説明

凍結医療器具

【課題】患部を効率よく凍結し、また解凍することができる医療器具を提供する。
【解決手段】患部に穿刺したプローブ1に凍結ガスと解凍ガスを交互に供給して、患部の凍結と解凍を繰り返すことにより、患部を壊死させる凍結療法に使用する凍結医療器具であって、流体圧により膨張する伝熱手段3を設けると共に、伝熱手段3に凍結ガスと解凍ガスを交互に流通させて患部の凍結治療を行うようにしたもので、伝熱手段3によりプローブ1先端の体積及び伝熱面積が格段に増大するため、凍結ガス及び解凍ガスにより患部を効率よく凍結及び解凍することができ、これによって患部を短時間で壊死させることができるため、凍結療法における治療時間の大幅な短縮と、患者への負担の軽減が図れるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温治療を行う凍結医療器具(クライオプローブ)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年例えばアルゴンガス等の超低温流体を使用して、患者の患部を治療する凍結療法が実施されている。
この凍結療法により例えば癌を治療する場合、先端が癌組織に達するよう、医療器具であるプローブを患者の体内へ穿刺し、この状態でまずプローブにアルゴンガスのような極低温の凍結ガスを供給して癌組織を凍結させ、その後プローブにヘリウムガスのような解凍ガスを供給して凍結した癌組織を解凍する操作を交互に繰り返すことにより、ジュールトムソン効果により癌組織を壊死させて癌の治療を行っており、この凍結療法は非特許文献1に、また凍結療法に使用する医療器具等は非特許文献2等に開示されている。
【0003】
前記非特許文献2には、第10ページの右欄から第11ページに「穿刺方法と凍結療法の実際」として、先端が鋭利な二重管(コアキシャルニードル)を患者の体表面に当てがった状態で、二重管の中心軸に沿って長く細い誘導針を挿入し、誘導針を患部まで穿刺する。
その後誘導針に沿って二重管を患部まで進行させ、さらに腫瘍に貫通させたら、誘導針を抜いて、代りに凍結端子(プローブ)を二重管内の中空軸に沿って挿通装填する。
そして凍結端子に凍結ガスである高圧アルゴンガスと解凍ガスである高圧ヘリウムガスを交互に供給して、短時間で患部の凍結と解凍を繰り返すことにより、患部を壊死させる凍結療法が記載されている。
【0004】
【非特許文献1】雑誌「医学のあゆみ」(Vol.206No.3,2003.7.19)。川村他著「肺癌の凍結融解壊死療法」(P229〜P231)。
【非特許文献2】雑誌「低温医学」(30巻、2004)。中塚、川村他著「CT透視を用いた肺悪性腫瘍に対する経皮的凍結療法の実際」(P9〜P15)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の凍結療法に使用されている医療器具は、ステンレス等の金属管よりなるプローブ内に凍結ガスと解凍ガスを交互に送り込んで、患部を壊死させる構造となっている。
しかし前記特許文献2に記載の医療器具では、プローブの先端が鋭利な錐状に形成されていて、先端部の体積や表面積(伝熱面積)が極めて小さいため、患部を凍結したり、解凍する際の熱効率が悪く、その結果ジュールトムソン効果を十分に発揮することができないため、特に患部が大きい場合治療に長時間を要する等の問題がある。
本発明はかかる問題を改善するためになされたもので、患部を効率よく凍結し、また解凍することができる凍結医療器具を提供して、凍結療法における治療時間の短縮化と患者への負担の軽減を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の凍結医療器具は、患部に穿刺したプローブに凍結ガスと解凍ガスを交互に供給して、患部の凍結と解凍を繰り返すことにより、患部を壊死させる凍結療法に使用する凍結医療器具であって、プローブの先端側に、流体圧により膨張する伝熱手段を設けると共に、伝熱手段に凍結ガスと解凍ガスを交互に流通させて患部の凍結治療を行うようにしたものである。
【0007】
前記構成により、流体圧により膨張する伝熱手段によってプローブ先端の体積及び伝熱面積が格段に増大するため、凍結ガス及び解凍ガスにより患部を効率よく凍結及び解凍することができ、これによって患部を短時間で壊死させることができるため、凍結療法における治療時間の大幅な短縮と、患者への負担の軽減が図れるようになる。
また従来と同じ時間を凍結や解凍に費やした場合は、より大きな患部に対しての治療が可能になるため、大きな患部を治療する際に使用するプローブの穿刺数を低減でき、これによって患者への負担の軽減が図れるようになる。
【0008】
本発明の凍結医療器具は、プローブを、プローブ本体と穿刺部及びプローブ本体に挿抜自在に嵌装された外套管とから形成し、かつプローブ本体の先端と穿刺部との間に、伝熱手段を形成する膨張体を収縮させた状態で収納して、外套管により膨張体を覆うと共に、穿刺部より患部へ穿刺したプローブ本体より外套管を抜出した状態で膨張体に凍結ガスと解凍ガスを交互に供給して膨張させることにより、患部の凍結と解凍を繰り返すようにしたものである。
【0009】
前記構成により、プローブを患者の患部へ穿刺する際には、収縮状態で収納された膨張体を外套管が覆っているため、患部への穿刺作業が容易かつ正確に行える上、治療の際には、外套管を抜出して膨張体を膨張させることにより患部への伝熱面積が飛躍的に増大するため、患部の凍結及び解凍がプローブのみの場合に比べて格段に効率よく行えるようになる。
【0010】
本発明の凍結医療器具は、プローブに凍結ガスと解凍ガスを交互に供給して患部の凍結治療を開始する前に、プローブに加圧した検査用液を供給して伝熱手段を膨張させ、伝熱手段から戻った検査用液の戻り量と伝熱手段へ供給した検査用液の供給量との差から伝熱手段の漏れを検出する制御手段を設けたものである。
【0011】
前記構成により、伝熱手段の漏れ等の不良が事前に検出できるため、凍結治療が安全に行えると共に、検査用液に蒸留水や生理食塩水等を使用して検査を行うことにより、万一伝熱手段に漏れがあって体内に検査用液が漏れた場合でも、人体への悪影響を未然に防止することができる。
【0012】
本発明の凍結医療器具は、膨張体を熱伝導率の高い薄膜により形成し、かつ薄膜に紐状または網状の補強部材を層状に設けて、膨張体の膨張形状を規定し、また膨張体を補強したものである。
【0013】
前記構成により、膨張体をコンパクトに収縮することができるため、径の小さいプローブの先端部に容易に収納することができると共に、補強部材により膨張体が補強されているため、治療中に膨張体が破裂する等の事故を未然に防止することができる。
【0014】
本発明の凍結医療器具は、プローブ本体内に設けたガス往路をプローブ本体より突出させ、かつガス往路の先端部に穿刺部を連結すると共に、ガス往路の先端側に、膨張体内へ凍結ガス及び解凍ガスを噴出するガス噴出孔を設けたものである。
【0015】
前記構成により、プローブ本体と穿刺部との管に形成された隙間に膨張体を容易に収納することができる上、膨張体の中心に位置するガス往路のガス噴出孔より噴出されるガスにより膨張体をほぼ均等に膨張させることができる。
【0016】
本発明の凍結医療器具は、ガス往路の中心に対して膨張体の中心を偏心させて、前記膨張体の偏心方向の伝熱面積を増大させることにより、前記膨張体に熱指向性を付与したものである。
【0017】
前記構成により、プローブを患部に穿刺したら、プローブを回転させて膨張体の熱指向性方向を患部の局所方向へ向け、この状態で膨張体へ凍結ガスと解凍ガスを交互に供給して、膨張体より局所へ集中的に熱を伝導することにより、より効率よく局所を凍結及び解凍することができるため、患部が大きく、一度では患部全体を治療できない場合でも、患部の特定個所を集中的に治療し、この操作を繰り返すことにより、患部全体を治療することができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の凍結医療器具によれば、伝熱手段によりプローブ先端の体積及び伝熱面積が格段に増大するため、凍結ガス及び解凍ガスにより患部を効率よく凍結及び解凍することができ、これによって患部を短時間で壊死させることができるため、凍結療法における治療時間の大幅な短縮と、患者への負担の軽減が図れ、また従来と同じ時間を凍結や解凍に費やした場合は、より大きな患部に対しての治療が、より少ない数のプローブにより可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態を、図面を参照して詳述する。
図1は凍結医療装置の全体的な概略構成図、図2はは凍結医療器具であるプローブの斜視図、図3は制御系のブロック図、図4はプローブ及び外套管先端の拡大断面図、図5ないし図7は、治療時の作用説明図である。
図1に示す凍結医療装置は、プローブ1と、治療時プローブ1に凍結ガス及び解凍ガスを交互に供給し、また漏れ検査時プローブ1に検査用液体を供給する切り換え手段8と、切り換え手段8を制御する制御手段10及び切り換え手段8に接続された凍結ガス供給源12、解凍ガス供給源13、検査用液供給源14とから構成されている。
【0020】
凍結医療器具であるプローブ1は、図3に示すようにプローブ本体1aと、プローブ本体1aに嵌装された外套管2と、プローブ1の先端部を形成する穿刺部1bとからなる。
プローブ1のプローブ本体1aは、外径が例えば2mm〜3mmのステンレス管により形成され、プローブ1の先端部を形成する穿刺部1bは、同様な金属により鋭利な錐状形成されていて、後端面の中心部に、例えば外径が0.6mm程度のステンレス細管により形成されたガス往路1cの先端部が連結されていると共に、ガス往路1cの基端側は、プローブ本体1aの中心部に形成されたガス復路1d内を通ってプローブ本体1aの後端部に設けられたコネクタ5に達している。
プローブ本体1aのほぼ全長に形成されたガス復路1dは、ガス往路1cの外径より大径となっていて、ガス復路1dの内周面とガス往路1cの外周面との間をガスが流通するようになっており、ガス復路1dの内周面に突設されたリブ(図示せず)にガス往路1cの外周面を固着することにより、プローブ本体1aとガス往路1cとが一体化されている。
【0021】
またプローブ本体1aの先端部と穿刺部1bとの間には隙間1eが設けられていて、この隙間1eに伝熱手段3が設けられており、隙間1e部分に露出するガス往路1cの外周面には、多数の小孔よりなるガス噴出孔1fが穿設されていて、これらガス噴出孔1fより伝熱手段3を形成する膨張体3aへガスが供給されるようになっている。
伝熱手段3は、プローブ1の先端部の体積と表面積を増大することにより、プローブ1の先端に供給された凍結ガスや解凍ガスの熱を効率よく患部へ伝熱して、患部が小さい場合は短時間で患部を凍結及び解凍し、従来と同様な治療時間を費やした場合は、より大きな患部の治療ができるようになっており、例えば筒状に膨張する膨張体3aと、膨張体3aを所定形状に膨張させると同時に、膨張体3a全体を補強する補強部材3bとからなる。
【0022】
膨張体3aは、凍結ガスや解凍ガスの熱及び圧力(最大で150Kg/cm2)に十分に耐える耐久性を有する例えば金属薄膜や、熱伝導率の高いプラスチック薄膜等よりなるチューブ状のバルーンにより形成されていて、一端側が穿刺部1bとガス往路1cの連結部に気密に固着され、他端側はプローブ本体1aの先端面に開口されたガス復路1dを囲むように突設された筒状部1gに気密に固着されている。
膨張体3aは、ガスにより膨張した際、外径がプローブ本体1aの外径より十分に大径となるように予めチューブの径が設定されていて、膨張体3aの外周面には、円周方向にほぼ等間隔に複数本の補強部材3bが層状に埋設されている。
【0023】
補強部材3bは、強度の高い合成樹脂繊維、例えばナイロン(登録商標)繊維やカーボン繊維等からなる紐状物により形成されていて、ガス往路1cとほぼ並行するように設けられており、一端側は、膨張体3aの一端を固着する際これと一体に固着され、他端側は、膨張体3aの他端を固着する際これと一体に固着されている。
そしてガス往路1cのガス噴出孔1fより内部にガスが供給されると、図6に示すようにプローブ本体1aの外径より十分に大径なほぼ筒状に膨張され、このとき膨張体3aの外周面に補強部材3が食い込むため、膨張体3bの外周は図7に示すようにほぼパラシュート状に膨張されるようになっている。
【0024】
プローブ1の外殻を形成する外套管2は、プローブ本体1aと同様な例えばステンレス管により形成されていて、内径はプローブ本体1aの外径より僅かに大径となっている。
外套管2の先端部は、プローブ1の穿刺部1b後端面に当接するようにプローブ本体1aに嵌装されていて、プローブ1を患部へ穿刺した後は、プローブ本体1aの後端側より抜出できるようになっており、プローブ1が繰り返し使用されるのに対して、外套管2は注射針と同様に一度使用したら廃棄する使い捨て仕様となっている。
【0025】
またプローブ1の後端部には、耐低温性及び電気絶縁性を有する材料により形成されたコネクタ5が設けられていて、このコネクタ5にガス給排気管6の一端側が着脱自在に接続され、ガス給排気管6の他端側は、切り換え手段8に接続されている。
ガス給排気管6は、プローブ1を患部へ穿刺する作業の妨げとならないように、チューブのような軟質の可撓管よりなるガス供給管6aとガス排出管6bにより形成されていて、ガス供給管6aの一端は、コネクタ5を介してプローブ本体1aのガス往路1cに接続され、ガス排出管6bの一端は、コネクタ5を介してプローブ本体1aのガス復路1dに接続されており、ガス供給管6aとガス排出管6bの他端は、切り換え手段8を介して凍結ガス供給源11、解凍ガス供給源12、検査用液供給源13に接続されている。
【0026】
切り換え手段8は図1及び図2に示すように、ガス給排気管6に接続された切り換え弁8aと、切り換え弁8aと凍結ガス供給源12の間に設けられた開閉弁8bと、切り換え弁8aと解凍ガス供給源13との間に設けられた開閉弁8cと、切り換え弁8aと検査用液供給源14との間に設けられた開閉弁8dとからなり、切り換え弁8a及び各開閉弁8b、8c、8dには電磁弁等が使用されていて制御手段10と電気的に接続されており、演算処理手段10aと入出力手段10bとからなる制御手段10により開閉制御されるようになっている。
凍結ガス供給源12には高圧アルゴンガス等のガスボンベが、解凍ガス供給源13には高圧ヘリウムガス等のガスボンベが、そして検査用液供給源14には加圧された蒸留水や生理食塩水等の検査用液が充填された液体ボンベが使用されており、これら凍結ガス供給源12、解凍ガス供給源13、検査用液供給源14より切り換え弁8aへ供給されるガスまたは液体の圧力は、各開閉弁8b、8c、8dの前後に設けられた圧力検出手段15,16,17により検出されて制御手段10へ送られ、切り換え弁8aより送り出されるガスまたは検査溶液の供給量と、切り換え弁8aに戻ってくるガスまたは検査用液の戻り量は、切り換え弁8aとガス給排気管6との接続部に設けられた流量検出手段18により検出されて制御手段10へ送られるようになっている。
【0027】
次に前記構成された凍結医療器具の作用を説明すると、凍結医療器具を使用して例えば癌を治療する場合、まず外套管2内にプローブ1を挿入した状態で、プローブ1の先端が癌組織に達するようにプローブ1を患者の体内へ穿刺し、プローブ1の先端部が癌組織を貫通したら、プローブ1より外套管2を後方へ引き抜くと、図5に示すように穿刺部1bとプローブ本体1の間の隙間1eに収縮された状態で収納されている伝熱手段3の膨張体3aが患部内に露出する。
【0028】
次に患部の治療を開始する前に、プローブ1の先端部に設けられた伝熱手段3に漏れがないかの検査を行う。
この検査は必須で、もし伝熱手段3に漏れ等があっても安全なように、検査には患者の体内に漏れても害のない蒸留水や生理食塩水等の検査用液を使用する。
検査に当っては、ローブ本体1aの基部に設けたコネクタ5にガス給排気管6を接続して、この状態で制御手段10を検査モードにして検査を実施すると、制御手段10より開閉弁8dに指令が送られて開閉弁8dが開放された後、切り換え弁8aが検査用液供給源14側に切り換えられる。
これによって検査用液供給源14より凍結ガスや解凍がスの圧力にほぼ等しい圧力、例えば最大で150Kg/cmに加圧された検査用液が検査用液供給源14よりガス給排気管6を介してプローブ1へ供給され、伝熱手段3の膨張体3aが膨張される。
伝熱手段3の膨張体3aを膨張させた検査用液は、ガス復路1d及びガス排出管9を経て切り換え弁8aへと戻ってくるので、切り換え弁8aとガス給排気管6との接続部に設けた流量検出手段18により検査用液の供給量と戻り量を検出して、供給量と戻り量の差を制御手段10により演算する。
そして検査用液の供給量と戻り量の差から伝熱手段3の膨張体3aに漏れがないかを検査する。
【0029】
以上の漏れ検査が終了したら、制御手段10を凍結治療モードに切り換えて凍結治療を開始すると、制御手段10からの指令により開閉弁8dが閉、開閉弁8b、8cが開にされた後、切り換え弁8aが凍結ガス供給源12側に切り換えられて、まず凍結ガス供給源12側より凍結ガスがガス給排気管6を介してプローブ1へ供給される。
プローブ1へ供給された凍結ガスは、ガス往路1cを通って伝熱手段3に達し、例えば最大で150Kg/cmに加圧された凍結ガスがガス噴出孔1fより膨張体3a内に噴出されるため、隙間1e内に収縮した状態で収納されていた膨張体3aが図6および図7の状態に膨張される。
これによってプローブ1先端の体積が数10倍に、そして表面の伝熱面積も数10倍から数100倍に増大されるため、膨張体3aの表面より患部へと伝熱される熱により患部が短時間で凍結され、また従来と同じ時間を凍結に費やした場合は、より大きな患部に対しての凍結が可能になる。
【0030】
予め設定した凍結時間が経過すると、制御手段10が切り換え弁8aを解凍ガス供給源13側へ切り換えるため、解凍ガス供給源13側より解凍ガスがガス供給管7を介してプローブ1へ供給される。
プローブ1へ供給された解凍ガスは、プローブ本体1a内のガス往路1cより伝熱手段3の膨張体3bに達し、ガス噴出孔1fより膨張体3a内に噴出されることにより、いままで膨張体3a内に充満されていた凍結ガスをガス復路1dへと押し出すため、膨張体3a内の凍結ガスが解凍ガスに入れ代わる。
これによって膨張体3a内の解凍ガスにより患部の解凍が開始されるが、解凍時も膨張体3aの表面全体が伝熱面積となって、膨張体3a内を流通する解凍ガスにより患部の癌組織を解凍するため、従来のプローブ1の先端部のみで冷却していた場合に比べて、短時間で癌組織を解凍することができ、また従来と同じ時間を解凍に費やした場合は、より大きな患部に対しての解凍が可能になると共に、膨張体3aよりガス復路1dへ排出された凍結ガスは、ガス排出管9を経て切り換え手段8へ戻され、図示しない回収タンクに回収される。
以下凍結ガスと解凍ガスの供給を交互に繰り返して、患部の凍結と解凍を繰り返すことにより、ジュールトムソン効果により患部の癌組織が壊死し、凍結療法による治療効果が得られるようになる。
【0031】
以上はプローブ1の中心に対し膨張体3aの外周面が同心円状に膨張して、患部である癌組織を凍結及び解凍する場合であるが、図8に示す変形例のようにプローブ1の中心に対し、膨張体3aの外周面がε偏心して膨張するように予め膨張体3aを形成してもよく、これによって次のような作用効果が得られる。
すなわち凍結治療では、治療する患部が大きい場合、プローブ1を複数本使用して治療することがよく行われる。
また患部を凍結したり解凍する際に、患部近傍の血管(動脈)を流れる血液を凍結したり解凍して、血液成分を破壊してしまうことがあるため、血管内を流れる血液を一時止血したい場合がある。
このような場合、プローブ1を患部近傍の血管中に穿刺して、先端の伝熱手段3に不活性ガスを供給し、膨張した膨張体3aにより血管を閉鎖することにより、血管を流れる血液を一時止血することができ、これによって凍結治療中に、患部近傍の血管を流れる血液の成分を破壊するのを未然に防止できるようになる。
【0032】
また図8に示す変形例のように、プローブ本体1aの中心に対し、外周面が偏心して膨張する膨張体3aを使用することにより、偏心方向に熱指向性Aを付与してもよい。
すなわちガス往路1cの中心と同心円となるように膨張された膨張体3aの外周面より患部へ伝達される熱は、前記実施の形態ではほぼ均一となる。
しかし患部が大きい場合、患部の局所に集中的に熱を加えて局所を凍結し、また解凍して局所を治療することが有効なことがある。
このような場合図8に示す変形例のように、ガス往路1cの中心に対して膨張体3bの中心をεだけ偏心させたプローブ1を使用して治療を行うとよい。
プローブ1の使用方法は前記実施の形態と同様であるが、プローブ1を患部に穿刺したら、プローブ1を回転させて膨張体3aの偏心方向(熱指向性方向A)を患部の局所方向へ向けると、局所に対する膨張体3aの体積及び伝熱面積が増大する。
そしてこの状態でガス往路1cへ凍結ガスと解凍ガスを交互に供給して、膨張体3より局所へ集中的に熱を伝導することにより、より効率よく局所を凍結及び解凍することができるため、患部が大きく、一度では患部全体を治療できない場合でも、患部の特定個所を集中的に治療し、この操作を繰り返すことにより、患部全体を治療することができるようになる。
【0033】
なお前記実施の形態では、伝熱手段3の膨張体3a外周面に紐状物よりなる補強部材3bを放射状に設けた例について説明したが、網状に形成した補強部材3bを膨張体3aの外周面に設けて、膨張体3aの膨張量を規制したり、膨張体3aを補強するようにしてもよい。
また凍結治療に当って、プローブ1を患者の患部へ直接穿刺するようにしたが、予め患部へ誘導針を穿刺し、その後この誘導針をガイドにしてプローブ1を患部へ穿刺するようにしてもよい。
さらにプローブ1を癌の凍結療法に適用した例について説明したが、凍結療法が有効な疾患に使用する凍結医療装置全般に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態になる凍結医療機器を備えた凍結医療装置の全体的な概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態になる凍結医療器具の斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態になる凍結医療器具に使用する制御系のブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態になる凍結医療器具のプローブ及び外套管先端の拡大断面図である。
【図5】本発明の実施の形態になる凍結医療器具の作用説明図である。
【図6】本発明の実施の形態になる凍結医療器具の作用説明図である。
【図7】本発明の実施の形態になる凍結医療器具の作用説明図である。
【図8】本発明の実施の形態になる凍結医療器具の変形例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 プローブ
1a プローブ本体
1b 穿刺部
1c ガス往路
1d ガス復路
1f ガス噴出孔
2 外套管
3 伝熱手段
3a 膨張体
3b 補強部材
6 ガス給排気管
8 切り換え手段
10 制御手段
12 凍結ガス供給源
13 解凍ガス供給源
14 検査用液供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部に穿刺したプローブに凍結ガスと解凍ガスを交互に供給して、前記患部の凍結と解凍を繰り返すことにより、前記患部を壊死させる凍結療法に使用する凍結医療器具であって、前記プローブの先端側に、流体圧により膨張する伝熱手段を設けると共に、前記伝熱手段に前記凍結ガスと解凍ガスを交互に流通させて前記患部の凍結治療を行うことを特徴とする凍結医療器具。
【請求項2】
前記プローブを、プローブ本体と穿刺部及び前記プローブ本体に挿抜自在に嵌装された外套管とから形成し、かつ前記プローブ本体の先端と前記穿刺部との間に、前記伝熱手段を形成する膨張体を収縮させた状態で収納して、前記外套管により前記膨張体を覆うと共に、前記穿刺部より患部へ穿刺した前記プローブ本体より前記外套管を抜出した状態で前記膨張体に凍結ガスと解凍ガスを交互に供給して膨張させることにより、前記患部の凍結と解凍を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の凍結医療器具。
【請求項3】
前記プローブに凍結ガスと解凍ガスを交互に供給して前記患部の凍結治療を開始する前に、前記プローブに加圧した検査用液を供給して前記伝熱手段を膨張させ、前記伝熱手段から戻った前記検査用液の戻り量と前記伝熱手段へ供給した前記検査用液の供給量との差から前記伝熱手段の漏れを検出する制御手段を設けてなる請求項1または2に記載の凍結医療器具。
【請求項4】
前記膨張体を熱伝導率の高い薄膜により形成し、かつ前記薄膜に紐状または網状の補強部材を層状に設けて、前記膨張体の膨張形状を規定し、また前記膨張体を補強してなる請求項1ないし3の何れかに記載の凍結医療器具。
【請求項5】
前記プローブ本体内に設けたガス往路を前記プローブ本体より突出させ、かつ前記ガス往路の先端部に前記穿刺部を連結すると共に、前記ガス往路の先端側に、前記膨張体内へ凍結ガス及び解凍ガスを噴出するガス噴出孔設けてなる請求項1ないし4の何れかに記載の凍結医療器具。
【請求項6】
前記ガス往路の中心に対して膨張体の中心を偏心させて、前記膨張体の偏心方向の伝熱面積を増大させることにより、前記膨張体に熱指向性を付与してなる請求項2ないし5の何れかに記載の凍結医療器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−245954(P2008−245954A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91510(P2007−91510)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(595167292)株式会社デージーエス・コンピュータ (18)
【Fターム(参考)】