体、22………容器底部、23………ネジ部、24………突起、30………容器ホルダ、31………第2の磁石、32………収納部、33………側壁部、40………中間ユニット、41………円筒、42………ピストン、100………容器ホルダ、101………容器用穴、102………センター穴、103………容器ホルダ穴、110………固定具、120………Cリング、130………ナット、140………ナット、ステップ1001………準備工程、ステップ1002………遠心工程、ステップ1003………攪拌工程、ステップ1004………液体窒素への浸漬工程。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞や組織を凍結保存するためのデバイス、特にヒトiPS細胞やヒトES細胞、動物やヒトの胚などを凍結保存する場合に好適に用いられる瞬間凍結法を用いてこれらの細胞や組織を凍結保存するに特に好適に用いられるデバイス並びに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を凍結状態で保存するための装置や方法に関する各種の技術が報告されている。例えば霊長類ES細胞などの幹細胞を急速凍結する際に好適に用いられる媒体(凍結液)の組成が、特許文献1に記載されている(以下第1の従来例)。具体的にはDMSO、プロピレングリコール、培地、アセトアミドを特定の濃度で含むDAP媒体が開示されている。またこの媒体を用いる幹細胞の凍結方法である簡易ガラス化法も第1の従来例に開示されている。簡易ガラス化法は、幹細胞等の凍結すべき細胞を、前記媒体を用いて封入管のような汚染しにくい容器に封入し、封入管を液体窒素中に浸すことにより急速冷凍し、その後、急速解凍する方法である。具体的には、継代操作により回収したヒトES細胞のコロニーを遠心分離し、上清を取り除くことにより、予め細胞をペレット状としておく。細胞にDAP媒体200μLを加え、穏やかに懸濁し、予め準備した凍結保存用チューブ(容器)に移す。(チューブのフタを密栓して封入管状態とした上で、)ピンセットでチューブをつかみ、液体窒素につける。液体窒素中で30〜60秒凍結し、内部まで完全に凍らせた後、液体窒素保存容器に移す。
【0003】
ここで、DAP媒体は細胞毒性が強いため、細胞に媒体を添加してからチューブを液体窒素に浸すまでの工程を出来る限りすばやく作業すること、目安として15秒以内、と記載されている。
【0004】
また非特許文献1(以下第2の従来例)にも、上記の細胞に媒体を添加してからチューブを液体窒素に浸すまでの時間として15秒以内を目指すこと、この操作をできるだけon−iceで細胞を温めないように行うこと、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/045007号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ヒト多能性幹細胞維持培養の実践プロトコール(2008)、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターヒト幹細胞研究支援室 刊行、2008年版、12頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来例は、(i)細胞への媒体の添加、(ii)細胞の懸濁、(iii)チューブへの移し替え、(iv)チューブの密栓、(v)チューブの保持と運搬、(vi)液体窒素中へのチューブの浸漬、という多数のステップからなる一連の工程を短時間で行う必要がある。従って、オペレータはこれら一連のクリティカルな工程の操作に予め十分習熟する必要があり、また操作に当たっては細心の注意を払う必要があり、オペレータの負担が大きい、という問題があった。ここで細胞を密栓容器に封入する前は汚染防止のため安全キャビネット内で取り扱う必要があることから、工程(i)から(v)の途中までは安全キャビネットの中での操作となり、操作上の制約が多い。また液体窒素入りの容器は除染しにくいため一般に安全キャビネットの外に設置されることから、(v)の後半の運搬の距離が長くなる制約もある。この様な制約下で万一操作に手間取って時間がかかったり、逆に時間の制約を気にしすぎて操作手順を間違えたり、不完全な操作をするなどの失敗をすると、細胞への悪影響があり、貴重な幹細胞を劣化させたり、それを死滅させる(失う)リスクがある、という問題があった。
【0008】
また上記のクリティカルな工程は時間の制約条件があるため、一度に一つの試料しか処理できず、多数の試料を凍結する場合は作業効率が低い課題があった。第2の従来例によると、ヒトiPS細胞やES細胞などのヒト多能性幹細胞は継代数が多くなると、増殖性、分化能、未分化性、核型などに異常を持つ頻度が徐々に上がってくることが多いため、比較的若い継代数のもので実験を行う方が良いとされており、細胞の凍結ストックもできるだけ若い継代数のものをたくさん作っておくとよいとされている。多数の細胞を凍結することが求められているにも関わらず、作業効率が低いため、オペレータの負担が極めて大きい、という問題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点に着目し、細胞を凍結液に懸濁させて凍結保存する場合において、作業者への負担を軽減し、細胞へのダメージを抑制して短時間で確実に凍結保存を行う、凍結保存方法、凍結デバイス、凍結保存システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る凍結保存方法は、試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結保存方法であって、前記試料を収納する第1区画と、前記凍結液を収納する第2区画を有する凍結デバイスを形成し、前記第1区画と前記第2区画との境界を、非接触操作により前記第2区画に収納した凍結液を第1区画に収納した試料に供給可能な供給手段により形成し、前記凍結デバイスに前記非接触操作を行い、前記凍結液を前記供給手段を介して前記試料に供給することを特徴とする。
【0011】
また、前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に形成され表面張力により前記凍結液を保持可能なノズルと、を有し、前記非接触操作は、前記凍結液が前記ノズルから出力する加速度を前記凍結デバイスに印加する操作であることを特徴とする。
【0012】
さらに、前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2のノズルと、前記強磁性体により吸引され、前記第2のノズルを封止する磁石と、を有し、前記非接触操作は、前記磁石が前記第2のノズルから離脱する磁場を印加して前記第2のノズルの封止を解除することにより前記第2のノズルから前記凍結液を出力する操作であることを特徴とする。
【0013】
上記凍結保存方法を具現化する本発明に係る凍結デバイスは、第1には、試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結デバイスであって、前記凍結デバイスは、前記試料を収納する第1区画と、前記凍結液を収納する第2区画と、前記第1区画と前記第2区画との境界を形成し、前記凍結液を非接触操作により前記試料に供給する供給手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
第2には、前記凍結デバイスは、開口部を有する容器と、前記開口部を密栓可能な蓋を有し、前記供給手段は、前記蓋に一体で形成されるとともに前記開口部から挿入可能で前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に形成され表面張力により前記凍結液を保持可能なノズルを有するとともに、前記非接触操作は、前記凍結液が前記ノズルから出力する加速度を印加する操作であることを特徴とする。
【0015】
第3には、前記中空の管または前記ノズルには、メッシュ状の充填材が充填されたことを特徴とする。
【0016】
第4には、前記凍結デバイスは、開口部を有する容器と、前記開口部を密栓可能な蓋を有し、前記供給手段は、前記蓋側が開口し前記容器に挿入されて、前記容器の内壁に当接して前記容器に保持され、前記蓋側から前記凍結液を注入可能な中間ユニットと、前記中間ユニットの挿入側に形成された出力孔と、前記出力孔を封止するように形成され、前記凍結液を保持するとともに前記被接触操作により前記凍結液を前記容器に出力する第2の充填材を有するとともに、前記非接触操作は、前記凍結液が前記第2の充填材を介して前記出力孔から出力する加速度を印加する操作であることを特徴とする。
【0017】
第5には、前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2のノズルと、前記第2のノズルに吸着され、前記第2のノズルを封止する磁石と、を有し、前記非接触操作は、前記磁石が前記第2のノズルから離脱する磁場を印加して前記第2のノズルの封止を解除することにより前記第2のノズルから前記凍結液を出力する操作であることを特徴とする。
【0018】
また本発明に係る試料の前記凍結保存システムは、前記凍結デバイスを保持する容器ホルダと、前記容器ホルダを回転運動及び偏心円運動をさせる駆動装置と、を有し、前記容器ホルダは、前記容器ホルダの周縁において前記供給手段の出力側を前記容器ホルダの外周側に向けた状態で前記凍結デバイスを保持し、前記駆動装置は、前記容器ホルダを回転運動させ、前記凍結デバイスに発生する遠心力により前記供給手段から前記凍結液を出力して前記試料に供給するとともに、前記容器ホルダを偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁し、前記容器ホルダは、前記駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能であることを特徴とする。
【0019】
さらに本発明の試料の凍結保存システムは、前記凍結デバイスを保持する容器ホルダと、前記容器ホルダに搭載され前記磁場を発生させる第2の磁石と、前記容器ホルダを偏心円運動させる第2の駆動装置と、を有し、前記第2の磁石は、前記磁石を前記磁場により前記第2の磁石側に吸引し前記第2のノズルの封止を解除して前記凍結液を前記第2のノズルから出力して前記試料に前記凍結液を供給し、前記第2の駆動装置は、前記容器ホルダに偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁させるとともに、前記容器ホルダは、前記第2の駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能であることを特徴とする。
そして、前記容器ホルダは、前記凍結デバイスを複数保持可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る凍結保存方法及び凍結デバイスによれば、第1には、凍結デバイス内において試料と凍結液が分離され、それぞれ独立に収納が可能である。すなわち、凍結デバイスに凍結液を注入する工程と、凍結デバイスに収納された試料に凍結液を供給する工程とが分離される。そして、非接触操作により凍結液が試料に供給されるため、上述の(i)、(ii)の工程を自動的、連続的に処理することができる。なお本発明では凍結デバイスだけを用いて細胞等と凍結液の混合、分散、凍結を一貫して行うため、本発明では工程(iii)に相当する移し替え工程を省略することができる。したがって、作業者が凍結液をピペット等で試料に供給する作業等を行う必要がなく、懸濁液の凍結保存までの時間を短縮できるのみならず、その時間のムラも抑制することができるので、試料へのダメージを安定的に抑制することができる。
【0021】
第2には、供給手段は凍結デバイスの蓋に一体で形成されたため、供給手段を容器から離した状態で凍結液を収納することができる。そして、容器の密栓工程が、細胞等と凍結液とが互いに接触する以前に完了しているため、上述の工程(iv)に相当する容器の密栓工程を、クリティカルな工程の時間カウント外とし、作業効率を向上させることができる。そして、供給手段は中空の管と管の先端に形成されたノズルからなるが、供給手段に加速度、具体的には遠心力を印加することで凍結液を試料に供給することができるので、遠心分離器等の簡易な装置に搭載して人為的作業を伴うことなく容易に凍結液を試料に供給することができる。
【0022】
第3には、中空の管またはノズルにメッシュ状の充填材を充填することで、凍結液の通液抵抗を増加させて、非接触操作前においてノズルから凍結液が漏れることを防止することができる。
【0023】
第4には、凍結液を蓋及び容器とは分離し蓋側が開口した中間ユニットを容器に挿入する構成とすることにより凍結液の供給手段への注入が容易になり作業効率が向上する。
【0024】
第5には、供給手段は凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2ノズルと、前記強磁性体により吸引され、前記第2ノズルを封止する磁石と、を有し、非接触操作は、前記磁石が前記第2ノズルから離脱する磁場を印加して前記凍結液を前記第2ノズルから出力させる操作とすることにより、第2ノズルは凍結液の表面張力を利用する必要はなく、第2ノズルの内径を大きくすることが出来るので、凍結液の試料への供給を短時間で行うことが可能となり、凍結保存までの時間をより短縮することができる。
【0025】
また本発明に係る試料の凍結保存システムによれば、遠心運動に代表される非接触の操作により凍結液を細胞等へ添加する工程(上記(i)に相当する)を実現し、また偏心円運動に代表される非接触の操作により細胞等を凍結液に懸濁する工程(同(ii)に相当する)を実現することができる。ここで非接触の意味は、これらの工程を行うために、容器の蓋を開ける必要が無く、容器内部にピペットを挿入して操作する必要が無い、という意味である。
【0026】
さらに本発明に係る試料の凍結保存システムによれば、磁力により第2ノズルの封止を解除することができるので、第2ノズルの内径を大きくすることができ、凍結液の試料への供給を短時間で行うことが可能となり、凍結保存までの時間をより短縮した凍結保存システムとなる。そして容器ホルダは駆動装置または第2駆動装置から着脱自在であるので、懸濁後速やかに容器ホルダごと凍結デバイスを凍結用冷媒に浸漬することができ、作業効率を向上させることができる。
【0027】
また容器ホルダは凍結デバイスを複数保持可能であるので、作業効率を向上させるとともに、各凍結デバイスにおいて試料と凍結液との懸濁液が同時に形成されるため、作業ムラも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施例による凍結デバイスの断面を模式的に示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施例による凍結デバイスの構成を模式的に示す概略図である。
【図3】本発明の第1の実施例による撹拌遠心機の容器ホルダのワンタッチ脱着機構の構成を模式的に示す概略図である。
【図4】本発明の第1の実施例による容器ホルダの形状を模式的に示す概略図である。
【図5】本発明の第1の実施例による凍結デバイスの動作を模式的に示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施例、並びに従来例に従って凍結した細胞の、解凍後の生細胞率を評価した結果の例である。
【図7】本発明の第1の実施例の第1の変形例による容器ホルダの断面を模式的に示す概略図である。
【図8】本発明の第1の実施例の第2の変形例による容器ホルダの断面を模式的に示す概略図である。
【図9】本発明の第3の実施例による凍結デバイスの断面を模式的に示す概略図である。
【図10】本発明の第3の実施例によるホルダの断面及びその使用方法を模式的に示す概略図である。
【図11】本発明の第4の実施例による凍結デバイスの構成を模式的に示す概略図である。
【図12】本発明の第4の実施例による凍結デバイスの使用方法を模式的に示す概略図である。
【図13】本発明の第4の実施例による凍結デバイスの使用前の構成と準備手順を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0030】
図1に凍結デバイスの模式図を示す。本発明に係る凍結保存方法は、試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結保存方法であって、前記試料を収納する第1区画2と、前記凍結液を収納する第2区画3を有する凍結デバイス1を形成し、前記第1区画2と前記第2区画3との境界を、非接触操作により前記第2区画3に収納した凍結液を第1区画2に収納した試料に供給可能な供給手段により形成し、前記凍結デバイス1に前記非接触操作を行い前記凍結液を前記試料に供給するものであり、これを具現化する凍結デバイス1は、試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結デバイス1であって、凍結デバイス1は、前記試料を収納する第1区画2と、前記凍結液を収納する第2区画3と、前記第1区画2と前記第2区画3との境界を形成し、前記凍結液を非接触操作により前記試料に供給する供給手段と、を有するものである。
【0031】
本実施例に係る凍結デバイス1においては、前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管である液収納部13と、前記管の先端に形成され凍結液の表面張力により前記凍結液を保持可能なノズル13aを有するとともに、前記非接触操作は、前記凍結液が前記ノズル13aから出力する加速度(遠心力)を印加する操作である。
【0032】
図1は本実施例による凍結デバイス1の断面の模式図である。図2は本実施例による凍結デバイス1の主要構成要素である上部ユニット10と、下部ユニット20の断面の模式図である。この供給手段を構成する液収納部13とノズル13aとで凍結デバイス1において第1区画2、及び第2区画3の境界を形成する。そして、本実施例に係る凍結デバイス1は、上部ユニット10、下部ユニット20により構成される。
【0033】
上部ユニット10の構成概略は以下の通りである。11はキャップ、12はパッキン、13は液収納部、14は開口部、15は充填剤である。液収納部13は基本的に中空の管であり、その先端(図の下方向)に内径約0.3mmの毛細管状のノズル13aを有し、キャップ11と一体に形成され、液収納部13及びノズル13aは下部ユニット20(後述の容器本体21)の開口部20aから挿通可能となっている。開口部14は液収納部13の側壁に設けた貫通孔であり中空管の内外を連通する。充填剤15は液収納部13の先端内部に充填されている。充填剤15としては、日本石英硝子(現東ソー)製のスーパーファイン級の石英ウールを用いた。パッキン12は扁平なドーナツ状のシリコンゴムからなり、図中ではキャップ11とは独立に記したが、両者は一体で用いられるため、以下ではキャップ11はパッキン12を含むものとして説明する。
【0034】
下部ユニット20の構成概略は以下の通りである。21は容器本体、22は容器底部、23はネジ部である。容器底部22は容器本体21の内側面の一部であり、ネジ部23は容器本体21の外側面の一部である。従って、本実施例では下部ユニット20は容器本体21と同義である。なおネジ部23(雄ねじ)に対応する雌ねじがキャップ11の内側に形成されているが、その図番は省略した。
【0035】
ちなみに凍結デバイス1の上部ユニット10から液収納部13を除いたキャップ部と、下部ユニット20(即ち容器本体21)は、従来技術によるクライオチューブのキャップと容器本体にそれぞれ対応する。従来のクライオチューブのキャップを以下従来のキャップ11’と記す(不図示)。従って、本実施例による凍結デバイス1は、従来のクライオチューブを元に、液収納部13をキャップ部分に新たに設けた構成を採用したということもできる。
【0036】
本実施例において好適に用いられる撹拌遠心機について説明する。本実施例では撹拌遠心機として、(株)日伸理化製の撹拌遠心機NSD−12Jを使用した。この装置は12個(複数)の容器を保持可能な容器ホルダを有し、遠心動作と、撹拌動作の両方の機能を有する。標準の容器ホルダは2mLの遠沈管に対応するが、凍結デバイス1の下部ユニット外径に適合する容器ホルダ穴を有する特注の容器ホルダを用いることにより、凍結デバイス1を容器ホルダ穴に収納して使用した。この撹拌遠心機は容器ホルダを固定ネジにより装置本体に固定する。固定ネジを取り外せば容器ホルダも取り外し可能であるが、固定ネジの取り外しには手間と時間がかかる。そこで本実施例ではこの製品における容器ホルダの固定機構を改良し、容器ホルダを瞬時に取り外し可能なワンタッチ脱着機構を新たに開発して採用した。
【0037】
図3は、本実施例における撹拌遠心機の容器ホルダのワンタッチ脱着機構の断面の模式図である。100は容器ホルダ、110は固定具、120はCリング、 130と140はナットである。図4は、本実施例で採用した撹拌遠心機の容器ホルダ100の形状概略を示す上面図である。101は容器用穴、102はセンター穴、103は容器ホルダ穴である。
【0038】
よって、本実施例の凍結保存システムは、凍結デバイス1を保持する容器ホルダ100と、容器ホルダ100を回転運動及び偏心円運動をさせる駆動装置となる攪拌遠心機、を有し、容器ホルダ100は、容器ホルダ100の周縁において前記供給手段(液収容部13、ノズル13a)の出力側を容器ホルダ100の外周側に向けた状態で凍結デバイス1を保持し、前記駆動装置は、容器ホルダ100を回転運動させ、凍結デバイス1に発生する遠心力により前記供給手段から前記凍結液を出力して前記試料に供給するともに、容器ホルダ100を偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁し、容器ホルダ100は、前記駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能である構成を有する。
【0039】
次に実施例1に基づく凍結デバイスを用いた凍結保存システムの動作の概略を説明する。図5は、本実施例の動作を模式的に示すフローチャートである。ステップ1001は準備工程、ステップ1002は遠心工程、ステップ1003は撹拌工程、ステップ1004は液体窒素等の凍結用冷媒への浸漬工程である。本発明による凍結デバイスの動作の概略は、準備工程(ステップ1001)において凍結デバイス1の下部ユニット20の容器底部22に細胞等のペレットを収納し、凍結液を液収納部13に収納し、上部ユニット10を下部ユニット20にはめ込むことにより凍結デバイス1を密栓状態とし、それを撹拌遠心機の容器ホルダ100に設置した。遠心工程(ステップ1002)において撹拌遠心機の遠心動作により、凍結液に対し遠心加速度を作用させることにより、非接触で(換言すると凍結液や細胞などを直接操作することなく)、凍結液を液収納部13から容器底部22に落下させた。撹拌工程(ステップ1003)において撹拌遠心機の撹拌動作により、細胞等のペレットを凍結液と混合して懸濁した。液体窒素への浸漬工程(ステップ1004)において容器ホルダごと凍結デバイス1を撹拌遠心機からワンタッチで取り外し、液体窒素浴に浸漬して細胞等を凍結した。
【0040】
次に実施例1の凍結デバイスを用いた凍結保存システムについて詳細に説明する。
事前準備として、まず撹拌遠心機NSD−12Jの遠心調節つまみ(Spindown)を5.3メモリ、撹拌調節つまみ(Speed)を7.5メモリに設定し、容器ホルダ100を撹拌遠心機に設置し、容器ホルダ100にバランス容器(細胞や凍結液を入れていない新品の凍結デバイス1など)を、定法に従って適宜設置した。また撹拌遠心機のそばに液体窒素浴を準備した。遠心調節つまみ5.3メモリは、回転数にして約2400rpm、遠心力換算で約400xgの条件に相当する。また撹拌調節つまみ(Vortex)は偏心円運動の回転数にして約1200rpmに相当する。
【0041】
準備工程(ステップ1001)の第1手順として、凍結デバイス1から上部ユニット10を取り外し、代わりに従来のキャップ11’を用いて、細胞等のペレットを得た。具体的には、凍結デバイス1の下部ユニット20に細胞等の懸濁液を収納し、従来のキャップ11’により密栓し、遠心分離機に設置して170xgの遠心力により5分間遠心分離を行い、キャップ11’を外し、上清を概ね除去した。キャップ11’により密栓し、再度1分間遠心分離を行い、キャップ11’を外し、上清を完全に除去することにより、下部ユニット20の容器底部22に細胞等のペレットを得た。なお下部ユニット20は使用開始前に4℃に冷却しておき、遠心分離工程に冷却遠心機を4℃に設定して使用し、上清除去操作や操作完了後の保管を4℃に設定した電子冷却プレート等の上で行うことにより、細胞等を保冷したまま操作することが好ましい。
【0042】
準備工程(ステップ1001)の第2手順として、凍結液を液収納部13に収納した。第2手順は第1手順の遠心分離を行っている間に実行可能である。具体的には前記第1手順で取り外した上部ユニット10の液収納部13に、凍結液(リプロセル社製霊長類ES細胞用凍結液)200マイクロリットルを、開口部14を通して微量分注ピペッターを用いて注入した。注入の際は開口部14が鉛直上向きとなるように上部ユニット10の中心軸を水平に保持した。また液収納部13先端の毛細管状のノズル部13aの内部に気泡と凍結液とをピペッターを用いて交互に注入した。
【0043】
次に、凍結液を収納した液収納部13について、液漏れの確認試験を行った。液漏れとは凍結液が遠心工程以前に液収納部13から落下することを指す。液漏れの確認試験には、凍結液を液収納部13に収納した上部ユニット10を、細胞等のペレットを収納したものとは別の(空の)下部ユニット20の上に、キャップ11が鉛直上向きに、ノズル13aが鉛直下向きになるようにかぶせてはめ込み、密栓動作の繰り返しや、軽い振動を加えたり、放置などしても、凍結液が液収納部13の先端のノズル13aから下部ユニット20へ落下しないことを確認した。
【0044】
上記方法で凍結液を収納した液収納部13を準備すると、ほとんどの個体は液漏れを起こさなかった。これはノズル13aが毛細管状であって表面張力により凍結液を保持可能であることや、毛細管の内部に気液が交互に存在する状況や、先端内部に充填されている充填剤15、などの相乗効果によって、表面張力や通液抵抗が高い状況が達成され、凍結液が重力等により落下することを防止できたと考えられる。ノズル13aの毛細管径をより狭くし、充填剤15として石英ウールよりも表面積の大きい微粒子状の充填剤、あるいは微粒子を焼結して作成した目皿状の充填剤を用いる、などの方法により液の流通抵抗を上昇させることにより、毛細管の内部に気液を交互に形成しなくても、凍結液の落下を防止できる。
【0045】
なお極めて低い確率で液漏れを起こす個体があったが、それら不良品はこの確認工程で排除し、確認試験をパスした良品のみを次の工程に使用した。もちろん確認試験と良品の選別を製造工程の途中で行うことにより、準備工程における確認試験は省略できる。本実施例では凍結液を液収納部13に収納する際に開口部14を通して注入する方式を例にとって説明したが、凍結液は液収納部13の先端のノズル部から微量分注ピペッターで(先が太いピペットチップを用いて)注入することもできる。この場合は開口部14の位置は図2における上方、即ち液収納部13のキャップ11との接続部により近い位置に設けることが出来る。この場合、液収納部13の長さは短縮可能である。極端な例としては、開口部14は液収納部13側面の貫通孔としてではなく、液収納部13の(キャップ11との接続部における)切り込みとしても形成可能である。
【0046】
準備工程(ステップ1001)の第3手順として、上記第1手順で準備した細胞ペレットを収納する下部ユニット20の上に、第2手順で準備した上部ユニット10をはめ込み、密栓して、凍結デバイス1を得て、それを撹拌遠心機の容器ホルダ100に設置し、撹拌遠心機のフタを閉じた。この凍結デバイス1の内部には、細胞等のペレットが容器底部22に収納され、また凍結液が液収納部13に収納され、両者は互いに独立の区画に存在する。換言するとここまでの準備工程において凍結液と細胞等は互いに接触も混合もしていない。従ってここまではクリティカルな工程時間にはカウントされないため、時間的制約を受けずに操作できる。
【0047】
次に、遠心工程(ステップ1002)において、撹拌遠心機の遠心スイッチ(Spindown)を1秒間入れ、その後スイッチを切って、3秒間放置した。このとき供給手段(液収納部13、ノズル13a)の出力側(ノズル13a側)が容器ホルダ100の外周側を向く配置となっている。400xgで1秒間の遠心動作により、凍結デバイス1内の液収納部13に収納した凍結液は遠心力によりノズル13bから出力して容器底部22に落下し、細胞等のペレットと接触した。従って、本実施例においてはクリティカルな工程時間のカウントは、この時点から始まる。ここで遠心調節つまみのメモリは所定の遠心力が得られるよう、容器の数等に応じて適宜選択可能である。また、本実施例では遠心動作終了後、回転がほぼ停止するまでの待ち時間として3秒を採用したため、本工程時間は4秒である。
【0048】
次に、撹拌工程(ステップ1003)において、撹拌遠心機の撹拌スイッチ(Vortex)を2秒間入れ、その後スイッチを切った。また撹拌動作の間に、撹拌遠心機のふたを開けた。2秒間の撹拌動作により、凍結液が細胞等のペレットと混合し、細胞等の懸濁液を得た。本工程時間は2秒である。
【0049】
次に、液体窒素への浸漬工程(ステップ1004)において、凍結デバイス1を容器ホルダ100ごと撹拌遠心機から取り外し、液体窒素浴まで移動し、液体窒素浴に浸漬した。これにより、細胞等を瞬間的に凍結した。前述の通り、本実施例では容器ホルダ100をワンタッチで脱着可能な機構を用いたため、容器ホルダ100は瞬時に撹拌遠心機から取り外せる。本工程(液体窒素に浸漬するまで)の時間は約2秒である。以下、このワンタッチ脱着機構の詳細な構造と動作を説明する。
【0050】
固定具110の断面は凸状であり、横長の下部と縦長の上部は一体に形成され、上部側面には雄ねじが形成されている。固定具110は撹拌遠心機の遠心機構と連結しており、図3の垂直方向の中心線を中心に固定具110ごと回転する。また撹拌遠心機の遠心機構は撹拌機構と連結しており、固定具110を偏心円運動させる。固定具110に設けられた容器ホルダー用ボス(不図示)は容器ホルダ穴103にかん合する。またCリング120はナット130、140により固定具110上部の中心軸の周囲に固定される。Cリング120の下部斜面は、容器ホルダ100のセンター穴102の上縁と圧接するため、容器ホルダ100は固定具110に固定される。従って固定具110の回転や偏心円運動は容器ホルダ100に伝達され、容器ホルダ100の容器用穴101に収納した容器に対し、遠心や、撹拌の作用を及ぼす。
【0051】
ちなみに図3の状態で撹拌遠心機あるいは固定具110の上部を固定した上で、容器ホルダ100を上方に引き上げる力を加えると、Cリング120が縮んで、容器ホルダ100のセンター穴102はCリング120の周囲を滑り抜けて、容器ホルダ100は固定具110から外れる。即ち容器ホルダ100は撹拌遠心機からワンタッチで脱着可能である。逆に、容器ホルダ100を撹拌遠心機の固定具110とCリング120の間に押し込むことにより、ワンタッチで撹拌遠心機に装着可能である。
【0052】
本実施例では容器ホルダ100を撹拌遠心機からワンタッチで脱着可能とするための機構部品としてCリング120を用いたが、この目的に利用可能な機構はCリング方式に限定されない。他の採用可能な機構の例としては、弾性体で形成したツメを用いる方式に代表される、光学式ディスクを軸に固定する目的で使用される各種の方式、電磁チャック方式、エアバルーンチャック方式、電磁石や永久磁石などの磁力により容器ホルダを固定具に着脱自在に固定する方式、Oリング方式、などがある。これら各種の方式を採用することにより、容器ホルダ100を撹拌遠心機からワンタッチで脱着可能とすることができる。
【0053】
本実施例で採用した容器ホルダ100は図4に示したとおり容器用穴101を12個備える。従って、上記準備工程(ステップ1001)において、複数の(最大12の)試料についてそれぞれ独立の凍結デバイス1を準備し、それぞれを1つの容器ホルダに設置することができる。また遠心工程(ステップ1002)、撹拌工程(ステップ1003)、液体窒素への浸漬工程(ステップ1004)はいずれも容器ホルダ100を単位として行うため、これら複数試料を一括操作可能である。即ち、本実施例ではクリティカルな工程について複数試料を一括処理可能である。より多くの容器用穴101を備える容器ホルダ100を採用することにより、一括処理可能な試料数を12以上に増やすことが可能である。撹拌遠心機としてより大型のものを採用することにより、同時処理可能な試料数をさらに増やすことも可能である。
【0054】
本実施例におけるクリティカルな工程の時間、即ち凍結液と細胞等が互いに接触してから液体窒素に浸漬されるまでの時間は、ステップ1002からステップ1004までの時間の合計、即ち約8秒である。つまり、従来例に記載されているクリティカルな工程時間の目安である15秒の約半分であるため、細胞への悪影響が少ない。また、本実施例におけるクリティカルな工程の操作は、スイッチ2つの操作と、ふた開け、容器ホルダのワンタッチ取り外しと、液体窒素浴への投入という単純な操作だけであり、熟練や注意は不要で、失敗のリスクもほとんど無いため、オペレータの負担が少なく、細胞への悪影響のリスクも低い。
【0055】
本実施例では毛細管状のノズル13aや充填剤15の表面張力により凍結液を保持したが、他の原理を用いて凍結液を保持することも可能である。例えば、弾性体で支持した弁(不図示)をノズル13aに設け、通常は弁(不図示)が閉じた状態とし、強い遠心加速度が作用した場合のみ弁(不図示)が開いて凍結液が落下する構成を採用することも可能である。
【0056】
本実施例の効果について、細胞を用いて評価した。細胞として接着性のヒトセルライン(HT−29)をATCCのプロトコルに従って培養し、播種4日後に剥離、回収した細胞200万個を実験材料として使用した。それを本実施例あるいは第2の従来例のいずれかの方法で凍結した。これらの凍結細胞を第2の従来例の10頁に記載の方法により解凍し、細胞の生細胞率を評価した。結果の一例を図6に示す。ちなみに実験に用いた細胞は、剥離回収後、培地中に氷温で約6時間保冷したものであり、実験に供する直前の生細胞率は98.3%であった。本発明方法による凍結実験は3回行い、うち後二者は複数試料を同時に凍結処理した。図6から明らかなとおり、いずれの試料についても、解凍後の生細胞率は従来法と同等以上であった。同様の実験を複数回繰り返したが、いずれの場合も同様の結果が得られた(不図示)。本発明方法によって凍結した細胞は解凍後の生細胞率が高いことから、本発明方法は細胞に対する悪影響が少なく、信頼性が高い方法であることが確認された。この理由は、本発明のクリティカル工程時間が約8秒と、従来法の約半分であるため、常温において毒性の高い凍結液の影響を受けにくいためと考えられる。
【0057】
従って、本実施例は、従来よりも短時間かつ簡便な操作で、複数試料について同時に、高い信頼性をもって、凍結を行えるという特有の効果がある。
なお、本実施例では撹拌遠心機に標準で付属する容器ホルダ100を用いたが、本発明の目的のためにやや異なる形状の容器ホルダを製作して用いることも可能である。この第1の変形例による容器ホルダ100’の断面概略図を図7に示す。図示の通り、容器ホルダ100’は実施例1の容器ホルダ100と類似であるが、容器を保持する部分の傾斜が急であり、容器を水平に近い角度で保持する点が異なる。また凍結デバイス1のキャップ11に、開口部14の位置を示すマークを付記した点も異なる。
【0058】
本変形例を用いる場合の動作は実施例1と概ね同等であるが、以下の点が異なる。まず準備工程(ステップ1001)の第2手順において、凍結デバイス1の液収納部13に凍結液を収納する際、液収納部13先端の毛細管状のノズル部の内部に気泡と凍結液とを交互に注入する工程を省略した。また凍結液を液収納部13に収納後、開口部14が鉛直上向き、換言すると上部ユニット10の中心軸を水平に保持したままとした(液漏れの確認試験を行わなかった)。次に準備工程(ステップ1001)の第3手順において、上記第2手順で準備した(凍結液入りの)上部ユニット10を、第1手順で準備した(細胞ペレット入りの)下部ユニット20をはめ込んで密栓して、凍結デバイス1を得て、それを撹拌遠心機の容器ホルダ100’に設置した。この間、開口部14が常に鉛直上向きとなるように姿勢を維持した。即ち凍結デバイス1中に凍結液を入れた後に、先端ノズル部は水平に維持され、鉛直下向きを向くことが無いため、凍結液が液漏れを起こす虞がない。
【0059】
本変形例特有の効果は、凍結液が液漏れを起こす虞がないため、凍結デバイス1の液収納部13、特にその先端のノズル13aの形状の尤度が高く、作成が容易であることと、凍結液を収納する際に、ノズル13aの内部に気泡と凍結液とを交互に注入する必要が無いため、操作が簡便であることである。
【0060】
第2の変形例として、容器ホルダとしてスイングローター式の容器ホルダを用いることも可能である。特にスイングローターとして、回転前においては、図8(a)に概念的に示す様に、容器を概ね水平に保持可能な初期状態に設定できるものを採用することが好ましい。このスイングローターは、回転時には図8(b)に概念的に示す様に、遠心力により通常のスイングローターの状態に遷移する。即ち容器を保持する部分が遠心力と重力加速度との兼ね合いで自由な角度を取る。本第2の変形例は第1の変形例同様、先端ノズル部の表面張力や通液抵抗が少ない液収納部13を有する凍結デバイス1と組み合わせることが可能である。さらに、図8(b)の状態では凍結液の落下に重力加速度を用いることが出来るため、遠心を極めて短時間行うだけでよい(図8(a)から同(b)の状態に遷移させるだけでよい)、という特有の効果がある。
【0061】
よって本実施例に係る凍結保存方法及び凍結デバイスによれば、第1には、凍結デバイス1内において試料と凍結液が分離され、それぞれ独立に収納が可能である。すなわち、凍結デバイスに凍結液を注入する工程と、凍結デバイスに収納された試料に凍結液を供給する工程とが分離される。そして、非接触操作により凍結液が試料に供給されるため、従来技術で述べた(i)、(ii)の工程を自動的、連続的に処理することができる。なお本実施例では凍結デバイス1だけを用いて細胞等と凍結液の混合、分散、凍結を一貫して行うため、本発明では従来技術で述べた工程(iii)に相当する移し替え工程を省略することができる。したがって、作業者が凍結液をピペット等で試料に供給する作業等を行う必要がなく、懸濁液の凍結保存までの時間を短縮できるのみならず、その時間のムラも抑制することができるので、試料へのダメージを安定的に抑制することができる。
【0062】
第2には、供給手段(液収納部13、ノズル13a)は凍結デバイス1の蓋である上部ユニット10に一体で形成されたため、供給手段を容器から離した状態で凍結液を収納することができる。そして、容器である下部ユニット20の密栓工程が、細胞等と凍結液とが互いに接触する以前に完了しているため、従来技術で述べた工程(iv)に相当する容器の密栓工程を、クリティカルな工程の時間カウント外とし、作業効率を向上させることができる。そして、供給手段は中空の管である液収納部13とその先端に形成されたノズル13aからなるが、供給手段に加速度、具体的には遠心力を印加することで凍結液を試料に供給することができるので、遠心分離器等の簡易な装置に搭載して人為的作業を伴うことなく容易に凍結液を試料に供給することができる。
【0063】
第3には、中空の管である液供給部13またはノズル13aにメッシュ状の充填剤15を充填することで、凍結液の通液抵抗を増加させて、非接触操作前においてノズルから凍結液が漏れることを防止することができる。
【0064】
また本実施例の凍結デバイスを用いた凍結保存システムによれば、遠心に代表される非接触の操作により凍結液を細胞等へ添加する工程(従来技術の(i)に相当する)を実現し、また偏心円運動に代表される非接触の操作により細胞等を凍結液に懸濁する工程(同(ii)に相当する)を実現することができる。また凍結保存システムを構成する容器ホルダ100は凍結デバイス1を複数保持可能であるので、作業効率を向上させるとともに、各凍結デバイス1において試料と凍結液との懸濁液が同時に形成されるため、作業ムラも抑制することができる。そして容器ホルダ100は駆動装置から着脱自在であるので、懸濁後速やかに容器ホルダ100ごと凍結デバイスを凍結用冷媒に浸漬することができるので作業効率を向上させることができる。
【実施例2】
【0065】
実施例2による凍結デバイス及び凍結保存システムの構成は実施例1と類似であるが、撹拌遠心機として、遠心動作終了後に機械的にブレーキをかける機構を有するものを採用し、遠心後の待ち時間を短縮した点と、撹拌工程における撹拌強度設定を高めて撹拌時間を短縮した点、撹拌遠心機の動作をPLC(ロジックコントローラ)で制御することにより、操作を自動化した点などが異なる。
【0066】
具体的には、撹拌遠心機NSD-12Jのカバー部分を改造し、容器ホルダに対してスポンジなどの弾性体を押しつけることができる電動のブレーキ機構を設けた。従来は遠心後容器ホルダが概ね停止するまでに約3秒の待ち時間が必要であったが、遠心動作終了後に電動ブレーキを作動させることにより、容器ホルダの回転は1秒以内に停止した。また、撹拌遠心機の遠心スイッチ、撹拌スイッチ、電動ブレーキのスイッチをPLCに配線し、撹拌遠心機の動作をPLCにより自動制御するシーケンスを組むことにより、起動スイッチ一つで、遠心工程(ブレーキ動作を含む)と撹拌工程を全自動で実行可能とした。
【0067】
事前準備の段階において、撹拌調節つまみ(Speed)をMAXメモリに設定して使用した。
遠心工程(ステップ1002)において、遠心動作終了後に電動ブレーキをかけることにより、容器ホルダが概ね停止するまでの待ち時間を約1秒に短縮し、工程時間を2秒とした。
撹拌工程(ステップ1003)において、撹拌を1秒間とした。
それ以外は実施例1と同様の構成と手順を採用した。
【0068】
本実施例ではクリティカルな工程時間は合計5秒である。これは従来例の1/3であり、従来よりもクリティカルな工程時間が極めて短いため、細胞への悪影響が極めて少なく、また時間的な余裕があり、起動スイッチ1つの操作だけで撹拌までの工程が完了するため、操作者の負担も少ない、という特有の効果がある。
【0069】
なお本実施例では撹拌遠心機としてNSD−12Jを改造して使用する例を説明したが、他の撹拌遠心機、例えばBiosan社MSC−3000を用いることもできる。MSC−3000が装備するブレーキは強力なためか遠心後容器ホルダが概ね停止するまでの時間が短い。また遠心と撹拌の動作をプログラム可能であるため、PLCを外付けすることなしに自動化が可能である。本発明に使用可能な撹拌遠心機はNSD−12Jに限定されず、市販の各種の装置を目的に応じて選定したり、改造して使用することができる。
【実施例3】
【0070】
実施例3による凍結デバイス及び凍結保存システムの構成は実施例1と類似であるが、液収納部13の構造が異なり、それに付随して凍結液を細胞に落下させる機構が異なる。
【0071】
実施例3において、供給手段は、凍結液を収納する中空の管である液収納部13と、管の先端に強磁性体で形成された第2のノズル13bと、第2のノズル13bに吸着され、第2のノズル13bを封止する磁石の小球16と、を有し、非接触操作は、磁石の小球16が第2のノズル13bから離脱する磁場を印加して第2のノズル13bの封止を解除することにより第2のノズル13bから凍結液を出力する操作である。
【0072】
具体的には、本実施例で採用した凍結デバイス1bは、図9に模式的に示すとおり、上部ユニット10bの構成要素である液収納部13先端の毛細管状のノズル13bが、テフロン(登録商標)で被覆したニッケル等の強磁性体で形成され、また新規構成要素として、ノズルの先端に、テフロン(登録商標)で被覆した磁石の小球16を有する。また、図10上部に模式的に示すとおり、容器ホルダ30を設けた。容器ホルダ30は、凍結デバイス1bを収納可能な窪みを有する収納部32と、強力なアルニコ磁石により形成された第2の磁石31を有する側壁部33とから構成される。図10下部((a)、(b))に模式的に示すとおり、収納部32と側壁部33は互いに着脱自在であり、側壁部33が内蔵する第2の磁石31は凍結デバイス1bの小球16に対向する位置に設置される。また本実施例では撹拌遠心機ではなく、遠心機構を持たない単なる撹拌装置を第2の駆動装置として用いた。
【0073】
実施例3の動作の概略は第3の実施例と同様であるが、以下の点が異なる。磁石の小球16は磁力によりノズル13b(ニッケル)に吸着し、ノズル13bの先端を封止するため、凍結デバイス1bの液収納部13に凍結液を収納する際、液漏れを起こすことがない。本実施例では遠心工程(ステップ1002)の代わりである凍結液添加工程(ステップ1002’)において、予め凍結デバイス1bを(側壁部33を外した)容器ホルダ30の収納部32に設置した(図10(a))。次に容器ホルダ30の側壁部33を、収納部32に着合した。
【0074】
すると、第2の磁石31の作用により、磁石の小球16は液収納部13先端のノズルから離脱し、容器ホルダ30の第2の磁石31近傍の容器本体21の壁面に吸着する(図10(b))。ノズル13bの先端を封止する磁石の小球16が無くなったため、液収納部13から凍結液が細胞に落下する。撹拌工程(ステップ1003’)において、凍結デバイス1bを容器ホルダ30ごと撹拌装置により撹拌した。最後に、液体窒素への浸漬工程(ステップ1004’)において、凍結デバイス1bを容器ホルダ30ごと液体窒素浴まで移動し、液体窒素浴に浸漬した。なお図9には容器ホルダ30としてひとつの凍結デバイス1bを収納するものを例示したが、複数の凍結デバイス1bを収納可能な複数の窪みを有する収納部と、複数の第2の磁石31を有する側壁部とを組み合わせて用いることも可能である。この構成により多数の凍結デバイス1bを同時に並行処理することが可能となる。
【0075】
本実施例は、磁力を契機として、非接触で、凍結液の保持と落下を制御する。従って、遠心機構が不要であり、また液漏れの不具合を起こしにくい、という特有の効果がある。
【0076】
また本実施例に係る凍結デバイス及び凍結保存システムによれば、磁力により第2のノズル13bの封止を解除することができるので、第2のノズル13bの内径を大きくすることができ、凍結液の試料への供給を短時間で行うことが可能となり、凍結保存までの時間をより短縮することができる。そして実施例1と同様に、容器ホルダ100は第2の駆動装置から着脱自在であるので、懸濁後速やかに容器ホルダ100ごと凍結デバイスを凍結用冷媒に浸漬することができ、作業効率を向上させることができる。また容器ホルダ100は凍結デバイス1を複数保持可能であるので、作業効率を向上させるとともに、各凍結デバイス1において試料と凍結液との懸濁液が同時に形成されるため、作業ムラも抑制することができる。
【実施例4】
【0077】
実施例4による凍結デバイスの構成は実施例1と類似であるが、液収納部13の構造が異なる。実施例4において凍結デバイス1cは、開口部を有する容器となる下部ユニット20cと、前記開口部を密栓可能な蓋となる上部ユニット10cを有し、供給手段は、上部ユニット10c側が開口し前記下部ユニット20cに挿入されて、下部ユニット20cの内壁に当接して下部ユニット20cに保持され、開口部側から凍結液を注入可能な中間ユニット40と、中間ユニット40の挿入側に形成された出力孔となる第2のノズル13dと、第2のノズル13dを封止するように形成され、凍結液を保持するとともに被接触操作により凍結液を下部ユニット20cに出力する第2の充填剤15cを有するとともに、非接触操作は、凍結液が第2の充填剤15cを介してノズル13dから出力する加速度を印加する操作である。このように、凍結液を上部ユニット10c及び下部ユニット20cとは分離し上部ユニット10c側が開口した中間ユニット40を下部ユニット20cに挿入する構成とすることにより凍結液の供給手段への注入が容易になり作業効率が向上する。
【0078】
図11は、本実施例による凍結デバイス1cを構成する、上部ユニット10c、中間ユニット40、下部ユニット20cの断面の模式図である。上部ユニット10cは、実施例1におけるキャップ11(パッキン12を含む)と同等である。中間ユニット40は実施例1における液収納部13cに対応するが、中空管の下部の先端には毛細菅状のノズル部の代わりにより口径の大きなノズル13dを有する点、第2の充填剤15cとして石英ウールの代わりに目皿を有する点、開口部14(図2参照)を持たない点、中間ユニット40がキャップ(上部ユニット10c)とは独立に構成され、下部ユニット20cに着脱自在に装着される点、管の内壁に翼状に形成したツマミ17を有する点、などが異なる。下部ユニット20cは突起24を備える点以外は実施例1のそれと同等である。
【0079】
実施例4の動作の概略は実施例1と類似である。準備工程(ステップ1001)において凍結デバイス1cの下部ユニット20cの容器底部22に細胞等のペレットを収納した後、中間ユニット40を下部ユニット20cに収納した(図12下)。ここで中間ユニット40は突起24により支持されるため、容器底部22には落下しない。液収納部13cの上部の開口部から凍結液を内部(目皿の上)に注入し、(中間ユニット40を収納した)下部ユニット20cに上部ユニット10をはめ込むことにより凍結デバイス1cを密栓状態とし、それを撹拌遠心機の容器ホルダに設置した。遠心工程以降の動作は実施例1と同様である。なお解凍時には上部ユニット10cを緩めて外した後、ツマミ17を(滅菌済みの)ピンセットなどで保持して引き上げることにより、下部ユニット20cから中間ユニット40を引き抜き、容器底部22に凍結細胞を収納する下部ユニット20cを得た上で、解凍操作を行った。
【0080】
上部ユニット10cと下部ユニット20cは予め組み合わせて(図13(a))一対の梱包とし、また中間ユニット40はそれに外接する円筒41、ピストン42と組み合わせて(図13(b))梱包し、両方の梱包ともにガンマ線などにより滅菌した上で、使用者に提供することができる。この場合、準備工程の詳細は下記のとおりとなる。まず、準備工程の第1手順において、上部と下部のユニットの組み合わせを用いて細胞ペレットを下部のユニット20cに形成する。準備工程の第2手順において、ピストン42を用いて円筒41から中間ユニット40を下部ユニット20cに無菌的に圧入する(図13(c))。以下、凍結液の収納以降の手順は前述のとおりである。
【0081】
充填剤15cとして用いた目皿にはポリスチレンの微粒子を焼結して平板状に形成した物を使用した。目皿の材質、空隙率、断面積、厚みなどは任意に選択することが可能である。適切な選択により、準備工程では凍結液が液漏れしない、かつ、遠心工程では凍結液が迅速に落下する、という2つの条件を両立することができる。
【0082】
本実施例では、液収納部13を中間ユニット40として、上部ユニット10cとは独立に形成したが、本実施例における中間ユニット40と類似の形状を有する液収納部を、上部ユニットと一体に形成することも可能である。
【0083】
本実施例は液収納部13cに毛細菅状のノズル部や貫通孔、石英ウールを用いないため、構造が簡単、作製が容易、コストが低い、という特有の効果がある。凍結液は口径の大きい液収納部13cの上部開口部から注入すれば良いため、開口部14(図2参照)を通して注入する必要がなく、また毛細菅に気泡と凍結液とを交互に注入する必要もないため、操作性が高いという特有の効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明を適用することにより、細胞や組織などを急速凍結する際、クリティカルな工程時間を短縮し、操作を簡略化、自動化し、オペレータの負担を軽減でき、また操作の失敗や、細胞等への悪影響のリスクを低減でき、さらに複数試料を同時に処理可能とし、効率を向上できる、という特長がある。従って、本発明による細胞凍結デバイス及び方法を用いることにより、細胞や組織を低コストかつ高品質に維持できる、という産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0085】
1………凍結デバイス、1b………凍結デバイス、1c………凍結デバイス、10………上部ユニット、10b………上部ユニット、10c………上部ユニット、11………キャップ、11’………従来のキャップ、12………パッキン、13………液収納部、13a………ノズル、13b………ノズル、13c………液収納部、13d………第2のノズル、14………開口部、15………充填剤、15c………第2の充填剤、16………磁石の小球、17………ツマミ、20………下部ユニット、20a………開口部、20c………下部ユニット、21………容器本体、22………容器底部、23………ネジ部、24………突起、30………容器ホルダ、31………第2の磁石、32………収納部、33………側壁部、40………中間ユニット、41………円筒、42………ピストン、100………容器ホルダ、101………容器用穴、102………センター穴、103………容器ホルダ穴、110………固定具、120………Cリング、130………ナット、140………ナット、ステップ1001………準備工程、ステップ1002………遠心工程、ステップ1003………攪拌工程、ステップ1004………液体窒素への浸漬工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結保存方法であって、
前記試料を収納する第1区画と、前記凍結液を収納する第2区画を有する凍結デバイスを形成し、
前記第1区画と前記第2区画との境界を、非接触操作により前記第2区画に収納した凍結液を第1区画に収納した試料に供給可能な供給手段により形成し、
前記凍結デバイスに前記非接触操作を行い、前記凍結液を前記供給手段を介して前記試料に供給することを特徴とする凍結保存方法。
【請求項2】
前記供給手段は、
前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に形成され表面張力により前記凍結液を保持可能なノズルと、を有し、
前記非接触操作は、
前記凍結液が前記ノズルから出力する加速度を前記凍結デバイスに印加する操作であることを特徴とする請求項1に記載の凍結保存方法。
【請求項3】
前記供給手段は、
前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2のノズルと、前記強磁性体により吸着され、前記第2のノズルを封止する磁石と、を有し、
前記非接触操作は、
前記磁石が前記第2のノズルから離脱する磁場を印加して前記第2のノズルの封止を解除することにより前記第2のノズルから前記凍結液を出力する操作であることを特徴とする請求項1に記載の凍結保存方法。
【請求項4】
試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結デバイスであって、
前記凍結デバイスは、
前記試料を収納する第1区画と、
前記凍結液を収納する第2区画と、
前記第1区画と前記第2区画との境界を形成し、前記凍結液を非接触操作により前記試料に供給する供給手段と、を有することを特徴とする凍結デバイス。
【請求項5】
前記凍結デバイスは、開口部を有する容器と、前記開口部を密栓可能な蓋を有し、
前記供給手段は、前記蓋に一体で形成されるとともに前記開口部から挿入可能で前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に形成され表面張力により前記凍結液を保持可能なノズルを有するとともに、
前記非接触操作は、前記凍結液が前記ノズルから出力する加速度を印加する操作であることを特徴とする請求項4に記載の凍結デバイス。
【請求項6】
前記中空の管または前記ノズルには、メッシュ状の充填材が充填されたことを特徴とする請求項5に記載の凍結デバイス。
【請求項7】
前記凍結デバイスは、開口部を有する容器と、前記開口部を密栓可能な蓋を有し、
前記供給手段は、
前記蓋側が開口し前記容器に挿入されて、前記容器の内壁に当接して前記容器に保持され、前記開口部側から前記凍結液を注入可能な中間ユニットと、
前記中間ユニットの挿入側に形成された出力孔と、
前記出力孔を封止するように形成され、前記凍結液を保持するとともに前記被接触操作により前記凍結液を前記容器に出力する第2の充填材を有するとともに、
前記非接触操作は、前記凍結液が前記第2の充填材を介して前記出力孔から出力する加速度を印加する操作であることを特徴とする請求項4に記載の凍結デバイス。
【請求項8】
前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2のノズルと、前記強磁性体により吸引され、前記第2のノズルを封止する磁石と、を有し、
前記非接触操作は、前記磁石が前記第2のノズルから離脱する磁場を印加して前記第2のノズルの封止を解除することにより前記第2のノズルから前記凍結液を出力する操作であることを特徴とする請求項4または5に記載の凍結デバイス。
【請求項9】
請求項5乃至7に記載の前記凍結デバイスを用いた凍結保存システムであって、
前記凍結保存システムは、
前記凍結デバイスを保持する容器ホルダと、
前記容器ホルダを回転運動及び偏心円運動をさせる駆動装置と、を有し、
前記容器ホルダは、
前記容器ホルダの周縁において前記供給手段の出力側を前記容器ホルダの外周側に向けた状態で前記凍結デバイスを保持し、
前記駆動装置は、
前記容器ホルダを回転運動させ、前記凍結デバイスに発生する遠心力により前記供給手段から前記凍結液を出力して前記試料に供給するとともに、前記容器ホルダを偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁し、
前記容器ホルダは、
前記駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能であることを特徴とする凍結保存システム。
【請求項10】
請求項8に記載の凍結デバイスを用いた凍結保存システムであって、
前記凍結保存システムは、
前記凍結デバイスを保持する容器ホルダと、
前記容器ホルダに搭載され前記磁場を発生させる第2の磁石と、
前記容器ホルダを偏心円運動させる第2の駆動装置と、を有し、
前記第2の磁石は、
前記磁石を前記磁場により前記第2の磁石側に吸引し前記第2のノズルの封止を解除して前記凍結液を前記第2のノズルから出力して前記試料に前記凍結液を供給し、
前記第2の駆動装置は、
前記容器ホルダに偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁させるとともに、
前記容器ホルダは、
前記第2の駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能であることを特徴とする凍結保存システム。
【請求項11】
前記容器ホルダは、前記凍結デバイスを複数保持可能であることを特徴とする請求項9または10に記載の試料の凍結保存システム。
【請求項1】
試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結保存方法であって、
前記試料を収納する第1区画と、前記凍結液を収納する第2区画を有する凍結デバイスを形成し、
前記第1区画と前記第2区画との境界を、非接触操作により前記第2区画に収納した凍結液を第1区画に収納した試料に供給可能な供給手段により形成し、
前記凍結デバイスに前記非接触操作を行い、前記凍結液を前記供給手段を介して前記試料に供給することを特徴とする凍結保存方法。
【請求項2】
前記供給手段は、
前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に形成され表面張力により前記凍結液を保持可能なノズルと、を有し、
前記非接触操作は、
前記凍結液が前記ノズルから出力する加速度を前記凍結デバイスに印加する操作であることを特徴とする請求項1に記載の凍結保存方法。
【請求項3】
前記供給手段は、
前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2のノズルと、前記強磁性体により吸着され、前記第2のノズルを封止する磁石と、を有し、
前記非接触操作は、
前記磁石が前記第2のノズルから離脱する磁場を印加して前記第2のノズルの封止を解除することにより前記第2のノズルから前記凍結液を出力する操作であることを特徴とする請求項1に記載の凍結保存方法。
【請求項4】
試料と前記試料用の凍結液との懸濁液を形成して前記懸濁液を凍結保存する凍結デバイスであって、
前記凍結デバイスは、
前記試料を収納する第1区画と、
前記凍結液を収納する第2区画と、
前記第1区画と前記第2区画との境界を形成し、前記凍結液を非接触操作により前記試料に供給する供給手段と、を有することを特徴とする凍結デバイス。
【請求項5】
前記凍結デバイスは、開口部を有する容器と、前記開口部を密栓可能な蓋を有し、
前記供給手段は、前記蓋に一体で形成されるとともに前記開口部から挿入可能で前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に形成され表面張力により前記凍結液を保持可能なノズルを有するとともに、
前記非接触操作は、前記凍結液が前記ノズルから出力する加速度を印加する操作であることを特徴とする請求項4に記載の凍結デバイス。
【請求項6】
前記中空の管または前記ノズルには、メッシュ状の充填材が充填されたことを特徴とする請求項5に記載の凍結デバイス。
【請求項7】
前記凍結デバイスは、開口部を有する容器と、前記開口部を密栓可能な蓋を有し、
前記供給手段は、
前記蓋側が開口し前記容器に挿入されて、前記容器の内壁に当接して前記容器に保持され、前記開口部側から前記凍結液を注入可能な中間ユニットと、
前記中間ユニットの挿入側に形成された出力孔と、
前記出力孔を封止するように形成され、前記凍結液を保持するとともに前記被接触操作により前記凍結液を前記容器に出力する第2の充填材を有するとともに、
前記非接触操作は、前記凍結液が前記第2の充填材を介して前記出力孔から出力する加速度を印加する操作であることを特徴とする請求項4に記載の凍結デバイス。
【請求項8】
前記供給手段は、前記凍結液を収納する中空の管と、前記管の先端に強磁性体で形成された第2のノズルと、前記強磁性体により吸引され、前記第2のノズルを封止する磁石と、を有し、
前記非接触操作は、前記磁石が前記第2のノズルから離脱する磁場を印加して前記第2のノズルの封止を解除することにより前記第2のノズルから前記凍結液を出力する操作であることを特徴とする請求項4または5に記載の凍結デバイス。
【請求項9】
請求項5乃至7に記載の前記凍結デバイスを用いた凍結保存システムであって、
前記凍結保存システムは、
前記凍結デバイスを保持する容器ホルダと、
前記容器ホルダを回転運動及び偏心円運動をさせる駆動装置と、を有し、
前記容器ホルダは、
前記容器ホルダの周縁において前記供給手段の出力側を前記容器ホルダの外周側に向けた状態で前記凍結デバイスを保持し、
前記駆動装置は、
前記容器ホルダを回転運動させ、前記凍結デバイスに発生する遠心力により前記供給手段から前記凍結液を出力して前記試料に供給するとともに、前記容器ホルダを偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁し、
前記容器ホルダは、
前記駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能であることを特徴とする凍結保存システム。
【請求項10】
請求項8に記載の凍結デバイスを用いた凍結保存システムであって、
前記凍結保存システムは、
前記凍結デバイスを保持する容器ホルダと、
前記容器ホルダに搭載され前記磁場を発生させる第2の磁石と、
前記容器ホルダを偏心円運動させる第2の駆動装置と、を有し、
前記第2の磁石は、
前記磁石を前記磁場により前記第2の磁石側に吸引し前記第2のノズルの封止を解除して前記凍結液を前記第2のノズルから出力して前記試料に前記凍結液を供給し、
前記第2の駆動装置は、
前記容器ホルダに偏心円運動させ、前記試料と前記凍結液を攪拌して前記試料を前記凍結液に懸濁させるとともに、
前記容器ホルダは、
前記第2の駆動装置から着脱自在であって、凍結用冷媒に浸漬可能であることを特徴とする凍結保存システム。
【請求項11】
前記容器ホルダは、前記凍結デバイスを複数保持可能であることを特徴とする請求項9または10に記載の試料の凍結保存システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−263801(P2010−263801A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115882(P2009−115882)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】
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